哀愁と抒情を絵に描いたようなMathias Eickの"Lullaby"。いいねぇ。
Mathias Eickという人はトランぺッターでありながら,ラッパらしい熱量を感じさせない人だ。トランぺッターと言えば,ハイノートを炸裂させるとか,優れた技巧を聞かせるとか,いろいろな個性の発揮の仕方があると思うが,Mathias Eickはラッパらしからぬところその個性と言ってもよいかもしれない。常に美的なフレージングを聞かせて,ECM好きの心を捉えているが,まさにノルウェイという場所から生まれる音楽だと思ってしまう。今回の新作も主題の通り,哀愁と抒情に満ちた音楽にうっとりしてしまった私である。
全編,Mathias Eickのオリジナルで構成された本作では,Manfred EicherはExecutive Producerの役割なので,実質的にはMathias Eick本人によるプロデュースであろう。Mathias Eickのラッパも魅力的なのだが,このアルバムの魅力を増幅させるのがKristjan Randaluのピアノだ。この人のECMでのアルバム"Absence"もよかったが,クラシックのアダプテーションにも取り組む(最近は「詩人の恋」もやっているようだ)ところから感じられる繊細なタッチが,Mathias Eickの音楽の魅力を増幅させている。
本作において,Mathias Eickはその声も聞かせているが,トランペットでのフレージンや音を声で置き換えている感じがあって,これがまた面白く,私の「ツボ」に入る音楽だ。まさに楚々としたサウンドが実に素晴らしい。そして最後の"Vejle (for Geir)"になってリズミックな展開を見せつつ,きょくのエンディングはしっとりと締めるというのも面白かった。こういう音楽は何回でもプレイバックできると思ってしまうアルバム。星★★★★★。
Recorded in January 2024
Personnel: Mathias Eick(tp, vo, key), Kristjan Randalu(p), Ole Morten Vågan(b), Hans Hulbækmo(ds)
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