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2019年おすすめ作

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カテゴリー「ECM」の記事

2021年4月11日 (日)

才人,Vijay Iyerの新作がまたまた素晴らしい。

_20210410-2 "Uneasy" Vijay Iyer(ECM)

ACTレーベル時代から優れた作品をリリースしていたVijay Iyerだが,ECMに移籍してからの作品群はどれも文句のつけようのないものばかりで,私としても極めて高い評価を続けてきた。とにかく,どのような作品を取っても,失望させられることがないというのは実に見事。しかも弦楽クァルテットとの共演だろうが,Wadada Leo Smithとのデュオだろうが,Craig Tabornとのデュオだろうが,クォリティを維持しているのが凄いのだ。

そのVijay Iyerにとって,"Break Stuff"以来の久しぶりのピアノ・トリオによるアルバムであるが,長年のトリオからメンツを変えての第1作となる本作がこれまた素晴らしい出来である。基本的にVijay Iyerのオリジナルが中心であるが,そこに"Night And Day"が何の違和感もなく入り込んでくる。今は亡きGeri Allenの”Drummer’s Song"もミニマルな導入部から,反復フレーズは継続しながらも徐々に熱を帯びる展開も実に魅力的。とにかくどこを切っても実にレベルが高いのだ。

昨今のレコーディングにしては,ミキシング・レベルが抑制気味のような気がするが,音のバランスは取れていると思うので,気にすることはない。これが意図的なものかどうかはわからないが,このピアノ・トリオを聞くにはこれぐらいがいいのではないかと感じる。特にLinda May Han Ohのベースの音はベースってのはこういう感じで鳴るのが丁度いいと思わせるものだ。やたらに低音を強調しなくても,魅力的に響くベース音である。

相変わらずというか,このトリオの演奏はちょっとECMっぽくないようにも感じられるが,決してコンベンショナルなピアノ・トリオではなく,あくまでも現代のピアノ・トリオではある。しかし,以前にも書いたように,Manfred Eicherがこういう音楽をプロデュースしているのは,Vijay Iyerへの信頼の裏返しということになるのではないか。そして,その信頼を裏切ることのないVijay Iyer,さすがである。

まぁちょっとTyshawn Soreyは叩き過ぎって気がしないでもないが,実に優れたピアノ・トリオ・アルバムであることは間違いない。今回も実にいい作品であり,Vijay Iyer,本当に信頼に値するミュージシャンである。星★★★★☆。

Recorded in December, 2019

Personnel: Vijay Iyer(p), Linda May Han Oh(b), Tyshawn Sorey(ds)

2021年4月 3日 (土)

Nik Bärtschの新作はピアノ・ソロ:ファンク度は低いが,ミニマル感覚は強まる。

_20210327 "Entendre" Nik Bärtsch(ECM)

Nik Bärtschの音楽というのはファンクとミニマリズムをうまく融合させた音楽で,RoninやMobileでやっている音楽は私の嗜好に見事にはまっていると言ってよい。なので,Nik Bärtschの新譜がリリースされれば,無条件に購入している。今回もECMからリリースされたNik Bärtschの新作はピアノ・ソロである。

Nik BärtschにはECMと契約する前にリリースした"Hishiryo"というピアノ・ソロがあるのだが,ファンク度を重視するバンド名義のアルバムは買っていても,ソロについては購入しておらず,本作がピアノ・ソロに触れる初めての機会となった。ピアノ・ソロだとどういう感じなのかってのがやはり注目点となる。

それで以て今回のアルバムを聞いてみたのだが,やはりピアノ・ソロなので,ファンク度は抑制されるのだが,Nik Bärtschらしいミニマルな感覚は十分出ているし,随所にスリリングな感覚も感じさせるアルバムとなっている。彼のアルバムに収録された曲のタイトルは名は"Modul"に番号を付したものなのだが,本作には最後に"Déjà-Vu, Vienna"というタイトルが付いた曲が入っているのが珍しい。

その"Déjà-Vu, Vienna"はスローに展開されるミニマルな曲で,若干のメロディ・ラインも顔を出すが,”Modul XX"と言っても通じてしまうだろうと突っ込みたくなるのも事実。だが,全編を通じて,これが気持ちいいのである。

このミニマルな感覚,聞く人によっては何がいいのかさっぱりわからんという世界かもしれないが,こういうのがいいと思ってしまう私のような人間にとっては非常に心地よい時間が過ぎていく。決して難解ではないし,素直に身を委ねればいいという感じだろう。今回のアルバムも実に気持ちよく聞けてしまった。このグルーブ,特殊だとは思うのだが,好きだなぁ。星★★★★☆。

Recorded in September 2020

Personnel: Nik Bärtsch(p)

2021年3月15日 (月)

児玉桃のECM第3作は2006年録音の持ち込み音源だが,これが実に素晴らしい。

_20210313-2 ”Hosokawa/Mozart” 児玉桃,小澤征爾,水戸室内管弦楽団(ECM New Series)

児玉桃のECMにおける2作は大変素晴らしい作品であった。本作は前作"Point and Line"でも取り上げた細川俊夫とモーツァルトというまたECMらしい異色の組み合わせってところなのだが,ここで冒頭に演じられる細川俊夫の「月夜の蓮(”Lotus under the Moonlight”)」は,モーツァルトの生誕250周年を記念して書かれたものであり,「モーツァルトへのオマージュ」という副題まで付いているから,プログラムとしては一貫性があるものなのだ。児玉桃はその初演者であった。

そして,この音源は2006年に録音されたものであり,プロデュースにはManfred Eicherの名前もないので,明らかに持ち込み音源である。そもそもECMで小澤征爾の名前を見つけるとは全く想像していなかったが,そうした音源をリリースするという判断を下したのはManfred Eicherであるはずなので,その審美眼にかなった演奏であることは言うまでもない。

このアルバムにおけるポイントがその細川の「月夜の蓮」であることには疑う余地がない。もちろん,モーツァルトのP協23番なんてのは誰もが知る名曲であり,児玉桃と小澤征爾の組合せによる演奏が悪いはずはない。しかしである。このアルバムがリリースされた要因はやはり「月夜の蓮」ゆえであろう。この細川とモーツァルトの曲間のギャップこそがこの音楽を楽しむためのコアとなるからである。おそらくManfred Eicherもそれを評価したはずだと思う。「月夜の蓮」がクールかつ静謐な感覚を与えるのに対し,モーツァルトの暖かさが「月夜の蓮」で生まれた緊張感を弛緩させてくれることこそがこのアルバムのキモだろう(少なくとも私にとってはそうだ)。

こういう演奏/プログラムには本当に美学を感じるが,水戸の聴衆も生で聞いていた時には同じような感覚を覚えていたと思う。録音から時間が経過した音源であることを全く感じさせない傑作。星★★★★★。

甚だ余談ではあるが,私の亡くなった父はモーツァルトを偏愛していたが,父が最も好きだったP協はこの23番である。本当にしょっちゅうこの曲を聞いていたのを思い出してしまった。父がこのアルバムを聞いたらどういう感想を言うか聞いてみたい気がした私である。

Recorded Live at 水戸芸術館 in December, 2006 

Personnel: 児玉桃(p),小澤征爾(指揮),水戸室内管弦楽団 

2021年2月23日 (火)

ECMにおけるShai Maestroのリーダー作第2弾。これも実によい。

_20210221"Human" Shai Maestro(ECM)

2018年にリリースされた"Dream Thief"も素晴らしかったShai Maestroであるが,ECMにおける第2作がリリースされたが,前作同様,実に美的なアルバムとなった。

前作はピアノ・トリオであったが,本作ではPhollip Dizackのトランペットが加わる。前にも書いたが,私はラッパのワンホーンってのが結構お好みなので,編成としても気になるところではあるが,それがECMというレーベルでどう機能するかは興味深いところである。結果的には大成功というところである。今回のアルバムも静謐な響きの中に,素晴らしい歌心を感じさせるアルバムとなっているではないか。

私は出身地の音楽に根差したエキゾチズムを否定する訳ではないのだが,それが過剰になるとどうしても鼻につくという感じがある。単なる好みの問題ということかもしれないが,私にとってのその最たる事例がLionel Louekeということになってしまう。Lionel Louekeのファンには申し訳ないが,以前の記事にも書いた通り,もはやLionel Louekeのアフリカン・フレイヴァーは私としては生理的に受け付けないレベルなのだ。それに比べると,Shai Mestroの音楽はイスラエル出身とかを強調した感じのない音楽と言ってよく,実に受け入れやすく,聞いていて心地よい。Camila Mezaとの共演も素晴らしかったが,Shai Maestroが非常に多彩な音楽性を身につけていることが素晴らしい。

アルバムが基本的にShai Maestroのオリジナルで構成され,1曲だけスタンダードを加えるというのは前作と同様であるが,今回加えられているのが"In a Sentimentl Mood"である。Shai Maestroの書くオリジナルは,実に抒情的な響きを持つものであり,この手の音を好むリスナーにとっては心をえぐられるものと言ってもよい。それは私にも当てはまり,これはかなりいいと思える。ただ,一点ケチをつけるならば,そのスタンダード,"In a Sentimental Mood"の扱いだろう。明らかにこれは余計にいじってしまったって感じが強い。まぁ,普通にはやりたくはないというのはわからないでもないが,ここでのアレンジは「奇をてらった」と言われても仕方がない。これはもったいなかったと思う。ということで,それが減点材料ではあるが,総体的にはいいアルバムだと思う。"In a Sentimental Mood"は気に入らないが,ちょっと甘めの星★★★★☆としよう。

Recorded in February, 2020

Personnel: Shai Maestro(p), Jorge Roeder(b), Ofri Nehemya(ds), Phillip Dizack(tp)

2021年2月22日 (月)

今,"Sun Bear Concerts"をアナログで聞く喜び。

Sun_bear_concerts "Sun Bear Concerts" Keith Jarrett(ECM)

Keith Jarrettが病気により,演奏活動に復帰することが難しくなった今,この10枚組がアナログで再発されることには象徴的な意味があるように思える。それは先般リリースされた"Budapest Concert"の装丁が通常のCDと異なっていたこととも相通ずる部分を感じてしまう私である。

それはさておき,私はこのアルバム,既にCDで保有しているのに,なぜまたアナログで改めて購入するのか?と聞かれれば,特段の理由はなく,ただ単に「聞きたかったから」と答えるしかない。このアルバムがリリースされた当時,私はまだジャズを聞き始めて間もない頃であったし,Keith Jarrettの発する「声」に違和感を感じていて,その魅力に全然気が付いていない頃である。随分後になってからKeith Jarrettの音楽にはまっていった私であったが,CDでも十分に楽しんでいたのだから,バカ高いコストを支払って,アナログを買うのは馬鹿げていると言われてしまえば,反論の余地はない。

だが,米国内におけるアナログの売り上げがCDを上回ったこともあって,アナログの魅力が改めて認識されつつあるのは事実だし,ECMもCD,アナログ,ストリーミングのリリース・パターンが増えてきているので,そうした流れの中での再リリースだったのかもしれない。しかし,アナログ・マスターからのアナログ・マスタリングというこだわり,全世界2,000セットという限定リリースとなると,ここで買わなければ一生買えないという思いもあっての購入となった。

これから時間をかけてプレイバックして,その魅力を再確認していきたいと思うが,CDがある意味コンサートの模様を通しで聞けるよさはあるが,家庭内でそれだけ集中を継続することは難しいし,アナログであれば,片面25分程度と聞く方の集中も途切れないというよさがあって,新たな発見ができるのではないかと思いたい。早速,「京都」を聞いたのだが,やっぱりいいねぇ。美的であること,クリエイティブであることをうまくブレンドした演奏である。値段は高かったが,元を取ったと思えるまで聞きこまねば(笑)。

それにしても,レコードが取り出しにくいのは何とかならないものかねぇ(爆)。また,再生に問題はないものの,ちょいと反っているのもなんだかなぁ。

Recorded Live on November 5, 8. 12, 14 and 18, 1976

Personnel: Keith Jarrett(p)

2021年2月17日 (水)

私の第一次Chick Coreaマイ・ブームは82~83年ぐらい。

Trio-music_20210215183301 "Trio Music" Chick Corea / Miroslav Vitous / Roy Haynes(ECM)

Chick Coreaの急逝を受けて,私の人生における接点を振り返る4回目。高校時代からChick Coreaの音楽は聞いていたが,本格的に彼の音楽にはまっていったのは私が大学に入ってからのことであり,その第一次のピークは主題の通り,1982年から83年の頃だと思う。その頃,リリースされたアルバムは大体リアルタイムで購入し,先日も書いたように83年には2回ライブを見に行っている。その契機となったのは若干遡って,80年にリリースされたGary Burtonとのデュオ・ライブであったと思っている。だからブログ開設後10日目にそれを取り上げていることは,私にとっての重要度を示している(記事はこちら)。

当時の新譜を購入しながら,Chick Coreaの旧作アルバムもせっせと入手していた私だが,その頃,最もプレイバックしていたのは”Friends"であったと思う。私が"Friends"を好きだってことは,ブログを始めた2007年の段階で書いているし,その気持ちは今でも変わらない(記事はこちら)。その頃と言えば,"Three Quartets"がリリースされた頃でもあるのだが,"Three Quartets"も買うことは買っていたが,あまりプレイバックしていなかった。当時の私はあまりMichael Breckerが好きではなかったので,敢えて軽視していたという天邪鬼であったし,"Three Quartets"よりも"Friends"を聞いていればいいと思っていたのだ。今でも”Friends”は好きだが,そのようには思っていないので念のため。

当時,新譜としてリリースされたのは"Three Quartets"のほか,今日紹介のトリオ作,"Touchstone",そして"Lyric Suite"あたりになるが,そのほかにもアルバムは出ていたから,多作ぶりはその当時から明らかであった。この"Trio Music"は"Now He Sings, Now He Sobs"トリオの復活作だった訳だが,この頃には"Now He Sings, Now He Sobs"もLPで入手していたはずだ。そして,この"Trio Music"は2枚組で,1枚目がフリー・インプロヴィゼーション,2枚目がThelonius Monk集という変わった構成であったのも懐かしい。正直言ってしまうと,当時はMorislav Vitousのベース音もあまり好かんとか言っていて,文句の多いリスナーだった私だが,Monk集ではそういうVitousの音が多少抑制されるようにも感じていたのかもしれない。今やそれもVitousの音も全く問題なくなったが,好き嫌いをはっきりさせ過ぎるというのは若気の至りであった。そもそもフリー・インプロヴィゼーションに対する耐性も高くなかったので,私もまだまだ修行が足りなかったのである(笑)。

今回,このアルバムを久しぶりに聞いて,こんなアルバムだったかなぁなんて思いを新たにしたが,実を言ってしまうと,今の私にとってはMonk集よりもインプロヴィゼーションで演じされたLPなら1枚目の方が面白かったのだから,人間どう変わるかわからない。1枚目と2枚目のギャップのようなものをもっと楽しむべきだったかなぁなんて感じであった。星★★★★☆。

いずれにしても,この頃出たアルバムにおいても,Chick Coreaの音楽の多様性は感じられるものであり,ある意味何でもありみたいなところに私は惹かれていたのかもしれないと思ってしまった。その後もChick Coreaの音楽との接点は,つかず離れずのような状態で保たれていくが,その後についてはまた改めて書くことにしよう。

Recorded in November, 1981

Personnel: Chick Corea(p), Miroslav Vitous(b), Roy Haynes(ds)

2021年2月15日 (月)

Chick Coreaのアルバムで2枚目に買ったのは多分これ。

Crystal-silence "Crystal Silence" Gary Burton & Chick Corea(ECM)

主題の通りなのだが,高校生の私がChick Coreaのアルバムとして買ったのが本作だと思う。今や,結構な数のECMレーベルのアルバムを保有する私だが,そんなレーベルとの付き合い方が始まったのはこのアルバムが契機だったかもしれない。昨日アップした"Return to Forever"は国内ではポリドールから出ていたので,ECMとか全然意識していない頃だ。

このアルバムを初めて聞いたときに思ったのが,圧倒的に美的な感覚と言えばよいと思う。ヴァイブと言えば,Milt Jacksonとか思っていたところに,ここで聞かれるGary Burtonのヴァイブの音色との違いがもの凄いと思ったのがその頃。そうは言ってもMilt JacksonもMJQのMilt Jacksonとして"Last Concert"ぐらいしか聞いたことはなかったはずだが(苦笑)。

冒頭の"Senor Mouse"こそややスリリングな展開と言ってもよいが,それ以降のピアノとヴァイブというある意味同系統の音色ながら,それが絶妙にブレンドした演奏に,へぇ~と思っていたはずだ。そしてエレピではなく,アコースティック・ピアノで聞くChick Coreaの演奏にもいいねぇなんて思っていたはずだ。

今にして思えば,このアルバムの素晴らしさは,その選曲にあったと思える。Chick Coreaのオリジナルもよいが,Gary Burtonが持ち込んだであろうSteve SwallowやMike Gibbsの曲を聞いて,その趣味のよさ,審美眼に感心させられるのだ。そして,本作がその後の長きに渡るこの二人の初共演だったということ自体が重要なのだ。これぞ素晴らしき邂逅と言わずして何と言おう。真の「美学」というものを感じさせてくれたこのアルバムは,年齢を重ねた今の私にも訴求力が実に高い。星★★★★★。

Recorded in November, 1972

Personnel: Gary Burton(vib), Chick Corea(p)

2021年2月14日 (日)

私が初めて買ったChick Coreaのアルバム。

Rtf "Return to Forever" Chick Corea(ECM)

Chick Coreaの突然の訃報に接し,自分がChick Coreaとどのように接してきたかを考えてみると,最初に買ったChick Coreaのアルバムが本作のはずだ。ジャズを聞き始めて,何から聞けばいいのかわからないという中で,当時参考にしていたのが,スウィング・ジャーナル主催の「ジャズ・ディスク大賞」の歴代の金賞受賞作であったり,その当時の上位選出作であった。私がSJ誌を買い始めたのは77年だったはずで,その年の金賞は”V.S.O.P”,銀賞は同点で3作,それもGJTのVanguardでのライブ,"Heavy Weather","Tales of Another"だったのも今にしてみれば,実に懐かしい限り。

そんなジャズ・ディスク大賞の過去の受賞作を眺めて,まずは聞いてみようと思うアルバムを買っていたのが高校時代であった。まだジャズの好みも確立せず,審美眼なんてありもしない,若干背伸びをしながらジャズを聞いていたあの頃って感じだ。そんな私だから「スピリチュアル・ネイチャー」なんて当時は全く理解不能な世界であった(爆)。今でもかなりハードルは高いものの,趣旨は理解可能な作品となった「スピリチュアル・ネイチャー」によって,当時の私はジャズに対してその段階で挫折していたかもしれないと言ってもよい。それに対して,1972年度の金賞受賞作である本作は,実にわかりやすいというか,初心者の私にも受け入れやすい作品であったこともあり,ジャズという音楽のみならず,Chick Coreaというミュージシャンに対しての関心を高めるきっかけになったと言ってもよい。しかもこのジャケである。とっつきやすいのだ。

当時よく言われていたのは,Chick Coreaがこのアルバムのような音楽に転じたのは,Circleのようなフリーのアプローチから,聴衆とのコミュニケーションを重視するためだったというようなことだったと記憶している。おそらくそれは”Piano Improvisation Volume 1”の裏ジャケにある”This Music Was Created Out of the Desire to Communicate and Share the Dream of a Better Life with People Everywhere."という一文に基づくものだったと考えられるが,それをCircleの「失敗」と当時のSJ誌では評していたように思う。だが,CircleはCircleで狙いはあったはずであるから,Chick Coreaがどう思っていたかはよくわからないが...。

それはさておき,このアルバムの素晴らしさは既に語りつくされているところであり,私が今更どうこう書くのもなぁって気がする。いずれにしても,親しみやすいメロディ・ラインを持ちながらも,タイトル・トラックや"La Fiesta"に代表されるスリリングな展開を並存させ,誰しもが受け入れやすい音楽を作り出したことの意義が大きく,そうした意味では”This Music Was Created Out of the Desire to Communicate and Share the Dream of a Better Life with People Everywhere."という言葉は,このアルバムにこそ当てはまると言ってもよいのではないかと思えるし,そういう価値を持っていた。

そして,私にとってこのアルバムが影響したのは,私のエレピ好きはこのアルバムから始まったのだろうということである。振り返れば,ストレート・アヘッドな演奏にさえエレピが使われる時代ではあったが,私がジャズにおいて,これだけのエレピに接したのはこのアルバムが初めてだったと思う。そうした意味でも,私の音楽的な嗜好に大きな影響を与えたものであった。

本作を端緒として,Chick Coreaのアルバムを入手していく私であったが,高校時代の小遣いで買えるアルバムは限界があった。その頃に買ったのは"Crystal Silence"ぐらいで,本格的に買い始めたのは大学に入ってからのことになるが,深みにはまっていくのは結構早かったなぁって気がする。そこに至る道筋としては,浪人中に授業にも出ず,ジャズ喫茶で本を読みながら,音楽を浴びて,様々なジャズのスタイルを理解しつつ,過去のChick Coreaのアルバムもリクエストして,買うか買わないかの判断をしていたのも懐かしい。繰り返しになるが,私のこれまでの音楽鑑賞生活においても,今にして思えば重要な役割を果たしていたアルバムということになる。そして,本作がリリースされてほぼ半世紀になるという恐るべき事実。Airtoのドラムスがやや時代感を帯びているとは言え,今でも全然問題なしに聞けてしまうところが素晴らしい。星★★★★★。

Recorded in February, 1972

Personnel: Chick Corea(el-p), Joe Farrell(ss, fl), Flora Purim(vo, perc), Stanley Clarke(b), Airto Moreira(ds, perc)

2021年2月10日 (水)

Dino Saluzziのピアノ曲集:現代音楽的なところは感じられない,純粋に美的なピアノ音楽。

_20210206 "Imágenes - Music For Piano" Dino Saluzzi / Horacio Lavandera (ECM New Series)

Dino SaluzziはECMでもお馴染みのバンドネオン奏者だが,彼が書いたピアノ曲を集めたアルバムがこれである。弾いているのはDino Saluzziと同郷のHoracio Lavandera。このピアニストについては,よく知らないが,日本でのライブ盤も残しているようなので,それなりに知られた人なのかもしれない。ティーンエイジャーにしてデビュー作を録音しているから,相当早熟のプレイヤーと言ってもよいかもしれない。

ECM New Seriesは,古楽と現代音楽を並存させたりして,実にユニークなアルバムを多数生み出しているが,これは「現代ピアノ曲」としての位置づけのものと思われる。しかし,現代音楽にありがちなアブストラクトな感覚はここにはなく,実に美しいピアノ音楽になっている。私は古楽も現代音楽もどっちも好んで聞いているが,こういうのもいいねぇと思ってしまう。ある種のロマンティシズムさえ感じさせる曲が並んでいるが,それをECMらしい音で聞かされたら,大体まいってしまうと思うのだ。

しかし,その一方で,このアルバムがどういう層のリスナーに訴求力があるのかと考えると,若干微妙なところがある。現代音楽として突き抜けた感覚はないし,ラテンの土着性を感じさせるかと言えば,そういうこともない。純粋に美しいピアノ音楽と言えば聞こえはいい訳だが,その一方で,中途半端ではないのかという指摘も成り立ってしまうのが辛いところである。もちろん,それをDino Saluzziの音楽の多様性/多面性と捉えることももちろんできるが,人それぞれに捉え方は変わることは仕方がない。

私としては演奏には文句はないが,そのあたりがこのアルバムの評価の難しいところだと思う。それでも星★★★★にはしてしまうのだが...(笑)。

それにしても,ライナーに写るDino Saluzziは強面のおっさんであるが,こういう人がこういう美しい音楽を書いてしまうところが実に面白いねぇ。

Recorded in October 2013

Personnel: Horacio Lavandera(p), Dino Saluzzi(composer)

2021年1月11日 (月)

追悼,David Darling

David-darling-photo-2

David Darlingが亡くなった。かなりの人にとっては,それって誰?って感じかもしれないが,David DarlingがECMに残したアルバムはそれぞれに味わい深いものであり,チェロという楽器の魅力を伝えるために果たした役割は大きい。

David Darlingの音楽はジャズにカテゴライズするよりも,アンビエント,あるいは現代音楽と呼んだ方がよいかもしれない。グラミーではニューエイジ部門で受賞しているし。そんなDavid Darlingの訃報に接し,私が聞いていたのが彼の初リーダー作であろう"Journal October"だったのだが,その冒頭に収められた”Slow Return"なんかにはミニマルな感覚もあるし,いろいろなタイプの音楽にチャレンジした初リーダー作らしいアルバムであった。

彼のリーダー作はどれも好きだが,それ以外で言えば,私は"Until the End of the World"のサウンドトラックが印象に残っている。私がDavid Darlingのアルバムを購入しだしたのは,このサウンドトラック・アルバムが契機だったと言っても過言ではないのだ。

David DarlingのECMにおける活動は暫く続いたが,今世紀に入ってからは縁が切れてしまったようなのは,ちょっと残念であった。しかし,彼の残したアルバムはこれからもさまざまなリスナーに聞き続けられるだろうし,心の平安をもたらすのに役立つはずだ。

R.I.P.

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