"Jacob’s Ladder" Brad Mehldau(Nonesuch)
NonesuchにプレオーダーしていたBrad Mehldauの新作がようやくデリバリーされた。発送通知から1か月以上ってのは,いくら何でも掛かり過ぎとは思うが,まぁ仕方ない。ついてきたオマケは裏ジャケ写真にBrad Mehldauのサインが入ったものだが,これは「う~む」って感じだなぁ(苦笑)。
音源としては既にダウンロード音源では聞いていたのだが,これはやはり問題作と言ってよいだろうし,基本的なテーマとしては「プログレ」があるのに加え,そこに宗教が絡むというところが難しい。その「プログレ」も,ロック的な音よりも,高度な技術の積み上げと「コンセプチュアル」という方法論的なところが重視されていているって感じか。ひな形として選ばれているのはRush,Gentle Giant,そしてYesであるが,おぉ,これぞプログレって感じさせるのは2曲目"Herr Und Knecht"ぐらいのもので,全体的なサウンドとしては,プログレと言うにはロック的要素が希薄なのである。
そういう意味で,プログレを好んで聞くリスナーにとっても,Brad Mehldauのジャズ・ピアノを期待するリスナーの双方にとって???となってしまうのではないか。だが,Brad Mehldauというミュージシャンの出自を考えれば,これまでのレパートリーに含まれていたロック曲の多さは明らかであったし,Beatles,Neil Young,RadioheadからSoundgardenまで何でもありだったのだ。これまでのアルバムではプログレシッブ・ロック・バンドのカヴァーは"10 Years Solo Live"でPink Floydの"Hey You"をやったぐらい(確かBBCのプログラムでもやっていたな)しかないはずなので,一気にプログレ・カヴァーが爆発したって感じだと言ってもよい。そうした出自も理解した上で私はBrad Mehldauの追っかけをしているので,この路線には全く問題は感じない。
だが,そこで出てくる音が,上述の通りロック的にならないところは意図的なものとしても,私のような年代のリスナーは"Herr Und Knecht"みたいなのをもっとやってくれた方が嬉しいと思うのだ。そうは言っても,Brad Mehldauはロック・ミュージシャンではないし,全編そういう音楽を作る気もなかろう。これはBrad Mehldauによる「プログレのアダプテーション」であって,プログレそのものだと思ってはならないというところだろう。コンセプトはしっかりしているし,Chris Thileがヴォーカルを担当する"Tom Sawyer"もいい出来だと思う。私はこうしたBrad Mehldauのチャレンジを前向きに捉えるので,多少の贔屓目があることは否定しないが,私個人としてはアルバムとしての評価は決して悪いものではない。最高評価にはできないとしても,最後に出てくる"Starship Trooper"が昔のYesのファンとしてはあまりに嬉しく,オマケも込めて星★★★★☆。
でも評価は絶対分かれるし,好き嫌いも分かれるに違いない。やっぱり問題作だ(笑)。7月に来日する時のプログラムは,ソロ,"After Bach"路線,それとコンチェルトだもんなぁ。変幻自在にもほどがある(爆)。
Recorded between April 2020 and January 2021
Personnel: Brad Mehldau(p, el-p, key, synth, org, ds, perc, vo, etc.), Marc Giuliana(ds), Paul Power(b-ds), John Davis(prog, sampling), Joel Frahm(ss, ts), Joris Roelofs(b-cl), Lavinia Meijer(harp), Motomi Igarashi-de Jong(linore), Pedro Martins(vo, g), Chris Thile(vo, mandolin), Becca Stevens(vo), Luca van den Bossche(vo), Tinkerbell(vo), Tobias Bader(vo), Safia McKinney-Askeur(vo), Timothy Hill(vo), Damien Mehldau(vo), Fleurine(vo), Cécile McLorin Salvant(vo)
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