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カテゴリー「現代音楽」の記事

2026年7月 4日 (土)

Camila Meza参加のフロリダの理想と現実を描くコンセプト・アルバム。

Scott-lee "Greetings form Florida: Postcards from Paradise" Scott Lee(Sunnyside)

私の「推し」の一人と言ってよいCamila Mezaが参加していると知ってストリーミングで聞いた上で,ゲットしたアルバム。正直言ってストリーミングで聞いて買うかどうか迷ったのだが,抱き合わせでのディスカウントをねらっての購入となった。まぁ無駄遣いと言えば無駄遣いだ。

リーダーとなっているScott Leeはフロリダ出身の作曲家らしいが,初めて聞く名前である。このアルバムはフロリダから想像されるイメージと現実のギャップを描くというところが根底にあるので,主題の通りのコンセプト・アルバムだ。元々はフロリダ大学からの委嘱で書かれた作品で,楽器編成も含めてかなりユニークなアルバムと言ってもよいが,テーマがテーマだけに軽い気持ちでは聞けない。

そもそも曲もかなり癖が強いと言ってよいものなので,Camila Mezaが歌っているとは言っても,彼女のリーダー作やRyan KeberleとのCatharsisとは雰囲気はかなり違う。ということでCamila Meza参加と言っても,よほどの彼女のファンでなければほかの方にはお勧めしにくいというのが実感だ。もちろん,彼女の歌はいつもながらの魅力的なものだし,ギターもその腕をきっちり聞かせる場面もある。弾き語りで演じられる"The Loss of the Blues"がその最たる事例だ。ただ,そもそもがアンサンブルを前提とした曲群なので,そういう作品だと思って聞く必要がある。星★★★☆。

Recorded on November 13-14,2025

Personnel: Scott Lee(composer), Camila Meza(vo, g), Kristen Stoner(fl), Seok Hee Jang(cl), Tania Moldovan(vln), Emily Austin Smith(cello), Evan Mitchell(p), Danielle Moreau(perc)

現物が出てこないので本作のストリーミングへのリンクはこちら。

2026年3月14日 (土)

今年初のイタリア文化会館行脚(笑)。

20260312 イタリア文化会館は定期的に無料コンサートを開催してくれるので,時間が合えば応募して行くようにしていることはこのブログにも何度も書いている。そのコンサート・シリーズNo.28となる「取り戻された声」と題するイベントに出掛けてきた。会場はいつもながら私も含めて高齢者多数だが,私より上の層も相当多いのだ。あんまり音楽に興味のなさそうな聴衆がいるのもこの会場の特徴(笑)。

今回はCatello Coppola,Giuliano Di Maioという二人のフルート奏者に,ピアノのAniello Iaccarinoの3人によるコンサートであるが,CoppolaとIaccarinoはκαιρός(カイロス)という現代音楽系デュオで活動しているようだ。もう一人のDi MaioはCoppolaに師事しているということなので,弟子として帯同って感じか。

スタートはシューベルトの『「しぼめる花」による序奏と変奏 Op.160』だったのだが,フルートの音はでかくて,技量もあるのだが,ノン・ビブラート気味でやや表現が平板に感じられ,演奏としてはどうなのよと感じていた。私が気づいていなかっただけなのだが,実は2曲目までは弟子のGiuliano Di Maioがソリストだったことがわかり,なるほどと思ったのであった。Catello Coppolaは3曲目の細川俊夫の「リート」からの登場だったのだが,全然表現力が違うのだ。そもそも現代音楽好きの私としては,全プログラムの中でもこの「リート」が一番よかったと思っているクチだ。

私としてはもう少しハードな(笑)現代音楽的プログラムも入れて欲しかったところだが,選曲はプロコフィエフ等19世紀後半から20世紀半ばにかけてのプログラムが中心で,聞き易さ重視って感じだった。しかし,冒頭の2曲に比べれば,3曲目以降のプログラムはずっと楽しめるものだったと言ってよいだろう。休憩を挟んだ第2部ではフルート2本+ピアノでの演奏になったが,2本のアンサンブルになるとGiuliano Di Maioの生硬さはあまり感じなくなって,やっぱり最初は緊張していたのかとも思わせた。まぁ,まだまだ青いってところだ。

そしてアンコールは3曲。イタリア文化会館のサイトによれば,Ian Clarkeの"Maya"とNino Rotaの「5つの小品」から「パヴァーナ」と「おもちゃの兵隊」。最後はNino Rotaで締めるのがいかにもイタリア文化会館でのイベントってところだが,ここでのイベントは日頃耳にすることが出来ないプログラムを聞ける貴重な機会を与えてくれるものだと思っている。今年の次なるイベントを期待して待つことにしよう。

Live at イタリア文化会館 on March 12, 2026

Personnel: Catello Coppola(fl), Giuliano Di Maio(fl), Aniello Iaccarino(p)

2026年2月24日 (火)

Kris Davisによる越境型音楽。もはや現代音楽と言った方がよいだろう。

Solastalgia-suite "The Solastalgia Suite" Kris Davis and the Lutosławski Quartet (Pyroclastic)

ジャズ界での注目度も高まるKris Davisが弦楽クァルテットとレコーディングしたアルバム。この編成ならば,上原ひろみにも"Silver Lining Suite"というアルバムがあったが,随分と趣が異なる。そもそも,タイトルにあるSolastalgiaとは「環境破壊や気候変動により、住み慣れた土地が心安らぐ場所から苦痛の源へ変貌した際に生じる、無力感や孤独感、喪失感を伴う精神的な痛み」だそうである。う~む,これはタイトルからして難しそうだが,"Silver Lining Suite"が「希望の光」をテーマにしているのとは真逆と言ってもよいものだから,趣が違って当然だ。

このアルバムはそうしたSolastalgiaにまつわる心象を,8曲から構成される組曲として演奏したものであるが,全編に渡って不安感が表出されたような感覚の曲が多いから,決して気楽に聞ける音楽とは言えない。もはやこの音楽をジャズの範疇で語ることには無理があり,現代音楽とのハイブリッドとして捉えた方がよい。よって,Kris Davisがインプロヴィゼーションを聞かせるパートも限定的であり,基本的には記譜された音楽である。

そうした音楽なので,コンベンショナルなジャズ・ファンに受けるとは考えられないし,フリー・ジャズ好きにも訴求するかも微妙なところがある中で,最後に収められた"Degrees of Separation"辺りが最もジャズ的な起伏を感じさせる。私は現代音楽も好きな方なので,こういう音楽にも抵抗はないが,それでもやはり一筋縄では行かないと感じさせる。Kris Davisについては,このブログにおいても"Run the Gauntlet"を取り上げた際にもそこにも「一筋縄ではいかない」と書いていて,自分の表現力のなさを痛感するが,これはこれで純粋に音楽的なチャレンジとして捉えればよいし,Kris Davisというミュージシャンの多様な才能を示すものだ。

いずれにしてもこのハイブラウな響きは好き嫌いは出てきて当然が,評価はしなければならない音楽だと思う。そうした意味も込めて星★★★★☆としよう。

Recorded on November 23, 2024

Personnel: Kris Davis(p), Lutosławski Quartet:Roksana Kwaśnikowska(vln),Marcin Markowicz(vln), Artur Rozmysłowicz(vla), Maciej Młodawski(cello)

本作は現物も出ているはずだが,現物のリンクが見当たらない。ということでストリーミングへのリンクはこちら。

2025年9月13日 (土)

またもイタリア文化会館でのライブを聞く。今回はヴァイオリンのリサイタル。

Francesco-dorazio毎度お馴染みイタリア文化会館の無料ライブである。今回はFrancesco D'Orazioなるヴァイオリニストのリサイタル。一部でもう一人のヴァイオリン,毛利文香が加わり二重奏となるが,基本はヴァイオリン独奏。

イタリア文化会館の応募の仕組みが変わったことは前回の同地訪問の時の記事にも書いたが,以前は常にフルハウスだったのが,ここ2回は完全フルハウスになっていないのは,この仕組みに追随できない高齢者が多いのか?なんて勘繰ってしまうが,まぁそれはそれでよかろう。

プログラムはバロック期の作曲家,タルティーニにバッハが古典,それ以外が細川俊夫とベリオという現代音楽の組合せはユニークだと思う。バッハは「シャコンヌ」だしねぇ。私が興味津々だったのが細川俊夫の「ヴァイオリン独奏のためのUTA」だったのだが,これは細川が今回の主役であるFrancesco D'Orazioに献呈したものらしい。会場には細川俊夫本人も来ていたようだが,そこはかとなく雅楽のような響きさえ感じさせる部分もある曲調が,現代音楽にはまってしまった私には面白かった。

毛利文香はベリオの「2つのヴァイオリンのためのデュエット集」での登場だったが,これが短い曲の組曲みたいな感じで,これまたユニークだった。まぁプログラムの中で一番受けていたのは「シャコンヌ」なのは致し方がないところだとは思うが,こういうチャレンジングなプログラムで演奏してしまう,かつそれをただで聞けるというチャンスはそうあるものではない。イタリアの文化に対するサポートぶりがまたも嬉しく感じたのであった。開演前には1時間の演奏の予定というアナウンスがあったが,アンコール3曲含めてトータル約80分のプログラムは非常に面白かった。ただ,「シャコンヌ」は世の多数の名演と比べると...ってところではあったが。

そして言っておきたいのが,ここの聴衆にはちょっと癖の強い人が多いということだろう。私の横の人は完全熟睡モードなのは,この手の音楽に興味がなければ仕方がないとして,私の前の人はちょっとしたノイズにもとにかくヴィヴィッドに反応する神経過敏気味の方ってことで,前の人の反応ぶりが気になって仕方がなかった私である。前回は落ち着きのないガキンチョ,今回は神経過敏の大人ってことで,まぁしょうがないな,ただだから(爆)。

いずれにしても,ここのライブのシリーズはなかなか聞けないプログラムも多いので,これからも注目していくつもりだ。

Live at イタリア文化会館 on September 11, 2025

Personnel: Francesco D'Orazio(vln),毛利文香(vln)

2025年4月10日 (木)

Francesco Dillon@イタリア文化会館参戦記。

__20250409072201

毎度お馴染み,九段下にあるイタリア文化会館における無料コンサートにまたも行ってきた。今回はトリノ出身のチェリスト,Francisco Dillonによる無伴奏リサイタルであった。いつも思うのだが,この無料コンサート,聴衆の年齢層が高い(私より上多数)のはいつもの通りだが,大概の場合,早めに申し込まないとキャンセル待ちになってしまう。今回も座席は完全に満席状態だったが,どういう人たちなのかと思ってしまう。私のような純粋音楽好きばかりとは思えないのだが...。

今回も九段下へいそいそと向かった私であったが,九段下界隈は千鳥ヶ淵の花見に訪れた人々で大混雑。これで武道館ライブなんかと重なったら目も当てられなかっただろう。しかも,この日はライトアップ最終日ということもあり,インバウンド含めた老若男女で九段下から市ヶ谷方面へ向かう坂道は人で溢れていた。上の桜の写真はライブ後の帰り道に撮ったものだが,私は人ごみを避けて,靖国通りの逆側(靖国神社側)から撮影したのであった。無粋と言えば無粋だが,これでも十分だろう。

Francesco-dillon それはさておきである。今回の無伴奏チェロのリサイタルはバッハから現代音楽まで幅広いプログラムで,よく言えば意欲的なのだが,聴衆にとっては現代ものは相当ハードルが高い。私の場合,現代音楽に抵抗はあまりないのでまだいいとしても,一般的には聴衆の頭の上を???が飛び交う感じだろう。逆に言えば,今回演奏したのはバッハの無伴奏ソナタ3番であったが,バッハの素晴らしさを改めて浮かび上がらせたと言ってもよい。いずれにしても,前半の最後に演奏したSilvia Borzelliの"Here/Folia"は抽象度が高過ぎた気がする。私の前の列に座っていた少女が爆睡していたのには思わず笑ってしまったが。

そのほかに当日演奏したWeinbergとBrittenが書いたソナタは,どちらもMstislav Rostropovichに献呈された曲らしいが,そういうところで今更ながらRostropovichのポジションを再認識できるという効果もあった。いずれにしても,なかなかこういうリサイタルは聞くチャンスもないので,いい機会ではあった。無料で聞けてしまうのだから文句はないのである。

尚,Francesco DillonはQuartetto Prometeoの一員としてECM New Seriesにレコーディングしていることも初めて知ったのであった。

Live at イタリア文化会館 on April 8, 2025

Personnel: Francesco Dillon(cello)

2025年4月 6日 (日)

才人Vijay IyerとWadada Leo Smithのデュオ第2作。

_20250405_0001"Defiant Life" Vijay Iyer / Wadada Leo Smith(ECM)

Vijay IyerとWadada Leo Smithのデュオ作"A Cosmic Rhythm wiith Each Stroke"がリリースされたのが2016年のことであったから,もう9年も経過したのかとついつい思ってしまうが,あれはよくできたアルバムだったと思う。そしてこの二人にJack DeJohnetteを加えた"A Love Sonet for Billie Holiday"をはさんで,リリースされたのが本作である。

"A Cosmic Rhythm wiith Each Stroke"は比較的(あくまでも比較的だが)聞き易さも備えたアルバムだったのに対し,"A Love Sonet for Billie Holiday"は正調フリー・ジャズと言いたくなるような作品であった。そして本作であるが,これは二人の静かな対話という趣と言えばよいかもしれない。

もはやこれは現代音楽的と言ってもよいような響きに加え,アンビエント的に響く部分もあるのだが,そこはこの二人のやることであるからレベルは高い。但し,耳に心地よいかと言えばそんなことはないから,ついつい身構えてしまうような音楽と言ってもよい。だが,Wadada Leo Smithは既に傘寿を過ぎていることを考えれば,このクリエイティビティと衰えぬラッパの吹奏能力には驚かされる。またそれに寄り添うVijay Iyerのピアノの的確なことよ。基本的には二人の完全即興と考えてよさそうだが,"Floating River Requiem for Patrice Lumumba"と"Kite"はそれぞれWadada Leo SmithとVijay Iyerが作曲者としてクレジットされているし,ジャケットに写るのは前者の譜面と思われるから,ちゃんと書かれているというのもある意味驚きだ。それでも"Elegy: The Pilgrimage"なんかは美的に響く部分もあるから,どこまでが書かれていて,どこからが即興かは正直わからないが...。

いずれにしても,才人二人による名コンビと言いたくなるようなアルバム。"A Cosmic Rhythm wiith Each Stroke"の方が私はいいと思っているので,半星引いて星★★★★☆。ただねぇ,どういうタイミングでプレイバックするかはかなり難しい(苦笑)。

Recorded in July 2024

Personnel: Wadada Leo Smith(tp), Vijay Iyer(p, rhodes, electronics)

本作へのリンクはこちら 。

2024年12月28日 (土)

2024年の回顧:音楽編(その1:ジャズ以外)

2024-best-albums1

いよいよ年の瀬も押し詰まってきたので,今年の回顧も音楽編に突入である。今回はジャズ以外でよかったと思うアルバムを取り上げたいが,正直言って,新譜の購入枚数は減る一方なので,ストリーミングも利用しながら聞いた今年の新譜で私がよかったと思うものを挙げたい。最近はジャンルも越境している場合が多いので,どこまでをジャズ以外とするかは難しい。また,今年は発掘盤にいいものが多く,それを新譜として捉えていいのかは議論があるのを承知で,純粋新譜に発掘盤を交えて挙げることにしよう。

今年の前半で最も興奮させられたのがBrittany Howardの"What Now"であった。この人の作り出すサウンドは私の嗜好にばっちり合ってしまっており,今回も文句のつけようがないと思わされたナイスなアルバムであった。

そして,Brittany Howardとは全然音楽のタイプが異なるのに,私がずっぽしはまってしまったのが Arooj Aftabの"Night Reign"であった。彼女がVijay Iyer,Shahzad Ismailyと組んで作り上げた"Love in Exile"も昨年のベスト作の一枚に挙げた私だが,それを凌駕したと言ってもよい本作の魅力は,Arooj Aftabの声そのものだったと言いたい。

2月の来日公演も素晴らしかったMeshell Ndegeocelloの"No More Water: The Gospel of James Baldwin"も印象に残るアルバムであった。まぁ今回はコンセプト・アルバムと言ってよいものなので,彼女らしいファンク度は控えめではあるが,やはりこの人の作り出す音楽の質の高さが素晴らしい。ライブと併せて高く評価したい。

Laura Marlingも確実に期待に応えてくれる人だが,"Patterns in Repeat"にも裏切られることはなかった。パーソナルな響きの中で紡ぎ出されるメロディ・ラインが素晴らしい。ライブで観てみたい人だが,日本に来る様子がないのは残念だ。本作を聞きながらLaura Nyroの"Mother’s Spiritual"を思い出していた私であった。

発掘音源では何と言ってもJoni Mitchellである。Asylum後期の貴重な音源を集めた"Archives Volume 4: The Asylum Years (1976-1980)"こそ,今年最も私が興奮させられた音源だったと言っても過言ではない。マジでたまらない音源ばかりが収められたまさにお宝ボックスであった。

最後に現代音楽畑から,高橋アキの「佐藤聰明:橋」を挙げたい。リリースは23年なので,今年のベスト作と言うには遅きに失したのだが,昨年後半のリリースだったから,敢えてここにも挙げさせてもらう。

ということで,聞いたアルバムの枚数なんて知れたものなのだが,今年もいいアルバムに出会うことができたと思う。

2024年12月24日 (火)

中古で入手した高橋アキのダイレクト・カッティング盤。

Photo_20241223083201 「ピアノ・ディスタンス」高橋アキ(東芝EMI)

ブログのお知り合いの記事でこのアルバムの存在を知って,猛烈に欲しいと思っていたので,ショップのウォント・リストに登録して出品を待っていた。ようやくそれが出品されたとの情報を入手し,すかさずゲットである。

70年代後半にダイレクト・カッティングという方式が結構はやって,私が当時購入していたのがLee Ritenourの"Gentle Thoughts"やDave Grusinの"Discovered Again!"あたりだった。まぁその頃には高橋アキは私の関心の完全な対象外だったから,彼女にもダイレクト・カッティング盤があるなんてことを知る由もなかったし,知っていても買っていなかったことは間違いない。しかし,ピアノによる現代音楽が好物となってしまった今の私にとって,これはどうしても聴きたい!あるいはどうしても欲しい!という物欲を刺激したのであった。

私がゲットしたのは見本盤で,ジャケの状態は決して良好とは言えないものだが,もはや半世紀近く前のレコードだから,多くは望むまい。盤質はほぼまともだから,音楽を聞く上での問題はない。ダイレクト・カッティング盤ゆえの音のクリアさは,私のしょぼいオーディオ装置でも感じられるものである。アルバムのライナーにはエンジニアの弁として「音像を左右に広げて,音の一音一音の粒立ちを適確にとらえ,和音を左右の広がった面で表現しようとした。」とあるが,それは成功していると思える。加えて,何よりも高橋アキの明晰なピアノが素晴らしい。やはりこの人の弾く現代音楽の魅力には抗い難いと思ってしまう。この響きがたまらんのだ。

世の中,探せば私が入手したレコードより状態のよいものはあるだろうが,当然価格も上がるであろう。まぁ今回入手した盤の値段はまぁ許せるというものだったからOKである。因みに以前私が入手した「高橋アキの世界」のアナログもディスクはきれいでも,箱は結構ぼろかった。それでもこういうアルバムは保有していることに意義があるのだ,と開き直りたい。だからこそ「高橋アキの世界」は売却する気もないので,かなり激しく(笑)テープで補修したのである。

いずれにしても,こういうレコードを入手できたことを喜びたい。それを含めて星★★★★★だ。それにしてもよくぞこんなアルバムを作ったものだ。世の中に何枚ディスクが存在しているのかも実に興味深い。

Recorded on July 27-29, 1977

Personnel: 高橋アキ(p)

2024年12月17日 (火)

2024年の回顧:ライブ編

Mw-trio-at-cotton-club_20241213185101

年の瀬も押し詰まってきたし,年内はもうライブに行く予定もないので,今年の回顧はライブから。私が今年行ったライブが全部で31本で,これは私の中ではこれまでの最高記録だと思う。月2本を超えるペースで通っていたのだから,結構行ってるねぇ。ジャズを中心にロック,クラシックと満遍なくライブに通ったという気がするが,どのライブもそれぞれに楽しめた記憶が残っていて,これは決定的な失敗だったというのがなかったのは実に嬉しい。

そんな中で今年のライブで最も感動したのはMarcin Wasilewski Trioであった。これで1stと2ndで曲を変えてくれていたら尚よかったが,私はCotton Clubで身じろぎもせずに彼らの演奏を聞き,そして感動していた。

正直言って2月にMeshell Ndegeocelloのライブを観た時には,もはや今年最高のライブはこれだろうと思っていたのを覆したMarcin Wasilewskiではあったが,だからと言ってMeshell Ndegeocelloのライブの素晴らしさも改めて強調しておかなければならない。実に素晴らしいメンツを揃えて,Meshell Ndegeocelloの創造力は尽きることがないと思わせた。

更にジャズ界の長老,Charles Lloydも年齢を感じさせない素晴らしい演奏を聞かせ,相変わらずの不老不死モードであったのが凄い。

クラシック界では何と言ってもBlomstedt/N響のシューベルトだった。特に「グレイト」が素晴らしかった。97歳のBlomstedtは一体いつまで振るのか?と思ってしまいつつ,あれだけの素晴らしい演奏を引き出す力は,こちらも不老不死だ(笑)。

そのほかで印象に残るのがNik Bärtsch’s Ronin。音楽だけでなく,照明とも一体化したライブの雰囲気そのものが実に魅力的であった。そのほかにもMarisa Monteを観られたのも嬉しかったし,Daniil Trifonovの現代音楽づくしも面白かった。

ということで,来年はどれぐらいのライブに行けるかはわからないが,今年以上に楽しませてくれるライブを期待しつつ,本年を代表するライブとしてMarcin Wasilewskiのライブの模様を改めてアップしておく。

2024年12月16日 (月)

これも現物未着のためストリーミングで聞いたThomas Strønenの"Relations"。自由度高っ!(笑)

Relations"Relations" Thomas Strønen (ECM)

これも発注のタイミングで,リリースされたものの現物が届かないので,ストリーミングで聞いている。このジャケを見ると魅力的なメンツが並んでいるので,バンド形態での演奏と思ったら,基本的にはリーダーThomas Strønenのソロ及び参加したメンツとのデュオ・アルバムである。

いきなりThomas Strønenのソロ・チューンでスタートし,おぉっ,これは何か雰囲気が違うと思わせるのだが,各々のメンバーと繰り広げられる演奏は主題の通り極めて自由度が高い。破壊的なフリー・ジャズという感じではないが,書かれた音楽ではなく,スポンテイニアスなインプロヴィゼーションと言ってよいものばかりだ。1曲当たりの収録時間は短く,最長でも冒頭の"Confronting Silence"の4分4秒だし,全体でも35分程度だ。まぁこういう即興的な演奏はこれぐらいが丁度いいと思わせるが,これがいかにもECM的でなかなか面白い。「高野山」なんて曲もあるしねぇ。

ECMのサイトによれば,Thomas Strønenがアルバム"Bayou"のレコーディングを早めに終了させたことで生まれたスタジオの空き時間に,総帥Manfred Eicherがソロ・パーカッションでの演奏を示唆したのが契機で,そこから数年かけて出来上がったのがこのアルバムということらしい。

メンツにはJorge Rossyも含まれているが,ここではJorge Rossyはピアノをプレイしている。Jorge Rossyはドラムスだけでなく,ヴァイブやピアノのプレイも多くなっているが,"Nonduality"をはじめとして,静謐で現代音楽的な響きを聞かせて,何でもできるねぇと思わせる。

アルバム全体を貫くのは現代音楽にも通じるクールな音空間であり,即興性を重視した演奏はおそらくはリスナーの好みは大きく分かれるはずだ。Craig Tabornはまぁわかるとしても,日頃のクリポタの演奏とは一線を画するところがあるが,私は結構楽しんだクチだ。正直言ってしまえば何度も,あるいは頻繁にプレイバックしようという感じの音楽ではないのだが,私にとっては好物に近い音楽と言ってよいだろう。こういう想定外のアルバムが出てくるところがいかにもECMである。ちょいと甘いと思いつつ,星★★★★☆としてしまおう。尚,Sinikka Langelandが弾いているカンテレというのはフィンランドの民族楽器だそうだ。へぇ~。

Recorded between 2018 and 2023

Personnel: Thomas Strønen(ds, perc), Chris Potter(ts, ss), Craig Taborn(p), Jorge Rossy(p), Sinikka Langeland(kantele, vo)

本作へのリンクはこちら。

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