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カテゴリー「現代音楽」の記事

2025年4月10日 (木)

Francesco Dillon@イタリア文化会館参戦記。

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毎度お馴染み,九段下にあるイタリア文化会館における無料コンサートにまたも行ってきた。今回はトリノ出身のチェリスト,Francisco Dillonによる無伴奏リサイタルであった。いつも思うのだが,この無料コンサート,聴衆の年齢層が高い(私より上多数)のはいつもの通りだが,大概の場合,早めに申し込まないとキャンセル待ちになってしまう。今回も座席は完全に満席状態だったが,どういう人たちなのかと思ってしまう。私のような純粋音楽好きばかりとは思えないのだが...。

今回も九段下へいそいそと向かった私であったが,九段下界隈は千鳥ヶ淵の花見に訪れた人々で大混雑。これで武道館ライブなんかと重なったら目も当てられなかっただろう。しかも,この日はライトアップ最終日ということもあり,インバウンド含めた老若男女で九段下から市ヶ谷方面へ向かう坂道は人で溢れていた。上の桜の写真はライブ後の帰り道に撮ったものだが,私は人ごみを避けて,靖国通りの逆側(靖国神社側)から撮影したのであった。無粋と言えば無粋だが,これでも十分だろう。

Francesco-dillon それはさておきである。今回の無伴奏チェロのリサイタルはバッハから現代音楽まで幅広いプログラムで,よく言えば意欲的なのだが,聴衆にとっては現代ものは相当ハードルが高い。私の場合,現代音楽に抵抗はあまりないのでまだいいとしても,一般的には聴衆の頭の上を???が飛び交う感じだろう。逆に言えば,今回演奏したのはバッハの無伴奏ソナタ3番であったが,バッハの素晴らしさを改めて浮かび上がらせたと言ってもよい。いずれにしても,前半の最後に演奏したSilvia Borzelliの"Here/Folia"は抽象度が高過ぎた気がする。私の前の列に座っていた少女が爆睡していたのには思わず笑ってしまったが。

そのほかに当日演奏したWeinbergとBrittenが書いたソナタは,どちらもMstislav Rostropovichに献呈された曲らしいが,そういうところで今更ながらRostropovichのポジションを再認識できるという効果もあった。いずれにしても,なかなかこういうリサイタルは聞くチャンスもないので,いい機会ではあった。無料で聞けてしまうのだから文句はないのである。

尚,Francesco DillonはQuartetto Prometeoの一員としてECM New Seriesにレコーディングしていることも初めて知ったのであった。

Live at イタリア文化会館 on April 8, 2025

Personnel: Francesco Dillon(cello)

2025年4月 6日 (日)

才人Vijay IyerとWadada Leo Smithのデュオ第2作。

_20250405_0001"Defiant Life" Vijay Iyer / Wadada Leo Smith(ECM)

Vijay IyerとWadada Leo Smithのデュオ作"A Cosmic Rhythm wiith Each Stroke"がリリースされたのが2016年のことであったから,もう9年も経過したのかとついつい思ってしまうが,あれはよくできたアルバムだったと思う。そしてこの二人にJack DeJohnetteを加えた"A Love Sonet for Billie Holiday"をはさんで,リリースされたのが本作である。

"A Cosmic Rhythm wiith Each Stroke"は比較的(あくまでも比較的だが)聞き易さも備えたアルバムだったのに対し,"A Love Sonet for Billie Holiday"は正調フリー・ジャズと言いたくなるような作品であった。そして本作であるが,これは二人の静かな対話という趣と言えばよいかもしれない。

もはやこれは現代音楽的と言ってもよいような響きに加え,アンビエント的に響く部分もあるのだが,そこはこの二人のやることであるからレベルは高い。但し,耳に心地よいかと言えばそんなことはないから,ついつい身構えてしまうような音楽と言ってもよい。だが,Wadada Leo Smithは既に傘寿を過ぎていることを考えれば,このクリエイティビティと衰えぬラッパの吹奏能力には驚かされる。またそれに寄り添うVijay Iyerのピアノの的確なことよ。基本的には二人の完全即興と考えてよさそうだが,"Floating River Requiem for Patrice Lumumba"と"Kite"はそれぞれWadada Leo SmithとVijay Iyerが作曲者としてクレジットされているし,ジャケットに写るのは前者の譜面と思われるから,ちゃんと書かれているというのもある意味驚きだ。それでも"Elegy: The Pilgrimage"なんかは美的に響く部分もあるから,どこまでが書かれていて,どこからが即興かは正直わからないが...。

いずれにしても,才人二人による名コンビと言いたくなるようなアルバム。"A Cosmic Rhythm wiith Each Stroke"の方が私はいいと思っているので,半星引いて星★★★★☆。ただねぇ,どういうタイミングでプレイバックするかはかなり難しい(苦笑)。

Recorded in July 2024

Personnel: Wadada Leo Smith(tp), Vijay Iyer(p, rhodes, electronics)

本作へのリンクはこちら

2024年12月28日 (土)

2024年の回顧:音楽編(その1:ジャズ以外)

2024-best-albums1

いよいよ年の瀬も押し詰まってきたので,今年の回顧も音楽編に突入である。今回はジャズ以外でよかったと思うアルバムを取り上げたいが,正直言って,新譜の購入枚数は減る一方なので,ストリーミングも利用しながら聞いた今年の新譜で私がよかったと思うものを挙げたい。最近はジャンルも越境している場合が多いので,どこまでをジャズ以外とするかは難しい。また,今年は発掘盤にいいものが多く,それを新譜として捉えていいのかは議論があるのを承知で,純粋新譜に発掘盤を交えて挙げることにしよう。

今年の前半で最も興奮させられたのがBrittany Howardの"What Now"であった。この人の作り出すサウンドは私の嗜好にばっちり合ってしまっており,今回も文句のつけようがないと思わされたナイスなアルバムであった。

そして,Brittany Howardとは全然音楽のタイプが異なるのに,私がずっぽしはまってしまったのが Arooj Aftabの"Night Reign"であった。彼女がVijay Iyer,Shahzad Ismailyと組んで作り上げた"Love in Exile"も昨年のベスト作の一枚に挙げた私だが,それを凌駕したと言ってもよい本作の魅力は,Arooj Aftabの声そのものだったと言いたい。

2月の来日公演も素晴らしかったMeshell Ndegeocelloの"No More Water: The Gospel of James Baldwin"も印象に残るアルバムであった。まぁ今回はコンセプト・アルバムと言ってよいものなので,彼女らしいファンク度は控えめではあるが,やはりこの人の作り出す音楽の質の高さが素晴らしい。ライブと併せて高く評価したい。

Laura Marlingも確実に期待に応えてくれる人だが,"Patterns in Repeat"にも裏切られることはなかった。パーソナルな響きの中で紡ぎ出されるメロディ・ラインが素晴らしい。ライブで観てみたい人だが,日本に来る様子がないのは残念だ。本作を聞きながらLaura Nyroの"Mother’s Spiritual"を思い出していた私であった。

発掘音源では何と言ってもJoni Mitchellである。Asylum後期の貴重な音源を集めた"Archives Volume 4: The Asylum Years (1976-1980)"こそ,今年最も私が興奮させられた音源だったと言っても過言ではない。マジでたまらない音源ばかりが収められたまさにお宝ボックスであった。

最後に現代音楽畑から,高橋アキの「佐藤聰明:橋」を挙げたい。リリースは23年なので,今年のベスト作と言うには遅きに失したのだが,昨年後半のリリースだったから,敢えてここにも挙げさせてもらう。

ということで,聞いたアルバムの枚数なんて知れたものなのだが,今年もいいアルバムに出会うことができたと思う。

2024年12月24日 (火)

中古で入手した高橋アキのダイレクト・カッティング盤。

Photo_20241223083201 「ピアノ・ディスタンス」高橋アキ(東芝EMI)

ブログのお知り合いの記事でこのアルバムの存在を知って,猛烈に欲しいと思っていたので,ショップのウォント・リストに登録して出品を待っていた。ようやくそれが出品されたとの情報を入手し,すかさずゲットである。

70年代後半にダイレクト・カッティングという方式が結構はやって,私が当時購入していたのがLee Ritenourの"Gentle Thoughts"やDave Grusinの"Discovered Again!"あたりだった。まぁその頃には高橋アキは私の関心の完全な対象外だったから,彼女にもダイレクト・カッティング盤があるなんてことを知る由もなかったし,知っていても買っていなかったことは間違いない。しかし,ピアノによる現代音楽が好物となってしまった今の私にとって,これはどうしても聴きたい!あるいはどうしても欲しい!という物欲を刺激したのであった。

私がゲットしたのは見本盤で,ジャケの状態は決して良好とは言えないものだが,もはや半世紀近く前のレコードだから,多くは望むまい。盤質はほぼまともだから,音楽を聞く上での問題はない。ダイレクト・カッティング盤ゆえの音のクリアさは,私のしょぼいオーディオ装置でも感じられるものである。アルバムのライナーにはエンジニアの弁として「音像を左右に広げて,音の一音一音の粒立ちを適確にとらえ,和音を左右の広がった面で表現しようとした。」とあるが,それは成功していると思える。加えて,何よりも高橋アキの明晰なピアノが素晴らしい。やはりこの人の弾く現代音楽の魅力には抗い難いと思ってしまう。この響きがたまらんのだ。

世の中,探せば私が入手したレコードより状態のよいものはあるだろうが,当然価格も上がるであろう。まぁ今回入手した盤の値段はまぁ許せるというものだったからOKである。因みに以前私が入手した「高橋アキの世界」のアナログもディスクはきれいでも,箱は結構ぼろかった。それでもこういうアルバムは保有していることに意義があるのだ,と開き直りたい。だからこそ「高橋アキの世界」は売却する気もないので,かなり激しく(笑)テープで補修したのである。

いずれにしても,こういうレコードを入手できたことを喜びたい。それを含めて星★★★★★だ。それにしてもよくぞこんなアルバムを作ったものだ。世の中に何枚ディスクが存在しているのかも実に興味深い。

Recorded on July 27-29, 1977

Personnel: 高橋アキ(p)

2024年12月17日 (火)

2024年の回顧:ライブ編

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年の瀬も押し詰まってきたし,年内はもうライブに行く予定もないので,今年の回顧はライブから。私が今年行ったライブが全部で31本で,これは私の中ではこれまでの最高記録だと思う。月2本を超えるペースで通っていたのだから,結構行ってるねぇ。ジャズを中心にロック,クラシックと満遍なくライブに通ったという気がするが,どのライブもそれぞれに楽しめた記憶が残っていて,これは決定的な失敗だったというのがなかったのは実に嬉しい。

そんな中で今年のライブで最も感動したのはMarcin Wasilewski Trioであった。これで1stと2ndで曲を変えてくれていたら尚よかったが,私はCotton Clubで身じろぎもせずに彼らの演奏を聞き,そして感動していた。

正直言って2月にMeshell Ndegeocelloのライブを観た時には,もはや今年最高のライブはこれだろうと思っていたのを覆したMarcin Wasilewskiではあったが,だからと言ってMeshell Ndegeocelloのライブの素晴らしさも改めて強調しておかなければならない。実に素晴らしいメンツを揃えて,Meshell Ndegeocelloの創造力は尽きることがないと思わせた。

更にジャズ界の長老,Charles Lloydも年齢を感じさせない素晴らしい演奏を聞かせ,相変わらずの不老不死モードであったのが凄い。

クラシック界では何と言ってもBlomstedt/N響のシューベルトだった。特に「グレイト」が素晴らしかった。97歳のBlomstedtは一体いつまで振るのか?と思ってしまいつつ,あれだけの素晴らしい演奏を引き出す力は,こちらも不老不死だ(笑)。

そのほかで印象に残るのがNik Bärtsch’s Ronin。音楽だけでなく,照明とも一体化したライブの雰囲気そのものが実に魅力的であった。そのほかにもMarisa Monteを観られたのも嬉しかったし,Daniil Trifonovの現代音楽づくしも面白かった。

ということで,来年はどれぐらいのライブに行けるかはわからないが,今年以上に楽しませてくれるライブを期待しつつ,本年を代表するライブとしてMarcin Wasilewskiのライブの模様を改めてアップしておく。

2024年12月16日 (月)

これも現物未着のためストリーミングで聞いたThomas Strønenの"Relations"。自由度高っ!(笑)

Relations"Relations" Thomas Strønen (ECM)

これも発注のタイミングで,リリースされたものの現物が届かないので,ストリーミングで聞いている。このジャケを見ると魅力的なメンツが並んでいるので,バンド形態での演奏と思ったら,基本的にはリーダーThomas Strønenのソロ及び参加したメンツとのデュオ・アルバムである。

いきなりThomas Strønenのソロ・チューンでスタートし,おぉっ,これは何か雰囲気が違うと思わせるのだが,各々のメンバーと繰り広げられる演奏は主題の通り極めて自由度が高い。破壊的なフリー・ジャズという感じではないが,書かれた音楽ではなく,スポンテイニアスなインプロヴィゼーションと言ってよいものばかりだ。1曲当たりの収録時間は短く,最長でも冒頭の"Confronting Silence"の4分4秒だし,全体でも35分程度だ。まぁこういう即興的な演奏はこれぐらいが丁度いいと思わせるが,これがいかにもECM的でなかなか面白い。「高野山」なんて曲もあるしねぇ。

ECMのサイトによれば,Thomas Strønenがアルバム"Bayou"のレコーディングを早めに終了させたことで生まれたスタジオの空き時間に,総帥Manfred Eicherがソロ・パーカッションでの演奏を示唆したのが契機で,そこから数年かけて出来上がったのがこのアルバムということらしい。

メンツにはJorge Rossyも含まれているが,ここではJorge Rossyはピアノをプレイしている。Jorge Rossyはドラムスだけでなく,ヴァイブやピアノのプレイも多くなっているが,"Nonduality"をはじめとして,静謐で現代音楽的な響きを聞かせて,何でもできるねぇと思わせる。

アルバム全体を貫くのは現代音楽にも通じるクールな音空間であり,即興性を重視した演奏はおそらくはリスナーの好みは大きく分かれるはずだ。Craig Tabornはまぁわかるとしても,日頃のクリポタの演奏とは一線を画するところがあるが,私は結構楽しんだクチだ。正直言ってしまえば何度も,あるいは頻繁にプレイバックしようという感じの音楽ではないのだが,私にとっては好物に近い音楽と言ってよいだろう。こういう想定外のアルバムが出てくるところがいかにもECMである。ちょいと甘いと思いつつ,星★★★★☆としてしまおう。尚,Sinikka Langelandが弾いているカンテレというのはフィンランドの民族楽器だそうだ。へぇ~。

Recorded between 2018 and 2023

Personnel: Thomas Strønen(ds, perc), Chris Potter(ts, ss), Craig Taborn(p), Jorge Rossy(p), Sinikka Langeland(kantele, vo)

本作へのリンクはこちら

2024年11月17日 (日)

イタリア文化会館でSalvatore Sciarrino室内楽演奏会を聴いた。

Salvatore-sciarrino お馴染みのイタリア文化会館無料コンサートに行ってきた。今回はSalvatore Sciarrinoという作曲家の曲を演奏ということだが,私はこの人について全く知らないままの参戦となった。

結論から言えば完全な現代音楽であった。私は現代音楽への耐性を備えているので,全然問題なしどころか,かなり楽しんでしまったというのが正直なところ。ただ,イタリア文化会館の無料コンサートはいつも高齢者の集まりみたいになっていて,この手の音楽はきつそうだと思いながら聞いていた。前半から完全熟睡モードの聴衆もちらほら(笑)。

しかし,休憩時間にロビーに出てみると,今回は結構若い聴衆が多く,音大の学生に優先枠でも開放したのかと思いつつ眺めていた。第一部は,ピアノ,クラリネット,ヴィオラ,フルート,ヴァイオリン,チェロが各々ソロ曲を披露したが,全て一筋縄で行かない曲ばかりで,演る方も聞く方も大変って感じであった。演る方は技術と集中力が求められるような曲ばかりと言ってもよく,聞く方も弱音に耳を澄ましながら,突然のフォルテシモに慄くという展開に気が抜けないのだ。冒頭に演奏した「夜の("De la Nuit")」なんて,譜めくりの回数が尋常ではないと思えた難曲であったし,その後の曲もテンションが下がることは一切ないのだ。フルートは2曲やったが,通常フルートに抱く音色とは全く異なるものであり,どちらかと言えば尺八に近い管j知恵,フルート奏者が過呼吸になるんじゃないかなんて余計な心配をしていた私である。

休憩後の第二部は杉山洋一の指揮のもと,ヴィオラ抜きのアンサンブルで1曲,そして奏者6人にソプラノが加わった歌曲(いずれも日本初演だそうだ)をやったのだが,アンサンブルだろうが,歌曲だろうが,完全現代音楽という感じに一切変化はなく,つくづく強烈なプログラムだと思ってしまった。何よりも,日本にこれだけ現代音楽を真っ当に演奏する人たちがいるということに感慨すら覚えた私であった。私は歌曲にはほとんど関心を示さない人間だが,今回ソプラノで参加した薬師寺典子はなかなか魅力的な声だなぁなんて思っていた。それは私が日本のプレイヤーに関して無知なだけではあるが,よくもまぁ今回のような難曲をこなせるものだと感心してしまった。何はともあれ,現代音楽に浸るってのもなかなか楽しいもんだ。

こんな演奏を無料で聞かせてもらって何ともありがたや~と思いつつ,家路についた私であった。

Live at イタリア文化会館 on November 15, 2024

Personnel: 杉山洋一(cond), 黒田亜樹(p),般若佳子(vla),田中香織(cl, b-cl),村上景子(fl),Aldo Campagnari(vln),北嶋愛季(cello),薬師寺典子(soprano)

2024年9月26日 (木)

高橋アキ@豊洲シビックセンターホールを聞く。

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現代音楽のスペシャリストと言ってもよい高橋アキである。彼女の現代音楽のアルバムについては結構な数を保有するに至った私であるが,その一方でシューベルトにも取り組んでいることは認識していても,私にとってシューベルトのピアノ曲と言えば,Radu Lupuと決まってしまっているので,いくら高橋アキの音楽に接する機会が多くても,そこまではフォローしていなかった。しかし,今回は現代音楽3曲+シューベルトのD.960というプログラムだったので,私にとっては高橋アキの初生演奏ということで,会場の豊洲シビックセンターホールに行ってきた。

このホール,上の写真を見て頂ければわかるが,ガラス張りで,遠くにはレインボー・ブリッジも見えるというなかなか小じゃれたヴェニューであり,キャパは300人という高橋アキを聞くには適切なサイズと言ってもよいホールであった。聴衆は7割程度の入りってところだったように思う。高橋アキは毎年のようにここでリサイタルを開いており,常に現代音楽にシューベルトの曲を加えるというプログラムで臨んでいるようだが,今回は大曲,ピアノ・ソナタ第21番をメインに据えるというものであった。

舞台に登場した高橋アキは今年で傘寿を迎えた訳だが,その佇まいはずっと若々しく見え,凛とした風情さえ感じさせるのがまず凄い。私もこうした後期高齢者となりたいと思ってしまったのがまず第一印象。前半は現代音楽3曲で,冒頭は去る7月にこの世を去った湯浅譲二の「内触覚的宇宙」からスタート。このアブストラクトな響きがたまらん!ということで,こういう音が好物の私は最初から痺れてしまった。続く佐藤聰明とPeter Garlandの2曲は献呈曲,世界初演となったが,どちらもアブストラクト度は控えめで調性の範囲内での曲に思えた。私にとっては会場にも来ていた佐藤聰明の"Pieta"におけるサステインの効いた響きが印象的であった。それに比べるとPeter Garlandの"Autumn"はやや印象が薄い。高橋アキが弾いた"Birthday Party"を聞いた時にも思ったが,どうも私はこのPeter Garlandの曲と相性がよくないようだ(それに関する記事はこちら)。

第一部は3曲で35分程度で休憩に入り,第二部がシューベルトである。上述の通り,私にとってはRadu Lupuによる刷り込みが強い。しかし,Lupuが2012年にオペラシティでD.960を弾いた時にも若干の違和感を覚えていたと書いているから,それも大したことではないかもしれない。今回の高橋アキの演奏に関しては独特の間合いのようなものを感じさせるもので,特に第1楽章の演奏時間がやや長めで,好き嫌いが分かれそうだと思っていた。その辺りは個人の主観に任せるが,これはこれでありだとしても,私が高橋アキに惹かれるのは,やはり現代音楽の方だなと思っていたのは事実であった。アンコールは小曲を2曲。曲名はよく聞き取れなかったが,カメラータ東京のサイトに情報がアップされたらこのページも更新したい。

演奏終了後にサイン会もあって,後ろ髪を引かれる思いだったが,何分現地で売られていたほとんどの現代音楽のCDを保有している私としては,購入するものがなかったので,それは来年のリサイタルに取っておこう。

Live at 豊洲シビックセンターホール on Septeber 24, 2024

Personnel: 高橋アキ(p)

2024年8月 7日 (水)

酷暑を乗り切るには高橋アキの弾くMorton Feldmanだ!(笑)

Triadic-memories "Morton Feldman: Triadic Memories" 高橋アキ(コジマ録音)

もう毎年のようになってしまっている日本の猛暑を越える酷暑だ。一歩外に出ただけでげんなりするような気候は還暦過ぎのオヤジには厳しい。家にいるときはエアコンをきかせていればしのげるので,これまでは夏場に暑さを吹き飛ばすには暑苦しいフリー・ジャズだ!とか言ってきた私だが,さすがに昨今の酷暑はひど過ぎるということで,涼しくなる音楽ってことで聞いていたのがこれである。

私にとって現代音楽はクールな響きを持つものが多いという印象があるが,Morton Feldmanの音楽はピアニシモ,ピアノ・ピアニシモの連続みたいなところがあって,もはや環境音楽って感じもしてしまう。しかもこのCDのバック・インレイの裏ジャケには「このCDは弱音のみで演奏されていますので,小さい音量でお聴きください。」なんて書いてある。小音量で聴けって書いたCDにはこれまでお目に掛かった記憶がないが,確かに環境と同化させるには音量は上げない方がいいかもなぁなんて思っていた。

こういう音楽を難しいと思うかどうかはリスナー次第だと思うが,私にとっては身体がこういう音を求める時があるということで,正直言って好物なのだ。そして,先日取り上げた"For Bunita Marcus"にしろ,本作にしろ,演奏者にとってはとてつもない集中力を必要としながら,高橋アキの演奏力によって,私は心地よく聞けてしまうというのが正直なところだ。それはMorton Feldmanに限った話ではなく,高橋アキの弾く現代音楽にはほぼ例外なく心惹かれてしまう私なのだ。ということで,部屋の雰囲気を更にクール・ダウンさせる効果も含めて星★★★★★。

Recorded on April 7, 1983

Personnel: 高橋アキ(p)

本作へのリンクはこちら

2024年7月11日 (木)

初演者,高橋アキによる"For Bunita Marcus"を聞く。

For-bunita-marcus "Morton Feldman: For Bunita Marcus" 高橋アキ (カメラータ東京)

Morton Feldmanが書いた"For Bunita Marcus"については,以前Marc-André Hamelinの演奏を取り上げたことがある(記事はこちら)。弱音が続き,オーディオ・セットが壊れたのではないかとさえ思わせたその演奏は,もはやアンビエント・ミュージックのようにさえ感じていた私だった。曲そのものがミニマルの極致という気がしたが,この曲の初演者が高橋アキだったことは後になって知った。だとすれば,結構な数の高橋アキの現代音楽のアルバムを買っている私としては,これは聞かねばならんということで,まとめ買いの一部として少し前に仕入れていたものだ。

一聴して,Marc-André Hamelinの演奏と比べると,弱音は弱音でも,高橋アキの演奏の方が音の粒立ちははっきりしているように思え,ミニマリズムではありながら,与える印象は結構違うように思えた。端的に言えば,Marc-André Hamelinよりも音楽的に響くのだ。そうした感じ方には高橋アキへの贔屓目もあるかもしれないが,最初に聞いた時の印象はそうだった。いずれにしても,弾く方も,聞く方も集中力を要する作品ではあり,こんな曲を生で聞かされたら,それこそ身じろぎもできないライブ体験必定というところではあるが,一度は聞いてみたいと思わせる演奏なのだ。

私が現代音楽のピアノを聞くのは,小難しいことを論じるよりも,こういう音楽に単純に身を委ねたいと思うことが多いのだが,本作はそうした私の欲求を満たすアルバムであった。星★★★★★。ジャケの写真は1985年の初演時のものとのことだ。高橋アキが若いのも当然だ。

Recorded on October 27-29, 2007

Personnel: 高橋アキ(p)

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