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カテゴリー「ジャズ(2025年の記事)」の記事

2025年7月17日 (木)

今年もこの日がやってきた,と毎年のように書いているが...。

_20250714_0001 "Soultrane" John Coltrane (Prestige)

7月17日はJohn Coltraneの命日であり,そして私がまた年齢を重ねる日である。毎年のようにこの日にはJohn Coltraneのアルバムを取り上げているが,今年はこれだ。

ついついColtraneのアルバムとなると,Impulseレーベルのアルバムを取り上げてしまいがちになる私だが,既にMiles DavisやThelonious Monkの下での修行を通じて,一皮むけた頃のJohn Coltraneの傑作としてこのアルバムも避けて通れないところである。Coltraneと言えば"Sheets of Sounds"と言われるプレイ・スタイルは本作のライナーでIra Gitlerが名付けたものだということでも,取り上げる価値はあるというものだ。

全編を通じて快調そのもののJohn Coltraneが楽しめるが,それを支えるのがPrestigeのリズム・セクションと言えばこの人たちみたいなRed Garland,Paul Chambers,Art Taylorなのだから,安定感抜群なのもこの作品への貢献度大と言ってよいだろう。まぁこのアルバムを聞いて嫌いだという人はそうはいるまいと思うが,その中でも"I Want to Talk About You"がいいねぇ。もちろんサックスの限界を追うColtraneもよければ,歌心を炸裂させるColtraneもまたよしなのだ。

こういう演奏を聞いていると,Prestige時代のColtraneも改めて聞かなきゃなと思うこの日であった。

Recorded on February 7, 1958

Personnel: John Coltrane(ts), Red Garland(p), Paul Chambers(b), Art Taylor(ds)

本作へのリンクはこちら

2025年7月16日 (水)

Pat MartinoのJoyous Lakeによる放送音源。超カッコいい!

Pat-martino-1977 "San Francisco 1977" Pat Martino(Bootleg)

この音源,さまざまなかたちでブートレッグとしてリリースされていたものだが,こういう音源もストリーミングで聞けてしまうのだからいい時代である。

この音源は放送音源をブート化したものなので,サウンドボード録音だから,音には全く問題ない。そして嬉しいのがPat Martinoが最もフュージョンに傾斜したと言ってよいJoyous Lakeによるライブ音源だということだ。時は1977年,今はなきKeystone Kornerにおいての演奏である。私はアルバム"Joyous Lake"について,当ブログにおいて「英国にBrand Xあれば,米国にJoyous Lakeありって感じ。超カッコいい。」なんて書いているが,そうした感覚はこの音源でも全く変わらない。

更にアルバムと異なって,ここでの演奏は85分近くのものとなっており,演奏時間は長いし,"Fall"やら"Along Came Betty"のような曲もやってしまうところに大きな違いがあり,このメンツでどういう演奏をするのかというところに興味が湧くのだ。さすがにこうした有名曲には相応のリスペクトを示した演奏という感じで,Joyous Lakeらしいって感じではないが,それにしてもこの音源は強烈だ。この時代が生んだ熱さというところもあろうが,主流派ジャズがクロスオーバー/フュージョンに押された時代でも,コンセプトはそちらに寄せながらも,Pat Martinoの技には何の変わりもないというのが実に潔くも素晴らしい。

まさにこれは聞けて良かったと思える音源。こういうのなら大歓迎だ。

Recorded Live at Keystone Korner on March 2, 1977

Personnel: Pat Martino(g), Delmar Brown(p, el-p, synth), Mark Leonard(b), Kenwood Dennard(ds)

2025年7月15日 (火)

Patricia Brennanって誰だ?ってことで聞いたアルバム。

Breaking-stretch "Breaking Stretch" Patricia Brennan (Pyroclastic)

DownBeat誌の最新号には恒例の国際批評家投票が掲載されているのだが,年間最優秀レコードに選出されているのがPatricia Brennanの"Breaking Stretch"というアルバムであった。よくよく見てみると,このPatricia Brennanはヴァイブ部門のトップにも推されている。この人,既に昨年もヴァイブ部門のRising Starには選ばれているから,相応の注目株だったのだろうが,昨今ヴァイブと言えばJoel Rossしか念頭になかった私である。

そんなこんなでPatrica Brennanって誰よっ?って感じで気になったのだが,よくよく見返してみればMary Halvorsonの"Amaryllis & Belladonna"で既に聞いていた。しかし,そこではそれほど強烈な印象はなかったので,早速この"Breaking Stretch"をストリーミングで聞いてみた。

一言で言えば,本作においては非常にスリリングな演奏を聞かせており,この時代「女流」がどうこう言うのは野暮であるが,実にハイブラウな響きを聞かせていて,これは確かに評価したくなるというのも頷けるし,ある意味DownBeatの批評家連中が好きそうな演奏だ。そもそもメンツも相当いいところを揃えていて,人脈も確立しているところはその実力ゆえってところだろう。

この人のレギュラー・クァルテットはホーン抜きのようなのだが,本作ではそこに3管が加わるという編成もスリルを増幅させるに十分。ラッパのAdam O’Farrillは上原ひろみのSonicwonderにも参加する人だが,この人もMary Halvorsonとも共演してしまう間口の広さもあって,ここでの演奏は上原ひろみとの演奏とはだいぶ毛色が違う。そしてテナー2本がJon IrabagonとMark Shimであるから,当然硬派の演奏となることは推して知るべしだったが,それにしてもこの響きは刺激的であった。

なかなか新しい人には目配りが出来ていないのが実態だし,参加作も記憶から飛んでいるようでは,結局好きな音楽しか聞かなくなっているのだなぁということを反省した私である。改めてDownBeatの投票結果を眺めて,これ誰?って名前に注目してみたいと思う。

Personnel: Patricia Brennan(vib), Adam O’Farrill(tp), Jon Irabagon(ts), Mark Shim(ts), Kim Cass(b), Marcus Gilmore(ds), Mauricio Herrera(perc)

媒体でもリリースされているが少々お高いので,本作のストリーミングへのリンクはこちら

2025年7月13日 (日)

ストリーミングでBrad Mehldauの音楽を聞いていて,表示された「謎の音源」。

Spangalang-session "The Spangalang Sessions 1991" Joey 'G-Clef' Cavaseno (Soul Kid Jazz)

主題の通りである。スマホの不調により,デバイスにダウンロードしてあった音源が消えてしまい,再度デバイスに書き込むついでにストリーミングでBrad Mehldauの音源を聞いていたら,参加アルバムとして表示されたのが本作であった。なんだこれ?と思ってジャケを見れば,Featuring Brad Mehldauと書いてあるではないか。

2023年にリリースされていたらしいこの音源は,1991年のセッション・アルバムのようなのだが,1991年と言えばChristopher Hollydayの"The Natural Moment"で公式レコーディング・デビューを果たした年なので,Brad Mehldauとしては最初期の音源ということになる。こんなものがあったことを知らなかった私ではあるが,それが媒体でもリリースされていると知っては,早速 コンプリートを目指す私としては発注せざるを得ない。ということで現物は米国から飛ばしている最中だが,デリバリーされる前にストリーミングで音源をチェックした。

デビューしたての青臭い時期の演奏ではあるが,この頃からPeter Bernsteinとは付き合いがあったのだということがわかって,その後の盟友関係にも納得してしまう。結局長い付き合いの朋友なのだ。

まぁこの演奏を聞いて面白いと思うかと言えば,リーダーJoey 'G-Clef' Cavasenoのアルトを含めて微妙ではあるのだが,発展途上のBrad Mehldauの演奏だと思うと実に興味深い。

まだまだ明確な個性の確立には至っておらず,どこかの大学ジャズ研でもできそうな,ごく普通のジャズ・ピアノって感じなのが微笑ましい。

本作においては,Peter Bernsteinは曲によってWilliam Ashなるプレイヤーとギターを分け合っていて,全曲でプレイしている訳ではないが,William Ashよりははるかにましなギターを聞かせていると思える。それでもフレージングはまだまだ大したことがないという感じか。まぁBrad MehldauもPeter Bernsteinもこの当時20代前半なのだから,仕方ないことではあるとしても,その後の彼らの急成長はJimmy Cobbの下でのCobb’s Mobでの修行が効いたのかもなぁと思ってしまう。

いずれにしても30年以上埋もれていたのもある意味納得できてしまう本作は,よほどの物好きにしか薦められないというところだが,コレクターの私としては存在を認識できただけでよしとしよう。まぁこれも「コレクターはつらいよ」シリーズとしてもよかったかもなぁ(笑)。

Reccorded in 1991

Personnel: Joey 'G-Clef' Cavaseno(as), Brad Mehldau(p), Peter Bernstein(g), William Ash(g), John Webber(b), Andy Watson(ds)

本作へのリンクはこちら

2025年7月 8日 (火)

越境型Brad Mehldauのブートレッグ登場。正直言って期待値は高くない(笑)のだが聞かずにはおれん。

_20250707_0001 "Brad Mehldau and Rundfunk Sinfonieorchester Berlin 2025" (Bootleg)

ジャズの枠に留まらない活動をするBrad Mehldauであるが,正直言って彼が書いたピアノ・コンチェルトはブートレッグで聞いても,ライブで聞いても失敗作だったと思っている。何でもかんでもうまく行く訳ではないということではあるが,そんなBrad Mehldauがまたもクラシックとの融合を図るライブを,今年6月にベルリンで行った際の放送音源がブートレッグとしてリリースされたので早速聞いている。

今回のコンサートはベルリン放送交響楽団と"Mehldau Meets Bach"と題するものである。Disc 2の前半は私の評価が低いピアノ・コンチェルトなので,ここはそれ以外のプログラムに注目したい。Disc 1はバッハの「平均律(ストラビンスキー編曲)」,「音楽の捧げもの(ウェーベルン編曲)」,「フーガの技法(指揮のClark Rundell編曲)」からベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」の「サンクトゥス」へと続くプログラム。Brad Mehldauのピアノのタッチも美しく,ここでのオケとピアノの融合具合は決して悪くないと思う。自作のピアノ・コンチェルトをやるより,私にとってはこういう感じのアダプテーションの方が馴染みがいい感じがしてしまうと言っては言い過ぎか。

Disc 2でピアノ・コンチェルトに続いて演奏しているのが,ブートのクレジットでは"Glodberg Variations"となっているのだが,これは記譜されたバッハの音楽ではなく,ゴルトベルクにインスパイアされた即興(変奏曲)というところであろう。それに続くのが"Things Behind the Sun"と"Waltz for J.B."で,この3曲はアンコール・ピースって感じだと思う。この辺りの演奏は本来のBrad Mehldauの真骨頂ゆえ,はずれはないところだ。

そして当日メインで演奏されたであろうピアノ・コンチェルトであるが,プログラム上は"Dedicated to Herbie Hancock"となっている。これまでこの曲に関して,Herbie Hancockの名前が出てきたことはなかったはずだが,なぜここに来て突然Herbie Hancockに捧げられたのかは全くの謎である。曲はこれまで演奏されてきたものと同じであり,Herbie Hancockを連想させるものでもないだけに,これはどうも解せないと思うのは私だけではないだろう。まぁ演奏としては以前よりはこなれてきた印象はあるが,曲そのものが盛り上がりに欠ける部分は否定できないので,評価が爆上がりするということはないな。

まぁこういう演奏も聞いておく必要があるというのが,私のBrad Mehldauという人への評価であり,ファン心理であるから,これはこれで不満はないと言っておこう。

Recorded Live at the Haus des Rundfunks, Berlin on June 14, 2025

Personnel: Brad Mehldau(p),Clark Rundell(cond),Rundfunk Sinfonieorchester Berlin

2025年7月 6日 (日)

保守化した山下洋輔もまた楽し。

_20250703_0002 "Sakura" 山下洋輔(Verve)

山下洋輔の音楽の楽しさはフリーの爽快さにあることはこれまでも当ブログに書いてきた。しかし,その後,フリーなフレージングは差し挟むものの,以前に比べれば保守的な演奏もするようになったのが,所謂ニューヨーク・トリオを結成した辺りからではなかったか。日本のわらべ歌や民謡を題材にするというのは既に「砂山」でやっていたが,本作はそれをCecil McBee,Pheeroan akLaffを迎えたトリオで改めて取り組むという感じのアルバムであった。ここにも「砂山」でやっていた3曲とも再演している。

このアルバムのリリース後,私のNYC在住中に彼らのライブを今はなきSweet Basilで観たのだが,このアルバムでの演奏よりは山下洋輔のフリー度は高かったように記憶するが,いかんせん35年近く前のことだから,記憶には自信はない。しかし,現地の聴衆にも受けていたことは間違いない。

演奏は多少保守化したとしても,このトリオは結構活動期間も長かったはずなので,相性が良かったんだろうと思えるが,それは本作を久しぶりに聞いても感じられるところであった。主題の通り,保守化しても山下洋輔の音楽は楽しかったと思う。星★★★★。

余談だが,随分前のことにはなるのだが,私の亡くなった父が山下洋輔のCDを購入していたのには驚いた。そして父が買っていたのは例外なくこのトリオであったので,フリー・ジャズに耐性があったとは思えない父でも彼らの音楽はOKだった訳だ。本作は私が自分で買ったものだが,そのほかのこのトリオの数枚のアルバムは父の遺品なのである。

Recorded on May 1-3, 1990

Personnel: 山下洋輔(p),Cecil McBee(b),Pheeroan(ds)

本作へのリンクはこちら

2025年7月 3日 (木)

何でもできちゃうナベサダ・クァルテットって感じだ。

_20250630_0001"Live at the Junk" 渡辺貞夫(CBSソニー)

先日取り上げたJoe Hendersonの"Henderson's Habiliment"が収録された銀座の「ジャンク」での,ナベサダこと渡辺貞夫のクァルテットによる1969年の実況録音盤である。60年代末と言えば,私はまだ小学生だからナベサダと同時代とはまだ言えない頃だが,今にして思えば,こういう感じだったのねぇと感じるレパートリーである。

主題にも書いた通り,ここでの演奏はバップあり,ロック・ビートあり,ポップス(Burt Bacharachの"This Guy’s in Love with You")のアダプテーションあり,スタンダードあり,ブラジルありと,何でもありという感覚が強い訳だが,やっている曲は多様でも,当時のジャズの熱さとでも言うべき感覚を覚えさせる演奏だと言ってよいと思う。リーダー,ナベサダの出番が多いのは当然だが,増尾好秋のソロもふんだんに捉えられていて,これがなかなか楽しい。

こうしたバラエティに富んだ選曲だと,捉えどころがないという言われ方もされかねないし,ナベサダのオリジナル,"If I Said the Sky Was Fallin'"のロック・ビートには時代も感じてしまうが,演奏の質は極めて高く,私の中ではナベサダのアルバムとしては結構評価したくなるアルバムだと思っている。収録時間の関係で最後の"Felicidade"がフェードアウトするのは惜しいが,その前の"Granny's Samba"で大いに盛り上がることを考えれば,まぁそれもまたよしってことにしておこう。星★★★★☆。

Recorded Live at the Junk on December 26 & 27,1969

Personnel: 渡辺貞夫(as,sn), 増尾好秋(g), 鈴木良雄(b), 渡辺文男(ds)

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2025年7月 1日 (火)

Eric Dolphyの未発表音源集。これはハードルが高い。

_20250629_0001 "Other Aspects" Eric Dolphy(Blue Note)

これは1987年にリリースされたEric Dolphyの当時未発表だった音源集。Dolphyが亡くなる前に残していた音源をJames Newtonプロデュースによりリリースにこぎつけたという感じのアルバムだが,これが実にハードルが高い。

Eric Dolphyぐらいのミュージシャンになれば,残した音源はどれも貴重であることは間違いなかろうし,そのチャレンジ精神には驚かされる部分もあるが,これは決して耳に優しい音楽ではない(きっぱり)。

いきなり冒頭の"Jim Crow"から女声?と思えるヴォーカルが加わるアバンギャルドな展開であるが,この声は後にDavid Schwartzによるカウンターテナーであり,しかもバックを務めるのはBob Jamesのトリオだったことが判明する。ここに収められた演奏よりはるかに音の良い別テイク(?)は,後にリリースされる"Musical Prophet: The Expanded 1963 New York Studio Sessions"のボーナス・トラックとして"A Personal Statement"の名のもとに公開されることになる。それにしても冒頭からこれでは大体聞いている方は身構えるのが当たり前だと言いたくなる。後のBob Jamesを考えれば,若い頃はこうだったのねぇと思いたくなる。まぁよくよく考えれば,Bob JamesはESPからもアルバムを出していたぐらいだから,別に不思議はないのだが。

冒頭の1曲が最もアバンギャルドではあるが,全編に渡ってEric Dolphyの飽くなき挑戦が捉えられた音源である。そのほかの2曲はフルート・ソロ,1曲はアルトによるRon Carterとのデュオ,そして最後がフルートとタブラ,タンブーラによるトリオという構成からして普通ではないのだ。そういうこともあって,これはあくまでも相応にEric Dolphyを聞いた上で,更にDolphyの全貌を捉えるまで聞きたいというリスナーにこそ勧めるべきものだろう。よって一般的なリスナーにはお勧めはしないが,これもEric Dolphyの側面("Other Aspects")であると思って聞けばいいだけの話なので,ご関心のある方は聞いて損はない。だが,繰り返しになるが,本作は極めてハードルが高い音源なので念のため。

それにしても,このアルバムを初めて聞いた時は驚いたよなぁ...。

Recorded in 1960 and 1962

Personnel: Eric Dolphy(fl, as, b-cl), Bob James(p), Ron Brooks(b), Ron Carter(b), Robert Pozar(ds), Gina Lalli(tabla), Roger Mason(tamboura), David Schwartz(vo)

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2025年6月28日 (土)

Fred Herschの新作が素晴らしい。

_20250627_0001"The Surrounding Green" Fred Hersch (ECM)

Fred Hersch待望の新作がデリバリーされたので,早速聞いている。ECMに吹き込むようになって,これが第3作となるが,ECMでは初のトリオ作,そしてメンツはDrew Gress,Joey Baronとあっては期待するに決まっている。そしてその期待は裏切られることはない。

まさにSascha Kleisのジャケット・デザインの如き,水彩画もしくはパステル画のような響きと言えばよいだろうか。冒頭の"Plainsong"からして,これこそ我々がFred Herschに期待する音だ。美しくも抒情的な響きには心を鷲掴みにされること必定の音楽と言いたい。

全7曲中3曲がFred Herschのオリジナルで,そのほかのレパートリーがOrnette Coleman,Egberto Gismonti,George Gershwin,そしてCharlie Hadenという構成からしてこっちはまいってしまうではないか。特にCharlie Hadenの"First Song"をこのトリオがどう料理するのかがプレイバック前の最大の注目点であったのだが,私はそこに至るまでの間で,既にこのアルバムに魅了されていたと言っても過言ではない。どれもがいい演奏だが,超絶美しいタイトル・トラックやEgberto Gismontiの"Palhaço"の素晴らしさには,これはまじでいいと独り言ちた私である。

そして"First Song"だが,Drew Gressのベース・ソロから始まり,Fred Herschはこの曲のテーマ・メロディを明示的に提示しないかたちで演奏しているのが面白い。この曲にこういうアプローチで来るか~って感じだが,原曲の持つ雰囲気は維持しながら,Fred Hersch的に昇華させているところがポイントだろう。そして最後にあのメロディ・ラインを楚々とプレイして締めるのも雰囲気たっぷりである。それをよしとするかどうかはリスナー次第だが,私はこれは十分にありだと思った。

最後はFred Herschのオリジナル"Anticipation"でクロージングとなるが,冒頭のDrew Gressとのユニゾンも印象的に響いた後に出てくるFred Herschらしいソロに嬉しくなって,あっという間にプレイバック終了である。やはりFred Herschは素晴らしいと再認識させられたアルバム。昨今,ややアブストラクト度も高まっていると感じさせたFred Herschであったが,このアルバムこそ真骨頂だと言いたい。

という感じなので,私の中では今年聞いた新譜(大して聞いていないが...)の中でも屈指のアルバムと位置付けたい。喜んで星★★★★★である。このトリオで来日してくれないものかと思うのは私だけではあるまい。

Recorded in May, 2024

Personnel: Fred Hersch(p), Drew Gress(b), Joey Baron(ds)

本作へのリンクはこちら

2025年6月27日 (金)

ピアノに滲み出す知性:Vijay Iyerのソロ・アルバム。

_20250626_0001"Solo" Vijay Iyer(ACT)

ジャズ界を見渡しても,最も高学歴かつ理知的な人の一人と言ってよいVijay Iyerのソロ・アルバムである。スタンダードとオリジナルを組み合わせたプログラムと言ってよい構成だが,そこにMichael Jacksonの"Human Nature"や共演歴のあるSteve Colemanの"Games"が加わるところが一筋縄ではいかない。

"Human Nature"にしても,その他のスタンダードにしても,オリジナルの部分を一旦解体して,再構築するという感覚を覚えるが,Duke Ellingtonの"Black and Tan Fantasy"については比較的コンベンショナルに弾いているところは,Duke Ellingtonへのリスペクトって気もする。一方,オリジナルはフリー的なアプローチも感じられ,美的なフレージングとの混在にこの人の懐の広さが表れている。逆に言えば,どの部分がVijya Iyerの本音なのかというのがわからなくなってしまうが,それでも優れたピアニストであることは本作でも十分に実証されている。星★★★★。

今やECMの所属となったVijay Iyerであるが,本作を聞いていても,Manfred Eicherが目をつけるのも当然という感じのピアノの響きである。その一方,"Love in Exile"のようなアルバムも作ってしまうところは凄いねぇと思わざるをえない。まぁ,コテコテのジャズを好む向きからすれば,絶対気に食わないんだろうなぁなんて思ってしまうが,私はこの人は強力に支持したい。

Recorded on May 16 and 17, 2010

Personnel: Vijay Iyer(p)

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