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カテゴリー「アンビエント」の記事

2025年1月30日 (木)

Terje Rypdalの"Blue":プログレ的なるものとアンビエント的なるものの融合。

_20250126_0001 "Blue" Terje Rypdal and the Chasers(ECM)

Terje Rypdalはロック的なセンスを有するギター・プレイヤーであるが,この典型的トリオ編成でのアルバムは,ロック的な感覚は残しつつも,サウンドは主題の通り,よりプログレ的であり,アンビエント的と呼べるものと思う。ビートが明確な曲もあるが,むしろ多数派はノー・リズムで緩やかな音とが流れる。

本作と同じメンツで吹き込んだ"Chaser"というアルバムがあるので,本作ではChasersというバンド名になっているというのはちょいと安直ではないかと思いつつ,まぁバンド名何てそんなもんか...(笑)。しかし同じメンツにしては"Chaser"の,特にその冒頭の"Ambiguity"のよりロック・フレイヴァーが強いスリリングな響きや,フリーさえ吸収してしまうような音とは随分違うと感じてしまう。

こうなるとどっちが好みかって話になるだろうが,私としてはまぁどちらもTerje Rypdalだよなぁと思う。そうは言いつつ"Chaser"とていろいろな響きが混在しているから,それがTerje Rypdalの個性と考えればよいだろう。

いずれにしても,本作はややエッジは抑え気味のTerje Rypdalってところ。星★★★☆。

Recorded in November 1986

Personnel: Terje Rypdal(g, key), Bjørn Kjellemyr(b), Audun Kleive(ds, perc)

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2024年12月28日 (土)

2024年の回顧:音楽編(その1:ジャズ以外)

2024-best-albums1

いよいよ年の瀬も押し詰まってきたので,今年の回顧も音楽編に突入である。今回はジャズ以外でよかったと思うアルバムを取り上げたいが,正直言って,新譜の購入枚数は減る一方なので,ストリーミングも利用しながら聞いた今年の新譜で私がよかったと思うものを挙げたい。最近はジャンルも越境している場合が多いので,どこまでをジャズ以外とするかは難しい。また,今年は発掘盤にいいものが多く,それを新譜として捉えていいのかは議論があるのを承知で,純粋新譜に発掘盤を交えて挙げることにしよう。

今年の前半で最も興奮させられたのがBrittany Howardの"What Now"であった。この人の作り出すサウンドは私の嗜好にばっちり合ってしまっており,今回も文句のつけようがないと思わされたナイスなアルバムであった。

そして,Brittany Howardとは全然音楽のタイプが異なるのに,私がずっぽしはまってしまったのが Arooj Aftabの"Night Reign"であった。彼女がVijay Iyer,Shahzad Ismailyと組んで作り上げた"Love in Exile"も昨年のベスト作の一枚に挙げた私だが,それを凌駕したと言ってもよい本作の魅力は,Arooj Aftabの声そのものだったと言いたい。

2月の来日公演も素晴らしかったMeshell Ndegeocelloの"No More Water: The Gospel of James Baldwin"も印象に残るアルバムであった。まぁ今回はコンセプト・アルバムと言ってよいものなので,彼女らしいファンク度は控えめではあるが,やはりこの人の作り出す音楽の質の高さが素晴らしい。ライブと併せて高く評価したい。

Laura Marlingも確実に期待に応えてくれる人だが,"Patterns in Repeat"にも裏切られることはなかった。パーソナルな響きの中で紡ぎ出されるメロディ・ラインが素晴らしい。ライブで観てみたい人だが,日本に来る様子がないのは残念だ。本作を聞きながらLaura Nyroの"Mother’s Spiritual"を思い出していた私であった。

発掘音源では何と言ってもJoni Mitchellである。Asylum後期の貴重な音源を集めた"Archives Volume 4: The Asylum Years (1976-1980)"こそ,今年最も私が興奮させられた音源だったと言っても過言ではない。マジでたまらない音源ばかりが収められたまさにお宝ボックスであった。

最後に現代音楽畑から,高橋アキの「佐藤聰明:橋」を挙げたい。リリースは23年なので,今年のベスト作と言うには遅きに失したのだが,昨年後半のリリースだったから,敢えてここにも挙げさせてもらう。

ということで,聞いたアルバムの枚数なんて知れたものなのだが,今年もいいアルバムに出会うことができたと思う。

2024年12月27日 (金)

Arild Andersenのソロ作:ECMでしか成り立たないよなぁ。

Landloper "Landloper" Arild Andersen(ECM)

ECMというレーベルはベースやチェロのソロ・アルバムをリリースしてしまう稀有な存在と言ってよいが,それは総帥Manfred Eicherがベーシストだったという出自による部分もあるのかもしれない。今回はそのEicherはExecutive Producerとなっているので,これはArild Andersenの持ち込み音源なのかもしれない。

冒頭の"Peace Universal"こそ宅録ながら,それ以外はライブ音源で,Arild Andersenによる完全ソロだが,シークェンサーのようなエレクトロニクスも駆使しているので,相応に色彩感は確保されている。もはやジャズと言うよりアンビエントな世界であるが,想定以上の聞き易さもあって,これはなかなか楽しめるアルバムである。

アンビエントな響きと言いつつ,オリジナルに加えて,スタンダード"A Nightingale in Sang in Berkley Square"やOrnette Colemanの"Lonely Woman"をCharlie Hadenの"Song for Che"をメドレーでやったり,Albert Aylerの"Ghost"も別のメドレーの一部に組み込んだりと,幅広い選曲が面白い。また先述の冒頭に収められた"Peace Universal"はドラマーのBob Mosesのオリジナルのようだが,よくぞこんな曲を見つけてくるものだと感心してしまうほど,掴みはOKなのだ。

まぁ,このアルバムを聞いて面白いと思えるかどうかはそれぞれのリスナーの嗜好次第だが,私はこのサウンドは結構いいと思う。ECMならではの世界観としか言いようがないが,ついつい評価も甘くなり,星★★★★☆。

Recorded Live at Victoria National Jazzscene on June 18, 2020 and at Home

Personnel: Arild Andersen(b, electronics)

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2024年12月18日 (水)

ようやく到着:Ben Monderの3枚組超大作"Planetarium"。

Planetarium"Planetarium" Ben Monder(Sunnyside)

ストリーミングでは結構早くから公開されていたこのアルバムの現物がようやくデリバリーされた。Ben Monderは現在Bad Plusのメンバーとしても活躍中であり,今年来日も果たしたが,バンドへのフィット感を維持しているのは立派だと思った。しかし,ソロ・アルバムとは少々趣が違うとも思いつつ,変態的アルペジオを聞かせるなど,やはりこの人は面白いと思わせた。

そんなBen MonderのソロはなんとCD3枚組の超大作である。しかし,派手派手しいところもなく,あくまでもいつものBen Monder的なサウンドと言ってもよいが,自身のギターの多重録音も交えつつ,ヴォイス,あるいはリズムとの共演が展開される。これがもはやアンビエントと言ってもよい趣もあれば,プログレと言ってもよいサウンドもあって,まさにBen Monderの音楽となっている。全15曲,3時間近い演奏時間というのはさすがに普通のリスナーには厳しいかもしれないが,Ben Monderのサウンドスケープにはまったことがある私のような人間にとっては,おぉっ,やっぱりBen Monderだ!と言いたくなってしまうような音の連続で嬉しくなってしまうのだ。ただ,普通の人にはこれの何がおもろいねん?と言われても仕方がないのも事実だが...。

しかし,ここで聞かれるBen Monderらしいアルペジオやフレージングの連続は,もはやOne and Onlyだろう。以前はBill Frisell的と感じる部分もあったが,ここまでくれば,これは完全にBen Monderの世界だ。約3年を掛けて作り上げたこのアルバムのボリュームには圧倒されるが,ずっと聞いていても心地よい。また,バックのヴォイスの面々の声がBen Monderの音楽にマッチして,実にいい感じだ。本作がリリースされたことだけでも価値があるということで,星★★★★☆としよう。

Recorded between December 2020 and December 2023

Personnel: Ben Monder(g), Theo Bleckmann(vo), Charlotte Mundy(vo), Emily Hurst(vo), Theo Sable(vo), Chris Tordini(b), Ted Poor(ds), Joseph Branciforte(ds), 武石聡(ds)

本作のストリーミングへのリンクはこちら

2024年6月17日 (月)

Robert Glasperの新音源はアンビエント・ミュージックの趣。

Let-go "Let Go" Robert Glasper (Loma Vista Recordings)

先日,Robert Glasperによる新音源がリリースされた。これがApple Musicエクスクルーシブということで,媒体のリリースはないものと思われるが,これが主題の通り,アンビエント・ミュージック,あるいは瞑想的な響きさえ持つものとなっている。一聴すればわかるが,決して何の邪魔にもならない音楽だと言ってもよい。

"Black Radio"シリーズにも顕著な通り,Robert Glasperはジャズ,R&B,ヒップホップ等を越境した音楽を作り出しており,私はそのソリッドな響きを高く評価してきたつもりである。但し,ライブの場においてはMark Colenburgのようなろくでもないドラマーを連れてきたりして,評価を下げたことがあったのも事実だ。しかし,基本的にはやっている音楽のクォリティは高く,信頼に値するミュージシャンである。

そんなRobert Glasperが生み出した新たなサウンドは,まさに耳に心地よいことこの上なく,何をするにも「邪魔にならない」音楽である。聞き流すもよし,傾聴するもよしだが,とにかく気持ちよいのだ。1曲だけMeshell Ndegeocelloがヴォーカルを取る以外は全面インストのこのアルバムは,こういうのもありだなと思わせる。Robert Glasperは正直強面な人だが,その強面に似合わずソフトな音楽にも対応してしまうところのギャップはこれまでも感じられたが,それを突き詰めた感が実に楽しい。

こういう音楽ゆえにどう評価すればいいのかは少々難しいところがあるが,十分に星★★★★は付けたくなる作品。

Personnel: Robert Glasper(key), Bernis Travis(b), Kendrick Scott(ds), Chris Scholar(g), Meshell Ndegeocello(vo)

2024年6月10日 (月)

Arooj Aftabの新作が実に素晴らしい。

Arooj-aftab_20240608163301 "Night Reign" Arooj Aftab (Verve)

Arooj AftabがVijay Iyer,Shahzad Ismailyと組んで作り上げた"Love in Exile"はそのアンビエントな雰囲気が素晴らしいアルバムで,私は昨年のベスト作の一枚にも選んでいる。そこでも魅力的な声を聞かせたArooj Aftabの新作がリリースされたとあっては,これは聞きたいと思うのも私にとっては当然であった。ということで,発注していたCDがデリバリーされたのだが,このムーディな雰囲気の中で,聞かれるArooj Aftabの歌唱のこれまた魅力的なことよ。

一部の曲においてはSadeを想起させるようなところもあるが,寡作なSadeの不在を補って余りあると言ってもよい存在だと思えた。ウルドゥー語と英語が混ざった歌詞なので,その内容の全面的な理解はできないが,歌詞にとらわれる必要がない音楽であることは間違いなく,ここは比較的静謐な中に展開されるこの音楽に身を委ねればいいという感じだ。そして「静謐」と言っても,バックを支えるメンバーの演奏は技術力も高く,そして音が生々しい。ここで聞かれるベースの音なんかは,これこそベースだって感じの音でとらえられていて,先日取り上げたV.S.O.P.のアルバムにおけるRon Carterのベースとは雲泥の差だ。

そして比較的小編成と言ってよいバックから浮かび上がるArooj Aftabの声こそが本作の最大の魅力だが,彼女を支えるバックも素晴らしい。何とElvis Costelloの名前すら見つかる多彩なゲスト陣も適材適所であり,本作が生み出すアンビエンスに身を委ねていると,心地よいことこの上ない。それこそ何度でもプレイバックしたくなる傑作と思った。喜んで星★★★★★としよう。

Personnel: Arooj Aftab(vo, key, sequencing), Maeve Gilchrist(harp), James Francies(key, p), Vijay Iyer(p), Elvis Costello(el-p),  TimaLikesMusic(p, key), Marc Anthony Thompson c/o Chocolate Genious Incorporated(p, synth, b, strings), Kaki King(g), Gyan Riley(g), Petros Klampanis(b, p), Linda May Han Oh(b), Shahzad Ismaily(b, key, synth), Jamey Haddad(perc), 小川慶太(perc), Joel Ross(vib), Darian Donovan Thomas(vln), Nadje Noordhuis(fl-h), Cautious Clay(fl), Heather Ewer(tuba), Huda Asfour(oud), Camae Ayewa(vo)

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2023年12月 5日 (火)

"Refract":実にユニークなフリーとアンビエントのハイブリッド。

_20231204_0001 "Refract" BlankFor.ms (Red Hook)

ブログのお知り合いが取り上げられていて気になったアルバム。そもそもリーダー,BlankFor.msなんて名前はこれまで聞いたこともなかった訳だが,BlankFor.ms(またの名をTyler Gilmore)がJason MoranとMarcus Gilmoreという俊英と共演ということでは注目度は上がる要素だ。ただ,それだけでは私のレーダー・スクリーンに乗ってこなかっただろうが,そうした人の音楽に触れてみようと思ったのも偏にブログのお知り合いゆえということになる。

そして,ECMレーベルでも優れた仕事を連発したSun Chungが立ち上げたRed Hookレーベルからリリースされたこの作品は,実にユニークで面白いものであった。言うなればフリーとアンビエントのハイブリッドあるいはフュージョンという表現が適切と思えるが,フリー度は抑制的なので,無茶苦茶アバンギャルドという訳でもない。BlankFor.msが操るエレクトロニクスやループにJason MoranのピアノとMarcus Gilmoreのドラムスが絡むという展開であるが,実に心地よく時間が流れていく。アンビエントと呼ぶには音楽的な刺激が強い部分もあって,そうしたパートは環境音楽として使えるかというと微妙だが,それでも静と動をうまく組み合わせた音楽は実にレベルが高い。

特にJason Moranのピアノが音楽の「核」としてその静と動を象徴的に示していると言ってもよいが,こうした三者の組み合わせの妙は,往時のECMレーベルにおいて様々なミュージシャンの組み合わせのアルバムが作られていた時代を思い出させるものであった。

今年リリースされたアンビエント的なアルバムとして,Arooj Aftab / Vijay Iyer / Shahzad Ismailyによる"Love in Exile" があった。あれも実に素晴らしい作品であったが,本作はそれに勝るとも劣らないアルバムとして評価したい。星★★★★★。そして,あっちはVijay Iyer,こっちはJason Moranという優れたジャズ界のピアニストが参加しているところは必ずしも偶然ではないと思う。

Recorded on May 26 & 27, 2022

Personnel: BlankFor.ms(electronics, tape loops, processing), Jason Moran(p), Marcus Gilmore(ds)

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2023年10月 3日 (火)

改めて聞いても実に面白いReichの"Drumming"。

_20231002_0001 "Drumming" Steve Reich & Musicians (Deutsche Grammophon)

このディスクに収められたPart 1~4から成る"Drumming"は演奏時間が80分を超える大作だが,パーカッション・アンサンブルだけのPart 1の演奏は,普通の人にとってはなかなかハードルが高い音楽だと思う。一方,私のようなSteve Reich好きにとっては,この微妙にリズムがずれていくミニマルな感覚が心地よくさえ思えてしまうのだ。それでもPart 2 に転じてマリンバでの演奏になると,いかにもReich的なサウンドと言うべき響きに更に心地よさが増す。

この2枚組には"Drumming"に加えて"Six Pianos"と"Music for Mallet Instruments, Voices and Organ"も併録されており,全編を聞き通すには2時間以上を要するので,なかなかプレイバック頻度は高まらないのも事実だ。しかし,久々に聞いてみて,ミニマル音楽の「聴き流し」の快感を覚えた私であった。仕事の邪魔には一切ならないところはアンビエントと言ってもよい。いずれにしても,やっぱり私はReichの音楽が好きなのねぇと再確認。

因みに"Drumming"は,Nonesuchレーベルからもリリースされているが,そちらでは演奏時間が57分弱と大幅に短くなっているのはどういう訳かはわからない(CD1枚に収録するため説もあり)。まぁそっちも"Phases"というボックス・セットに入っているので,そのうち聞いてみることにしよう。

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2023年5月25日 (木)

"Love in Exile":このアンビエントな雰囲気にはまる。

_20230520-2 "Love in Exile" Arooj Aftab / Vijay Iyer / Shahzad Ismaily (Verve)

Vijay Iyerの名前につられて入手したアルバムである。Arooj Aftabという人は初めてだが,Shahzad IsmailyはMarc RibotのCeramic Dogでライブも聞いていたってことに気づく。Arooj AftabとShahzad Ismailyはパキスタン・ルーツ,Vijay Iyerはインド・ルーツなので,そっち系の音が出てくるのかと思って,まずはストリーミングで聞いたのだが,意に反してあるいは想定外という感じで,これが聞いていて心地よいアンビエント・ミュージックのような音楽だった。冒頭の音を聞いただけでも,これは買いだと確信したのであった。

Arooj Aftabはグラミーも獲っていて,それがVerveレーベルとの契約につながったようだが,ほかの二人もプレゼンスを確立したミュージシャンであり,かなり優秀なその3人が集まれば,これはおかしなことにはなるはずがない。Arooj Aftabがウルドゥ語で歌っても,言語を理解しない人間にとってはサウンドの要素としか捉えられないが,それをVijay IyerのピアノやRhodesとShahzad Ismailyのベースがミニマルとは言わないが,決して出しゃばることのない音数で支える演奏は,私にとって大袈裟に言えば心の平安をもたらすような音楽なのだ。そして,Vijay Iyerのピアノの音が実に美しく録られていて,私はうっとりしてしまったのであった。Vijay Iyerのピアノも美しい"Shadow Forces"の映像がアップされていたので貼り付けておく。

この音楽をどのカテゴリーに入れるかは難しいところだが,一聴して得た感覚を大事にしてアンビエントとしておく。まぁ,映像からしてもアンビエントだもんね(笑)。6曲で71分超というのは長いと言えば長いが,こういう音楽だから全くの許容範囲だ

決して万人向けの音楽とは言えないかもしれないが,私にとっては,麻薬的な響きを持つ音楽。こういう音楽への注目度を高めるためにも星★★★★★としてしまおう。マジでいいですわぁ。ツアーもやっているようだが,一体どういうことになってしまうのか興味津々である。

Personnel: Arooj Aftab(vo), Vijay Iyer(p, el-p, electronics), Shahzad Ismaily(b, synth)

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2023年3月29日 (水)

Arvo Pärtの「鏡の中の鏡」:この上なく美しい響き。夢見心地とはこれのことか。

_20230326 "Arvo Pärt: Speigel im Spiegel" Benjamin Hudson / Sebastian Klinger / Jürgen Kruse(Brilliant Classics)

ECMの総帥,Manfred EicherがECM New Seriesを立ち上げたのはエストニアの作曲家,Arvo Pärtの音楽を世に広めるためだったという話もあるが,そのArvo Pärtの邦題「鏡の中の鏡」を聞いていると,まさにEicherの指向と合致しているよなぁって気がしてくる。

一般の現代音楽に感じられる難解さなんてものは皆無であり,ミニマリズムの中から浮き上がる美的な感覚は,もはやアンビエント・ミュージックと呼びたくなる。この「鏡の中の鏡」はその後もさまざまな楽器編成で連作として発表されているが,ここに収められたものが初出の編成(ヴァイオリン+ピアノ,ヴィオラ+ピアノ,チェロ+ピアノ)ということになるようだ。それに"Für Alina"ほかの3曲を加えた全6曲には心地よい響きだけが収められていると言ってよく,まさに夢見心地になるような音楽なのだ。

音楽に刺激を求めるリスナーにとっては全く無縁の音楽と言えるだろうが,私にとっては精神衛生上実に好ましい音である。心がささくれ立った時に確実に役立つと思える美的音源。素晴らしい。星★★★★★。

Personnel: Benjamin Hudson(vln, vla), Sebastian Klinger(cello), Jürgen Kruse(p)

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