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2026年8月31日 (月)

Booker Ervinの"Texbook Tenor"を遅ればせながらアップ。

Texbook-tenor "Texbook Tenor" Booker Ervin(Blue Note)

このアルバムはBlue NoteのTone Poetシリーズでアナログで購入したものだ。聞いていなかった訳ではないが,記事化するのを失念していたので,改めてこのアルバムを聞くことにした。

このアルバムはもともと"Back from the Gig"という本作に含まれたセッションと,64年のHorace Parlanをリーダーとするセッションを合体した2枚組でリリースされていたものらしいが,それをこの68年のセッション単体でリリースしたもの。Booker Ervinのリーダー作としてリリースするには正しい姿だと思う。ジャケもいいしねぇ。

そもそもこのアルバム,ベースのJan Arnetは全然知らない人だが,チェコ出身のベーシストらしい。しかし,それ以外はいかにもBlue Noteというメンツが揃っていて,まず安定感は保証されたようなものだ。冒頭のKenny Barronが書いた"Gichi"は当時はやりのリズム・フィギュアって感じで書かれた曲だが,どんなリズムだろうが,Booker ErvinはBooker Ervinである。レコーディング当時37歳というには出てくる音が何とも成熟感に満ちているよなぁと思ってしまう。

一方Booker Ervinとフロントを構成するWoody Shawはまだ20代前半であるが,勢い満点である。後年になってもWoody Shawの主たるレパートリーとなる"In a Capricornian Way"を披露しているが,Woody Shawのソロもいいが,先発で出るBooker Ervinのソロが輪を掛けていいのだ。

B面に移ってのBooker Ervinが娘に捧げて書いた"Lynn's Tune"はリラクゼーション度が高まるが,この曲で顕著なのはソロにおけるBooker Ervinのテナーの音のでかさ。これはミキシングの問題でなく,端的に音がでかかったということを示していると感じる。そして,このアルバムにおける最大の聞きものと言ってよいのが最後に収められた"204"だ。10分を越える演奏の半分近くを占めるBooker Ervinのソロこそリスナーを燃えさせるものだ。フレージングは完璧ではないかもしれないが,ジャズの要素としての「熱さ」を体現していると言ってよい。ついついボリュームを上げたくなる演奏だ。

アルバム全体ではA面もよくできているが,この"204"は,その前の"Lynn's Tune"で緩んだ感覚を改めてビシッと締め直してくれるって感じであった。続くWoody ShawもBooker Ervinに感化されたソロを展開して,リスナーはウハウハしてしまうこと必定。

ということで,このアルバムは見逃すには惜しいアルバムであり,Booker Ervinのテナーの評価を改めて高めるリイシューとなった。星★★★★☆。

Recorded on June 24, 1968

Personnel: Booker Ervin(ts), Woody Shaw(tp), Kenny Barron(p), Jan Arnet(b), Billy Higgins(ds)

本作へのリンクはこちら。

2026年8月30日 (日)

アクション映画のはずなのに,実にシュールだった「殺しの分け前/ポイント・ブランク」。

Point-blank 「殺しの分け前/ポイント・ブランク("Point Blank")」(’67,米,MGM)

監督:John Boorman

出演:Lee Marvin, Angie Dickinson, Keenan Wynn, John Vernon, Carroll O'Conner

Netflixでこの映画を初めて見たのだが,普通のアクション映画だと思って見たら,頭がくらくらするような時間軸や画像の変動に何じゃこれは?と思ってしまうような作品だったのには驚いた。繰り返し現れるシーンが回想なのか,夢なのかがはっきりしないところもあり,一言で言えばシュール。Lee Marvinらしい正統派アクションを期待すれば,そういうシーンもあるが,確実に裏切られる。

更に時代を反映したサイケデリックな映像もあり,それが突出したかたちで現れるのがナイトクラブのシーンだろう。そこでStu Gardnerが歌う"Mighty Good Times"が笑ってしまうほどのサイケぶりだ。映像と相まって,やり過ぎ感さえあると思うのは私だけではあるまい。

まぁかなりクセの強い映画と言えるが,この映画の評論家筋での評価が高いのは,「時代を踏まえれば」というところもあるように思う。役者ではLee Marvinは相変わらずだし,John Vernonのワルぶりもよかったが,それでも私にはこの映画はちょっと合わないかなぁって感じもあって星★★★☆。

いずれにしても,この映画の原作が「悪党パーカー」シリーズとは信じられない...。

本作のBlu-rayへのリンクはこちら。

2026年8月29日 (土)

実力者2人によるインティメートかつ穏やかでありながら豊潤なデュオ・アルバム:”Beneath Lifted Sky”。

Beneath-the-lifted-skies "Beneath Lifted Sky" Linda May Han Oh & Mellisa Aldana(Biopholio)

Linda May Han Ohは今年のDownBeat誌の国際批評家投票でベース部門のトップに評価されている。この人はフリーに近いところからPat Methenyとの共演まで,非常に間口の広い人だが,その実力は折り紙付きと言ってもよいだろう。一方のMelissa Aldanaは同じ国際批評家投票でテナー部門で3位に推されていて,なんと5位のクリポタより上にいるというのはどうなのよと思うところもない訳ではない(因みにトップはJames Brandon Lewis)。しかし,今年リリースした"Filin"は素晴らしいアルバムだったし,やはり注目のテナーであることは間違いない。そんな二人がデュオ・アルバムをリリースしたのだから,これは注目に値する。

そして選曲が二人の音楽的ルーツはここよっ!みたいな選曲で,バップからジャズマン・オリジナル,スタンダードにインプロヴィゼーションを混ぜるというプログラムであるが,ジャズマン・オリジナルの選曲がこれまた渋い。必ずしも超有名曲とは言えないところを引っ張り出してくるところに彼女たちのこだわりを感じる。下記のBandcampにあったトラック・リストを見てもらえばおわかり頂けよう。

1. Anthropology (Charlie Parker / Dizzy Gillespie)
2. Hallucinations (Bud Powell)
3. Improvisation: Infinite (Linda May Han Oh / Melissa Aldana)
4. Duke Ellington's Sound of Love (Charles Mingus)
5. Cyclic Episode (Sam Rivers)
6. The Sorcerer (Herbie Hancock)
7. Dance Cadaverous (Wayne Shorter)
8. 26-2 (John Coltrane)
9. I'll Be Seeing You (Sammy Fain / Irving Kahal)
10. Social Call (Gigi Gryce / Jon Hendricks)
11. Improvisation: Resolve (Linda May Han Oh / Melissa Aldana)
12. Introspection (Thelonious Monk)
13. God Bless the Child (Billie Holiday / Arthur Herzog)
14. Shoulder to Shoulder (Linda May Han Oh / Melissa Aldana)
15. Winter (Linda May Han Oh)

これらの曲で繰り広げられる二人のデュオ(最後の曲はベース・ソロ)は派手派手しいところはないが,実にフレージングが豊かであり,また繊細に音も捉えられていて,ポイントが高い。Melissa Aldanaのテナーのソフトな音色とLinda May Han Ohの太いベース音が混ざり合って,実に豊潤な響きをもたらす快作。星★★★★☆。

Recorded on February 4–5, 2026

Personnel: Linda May Han Oh(b), Mellisa Aldana(ts)

本作へのストリーミングへのリンクはこちら。尚,最後の2曲については当初オリジナルか?としていたが,ある情報筋からクレジットをご教示頂いたので追記した。また,アルバム・タイトルも修正済み。

2026年8月28日 (金)

Lorraine Geller:早逝がつくづく惜しまれる人であった。

Lorraine-geller "Lorrain Geller at the Piano" Lorrain Geller(Dot→Wind)

Lorraine Gellerは旦那のHerb Gellerとともに,Emarcyレーベルに素晴らしい演奏を残しているが,単独のリーダー作というのは本作だけのはずだ。私が彼女のピアノに最初に痺れたのが"The Gellers"だったはずで,Lorraine Geller入りのHerb Gellerのアルバムはいの一番で買い集めたのであった。そして残るはこれということで入手したのが本作だったが,Windというスペイン(?)のレーベルからの再発盤で,著作権表示も一切なく,相当怪しい上にレコードは薄っぺらい(笑)。それでも聞けるだけで嬉しかったのであった。

Lorrain Gellerは女性としては相当力感に溢れたバップ・スタイルのピアノを弾く人というイメージが強かったが,このアルバムではタッチはそこそこながら,フレージングが実によい。歴史に残る名盤とは言わないが,こういう人がいたのだということを思い起すことが重要なのだ。本作においても急速調でもバラッドでも聞きどころ多数のピアノである。星★★★★。こういうアルバムがカタログに残り続ける日本ってのは凄い国だと思いつつ,それは喜ぶべきことだと言いたい。

つくづく30歳での早逝が惜しまれるが,彼女が残したレコードは人々の記憶に残って然るべき人であった。Herb Gellerが彼女を失って絶不調に陥ったのもうなずける話なのだ。

Personnel: Lorrain Geller(p), Leroy Vinnegar(b), Laurence Marable(ds), Bruz Freeman(ds) 

本作へのリンクはこちら。

2026年8月27日 (木)

追悼,Dolly Parton

Dolly-parton

Dolly Partonが亡くなって,各界から哀悼の声が相次いでいる。どれだけDolly Partonという人が影響力を持つ人であったかを示すが,歌手としてだけでなく,女優としても,そして慈善事業家としても大きな足跡を残した人であった。元々はカントリー畑の人だったが,ミュージシャンとしてそれだけに留まらないことは彼女の遺作となった"Rockstar"が示している。ここに集ったミュージシャンを見れば,彼女の位置づけというものがわかろうというもの。Paul McCartneyとRingo Starrと"Let It Be"を歌うのを筆頭に,Stingだ,Elton Johnだ,Steve Perryだ,Michael McDonaldだ,Steven Tyllerだ,Debbie Harryだ,果てはJudas PriestのRob Halfordともコラボしてしまうのだ。凄い!

Rockstar 日本ではOlivia Newton Johnが歌った"Jolene"のオリジナルとして知られることが多かろうが,米国での位置づけはそんなものではないということは明らかだ。米国においては人間国宝のような人だったと言えばいいだろう。GoogleでDolly Partonで検索をすると,メッセージのアニメーションが設定されているのもその表れである。とにかくアルバム"Rockstar"を聞いてみて頂きたい。これが古希をはるかに過ぎ,傘寿を控えた人の歌声だったとは信じられない。

改めて"Rockstar"でまさに数々のロックの名曲を歌い倒したDolly Partonを聞いて,彼女を偲ぶこととしたい。

R.I.P.

2026年8月26日 (水)

有栖川有栖の旧作「スウェーデン館の謎」を読んだが,今まで読んだ火村シリーズでは一番面白くなかった。

Photo_20260822084001 「スウェーデン館の謎」有栖川有栖(講談社文庫)

お馴染み火村英生~作家アリスシリーズの旧作である。これもクロゼットに埋もれていたものを救出(笑)して読んだもの。いつ買ったんだよ!って感じの本を気まぐれで取り出してきた。私は有栖川有栖の作品をそんなに読んでいる訳ではないが,正直言ってこれまで読んだ中で,これが一番面白くなかったという感覚だ。

この手の小説に関しては内容を書けばネタバレになってしまうので,それは控えるとしても,この結末は...という感じが強かった。そもそも犯罪者科学者,火村英生が登場するまでの前置きが長過ぎたという感が否めない。謎解きもイマイチ感があるしなぁ。この謎解きの難しさは「視覚的」要素がないとそうなのかなぁ...,あるいはわかりにくいという感が強いところだろう。

まぁエンタテインメントとしてはそこそこ面白くは読めるとしても,今まで読んだ有栖川有栖ので,ページをめくるスピードが一番上がらなかったというのが実感。星★★★。

本作へのリンクはこちら。

2026年8月25日 (火)

現在も健在のKenny Barronの発掘ライブ作

So-many-lovely-things"So Many Lovely Things: Live in Brecon" Kenny Barron(Elemental)

近年の発掘王とでも呼ぶべきZev Feldmanによって新たに発掘されたKenny Barronのライブである。今や巨匠扱いされることも多くなったKenny Barronは,私にとってよりチャレンジングなことはやらないが,確実にいい演奏を聞かせてくれる人という位置づけだ。そして私がKenny Barronの最高傑作と思っているのが,今はなきBradley'sでのライブ盤(それに関する記事はこちら)なのだが,今回紹介するこのアルバムはそのBradley'sでのライブと同じメンツによるものだけに期待値は高まる。

そして本作は私が期待する通りの音が出てくるから嬉しくなってしまう。"Shuffle Boil"ではソロ・ピアノでストライド風の演奏を聞かせるのが珍しいが,基本的には安定のKenny Barronトリオである。ライブ・レコーディングだけあって,特に後半の5曲は全て12分越えという長尺演奏となっているが,さすがにもう少しコンパクトでもいいのではないかと思わせるのも正直なところ。

Ray-drummond また,ジャズ界の小錦こと(笑)Ray Drummond(気づいてみれば2025/11に亡くなっていたようだ。R.I.P.)のベース音の増幅加減が本来のベースの音から乖離していることも気になってしまう。Ray Drummondのベースに比べると,特にバラッド曲でのBen Rileyのドラムスが引っ込んだ感じなのもバランスが悪いというミキシング上の瑕疵もある。「飾りのついた四輪馬車("The Surrey with the Fringe on Top")」ぐらいのミックスだったらよかったんだけどねぇ。

上述の通り,演奏そのものの安定度はあるし,十分楽しめるレベルにはあるのだが,諸手を挙げて推奨はしにくい。やはり私にとってはBradley'sのライブに勝るものはないというところか。ちょっと甘めの星★★★★。

Recorded Live at the Brycheiniog Theatre, Wales on August 12, 1995

Personnel: Kenny Barron(p), Ray Drummond(b), Ben Riley(ds)

本作へのリンクはこちら。

2026年8月24日 (月)

気楽に見られるアクション映画だが,都合よ過ぎのストーリーが難点の「グレイ・ミッション」。

In-the-grey 「グレイ・ミッション("In the Grey")」(’26,米/英)

監督:Guy Ritchie

出演:Henry Cavill, Jake Gylenhaal, Eiza González, Carlos Bardem, Rosamund Pike,Fisher Stevens

家人が出掛けた留守を狙って(笑),休日に見たのがこの映画。典型的なアクション映画と言ってもよく,気楽に見られていいのだが,このストーリーはさすがに都合がよ過ぎるんじゃないかと言いたくなる映画である。

Eiza González演じる辣腕弁護士をHenry CavillとJake Gylenhaal演じる二人が守るというのが基本だが,そのほかのメンツを含めて組織的な動きをするというのはいいが,ほとんどの作戦がうまく行ってしまうというのでは,もはや途中から先が読めてしまうという部分もあるし,そこまでうまく行くはずないだろうと見ている方が思ってしまうようなストーリーなのだ。

そんな感じなのでサスペンスという感覚はほとんどないのが決定的難点。派手なアクションは楽しいが,それとて主役の二人はほとんどピンチに陥ることもないのだから,メリハリに乏しいのだ。Guy Ritchieもこんな映画を撮っているようではいかんねぇ。

まぁ時間つぶしには丁度いいお気楽映画っていうことで星★★☆。

2026年8月23日 (日)

またも見ましたKim Novakの映画:「殺人者はバッヂをつけていた」は典型的ファム・ファタールとしてのKim Novakが最高に美しい。

Pushover 「殺人者はバッヂをつけていた("Pushover")」(’54,米,Columbia)

監督:Richard Quine

出演:Fred MacMurray, Phil Carey, Kim Novak, Dorothy Malone, E.G. Marshall, Allen Nourse

先日見た「黄金の腕」に続いてのKim Novakが出演している映画である。Kim Novakの名前がクレジットされたのはこの映画が初ということで,実質的なデビュー作。これが完璧なまでのファム・ファタールを演じていて,その美しさも相まって,その魅力に主演のFred MacMurray演じるPaul Sheridanがはまって,犯罪に走ってしまうのも仕方ないと思わせるほどの素晴らしさ。ポスターでも大きく描かれているように,この映画は極論すればKim Novakを見るための映画と言ってもよいものだ。隣室の看護婦を演じるDorothy Maloneだって十分別嬪なのだが,Kim Novakの美貌が凄過ぎる。

Kim-novak 冒頭,いきなりの銀行強盗シーンから始まり,その後の捜査の過程でMacMurrayとKim Novakの出会いが描かれるのだが,仕事とは言えKim Novakに出会った上で,誘いを受けてしまえば,心が動かされるに決まっていると思わざるをえない。Fred MacMurray演じるPaul Sheridanの立場からすれば,刑事という仕事と,Kim Novakの誘惑の板挟みになる訳だが,この誘惑には負けて当然と感じてしまう描き方であった。

映画としては誘惑に負けたFred MacMurrayがどんどんドツボにはまっていくのが描かれるが,Kim Novak演じるLonaが本当の悪女なのかどうなのか?というところの描き方は少々微妙ではあるが,まぁそれはよかろう。星★★★★。そんなことはどうでもよくなるぐらいのKim Novakである。

Kim-novak-1 正直言ってKim Novakについては「黄金の腕」よりこちらでの美貌が勝っていて,実質的なデビュー作としては強烈な印象を残したはずだ。ということもあって,Kim Novakのポートレートを貼り付けておくが,これらを見れば,私の言い分もご理解願えよう。

歳を取ってからは,おそらく整形に失敗して口裂け女のようになってしまった彼女の姿を見ると切なくなるが,若い頃のKim Novakは正真正銘の美貌の持ち主であった。マジでたまりまへんわ。

本作のDVDへのリンクはこちら。ストリーミングへのリンクはこちら。

2026年8月22日 (土)

Seamus BlakeがEddie Harrisにトリビュートしたファンク炸裂のアルバム。

Seams-blake-eh "The Electrifying Seamus Blake - EH! ’Plays the Music of Eddie Harris’" Seamus Blake(Cellar Live)

2002年のThelonious Monk Competitionで第1位となってからのSeamus Blakeは順調な活動をしていたのだが,どうも拠点をいろいろ移しながらになってからは, アルバムのリリースも盛んだったとは言えず,動静がはっきりしないし,何をやっているのかがなかなか追いきれなかったというのが実感だ。しかし,何のことはない。Roger Watersのツアーに参加してきっちり金儲けはしていたようだ。Seamus Blakeのサックス・プレイヤーとして活躍を期待する方からすれば,もう少し自分の音楽もやって欲しいと思っていたら,いきなりEddie Harrisにトリビュートしたアルバム登場である。

タイトルにElectrifying Seamus Blakeとあるし,ベースにTim Lefebvreが全面参加していることからエレクトリック路線だろうとは思ったが,それに加えてドラムスがButcher BrownのCorey Fonvilleだから尚更だ。そして冒頭の"Compared to What"からしてファンクだ。 Sam Yehelがオルガンを弾いているところからしても,以前このブログで取り上げたSemus Blakeも参加したAdam Klipple & Drive-by Leslieの"Blackjack"を想起させる。そもそもやっているレパートリーがEddie Harrisなのだから基本はどファンクになること必定だが,全編に渡ってSeamus Blakeのファンク炸裂だ。リズム・セクションを聞いているだけでも身体が揺れて,これはいいわぁ(笑)。

Seamus Blakeはテナー,EWI,ヴォコーダーに加えてヴォーカルもやってしまうところに,これから自分でもやりまっせという感じが出ている。だが,敢えてオリジナルもサンバ調の"Come Dance with Me"を入れる意義があったかは疑問で,この1曲でアルバムの印象が変わってしまったのが惜しいが,アルバム前半のノリは実に楽しい。ということで星★★★★。可能性は低いだろうが,万一このバンドで来日するようなことがあったら行くな。誰か呼ばないかな(笑)。

しかし,この人の名前をシーマスと呼ぶのはもうやめてくれないかねぇ。Seamusの発音はカタカナならシェイマスが一番近いんだけどなぁ。

Personnel: Seamus Blake(ts, EWI, effects, vo), Sam Yahel(org, p, el-p, key, vo), Tim Lefebvre(b, vo), Corey Fonville(ds, vo), Dawn Pemberton(vo), Scott Morin(vo)

本作へのリンクはこちら。

2026年8月21日 (金)

傘寿を過ぎても超クリエイティブ:Norma Winstoneのライブ作。

Norma-winstone "Gilles Peterson presents Norma Winstone live at Maida Vale" Norma Winstone(BBE)

既に傘寿を過ぎたNorma Winstoneの創造力が全く衰えていないことを示す新作ライブ。著名DJであるGiles PetersenとBBEレーベルのコラボで製作されたとあるが,Bandcampにはこの後リリースされる"BBC Sessions Vol. 2 – Maida Vale: The End of an Era" に先立って発表とあるから,もう1枚出てくる可能性もあるが,それがNorma Winstoneのアルバムかどうかは不明だ。それにしてもNorma Winstoneの衰えなしなのには驚くしかない。

彼女の二人の息子,Leo TaylorとAlex Taylorを含むバンドはチューバを加える編成からして変わっているが,やっている音楽は主題の通りクリエイティブそのもの。"Azimuth"の再演も含みながら,即興的な歌唱を聞かせるNorma Winstoneの凄さを感じさせる。収録曲は5曲,31分と短いが,これだけでもNorma Winstoneの衰えを感じさせない歌唱が楽しめる。

ECMではポップ・チューンや映画音楽を取り上げて,きちっとした「歌もの」もできるNorma WinstoneがAzimuth系の音楽に改めて取り組むとこういう感じになるというアルバム。それにしても大したものである。星★★★★☆。

BBEレーベルはそもそもブラック・ミュージックのレーベルらしい。そこにNorma Winstoneとは唐突な感じもするのだが,そもそもこちらはBBEを認識していないのだから全然問題ない。

Personnel: Norma Winstone(vo), Leo Taylor(ds), Alex Taylor(vo), Elliot Galvin(p), Oren Marshall(tuba), Mark Lockheart(ts, ss)

本作へのリンクはこちら。

2026年8月20日 (木)

Maria ShneiderがDavid Sanbornをソロイストに迎えてGil Evansにトリビュートしたライブのブートレッグを改めて聞いた。

Maria-schneider-dr-big-band "Music Gil Evans" Maria Schneider / David Sanborn / Danish Radio Big Band(Bootleg)

先日のMaria Schneider Orchestraのライブは実に素晴らしいものであった。本来なら彼女のアルバムを取り上げればいいところを,代わりと言っては何だが,随分前(に取り上げたこのブートレッグを改めて聞くことにした。

Maria SchneiderがGil Evansのアシスタントを務めていたことはよく知られている。スコアの浄書もしていたらしいから,Gil Evansのアレンジメントを深く理解していたことは想像に難くない。そうしたバックグラウンドがあって,現在のポジションに至っている訳で,ここでの演奏はGil Evansのアレンジメントを踏襲しているので,Gil Evansとの縁を回顧するにはこのブートレッグは丁度よいのだ。

ブートレッグなので,セールスを意識してDavid Sanbornが主役のような扱いになっているが,聞けばわかるが,MCをやっているのはMaria Schneiderなので,これはMaria Schneider+Danish Radio Big BandのライブにDavid Sanbornがゲスト・ソロイストとして加わったというのが実態のはずである。Disk 2のトップはMaria Schneiderのオリジナル"Hang Gliding"だしねぇ。しかし,このブートにはMaria Schneiderの写真は裏ジャケにはあるものの,クレジットにMaria Schneiderの「マ」の字もないのは実にけしからん(笑)。だが,David Sanbornがほぼ全曲でソロを取り,実にSanbornらしいエモーショナルは吹奏を聞かせているので,これはなかなか貴重な演奏集であるから許す。しかも3回のコンサートを4枚のディスクに収めているのだから,曲の被りがあろうが気にしてはならない(きっぱり)。

そもそもDavid SanbornもGil Evansのバンドで長年吹いていた訳で,Maria SchneiderとGil Evansの関係性を考えれば,このは組み合わせは合っても不思議ではなかった。おそらくはMaria Schneider側からDavid Sanbornに声掛けしたと思うが,それが実現してしまうというのが素晴らしいところである。残念ながら,日本のビッグバンドではこうはならないだろう。

この音源が収録されたのは2003年3月のことであるが,David Sanbornがもはやこの世を去ってしまったことを考えれば,やはり貴重な音源だし,Maria Schneiderのプロジェクトとして見逃すべきではないブートだと改めて思う。

Recorded Live on March 15, 16 & 18, 2003

Personnel: Maria Schneider(cond), David Sanborn(as), Danish Radio Big Band

2026年8月19日 (水)

「華麗なる賭け」を初めて見た。

Thomas-cown-affair-1968「華麗なる賭け("The Thomas Clown Affair")(’68,米,United Artists)

監督:Norman Jewison

出演:Steve McQueen, Faye Dunaway, Paul Burke, Jack Weston, Biff McGuire

Pierce Brosnan主演でリメイクされたのが99年で,来年には更にMichael B. Jordan監督主演で再リメイクされるらしい映画のオリジナルを今回初めてストリーミングで見た。私が中学生の頃はSteve McQueen派とClint Eastwood派で覇権争い(笑)をしていたようにも思うが,私は完全なEastwood派だったので,Steve McQueenの映画は「敢えて」あまり見ていないというのが正直なところだ。だからこの映画も知ってはいても初見だったのだ。

当時は画面分割をする演出などはかなりスタイリッシュに映った部分もあるように感じるのだが,今の目で見ると少々無駄にさえ見えてしまうのが時代の流れか。この映画,それなりに面白くは見られるのだが,今で言えば富豪と言ってもよいSteve McQueen演じるThomas Clownがなぜ犯罪に手を染めるのかが最後までよくわからない上に,結局はさまざまなシーンでも明らかなように,Steve McQueenをカッコよく見せればいいのかと言いたくなるような映画であることは否定できない。

相手役のFaye Dunawayも保険調査員という役柄ながら,結局は描き方が半端なのがこの映画の決定的な弱点で,これはシナリオの弱さに金する部分が大きいと思う。ドライバーの嫁はんが密告するというのも正直筋が通っていないのだ。私からすれば,この程度の映画を2回もリメイクする理由は見いだせない。99年のリメイク作「トーマス・クラウン・アフェア」に星★★★をつけた立場からすれば,それと同等もしくはSteve McQueenに免じて星★★★☆が限界と思える一作。上述の通り,スタイリッシュにこだわり過ぎたのがこの映画の限界。主題歌は素晴らしいがNoel Harrisonもミスキャストだったと思う。

本作のBlu-rayへのリンクはこちら。

2026年8月18日 (火)

”Music for Abandoned Heights”:John McLaughlinによる架空サウンドトラック?

Abandoned-hights

"Music for Abandoned Heights" John McLaughlin(Impex)

ストリーミングでランダム・プレイしていたらこのアルバムの曲にぶつかった。John McLaughlinのアルバムだが全然知らんぞ!ということで,いろいろ調べてみたもののなかなか情報が出てこない。そこでAIに聞いてみたら,「2018年に映画監督のJack Stallingsから,未公開のノワール映画『Abandoned Heights』の音楽担当としてオファーを受け,2019年に作曲・録音された」とのことだ。未公開映画だから主題の通り架空のサントラってことになるのだが,長年のJohn McLaughlinのファンとしては当然気になる。だが,アルバムの発売元は高品質のディスクを売り物にするImpexだから,現物は無茶苦茶高いってことで,今回は購入は見送り,ストリーミングでアルバムを聞いた。

演奏自体は例えば"DC Basketball"のように,いかにもJohn McLaughlinらしいスリリングで激しい演奏もあるし,"The Beat Goes on"のように,軽いとは言え若干ながら"Jack Johnson"を彷彿とさせる曲もあるのだが,全体的にはリリカルでメロディアスな感じの曲が多いのが珍しい。特にベースがアコースティックの場合,それが顕著になる。まぁこれもJohn McLaughlinの一面と言えばその通りであり,これはこれで相応には楽しめる。だが,やはりオーディエンスがJohn McLaughlinに期待するのはより高速フレージングを炸裂させるハード・フュージョンだとすると,少々の物足りなさを感じるのは否めない。それでもついつい評価も甘くなり,星★★★★。

まぁ少々特殊な事情で作られた音楽だから,高品質とは言えマイナーなImpexからリリースしたのではないかとも思えるが,その魂胆は謎である。それでもファンは聞いて損はないと言っておこう。だが現物に手を出さずとも,ストリーミングで十分だとは思うが...(笑)。

Personnel: John McLaughlin(g, g-synt, prog), Gary Husband(ds, key), Julian Siegel(ts, ss), Misha Mullov-Abbado(b), Etienne Mbappé(b)

本作へのリンクはこちら。

2026年8月17日 (月)

「隣人たち」:猛暑の中,映画館で涼みながら,終盤の展開には驚く。

Mothers-instinct「隣人たち("Mother’s Instinct")」('24,米/仏/ベルギー/英)

監督:Benoit Delhomme

出演:Anne Hathaway, Jessica Chastain, Anders Danielsen Lie, Josh Charles, Eamon Patrick O’Connell

猛暑が続く夏休みの最中に,涼みにでも行くかってことで観に行ったのがこの映画。休み前に行こうと思っていたのだが,時間が合わずに夏休みにずれ込んで観に行った。本作は本国での公開から2年も経っているのは,いくらオスカー女優2人が揃っても,この心理劇的な展開が興行には厳しいと判断されたものと思われる。

そもそもこの映画は2018年のフランス/ベルギー合作の「母親たち("Duelles")」のリメイクということだが,ストーリーも役名もほぼ踏襲したもののようだ。本作は1960年代のケネディ政権時代を舞台としていて,一種のコスチューム・プレイと言える。特にポスターのAnne Hathawayの髪型やメイクの感じを見てもらえれば,それも理解できるだろう。

Ann Hathaway演じるCélineの息子が転落死をして悲しみに打ちひしがれつつ,気丈なところを示しながら,隣の家のJessica Chastain演じるAliceの息子Theoを可愛がる。そうした姿に徐々にAliceが疑心暗鬼に陥っていくというストーリーで,途中ではAliceの心理的なストレスが高まっていくのが描かれる。まぁ元々このAliceが精神的な疾患を抱えていたという背景もあって,一種の常軌を逸した妄想あるいは姿にAnders Danielsen Lie演じる夫,Simonからも入院しろ!と言われてしまう有様。そこからが...ということでこれ以上はネタバレになるので,詳述は避ける。

結末はどうなるのかという心理劇的な展開から,最後はホラーかっ!と言いたくなるようなかたちに転じていくのには驚いたが,さすがにこのストーリーは...と思いたくなるものである。劇的展開と言えばその通りだが,さすがにこの唐突感は行き過ぎではないのかと思わせるのがこの映画の決定的な難点。映画の原題は「母性本能」だが,母性本能を通り越して狂気に転じるという感じは,自分の経験に照らして身につまされるところもあって,その辺は見ながらため息をついていた私であった。

しかし,ストーリーの唐突な展開などもあり,映画としては星★★★ぐらいだろう。

2026年8月16日 (日)

Peter Erskine Dr. Um@Blue Note東京 参戦記。

Peter-erskine-at-cotton-club

Peter Erskineのエレクトリック・バンド,Dr. Umのライブを観るべく,郷里での墓参りを済ませた後,Blue Note東京に行ってきた。今回はMike Mainieriをゲストに迎えてのライブである。お盆の時期だったので,客入りはどうなのかと思っていたら,会場がフルハウスなのにはびっくりした。

Peter-erskene-at-bnt

このバンドのライブを観たのが今から10年前,Mike Mainieriに関しては2015年のSteps Ahead以来だ。そのSteps AheadにはPeter Erskineと今回も来日したBob Sheppardもいたので,違いはキーボードとベースだけだが,感じは似ているところもあれば,違うところもある。

演奏はMike Mainieri抜きの4人で,Dr. Umの1stからの"Hawaian Bathing Suit"と"Lost Page"からスタート。"Hawaiwan Bathing Suit"はアルバムでは最もWeather Reportっぽい曲だったが,今回はJohn Beasleyのキーボード使いがそれっぽくなかったので,少々印象が違った。私としてはBob Sheppardのフレージングに魅力を感じていたってところ。

この2曲が終わったところで,Mike Mainieriが迎え入れられたが,前回のSteps Aheadでは相当お疲れモードだった記憶があるMainieriが,現在88歳とは思えぬしゃきっとした姿なのには感心してしまった。Mike Mainieriを迎えて,まずは"Pools"でスタート。Mike Mainieriは4本マレットも使いこなして,演奏自体は全く衰えを感じさせないのは立派。

その後"Islands"に続いて,Matthew Garrisonのベース・ソロを挟んで,"Self Portrait","Young And Fine"とSteps/Steps Ahedゆかり(後者はWeather Reportゆかりでもあるが,完全にStepsヴァージョン)の曲が続き,Mike Mainieriを立てた感じがする選曲。そうした中でBob Sheppardは意図的なところもあろうが,Michael Breckerを彷彿とさせるフレージングがカッコよかった。

最後はDr. Umのレパートリー"Northern Cross"で締め,そしてアンコールはまたもSteps Aheadの"Dee Minor"で終了。演奏自体はPeter Erskineのドラミングは古希を過ぎてもなおシャープそのもので,楽しめるものであったとは思うのだが,少々曲のエンディング等に粗さを感じさせたのは「せ~の」で出来てしまう人たちゆえのリハーサル不足を感じさせたのも事実。それでも会場からはスタンディング・オヴェイションが送られていたのを横目で眺めていた私である。

Peter-erskine-set-list それにしてもDr. Umってなんだよ?とずっと思っていたのだが,冒頭にPeter Erskineが続けて読んだらDrumだよと言っていたのを聞いて,今更ながらなるほどなんて思っているのだから,私が何も考えていないというのがバレバレだ(爆)。そんな私のくせに,全曲で曲紹介があった訳でもないのに,やったレパートリーをよく覚えているなと思う方がいても当然だ。実は私が座っていた席の目の前にBob Sheppardの譜面台があって,そこにセットリストが置いてあったのを撮影したからなのだ(笑)。よく知っている曲もあれば,聞いたことはあるが曲名が...ってのが普通な中で,今回は何をやるかを事前に把握して臨んだということで。因みに当日のライブには,Blue Note東京での公演を控えた矢野顕子,Will Lee,Chris Parkerの3人も来ていることがPeter Erskineから紹介されていた。

尚,トップの写真はBlue Note東京のWebサイトに掲載されていたCotton Clubでの演奏の模様。

Live at Blue Note東京 on August 14, 2026 2ndセット

Personnel: Peter Erskine(ds), Bob Sheppard(ts), John Beasley(p, key), Matthew Garrison(b) with Mike Mainieri(vib)

2026年8月15日 (土)

全集発売へのプレリュード(笑):Nelsons~VPOのマーラー5番。

Nelsons-mahler"Gustav Mahler Symphony No.5" Andris Nelsons / Wiener Philharmoniker(Deutsche Grammophon)

2018年から2026年にかけてライヴ録音されたマーラーの交響曲全集の発売を控えるAndris Nelsons/VPOコンビだが,その予告編的にリリースされたのがこの5番。しかも現物はアナログだけのリリースだったらしいが,全然知らなかった。ってことで,慌ててそれをストリーミングで聞いてみた。

ネットでもそのテンポの遅さが指摘されているが,確かに第1楽章からして相当遅い。このテンポは日頃のこの聞きなれたこの曲のイメージからすると,若干の気持ち悪さもあるように感じられるので,確実に好き嫌いはわかれると思う。演奏は全体的にテンポが遅めで,第4楽章のアダージェットがこれまた遅い。もはや耽美の世界とも言える遅さと言ってもよいかもしれない。だが,全曲を聞き通してみると,不思議と違和感がなく決着している感じがするのは,Nelsonsの意図にはまったってことかもしれない。

このコンビによる全集のリリースは注目されるが,これを聞いて全集を購入するかどうかは微妙になってきたというのが実感なので,購入の意思決定は値段次第ってところかもなぁ。そもそもこの全集を購入せずとも,保有しているマーラーの全集を聞き直していればそれでいい訳で,ストリーミングで全曲公開されるのを期待するか(笑)。

2026年8月14日 (金)

ヤク中を描きつつ,ほかにも見どころ多数の「黄金の腕」。

The_man_with_the_golden_arm_poster 「黄金の腕("The Man with the Golden Arm")」(’55,米,United Artists)

監督:Otto Preminger

出演:Frank Sinatra, Eleanor Parker, Kim Novak, Arnold Stang, Darren McGavin

麻薬から抜け出せない恐怖を描いたこの映画は,以前TV放映時に見たようにも思うが,全く記憶が曖昧だ。それをストリーミングで見たもの。

麻薬更生施設から出たばかりのFrank Sinatra演じるFrankieが,すぐに麻薬に手を出し,苦しみながらもヤク抜きをするというストーリーに,Eleanor Parker演じる悪妻と,Frankieのヤク抜きを助けるKim Novakという二人の美人女優を絡めるというストーリー。当時はタブー視された麻薬常習者を描いていて,現代なら麻薬の恐怖を教える啓発的な映画として捉えることもできそうなものだが,それをよしとしないというのがこの時代の産物である。しかし,それを敢えて描くというのが製作も兼ねたOtto Preminger監督の気骨を示すものだ。

Photo_20260802092801 この当時,歌手としてスランプに陥っていたFrank Sinatraが,俳優としてそうした時期を乗り切ったことを示す映画で,Oscarの主演男優賞にノミネートされたのもうなずける。しかし,この映画はほかにも見どころ多数である。まず冒頭のいかにもSaul Bassというタイトル・デザインとそのバックに流れるElmer Bernsteinによるジャジーな音楽から惹きつけられてしまう。Saul Bassのデザインだけのポスターもあって,ここまで来ると美術品として飾りたくなるレベルだ。

そして上述の二人の美人女優の対比であるが,二人とも別嬪ながら,役柄としては完全にKim Novakが儲け役。だが,Eleanor Parkerの少々エキセントリックな悪女ぶりも,その美貌と反する感じを出していて,それはそれで評価すべきだろう。ただ,見ている方としては感情移入も不能なレベルの悪妻ぶりだが...(笑)。更にFrankieがオーディションに訪れるシーンではShorty RogersとShelly Manneが登場して,ジャズ・ファンへの付加価値を高めるものだ。

まぁタイトルの「黄金の腕」の意味するところを描くシーンはほとんどないというのがご愛嬌だし,そんな簡単にヤク中から脱却できるのかとかのツッコミどころはあるものの,さまざまな点で印象的な映画であった。星★★★★☆。

本作のDVD へのリンクはこちら。

2026年8月13日 (木)

ライブの予習にPeter ErskineのDr. Umの2作目を聞く。

On-call "On Call" Peter Erskine and the Dr. Um Band(Fuzzy Music)

Peter ErskineがDr. Umというバンド名で来日した時にライブを見たのはもう10年前のことになる。その時はCotton Clubだったのだが,今回はそこにMike Mainieriを迎えてBlue Note東京に格上げである(笑)。今回はMainieriを迎えたということもあって,"Steps into the Weather"なんて題しているから,Steps AheadとWeather Reportへのトリビュート感が出るのか?なんて想像しているが,ライブの予習としてこれまで真っ当に聞いていなかった"Dr. Um"の2作目をストリーミングで聞いた。

1作目が出た段階でフュージョンをやるってのはわかっていたが,今回もエレクトリック路線を継続である。Peter Erskineという人は,4ビートだろうが,フュージョンだろうが,ビッグバンドだろうが,何でもござれの万能型ドラマーであるが,フュージョン系の仕事としてはWeather Report(とSteps Ahead)が代表的だろう(もちろんほかにもあるが...)。だから1作目が出た時も現代のWeather Report的に言われていたのだが,WR的なところはあまり濃厚ではなく,ゆったりしたグルーブが心地よい演奏だったというのが正直なところだ。

前作はギターが参加していたが,今回は前作から引き続いてのBob Sheppard,John Beasleyに,前作のJanek Gwizdalaから代わったBenjamin Shepherdのベースというクァルテット編成で,パーカッション抜きのWRと同じ編成であるから,よりWR的になるとも想像できたが,スタジオとライブ音源を組み合わせたCD2枚組(私が聞いたのはストリーミングだが...)での演奏は前作同様それほどWR的とは言えないと思う。前作でもやっていたWR的に響いた"Hawaii Bathing Suit"こそ今回もWR的に響くが,これはJohn Beaselyのキーボード・プレイがJoe Zawinul的なところが影響していると思う。そのほかの曲についてはそれほどWR的なところは感じさせず,今回も心地よいグルーブが展開される。ラストの"Northern Cross"なんかはSteps Ahead的とも言えるが,Michael Breckerがこの曲を吹いたいたら...なんて想像してしまうと,それはBob Sheppardに失礼か(笑)。

そして今回驚いたのがBenjamin Shepherdのベースの貢献度の高さ。John BeasleyやAlex Sillとのレコーディングはあるものの,この人の知名度は決して高いとは言えない中で,ここでのベース・プレイは相当魅力的に響く。この人は指導者としての活動が中心のようだが,プレイヤーとしても隠れた逸材と言いたくなる演奏ぶりなのだ。世の中にはいろんな人がいるもんだと思わざるをえない。こういったところも勘案して十分に星★★★★に値する。

今回の来日はベースがMatthew Garrisonに代わるのはいいとして,Mike Mainieriが加わってどうなるのかというところが興味深いが,いずれにしてもライブが楽しみになるアルバムであった。

Recorded on June 5 & 6 and Live on July 30, 2017

Personnel: Peter Erskine(ds, perc), John Beasely(p, key), Bob Sheppard(sax), Benjamin Shepherd(b)

本作へのリンクはこちら。

2026年8月12日 (水)

映画館で涼む:私には似合わないと言われそうだが,劇場に見に行った「トイ・ストーリー5」。

Toy-story-5「トイ・ストーリー5 ("Toy Story 5")」(’26,米,Disney)

監督:Andrew Stanton, McKenna Harris

声の出演:唐沢寿明,所ジョージ,日下由美,広瀬アリス,佐野優斗

主題の通りである。私が日頃見に行く映画からすれば,異色のチョイスになってしまう「トイ・ストーリー」シリーズである。私は4作目以外は見ているのだが,機内エンタテインメントで見てばかりで,多分劇場で見るのはこれが初めてのはずだから,やはり異色だ(笑)。しかし,シリーズで見ていると,心温まる映画であることはわかっている。

第1作から30年以上を経て,子供の遊び道具も従来のおもちゃからタブレットやTVゲームへ移行していることも踏まえたストーリー展開は,時代の変化も反映したものと思える。そうした中で今回の主役はカウガール,ジェシーということになるが,それを支えるバズ・ライトイヤー(とそのアップグレード版軍団)が笑える上に,いい味を出していた。そのライバルとなるのがタブレットのリリーパッドってところだが,まぁこうしたキャラクターによるストーリー展開は他愛ないと言えばその通りだが,よく出来たアニメーションである。全世界でヒットするというのもうなずける。

だが,こうしてタブレットやTVゲームの時代になってしまうと,次はどう描くのかというのが心配になってしまう。これまでのストーリーはある意味牧歌的とも言えるものだったと思えるのに対し,ジェシーを主役に据える一方,ウッディの出番が少なくなっているところを典型として,本作のように別の展開が必要になってくると考えられるが,どうだろう。まぁそうした小難しいことを考えずに,素直に楽しめばいいのだが...。

そうは言っても私のような高齢者でも十分楽しめる映画として星★★★★。

2026年8月11日 (火)

東野圭吾の遺作,「永遠の記憶」を読了。死期を悟って書いたとしか思えない。

Photo_20260810213401「永遠の記憶」東野圭吾(文藝春秋)

先日世を去った東野圭吾の最新作にして遺作と思われる本作を読了した。この本を読んでいると,主題の通り,東野圭吾は自らの死期を悟っていたのではないかと思えてならない。本作の第一部は「履歴る:たどる」,そして第二部は「終活る:ふりかえる」という副題なのがそもそも象徴的に思える。

そして,ネタバレになるので詳しく書くことはできないが,この物語の結末が「そう来るか...」と思わせる展開であり,自分の著作に落とし前をつけようとしていると感じさせる部分があった。読み始めてあっという間に読了してしまったが,正直なところ,ストーリー展開にはケチをつけようと思えばつけられると思いつつ,最後まで見事なストーリーテリング力であったことは認めなければなるまい。

ECサイトでも,近所の書店では売り切れになっていたし,相当なペースで売れているようだが,つくづく惜しい人を亡くしたと感じさせる一作であった。

改めてR.I.P.

本作へのリンクはこちら。

2026年8月10日 (月)

初めて聞いたCTIのKenny Burrell:どうやってもKenny Burrellなのがいいねぇ。

God-bless-the-child "God Bless the Child" Kenny Burrell(CTI)

主題の通り,このアルバムを聞いたのが今回が初めてだと思う。ブルージーなKenny BurrellがCTIとは合わんだろうという予断もあったが,聞いてみるとそれは間違いだったと気づく。

確かにCTIならではでDon Sebeskyアレンジによるストリングスがバックについているし,共演のメンツもいつもKenny Burrellがやっているようなメンツとは異なる。Billy CobhamがKenny Burrellのバックで叩くなんて,CTI以外ではありえまい。それでもKenny BurrellはどうやってもKenny Burrellであったという個性を感じさせるところが素晴らしい。

まぁこれは本作のアレンジメントがそれほど仰々しくないところが功を奏したというところだろうが,想像以上に楽しく聞けてしまった。エレピをバックにしたKenny Burrellもまたよしってところだ。そしてアナログであればA面を占めていたであろうKenny Burrellのオリジナル3曲が魅力的で,Kenny Burrellが作曲能力にも優れていたことを実証している。もちろんB面に収められた手練れのジャズマン・オリジナルの2曲もいいのだが,私としては前半3曲により魅力を感じたと言っておきたい。星★★★★には相当する佳作。

Recorded on April 28 and May 11 & 25, 1971

Personnel: Kenny Burrell(g), Hugh Lawson(el-p), Richard Wyands(el-p), Ron Carter(b), Billy Cobham(ds), Ray Barretto(perc), Airto Moreira(perc), Freddie Hubbard(tp), Hubert Laws(fl), Don Sebesky(arr) with Strings

本作へのリンクはこちら。

 

2026年8月 9日 (日)

恥ずかしながら「E.T.」を初めて見た。

Et 「E.T.("E.T. the Extra-Terrestrial")」(’82,米,Universal)

監督:Steven Spielberg

出演:Dee Wallace, Henry Thomas, Drew Barrimore, Robert MacNaughton, Peter Coyote

世の中では大ヒットしたにもかかわらず,自分には縁がなかった映画なんていくらでもある。そもそも私が相当の天邪鬼ゆえ,ヒットしている映画を敢えて避ける傾向があることも否定できない。だからこの映画も今まで劇場で見たこともなければ,レンタルでも見たこともないまま,製作から半世紀近くが経過してしまったのだが,先日,初めてこの映画をストリーミングで見た。

Steven Spielbergの異星人ものとしては「未知との遭遇」があったが,あちらが大人向けとすれば,こちらはファミリー/子供向けのファンタジー映画というところ。主役もクレジット上はDee Wallaceがトップだが,実質的な主役は子役のHenry Thomasなのだからそう思えるのも仕方ない。

印象的なシーンはポスターにも描かれたE.T.を乗せた自転車が宙を舞うシーンだろうが,これからしてファンタジーそのもの。難しいところは何もない。いずれにしても異星人性善説が根底にあるが,シナリオ的には政府(?)側の対応が嫌らしく,かつ極端に描かれるところも含めて,シナリオにはなんでやねんと思わせる部分は多々ある。だが,そういうことを言うのが野暮とも思える映画であった。

今となっては特撮にも時代の流れを感じさせる部分はあるが,まぁこれはこれで見ても損はない。だが,もはや高齢者の仲間入りをした私としては,このファンタジー度は行き過ぎというところもあり,そうした点では「未知との遭遇」の方が楽しめたというのが正直なところ。まぁそれでも星★★★★ぐらいにしておこう。

本作のBlu-rayへのリンクはこちら。

2026年8月 8日 (土)

多彩なゲストを迎えたTerri Lyne Carringtonの新作。

Trip-the-night-fantastic"Trip The Night Fantastic" Terri Lyne Carrington & Social Science

私のレーダーには全く引っ掛かってこなかったのだが,このTerri Lyne Carringtonが率いるSocial Scienceは2019年に"Waiting Game"というアルバムをリリースしていて,これが第2作となるようだ。そもそもSocial ScienceというバンドはAaron Parks,Matthew Stevens,Morgan Guerinという実力者から構成されていることさえ知らなかったんだから,私のチェックの甘さも問題ありだと思ってしまう。

Terri Lyne Carringtonは"We Insist 2025!"もリリースしていて,音楽において主義主張を明確に打ち出す人だが,本作も同様にさまざまな問題意識を発露するものだ。曲目が全て"~Song"となっているところにもそうしたところが表れていると言ってよいだろうが,そこに迎えるのが多様なゲスト陣で,Arooj Aftabまで参加しているのには驚いてしまう。

ここに収められた演奏は実に耳当たりのよい仕上がりで,時にアフリカ的な風味も交えつつ,基本はソウル/R&B的なサウンドが支配的。それゆえジャズ的な響きを期待する向きには合わない音楽である。しかし,Terri Lyne Carringtonはストレートなジャズだけを演奏するプレイヤーではないし,Mosaic Projectも同じような響きを持っていたから,雑食系音楽リスナーである私にとってはこうthew Steいうのは全然OKである。

Arooj Aftabが入った"Prayer Song"こそアンビエント的に響くが,後半に出てくるSpoken Wordとも溶け合っているし,その前に入っている"Solidarity Song"ではMarc Ribotが個性的なギターを聞かせるという,まさに多様な音楽性が違和感なく混ざり合ったアルバムと言ってよいだろう。星★★★★。こうなったら前作,"Waiting Game"も聞かねば。尚,下記のPersonnelは必ずしも正しくない部分がありえることはご了承願いたい。

Personnel: Terri Lyne Carrington(ds), Aaron Parks(p, key), Mattew Stevens(g), Morgan Guerin(b) with Ledisi(vo), Arooj Aftab(vo), Michael Mayo(vo), Miki Howard(vo), Fatoumata Diawara(vo), Debo Ray(vo), Christie Dashiell(vo), Lizz Wright(vo), Vuyo Sotashe(vo), Safa(vo), Imani Rousselle(vo), Ian Michael(vo), Brandee Younger(harp), Marc Ribot(g), Larry Goldings(key), Rashaan Carter(b), Simon Moullier(vib), Riley G(perc), Brenda Navarrete(perc), Nappy Nina(MC), Kokayi(MC), Kassa Overall(MC), Khemist(MC), J. Ivy(spoken words), Aja Monet(spoken words) , Tarriona 'Tank' Ball(spoken words), Moor Mother(spoken words)

2026年8月 7日 (金)

Maria Schneider Orchestra@Blue Note東京参戦記。

Maria-schneider-at-blue-note

Maria Schneiderが現在最高のコンポーザー,アレンジャーであることに異論を差し挟む余地はないだろう。そんなMaria Schneiderが9年ぶりに来日するとあってはこれは聞きたいと思うのが筋である。しかもこのオーケストラは,自身でリーダーとなりうるメンツが揃っているという豪華な編成なのだ。日頃,ビッグバンドの音楽を好んで聞く訳ではない私でも,音楽的な関心により今回のBlue Noteの公演に足を運ぶことには何の躊躇もなかった。結構チャージは高いとしてもだ。これは「イベント」として聞かねばならないと思わせるライブなのだ。

Maria-schneider-set-list 今回のライブでは毎回セットリストが変わるというファンにとってはたまらないイベントなのだが,私の席はMaria Schneiderのすぐそばだったので,セットリスト(+ソロイスト)が目に入った。確かに1stと2ndで全く曲目が違う。そして始まった演奏はこれぞコンテンポラリーなビッグバンドのあるべき姿とでも言うべき素晴らしい演奏の数々であった。

そもそもこのオーケストラは優れたメンバーが揃った上に,それを率いるのが当代随一のコンポーザー,アレンジャーであるMaria Schneiderなのだから悪いはずはないのだが,こちらの期待値を軽く越えた演奏の数々に大いに酔わされたのであった。まさに曲よし,アレンジよし,演奏よしの三拍子揃ったもので,ソロを取ったミュージシャンも実力発揮する環境が整っていると言えばいいだろうか。サックス陣はテナーのRich Perry以外は持ち替え楽器多数ということで,曲によって楽器を使い分けるアレンジメントを施しているのは一目瞭然という感じであった。

Maria-i-mosaic

8/5のステージでは鮮やかなショッキング・ピンクのシャツに黒のパンツという衣装に,Maria Schneiderのブロンドも映えていたが,私の席は最前列のかぶりつきだったので,彼女のお尻を眺めながら聞いていたようなものであった(爆)。しかし彼女の指揮っぷりは並みいるミュージシャンたちを自在に使いこなすというところで,リーダーかくあるべしという感じがした。アンサンブルも各人のソロも上々で,とにもかくにも素晴らしいライブであった。

そして終演後,ロビーにいたMaria Schneiderに声を掛けて,図々しくも一緒に写真を撮ってもらったので,私の顔にはモザイクを掛けて貼り付けておこう。この図々しさは一生なおらないな(笑)。それにしてもMaria Schneiderは笑顔の素敵な人である。私とほぼ同い年とは思えぬ若々しさだ。一方,私の腹が出ているのはご愛嬌ってことで...。

トップの写真はBlue Note東京のWebサイトから拝借。こちらの写真は初日8/4の模様。

Live at Blue Note東京 on August 5, 2023 2ndセット

ersonnel: Maria Schneider(comp,cond), Steve Wilson(as, fl), Dave Pietro(as, fl), Rich Perry(ts), Donny McCaslin(ts), Scott Robinson(bs), Greg Gisbert(tp), Michael Dudley Jr.(tp), Nadje Noordhuis(tp), Mike Rodriguez(tp), Keith O'Quinn(tb), Ryan Keberle(tb), Evan Amoroso(tb), George Flynn(tb), Julien Labro(acc), Jeff Miles(g), Gary Versace(p), Jay Anderson(b), Johnathan Blake(ds)

2026年8月 6日 (木)

DOMi & JD BECKの4年ぶりの新作だが...。

Who-asked "Who Asked?" DOMi & JD BECK(Blue Note)

DOMi & JD BECKのデビュー作,"NOT TiGHT"は刺激的なアルバムで,私はその年のベスト作の一枚に選んでいるし,彼らのBlue Note東京でのライブも観に行って,その才能には驚かされつつ,「サウンドのパターン化も懸念されるところもあり」なんて書いている。

そこへ4年ぶりにリリースされたセカンド・アルバムである。前作を受けての期待値もあり,早速ストリーミングで聞いた。1stとは違う感じで,サウンドのパターン化を回避しているのはわかる。ほとんどの曲でヴォーカルが入っていることも新機軸ではある。しかしそれが成功しているかと言えば,どうしてもそうは思えないのだ。

そもそも彼らの音楽のよさはタイトでスピーディーなグルーブ感だったはずだが,このアルバムでは彼らのよさであるそうしたグルーブが感じられないのだ。曲も同じように聞こえるし,前作の刺激的な要素はどこへ行ってしまったのかと言いたくなるのが人情だ。一聴しておぼえるこの違和感こそがこのアルバムへの評価ということにならざるをえない。

ミュージシャンがやりたいことと,リスナーが期待することが乖離することはこれまでだったよくあることだ。例えばMichael McDonald加入によるDoobie Brothersの音楽の大転換だ。アルバム"Takin’ It to the Streets"で見せた,Tom Johnstonが病気で活動を控える前の,いかにも豪快なアメリカン・ロック的なサウンドから,AOR的な洗練されたサウンドへの転換には戸惑ったリスナーも多かったものの,新たなファンの獲得にもつながり,アルバム"Minute by Minute"の大成功につながった。しかし,彼らが打ち出した,一聴しただけでも面白みがないとも感じる新機軸が新しいファンの獲得につながるかと言えばそれも疑問である。

私からすれば,このアルバムは"NOT TiGHT"と同じ次元で語ることはできないものであり,また聞きたいと思うかと言えば決してそうはならないだろうと言いたくなるアルバムであった。星★★。正直がっかりだ。

Personnel: Domi Louna(key, vo), JD Beck(ds, vo)

2026年8月 5日 (水)

Patrick Moraz在籍期のYesのライブ・アルバム現る。

Yes-roosevelt-stadium "Live at Roosevelt Stadium, Jersey City, NJ, 17 June 1976" Yes (Rhino)

オフィシャル・リリースだが,何ともブートレッグっぽいタイトルがまず笑える。そもそもブートで出回っていた放送音源らしいが,それを正式にリリースしただけってことなので,敢えてこのタイトルにしたのだとしたら,相当お茶目と言っておこう。

それはさておき,今だ現役のYesであるが,現在の活動には全く興味のない私でも,70年代の音源となれば,それは私が好きだった頃のYesだからまぁ聞いてみようということになる。しかもPatrick Moraz在籍時だからテンションは高いはずだ。

Patrick Moraz在籍時のライブと言えば,以前レーザーディスクでリリースされていたQ.P.R.での映像版を保有していたが,今やそれも手許にはないし,記憶からも飛んでしまっている。ということで一種の懐かしさもあって聞いたのだが,これは"Relayer"リリース時のツアーとは異なるツアーからの音源で,Partrick Morazのソロ・スペースやJon Andersonのソロ作"Olias of Sunhilow"からの曲が含まれているのが珍しいと言えば珍しい。そしてライブでの鉄板と言ってよい"Close to the Edge"も"And You And I"もやっていない。その代わり私が全然評価していない冗長極まりない「海洋地形学の物語」から"Ritual"をやっているって感じか。まぁそうは言っても"Ritual"は唯一「海洋地形学」で許せるって感じの曲なので,それほそれでよしだが(笑)。

改めて聞いてみると,Patrick Morazのキーボード・プレイは全然Rick Wakemanと違うなぁなんて感じた訳だが,フレージングも音使いも結構違いが大きかったのねぇと思っていた。ここでも演じられている"Sound Chaser"にしても,"The Gates of Delirium"にしても,Rick Wakemanがいた時と完全に曲調が違うし,そうした部分を楽しめばいいと思える。一方,Partrick MorazがYesに合っていたかと言えば,やっぱりちょっと違ったんだろうなぁというのが正直なところだが,これはこれでありだと思った。

いずれにしてももう半世紀前の音源ゆえの懐かしさが感じられた音源。まぁこの演奏であればストリーミングで十分だが(笑)。大甘で星★★★★としよう。

Recorded Live at Roosevelt Stadium on June 17, 1976

Personnel: Jon Anderson(vo), Steve Howe(g, vo), Patrick Moraz(key), Chris Squire(b, vo), Alan White(ds, perc)

本作へのリンクはこちら。

2026年8月 4日 (火)

辻村深月の「ファイア・ドーム」を読了。

Photo_20260730084801

「ファイア・ドーム」辻村深月(小学館)

椎間板ヘルニアの手術を受けた後の湯治に行った際に,滞在先の部屋でやることもないので,読み始めたこの小説をようやく読了した。辻村深月の著作を読むのはこれが初めてだが,上下巻2冊の大作ながら,面白く読めたことができた。

地方都市における犯罪と,それに巻き込まれた家族にまつわる「噂」による悲劇の増幅というのがテーマにありつつ,登場する犯罪者が同情の余地のない異常さを持つという描き方がされ,それを取り巻く登場人物は数少ない例外を除けば基本的に善人という「善悪の対比」が明確であった。ここで描かれた根拠のない「噂」がまことしやかに語られるのは,現在のSNSにおけるフェイク情報や誹謗中傷の流布に対するアンチテーゼという気もするが,ストーリーにおける「噂」の描き方や捉えられ方はやや極端という指摘も可能のように思う。ただ,人間心理としてはゴシップが人の注意を惹いてしまうという現実を踏まえれば,確かにこういうこともあるだろうとは思わせるから,そこはよしとしよう。

この小説には主要な登場人物が複数いるから,多面的な心理の描き方をする必要があったこともあってのこのボリュームという気もするが,もう少し話は圧縮できたようにも思える。しかしこれだけのボリュームでも読ませてしまうのが辻村深月の筆力ってところだろう。ミステリーとしてよりも心理的なドラマとして読む方がしっくりくる小説だと思う。星★★★★。

本作へのリンクはこちら。

2026年8月 3日 (月)

ブートに毛の生えたようなものだが,演奏が魅力的なChick Coreaのブレーメンでのピアノ・ソロ。

Chick-corea-in-bremen-1972 "Some Time Ago: Live in Germany 1972" Chick Corea(Moosicus)

このアルバムは元々ブートレッグで出回っていたものだと思うが,それをストリーミングで聞いたら,これがなかなか出来がよいと思った。CDとしても2枚組で出ており,Eコマースサイトでも購入可能となっていて,2枚目は"Return to Forever"のレパートリーをやっているのも注目なのだが,1枚目の冒頭から実にフレッシュな感覚のピアノ・ソロが聞ける。

お馴染みの曲が多い中で1枚目の3曲目はなんと懐かしや「かもめのジョナサン」(!)にインスパイアされたと思しきフリー・インプロヴィゼーション(その名も"Jonathan Livingston Seagull"とまんまのタイトルだ!と言っても,MCの内容から取っただけで,正式なタイトルではなかろうが...)というのが何ともユニーク。更にその次にはWayne Shorterの"Masqualero"をやっている。この辺りの選曲はMiles DavisのLost Quintetの残り香って感じがするのも面白かった。この2曲がこのライブの面白さを増幅させている気がするが,上昇気流に乗っている時期のChick Coreaの才気がこれらに限らず全編に渡って感じられるのがよい。また,"Children Song #1"がこの時点で既に書かれていたことを知って,へぇ~となったのであった。

2枚目のディスクは70年代前半のChick Coreaを代表すると言ってよい4曲だ。以前紹介した東京でのシークレット・ライブのブートでも3曲演奏していたが,ここでは"Crystal Silence"がソロで演じられているところがポイントが高い。どうやっても美しい曲だと改めて思う。アンコールで演じられるスピード感溢れる"La Fiesta"も含めて,ここに収められた演奏は非常にレベルが高く,当時のChick Coreaの充実度を反映していると思う。私としては後年のソロよりここでの演奏の方が圧倒的に優れていると思え,レコーディングから半世紀以上を経ても十分に聞くに値する音源と評価したい。

Recorded Live at Radio Bremen Sendesaal on October 29, 1972

Personnel: Chick Corea(p)

本作のストリーミングへのリンクはこちら。

2026年8月 2日 (日)

久々の白黒映画ネタ。ヘミングウェイ原作を見事に翻案した「殺人者」。

The-killers 「殺人者("The Killers")」(’46,米,Universal)

監督:Robert Siodmak

出演:Burt Lancaster, Ava Gardner, Edmond O'Brien, Same Levene, Albert Dekker

Amazon Primeで見た久しぶりの白黒映画ネタである。この映画はヘミングウェイの短編「殺し屋」を原作とする作品らしい。原作が描いたのはこの映画の冒頭部分のみであり,それ以外は原作を非常にうまいかたちで翻案したフィルム・ノワールだが,その翻案が見事に決まったと言いたくなる素晴らしい映画。褒めるべきはシナリオライターとしてクレジットされているAnthony Veillerであることは間違いないが,よくよく調べてみれば,シナリオにはJohn HustonやRichard Brooksも手を貸しているらしい。やはりわかってるねぇと言いたくなるシナリオである。多くの回想シーンを絡めながら,冒頭のシーンの背景を明かしていくという筋立てが実によく出来ている。

Ava-gardner Burt Lancasterにとっては映画初出演だったらしいのだが,初々しくも演技には生硬さが感じられるってところで,むしろ実質的な主演は保険調査員を演じるEdmond O’Brienの方だと言った方がいいような気がする。そしてここでのAva Gardnerはまさに典型的ファム・ファタールであるが,既にとうが立った「大地震」の頃とは異なり,20代半ばのその美貌が素晴らしい。この映画がAva Gardnerにとってのブレイク作となったというのもうなずける話だ。まさに悪女って感じの役柄なのだが,見事にはまっている。いずれにしても,Burt Lancasterにとっても,Ava Gardnerにとってもキャリア上の重要作となったと言えるだろう。

こういう映画を見ていると,まさに古き佳き時代を思わせるが,今回本作も初めて見て,まだまだこれからも色々見なければという思いを強くした私である。星★★★★☆。実に面白かった。

本作のDVDへのリンクはこちら。ストリーミングへのリンクはこちら。

2026年8月 1日 (土)

素晴らしいStan Getzの発掘音源。

_20260728_0001 "Live at Zardi's 1956" Stan Getz(The Lost Recordings)

ジャズやクラシックの未発表音源を発掘するLost RecordingsからリリースされたStan Getzのライブ音源。このレーベルは以前,日本でもライセンスしたものが販売されていたのだが,最近は直販オンリーみたいになっているようだ。本作がリリースされたことも知っていたのだが,もともとディスクの値段が高い上に送料もかかるので,よほどのことがないとなかなか手が出ないというのが正直なところであった。だが,今回セールをやっていて,それに乗っかって入手したのがこれである。それでも送料込みなら安いって感じではなかったが...。

アナログではVol.1と2に分かれた4枚もので,実はアナログの方が曲数はCD版より2曲多いのはわかっていたのだが,セールとは言え,財布の紐はそこまで緩まなかった。だが,この音源はストリーミングされていないし,Getzの魅力が一番表れるワンホーン・クァルテットでの演奏ということもあっての購入となった。

このCDは1956年6月にLAにあったZardi’s Jazzlandに出演した時の音源だが,ライナーの写真を見ると,Errol Garnerとのダブルビルの出演だったようだ。こういう組み合わせであれば,大層人気だっただろうと想像できるが,ここでもこちらが期待する安定のStan Getzの演奏が楽しめる。レコーディングされてから70年経過している割には音はちゃんと録られていて,ドラムスがやや引っ込み気味ながら,公式録音レベルに近く,今でも十分聞ける音質と思える。つくづくよくぞこんな音源が残っていたものだと思わざるをえない。発掘されたことを喜ぶべき音源。まぁGetzの50年代の演奏であれば悪いはずもないので,ファンにとっては嬉しいアルバムであった。評価もついつい甘くなり星★★★★☆。

メンツはいかにも西海岸という感じのトリオだろうが,ドラマーのGary Frommerってあまり知らないなぁと思っていたら,Tampaの"The Art Pepper Quartet"ほか,けっこうArt Pepperと共演している人であった。そうだったのかぁなんて思いながら聞いていた私である。

Recorded Live at Zardi’s Jazzland on June 22 and 27, 1956

Personnel: Stan Getz(ts), Lou Levy(p), Max Bennett(b), Gary Frommer(ds)

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