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2025年11月 9日 (日)

またも見ました白黒映画:今回の「過去を逃れて」は完全なファム・ファタールもの。

Out-of-the-past「過去を逃れて("Out of the Past")」('47,米,RKO)

監督:Jacques Tourneur

出演:Robert Mitchum, Jane Greer, Kirk Douglas, Rhonda Fleming, Virginia Huston, Rciahrd Webb

いかにもフィルム・ノワールって感じの映画である。この映画をそうしているのはJane Greer演じるKathieの悪女ぶりなのだが,私のこの手の映画体験の少なさ故もあって,なかなかここまでの悪女キャラってのもあまりお目に掛かったことがない。男を手玉に取って,自分がいい思いをするためなら何でもありみたいに描かれているのは強烈。40年代屈指のフィルム・ノワールと評されるのも,こういう人物造形あってゆえの部分があろう。

銀幕デビューして間もないKirk Douglasも出ているが,男優ではRobert Mitchumのハード・ボイルドな部分も示しつつ,Jane Greerに騙されるところは騙されるというのも面白い。結局美形には弱いのだ(笑)。そして主役,準主役,脇役という感じで出てくる女優陣であるJane Greer,Virginia Huston,Rhonda Flemingが個性は異なるものの,3人ともなかなかの別嬪なのも眼福と思えてしまう。それぞれが順に悪女,清楚系,何を考えているか謎という類型で描かれるのも大いに結構。

この映画は後にDVDではリリースされたとは言え,結局日本では未公開に終わったらしいが,それが不思議にも思える作品。星★★★★☆。因みに「カリブの熱い夜」は本作のリメイクだそうだ。へぇ~。

本作のDVDへのリンクはこちら。ストリーミングへのリンクはこちら

2025年11月 8日 (土)

Clapton温故知新。

_20251105_0002 "E.C. Was Here" Eric Clapton (RSO)

久しぶりに聞いたブルーズ感覚溢れるEric Claptonのライブ・アルバム。ここに収録されている曲はほとんどがリミックスされて"Crossroads 2 (live in seventies)"という4枚組ボックスに収録されているので,音が改善されているそっちは聞いても,こっちを聞く回数はあまり多くない。だが,ここに収められた演奏はブルーズ基本なのに対し,ボックスはより幅広いセレクションなので,ブルーズ・ロックにどっぷりつかりたければ,本作かボックスのディスク1を聞くというのが正解だ。4枚組のディスク1には"Further on up the Road"以外は収録されているから似たようなものなのだ。

このCDのブックレットには詳しい録音場所は書いていないが,4枚組ボックスで明らかになっている。不思議なのは本作に入っている"Further on up the Road"とボックスの同曲だけがテイクが違うことだが,そんなことは大して気にならないぐらいのカッコよさであることは間違いない。しかし,どうせなら4枚組のディスク1に入れた方が本作との一貫性,関係性が保ててよかったようにも思えるが...。

それにしても,ブルーズを弾きまくるEric Claptonの素晴らしさを改めて堪能できると言ってもよいが,このCDで復活した音源として,アナログ時代には入っていなかった"Ramblin' on My Mind"におけるスライドの響きに痺れない人間はいないだろう。いくらアナログの収録時間に限界があるからと言って,この演奏を省いたアナログ盤の編集方針はちょっとなぁ...と思ってしまう。今やディープでヘヴィなギターを堪能できるからいいようなものの,本作に関して言えばアナログだけではもったいないのである。

この頃のバック・バンドは魅力的なメンツが揃っていたし,Eric Claptonの鬼のようなギターも聞きどころ満載で,改めてこの頃のEric Claptonのよさを再認識したのであった。後年のライブ・アルバムより圧倒的にこっちの方がいいのではないかとも思え,ついつい星★★★★☆としてしまうのである。今更ながらであるが,Yvonne Ellimanとの相性もよかったと思え,二人によるデュエットはなかなか素敵である。

Recorded Live at Varios Venues in 1974

Personnel: Eric Clapton(vo, g), George Terry(g), Dick Sims(key), Carl Radle(b), Jamie Oldkaer(ds), Yvonne Elliman(vo), Mercy Levy(vo)

本作へのリンクはこちら

2025年11月 7日 (金)

今にしてみればリーダーが一番マイナー?とでも言いたくなるBruce Gertzのアルバム。

_20251105_0001"Blueprint" Bruce Gertz Quintet (Free Lance)

主題の通りである。ベーシスト,Bruce Gertzのアルバムであるが,リーダーには悪いが,メンバーからすれば一番名の通っていないのがリーダーだと思いたくなってしまう。まぁそうは言っても私がこの人を知っているのはJerry Bergonzi人脈としての訳なのだが,Bruce Gertzはバークリーで教鞭を執る方がメインの活動だったようだから,アルバムはそこそこあっても,なかなか表に出てこない(出てこれない)というのが実態だったのではないか。

そしてこのアルバムだが,クインテットと言いつつ,編成はいろいろなパターンで行われており,5人揃っての演奏がなかなか出てこないというのはどうなのよと思ってしまうところもある。だが演奏自体はメンツがメンツだけに破綻はないし,特にこの当時のJerry Bergonziは好調だった時期のはずなので,Bergonziのフレージングを聞いているだけでも嬉しくなってしまうというところだ。また,ジョンアバことJohn Abercrombieのソロも刺激的。曲は全てリーダーのオリジナルだが,曲の魅力と言うよりもBergonziやジョンアバのアドリブの魅力の方が上かなぁというのが正直なところだ。Joey CalderazzoはBlue Noteから初リーダー作"In the Door"をBlue Noteから出した頃と重なる時期だが,ここではまだまだ控えめにピアノを弾いているという感じか。

面白いのはこのアルバムがフランスのレーベルから出ているというところ。本国のレーベルでは無視されそうな面々のアルバムを米国以外のレーベルが出すというところが,この当時の状況と言ってもいいかもしれない。それでも演奏とは相応に聞きどころもあり,見逃すには惜しいと思えるアルバム。星★★★★。

Recorded on February 28 & March 1, 1991

Personnel: Bruce Gertz(b), Jerry Bergonzi(ts), John Abercrombie(g), Joey Calderazzo(p), Adam Nussbaum(ds)

本作へのリンクはこちら

2025年11月 6日 (木)

兄貴の"Life"を久しぶりに聞く。

_20251102_0001 "Life" Neil Young and Crazy Horse(Geffin)

兄貴ことNeil Youngの多作ぶりにはもはや追随できなくなっている私だが,以前はアルバムが出ればほぼ確実に入手していたのも今は昔である。本作は1987年リリースなので,全部ではないとしても,結構兄貴のアルバムを買っていた頃だ。ただ,この時期,Geffenレーベルとは折り合いが悪かったようで,レーベルからすれば自分の趣味じゃなく,もっと売れるアルバムを出せよって感じだったことは想像に難くない。

このアルバムに関してはフォーク・タッチの曲や兄貴にしてはポップに響く曲もあれば,後のグランジの萌芽となりそうな曲が混在していて,やや捉えどころがないと言ってもよいように思う。私がこのアルバムの後,兄貴のアルバムを買うのは"Ragged Glory"になるのだが,この頃の私は兄貴のアルバムもちゃんと選択して購入しようとしていた時期かもしれない。やはりGeffenレーベルでのアルバムの捉えどころのなさは私にも相応の影響を与えていたはずだからだ。

しかし,よくよく調べてみると,この音源がもとはほとんどがライブ音源で,そこにオーヴァーダビングを施したものであることを考えると,兄貴とCrazy Horseのライブでの演奏能力の高さが実証されていることは間違いない。このアルバムが異色なのはシンセサイザーが結構使われているところかもしれないが,その辺はJoni Mitchellの"Dog Eat Dog"に近い部分を若干感じる。そうは言っても"Dog Eat Dog"ほど極端ではないので,そんなにデジタル臭さないが,ごちゃまぜ感はやはりあるよなぁってところ。それでもよくよく聞けばかなりいい曲が揃っていて,私にアンビバレントな感覚を残すので星★★★★。

Personnel: Neil Young(vo, g, hca, key), Poncho Sampedro(g, key, vo), Billy Talbot(b, key, vo), Ralph Molina(ds, vo), Jack Nitzsche(vo)

本作へのリンクはこちら。 

2025年11月 5日 (水)

Dionne WarwickボックスからDisc 3を聞く。

Here-i-am_20251101183601 Dionne Warwickの12枚組ボックス,"Make It Easy on Yourself: The Scepter Recordings 1962-1971"から今日はDisc 3。このディスク3は"Here I Am"と"Here Where There Is Love"の2枚のアルバムをカップリングし,ボーナス・トラックを3曲追加したもの。

"Here I Am"には特大のヒット曲は収められていないが,"I Love You Porgy"なんかを歌っているのが珍しいと言えば珍しいが,それでもほとんどは安定のBurt Bacharachサウンドと言ってよいので,ヒット曲があろうがなかろうが楽しめることは間違いない。だが少々地味だと思われても仕方がない部分があるのは事実だと思う。

Here-where-there-is-love しかしこのディスク3においてはもう一枚の"Here Where There Is Love"の方がはるかにDionne Warwickの魅力を示すものと思うし,曲も粒揃いだ。究極は"Alfie"(これがシングルのB面だったというのは信じがたいが)だと思うが,"Alfie"に限らずここにはBurt Bacharachサウンドに乗ったDionne Warwickの良さが凝縮されているとさえ感じてしまう。彼らに期待する音がここには詰まっていると思うし,これまで聞いてきたアルバム群においては,コラボレーションの成果としての一つのピークだったと言ってもいいのではないだろうか。まぁBob Dylanの「風に吹かれて」がDionne Warwickに合っているかは微妙だが,ここまでオリジナルと違うかたちならこれはこれでありだ。

このボックスに関してはいつも書いていることだが,やっぱいいですわぁ(笑)。

2025年11月 4日 (火)

このブログにKansas初登場 (笑)。

_20251101_0001 "Point of Know Return" Kansas(Columbia)

邦題は「暗黒への曳航」だ。私はKansasのアルバムはこれとライブ盤の2枚しか保有していないし,両方とも中古で安く仕入れたはずだから,ファンでも何でもない。だから,ブログを開始以来,初のKansasに関する記事のアップである。

改めてこのアルバムを聞いてみると,この頃のKansasというバンドは相応の勢いを感じさせる。「アメリカン・プログレ・ハード」とも位置付けられるプログレ的な音作りは,ツイン・キーボードとヴァイオリンによるところが大きいと感じさせるが,今となっては少々時代を感じさせるものと言っても,私のようにロックは70年代中心の人間にとってはフィット感が大きいのだ。完全にプログレ的な音が支配する中で,突然登場するアコースティック・ギターが印象的な"Dust in the Wind"はアルバムにとっていいスパイスのようになっているように思う。

今にして思えば,少々の仰々しさと多少の曲の出来不出来はあるが,全体的には結構よく出来たアルバムだったなぁと思えるで,これならストリーミングでほかのアルバムを聞いてもいいように思えたこれが本当の温故知新。その前に手持ちのライブ盤,"Two for the Show"を聞くのが先か(笑)。本作はミキシングのせいか,音が軽いのがちょっと惜しいように思えるが,十分星★★★★には値する。

Personnel: Steve Walsh(vo, org, synth, vib, perc), Kerry Livgren(synth, key, g, vo), Robby Steinhardt(vo, vln, vla), Rich Williams(g), Dae Hope(b), Phil Ehart(ds, perc)

本作へのリンクはこちら

2025年11月 3日 (月)

90歳を過ぎてもまだまだ現役,ナベサダのストリングス付きライブ盤。

Hope-for-tomorrow"Hope for Tomorrow" 渡辺貞夫(Victor)

ナベサダこと渡辺貞夫は既に92歳となっているが,来年には"California Shower"を再演するツアーもアナウンスしていて,高齢者としては考えられないようなアクティブな活動を続けている。そんなナベサダが昨年の12月にストリングスを従えて行ったライブの実況盤をストリーミングで聞いた。このレコーディングが行われた時だって,既に91歳だ。私が最後にナベサダのライブを観たのは2019年のBlue Note東京でのことだった(そのライブに関する記事はこちら。)が,その時にも驚かされたのに,まだまだ驚かさせてくれるわが同郷のナベサダである。

この時のストリングスは20人からなる結構な編成だったそうだが,まずこのストリングスのアレンジを誰がやったのかと思いたくなる適切さにまず感心してしまった。私はストリングスものの最高傑作はWynton Marsalisの"Hot House Flowers"だと信じて疑わないが,同作を想起してしまうぐらいのレベルだと思っていた。

そうしたストリングスをバックに,ナベサダは気持ちよさそうに吹いているが,さすがに音は昔に比べればソフトになった感じがするものの,フレージングには全く衰えを感じさせないのは凄い。バックのトリオも実力者なので安心感があることも効いているとは思うが,当時91歳にしてこの演奏ぶりはもはや化け物の領域に入ってきたと言ってもいいかもしれない。しかし,ナベサダの年齢を考えれば,やはりこれは評価しなくてはならないだろうということで,星★★★★☆。半星引いたのは,開催時期を踏まえて演奏されたであろう"Sonho de Natal(邦題は「クリスマス・ドリーム」)"が曲として私として魅力を感じられなかったことによる。私にとってはこの曲は蛇足であった。

とは言え,これは味わい深く,なかなかいいアルバムだと思う。

Recorded Live at Various Venues on December 15, 18, 20 & 21, 2024

Personnel: 渡辺貞夫 (as), Russell Ferrante (p), Ben Williams (b), 竹村一哲 (ds), 押鐘貴之ストリングス 

本作へのリンクはこちら

2025年11月 2日 (日)

今回見た白黒映画は「絶壁の彼方に」。タイトル通り絶壁が出てくるのねぇ。

State-secret「絶壁の彼方に("State Secret")」(’50,英)

監督:Sidney Gilliat

出演:Douglas Fairbanks, Jr., Glynis Johns, Jack Hawkins, Herbert Lom, Walter Rilla

逢坂剛と川本三郎の「さらば愛しきサスペンス映画」でも絶賛されていたこの映画を見た。架空の国における重大な原題通りの「国家の秘密」を知ってしまったDouglas Fairbanks, Jr.演じる医師の逃避行を描いたものだが,架空の国の言葉が何を言っているのかわからないというところにこの映画のサスペンス的意義がある。

主題の通り,逃避行の中で国境越えを図るために登山映画のような趣になるのがなかなか面白いが,監督のSidney GilliatはAlfred Hitchcockの「バルカン超特急」のシナリオも書いた人なので,同じような架空の国を舞台にするのもなるほどと思えてしまう。まぁ,ヒロインを演じるGlynis Johnsの巻き込まれ具合とか,エンディング等はどうなのよと思わせる部分もあるので,この映画がそれほど絶賛に値するかなぁと思えるが,それでも1950年という時代を考えれば,このハラハラドキドキ的な展開は相応に刺激的だったんだろうと感じられるものであった。星★★★★。

Jack-hawkins 尚,甚だ余談ながら,Jack Hawkinsが数々の名作に出演した名優だと認めつつ,この映画でのJack Hawkinsがザキヤマに見えて仕方なかった私であった(爆)。

本作のDVDへのリンクはこちら。ストリーミングへのリンクはこちら

2025年11月 1日 (土)

リリースから35年!今なお瑞々しさが変わらないPrefab Sproutの傑作。

_20251023_0001 "Jordan: the Comeback" Prefab Sprout (Epic)

このアルバムがリリースされたのが1990年だから,購入したのは私のNYC在住中だったはずだ。そもそもアメリカ音楽指向の強い私がなぜこのアルバムを購入する気になったかは記憶の彼方ではあるが,店頭でプレイバックされていたのを気に入った可能性が高い。あるいはジャケの色遣いに惹かれた可能性もあるが,本作は心から買って正解だと思ったアルバムとなった。とにかくPaddy McAloonのソング・ライティングのセンスが素晴らしく,35年経った今でも魅力的に響く。購入した当時も何度聞いたかわからないぐらいよく聞いたから,今回久しぶりにプレイバックしても曲をよく覚えていた。主題の通り,その瑞々しさは不変であった。

Prefab Sproutとしての最新作は私が2013年のベスト作の一枚にも選んだ"Crimson / Red"なので,それからも12年という時間が経過しているが,今後アルバムが出るかどうかはもはやPaddy McAloonのワンマン・バンドと化したPrefab Sproutゆえ,Paddy McAloonの心持ち次第ということになろう。だが,このアルバムや"Crimson / Red"におけるような音を今一度聞きたいという気持ちになってしまった。

私がブリティッシュで惹かれるのはPrefab SproutやDeacon Blueのようなバンドなので,メロディ・ラインこそが私のバンドへの思い入れの支配的要素なんだろうと思える。そうした私の音楽的な好みにストレートに刺さる大傑作だと評価したい。そしてそんなメロディ・メイカーとプロデューサーとしてタッグを組んだのがThomas Dolbyなのだ。実に素晴らしい仕事ぶりだ。もちろん星★★★★★だ。

このアルバムのライナーにはメンバーの担当楽器の記載がないが,まぁ下記のような感じだろう。そして今更気づいたが,Jenny Agutterが1曲で語りの声を聞かせている。この人,「2300年未来への旅」やそのほかにもホラー映画に結構出ていたように記憶しているが,「アベンジャーズ」にも出ていたのねぇ。

Personnel: Paddy McAloon(vo, g, p, key), Martin McAloon(b), Wendy Smith(g, p, key, vo), Neil Conti(sa, perc) with Jenny Agutter(spoken words), Luís Jardim(perc), Judd Lander(hca), Phantom Horns

本作へのリンクはこちら

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