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2025年6月30日 (月)

追悼,Lalo Schifrin。

Lalo-schifrin

Lalo Schifrinが6/26に93歳で亡くなった。この人はやはり映画,TV音楽での印象が強い人だ。代表的なのは「スパイ大作戦」(今なら「ミッション・インポッシブル」だ)のテーマ音楽を書いたということだろうが,日本国内においては「燃えよドラゴン」の印象も強いかもしれないし,私にとっては「ダーティハリー」や「ブリット」,あるいは「0011 ナポレオン・ソロ」でも記憶に残っている人である。一言で言えば,アクション映画にフィットしたカッコいい音楽を書く人であったと思う。

もともとはジャズ界ではアレンジャーとしての活躍が最初だったとは思うが,自身のアルバムも多数残していて,私はCTIに残した2枚のアルバムも保有している。正直言ってほとんどプレイバックする機会はないのだが,上述の映画/TV音楽のようなスリリングな響きとはちょっと異なる,いかにもCTI的なミュージシャンを動員した,ややイージーリスニング的とも言えそうなフュージョン・ミュージックであった。

いずれにしても,多くの人はLalo Schifrinの名前は認識していなくても,彼が書いた音楽は聞いたことがあるだろうという人であり,2019年にオスカーの名誉賞を贈られたのも頷けるそういう作曲家であった。

R.I.P.

ここはLalo Schifrinを偲んで,オリジナル「スパイ大作戦」のテーマ音楽を貼り付けておこう。

2025年6月29日 (日)

Amazon Primeで「影なき殺人」を見た。

Boomerang 「影なき殺人 ("Boomerang!")」(’47,米,Fox)

監督:Elia Kazan

出演:Dana Andrews, Jane Wyatt, Lee J. Cobb, Arthur Kennedy, Ed Begley, Sam Levene, Karl Malden, Cara Williams

私も好きだねぇと思いつつ,またもAmazon Primeで昔の白黒映画である。今回はElia Kazanが撮った実話に基づくこの映画であるが,以前取り上げた「裸の町」同様のセミ・ドキュメンタリー・タッチの映画ではあるが,後半の法廷劇となってからの展開こそがこの映画の真骨頂。

Arthur Kennedy演じるJohn Waldronの冤罪をDana Andrews演じるHenry Harveyが法廷で論理的に暴くシーンがこの映画のキモなので,フィルム・ノワール的ではあるものの,純粋フィルム・ノワールという感じでもない。現代に照らして言えば,劇中の警察の自白強要のシーンなどありえないが,まだまだこういうのがありだった時代ということを感じさせる。

そして,この映画でも感じられるのがバイアスあるいは同調圧力の恐ろしさってところか。それに対する正義の示し方という意味では非常に行儀よく作られた映画であり,脇を固める役者陣が渋い。Karl Maldenが若い刑事役で出ているが,クレジットすらないところに昔の映画らしさを感じる私であった。星★★★★。

それにしても,私はこれまでElia Kazanの映画って見たことなかったなぁなんて改めて思ってしまったが,結構映画好きとは言っても,極めて中途半端なものだと我ながら呆れてしまった。そのうち,「紳士協定」や「波止場」もストリーミングで見てみることにしよう。

本作のストリーミングへのリンクはこちら

2025年6月28日 (土)

Fred Herschの新作が素晴らしい。

_20250627_0001"The Surrounding Green" Fred Hersch (ECM)

Fred Hersch待望の新作がデリバリーされたので,早速聞いている。ECMに吹き込むようになって,これが第3作となるが,ECMでは初のトリオ作,そしてメンツはDrew Gress,Joey Baronとあっては期待するに決まっている。そしてその期待は裏切られることはない。

まさにSascha Kleisのジャケット・デザインの如き,水彩画もしくはパステル画のような響きと言えばよいだろうか。冒頭の"Plainsong"からして,これこそ我々がFred Herschに期待する音だ。美しくも抒情的な響きには心を鷲掴みにされること必定の音楽と言いたい。

全7曲中3曲がFred Herschのオリジナルで,そのほかのレパートリーがOrnette Coleman,Egberto Gismonti,George Gershwin,そしてCharlie Hadenという構成からしてこっちはまいってしまうではないか。特にCharlie Hadenの"First Song"をこのトリオがどう料理するのかがプレイバック前の最大の注目点であったのだが,私はそこに至るまでの間で,既にこのアルバムに魅了されていたと言っても過言ではない。どれもがいい演奏だが,超絶美しいタイトル・トラックやEgberto Gismontiの"Palhaço"の素晴らしさには,これはまじでいいと独り言ちた私である。

そして"First Song"だが,Drew Gressのベース・ソロから始まり,Fred Herschはこの曲のテーマ・メロディを明示的に提示しないかたちで演奏しているのが面白い。この曲にこういうアプローチで来るか~って感じだが,原曲の持つ雰囲気は維持しながら,Fred Hersch的に昇華させているところがポイントだろう。そして最後にあのメロディ・ラインを楚々とプレイして締めるのも雰囲気たっぷりである。それをよしとするかどうかはリスナー次第だが,私はこれは十分にありだと思った。

最後はFred Herschのオリジナル"Anticipation"でクロージングとなるが,冒頭のDrew Gressとのユニゾンも印象的に響いた後に出てくるFred Herschらしいソロに嬉しくなって,あっという間にプレイバック終了である。やはりFred Herschは素晴らしいと再認識させられたアルバム。昨今,ややアブストラクト度も高まっていると感じさせたFred Herschであったが,このアルバムこそ真骨頂だと言いたい。

という感じなので,私の中では今年聞いた新譜(大して聞いていないが...)の中でも屈指のアルバムと位置付けたい。喜んで星★★★★★である。このトリオで来日してくれないものかと思うのは私だけではあるまい。

Recorded in May, 2024

Personnel: Fred Hersch(p), Drew Gress(b), Joey Baron(ds)

本作へのリンクはこちら

2025年6月27日 (金)

ピアノに滲み出す知性:Vijay Iyerのソロ・アルバム。

_20250626_0001"Solo" Vijay Iyer(ACT)

ジャズ界を見渡しても,最も高学歴かつ理知的な人の一人と言ってよいVijay Iyerのソロ・アルバムである。スタンダードとオリジナルを組み合わせたプログラムと言ってよい構成だが,そこにMichael Jacksonの"Human Nature"や共演歴のあるSteve Colemanの"Games"が加わるところが一筋縄ではいかない。

"Human Nature"にしても,その他のスタンダードにしても,オリジナルの部分を一旦解体して,再構築するという感覚を覚えるが,Duke Ellingtonの"Black and Tan Fantasy"については比較的コンベンショナルに弾いているところは,Duke Ellingtonへのリスペクトって気もする。一方,オリジナルはフリー的なアプローチも感じられ,美的なフレージングとの混在にこの人の懐の広さが表れている。逆に言えば,どの部分がVijya Iyerの本音なのかというのがわからなくなってしまうが,それでも優れたピアニストであることは本作でも十分に実証されている。星★★★★。

今やECMの所属となったVijay Iyerであるが,本作を聞いていても,Manfred Eicherが目をつけるのも当然という感じのピアノの響きである。その一方,"Love in Exile"のようなアルバムも作ってしまうところは凄いねぇと思わざるをえない。まぁ,コテコテのジャズを好む向きからすれば,絶対気に食わないんだろうなぁなんて思ってしまうが,私はこの人は強力に支持したい。

Recorded on May 16 and 17, 2010

Personnel: Vijay Iyer(p)

2025年6月26日 (木)

Joe Hendersonのアナログ盤"Henderson’s Habiliment"について書くのを失念していた。

Hendersons-habiliment "Henderson’s Habiliment" Joe Henderson(Victor)

本作のアメリカ盤CDである"Joe Henderson in Japan"については既に記事にしたことがあって,そちらも私は十分興奮させてもらった。しかし,オリジナルのアナログと米国盤で曲順,曲目が違うのを知って,再発を機に本作のアナログ盤を入手していたのだが,記事にするのをすっかり失念していたので,遅ればせながらのアップである。

米盤との違いはこちらには"Black Narcissus"が収録されているが,米盤はそれに代わって"Out 'n' In"になっているのに加え,曲順が異なっていて,元の演奏がすこぶるいいので,どっちでもいいのだが,どちらを取るかは聞き手の好みの問題に過ぎない。

米国盤の対応が異なるのは,当時のレーベル・オーナーであるOrrin Keepnewsの意向が働いたものと思うが,私としてはオリジナルの通り,A面1曲目はまさにぶちかましとでも言うべき強烈な"Junk Blues"で始める方が,アルバム全体への期待を盛り上げるという観点ではよいのではないかと思いつつ,米盤にだけ入っている"Out 'n' In"も捨てがたく,これはどっちも保有しないといかんのだと結論づけるのである。

昨年発掘されたMcCoy Tynerとの"Forces of Nature: Live at Slugs'"でもそうだったのだが,晩年のJoe Hendersonと比べると,ここでもテナーの音が違うなぁと思わせるに十分で,とにかく強烈で実に熱い演奏を繰り広げていて,ついつい嬉しくなってしまうのである。こういう演奏を眼前で繰り広げられた興奮の坩堝というのはわかるが,一部の客の騒ぎっぷりが少々うるさく感じられるのが難点である。ライブの場にはたまに迷惑な客がいるのも承知しているが,やたらに叫べばいいと思っているのではないかとさえ感じる聴衆の存在は誠に残念だ。演奏が素晴らしいだけにそれを水を差すような叫び声はやめて欲しかった。

だからと言って,このアルバムの価値が下がるものではない。演奏だけを聞けば星★★★★★だ。日本人リズム・セクションも実力発揮の熱いプレイで応えるところも素晴らしい。エレピがこれほど魅力的に響くというのもこのアルバムの美点だ。

Recorded Live at the Junk on August 4, 1971

Personnel: Joe Henderson(ts), 市川秀男(el-p),稲葉国光(b),日野元彦(ds)

2025年6月25日 (水)

Doobie Brothersのアルバムってあまり取り上げていないってことで,96年のライブ盤でも。

_20250624_0001"Rockin' Down the Highway: The Wildlife Concert" Doobie Brothers (Columbia/Legacy)

私のアメリカン・ロック好きはこのブログにも何度も書いてきた。ロックで言えばブリティッシュよりアメリカン指向が非常に強いのだが,そうした嗜好を生み出した契機となったバンドの一つがDoobie Brothersであった。しかし,振り返ってみれば,このブログでDoobie Brothersのアルバムを取り上げたの実に少ないというのが実態であった。

そんなDoobie Brothersは先日"Walk This Road"という新作をリリースしたばかりだが,Michale McDonaldがメンバーとして復帰したそのアルバムもストリーミングでは聞いているが,今日はそっちではなく,96年に出たこのスタジオ・ライブ・アルバムである。

このアルバムが出た頃は,一旦解散した状態から"Cycles"で再編して,Michael McDonald加入前のTom Johnston色の強くなった音を出している時期なので,収められた演奏もそっち系列がメインであるが,そうは言ってもMichale McDonaldも3曲でゲスト参加ということで,彼が在籍した時期の鉄板ヒット曲もやっているので,まぁライブによるベスト・アルバム的趣もある。ライブ・アルバムとしては解散前の"Farewell Tour"があったが,あちらはMichael McDonald主導期であり,Tom Johnstonがゲスト扱いだったのに対し,今回は主客逆転である。

演奏される曲は結局のところ「懐メロ」なのだが,「懐メロで何が悪い!」と言いたくなるような演奏である。好きな人間にとっては,訳のわからん新曲ばかりをやられるよりはるかに潔い。

だからと言って,これが万人に勧められるかと言えば,楽しめるとは言っても,これよりはオリジナルをちゃんと聞いた方がいいよねぇというのが正直なところである。まぁ今でも現役で頑張るDoobie Brothersであるが,本作ももはや30年近く前ってことで,まだまだ声もちゃんと出ている頃なので,往時を懐かしんで聞けばいいと思う。ミキシングのせいか,ワイルド感はやや薄い気がするが,イコライザーで音を調整すればいいって感じか。星★★★☆。それにしても一時期は正式メンバーだったCornelius Bumpusがここではバックアップ・ミュージシャン扱いなのはちょっと可哀想な気がする。まぁメンツに書かれているサポート・メンバーのDanny Hullがサックス掛け持ちなので,そちらが優先されたってことだろうが,それにしても...って感じだ。

Recorded Live at Sony Music Studio on May 5 & 6, 1996

Personnel: Tom Johnsoton(vo, g), Patrick Simmons(vo, g), Michael McDonald(vo, key), Keith Knudsen(ds, vo), Michael Hossack(ds), John McFee(g, strings, vo), Skylark(b), Dale Ockerman(key, g, vo), Danny Hull(key, sax, hca, vo), Cornelius Bumpus(key, sax, vo), Carlos Guaico(vo), Buck Johnson(vo), Guy Allison(key)

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2025年6月24日 (火)

保有していることもすっかり失念していたRobert Hurstのアルバム。

Robert-hurst "Robert Hurst Presents Robert Hurst" Robert Hurst(DIW)

主題の通り,このCDを保有していることもすっかり失念していた私である。Robert Hurst(あるいはBob Herstと呼んでもいいが))のアルバムでありながら,参加している当時のバンマス,Branford Marsalisのアルバムと並べて置いているからそうなっても仕方ないか(爆)。そう言えばこの人の"One for Namesake"もKenny Kirklandのアルバムとして扱っているような私であり,Robert Hurst本人には申し訳ないが,そういう位置づけの人なのだ。

本作は当時のBranford Marsalis Quartetのメンツに,トランぺッターMarcus Belgraveと,一部にRalph Miles Jones IIIなるホーン・プレイヤー(バスクラとバスーンというのが珍しい)を迎えた編成なので,ついついBranfordやKenny Kirklandの方に目が行ってしまう。

そうは言いながら,出てくる音はコンテンポラリーな感覚を持つアコースティック・ジャズで,ここでのRobert Hurstのベース音やソロはなかなか魅力的な野太い音を聞かせている。ベースってのはこういう音であるべきだと思わせるが,その一方でライナーを書いているのがMr. 増幅(笑),Ron Carterなのには笑ってしまう。曲もMonkの"Evidence"以外はリーダー,Robert Hurstのオリジナルということで,なかなかの力作となっていたことに今更ながら気づく。そして,アップ・テンポの曲ではJeff Wattsの煽りが強烈で,このリズムはやはり強力であったと再認識。それに比べると,Kenny Kirklandのピアノのミキシング・レベルが低く,Jeff Wattsが目立ち過ぎじゃないのかと思わせる瞬間もあるのはちょっと惜しい気もする。

しかし,実力のあるミュージシャンが集まれば,それなりの音楽が出来てしまうことを実証したアルバムではあった。星★★★★。

ところで,Ralph Miles Jones IIIが一部で吹いているバスーンは,別名ファゴットであり,この二つの名前の楽器が同じものであることは意外と認識されていないように思える(そう思っているのは私だけ?)。そんな中でジャズのアルバムでこの楽器を使った演奏はあまり記憶にないのだが,ブログの記事を振り返ってみると,この楽器を使っているアルバムは結構あった。まぁほぼビッグバンド系列の中での使い方が。本作における存在意義は否定はしないが,敢えて入れる意味があったかと言うと,ややそれは疑問だと言っておこう。

Recorded between August 20 and 23, 1992

Personnel: Robert Hurst(b), Marcus Belgrave(tp, fl-h), Branford Marsalis(ts, ss, as, cl), Kenny Kirkland(p), Jeff 'Tain' Watts(ds), Ralph Miles Jones III(b-cl, bassoon)

本作へのリンクはこちら

2025年6月23日 (月)

Gary BurtonとKirill Gersteinの共演音源が発見され,ストリーミングでリリース。

The-visitors "The Visitors" Gary Burton and Kirill Gerstein(ECM)

Chick Coreaのメルマガで告知されていて知ったのだが,Chick Coreaが書いた曲をGary Burtonとクラシックのピアニスト,Kirill Gersteinがデュオで演奏した"The Visitors"の音源が発見されて,1曲だけながらECMからデジタル・オンリーでリリースされたことを知って,早速聞いてみた。

もともとこの曲はKirill GersteinがChick Coreaに委嘱して書いてもらった曲らしい。不勉強にして今回知ったのだが,Kirill Gersteinは現在はクラシックのフィールドで活躍しているが,わずか14歳でバークリー音楽院で学んだ経験があるらしく,それを実現させたのがGary Burtonらしい。当時はジャズをやっていた訳だが,その後クラシックにフィールドを移したということにはなるものの,Gary Burtonとの師弟関係は続いていたということになる。

この曲は書いたのがGary Burtonの盟友,Chick Coreaであるから,Gary Burtonの美点を引き出す術を知って書いたということにもなろうが,やはりCorea~Burtonの演奏と印象が被るところがあるのは当然だろう。いかにもGary Burtonらしい演奏が楽しめる。Kirill Gersteinのピアノも非常に粒立ちがはっきりしていて,演奏の相性は実によいと思える。Chick Coreaが存命であれば,自分でもこの曲をGary Burtonとやったのではないかと想像をかき立てる演奏である。一方のGary Burtonは引退して暫くの時間が経過しているが,この演奏が行われた2012年当時はまだまだ現役バリバリであり,素晴らしい演奏を聞かせている。

ダウンロード・オンリーとは言え,こうした音源をECMの総帥,Manfred Eicher自らがKirill Gersteinともどもミキシングに関わり,そしてChick Coreaの誕生日である6月12日に公開するというところに,Manfred Eicherの思い入れを感じるのは私だけではないだろう。きっとこれが縁となってKirill GersteinがECM New Seriesに登場する日も来るのではないかと想像させる音源であった。

Recorded Live in 2012

Personnel: Gary Burton(vib),Kirill Gerstein(p)

2025年6月22日 (日)

たまには近年の映画もってことで,Amazon Primeで見た「クラッシュ」。トランプ支持者に見せたいもんだ。

Crash 「クラッシュ("Crash”)」(’04,米/独,Lions Gate)

監督:Paul Haggis

出演:Sandra Bullock, Don Cheadle, Matt Dillon, Jennifer Esposito, Brendan Fraser, Chris "Ludacris" Bridges, Thandie Newton, Michael Peña, Ryan Phillipe, Larenz Tate

昨今は往年のフィルム・ノワールばかりAmazon Primeで見ていたので,気分を変えて今回は2004年のオスカーで作品賞も獲ったこの映画を見た。前にも書いたが,私は一時期(と言っても80年代後半~今世紀初頭ぐらいだから結構長い)ほとんど劇場で映画を見ない生活を送っていたので,この映画も初見だったのだが,実によく出来た映画であった。

LAを舞台とする一種の群像劇で,多様なキャラクターが登場するが,そこに存在するのは人種による差別や家族や組織内の分断,対立,問題であり,救いようのないエピソードが複合的に描かれる。こういうタイプの映画は「ナッシュビル」や「ラブ・アクチュアリー」等があるが,この映画は極めてシリアスなのだ。ほとんどが救いようのないエピソードの中で,ちょっとした「救済」も織り込んでくる脚本がうまい。悪い奴が実はいい人に見えてきたり,いい奴と見えた人間が悪の世界に落ちるというのも皮肉が利いているのだ。そして,トップ・キャスト以外の役者陣もストーリー上で上手く連動させるのはまさに見事。そういう映画であるから,オスカーで作品賞に加え,脚本,編集でも受賞したのも頷ける映画であった。

私は映画を見ながら感服もしていたのだが,この当時のアメリカ以上に現在のアメリカは分断が進んでしまっている中で,この映画をMAGA,あるいはトランプの支持者が見たらどう思うかとずっと考えていた。むしろ彼らこそこういう映画を見るべきではないのかとさえ感じていたのだ。製作されて20年以上の時が経過しているが,今こそこの映画を見て,いかに差別や分断が空しいかを改めて感じるべき時だと思える。

いずれにしても,決してスカッとするような作品ではないが,この映画を見られてよかったと強く思えた。星★★★★★。

本作のBlu-rayへのリンクはこちら

2025年6月21日 (土)

Klaus Mäkelä+パリ管@サントリー・ホールを振り返る。

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既にお知らせの通り,若き俊英,Klaus Mäkeläが振るパリ管を聞きに,サントリー・ホールに行ってきた。サンサーンス「オルガン付き」に,ベルリオーズ「幻想」という濃い~プログラムであるから期待も膨らむ。振り返ってみれば,海外のオケを聞くのは2022年のボストン響以来なので,およそ2年半ぶりのことになる。チケット代も高騰しているから,国内オケはさておき,海外オケの演奏会にはそうは行けないというのも事実だし,ほかのジャンルのライブにも通っているので,まぁ仕方ないのである。

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今回は2階のステージ横の席からということで,Mäkeläの表情がよく見える席であったが,上の写真は前日のミューザ川崎での模様ながら,まさにこのような表情で,特に「オルガン付き」では譜めくりをしながらも楽しそうに振る姿が印象的であった。この表情を見るだけでも演奏の成功は保証されたようなものであった。

「オルガン付き」にしても「幻想」にしてもフランス音楽の中でも,最も派手めの選曲ということになると思うが,聴衆の期待を裏切らない強烈な躍動感を感じさせる演奏で,私は心中「お~,いぇい」と思っていたのであった(笑)。ことに私がひとかたならぬ思い入れのある「幻想」については,先日ストリーミングで聞いたアルバムでの演奏をはるかに越えるダイナミズムには,まじでワクワクしてしまった。

そもそも第一部の「オルガン付き」から尋常ならざる盛り上がりっぷりで,こんなにやっちゃって第二部は大丈夫なのかとさえ思ってしまったが,上述の通り,全編楽しそうに振るMäkeläを見ていると,「若いっていいねぇ」なんて年寄臭いことを思っていた私であった。オルガニストは,パイプ・オルガンのところに鎮座するのかと思ったら,ステージ上にオルガンらしきものがあり,そこで弾いていたのだが,聞いているとそれが後方のパイプ・オルガンと連動していて,へぇ~と思ってしまった。どのように連動させているのかは全く謎だったが,これもテクノロジーの進化か。

そして「幻想」である。私が感心したのは,私があまり面白いと思っていない3楽章でさえ聞かせる演奏だったことで,全編を通じてオーケストラを鳴らせるMäkeläの技術は大したものだと思っていた。弦も管もパーカッションも鳴らしまくりであったが,オケのメンバーを見ていて,前半はほぼ出番のない金管部隊が手持ち無沙汰のようにしていたのがおかしかったが,4楽章以降にそれまでのうっ憤を晴らすようにさえ思える吹きっぷりで応えていた。それにしても,パリ管の木管の上手いのには正直驚いてしまった。特にリード・ファゴットの演奏ぶりは横から見ているだけでも楽しかった。5楽章の「鐘」はステージの袖で叩いているのが私の席からはよく見えたのも面白かった。そして指揮台上で前後左右への動きも活発なMäkeläの指揮ぶりは,若い指揮者というのはこういうものかと思わせつつ,この人は年齢を超越した技を持っていると思えた。

そして昨今の演奏会には珍しく,アンコールは2曲。ラヴェル「クープランの墓:リゴドン」とビゼー「カルメン前奏曲」で締めたが,とにかく本チャンの2曲の印象があまりにも強烈だった。そして聴衆の熱狂ぶりも尋常ならざるものがあり,これだけ聴衆を興奮させる指揮者もなかなかいないという思いを強くした。チケット完売の理由もよくわかる。財布には痛かったが,行ってよかったと思えるまさに血沸き肉躍る激演。パリ管のメンバーが終演後ハグしあっているところにも,彼ら自身の満足感も感じられた後味もよい演奏であった。

Live at サントリー・ホール on June 19, 2025

Personnel: Klaus Mäkelä(cond),パリ管弦楽団

2025年6月20日 (金)

怪作「メガロポリス」の先行上映に行ってきた。

Megalopolis 「メガロポリス("Megalopolis")」(’24,米,American Zoetrope)

監督:Francis Ford Coppola

出演:Adam Driver, Giancarlo Esposito, Nathalie Emmanuel, Aibrey Plaza, Shia LaBouf, Jon Voight, Lawrence Fishburne, Talia Shire, Dustin Hoffman

毀誉褒貶渦巻くこの映画である。某所で先行上映会の招待券を入手して,池袋のグランドシネマサンシャインのIMAXシアターに行ってきた。このIMAXは日本で数少ないフルサイズのIMAXとして有名である。確かにスクリーンのでかさには圧倒されるというのが劇場内に入っての感想。

舞台はNYCでありながら,町の名前はNew Romeになっていて,Adam Driver演じる主人公はシーザー,Giancarlo Esposito演じる市長はキケロってな具合で,シーザーたちがパトリキで,民衆は貧民みたいなところも寓話的な映画と言えばその通りだが,ストーリーは相当シュールで訳がわからないし,シーザーの「時を止める」能力や,彼が発明してノーベル賞を受賞する特殊物質メガロンの位置づけもよくわからん。

私がこの映画を見ていて納得したのは,ポピュリズムに先導される民衆の恐ろしさ(ヒトラーやムッソリーニの映像も出てくるしねぇ)ぐらいのもので,それが結局簡単に収束してしまうように見えるのも唐突感ありありである。

この先行上映会は「パフォーマンス付き」ということになっていたが,そのパフォーマンスってのが,映画の途中で一瞬場内が点灯し,スタッフが舞台前でインタビューワーのふりをするってだけだったようだが,Coppollaがそれを求めたと言っても,見ている方からすれば,そんなものはパフォーマンスとは呼べるレベルのものではないし,敢えてやる意味もないとしか言えない(きっぱり)。

Francis Ford Coppolaが私財を投げうって本作を完成させたことには,相応の思いがあってのことだろうが,主題の通り怪作というのがこの映画を表現するに最も適切なフレーズだと思ってしまった。シーザーの母親役でTalia Shireの姿を見られたのは懐かしかったが,映画としては星★★が精一杯ってところだろう。まぁ招待券(しかもCoppolaワインのシャルドネ付き)でタダで観られたんだからいいんだけど(笑)。

2025年6月19日 (木)

Jing Chiの1stアルバムを改めて聞く。ロック心に溢れているねぇ。

_20250614_0001"Jing Chi" (Tone Center)

Robben Ford, Jimmy Haslip, Vinnie Colaiutaというパワー・トリオによるJing Chiの1stアルバムを久しぶりに聞いた。Robben FordとJimmy Haslipと言えば,Yellowjacketsの元同僚であるが,やっている音楽は相当違う。Jing ChiはRobben Fordのブルージーなロック・スタイルのギターが打ち出されており,ロック・フレイヴァーが圧倒的に強いのだ。更にそこに加わるのが何でもできちゃうVinnie Colaiutaだから,まぁパワフルなアルバムになることは容易に想像がつく。

私が保有しているCDは国内盤なので,国内盤を優先する確率が低い私のことゆえ,おそらく中古で買ったものと思うが,買った時の記憶がない...。私が輸入盤を優先していたのは価格帯やリリース・タイミングの違いもあったが,国内盤に付帯する解説やライナーにほとんど付加価値を見出していないことも大きい。だが,今や円安が進んで,輸入盤と国内盤の価格逆転現象が起こってしまっては,必ずしも輸入盤優先ということもなくなりつつある私である。

それはさておき,このアルバムであるが,ブルーズ・ロック・インストと言ってもよいような演奏というのが正直なところだ。もちろん,インプロヴィゼーションもあるから,ジャズ的な要素が皆無ではないとしても,ロック寄りの演奏と言ってもよいだろう。そこにBrian Augerをとするゲストが何曲かで加わるが,あくまでもこのトリオによる演奏が主であって,ゲストはあくまでもゲストだと言ってよい程度。

まぁ,この人たちの音楽はCDで聞くよりも,おそらくライブの方が燃えるはずの音楽だ。なかには「天国」なんて曲も入っているが,昇天するほどの興奮度をこのアルバムがもたらすかと言うと,それは少々違うような気がする。この人たちの演奏は長尺でやるべきで,フェードアウトなんかしてはいかんのだ。そういうこともあって,やはりこのバンドはライブで聞く方が楽しそうだなと聞きながら感じていた私である。彼らは数年前に来日したはずだが,丁度出張の日程と重なってしまって,見逃したのは残念だったとこのアルバムを聞いていて改めて思ってしまった私である。星★★★★。

Personnel: Robben Ford(g, vo), Jimmy Haslip(b, key, vo), Vinnie Colaiuta(ds, prog), Brian Auger(org), Dan Morris(tabla), Steve Tavaglione(EWI, prog, key)

本作へのリンクはこちら

2025年6月18日 (水)

Ben Wendel@Blue Note東京参戦記

Ben-wendel-at-blue-note

Blue Noteに7回行くと招待券をもらえるという特典には何度か世話になっているが,今回もその招待券をゲットして,さて何に行こうかというところで,そそられるものが少ない中チョイスしたのがこのBen Wendelのクァルテットであった。

私はこれまで,Ben Wendelのライブは3回観ている。最初に見たのがAntonio SanchezのバンドであるMigration,その次がNeebody,そして3回目がKendrick ScottのOracleにJohn Ellisのトラで入った時である。Antonio Sanchezの時もSeamus Blakeのトラみたいな感じだったから,彼自身が本来関わるバンドとしてはNeebodyに続く2回目ってことになるが,今回は堂々のリーダーとしての登場である。

Neebodyの時の客席スカスカ状態から転じて,サイド・シートの一部以外は埋まっている8~9割の入りの状態で,随分出世したなぁと感慨深かった。

今回はメンツもピアノがTaylor Eigsti, ベースがHarish Raghavan,そしてドラムスはBranford Marsalis QuartetのJustin Falknerというなかなかのメンツが揃っている。Ben WendelはTaylor EigstiやHarish Rahhavanとはいろいろなところで共演しているはずの一方,Justin Falknerは珍しいチョイスのように思えるが,まぁ期待できるメンバーではある。中でもTaylor Eigstiは自身がグラミーを受賞している人だが,リーダーとしてよりも,バンド・メンバーとしての活動が多いところが奥ゆかしいが,実力は折り紙付きだ。

今回のライブは全員が実力を発揮したライブだったと思うが,このバンドをドライブしていたのはJustin Falknerのドラムスだったと思う。冒頭の"January"から強烈なプッシュでバンドを煽る感じで,そのピークがアンコール前のソロも聞かせた"Proof"がピークって感じだった。そうしたドラムスの煽りに,エフェクターを一部で効かせたBen Wendelのテナー,好フレーズを連発するTaylor Eigsti("Grammy Winner!"と茶化されていた),そして堅実にバンドを支えるHarish Raghavanということで,非常にバランスのよいものであった。

正直言ってVanguardでのライブ・アルバムが少々地味な感じがしたこともあったが,これなら確実に今回のライブの方がよかったという感じで,聴衆も満足なら,バンド・メンバーの満足感も高かったのか,演奏終了後,4人全員がロビーに出てきてサイン会(アルバムを売っていたのはBen Wendelだけだから握手会か)をしていたのも珍しい。

今回は招待券ということで,大した期待もしないでの参戦だったが,十分に満足できる演奏であった

尚,当日の演奏曲目は曲順や正確性は怪しいが,次のような感じであった。もう1曲やったかな...(曖昧)。上の写真はBlue Noteのサイトから拝借。

  1. January
  2. In Anima
  3. On the Trail
  4. Scosh
  5. Proof
  6. (EC) July

Live at Blue Note東京 on June 16, 2025,2ndセット

Personnel: Ben Wendel(ts),Taylor Eigsti(p), Harish Raghavan(b), Justin Falkner(ds)

2025年6月17日 (火)

Gustav Leonhardtの「ゴルトベルク」を久しぶりに聞いてみる。

Leonhardt-goldberg "Bach: Goldberg Variations" Gustav Leonhardt (Teldec)

私は学生の頃から古楽のアルバムを結構買っていたが,多くはCDに置き換わっており,今やアナログで残っているのはSeonから出たヘンデルの「木管ソナタ」,Pro Cantione Antiquaのルネサンス・ポリフォニーの6枚組,そしてGardinerが振ったヘンデルの「ヘラクレス」ぐらいのものだ。しかし,ヘンデルの木管ソナタも今やSeonの85枚組ボックスにも入っているから,持っている必要があるのか?と言われれば疑問だし,ほかの2組も久しく聞いていない。今でもSeonのボックスは手軽に取り出せる場所に鎮座しているので,たまに思い出したように聞いているが,その程度の聞き方になってしまった。まぁいろんなジャンルの音楽を手広く聞いているのだから仕方がないのだが,それでも気まぐれというのはたまに起こるのが常だ(笑)。

ということで,今日はGustav Leonhardtによる「ゴルトベルク」である。気まぐれと言っても,今回の気まぐれには契機があって,ブログのお知り合いのmonakaさんがこのアルバムをご紹介されていたことが影響しているから,正確には気まぐれではないか...。

私が以前保有していたのはHarmonia Mundi盤だったはずだが,実は以前はその演奏にはピンと来ていなかった記憶がある。音のせいなのか,Leohardtのテンポの取り方のせいかはもはや記憶が定かではないのだが,当時はピアノ盤の方が私にはフィットしていると感じていたのかもしれない。と言うより当時のGould新盤のインパクトの方が強過ぎたってところか。Leonhardtの演奏はSeonの「フランス組曲」なんてそれこそいいねぇと思っていたから,やっぱりGouldのせいか?(笑)。それでもって,今回はHarmonia Mundi盤の前に,LeonhardtがTeldecに吹き込んだ60年代の演奏をストリーミングで聞いた。

そして,これが実に耳に心地よいのだ。ストリーミングで聞いてもこれは音がよかったのではないかと思えるような演奏であった。改めてチェンバロで聞く「ゴルトベルク」の魅力を再認識した私であったが,こういうのが契機になって,また手持ちのCDやアナログを聞き返す機会になるのだから,気まぐれ(及びお知り合いの紹介)も大事だってことで。

Recorded in April, 1964

Personnel: Gustav Leonhardt(cembalo)

本作へのリンクはこちら

2025年6月16日 (月)

生誕81周年!往年のBoz Scaggsのベスト盤の拡大版を聞く。

_20250612_0001 "Hits!" Boz Scaggs(Columbia)

先日81歳(!)の誕生日を迎えたBoz Scaggsである。私は昨年のライブにも駆けつけたのだが,その時には傘寿を控えていた割にはすこぶる元気なBoz Scaggsの姿,そしてその歌声に感心していた。今でも現役と言ってもよいそんなBoz Scaggsであるが,一番ヒットを飛ばしていたのは70年代後半から80年前後ということになるだろう。その後もアルバムはリリースしているが,やはり「売れたかどうか」という観点では,"Silk Degrees"から"Middle Man"辺りがピークであった。

Hits そうした時期の曲を中心に編まれたのが10曲入りのオリジナル"Hits!"(下)だったが,これは後に5曲を追加した拡張版"Hits!"(上)である。オリジナル版では"My Time"から1曲,"Slow Dancer"から1曲,"Silk Degrees"から3曲,"Middle Man"から3曲,映画"Urban Cowboy"のサントラから1曲,そして新曲"Miss Sun"という構成であったが,見ての通り"Down Two Then Left"からは1曲も選ばれていない。私もそのチョイスは仕方ないかなぁというのが"Down Two Then Left"への評価だが,コンパクトながらよく出来たベスト盤であった。

しかし,CD全盛の時代に入って,10曲はさすがに少なかろうということもあり,6曲が追加された訳だが,その内訳は"Slow Dancer"が1曲,"Silk Degrees"が3曲,そして"Down Two Then Left"から1曲,更に"Other Roads"から1曲というものであった。なぜかオリジナルに入っていた"You Can Have Me Anytime"が除かれた全15曲である。カバレッジは広がりつつ,やはり"Silk Degrees"の重要性は誰しもが認めるというところがはっきりしたチョイスなのだ。

まぁ改めて聞いてみると,私が当時Boz Scaggsの音楽にはまっていたかというのが思い出されて,甘酸っぱい思いすら覚えてしまう(笑)が,私だったら"Simone"を入れるなぁとかいろいろな思いも感じていたし,私なら曲順を含めて別のコンパイルの仕方があったかもなぁと思いつつ,Boz Scaggs入門編としてはこれは役に立つはずだ。

結局のところ,いくつになってもBoz Scaggsが好きなのだということを改めて痛感させられるベスト盤であり,大げさなようだが,私の人生への貢献度も含めて星★★★★★としよう。それにしても"Silk Degrees"がリリースされて来年で半世紀,"Hits!"のオリジナルがリリースされて今年で45年だ。その間に私はどれだけBoz Scaggsの音楽に触れてきただろうかと妙な感慨に耽ってしまったのであった。

ブックレットには詳細なPersonnelが記載されているが,ここでは省略。

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2025年6月15日 (日)

映画「国宝」を見た。圧倒的傑作だ。

Photo_20250614141601「国宝」(’25,東宝)

監督:李相日

出演:吉沢亮,横浜流星,渡辺謙,寺島しのぶ,田中泯,三浦貴大,高畑充希,森七菜,見上愛,瀧内公美,永瀬正敏

映画を見ていてこれは凄いと思った。吉沢亮と横浜流星が演じる歌舞伎のシーンがあまりにも圧倒的であり,この二人の演技とそれを指導した中村鴈治郎の功績大と言いたい。所作からして完璧と言ってよいものであり,主演の二人はこのまま歌舞伎の舞台に出ても受け入れられるのではないかとさえ思える。

3時間弱という長尺であるが,「転落と復活」のストーリーが描かれ続けるため,全く時間の経過を感じさせない李相日の演出も見事であったし,長編と言ってよい原作を,端折るところは端折ってシナリオに仕立てた奥寺佐渡子もいい仕事だと思った。原作ではもう少し丁寧に描かれている男女の関係を端折り過ぎという批判もあるようだが,この映画はより歌舞伎の世界にフォーカスするというねらいがあったと思えば気にもならない。

上述の通り,この映画で最も褒められて然るべきは吉沢亮と横浜流星の歌舞伎の演技であるのだが,加えて人間国宝を演じる田中泯の女形の演技も物凄い。そしてほんの少しの出演シーンながら瀧内公美の出演シーンが泣かせてくれる。その他の演技陣もまさに優れたアンサンブルを構成するかの如く,素晴らしい映画に仕上げたと言いたい。これは洋画指向の私でさえ,邦画の持つ力を感じ,手放しで褒めたくなった傑作。星★★★★★。この映画は見なきゃ損だ。

吉田修一の原作は買った(はずの)まま読めていなかった私だが,この映画を見て改めて原作を読もうと思った私である。こういう感覚は「蜜蜂と遠雷」以来だが,問題は本をどこにしまい込んだかだ(爆)。探索も大変そうなので,文庫本をゲットした方が早そうだな(苦笑)。それにしても,吉田修一という人の頭の構造はどうなっているのかと思ってしまう。横道世之介シリーズのような軽いタッチのストーリーと,本作や「悪人」,あるいは「さよなら渓谷」等の作品はギャップあり過ぎである。

2025年6月14日 (土)

先日のライブでもPat Methenyが多くを語ったCharlie Hadenとのデュオ作"Beyond the Missouri Sky"。

Beyond-the-missouri-sky_20250611195801 "Beyond the Missouri Sky (Short Stories)" Charlie Haden and Pat Metheny(Verve)

先日の来日公演においても,Pat Methenyが結構な時間を使ってCharlie Hadenについて語っていた。そしてその後,このアルバムから何曲かをプレイしたのだが,私は会場で演奏を聞きながら,このアルバムを聞きたくなること必定だなぁと思っていた。それから少々時間が経過してしまったが,改めてこのアルバムを久しぶりに聞いた。

そもそもデュオ名人と言ってもよいCharlie Hadenとのデュオであるから,このアルバムの出来は保証されていたようなものだが,ここに収められた穏やかな対話とでも言うべき音楽の記憶は十分に残っていた。

決して刺激的な音楽という訳ではないが,心に残る音楽であり,この二人による"First Song"なんて堪りませんなぁ。それ以外も佳曲揃い。どのような感情状態,どのような状況で聞いても素晴らしいと思える音楽であり,二者の実力をいかんなく発揮したアルバム。星★★★★☆。満点でもいいのだが,半星引いたのはこのご両人には更に優れたアルバムがあることを示すため。

Recorded in 1996

Personnel: Charlie Haden(b), Pat Metheny(g, all other instruments)

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2025年6月13日 (金)

時代のアイコンが相次いで世を去る。

Sly-and-brian

Sly StoneとBrian Wilsonの訃報が相次いだ。二人とも同じく82歳だったというのは偶然だが,時代のアイコンとでも言うべき彼らがほぼ時を同じくして世を去ったということは,自分も含めてそういう年齢なのだということを改めて強く感じなければならない。

私はSly & the Family Stone,Beach Boysあるいは彼らのソロ・アルバムの熱心なリスナーだったとは言えないが,彼らが時代の音楽シーンに与えたインパクトは決して過小評価はしていないし,するべきではないと思っている。時代の流れとは言え,惜しい人たちを失った。彼らのベスト・アルバムを聞いて彼らの業績を偲ぶことにしたい。

R.I.P.

2025年6月12日 (木)

今秋のさよなら公演を控えたCheap Trick at 武道館完全版。

Cheap-trick "At Budokan - The Complete Concert" Cheap Trick(Epic)

今年の秋口にFarewell Tourと題して来日が予定されているCheap Trickである。オリジナル・メンバー3人がとうに古希を過ぎていることを考えれば,ツアーはきつくなるのは当たり前ってところだろうが,傘寿を過ぎてもまだまだやるPaul McCartneyやEric Claptonのような人もいるから,そのうちまた復活するんじゃないの?なんて思いつつ,改めて本作を聞いた。

そもそもCheap TrickがRock and Roll Hall of Fameに殿堂入りするに至ったのは,"At Budokan"のヒットがあったゆえとも思える訳で,彼らが日本でのさよなら公演を武道館で締めくくるというのもまぁ当然のチョイスだろう。

改めて聞いてみると,シンプルなロックンロール・バンドだと言ってもよいだろうが,日本で異常な人気となったのはRobin ZanderとTom Peterssonのビジュアルゆえってところだろう。オリジナル"At Budokan"が出た頃の高校生の私は,それを斜に構えて見ていたというところだ(笑)。だが,改めて聞いてみれば,ポップ・センスもあって,それなりにヒットする理由はあったと思ってしまう。そうは言っても,聴衆の女性陣の「黄色い声(死語!)」には圧倒されるが,これを聞いていると,会場に多少はいたであろう男性諸君はさぞや居心地が悪かったのではないかなんて思ってしまう。

そんなことを考えながら,当時に思いを馳せる私である。

Recorded Live at 日本武道館 on April 28 & 30, 1978

Personnel: Robin Zander(vo, g), Rick Nielsen(g, vo), Tom Petersson(b, vo), Bun E. Carlos(ds)

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2025年6月11日 (水)

Camila Meza@Blue Note東京参戦記。


Camila-meza-at-bnt-official
_20250610_0001

Camila Mezaが6年ぶりの新作"Portal"のリリースに合わせて再来日を果たした。前作"Ambar"がリリースされた時もライブを観に行った私だが,その後,Ryan Kerberle & Catharsisぐらいしかその動静が伝わっていなかった。非常に有能なミュージシャンだけにもっと活発な活動を期待していたのだが,コロナ禍もあったし,出産もあってのこととではどうこう言えない。いずれにしても新作のリリース,そして来日というのはめでたい限りであり,その"Portal"を聞いて予習をした上での参戦となった

Camila-meza-at-bntそもそも"Portal"も出来がいいと思っていたので,このライブには期待値が高かったのだが,昨今のBlue Note東京には珍しく,客入りがよろしくない。多く見積もっても6割の入り,私の感覚では5割程度しか入っていない。彼女の音楽の質の高さを考えれば,これは実にもったいないことだと思っていた。

しかし,そんな客入りにもめげず,優れた演奏を聞かせるのがプロである。これまでも私は客入りの悪いライブの場にも参戦したことはあるが,ちゃんとしたミュージシャンは絶対に手を抜かない。逆に来場した聴衆のためにも確実にいい演奏を聞かせる対応を取るのが常だ。今回もその例外ではなかった。

ちゃんとチェックしていないし,結構な酩酊状態で臨んだので,はっきりしたことは言えないが,新作からのレパートリーが中心だったはずだ。ベースレスのクァルテットという編成は珍しいが,バンドは極めてタイトな響きを聞かせ,Camila Mezaは優れた歌唱とギターの腕を披露するという全くこちらの期待を裏切らない演奏であった。メンバーにもちゃんとソロの機会を与えるところもリーダーの対応として素晴らしい。やはりこの人は大した才能だとつくづく思わされたライブであった。

私は今回もサイン会をやるだろうということから,日本でのみ媒体化されたと思しき新作はBlue Noteの現地購入を決めていたが,案の定であった。めでたくメンバー全員のサインをゲット。それだけでは済まさぬということで,Ryan Keberle & Catharsisのアルバムも2枚持参した相変わらずのミーハーである。それが何か?(笑)

すっかり出来上がってしまって記憶が定かではないのだが,Camila Mezaは今度はRyan Keberleと来ると言っていたように思う。もし実現すれば,また絶対行くことは言うまでもない。問題はどのヴェニューでやるかだが,Blue Noteはないだろうな(笑)。

尚Blue NoteのWebサイトにライブの模様の写真がアップされていたので,それも貼り付けておこう。

Live at Blue Note東京 on June 9, 2025, 2ndセット

Personnel: Camila Meza(g,vo), Gadi Lehavi(p, key), Ofri Nehemya(ds), Alejandra Williams-Maneri(key, back vo)

Catharsis

2025年6月10日 (火)

TOTOの"Hydra":曲が粒揃いでよく出来たアルバムだと思う。

_20250609_0001 "Hydra" TOTO(Columbia)

私の年代であれば,TOTOのデビュー時がティーンエイジャー時代と重なるので,それなりに彼らの音楽には接してきたと思う。しかし,私の場合,彼らのアルバムは"IV"以降の限られたアルバムしか保有していなかったというのが実態で,それが解消されたのが2020年にColumbiaレーベル在籍時のアルバム全部入りのボックス"All in"を購入した時という,まぁ決して彼らのファンとは言えないだろうというリスナーであった。

そんなTOTOだが,デビュー・アルバムがそれなりに売れて,この2nd制作には相応のプレッシャーがあったと思うが,私はこのアルバムの曲のクォリティは非常に高かったと思っている。だが,商業的には1stには遠く及ばず,大して売れなかったというのは今にしても思えば信じがたい。だが,ライブの場でも本作からの曲は演奏されることが多いことからしても,彼らとしてはそれなりの自信作だったのではないかと思える。

彼らの真の商業的な成功は"IV"まで待たなければならないとしても,私はこのアルバムを過小評価する気にはならない。そして1st同様,曲のほとんどを手掛けているDavid Paichの存在の大きさを改めて感じてしまうのであった。見た目はおよそロッカーぽくないDavid Paichだが,つくづくいい曲を書く人だということを再認識した私であった。そしてバンド全体のミュージシャンとしての演奏能力が加わるのだから,これはやっぱりいいアルバムだった。星★★★★☆。

Personnel: Steve Lukather(g, vo), David Paich(key, vo), Steve Porcaro(key, vo), David Hungate(b), Jeff Porcaro(ds, perc), Bobby Kimball(vo) with Lenny Castro(perc), Michael Boddicker(synth sample), Roger Linn(synth prog) Marty Paich(arr)

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2025年6月 9日 (月)

久しぶりに10CCを聞く。今回は"Bloody Tourists"。

_20250607_0001 "Bloody Tourists" 10CC(Mercury)

久しぶりに10CCのアルバムを取り出した。今回は78年の本作である。10CCは今もなおライブを行う現役バンドではあるが,人気という点ではこの辺りまでだったのではないかと思う。本作は冒頭の"Dreadrock Holliday"で,いきなりレゲエのリズムが聞こえてきた時にはびっくりしたのも今となっては懐かしい。

10CCのいいところはその優れたポップ・センスだったと思うし,10年前にビルボード・ライブ東京でのライブに接した時もそれは健在だと思った。私がティーン・エイジャーだった頃は本当にFMでよく流れていたし,今でも歌える曲はある。だが,このアルバム辺りになると,目立つヒット曲は"Dreadrock Holliday"ぐらいしかなくなるし,その他の収録曲も悪くはないとしても,過去のアルバムに比べると印象が薄いものになってしまっている。何と言ってもこれの前作がヒット曲満載のライブ盤だったから尚更そういう感じがしてしまうのだ。

このアルバムには"Tokyo"というEric Stewartの曲が収められているが,日本でのポピュラリティを受けてのところもあろうが,それでも「着物」だ,「芸者」だと歌われると何だかなぁと思ってしまう。まぁそれでもそれなりの曲も含まれているのでそこそこ楽しめることは楽しめるのだが,全体を通しての評価は星★★★ってところ。

Personnel: Eric Stewart(vo, g, p, el-p, synth, perc), Graham Gouldman(vo, b, g, zither, perc), Rick Fenn(g, b, synth, org, sax, perc, vo), Paul Burgess(ds, perc, vib, vo), Stewart Tosh(ds, perc, tb, vo), Duncan MacKay(p, el-p, synth, vln, perc) 

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2025年6月 8日 (日)

来日目前:Klaus Mäkelä+パリ管の「幻想」をストリーミングで聞く。

Symphonie-fantastique "Berlioz: Symphonie Fantastique / Ravel: La Valse" Klaus Mäkelä / Orchestre de Paris(Decca)

来日を目前に控えたKlaus Mäkelä(クラウス・マケラ)+パリ管であるが,私もサントリーホールにおけるコンサートに行くことになっている。何てたってプログラムがサン・サーンス「オルガン付き」とベルリオーズ「幻想」なのだ。そもそも私の「幻想」好きは筋金入りと言ってもよいが,まだ30歳にも満たないにもかかわらず,今年だけでパリ管とコンセルトヘボウで来日するKlaus Mäkeläがどのように「幻想」を振るのかということに興味は集中してしまう。ということで,予習も兼ねてストリーミングで公開されたばかりの「幻想」と「ラ・ヴァルス」のカップリングを聞いた。

「幻想」は冒頭の第1楽章から随分とゆったりとしたテンポで入るなぁというのが第一印象。そして徐々にダイナミズムを増すというのはこの曲の特性と言ってもよいが,ここで高揚感を盛り上げる必要があるので,そこは問題なくクリア。それにしても録音のせいもあるかもしれないが,弦の分離が明確に感じる。そして私が「幻想」で最も好きな第2楽章だが,ここではコルネットなし版。私が好きな「幻想」の演奏はほぼコルネット入りと決まっているのだが,ここはパリ管の「幻想」と言えばCharles Munchということで,Munchに倣ったと解釈しよう。弦の鳴らせ方がここでも明確かつ明瞭に聞こえるところが,この人の特徴か。ここでのワルツの振りっぷりはなかなかよかった。

私の中ではいくら好きな曲でも,牧歌的にも響く次なる第3楽章はやや冗長に感じられる「中だるみ」楽章(笑)なのだが,そういう楽章でもそれなりには聞かせる演奏だと思えるのは立派。そして第4楽章,「断頭台への行進」はオーケストラのダイナミズムが最も顕著に表れる部分だが,弦のみならず,管もよく鳴っていると感じられた。まぁこの楽章の繰り返しが必要かどうかは議論のあるところだと思うが,盛り上がるからよしとしよう。そして終楽章は私が「幻想」に感じる魅力が凝縮されていると言ってもよい。この何とも劇的な感覚をうまく引き出した演奏だと思えた。これをライブで聞けば確実に燃える(きっぱり)。

全体的に見ればよく出来た演奏だが,これが私の中で最高の「幻想」となるかと言えば,必ずしもそうではないかもしれない。しかし,それでも東京でのライブへの期待値は高まった。サントリーホールでは是非とも私を燃えさせて欲しいものだ。

私にとってはオマケと言ってもよいので,ここでは「ラ・ヴァルス」については多くを語らないが,ここでも弦の響きが美しく,中盤~後半の管の響きもよかった。

Klaus Mäkeläは2027年からコンセルトヘボウの首席のみならず,シカゴの音楽監督にも就任予定って凄いことだなぁと思うが,それだけ期待の集まる指揮者ってことなのは明らかで,ライブではどのように「幻想」を振るのかを楽しみに待ちたい。

Recorded in September and December, 2024

Personnel: Klaus Mäkelä(cond),Orchestre de Paris

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2025年6月 7日 (土)

Amazon Primeで見た「深夜の告白」。マジで最高であった。

Double-indemnity 「深夜の告白("Double Indemnity")」(’44,米,Paramount)

監督:Billy Wilder

出演:Fred MacMurray, Barbara Stanwyck, Edward G. Robinson, Jean Heather, Byron Barr

Billy Wilderが監督,脚本というだけで期待してしまうが,共同脚本はRaymond Chandlerとあっては更に期待を膨らませて見た映画が本作。冒頭の松葉杖の男のシルエットから緊張感に満ちた典型的フィルム・ノワールであった。そしてBarbara Stanwyckの悪女っぷりが,これぞファム・ファタールと言いたくなるような造形で,見ていてとことん嬉しくなってしまった。

一言で言えば,悪女にたぶらかされて起こす保険金殺人であるが,この「深夜の告白」という邦題の通り,主人公,Walter Neffを演じるFred MacMurrayの独白でストーリーが始まり,回想と独白で構成されるシナリオからしてよく出来ている。

それにしてもBarbara Stanwyck演じるPhyllisである。絵に描いたような悪女であるが,この後こうした悪女ものってのは結構出てきた中で,そのひな形となったのがこの映画だったのではないかと思わせる。そもそも小道具にアンクレットを使うところも,後の映画に影響していると思えてしまう。

Billy Wilderと言えば,私にとっては「お熱いのがお好き」等のコメディ・タッチの作品をまずは思い浮かべてしまう中で,こうした正統派フィルム・ノワールとでも呼ぶべき映画を撮っていたということ自体がある意味で驚きであるとともに,私の不勉強の至りということを痛感した。そして,忘れてならないのがEdward G. Robinsonの存在感。長身のFred MacMurrayに比べなくとも小柄(1m65cmだったそうだ)なのに,見事な存在感であった。古い映画だけに,さすがに画質には厳しいところがあっても,まじで見られてよかったと感謝したくなるような傑作。星★★★★★。

ところで,日本語字幕でHollywood Bowlをボウリング場と訳しているのには笑ってしまった。映画にはHollywood Bowlの舞台が写っているのだが,そういうところには無頓着なのねぇ。

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2025年6月 6日 (金)

Danny Grissettの新作がリリースされたので,まずはストリーミングで聞いた。

Travelogue "Travelogue" Danny Grissett(Savant)

現在はウィーンに拠点を移しているダニグリことDanny Grissettであるが,それにより昨今の動静が伝わりにくくなっているのは,実力者であるだけに少々残念である。本人のWebサイトによれば,欧州を中心に演奏者としての活動もしながら,教育者としての活動も強化しているようだ。そんなこともあって,アルバムのリリース頻度も低くなり,前作"Remembrance"から8年の時間が経過している。コロナ禍を挟んだとは言え,これだけ間が空いてしまうのは本当にもったいないことだ。

本作は媒体は既にリリース済みだが,まずはストリーミングで聞いた。"Stride"以来となる久々のピアノ・トリオによる演奏だが,相変わらずこの人らしいノーブルなピアノ・タッチが聞かれて,こちらも嬉しくなってしまう。これまでのアルバム同様,この人の演奏は熱く燃えたぎるという感じではなく,繊細かつソフトなピアノなので,ジャズの好みによって好き嫌いがわかれるところではあろうが,私はこの人のピアノにはTom HarrellやJeremy Peltのバンドにいた頃から好ましい印象しかない。だから本作も期待して聞いた訳だが,オリジナル8曲にスタンダード2曲を加えた構成も丁度いい塩梅で,相変わらずの優れた演奏ぶりに安堵した私であった。

前作,前々作でも共演したVicente Archer,Bill Stewartとのコンビネーションも良好であり,久々にダニグリらしいピアノを大いに楽しんだ私が媒体を発注したことは言うまでもない。星★★★★☆。

Recorded in October, 2024

Personnel: Danny Grisett(p), Vicente Archer(b), Bill Stewart(ds)

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2025年6月 5日 (木)

中古でゲットしたまま聞いていなかったSakata Orchestraの"4 O'Clock"。

4-oclock "4 O'Clock" Sakata Orchestra(Better Days)

坂田明は多作なので,全部を追うなんてことは考えていない。それでも山下洋輔トリオを中心としながら,そこそこのアルバムは保有している私だが,このアルバムは突然聞きたくなって中古でゲットしたもの。入手したのは随分前で,一回プレイバックしたはずだが,その後記事にもしてなかったなぁということで,改めて聞いた。

AB面で各面2曲ずつの全4曲であるが,2組の演奏が各々2曲という不思議な編成と言ってもよいアルバムだ。Sakata Orchestraと名乗っていても,ダブっているのはリーダー坂田明とトロンボーンの向井滋春,そしてドラムスの藤井信雄だけである。まぁ,曲の個性によって編成を変えたということだろうが,それにしてもなかなかのメンツが揃っている。

私が坂田明に求めるのは坂田が奏でるフリー・ジャズの爽快感であるが,ここでは坂田明らしいフレズーは聞かれるものの,アンサンブルがしっかりしていて,破壊的なフリーではない。そこをどう評価するだろうが,まぁこれはこれで面白いと思う。この後リリースされたベルリンでのライブでは本作で演奏された2曲が再演されているから,同じく中古でゲットしたそっちも改めて聞いてみて違いを感じるのも一興かもしれない。

正直なところ,私としてはもう少しぐわ~っとくる感覚が欲しい気もするので星★★★☆。まぁ単なる好みの問題だが,CD化されないのも,ストリーミングで公開されないのも仕方ないってところか。

tmPersonnel: 坂田明(as, a-cl), 向井滋春(tb,b-tb),藤井信雄(ds),高橋知己(ts), 千野秀一(p, org),川端民生(b),トニー木庭(ds),仙波清彦(perc),佐藤春樹(tb),中村誠一(ts, cl),梅津和時(as, b-cl),原田依幸(b-cl),安田伸二(tp),橋本一子(p, vo), 吉野弘志(b)

2025年6月 4日 (水)

Oscar Petersonの"My Fair Lady"を初めて聞いた。

My-fair-lady"Oscar Peterson Plays My Fair Lady" Oscar Peterson(Verve)

長年ジャズを聞いていても,結構有名なアルバムでも聞いたことがないアルバムなんていくらでもあるってことで,今回私の記憶では初めてこのアルバムを聞いた。

映画「マイ・フェア・レディ」は私が中学生の頃,リバイバル上映を劇場に観に行ったし,Julie Andrewsのオリジナル・キャスト版のLPも持っている。私にとってはそっちの方の印象が勝っていて,そもそもこういう企画って安直じゃないの?なんて漠然と思っている節もあった。そんなこともあって,敢えて聞こうと思わなかったし,通っていたジャズ喫茶でもかかったのを聞いたことがない。それはShelly ManneのContemporary盤も同様だ。そもそも私はOscar Petersonは一部の例外を除いて,積極的に聞こうと思っていないこともあり,このアルバムも例外でなかったこともある。私が敢えて聞きたいと思うのはMilt Jacksonとの共演盤ぐらいのもので,それ以外で私が保有しているOscar Petersonのアルバムはほぼ父の遺品なのだ。

まぁそうは言ってもOscar Petersonである。こういう企画であってもはずすとは思えないが,Oscar Petersonらしい安定した演奏だと思える。ただ,「マイ・フェア・レディ」の曲というのは必ずしもジャズ・アダプテーションに向かないのではないかと思える。頻繁に演奏されるのは"I've Grown Accustomed to Her Face"ぐらいというのがそれを裏付けているようにも思う。このミュージカルで最も有名な曲は"I Could Have Danced All Night"だろうが,ここでのこの曲はどうもイマイチ面白くない。やはり冒頭の"I've Grown Accustomed to Her Face"の方がずっといいと思えるのだ。"Wouln't It Loverly?"も何だかなぁって感じだし...。むしろ最後の"The Rain in Spain"の方がフィット感があった。

世の中,ゴリゴリのジャズ・ファンばかりではないので,こういうピアノを好むリスナーには丁度よい作品と思えるし,ジャズ入門編として聞くのもありだろう。ある意味ジャズのすそ野を広げるには役に立ったと思えるが,私にとってはまぁいいんじゃない?という程度のアルバムであった。星★★★。まぁ私にとっては一回聞けば十分なアルバムだが,肩肘張らず聞けることは間違いないだろうな。

Personnel: Oscar Peterson(p), Ray Brown(b), Gene Gammage(ds)

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2025年6月 3日 (火)

Keith Jarrett生誕80周年記念!ウィーンでのライブ・アルバムを聞く。

New-vienna"New Vienna" Keith Jarrett (ECM)

Keith Jarrettが活動を休止したのが2017年のことだったが,その少し前の2016年のアルバムはこれまでミュンヘン,ブダペスト,ボルドーでの演奏がリリースされているが,本作もその2016年,ウィーン,ムジークフェラインザールにおける音源である。ウィーンでのライブは1991年の"Vienna Concert"があったが,前作は国立歌劇場,そして今回はムジークフェラインザールと,またジャズ・ピアニストとしては異例とも言うべきヴェニューでの演奏である。

これまで私はKeith Jarrettのアルバムが出れば,ごく一部の例外を除いて媒体を購入してきたが,ボルドーでのライブの記事で「まぁこの辺でKeith Jarrettのソロ・アルバムは打ち止めでもいいかなって気がしている。 」なんて書いている通り,Keith Jarrettの演奏のパターン,そしてプレイバックの頻度を考えると,ストリーミングでいいかなという感じになってきて,今回はストリーミングで聞いたもの。

一旦の半引退状態からの復帰後は,長大なソロから短い演奏へシフトしたKeith Jarrettであるが,前半のアブストラクトな現代音楽的な演奏から,後半のメロディアスな演奏に移行するというパターンは本作でも踏襲されている。ここではアブストラクトな演奏は前半3曲+Part VIに留まっており,それ以外はいかにもKeith Jarrettらしい美的な演奏やフォーク・タッチの演奏が展開されていて,大概のリスナーは嬉しくなってしまうだろう。大体こうなるだろうという安心感みたいなものは確実に存在するので,パターン化された中での創造性を楽しめばよい。公開されている音源からすると,2016年の演奏はややアブストラクト度控えめっていうのが特徴だったってことになるかもしれない。

本作はKeith Jarrettの生誕80周年を記念してのリリースということらしいが,もはや演奏への復活は望めない中,どのようなかたちでもライブの模様が公開されることはありがたいと言えばありがたい。おそらくは常にレコーディングはしていたはずだから,どうせならハプニングのあった2014年の大阪の演奏とか公開すれば面白かろうにと思ってしまうが,完全主義者のKeithのこと,生きているうちはリリースを絶対許さないだろうなぁなんて思ってしまう。まぁ,それでも安定のKeith Jarrettが聞けるだけでよしとするべきだろう。星★★★★。

Recorded Live at Goldener Saal, Musikverein in July, 2016

Personnel: Keith Jarrett(p)

本作へのリンクはこちら

2025年6月 2日 (月)

Brad Mehldauの新作はElliot Smithの曲を中心とするアルバムで8月リリース予定!

Ride-into-the-sun先日,Christian McBride,Marcus Gilmoreと来日して,ジャズ・フレイヴァー溢れる演奏を聞かせたBrad Mehldauであるが,Nonesuchレーベルからのメールで告知された通り,Brad Mehldauの新作"Ride into the Sun"が8月29日にリリース予定となっている(詳しくはこちら)。

今回はElliot Smithの曲を中心にBrad MehldauのオリジナルとNick Drakeの曲が収められているらしい。既にNonesuchのWebサイトで2曲の映像が公開されていて,もはや期待が無茶苦茶高まっている私である。今回一部で歌やストリングスも入るのがこの映像からわかるが,これはまじで楽しみだ。Nonesuchのサイトからも飛べるが,期待を込めてここにも映像も貼り付けておこう。

2025年6月 1日 (日)

Amazon Primeで「幻の女」を見た。

Phantom-lady 「幻の女 ("Phantom Lady")」('44,米,Universal)

監督:Robert Siodmak

出演:Franchot Tone, Ella Raines, Alan Curtis, Aurora, Thomas Gomez, Elisha Cook, Jr., Fay Helm

「幻の女」と言えば,ミステリー界に燦然と輝くWilliam Irishの傑作との評価が確立している。私も原作ははるか昔に読んだきりであるが,細かいところは全然覚えていなかった。その「幻の女」を映画化したのがこの映画であるが,先日取り上げた「らせん階段」に続いて,Robert Siodmakが監督した作品であった。

本作を見た後,原作についてWikipediaで振り返ってみると,プロットそのものは比較的原作に忠実であるものの,少々ストーリーには違いがあることがわかったが,いずれにしても90分に満たない尺に仕立てた脚色のBernard C. Schoenfeldと,Robert Siodmakの演出は評価すべきだと思った。

Alan Curtis演じるScott Henderson(!)が無実の罪で死刑宣告されるまでが前半で,途中からElla Raines演じるその秘書Carolによる解決に向けた対応が中心となってくる。映画の途中で真犯人が明かされるのだが,サスペンスが盛り上がるのはその後という感じになっていて,まぁ映画としては間延びした感覚もなく,そこそこよく出来ていたと思える。よくよく考えてみれば,かなり無理のある話でもあるのだが,前半に出てくる警察関係者が警察っぽくない描かれ方なのも何とも不思議だ。だが,そういうことをそれほど気にさせない娯楽編と思えばいいだろう。星★★★★。

面白かったのはオープニングからいきなり"I'll Remenber April"が流れてきて,おぉっ!主題歌か?と思ってしまったことだが,この映画のために準備された訳ではなく,当時のポピュラー曲として使われたってところか。加えて中盤には結構しっかりしたジャズの演奏シーンもあって,Barney Bigardほかリアルなミュージシャンたちが出演していたのであった。

そもそも冤罪に巻き込まれるAlan Curtis演じる役名がScott Hendersonだからと言って,ついついニヤニヤしてしまうというのも変態ジャズ・ファンたる私らしいよなぁ(爆)。

本作のストリーミングへのリンクはこちら

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