Mehldau McBride Gilmore Trio@紀尾井ホール参戦記。

前日に続いて二日連続でのライブ参戦となったが,今回はBrad MehldauにChristian McBride,Marcus Gilmoreから成るトリオだ。場所はキャパ800の紀尾井ホールだが,偶然にも11年前の同じ5/9に,私はKeith Jarrettのソロをこの場所で見ていたのであった。去年はここでのDaniil Trifonovの現代音楽のリサイタルを聞いて以来,約1年ぶりの再訪となった。
この3人については,Brad MehldauとChristian McBrideは度々共演しているが,Brad MehldauとMarcus Gilmoreは,Joe Martinの"Not By Chance"ぐらいしか共演はないと思う。Christian McBrideとMarcus Gilmoreの共演歴までは追えていないが,それでも実力者のトリオであるから大いに期待も膨らむ訳だ。
この日のプログラムは前半がBrad Mehldauのオリジナルが5曲,後半とアンコールがスタンダードとジャズマン・オリジナルで5曲という構成で休憩なしの約2時間ぶっ通しで,たっぷりと彼らの演奏に触れることができた。私が見たこの構成は,米国でのスタンフォード大学での公演のブートレッグに近いが,公開されている5/8のセットリストとは全く異なる構成というのが彼ららしい。
私は前半の3曲を聞いていて,これは今まで聞いたBrad Mehldauの生演奏においても上位に位置するのではないかと思えたが,冒頭3曲におけるハード・ドライヴィングとさえ感じるピアノには,Brad Mehldauのジャズ・ピアニストとしての矜持,あるいは魂のようなものを感じたのであった。冒頭の"Artis"からして,ジャズ的スリルに満ちたぞくぞくするような感覚だったと言っておきたい。
そんな演奏に接して,明らかにLarry GrenadierとJeff Ballardとのレギュラー・トリオの演奏から受ける印象と違うというのを感じていた。レギュラー・トリオにおいては,Brad Mehldauらしい「Brad Mehldau節」とでも言うべきフレージングが明確かつ頻繁に出るところがあるが,今回のトリオにおいては,そうした演奏はやや抑制され,よりオーセンティックな「ジャズ・ピアニスト」としてのBrad Mehldauを感じることができたと言うべきかもしれない。
後半のスタンダードやジャズマン・オリジナルでもそういう感覚があって,リーダー作で聞かれるピアノよりも,他のミュージシャンのアルバムに客演している時のBrad Mehldauという感覚だったと言ってもよいかもしれない。そもそもアンコールでSam Riversの"Beartrice"やJimmy Heathの"C.T.A."を選ぶところからしてもそういう感じだ。もちろん,そうした中にもBrad Mehldauらしいフレージングは顔を出すが,その比率が低いのだ。
レギュラー・トリオとは少々異なる今回の演奏もBrad Mehldauのひとつの顔であって,ライブの場でこういう演奏に触れられたことは,Brad Mehldauオタクの私にとって実に意義深いものとなった。今まで私はBrad Mehldauのソロか(Pat Methenyとの共演時も含めて)レギュラー・トリオの演奏しか生で見たことがなかったが,今回の演奏はある意味新鮮であった。そうした演奏を導き出すのが,Christian McBrideのベースであり,Marcus Gilmoreのドラムスだったと考えればよいだろうが,Christian McBrideが及ぼした影響はかなり大きかったのではないかと思える。ソロ・スペースも豊富に与えられ,Wayne Shorter作の"Miyako"で聞かせたボウイングなんて,やっぱりうまいもんだと思わせるに十分。最初はPAの調子が悪く,ベースがよく聞こえないと思っていたが,中盤から改善し,ニュアンスも聞き取れるようになったのもよかったが,やはりこの人,器が違う。Marcus Gilmoreのドラミングもシャープでよかったのだが,ドラム・ソロはもう少し歌心を感じさせてくれるといいなぁと思っていたのも事実であり,聴衆を乗せる術も発展途上と感じた。まぁそれでもこのトリオでレコーディングしてもいいんじゃないかと思えるレベルは十分に確保していたと思う。
いずれにしても,私としては十分満足できる演奏であったし,やはり彼らは一流だと再確認したライブであった。これに続く日本公演のセットリストを見るのが楽しみになってきたし,願わくば全公演を聞きたかったという思いを強くしたのであった。後悔先に立たずだが(苦笑)。
Live at 紀尾井ホール on May 9, 2025
Personnel: Brad Mehldau(p), Christian McBride(b), Marcus Gilmore(ds)
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コメント
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閣下、リンクをありがとうございます。m(_ _)m
>ジャズ的スリルに満ちたぞくぞくするような感覚
そうでうよねぇ。
オーセンティックなメルドーも頭の芯から痺れますね。
こういう違った顔も拝めて嬉しかったです。
一挙一動がズキュンと胸にささりました。
私の投稿のリンクも置いていきますね。
https://mysecretroom.cocolog-nifty.com/blog/2025/05/post-57de1a.html
投稿: Suzuck | 2025年5月15日 (木) 08時09分
Suzuckさん,おはようございます。リンクありがとうございます。
>オーセンティックなメルドーも頭の芯から痺れますね。
>こういう違った顔も拝めて嬉しかったです。
はい。演奏の冒頭からハード・ドライビングな感覚もあって,まじでゾクゾクしていた私でした。記事にも書きましたが,私のMehldauライブ歴の中でも屈指の興奮度だったと言ってもよいと思います。やはりメンツの生むケミストリーってところですね。
投稿: 中年音楽狂 | 2025年5月16日 (金) 07時50分