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2025年1月31日 (金)

笠井紀美子の"TOKYO SPECIAL":昨今ならシティ・ポップって言われるのか...。

_20250128_0001 "TOKYO SPECIAL" 笠井紀美子(CBS Sony)

私が保有している笠井紀美子の2枚のうちの1枚。もう1枚はHerbie Hancockと作った"Butterfly"だが,この違いの大きさに戸惑うと言ってもよいかもしれない。

このアルバムを廉価盤で確か中古で購入したのは,冒頭の「バイブレーション」が印象に残っていたから。何かのCMに使われていたと記憶していたが,今回よくよく見たら山下達郎が書いた曲だったのねぇ。基本的にはこのアルバムの書き下ろし曲は少なくて,多くがカヴァー曲だってのも知らなかった。そこに安井かずみが詞を乗せた訳だが,元々が英語詞で書かれていた曲に日本語詞を乗せているところもあって,どうも違和感がある曲があるのも事実。特に矢野顕子が元々リンダ・キャリエールに書いた"Laid Back Mad or Mellow”に日本語詞を当てた「待ってて」が特に居心地が悪い。

それはさておき,基本的に当時のコルゲン・バンドをバックに歌う笠井紀美子の歌は,ポップでありながらジャズ的なセンスが微妙に残っていると言っても,ポップさの方が勝っていて,これが笠井紀美子にフィットしていたかと言うとそこは疑問だ。そうした中でフュージョン・ライクなノリを示すタイトル・トラックが一番の聞きものって気がする。ヒノテルのソロもカッコいいこの曲を書いた森士郎って,中村照夫のライジング・サンにいたなんてことも今更知る私であった。

本作をリリースしたのが本人の意思だったかどうかはわからないが,私は圧倒的に"Butterfly"の方を支持してしまうタイプだ。それはこのアルバムと"Butterfly"のプレイバック回数の違いを考えなくても明らか。むしろ鈴木宏昌のアレンジによるバッキングの方に耳が行ってしまうのであった。笠井紀美子が何でも歌えてしまうことは評価しつつも星★★★が精一杯。

面白かったのは「バイブレーション」のサビの歌いっぷりが矢野顕子みたいだったことだ。キャリア的には笠井紀美子の方が先輩だろうから,矢野顕子が影響されているのかとも感じたが,矢野顕子のことだから多分そんなことはあるまい。

Personnel: 笠井紀美子(vo), 鈴木宏昌(key), 松木恒秀(g),岡沢章(b),市原康(ds),山口真文(ts,ss),穴井忠臣(perc),日野皓正(tp),鈴木勲(b),村岡建(ts,ss),羽鳥幸次(tp, fl-h),数原晋(tp),新井英治(tb),福井恵子(harp),大野忠昭グループ(strings),伊集加代子(vo),尾形道子(vo),和田夏代子(vo)

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2025年1月30日 (木)

Terje Rypdalの"Blue":プログレ的なるものとアンビエント的なるものの融合。

_20250126_0001 "Blue" Terje Rypdal and the Chasers(ECM)

Terje Rypdalはロック的なセンスを有するギター・プレイヤーであるが,この典型的トリオ編成でのアルバムは,ロック的な感覚は残しつつも,サウンドは主題の通り,よりプログレ的であり,アンビエント的と呼べるものと思う。ビートが明確な曲もあるが,むしろ多数派はノー・リズムで緩やかな音とが流れる。

本作と同じメンツで吹き込んだ"Chaser"というアルバムがあるので,本作ではChasersというバンド名になっているというのはちょいと安直ではないかと思いつつ,まぁバンド名何てそんなもんか...(笑)。しかし同じメンツにしては"Chaser"の,特にその冒頭の"Ambiguity"のよりロック・フレイヴァーが強いスリリングな響きや,フリーさえ吸収してしまうような音とは随分違うと感じてしまう。

こうなるとどっちが好みかって話になるだろうが,私としてはまぁどちらもTerje Rypdalだよなぁと思う。そうは言いつつ"Chaser"とていろいろな響きが混在しているから,それがTerje Rypdalの個性と考えればよいだろう。

いずれにしても,本作はややエッジは抑え気味のTerje Rypdalってところ。星★★★☆。

Recorded in November 1986

Personnel: Terje Rypdal(g, key), Bjørn Kjellemyr(b), Audun Kleive(ds, perc)

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2025年1月29日 (水)

買ってから全然聞いていなかったIan Matthewsのアルバムだが,これぞ選曲の妙であった。

_20250124_0002 "Some Days You Eat the Bear and Some Days the Bear Eats You" Ian Matthews (Electra)

このアルバム,保有していることは記憶していたが,いつどういうかたちで買ったのかは全然覚えていない。おそらくは中古盤屋で気まぐれでゲットしたものと思う。それがクロゼットにしまい込まれたまま幾星霜というかたちで,全く聞くチャンスに恵まれなかった不幸なCDだ。

Ian MatthewsはFairport Conventionのオリジナル・メンバーらしいが,ブリティッシュ・トラッドをほとんど聞いたことがない私にとっては無縁であったが,Ian Matthewsの名前を意識したのは"Shake It"がヒットした1978年のことだから,私は高校生だ。なかなかいい曲だと思っていて,後にオリジナルであるTerence Boylanのアルバムを購入するに至ったのであった。そうした意味で,私の中ではIan Matthewsは"Shake It"だけで記憶に残っていたのだが,その記憶に基づいてそれに先立つ1974年にリリースされたこのアルバムも買ったと思う。

それでもってこのアルバムを聞いてみると,いきなりTom Waitsの"Ol’ 55"で始まるではないか。そして続くのが"I Don’t Want to Talk About It"ってなんてセンスのいい選曲って思ってしまう。本人のオリジナルに加えて,前述の2曲に加えてカヴァーしているのが,Gene Clarkの"Tried So Hard",Steely Danの"Dirty Work",そしてJesse Winchesterの"Biloxi"なのだ。全然一貫性がないではないかと言われても仕方がないが,Ian Matthewsの歌いっぷりがはまっていて,こんなアルバムを寝かしていた自分を呪いたくなった。

このアルバムも全然売れなかったらしいが,傑作とは言わずとも,この選曲のセンスやオリジナルを聞けば,なかなかの佳作だったと思える一作で,改めて聴くに値するアルバムであった。星★★★★。

Ian Matthewsと言えばPlainsongのアルバムも持っていたはずだ。聞かねば...(爆)。

Personnel: Ian Matthews(vo, g), Jeff "Skunk" Baxter(g, pedal-steel), David Lindley(lap-steel), B.J. Cole(pedal-steel), David Barry(org, p, key), Andy Roberts(g), Joel Tepp(g, hca), Michael Fonfara(p, key), Lynn Dobson(as), Al Garth(as), Jay Lacy(g), Willie Leacox(ds), Danny Lane(ds), Timi Donald(ds), Danny Weis(g), Steve Gillette(g), David Dickey(b), Billy Graham(b), Bob Warford(g)

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2025年1月28日 (火)

またもやってしまった無駄遣い:Santanaの"Lotus"のMobile Fidelity版LP。

Lotus"Lotus" Santana(CBS Sony→Mobile Fidelity)

紙ジャケCDを保有しているんだから別に買わなくてもいいじゃないかと言われればその通りだが,今回の場合はそうも言えない。高品質で知られるMobile Fidelityからの3LPなのだから,これは買うに値するという判断であった。それにしても高い!LP本体の価格が$119.99にDHL Expressの送料で,今の円安も影響して日本円にして軽く2万円越えになってしまった。更にそれに加えて関税が¥1,000取られた上に,DHLの関税対応手数料が¥1,980ってどういうことだ?ということで,とんでもないコストが掛かることになってしまった。こんなことならDUで買った方が安かった...。

届いたLPはさすがに22面ジャケットは再現できずではあるが,音はすこぶる良好なので,まぁいいやってことにすればいいと思うし,私が死んでも中古でそこそこの値段で売れるだろう(苦笑)。

改めて聞いてみて,このバンドにはLeon Thomasは合っていないよなぁというのは仕方のないところだが,その一方で,やたらにアドリブでいろいろな曲が引用されているのが面白かった。いずれにしてもこのアルバムが日本で製作されたことは実に素晴らしい。そして横尾忠則デザインのオリジナル22面ジャケは力入り過ぎ(笑)だが,それが再現されいていないのはやはりちょっと残念。

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2025年1月27日 (月)

Amazon Primeで見た「危険がいっぱい」。

Photo_20250126092701 「危険がいっぱい("Les Félins")」(’64,仏)

監督:René Clément

出演:Alain Delon, Jane Fonda, Lola Albright, André Oumansky, Carl Studer

監督がRené Clémentで,主演がAlain Delonだからと言って,「太陽がいっぱい」にあやかって,「危険がいっぱい」という何とも安直な邦題が笑えるこの映画をAmazon Primeで見た。本作も見放題の収量が近いということで慌てて見たというのが実態。

まぁ原題の"Les Félins"ってのも,「ネコ科の動物」みたいな意味らしいから,それでは何のことかわからないが,映画を見ればなるほどと思えるタイトルだ。「太陽がいっぱい」がPatricia Highsmithの"The Talented Mr. Ripley"を原作としたのと同様,本作も米国人作家Day Keeneの"Jou House"が原作というのが面白い。おそらくこの辺はRené Clémentの趣味って気がする。

明らかに設定に無理のあるサスペンス劇ではあるが,この映画は完全にAlain Delonの美貌を楽しめばいいって感じではあるものの,なかなか楽しめる映画であった。Jane FondaはAlain Delonに相手にしてもらえないMilanda役を演じているが,まぁその細いことよ。その可愛らしくて若々しい姿を見ているだけでも実は嬉しくなっていた私である。もう一人の主役と言ってよいLola Albrightはこの映画の公開当時は,軸足をTVに移していた人のようで,結構な別嬪だと思えたが,Jane Fondaの何となく初々しい感じと違いがあってこの人もなかなかよい。

それにしてもAlain Delonだ。少々情ないような部分も示しながら,最終的にはカッコいいのである。運転手の恰好でサングラスをかけるだけでさまになってしまうのだから,美形は得だ(笑)。それを引き立てるのが名手Henri Decaëによるカメラ・ワーク。風光明媚なニースの風景や冒頭のNYC等,やっぱりこの人上手いわって感じなのもよかった。

そして音楽はLalo Schifrinのジャジーな響きが,この映画へのフィット感が大きかったと思う。演奏者はクレジットされていなかったが,ベースはPierre Michelotが弾いていたらしく,冒頭からいい感じを生み出していた。そうした要素も含めて星★★★☆ぐらいだと思うが,このラストは因果応報的に結構ひねりが効いていて,原題はこれで理解できるというところ。

本作のBlu-rayへのリンクはこちら

2025年1月26日 (日)

The Cure:ウェットでダークなブリティッシュ・ロックの典型。

The-cure"Songs of the Lost World" The Cure(Fiction)

昨年11月にリリースされたこのThe Cureのアルバムは,世間での評判もすこぶるよいので,ストリーミングで聞いて気に入ってしまったので,ボーナス・ディスク入り3枚組を海外から飛ばしたものがようやくデリバリーされた。

このブログにも何度も書いているが,私はロックに関しては完全にアメリカ指向で,ブリティッシュ・ロックはBeatlesやStones,あるいはRoxy Musicやプログレを例外としてあまり聞いていないと言ってもよい。もちろん,有名どころは聞いているつもりだとしても,フォローは全然足りていないというのが実態だ。実のところ,The Cureについてもほとんど聞いたことはないし,アルバムは一枚も保有していなかった。

ではこのThe Cureの16年ぶり(!)らしいこのアルバムがどうして私に訴求したのかと言えば,このアルバムに収められた音こそ,私がイメージするブリティッシュ・ロックらしいウェットかつダークな響きに溢れていたからだ。これが私を刺激するに十分な音楽だったと言ってよいし,歌詞もパーソナルな響きに満ちていて,(全部が全部ではないが)アメリカン・ロックが持つ「カラッとした明るさ」とは対極にあると言ってもよい。まさに深淵と呼びたくなるようなサウンドであった。

ボーナス・ディスクの2枚目はインスト・ヴァージョンなのだが,これまたこれだけでも十分楽しめてしまうという音の作りが,Robert Smithの歌のバックで構成されていたということを感じさせて,これも聞きものであった。まさにブリティッシュ・ロックの王道として評価したい。星★★★★★。昨年のリリースだが,まだ3か月も経過していないこともあり,新譜扱いとさせてもらおう。

Personnel: Robert Smith(vo, g, b, key), Simon Gallup(b), Jason Cooper(ds, perc), Roger O'Donnell(key), Reeves Gabrels(g)

本作(1枚もの)へのリンクはこちら

 

2025年1月25日 (土)

今年最初のライブはCatpack@Blue Note東京。

Catpack-at-bnt

今年最初のライブとなったのがCatpackであった。このバンド,Moonchlidにも参加するAmber Navranの新プロジェクトである。私はMoonchildのメロウ・グルーブがかなり好きなのだが,ライブに参戦する機会を逃していたこともあって,今回の来日情報を入手して,即参戦を決意したのであった。

Catpack-at-blue-note_20250319161701 アルバムは出したと言っても,ミニ・アルバムのEPみたいなものであり,メンツ的にも客入りはどうなんだろうと正直なところ思っていたが,行ってみれば,ほとんどフルハウスではないか。こんな人気があったのかと思いつつ,Amber Navranがライブの途中で「日本大好き~」と日本語で叫びたくなるのも納得できるノリのよさを聴衆も示していた。

このバンドはAmber Navranの新プロジェクトと言うよりも,メンバーの三者が対等な関係性のもとに演奏をしていたように感じるライブであったが,コントロール役を担っていたのは間違いなく数々のキーボードを操ったJacob Mannだったはずである。

そこにAmber NavranとPhil Beaudreauのヴォーカルと楽器が加わるのだが,Amber Navranのウイスパー・ヴォイスはここでも期待通りながら,私が感心したのがPhil Beaudreauの歌のうまさであった。しかもこの人,声が魅力的だし,トランペットの技量も大したものであった。ギターの音はあまりよく聞こえなかったのだが,それがPAのせいなのか,私の難聴のせいなのかはわからない。しかしラッパの音はミュートでもオープンであっても魅力的な音を出していた。Amber Navranは歌う以外はフルートに徹していたと思うが,シンセ・ベースにはちょこっと触った程度のように見えた。この人のフルートも技量は十分というところで,多才な人たちだと思った次第だ。

_20250124_0001

Moonchildに比べると,メロウ度は低く,よりビートが効いていたのは,サポート・メンバーであるEfajemue Etoroma, Jr.のタイトなドラミングゆえというところもあるかもしれないが,Jacob Mannのキーボード・ワークがより強いグルーブ感を打ち出していたからだと思えた。プログラムはミニ・アルバムの内容を拡大したかたちというところで,アンコール含めて約75分の演奏は十分に楽しめた。

Catpack-and-i-mosaic 演奏後にはサイン会をやっていたものだから,ついつい気分の良さも加わって,ミニ・アルバムも購入し,サインをゲットしたが,彼らの写真撮影にも気楽に応じるところにはこの人たちのファンを大切にする姿勢が感じられて,非常に好感が持てるものであった。メンバー3人ともちらっと話したのだが,Amber Navranによれば,Moonchildの新作に取り掛かっているらしいから,そちらも楽しみにしておこう。ということで,当日の戦利品と彼らとの写真(いつも通りモザイク付き)もアップしておこう。見て頂けばわかるが,笑顔が素敵な面々であった。

Live at Blue Note東京 on January 23, 2025 2ndセット

Personnel: Amber Navran(vo, fl, synth b), Jacob Mann(key), Phil Beaudreau(tp, g, vo), Efajemue Etoroma, Jr.(ds)

トップの写真はBlue Noteのサイトから拝借。

2025年1月24日 (金)

これがRay Brownのラスト・レコーディング?

_20250123_0001 "Ray Brown Monty Alexander Russell Malone" (Telarc)

Ray Brownが亡くなったのが2002年7月のことであった。当日,ライブを控えていながら,ゴルフをプレイしてしまうという体力には驚くが,ゴルフ後の昼寝中に亡くなったとのことだ。そして本作の録音が2002年3月のことだから,これが本当のラスト・レコーディングかはわからないが,それに近しいものであることは間違いない。この時,Ray Brownは75歳。90代になっても現役を続けるミュージシャンもいる中では,まだまだ若かったという気もする。

そもそも亡くなった日にゴルフをやっているぐらいだから,本人に肉体的な衰えなどの自覚はなかったものと思われるが,ここでも矍鑠たるプレイぶりだ。Monty Alexander,Russell Maloneという実力者を揃えての演奏はコンベンショナルな中に,悠揚たるスイング感を生み出しているという感じか。

Monty Alexanderと言えば,1969年のMilt Jacksonのアルバム"That’s the Way It Is"からの長年の共演ということになるが,Milt JacksonとRay Brownの関係性を考えれば,やはり相性のよいミュージシャンっていうのはあるんだろうなと思う。だからこそその後も共演歴があり,本作に至るってところだ。

Russell Maloneは昨年のRon Carterとの来日中に急死してショックを与えた訳だが,その最後の来日もこのアルバムと同じ編成ということで,どんな編成にも対応できる実力派であった。

そんな3人から生み出される音楽には刺激や驚きはない。あまりにコンベンショナルなサウンドだと言われても仕方ないが,時としてジャズに求められるリラクゼーションを生み出し,格の違いを感じさせる演奏で,そこいらのミュージシャンが集まってやっても決してかなわない音楽だと思える。

私が保有しているアルバムにはボーナス・ディスクが付いていて,これがTelarcに吹き込んだアルバムからのProducer's Choiceというベスト盤と言ってよい趣で,正直言ってしまうとこっちの方が楽しめるのではないかというところもあるようなお得感。ボーナス・ディスク込みで星★★★★。

Recorded on March 5-7, 2002

Personnel: Ray Brown(b), Monty Alexander(p), Russell Malone(g)

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2025年1月23日 (木)

これも久しぶりに聞いたAmericaのベスト盤。

_20250121_0001 "The Complete Greatest Hits" America(Warner Brothers/Rhino)

久しぶりにこのアルバムを聞いた。私はAmericaというバンドに思い入れはないのでベスト盤で十分なのだが,私が彼らの音楽に惹かれた契機は"Ventura Highway"だったように思う。あるいは"Sister Golden Hair"だったか。いや,やっぱり"Ventura Highway"だ。子供心にこの曲のメロディ・ラインが魅力的だったのだ。このベスト盤を買ったのも"Ventura Highway"が聞きたかったからと言っても過言ではない。

それでもって改めて聞いてみると,端からわかっていることではあるが,曲にしてもコーラス・ワークにしても,明らかにCSN&Y的であった。ただ,Americaの場合はより西海岸的な軽快さと言うか,爽やかさが強い感じがあって,そちらのサウンド指向がより明確であるから,おそらくはこの調子では飽きられるのも早かったのではないかと思える。デビュー・シングルとアルバムが売れて,2枚目もそこそこ売れたものの,3枚目が大して売れずってのも納得なのだ。

4枚目のアルバムでGeorge Martinをプロデューサーに迎えて起死回生を図り,5枚目の"Hearts"所収の”Sister Golden Hair"で盛り返したものの,その辺りまでがAmericaというバンドの人気が維持されていたことになるだろう。それが82年になって,いきなり"You Can Do Magic"がヒットしてカムバックみたいな感じになるのだが,この頃になると完全にAOR化したって感じだろう。これは長年のファンに響いたってより,新たなファン層を開拓したってことになるだろうが,その後はアルバム・ジャケも完全AORじゃんって感じになっていくのも面白い。

まぁ本作はベスト・アルバムだから,それなりの曲が揃っているとは言え,クォリティにはばらつきがあると感じさせるのが否定できない。それでも一時代を築いたバンドの軌跡を手軽に知るには丁度いいって感じだろう。星★★★☆。

Personnel: America<Gerry Buckley(vo, key, g, b, hca), Dewey Bunnel(vo, g), Dan Peek(vo, g, b, key, hca)>

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2025年1月22日 (水)

またもブート(まがい)の話:今度はBernsteinのマーラー5番。

_20250120_0001"Mahler: Symphony No.5 in C Sharp Major" Leonard Bernstein / Wiener Philharmoniker

最近,全然新譜を聞いていないので,やたらにブートレッグを取り上げているこのブログだが,Brad Mehldauの連続投稿に続くのはこのBernstein/VPOのマーラー5番である。こういうチョイスをしているから変態と言われても仕方がない。

これって結構知られた音源で,CD-Rの真正ブートレッグ(笑)もあって,実は私はそれも保有しているが,今日アップした写真はプレスCDのブートまがいって奴だ。これは2枚組で4番,5番のカップリングで前者は84年,後者は87年の録音。今回取り上げる5番の方はBBCのPromsでの演奏なので,当然のことながら放送音源がソースなので音には問題ない。この録音が興味深いのはドイツ・グラモフォンからリリースされている5番はこの数日前の録音ということだ。世の中のマーラー好きはどっちがいいと言っているようだが,どうも軍配はこちらに上がるようだ。何てたってProms史上最も有名な演奏とも言われているぐらいだ。

この演奏が評価されるのはその熱量だろう。Royal Albert Hallという全然クラシック向きとは思えないヴェニュー(日本で言えば武道館みたいな感じ)で,燃えに燃えるBernsteinって感じだ。この強烈極まりない終楽章には当然聴衆も燃えるわ。ドイツ・グラモフォンの正規録音よりこっちの評価が高いのにもうなずけるなぁ。Royal Albert Hallという場がそうさせたって感じだ。それもBernsteinらしいと言えばそうなんだろうなぁ。

Recorded Live at Royal Albert Hall on September10, 1987

Personnel: Leonard Bernstein(cond), Wiener Philharmoniker

2025年1月21日 (火)

"Thrak":リリースからもう30年か...。

Thrak "Thrak" King Crimson(Virgin)

主題の通り,早いもので本作がリリースされてからもう30年だ。その30年の間にこのアルバムを何度プレイバックしたかは疑問で,結構体力的に充実していないと聞く気が起こらない。このアルバムと前段となった"Vroom"も同じようなものだ(苦笑)。本作では「ヌーヴォー・メタル」と言われたりもするヘヴィなサウンドが続くので,いくらロックが好きだと言っても,決して聞き易い音源だとは思わないが,この路線がこの後のKing Crimsonの音楽の端緒となったと思えば,相応の価値を認めないといけないアルバムではある。いずれにしても,これだけのヘヴィな音を生むためには,ツイン・トリオという6人編成が必要だったと思える。

振り返ってみれば,私は相応にKing Crimsonのアルバムをフォローしてきたつもりではいても,結局プレイバックという観点では"Larks' Tongues in Aspic"~"Red"期のアルバムに集中してしまうというのが実態だ。John Wettonの声が好きだったということもあるが,聞いていて一番私にはフィットする。もちろんライブも観に行った"Decipline"期のバンドだって悪くないし,このアルバム以降でもクォリティは高いと思ってはいても,正直あまり手が伸びない。それでも「最後の日本公演」には行ったし,相応のファンであるのだが,それなりに好き嫌いが出てきてしまうのは当然だ。

そんなKing Crimsonの音源は今でも次から次へと発掘,リリースされ続けているが,それらをすべて追うほどの熱烈さは私にはないとしても,Robert Frippが重ねてきた音楽的な変遷の一幕として本作は捉えたい。シンパシーを感じるところまではいかないが,アルバムとしての評価は星★★★★ぐらいでいいだろう。この後,クァルテット編成やProjeKt活動でいろいろな編成も試しつつ,最終的には3ドラムス編成としたRobert Frippが求める音楽の響きはこの辺りからだったのかもしれない。

Recorded between October and December 1994

Personnel: Robert Fripp(g, soundscape, melotron), Adrian Brew(g, vo), Tony Levin(b, vo), Trey Gunn(stick ,vo), Bill Bruford(ds, perc), Pat Mastelotto(ds,, perc)

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2025年1月20日 (月)

Martha Argerichが弾くリスト。強烈としか言いようがない。

_20250118_0001 "Liszt: Sonata H-moll / Schumann: Sonate G-moll" Martha Argerich(Deutsche Grammophon)

グラモフォンのArgerichボックスからこのアルバムを久しぶりに聞いた。リスト唯一のピアノ・ソナタをMartha Argercihが弾いた訳だが,半世紀以上前の録音にもかかわらず,この演奏の強烈さは失われることはない。静と動の対比,アーティキュレーションともに完璧と言ってよいように思える。カップリングされたシューマンのソナタ2番の激しさには若気の至りみたいなところも感じるが,リストの方はそれがいい方に影響していると言ってもよいかもしれない。いずれにしても高度な技術の裏付けあっての演奏。

陳腐な表現覚悟で言えば「ほとばしるパッション」ってところだ。えぐいと言われても仕方のない部分こそあれ,ここまでやってくれれば満足してしまう私であった。星★★★★★。

Recorded in June 1971

Personnel: Martha Argerich(p)

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2025年1月19日 (日)

プレイバック頻度の上がらないHerbie Hancockのアルバム:"Future 2 Future"。

_20250113_0001"Future 2 Future" Herbie Hancock(Transparent Music)

本作がリリースされたのが2001年のことなので,もはや四半世紀が過ぎようとしている中,私がこのアルバムをプレイバックしたことが何度あったかと思いたくなるほど,聞いた記憶に欠けるというのが実感だ。多分このアルバムは中古でゲットしたものだと思うが,本当に中身が記憶にない。

Herbie Hancockはその時代に応じて,新しい音楽を提示したり,対応してきたことは間違いのない事実だが,これは改めてBill Laswellと組んで,ヒップホップあるはドラムンベース的なアプローチを打ち出したアルバム。しかし,既にヒップホップについては"Future Shock"でやっちゃっているからねぇというところはあるし,リーダー作としての前作が"Gershwin’s World"だっただけに違いを出そうと思ったのかもしれないが,私が疑問なのはせっかくJack DeJohnetteを何曲かで迎えているのに,こんな単純なビートを叩かせるってどういうこと?って言いたくなることだ。まさに宝の持ち腐れのようではないか。ややジャズ色の濃く,ドラミングもDeJohnetteらしさもある"Virutual Hornets"ですら,大して面白いとは思えないのだ。むしろ,既に亡くなっていたTony Williamsのドラムスの音源を使って仕立てた,その名も"Tony Williams"の方が面白くさえ聞こえてしまうのが難点だ。

もちろん,Herbie Hancockのやることなので,愚作と言うつもりはないが,こっちの期待を越えることを当然と思ってしまうのがHerbie Hancockのようなミュージシャンだとすれば,そうはなっていないのが残念なアルバム。これを聞くぐらいならほかに聞くべきHerbie Hancockのアルバムはいくらでもあるから,プレイバック頻度は今後も上がることはないだろう。星★★★。

Persosnnel: Herbie Hancock(key), Bill Laswell(b), Charnette Moffett(b), Jack DeJohnette(ds), Karsh Kale(ds, prog, beats), Tony Williams(ds), Wayne Shorter(ts, ss), Carl Craig(prog, beats), A Guy Called Gerald(prog, beats), Grandmixer DXT(turntable), Rob Swift(turntable, prog), Elenni Davis-Knihgt(vo), Chaka Khan(vo), Dana Bryant(vo), Imani Uzuri(vo), GiGi(vo)

本作へのリンクはこちら

2025年1月18日 (土)

Brad Mehldauのブート聞きはこれが最後:ロンドンのBarbicanにおけるMehliana。

_20250109_0002 "London 2013" Brad Mehldau and Mark Guiliana(Bootleg)

立て続けに聞いたBrad Mehldauのブートレッグの最後がMehlianaのロンドンでのライブ。この音源はもともとBBCのラジオで放送されたものなので,完全サウンドボードだから当然音はよい。しかもこれがブート購入のオマケでついてきたのだからラッキーと言っておこう。

アルバム"Taming the Dragon"が出たのが2014年で,彼らがこのライブをやったのが2013年ということなので,ある程度時間を掛けて,ライブでの共演を重ねながら音楽を熟成させ,アルバムを完成させたと考えることもできるように思える。

そうは言っても,このライブの音源を聞いていれば,アルバムでやろうとしていたことはほぼ出来上がっているって感じである。もちろん,"Taming the Dragon"が出た時には驚かされたものだが,これもBrad Mehldauだよなぁと思ったのもう10年以上前というところに時の流れの速さを感じる。その後もジャンルを越境する活動をするBrad Mehldauの"Jacob's Ladder"で更に明らかになるプログレへのシンパシーは,この辺りからはっきりしていたと思う音源であった。

Recorded Live at the Barbican on November 21, 2013

Personnel: Brad Mehldau(key),Mark Guiliana(ds, perc, loop)

2025年1月17日 (金)

年末年始に見た映画(8):恥ずかしながら初めて見た「地獄の黙示録」はそのファイナル・カット。

Apocalypse-now 「地獄の黙示録("Apocalypse Now")」(’79/’19,米)

監督:Francis Ford Coppola

出演:Marlon Brando, Robert Duvall, Martin Sheen, Frederic Forrest, Sam Bottoms, Lawrence Fishburn, Harrison Ford, Dennis Hopper, Scott Glenn

年末年始にストリーミングで見た映画の最後が本作であった。私が見たのはファイナル・カット版ということで,オリジナルより30分長いらしい。その前にはRedux(特別編集版)というファイナル・カットより更に20分長いヴァージョンも存在するというのは,今回見るまで全然知らなかった。

オリジナルが公開された当時,相当話題になっていたはずの本作をなんで見ていないかったと言えば,私は公開当時浪人中であり,さすがに映画を見る余裕はなかった。とか何とか言いつつ,毎日ジャズ喫茶に入り浸って,読書ばかりしている生活を送っていたが...(笑)。今更ながらであるが,私が現役での受験に失敗したのは全て国語の点数によるものであった。高校時代に国語が苦手という意識はなかったが,受験時の成績(今はどうかわからないが,当時,わが母校は不合格者にだけ点数を教えてくれた)を見れば明らかだったから,私は一念発起して,本を読みまくっていたのだ(笑)。ついでに高校の同級生の女子には迷惑だっただろうが,複数の女子に手紙を書きまくって文章能力を磨いていた(爆)。

それでもってこの映画を初めて見て,あまりの強烈さにまいってしまった。映画を見ていて途中に出てくるフランス人の農園のシークェンスが浮いている感じがしたが,ここはオリジナルにはなかったものを復活させたらしい。この映画を見ていると,前半と後半でトーンが少々違って,この辺りに違和感を覚える人がいるのは仕方ないと思う。それほど前半の戦争シーンの印象が強烈で,まさに狂気すら感じさせるものだから,終盤でMarlon Brandoが登場してくる土俗的な感覚の映像とのギャップに戸惑うと言えばその通りとも言える。

だが,この映画,描き方は前後半で変わるとしても,全編を通じて「狂気」が貫かれているというのが私の感覚である。そのトーンの変化のトリガーがフランス人の農園のシーンだったとも思えるが,そのシーンにもやはり「狂気」は存在していたと思えるのだ。

正直言って,年末年始の休暇の最後に見る映画としては相当に重苦しい映画だったとも言えるが,絶対に見て損はないと思えた。とにもかくにもこの緊張感は半端ではなかったし,出ている役者陣が実に面白いキャスティングで,それを見ているだけでも楽しめてしまった。特にびっくりしたのがLawrence Fishburn。現在の姿と似ても似つかぬ痩せっぷり。そのほか,Harrison Fordは出てるわ,Scott Glennはセリフなしのチョイ役で出てるわ,Dennis Hopperは出てくるわと彼らを見ているだけでも楽しんでしまった。それでも一番の儲け役はRobert Duvallだったかもなぁ。Coppolaの映画ではこの人,いいところを持っていくねぇと思ってしまった。星★★★★★。

それにしても,Doorsの"The End"と言い,「ワルキューレの騎行」といい,音楽の使い方も実に見事であったが,よくよくクレジットを眺めているとAirto Moreiraらの名前も出てくるのも面白かった。

本作のBlu-rayへのリンクはこちら

2025年1月16日 (木)

更に続くBrad Mehldauのブート聞き:今度はMehliana+ジョンスコ!

_20250109_0001 "Detroit Jazz 2016" Scofield Mehldau Guiliana(Bootleg)

先日取り上げたChick Coreaとのデュオも2016年の演奏だったが,同じ2016年でも全く異なるタイプのBrad Mehldauである。これは2016年に欧米で短期間行われたBrad MehldauとMark GuilianaのMehlianaコンビに,ジョンスコことJohn Scofieldが加わるというスペシャル・ユニットによるライブのブートである。これもオーディエンス録音なのだが,オーディエンス録音としては相当出来がよい録音と言え,若干うるさい客の声が邪魔なほかは,ほぼストレスなしに聞くことができるのが素晴らしい。隠し録りかくあるべし(笑)。

Scofield-mehldau-guiliana このユニットの活動期間は限定的で,同年5~6月にNYCのBlue Noteに出演後,7月は欧州ツアー,そして活動を締めくくったのがこの9月のデトロイトにおけるジャズ・フェス出演であった。この音源はその最終日の実況録音であるが,面白いのがジョンスコがギターだけでなく,一部(基本はBrad Mehldauのソロのバック)でベースも弾いていることである。あくまでもベースは味付けみたいなものなので,ギターのような変態度は出てこない。ライブにおいてはジョンスコは写真のように,ベースはスタンドに設置して弾いていたようだ。

レパートリーはMehliana風あり,ジャム・バンド風あり,プログレ風あり,牧歌的な響きあり,ポップな曲調ありとこの人たちの多様な音楽性を反映したもので,これは相当楽しめる。途中でピアノの調子が悪くなってようで,曲間に調律みたいなのをやっているのはご愛嬌だが,このブートレッグは実に出来がよいもので,大きな声では言えないが,彼らのファンなら必聴の音源と言える。2枚組でたっぷり聞けるのも嬉しいねぇ。

Recorded Live at the Detroit Free Jazz Festivall on September 5, 2016

Personnel: John Scofield(g, b), Brad Mehldau(p, el-p, synth), Mark Guiliana(ds, perc)

2025年1月15日 (水)

年末年始に見た映画(7):「氷の微笑」ってこんな映画だったのねぇ(笑)。

Basicinstinct氷の微笑 ("Basic Instinct")」(’92,米/英/仏)

監督:Paul Vanhoeven

出演:Michael Douglas, Sharon Stone, George Dzundza, Jeanne Tripplehorn, Dennis Arndt, Dorothy Malone

年末年始に見た映画の7本目がこれであった。エロティック・サスペンスみたいな感じの映画は「ナインハーフ」とか「危険な情事」あたりから多くなったように思うが,これもその路線の映画と言ってよいだろう。前述の2本はAdrian Lyneによるもので,Adrian Lyneはその筋専門みたいな感じだが,この映画は「ロボコップ」等を撮ったPaul Vanhoevenによるもの。以前にも書いたと思うが,この頃は私が一番映画を見ていない時代なので,本作も見たのは初めてだったので,主題のようになるわけだ。

まぁこの映画,Sharon Stoneの「足の組み替え」シーンが一番有名という,ある意味不幸な映画だが,Sharon Stoneはセクシーさ炸裂の演技で臨んでいるだけに,それだけが話題になるのはちょっと可哀想という気にもなるが,映画としてはそこそこって感じで,この映画でブレイクしたんだからまぁよしってところか。結局真犯人は...ってところもあって,星★★★ぐらいにしておこう。

この映画を見ていて,昔はこんな映画もTV放送していたなんてことを知ると,現在のコンプライアンスの名を借りた「自主規制」のないおおらかな時代だったなんて思ってしまうほど,相当エロ度は高い。TV放送時はどんな感じで放送してたのかと感じてしまうような描写もあって,そっちの方が気になってしまうという映画とも言える(笑)。

尚,往年の名女優,Dorothy Maloneがエンド・クレジットでAlso Starringとして表示されて,あの役だったんだろうと思ったらやっぱりそうだった。公開当時は古希を迎える前ぐらいだったが,今だったらもっと若づくりの古希前なんていくらでもいるよなぁと思ってしまった不謹慎な私であった。でも綺麗に歳を取るというのも大事だとも思わせてくれたが。

本作のBlu-rayへのリンクはこちら

2025年1月14日 (火)

またもBrad Mehldauのブートの話。今度はChick Coreaとのデュオ@Blue Note

_20250108_0002 "Definitive Blue Note" Chick Corea / Brad Mehldau(Bootleg)

ブートレッグに手を出し始めるとキリがないので,ブートを買う場合も極力サウンドボード音源を選ぶようにはしているが,どうしても注目すべき音源にはオーディエンス録音でもついつい手が出てしまう。本盤もそんな一枚だが,これはニューヨークのBlue NoteにおけるChick CoreaとBrad Mehldauのデュオ盤。

これは2016年の8週間に渡るChick Coreaの生誕75周年記念ライブ・シリーズの一コマ。私はこの年の12月にNYCに出張していて,その時はChick CoreaとJohn McLaughlinのデュオを観たのだが,タイミングさえ合えば,このライブも観たかったものだが果たせる訳もなく...。だからこの時の演奏には興味津々であり,先日のフランスでの最新ライブのブートと一緒に購入したもの。オーディエンス録音だけに音はそれなりだし,聴衆のノイズも発生するが,まぁ聞けるレベルではある。

この二人にとっては手慣れたレパートリーと言ってもよい曲が並んでいるが,冒頭の"You And the Night And the Music"になだれ込むインプロヴィゼーション・パートは結構アブストラクトな感覚で始まり少々面食らうが,その後はかなりまともなプレイぶりになっていく。そうは言っても2曲目の"Tenderly"でも途中から様子が変わってくる部分があって,この曲にこのアプローチは...って感じもする。

全編を通じて,Brad Mehldauは少々遠慮気味と言うか,Chick Coreaを立てている感覚があって,この二人ならでは,あるいは丁々発止というところまでは行っていないように思えるのは少々残念だ。しかし,特別な機会の「一期一会」と言ってよい珍しい組み合わせだけに,聞く価値はあるが,まぁこんなもんだろうなってレベル。その場にいれば間違いなく別の感慨もあるだろう。前述のJohn McLaughlinとのデュオに関して,私はこのブログに「今回の演奏はChick Coreaの生誕75周年記念のライブ・シリーズの一環としてのお祭り企画であるから,固いことは言うまい。」と書いているが,それはこの演奏にも当てはまるな。

Recorded Live at the Blue Note NYC on November 18, 2016

Personnel: Chick Corea(p), Brad Mehldau(p)

2025年1月13日 (月)

年末年始に見た映画(6):久しぶりにDVDで"Stop Making Sense"を見た

Stop-making-sense 「ストップ・メイキング・センス("Stop Making Sense")」(’84,米) 

監督:Jonathan Demme

出演:Talking Heads (David Byrne, Jerry Harrison, Tina Waymouth, Chris Frantz),Alex Weir, Berney Worrell, Steve Scales, Lynn Mabry, Ednah Holt

年末年始に見た映画はほぼストリーミング頼みだったが,この映画はDVDで見た。音は聞いていても,映像は久しぶりであったが,光と影をうまく使ったJonathan Demmeの演出もよいが,そもそもこのステージングを考えたDavid Byrneの勝利だと思った。「アメリカン・ユートピア」と言い,本作と言い,David Byrneのセンスには恐れ入るしかない。いずれにしてもロック史に残る素晴らしい映画なので,作品の評価としては文句なしの星★★★★★である。

それでもってこれをDVDで見た後,ストリーミングでもデジタル・リマスター版が見られるということで,冒頭の"Psycho Killer"だけ見てみたのだが,画質の違いがあまりにも歴然としていて,これは絶対デジタル・リマスター版で見るべきだと確信した。 DVD版だって,昔の映画館で見るような感じの画質は保たれているとは思いつつ,このテクノロジーを利用したデジタル・リマスターのパワーを感じざるをえなかった。この映像により,Jonathan Demmeの光と影を強調した演出が更に際立つと言ってよい。本来ならBlu-rayを買いたくなるところだが,ストリーミングでも十分な画質が担保されているから,それでもOKだと思う。いい時代になったものだ。

当面はデジタル・リマスター版をAmazon Primeで見られると思うので,そちらへのリンク貼り付けておこう(こちら)。

2025年1月12日 (日)

新譜が届かない中でBrad Mehldauの珍しいトリオによるブート音源。

_20250108_0001 "Nancy 2024" Brad Mehldau Trio(Bootleg)

新年になってまだ新譜も聞いていないところにBrad Mehldauのブート音源が届いたので,早速聞いている。フランスのナンシーという街でのトリオによるライブなのだが,このブートはYouTubeでも公開されている映像がソースだろうが,音はサウンドボードだから,クォリティには問題ない。

この音源が注目されるのは,そのメンツによる。Samara Joyとも共演したFelix Moseholmがベース,そして旧友Jorge Rossyとの久々の共演ということもあり,これまでに共演経験はないのではないかと思ったら,YouTubeには2020年のライブの模様もアップされているので,へぇ~となってしまった。Brad Mehldauの追っかけをしている割には私も無知なもんだと思ってしまった(苦笑)。

2020年のライブではJorge RossyがMCをしているので,元々はJorge Rossyの声掛けでの共演だったのかもしれないが,そのトリオが再集結したのがこのライブである。この音源を聞いていると,Brad Mehldauらしい美的で痺れるような感覚というより,特にBrad Mehldauのオリジナルでは,よりコンベンショナルな,かつリラックスした感じで弾いているように思える。むしろ,"Young And Foolish"のようなスタンダードに通常のBrad Mehldauらしさを感じた私である,

本年5月にはChristian McBride,Marcus Gilmoreというトリオでの来日を控えているBrad Mehldauがレギュラー・トリオと異なるフォーマットで演奏をするのがなぜなのかはわからないが,異なるメンツとのプレイによってリフレッシュして,レギュラー・トリオでのレベルを上げようという意思の表れかもしれない。

本番のライブではこのブートに収められた音源のほかに"Almost Like Being In Love"と"Annabelle"も演奏したようだが,YouTubeの画像からも洩れているので,これが今のところこのライブにおける入手可能な全音源ってことだろう。いずれにしても,Brad Mehldauの活動をフォローする以上,これは避けて通れない音源であった。YouTubeで公開されている映像を貼り付けておこう。

Recorded Live at Nancy Jazz Pulsations on October 16, 2024

Personnel: Brad Mehldau(p), Felix Moseholm(b), Jorge Rossy(ds)

2025年1月11日 (土)

年末年始に見た映画(5):真面目に作られた「13デイズ」。

13-days 「13デイズ("Thirteen Days")」(’00,米)

監督:Roger Donaldson

出演:Kevin Costner, Bruce Greenwood, Steven Culp, Dylan Baker, Lucinda Jenny

これも配信終了間際に見た映画だったのだが,実に真面目に撮られた映画であった。キューバ危機はアメリカとソ連が核戦争一歩手前まで行ったという状況であったことは理解していても,その背景について理解するには丁度よい映画と言ってもよいかもしれない。

正直言って,軍関係者が非常に好戦的なように描かれているので,相当リベラルな製作姿勢が感じられ,保守的な人間はこういう映画を見ると気に入らないだろうなぁなんて思っていたが,Wikipediaによれば国防総省からは協力を一切拒否されたってことを見ると,さもありなんってところだろう。私は外科医が何かと言えば「切りたがる」のと同じだなんて思っていた(笑)。

ニュース映像なども上手く交えて対応して,どうやって米ソの全面衝突を回避するのかというのを真摯に描いているので,派手なアクション等は皆無の社会派の映画と言ってもよい作品であった。ある意味地味と言ってもよい映画だし,上述の通り,政治的信条によっては反発もあるであろう描き方なので,ヒットは難しかったかもしれない。だが,この真面目さを私は買いたいと思いながらずっと見ていたのであった。実在の人物を演じなければならない役者陣もプレッシャーはあっただろうが,違和感なく演じているところは評価したい。Dylan Bakerが演じたRobert McNamara国防長官なんて,かなり似ているしねぇ。星★★★★。

本作のBlu-rayへのリンクはこちら

2025年1月10日 (金)

久しぶりに聞いたSonny Rollinsの「ヴィレッジ・ヴァンガードの夜」。

_20250104_0002 "A Night at the Village Vanguard" Sonny Rollins(Blue Note)

このアルバムをこのブログで取り上げたのが2010年8月のことであった。果たしてそれ以来このアルバムをプレイバックしたことがあったか?と問われれば,Yesと答える自信がない。昨今と異なって,まだCDをガンガン買っていた時期は暫く続いて,新譜を聞くのに忙しかったこともあって,手持ちの音源を聞く機会というのは限られていたというのが実態だ。しかし,コロナ禍を経て,仕事も在宅勤務が中心になり,手持ちのアルバムを聞く機会は随分増えてきて,「温故知新」モードが強まっているように思う。それでも本作のように世評を確立したアルバムよりも,「これってどんなんだったけ?」という感じのアルバムの方に手が伸びることが多いのも事実で,ついついないがしろにしがちな往年の名盤なのだ。

ではなんでこのアルバムを急に聞く気になったかと言えば,先日取り上げたCharlie HadenとJoe Hendersonのトリオ・アルバムによるところが大きい。そう言えば本作も暫く聞いていないということで,本当に久しぶり(記事にして以来だとすれば,14年以上ぶり!)のプレイバックとなった。また,昨年,レコード・コレクター誌において「ブルー・ノート・ベスト100」なんて特集が組まれたことも影響があると思う。ただ言っておきたいのはレココレ誌のライターは通常のジャズ・リスナーとは少々テイストが違っていて,なんでこれが?みたいなアルバムが評価されているところもあるが,そうした中で本作は15位という当然と言ってよい(あるいはもっと上でもよい)ポジションを確保していた。

このピアノレス・トリオがアドリブの自由度の高さを求めてというところもあったとは思うが,選曲も自由度を発揮しやすそうな曲が並んでいる。そしてほとんどSonny Rollinsワンマン・ショーの如き吹きっぷりは今聞いても興奮する。こういう音楽はある程度ボリュームを上げて聞くべきであり,私の場合,「家人の居ぬ間」を狙うというのが一番だ(爆)。そして感じるのが50年代のSonny Rollinsの凄みだが,長年活躍を続けたSonny Rollinsであっても,やはりこの人のピークは50年代だったと思わざるをえない演奏の数々に思わず興奮してしまった私である。そしてそれを煽るElvin Jonesのドラムスだが,バスドラのキックも強烈なドラミングは,サックス奏者ならずとも共演者が燃えること必定。先般のCharlie HadenとJoe Hendersonの共演盤もいい出来だったと思うが,このアルバムと比べてしまうと...って感は否めない。

その後,様々なかたちでリリースが続けられることもこのアルバムの素晴らしさと人気を物語っていると思う。未発表だった音源にも興味はあっても,私はまずはこの一枚だ。Sonny Rollins恐るべしと思わせるに十分なアルバム。星★★★★★以外ありえない。

Recorded Live at the Village Vanguard on November 3, 1957

Personnel: Sonny Rollins(ts), Wilbur Ware(b), Donald Bailey(b), Elvin Jones(ds), Pete La Roca(ds)

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2025年1月 9日 (木)

年末年始に見た映画(4):元祖「遊星よりの物体X」を初めて見た。

The-thing-from-another-world 「遊星よりの物体X("The Thing from Another World")」(’51,米,RKO)

監督:Christian Nyby

出演:Kenneth Torby, Margarett Sheridan, James Arness, Douglas Spencer, Robert Cornthwaite

年末年始に見た映画の4本目が「遊星よりの物体X」。Howard Hawksが製作したことでも知られる本作を,後にJohn Carpenterがリメイクした「遊星からの物体X」はクリーチャーの気持ち悪さが感じられる映画であった(リメイク作に関する記事はこちら)が,そのオリジナル作である本作は今まで見たことがなかったので,今回が初鑑賞。

1951年という時代もあるし,クリーチャーもJames Arnessの被り物で対応という実にシンプルな構成にした映画でありながら,真っ当に状況に対応する空軍関係者と,全く実態を踏まえない指示を出してくる将軍,そして科学優先で物事を考えてしまうマッド・サイエンティスト(と言ってもノーベル賞受賞者みたいな設定になっているが...)もうまくシナリオに織り込んだストーリーは結構よく出来ている。時代ゆえに特撮に期待するようなものではないし,どうスリリングに話を進めるかの方がずっと重要だったということを強く感じさせる映画であった。

ケチをつければいくらでもつけられるとは思っていても,ストーリーに破綻はないし,役者陣も真面目にやっていて好感度が高いが,ホラーとしての怖さはほとんどないので,念のため。そうは言っても,この閉塞状況でMargarett Sheridan演じるNikkiは余裕あり過ぎとは言っておこう(笑)。同じ往時のSF映画としては「ボディ・スナッチャー/恐怖の街」の方がずっと怖いと思う。星★★★☆ぐらいが妥当と思う。

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2025年1月 8日 (水)

中古で拾ったCharlie HadenのMontreal TapesはJoe Hendersonとのトリオ盤。

_20250104_0001 "The Montreal Tapes: Tribute to Joe Henderson" Charlie Haden (Verve)

これは昨年暮れに中古盤屋をうろついていてゲットしたアルバム。"Montreal Tapes"のシリーズは私も何枚か保有しているが,全部買っておけばよかったと思っても,後の祭りである。私が保有しているだけでもCharlie Hadenらしさ満載と言ってよいアルバム群である。そうした中で,多少ほかのアルバムから遅れて2003年にリリースされたのが本作は,タイトルの如くJoe Hendersonが2001年に亡くなった上での追悼盤と考えてよい。リリースが遅れたのは当初は出すつもりがなかったってことかもしれないが,もしこれが埋もれていたら惜しいと思わせたに違いない。

ライナーにCharlie Hadenも書いている通り,Joe Hendersonはこのライブに際して,"Charlie, let’s play something free like you did with Ornette."と声掛けをしてライブに臨んだらしいが,全編に渡ってそういう感じという訳ではなく,最もそれっぽいのは3曲目の"In the Moment"ということになる。ピアノレスのトリオなので,そもそも演奏の自由度は高いところに,意図的にそうしたフレイヴァーを持ち込んでいるのが顕著に表れたのがこの演奏で,最もOrnette Coleman的なサウンドに傾斜したものとなっているのも,Charlie Hadenがライナーで認めている通りだ。

ほかの演奏については,基本的にコンベンショナルな範疇での演奏と捉えてよいものではあるが,Joe Hendersonのフレージングは相当刺激的だ。私は生前のVerve時代のJoe Hendersonはややソフトな感触があって,アルバムとしては悪くないとしても,ぞくぞくするような感覚は得られていないと感じるところもあった。しかし,本作でのJoe Hendersonは昨年末に発掘リリースされた"Forces of Nature: Live at Slugs'"ほどではないとしても,Verveのアルバム群とは明らかに異なる吹きっぷりだと思えた。

最短が冒頭の"Round Midnight"の12分で,全編が長尺で演奏される中で,Joe Henderson,Charlie Haden,Al Fosterの3者が自在に演奏するさまは,Joe Hendersonを追悼するには最適な音源であったと言ってもよい。惜しむらくは"All the Things You Are"のフェード・アウト(かつフェード・イン気味)であるが,これだってそれでも19分越えなのだ。こうしたところが,当初リリースを見送られていた理由ではないかと想像するが,それでも埋もれていなくてよかった。星★★★★☆。

これでこの時の音源で正式にリリースされていないのはPat MethenyとJack DeJohnetteとの演奏ということになるが,ストリーミングでも非公式音源として公開されているのでご参考まで(ラジオMC入りのストリーミング音源へのリンクはこちら

Recorded Live at Monteal Jazz Festival on June 30, 1989

Personnel: Charlie Haden(b), Joe Henderson(ts), Al Foster(ds)

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2025年1月 7日 (火)

年末年始に見た映画(3):痺れるほどいい映画だった「善き人のためのソナタ」

Photo_20241230142001 「善き人のためのソナタ ("Das Leben der Anderen")」('06,独/仏)

監督:Florian Henckel von Donnersmarck

出演:Ulrich Mühe, Sebastian Koch, Martina Gedeck, Ulrich Tukur, Thomas Thieme

これも配信終了前に駆け込み鑑賞した映画だが,これが実にいい映画で嬉しくなってしまった。舞台はベルリンの崩壊前のドイツが東西に分断されていた時代の社会主義国家,東ドイツ。人権もへったくれもない監視,盗聴が横行していた時代が描かれるが,そこに芽生えるヒューマニズムが心地よいのだ。主演のUlrich Müheはこの映画の公開の翌年に世を去ったが,素晴らしい置き土産となったと言ってよい作品だ。特にラストのセリフには泣ける。

まぁUlrich Mühe演じるガチガチの国家保安局員である主人公の変心ぶりが,ちょいと極端過ぎやしないかと言えばその通りではあるのだが,このストーリーのよさ,シナリオのよさゆえにそんなことも気にならなくなる。オスカーで最優秀外国語映画賞を獲得したのもうなずけるような佳品であり,私としてはこれまでこういう映画を知らずにいたことを恥じたくなるような映画である。喜んで星★★★★★とするが,これを「野獣暁に死す」の次に見ている私って...って感じだ(苦笑)。

それにしても,かつての東ドイツでこのような監視が日常的に行われていたとすれば,実に恐ろしい。ベルリンの壁が崩壊したことを改めて喜びたくなってしまった。

本作のBlu-rayへのリンクはこちら

2025年1月 6日 (月)

ブラックホーク99選に選ばれている日本人の作品を改めて聞く。

99

私をSSWやアメリカン・ロックの世界に誘うガイドとなったのが「ブラックホークの99選」だったということは,何度もこのブログに書いてきたが,その99選に選ばれた日本人の作品4枚については一切触れたことがない。荒井由実の「ひこうき雲」はさておき,選出されているあがた森魚も岡林信康も雪村いづみも,それらのアルバムは聞いたこともなかったからだ。しかしストリーミングで聞けるものは聞けばいいが,岡林信康の「金色のライオン」だけはストリーミングで聞けないということもあり,何を血迷ったか(笑),これらのアルバムをまとめて購入したのであった。

これらのアルバムにはあがた森魚と岡林信康が松本隆プロデュース,荒井由実と雪村いづみがキャラメル・ママが伴奏という共通点があることを今更ながら知った私であった。結局のところははっぴいえんど関係者の関与ってことになる。それぞれのアルバムにはそれぞれの面白さがあるとは思うのだが,私としては私が抱いているブラックホークの99選の,特にアメリカ系のアルバム群とはどうもテイストの違いを感じてしまって,少々戸惑ったというのが正直なところだ。これが当時のブラックホークの客にどう捉えられていたのかは非常に興味深いが,「ひこうき雲」以外の3枚で,私が一番面白いと思ったのはあがた森魚の「噫無常」かもしれないな。

しかし,改めてこれらのアルバムを聞いていると,やはり私の音楽に関するアメリカ指向の強さを改めて感じたというのが正直なところ。これもまぁ勉強だ(笑)。

2025年1月 5日 (日)

年末年始に見た映画(2):仲代達矢が出演したマカロニ・ウエスタン「野獣暁に死す」。

Photo_20241230082901 「野獣暁に死す("Oggi a Me, Domani a Te!")」(’68,伊)

監督:Tonino Cervi

出演:Montgomery Ford, 仲代達矢,Bud Spencer, William Berger, Franco Borelli

年末年始に見た映画の2本目。1本目の「処女の泉」とギャップがでか過ぎだろうと言われても仕方のないマカロニ・ウエスタン。これも配信終了間近ということもあって,慌てて見たもの。

映画はMontgomery Ford演じるBill Kiowaの復讐劇であるが,復讐の対象となる悪役が仲代達矢。マカロニ・ウエスタンはSergio Leoneの「荒野の用心棒」からも明らかなとおり,黒澤明の映画の影響がある訳だが,この仲代達矢のキャスティングも黒澤映画ゆえの部分が大きいように思える。ここでの仲代達矢の悪役ぶりを見ていると,もう少し出る映画を選んだ方がよかったんじゃないの?なんて思いつつ,最後まで見てしまった。

仲代達矢が演じるのは強盗団,コマンチェロのボスであるが,武器として大なたを振るったりするところは思わず笑ってしまう設定であった。まぁとにもかくにも悪役である。そのコマンチェロに対抗すべく,Montgomery Ford演じるBill Kiowaが4人の腕利きガンマンを集めるのだが,これがまぁ「荒野の七人」(そしてその源流である「七人の侍」)みたいな感じの人集めである。ある意味このしょうもない!って感じのシナリオを監督のTonino Cerviと共同で書いたのは,後に「サスペリア」を撮るDario Argentoであった。

まぁこういう映画は小難しいことを言わずに見るべき映画に過ぎないが,それにしても世の中そんなにうまく行かんだろうというような感じで敵を倒していくところは「勧善懲悪」モードなのか?と言いたくなる。映画としては星★★☆で十分だろうが,当時この程度の映画はいくらでも作られていたんだろうなぁと思ってしまった。まさにプログラム・ピクチャーって感じだ。

因みにここでMontgomery Fordとクレジットされている役者はBrett Hasleyの変名。本作のような映画でイタリアで暫く稼いで帰国してからは,主にTVで活躍しているようだ。90歳を過ぎてまだ現役ってのは大したものだ。

本作のDVDへのリンクはこちら

2025年1月 4日 (土)

初めて聞いたGerry MulliganとChet Bakerの"Carnegie Hall Concert"。

Mulligan-baker-carnegie-hall-concert "Carnegie Hall Concert" Gerry Mulligan & Chet Baker (CTI)

長年ジャズを聞いていても,聞いたことがないアルバムなんていくらでもある訳で,それを補っていたのがジャズ喫茶だったが,それでも触れるチャンスに恵まれない演奏はそれこそ星の数こそあると言ってもよい。しかし,ストリーミングでそんな音源にも簡単に触れることができるようになったことは実にありがたいことだ。

それでもって,このアルバムも昔から認識はしていても,全く聞いたことがないものだったが,正月休みの暇にまかせて初めて聞いてみた。このアルバム,元々は2枚のLPに分売されていたと記憶するが,現在は1枚もののCDで現物も簡単に手に入る。若き日のジョンスコことJohn Scofieldが参加しているのがメンツ的に面白いが,まだまだ若手だったこともあるし,Carnegie Hallという大舞台だけに,さすがに楚々としたプレイをしているのが微笑ましいが,結構なソロの場も与えられている。

ジョンスコの参加はさておき,このアルバムはPacific Jazzにアルバムを残したGerry MulliganとChet Bakerが,久々に共演したというのが企画の目玉だが,それを支えるのがいかにもCTI的なコンテンポラリーなバックで,この主役二人がこのセッティングでどういう演奏をするのかというのが注目のポイントになると言ってよい。もともとGerry MulliganとChet Bakerのクァルテットはピアノレスというところがリリース当時は実に変わっていたということになるだろうから,違いが大きいのは当然だ。

そして演奏を聞いてみると,さすがベテランの二人だけに,聴衆を満足させる術は身につけているって感じで,結構楽しめてしまった。スタンダードを除けばGerry Mulliganのオリジナルで固められているから,リーダーはあくまでもGerry Mulliganと考えてよいが,そこはConcert Jazz Bandも率いて,アレンジメント能力は間違いないGerry Mulliganである。このセッティングでも全然問題ないものにしてしまっているし,曲が楽しめるところが素晴らしい。言っちゃ悪いがChet Bakerがリーダーならこうはなっていなかっただろう。

しかし,Chet Bakerはソロイストとしてちゃんと仕事をしているし,Gerry Mulliganもわかっていて,Chet Bakerには"There Will Never Be Another You"で歌わせて,ちゃんと華を持たせている。このアルバムにオリジナルGerry Mulligan Quartetのような響きを期待すると梯子をはずされるが,"Bernie’s Tune"の特に冒頭にはそうした感じも残している。

いずれにしても,これは予想以上に楽しめたアルバムであった。アルバムを保有するほどではないとしても,聞いてよかったってところ。星★★★★。

Recorded Live at Carnegie Hall on November 24, 1974

Personnel: Gerry Mulligan(bs), Chet Baker(tp, vo), Bob James(p, el-p), John Scofield(g), Dave Samuels(vib), Ron Carter(b), Harvey Mason(ds), Ed Byrne(tb)

本作へのリンクはこちら

2025年1月 3日 (金)

年末年始に見た映画(1):名画なれどもテーマが重い「処女の泉」。

Photo_20241229142801 「処女の泉("Jungfrukällan")」(’60,スウェーデン)

監督:Ingmar Bergman

出演:Max von Sydow, Birgitta Valverg, Gunnell Lindblom, Birgitta Pettersson, Axel Düberg, Tor Isedal

年末年始には結構映画を見てしまう私だが,今回の休みの一本目に選んだのがこの映画であった。Amazon Primeでの配信終了が迫っていたこともあったし,以前から何度も見ようとしながら,結局見るチャンスがなかったのがこの映画だ。思えば中学生の頃にこの映画のほか,Ingmar Bergmanの映画を特集していたことがあって,確か前売り券は買っていたのだが,時期を逃し行き損ねたのがこの映画との縁遠さの始まりであった。

ということで,今回この映画を初めて見る機会となったのだが,テーマは「神の不在」という,繰り返しキリスト教において問題となるものであった。遠藤周作の「沈黙」も同様のテーマであるが,年末年始ののんべんだらりとした生活感の中で見るには非常に重い映画であった。もう少し気楽に見られる映画にしてもよかったかなぁなんて思いつつ,その映像美に痺れていた私であった。いくつかのシーンではAndrei Tarkovskyにも影響しているだろうなんて思っていた。

神の不在を描きながら,ラスト・シーンでは神の存在なり意思を示すというところが,キリスト教的宗教観の表れだと思えるものではあるが,1960年という製作年度を考えれば,この映画のシナリオや映像は問題作と言われても仕方がないところである。なので,公開当時は一部カットされたのも時代ゆえに仕方ないところだろう。

いずれにしても重いテーマを描きつつ,見事なカメラ・ワークや重厚な役者陣の演技にも感動させられる名作。たまにはこういう映画を真剣に見ることも大事だと痛感させられた。星★★★★★。

本作のBlu-rayへのリンクはこちら

2025年1月 2日 (木)

新年最初に聞いたのはBill Connors。

_20250101_0001 "Theme to the Guardian" Bill Connors(ECM)

新年最初に何を聞こうかと考えても,実は年末年始というのは音楽を聞くには最適な環境とは言えないところがある。家族との時間を大事にするべきということもあるし,そもそも自室から隣室へ音が響くこともあり,スピーカーから音出しをするのは少々気が引ける。ということで,チョイスしたのが本作であるが,そもそも一人だけ早起きの私は,ディスクも保有しているが,ストリーミング音源のAirPods経由でのリスニングとなったのであった(笑)。これが我が家の家庭内力学である(爆)。

元来,往時のECMレーベルはギタリストのアルバムを結構リリースしていたが,Return to Foreverの「第7銀河の讃歌("Hymn of the Seventh Galaxy")」ではAl Di Meolaの前任として,激しいギターを聞かせたBill ConnorsがECMからアルバムを出すこと自体驚きだったのではないか。しかもここで繰り広げられる静謐と言ってよい響きにはRTFとのギャップが大きかったと思える。しかし,私にとっては,それよりも本作がリリースされて半世紀ということにより大きな感慨を覚えてしまう。

本作はBill Connorsによる多重録音によるソロ作であるが,この響きからすればアンビエントと言ってもよいように思える部分もあり,新年を穏やかに過ごすには丁度よかったって気もする。一部エレクトリック・ギターにエフェクターをかましている部分もあるが,基本はアコースティックな響きの本作は,リリースから約半世紀を経た現在の耳にも十分フィットするところがECMレーベルの素晴らしいところだと思える。かつ,そもそも当時は音のよさを語られることの多かったECMであるから,音にも全然古臭さを感じさせないと思ってしまった。

いずれにしても,ここで聞かれる響きは新年最初の音楽としては適切だったと思う次第。今回,ストリーミング音源を見ていて,Bill ConnorsってPaul Bleyとも共演していたのねぇなんて新たな発見もあったが,RTFとPaul Bleyって対極ではないかと思ってしまった。どういう頭の構造をしていたらこんなばらけた音楽をやれるのか...って感じである。

Recorded in November 1974

Personnel: Bill Connors(g)

本作へのリンクはこちら

2025年1月 1日 (水)

あけましておめでとうございます。

Abeautifulsunriseoverthemountainssummerf

皆さん,あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

このブログも今年で19年目となります。多くのブロガーの皆さんが更新を停止されてしまう中,私はしぶとく(笑)継続していますが,さすがに毎日更新はきつくなってきたというのも事実です。しかし,私にとってはもはやボケ防止の手段というところもあり,極力更新はしていきたいと思いますので,引き続き当ブログをよろしくお願いします。

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