2024年の回顧(音楽編:その2):ジャズ編
結局のところ,私は音楽のジャンルではジャズが一番好きということで,ジャズのカテゴリーでは独立した回顧をずっと続けているが,ジャズという音楽もその幅広さゆえ,カテゴライズ不能というアルバムも存在する中,今年は比較的コンベンショナルなチョイスになったかもしれない。
私が聞いた瞬間から,これを上回る作品は難しいと思わされたのがVijay Iyerの"Compassion"であった。本作が新譜でリリースされたのは今年の2月のことだったはずだが,やはりこのアルバムの持つインパクト,質の高さは私は頭抜けていたと思っている。そもそもVijay Iyerがアルバムを出すたびに,この年間ベスト作に選んでいるようにも思うが,これだけの優れた作品群を出し続けること自体がこれは凄いことだと思える。
同じことはクリポタことChris Potterにも言える。クリポタの"Eagle’s Point"はそのメンツからしても,今年屈指の注目作だったと言ってもよいが,軽々とこちらの期待を越えてしまうところがクリポタの凄いところである。クリポタはこうしたリーダー作に限らず,客演したマイキーことMike Sternの"Echoes and Other Songs"でもいい仕事ぶりで,マイキーとしても近年で最も優れた作品となったことへの貢献度も忘れがたい。
今年のライブとの合算値として評価したいのがNik Bärtsch’s Roninの"Spin"であった。ライティングとも一体化したライブも素晴らしかったが,ECMではなく,自身のレーベルから出たこの新譜は,ECMの諸作よりもファンク度が強いように感じられたが,そもそも好きなバンドの現行メンバー編成による最新作として,ファンにとっては非常に嬉しい作品となった。このミニマル・ファンク,マジではまると抜けられないのである。
Brad Mehldauが放った2作,"After Bach","Apres Faure"も相変わらずの越境度にはわくわくしたものの,今回のベスト作では選外としたが,いいアルバムであったことに変わりはない。ほかにもここには挙げきれていないアルバムも多数あるが,新譜としてはこの3枚を挙げておこう。
今年のベストとして挙げることには疑問もあるものの,評価しなければならないのが発掘音源である。Wayne Shorterの"Celebration Volume 1"は,今後も登場するであろう未発表音源への期待を高めるに十分であり,亡くなってもきっちりレガシーを残したと思わせるものであった。
Wayne ShorterはWayne Shorterで高く評価するが,年末に届いたMcCoy TynerとJoe Hendersonの"Forces of Nature: Live at Slugs'"はジャズ的スリルという観点では他のどのアルバムをも凌駕するものであったと言っても過言ではない。マジで興奮させられたのはこのアルバムだった。
もう一枚は新作に戻るが,音楽的評価はさておき,楽しませてもらったという点でJohn Beasleyがビッグバンドで挑んだChick Corea集を「特別賞」として挙げておきたい。改めてChick CoreaのReturn to Foreverにおける曲のカッコよさを感じさせると同時に,アレンジメント,ソロイストともにリスペクトを感じさせながら,新しい感覚を生み出したことを評価したい。
ということで,今年もいろいろな音楽を楽しませてもらったことに感謝しながら,来年も更に優れた音楽に触れられることを祈りたい。
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コメント
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こんにちは。
興味深く読ませていただきました。マッコイ・タイナーとジョー・ヘンダーソンのアルバムは、まだストリーミングで聴いていただけですが素晴らしいと思いました。ウェイン・ショーターも今後もこのクォリティのものが出てくるというのを想像するだけでもワクワクしてしまいます。
でも、今年はクリポタで印象が結構強かったかな、と思います。私の場合3枚なので、どれかを選ぶとどれかがはじかれてしまい、エイヤって決めることも多いです。
今年もお世話になりました。来年もいいアルバムに出会えることをお祈りしています。またよろしくお願いします。
当方のブログアドレスは下記のとおりです。
https://jazz.txt-nifty.com/kudojazz/2024/11/post-4c7196.html
投稿: 910 | 2024年12月29日 (日) 11時28分
910さん,こんにちは。リンクありがとうございます。
>興味深く読ませていただきました。マッコイ・タイナーとジョー・ヘンダーソンのアルバムは、まだストリーミングで聴いていただけですが素晴らしいと思いました。ウェイン・ショーターも今後もこのクォリティのものが出てくるというのを想像するだけでもワクワクしてしまいます。
McCoyとジョーヘンの強烈度,興奮度は今年一番だったようにさえ思います。Wayne Shorterは私が観た時の記憶が蘇りました。
>でも、今年はクリポタで印象が結構強かったかな、と思います。
はい。どのような局面でもいい仕事をしてしまうのがクリポタです。いかなる音楽でもOKという凄い対応力を見せつけられました。
>今年もお世話になりました。来年もいいアルバムに出会えることをお祈りしています。またよろしくお願いします。
こちらこそありがとうございました。来年もよろしくお願いします。
投稿: 中年音楽狂 | 2024年12月29日 (日) 12時31分
選ばれたアルバムを拝見しました。
私のようなラッパものよりピアノものというタイプとの違いは良く解りますが、私の評価と認識度の高かったものとして一致しているのはVjay Iyer 「Compassion」ですね、人種問題の問題作ともみれますが、コンテンポラリーな技には圧倒されました。
いつも参考に勉強させて頂いてますが、今年はいろいろと楽しませて頂いて有難うございました。来る新年も益々のご活躍と共に、ご健康を祈念いたします。佳いお年を・・・
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2024年12月29日 (日) 22時16分
photofloyd(風呂井戸)さん,おはようございます。
>選ばれたアルバムを拝見しました。
>私のようなラッパものよりピアノものというタイプとの違いは良く解りますが、私の評価と認識度の高かったものとして一致しているのはVijay Iyer 「Compassion」ですね、人種問題の問題作ともみれますが、コンテンポラリーな技には圧倒されました。
Vijay Iyerもいろいろな音楽をやっていますが,どれも質が高いのが素晴らしいです。私は一聴これが今年の#1と確信しました。
>いつも参考に勉強させて頂いてますが、今年はいろいろと楽しませて頂いて有難うございました。来る新年も益々のご活躍と共に、ご健康を祈念いたします。佳いお年を・・・
ありがとうございます。photofloyd(風呂井戸)さんもよいお年をお迎え下さい。
投稿: 中年音楽狂 | 2024年12月30日 (月) 08時21分
閣下、リンクをありがとうございました。m(_ _)m
私も2024年のベストをアップしてみましたが。。
クリポタさまと、ヴィジェイさまは、ご一緒ですね。
ショーターさまは、私的特別賞です。
マッコイ&ジョーヘンは、聴いてみたいです。
来年もよろしくおねがいします。m(_ _)m
ヴォーカルと、インストに分かれているので二つリンクを置いていきます。
https://mysecretroom.cocolog-nifty.com/blog/2024/12/post-caac0a.html
https://mysecretroom.cocolog-nifty.com/blog/2024/12/post-a707de.html
投稿: Suzuck | 2024年12月30日 (月) 12時10分
Suzuckさん,こんばんは。リンクありがとうございます。
>クリポタさまと、ヴィジェイさまは、ご一緒ですね。
まぁ,この辺りはそうなりますよねぇ。
>ショーターさまは、私的特別賞です。
確かに新作とは呼びにくいですので,それはありだと思います。
>マッコイ&ジョーヘンは、聴いてみたいです。
これ,凄いですよ,マジで。
>来年もよろしくおねがいします。m(_ _)m
こちらこそよろしくお願いします。よいお年をお迎え下さい。
投稿: 中年音楽狂 | 2024年12月30日 (月) 18時04分
Brad Mehldau大ファンのあなたでも、Brad Mehldauの作品がベストに選ばれないんだなあと。
マイナーレーベル時代からBrad Mehldauを延々聴いてきて、最近の現代音楽まがいの作品や、越境的な作品群には何だかなあ。
誰だったかジャズ評論家の言葉で
「感心するが、感動しない」
辛気くさい。多幸感が得られない。
ジャンルを変えてみよう。
金はなくても、俺経ちゃ幸せだって感じのメキシコ音楽やブラジル音楽、ハワイ音楽なんて、全く別の幸せ感があるなあ。(笑)
そんなこと考えてるうちに、
Brad Mehldau trio live in Stockholm 2023のブートを入手。
最高じゃないか、何でこれをオフィシャルで出さない。
放送音源らしく最高の音。
不慮の事故で亡くなったとしても、このくらいの水準の音源はいくらでもあって、今世紀中は毎年発表出来るんだろうね。(笑)
投稿: MRCP | 2025年1月11日 (土) 13時11分
MRCPさん,こんにちは。
>Brad Mehldau大ファンのあなたでも、Brad Mehldauの作品がベストに選ばれないんだなあと。
評価はしていますが,最高とは思っていません。
>マイナーレーベル時代からBrad Mehldauを延々聴いてきて、最近の現代音楽まがいの作品や、越境的な作品群には何だかなあ。
そういう評価があることは不思議ではないです。
>誰だったかジャズ評論家の言葉で
>「感心するが、感動しない」
まぁそれも人それぞれですが,全てが優れているとも思っておりません。
>Brad Mehldau trio live in Stockholm 2023のブートを入手。
>最高じゃないか、何でこれをオフィシャルで出さない。
>放送音源らしく最高の音。
この手の音源は多数ありますからねぇ。こちらの音源は私は聞いていませんが,ほかのブートレッグを聞いても彼らの演奏は安定感は間違いないですね。
投稿: 中年音楽狂 | 2025年1月11日 (土) 16時31分