"Heart to Heart" David Sanborn (Warner Brothers)
David Sanbornの旧作は先日"Hideaway"を取り上げたが,今回はこの1978年のアルバムである。このアルバム,プロデュースがJohn Simonということに反応してしまう人もいるだろうが,それが強く感じられるのがGil Evans Orchestraとの共演を収めた"Short Visit"である。
この"Short Visit"という曲は同じくJohn SimonがプロデュースしたGil Evansの傑作"Priestess"にも含まれていたが,"Priestess"がお蔵入りして,リリースが80年代にずれ込んでいながら,レコーディングされていたのは1977年5月だったのに対し,ここでの演奏は78年1月のレコーディングだから,こちらの方が後だったということになる。しかし,曲から受ける印象は両作で大きく変わらず,David Sanbornのエモーショナルなアルト・サックスが聞ける。フュージョン的なアルバムに収録するにはややこの曲だけ印象が異なるものの,本作における聞きものの一つだったことは間違いないところだろう。Gil Evans Orchestraの一員としてDon Grolnickがピアノを弾き,Steve Gaddがドラムスを叩いているのも珍しいしねぇ。
それはさておき,主題に書いた「一発録り」についてであるが,このアルバム自体は4日間でレコーディングされていて,もう少し時間を掛けてもよさそうなところを,短期間で仕上げてしまうところに,参加したミュージシャンの実力の高さが表れていると言ってもよい。上述の"Short Visit"を除けば,ほぼ固定メンツで録られていることでも,それが可能になったと考えてよいと思う。
"Casino Lights"でもやった"Theme from 'Love Is Not Enough'"や,"Straight to the Heart"でもやった"Lisa"は再演されたことからも,David Sanbornとしても愛着のある曲だったのではないかと想像できるが,まだまだ本作ではチャートを駆け上がるところまでは行かなかったというのが現実としても,当時のフュージョン・アルバムとしては十分なクォリティだと思える。面白いのがDavid Sanbornのオリジナル"Heba"のバックでのHugh McCrackenによるスライド・ギターだろうか。これが結構ブルージーな感覚を生んでいて,なかなか面白い。
いずれにしても,彼らのようなミュージシャンにかかれば,これぐらいのクォリティは出来上がることの証左と言ってもよい。完全にブレイクする前のDavid Sanbornではあるが,十分聞き応えがあるものだったと思える。"Sunrise Gospel"のバックで聞こえるRichard TeeとSteve Gaddの掛け合いは,79年にリリースされるRichard Teeのリーダー作,"Strokin'"における「A列車」のひな形だったと思えてしまう。星★★★★。
Personnel: David Sanborn(as), David Spinozza(g), Hugh McCracken(g), Don Grolnick(p), Richard Tee(p, el-p, org), Mike Mainieri(vib), Herb Bushler(b), Anthony Jackson(b), Steve Gadd(ds), Gil Evans Orchestra<Gil Evans(arr), Arthur Blythe(as, ss), George Adams(ts, fl), Lou Soloff(tp), Jon Faddis(tp), Jon Clark(fr-h), Tom Malone(tb), Howard Johnson(tuba), Hiram Bullock(g), Pete Levin(synth, key, fr-h), Warren Smith(perc)> with Randy Brecker(tp), Michael Brecker(ts), Sam Burtis(tb), Ralph McDonald(perc)
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