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2024年12月31日 (火)

皆さん,よいお年をお迎え下さい。

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今年も大晦日となった。今年はどんな一年だっただろうと振り返っても,特に大きなイベントもなく,まぁ言ってみれば普通に過ごした年だったと言えるだろう。それは決して悪いこととは思わないが,あまりにも秋が短い年だったという印象は残る。季節感というのは重要だと思うが,加齢による月日の経過の早さとも相まって,この季節感の減少には少々不安を覚えたのも事実だ。地球温暖化の影響と言ってしまえばその通りとしても,やはり異常だと思える気候であった。

来年はもう少し真っ当な季節感を感じたいと思いつつ,今年も当ブログにお越し頂きありがとうございました。来年もよろしくお願いします。

それでは皆さんよいお年をお迎え下さい。

 

2024年12月30日 (月)

今年最後の音楽記事は,残念ながら来日できなかったHilary Hahnの無伴奏ヴァイオリン。

_20241228_0001 "Eugène-Auguste Ysaÿe:Six Sonata for Violin Solo op.27" Hilary Hahn(Deutsche Grammophon)

今年最後の音楽記事は何にしようか考えていたのだが,前々から買おうと思いつつ,入手しそこなっていたHilary Hahnによるイザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタにしよう。

Hilary Hahnは今年の12月に来日が予定されていたが,神経系の病により長期療養が必要と診断されて,あえなく中止となってしまったのは残念なことであった。と言いつつ,私はそのチケットを買っていた訳でもないが,このアルバムを聞くと,彼女の病気からの早期の復活を祈りたくなる。それほど本作はよいのだ。

不勉強にしてイザイの無伴奏ソナタは初めて聞いたが,自らもヴァイオリニストとして名を成したイザイが書く曲であるから,多分技巧的には相当難しいのだろうと思わせるが,一聴してこれは大変な曲だと思えた。しかし,Hilary Hahnは見事に弾きこなしていて,こんな演奏ならもっと早く聞いておけばよかったと反省してしまった。

亡くなった父の影響もあって,私はヴァイオリンの演奏を好む傾向はあるが,無伴奏と言えばついついバッハとバルトークになってしまうというその程度のリスナーであり,イザイなんて名前も知らんわってのが実態であった。しかし,こんな演奏を聞かされては,自らの不見識を反省せざるをえないし,そう思わせてくれたHilary Hahnには感謝しなくてはならない。実に見事な演奏であった。星★★★★★。リリース後にすぐに聞いていれば,昨年のベスト作の一枚に入っていたこと間違いなし。

Recorded in November and December 2022

Personnel: Hilary Hahn(vln)

本作へのリンクはこちら

2024年12月29日 (日)

2024年の回顧(音楽編:その2):ジャズ編

2024-best-albums-2

結局のところ,私は音楽のジャンルではジャズが一番好きということで,ジャズのカテゴリーでは独立した回顧をずっと続けているが,ジャズという音楽もその幅広さゆえ,カテゴライズ不能というアルバムも存在する中,今年は比較的コンベンショナルなチョイスになったかもしれない。

私が聞いた瞬間から,これを上回る作品は難しいと思わされたのがVijay Iyerの"Compassion"であった。本作が新譜でリリースされたのは今年の2月のことだったはずだが,やはりこのアルバムの持つインパクト,質の高さは私は頭抜けていたと思っている。そもそもVijay Iyerがアルバムを出すたびに,この年間ベスト作に選んでいるようにも思うが,これだけの優れた作品群を出し続けること自体がこれは凄いことだと思える。

同じことはクリポタことChris Potterにも言える。クリポタの"Eagle’s Point"はそのメンツからしても,今年屈指の注目作だったと言ってもよいが,軽々とこちらの期待を越えてしまうところがクリポタの凄いところである。クリポタはこうしたリーダー作に限らず,客演したマイキーことMike Sternの"Echoes and Other Songs"でもいい仕事ぶりで,マイキーとしても近年で最も優れた作品となったことへの貢献度も忘れがたい。

今年のライブとの合算値として評価したいのがNik Bärtsch’s Roninの"Spin"であった。ライティングとも一体化したライブも素晴らしかったが,ECMではなく,自身のレーベルから出たこの新譜は,ECMの諸作よりもファンク度が強いように感じられたが,そもそも好きなバンドの現行メンバー編成による最新作として,ファンにとっては非常に嬉しい作品となった。このミニマル・ファンク,マジではまると抜けられないのである。

Brad Mehldauが放った2作,"After Bach","Apres Faure"も相変わらずの越境度にはわくわくしたものの,今回のベスト作では選外としたが,いいアルバムであったことに変わりはない。ほかにもここには挙げきれていないアルバムも多数あるが,新譜としてはこの3枚を挙げておこう。

今年のベストとして挙げることには疑問もあるものの,評価しなければならないのが発掘音源である。Wayne Shorterの"Celebration Volume 1"は,今後も登場するであろう未発表音源への期待を高めるに十分であり,亡くなってもきっちりレガシーを残したと思わせるものであった。

Wayne ShorterはWayne Shorterで高く評価するが,年末に届いたMcCoy TynerとJoe Hendersonの"Forces of Nature: Live at Slugs'"はジャズ的スリルという観点では他のどのアルバムをも凌駕するものであったと言っても過言ではない。マジで興奮させられたのはこのアルバムだった。

もう一枚は新作に戻るが,音楽的評価はさておき,楽しませてもらったという点でJohn Beasleyがビッグバンドで挑んだChick Corea集を「特別賞」として挙げておきたい。改めてChick CoreaのReturn to Foreverにおける曲のカッコよさを感じさせると同時に,アレンジメント,ソロイストともにリスペクトを感じさせながら,新しい感覚を生み出したことを評価したい。

ということで,今年もいろいろな音楽を楽しませてもらったことに感謝しながら,来年も更に優れた音楽に触れられることを祈りたい。

2024年12月28日 (土)

2024年の回顧:音楽編(その1:ジャズ以外)

2024-best-albums1

いよいよ年の瀬も押し詰まってきたので,今年の回顧も音楽編に突入である。今回はジャズ以外でよかったと思うアルバムを取り上げたいが,正直言って,新譜の購入枚数は減る一方なので,ストリーミングも利用しながら聞いた今年の新譜で私がよかったと思うものを挙げたい。最近はジャンルも越境している場合が多いので,どこまでをジャズ以外とするかは難しい。また,今年は発掘盤にいいものが多く,それを新譜として捉えていいのかは議論があるのを承知で,純粋新譜に発掘盤を交えて挙げることにしよう。

今年の前半で最も興奮させられたのがBrittany Howardの"What Now"であった。この人の作り出すサウンドは私の嗜好にばっちり合ってしまっており,今回も文句のつけようがないと思わされたナイスなアルバムであった。

そして,Brittany Howardとは全然音楽のタイプが異なるのに,私がずっぽしはまってしまったのが Arooj Aftabの"Night Reign"であった。彼女がVijay Iyer,Shahzad Ismailyと組んで作り上げた"Love in Exile"も昨年のベスト作の一枚に挙げた私だが,それを凌駕したと言ってもよい本作の魅力は,Arooj Aftabの声そのものだったと言いたい。

2月の来日公演も素晴らしかったMeshell Ndegeocelloの"No More Water: The Gospel of James Baldwin"も印象に残るアルバムであった。まぁ今回はコンセプト・アルバムと言ってよいものなので,彼女らしいファンク度は控えめではあるが,やはりこの人の作り出す音楽の質の高さが素晴らしい。ライブと併せて高く評価したい。

Laura Marlingも確実に期待に応えてくれる人だが,"Patterns in Repeat"にも裏切られることはなかった。パーソナルな響きの中で紡ぎ出されるメロディ・ラインが素晴らしい。ライブで観てみたい人だが,日本に来る様子がないのは残念だ。本作を聞きながらLaura Nyroの"Mother’s Spiritual"を思い出していた私であった。

発掘音源では何と言ってもJoni Mitchellである。Asylum後期の貴重な音源を集めた"Archives Volume 4: The Asylum Years (1976-1980)"こそ,今年最も私が興奮させられた音源だったと言っても過言ではない。マジでたまらない音源ばかりが収められたまさにお宝ボックスであった。

最後に現代音楽畑から,高橋アキの「佐藤聰明:橋」を挙げたい。リリースは23年なので,今年のベスト作と言うには遅きに失したのだが,昨年後半のリリースだったから,敢えてここにも挙げさせてもらう。

ということで,聞いたアルバムの枚数なんて知れたものなのだが,今年もいいアルバムに出会うことができたと思う。

2024年12月27日 (金)

Arild Andersenのソロ作:ECMでしか成り立たないよなぁ。

Landloper "Landloper" Arild Andersen(ECM)

ECMというレーベルはベースやチェロのソロ・アルバムをリリースしてしまう稀有な存在と言ってよいが,それは総帥Manfred Eicherがベーシストだったという出自による部分もあるのかもしれない。今回はそのEicherはExecutive Producerとなっているので,これはArild Andersenの持ち込み音源なのかもしれない。

冒頭の"Peace Universal"こそ宅録ながら,それ以外はライブ音源で,Arild Andersenによる完全ソロだが,シークェンサーのようなエレクトロニクスも駆使しているので,相応に色彩感は確保されている。もはやジャズと言うよりアンビエントな世界であるが,想定以上の聞き易さもあって,これはなかなか楽しめるアルバムである。

アンビエントな響きと言いつつ,オリジナルに加えて,スタンダード"A Nightingale in Sang in Berkley Square"やOrnette Colemanの"Lonely Woman"をCharlie Hadenの"Song for Che"をメドレーでやったり,Albert Aylerの"Ghost"も別のメドレーの一部に組み込んだりと,幅広い選曲が面白い。また先述の冒頭に収められた"Peace Universal"はドラマーのBob Mosesのオリジナルのようだが,よくぞこんな曲を見つけてくるものだと感心してしまうほど,掴みはOKなのだ。

まぁ,このアルバムを聞いて面白いと思えるかどうかはそれぞれのリスナーの嗜好次第だが,私はこのサウンドは結構いいと思う。ECMならではの世界観としか言いようがないが,ついつい評価も甘くなり,星★★★★☆。

Recorded Live at Victoria National Jazzscene on June 18, 2020 and at Home

Personnel: Arild Andersen(b, electronics)

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2024年12月26日 (木)

Archie Sheppの"Montreux" 2 in 1:終曲のフェード・アウトが痛い...。

Archie-shepp-montreux "Montreux" Archie Shepp (Freedom)

本作は元々は"Montreux One","Montreux Two"という2枚のアルバムとして分売されていたもので,それが2 in 1のCDとして発売されたのがほぼ30年前のことだが,私は中古でゲットしたもの。それがいつ頃だったかは覚えていない。2 in 1というのは聞く方にとっては安く上がるのでありがたいことはありがたいのだが,残念なのはアルバム中で最も激しいと言ってよい最後の"Blues for Donald Duck"が演奏途中でフェード・アウトってことだ。まぁCDの収録時間には限界があるから,仕方がないとは言え,これはやはり惜しい。そうは言いながら,これを2枚組でリリースしたところで売れる枚数は限られているだろうというレコード会社の判断も,それはそれで仕方ない。しかし惜しいと言えばやはり惜しいと思えるのだ。

70年代以降のArchie Sheppはコンベンショナルなスタイルでの演奏が増えたが,昔ながらの激しい演奏ばかりやっていればいいってものでもないし,こういうミュージシャンの変化そのものはあっても不思議ではない。私は60年代の演奏も70年代以降の演奏のどちらも受け入れOKである。よく言われる50年代のArt Pepperと復帰後のArt Pepperのどちらがいいかという論争と同じで,私は両方いいと思っているのと同じである。

ここでの演奏はArchie Sheppのフレージングもよく,大いに楽しめる。そうした中で"Blues for Donald Duck"が突出した激しさを持っているだけにこれをフェード・アウトするか,ほかの曲をフェード・アウトにするかってのは難しい判断だ。全編を通じていい演奏が続くので,これは致し方ない判断だったという気もする。

そうした中で,1曲目のArchie Sheppのソロ・カデンツァから入る"Lush Life"が素晴らしく,冒頭からこういう演奏をされれば完全に掴みはOKで,そのまま好調な演奏が続いて嬉しくなってしまうのだ。

Montreux-two

こういうアルバムはもう少し入手を簡単にしてもよいと思わせる演奏だが,やっぱり売れないのか...(苦笑)。久しぶりに聞いてもこのアルバムの時のArchie Sheppは好調だった。ということで,フェード・アウトなかりせばということで,半星減らして星★★★★☆。ついでに"Montreux Two"のジャケ写真もアップしておこう。

Recorded Live at Montreux Jazz Festival on July 18, 1975

Personnel: Archie Shepp(ts, ss), Charles Majid Greenlee(tb), Dave Burrell(p), Cameron Brown(b), Beaver Harris(ds)

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2024年12月25日 (水)

師走にボサ・ノヴァでくつろぐ。

_20241224_0001 "The Sound of Ipanema" Paul Winter with Carlos Lyra(Columbia)

私はブラジル音楽もそこそこ好きだが,ボサ・ノヴァの持つゆったり感(それをサウダージと呼んでもよいのかもしれないが...)はいかなる状況にもフィットするものだと思っている。そんなボサ・ノヴァを聞くならブラジル人ミュージシャンのアルバムを聞いていればいいと思いつつ,アメリカ人でもちゃんとブラジル音楽を理解しているミュージシャンもいるということで,今日はPaul Winterのアルバムである。

Paul Winterと言えば,後のRalph TownerらOregon組を擁したPaul Winter Consort以降の方がよく知られたところだが,それに先んじてブラジル音楽に取り組んでいたことを忘れてはならない。ジャズ界でボサ・ノヴァと言えばStan Getzと考えられるのは仕方ないところだが,Paul Winterが"Jazz Meets the Bossa Nova"をリリースしたのはGetzが"Getz/Gilberto"をリリースするよりも前なのだ。それに続いて本作と"Rio"がリリースされ,ブラジル3部作となる訳で,Paul Winterの名誉のために言えば,"Getz/Gilberto"が売れたからボサ・ノヴァに取り組んだ訳ではないのだ。

ここではCarlos Lyraの何ともソフトな歌声もあって,実に心地よい時間が流れていく。本作を聞いていると「Paul Winter,わかってるねぇ~」と言いたくなってしまうのだ。ブラジル音楽へのちゃんとした理解があってこそできる音楽であり,Paul Winterのソフトなアルトの響きとのマッチ度も素晴らしい。裏ジャケに書かれた"The Warm Sound of Saxophonist Paul Winter, with the Lyrical Songs, the Sensitve Singing and the Gentle Guitar of Carlos Lyra, Brazil's Great Young Composer"という表現こそ,まさに言い得て妙だ。ピアノを弾くSergio Mendesも楚々とした伴奏ぶりも好印象で,総合的に見ても,アメリカ資本によるこの手のアルバムとしては屈指の作品と言いたい。星★★★★★。

Personnel: Paul Winter(as), Carlos Lyra(vo, g), Sergio Mendes(p), Sebastião Neto(b), Milton Banana(ds)

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2024年12月24日 (火)

中古で入手した高橋アキのダイレクト・カッティング盤。

Photo_20241223083201 「ピアノ・ディスタンス」高橋アキ(東芝EMI)

ブログのお知り合いの記事でこのアルバムの存在を知って,猛烈に欲しいと思っていたので,ショップのウォント・リストに登録して出品を待っていた。ようやくそれが出品されたとの情報を入手し,すかさずゲットである。

70年代後半にダイレクト・カッティングという方式が結構はやって,私が当時購入していたのがLee Ritenourの"Gentle Thoughts"やDave Grusinの"Discovered Again!"あたりだった。まぁその頃には高橋アキは私の関心の完全な対象外だったから,彼女にもダイレクト・カッティング盤があるなんてことを知る由もなかったし,知っていても買っていなかったことは間違いない。しかし,ピアノによる現代音楽が好物となってしまった今の私にとって,これはどうしても聴きたい!あるいはどうしても欲しい!という物欲を刺激したのであった。

私がゲットしたのは見本盤で,ジャケの状態は決して良好とは言えないものだが,もはや半世紀近く前のレコードだから,多くは望むまい。盤質はほぼまともだから,音楽を聞く上での問題はない。ダイレクト・カッティング盤ゆえの音のクリアさは,私のしょぼいオーディオ装置でも感じられるものである。アルバムのライナーにはエンジニアの弁として「音像を左右に広げて,音の一音一音の粒立ちを適確にとらえ,和音を左右の広がった面で表現しようとした。」とあるが,それは成功していると思える。加えて,何よりも高橋アキの明晰なピアノが素晴らしい。やはりこの人の弾く現代音楽の魅力には抗い難いと思ってしまう。この響きがたまらんのだ。

世の中,探せば私が入手したレコードより状態のよいものはあるだろうが,当然価格も上がるであろう。まぁ今回入手した盤の値段はまぁ許せるというものだったからOKである。因みに以前私が入手した「高橋アキの世界」のアナログもディスクはきれいでも,箱は結構ぼろかった。それでもこういうアルバムは保有していることに意義があるのだ,と開き直りたい。だからこそ「高橋アキの世界」は売却する気もないので,かなり激しく(笑)テープで補修したのである。

いずれにしても,こういうレコードを入手できたことを喜びたい。それを含めて星★★★★★だ。それにしてもよくぞこんなアルバムを作ったものだ。世の中に何枚ディスクが存在しているのかも実に興味深い。

Recorded on July 27-29, 1977

Personnel: 高橋アキ(p)

2024年12月23日 (月)

2024年の回顧:映画編

2024-movies

今年の回顧の2回目は映画である。今年はライブにはよく行ったが,ライブ通いが増えると,映画館から足が遠のきがちになる。ここ数年,劇場通いは2021年以降で見ると,16本,16本,14本と低空飛行が続いているが,今年も劇場通いは13作(「夜の外側」前後編で2本とすれば14本)に留まった。なので,回顧もへったくれもないというのは例年通りであるが,その一方でストリーミングでは結構古い作品を沢山見たように思う。まさに玉石混交のようではあったが,Alan Laddの映画を立て続けに見たり,Jean-Paul Belmondoもいろいろ見たりと温故知新が可能なのは嬉しかった。中でも「12人の怒れる男」や「野のユリ」等が印象に残る。「マエストロ」や「ナイアド」のような新作もNetflixで楽しめたのもよかった。

では今年劇場で見た映画で印象に残るのは何だろうかと考えると,自分にとっては決定的と思える作品には乏しいかなという気もしつつ,満点の星★★★★★をつけたのが「哀れなるものたち」,「落下の解剖学」,「デューン 砂の惑星 PART 2」,そして「夜の外側」なので,その時の自分の感覚を信じてこの4本を改めて挙げておきたい。

「哀れなるものたち」はエロ,グロ,そしてブラックという何でもありのような映画であったが,とにもかくにもEmma Stoneである。この人の役者根性には頭が下がる。だが,映画としては確実に好き嫌いが分かれるはずのこの映画であるが,それに比べると「落下の解剖学」は実にシナリオもよくできていて,ドラマとしての見応えは十分であった。そしてSF,アクション大作としての「デューン 砂の惑星 PART 2」の映像の素晴らしさは特筆に値すると思ったし,第1作よりも優れた出来だと思っている。そして前後編で5時間40分という大作「夜の外側」は元来TVシリーズとして制作されたものなので,映画として評価してよいかは微妙ではあるが,イタリアという国の暗部を描いたこの作品はドラマとしての重厚さが感じられ,実に面白かった。

ここには挙げていない作品も,今年ははずれというものは1本もなかったのはライブ同様で,これは嬉しかった。来年も映画を見る本数は限定的だろうが,いい映画をチョイスしたいものである。

2024年12月22日 (日)

"Ambience of ECM"に行ってきた。

Ambience-of-ecm 今年はECMレーベルの創立から55周年を迎え,1984年にスタートしたクラシック・シリーズ「ECM New Series」も40周年を迎えることを記念して,12/13~12/21日の期間,"Ambience of ECM"なるエキシビションが日本で初めての開催されるということで,九段下の九段ハウスにて開催されるということで行ってきた。

この九段ハウスというのは旧山口萬吉邸ということで,瀟洒な建築にECMというのはなかなかのフィット感である。そこで岡田拓郎,岸田繁,原雅明,三浦透子,SHeLTeR ECM FIELDが選曲したプレイリストを,オーディオ・メーカーの機器を使って聞くというのがこのイベントであり,これをエキシビションと言えるかというと,若干微妙な部分はあるものの,まぁ雰囲気を楽しめばいいという類のものと思う。だが,本質的な「回顧展」と呼ぶにはいささか規模が小さいと感じたのも事実であった。

音楽を聞く楽しみはもちろんなのだが,ゆっくりと時間を過ごす余裕もなかったのは少々残念ながら,私がむしろ楽しんだのが,ECMに関連するアーティストのポスター群の方であった。ジャケット・デザインには一貫性と美的な感覚を備えたECMレーベルのことである。ポスターもやはりおしゃれなのだ。どうせならこういうポスターを復刻して販売してくれたらいいのになんて思っていた私であった。

まぁECM好きは確実に刺激されるイベントだったということでのご報告である。

Ambience-of-ecm-posters

2024年12月21日 (土)

McCoy TynerとJoe Hendersonの凄い発掘音源。マジで物凄い!

Forcesofnature"Forces of Nature: Live at Slugs'" McCoy Tyner / Joe Henderson (Blue Note)

なかなかデリバリーされないでイライラしていたのだが,届いたのは国内盤で,リリース日のデリバリーだったので文句は言えない。私としては輸入盤でOKだったのだが,まぁいいや。

そんな状態だったので,音源は公開された段階からストリーミングで聞いていたのだが,これはけだし強烈な発掘音源だ。演奏にも参加しているJack DeJohetteが個人的に所有していた音源を世に出したもので,ジャケ裏には"DeJohnette Legacy Series"なんて書いてあるから,ほかにも音源があるってことか?いかんせん60年近く前の音源であるから,音質的には少々厳しい部分があるのは仕方がないが,十分に聞けるレベルではある。

そんな音質的な瑕疵はものともせず,ここに収められたエネルギーが凄い。まさに「熱い!」ジャズである。こんな演奏が定常的演奏されていたという当時のジャズ・シーンについつい思いを馳せてしまうが,冒頭の"In ’n Out"からして,ぶちかましモード炸裂なのだ。Blue Noteのスタジオ録音でのオリジナルだって熱い演奏だったが,それを越える強烈さで迫ってくるのはライブゆえの興奮ってところか。この演奏に興奮しなければジャズ・ファンじゃねぇよ!と思わず言いたくなるような激演である。

同じような感覚はDisc 2の最初の"Taking Off"でも感じられるが,全編に渡って繰り広げられる演奏が実に素晴らしい。私が聞いたJoe Hendersonの演奏の中でも最も激しいものの一つと思えるし,若き日のJack DeJohnetteが強烈なドラミングを聞かせるのも大きな聞きものと言える。 とにもかくにも,よくぞこんな演奏が残っていたものだと思わざるをえない。本年屈指の発掘音源の一つと評価したい。もちろんこれならば星★★★★★だ。

Recorded Live at Slugs’ Saloon in 1966

Personnel: Joe Henderson(ts), McCoy Tyner(p), Henry Grimes(b), Jack DeJohnette(ds)

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2024年12月20日 (金)

東野圭吾の「架空犯」読了。

Photo_20241219092301 「架空犯」東野圭吾(幻冬舎)

正直言って昨今の東野圭吾は濫作だ。次から次へと新作が出るが,私としては結構東野圭吾の本は読んでいても,全部読むなんてことはやってられないので,当然取捨選択をすることになるが,本作は結構面白いと思えた「白鳥とコウモリ」のシリーズ作なので読むことにした。

犯罪の発生と,それに続く地道な捜査を描くシークエンスは悪くないと思う。相変わらずページをめくらせるのは上手い東野圭吾だと思わせるのだが,最終局面に向かうプロットには少々無理があるように思えるのは残念だ。詳しくはネタバレになるので書かないが,さすがにそれはないだろうというストーリーには,それまでの本書への好意的な感覚を失わせかねないものだ。一言で言えば「なんじゃ,そりゃ?」なのだ。

「白鳥とコウモリ」について書いた記事にも私は「結末に向けてはやや性急感,悪く言えば取ってつけた感があったように思えるのも事実である。」なんて書いているが,それに近い感覚を本作にも覚えたということは言っておかねばならないだろう。面白く読ませてもらったことは事実だが,結末への展開には疑問もあり,星★★★☆。世の中そんなにうまく行かんだろうと思っていたというのが正直なところ。

それにしても,昨今のAmazonのレビュワーのネタバレのさせ方には問題があるように思える。本作についても,ストーリーの根幹に触れるようなレビューが掲載されているのはさすがにまずいと思える。ネタバレがある場合,米国の映画サイト,IMDbのレビュー欄には"Spoler Alert"という表示が出てくるし,国内の映画サイトにも「ネタバレ」表示がされるが,Amazonはネタバレを含むレビューに関してあまりに無頓着に過ぎる。平気でネタバレを書く方も書く方だと思うが,少なくとも映画や書籍のレビューに関するAmazonの姿勢は批判されて然るべきものと思う。

本作へのリンクはこちら

2024年12月19日 (木)

久々にショップを訪れて見つけた新譜:Carl Allenの"Tippin'"

_20241218_0001 "Tippin'" Carl Allen(Cellar Records)

先日,ちょっとした時間があって立ち寄ったショップで見かけて,即購入を決定したアルバム。何てたってリーダーCarl Allenを支えるのはクリポタことChris PotterにChrisitian McBrideである。これはどう考えても気になるメンツだ。本来のリリース時期は来年初頭のようだが,あるところにはあるのである(笑)。

まぁクリポタのピアノレス・トリオでの演奏はJohn Patitucci,Brian Bladeとの"Live in Italy"もあったし,そちらのトリオでの新作は来年にリリースを控えているから,そっちも楽しみな訳だが,こちらのメンツも相当期待できると思っての購入であった。Carl Allenのライナーによれば,Renee RosnessのアルバムでCarl AllenとChristian McBrideがバックを務めた際のサックス・プレイヤーがクリポタで,その時にSonny RollinsのVanguardライブの如きピアノレス・トリオでの演奏を思いついたとのことである。

"Parker's Mood"で始まるこのアルバムはオリジナルに交えて,スタンダードやジャズマン・オリジナルを演奏していて,こうしたセッティングでのクリポタの吹きっぷりがどうなるのかというところに期待してしまったのだが,どんなシチュエーションでもちゃんと個性を打ち出すクリポタの実力は十分に感じられて,相当に楽しめるアルバムだと言ってよい。テナー,ソプラノ,バスクラを持ち替えて,コンベンショナルなセッティングでの吹奏を聞かせるクリポタは実に魅力的だし,このフレージングはたまらん...。

そして何よりも気になるのがJohn Coltraneゆかりの"The Inchworm"と"They Say It’s Wonderful"をクリポタがどう吹くかというところであったが,"The Inchworm"はさすがにColtraneに比べると軽いかなぁと感じさせるのはソプラノ・サックスのミキシングのせいもあるかもしれない。"They Say It’s Wonderful"の方はテナーでじっくりかつストレートにという感じだが,ColtraneはJohnny Hartmanとのアルバムでの演奏だったから,ちょいと比較が難しい。クリポタもColtraneヴァージョンがあるだけにやりにくい部分もあったのではないかとも思えるが,こちらの印象の方がいいのはテナーだからって気もする。

ただこのアルバム,後半にはちょっとどうなのかと思わせるようなプロデュースぶりが気になる部分があることも事実だ。8曲目のKenny Barron作の"Song for Abdullah"には,ピアニストJohn Leeを招いての演奏となっているが,美しい演奏ではあるものの,敢えてこの曲を入れる必要が本当にあったのかと感じさせる。またこのメンツでPat Methenyの"James"って選曲はほかの曲とテイストが違い過ぎて,どうなのよと思わざるをえない。確かにUnity Bandのライブでもやっていたとは言え,ここでのフィット感は???だ。また,最後のミュージカル"Bye Bye Birdie"からの"Put on a Happy Face"もこの重量級トリオには軽過ぎる選曲ではないか。前半と後半の選曲によるムードの落差があると感じるのだ。

そうした点も考慮して星★★★★ってところ。私としてはもう少し激しくやる部分があってもいいように思うが,クリポタのフレージングは傾聴に値すると思う。それがファンの弱みってところだな。

Recorded on January 13, 2024

Personnel: Carl Allen(ds), Chris Potter(ts, ss, b-cl), Christian McBride(b)

2024年12月18日 (水)

ようやく到着:Ben Monderの3枚組超大作"Planetarium"。

Planetarium"Planetarium" Ben Monder(Sunnyside)

ストリーミングでは結構早くから公開されていたこのアルバムの現物がようやくデリバリーされた。Ben Monderは現在Bad Plusのメンバーとしても活躍中であり,今年来日も果たしたが,バンドへのフィット感を維持しているのは立派だと思った。しかし,ソロ・アルバムとは少々趣が違うとも思いつつ,変態的アルペジオを聞かせるなど,やはりこの人は面白いと思わせた。

そんなBen MonderのソロはなんとCD3枚組の超大作である。しかし,派手派手しいところもなく,あくまでもいつものBen Monder的なサウンドと言ってもよいが,自身のギターの多重録音も交えつつ,ヴォイス,あるいはリズムとの共演が展開される。これがもはやアンビエントと言ってもよい趣もあれば,プログレと言ってもよいサウンドもあって,まさにBen Monderの音楽となっている。全15曲,3時間近い演奏時間というのはさすがに普通のリスナーには厳しいかもしれないが,Ben Monderのサウンドスケープにはまったことがある私のような人間にとっては,おぉっ,やっぱりBen Monderだ!と言いたくなってしまうような音の連続で嬉しくなってしまうのだ。ただ,普通の人にはこれの何がおもろいねん?と言われても仕方がないのも事実だが...。

しかし,ここで聞かれるBen Monderらしいアルペジオやフレージングの連続は,もはやOne and Onlyだろう。以前はBill Frisell的と感じる部分もあったが,ここまでくれば,これは完全にBen Monderの世界だ。約3年を掛けて作り上げたこのアルバムのボリュームには圧倒されるが,ずっと聞いていても心地よい。また,バックのヴォイスの面々の声がBen Monderの音楽にマッチして,実にいい感じだ。本作がリリースされたことだけでも価値があるということで,星★★★★☆としよう。

Recorded between December 2020 and December 2023

Personnel: Ben Monder(g), Theo Bleckmann(vo), Charlotte Mundy(vo), Emily Hurst(vo), Theo Sable(vo), Chris Tordini(b), Ted Poor(ds), Joseph Branciforte(ds), 武石聡(ds)

本作のストリーミングへのリンクはこちら

2024年12月17日 (火)

2024年の回顧:ライブ編

Mw-trio-at-cotton-club_20241213185101

年の瀬も押し詰まってきたし,年内はもうライブに行く予定もないので,今年の回顧はライブから。私が今年行ったライブが全部で31本で,これは私の中ではこれまでの最高記録だと思う。月2本を超えるペースで通っていたのだから,結構行ってるねぇ。ジャズを中心にロック,クラシックと満遍なくライブに通ったという気がするが,どのライブもそれぞれに楽しめた記憶が残っていて,これは決定的な失敗だったというのがなかったのは実に嬉しい。

そんな中で今年のライブで最も感動したのはMarcin Wasilewski Trioであった。これで1stと2ndで曲を変えてくれていたら尚よかったが,私はCotton Clubで身じろぎもせずに彼らの演奏を聞き,そして感動していた。

正直言って2月にMeshell Ndegeocelloのライブを観た時には,もはや今年最高のライブはこれだろうと思っていたのを覆したMarcin Wasilewskiではあったが,だからと言ってMeshell Ndegeocelloのライブの素晴らしさも改めて強調しておかなければならない。実に素晴らしいメンツを揃えて,Meshell Ndegeocelloの創造力は尽きることがないと思わせた。

更にジャズ界の長老,Charles Lloydも年齢を感じさせない素晴らしい演奏を聞かせ,相変わらずの不老不死モードであったのが凄い。

クラシック界では何と言ってもBlomstedt/N響のシューベルトだった。特に「グレイト」が素晴らしかった。97歳のBlomstedtは一体いつまで振るのか?思ってしまいつつ,あれだけの素晴らしい演奏を引き出す力は,こちらも不老不死だ(笑)。

そのほかで印象に残るのがNik Bärtsch’s Ronin。音楽だけでなく,照明とも一体化したライブの雰囲気そのものが実に魅力的であった。そのほかにもMarisa Monteを観られたのも嬉しかったし,Daniil Trifonovの現代音楽づくしも面白かった。

ということで,来年はどれぐらいのライブに行けるかはわからないが,今年以上に楽しませてくれるライブを期待しつつ,本年を代表するライブとしてMarcin Wasilewskiのライブの模様を改めてアップしておく。

2024年12月16日 (月)

これも現物未着のためストリーミングで聞いたThomas Strønenの"Relations"。自由度高っ!(笑)

Relations"Relations" Thomas Strønen (ECM)

これも発注のタイミングで,リリースされたものの現物が届かないので,ストリーミングで聞いている。このジャケを見ると魅力的なメンツが並んでいるので,バンド形態での演奏と思ったら,基本的にはリーダーThomas Strønenのソロ及び参加したメンツとのデュオ・アルバムである。

いきなりThomas Strønenのソロ・チューンでスタートし,おぉっ,これは何か雰囲気が違うと思わせるのだが,各々のメンバーと繰り広げられる演奏は主題の通り極めて自由度が高い。破壊的なフリー・ジャズという感じではないが,書かれた音楽ではなく,スポンテイニアスなインプロヴィゼーションと言ってよいものばかりだ。1曲当たりの収録時間は短く,最長でも冒頭の"Confronting Silence"の4分4秒だし,全体でも35分程度だ。まぁこういう即興的な演奏はこれぐらいが丁度いいと思わせるが,これがいかにもECM的でなかなか面白い。「高野山」なんて曲もあるしねぇ。

ECMのサイトによれば,Thomas Strønenがアルバム"Bayou"のレコーディングを早めに終了させたことで生まれたスタジオの空き時間に,総帥Manfred Eicherがソロ・パーカッションでの演奏を示唆したのが契機で,そこから数年かけて出来上がったのがこのアルバムということらしい。

メンツにはJorge Rossyも含まれているが,ここではJorge Rossyはピアノをプレイしている。Jorge Rossyはドラムスだけでなく,ヴァイブやピアノのプレイも多くなっているが,"Nonduality"をはじめとして,静謐で現代音楽的な響きを聞かせて,何でもできるねぇと思わせる。

アルバム全体を貫くのは現代音楽にも通じるクールな音空間であり,即興性を重視した演奏はおそらくはリスナーの好みは大きく分かれるはずだ。Craig Tabornはまぁわかるとしても,日頃のクリポタの演奏とは一線を画するところがあるが,私は結構楽しんだクチだ。正直言ってしまえば何度も,あるいは頻繁にプレイバックしようという感じの音楽ではないのだが,私にとっては好物に近い音楽と言ってよいだろう。こういう想定外のアルバムが出てくるところがいかにもECMである。ちょいと甘いと思いつつ,星★★★★☆としてしまおう。尚,Sinikka Langelandが弾いているカンテレというのはフィンランドの民族楽器だそうだ。へぇ~。

Recorded between 2018 and 2023

Personnel: Thomas Strønen(ds, perc), Chris Potter(ts, ss), Craig Taborn(p), Jorge Rossy(p), Sinikka Langeland(kantele, vo)

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2024年12月15日 (日)

現物はまだ届いていないが,M.T.B.の30年ぶりの新譜。

Solid-jackson "Solid Jackson" M.T.B. (Criss Cross)

昨今のネット・ショップにおける輸入盤の流通状態は必ずしも良好とは言えず,発注のタイミングを間違えるとデリバリーが非常に遅くなることがある。本作も某ショップで発注していたのだが,いつまで経っても入荷しないので,別のショップに切り替えたものの,今度は入荷待ちになって,年内にデリバリーされるかは怪しい状態になっている。なので,通常は現物が届いてからレビューするのだが,今回はストリーミングで本作を聞いた。

M.T.B.と称するユニットはBrad Mehldau,Mark Turner,Peter Bernsteinの頭文字を取ったものだが,第1作も同じCriss Crossからリリースしていて,それが1994年のことであるから,30年ぶりのレコーディングということになる。Brad MehldauはことあるごとにPeter Bernsteinとの共演は続けてきたし,Mark Turnerのアルバムにも"Yam Yam"と"In This World"に参加しているから,相応に縁の深い人たちのユニットと言ってもよい。前作が出た94年の段階ではBrad Mehldauのメジャーでの初リーダー作である"Introducing Brad Mehldau"もリリースされていない時期であるから,まだまだ駆け出しと言ってもよかった時代だ。それが30年を経て,Brad Mehldauはジャズ・ピアノ界を代表するミュージシャンの一人となったが,若い頃からの付き合いは大事にしているってところだろう。

前作も久しく聞いていないが,前作からの変更はドラマーがLeon ParkerからビルスチュことBill Stewartに代わっているが,やっている音楽そのものはコンベンショナルなジャズである。メンバーのオリジナルに,ジャズマン・オリジナルを交えるという構成は前作同様だ。面白いのは前作でも"Limbo"を取り上げたWayne Shorterの"Angola"をやっていることだが,この曲,お蔵入りしていた"The Soothsayer"からのチョイスというのが渋い。ついでに言えば,それに続いて演奏されるHank Mobleyの"Soft Impression"も発掘音源"Straight No Filter"からだし,もう1曲もHarold Landの"Ode to Angela"っていう選曲にはどれだけこの人たち勉強熱心なのか?とさえ思いたくなってしまう。

Brad Mehldauは客演モードになると,個性の発露を少々抑える感覚があるが,この共同リーダー作と言ってよい本作でもそんな印象だ。三者がバランスよく演奏をしている感じなので,Brad Mehldauのソロは相応にレベルは高いが,いかにもBrad Mehldauだと思わせるのは本人のオリジナル"Maury's Grey Wig"だろう。

まぁこれだけの真っ当なメンツを揃えたアルバムなので全く破綻はないが,痺れるってほどではないのは惜しい気もする。だが,旧友が集まって作り上げた同窓会的なアルバムだと思えば腹も立たないってところか。星★★★★。

Recorded on November 25 & 26, 2023

Personnel: Brad Mehldau(p), Mark Turner(ts), Peter Bernstein(g), Larry Grenadier(b), Bill Stewart(ds)

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2024年12月14日 (土)

Paul Desmondで和む。

Glad-to-be-unhappy "Glad to Be Unhappy" Paul Desmond(RCA)

真偽のほどはわかりかねるが,最近聞いたところによれば,Dave BrubeckはPaul DesmondがDave Brubec以外のピアニストとアルバムを制作することを禁じる契約を結んでいたそうだ。本当だとすれば了見の狭いDave BrubeckもBrubeckなら,それをOKしてしまうDesmondもDesmondだって気がする。だが,それが事実だとすれば,確かにピアニストを従えたPaul Desmondのリーダー作はないし,むしろそれがPaul DesmondとJim HallやEd Bickertとの共演を生んだということになるから,何が幸いするかわからない。

それでもって,今日はこのアルバムである。私はPaul DesmondのRCAのComplete Recordings5枚組を生涯の愛聴盤と位置付けているが,その中の一枚である。この究極のリラクゼーションと言ってもよい落ち着いた雰囲気とサウンドには「和む」以外の言葉が見つからない。聞く人によっては刺激に乏しいと思われるかもしれないが,それでいいのだ(バカボンのパパかっ!)。このアルバムにもConnie Kayが全面参加しているはずなのだが,ドラムスがかなり地味にしか存在感を発揮しないのは私が難聴気味だからか?(笑)

逆にそうした音場ゆえにPaul Desmondに加えて,Jim Hallの存在感が強く感じられるところに,このアルバムの魅力を感じてしまうのだ。"Taste of Honey"のような曲さえもがこの二人の色に染まるのも素晴らしい。せわしない師走のこの時期に,バラッド,あるいはミディアム・スローを中心としたこのアルバムを聞いて,静かに時を過ごすのもまたよしである。星★★★★☆。

Recorded on June 10, 1963, July 13 & 14, August 20, and September 4, 8 & 16, 1964

Personnel: Paul Desmond(as), Jim Hall(g), Eugene Wright(b), Gene Cherico(b), Connie Kay(ds)

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2024年12月13日 (金)

ジャケットも印象的なBob Jamesの8作目。

_20241210_0001"H" Bob James(Tappan Zee)

1970年代及びそれ以降のクロスオーヴァー/フュージョンの隆盛時において,Dave Grusinと同じような立ち位置にあったのがBob Jamesだと思っている。プレイヤー,コンポーザー,アレンジャーであり,レーベル・オーナーだったというところまで合致していた二人だが,私はミュージシャンとしてはDave Grusinの方を評価していて,Dave Grusinのアルバムに比べるとBob Jamesのアルバムは食指が動かないところがあった。

このアルバムも随分後になって,廉価盤として出た時に買ったもので,リアルタイムではほとんど聞いていないと思う。まぁそうは言ってもFourplayを結成して株を上げたとは思えるので,随分ポジションは上がったが,それでもDave Grusinの盟友と言ってよいLee Ritenour在籍時が一番だと思っているのだから,やはり今でもDave Grusinの方が好きなことは間違いないところだ。

そうは言ってもBob Jamesがリリースしたアルバムは,クラシックのアダプテーションを含めて,クロスオーヴァー/フュージョンの世界ではメジャーだということは間違いないので,結局は個人の嗜好ということになるが。但し,"Double Vision"という傑作もあるから,ちゃんと評価すべきところは評価しているつもりだ。

それでもって本作はCTIの"One"から数えて8作目ということで,アルファベット8番目の文字である"H"と題され,写真は"H"で始まるホットドッグである。Tappan Zeeのアルバムはそれぞれデザインが凝っていて,デザイナーのPaula Scherのセンスが光って,一貫性もあるのも素晴らしい。音楽としても相応のレベルは維持しているから,なかなか楽しく聞けることは間違いない。本作は裏ジャケにも書かれている通り,ゲストとしてのGrover Washington, Jr.の存在が大きいが,どうせなら全面参加にすればいいのにと思ってしまうところがあるのも事実。

"The Walkman"におけるオーケストレーションは少々仰々しいかなと思わせる部分もあるが,Dave Grusinのオーケストレーションにも個性があるように,これがBob Jamesの個性ってところだろう。そこからいきなり激しいHiram Bullockのソロに突入する展開にはびっくりするが。アルバム全体を通じて,ヴァラエティに富んだ曲が並んでいて,逆に言えば決定的な曲に欠けるって気もする。そして,この国内盤にはボーナス・トラックとしてCMでも使われたと記憶する"Sparkling New York"が最後に収められているが,明らかにオリジナル・アルバムのトーンと乖離していて,浮いていることこの上ない。ラストはPeaches and Herbの"Reunited"でしっとりと締めるのが正しい姿だ。サービスとは言え,明らかにこれは蛇足と言われてもしかたないだろう。

そうした蛇足は評価から外したとして,アルバムとしては悪くはないが,星★★★☆ってところだろう。

Recorded between November 1979 and April 1980

Personnel: Bob James(p, key, synth), Gary King(b), Doug Stegmeyer(b), Buddy Williams(ds), Liberty DeVitto(ds), Hiram Bullock(g, vo), Bruce Dunlap(g), David Brown(g), Grover Washington, Jr.(ss, tin whistle), Airto(perc), Leonard Dr. Gibbs(perc), Ralph McDonald(perc) with horns and strings

本作へのリンクはこちら。Amazonの中古ではとんでもない値段がついているが,中古盤屋に行けばいくらでもあるだろう(笑)。

2024年12月12日 (木)

今更ながらのBobby Hutchersonではあるが,いいねぇ。

Components"Components" Bobby Hutcherson(Blue Note)

往年のヴァイブ奏者でパッと思いつくのはLionel Hampton,Milt Jackson,Bobby Hutcherson,Gary BurtonにDave Pike辺りってことになろうが,各々のスタイルの違いが顕著で面白いなぁと思ってしまう。そうした中でのBobby Hutchersonは新主流派の代表ということになるだろうが,私は大した数のアルバムを聞いたことがなかったので,今回ストリーミングでBlue Note2作目の本作を聞いてみた。

結論から言えば,いかにも新主流派というメンツが揃っているから,そういう音がするのは当然だが,強烈にモダンなジャズ・フレイヴァーを打ち出すという観点では上に挙げた5人の中でも最も刺激的な人だ。それぞれ個性があるから,格落ちのDave Pikeは別にして,誰が優れているかを論じるのは野暮だが,誤解を恐れずに言えば,こういう音を聞くと「モダン・ジャズを聴いている」という感覚を与えてくれる筆頭と言ってもよいのがBobby Hutchersonだろうと思える。私にとっては聞いた経験としては上記の5人の中ではMilt JacksonとGary Burtonはほぼ同格,Bobby Hutchersonはそれに次ぐという位置づけになるのだが,こういうアルバムを聞くと,改めてBobby Hutchersonのアルバムを聞き直してもいいと思わせるに十分な出来。少々フリーに近い(特に"Air"はほぼフリーだが...。Herbie Hancockがオルガンを弾いているのも珍しい。)感覚が加わるのがいかにもこの時代,この人たちってところだ。

今更アルバムを揃えるという時間的,金銭的余裕がない中で,ストリーミングはこうしたよい温故知新の機会を与えてくれるという意味で貴重な存在だとつくづく思う私である。さて,次は何を聞こうか?って感じになってしまうが,Bobby Hutchersonに限らず,往時のBlue Noteのアルバムを聞き直すのもいいかもなぁ。

Recorded on June 10, 1965

Personnel: Bobby Hutcherson(vib, marimba), Jerome Richardson(as, fl), Freddie Hubbard(tp), Herbie Hancock(p), Ron Carter(b), Joe Chambers(ds) 

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2024年12月11日 (水)

今でも現役のJourneyの真のブレイク作。

_20241207_0001 "Escape" Journey (Columbia)

今でも現役で活動を続けるJourneyである。私はJourneyのファンってほどではないのだが,ベスト盤やらライブ盤でその音楽には接してきた。だが,スタジオ・アルバム単体として購入したことがあるのは本作と"Frontiers"だけだから,その程度の聞き方だと思って頂ければよい。

元々JourneyはSantanaの残党と言ってよいNeal SchonとGreg Rolieが結成したバンドとして,初期はプログレ的なサウンドを聞かせていたのが,Steve Perryがヴォーカルとして加入したことによって,ポップでありながら,ハードなサウンドも聞かせるインダストリアル・ロック的なバンドに変貌を遂げた。そんなJourneyがチャート・アクション的に急速に伸びたのは前作"Departure"辺りだっただろうが,ついに本作で全米No.1を獲得し,真のブレイクを果たしたと言ってよい。この辺りの成功なくして,現在も続く活動はなかっただろう。

既に本作がリリースされてから40年以上の時間が経過しているが,私などの世代はほぼ同時代のバンドとして,懐かしいと思うのは当然だが,耳に馴染みがあるから,古臭いという気がしない。メロディアスな曲が多いのもこのアルバムの特徴だろう。アルバム最後に収められた"Open Arms"はMariah Careyまでカヴァーしちゃったしねぇ。こういう曲とハードなサウンドをうまくミックスしたものだと思えるが,このアルバムのプロモーション・ツアーでも来日して各地で演奏していたから,この当時には日本での人気も確立していたということになるだろう。

この頃のドラムスはSteve Smithだが,Journey脱退後はフュージョン畑に活動の軸足を移したことは衆知の通り。Steps Aheadで来日したのにも驚いたが,Vital Informationでのライブはカッコよかったし,更にはScott Henderson,Victor WootenとのVital Tech Toneでのハードなフュージョンなど,私はJourney時代より,そっちの活動との接点が多いというのが実態になっているが,ジャズ系のバックグラウンドを持つSteve SmithがどうしてJourneyに参加したのかはよくわからないが,何でも叩けてしまうということの裏返しで,実に多才な人だと思わせる。

あくまでも好みの問題にはなるが,正直言って私は,歌は無茶苦茶うまいが,Steve Perryの声にそれほど魅力を感じない部分もあって,Journeyにはまることはなかった。それでもこれは売れて当然という感じのアルバムだったと久しぶりに聞いて思った私である。星★★★★。

Personnel: Steve Perry(vo), N, Neal Schon(g, vo), Jonathan Cain(key, vo), Ross Valory(b, vo), Steve Smith(ds, perc)

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2024年12月10日 (火)

年末になってまたも届けられたRobert Glasperの"Apple Music Sessions(EP)"。

Apple-music-sessions "Apple Music Sessions(EP)" Robert Glasper(Loma Vista Recordings)

これまでもApple Music限定の音源をリリースしているRobert Glasperが12月に入ってリリースしたのがこの4曲のEP音源。Electric Lady Studioで収録されたライブ音源であるが,今回は映像付き。

今年リリースしてきた6月の"Let Go",9月の"Code Derivation",そして10月の"Keys to the City Volume One"はそれぞれ趣の異なるものであり,まさに変幻自在という感じであったが,今回は4人のミュージシャンによる無観客ライブである。そこで展開される音楽はまさにメロウ・グルーブであった。

正直なところ,強面のRobert Glasperからこのような音が繰り出されること自体にアンマッチな感覚はあるが,Robert Glasperがこれまで公開してきた音源を考えれば,こういうのも想定内になってしまうというところがこの人の凄いところだ。まさに尽きることのない創造力ってところ。まずは貼り付けた映像を見てもらえばわかるだろう。Robert Glasperが歌まで歌ってしまう"Never Too Late"の映像を貼り付けておこう。いやはや凄い人である。

Personnel: Robert Glasper(key, vo), Burniss Travis(b), Justin Tyson(ds), DJ Jahi Sundance(turntable)

2024年12月 9日 (月)

Amazon Primeで観た「名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊」。

Haunting-in-venice 「名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊("A Haunting in Venice")」(’23,米,20th Century)

監督:Kenneth Branaugh

出演:Kenneth Branaugh, Michelle Yeoh, Tina Fey, Jamie Dornan, Riccardo Scamarcio, Kelly Reilly, Camille Cottin, Jude Hill

Kenneth Branaughが名探偵エルキュール・ポワロを演じるのもこれが3作目だ。「オリエント急行」も「ナイル」も正直言って期待外れという感覚が強かったから,見なくてもいいとも言えるので,劇場には行かなかった。前2作に比べて更に役者が小粒ではどうもなぁ...というところも否定できないが,Amazon Primeで暇にまかせて見てしまった。

端的に言えば,この映画の主役はベネチアの風景ではないのかとさえ言いたくなるようなものだが,これは原作の翻案をしているものの,残念ながらストーリーがあまりにも陳腐という気がする。謎解きもへったくれもないって感じで,ホラー風味をまぶしてみたところで,これはあまり面白いとは言えない映画であった。

Kenneth Branaughとしてはエルキュール・ポワロを演じることを楽しんでいるのだろうが,ストーリーがしょぼいなら,その代わりにオールスター・キャストでやってくれよと言いたくなるような地味な役者陣なのだ。まぁこの程度のストーリーなら豪華な役者は不要って気がしないでもない。世界的に見れば相当ヒットした(製作費は楽々回収している)と言ってもよいので,Kenneth Branaughとしてはこのシリーズをまだまだ作る気満々なのかもしれないが,どうせならもう少し劇的な原作を選んでくれた上で,役者陣もそれなりの人を揃えてくれないと,もうええわという感覚は消えることはないだろうな。"Satureday Night Live"出身のTina Feyが真面目に演技しているのは面白かったが,それだけではねぇ...。 星★★。

但し,私がベネチアを訪れたのはもう10年以上前になるが,死ぬまでにもう一度行きたいと思わせるという効果は否定しない(苦笑)。

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2024年12月 8日 (日)

EBTGのベスト盤(?)は何組もあって大変だ(笑)。

_20241206_0001 "Like the Deserts Miss the Rain" Everything but the Girl"(Virgin)

私が長年のEverything but the Girl(EBTG)のファンであることは,このブログにも何度も書いているが,彼らのベスト盤もいくつかあって,一番網羅的なのはRhinoから出た3枚組ベスト盤だと思う。だが,このアルバムのようにレア音源も入れられるとついつい買ってしまうというのがファンの哀しい性ってところか。しかし,本作はベスト盤と言うよりも,よくできたコンピレーションと呼ぶ方が正しいように思う。

本作はキャリアを俯瞰しているふりをしつつも,Massive AttackにTracy Thornが客演した"Protection"とか,諸々のレア音源を収録していしまうところがファンにとっては気が利いていると思わせる(笑)。一時期彼らの活動が沈静化している時,Ben WattはDJ仕事に精を出していただけに,EBTGにはリミックス音源集も存在する中,本作にもいくつかリミックス音源は含まれているが,このアルバムのいいところは本質的なEBTGの音楽を崩さないレベルで保たれていることではないか。つまりコンパイラーの趣味の良さだ。本作のクレジットにはプロデューサーの名前も,コンパイラーの名前も見つけることはできないが,おそらくこれはBen Wattの仕事だろうと思いたい。わかってるねぇって感じなのだ。

私がEBTGの音楽に求める感覚が満遍なく得られるということで,これはコンパクトな作りながら,「ベスト盤」とは言いにくいところもあるが,実によくできたコンピレーションである。ここを入口にしてEBTGの音楽に接するのもありだと思わせるのがいいよねぇ。この音楽が嫌いという人はなかなかいないと思うが,そういう人とは私は話が合わないこと必定(きっぱり)。

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2024年12月 7日 (土)

追悼,中山美穂。

Photo_20241206175001

中山美穂の突然の訃報には驚いた。まだ54歳ってのは若過ぎるだろう。詳しいことはわからないが,体調不良でビルボード大阪のライブがキャンセルされたその日に亡くなるとは...。正直言って,歌い手としての中山美穂にはほとんど興味もなかった私が,唯一彼女の曲ではまってしまったのが"You're My Only Shinin' Star"であった。それは曲を提供した角松敏生の手柄と言ってもよいが,彼女にとって一期一会の曲だったと今更ながら思えてくる。彼女より歌の上手い歌手はいくらでもいても,中山美穂という人にフィットした曲だったとつくづく思う。

よって,私が彼女の訃報に接し,いの一番に聞いたのが"You're My Only Shinin' Star"であったことは言うまでもない。いろいろなヴァージョンが存在することからも,彼女のがこの曲に思い入れがあったことは間違いないところだろう。この曲だけでも彼女は私の記憶に残り続けるだろう。

R.I.P.

2024年12月 6日 (金)

Coleman Hawkins:このアルバムを買った経緯が思い出せない...。

Swingville "Coleman Hawkins with the Red Garland Trio" (Swingville)

私は以前Coleman Hawkinsの"High and Mighty Hawk"のアナログLPを保有していたはずなのだが,現在行方不明だ。そういうアルバムはほかにもあって,それらは実家に置いてあったはずなのだが...。まぁそれはさておき,正直私はリーダー作としては"High and Mighty Hawk"以外Coleman Hawkinsを聞いた訳ではない中,どうしてこのアルバムの紙ジャケCDを保有しているのかがどうしても思い出せない。私らしくない保有盤と言えばよいだろうか。

Prestigeの傍系レーベルであるSwingvilleは,スイング系の奏者にバップ的アプローチで演奏をさせるというのがコンセプトとして存在していたらしいが,私が保有するSwingvilleのアルバムもこれ一枚限りだ。やはり通常の私の嗜好とは少々異なる。

Red Garland自体は普段の演奏とあまり変わらないってところだろうが,そこに乗ってくるのが「ジャズ・テナーの父」とも称されるColeman Hawkinsの野太いテナーの音というのがこのアルバムのポイントってことになるだろう。このアルバムを聞いていると,多分Coleman Hawkinsって音がでかかったんだろうなぁと想像させるに十分な演奏であり,吹きっぷりだ。Coleman Hawkinsのテナーを聞いていると,まさに余裕綽々というところで,これはこれで相応に楽しめる。星★★★☆。

余談ながら,今更ながら凄いと思うのはThelonious Monkが"Monk’s Music"にColeman Hawkinsを招いたということだ。どういう発想であのセプテットになるのかって思わざるをえないが,"Monk’s Music"も久しく聞いていないので,本作とは印象が異なるはずのColeman Hawkinsの吹奏を改めて聞いてみることにしたい。

Recorded on August 12, 1959

Personnel: Coleman Hawkins(ts), Red Garland(p), Doug Watkins(b), Charles "Specs" Wright(ds)

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2024年12月 5日 (木)

怖いイメージが先立つ高柳昌行のクール・ジャズの探求。

_20241204_0001"Cool Jojo" 高柳昌行セカンド・コンセプト(TBM)

基本的に高柳昌行という人には怖いイメージしかない(きっぱり)。それはこの人がやるフリー・ジャズの強烈さゆえであるが,その一方でこの人がLennie Tristano~Lee Konitzのクール・ジャズを探求していたこともよく知られた事実である。よくもまぁこの対極のような音楽を同じ人ができるものだと感心してしまうのだが,本作は高柳のフリーに顕著な「聞きにくさ」もなく,それでいて実にスリリングなアルバムなのだ。

ここでは高柳昌行と弘勢憲二のユニゾンや対位法的な演奏の中から浮かび上がるソロという展開がほとんどだが,高柳がKonitz,弘勢がTristanoの役割を演じているってところか。正直言ってLee Konitzはそこそこ聞いていても,Lennie Tristanoの音楽には難しさが付きまとうイメージがあって,私もほとんど聞いていないというのが実態なのだが,このアルバムを聞くと,決してそんなことはなかったのではないかと思えてくる。高柳はCharlie ParkerとTristanoを対比して「パーカーは装飾過多のゴシック建築、トリスタ-ノの音楽は、シンプルで優美な直線と曲線を見事に組み合わせた近代建築なんだ。現代にも通じる美の極致だよ。シンプルなホリゾンタル・ライン、それでいて、信じられない程良く考え抜かれた曲線性、そして複雑この上ない音の羅列。」という評価をしているが,なるほどなぁと思わせる。

ここでは高柳のオリジナル2曲に加えて,Tristanoの弟子であるRonnie Ball,Tristano,Konitzの曲が並んでいて,それぞれに聞き応えのある演奏が展開されていて,これはレベルが高いと思わされる。今まで食わず嫌いのようだったと深く反省させられ,Lennie Tristanoの音源やこの系統の高柳昌行のアルバムも改めて聞いてみたいと感じてしまったのであった。反省も込めて,時すでに遅しの感はあれども星★★★★★としよう。

Recorded on December 3-5, 1979

Personnel: 高柳昌行(g),弘勢憲二(p,el-p),井野信義(b),山崎泰弘(ds)

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2024年12月 4日 (水)

David Sanbornの"Heart to Heart":一発録りのフュージョン・アルバムってところか。

_20241202_0002 "Heart to Heart" David Sanborn (Warner Brothers)

David Sanbornの旧作は先日"Hideaway"を取り上げたが,今回はこの1978年のアルバムである。このアルバム,プロデュースがJohn Simonということに反応してしまう人もいるだろうが,それが強く感じられるのがGil Evans Orchestraとの共演を収めた"Short Visit"である。

この"Short Visit"という曲は同じくJohn SimonがプロデュースしたGil Evansの傑作"Priestess"にも含まれていたが,"Priestess"がお蔵入りして,リリースが80年代にずれ込んでいながら,レコーディングされていたのは1977年5月だったのに対し,ここでの演奏は78年1月のレコーディングだから,こちらの方が後だったということになる。しかし,曲から受ける印象は両作で大きく変わらず,David Sanbornのエモーショナルなアルト・サックスが聞ける。フュージョン的なアルバムに収録するにはややこの曲だけ印象が異なるものの,本作における聞きものの一つだったことは間違いないところだろう。Gil Evans Orchestraの一員としてDon Grolnickがピアノを弾き,Steve Gaddがドラムスを叩いているのも珍しいしねぇ。

それはさておき,主題に書いた「一発録り」についてであるが,このアルバム自体は4日間でレコーディングされていて,もう少し時間を掛けてもよさそうなところを,短期間で仕上げてしまうところに,参加したミュージシャンの実力の高さが表れていると言ってもよい。上述の"Short Visit"を除けば,ほぼ固定メンツで録られていることでも,それが可能になったと考えてよいと思う。

"Casino Lights"でもやった"Theme from 'Love Is Not Enough'"や,"Straight to the Heart"でもやった"Lisa"は再演されたことからも,David Sanbornとしても愛着のある曲だったのではないかと想像できるが,まだまだ本作ではチャートを駆け上がるところまでは行かなかったというのが現実としても,当時のフュージョン・アルバムとしては十分なクォリティだと思える。面白いのがDavid Sanbornのオリジナル"Heba"のバックでのHugh McCrackenによるスライド・ギターだろうか。これが結構ブルージーな感覚を生んでいて,なかなか面白い。

いずれにしても,彼らのようなミュージシャンにかかれば,これぐらいのクォリティは出来上がることの証左と言ってもよい。完全にブレイクする前のDavid Sanbornではあるが,十分聞き応えがあるものだったと思える。"Sunrise Gospel"のバックで聞こえるRichard TeeとSteve Gaddの掛け合いは,79年にリリースされるRichard Teeのリーダー作,"Strokin'"における「A列車」のひな形だったと思えてしまう。星★★★★。

Personnel: David Sanborn(as), David Spinozza(g), Hugh McCracken(g), Don Grolnick(p), Richard Tee(p, el-p, org), Mike Mainieri(vib), Herb Bushler(b), Anthony Jackson(b), Steve Gadd(ds), Gil Evans Orchestra<Gil Evans(arr), Arthur Blythe(as, ss), George Adams(ts, fl), Lou Soloff(tp), Jon Faddis(tp), Jon Clark(fr-h), Tom Malone(tb), Howard Johnson(tuba), Hiram Bullock(g), Pete Levin(synth, key, fr-h), Warren Smith(perc)> with Randy Brecker(tp), Michael Brecker(ts), Sam Burtis(tb), Ralph McDonald(perc)

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2024年12月 3日 (火)

Lee Ritenourが若い!87年リリースの"Portrait"。

_20241202_0001 "Portrait" Lee Ritenour (GRP)

1987年リリースの本作からもはや35年以上の時間が経過している。既に古希を過ぎたLee Ritenourであるが,まだこの頃は30代半ばだけに,横幅が広がり,額も広がった現在に比べれば,当たり前だが見た目は圧倒的に若い。しかし,今なおやっている音楽のクォリティは保った活動(先日のライブもよかった)もあって,私は70年代にJVCからダイレクト・カッティング盤を連発した頃からの長年のファンと言ってよいだろう。

いきなりDjavanとの"Asa"から聞かれるブラジル風味に驚くが,このアルバムはそこはかとなくブラジル的な部分を感じさせながら,非常にレベルの高いフュージョンを聞かせる。Kenny Gをゲストに迎えたり,Eric Taggとの再共演を聞かせたりと,ある意味ヴァラエティに富んだ作りとも言えるのだが,久しぶりにクレジットを眺めていて驚いたことがあった。それはすっかり失念していたが,Yellowjacketsとの共演であった。それも10曲中4曲がYellowjacketsとの共演である。

Yellowjacketsで思い出すギタリストはまずはRobben Fordということになるが,後にはMike Sternとも共演してしまう人たちである。ではLee Ritenourとの相性はどうだったのかと言えば,これが悪くない。ほかの曲に比べるとややウェットな感覚強いように思わせるが,違和感はない。これだったら,もう少しライブの場等で共演を重ねてもよかったように思うが,認識できる彼らの共演は本作と,後の"Twist of Jobim"での"Mojave"ぐらいか。ここでの演奏を聞いていると通常のLee Ritenourの音楽はより西海岸的なカラッとした感じながら,私はこの共演はLee Ritenourの新しいイメージを打ち出す新機軸として成功だったと思う。

一方,Kenny Gとの共演は二人の共作"G-Rit"のみだが,一般的なKenny Gのイメージに比べれば,ここでのKenny GのテナーはJeff Lorber Fusion時代を彷彿とさせるものであり,よりハードな印象を受ける。ソプラノでイージー・リスニングみたいな音を聞かせるKenny Gには全く興味のない私だが,ここでの演奏は許せると思えてしまう。

それにしても,フュージョン界を代表するようなスタジオ・ミュージシャンも揃えた本作は快作と評価してよいものだろう。一部ではBob James久しぶりに聞いて大いに楽しんでしまった私であった。星★★★★。

Personnel: Lee Ritenour(g, g-synth), Barnaby Finch(p), Greg Phillinganes(key), Russell Ferrante(key), Paul Jackson, Jr.(g), Tim Landers(b), Nathan East(b), Jimmy Haslip(b), Vinnie Colaiuta(ds), William Kennedy(ds), Harvey Mason(ds, perc), Paulinho Da Costa(perc), Alex Acuna(perc), Djavan(vo), Eric Tagg(vo), Phil Perry(vo), Kevin Lettau(vo), Kenny G(ts), Mark Russo(as), Larry Williams(ts, synth, prog), Jerry Hey(tp), Dave Boroff(prog)

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2024年12月 2日 (月)

Deacon Blueの新譜は来年3月リリース。

The_great_western_road 私はこのブログでも何度もDeacon Blueのアルバムを取り上げてきて,大概の場合,非常に高く評価してきた。相当好きなバンドと言ってもよい。2020年にリリースされた"City of Love"はイマイチだったという評価だが,基本的には裏切られることのないバンドであり,Ricky Rossの優れたポップ・センスは私の琴線を刺激してやまない。だが,2021年に出た"Riding on the Tide of Love"は記事にすらしていないのだから,私もいい加減なものだが,まぁあれは"City of Love"の続編的な意味合いがあったってことにしておこう。

そんな彼らの新作"The Great Western Road"が来年3月にリリースとのことで,早速事前予約してしまった私である。まだまだリリースは先だが,優れた出来を期待して,首を長くして待ちたい。

2024年12月 1日 (日)

聞き流すもよし,傾聴するもよしのウエスト・コースト・ジャズのコンピレーション。

_20241123_0003 "Jazz West Coast" Various Artists (Pacific Jazz)

私は結構Pacific Jazzのアルバムを保有していて,西海岸のジャズには相応の魅力があると思っている。一言で言えば洒脱な感じなので,ゴリゴリで暑苦しいジャズとは真逆な感じである。しかし,私はどちらかに肩入れすることはなく,暑苦しいジャズも好きならば,西海岸ジャズも好きだという全方位型である。

このコンピレーションはPacific Jazzレーベルの音源を集めたものであるが,数多くの別テイクや未発表曲を含んでおり,まぁ悪く言ってしまえば没テイクの集まりな訳だが,こうしたかたちでまとめて聞いていると,主題の通り聞き流すこともできれば,傾聴することもできるなかなかの音源になっているのだ。

西海岸ジャズの特徴はそのスムーズな感覚にもあるから,音楽のタイプは違えども,後の「スムーズ・ジャズ」の源流と考えてもいいかもしれないなんてことを考えていた私である。

このシリーズは全部で5枚あるのだが,私が今回聞いていたのはその1枚目で,当初は何枚も出すつもりはなかったのか,Vol.1の表示はない。しかし,こういう聞き易さを持った音源ゆえ,結構人気が出て,続編が出たということではないかと想像している。因みに私はその5枚を集成したボックス・セットを保有しているが,今回本当に久しぶりにこの1枚目をプレイバックしてみて,心地よさを堪能したのであった。

コンピレーションゆえ,参加ミュージシャン多数なのでPersonnelは省略するが,Pacific Jazzを代表するミュージシャン総登場みたいな感じである(笑)。そのうち,続編も聞いてみることにしよう。

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