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2024年11月30日 (土)

Nick Drakeの遺作。沁みるねぇ。

_20241123_0001 "Pink Moon" Nick Drake(Island)

わずか3枚のアルバムを残してこの世を去ったNick Drakeだが,生前はうつ病に悩まされる中,最終作(遺作)として残したアルバムが本作である。わずか28分という短い収録時間ではあるが,紛うことなきNick Drakeのメロディ・ラインが聞かれる。

私にとってNick Drakeの音楽への入口はBrad Mehldauだった。Brad Mehldauが"River Man", "Day Is Done",更には"Time Has Told Me"のような曲を取り上げるのは,今にして思えば,Nick Drakeの紡ぐメロディに,Brad Mehldauの音楽との同質性があったがゆえだと思えてくる。Brad MehldauはNick Drakeの音楽にシンパシーを感じていたはずなのだ。

前2作と異なり,ここではNick Drakeのギターの弾き語り(タイトル・トラックだけピアノがオーヴァーダビングされる)で歌われるが,こうしたスタイルにより,Nick Drakeの心象がよりストレートに出たのではないかと思える。生前,Nick Drakeのアルバムはちっとも売れなかったようだが,それでもその後の評価はうなぎ上りであり,極めて強い影響力を持つミュージシャンとして認識されているが,黄泉の世界でNick Drakeはそれをどう思うか。

本作のエンジニアリング(及び実質的プロデューサー)を務めたJohn Woodは本作について「剝き出しの魂を見ているような気がした」と語っているが,まさにそういう音楽である。決して気楽に聞ける音楽ではないが,実に深い音楽であり,ちゃんと相対しなければならないと感じさせる。星★★★★★。

Personnel: Nick Drake(vo, g, p)

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2024年11月29日 (金)

トロンボーンのワンホーン・アルバムを作ってしまうJ.J. Johnsonの熟練技。

_20241125_0001 "Proof Positive" J.J. Johnson(Impulse!)

自分で買った記憶はないので,多分これは父の遺品のはずだ。本作を受け継いでからほとんど聞くことなく,クロゼットの奥にしまい込まれれていたはずで,聞いていたとしても相当久しぶりってことになるから,どんなアルバムだったかもあまり記憶していなかった。

今回,このアルバムを聞き直して,今更のようにこのアルバムがJ.J. Johnsonのワンホーンだったのか!なんて思っているのだから,私もいい加減なものだ。J.J. Johnsonは物凄いテクニシャンであるから,ワンホーンのアルバムはあっても不思議はないし,著名な作品として"Blue Trombone"等があるが,不勉強にして私は聞いたことがない。しかし,本作を聞いて,そのアーティキュレーションの見事さには驚かされたというのが正直なところだ。うま過ぎなのだ(笑)。

そうは言っても,J.J. Johnsonのアルバムは2管編成のものしか保有していない私にとって,トロンボーンのワンホーンがサウンドとしては少々地味だと感じさせることは否めないが,J.J. Johnsonの技自体は十分に堪能できるアルバムだと思う。このCD版では最後の1曲だけToots Thielmansのギターが加わり,リズム・セクションも豪華になるというアルバムの構成となっているが,LPではこの曲がA面2曲目に収録されていたようだ。CDはセッション毎に並びを変えたという意図はわかるが,そもそも元々のLPのプロダクションに関しては若干疑問もあるし,メインのリズム・セクションが小ぶりなのも事実だ。しかし,傑作とは言わずとも佳作とは呼べるレベルは維持しているってところだろう。星★★★☆。

Recorded on May 1 and July 4, 1964

Personnel: J.J. Johnson(tb), Harold Mabern(p), Arthur Harper, Jr.(b), Frank Gunt(ds) with Toots Thielmans(g), McCoy Tyner(p), Richard Davis(b), Elvin Jones(ds)

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2024年11月28日 (木)

Nik Bärtsch’s Roninの新譜が自身のレーベルから登場!

_20241126_0001 "Spin" Nik Bärtsch’s Ronin (Ronin Rhythm Records)

これまで暫くECMからのリリースが続いていたNik Bärtsch’s Roninの新作が,本人のレーベルであるRonin Rhythm Recordsから11/29にリリース予定だったのだが,スイスから飛ばした媒体が早くも到着したので早速聞いている。今回のアルバムは今年来日したメンバーでの演奏で,ベースのJeremias Kellerが加わってからの初レコーディングということになるようだ。

一聴して,ファンク度がこれまで以上に高いと思わされるのは,これまでよりもミニマル度が抑制気味の演奏そのものもあれば,エンジニアリングの違いもあると思う。やはりECMにはECMならではの音場があるが,今回のアルバムでは明らかに音圧がECMの諸作よりも高く,スタジオ録音ながらライブ感もより強いと感じさせるのだ。日頃のライブでの感覚は,おそらくこちらのサウンドの方が近いのではないかと想像する。まさに来日公演時の感覚が蘇るってところだ。

演奏は相変わらずのNik Bärtsch’s Roninであるが,やはりこの人たちの音楽は私の嗜好にばっちり合致してしまうなぁと改めて感じてしまう。身を委ねる感覚と言えばいいと思うが,彼らの演奏に自身の身体が勝手に反応するってところなのだ。ついつい身体が揺れてしまうと思って頂ければよいだろう。リスナーによってはこれの何がいいのだという人もいるだろうが,はまると抜けられない麻薬的感覚ってところだ。

今回,私はスイスから飛ばしたので,随分とコストが掛かってしまった。ショップに入ってくるのを待っていてもよかったが,好きなものはやはり早く聞きたいのだ。ということで,今回も期待を裏切られることなく,甘いの承知で星★★★★★としてしまおう。

Recorded in September 2023

Personnel: Nik Bärtsch(p, key), Sha(as, b-cl), Kaspar Rast(ds), Jeremias Keller(b)

2024年11月27日 (水)

またまたイタリア文化会館での無料コンサートに行ってきた。

Alognagullotta

先日,Salvatore Sciarrinoの作品を取り上げた無料コンサートに行ったばかりだが,極めて短いインターヴァルでまたもイタリア文化会館に行ってきた。今回はイタリア人ヴァイオリニスト,Davide Alognaとピアニスト,Giuseppe Gullottaによるデュオであった。前回がThe現代音楽って感じだったのに対し,今回は純粋クラシック・メインにピアソラが加わるって感じのプログラム。

二部構成の第一部はペルゴレージ,ファーノの小品にブラームスのヴァイオリン・ソナタ第3番,第二部がロッシーニ,サン=サーンス,そしてピアソラというなかなかユニークなプログラムと言ってよいものだった。そこにアンコールが3曲,最後は「チャルダッシュ」で締めて盛り上げた。

正直言って第一部はヴァイオリンの音が硬い感じがしたし,ピアノは少々弾き過ぎという感じがあってニュアンスに乏しいと感じさせたが,第二部はピアノの弾き過ぎ感はあまり変化はなかったものの,印象はだいぶ良くなったと思えた。サン=サーンスの「序奏とロンド・カプリチオーソ」は初めて聞いたが,なかなか面白い曲だと思えたのに加え,更にピアソラの「アディオス・ノニーノ」がよかった。

アンコールの1曲目はEnnio Morriconeと言っていたはずだが,曲名は不明。2曲目も曲名はわからないが,哀愁帯びたワルツであった。さすがイタリア人,こういう曲はうまいねぇ。イタリア語を解さないこっちとしては,イタリア語でMCをされても全くわからないが,さすがイタリア文化会館のイベントだけに,イタリア語を解する聴衆も結構いたようだ。最後のモンティ作「チャルダッシュ」は一時期フィギュア・スケートの音楽としてやたらに使われていたと記憶するが,生で聞いたのは初めてだった。まぁ,ヴァイオリンの技巧を聞かせるためのような曲だけに盛り上がるよねぇ。

演奏についてはいくらでもケチのつけようはあると思うが,まぁ無料でそこそこ楽しめたのだからよしとしよう。面白かったのはクラシック畑の人に珍しく,譜面にタブレットを使っていたことか。ヴァイオリンの譜めくりはフット・スイッチでクリック(?)操作していたようだが,ピアノのめくりは手指での操作のようで,しくじったらどうするんだろうと余計なことを考えながら見ていた私であった。まぁ,その辺はプロだから心配なしなのかもしれないが...。

年内にここでの無料コンサートはあと2回予定されているので,予約が取れればまた行きたいと思う。来年はそろそろジャズ系ミュージシャンを呼んで欲しいなぁ。

Live at イタリア文化会館 on November 25,2024

Personnel: Davide Alogna(vln), Giuseppe Gullotta(p)

2024年11月26日 (火)

Roy Haynesを偲んで聞いたアルバム。

_20241123_0002 "Te Vou!" Roy Haynes (Dreyfus)

ここのところ,高齢ミュージシャンの訃報が相次いでいるが,Roy Haynesもその一人。99歳ということであったから大往生と言ってもよいだろうが,90代半ばまで現役で演奏を続けていたのは,先日取り上げたLou Donaldson同様であった。

私がこのブログで取り上げたRoy Haynes入りのアルバムを紐解いてみると,Thelonious Monk, John Coltrane,Eric Dolphy,Booker Little, Oliver Nelson, Stan Getz,Gary Burton,Chick Corea等の多士済々のメンツである。逆に言えば,どのような音楽性にも合わせられてしまうというのがRoy Haynesという人の凄さであった。一方リーダー作に関しては,私は本作とDanilo Perez,John Patitucciとやった"The Roy Haynes Trio"ぐらいしか保有していないはずだから,私にとってはバックで演奏を支える人というイメージの方が強いと言ってもよい。

このアルバムがリリースされたのは1994年ということで,もはや30年前ということにも驚いてしまうが,Roy Haynesには悪いが,このアルバムを買ったのはPat Metheny目当てだったというのが実態だ。Pat Methenyの参加は"Question and Answer"での共演への返礼というところだろうからそれはそれでよいのだが,演奏としての驚きはない。更に,このアルバムではDonald Harrisonのアルトがどうもフィット感が足りないと感じられる(特に"James"はいかん)ので,私がプレイバックする機会は実に少ないのだが,今回,久しぶりに聞いてみてもあまり印象は変わらなかった。今回,追悼の意味を込めてリーダー作をチョイスしたものの,上述したミュージシャンとの共演盤での追悼の方が適切だったかもしれないなぁなんて思っていた私である。

しかし,上述のミュージシャンたちとの共演盤におけるRoy Haynesの貢献ぶりは見事なものであり,演奏の屋台骨を支えるという意味でRoy Haynesの果たした役割は大きいと思う。私がRoy Haynesのライブに接したのは,Live under the SkyにおけるChick CoreaとのTrio Musicだけだったと思うが,ほかの二人と世代が違っても,全然違和感がないのがこの人の凄いところだと感じたのも懐かしい。

いずれにしてもジャズ界の長老の訃報続きには,仕方ないとは思いつつ,残念な思いも募る私である。

R.I.P.

Personnel: Roy Haynes(ds), Donald Harrison(as), Pat Metheny(g), David Kikoski(p), Christian McBride(b)

本作へのリンクはこちら

2024年11月25日 (月)

Brad Mehldauの来日に期待する。

Mehldau-mcbride-gilmore さまざまなメディアで告知されているが,Brad MehldauがChristian McBride,Marcus Gilmoreとの共演でのライブで来春来日する。日本では東京3回,大阪1回のライブが行われるが,いつもと違うトリオでのケミストリーには大いに期待したいところ。米国,香港を経由しての日本が最終公演の地となるので,コンビネーションも深化していることだろう。

Brad MehldauとChristian McBrideはJoshua Redman Quartetほかで共演は結構しているが,Marcus Gilmoreとの共演はJoe Martinの"Not by Chance"ぐらいしか記憶にないので,そこが注目のポイントだろう。

既にチケットは発売されているが,私が5/9の紀尾井ホールのライブをいち早く予約したことは言うまでもない。東京は紀尾井ホールのほかに,初台のオペラシティ,そしてサントリー・ホールのライブが予定されているが,ジャズを聞くホールのヴェニューとしてはキャパ800席の紀尾井ホールぐらいが丁度いいと思う。2023年のここでのBrad Mehldauのソロもよかったし,本人もこのホールが気に入ったのではないかと思う。もともとクラシック用のホールなので,PAは比較的抑制したかたちになるだろうが,この3人がどういうプログラムをどういうかたちで演奏するかを首を長くして待ちたいと思う。

2024年11月24日 (日)

Bonnie Raittの2ndアルバム:これもブラックホーク99選だ。

_20241121_0001 "Give It Up" Bonnie Raitt (Warner Brothers)

私はこのアルバムを以前はアナログ・レコードで保有していたのだが,いつの間にやら中古で売り払ってしまったものの,やっぱり聞きたくなって改めてCDで買い直すというアホなパターンを繰り返したもの。

このアルバムはBonnie Raittの最高傑作とも言われるし,主題の通り,ブラックホークの99選の1枚でもある。リリース当時は決して売れた訳ではなく,後のCapitolレーベル移籍後の大ヒットなんて想像もできない時代のアルバムであった。久しぶりにこのアルバムを聞いて,何でこれを中古に出してしまったのかを考えた時,一部で聞かれるデキシーランドあるいはニューオリンズ・スタイルの伴奏が好みじゃないと感じたのではないかと思えた。だが,それは一部に限られていたのであって,私もまだまだ修行がたりなかったなんて思ってしまう。

例えばChris Smitherが書いたシンプルなブルーズである"Love Me Like a Man"なんて痺れるし,Jackson Browneの"Under the Fa,ily Sky"や最後を締める”Love Has No Pride"のようにナイスな選曲に満ちたアルバムであることに改めて気づく。そう言えば本作にも収められた"Too Long at the Fair"を書いたJoel Zossのアルバムも以前は持っていたが,売っちゃったなぁなんてことも思い出してしまうのだ。

プロデュースをしているのがMichael Cuscunaであるが,後にジャズ界で重要なポジションを占めることになるMichael Cuscunaはこの当時,Eric Justin Kazの大傑作"If You’re Lonely"もプロデュースしていたから,ウッドストック系のナイスなプロデューサーだったということになる。それもあって,このアルバムにもウッドストック系のミュージシャンが数多く参加していて,その筋の音楽ファンはクレジットを見ているだけで嬉しくなってしまうのだ。Amos Garrettも1曲だけ参加しているが,トロンボーンってのは...ではあるが。

私としてはやはり好みと好みでない曲が分かれるところはあるものの,やはりこれはよくできたアルバムであったという完全な温故知新モード。星★★★★☆。

Personnel: Bonnie Raitt(vo, g), Jack Viertel(g), John Hall(g, vo), T.J. Tindall(g), Kal David(g), Lou Terriciano(p), Eric Kaz(p, vib), Mark Jordan(p, vib), Merl Saunders(p), Dave Holland(b), Freebo(b, tuba), Chris Parker(ds), Wells Kely(ds, conga, vo), Dennis Whitted(ds), Paul Butterfield(harp), John Payne(ts, ss, cl), Marty Grebb(ts, as), Terry Eaton(ts), Peter Eckland(cor), Amos Garrett(tb), Gene Stashuk(cello), Jackie Lomax(vo), Tim Moore(vo)

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2024年11月23日 (土)

アレンジャーとしてのQuicny Jonesの業績。

Pen-of-quincy "Sonny Stitt Plays Arrangements from the Pen of Quincy Jones" Sonny Stitt(Roost)

先日惜しくも世を去ったQuincy Jonesはアメリカ音楽界の巨星であった訳だが,アレンジャーとしても昔から凄い人だったということを再認識すべくこのアルバムを久しぶりに聞いた。本作については既に2017年に当ブログに記事をアップしている(記事はこちら)ので,そちらも参照願いたいのだが,その記事がどちらかと言えばSonny Stittの吹奏が中心になっている。しかしよくよく考えてみれば,このアルバムがレコーディングされた段階では,Quincy Jonesはまだ22歳だったということに改めて驚かされてしまった。

Quincy Jonesがフリーのアレンジャーになったのは20歳の頃らしいが,その2年後のアルバム・タイトルに堂々と"Arrangements from the Pen of Quincy Jones"と掲げられてしまうということの凄さを認識すべきだ。Quincy Jonesがいかに若い頃から優秀なミュージシャンであったことの証左なのだ。

以前の記事にも書いたように,ここでの主役はSonny Stittであることに間違いはないが,Quincy Jonesの輝かしいキャリアの初期を飾る業績として認められるべきものであった。Sonny Stittのアルトを光らせるための適材適所のミュージシャン配置とアレンジメントはまさに22歳にして恐るべき才能であった。

改めてR.I.P.。

Recorded on September 30 & October 17, 1955

Personnel: Sonny Stitt(as), Thad Jones(tp), Joe Newman(tp), Jimmy Nottingham(tp), Ernie Royal(tp), Jimmy Cleveland(tb), J.J. Johnson(tb), Anthony Ortega(as, fl),Seldon Powell(ts),Cecil Payne(bs), Hank Jones(p), Freddie Green(g), Osar Pettiford(b), Jo Jones(ds), Quincy Jones(arr, cond)

2024年11月22日 (金)

Lou Donaldsonを偲んで。

Ld3 "LD+3" Lou Donaldson with the 3 Sounds(Blue Note)

先ごろ亡くなったLou Donaldsonは,90歳を過ぎるまで現役で演奏を続けたジャズ界の長老であった。本当にミュージシャンは健康でさえいれば,長きに渡って現役を続けられることを実証した人だったが,98歳でこの世を去った。

主題のように私にLou Donaldsonを偲ぶ権利があるかと言うと,実は微妙だ。Lou Donaldsonのリーダー作で保有しているのは本作だけ,参加作もArt Blakeyとの"A Night at Birdland",Jimmy Smithとの"The Sermon"等極めて限られているからだが,改めて本作を聞き直してみて,優秀なバッパーだったなぁと思わせる。何となくではあるが,私の中にはLou Donaldsonのアルトは軽いイメージがあるのだが,それはほかのリーダー・アルバムのジャケの印象もあるが,昔日にジャズ喫茶で聞いた"Blues Walk"における"Move"のイメージが強いからではないかと思っている。いまだにあの曲の印象が頭から離れないのだ。

しかし,ワンホーンで演奏される本作では,そうした私のイメージが単なる思い込みだったと感じてしまう。Lou Donaldsonを軽いと言ったら,Sonny Crissなんかはどうなっちまうんだと思ってしまったというのが正直なところだ(笑)。ただ,聞き易さは確実に備えていて,ジャズ・ファンならこういう音楽は確実にシンパシーを感じるはずだと言いたくなってしまう。技量的な凄みとか情念とかは感じられないとしても,逆に耳に心地よさを与え,これはこれで素晴らしい演奏だと思えた。

このアナログ・レコードを買ってから何度プレイバックしたかも怪しいところなのだが,このアルバムをちゃんと聞いていれば,Lou Donaldsonのイメージが変わっていただろうと思うと,悪いことをしてしまったと反省しても後の祭りであった。

いずれにしても巨人とは言わずとも,ジャズ界の歴史上の重要人物であったことは間違いない。

R.I.P.

Recorded on February 18, 1959

Personnel: Lou Donaldson(as), Gene Harris(p), Andrew Simpkins(b), Bill Dowdy(ds)

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2024年11月21日 (木)

Lee Ritenour and Dave Grusin with Brasilian Friends Featuring Ivan Lins@Blue Note東京参戦記

Riteour-grusin-lins-at-bnt

ここのところ毎年のように来日しているLee RitenourとDave Grusinのコンビだが,今回は新作"Brasil"のリリースを受けて,Ivan Linsほかブラジル勢を加えた面々でライブを行うということで,Blue Note東京に行ってきた。Lee Ritenourは72歳,Dave Grusinは90歳,Ivan Linsも79歳という高齢者バンドであるが,演奏自体は矍鑠たるものであり,年齢を全く感じさせないのは誠に立派。さすがにDave Grusinは見た目そのものは随分老けたって感じがしたが,繰り出されるピアノやキーボードのプレイには全く衰えは感じられず,以前のままだというのも凄いことだ。ソロで聞かせた映画「ランダム・ハーツ」のテーマにおけるピアノのプレイも,この映画はヒットはしなかったが,曲そのものは印象深いというMCにも全然ぼけたところなしであった(1stでは映画「トッツィー」から"It Might Be You"をやったらしいが,そっちも聞いてみたかった)。Ivan Linsは若干危なっかしいところがなかった訳ではないが,年齢を考えれば声の出方も大したもので,「惚れてまうやろ~」と内心思っていた私であった(笑)。

Riteour-grusin-lins-at-bnt-door 私が現地に到着したのは19:15ぐらいだったと思うが,丁度1stセットが終わって,聴衆が出てくるタイミングであった。随分早いとも思えたが,Blue Noteが今月から採用したスマート決済(当日の飲食は事前登録のクレジット・カードで決済するため,レジに並ぶ必要なし)ゆえというところもあったようだ。しかし,ほぼオンタイムで始まった2ndセットはアンコールの"Rio Funk"まで含めて演奏は約90分に及び,私を含めた聴衆も大満足だったはずだ。"Stone Flower"終了後,ヴォーカルのTatiana Parraは一旦ステージから降りたので,Blue Noteのプログラムでは"Rio Funk"は予定外だったのかもしれないが,聞いているこちらにとっては大歓迎であった。

ご老体3名に加えて,ベースのMunir Hossn,更にはアルバム"Brasil"にも参加していたブラジルからのメンバーの技量も実に高く,それが演奏への満足度を高めた要因でもあった。私はベースのBruno Migottoの指さばきに感心することしきりであったが,ブラジル音楽界のレベルの高さは実証されたと思う。このバンドにおける不安の要因はWesley Ritenourのドラムスであったが,やっぱり叩き過ぎという感じは否めないものの,以前に比べればましになったというのが実感であった。

いずれにしても,総じて満足度は高く,生で聞くブラジル音楽のノリの心地よさも含めて,ライブの楽しさを満喫したのであった。私は何でもかんでもスタンディング・オヴェイションという人間ではないが,超満員の聴衆からのスタンディング・オヴェイションにもうなずける演奏だった。上の写真はBlue Note東京のサイトから拝借したものだが,衣装からすると当日の1stの模様と思われる。

Live at Blue Note東京 on November 19, 2024, 2ndセット

Personnel: Lee Ritenour(g), Dave Grusin(p, key), Ivan Lins(vo, key), Tatiana Parra(vo), Bruno Migotto(b), Munir Hossn(b, vo), Edu Ribeiro(ds), Wesley Ritenour(ds), Marcelo Costa(per)

2024年11月20日 (水)

ブログをやっているとありがちな不愉快な事象。

何もブログに限った話ではないが,ネットにおける匿名性により,匿名で何でもコメントを書き込めると思っているふざけた輩がいる。しかし,当ブログにおいては,書き込んだところでコメントを公開するもしないもブログ・オーナーである私の勝手だ。ふざけたコメントを書き込んでもそれが人々の目に触れることはないと思い知れ。私を不愉快にさせたいだけならいくらでもどうぞと言いたいところだが,そもそもそういう輩はIPアドレスでコメント投稿禁止にするだけだ。

2024年11月19日 (火)

懐かしのWindham Hill Records。

_20241114_0002

"Touch: Windham Hill 25 Years of Guitar" Various Artists (Windham Hill)

長年このブログを運営していても,Windham HillレーベルのアルバムはMichael Hedgesを取り上げただけである(Windham Hill Jazzは別)。私がWindham Hillレーベルの作品を初めて聞いたのは,オーナーでもあったWilliam Ackermanの"Passage"だったはずだが,このレーベルの認知度が上がったのはGeorge Winstonによるところが大きいように思う。しかし,天邪鬼の私はGeorge Winstonのアルバムは聞いたこともなければ,購入したこともない。いずれにしても,一世を風靡したと言ってもよいレーベルであったことは間違いない。

私の手許に残っているWindham HillのアルバムはMichael Hedgesと,本作を含むコンピレーションが2枚だけだ。まぁ所謂ニューエイジってのに関心がある訳ではないから,それも仕方ないとしても,William Ackermanのアルバムは音も含めて結構好きだったことは言っておかねばなるまい。だがそれも記憶の彼方である。改めて,このレーベル25周年記念のギター曲のコンピレーションを聞くと,実に穏やかな音楽であり,やかましいところ全くなしである。いきなり冒頭のMichael Hedgesの"Aerial Boundaries"には耳を持っていかれるが,それ以外はほぼ聞き流しOKである(笑)。

私にとっては積極的に鑑賞するという感じではないので,もはやアンビエント・ミュージックと言ってもよいものだが,気分が悪くなることはないから,それはそれでいいのである。よくよく見ると,Russ Freemanの名前を見つけて,そうだったのかぁなんて思うぐらい,このコンピレーションを聞くのも久しぶりであった。まぁ,真剣に聞かなければ,どれを聞いても同じように聞こえるという気もするが,そういう音楽として接すれば腹も立たないってところ。

この記事をアップするために,ブログに新たなカテゴリーとしてニューエイジを追加した。

Personnel: Michael Hedges(g), Alex de Grassi(g), Will Ackerman(g), Russ Freeman(g), Snuffy Walden(g), Steve Erquiaga(g), Sean Harkness(g), David Cullen(g), Doyle Dykes(g) and others

本作へのリンクはこちら

2024年11月18日 (月)

Bill Evans(サックスの方ね)の"Escape"を超久しぶりに聞く。"Push"の続編って感じだな。

_20241114_0001"Escape" Bill Evans(Escapade)

常々書いていることだが,Bill Evansというサックス・プレイヤーの有能さはわかるのだが,ライブ盤を除くリーダー作は正直言ってあまり面白くない(きっぱり)。ライブで来日すれば大概の場合観に行っているが,この人はやっぱりライブ向きのプレイヤーだと思っている。

だから,私が一軍に据えているBill Evansのアルバムはライブ盤ばかりで,スタジオ・アルバムははっきり言って冷遇している(笑)。本作もそうで,これまでクロゼットにしまい込んだままだったが,そんなアルバム群を再整理して,手軽に取り出せる環境になったからということで,かなり久しぶりに聞いた。改めて聞いてみると,ラップやヒップホップ的な要素を取り入れているという観点では"Push"の続編と捉えてもよい。"Push"同様,ゲストには豪華なメンツを迎えているが,ここで重要な役割を担っているのがプロデューサーも兼ねたJim Beard。Bill Evansとの共作曲の提供も含めて,全面参加してこのアルバムを支えている。Jim Beardは本年3月惜しくもこの世を去ったが,Bill Evansとの関係ということではBlue Note東京でのライブ盤"Let the Juice Loose"にも参加していて,Bill Evansとは相応の縁があったということだろう。

本作も"Push"同様,ヴァラエティに富んだ内容となっているが,"Push"のように打ち込みを多用せず,バンド形態での演奏が基本なので,印象は"Push"よりはずっといい。だが,どうもこの人のソプラノ・サックスは音が軽く感じてしまうのはいつも通りってところで,特に冒頭の"Swing Hop"にそれが顕著なので,ちょいと身構えてしまうのだが,その後の曲では曲調ゆえか何なのかよくわからないが,あまり気にならなくなる。いずれにしても,私はこの人はテナー・サックスの方がいい音を出していると思うから,もっとテナーを吹いて欲しいところだ。また,今は亡きWallace Rooneyも一部で参加しているが,まんまMiles Davisのような音を出していて笑える。5曲目の"Rattletrap"は"Let the Juice Loose"の焼き直しのようにも聞こえてしまってこちらも笑みを誘う。でもこれが一番好きだが(爆)。

尚,"Undercover"という曲が収録されているが,これは"Push Live"では"Secret Agent"というタイトルがついていた曲と同じ曲だが,なんでタイトルを変えたのかは謎。ついでにアルバムの最後には,Marcus Millerをフィーチャーしたこの曲のリミックスが"Remix: Marcus' Mad Flav"として収録されている。これもMilesバンドでの同僚のよしみか?

本作を聞いても,この人はやっぱりライブの方がいいよなぁって思ってしまうことには変わりなしである。それでも"Push"よりは評価して,ちょいと甘めの星★★★☆ぐらいにしておこう。これも偏にJim Beardのおかげってことで。

Personnel: Bill Evans(ts, ss, as), Jim Beard(key, org, prog, ds), Wallace Rooney(tp), Jon Herington(g), Lee Ritenour(g), Nick Moroch(g), Gary Poulson(g), Nick Moroch(g), Marcus Miller(b), Victor Bailey(b), Ron Jekins(b), Mark Egan(b), Billy Kison(ds), Steve Ferrone(ds), Max Risenhoover(ds, scratch), Manolo Badrena(perc), Ahmed Best(rap), M.C. 900 Ft Jesus(vo), Mark Ledford(vo), Lani Groves(vo), Robin Beck(vo), Ken Meccia(tb), Chelsea Orchestra(strings)

本作へのリンクはこちら

2024年11月17日 (日)

イタリア文化会館でSalvatore Sciarrino室内楽演奏会を聴いた。

Salvatore-sciarrino お馴染みのイタリア文化会館無料コンサートに行ってきた。今回はSalvatore Sciarrinoという作曲家の曲を演奏ということだが,私はこの人について全く知らないままの参戦となった。

結論から言えば完全な現代音楽であった。私は現代音楽への耐性を備えているので,全然問題なしどころか,かなり楽しんでしまったというのが正直なところ。ただ,イタリア文化会館の無料コンサートはいつも高齢者の集まりみたいになっていて,この手の音楽はきつそうだと思いながら聞いていた。前半から完全熟睡モードの聴衆もちらほら(笑)。

しかし,休憩時間にロビーに出てみると,今回は結構若い聴衆が多く,音大の学生に優先枠でも開放したのかと思いつつ眺めていた。第一部は,ピアノ,クラリネット,ヴィオラ,フルート,ヴァイオリン,チェロが各々ソロ曲を披露したが,全て一筋縄で行かない曲ばかりで,演る方も聞く方も大変って感じであった。演る方は技術と集中力が求められるような曲ばかりと言ってもよく,聞く方も弱音に耳を澄ましながら,突然のフォルテシモに慄くという展開に気が抜けないのだ。冒頭に演奏した「夜の("De la Nuit")」なんて,譜めくりの回数が尋常ではないと思えた難曲であったし,その後の曲もテンションが下がることは一切ないのだ。フルートは2曲やったが,通常フルートに抱く音色とは全く異なるものであり,どちらかと言えば尺八に近い管j知恵,フルート奏者が過呼吸になるんじゃないかなんて余計な心配をしていた私である。

休憩後の第二部は杉山洋一の指揮のもと,ヴィオラ抜きのアンサンブルで1曲,そして奏者6人にソプラノが加わった歌曲(いずれも日本初演だそうだ)をやったのだが,アンサンブルだろうが,歌曲だろうが,完全現代音楽という感じに一切変化はなく,つくづく強烈なプログラムだと思ってしまった。何よりも,日本にこれだけ現代音楽を真っ当に演奏する人たちがいるということに感慨すら覚えた私であった。私は歌曲にはほとんど関心を示さない人間だが,今回ソプラノで参加した薬師寺典子はなかなか魅力的な声だなぁなんて思っていた。それは私が日本のプレイヤーに関して無知なだけではあるが,よくもまぁ今回のような難曲をこなせるものだと感心してしまった。何はともあれ,現代音楽に浸るってのもなかなか楽しいもんだ。

こんな演奏を無料で聞かせてもらって何ともありがたや~と思いつつ,家路についた私であった。

Live at イタリア文化会館 on November 15, 2024

Personnel: 杉山洋一(cond), 黒田亜樹(p),般若佳子(vla),田中香織(cl, b-cl),村上景子(fl),Aldo Campagnari(vln),北嶋愛季(cello),薬師寺典子(soprano)

2024年11月16日 (土)

いまだに現役ながら,日本では瞬間風速的だったDominick Farinacci。

_20241113_0001 "Besame Mucho" Dominick Farinacci (M&I)

20歳になる前の2003年にデビュー・アルバムを日本のM&Iレーベルからリリースし,その後,日本企画で何枚かアルバムをリリースしたDominick Farinacciだが,その後の動静はそれほど聞こえてこない。Wynton Marsalisが主宰するJLCOにも参加していたようだが,日本企画のアルバムが出なくなると,少なくとも日本国内ではその活動はほとんど注目されることもなくなったのではないか。いまだに現役で活動しているとは言え,日本において最初に持ち上げられ過ぎたという感は拭えない。

このアルバムも日本企画の最たるものと言ってもよく,バラッドを中心に,耳に心地よいサウンドが全編で聞ける。そして若い割にDominick Farinacciのラッパは上手い。さすがWynton Marsalisに目を掛けられ,更にはジュリアードの奨学金を得るだけのことはある。しかし,それ以上のものでもそれ以下のものでもなく,ラッパの入ったカクテル・ジャズと言ってもよいものだ。破綻は全然していないし,この手の音楽を好む人にはそれでよかろうが,ジャズ的なスリルを求めるべきものではない。年齢相応の若々しさを感じさせないフレージングは立派とも言えるのだが,この老成感が鼻につくというリスナーもいるはずだ。

静かなバーのBGMで小音量で流れていれば,それなりの効果はありそうだが,自発的に何度もプレイバックしようなんて気にはならないアルバムだろう。なんで私がこの人のアルバムを数枚保有しているのかは,今となっては全くの謎である。購入するにしても中古でしか仕入れないはずだが,よほど安かったか,あるいはよほど疲れていたのか?(笑) 。星★★★。

Recorded on April 17 & 18, 2004

Personnel: Dominick Farinacci(tp), Adam Birnbaum(p), Peter Washington(b), Carmen Intre, Jr.(ds)

本作へのリンクはこちら

2024年11月15日 (金)

"Batteaux":そう言えばこういうのも保有していた。

_20241112_0002"Batteaux" Batteaux (Columbia)

先日,クロゼットにしまい込んであったCDをアルファベット順に並び替えて,随分整理ができたと思っている。そうすると,今まではクロゼットで全く整理されていなかったアルバムにも手が伸びる機会が増える訳だ。このアルバムも保有していたことは記憶にあっても,いかんせん奥まった場所にしまい込んでいたものだから,プレイバックするのはいつ以来かもわからない。そもそもなんでこのアルバムを購入する気になったのかも記憶が曖昧だが,このジャケだけは印象に残っていた。

これはRobinとDavid Batteauの兄弟バンドによる1973年の唯一のアルバム。フォーク的なサウンドで,CSN&Yのように感じさせる部分もあれば,少々ソウル的に響く曲もあるというアルバムだが,久しぶりに聞いてみると,これがなかなかよかった。メジャーのColumbiaから出ているのだから,それなりに期待も大きかったのではないかと思うが,商業的には成功したという話は聞いたことはない(きっぱり)。兄貴のRobin Batteauが参加したCompton and Batteauの"In California"は昔LPでリリースされたことは知っていても,聞いたことはなかったから,私にはこのアルバムを聞くまでは全く無縁の人たちであった。

だが,このアルバムを聞くとなかなかいい曲を書く人たちだったということはわかる。特に弟のDavid Batteauは職業作曲家として,いろんな人に曲を提供しているからそれも納得って感じだ。近いところではMadeleine Peyrouxにも曲を提供しているらしいから,へぇ~って感じだ。まぁ私が無知なだけだが...。

いずれにしても,このソフト・ロック的なサウンドは,リリースから半世紀を経た現在でも魅力的に響く部分もあり,いい温故知新となった。ちょいと甘めの星★★★★。

Personnel: David Batteau(vo, g, melodica, cello), Robin Batteau(vo, vln, g), Peter Freiberger(b), Doug McClaran(key), Andy Newmark(ds), John Guerin(ds), Milt Holland(perc), Tom Scott(fl, reed), Robin Lane(vo), Jackie Ward(vo), Sally Stevens(vo), Shelby Flint(vo)

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2024年11月14日 (木)

Quincy Jonesの業績をA&M時代のベスト盤で振り返る。

_20241112_0001 "Greatest Hits" Quincy Jones (A&M)

Quincy Jonesがリーダーとしてリリースしたアルバムで,最もヒットしたのはA&Mレーベル時代だったろうと思う。リーダーとしての彼の業績を振り返るなら,4枚組ボックス・セットのDisc 4の方がその後のアルバムも含んでいるので,本来ならそっちを聞いてもよかったのだが,私としてはこちらの方が馴染み深いということもあってのチョイスとなった。

A&Mにはベスト盤を除いて"Walking in Space"から"The Dude(「愛のコリーダ」)"まで10枚のリーダー作があって,それらのアルバムから満遍なく選曲したのがこのベスト盤である。これが日本編集なら"Ironside"が絶対入っていただろうと思わせるが,その辺に彼我の嗜好もしくは指向の違いがあるように感じられて面白い。

Quincy Jonesはジャズ・ミュージシャンとしてキャリアをスタートしているから,ジャズのイメージが強いかもしれないが,このアルバムを聴いていると,早い時期から様々な音楽の要素を取り入れていて,元祖フュージョンみたいなところを強く感じた。そしてQuincy Jonesのアルバムの特徴としてはヴォーカリストの上手い使い方があると思える。インストに留まらないヴォーカルの付加は,確実に音楽の幅を広げたと思えるし,それがこの人のプロデュースの優れたところであった。Leon WareとかBenard Ighnerなんかを使ってしまうセンスそのものが,Quincy Jonesを偉人たらしめた要因だと思ってしまった。

そして後期のアルバムにおけるJames Ingramの登用によって,ポップ・センスは更に上がって,これは売れるよなぁと感心してしまうのであった。最後を飾る"Just Once"はやはり名曲中の名曲である。

このベスト盤を聞いていると,あれがない,これがないと言いたくなる部分もあるが,それでも十分楽しめるベスト盤であり,A&M時代の業績を振り返るには丁度よかった。面白かったのは初期から中期のアルバムにはRay Brownが共同プロデューサーとしてクレジットされていることであった。本作の冒頭の"Killer Joe"でも野太いベースを聞かせるRay Brownだが,Quincy Jonesとのつながりは相当深かったということを今更知った私である。

2024年11月13日 (水)

Ryan Keberle & Catharsisの新作が届く。久々のCamila Mezaがいいねぇ。

_20241111_0001 "Music Is Connection" Ryan Keberle & Catharsis (Alternate Side)

Ryan KeberleはDown Beat誌の国際批評家投票でもトロンボーン部門の首位をMichael Deaseと分け合っている実力者である。そして彼が率いるCatharsisは私にとってはCamila Mezaの参加もあって,注目のバンドと言ってもよい。そのCatharsisの新作が約5年ぶりにリリースされたので,早速ゲットした私である。ストリーミングでも既に聞いていて,これがなかなかいいと思っていたが,現物が届いたので皆さんにご紹介である。

これまではDave Douglasが主催するGreenleafからのアルバムをリリースしていた彼らだが,今回はRyan Keberleがこれまでの作品をリリースしたこともあるAlternate Sideからである。今回のアルバムの特徴は,これまで2管が基本だったCatharsisが,1曲を除いてRyan Keberleの1管になっていることだ。それは即ちCamila Mezaのギタリスト,歌手としてのバンド内の位置づけが更に重要になったということで,彼女を評価する私にとっては嬉しいことであった。そもそも昨今Camila Mezaの動静が伝わってきていなかっただけに,このアルバムのリリースだけでも喜ぶべきだったが,彼女の存在感が増して,Camila Mezaのリーダー作と言っても通じそうなサウンドなのだ。

このバンドはコンテンポラリーな感覚を持った演奏をする人たちであるが,基本がクァルテット編成となって,更にバンドとしてのまとまりがタイトになった気がする。コレクティブ・インプロヴィゼーション的な部分もあるが,決して聞きにくいものではなく,多くの人に受け入れられるアルバムだと思う。現物が入手できるショップが限定的なのがもったいないが,一聴に値するアルバム。彼らがやる"Vera Cruz"なんてやっぱり素敵だ。星★★★★☆。

彼らは以前来日したことがあるのだが,その時は全く認識しておらず見逃した私だが,また日本に来てくれないものか。来たら絶対行くな。

Recorded on September 6 & 7, 2023 and on April 18, 2024

Personnel: Ryan Keberle(tb, el-p, synth, p, vo), Camila Meza(vo, g), Jorge Roeder(b), Eric Doob(ds, perc) with Scott Robinson(ts)

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2024年11月12日 (火)

ECMお得意(?)のKeith Jarrett音源拾遺集。

Old-country"The Old Country: More from the Deer Head Inn" Keith Jarrett(ECM)

引退状態のKeith Jarrettの新作はもはや望むべくもないが,ECMが過去の音源を掘り起こすというのは,Keith Jarrettがまだ元気に演奏をしている時からあったから,まだまだ眠っている音源はあるはずだと考えて然るべきだ。

そんな中,リリースされたのが本作だが,これは92年に録音され,94年にリリースされた"At the Deer Head Inn"の残りテイクだから,リリース30周年という意味合いもあるように思える。まぁ聞けばわかる通り,安定のKeith Jarrettの演奏であり,眠らせておくのはもったいないと考えるのが当然だ。

"At the Deer Head Inn"が珍しかったのは,そのメンツである。Keith JarrettはGary PeacockとはStandards Trioで演奏を続けていたが,Paul Motianとは久々の共演(16年ぶりだったらしい)だったし,更にこの3人によるレコーディングは前作並びに本作以外にはないということで,その珍しさがリリース当時からあった。だが,Jack DeJohnetteのシャープなドラミングに慣れてしまっていると,Paul Motianのドラミング(特にスティック使用時)は少々ドタドタ感があるように思える。そう言えば,Paul MotianがEnrico PieranunziとやったVillage Vanguardでのライブでも同じような感覚を持っていた(それに関する記事はこちら)。Paul Motianは黄金のBill Evans Trioも支えたドラマーであるし,リーダーとしても一流だったが,ここでの演奏には若干違和感を感じる部分が一部あるように思えた。Keith Jarrettとの共演に関して言えば,American Quartetや"Hamburg '72"では全く違和感はなかったのだが,ドラムスのセッティングゆえか,あるいはスタイルの経年変化もあったのかもしれないなんて思いつつ聞いていた。

しかし,上述の通り,トリオの演奏としては安定感があって,十分に楽しめる。よく知られたスタンダードやジャズ・オリジナルでも,彼らの手にかかればやはり凡百のミュージシャンが演じるものとは異なる魅力的な音楽が生まれることを実証している。残りものと言ってしまえばそれまでだが,そんじょそこらの残りテイクとは異なるってことで,リリースされた意義も認めて星★★★★☆。

余談だが,本作が収録されたDeer Head Innがあるのはペンシルバニア州アレンタウンである。あのBilly Joelが歌った"Allentown"そのものだが,先の大統領選挙でも話題になったまさにラスト・ベルトの代表のような街だ。Keith Jarrettがこの街の出身というのは,Keithのイメージと少々違う面白い事実だと思った。

Recorded Live at the Deer Head Inn on September 16, 1992

Personnel: Keith Jarrett(p), Gary Peacock(b), Paul Motian(ds)

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2024年11月11日 (月)

映画音楽家としてのQuincy Jonesを振り返る。

_20241107_0001 "Gone Hollywood: Disc 2 of Q the Mucical Biography of Quincy Jones"(Rhino)

先日亡くなったQuincy Jonesについては,私が最初に認識したのは映画音楽を通じてであったと書いた。2001年にリリースされたQuincy Jonesの音楽を回顧する4枚組ボックス・セットのディスク2はそうしたQuincy Jonesの映画/TV音楽をまとめたものであった。映画音楽家としてのQuincy Jonesを振り返るには丁度よいということで,久しぶりに取り出してきた。

冒頭はお馴染み"Soul Bossa Nova"から始まるが,この曲は元々は映画音楽として書かれたものではないが,「オースティン・パワーズ」で使われたことによって,改めて世間での認知度が高まった曲であった。私は子供の頃から曲名は知らずともこの曲は知っていたのは,朝日放送の深夜放送「ABCヤングリクエスト」中の「谷まさるのファン・ファン・アラモード」のテーマ音楽としてであった。と言ってもそれを知る人もあまりいないか...。

Q-the-musical-biography それでもって,ここに収められた映画,番組を列挙しておこう。日本で公開,放映されたものは邦題で示す。

  • 「オースティン・パワーズ」
  • 「夜の大捜査線」
  • 「質屋」
  • 「ウィズ」
  • 「夜の誘惑」
  • 「Sanford & Son」(TV)
  • 「ハーレム愚連隊」
  • 「コスビー・ショー」(TV)
  • 「鬼警部アイアンサイド」(TV))
  • 「愛は心に深く」
  • 「恐怖との遭遇」
  • 「続・夜の大捜査線」
  • 「サボテンの花」
  • 「ホット・ロック」
  • 「蜃気楼」
  • 「ショーン・コネリー/盗聴作戦」
  • 「殺しのダンディー」
  • 「冷血」
  • 「ゲッタウェイ」
  • 「バンクジャック」
  • 「カラー・パープル」
  • 「ルーツ」(TV)

結構知られた映画もあれば,聞いたこともないような映画もあるが,これらがほとんど日本で公開されていたというのも,映画が洋画も含めて日本において大きな娯楽だったことを示しているとも言える。現在の洋画の不人気からすれば考えられない。上記の作品では「愛は心に深く」だけ2曲採用されているが,それは各々に参加したB.B. KingとShirly Hornゆえか。また,「バンクジャック」のイントロには後の「愛のコリーダ」でのリフの原型が聞かれるのが面白かった。Quincy Jonesは映画音楽でのオスカーの受賞はならなかったが,アカデミーからはジーン・ハーショルト友愛賞と名誉賞をそれぞれ受賞しているので,映画界からも評価されていたことになる。

私としては訃報の記事にも書いた通り「夜の大捜査線」が印象深いが,「鬼警部アイアンサイド」のジャズ・ミュージシャンによるソロ回しなんてゾクゾクしてしまった。映画の世界でも偉人は偉人であったということの証左である。

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2024年11月10日 (日)

Amazon Primeで見た「薔薇のスタビスキー」。

Staviski「薔薇のスタビスキー("Stavisky...")」('74, 仏/伊)

監督:Alain Resnais

出演:Jean-Paul Belmondo, Charles Boyer, François Périer, Anny Duperey, Michel Lonsdale, Roberto Bisacco

懐かしいタイトルである。と言ってもこの映画を見るのは初めてだ。なぜ懐かしいかと言えば,この映画が公開されたのは私が中学生の頃だが,その頃は音楽より映画の方に熱心だった私は,このタイトルを「スクリーン」等の映画雑誌で見ていたのを記憶していたからだ。最近はAmazon Primeのおかげで,Jean-Paul Belmondoの映画を結構見ている私だが,懐かしさもあって,今回の鑑賞となった。監督が名匠Alain Resnaisであることもあった。

これまで私が見たBelmondoの映画はアクション要素もあったが,この映画は実話に基づく話でありアクションは皆無。背景には政治的疑獄もある話なので,当時の実際の事件を認識していると更に面白く見られたかもしれない。また,映画の背景としてフランスに滞在中のトロツキーも描かれるが,これも歴史的な背景を認識していれば,尚よかったようにも思える。もちろんそれらを知らなくてもそれなりには見られたので,これまでAmazon Primeで見たJean-Paul Belmondo主演映画の中では一番面白く見られたことは間違いない。これは脇を固める役者陣がいいというところもあり,何と言ってもCharles Boyerが渋い。また,François Périerの存在感もあって,Jean-Paul Belmondo一人に依存していないところがこの映画のいいところだと思えた。尚,この映画にはGérard Depardieuがチョイ役で顔を出していて,出てきた時にはこれってGérard Depardieuだよなぁなんて思いながら,見た後,IMDbで確認した私であった。

更に音楽がStephen Sondheimというのにもびっくりしたが,ミュージカルのイメージが強いStephen Sondheimって映画音楽も書いていたのねぇってところにも感心してしまったのであった。

いずれにしても,タイトルの懐かしさに惹かれて見たとは言え,なかなかの拾い物だったと思う。こういう映画は日本では当たらなかっただろうなぁなんて思いつつ,星★★★★。

2024年11月 9日 (土)

ストリーミングで聞いたStephen Stillsのライブ盤。

Stephen-stills"Live at Berkeley 1971" Stephen Stills(Omnivore)

ストリーミングで音楽を聞いていると,こんな音源があったのかぁなんてことに気づいて,聞いてみようって気になることは結構ある。先日,CSN&Yの1969のライブ音源がリリースされたこともあって,この音源が推奨されたのかもしれないが,Stephen Stillsの1971年のライブが昨年発掘されていたようだ。

Stephen Stillsにはそのものずばり"Live"というライブ盤が存在する。私は大昔,そのアルバムをLPで保有していたが,どうもピンとこなくて,早々に売り払ってしまった。そのアルバムもアコースティックとエレクトリックのセットを収めたものだったと記憶しているが,圧倒的にアコースティック・セットの方がよかったと当時は感じていたはずだ。これは私がStephen Stillsのアコースティック・ギターの腕が素晴らしいと思っているからにほかならないが,この発掘音源ではバンド紹介を除けば14曲収録されているが,アコースティックが10曲なのが私としては嬉しかった。David Crosbyも2曲でゲスト参加しているのは想定内ではあっても付加価値としては認められる。まぁそうは言っても"Love the One You with"をJoe Lalaのパーカッションとのデュオでやるのはちょっとなぁ...という感じではあったりするが(笑)。

しかし,このアルバムのエレクトリックでの演奏にはMemphis Hornsが加わって,少々ソウルフルな味付けもあってなかなか面白かった。そんなこともあって,ついでに"Live"もストリーミングで聞いてみたのだが,以前ほど印象は悪くなかったのには笑ってしまった。「噂の男」とかを歌っていたことなんて完全に失念していたが,そうした印象の変化は私の加齢による経験値のアップによるものかもしれないし,まだまだ私も若造の頃と趣味も変わってきたということかもしれない。今聞くと,アコースティック・セットはそれほどいいってほどでもないしなぁ。まぁ当時はManasasやStillsのソロ・アルバムも聞いたことがなかったのだから,Stephen Stillsの魅力は"4 Way Street"からしか感じていなかったという状態では仕方あるまいってこともある。それでもStephen Stillsのソロ・アルバムで最も優れているのは1stだということからしても,この人のソロ・キャリアには限界があったとは思う。

こうした発掘音源に今どれほどの人が反応するかはわからないとしても,この手の音楽好きならばそこそこは楽しめるアルバムだと思う。

Recorded Live at the Berkeley Community Theater in Berkeley, CA, on August 20 and 21, 1971

Personnel: Stephen Stills(vo, g, p), Dallas Taylor(ds), Calvin "Fuzzy" Samuels(b), Paul Harris(key), Steve Fromholz(g), Joe Lala(perc) with Memphis Horns and David Crosby(vo)

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2024年11月 8日 (金)

超懐かしい!Sonny RollinsのLive under the Skyでの音源。

_20241029_0001 "Live under the Sky 1983" Sonny Rollins (Equinox)

主題の通りである。私はこの現場にいた。それももう40年以上前のことかと思うと若干ショッキングではあるが,懐かしいものは懐かしい。

Live under the Skyというイベントはバブル崩壊とともに終了したが,それでも夏フェスらしいイベント感が楽しいものだったと思う。私がこのイベントに行くようになったのは大学進学後の上京してからだが,結構行ったなぁなんて思っている。今や当初の会場であった田園コロシアム(田園コロシアムは行ったことはない)も,その後の会場となったオープンシアターEASTも存在していないのはまさに時代の流れである。

この時のSonny RollinsはSpecial Quartetと名乗るだけあって,後にも先にもこのメンツでの共演はないものと思われる貴重なものだ。しかし,そもそもはNHKのFM音源のエアチェックがソースのはずなので,途中で音が減衰する瞬間があるのは90分テープの片面終了時によるものだろうし,結局これはブートレッグに毛の生えたようなものなので,真っ当に評価すべきものではないとは思う。ついでに言えば同じ年にWeather Reportが出た時の音源のブートも存在するが,そちらは放送時間の関係で演奏途中で放送が終了するため,児山紀芳のナレーションが入るのを回避するため,意図的にフェードアウトしているのと同じようなもんだ(そちらに関する記事はこちら)。まぁブートあるあるだ(笑)。

私も確か再放送でこの演奏をエア・チェック(死語!)したはずで,何度も聞いた音源ではあるのだが,カセットはどこに行ったか分からないし,懐かしさもあってついついCDを購入してしまったのであった。

音的にはちょっとAlphonso Johnsonのベースのボリュームが過剰ではないかと思えるところもあり,FM放送をソースとするから音質としては大きな問題はないとしても,聞いていて決して耳に優しい感じはしないし,そもそも音がメタリックに響く感じがする。

まぁそれでもPat MethenyやJack DeJohnetteを従えたSonny Rollinsは,MCも機嫌がよさそうで,フェスならではの高揚感みたいなものを感じる。聴衆の盛り上がりも半端ではないが,そこに私も含まれていたと思うと少々面映ゆい。私も20代前半だからまだまだ若造の頃であった。

演奏はこのメンツならこれぐらいはできるだろうってレベルではあるが,そこは懐かしさが勝ってしまう私である。過ぎ去りし時代を懐かしむようになっては私も真の高齢者だな(爆)。

Recorded Live at Live under the Sky on July 31, 1983

Personnel: Sonny Rollins(ts), Pat Metheny(g), Alphonso Johnson(b), Jack DeJohnette(ds)

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2024年11月 7日 (木)

久しぶりに本の話。有栖川有栖の「日本扇の謎」をようやく読了。

Photo_20241103142301 「日本扇の謎」有栖川有栖(講談社)

有栖川有栖の職業作家生活も30周年を迎え,エラリー・クイーンの国名シリーズに倣ったシリーズも同じく30周年となったのを記念して(?),その第11作に選ばれたのが日本である。私は有栖川有栖の国名シリーズはほとんど未読だと思うが,このブログで本作と同じ火村英生シリーズの「捜査線上の夕映え」を取り上げて以来の登場である。

とにかく最近は老眼がきつくなったこともあり,読書に取り組む時間がめっきり減ってしまっているが,たまに思い出したように書籍に関する記事も書いているって感じだ。しかし,読了するのに時間がかかり過ぎなのは何とも情けない限りだ。まぁ本作は二段組だけにページ数に比して時間が仕方ないのだが...。

ストーリーの構成はなかなかよく出来ていると思うが,さすがにそれは...って感じの設定が含まれていると言えなくもない。ちゃんとタイトル通り「扇」は重要な要素として使われているので,そこには文句はない。しかし,一気にストーリーが展開しだすまでにはかなりのページ数を要するところには,少々回りくどさを感じたのも事実であった。そのため,私は中盤までの読書のスピードと後半のスピードには大きな違いがあった。

まぁそれでも安定の火村英生シリーズなので,エンタテインメントとしてはちゃんと読ませると思う。多少甘いかなと思いつつ星★★★★としよう。結局,何だかんだ言いながら火村英生のシリーズが結構好きということだな(笑)。

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2024年11月 6日 (水)

追悼,Quincy Jones。

Quincy-jones

Quincy Jonesが亡くなった。91歳であるから大往生と言ってもよい年齢ではある。彼がミュージシャン,作曲家,アレンジャー,プロデューサーとして残した仕事はどれもが記憶に残るものばかりで,まさにアメリカ音楽界を代表する人の一人であり,やはり惜しまれつつと言うべき訃報である。

私が子供心ながら最初にQuincy Jonesの名前を意識したのは,Ray Charlesが歌った「夜の大捜査線」のテーマ曲,"In the Heat of the Night"だったと記憶している(映画好き=映画音楽好きでもあったのだ)が,その後,自身のアルバムや様々なプロデュース作を聞いて,素晴らしいセンスに痺れてきた。私は意外にもこのブログにQuincy Jonesのリーダー・アルバムを数枚しか取り上げていないが,実は結構な数のアルバムを保有している。今回の訃報に接し,追々とはなるだろうが,改めて保有しているアルバムを聞いてQuincy Jonesの業績を偲ぶこととしたい。

いずれにしても,昨年のBurt Bacharachに続いて,まさに「巨星墜つ」と言うべき訃報であった。

R.I.P.

2024年11月 5日 (火)

ジャズ・フェスの企画として素晴らしいと思えるLabel Bleu所属の面々によるライブ盤。

_20241102_0001"9/11 p.m. Town Hall" Various Artists(Label Bleu)

現在のニューヨークにおける夏のジャズ・フェスティバル事情はよく分からないが,私が在米中はJVC Jazz Festivalの大規模イベントとして開催され,その前はスポンサーが違ってKool Jazz Festivalとして開催されていたはずだ。今はどうなっているのだろうかと思っても,仕事でNYCに行く機会はもうないだろうし,フェスのシーズンにNYCに行ったとしても,チケットが取れる保証はなかった。私が現地でこのフェスに参加できたのは91年の1回のみだが,その時は3つぐらいライブに行ったように記憶している。それなりに面白い企画もののプログラムもあれば,Miles Davisのようなビッグネームによるライブ等あるという感覚で構成されていた。このアルバムは1988年のJVC Jazz Festivalで行われたプログラムの実況録音だが,これがなかなか面白い。

これはLabel Bleuを傘下に収めるMaison de la Culture d’Amiens(アミアン文化会館?)とMusique Française D'aujourd'hui(今日のフランス音楽)がプロデュースして,当時Label Bleuに所属していたミュージシャンを中心とする演奏を収めていて,欧州ジャズの実力者が出てくるが,その中心にいるのがJoachim Kühn,Jean-François Jenny-Clark,Daniel Humairから成るトリオである。基本はこのリズム・セクションが核となって,そこにMichel Portalらが加わるという形態であるから,一種の顔見世興行と言ってもよいのだが,そこは実力者の集まりということで,スリリングな演奏が続く。ピアノについてはMartial Solalが2曲でJoachim Kühnと代わり,ギターのMarc Ducretは1曲のみ,Michel Portalは3曲で聞ける。

ライブ・レコーディングゆえ,結構長尺の演奏が続き,最長はMichel Portalの"Alto Blues"の19分26秒であるが,演奏はどれも緊張感に溢れていてだれることがないのは立派だと思える。まぁJoachim Kühnのトリオが中心なので,テンション高めの演奏になることは必定とも言えるのだが,想定通りの音なのがある意味嬉しい。

面白いのはMichel Portalがバスクラ,アルト, バリサクに加えてバンドネオンを演奏していることだろうか。Michel Portalがまたハイ・テンションで飛ばしているが,そういう意味で出演しているミュージシャンには相応の活躍の場を与えて,その実力を知らしめるという意味で意義深いイベントだったと思える。上には顔見世興行と書いたが,ちゃんとこのイベントに向けてリハーサルを積んで臨んでいることが音からも感じられる。フェスという場でありながら,お気楽なところ皆無という感じが素晴らしい。イベントというのはこのレベルでプロデュースすべきということを強く感じさせる逸品。もちろん,このテンションだから,必ずしも耳に心地よい訳ではないが,これも欧州ジャズの一面ということを示した快作。この心意気を買って星★★★★★としよう。このアルバム,CDはなかなか入手が難しそうだが,ストリーミングではDaniel Humairで検索すれば見つかるはずなので,ご関心のある方は是非どうぞ。

Recorded Live at Town Hall, NYC on June 29, 1988

Personnel: Joachim Kühn(p),Jean-François Jenny-Clark(b),Daniel Humair(ds), Martil Solal(p), Michel Portal(b-cl, as, bs bandneon),Marc Ducret(g)

本作のストリーミングへのリンクはこちら

2024年11月 4日 (月)

リアルな内戦が発生したらと思うと恐ろしくなる「シビル・ウォー アメリカ最後の日」。

Civil_war 「シビル・ウォー アメリカ最後の日("Civil War")」(’24,米/英,A24)

監督:Alex Garland

出演:Kirsten Dunst, Wagner Moura, Cailee Spaeny, Stephen McKinley Henderson, Nick Offerman, Jesse Premons

これは恐ろしくも強烈な映画であった。米国において内戦が勃発したらというフィクションではありながら,強烈な分断が進む現在の米国を考えると,こういうことが近未来に起こっても不思議ではないという感覚さえ覚える。まだ米国大統領選挙の結果は出ていないが,映画を見ながらトランプ支持者がこの映画を見たらどう思うかとずっと思っていた。まぁ彼らは劇場には足を運んだとしても,この映画は評価しないだろうが...。

一番恐ろしいと思ったのは,撃ってくる人間が誰かも認識せず,撃ち返す兵士の描写であった。相手の正体もわからないまま,敵か味方かも認識せず撃ち合うことの何たる皮肉という気がした。まさしくこれは現在のアメリカへのアンチテーゼのような映画であり,それによって招かれる潜在的な悲劇を示したものとして,私は評価したい。

こういう映画であるから,賛否が分かれるのは当然という気もするが,私はこの映画が制作された意図を汲むことの重要性を認識すべきだと言いたい。とにもかくにも,最近では珍しい1時間49分という適正な尺の映画でありながら,見終わった後の疲労感が半端ではない。そしてネタバレになるので詳しくは書かないが,ラスト・シーンの「写真」に写る兵士の表情に慄然としたと言っておこう。尚,クレジットなしで出演するJesse Premonsの絶対忘れられないであろう「赤メガネ」キャラはマジで恐ろし過ぎ。星★★★★☆。

2024年11月 3日 (日)

正直言ってCannonball Adderleyのラスト・レコーディング以上の価値はないなぁ。

Lovers "Lovers" Cannonball Adderley (Fantasy)

私がこのアルバムを購入したのはどこかで猛烈な推奨文を見たのが契機だったと思うが,それが何だったのかは全く記憶にない(爆)。私はCannonball Adderleyのアルバムは"Somethin’ Else"はさておき数枚保有しているという,その程度の聞き手なので,別にこの人に思い入れは大してなかったのになんで買おうと思ったのか...。

いずれにしても,このアルバムはCannonball Adderleyのラスト・レコーディングで,全5曲中,Cannonballが演奏しているのは3曲だけである。そもそも晩年のCannonball Adderleyがどういう演奏をしていたのかはよくわかっていないのだが,本作に関しては完全にフュージョン的なノリである。私の中にはCannonballがソプラノ・サックスを吹くイメージはなかったが,ここではアルトに加えてソプラノも吹いているのは私にとっては珍しく響く。

最後に収められている"Lovers"は本来レコーディングされるべく準備されていたのだが,Cannonballが本作のレコーディング後に亡くなったために,Flora Purimらをゲストに迎えて,追悼演奏的に収められたものと考えてよいだろうが,皮肉な見方をすればアルバムのリリースのためにすき間を補うための手段だったと言ってもよい。

正直言ってしまうと,主題の通り,Cannonball Adderleyのラスト・レコーディングとしての意味合いがなければ,大したレコードだとは思えない。ヒット作を持つCannonball Adderleyゆえに,時代に即した音楽をプレイしていくという精神は否定しないが,現在の耳で聞いて面白いか面白くないかと問われれば,私にはその魅力を理解できないというアルバム。George Dukeのシンセ・ソロなんてしょぼさの極致だしなぁ。一番元気に吹いているのはNat Adderleyだが,もう一本の管を構成するAlvin Batisteがここに必要だったかについても疑問。ということで,売り払う気はないとしても,プレイバック頻度は決して上がらないアルバム。星★★☆。CD化されないのも当然ってところだろう。

Recorded on June 24, 25 and October 31, 1975

Personnel: Julian Cannonball Adderley(as, ss), Nat Adderley(cor), Alvin Batiste(cl, fl, ts), George Duke(el-p, synth, vo), Alphoso Johnson(b), Jack DeJohnette(ds), Airto(perc), Flora Purim(vo), Nat Adderley, Jr.(el-p), Ron Carter(b)

2024年11月 2日 (土)

またも無駄遣い?"Nightfly"のアナログ初期盤をゲット。

Nightfly_20241101084601

Donald Fagenの初のソロ・アルバム,"Nighfly"が素晴らしいアルバムであることには誰も異論はないだろう。私にとっては"Aja"と同じぐらい好きなアルバムだ。私はアルバムが出た当時アナログLPを保有していたが,早い時期にCDに置き換わっていた。しかし,アナログ復権が著しい昨今,アナログで再入手したいなぁなんて思っていた私である。

この"Nightfly"なのだが,初期盤のジャケットはアルバム・タイトルとDonald Fagenの名前の文字の色が異なる(一般に流通しているのは青文字一色)のに加え,オリジナル度をはかるにはMasterdisk刻印だ,RL刻印だ,SLM刻印だといろいろな目印があるそうだ。あまりオリジナルにこだわっていない私としては2色ジャケでも十分って気もしていたのだが,結構質の良い初期盤(Masterdisk, RL刻印)の中古があったので,無駄遣いと思いつつ入手した。少々値段は張ったものの,元々音のよいアルバムだったとは思うが,やはりアナログで聞く"Nightfly"はまたいいねぇと思ってしまった。まさに82年というアナログ末期の優れた音って感じだ。

久しぶりにクレジットをしげしげと眺めていたら,Larry Carlton大活躍であった。これも一つの温故知新。

2024年11月 1日 (金)

懐かしのCandy Dulferのアゲアゲ音楽(笑)。

_20241019_0003_20241021084701"Sax-a-Go-Go" Candy Dulfer (BMG)

本作がリリースされたのは94年だから,既に30年の時が経過している。Candy Dulferは今でもミニスカでブイブイとアルトサックスを吹いているのは大したものだが,もう30年か~と思わざるをえない。

日本国内ではとうにバブルははじけていたが,ここでの音はそれこそバブル経済下の日本にこそフィットするアゲアゲ音楽だと言ってもよい。むしろ,バブルがはじけてぷしゅ~っとなっている(笑)日本人には,元気出せよみたいな感覚に響いたに違いない。そして,ここで演奏されているタイトル・トラックや"Pick Up The Pieces"は現在のCandy Dulferのライブでも後半やアンコールでプレイされていることを考えれば,盛り上がり確実な曲なのだ。そう言えばHONDAのCMででも使っていたなぁ。

そうしたアゲアゲな曲に加えて,"Mister Marvin"のような曲は打ち込み多用のスムーズ・ジャズ系のサウンドと言ってもよく,まぁこれなら売れるだろうって感じの構成である。例えば5曲目の"Bob’s Jazz"のような曲を聞いていると,当時のSMAPの音楽を聞いているような感じもしてきてしまった(笑)。当時,SMAPに曲を書いていた庄野賢一やChokkakuには多少なりとも影響を及ぼしているだろうなってところだ。かと思えばBonnie Raittの91年のヒット曲,"I Can't Make You Love Me"も入れたりして,抜かりがないつくりなのだ。しかもホーン・セクションには一部ながらTower of PowerにJ.B. Hornsを迎えるという力の入りっぷり。

まぁそうは言っても,私としてはこのアルバムの印象はあくまでもアゲアゲ。そもそもいまだにミニスカで頑張るところがいいのだ。この歳になってミニスカが似合うのは森高千里とCandy Dulferだけだ(笑)。いずれにしても,今でも現役としてライブもこなすCandy Dulferの人気を決定づけたのはこのアルバムだったと思う。星★★★★。

Personnel: Candy Dulfer(as, ts, bs, ss, vo, sampling), Ulco Bed(ds, g, b, key, perc, vo), Frans Hendrix(ds, perc) with Carlo De Wijs(org), Michel Van Schie(b), Rob Van Donselaar(p), Lucas Van Merwijk(ds, perc), Angelo Verploegen(tp), Marc Stoop(ds, perc), Wies Ingwersen(vo), Wendell Arthur Morrison, Jr.(vo), Dennis Jennah(vo), Hans Janssen(org), Iwan Van Hetten(tp), Gerbrand Westveen(ts, bs), Patricia Balrak(vo), Tower of Power Horn Section<Greg Adams, Lee Thornburg, Stephan "Doc" Kupta, Fary Herbig, Emikio Castillo>, The J.B. Horns<Maceo Parker, Pee Wee Ellis, Dred Wesley> and Others

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