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2024年10月31日 (木)

Laura Marlingの新作は母性と死生観に満ちたアルバムと言ってよい傑作。

Laura-marling-patterns-in-repeat"Patterns in Repeat" Laura Marling (Chrysalis)

Laura Marlingは極めて高いレベルの音楽を届け続ける人だ。彼女がリリースするアルバムには常に高い評価を与えてきた私だが,この新作も実に素晴らしい。エレ・ポップ的なLumpとしての"Animal"をはさんで,"Song for Our Daughter"以来約4年半ぶりにリリースされたこのアルバムには,彼女の出産が色濃く反映している。ストレートに子供に向けた歌もある一方,人生には「死」による別れが付きものであることをうかがわせる曲もあり,そうした死生観も反映したアルバムは極めて内省的な響きであるが,リスナーを感動させるに十分な作品だ。

ドラムスもベースもほとんど入らない編成での音楽は非常にパーソナルな響きを持たせる印象があるが,紡ぎ出されるメロディ・ラインが素晴らしい。これが現代のリスナーにどのように受け入れられるのかはわからないが,ちゃらちゃらしたところのない純粋に優れた音楽に接する喜びすら私は感じる。そもそもLaura Marlingの歌と演奏自体は彼女の家での宅録が中心なところも,落ち着いた印象を与える理由とは思う。それにしてもこの落ち着きに満ちた音楽には,母となったLaura Marlingの強さも感じさせるメッセージに満ちていると言ってもよい。

母性と言えば同じLauraでもLaura Nyroの"Mother’s Spiritual"を思い出しつつ,このアルバムを聞いていた私である。Laura Marling,やはり素晴らしいミュージシャンである。また彼女が生み出した傑作と評価したい。星★★★★★。

Personnel: Laura Marling(vo, g, b, p, el-p, synth), Maudie Marling(vo), Buck Meek(vo), Nick Pini(b), Dom Monks(synth-b, ds, perc, bazzouki), Katt Newlon(cello), Rob Moose(vln, vla), Harry Fausing-Smith(vln), Henry Rankin(vln),  Fred Wordsworth(horn)

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2024年10月30日 (水)

Brandon Ross:これが日本制作とは驚きの渋いアルバム。

_20241019_0001 "Costume" Brandon Ross (Intoxicate)

クロゼットにしまい込んだCD群を整理してから,これまで買ってからあまり聞けていないアルバムを聞く機会が一気に増えた。正直なところ,そうしたアルバムは聞いた時にピンとこなかったり,プレイバックの頻度が上がらなかったものもあるが,収納場所に困ってついついしまい込んでしまったものもあると思う。ということで,昨今は温故知新モードが強まる私だが,しまい込まれて当然と思えるアルバムもあれば,へぇ~,こんな音楽だったのかとも思わせるものもある。本作なんかは後者に相当する。

Brandon RossはCassandra Wilsonのバックで渋いギターを聞かせていたことが記憶に残る人だ。本作はそのBrandon Rossの初リーダー作だが,アメリカーナ的な感覚とフリー的な感覚が混在する不思議にして渋いサウンドだ。Brandon Rossのキャリア上はArchie SheppやOliver Lake等とも共演しているということからして,フリー的な感覚はその辺りから生まれたのかもしれない。

実にユニークだと思うのは本作が日本のレーベルの制作によることだ。リリース当時(もう20年前だ!),どう考えても売れるような音楽だったとも思えないのだが,私が購入しているぐらいだから,そこそこ話題になっていたのかもしれない。だがそれも完全に記憶の彼方だ。しかし,改めて聞き直してみると,このサウンドは結構私の好みだったかもしれないと思わせるものであった。Brandon RossのWebサイトによれば,このアルバムはBlazing Beautyというバンドでのレコーディングとなっているが,それはRoss本人と,武石務のベース,JT Lewisのドラムスのトリオが基本構成で,そこにゲストが加わるって感じだ。

このアルバムの魅力はゲストの適切性というところもあるだろう。ヴォーカルのSadiq Beyの声はCassandra Wilsonをちょっと軽くしたような感じで魅力的だし,Graham Haynesの切り裂くようなコルネットも効いている。Shuni Tsouが演奏するDi-ziとは中国の横笛だそうだが,フルートに近い音もこのアルバムにフィットしていると思えた。Gregoire Maretのハーモニカはそれほど目立たないが,適材適所のゲストの配置はプロデューサーとしてのBrandon Rossの審美眼によるものだろう。そして,"Tweleve Gates to the City"で聞かせる本人のヴォーカルもなかなかに魅力的なのだ。

いずれにしても,これはなかなかに不思議なサウンドと言ってもよいが,非常にクリアな音場を再現する録音の良さもあって,再評価したくなるアルバムであった。反省も込めて星★★★★☆としよう。まさに温故知新である。

Recorded on February 16-18, 2004

Personnel: Bradon Ross(g, banjo, vo, body-percussion), 武石務<Stomu Takeishi>(b), JT Lewis(ds), Suni Tsou(dizi), Graham Haynes(cor), Gregoire Maret(hca), Sadiq Bey(vo)

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2024年10月29日 (火)

音楽シーズン突入ということで,注目のアルバムが届く:まずはCSN&Yのライブ音源から。

Csny"Live at Fillmore East, 1969" Crosby, Stills, Nash & Young (Rhino)

秋から冬にかけては音楽シーズンということもあり,注目すべきアルバムもリリースされている。今回取り上げるのはCSN&Yの1969年のライブ音源である。以前,このブログにも書いたが,私がSSWやアメリカン・ロックの世界に強く惹かれたのは彼らの"4 Way Street"が契機だったこともあり,彼らの音源がリリースされるとあっては,これは見逃せない。しかも1969年と言えば,"Déjà Vu"リリース前ということであり,かなり早い時期での4人でのライブ音源ということになるから,更にどういうことになっていたのかが興味深い。"Déjà Vu"前ということでは,既にWoodstockでのライブ音源が公開されているので,あっちも改めて聞いてみなければ...。でも35枚組ボックスはでかいわ,取り出しにくいわという難点があって,全然聞いていないのだ(爆)。宝の持ち腐れだ。

それでもって,今回リリースの音源を早速聞いてみると,半世紀以上前の古い録音にしては随分音がまともに聞こえるのはテクノロジーのおかげって気もする。その一方で,冒頭はお馴染みの"Suite: Judy Blue Eyes"からだが,どうもハーモニーが彼らにしては少々粗く感じられる。そのほかの曲にしても特にアコースティック・セットでそうした感触が強い。今にして思えば"4 Way Street"は多少なりともお化粧直しをしていたかもしれないという気もするが,逆にこれがリアルだったのかもなぁという感覚は強かった。まぁこの頃はレパートリーも固まっていない頃だから,試行錯誤的なところもあったのかもしれない。そんな中で,長尺で演じられる"Down by the River"が本作のハイライトかもなぁ。やっぱりNeil Youngの存在感は強烈だ。

いずれにしてもCSN&Yの若々しい声を今聞けるだけでも価値はある。リリースされただけでも喜ぶべきということで,ついつい評価も甘くなり星★★★★☆。

Recorded on September 20, 1969

Personnel: David Crosby(vo, g), Stephen Stills(vo, g), Graham Nash(vo, g), Neil Young(vo, g, org), Greg Reeves(b), Dallas Taylor(ds)

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2024年10月28日 (月)

Amazon Primeで「ラ・スクムーン」を見た。

La-scoumoune 「ラ・スクムーン("La Scoumoune")」('72, 仏/伊)

監督:José Giovanni

出演:Jean-Paul Belmondo, Claudia Caldinale, Michel Constantin, Enrique Lucero, Alain Mottett

映画のタイトルは知っていても,今まで見たことのない映画なんていくらでもあるが,私が映画を一番熱心に見ていたのは中学生の頃で,その頃は「ロードショー」やら「スクリーン」やらでせっせと情報を集めていたのも懐かしい。私はJean-Paul Belmondoの映画は試写会で「危険を買う男」を見たぐらいで,それ以外は劇場で見た経験はなかったはずだ。だが,映画雑誌にはこの「ラ・スクムーン」というタイトルが出てきたことは覚えていた。

そんな映画がAmazon Primeで見られるようになっていたので,以前Amazon PrimeでBelmondo主演の「相続人」も見たことだし,これも見てみるかって感じで家人が出掛けた隙に(笑)見たもの。元犯罪者である監督のJosé Giovanniの作品も見たことがなかったので,丁度いい機会と思ったが,José Giovanniはあの「冒険者たち」の原作者であるというのも今更ながら知った私である。

この映画については典型的ギャングものなのだが,シナリオにかなり無理があるのが難点で,そんなうまい具合にはいかんだろうと思えてしまうところがあるのは事実だし,主人公たちの刑務所からの釈放後への展開もストーリーには矛盾はないとしても説明不足って気がする。そして,Claudia Cardinaleだが,アメリカ映画(合作込みだが...)でも「プロフェッショナル」やら「ウェスタン」やらでそこそこ活躍していたのに,欧州に戻るとどうしてこういうつまらない役を受けちゃうのか不思議で仕方がない。以前取り上げた「オフサイド7」もなんで?って感じだったから,この人は仕事を選ばないっていう感じだったのかもしれない。

いずれにしても大した映画ではなかったというのが正直なところで,Jean-Paul Belmondoをアクション俳優としてカッコよく見せればいいという感じである。だが,あの顔だからねぇ...。カッコよく見せると言っても,日本では多分無理だったろうなぁと思った私であった。星★★★。

本作のBlu-rayへのリンクはこちら

2024年10月27日 (日)

Blomstedt/N響でシューベルトを聞く。

Blomstedt

Herbert Blomstedt,97歳にしていまだ現役。しかし,昨年のN響公演は来日そのものがキャンセルされたものの,今年もN響とやると発表され,次はあるのか?と思うと,さすがに今回はチケットを買ってしまった私である。こういうのはCharles Lloydのライブとかと同じ感覚なのだ。しかし,そんなことを考えていたら,来年のN響定期にはBlomstedtの名前が...。マジか!?。それはさておき,今回のCプロのシューベルトの「未完成/グレイト」というプログラムは相当魅力的であった。「未完成」は生で聞いた記憶はないし,「グレイト」の生は88年にロンドンでTennstedt/LPOで聞いて以来だ。

Blomstedtはこのプログラムを3年前にライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団とレコーディングしているが,97歳のBlomstedtが2曲で90分を生で指揮できるのかという不安もありつつも,やっぱりこれを逃す訳にはいかない。そもそも来日できるのかという不安はBプロ,Aプロを既に振っていたので解消していたが,さて一体どうなるのかという心持ちでNHKホールに向かった私である。

第一部は「未完成」だったが,正直言ってそれほど感銘を受けるってほどではなく,淡々と演じられた感覚が強かった。だが,休憩後の「グレイト」で印象は一変した。「未完成」は前菜に過ぎず,メイン・ディッシュは間違いなく「グレイト」であった。BlomstedtもはN響「グレイト」に向けて力を温存していたとしか思えない素晴らしい演奏であった。

これが97歳の指揮者か?と言うべき演奏であり,終演後の怒涛の「ブラボー」を聞いても,聴衆も同じように感じていたはずだ。私は真にGreatな「グレイト」を聴いたと思ったというのが実感だ。Blomstedtは下半身の衰えは顕著でもその指揮っぷりは活力に満ちたものであり,実に素晴らしかった。私は血湧き肉躍る感覚さえおぼえていたが,こんなのはKleiberでベト4/7を聴いて以来だと言ってもよかった。

正直言ってここまでの演奏を聴けるとは思えなかったが,まさに望外の喜びを感じる演奏であった。Herbert Blomstedt恐るべし。感動した!

Live at NHKホール on October 25, 2024

2024年10月26日 (土)

David Sanbornを改めて聞き直す。

_20241019_0002"Hideaway" David Sanborn (Warner Brothers)

本年5月のDavid Sanbornの訃報は多くの人にショックを与えたと思うが,追悼の意味も込めて改めてDavid Sanbornのリーダー作で本ブログにアップしていないものを取り上げることにしよう。

本作はDavid Sanbornのリーダー作としては第5作となるが,チャート・アクションでのブレイクスルーとなったのはこの辺りだと思え,リーダー・ミュージシャンとしての人気は本作で確立したと言ってもよいだろう。エグゼクティブ・プロデューサーはJohn Simonだが,実質的なプロデューサーはMichael Colinaだろう。そして,このアルバムには"Hideaway"や"Lisa"のように後々も演奏される曲が含まれていることからしても,やはりSanbornの中でもヒット作という自覚もあったはずだ。

久しく聞いていなかったこのアルバムではあるが,今でもその魅力は健在であった。本作がリリースされたのは1980年なので,もはや時代を感じさせる部分もあることは事実だが,7曲目の"Creeper"がやや異色に響くものの,全編を通じて紛うことなきDavid Sanbornのサウンド,フレージングと心地よいフュージョン・ミュージックが楽しめるという点で,私としてもちゃんと評価しなければならないと思えるアルバム。Michael McDonaldとDavid Sanbornの共作が2曲あるということに今更気が付いた私であった。どうせなら歌えばよかったのにと思うが,まだそういう時代ではなかったということかもなぁ。星★★★★。

それにしてもクレジットを眺めると,キラ星の如きスタジオ・ミュージシャンが並んでいる。それだけでも目の保養になる(笑)。

Personnel: David Sanborn(as, ss, el-p, org), Don Grolnick(el-p, key), Michael Colina(el-p, synth), Paul Shaffer(el-p), Rob Mounsey(el-p), Hiram Bullock(g), David Spinozza(g), Waddy Wachtel(g), Danny Kortchmar(g), Neil Jason(b), Marcus Miller(b), John Evans(b), Steve Gadd(ds), Buddy Williams(ds), Rick Marotta(ds), Ralph McDonald(perc), Ray Bardani(perc), Jody Linscott(perc), Mike Mainieri(vib), James Taylor(vo), Arnold McCuller(vo), David Lasley(vo), Bette Sussman(vo), Naimy Hackett(vo) with strings

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2024年10月25日 (金)

Lee RitenourのWes愛炸裂。

Wes-bound "Wes Bound" Lee Ritenour (GRP)

Lee Ritenourは息子にWesleyという名前を付けてしまうほどのWes Montgomeryオタクである(笑)。その影響は通常のフュージョン系アルバムにおいてもそこかしこで表れていたと思うが,ここではWes Montgomeryのオリジナル5曲に,Lee Ritenourのオリジナル4曲,そしてBob Marleyの"Waiting in Vain"が加わるというプログラムで,ストレートにWes愛を表現してしまったのが本作である。

常々Lee RitenourはWes Montgomeryのオクターブ奏法を見事なまでに身につけていると感じる。ここでも通常のフレーズではピックを使っているようだが,オクターブ奏法はWesばりの親指での演奏で,サウンドも実にWesっぽい。もちろん,レコーディングされたのは1992年だから,かなりコンテンポラリーな感覚のアレンジは施されている。

そうした中で,Maxi Priestをリード・ヴォーカルに迎えた"Waiting in Vain"と,Ritenour本人が違った感覚を加えたかったと言っている"A New Day"は異色に響く。"Waiting in Vain"はレゲエだから,Wes本人のプレイにはそんな響きはなかったはずだ。Lee Ritenourはこの曲がWesのタイプのメロディにフィットすると言っているが,メロディ・ラインはそうだとしても,リズムはちょっと違うよねぇというのが正直なところである。"A New Day"も単独で聞けばいい曲だと思うが,このアルバムにフィットしているかと言うとそれはやや疑問だ。この辺りはプロデューサーを兼ねたLee Ritenourの意図はわからないでもないが,どうせならコンセプト的には統一感を持たせた方がよかったと思う。

作品全体としては悪くない出来だと思うのだが,上述の2曲のほかに私がどうしても違和感を抱いてしまうのが,ホーン・セクションの使い方だ。私はこのアルバムにはもう少し控えめなホーン・セクションのアレンジが望ましかったと思えるのだ。ミキシングのせいもあるだろうが,少々浮いているように聞こえるのは惜しい気がする。ついでに言っておくと,Bob Jamesが入っている曲はどうしてもFourplayっぽく聞こえてしまう。私はむしろAlan BroadbentとJohn Beasleyのコンビがバックと務めた2曲の方が気に入ったている。

ということで,決して悪いアルバムではないのだが,どうしても引っ掛かる部分もあり,星★★★☆ぐらいにしておこう。

Personnel: Lee Ritenour(g, perc), Bob James(p, key), Alan Broadbent(p), John Beasley(key), David Withham(org), Ronnie Foster(org), Melvin Davis(b), John Patitucci(b), Harvey Mason(ds, perc), Gary Novak(ds), Cassio Duarte(perc), Aaron Smith(rhythm track), Maxi Priest(vo), Phil Perry(vo), Kate Markowitz(vo), Carmen Twillie(vo) with horns and strings 

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2024年10月24日 (木)

意外な事実:長年やっている当ブログにRippingtons初登場(笑)。

_20241018_0001 "Weekend in Monaco" Rippingtons Featuring Russ Freeman(GRP)

長年やっているブログなので,とっくに取り上げていると思っていても,全く取り上げたことがないミュージシャンはあまだまだいる。このRippingtonsもその一例。このブログにはFreeman Benoit ProjectやJeff Kashiwaの記事をアップしていたので,当然Rippingtonsについても書いていただろうと思っていたら,実は一本も記事化していない。我ながらへぇ~と思ってしまった。

このRippingtonsがシーンに登場したのは80年代中盤で,丁度日本のバブル期と重なるが,彼らのやっている音楽はバブル絶頂の日本人にも受けたに違いないと思えるが,私が彼らの音楽に真っ当に触れたのは私が在米中の90年代初頭のことで,その頃には本当によくFMでエアプレイされていたのも懐かしい。私の手許にあるRippingtonsのアルバムは本作とライブ盤2枚ぐらいだと思うが,まぁ正直どれを聞いても同じように聞こえてしまうバンドではある。その金太郎飴的なところがいいとも言えるし,ファンが期待するのはそういう音楽であるがゆえにチャレンジなんてできないってところもあると思える。それでも,アルバムを出せばコンテンポラリー・ジャズ・チャートではいいところまで行っているみたいだから,それなりにニーズがあるんだろう。

改めてこのアルバムを久しぶりに聞いてみて,これは一種のドライビング・ミュージックだなと思っていた。渋滞が発生してもイラつかないし,スムーズに走行しているときにはついついスピードが上がってしまいそうな音楽だ。スムーズ・ジャズの代表みたいに言われることもあるが,スムーズというより,「軽快」と言った方がピンとくる。

結局バンドの結成から現在に至るまで,不変のメンバーはRuss Freeman一人だし,プロデュースも作曲もRuss Freemanの仕事なのだから,これはFeaturingなんてものではなく,Russ Freemanのバンドなのだ。そういうこともあって,変わりようがないRippingtonsの音楽は,敢えて媒体で保有する必要もなく,ストリーミングで十分って気がする。まぁこういう音楽に目くじらを立てる必要はないし,逆に言えば嫌いってリスナーも少ないと思えるそんな音楽。在米中に世話になったこともあるし,甘いの承知で星★★★☆としておこう。

Personnel: Russ Freeman(g, key, b), Jeff Kashiwa(as, ts, ss, EWI), Mark Portmann(p), Kim Stone(b), Steve Bai;ey(b), Tony Moreles(ds), Steve Reid(perc)

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2024年10月23日 (水)

ようやく到着:Joni MitchellのArchive Boxシリーズ第4弾。最高だ!

Jm-archives-4 "Archives Volume 4: The Asylum Years (1976-1980)" Joni Mitchell (Rhino)

<ボックスの収録内容をチェックし,一部記事を改訂しました。>

輸入盤は少し前にリリースされていながら,私が発注していたのが国内仕様だったので,少々到着が遅れたがようやくデリバリーされた。丁度Joni MitchellがHollywood Bowlで再度Joni Jamをやった時期と合致してしまうのも何かの縁か。

私にとってはJoni Mitchellの最高傑作は"Hejira"だと思っている(決して"Blue"を否定しているのではない)ので,このボックスに収められたAsylumレーベルの時代のアーカイブはまさに待望だったと言ってもよい。だが,本当の意味でのこのアーカイブへの期待は何だったかと言うと,"Mingus"のリハーサル的に行われていたリリース版とは異なるジャズ・ミュージシャンたちとの共演だったと言ってもよい。それに加えて,ライブ盤"Shadows And Light"のメンツによる別ヴァージョンの音源も期待値が高かった。そして届いた音源はその期待には十分応えるものだったと言ってよい。

CD6枚組というヴォリュームの中でディスク1の途中までと,ディスク3の一部はRolling Thunder Revueの音源から構成されている。これらの音源はBob DylanのRolling Thunderボックスにも含まれていないものばかりなので超貴重だ。ディスク1後半~ディスク2が76年の米国ツアーのライブ音源,ディスク3が"Hejira"のデモ音源が中心,ディスク4以降が上述の"Mingus"+"Shadows And Light"関係の音源となる。"Don Juan's Reckless Daughter"関連の音源が2曲のみなのはちょいと不思議。ライブ音源に関してはブートレッグで公開済みのものもあるが,大したことはないとは言え,当然音はこっちの方がいい。"Shadows And Light"の別テイク版はForest Hills Tennis Stadiumの音源が24曲に渡って収録されているから,これはほぼフル・コンサート音源だろう。

そもそもこのForest Hillsという響きが私の郷愁を刺激する。実は私がNYCに在住していた頃に住んでいたのが,まさにこのForest Hillsなのだ。このスタジアムには直接行ったことはないが,近所はチャリンコで何度も通過しているはずだ。そんなノスタルジーを刺激する音源に加えて,やはり気になるのが"Mingus"のデモ音源だ。特に"Early Alternate Version"は"Mingus"のジャケットにも記されていたメンツによるセッションの模様であり,これが実に刺激的なメンツなのだ。だってクレジットされているのはEddie Gomez, Phil Woods, Gerry Mulligan, John McLaughlin, Jan Hammer, Stanley Clarke, John Guerin, Tony Williams, Don Alias, そしてEmil Richardsなのだ。どんな演奏がされているかワクワクしてしまうのも無理ないのだ(きっぱり)。

ということで,音を聞かずともこれほど興奮させてくれる音源はそうそうない。ここ暫くはこれだけ聞いていれば十分だって気もしてくる最高のボックス・セットだ。もうこれは無条件に星★★★★★。私はディスク4から聞いているが,もはや興奮状態だ。

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2024年10月22日 (火)

さよならツアーでワールド・ツアー中のCyndi Lauperのカヴァー曲集。

_20241016_0001 "At Last" Cyndi Lauper (Epic)

ツアーからの引退を発表し,現在ワールド・ツアー中のCyndi Lauperである。来年の春先には日本にもやって来る予定だが,そんなこともあって,このアルバムを久しぶりに聞いてみた。Cyndi Lauperと言えば,私の年代はどうしても"She's So Unusual"のイメージが強いが,その後もPhil Collinsもカヴァーした"True Colors"のような名曲もものにしているし,Miles Davisが"Time After Time"を取り上げたことも印象深い。しかし,その後の活動やアルバムについては全く関知していなかったところに,このアルバムを購入した理由も全く記憶の彼方だ。多分,彼女によるカヴァー曲集ということもあって関心を抱いたのではなかろうか。

"She’s So Unusual"や"We Are the World"でのCyndi Lauperのイメージからすると,随分落ち着いたなぁというのが改めての感覚である。ライナーにも本人が書いているが,ここで歌っているのはCyndi Lauperが成長の過程で触れてきた音楽であり,カヴァー曲集と言っても,ある意味懐メロ集と言ってもよいものだ。もちろん,歌の上手さには定評のあるCyndi Lauperであるから,何を歌っても上手いものだと思わせる。

選曲はソウル畑の曲が中心ながら,面白いのがシャンソンが2曲含まれていることだ。それも「バラ色の人生(La Vie En Rose")」,「行かないで("If You Go Away"もしくは"Ne Me Quitte Pas")」という鉄板の選曲だ。そういう年代なんだよなぁと感じてしまうが,ほかの曲も含めてのしっとり感は大したものだ。"Makin’ Whoopee"ではTony Bennettとのデュエットを聞かせるが,このTony Bennettの歌いっぷりが素晴らしく,ナイスなコンビネーションであった。

こういうアルバムは偏にCyndi Lauperの歌の上手さで成り立つもので,たまに聞くにはいいアルバムということで,星★★★☆。

Personnel: Cyndi Lauper(vo), Steve Gaboury(p, key, org, melodica), Rob Mathes(key), Lee Musker(p), Rob Hyman(org), Kat Dyson(g, vo), Gray Sargent(g), Ben Street(b), Bill Wittman(b), Larry Grazener(b), Paul Langosch(b), Sammy Merendino(ds), Clayton Cameron(ds), Steve Jordan(ds), Sheila E(perc), Caalto Soto(perc), Stevie Wonder(hca), John Walsh(tp), Dan Reagan(tb), Mitch Frohman(ts, bs), Ronnie Cuber(b-cl), Aaron Heck(fl), Allison Cornell(vln, vla), Mark Stewart(cello), Carol Emanuel(harp), with Orchestra

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2024年10月21日 (月)

久しぶりにLarry Carlton入りのFourplayを聞いてみた。

_20241016_0003 "Yes, Please!" Fourplay (Warner Brothers)

ギタリストとしてのLarry Carltonは評価しているが,FourplayにおけるLarry Carltonはそうでもないということを前にも書いた。私にとってはLee Ritenourの時代のFourplayの印象が強過ぎたこともあって,Larry Carltonが入ってからのアルバムのプレイバック頻度は随分下がった。そんなことだから,ギターがChuck Loebに代わった時には,Larry Carltonよりもいいのではないかとさえ思ってしまったのであった。

Larry Carltonの名誉のために言っておくが,私は決してアンチLarry Carltonではない。彼がほかのミュージシャンのバックで聞かせるソロは個性がちゃんと出ていて実に素晴らしいと思っているし,リーダー作だって結構な数を保有している。にもかかわらず,Fourplayになるとやっぱり合ってないと思ってしまうのだ。このアルバムだって,並みのフュージョン・バンドに比べればはるかにレベルの高い仕事をしていると思う。だが,Fourplayの初期作品で彼らへの期待値が高まってしまっていたこともあり,この程度ではねぇ...という感じもしてしまうのが事実だ。

これは何もLarry Carlton一人のせいとも言い切れない。私がFourplayらしさというものに慣れてしまったことがあって,驚きがなくなってしまったということも影響していると思う。そして,このバンドにサウンドへのマッチ度がLee Ritenourの方が上だったということに尽きるだろう。

加えて,前作"4"でも感じたところだが,曲のテンポに変化が少ないというところには私は大いに疑問を感じるのだ。ミディアム,もしくはミディアム・スローでやっていれば,このメンツがやることであれば耳に心地よいことは当然だ。それがパターン化だと感じるところは否定できない。更に本作でもLarry Carltonによる曲作りへの関与度が低いことも気になる。本作においてもLarry Carltonが絡んでいるのは4人共作の"Blues Force"だけだから,結局ゲスト・ギタリストとしての位置づけ以上のものではなかったと言われても仕方あるまい。

そういうところがやはり気になりだすと,上質な演奏だということはわかっていても,このアルバムも高くは評価できないというのが正直なところだ。演奏の質に免じて星★★★☆とするが,やはりプレイバックの頻度は今後も高まるまい。

Chuck Loebが亡くなって,Kirk Whalumを代打として迎える説もあったが,その後,彼らの活動は停止したままである。まぁこれまで在籍したギタリストを考えれば,それを越える編成というのは難しいだろうし,Bob Jamesも間もなく85歳という年齢を考えれば,再編はおそらくなかろうと思っている。

Personnel: Bob James(p, key), Larry Carlton(g), Nathan East(b, vo), Harvey Mason(ds), Sherree(vo), Chante Moore(vo)

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2024年10月20日 (日)

スコヘン入りのJean-Luc Pontyのアルバムなのだが...。

_20241016_0002 "Fables" Jean-Luc Ponty (Atlantic→Wounded Bird)

リーダーのJean-Luc Pontyには悪いが,私がこのアルバムを購入したのはスコヘンことScott Hendersonが参加していうということによるところが大きい。Jean-Luc Pontyには思い入れも何もないが,Frank Zappaとの共演やMahavishunu Orchestraへの参加,更には後年にはRTF IVへも参加していたから,当然名前は認識していた。だからと言ってリーダー・アルバムを買うほどではないというその程度である。そんな私が保有しているJean-Luc Pontyのリーダー作はこれ一枚のみなのだが,上述の通り,購入の動機はスコヘンである。

しかし...なのだ。何とも本作ではスコヘンの存在感が薄い。あまりにもJean-Luc Pontyのエレクトリック・ヴァイオリンやシンセの音が支配的で,ギターの音が埋没してしまっていて,これでは何のためのスコヘンか!と言いたくもなってしまうのだ。まぁ購入の動機が不純なのだからどうこう言えた筋合いではないが,スコヘン目当てで買っている私としては正直がっくりきてしまう。

スコヘンは全7曲中,1曲目から5曲目に参加しているとクレジットにはあるが,ようやく4曲目の"Cat Tales"になってギター・ソロが出てきて,ようやくスコヘンの存在を感じられるまで,本当に参加しているかどうかさえ分からんというレべルではいかんともしがたい。この辺りがプロデューサーも兼ねるJean-Luc Pontyの自意識が強く出過ぎた感じがしてしまい,もっとスコヘンにも弾かせた方がこのアルバムはスリリングな出来になったはずだと思いたくなる。しかも最後の2曲はPontyのソロ・ピース。何ともフラストレーションがたまるアルバムであった。星★★。

こんなことだから,本作をクロゼットの奥深くにしまい込んだのにも納得(苦笑)。次の機会には売却対象だな(爆)。

Personnel: Jean-Luc Ponty(vln, synth, perc), Scott Henderson(g), Baron Browne(b), Rayford Griffin(ds)

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2024年10月19日 (土)

Immanuel Wilkins@Blue Note東京参戦記

Immanuel-wilkins-at-bnt-stage

Blue Noteの会員になっていると,7回ライブに行くと,2か月間有効のライブ招待券をもらえるという特典がある。前回この特典を使ったのは昨年12月の挟間美帆だったから,随分短いインターヴァルで招待券をゲットしたことになるが,それだけ頻繁にBlue Noteに通っているってことだ。但し,この特典,利用可能なライブはチャージの上限が決まっているので,行きたいライブがあるかないかはその時の運みたいなところがある(結局は誰であれもったいないので行くのだが...)。それでもって,今回チョイスしたのがImmanuel Wilkinsである。

Immanuel-wilkins-at-bnt_20241111170401 この人,まだまだ日本ではそれほど知名度は高いとは言えないと思うが,本国ではDownBeat誌の国際批評家投票において,アルトサックス部門第1位に推されていて,その実力は高く評価されている。そうしたこともあり,これまでアルバムも購入したことはないが,後学のためということもあっての参戦となった。

結論から言えばリーダーの実力は素晴らしい。音色,フレージングともに一流だと思わせる。循環呼吸も交えながら繰り出すソロは実にレベルが高い。DownBeatの国際批評家投票1位という結果にも頷けるレベルだ。バンドとしても活きがいいねぇと「最初」は思わせた。だが,その後がいかん。

リーダーのアルトサックスには文句はない。しかし,このバンドのバランスを崩したのがドラムスのKweku Sumbryである。とにかく叩き過ぎでうるさいことこの上ない。ブラシを握れば,それなりのプレイもできることはわかるのだが,スティックだとなんでそこまで叩く必要があるのかと思わざるをえないのだ。そんな演奏なので,私はリーダーの演奏は楽しみながらも,演奏中にどんどん冷めていく自分を自覚していた。ドラマーがそんな調子に加え,ピアノは本来のレギュラーである Micah Thomasではなく,Paul Cornishがトラで入っていたのだが,iPadの譜面を必死で追う感じがあって,アンサンブル的にはイマイチ感があったのも痛い。ソロはそこそこのレベルだったとは思うが,やはりバンドへのフィット感が不足し,レギュラーでないことが露骨にわかってしまうのは惜しかった。

それに比べればベースのRick Rosatoはいい音を出していたし,バッキングも大したものだと思えたのに,ソロを取ったのはアンコールでの1曲だけだったというのはもったいないと思ってしまった。結局,アルトとベースはよいが,ピアノとドラムスがダメというのが明らかであり,私にとっては満足と不満が混在するライブとなったと言わざるを得ない。リーダーとしてはバンドをコントロールするのも大事な仕事なんだから,抑制という要素もちゃんと考えるべきだった。演奏を聞いていて,Dave Wecklだったらどう叩いたかなんて想像していた私である。

終演後のサイン会は大いに盛り上がっていたが,ドラマーに喧嘩を売りそうな気分だったこともあり,おとなしく家路についた私であった(爆)。上の写真はBlue Note東京のWebサイトから拝借。

Live at Blue Note東京 on October 17, 2024, 2ndセット

Personnel: Immanuel Wilkins(as), Paul Cornish(p), Rick Rosato(b), Kweku Sumbry(ds)

2024年10月18日 (金)

JazzCodeのアルバムを引っ張り出す(笑)。

_20241015_0003"Being Here" JazzCode (Nojac)

クロゼットにしまい込んだCD群を整理して,これも久しぶりに聞いたアルバム。Lars Janssonのアルバムは結構保有しているのだが,一部のアルバムを繰り返し聞いているのが実態で,このアルバムはついつい忘れ去られていたものだが,改めて聞き直してみると,面白い選曲だった。

全12曲中,Lars Janssonのオリジナルが4曲で,それ以外はよく知られたスタンダードやバップ・チューン,あるいはジャズマン・オリジナルで,このメンツでJanssonオリジナルはわかるが,へぇ~,こういう曲もやるのねぇって感じであった。しかも録音はRainbow Studioで,エンジニアはJan Eric Kongshaugだが,ECMの音とは全く違う音になってしまうのも面白い。更にジャズマン・オリジナルで選んでいるのがKenny Wheeler,ジョンアバ,Tom Harrell,それにColtraneってのも凄いのだが,こういう選曲を見るとわかっているねぇと思ってしまうのも事実。

このバンド,リーダーはドラムスのCarl Størmerのようなのだが,この人はミュージシャンでありながら,ビジネスマン/コンサルタントとしても成功しているようだ。そういうのを知ると,まぁここまで来ると余技を越えているとも言えるが,ちゃんと音楽でも学位を取っているようだから当たり前とは言え,こういうメンツが集まってくるところもCarl Størmerの人徳か。

まぁ,Lars JanssonやMats Eilertsenの日頃の音楽からすれば,若干番外編のような感じのアルバムではあるが,こういうのもちゃんと聞かないといかんなぁとは思うものの,これをしまい込んだのはKnut Riisnæsのテナーが平板に聞こえるせいかもしれない。星★★★。

Recorded in November 2010

Personnel: Knut Riisnæs(ts), Lars Jansson(p), Mats Eilertsen(b), Carl Størmer(ds)

2024年10月17日 (木)

Stanley Jordan:今も現役だが,やはり人気は長続きはしなかったな。

_20241015_0002 "Stolen Moments" Stanley Jordan(Somethin’ Else→Blue Note)

懐かしいねぇ。Stanley Jordanがシーンに登場したのは80年代半ばのことだったと思うが,今にして思えば,日本のバブル経済の時期と重なっているように思える。このアルバムが当時のBlue Note東京(今とは別の場所にあった)レコーディングされたのもバブル末期の1990年のことだ。私はこのアルバムがリリースされた頃は,NYCに在住していたので,本作は現地で購入したはずで,それゆえBlue Noteからのリリースとなっている。

Stanley Jordanと言えばタッピングであるが,最初はびっくりしてしまっても,その後は確実に飽きられるタイプの演奏と言ってもよい。現在でもライブは行っているが,レコーディングの機会が激減しているのも仕方ないところだろう。まぁ私もStanley Jordanのアルバムとして保有しているのは本作と,イタリアのNovecentoと共演した"Dream of Peace"だけだから,正直なところ,ほぼギタリストとしての興味の対象外と言ってもよい。

この人は目の前で演奏を見るのと,音だけ聞くのでは確実にインパクトが違っているはずで,音だけを聞いていると,さすがにタッピングに依存するだけに弦高も低く,ゲージも細い弦を使っているだろうから,どうにも線が細い。両手使いは凄いねぇと思っても,音だけ聞いていては感慨をおぼえないのだ。乱雑にクロゼットにしまい込んだCD群をアルファベット順に並びかえて整理し,二軍,三軍のCDを見つけやすい環境を整えて,本当に久しぶりに聞いてみたのだが,その音の線の細さは致命的と言ってもよい。また,"Stolen Moments"ではギターをシンセにつないでプレイしているようだが,これも全然魅力的に響かない。

むしろこのアルバムではベースのCharnette Moffettの方がジャズっぽい音を出していて,Stanley Jordanの線の細さを補っていると言うべきか。そのCharnett Moffettも一昨年この世を去っていたとは全く知らなかったが,それが時代の流れってものだろう。日本の聴衆はバブル期らしく盛り上がっているが,聞いているこっちは冷めていく一方であった。まぁ星★★☆で十分だろうな。中古盤が¥1で出品されまくっているのも笑える。

それにしてもこの頃はHerbie HancockのマネージメントをしていたDavid RubinsonがStanley Jordanもマネージメントしていたのねぇ。機を見るに敏な商売人だわ(苦笑)。

Recorded Live at Blue Note東京 on November 7-9,1990

Personnel: Stanley Jordan(g), Charnett Moffett(b), Kenwood Dennard(ds)

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2024年10月16日 (水)

Joe Sampleのセルフ・リメイク・アルバム。

_20241015_0001 "Sample This" Joe Sample (Warner Brothers)

本作はJoe SampleがCrusadersや自身のアルバムで取り上げた曲を自らリメイクしたアルバムだ。ラストに収められたJerry Roll Mortonの"Shreveport Stomps"のみJoe Sampleのソロで演じられる以外は,バンド形態で過去の作品をしている。

やはりと言うべきだろうが,"Rainbow Seeker"からの曲が4曲と一番多いが,ほかは満遍なくアルバムから取られる中で,複数曲(2曲)が選ばれているのが"Free as the Wind"というのは意外な気もする。まぁ往年のヒット曲と言っていい曲の再演だから,それなりに楽しめるのは当然なのだが,それでもこのアルバムをプレイバックする頻度がそれほど高まらないのは,もっといい演奏ができたのではないかという感覚があるからだ。

本作をプロデュースしているのはGeorge Dukeで,Joe Sampleが共同プロデュースを兼ねるが,年齢的にはGeorge Dukeが若干下なので,先輩に遠慮した感なきにしもあらずって感じなのだ。今回,改めて本作を聞いて,これをTommy LiPumaがプロデュースして,Al Scmittがエンジニアリングを担当していれば,もっといいサウンド,そしてもっといいアルバムに仕立てられたのではないかと思っていた私である。どうせリメイクするならば,新機軸があってもよいだろうが,あまり大きなチャレンジはしていない。例外は"Voices in the Rain"所収の"Shadows"に新たに歌詞をつけて,Dianne Reevesに歌わせた"I'm Coming Back Again"ぐらいでは少々もったいない。

またCrusadersナンバーはもう少しアーシーな部分があってこそという感じもあって,ちょいと洗練され過ぎじゃないの?っていう気がする。"Put It Where You Want It"ぐらいの感じでやってもよかったように思う。いずれにしても,オリジナルを上回ることは難しいという前提でも,もう少しやりようがあったと思えるのは残念。そして,"Shreveport Stomps"は本当に必要だったのか?と言いたくなるのはきっと私だけではあるまい。

収録された過去の曲に免じて星★★★とするが,これを聞くなら"Rainbow Seekers","Ashes to Ashes"や"Invitation"を聞く(きっぱり)。

Personnel: Joe Sample(p, el-p, synth, org), Dean Parks(g), Marcus Miller(b), Sample(p, el-p, synth, org), Dean Parks(g), Marcus Miller(b), Jay Anderson(b), George Duke(synth, effects), Everett Harp(as), Dianne Reeves(vo), Dennis Rowland(vo), Lynn Davis(vo), Lori Perry(vo), Jim Gilstrap(vo)

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2024年10月15日 (火)

またまた出た!Robert GlasperのApple Music限定音源。ライブ版"Black Radio"の趣が最高なのだ。

Key-to-the-city-volume1 ”Keys to the City Volume One" Robert Glasper(Loma Vista Recordings)

ここのところ,Apple Music限定で音源を続々リリースするRobert Glasperだが,6月の"Let Go",9月の"Code Derivation"に続いて,早くも今年3作目のリリースとなったのが本作。毎度毎度企画を変えてくるというのも凄いが,本作はRobert Glasperがここのところ毎年連続出演するBlue Noteでのライブ音源をもとにしたもの。

Robert Glasperは"Robotober"と呼ばれる形で,10月にさまざまなメンツで1か月連続でBlue Noteに出演している(今年も出演中だ)が,こういうジャズ・クラブにおけるResidencyスタイルの出演は,Chick Coreaが始めたものをRobert Glasperが引き継いだってところか。そこでのライブ演奏を録りだめしたものを蔵出ししたというのがこの音源だ。

そして聞いてみると,これがまさに主題の通り,"Black Radio"シリーズに収められているような音楽をライブで再現したものという感じがする。Robert Glasperとゲストが生み出すグルーブが心地よいことこの上ない。ゲストも豪華だし,これはたまらん。お聴きになれる方は早い機会にお試しになることをお勧めしたくなるアルバムである。

細かいメンツは不明ながら,曲目とゲストは次の通り。前の2枚とは全く異なる趣で出してくるところは,まさに尽きることのない創造力である。Volume Oneということは続編も出てくるということだろうから,早く出してくれ~!と言いたくなる。ストリーミング・オンリーなので採点はしないが,これは好きだなぁ。

1. Step Into The Realm (feat. Black Thought), 2. Paint The World (feat. Thundercat), 3. Prototype (feat. Norah Jones), 4. Love You Down (feat. Meshell Ndegeocello), 5. Packt Like Sardines In A Crushd Tin Box, 6. Didn’t Find Nothing In My Blues Song Blues (feat. Esperanza Spalding), 7. One For Grew, 8. The Look Of Love (feat. T3 & Bilal), 9. Over (feat. Yebba)

2024年10月14日 (月)

Duke Jordanの"Two Loves":"Flight to Denmark"と同日録音の姉妹編。

Two-loves "Two Loves" Duke Jordan(SteepleChase)

私は学生時代からDuke Jordanの"Flight to Denmark"がかなり好きだった。アナログからCDに切り替えた際に,ボートラの並びが気に入らず,結局アナログで買い直したぐらいなのだから,かなりのものだ(笑)。そして,本作はsono"Flight to Denmark"セッションの残りテイクから構成された姉妹盤と言ってもよいのだが,結局自分では買わず,これは父の遺品のアナログ(デンマーク盤)である。

晩年にジャズにも目覚めた私の亡くなった父は,結構Duke Jordanが好みだったらしく,このほかにもアルバムを保有していたが,本作と"Live in Japan"は今や私のレコード棚に収まっている。死ぬまでモーツァルト・フリークぶりは徹底していた父は,ジャズではDuke JordanやらOscar Petersonを結構好んで聞いていたように思える。ハードなジャズよりは,リラクゼーション重視だったと言ってもよいかもしれない。ただ,私が父の日に送ったBrian BladeやKenny Kirklandのアルバムも気に入っていたみたいだから,なかなかいい耳,いい趣味をしていた。

それはさておきである。演奏から感じられる雰囲気は"Flight to Denmark"に極めて近い。同じメンツ,同じセッションなんだから,違いは収録曲だけなのだ。オリジナルにスタンダードを交えるという構成も同じだが,"Flight to Denmark"に"No Problem(危険な関係のブルース)"があれば,こちらには"Jordu"ありということで,人気のオリジナル曲を入れるところもいいねぇ。この辺りはプロデューサーたるNils Wintherの趣味の良さと言ってもよいだろう。星★★★★☆。

思えば,Mads Vindingというベース・プレイヤーの名前に初めて触れたのは"Flight Denmark"だったはずだが,その後,Enrico Pieranuziとの共演でも痺れさせてもらうという長い付き合いになるとは思っていなかった。まぁ録音時にはまだ20代半ばだったんだから,キャリアを通じて彼の音楽に接することもさもありなんであるが,ここでの演奏はそうした年齢を感じさせない落ち着いた演奏であった。

Recorded on November 25 and December 2, 1973

Personnel: Duke Jordan(p), Mads Vinding(b), Ed Thigpen(ds)

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2024年10月13日 (日)

Netflixで「極悪女王」を見た。

Photo_20241001184201 「極悪女王」(’24,Netflix)

監督:白石和彌

出演:ゆりあんレトリィバァ,唐田えりか,剛力彩芽,村上淳,斎藤工,音尾琢真,仙道敦子,鴨志田媛夢,水野絵梨奈

巷で話題の「極悪女王」である。先日の「地面師たち」に続いてNetflixで本作を見たが,「地面師たち」がストーリーで見せた感じに対し,こちらは役者陣の頑張りが目立つ。ダンプ松本に扮したゆりあんレトリィバァに加えて,クラッシュギャルズを演じる唐田えりかも剛力彩芽も,その他女子プロレスラーを演じた役者陣には頭が下がるって感じだ。根性あるわ~。主人公,松本香がヒールとしてのダンプ松本と化す展開には明らかに性急な部分があったり,シナリオには多々穴があるとは思えるが,役者陣の頑張りがそうした瑕疵を上回るってところだ。

私はプロレスそのものは結構好きな方だが,クラッシュギャルズや極悪同盟が活躍した頃とは時代がずれているし,女子プロレスに関心を持ったこともないが,あの時代にはこんなことになっていたのかぁと思ってしまった。ベビーフェイスとヒールの抗争はWWFの時代から明確になってきたが,芝居がかったマイク・パフォーマンスとか裏切り/遺恨/転向のようなリング上でのストーリーや役割変更は,純粋プロレス好きからすれば邪道という感じがしていたとは言え,エンタテインメントとして見る分にはそれもありだったろうとは思う。

しかしここでゆりあんが演じるダンプ松本の暴走がリアルな世界に近かったとすれば,まるでテリー・ファンクにフォークを突き刺すアブドーラ・ザ・ブッチャーではないか。えぐさもここまで行っていたのか~なんて妙な感心の仕方をしてしまった。その一方で家族の描き方はどうにもステレオタイプなところがあるのは,シナリオを書いた鈴木おさむの限界だろうな。まぁそれなりには楽しんだとは言え,「地面師たち」のキリキリする感じには勝てていないってところだ。

そうは言っても,東出昌大との不倫でキャリアにケチのついた唐田えりかは,これで芸能界に完全復活すると思えた。頭まで丸めてまで頑張れるのだから,過去の一件はあくまでも肥やしとして今後頑張ればいいだろう。

2024年10月12日 (土)

折に触れ共演を続けるPeter BernsteinとBrad Mehldauの新作。

_20241009_0002 "Better Angels" Peter Berstein(Smoke Sessions)

Peter BernsteinとBrad Mehldauは若手の時代から共演を続けていて,最初期の音源はCriss Crossレーベルの92年の"Somethin's Burnin'"に始まって,近年においても同じSmoke Sessionsレーベルからは"Signs Live!"をリリースしている。今年の冬には"M.T.B."の30年ぶり(!)のリユニオン作のリリースを控えているから,相当の仲良しと言ってもよいのかもしれない。

そんな二人の共演作がリリースされたので早速聞いている。Peter Bernsteinのオリジナルに加え,ジャズマン・オリジナルやスタンダードを演奏しているが,私が注目したのがDuke Jordanの"No Problem(危険な関係のブルース)"である。この曲はどう考えてもBrad Mehldauのイメージとは異なるものだと思うが,それをBrad Mehldauがどのように演奏するかというところに関心が高まってしまった。と言っても"No Problem"は全8曲中の7曲目だから,聞きたい気持ちを抑えて最初から聞いていったのは言うまでもない。

基本的には全編に渡って,Brad MehldauはPeter Bernsteinを立てて,助演に徹している感じだ。それは決して悪いことではなく,長年の友情の証みたいなものだろう。基本的にはオーセンティックなジャズ・ギター・アルバムとして聞けばよい作品で,驚きのようなものはない。それでもって"No Problem"だが,結構あっさりした演奏だ。粘っこさや黒さのようなものは感じられないが,まぁこういうアプローチもありだとは思う。だが,Duke Jordanが"Flight to Denmark"で聞かせたような落ち着きさえ感じさせる演奏を聞いてからでは,少々普通に過ぎるような気がする。極論すれば,このメンツでこの曲をやる意義はあまり感じないというのが正直なところだ。やっぱりこの曲はBrad Mehldau向きではなかろう。

とは言いつつ,この曲だけに注目するのも問題があるので,アルバム全体では標準的というところに落ち着くってところか。2曲で聞かせるPeter Bernsteinのソロ・ギターがいいアクセントに感じられる。まぁ大甘で星★★★★としておこう。それにしてもAl Fosterも傘寿を過ぎているがまだまだ元気なものだ。

Recorded on April 1, 2024

Personnel: Peter Bernstein(g), Brad Mehldau(p), Vicente Archer(b), Al Foster(ds)

2024年10月11日 (金)

Ed Bickertのアナログ盤を中古でゲット。

Ed-bickert-at-bourbon-street"At Toronto’s Bourbon Street" Ed Bickert 5 (Concord)

Concordレーベルには何枚かEd Bickertのアルバムが残されているが,どれもなかなか入手が困難な中,リーダー作のCDについてはほぼ入手したはずだ。しかし,本作はCD化されていないはずで,こちらもなかなか中古盤市場にも出回ってこないし,ネット上の画像のイメージも少ないから,右のジャケ写真も私がスマホで撮影したものだ。そんなアルバムが登録済みのウォント・リストに引っ掛かり,すかさず発注したもの。

Ed Bickertのリーダー作で管が入っていることがそもそも珍しいが,本作はトロントでのライブ・レコーディングということもあり,カナダ出身のEd Bickertに華を持たせたってところもあるだろう。だがメンツを見れば,往時のConcordレーベルではよく見かけるメンツと言ってもよいもので,メンツを見るだけでどんな音が聞こえるかわかってしまいそうなものだ(笑)。

早速プレイバックしてみると,想定通りの音である。リラクゼーションを感じさせるモダン・スウィングという感じの演奏は,Concordレーベルっぽい音であった。音は想定通りながら,このアルバムがユニークなのはその選曲だ。このメンツならもっとメジャーなスタンダードをやってもよさそうなものだが,ここでのレパートリーはあまり知られていないであろうジャズ・ミュージシャン・オリジナルが多いのが珍しい。A面冒頭からしてBuck Claytonの"Swingin’ Along on Broadway"ってのは渋過ぎるだろうと思ってしまう。B面最後はColeman HawkinsとRoy Eldridgeの"The Walker"とか,全然知らん!(きっぱり)

まぁ,これは意図的な選曲と考えてよさそうだが,それがEd Bickertによるものかは謎だ。それにしても渋い。こんな曲をやっているフロントのScott Hamiltonは当時20代後半,Warren Vachéも30代前半って,どんな若年寄やねん?みたいな感じだ。そうしたアルバムゆえに,CD化しても枚数がさばけるかは疑問もあって,CD化が見送られたと思わざるをえない。だからと言って,廃盤にしておくのももったいないなぁと思える作品だけに,ゲットできたのは嬉しかった。まさに安定のConcordサウンド。星★★★★。

Recorded Live at Bourbon Street, Toronto, Canada in January 1983

Personnel: Ed Bickert(g), Scott Hamilton(ts), Warren Vaché(cor), Steve Wallace(b), Jake Hanna(ds)

2024年10月10日 (木)

Marcin Wasilewski Trio@Cotton Club参戦記。

Mw-trio-at-cotton-club_20241009080801

Marcin Wasilewskiのトリオは私にとっては現代のジャズ・シーンにおいて,Brad Mehldauのトリオと双璧と言ってもよいと思っている。だから,前回2019年に来日した時も,Cotton Clubで1st,2nd通しで聴いているが,その演奏も実に優れたものであり,興奮気味に記事を書いている(その時の記事はこちら)。そして,今回トリオ結成30周年記念ツアーをワールドワイドで行う中,ついに再来日を果たした彼らを観るべく,Cotton Clubに足を運んだ。今回も同じく1st,2nd通しでの参戦である。財布には痛いが,その価値がある人たちなのだ(きっぱり)。

それでもって参戦した心持ちを正直に書こう。1stセット開演前に到着して,その集客の悪さに驚いてしまった。これほどレベルの高いトリオが来日しながら,3割,せいぜい4割ぐらいしか客席が埋まっていないのには愕然とした。Blue Note東京では結構席が埋まっていることが普通になっていて,集客が厳しいのではないかと思えたJohn Beasleyでさえ,月曜日の2ndでも7~8割埋まっていたことを考えると,これって一体どういうことなのだ?と思わざるをえない。私としてはこのトリオを聞かずして,現代のジャズ・ピアノは語れないとさえ思っているだけに,まずそれが残念と言わざるをえない。2ndはさすがに聴衆の数は少し増えたものの,フルハウスにはほど遠い状態というのは日本のジャズ・ファンにとってはもったいないことだと思っていた。

しかし,そんな集客の悪さをものともせず,トリオの演奏は繊細さとダイナミズムを併せ持つ素晴らしいものであった。1stと2ndで座席の位置は少々違っていたのだが,いずれにしても2セットとも最前列かぶりつきで見ていた私である。1stはMarcin Wasilewskiの鍵盤のタッチ,2ndはペダル使いに注目しながら聞いていた。私が感心してしまったのがMarcin Wasilewskiの弱音のタッチである。さすがピアノの国,ポーランド出身と思ってしまえるその繊細なタッチには見ていて惚れ惚れしてしまった。2ndは視点を変えて1stではよくわからなかったペダル使いを見ていたのだが,これも微妙にペダルを使う感覚は,実に素晴らしいものだったと思う。

そしてほぼ生音での演奏に接することで,このトリオの生み出す音を魅力を骨の髄まで感じることができたと言うべきだ。ベースのSalwomir Kurkiewiczも,ドラムスのMichal Miskiewiczも,このトリオの音楽性を引き出すのに最適なバンド・メイトだと思えるし,だからこそ30年も同じメンツで活動が続くのだろう。そんな彼らの演奏を聞いて,私は演奏後も心地よい余韻に浸ったことは言うまでもないが,1st演奏終了後は聴衆の引けが早いこと,早いこと。人のことはどうでもいいと思いつつ,あんな演奏を聞いておきながら,余韻に浸る余裕もないとは何とも無粋だと思っていた私である。

5年前もそうだったが,1stと2ndで曲が同じというのはやや残念ではあったものの,曲が同じでも与える感動は変わらないというのが素晴らしかった。やった曲にはまだ題名がついていないとか言っていたものもあったので,新曲だったかもしれないが,次のアルバムに入ってくることを期待したくなるような演奏であった。

いずれにしても,演奏後,私の頭に浮かんだのが「世界最高峰」というフレーズだった。ジャズ・ピアノ・トリオの世界では,私にとっては現在の世界最高峰はBrad Mehldauトリオだと思っているが,このMarcin Wasilewskiのトリオも世界最高峰として並び立つ存在と思えたのは冒頭に書いた「双璧」同様だ。どっちがエベレストで,どっちがK2でもよい。私にとってはもはや同列と考えたいトリオであった。昨今はBrad Mehldauはホールの公演が中心であることからすれば,ライブの満足度はMarcin Wasilewskiの方が上だと言ってもよいことは,2019年のライブの時の記事にも書いたが,今回も極めて満足度の高いライブであった。いやはや最高だ!

尚,上の写真はFBに本人がアップしていたものを拝借して少々トリミングを施したもの。下は当日の2nd終了後のサイン会での戦利品。もう一枚Thomas Stankoの"September Night"も持って行っていたのだが,本人との話に夢中になって,Marcin Wasilewskiのサインをもらい忘れてしまったので,3人のサインが揃った2枚だけアップしておく。

Live at Cotton Club東京 on October 8,2024

Personnel: Marcin Wasilewski(p),Salwomir Kurkiewicz(b), Michal Miskiewicz(ds)

_20241009_0001

2024年10月 9日 (水)

Sonny LandrethをバックにしたJohn Hiattのアルバム。

Beneath-the-gruff-exterior"Beneath the Gruff Exterior" John Hiatt & the Goners(New West)

John HiattとSonny Landrethの共演盤は3枚あって,Sonny Landrethは全てGonersというバンドの一員としての参加である。このGonersは不動のメンツで,John Hiattを支えているが,現在でも折に触れ共演を続けるって感じの間柄のようだ。私は1枚目の"Slow Turning"は記事にしている(記事はこちら。)が,なぜか2枚目の"The Tiki Bar Is Open"は完全に聞き洩らしている。それでもって,今日取り上げる本作は2003年リリースの彼らの共演3枚目。

まぁJohn HiattにしてもSonny Landrethにしても,その筋の音楽が好きな人には受けるだろうが,日本というマーケットではなかなか難しいだろうなぁという気がしている。来日ということで考えれば,John Hiattの来日は2015年に遡り,その時も27年ぶり(!)の来日だったそうだから,ポピュラリティは推して知るべしってところか。いずれにしても本国とは大きなギャップがあるだろうが,本邦においてもこの手の音楽好きは間違いなくはまるだろうという音楽性の人たちである。

John Hiattの大ファンってほどでもない私の場合,John Hiattのアルバムはその共演者次第で買っているという感じだ。"Bring the Family"はRy Cooder,"Slow Turning"と本作はSonny Landrethって感じで,例外は"Stolen Moments"ぐらいだ。むしろCDの保有枚数で言えばSonny Landrethの方が多いぐらいだが,いつも書いているようにSonny Landrethはリーダー作よりもバックでの仕事の方が魅力的と思っているから,単独でのポジションはあまり上がらない人たちだ(苦笑)。しかし,彼らが共演することによるシナジーは確実に生まれると思える組合せではある。

本作についても,彼ららしいサウンドを生み出しているし,相変わらずSonny Landrethのスライドは聞きどころたっぷりである。しかし,曲のクォリティがイマイチって感じが拭えないのはもったいない。Sonny Landrethはスライドを使わないプレイも聞かせるが,やはりこの人はスライドを使った方がずっと魅力的に響くと感じた。本作を売り払うつもりはないとしても,リリースから20年以上経過して,一体私はこのアルバムを何度プレイバックしたのか?とついつい思ってしまうのも,私のこのアルバムへの評価を反映していると思えた。それでもやっぱりSonny Landrethのスライドの魅力は抗いがたく半星オマケの星★★★☆。

Personnel: John Hiatt(vo, g, hca), Sonny Landreth(g,vo), Dave Ranson(b), Kenneth Blevins(ds, vo) with Bobby Keys(bs)

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2024年10月 8日 (火)

「レココレ」のAOR特集を見て,改めてGino Vannelliを聞く。

Gino-vannelli_20241005095801 "Brother to Brother" Gino Vannelli(A&M)

レコード・コレクターズ誌の2024年10月号では「AORの名曲ベスト100」なる特集が組まれている。選ばれた曲を見ているとなるほどと思うところもあれば,何とHirth Martinezが10位に入っていたりして,ヘぇ~と思うところもある中で,ベスト100にこのGino Vannelliのアルバムから2曲入っていた。そう言えば,このアルバム保有していたなぁということで,久しぶりに取り出して聞いてみた。

レココレでベスト100に入っていたのは"I Just Wanna Stop"と"Brother to Brother"であったが,私にとってはこのアルバムはAORという範疇で捉えていたことがなかった。いずれにしても,積極的にプレイバックした記憶はあまりなく,おそらくは私の好みからは少々離れた位置にあったと思うが,改めて聞いても不思議なアルバムだと思った。

これは"I Just Wanna Stop"に感じられるAORの要素もあるとは言え,フュージョン,あるいはブルー・アイド・ソウル的な部分もあって,正直捉えどころがないという印象によるものだ。ブルー・アイド・ソウル的な感覚が強いのは女性によるバッキング・ヴォーカルの濃度が高い曲で顕著だと思う。"I Just Wanna Stop"にしても,コーラスが効いているので,私には純粋AOR的とは言えないように感じるのだ。この辺りがAORという概念の広さであり,定義の難しさではないか。おかしな例えになるかもしれないが,このアルバムの曲や演奏には後の久保田利伸を感じさせる部分さえあった。いずれにしても"Brother to Brother"にはAOR的なところは私は感じないけどなぁ...。

正直なところ,私にとってはGino Vannelliの歌いっぷり,あるいはアルバム全体のサウンドにはのめり込めない部分があるので,それがプレイバック頻度の低さにつながったと言える。だが決して悪いアルバムではないので,これは完全に好みの問題。ニュートラルに聞けば星★★★☆ってところか。Carlos Riosのギターは相当頑張っているし,若き日のJimmy Haslipの参加というのも面白かった。

Personnel: Gino Vannelli(vo), Joe Vannelli(el-p, synth), Mark Cranye(ds), Carlos Rios(g), Leon Gaer(b), Jimmy Haslip(b), Ernie Watts(ts), Manolo Badrena(perc), Victor Feldman(vib), Stephanie Soruill(vo), Julia Tillman Waters(vo), Maxine Willard Waters(vo), Ross Vannelli(vo)

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2024年10月 7日 (月)

Fleetwood Macの"Mirage"期のライブ音源。バンドとしては好きなんだけどねぇ...。

_20241005_0001 "Mirage Tour '82" Fleetwood Mac (Warner)

私は何だかんだ言いながらFleetwood Macのアルバムは相当数保有しているが,その大きな理由はChristine McVieが好きだということがあるのはこれまでも書いてきた。なので,音源が発掘されるたびに彼女が在籍している期間のものならついつい買ってしまう。本作もその流れで入手したもの。アルバム・タイトル通り,アルバム"Mirage"のプロモーション・ツアーからの音源である。

正直言ってアルバム"Mirage"自体が少々地味な感じがするものだったが,ここに収められているのは,アルバムの曲もあるが,往年のヒット曲ばかりだから,それはそれでファンには嬉しいものである。しかし,このアルバム,既発音源がかなりの比率を占めており,完全な未発表音源は6曲だけだから,その点は注意が必要。昨年リリースされた「噂」期のライブ盤はほとんどが未発表音源だったのと比べると商売っ気の強さすら感じてしまうのは少々印象が悪い。

「噂」期のライブ盤の記事にも書いたように,John McVieとMick Fleetwoodのリズム・セクションの安定感があってこそ,このバンドは成立していたという気がするが,ライブでも彼らの能力は全然揺るがない。ただ,このアルバムを聞いていて,感じてしまうのはStevie Nicksのライブにおける歌唱の弱さである。そもそも私が彼女の声が好みではないということもあるが,ライブでの歌いっぷりには安定感というものが感じられない。Christine McVieだって,Lindsey Buckinghamだって危なっかしい部分がない訳ではないとしても,Stevie Nicksほど弱体ではない。そもそも彼らは演奏しながら歌っているのだから,ほぼヴォーカル専念のStevie Nicksとは訳が違う。いずれにしても,私にはStevie Nicksのヴォーカルの揺らぎがどうにも心地よくない。特にStevie Nicksがリード・ヴォーカルを取る曲において,その感覚が非常に強くなるのだ。"Rhianon"なんてブリッジ部分のメロディ・ラインも,高音部を真っ当に歌えないのでは「あ~あ」ってなるだろう。

全体を通して聞いてみれば,ライブの場ならまぁいいんだろうが,CDという媒体で聞くと,そうした粗が目立ってしまうのがこのアルバムの決定的な難点。バンド全体とChrisitne McVieに免じてオマケしてでも星★★★が限界。いずれにしても,これは全く納得がいかなかった買い物となってしまった。Stevie Nicksのリード曲をスキップして聞くしかないな(爆)。

Recorded Live at the Forum, Inglewood, CA on October 21 and 22, 1982

Personnel: Mick Fleetwood(ds, perc), John McVie(b), Christine McVie(key, synth, vo), Lindsey Buckingham(g, vo), Stevie Nicks(vo) 

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2024年10月 6日 (日)

恥ずかしながらちゃんと見たのは初めてかもしれない「博士の異常な愛情」。

Dr-strangelove「博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか("Dr. Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb")」('64,米/英,Columbia)

監督:Stanley Kubrick

出演:Peter Sellers, George C. Scott, Sterling Hayden, Keenan Wynn, Slim Pickens

主題の通り,私はこの映画をちゃんと見た記憶がなく,今回録画していたものを見たのだが,やっぱり初見のようである。結構な映画好きと思っているとは言え,その程度だよなぁと反省せざるを得ないのが実態だ。それはさておき,何ともブラックな笑いを誘う映画であり,勝手にこっちが思っているStanley Kubrickのイメージとは結構乖離した印象さえ与えると言ってもよい。

出てくる主要な登場人物にほとんど真っ当な人間がいないというのは,先日取り上げた「憐みの3章」同様にそもそも笑えるが,中でも無茶苦茶なのがGeorge C. Scott演じるTurgidson将軍。無節操に反共を掲げる人間を揶揄しているとも言えるこの造形は笑えるし,Sterling Hayden演じる血迷ったRipper准将も無茶苦茶なのだが,それでもこの映画は一人三役を演じるPeter Sellersが何よりも強烈。風刺の効いたこの映画で,全く違うキャラを演じ分けるその演技力にはまいったと言わざるをえなかった。

B‐52の飛行シーンなどは特撮と言えないレベルなのは時代ゆえとは言え,ドラマとして見る分にはこのブラックさ加減が,冷戦状況を反映していて何とも面白かった。若干のやり過ぎ感はあるものの,Stanley Kubrickの映画としては実にわかりやすいと思ってしまった。星★★★★☆。それにしても長いタイトルだ(笑)。

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2024年10月 5日 (土)

John Beasleyがビッグバンドで挑むChick Corea集。これが実にカッコいい。

_20241004_0001 "Returning to Forever" John Beasley with Frankfurt Radio Big Band(Candid)

これはストリーミングで聞いて,そのカッコよさにまいってしまい,ついつい現物を発注してしまったもの。共演しているFrankfurt Radio Big Bandと言えば,クリポタことChris Potterを迎えて吹き込んだ"Ritual"が記憶に新しいが,あちらはストラヴィンスキーの「春の祭典」にインスパイアされた曲やクリポタ・オリジナルをやっていて,素晴らしい成果だと思ったが,それに続く本作のテーマはChick Coreaである。そしてこれもまた快作である。

本作を仕切ったJohn Beasleyは今年El Trioで来日を果たし,そのエレクトリック路線のライブも印象に残るものだったが,今回はキーボード奏者としてのみならず,アレンジャーとしてもすぐれた手腕を見せたというところだ。そもそも冒頭の"Captain Señor Mouse"から掴みはOKというところなのだが,ギターをフィーチャーしたこの演奏に痺れてしまう。前半はギターが入ってからのReturn to Foreverのレパートリーで固めているところからして,John Beasleyの嗜好(志向)が表れているように思える。そして後半に第1期RTFの3曲を揃えてバランスを保ったプログラムも上々だ。ビッグバンドゆえに,大編成第3期RTFは敢えて回避したってところだろう。

原曲の良さは保証済みみたいなものなので,演奏は総じて魅力的に響くが,もっと盛り上がってもよさそうな"You're Everything"とのメドレーで演じられる"La Fiesta"のアレンジメントは少々地味という気もする。一方,最後の"Return to Forever"は,ECMでのオリジナル演奏に近いかたちでのアレンジメントで,この曲への強いリスペクトを感じさせる

本作はJohn Beasleyのアレンジメントあってこそではあるが,Frankfurt Radio Big Bandのソロイストの実力も素晴らしいのが,このアルバムの魅力を増幅させたという気がする。少々甘いと思いつつ半星オマケの星★★★★☆としよう。

尚,YouTubeにはライブでの演奏の模様も全編アップされているが,ここは"Captain Señor Mouse"の映像を貼り付けておこう。

Personnel: John Beasley(key, p, arr), Frankfurt Radio Big Band<Heinz-Dieter Saurborn(as, ss, ts, fl, cl, picc), Oliver Leicht(as fl, cl, a-cl), Denis Gäbel(ts, fl), Stefan Weber(ts, fl, cl), Rainer Heute(bs, b-cl), Frank Wellert(tp, fl-h), Thomas Vogel(tp, fl-h), Martin Auer(tp, fl-h), Axel Schlosser(tp, fl-h, p-tp), Günter Bollmann(tb), Felix Fromm(tb), Christian Jaksjø(tb), Robert Hedeman(b-tb, tuba), Martin Scales(g), Hans Glawischnig(b), Jean Paul Höchstädter(ds)

本作へのリンクはこちら。リンク先はストリーミングだが,現物も出ているので念のため。

2024年10月 4日 (金)

46年ぶり(!)にアルバムをリリースしたDane Donohueの初作。AORだ(笑)。

_20241001_0002 "Dane Donohue" (Columbia)

先日,46年ぶりとなる"L.A. Rainbow"をリリースしたDane Donohueが1978年にリリースしたデビュー・アルバム。最近はかつてのAORと呼ばれた音楽をヨット・ロックなんて言うこともあるようだが,私の年代にとってはAORこそ適切な呼称だ(きっぱり)。それはさておき,46年ぶりというインターヴァルが凄過ぎるが,このアルバムが出た頃はそれこそAOR全盛と言ってもよいかもしれない。パンク・ロック好きな連中とは話も合わないし,合わせたくもないと思っていたパンク嫌いの私であった(笑)。

それにしても典型的と言ってもよいAORサウンドだが,プロデュースをしているのがTerence Boylanというのを見て,妙に納得感があった。"Can’tBe Seen"や"Tracey"のような曲にそこはかとなく感じられるSteely Dan的な部分は,Terence Boylanつながりってところか。久しぶりに聞いてみると,あの頃の時代感を醸し出していて,何とも嬉しくなってしまったのであった。このアルバムを購入したのはずっと後になってからであるが,何だかんだ言って,こういうのが好きな私である。

バックのミュージシャンのクレジットを眺めるのも楽しいが,Larry Carltonが誰が聞いてもLarry Carltonというソロを聞かせるのも嬉しい。もちろん,これより好きなAORのアルバムはいくらでもあるが,当時は全然売れなかったとしても,これはこれで見逃すのは惜しいと思える作品。星★★★★。新作もストリーミングで聞いてみることにしよう。

Personnel: Dane Donohue(vo, g), Larry Carlton(g), Jay Graydon(g), Steve Lukather(g), Jai Winding(p,, key, vo), Victor Feldman(vib, el-p, perc), David Getreau(p, el-p), Jeff D'Angelo(b), Bob Glaub(b), Scott Edwards(b), Chuck Rainey(b), Andy Smith(ds), David Kemper(ds), Ed Greene(ds), Steve Forman(perc), Ernie Watts(sax), Steve Madaio(tp, fl-h), Chuck Findley(tp, fl-h), Slyde Hyde(tb), Gary Herbig(ts, fl), Tom Saviana(ts, fl), Don Henley(vo), Stevie Nicks(vo), J.D. Souther(vo), Tim Schmit(vo), Herb Pedersen(vo), To Kelly(vo), Bill Champlin(vo), Angelle Troscair(vo)

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2024年10月 3日 (木)

素晴らしくも静謐な雰囲気のNorma Winstoneの新作。

_20241001_0001 "Outpost of Dreams" Norma Winstone / Kit Downes (ECM)

とうに傘寿を過ぎたNorma Winstoneの新作。リリースされたのは少々前になるが,買い合わせの関係で今頃の入手となった。ECMでの前作,"Descansado: Songs for Films"はその名の通りの映画音楽集であったが,今回は自身もECMにリーダー作を持つKit Downesとのデュオ作。全10曲中,1曲のトラッドを除いて,全てNorma Winstoneが詞を書いている。

Ralph Towner好きの私としては"Beneath an Evening Sky"についつい注目してしまうが,これがまたよいのだ。そのほかにもJohn TaylorやらCarla Bleyやらの曲も選んでいるが,曲の良さもあるが,Norma Winstoneの声に衰えが感じられないところが凄い。もちろん,ヴォーカリストとしてのピークとは言えないだろうから,やや危なっかしいと思わせる部分がない訳ではない。しかし,Kit Downesの適切かつ楚々とした美しいバッキングもあり,瑕疵と感じさせないレベルであるし,何よりも傘寿を過ぎていることを考えればこの歌いっぷりは見事と言うしかない。

こうした活動を見ていると,クリエイティブな活動をしている人には「老い」というものがないのかとさえ思わされる。Charles Lloyd然りであるが,精神的に矍鑠としているのは頭や指を使っているからだと思ってしまう。私もせいぜい見習わねば。因みにKit DownesはかつてECMでもプロデュースを務めたSun ChungのRed Hookレーベルで,Bill Frisell,Andrew Cyrilleと"Breaking the Shell"というかなりアバンギャルド度の高いアルバムを出しているが,そのAndrew Cyrilleだって84歳だしなぁ。ミュージシャンには年齢差とかは関係ないらしいが,ここでのKit Downesとは全然違うのも面白い。共演者によって演奏スタイルを完全に分けているのも見事なものだ。星★★★★☆。

Recorded in April, 2023

Personnel: Norma Winstone(vo), Kit Downes(p)

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2024年10月 2日 (水)

Mike Sternの新作の現物がようやく到着。力入ってるねぇ(笑)。

_20240930_0001 "Echoes and Other Songs" Mike Stern (Artsitry Music)

マイキーことMike SternがMack Avenue傘下のArtistry Musicレーベルに移籍しての第一作がようやく到着である。当然私はストリーミングでも聞いていたが,今回のアルバム,収録時間は77分超えということもあり,聞き終わると結構なボリュームで,これは力が入っていると思ってしまう。そして比較的固定的なメンツというのも珍しいが,これがおそらくはプロデューサーも兼ねつつ全面参加のJim Beardの呼び掛けで出来たのではないかとも思える。Jim Beardは今年の3月に63歳で亡くなったが,本作が遺作と言ってもよいだろうが,ここに集ったミュージシャンはいつものマイキーのアルバムにも増して豪華なものになっている。

中でも私にとって嬉しいのは,全11曲中8曲でクリポタことChris Potterがテナーを吹いていることだ。そしてその曲でドラムスを叩いているのはAntonio Sanchezなのだから,これは今までのマイキーのアルバムにはなかったし,Christian McBrideもアコースティック,エレクトリックの両刀使いで同じ8曲に参加しているのだ。これはいまだかつてないと言ってもよい取り合わせと言ってよく,このクレジットを見るだけで興奮してしまった。

出てくる音はいつものマイキー節である。オーバードライブをぶちかますところもあれば,コーラスを効かせてマイキーらしいフレージングを聞かせるのは,こっちが期待するマイキーの音楽であり,それがこのようなメンツで聞けるというところがこのアルバムのポイントだ。中には"Crumbles"のようにフリーっぽい音を聞かせてびっくりさせるところもあるが,最後に収められた"Could Be"もややフリー的なイントロから出てくるメロディ・ラインは"Straight No Chaser"を解体したような4ビートになだれ込むというもので,これもなかなかユニークではあったが,全編に渡ってマイキー・ファンにとっては納得のアルバム。まぁ,私の場合は完全なマイキー推しなので,大概のアルバムには満足してしまうが,この力の入りようはある意味微笑ましくもある。

ただ,昨今のライブにも同行することが多いLeni Sternのngoniはこのアルバムに必要だとは思えないし,ライブの場でも彼女に感じるのはコンセプトの違いである。マイキーにも家庭内力学はあるだろうが,私はLeni Sternには彼女がEnjaで作っていたようなサウンドでやって欲しいといつも思っているから,ここは敢えて苦言を呈したい。また,ここでRichard Bonaが歌っている曲はライブではマイキーが歌っちゃうんだろうなぁ(笑)。

とは言いつつ,マイキー,クリポタ,Christian McBride,Antonio Sanchezで8曲聞けることで半星は確実に得をして,星★★★★☆。これも偏にJim Beardのおかげかもしれないな。

Personnel: Mike Stern(g, vo), Chris Potter(ts), Bob Franceschini(ss, ts), Jim Beard(p, key), Christian McBride(b), Richard Bona(b, vo), Antonio Sanchez(ds), Dennis Chambers(ds), Arto Tunçboyacian(pec), Leni Stern(ngoni)

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2024年10月 1日 (火)

Alan Parsons Projectの「運命の切り札」:アルバムにはあまり手が伸びないんだよなぁ。

_20240928_0002 "The Turn of a Friendly Card" Alan Parsons Project(Arista)

私は結構Alan Parsons Projectの音楽は好きな方だが,特に初期の作品についてはアルバム単位でプレイバックしようという気になかなかならないというのも事実だ。佳曲は含まれているものの,アルバムに手が伸びることはあまりないのだ。私にとっては彼らの最高傑作は"Eye in the Sky"だと思っているし,"Eye in the Sky"が好き過ぎるというところも影響しているかもしれない。そういうこともあり,私がAlan Parsons Projectの音楽を聞く際に手に取るのは3枚組のベスト盤"The Essential Alan Parsons Project"であることが多いのだ。

その3枚組にもこのアルバムからは全10曲中8曲が収録されているから,そっちを聞いていればこのアルバムのいいところは聞いたことになっているからそれで十分だという考え方もできる。まぁそうは言っても,このアルバムにはこのアルバムの意義があって,Eric Woolfsonがリード・ヴォーカルを取ったのは本作が初だったことだ。私はEric Woolfsonの声に結構惹かれていることもあり,ここでも名曲"Time"を披露しているが,本作以降のアルバムにおいて,Eric Woolfsonのヴォーカルの位置づけは一気に上がることを考えれば,本作はそうした意味でも認められなければならないだろう。

本作ではオーケストラもいかにもな感じで使っているし,Ian Bairnsonのギターは相応にカッコいいから,それなりに楽しめるが,やはり"Eye in the Sky"と比べちゃうとなぁ...というところは否めない。ということで星★★★☆ぐらいにしておこう。それにしても,パリの録音で参加したサックス奏者とアコーディオン奏者の名前が「不明」ってのは笑えるなあ。

Personnel: Alan Parsons(key, vo, projectron, finger clicks), Eric Woolfson(vo, p, org), Ian Bairnsen(g), David Paton(b, g), Stewart Elliott(ds, perc), Chris Rainbow(vo), Elmer Gantry(vo). Lenny Zakatek(vo), Andrew Powell(arr), The Orchestra of Munich Chamber Opera

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