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2024年9月30日 (月)

「憐みの3章」:何ともブラックな映画であった。

Kinds-of-kindness

「憐みの3章("Kinds of Kindness")」('24,英/米/ギリシャ/アイルランド, Searchlight)

監督:Yorgos Lanthimos

出演:Emma Stone, Jesse Plemons, Willem Defoe, Margarert Qualley, Hong Chau, Mamoudou Athie, Yorgos Stefanakos

「哀れなるものたち」も記憶に新しいYorgos Lanthimosの新作である。3話のオムニバス形式と認識していたので,私の世代だと「世にも怪奇な物語」的な形式かと思っていたら,同じ役者で全く違うストーリーを描くというものだったのには少々驚いた。しかし,出てくる登場人物はほとんどまともではないというある種のブラック・コメディ。

3話は「R.M.F.の死」,「R.M.F.は飛ぶ」,「R.M.F.はサンドイッチを食べる」という人を食ったタイトルが付いていることからしても,まぁ尋常ではないということがわかってしまう。Yorgos StefanakosがタイトルにあるR.M.F.という役回りと考えてよいが,これが完全な狂言回しなのだ。

世の中,おかしな人間なんていくらでもいるが,各々のストーリーの主人公を見ていると,まさに狂気を感じさせるというのがこの映画のテーマだろうが,「哀れなるものたち」から続くブラック度は日本で受けるかどうか...ってところだろう。まともでない人間を演じる役者陣はそれを楽しんでいるかのようでもあるが,リアルな世界ではこんな奴らには出会いたくないよなぁと映画を見ながら思っていた私であった。星★★★☆。まぁ面白いことは面白いが。いずれにしてもここでもWillem Defoeはクセ強過ぎ(笑)。

2024年9月29日 (日)

Tord Gustavsen待望の新作。やっぱりいいですわぁ~。

_20240928_0001 "Seeing" Tord Gustavsen (ECM)

諸般の事情から1日で復活だ(笑)。

前作"Opening"から約2年半の時を経てリリースされたTord Gustavsenの新作である。前作ではエレクトロニクスも使用していたが,今回はアコースティックに専念し,不動のトリオにより,彼ららしい内省的で思索的な音楽を展開している。

このいかにもECMらしい演奏やサウンドを好物とする私にとっては,Tord Gustavsenのトリオのアルバムは常に待望と言ってもよい。ストリーミングが主流となったご時勢においても,必ずフィジカルな媒体を購入したくなる人なのだ。

Tord Gustavsenの音楽はかなり濃厚に宗教に紐づいており,祈りにも似たところを感じさせるのはいつもの通りであるが,それこそ居酒屋で有線で掛かっているようなジャズとは完全に一線を画するものだ。 この静謐な音楽に対して魅力を感じるか否かは完全にリスナーの好みではあるが,私にとっては身体がこういう音楽を求めることもあるという点において,重要にして欠くべからざるミュージシャンであり,アルバムだ。星★★★★☆。

Recorded in October 2023

Personnel: Tord Gustavsen(p), Steinar Raknes(b), Jarle Vespestad(ds)

本作へのリンクはこちら

2024年9月27日 (金)

諸般の事情により

数日更新が滞る可能性がありますが,ご了承願います。

2024年9月26日 (木)

高橋アキ@豊洲シビックセンターホールを聞く。

Photo_20240925074601

現代音楽のスペシャリストと言ってもよい高橋アキである。彼女の現代音楽のアルバムについては結構な数を保有するに至った私であるが,その一方でシューベルトにも取り組んでいることは認識していても,私にとってシューベルトのピアノ曲と言えば,Radu Lupuと決まってしまっているので,いくら高橋アキの音楽に接する機会が多くても,そこまではフォローしていなかった。しかし,今回は現代音楽3曲+シューベルトのD.960というプログラムだったので,私にとっては高橋アキの初生演奏ということで,会場の豊洲シビックセンターホールに行ってきた。

このホール,上の写真を見て頂ければわかるが,ガラス張りで,遠くにはレインボー・ブリッジも見えるというなかなか小じゃれたヴェニューであり,キャパは300人という高橋アキを聞くには適切なサイズと言ってもよいホールであった。聴衆は7割程度の入りってところだったように思う。高橋アキは毎年のようにここでリサイタルを開いており,常に現代音楽にシューベルトの曲を加えるというプログラムで臨んでいるようだが,今回は大曲,ピアノ・ソナタ第21番をメインに据えるというものであった。

舞台に登場した高橋アキは今年で傘寿を迎えた訳だが,その佇まいはずっと若々しく見え,凛とした風情さえ感じさせるのがまず凄い。私もこうした後期高齢者となりたいと思ってしまったのがまず第一印象。前半は現代音楽3曲で,冒頭は去る7月にこの世を去った湯浅譲二の「内触覚的宇宙」からスタート。このアブストラクトな響きがたまらん!ということで,こういう音が好物の私は最初から痺れてしまった。続く佐藤聰明とPeter Garlandの2曲は献呈曲,世界初演となったが,どちらもアブストラクト度は控えめで調性の範囲内での曲に思えた。私にとっては会場にも来ていた佐藤聰明の"Pieta"におけるサステインの効いた響きが印象的であった。それに比べるとPeter Garlandの"Autumn"はやや印象が薄い。高橋アキが弾いた"Birthday Party"を聞いた時にも思ったが,どうも私はこのPeter Garlandの曲と相性がよくないようだ(それに関する記事はこちら)。

第一部は3曲で35分程度で休憩に入り,第二部がシューベルトである。上述の通り,私にとってはRadu Lupuによる刷り込みが強い。しかし,Lupuが2012年にオペラシティでD.960を弾いた時にも若干の違和感を覚えていたと書いているから,それも大したことではないかもしれない。今回の高橋アキの演奏に関しては独特の間合いのようなものを感じさせるもので,特に第1楽章の演奏時間がやや長めで,好き嫌いが分かれそうだと思っていた。その辺りは個人の主観に任せるが,これはこれでありだとしても,私が高橋アキに惹かれるのは,やはり現代音楽の方だなと思っていたのは事実であった。アンコールは小曲を2曲。曲名はよく聞き取れなかったが,カメラータ東京のサイトに情報がアップされたらこのページも更新したい。

演奏終了後にサイン会もあって,後ろ髪を引かれる思いだったが,何分現地で売られていたほとんどの現代音楽のCDを保有している私としては,購入するものがなかったので,それは来年のリサイタルに取っておこう。

Live at 豊洲シビックセンターホール on Septeber 24, 2024

Personnel: 高橋アキ(p)

2024年9月25日 (水)

録りだめしたビデオで見た「マンハッタン無宿」。懐かしさに加え,素朴ささえ覚える。

Cougans-bluff 「マンハッタン無宿 ("Cougan’s Bluff")」('68,米,Universal)

監督:Don Siegel

出演:Clint Eastwood, Lee J. Cobb, Susan Clark, Don Stroud, Tisha Sterling

この映画を見るのがいつ以来かすら全く記憶にないが,TV放映では見たことがあるはずだ。後の「警部マクロード」の元ネタになったとも言われている作品だが,それよりもその後,名コンビとして鳴らすClint EastwoodとDon Siegelの第一作となったことの方が重要と思える。久しぶりに見て,細かいところは忘れていても,大体のプロットやバイクのチェース・シーンは記憶に残っていた。

まぁ作品自体は他愛のないアクション映画だと言ってもよく,今となっては素朴な味わいさえ感じさせると言ってもいいのだが,もう半世紀以上前の映画だからそれは当たり前と言ってもよいだろう。60年代後半のNYCの風景を見ると,その後,私が在住していた頃とは随分違うのは当然だが,ロケーション場所として,メトロポリタン美術館の分館であるクロイスターズが出てきて,郷愁を誘われてしまったところもある。

Cloisters 余談ながら,クロイスターズは中世美術が集まった渋い美術館で,回廊が魅力的な場所だった。地下鉄で190丁目駅まで行く必要があるということもあって,なかなか日本人観光客は行くことは少ないだろうが,私が訪れたのはNYC在住中で,治安もあまりよくない時代であったから,地下鉄の駅からの落書きだらけのトンネルが無茶苦茶長く感じたのも懐かしい。

また,劇中には60年代後半のサイケな感覚を感じさせるシーンもあって,とにかく時代を感じさせる。シナリオはそううまく行かんだろうというところもあるが,映画自体は結構楽しく見られるが,星★★★という評価が適切だろう。

Albert-popwell そしてこの映画で何より笑ってしまったのが,ここにもAlbert Popwellが出演していたこと。この人,「ダーティハリー」の第1作でHarry Callahanからすごまれる強盗役(右の写真)から始まって,第4作ではEastwoodのパートナー役まで連続出演していたのだが,その源流はここだったのか!なんて思ってしまったのであった。「ダーティハリー」でClint EastwoodがAlbert Popwellに放った次のセリフは有名だよねぇ。かつては私もよく真似したもんだ(爆)。

Uh uh. I know what you're thinking. "Did he fire six shots or only five?" Well to tell you the truth in all this excitement I kinda lost track myself. But being this is a .44 Magnum, the most powerful handgun in the world and would blow your head clean off, you've gotta ask yourself one question: "Do I feel lucky?" Well, do ya, punk?

本作のBlu-rayへのリンクはこちら

2024年9月24日 (火)

随分前に買ったMiles Davisのブートレッグ。

_20240919_0002"Royal Festival Hall 1985 Second Show" Miles Davis (Bootleg)

これは随分前に購入したブートレッグ。久しぶりに取り出して聞いてみたが,1984~85年当時のMiles Davisのバンドはそのメンツのよさもあって,復帰後のキャリアの中でも最もカッコよかったと私は思っている。だって,Bob Berg,John Scofield,それにDarryl Jonesが揃っていればそりゃあハードボイルドだ(笑)。しかも85年になると,ドラムスはAl FosterからVince Wilburnに代わって,ビートの跳ね方がよりはっきりした。

ただねぇ,このブート,放送音源をソースとするらしいから音はいいんだが,いかんせん放送時間に合わせて6曲しか入っていないのはもったいない。演奏は楽しめるが,この頃のMilesのバンドは演奏時間はもっとたっぷりやっていたのは,20枚組Montreuxボックスでもわかっている。Montreuxでの1985年7月14日の演奏は昼夜2回公演が各々CD2枚に収められていて,トラック数はどちらも14になっている。それに比べるとこの6曲はダイジェストに過ぎないって思ってしまう訳だ。

この当時の絶好調と言ってよいMiles Davisのバンドの音をもっと「浴びたいっ!」と思うリスナーにとっては,この程度では欲求不満にならざるをえないブートレッグ。カッコいいんだけどねぇ。だから惜しいのだ。そして結局Montreuxのボックスを取り出して,フルでの演奏を聞きたくなってしまうという副次的効果をもたらすブートレッグ(笑)。

Recorded Live at Royal Festival Hall on July 20, 1985

Personnel: Miles Davis(tp, key), Bob Berg(ts, ss, key), John Scofield(g), Robert Irving, III(key), Darryl Jones(b), Vincent Wilburn, Jr.(ds), Steve Thornton(perc)

2024年9月23日 (月)

改めてJ.D. Southerを偲んで,彼の1stアルバムを聞く。

_20240919_0001"John David Souther" (Asylum)

先日亡くなったJ.D. Southerは6番目のEaglesと言われたぐらい,Eaglesとは縁の深い人であった。もともとGlenn Freyとバンドを組んでいたのだから当たり前と言えば当たり前だが,長きに渡ってEaglesの曲への貢献も果たしてきた人であった。そんなJ.D. Southerの最初のソロ・アルバムはEagles的なカントリー・ロック・フレイヴァーに溢れた作品である。

このアルバムが出たのが1972年であるから,もう半世紀以上前の作品であることを考えれば,時代を感じさせるのは仕方ないとしても,その時代感が私たちの世代には懐かしく響くのである。しかも聞こえてくるのはJ.D. Southerな瑞々しい声なのだ。本作に収められた曲は少々地味という気もするが,それでもいい曲を書き,いい声で歌う優れたシンガー・ソングライターであった。

尚,CDのクレジットによれば,バック・コーラスを含めて,全てJ.D. Southerが歌っているように見える。普通ならここにゲスト・ヴォーカルを迎えるのが,ウエスト・コーストのアルバムではよくあるところなのだが,このクレジットが本当なら結構珍しいと思う。

改めてR.I.P.

Personnel: John David Souther(vo, g, p, b), Ned Doheny(g), Glenn Frey(g), Wayne Perkins(g), David Jackson(p, b), Bryan Garofalo(b), Mike Bowden(b), Gary Mallaber(ds, p, vib), Mickey McGee(ds), John Barbarta(ds), Gib Guilbeau(fiddle), Joel Tepp(harp)

本作へのリンクはこちら

2024年9月22日 (日)

「太陽がいっぱい」からの流れで「リプリー」をNetflixで見た。

Talented-mr-ripley「リプリー ("The Talented Mr. Ripley")」(’99,米,Paramount)

監督:Anthony Minghella

出演:Matt Damon, Gwyneth Paltrow, Jude Lowe, Cate Blanchett, Philip Seymore Hoffman, Jack Davenport

先日,Alain Delonを偲んで,「太陽がいっぱい」を見た流れで,そのリメイクである本作をNetflixで見た。「太陽がいっぱい」も旅情をかき立てるシーンが相応にあったが,この映画もイタリア国内の名所がバンバン出てきて,以前のイタリア旅行の時を思い出してしまった私である。

それはさておき,この映画は「太陽がいっぱい」よりもPatricia Highsmithの原作への忠実度が高いらしいが,「太陽がいっぱい」と同じようなシークエンスも見られるところが面白い。まぁ原作が一緒なのだから,翻案の仕方に違いこそあれ,そうなることはまぁ納得できるが,エンディングはどちらもほろ苦いものの,受ける感覚はだいぶ違う。

Matt Damon演じる嘘を重ねる主人公Tom Ripleyが,結果的に犯罪を重ねることになるというストーリーを,本作ではよりサスペンスフルに仕立てた感じがするので,「太陽がいっぱい」より更にダークでピカレスクな印象がある。それが風光明媚なイタリアの観光地の風景と対照的なところが何とも皮肉に映る。「太陽がいっぱい」とどっちが好きかは見る人によって異なるだろうが,本作が「太陽がいっぱい」よりもテンション高めなことは間違いないだろう。

まぁ,Jede Loweが演じるDicky Greenleafがジャズ好きということもあって,演奏シーンやレコードを視聴するシーンなど,音楽好きが注目してしまうシーンもあり,それはそれで楽しめる。但し「やっちゃった」というのが1958年が舞台にもかかわらず,Miles Davisの"Tutu"のLPレコードのジャケットがばっちり映るシーンには笑ってしまったが。時間軸が完全にずれてまっせ(笑)。

いずれにしても,「太陽がいっぱい」と比較されることが避けられない中で,結構楽しめる作品ではあったが,Alain Delonと比べると,Matt Damonがあまり野心的に見えない。ここではむしろJude Loweのエキセントリックな感じの方が印象に残るってところか。映画としてはそこそこよく出来ているので星★★★★。

次はNetflixでドラマ版でも見るか(笑)。

本作のBlu-rayへのリンクはこちら

2024年9月21日 (土)

映画で使用されたStingの曲を集めた好コンピレーション。

_20240916_0002"Sting at the Movies" Sting (A&M)

Stingほど人気のあるミュージシャンであれば,既発音源であろうが,サウンド・トラックへの客演であろうが,いろいろニーズがあるだろうことは想像に難くない。事実,結構な数の映画でStingの歌は聞くことができて,そうした音源を集めたこういうコンピレーションは便利でよい。

私がこのアルバムを買おうと思ったのは,Ridley Scottが撮った「誰かに見られてる("Someone to Watch over Me」)の確かエンディングで聞かれたStingのタイトル曲が印象に残っていたからである。この映画,レンタルで見たか,劇場で見たかも記憶がはっきりしないのだが,映画の内容はよく覚えていなくても,このStingの歌は記憶に残っていた。この曲はGershwin兄弟が書いた大スタンダードであるが,Stingのしっとりした歌いっぷりがいいねぇと思ったはずだ。しかし,そのためだけにサントラ盤を買うようなことはないし,ほかにもサントラ盤でしか聞けない曲も収められているから,このアルバムは財布にもありがたいのだ。例えば"It's Probably Me"は「リーサル・ウエポン 3」のサントラ盤ヴァージョンだし,"Moonlight"は映画「サブリナ」のサントラ盤でしか聞けないはずだ。

"Someone to Watch over Me"の線で言えば,このコンピレーションには"Angel Eyes"や"My One and Only Love"も聞けるが,こういうムーディな感覚もOKなのがStingの魅力ってところだろう。もちろん,本作に収められた「新曲」で最もヒットしたのはディズニー映画版「三銃士」のテーマ曲"All for Love"だろうが,それはSting個別というよりも,Bryan Adams,Rod Stewartとの共演という要素が強かったからだと言ってもよい。それはそれでよいとしても,私はこのアルバムではスタンダードを歌うStingを聞きたいという思いの方が強かったというのが正直なところである。

このアルバムが出たのは1997年のことだから,その後もStingの歌声は数々の映画で聞けるはずだが,この後では「トーマス・クラウン・アフェア」での「風のささやき("Windmills of Your Mind")」もよかったねぇ。スタンダードが似合う人なのである。

本作へのリンクはこちら

2024年9月20日 (金)

SF Jazz Collectiveの2021年の記録。

_20240916_0001"New Works Reflecting the Moment" SF Jazz Collective (SF Jazz)

SF Jazz Collectiveが来日してBlue Note東京でのライブを聞かせたのは23年の10月だったから,既に1年近くの時間が経過している。その時に会場で彼らのライブ盤2021年と22年のライブ盤は購入したのだが,22年盤については既に記事化したものの(記事はこちら),今日取り上げる21年盤はプレイバックもしないまま放置してしまっていた。そんなことではいかん(笑)ということで,ようやく本作を聞いたのだが,放置した自分がバカだったと言いたくなる。

バンドのメンバーはトランペットを除いて22年盤と同様だが,こちらの特徴はヴォーカリストが2名加わっていることだ。しかもそのうちの一人はGretchen Parlatoである。それだけで期待値も上がるし,サウンドもある程度は想定されてくる。

ここで聞かれるサウンドは2022年盤同様,コンテンポラリーな響きであり,Gretchen Parlatoのウイスパー・ヴォイスも効いている。メンバーのオリジナルに加え,Abbey Lincolnの"Throw It Away"やMarvin Gayeの"What’s Going on"をやっているが,冒頭の「黒人のための国歌」とも称される"Lift Every Voice and Sing"から完全に掴みはOKである。そこからWarren Wolfのオリジナル"Vicissitude"へのスリリングな演奏へのは流れは完璧と言いたくなようなゾクゾク感であった。

実力者が各人の個性を反映させながら,バンドとしてのクリエイティビティに貢献し,確保しているさまは,聞いていて実に心地よい。これも偏に音楽監督としてのクリポタことChris Potterの手腕に依存するところもあろうが,それにしても実にレベルの高いライブ演奏であり,昨年のライブを観た時の感動が蘇る。そしてここでもKendrick Scottのドライブ感溢れるドラムスは見事であった。星★★★★☆。

彼らがTiny Desk (Home) Concertで演奏した時の模様がアップされているので,貼り付けておこう。

Personnel: Chris Potter(music director, ts, ss, b-cl, a-fl), David Sánchez(ts), Mike Rodriguez(tp), Warren Wolf(vib), Edward Simon(p, el-p), Matt Brewer(b), Kendrick Scott(ds), Gretchen Parlato(vo), Martin Luther McCoy(vo)

本CDにご関心のある方はSF Jazzのサイト(こちら)で購入可能。

2024年9月19日 (木)

追悼,J.D. Souther。

Jd-souther

J.D. Southerが亡くなった。本人はツアーを控えていたようなので,まさに急死というところではないか。

本人自身のアルバムに加え,Eaglesとの作曲面でのコラボレーションや,Linda Ronstatdtをはじめとする数々のミュージシャンへの曲の提供やバック・コーラスとしての参加を通じて,印象深い活動を行ってきた。思い起こせばアルバム"Tenderness"のリリースを受けた,2015年の大阪でのライブに接することができたことは,今となっては貴重な機会となってしまった。

年齢を重ねても瑞々しさを失わなかったJ.D. Southerのアルバムを改めて聞いて,彼の業績を偲びたい。まずはAsylumの2作を聞くことにしよう。

R.I.P.

2024年9月18日 (水)

"Wave":なぜかPatti Smithのアルバムで買い残していたアルバム。

_20240914_0001 "Wave" Patti Smith (Arista)

私は遅れてきたPatti Smithのファンだ。それまでだって,アルバムを買っては痺れていたのも事実なのだが,私が本当の意味でPatti Smithに惚れこんでしまったのは,オーチャード・ホールで彼女のライブを観た2013年以降のことと言ってもよいかもしれない。その時に私はPatti Smith教入信なんて書いている(その時の記事はこちら)。それほど私にとって魅力的なミュージシャンとしての位置づけを獲得した訳だが,その後,Patti Smithは全部買うというつもりでいたのだが,このアルバムだけなぜか買い残していた。

このアルバムのポイントはTodd Rundgrenのプロデュースということだろう。そのせいもあるかもしれないが,このアルバムのそれまでのアルバム以上のポップさを感じることができる。特にLP時代で言えばA面にその傾向が顕著。そもそも"Byrds"の"So You Want to Be (a Rock 'N' Roll Star)"をカヴァーしているし,Robert Mapplethorpeが撮ったジャケ写真からして雰囲気が違うのだ。

私はデビュー・アルバム"Horses"や,現役に復帰して以降のアルバムに並々ならぬ思い入れがある方なので,それに比べると多少印象は薄い部分はあるのだが,私にとっては何分教祖様ゆえ,これもありだというところには変わりはない。特にA面相当の前半の響きは魅力的に感じる。まぁ全体的に見れば星★★★★という評価が適切って気がする。

Personnel: Patti Smith(vo, p), Jay Dee Daugherty(ds), Lenny Kaye(g, b, vo), Ivan Kral(b, g, cello, key), Richard Sohl(p, ocean), Andi Ostrowe(perc), Todd Rundgren(b)

本作へのリンクはこちら

2024年9月17日 (火)

Dire Straitsの最終作となったライブ・アルバム。

_20240911_0002"On the Night" Dire Straits (Warner Brothers)

Dire Straitsというバンドが出てきた時は,何じゃこれは?と思ったのも懐かしい。Bob DylanフォロワーあるいはJ.J. Caleフォロワーみたいなバンドが何でバカ売れしているんだと感じたのが,"Sultans of Swing"が売れていた頃だから,1978年ぐらいのことだ。その後,"Money for Nothing"が更に売れて,スタジアム級の場所でライブを行うようになったということだと思うが,どう考えてもそういう場所より,もっとこじんまりした場所の方が似合いそうな音楽だとは思う。

ある意味,Dire Straitsのやっていた音楽は渋いものだったと思うのだが,売れるきっかけはオランダでのヘビロテだったらしいから,何があるかわからない。その後もオランダでは英国本国同様に売れるというのは実に不思議な現象のようにも思える。

このアルバムは再結成後のアルバムゆえ,最初期の曲は含まれていないが,全10曲で75分超というのは,彼らのやっている音楽を考えるとへぇ~って気もする。プログレでもないのに(笑),1曲当たりの演奏時間が結構長いのだ。10分超えの曲が2曲あるし,一番短い曲でも5分を超えている。まぁライブならではってこともあるが,若干冗長な感じがするのは避けられないってところではある。いずれにしてもMark Knopflerの歌いっぷりは全然変わらないし,ギターの腕も全然変わらない。ギターを弾きまくっているので,演奏時間が長くなったとも感じられるが,それにしてもよくやるわ。

まぁ実力者揃いのバンドであるから,それなりに楽しめる真っ当なライブ演奏ではあるが,やっぱりちょっと長いなぁ。ってことで星★★★☆。よほどのファンでもないなら,Dire Straitsを聞くなら,これよりベスト盤の方がいいだろうな。

Personnel: Mark Knopfler(vo. g), John Illsley(b, vo), Alan Clark(p, org, synth), Guy Fletcher(synth, vo), Chris White(sax, fl, vo), Paul Franklin(pedal steel), Phil Palmer(g, vo). Danny Cummings(perc, vo), Chris Whitten(ds)

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2024年9月16日 (月)

Depeche Modeの2ndアルバム:何とも懐かしい。

_20240911_0001 "A Broken Frame" Depeche Mode (Mute)

確か私が初めてDepeche Modeの音楽に触れたのがこのアルバムだったはずである。このブログの読者の皆さんには,私がロックに関しては相当なアメリカ指向が強いことはバレバレだと思うが,それでもブリティッシュもそこそこは聞いている。但し,パンクはほとんど無視である(きっぱり)。

このアルバムもそうだが,Depeche Modeの音楽のイメージはウェットな感覚があって,抜けのよいアメリカン・ロックとはかなり雰囲気が異なるにもかかわらず,結構このアルバムは初めて聞いた時から気に入っていたと思う。基本的にウェットな雰囲気が強い中で,5曲目の"See You"や7曲目の"The Meaning of Love",更には8曲目の"Photograph of You"のようなポップさを感じさせる曲もあり,いい感じのバランスだと思って聞いていればいいかもしれない。まぁ彼らは結構熱烈なYMOのファンだったって話もあるから,これらの曲にはYMOの影響もありかもしれない。ある意味バラエティに富んでいるって感じもするが,それもまたよしってことで星★★★★。

このアルバムが出たのは1982年だったが,Depeche Modeは現在も現役,しかも英国ではチャートの上位に入る人気バンドであり続けているというのも凄いことだが,まぁ普遍的な魅力を持つ曲を書いているってことかもしれない。

Personnel: Depeche Mode<Dave Gahan, Martin Gore, Andrew Fletcher>

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2024年9月15日 (日)

改めてAlain Delonを偲んで録りだめしたビデオで見た「太陽がいっぱい」。

Plein-soleil「太陽がいっぱい("Plein Soliel")」(’60,仏/伊)

監督:René Clément

出演:Alain Delon, Maurice Ronet, Marie Laforêt, Erno Crisa, Billy Kearns

先日亡くなったAlain Delonを偲んで「黒いチューリップ」を見て,当ブログにも記事をアップしたが,やはりAlain Delonを偲ぶならこっちだろうということで,録りだめしてあったビデオでこの映画を久しぶりに再見した。

つくづく自分の記憶は曖昧だなぁと感じたのだが,ラスト・シーンは実によく覚えていたのに,そこに至るストーリーはわかっていても,オープニングのシーンを含めて,細かい描写や筋書きの一部を失念していたのには我ながら呆れてしまった。それはTV放映された短縮版を見ていたからということもあり得るが,それにしても記憶とは曖昧なものだと思ってしまった。

それはさておき,Patricia Highsmith原作となる本作は,後にMatt DamonがAlain Delonが演じたTom Ripleyを演じて「リプリー」としてリメイクされたが,そちらは未見ながら,ストーリーはかなり近しいものらしいから,そっちも見たくなってしまった私である。

こちらの映画は時代が時代ゆえに,科学捜査されたら一発でバレバレだろうと言いたくなるような部分があったり,各地の観光風景を交えて旅情をかき立てる部分があったりと,現代の感覚で言えば少々の古臭さも感じられる訳だが,いかんせん製作されたのは60年以上前なのだ。そういうものだと思って見れば腹も立たないし,何よりもAlain Delonの美男子ぶりが圧倒的である。片や名優Maurice Ronetは性格の悪いボンボン,Philippe Greenleafを演じる一方,Margeを演じるMarie Laforêtのデビュー作となった訳だが,やはりこの映画はAlain Delonのためにあったと思ってしまう。

いずれにしても,Alain Delonの名声を確立するのに貢献したことは間違いなく,改めて見ても印象深い映画であった。

改めてR.I.P.

本作のBlu-rayへのリンクはこちら

2024年9月14日 (土)

O.V. Wrightのディープ・ソウルにしびれる。

_20240910_0003 "A Nickle and a Nail - and - Ace of Spades" O.V. Wright (Back Beat)

実に不思議なことだが,このブログにおいてWrightはWrightでもLizz Wrightはかなりの頻度で登場しているが,O.V. Wrightについては一度も記事化していないというのには我ながら驚いた。Hiレーベルのアルバムに加えて,ボックス・セットだって保有しているにもかかわらずだ。なんでやねん?

まぁそれはさておき,ボックス・セットの一枚である本作を久しぶりに聞いたが,聞いていて完全に痺れてしまった。70年代後半にHiレーベルで復活を遂げて,"Into Something (Can’t Shake Loose)"が話題になっていた頃は,まだ私はソウルの世界には到達していない。しかし,その後,年齢を重ねてソウルの良さにも触れる中で,O.V. Wrightの声は100%私の好みとは言えない部分もあるのだが,改めてこのアルバムを聞いて,そのディープな歌いっぷりの魅力を再確認した。

Willie Mithcellプロデュースの下,メンフィスでレコーディングされた本作は,これぞサザン・ソウルという感じで,実に素晴らしい。このアルバムを聞いていると最高!としか言えないではないか。これはマジでたまらん。ほかのアルバムも聞かねば。当然星★★★★★である。

Personnel: O.V. Wright(vo), Mobon "Teenie" Hodges(g), Leroy Hodges(b), Charles Hodges(p, org), Howard Grimes(ds), Wayne Jackson(tp), Andrew Love(ts), James Mitchell(bs), Ed Logan(ts), Rhodes Chalmers & Rhodes(vo)

本作へのリンクはこちら

2024年9月13日 (金)

久しぶりに聞いたJoe LovanoのBlue Note第1作。

_20240910_0001 "Landmarks" Joe Lovano(Somethin’ Else→Blue Note)

主題は少々誤解を招きかねないところがあるので,まずは説明しておこう。このアルバムは,私がNYCに在住している時期に現地で購入したものである。元々は日本の東芝EMI傘下でアルバムをリリースしていたSomethin’ ElseレーベルからリリースされたものをBlue Noteにライセンスして,米国で発売されたものだが,その後,Joe LovanoはBlue Note専属となって活動するから,その契機となったと言ってよいアルバムだ。

そもそもSomethin’ ElseがJoe Lovanoのアルバムを制作しようと思ったのは,John Scofield Quartetへの参加によって注目度が上がっていたことによるところが大きいだろう。そして本作もそのジョンスコがプロデューサーを務めている。このアルバムをプレイバックするのも実に久しぶりのことだったが,これが非常によくできたアルバムであった。全曲Joe Lovanoのオリジナルで占められているが,バックのメンツにも恵まれて,今にして思えば実にいいアルバムだったと思ってしまう。

冒頭の"The Owl and the Fox"こそ,ジョンスコ・バンドの同僚,Marc JohnsonとビルスチュことBill Stewartとのコードレスのトリオで演じられて,そこで聞かせるJoe Lovanoのフレージングで掴みはOKというところだ。2曲目からはギターとピアノも加わったクインテットとなるが,ここでギターを弾いているのはジョンアバことJohn Abercrombie。明らかにジョンスコとは違う個性であるが,Joe Lovanoとの相性はなかなかよいのだ。Joe Lovanoは後にPaul MotianのバンドでビルフリことBill Frisellとも共演を重ねるが,つくづくギタリストとの相性がいい人だったのだなと思ってしまう。

_20240910_0002 実はこのアルバムにはもう一つ重要な思い出がある。右の写真は,Joe Lovanoがジョンスコのバンドで,アルバム"Meant to Be"を引っ提げてSweet Basilに出た時に,本日紹介のアルバムにもらったサインである(ちょっとかすれて見づらいが,91 Sweet Basil New Yorkと書いてある。)。この時にはジョンスコやMarc Johnsonにもそれぞれサインをもらった記憶があるが,そう言えば,現地にはジョンアバも聞きに来ていたのも懐かしい。

それでもって,何が重要かと言えば,よく見て頂ければわかるのだが,ここには私の名前の下にMusic Music!!と書いてある。実はこのブログのURLである"https://music-music.cocolog-wbs.com"はこれに由来しているのだ。このブログを開設する時にURLをどうしようかと考えた時に,ふとこのサインを思い出して,このURLに決めたのであった。なので,Joe Lovanoはこのブログにも貢献しているということなのだが,そうは言いつつ,私はJoe Lovanoの大ファンって訳でもないとは言え,ある意味このブログの恩人みたいなものだと思っている(笑)。

余談が長くなったが,そうした縁もあれば,演奏のよさもあって,星★★★★☆としよう。

Recorded on August 13 & 14,1990

Personnel: Joe Lovano(ts), John Abercrombie(g), Ken Werner(p), Marc Johnson(b), Bill Stewart(ds)

本作へのリンクはこちら

2024年9月12日 (木)

Arista時代のJeff Lorber Fusionは今でも楽しく聞ける。

_20240909_0001 "Wizard Island" Jeff Lorber Fusion(Arista)

AristaレーベルにはJeff Lorber Fusion(JLF)のアルバムが3枚残されている。それらはどれを聞いても,いかにもJLFらしいもので,どれも好きなのだ。今回取り上げるのが本作だが,それら(+α)には2016年の来日時にばっちりサインをもらっている。ミーハーと言われようが何だろうが,好きなものは好きなのだ。私はこれらを国内盤CDとして再発された際にまとめて買った訳だが,それらも今やなかなか見かけなくなってしまった。当時は今ほどJeff Lorber Fusionにはまるとは思っていなかったが,今では買っておいてよかったと思っている。

本作においても感じるのはJeff Lorber Fusionの「中庸の美学」とでも言うべき音楽性だ。このブログでも彼らの音源を取り上げるたびに書いているが,彼らの音楽はハード・フュージョンでもないし,スムーズ・ジャズでもない。まさに「フュージョン」という音楽を具体化したものであり,その塩梅が実に心地よいのだ。タイトル・トラックは後に再編JLFによる"Galaxy"で再演されることになるが,この当時の曲がほかのアルバムでも再演されることを考えると,時代を経てもJLFの音楽の魅力は不変だったということになると,ついつい贔屓目で見てしまうのだ。このアルバムから後にKenny Gを名乗ることになるKenny Gorelickも参加することになるが,ここではまだまだ真っ当なフュージョンをやっているKenny Gである。

私は彼らの音楽が好きではあるが,後世に残る名盤とかそういう類だとは思っていない。だから私は,若干の例外はあるものの,ほぼ常に彼らのアルバムは星★★★★とするのだが,本作も同様だ。多少サウンド・メイキングには時代を感じる部分がない訳ではないが,やっぱり好きなのだ(笑)。

Personnel: Jeff Lorber(p, el-p, synth), Dennis Bradford(ds), Kenny Gorelick(ts, ss, fl), Danny Wilson(b) with Chick Corea(synth), Paulinho Da Costa(perc), Jay Koder(g)

本作へのリンクはこちら

2024年9月11日 (水)

"The Monster Trio"とは笑止千万:笑ってしまうぐらい何でもありのカクテル・ピアノ的アルバム。

Monster-trio "The Monster Trio" David Garfield (Creatchy)

ストリーミング・サービスを利用していると,おすすめの新譜のようなかたちで表示されることがあって,出てきたのが本作。KarizmaのリーダーでもあったDavid GarfieldがAlphonso Johnson,Land Richardsというこれまたフュージョン畑の二人を迎えた演奏ということで,まぁ聞いてみるかってことで聞いてみたら,この選曲は一体何だ?と思ってしまうようなものの上に,ゆるゆるのカクテル・ピアノ的サウンドには思わずずっこけた。

冒頭はWayne Shorterの"Ana Maria"から始まるのだが,それに続いて,"Blue Bossa"やら"Straight No Chaser"やらの有名ジャズマン・オリジナルがある一方,Stingの"English Man in New York"やら,Boz Scaggsの"Harbor Lights",更には"Human Nature"やら"Cissy Strut"やらと何でもありなのだ。"Spain"なんてスピーディーにかっ飛ばすのかと思ったら,スロー・テンポでやってしまうし,まさにホテルのバーあたりであくまでもBGMとして聞かれるようなピアノ・トリオに過ぎない。それを"The Monster Trio"と呼んでしまう図々しさには開いた口が塞がらない。

どうせならエレクトリックでビシビシやるならわかるが,David Garfieldがアコースティック・ピアノで通すのもいかん。そもそもこのアルバム,元はヤマハのPianoSoftのシリーズとしてリリースされているもののようだが,そこに収められた演奏をDavid Garfieldがまずシングルとしてデジタル・リリースし,それを改めてアルバムとして集成したらしい。もともと企画が安易っていうか,コアな音楽リスナー向けのものとは思えないので,この手の音楽に目くじらを立てる必要もないのだが,やっぱり"The Monster Trio"は言い過ぎだ(きっぱり)。所詮はBGMの域を出ない凡作。星をつけるのも憚られる。

Personnel: David Garfield(p), Alphonso Johnson(b), Land Richards(ds)

本作のストリーミングへのリンクはこちら。リンクは張るが,決してお勧めではないので念のため。

2024年9月10日 (火)

Ed BickertトリオをバックにしたRuby Braffのワンホーン・アルバム:和むねぇ。

"Ruby-braff_20240906111101Ruby Braff with the Ed Bickert Trio" (Sackville)

Ed BickertのトリオをバックにしたRuby Braffのワン・ホーン・アルバムは,リラクゼーションに溢れたナイスなアルバムである。

Sackvilleレーベルと言えば,私はEd BickertとDon Thompsonのデュオ・アルバムを偏愛している(2枚あるが,特にGarden Partyの方)。それもリラクゼーションを感じさせるアルバムだが,その一方でAnthony Braxtonとかのアルバムも出してしまうという不思議なレーベル。上述の通り,本作はアバンギャルドの対極にあるようなアルバムだ。

このアルバムを中古で購入した動機は,Ed Bickertゆえであったが,Paul Desmondのバックでも鳴らしたEd Bickertであるから,ホーンのバックでも間違いないのだ。そしていきなりジャズ・アルバムでは珍しい"True Love"からして,こっちの想像通りの音が出てくる。"True Love"は映画「上流社会」のために書かれたCole Porterの曲だが,映画の中でBing CrosbyとGrace Kellyが歌ったもので,この曲がインストで演奏されることは稀な甘~い曲。更に"The World Is Waiting for the Sunrise"みたいな古い曲も交えながら,基本はスタンダードで構成されるプログラムは,ある意味一丁上がりで出来てしまいそうなアルバムとも言えるが,気楽に聞くには丁度いいのだ。

やはりEd Bickert,Don Thompson,Terry Clarkeというカナダ人トリオの演奏能力は素晴らしいと思えるし,Ruby Braffもこのレコーディング時は50歳そこそこのはずだが,余裕ぶちかましみたいな演奏。Ed Bickertゆえについつい評価も甘くなり,星★★★★。

Recorded on June 14, 1979

Personnel: Ruby Braff(cor), Ed Bickert(g), DonThompson(b), Terry Clarke(ds)

2024年9月 9日 (月)

Lester Young晩年の傑作。

Pres-and-teddy"Pres and Teddy" Lester Young Teddy Wilson Quartet (Verve)

このレコードは学生時代から保有している。結構な数のレコードをCDに置き換えたが,本作はアナログのままずっと残っていた。まぁそれはそんなに思い入れのあるレコードでもないし,私の趣味に完全フィットというものでもないからそうなっている。逆に売らないで残っているということが重要で,そんなに聞く頻度は高まらなくても,中古で処分しようという気持ちにもならなかったということだ。

Lester Youngは第二次世界大戦前から活動し,1959年には亡くなっているので,当然私としては同時代の人ではない。何となくベテランというイメージがあって,50歳になる前に亡くなっていたとは思わなかったが,本作でも余裕の吹奏が聞ける。同じテナーでもColeman Hawkinsとは全然違うトーンというのも面白いし,Miles DavisがLester Youngのクールな音色に影響を受けたという逸話もどこかで聞いたことがあるように思う。本作はそんなLester Youngの晩年のアルバムであるが,録音は1956年でありながら,リリースされたタイミングはLester Youngが亡くなった直後のようだから,追悼盤みたいな位置づけだったかもしれない。

オリジナル盤に収められた6曲のうち,特にB面3曲は有名スタンダードばかりであるから,ちょっとした打ち合わせをするだけで出来てしまうだろうというようなアルバムではある。A面2曲目の"Louise"とか3曲目の"Prisoner of Love"も私にはなじみがないだけで,結構知られたポピュラー・ソングなのかもしれない。そして,ここで聞かれる演奏は上質なモダン・スイングと言ってよいものばかり。A面ラストにアナログ時代には珍しく,ボーナス・トラックとして,オリジナル未収録だったブルーズ,"Lester Returns"が収められているが,これだけちょっと雰囲気が違うって感じか。あっても苦にならないが,プログラム的にはなくてもよかったかなと思えるもの。

まぁ現代人の耳からすれば,多少古臭く感じる部分はあっても,これもジャズの歴史の一頁である。やっぱりLester Youngの吹く冒頭の"All of Me"なんて,私がこの曲が好きなせいもあるが,実に魅力的に響くものだと改めて感心してしまったのであった。星★★★★☆。

Recorded on January 12 and 13, 1956

Personnel: Lester Young(ts), Teddy Wilson(p), Gene Ramey(b), Jo Jones(ds)

本作へのリンクはこちら

2024年9月 8日 (日)

追悼,Sergio Mendes。

Sergio-mendes

Sergio Mendesが亡くなった。オーセンティックなブラジル音楽と言うよりも,よりポピュラーなかたちでブラジル音楽を世に広めたという意味で大きな足跡を残したと言っていい人であった。Sergio Mendes版の"Mas Que Nada"(曲を書いたのはJorge Benだ)は誰もが知っているだろうし,その音楽はレコードやCDでなくても,様々なメディアを通して聞く機会が多かったはずだ。

Sergio-mendes-timeless過去の演奏に加えて,私が驚いたのは2006年に出た"Timeless"であった。will i amをプロデューサーに迎え,ヒップホップ系も含めて,多彩なゲストを迎えて制作され,ブラジル音楽を現代風に再構築したこのアルバムの面白さ,あるいは進取の精神を失わないSergio Mendesに驚かされたのも懐かしい。そして,ここに収められたJohn Legendが歌った"Please Baby Don't"は,私がJohn Legendに痺れるきっかけとなったと言っても過言ではないのだ。そうした意味でも意義深い作品であった。

昨今,彼の音楽をフォローしていなかった私ではあるが,いずれにしても,さまざまな意味でブラジル音楽,ポピュラー音楽への貢献度の大きい人であったと思う。

R.I.P.

2024年9月 7日 (土)

Bill Evans@Blue Note東京参戦記。Dave Wecklが最高だ。

Bill-evans-band-at-bnt

昼間の会社のイベントでの対応を済ませて,前日のTerence Blanchardに続いてのBlue Note東京2連戦である。上の写真は当日のライブの模様(Blue Noteのサイトから拝借)。

Bill-evans-at-bnt-2024 Bill Evansは新作"Who I Am"をリリースしたばかりということもあり,そこからの選曲が多かったようだが,前にも書いた通り,Bill Evansのスタジオ作はイマイチ面白みに欠けるところがあって,ライブの方がずっとよく感じるというのが私の正直な感覚だ。今回も新作はストリーミングで予習していったが,悪くはないとしても,無茶苦茶いいかというとそんなことはなかった。だが,このライブにおいては参加メンバーにも恵まれて,タイトな演奏を聞くことができた。やはりこの人はライブの方がいいと思ってしまう。

そうは思いつつ,私にとってこのライブの白眉はDave Wecklのドラムスであり,その次に感心したのがTill Brönnerのラッパであった。ライブを通して,私の目はDave Wecklのドラミングに釘付けだったと言ってもよいぐらい,その見事なテクニックとドライブ感が素晴らしかった。私はDave Wecklのリーダー作も何枚か保有しているが,私は彼がリーダーとしてバンドを連れてきてもいいのではないかと思っていた。Dave Wecklであれば,ドラム小僧は多くなるかもしれないが,十分に集客だってできるはずだろうと思うと,自身のバンドでのライブも観てみたいと強く感じたのであった。

そしてTill Brönnerであるが,この人はヴォーカル兼ラッパのイメージが強く,私の関心の対象からは外れてきたが,今回のライブではなかなかいいソロを聞かせていて,やるもんだと思わせた。結局は食わず嫌いだったってところか(爆)。Kevin HaysとJames Genusは「お仕事感」が強かったようにも感じるが,Kevin Haysのソロは悪くないとしても,もっとRhodesを弾いてもよかったと思うRhodes好きの私。James Genusはシークェンサーを使ったソロも聞かせた(正直なくてもよかった...)が,基本はバックに徹していたってところ。

Dave-weckl-drums-set リーダーのBill Evansはいつもながらの演奏ってところだったが,途中1曲ピアノを弾きながら歌ったのには,ここで歌う必要あった?って感じていた私である。まぁバンドがバンドだけにそれなりに満足はできる演奏だったと思うが,最も満足感を高めたのはDave Wecklで間違いないところ。ドラムスのセットの写真もアップしておこう。

尚,セットリストもアップされていたので貼り付けておく。

1. ROAD TO I1HA GRANDE
2. TIT FOR TAT
3. MICA MOON
4. BONES IN THE GROUND
5. BEX IN MOTION
6. HEARTS OF HAVANA
EC. JEAN-PIERRE

Live at Blue Note東京 on September 5, 2024, 2ndセット

Personnel: Bill Evans(ts, ss, p, vo), Till Brönner(tp, fl-h), Kevin Hays(p, el-p, vo), James Genus(b), Dave Weckl(ds)

2024年9月 6日 (金)

Terence Blanchard and E-Collective@Blue Note東京参戦記。

Terence-blanchard-ecollective-at-bnt

会社のイベントを控えているという,あまり精神的な余裕のないタイミングでこのライブに行ってきた。Terence Blanchardについてはこのブログで取り上げた彼のアルバムは2枚だけであり,私の中でのプライオリティの高いミュージシャンとは言えない。しかし,なぜ今回のライブを観る気になったかと言えば,ストリング・クァルテット付きの編成で,Wayne Shorterトリビュートを行ったアルバム"Absence"の再現になるという企画ゆえである。弦入りの演奏は挟間美帆の時も相当楽しめたこともあるし,Charles AlturaやTaylor Eigstiという実力のあるミュージシャンの参加にも期待値が高かった。

Terence-blanchard-at-bntそれにしてもである。Terence Blanchardと言えば,かつてはJazz Messengersにも所属し,Donald Harrisonとの双頭コンボでの活動は「新伝承派」なんて呼ばれたのも今は昔。その後は映画音楽の作曲家としても成功を収めていたが,今回の演奏の超コンテンポラリーな響きには心底イメージを覆された。今回のライブ参戦に当たり,E-Collectiveとのアルバムは聞いていたから,ある程度は予想がついた訳だが,それ以上のコンテンポラリー度だったのだ。

バンドのメンツも年齢的には中堅どころって感じながら,非常にタイトなバンドで,ビートも強烈なところにTurtle Island Quartetのストリングスがうまくブレンドして,音楽的に充実したライブを聞かせてもらった。Wayne Shorterの曲をやらなかったのは残念な気もしたが,メンバーのオリジナルで勝負しようという意図の表れと解釈しよう。

今回,ほぼ私と同年代のTerence Blanchardの吹きっぷりにも感心したが,一番驚かされたのはCharles Alturaだったかもしれない。この人,無表情にギターをプレイしながら,えぐいフレーズを連発していた。Chick CoreaのVigilで初めて知った名前だったが,改めてChick Coreaの審美眼は凄かったんだなと思わされた。ギタリストにはプレイ中,自己陶酔型の表情を示す人が多いが,Charles Alturaはその真逆。その無表情ぶりが逆に印象に残ってしまった。是非早い機会にリーダー・アルバムも聞いてみたいと思わせるギタリストである。

いずれにしても,こちらの勝手な想像よりも,ずっといい演奏を聞かせてもらったと思えた好ライブであった。

Live at Blue Note東京 on September 4, 2024 2ndセット

Personnel:Terence Blanchard(tp,synth), Charles Altura(g), Taylor Eigsti(p,key,synth), David Ginyard(b), Oscar Seaton Jr.(ds), Turtle Island Quartet<David Balakrishnan(vln), Gabriel Terracciano(vln), Benjamin von Gutzeit(vla), Malcolm Parson(cello)>

2024年9月 5日 (木)

暇つぶしにもならない愚作だった「オフサイド7」。

Escape-to-athena 「オフサイド7("Escape to Athena")」(’79,英)

監督:George P. Cosmatos

出演:Roger Moore, Telly Savalas, Eliott Gould, David Niven, Stefanie Powers, Claudia Cardinale, Richard Roundtree

先日の台風接近時に暇つぶしにAmazon Primeで見た2本目がこれだったのだが,これぞ駄作中の駄作,愚作中の愚作とでも言うべき最悪の映画であった。そこそこの役者を揃えていながら,ストーリーがあまりにも無茶苦茶で,最後まで見たものの,暇つぶしにもならんわと毒づきたくなる映画であった。

そもそもRoger Mooreがドイツ将校を演じるところに無理があるし,何で寝返るのかもさっぱりわからん。キャスティングのトップはRoger Mooreでも,本当の主役はTelly Savalasだろうと言いたくなる。また,Stefanie Powersのように全く魅力のない女優よりも,Claudia Cardinaleのクレジットが後ってどういうこと?と思うし,そのClaudia Cardinaleもストーリー上の添え物の域を出ていないことも最悪と言ってよい。

役者の活かし方もわかっていないし,アクション映画なのか,コメディなのかも曖昧なストーリーにも辟易としてしまったが,劇場でこんな映画を見ていたら,途中で席を立ちたくなったに違いない大駄作。Amazon Primeで見ていても,段々腹が立ってきたという映画であり,監督のGeorge P. Cosmatosが二流,三流であることが実証されたようなものだ。こんな映画は無星で十分だ。007シリーズでも私はRoger Moore版はあまり好かんが,007シリーズ以外でもまともな映画に出ていないことが,Roger Mooreの役者としての限界とも思えた真の駄作。

2024年9月 4日 (水)

また出た!Robert GlasperのApple Music限定音源は新たな企画アルバム。

Code-derivation"Code Derivation" Robert Glasper (Loma Vista Recordings)

今年の6月にもApple Music限定で"Let Go"をリリースしたばかりのRobert Glasperが,非常に短いインターヴァルでまたもApple Music限定でリリースしたのが本作。前作のアンビエントな響きには驚いたが,今度はジャズとヒップホップを対比するという企画アルバムときた。

本作はストレート・アヘッドなRobert Glasperのグループによる演奏を,各々別のプロデューサーに"Flip"(リミックスと言ってもいいし,再構築と言ってもいいかもしれない)させたものを2曲並べて聞かせるというのが基本フォーマットとなっていて,同じ曲でもプロダクションによって大きな違いを感じさせるとともに,共通する因子もあるということを感じさせたいというのが企画の主題のようだ。リスナーの嗜好によって,これを面白いと感じるか,つまらないと感じるかは大きく分かれそうな気がするが,少なくとも"Flip"されていないヴァージョンは,ジャズ・ファンにとっては魅力的に響くメンツであり,演奏である。私のような雑食系リスナーにとってはこういうのもいいんじゃないって思えるレベルだが,これもRobert Glasperのやりたかったことなんだろうねぇと思えばいいのだ。

"Flip"したヒップホップ版の演奏を聞きたくなければスキップしてしまえばいいというところだが,こういうのを聞いていると,さすが"Black Radio"シリーズをものにしたRobert Glasperだと思えてしまう。この間口の広さがRobert Glasperなのだと思えばいいのだ。これも一つの進取の精神である。

Personnel: Robert Glasper(p), Walter Smith III(ts), Marcus Strickland(ts), Keyon Harrold(tp), Mike Moreno(g), Vicente Archer(b), Kendrick Scott(ds), Jamari(rap), MMYYKK(rap), Oswin Benjamin(rap), Taylor McFerrin(vo, prod), Hi-Tek(prod), Black Milk(prod), Kareem Riggins(prod), Riley Glasper(prod)

2024年9月 3日 (火)

随分前にRSDで購入したTangerine DreamのReims Cathedralでのライブ盤。このピクチャー・ディスクが欲しかったのだ(笑)。

Tangerine-dream-reimsjpeg

"Live at the Reims Cathedral" Tangerine Dream (Culture Factory)

3年前のRecord Store Dayで入手したまま記事にしていなかったのがこのアナログ・ディスク。私はTangerine Dreamもそこそこ聞いているが,大ファンってほどではない。しかもこの音源自体はオフィシャル・ブートレッグとしても出ていて,全然目新しいものでも何でもない。私がこのアナログ盤を購入したのはこのステンド・グラスをデザインしたピクチャー・ディスクゆえである。意外に思えるかもしれないが,私は海外に出張するとその土地の教会を訪れるのが結構好きで,美しいステンド・グラスを見ると純粋に感動してしまうのだ。

このライブはヴァチカンの逆鱗に触れ,教会内でのロックの演奏を禁じられたという曰くつきの演奏であるが,演奏そのものはTangerine Dreamそのもの。Tangerine Dreamの演奏がと言うよりも,聴衆の教会内での行動が論争をタネになったと言うべきもののように思う。

いずれにしても,このディスクがアナログ・プレイヤー上で回っていると目がくらくらしてしまうが,これはこれで保有欲を満たしてくれるものと思っている。だって綺麗なんだもん(笑)。

2024年9月 2日 (月)

Amazon Primeで見た「空母いぶき」。そう簡単には行かない世界。

Photo_20240831161801 「空母いぶき」(’19,キノフィルムズ)

監督:若松節朗

出演:西島秀俊,佐々木蔵之介,佐藤浩市,藤竜也,本田翼,小倉久寛,中井貴一,吉田栄作,益岡徹,高島政宏,玉木宏,市川隼人

台風の接近で外出するのも控えようなんて感じになって,そうなるとやることは家で音楽を聞くか,映画を見るかって感じになったところで見たのがこの作品。私は基本的に漫画を読まない人間なので,原作も知らないところだが,どういう感じのストーリーなのかと思って見たのだが,まぁ小難しいことを言わずに見ていればいいやって感じの映画であった。

まぁこのエンディングには文句も言いたくなる人間は多いだろうなぁなんて思いながら見ていたのだが,あまり露骨に特定の国をターゲットにするのも,エンタテインメントとしては厳しいという事情も踏まえたストーリーは致し方ないところだろう。私ならリアリティなど求めず気楽に見ればいいのだ思えるのだが,こういうのに目くじらを立てる人が多そうだなぁと思ってしまった。

それにしても登場人物が多くて,役者のギャラだけで大変だったのではないかと思えるが,どう考えても不要だろうと思えるシーンも多々あって,ストーリーの展開が遅いのなんのって感じなのはシナリオと演出の問題。アクション・シーンより政府の対応のシーンを見ている方が面白いのも何だかねぇ...。まぁ台風接近の中での暇つぶしにはなっても,それ以上でもそれ以下でもない。ついでに言っておけばCGはかなりしょぼい。星★★で十分だろう。

本作のストリーミングはこちら

2024年9月 1日 (日)

この世を去っても見事なレガシーを残すWayne Shorter。

_20240830_0001 "Celebration Volume 1" Wayne Shorter (Blue Note)

Wayne Shorterが亡くなったのは2023年3月のことであった。それからもはや1年半近い時間が経過したが,Wayne Shorterが生前から企画していたらしい未発表音源のリリースがついに始まった。その第一弾がこの2014年10月のストックホルムにおけるライブ音源である。2014年と言えば,私が最後のWayne Shorterの来日ライブを目撃した年になるが,そこには「凄いものを見てしまった...」なんて書いている(記事はこちら)が,物凄いテンションで迫ってくるライブ演奏には正直おののいてしまった記憶がある。

このライブ音源はそれと同じ年の演奏だけに,基本的なコンセプトは同様で,ここでも強烈な緊張感で迫ってくる演奏が聞ける。とにかくシリアスであり,前のライブの時にも思ったが,これはもはやエンタテインメントではなく,芸術的領域に突入していたと言っても過言ではない。

そうした観点では決して聞き易い音楽ではないかもしれない。しかしそればかりでなく,例えばDisc 1の最後に収められた"Edge of the World"は映画「ウォー・ゲーム」のエンド・タイトルだが,この曲などはメロディアスで牧歌的な雰囲気さえ生んでいて,緊張ばかりではないところも示す。ただ,全般的にはまさに襟を正して聞くべき音楽ではないかと感じさせるものだ。この時点でWayne Shorterは80歳を過ぎていたということを考えれば,先日ライブに行ったCharles Lloydもそうだったが,彼らには肉体はさておき,創造力については衰えることがないらしい。もはや人間国宝の演奏として接するべきレベルだったと言えばいいだろう。

私としてはここで聞ける音楽と同等のレベルの生演奏に触れられただけでも感謝しなければならないと思えた一作。今年の屈指の発掘音源であること間違いなし。星★★★★★。

Recorded Live at the Stockholm Concert Hall on October 18, 2014

Personnel: Wayne Shorter(sax), Danilo Perez(p), John Patitucci(b), Brian Blade(ds)

本作へのリンクはこちら

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