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2024年8月31日 (土)

Miles Davis,最後のスタジオ・レコーディング"doo-bop"。カッコいいんだよねぇ。

_20240829_0001 "doo-bop" Miles Davis(Warner Brothers)

言わずと知れたMiles Davisの最後のスタジオ・レコーディング作。Easy Mo Beeと組んで,ヒップホップ,ラップの世界とフュージョンさせたアルバムである。正直言って私はWarnerに移籍後のMiles Davisのアルバムは大して評価できないと思っているクチで,"Tutu"はさておき,"Amandla"等は全然面白いと思ったことがなかった(今聞いたら違うかもしれないが...)。

しかし,このアルバムは進取の精神の人,Miles Davisが新しい領域に踏み込もうとしていたということを如実に示したものと言ってもよいと思う。リリースされたのはMiles Davisの死後で,評価についてはまさに賛否両論ってところだが,私は本作は純粋にカッコいい音楽だと思っている。

Milesはほぼミュートで吹いているが,それがEasy Mo Beeがプログラミングしたトラックといい具合に溶け合っているって感じなのだ。私がこのアルバムをプレイバックする頻度は決して高いとは言えないが,たまに聞いても十分魅力的だと思える。Miles Davisを聞くなら,これより先に聞くべきアルバムはいくらでもあるが,これはこれでいいと思う。星★★★★。YouTubeにアップされている"The Doo-bop Song"の映像も貼り付けておこう。

Personnel: Miles Davis(tp), Easy Mo Bee(prog, rap), Deron Johnson(key), J.R(rap), A.B. Money(rap)

本作へのリンクはこちら

2024年8月30日 (金)

ストリーミングで聞いたJon Andersonの新作に驚く:実にYesっぽい。

True

"True" Jon Anderson and the Band Geeks (Frontiers)

来日を控える今のYesには全く興味の持てない私だが,今年の10月には傘寿(!)を迎えようとしているJon Andersonのこのアルバムをストリーミングで聞いたら正直驚いてしまった。ランダム再生していて,なんだかJon Andersonっぽい声だと思っていたら,やっぱりJon Andersonだった。それで公開されたばかりだったこのフル・アルバムを聞いてみたのだが,冒頭の"True Messengers"のイントロからして実にYesっぽいのだ。音楽のスタイルとしては往時のプログレ的なものと,Trevor Rabin在籍中の音とのハイブリッドって感じもするが,バックのThe Band Geeksの演奏能力にも助けられて,実にYes的なプログレって感じの音に仕上がっているのにはマジでびっくりした。

そもそもバックを務めるThe Band GeeksはYouTubeで様々な音楽のカヴァーを公開していたらしいのだが,Yesの"Close to the Edge"もやっていたとのこと。多分そうした情報をJon Andersonが聞きつけて,ツアーのバックをオファーしたのではないかと思うが,それにしても大した演奏能力である。"Countries and Countries"のギター・ソロやキーボード・ソロを聞いていれば,Steve HoweやRick Wakemanの語法を体得していることがわかる。ここまで来るとまさに郷愁を誘うレベルなのだ。所詮はコピー・バンドに毛の生えたようなものだろうという指摘もあるだろうが,そこから転じてこういうアルバムを生んだということならば,これは実に大した成果ではないかと思ってしまった。

大体,Jon Andersonの歌いっぷりは,間もなく80歳になろうとする後期高齢者のそれとは思えないのは日頃のトレーニングの成果か。もちろん,ライブではそうもいかんだろうと思うし,敢えてこのアルバムを購入しようとするつもりもないのでストリーミングで十分ではあるが,これは往年のYesのファンは一聴の価値はあると思えるアルバムであった。現在のYesの音は確認していないが,本家よりずっとYesらしい音なのではないか。星★★★★。

Personnel: Jon Anderson(vo), Richie Castellano(b, g, key, vo), Andy Ascolese(ds, perc, key, vo), Andy Graziano(g, vo), Christopher Clark(key), Robert Kipp(org, vo), Ann Marie Nacchio(vo)

本作へのリンクはこちら

2024年8月29日 (木)

Netflixで観た「ポップスが最高に輝いた夜」:懐かしの"We Are the World"の裏側。

The-greatest-night-in-pop 「ポップスが最高に輝いた夜 ("The Greatest Night in Pop")」(’04,米,Netflix)

監督:Bao Nguyen

出演:Lionel Richie, Quincy Jones, Bruce Springsteen, Cyndi Lauper, Huey Lewis, Dionne Warwick And Many More

私たちの年代にとっては,"Do They Know It’s Christmas?"を契機とするチャリティ音楽,イベントはリアルタイムで触れているので実に懐かしい訳だが,英国発の"Do They Know It’s Christmas?"に触発されて,米国側で対応したのが"USA for Africa"であった。そこに参加したミュージシャンはロック,ポップ,ソウルの垣根を越えたまさにキラ星と言ってよい面々が揃っていた。このドキュメンタリーはその裏側を描いたものだが,Lionel RichieとMichael Jacksonがここに描かれているレベルで関わっていたとは露知らなかった。

あの"We Are the World"が一晩で制作されたというのも驚きだが,そこに集ったミュージシャンのキャラが見え隠れするのも面白かった。私にとって一番面白かったのはBob Dylan。Bob Dylanが参加したことも意外だったのだが,あのソロ・パートの制作過程が面白いのだ。あとは結局現場に来なかったPrinceの代役に指名されたHuey Lewisの緊張っぷりや,Princeのだしに使われたと感じて,結局途中で帰ってしまったShiela E.の逸話にもへぇ~となってしまった。

これを以て「ポップスが最高に輝いた夜」とするのはいかがなものかという気もするが,これだけのミュージシャンが無償で集ったという奇跡的なイベントであることは認めよう。そして往時を懐かしみながら,ここに登場するミュージシャンたちの姿を見ているだけで音楽ファンは相応に楽しめるだろう。Dan AykroydやLindsey Bucknghamもいたのか~なんて改めて思った次第。まぁアルバムのジャケをよくよく見れば,彼らの名前もちゃんと書いてあるのだが...(笑)。

以前中古でゲットした"USA for Africa"のアルバムを久しぶりに聞いてみようかな。"We Are the World"には参加しなかったPrinceがアルバムには"4 the Tears in Your Eyes"を寄せているからそういう気持ちはあったんだねぇ。

2024年8月28日 (水)

Charles Lloyd@Blue Note東京参戦記。

Charles-lloyd-on-bnt-stage

Charles Lloydは既に86歳になっている。次の来日機会があるかどうかはわからないから,来日するとなれば行かざるをえない。前回の2019年のライブから5年ぶりとなった今回のライブだが,Charles Lloydがリリースするアルバムは私が年末に選ぶその年のベスト盤の常連みたいになっていて,老いてますます盛んというか,この人の創造力は一体どうなっているのかと思わせるのも事実。渡辺貞夫のように90歳を過ぎても現役という例もあるから,Charles Lloydもまだまだいけるだろうとは思いつつ,やはり足を運ばざるをえないのだ。会場は同じ思いの聴衆も多いのか,フルハウスの状態であった。

Charles-lloyd-at-bnt_20240828091701 演奏が始まると,5年前も元気なものだったが,全然高齢者っぽさを感じさせない演奏で安心した。本当にこの人86歳?というノリなのだ。この人の音色は以前から豪快というよりも繊細さを感じさせるようなトーンなので,年齢を重ねてもイメージに変化がないということはポジティブにも影響するだろうが,前回とはEric Harlandを除いて異なるメンバーながら,世代の違うミュージシャンから若さを吸収しているのではないかとさえ思える演奏であった。

そして強く感じさせたのがCharles LloydがJason Moranを相当高く買っている様子である。ECMの時代からJason Moranとの共演は続いているが,ステージ上でもJason Moranのプレイぶりに目を配り,時に合いの手を入れるCharles Lloydの様子には,これまでのライブでは見られなかった「師弟愛」のようなものを感じた私である。

今回もクァルテットが一体となって,実力者を揃えたメンバー各人にも相応にソロ・スペースを与えながら,実に上質な演奏を聞かせてもらった。いつ何時も素晴らしいCharles Lloydである。

Larry-grenadier 尚,演奏終了後,ベースの弦の張替えにステージに戻ってきたLarry Grenadierと話をする機会があったので,Brad Mehldauとは次はいつ来るの?なんて話をしたのだが,ほかの聴衆との会話,撮影,サインにも快く応えていて,まじでナイスガイであった。

Live at Blue Note東京 on August 26, 2024 2ndセット

Personnel: Charles Lloyd(ts, a-fl, perc), Jason Moran(p), Larry Grenadier(b), Eric Harland(ds)

上の写真はBlue Note東京のWebから拝借。

2024年8月27日 (火)

ストリーミングでJeff Lorberの新作を聞いた。

Elevate "Elevate" Jeff Lorber (SRG)

Jeff LorberがJeff Lorber Fusion(JLF)としてではなく,単独名義でアルバムをリリースするのは2008年の"Heard That"以来ではないかと思うが,その新作である本作をストリーミングで聞いた。聞いてみると,出てくる音はJLFそのものと言ってよいもので,なんでJLF名義じゃないのか?と思ってしまった訳だが,クレジットを見ると,おそらくはJLFのもう一人のキー・プレイヤーであり,共同プロデューサーでもあるJimmy Haslipの不在ゆえではないかと思って納得した私であった。今やJeff LorberにとってJLFはJimmy Haslipとの双頭バンドという位置づけだということだと考えればよいだろう。

JLFのアルバム"The Drop"がリリースされたのが昨年の秋口であるから,比較的短いインターバルでのアルバム・リリースと言えるが,JLFサウンドを踏襲していることからしても,安定感たっぷりのアルバムであるが,メンツもJimmy Haslipがいないことを除けば"The Drop"とほとんど変わらないのだから,それも当たり前なのだ。まぁ,Jeff Lorberが新たに契約したSRGレーベルのオーナー,Claude VillaniがJeff Lorberと共同プロデュースに当たっているが,この人おそらくJeff LorberのファンだったのだろうというのがWebサイトの情報からうかがえるから,変わったことはしないのだ(笑)。いつもながらのサウンドを肩ひじ張らず聞ければいいだろう。

Personnel: Jeff Lorber(p, el-p, key, synth, g), Mark Lettieri(g), Erick Walls(g), Cornelius Mims(b), Gary Novak(ds), John 'JR' Robinson(ds), Randal Clark(as, ss), David Mann(horn)

本作はフィジカルでもリリースされているが,手っ取り早く聞くためのストリーミングのリンクはこちら

2024年8月26日 (月)

「夜の外側」後編を見て,全編鑑賞完了!

Esterno-notte_20240824090301 「夜の外側("Esterno Notte")」(’22,伊/仏)

監督:Marco Bellocchio

出演:Fabrizio Gifuni, Toni Servillo, Margherita Buy, Fausto Russo Alesi, Fabrizio Conri

先日,前編だけを見て,「後編も見ずにいられない」と書いたこの映画の後編を見に行った。全6部構成の4~6部がこの後編ということになるが,第5部までは特定のキャラクターにフォーカスしたストーリーであったが,最終第6部では全体のストーリーとして収斂させていくシナリオが実によく出来ていると思った。

この映画の背景となった誘拐事件の裏側は謎に満ちたものだが,ここでは実写の映像も含めての構成がまたリアリティを高めるとともに,何か怪しげな思惑が存在したことを示唆しているようにも思える。前編の冒頭のシーンが第6部で再び使われるが,「史実との違い」があったそのシーンを「そう決着させるのか!」という思いも抱かせるところも,なかなかのシナリオの技だと思った。

いずれにしても私たちがイタリアに抱く「明るいラテン系」というイメージとは真逆の「暗部」と言ってよい事件には震撼させられるが,こういう映画を見てしまうと,同じ事件を同じ監督が「赤い旅団」側の視点で描いた「夜よ,こんにちは」もいつか見なければならないと思わせる。いずれにしても,今回も170分という尺をものともしない見事なストーリー展開は見事であった。喜んで星★★★★★としよう。

2024年8月25日 (日)

Alain Delonを偲んでAmazon Primeで観た「黒いチューリップ」。

Black-tulip 「黒いチューリップ ("La Tulipe Noire")」('64,仏/伊/西)

監督:Christian-Jaque

出演:Alain Delon, Virna Lisi, Dawn Addams, Adolfo Marsillach, Akim Tamiroff, Francis Blanche

先日亡くなったAlain Delonを偲んで,Amazon Primeでこの映画を見た。後の「アラン・ドロンのゾロ」にも通じる部分があるが,よりコミカルな要素も含んだ西洋チャンバラ映画であった。Alain Delonが演じるのはGuillaumeとJulienの双子の二役設定ながら,この双子の見た感じとか,キャラとかに違いがあるのが面白い。兄のGuillaumeがワイルドな感じなら,弟のJulienはソフトな優男ってところ。どちらにしても,Alain Delonをカッコよく見せるための映画であった。

こういう映画は何も考えずに楽しめばいいというタイプのものだが,Alain Delonは本当にいろいろなタイプの映画に出ていた人だったなぁと改めて思った。これはこれでアクション俳優的な作品としてよしだが,この人のよさは,より陰影のある役回りだろうと思いながら見ていた私であった。逆に色々な役をこなしてしまう器用さもあったということだと思う。

いずれにしても,往時の娯楽映画を見ながら,在りし日のAlain Delonを偲んだ私であった。

改めてR.I.P.

本作のDVDへのリンクはこちら。因みに本作の原作はアレクサンドル・デュマとなっているが,全然話の筋が違っていて,どこを翻案すればこうなるのかは全くの謎(笑)。

2024年8月24日 (土)

ストリーミングでGerald Gradwohlの新作を聞く。

Or-what "...Or What?" Gerald Gradwohl(自主制作盤?)

Bob Bergとの共演でも知られるオーストリアのギタリスト,Gerald Gradwohl。私の関心はあくまでもBob Bergとの共演なので,この人の動静を追い掛けている訳ではないのだが,Apple Musicで別のアルバムを聞いていたら,このアルバムが推奨されてきた。Bob Berg入りのライブ盤を本人に連絡して送ってもらったこともあったので,懐かしさもあって聞いてみた。

Bob Bergとの共演盤もそうだったし,本作でもそもそもほとんどの曲でドラムスを叩いているのはTribal TechのKirk Covingtonであるから,ハード・フュージョンであることは容易に想像がつくが,出てくるのは全くこちらの予想通りって感じである。まぁこの手の音を好物とする私であるから,こういうノリは大いに結構だ。Scott Hendersonとは個性が違うが,Kirk Covingtonの叩きまくりみたいな煽りもあって,この手の音楽好きのリスナーの満足度はある程度確保できるだろう。

2曲目の"Cheap Chunk"ではBill Evansがテナーで結構強烈なソロを聞かせるが,自分のバンドでもこういうハードな感じでやればいいのにと思ってしまう。いずれにしても,典型的なハード・フュージョンではあるが,6曲目の"Still There"ではアコギも使いながら,ハード一辺倒ではないところも聞かせている。オーストリアのジャズ・シーンがどうなっているのかなんてさっぱりわからない中,こういう演奏をしている人もいるってのがわかって面白い。ベースのAdam Nittiも相当なテクニシャンだし,7曲目でドラムスを叩くGergo BorlaiもKirk Covingtonに負けない叩きっぷり。星★★★☆。

レコーディングの時期はコロナ禍と重なるので,リモートでの演奏かもしれないなぁ。ところで4曲目にゲストで入るBernhard LacknerのSeppって何だ?

Recorded between 2020 and 2023

Personnel: Gerald Gradwohl(g), Adam Nitti(b), Kirk Covington(ds, vo), Bill Evans(ts), Gergo Borlai(ds), Stephan Maass(perc), Saskla Helige(vo), Bernhard Lackner(sepp) 

本作のストリーミングへのリンクはこちら

2024年8月23日 (金)

Leo SmithのECM作:静謐なアバンギャルドって感じか。

Divine_love"Divine Love" Leo Smith (ECM)

傘寿を過ぎた現在も活動を続けるWadada Leo Smithであるが,1979年リリースの本作ではWadada無しのLeo Smith名義となっている。私は本作を"Art Ensemble of Chicago and Associated Ensembles"の一枚として保有していて,随分と後追いで聞いたことになるが,近年ではVijay IyerやAndrew Cyrillとの共演盤をその年のベスト・アルバムの一枚に選んでいて,その現役感には正直圧倒されている。

本作はそもそも編成からして普通ではないが,フリー・ジャズとは言っても,勢いで押すというかたちの音楽では決してない。むしろ間を活かした音楽と言った方が正しいと思えるアルバムである。後に共演することとなったVijay Iyerは,本作を"One of the greatest recorded works of all time"と大絶賛しているが,決して万人向けの音楽ではない。しかし,比較的静謐な中で繰り広げられながら,演奏される音楽はまさにアバンギャルドとしか言いようがない。

ベーシックな編成はLeo Smithのラッパに,Dwight Andrewsのホーン,そしてBobby Naughtonのヴァイブだが,これが当時のレギュラーだったらしいから,そこからして凄い。更に2曲目の"Tastalun"はこの曲のみのゲストとなるLester Bowie,Kenny WheelerとLeo Smithの3本のラッパだけで演奏され,終曲"Spirituals: The Language of Love"にはレギュラー3人にCharlie Hadenが加わるという編成を見るだけで,大概の人は身構えるはずだ(笑)。

しかし,聞いているとこれが何の抵抗感もなく受け入れる音楽だと思える私が変態なのかもしれないが,なかなかこれが深遠な感覚を生み出す音楽と言ってもよいかもしれない。私としてはこれを"One of the greatest recorded works of all time"とまでは言わないとしても,往時のECMらしい進取の精神に富んだアルバムだと評価したい。星★★★★☆。

尚,余談ながら本作のアルバム・デザインはなんとPeter Brötzmannってなんでやねん?

Recorded in September 1978

Personnel: Leo Smith(tp, fl-h, perc), Dwight Andrews(a-fl, b-cl, ts, perc), Bobby Naughton(vib, marimba, bells), Lester Bowie(tp), Kenny Wheeler(tp), Charlie Haden(b)

本作へのリンクはこちら

2024年8月22日 (木)

ヴォーカルを強化したBrecker Brothersの2ndアルバム。

_20240820_0001 "Back to Back" The Brecker Brothers Band (Arista)

私はBrecker Brothersのアルバムは"Origina Album Classics"という5枚組セットもので保有しているのだが,そこから欠落しているのがこの2ndアルバム。どうして全部入れなかったのか不思議だが,あのシリーズはペラペラのジャケで5枚組ってのが普通みたいになっているから,収納パッケージの仕様ありきでのことではないかと思う。ということで,これだけは個別に買ったもの(元々,セットを買う前に"Heavy Metal Bebop"だけは保有していたが...)。

それはさておき,この2ndアルバムではLuther Vandrosアレンジによるバック・ヴォーカル隊(+何曲かでWill Leeのリード・ヴォーカル)が大幅にフィーチャーされているところが特徴であるが,それをどう捉えるかどうかってところだろう。まぁ私としてはBrecker Brothersは完全後追いだから,今となってはこういうのもありだったろうなぁとは思えるのだが,結局一番燃えるのはどファンク,キメキメの"Night Flight"だから多くのリスナーにもそういうところがあったのではないかと思える。その次の"Slick Stuff"もファンク度が高いのだが,中間部のフルートで甘くなるのはご愛嬌ってところか。どファンクでなくても,Randy Breckerのフリューゲルによる歌心がナイスな"Lovely Lady"とかは結構好きだが。

いずれにしても,これは強烈なフュージョン・オールスターズっていうメンツを揃えて,往時のフュージョンとして楽しむ分にはOKだろう。星★★★☆。

Personnel: Randy Brecker(tp, fl-h),Michael Brecker(ts, fl), David Sanborn(as), Don Grolnick(key), Steve Khan(g), Will Lee(b, vo), Christopher Parker(ds), Steve Gadd(ds), Ralph McDonald(perc), Sammy Figueroa(perc), Rafael Cruz(perc), Lew Del Gatto(bs), Dave Friedman(marimba), Dave Whitman(prog), Luthrer Vandros(vo), Robin Clark(vo), Diane Sumler(vo), Patti Austin(vo), Allee Willis(vo)

本作へのリンクはこちら

2024年8月21日 (水)

Michael FranksらしいJobimトリビュート。

_20240819_0001"Abandoned Garden" Michael Franks(Warner Brothers)

アルバムの裏ジャケには”In memoriam,  Antonio Carlos Jobim, with endless admiration, affection and love."とある通り,Michael FranksによるAntonio Carlos Jobimトリビュート・アルバムである。だからと言ってJobimの曲ばかりやるのではなく,Jobimの曲は"Cinema"1曲であり,あくまでもMichael Franksの流儀でトリビュートするという作品。"Blue Pacific"あたりのアルバムはビートを効かした曲もあって,ややオーヴァー・プロデュース気味って気もしたが,このアルバムも複数のプロデューサーが関わっていても,サウンドが落ち着いていて,ずっとMichael Franksらしい。"Art of Tea"や"Sleeping Gypsy"的な感覚が戻ってきた感じと言えばいいだろう。それにしても豪華なメンツがバックを固めていて,これもMichael Franksらしいところ。Carla BleyやArt Farmerさえも招いたミュージシャンのクレジットを見ているだけでも嬉しくなってしまうのだ。

このアルバムはJobimへのトリビュートということを反映してボサノヴァのリズムの曲が多くなっているが,これがMichael Franksの脱力系ヴォイスとマッチしている。私はMichael Franksのアルバムはそこそこ保有しているが,"Art of Tea","Sleeping Gypsy"と並んで堂々一軍の棚に収まっているぐらい結構好きなアルバムだ。マッチしているかどうかは別にして,フュージョン系のビートを効かせたバックにも合わせられるMichael Franksではあるが,やはり本質的にはこういうサウンドの方がずっといいと思えるのだ。

こういう音楽がバックに流れていると仕事も捗る,そういう音楽。Michael FranksのJobimへの敬慕を評価して甘いの承知で星★★★★★。

Personnel: Michael Franks(vo, g), Michael Brecker(ts), Andy Snitzer(as), David Sanborn(as), Joshua Redman(ss), Art Farmer(flumpet), Chuck Loeb(g), Jeff Mironov(g), John Leventhal(g), Russel Ferrante(p), Eliane Elias(p), Gil Goldstein(p), Bob James(p), Carla Bley(p), Jimmy Haslip(b), Christian McBride(b), Marc Johnson(b), Steve Swallow(b), Chris Parker(ds), Lewis Nash(ds), Peter Erskine(ds, perc), Manolo Badrena(perc), Don Alias(perc), Bashiri Johnson(perc), Brian Mitchell(vo), Bob Mintzer(fl, a-fl), Lawrence Feldman(a-fl), Diane Barere(cello), Fred Slockin(cello), Mark Shuman(cello), Randy Brecker(fl-h), Keith O'Quinn(tb)

本作へのリンクはこちら

2024年8月20日 (火)

後編を見ずにいられなくなる「夜の外側」(前編)。

Esterno-notte 「夜の外側("Esterno Notte")」(’22,伊/仏)

監督:Marco Bellocchio

出演:Fabrizio Gifuni, Toni Servillo, Margherita Buy, Fausto Russo Alesi, Fabrizio Conri

ほんの数日とは言え,ブログの更新が滞っていたのは,家を離れていたためなのだが,その間に観に行ったのがこの映画。前後編で5時間40分という大作で,私が今回観たのは前編で,それだけでも170分の長尺である。

この映画は6つのエピソードから構成されていて,劇場でも公開されつつ,元々はTVシリーズとして制作されたもののようだ。各々のエピソードで中心人物が変わるというものであるが,イタリアの首相も務めたAldo Moroの誘拐事件を題材とした強烈極まりない人間ドラマ。

主題にも書いた通り,前編を見たら,後編も見ずにいられなくなること必定。長い上映時間を全く感じさせないのも立派。詳しくは後編を見てから改めて書こうと思う。

 

2024年8月19日 (月)

追悼,Alain Delon。

Alain-delon-samourai

Alain Delonが亡くなった。既に引退状態ではあったが,我々のような年代にとっては非常に印象深い役者であった。かつて榊原郁恵は「アル・パシーノ+アラン・ドロン<あなた」なんて歌ったぐらい,特に日本においては人気のある人だった。ただ,役者としてのキャリアを考えれば,まさに作品は玉石混交で,優れた作品もあれば,なんでこんな作品に?みたいなのもあった。アメリカに何度も進出を図りながらも,結局はうまくいかなかったというのもこの人らしいが,一方日本では「ダーバン」のCMにも登場して,多くの人間(多分。少なくとも私)が彼のセリフ,"D'urban c'est l'elegance de l'homme moderne."の真似をしていたというのも懐かしい。また,Dalidaが歌うバックで渋い声でセリフを聞かせた「あまい囁き」も懐かしいねぇ。

私はAlain Delonの映画をそんなに見ている訳ではないが,特に印象深いのは「太陽がいっぱい」と「冒険者たち」。特に後者は何度でも見たくなるぐらい好きな映画だった。改めて彼の映画を見て,世紀の二枚目と言われたAlain Delonを偲びたい。

R.I.P.

2024年8月16日 (金)

諸般の事情により...。

ブログは極力毎日更新しようとしているのだが,ダメな時もあるということで,諸般の事情により数日更新が滞る予定。素人が書いているブログに過ぎないので,更新は義務でも何でもないのだが,それでも基本的に毎日更新するのをルーティンとしているだけに予めのお断りである。

2024年8月15日 (木)

Netflixで「地面師たち」を見た。

Photo_20240814165601 「地面師たち」(’24,Netflix)

監督:大根仁

出演:綾野剛,豊川悦司,ピエール瀧,小池栄子,染谷将太,北村一輝,リリー・フランキー,池田エライザ,山本耕史

巷で話題沸騰(?)のこのNetflixドラマを夏休みに一気に見てしまった。元ネタとなった事件は超有名であるが,その舞台となった場所は我が家のすぐ近所である。そこには今や豪勢なタワマンが建っているが,そこのディベロッパーは被害に遭った企業ではないというのも皮肉だ。その事件を大幅に翻案して,香港や韓国のフィルム・ノワール的なピカレスク・ドラマに仕立てたのが本作であるが,豊川悦司の悪役,サイコパスぶりがはまり過ぎである。

世の中,そんなに都合よく行かないだろうというシナリオにはいろいろ突っ込みどころはあるものの,役者陣が揃っていることもあり,一気に見させる力は十分にあったと思う。相当にエグいシーンも多いので,地上波では到底放送できないだろうが,そこを逆手に取った配信ドラマは,コンプライアンスばかり意識してつまらなくなる地上波の番組に対する強烈なしっぺ返しとも言える。私はほとんどドラマを見ない人間だが,そういう人間もはまってしまうぐらいの強烈さとは言え,一体ドラマの中で何人死ぬのよ?と言いたくなる部分はある。

そもそも山本耕史演じるディベロッパーの部長のパワハラぶり,暴走ぶりはこれが実社会であったら,そこで終わりみたいな部分もあるが,ここはもちろんデフォルメされているはずだ。元ネタとなった事件では死人がバンバン出たということもないはずで,その翻案ぶりはドラマ性ゆえというところではあるが,これがリアルにあったとしたらとんでもないと思ってしまう。しかし,地面師たちの詐欺の手口は相当リアルに反映しているだろうなぁと思うとそれもちょっと恐ろしいと思ってしまうドラマであった。

まぁ,こういうことは夏休みでなければできないってこともあるだろうから丁度よかったかもしれない。それにしてもNetflixもやるもんだ。

2024年8月14日 (水)

Rick Wakemanつながりで買ったStrawbsのライブ・アルバム。

_20240811_0002 "Just a Collection of Antiques and Curios: Live at the Queen Elizabeth Hall" Strawbs (A&M)

日本においては,Strawbsの名前はRick Wakemanによって認識されているというのが実態だろう。Yes加入前にRick Wakemanが参加していたのがこのStrawbsだが,恥ずかしながら,私のプログレへの入り口はRick Wakemanの「ヘンリー八世の6人の妻」だったことから,その後Yesにはまった後に,これも聞いておくかってことで20年以上前の紙ジャケ化のタイミングで購入したもの。その時,一緒に「ヘンリー八世」と「ホワイト・ロック」も買っている。原体験を重んじるってやつだ(笑)。だが,購入以来このアルバムは何度プレイバックしたのやら...。

このStrawbsだが,Yesとやっている音楽は全然違う。Strawbs自体がプログレ・バンドではなく,むしろトラッド・フォーク的な響きが強いグループだけに,どうしてここにRick Wakemanが?って感じの方が強いのだ。やっている音楽ゆえってこともあろうが,このライブ盤が収録されたのもキャパ900人余りのQueen Elizabeth Hallである。私は出張中のロンドンでこのホールに「メサイア」を聴きに一度だけ行ったことがあるが,こじんまりしたナイスなホールであった。因みに"801 Live"もここでの収録というのは意外な気がするが,いずれにしても大規模なロック・ライブ向けのヴェニューではない。

そしてこのライブ盤もYes,あるいはYesにおけるRick Wakemanのような演奏を期待して聞くと,大概の場合梯子をはずされるってところだろう。上述の通り,完全にトラッド・フォークの世界であり,Rick Wakemanも楚々とした伴奏に徹しているというところだ。しかし,1曲だけ"Temparament of Mind"でRick Wakemanがピアノ・ソロを聞かせるのだが,"Yessongs"でも聞かれるソロの原型みたいな演奏で,ギミックたっぷりなのはこの時からだったというのがわかる。だからこそStrawbsというバンドに目立ちたがりのRick Wakemanのキャラはアンマッチだろうなぁってつくづく思わされる。だが,Rick Wakemanの息子たちも後にこのバンドに参加しているらしいから,音楽的な方向性とは別につながっているところもあったんだろうなぁってところもある。

Rick Wakemanに限って言えば,"Song of a Sad Little Girl"で聞かせるイントロと間奏は実に美しいピアノだと思え,これが本作におけるベスト・プレイだと思う。

オリジナル・アルバムの最後に収められた"Where Is This Dream of Your Youth"でフォーク・ロック的なサウンドが出てきて,ほかの曲との違いも感じられるが,ここでもRick Wakemanが長いソロを聞かせるが,ちょっと冗長かなぁって気がするし,このグループの本質はよりトラッド寄りの方だったのだろうと想像する。まぁ既に半世紀以上前の演奏ではあるが,Strawbsはいまだに現役でバンドが継続しているってのも凄いことだ。星★★★☆。尚,CDにはボートラが3曲収録されているが,紙ジャケの中古盤でも価格が暴騰することはないというのが,やはりこのバンドの日本におけるポピュラリティってところだろう。

Recorded Live at the Queen Elizabeth Hall on July 11, 1970

Personnel: Dave Cousins(vo, g, dulcimar), Tony Hooper(vo, g, tambourine), Rick Wakeman(p, org, harpsichord, celeste), John Ford(vo, b), Richard Hudson(vo, ds, perc, sitar)

本作へのリンクはこちら

2024年8月13日 (火)

まさに異色の共演:"Buddy Tate Meets Dollar Brand"。

_20240811_0001 "Buddy Tate Meets Dollar Brand" (Chiaroscuro)

このアルバムがリリースされた頃,私はこのレコードも買っていたはずだ。しかし,ジャズを聞き始めて間もない人間にこのアルバムの本質が理解できるはずもなく,学生時代にさっさと売ってしまったはずだ。それから幾星霜,私も歳を取ったが,本作CDが中古盤屋で安価で手に入る状態だったので,懐かしさもあって仕入れてきたもの。

この頃はDollar BrandがAbdullah Ibrahimと名乗る前のことだが,正直なところ,改名の前も後も私は真っ当に彼の音源を聞いたことがないと言っても過言ではない。そんな私がなんでこのアルバムを購入する気になったのは,その時からの時間の経過で記憶の彼方だ。まぁまだジャズ喫茶にも行ったことがない時代だから,スウィング・ジャーナルの記事を読んで買ったことは間違いないところだ。そもそもBuddy Tateだってろくに聞いたこともない(過去の話だけでなく,今だってそうだ)のだから,メンツ的には私には縁遠い人たちのアルバムだったのだ。

改めて本作を聞いてみると,テキサス・テナーとも呼ばれるBuddy Tateの吹奏は渋さの極致みたいな感じで,そりゃ高校生が聞いてこのアルバムがいいわぁ~とか言っていたら,明らかに変だ(笑)。かたやDollar Brandのピアノは訥弁な感じもして,この二人の共演させようと思ったレーベル・オーナーのHank O'Nealの思いつきってのは実にユニークと言ってもよいだろう。そもそも冒頭のDollar Brandオリジナルの"Goduka Mfundi(Going Home)"をピアノレスでやってしまうところからして,アルバム・タイトルを考えれば普通ではないが...。

オリジナルのアルバムに入っていた6曲はゆったりとした演奏が続くので,Cecil McBeeとRoy Brooksのリズムがちょっともったいない気もするが,そうした中でCecil McBeeのベースの全編に渡って貢献度はかなり大きいと思える。一方Roy Brooksのドラムスは相当控えめ。だからこのアルバムにスリルとかを求めてはいかんのだ。そういうアルバムだと思って聞かないとならないアルバム。"In a Sentimental Mood"のような曲がこのアルバムのムードを代表していると言ってもよいと思う。"Doggin’ Around"ではちゃんとスイング・テナーの魅力も感じられるようになっているが,それでも激しくなることはないのだ。異色の共演ではあるが,今にして思えばよく考えられ,かつよくプロデュースされたアルバムであった。星★★★★☆。

尚,CDには2曲ボートラが収録されているが,こちらはピアノ・トリオでの演奏。"Shrimp Boats"からして全く雰囲気が違う演奏で,本編でBuddy Tateをいかに立てていたかがわかるような演奏。そして最後は"Django"で締めるのだが,"Django"のメロディ・ラインはほんの一瞬出てくるかなぁって程度の超アダプテーション版(笑)。

Recorded on August 25, 1977

Personnel: Buddy Tate(ts), Dollar Brand(p), Cecil McBee(b), Roy Brooks(ds)

本作へのリンクはこちら

2024年8月12日 (月)

本年屈指の話題作の一枚だろう:"Milton + esperanza"。

_20240810_0001"Milton + esperanza" Milton Nascimento / esperanza spalding (Concord)

主題の通りである。ブラジル音楽の至宝,Milton Nascimentoと,もはやジャズ界を超越した活動を展開するesperanza spauldingの共演とあっては,これは注目に値するというのが当然だ。バックを支えるのはesperazaのレギュラーの面々が基本だが,そこに多彩なゲストを迎えて制作したもの。Milton Nascimentoは現在81歳ということだが,歌いっぷりには少々危ないところもあるとしても,まだまだ矍鑠としている。

Milton NascimentoのレパートリーはPaul Simonを迎えた"Um Vento Passou"を除けば既発のもの。そこにesperanzaやドラムスのJustin Tysonの曲,更にはBeatlesの"A Day in the Life"やMichael Jacksonが書いた"Earth Song"が加わるという構成はかなりバラエティに富んでいる。そしてMilton Nascimentoは全曲に参加している訳ではないので,ゲスト的な扱いと言ってもよいのだが,そこは大御所,Milton Nascimentoへの気配りってところか。

私はesperanza spauldingがFred Herschと共演したライブ盤ではヴォーカルに徹するよりも,ベースを弾いたらなおよかったなんて思っていたが,ここではちゃんとベースもプレイしていて,やはり本来は彼女はこうあるべきだと思ってしまう。そして,私が認めるべきは彼女のプロデューサーとしての仕事ぶりだと思える。ゲストの迎え方が適材適所という印象を与えるのはesperanza spauldingの審美眼によるものだと言ってもよい。Milton Nascimentoの既発曲に新たな光を当て,新曲とも整合性を保ったアルバムに仕立てたのも立派だと思う。手放しで傑作!という気はないが,よくできたアルバムだと思う。星★★★★☆。

Personnel: Milton Nascimento(vo), esperanza spaulding(vo, b), Leo Genovese(p, el-p,org, vo), Corey D. King(synth, vo), Matthew Stevens(g, vo), Justin Tyson(ds, key, vo), Eric Doob(ds), Kalna Do Jeje(ds), Shabaka Hutchings(sax, fl), Elena Pinderhughes(fl), Guinga(g, vo), Lula Galvao(g), Ronaldinho Silva(perc), Dianne Reeves(vo), Paul Simon(vo), Fernando Lodeeiro(vo, arr), Carolina Shorter(vo), Lianne La Haves(vo), Maria Gadu(vo), Tim Bernades(vo), Orquestra Ouro Preto(strings)

本作へのリンクはこちら。ついでにMilton Nascimentoの自宅で行われたTiny Desk (Home) Concertの模様も貼り付けておこう。アルバムよりシンプルな分,こっちの方が味わい深いって気もしてしまうぐらいいいねぇ。

2024年8月11日 (日)

早くも登場したMeshell Ndegeocelloの新作。

_20240809_0001 "No More Water: The Gospel of James Baldwin" Meshell Ndegeocello (Blue Note) 

昨年,傑作"The Omnichord Real Book"をリリースしたMeshell Ndegeocelloだが,その後,Sun Raトリビュート作をプロデュースしたりして活動が活発化している中,1年という短いインターバルでリリースされた新作である。今年2月のライブも素晴らしかったので,ただでさえ期待値が高い人であるから,本作もリリースがアナウンスされた段階から首を長くして待っていた。

Meshell Ndegeocelloがかくも短いスパンで本作をリリースしたのは,偏にアルバム・タイトルにも挙がっているJames Baldwinの生誕100年を祝う気持ちゆえだろう。しかもリリース日はJames Baldwinの誕生日の8月2日という徹底ぶりである。現物が届くまでストリーミングで聞いていた時の印象は少々地味かなという感じもあったのだが,現物がデリバリーされて,しっかりと聞き込んでみると,これがまた素晴らしいアルバムであった。コンセプト・アルバムであり,メッセージ性の強い音楽なので,いつものMeshell Ndegeocelloよりもファンク度は抑え目な感じもしたのだが,彼女らしいさまざまな要素を吸収した音楽は,聞けば聞くほど深みが増してくるという感じだ。

ほぼ来日メンバーと同じメンツのレギュラー陣での演奏が中心であるから,コンビネーションがタイトに決まっているのは当然だが,そこに交えられるSpoken Wordsがまた雰囲気を高める。昨今はアナログ・リリースを意識して長時間収録が減っているように思えるが,その中で76分超えという大作に仕上げたところにもMeshell Ndegeocelloの力の入りようを感じる。"The Omnichord Real Book"と比べてどっちが好きかと言えば"The Omnichord Real Book"の方だろうが,アルバムとしてのパワーを評価してこれも星★★★★★としてしまおう。

Peresonnel: Meshell Ndegeocello(vo, b, key, perc, spoken words), Justin Hicks(vo), Kenita Miller(vo), Hilton Als(spoken words), Staceyann Chin(spoken words), Caroline Fontanieu(spoken words), Alicia Garza(spoken words), Chris Bruce(g, synth, key), Jebin Bruni(p, key, perc, vo), Jake Sherman(el-p, org, perc), Julius Rodriguez(org, el-p), Abe Rounds(ds, perc, vo), Paul Thompson(tp, perc, vo), Josh Johnson(sax, effects)

Meshell Ndegeochelloは本作リリース前にNPRのTiny Desk Concertに出演していたので,その映像を貼り付けておこう。くぅ~っとなりまっせ。

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2024年8月10日 (土)

Duo Perfetto@イタリア文化会館参戦記。

Duoperfetto

久しぶりに九段にあるイタリア文化会館の無料コンサートに行ってきた。イタリア文化会館は結構な頻度で無料ライブを開催しているのだが,あっという間に枠が埋まってしまうことが多い。なのでWebサイトのチェックが欠かせないという状態なのだが,今回は何とかもぐり込めた私であった。今回の出演はDuo Perfettoというピアノとチェロのデュオで,演奏するのがほぼタンゴというプログラムであった。Astor PiazzollaとJosé Bragatoというタンゴ界の大物のレパートリーを中心に,Ennio Morriconeの「海の上のピアニスト」等を交えるというもの。前半6曲,後半5曲のうち,PiazzollaとBragatoの曲が各々5曲/4曲という構成であった。

私はAstor Piazzollaのアルバムは何枚か保有しているが,タンゴを好んで聞くリスナーとは言えないので,ライブの場でもこの手の音楽を聞くのは初めてと言ってもよいが,やはりパッションを感じさせる音楽だよなぁとライブの間,ずっと思っていた。冒頭に演じたのがJosé Bragatoの"Milontan"だったのだが,まずチェロのRobert Wittがステージに現れ,ソロでの演奏を始めた後に,客席後方から赤いドレスを身にまとったピアノのClorinda Perfettoがステージに向かっていき,デュオが始まるというのはおそらくいつもながらの演出なのではないか。だが,なかなか珍しいことをやるもんだとまずは思わされて掴みはOKってところか。

その後,デュオはパーカッションも使いながら,リズミカルにタンゴを演じていって,高齢者比率の高い聴衆にも受けていた。アンコールも2曲だから反応は間違いなく良かったと思う。因みに私の隣には小学校低学年と思しき少女が座っていて,暫くはつまらなそうに聞いていたのだが,Clorinda Perfettoがピアノの弦を指ではじくのを見て,思わず身を乗り出していたのが面白かった。珍しいものには反応するんだねぇと思いつつ,そうした経験が彼女の音楽的嗜好にいい影響を与えればいいなぁなんてオヤジ(孫みたいな年齢の少女だったから,ジジイか...)臭いことを考えていた私である。

いずれにしても,私にとっては日頃はなかなか接することができない音楽を聞かせてもらって,これが無料なんだから文句もない。演奏終了後,Clorinda PerfettoとRobert Wittがロビーに現れて,多くの聴衆に囲まれているのをやり過ごして私は家路についたが,たまにはこういうのもいいねと思ったライブであった。今度はまたジャズ系ミュージシャンを出して欲しいなぁ(前回ここで観たのはRosalio Giuliani)。

Live at イタリア文化会館 on August 8, 2024

Personnel: Clorinda Perfetto(p, perc), Robert Witt(cello)

2024年8月 9日 (金)

とっくに記事にしていたと思っていたEnrico PieranunziのWayne Shorter集。

_20240807_0001 "Infant Eyes: The Enrico Pieranuzi Trio Plays the Music of Wayne Shorter" (Challenge)

主題の通りである。私はこのアルバムをこのブログにアップした気になっていたのだが,Rachel ZのWayne Shorter集の記事にちらっと触れていただけ(その記事はこちら)で,本作自体は記事化していなかった。そもそもRachel Zのアルバムを取り上げたのもこのブログを開設した2007年のことだから,既に記憶から飛んでいても仕方がない(苦笑)。だが,Rachel Zの記事にも書いた通り,このアルバムがリリースされた当時,Enrico PieranunziとWayne Shorterの組合せというのは実に意外な感じがしたものだ。しかし,聞いてみるとこれが実にいいのでびっくりしてしまった記憶がある。

このアルバムはオランダのChallengeレーベルからのものなので,バックを支えるのもオランダ人ベースとドラムスだが,ベースのHein Van de GeynはEnrico Pieranunziと"Live in Paris"という優れたライブ盤も残している(これも記事化していないことに気づく)こともあって,安心して聞けること間違いなしであった。ここでも結構なソロ・スペースを与えられて,実にナイスな助演ぶりである。しかもベースがいかにもベースらしい音なのもよい。

それでもって,Enrico Pieranunziが弾くWayne Shorterであるが,かなり知られた曲が多い中で,Jazz Messengers時代のレパートリーも取り上げるところは抜かりがないというか,よくわかっている人だと思ってしまう。そしてWayne Shorterの作り上げたメロディ・ラインから美的な部分を切り出したような演奏や,スリリングに迫る演奏をバランスよく配置してあるのがいいのだ。そこはEnrico Pieranunziゆえ,美感たっぷりに演じられるところでは,Wayne Shorterの曲の持つ違う魅力を体感できると思ってしまった。最後に収められたタイトル・トラックなどは,優れた小節のエピローグを読むが如き感覚の演奏であり,この辺りもわかってるねぇ~と独り言ちてしまったのであった。

いずれにしても,このアルバムもリリースから四半世紀近くが経過しているが,アルバムの魅力は不変であった。星★★★★☆。

Reorded on February 2-5, 2000

Personnel: Enrico Pieranunzi(p), Hein Van de Geyn(b), Hans van Oosterhout(ds)

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2024年8月 8日 (木)

D'Angeloのデビュー・アルバム:掛け値なしの傑作。

_20240806_0001"Brown Sugar" D'Angelo(EMI)

本作がリリースされてもう30年近くになるが,私が聞いたのは随分後になってからのことであった。しかしリリースからの経過時間を考えれば,この音楽の鮮度は全く衰えていない。このアルバムをレコーディングした当時,D'Angeloはまだ20歳そこそこだったことや,ほぼ全面的にD'Angelo自身が演奏を行っていることを考えれば,まさに天賦の才能を持つ者という感じだったと思える。こうした制作スタイルはStevie Wonderを想起させ,70年代の天才がStevie Wonderだったとすれば,D'Angeloは90年代に現れた天才である。しかも超寡作で,デビュー以来アルバムは3枚しか出していないというのも凄いことだ。最新作の"Black Messiah"のリリースからももう10年だ!

そしてここで演じられる音楽は,今にして思えば,新しいソウル・ミュージックを定義したと言ってもよいという感じだ。どのようなタイプの曲でも魅力的に聞かせてしまう才能には驚くしかないが,オリジナルに加えて,Smokey Robinsonの"Cruisin'"をかくも魅力的にカヴァーしてしまうところも素晴らしい。また,6曲目の"Smooth"にはギターにMark Whitfield,ベースにLarry Grenadier,ドラムスにGene Lakeというジャズ界のミュージシャンを1曲だけ招くというセンスも只者ではないのだ。

もし私がD'Angeloの音楽をアルバム・リリースの順で聞いていたら,彼の音楽にもっと早い時期からはまっていただろうと思うと,音楽に接するにあたってのリアルタイム感が欠如していたのは,今にしてみれば実にもったいなかったような後悔の念をおぼえる。それほどに優れたアルバムと評価したいし,これほど聞いていて心地よいサウンドはなかなかない。ほどよいメロウ度といい,完璧なグルーブといい,まさに鉄壁の傑作。星★★★★★しかあるまい。素晴らしい。

Personnel: D'Angelo(vo, all instruments), Bob Power(g), Mark Whitfield(g), Raphael Saadiq(b, g), Larry Grenadier(b), Will ee(b), Gene Lake(ds), Ralph Rolle(ds), Gerald Tarack, Marilyn Wright, Regis Iandorio, Matthew Raimondi, Masako Yanagita, Natalie Kriegler, Alexander Simionescu, Winterton Garvey(vln), Julien Barber, Olivia Koppell, Sue Pray, Eufrosina Railenu(viola), Jesse Levy, Seymour Barab(cello)

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2024年8月 7日 (水)

酷暑を乗り切るには高橋アキの弾くMorton Feldmanだ!(笑)

Triadic-memories "Morton Feldman: Triadic Memories" 高橋アキ(コジマ録音)

もう毎年のようになってしまっている日本の猛暑を越える酷暑だ。一歩外に出ただけでげんなりするような気候は還暦過ぎのオヤジには厳しい。家にいるときはエアコンをきかせていればしのげるので,これまでは夏場に暑さを吹き飛ばすには暑苦しいフリー・ジャズだ!とか言ってきた私だが,さすがに昨今の酷暑はひど過ぎるということで,涼しくなる音楽ってことで聞いていたのがこれである。

私にとって現代音楽はクールな響きを持つものが多いという印象があるが,Morton Feldmanの音楽はピアニシモ,ピアノ・ピアニシモの連続みたいなところがあって,もはや環境音楽って感じもしてしまう。しかもこのCDのバック・インレイの裏ジャケには「このCDは弱音のみで演奏されていますので,小さい音量でお聴きください。」なんて書いてある。小音量で聴けって書いたCDにはこれまでお目に掛かった記憶がないが,確かに環境と同化させるには音量は上げない方がいいかもなぁなんて思っていた。

こういう音楽を難しいと思うかどうかはリスナー次第だと思うが,私にとっては身体がこういう音を求める時があるということで,正直言って好物なのだ。そして,先日取り上げた"For Bunita Marcus"にしろ,本作にしろ,演奏者にとってはとてつもない集中力を必要としながら,高橋アキの演奏力によって,私は心地よく聞けてしまうというのが正直なところだ。それはMorton Feldmanに限った話ではなく,高橋アキの弾く現代音楽にはほぼ例外なく心惹かれてしまう私なのだ。ということで,部屋の雰囲気を更にクール・ダウンさせる効果も含めて星★★★★★。

Recorded on April 7, 1983

Personnel: 高橋アキ(p)

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2024年8月 6日 (火)

Netflixで見た「ビバリー・ヒルズ・コップ」第4弾。

Beverlyhillscopaxelfposter 「ビバリー・ヒルズ・コップ アクセル・フォーリー ("Beverly Hills Cop: Axel F")」('24,米,Netflix)

監督:Mark Molloy

出演:Eddie Murphy, Joseph Gordon-Levitt, Taylour Paige, Judge Reinhold, John Ashton, Paul Reiser, Kevin Bacon

「ビバリーヒルズ・コップ」のシリーズは私たちの年代には懐かしいものだろう。オリジナルは1984年だから,既に40年も経っているので,若い人たちにとっては「それ,何?」で終わりだろう。映画は3作作られたが,徐々につまらなくなるというシリーズ物のパターンを辿り,3作目で終わりってことになったと思っていたところに,いきなりの第4作がNetflixで公開である。これには正直驚いたが,ついつい懐かしさもあって見てしまった。

Eddie Murphyは「サタデー・ナイト・ライブ」でブレイクして,映画に参入した訳だが,80年代がピークだったと思えてしまう。その後の失速感はありながら,多少持ち直したのは「シュレック」におけるドンキーの声を演じたぐらいではないか。マシンガンのようなトークこそが彼の持ち味なので,演じる役割は結局限定されるのは仕方ないのだ。そんなEddie Murphyが演じた人気キャラが「ビバリー・ヒルズ・コップ」シリーズにおけるアクセル・フォーリーな訳で,シリーズとしては30年ぶりってことになる。

この映画,シリーズに出演の懐かしのキャストが大集合って感じで,一定の年代以上には懐かしさの方が勝ってしまうが,この映画は主人公アクセル・フォーリーとその娘の関係が描かれるというのが新機軸というか,時代の流れである。それをよしとするかどうかは,今この映画を見る人が決めればいいだろうが,私からすればまぁそんなもんかって感じだ。だが,それがEddie Murphyというキャラクターにフィットしているかと言えば必ずしもそうではないだろうが,それだけみんな歳をとったということだ。

映画としては昨今ありがちなカー・アクション等もあるが,何とも「ありがち」なところのイマイチ感があって,まぁ普通だよねぇというのが正直なところで,やはりこの映画は一定の年代以上の人が懐かしさで見るのが主流で,新しいオーディエンスの獲得にはつながらんだろうなぁ。ノスタルジーを感じるのと暇つぶしにはいいが,それ以上のものではない。星★★☆。

2024年8月 5日 (月)

久々にMiles Davisのブートレッグ・シリーズを聞く。

Miles-live-1967 "Live in Europe 1967: The Bootleg Series Vol.1" Miles Davis(Columbia)

久しぶりにこのアルバムからパリでの演奏を聞いた。このセットに収められた音源は長年ブートレッグとして出回っていて,何を今更って感じのものばかりと言ってもよいのだが,結局はこのシリーズからいくつかのセットは私も買ってしまっている。そうした中で,シリーズ第1弾として出たのがこれであった。

音源は1967年の欧州楽旅におけるものであり,CDはアントワープ,コペンハーゲン,そしてパリの演奏,DVDはドイツはカールスルーエでの演奏を収めたもの。それでもって私が今回聞いたのがパリの演奏。このツアーの演奏はアルバム"Nefertiti"吹き込み後に行われたものであるから,このクインテットとしての純粋アコースティックでの最末期の演奏ということになる。このツアーの後に吹き込まれたのが"Miles in the Sky"で,そこにはエレピ,エレベの採用,そしてGeorge Bensonのギターが一部で加わるという変化が生じるから,このクインテットとしてのやり尽くし感が溢れる演奏と言ってもよい。

改めて聞いてみても,当たり前のことではあるが,実に強烈な演奏であり,物凄いクインテットだったということがよくわかる。相変わらずのTony Williamsの煽りが強烈であるが,Wayne Shorterがテナー一本で勝負していたこれも最後期のもので,ソプラノもいいが,やはりテナーの響きは超魅力的。こういうのを聞いていると,改めてPlugged Nickelのライブも聞きたくなってしまった。

Recorded Live at Salle Pleyel, Paris on November 6, 1967

Personnel: Miles Davis(tp), Wayne Shorter(ts), Herbie Hancock(p), Ron Carter(b), Tony Williams(ds)

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2024年8月 4日 (日)

「X-Men」シリーズの流れで観に行ってしまった「デッドプール&ウルヴァリン」。

Deadpool-and-wolverine 「デッドプール&ウルヴァリン("Deadpool & Wolverine")」(’24,Marvel, 米/英/豪/NZ/加)

監督:Shawn Levy

出演:Ryan Raynolds, Hugh Jackman, Emma Corrin,  Mathew Macfadyen, Dafne Keane, John Favreau, Jennifer Garner, Wesley Snipes, Channing Tatum, Chris Evans

私は結構「X-Men」シリーズを観ていて,結局全作品を観ているのではないかと思うが,最後は話が無茶苦茶になってしまい,がっくり来てしまったというのが正直なところであった。Hugh Jackman演じるウルヴァリンがシリーズから姿を消したのも痛かった。しかし,そのHugh Jackmanのウルヴァリンが復活ということで,デッドプールのシリーズは観たこともないのに,観に行ったのがこの映画。

20世紀FOXがディズニーに買収された結果,「X-Men」の映画化権の利用が可能となり,MarvelによるMCUに合流が可能になったというのがこの映画の背景だが,劇中,そうした小ネタがいくつも出てきて,フィクションあるいはドラマのシナリオとしてはどうなのよ?と感じていた私であった。だが,この映画の根底にはクロージング・クレジットにも映し出される20世紀FOXが制作した映画へのオマージュがあって,ストーリーとしてはそれに被せられればいいというところだったのかもしれない。

正直言って,私はMCUの映画,あるいは元々のMarvelコミックに見られるマルチヴァースという多元的な設定にはついて行けないと思っている。まぁ漫画の世界なんだから何でもありというのはわかるが,結局はいかようにもシナリオを作れてしまうから,それはいかようにでも辻褄が合わせられるというところに納得が行っていない。それは「映画の脚本」,あるいはストーリーテリングとしてのオリジナリティを損なうことにしかならないのではないか,なんてぶつぶつ言っている段階でこういう映画を観ているのがおかしいだろうって突っ込まれても反論の余地はない。

まぁそうした小難しいことを言わずに,小ネタ(それは所詮内輪受けだという指摘もあるだろう)にくすくす笑っていればいいという気もするが,むしろお下劣な会話やスプラッターのような血しぶきをよくディズニーが配給したもんだとも言いたくなる。結局のところ,私にとっては暇つぶしにはなっても,決して好みではないという映画。星★★☆。こういう映画を観ていると,「Dune/デューン 砂の惑星」のドラマ性とのギャップを強く感じて,「Dune/デューン 砂の惑星」がいかに映画的に優れていたかがわかるという別の効果はあった(きっぱり)。

2024年8月 3日 (土)

Woody ShawのColumbia第一作"Rosewood"は意欲作であった。

_20240801_0001 "Rosewood" Woody Shaw (Columbia)

私はこのアルバムをWoody ShawのColumbiaのボックス・セットの一枚として保有しているのだが,いつも手が伸びてしまうのが"Stepping Stones"ばかりでは芸がないということで,久しぶりにプレイバックしてみた。

本作はWoody Shawがメジャー・レーベル,Columbiaへの移籍第一作ということもあり,相応に予算も掛かっているし,力作あるいは意欲作と呼んでよいアルバムだと改めて気づく。全6曲中4曲はラージ・アンサンブルによるもので,残り2曲がクインテット編成。ラージ・アンサンブルの4曲はWoody Shawのバンドのメンバーによる自作そしてアレンジメントということもあって,レーベルでの船出を祝う感じが出ているようにも思うし,メンバーもそれなりに力が入っているという感じがする。ゲスト・ソロイストにJoe Hendersonを迎えているところも華を添えているってところだ。

音楽的にもよくできたアルバムだとは思うのだが,こうしたラージ・アンサンブルがWoody Shawの魅力を伝えるのに最適なフォーマットだったかと言えば必ずしもそうではないとも思えてしまうというのが正直なところである。フュージョン全盛期においてモダン・ジャズが冷遇される中で,Woody Shawは頑ななまでにストレートなジャズ路線を貫き,ソロイストとしても素晴らしい演奏を聞かせていたから,ソロをたっぷり聞かせる"Stepping Stones"の方に私はより魅力を感じてしまうのだ。そうは言っても直球勝負ではフュージョンにシフトしたリスナーの心をつかめないという判断もあっただろうから,本作について文句を言っているのではなく,あくまでも私の好みと言うことと捉えて頂ければよい。

だが,上述の通り,本作が力作,意欲作であるという位置づけに変わりはない。Woody Shawのアルバムでは異色の作品と言ってもよいかもしれないが,聞きどころはそれなりにあると思う。星★★★★。それにしてもClint Houstonが書いた"Sunshowers"の冒頭を聞いて"In a Silent Way"みたいだと思うのは私だけだろうか?

尚,現在分売されている本作のCDのボートラはアルバム"For Sure"からの3曲なので,本作とは異なるセッションからのもの。

Recorded on December 15, 17 &19, 1977

Personnel: Woody Shaw(tp, fl-h), Joe Henderson(ts), Frank Wess(fl, piccolo), Art Web(fl), James Vass(ss, as), Rene McLean(ss, ts), Carter Jefferson(ss, ts), Steve Turre(tb, b-tb), Janice Robinson(tb), Onaje Allan Gumbs(p, el-p), Clint Houston(b), Victor Lewis(ds), Sammy Figueroa(conga), Armen Halburian(perc), Lois Colin(harp) 

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2024年8月 2日 (金)

ストリーミングで聞いたPaul Desmondの"Bridge over Troubled Water"。

Paul-desmond-bridge-over-troubled-water "Bridge over Troubled Water" Paul Desmond(CTI)

私はかなりのPaul Desmond好きである。しかし,かなり偏っている(笑)。私が好きなのは"First Place Again"とRCAにおけるJim Hall入りクァルテット,そしてEd Bickertとの共演盤と決まっている。Dave Brubeckはどうした?と聞かれそうだが,Columbiaのスタジオ・レコーディングBoxは保有しているものの,あまり積極的に聞きたいというものではなく,それでPaul Desmond好きと言えるのか?と突っ込みが入るかもしれない。それはPaul Desmondのせいではなく,私がDave Brubeckを苦手としていることによるものなので仕方ないと開き直る。CTIでのリーダー・アルバムも"Pure Desmond"と"From the Hot Afternoon"を保有しているだけであり,本作もほぼ初めて聞いたようなものだ。

なんでこのアルバムをストリーミングで聞くになったかと言えば,Mosaicから出た75年のトロントでのライブ集成ボックス(最高だ!)を聞いていて,やっぱりPaul Desmondってええわぁと思ったのが契機だが,本作は予想通りのイージー・リスニング路線。それも全曲Simon & Garfunkelのレパートリーであり,しかも有名曲ばかりだ。そういう企画盤ゆえ,私の好むPaul Desmondのアルバムとは趣が異なるが,イージー・リスニングだと思えば腹も立たない。Paul DesmondはどうやってもPaul Desmondだと思わせるアルバムであった。Herbie Hancockもなかなかのソロを聞かせているが,だからと言ってこれを購入するかと言えばそこまでは行かない。気楽に聞けることもあり,私としてはあくまでもストリーミングで聞いていればいいやってレベルのものだ。Paul Desmondゆえに半星オマケの星★★★☆。

尚,アコースティック・ベースはRon Carterが弾いているが,Herbie HancockもRon CarterもMiles Davisとちょっと前までやっていたとは思えないような「お仕事」ぶりで笑ってしまう。私は増幅した音の気持ち悪さゆえ,筋金入りのRon Carter嫌いだが,このアルバムぐらいの音だったらそこまで嫌いにならなかっただろうにねぇ...。

Recorded in 1969

Personnel: Paul Desmond(as), Herbie Hancock(el-p), Ron Carter(b), Jerry Jemmott(b), Airto Moreira(ds), Bill Lavorgna(ds), João Palma(ds), Gene Bertoncini(g), Sam Brown(g), Don Sebesky(arr)

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2024年8月 1日 (木)

秋口の新作リリースが待たれるLaura Marlingがかつてリリースしたシングル盤。

_20240712_0002 "Blues Run the Game / The Needle and the Damage Done" Laura Marling (Third Man Records)

ネットを徘徊していて,このシングル盤を見つけてついつい発注してしまった。既にVirginからアルバムをリリースしていた彼女が,なんでJack Whiteプロデュースの下,彼のレーベルであるThird Man Recordsからこの7インチ・シングルを発表した経緯はわかっていなかった。しかし,私の目を引いたのはB面のNeil Young作の"The Needle and the Damage Done"であった。ただでさえ贔屓にするLaura Marlingが,兄貴の曲をどう歌うのかがどうしても気になってしまったのであった。A面のJackson C. Frankが書いた"Blues Run the Game"も本人だけでなく,数々のカヴァー・ヴァージョンがあるらしいが,全然意識していなかった。私にとってはどうしても"The Needle and the Damage Done"が購入の動機となったのであった。

そして,本人の弾き語りで歌われる2曲は実に魅力的に響く。私の中で,「必ず買う」シンガー・ソングライターなのだから,その歌声が聞けるだけでもいいのだが,13年前にリリースされたこのシングルを聞いて,10月にリリースされるアルバムへの期待値が更に高まってしまったのであった。13年前とは言え,この時代に7インチ,45RPMのシングルをリリースするってのがJack Whiteのこだわりって気もするが,それに呼応したLaura Marlingってところだろう。

_20240712_0001 そして,ネットでよくよく調べると,ナッシュビルを訪れたミュージシャンにJack Whiteが声を掛け,彼のスタジオで2曲録音したものをシングルとしてリリースする"Blue Series"の一枚がこれだったらしいが,そのシリーズのジャケはみんなブルー・バックのになっていて,本作もそれに従っている。やっぱりこだわっているねぇ。裏ジャケの写真も可愛いので,そっちもアップしておこう(笑)。

Personnel: Laura Marling(vo, g)

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