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2024年7月31日 (水)

リリースからもう20年か...:Thirteen Sensesの1stアルバム。

_20240729_0001"The Invitation" Thirteen Senses (Mercury)

美メロ,叙情的というおよそロック的とは思えない響き。そうしたバンドで一番売れているのはColdplayってことになろうが,TravisやKeaneも含めて,この手のバンドは結構ある中で,その一つとして捉えられるのがこのThirteen Senses。私も一時期こうしたバンドのアルバムを結構購入していたが,最近はフォローするところまでは行っていない。まぁどれを聞いても同じような感覚を与えるので,段々飽きてきたってのが正直なところか。

しかし,久しぶりに2004年にリリースされたこのアルバムを聞いてみると,なかなかいい曲書いているねぇと思わせてくれた。本作に比べると2ndの"Contact"の印象が薄かったこともあり,その後の音源に関しては聞いたこともなかったが,この1stは当時はよく聞いていたなぁなんてことを思い出していた。多分,このアルバムを買う気にさせたと思われる何となくこじゃれたジャケットも印象に残っていたしねぇ。主題の通り,それからもはや20年とはまさに光陰矢の如しであるが,今聞いても音楽の鮮度は保たれていると感じた。まぁそうは言っても,このメロディ・ライン,一昔前ならMichel Polnareffか!みたいに響くところもあるのだが...(笑)。星★★★★。それにしても上述のバンドはそれほどでもないのに,このThirteen Sensesのアルバムの中古盤は投げ売り状態なのはなんでなのかねぇ。

今年の8月には何と10年ぶりのアルバム,"The Bound and the Infinite"がリリースされるらしい。もはや私としてはアルバムを購入するということはないだろうが,ストリーミングでは聞いてみようと思わせるバンドだとは思っている。

Personnel: Will South(vo, p, g, key), Tom Wekham(g, synth), Adam Wilson(b), Brendon James(ds, perc)

本作へのリンクはこちら

2024年7月30日 (火)

無駄遣いと思いつつ,買ってしまったMobile Fidelity版"Bitches Brew"の2LP。

Bitches-brew "Bitches Brew" Miles Davis(Columbia→Mobile Fidelity)

主題の通りである。何も言うことのないこの名作アルバムを,私は当ブログの4,000件目のエントリーでも取り上げている(記事はこちら)。私がジャズを聞き始めて間もない頃から既に入手していたのだが,なぜか私が持っていたのはクアドロフォニック盤。完全に誤っての購入であり,実はちゃんと再生できていない状態で聞いていたという情けない過去がある。

その後はCDでこのアルバムを聞いてきた訳だが,今回高音質でならすMobile Fidelityからアナログの再プレスの告知があった。私としては,こういう機会を逃すと買うことはないだろうということで,厳しい円安環境の中ではあったが,Mobile Fidelityに7/25に発注したところ,1週間も掛からずに到着である。まぁ,それなりの送料を払ったとは言え,このスピード感が素晴らしい。比較的手頃な送料設定にもかかわらず,このスピード感と比べると,eBayやDiscogsのセラーの送料はぼったくりにさえ思えてくるし,ハンドリングのスピードも全然違って,Mobile Fidelityの好感度は確実に上がってしまった。

そうは言っても相当の高価格だったのは事実だ。しかし,まだ全部聞き通していないとは言え,Side Aを聞いただけでウハウハしてしまった。引き続きレコードの持つ質感を楽しみつつ,家人の留守を狙って極力音量を上げて聞くことで,それなりのリターンが得られたと感じられたらそれでよしとしよう。普通の人から見れば,こういうのは明らかに無駄遣いということになろうが,それでもいいのだと開き直ろう。いやいややっぱり最高だ。

2024年7月28日 (日)

何十年かぶりで聞くGouldのMozart。

Gould-mozart "Plays Mozart Piano Sonatas" Glen Gould (Columbia)

主題の通りである。私は以前,Glenn Gouldによるアナログのモーツァルトのピアノ・ソナタ全集を保有していたが,いつ手放したのかも覚えていないぐらいの時期に手放したはずだ。その時は正統的な内田光子や,父の遺品のChristoph Eschenbachの全集を聞いていればいいやって感覚もあったかもしれない。だが,それから幾星霜を経て,突然ではあったが,やっぱりまたGouldのモーツァルト演奏が聞いてみたいと思えてきてしまった。そう思って見てみると,CDの全集は随分安く手に入るではないか。ポイントもたまっていることだし,まぁいいかってことでの再購入となった。

全てを聞き通すのはこれからということにはなるのだが,前々からわかってはいるとは言え,やはりこれは普通じゃないよなぁと改めて感じさせる演奏である。それはやはりGlenn Gouldによるテンポの設定があると思えた。極端に遅いか,極端に速いかどっちかって感じであり,変わっているなぁと思わせるに十分。だが,これって変わっているがゆえに,はまると抜けられない麻薬的な部分があるのかもと思ってしまった。今,私が聞いているのはソナタの#1~#6を収めたディスク1であるが,もうそれだけでずっぽしはまった感をおぼえる私であった。

この演奏を異端と言うのは簡単だが,そうした異端性が普遍的な魅力にも変容するということを強く感じるそんな演奏。聞いていて楽しいことこの上ないと思う私はやはり変態なのか?(笑) いずれにしてもあのK331を改めて聞くのが楽しみになってきた。

Personnel: Glenn Gould(p)

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2024年7月27日 (土)

Antonio Faraoの新作がCriss Crossから出るとは思わなかった。

_20240726_0001 "Tributes" Antonio Farao(Criss Cross)

ジャケを見て,相変わらずの強面ぶりに笑ってしまったが,久々のAntonio Faraoである。私がAntonio Faraoについてこのブログに記事をアップしたのは2015年の"Boundaries"にまで遡る。その間,2017年にエレクトリックに傾斜した"Eklektik"もリリースしているが,私はストリーミングで聞いただけ(のはず)で,記事としてはアップしていなかったし,単独リーダー作はそれ以来なので,実に久しぶりということになる。

暫くリーダー作が途絶える中,これまでEnjaやVerveからアルバムをリリースしていたAntonio FaraoがCriss Crossと契約するとは全く想定していなかった。だがライナーの謝辞にAlex Sipiaginの名前があり,そしてライナーにも記述されているが,Criss Crossと縁深いSipiaginがAntonio FaraoとCriss Crossの間を取り持ったとのことだ。

それはそれとして,私としては今回バックを支えるのがJohn PatitucciとJeff Ballardという強力リズム隊であるから,本作のリリースがアナウンスされた時から,期待値は相当に大きかった。ストリーミングではとっくに公開されていて,既にそのよさは把握していたたが,その現物がようやくデリバリーされたので早速聞いた。

Antonio Faraoのピアノは基本的にはハード・ドライヴィングな感覚が強いと思っているが,本作もそうした感覚は維持されているが,一部リリカルな部分も加わってバランスのよいピアノ・トリオ・アルバムになっていると思う。全10曲中8曲がAntonio Faraoのオリジナルで,それに加えてCole Porterの"I Love You"とChick Coreaの"Matrix"というプログラムを通じて,硬軟交えた演奏は大いに楽しめる。

このアルバムはタイトル通り,いろいろな人へのトリビュートの意味が込められていることがライナーにも記されている。直接的な影響,間接的な影響の双方があると思うが,"MT"や"Song for Shorter"のようにストレートにMcCoy TynerやWayne Shorterに捧げられているタイトルに加えて,Chick CoreaやHerbie Hancock,Michel Petrucciani,Didier Lockwoodの名前がライナーには見られて,なるほどなぁなんて思っていた。

いずれにしても,ピアノ・トリオのアルバムとしてはなかなかに楽しめるアルバムであり,久々のアルバムへのご祝儀の意味も含めて星★★★★☆としよう。

Recorded on July 26, 2023

Personnel: Antonio Farao(p), John Patitucci(b), Jeff Ballard(ds)

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2024年7月26日 (金)

Kurt Rosenwinkel the Next Step Band@Blue Note東京参戦記。

Kurt-rosenwinkel-at-bnt

Kurt-rosenwinkel-at-bnt1

先日,96年のSmallsでのライブ音源がリリースされたばかりのKurt RosenwinkelのThe Next Step Bandのライブを観にBlue Note東京に行ってきた。発掘されたアルバムのレコーディングからは四半世紀以上が経過し,メンツは成熟度を高める中,どういう演奏をするかに期待しての参戦となった。まぁこのメンツの音楽を聞くのに最適なヴェニューがBlue Note東京だとも思えないが,熱烈なファンを抱えるKurt Rosenwinkelだけにそれは良しとしよう。私としては本来ならCotton Clubの方がよかったが,日程が合わずのBlue Noteでの参戦となった。客席はほぼフルハウスで,前回観たCotton Clubの時とは雲泥の差であった。まぁあの時は天候不良という要素があったが,マジでえらい違いだった。

まずびっくりしたのがKurt Rosenwinkelの体重増加(笑)であった。昔は華奢な感じさえしたのに,堂々たる体格に変わっていてまるで別人の趣である。演奏はこういうメンツが揃えば,まぁおかしなことにはならないって感じだが,私はこれまで過去2回Kurt Rosenwinkelのライブには接している中で,今回のライブが一番良かったように思う。Kurt Rosenwinkelはピッキングのアタックが抑制された感じで,音的にはまるでAllan Holdsworthのようだと思える部分もあったが,フレージングは実に魅力的であり,やはり実力者だと思ってしまった。私は正直言ってKurt Rosenwinkelにそれほど思い入れがある人間ではないが,このフレージングに多くの人が参るんだろうなぁと感じるぐらいのレベルの高さって感じだった。弾いていたギターのうちの1本はYamahaのSGシリーズぽかったのは実に興味深かったが,ソリッド・ボディでも出てくる音はきっちりKurt Rosenwinkelになっているのが面白かった。

Kurt-rosenwinkel-at-bnt2 Mark Turnerは少々お疲れの様子だったが,これまたフレージングはしっかりしたものだったし,Ben Streetはきっちりボトムを支える感じだった。体力的な強さを示したのがJeff Ballardのドラムスで,眼前でスティック,ブラシ,マレットの持ち替えの技をきっちり見させてもらったが,まぁ煽る,煽るって感じで,一番パワフルだったのはこの人ではないかと思えた。

レパートリーは先日出たライブ盤やVerveから出た"Next Step"からの曲がほとんどのはずだが,1曲Kurt Rosenwinkelがピアノを弾いたのは少々蛇足ではないかと思っていた私である。おそらく聴衆の大部分は彼のギターを聞きに来ていると思われるから,余技を見せるよりも,本業のギターで勝負して欲しかったかなって気もする。それでも演奏としては非常に満足感もあり,ライブとしては成功だったと思う。

Mark-turner 尚,全くの余談だが,Mark Turnerがテナーを吹く姿を見ていて,惜しくも閉店したかつての新橋のテナーの聖地,Bar D2のマスター,Kさんがサックスを吹いたらああいう感じだったのではないかと思わせて,何となく懐かしく思っていた私である。上部の写真と右のMark Turnerの写真はBlue Note東京のWebサイトから拝借。

Live at Blue Note東京 on July 24, 2024

Personnel: Kurt Rosenwinkel(g, p), Mark Turner(ts), Ben Street(b), Jeff Ballard(ds)

2024年7月25日 (木)

Me'Shell Ndegéocelloのデビュー・アルバム:今更ながら超カッコいい。

_20240723_0002 "Plantation Lullabies" Me'Shell Ndegéocello (Maverick)

間もなく新作のリリースも予定されているMe'Shell Ndegéocello。今年の2月のライブも無茶苦茶カッコよかったこともあり,新作にも期待がかかるが,今日は彼女のデビュー・アルバムである。私が初めてMe'Shell Ndegéocelloのアルバムを聞いたのは次作の"Peace Beyond Passion"だったのだが,同作の印象が強過ぎて,なぜかこの1stアルバムはずっと聞かないままで来てしまった。しかし,やっぱりこれは聞かねばと思ってストリーミングで初めて聞いたのがつい先日のことだったのだが,あまりにカッコよ過ぎてなぜ買わなかったのかと後悔して,ネット経由で中古をゲットしたのであった。

はっきり言ってこれは"Peace Beyond Passion"と同様に強い印象を与えてくれるアルバムで,私がこの人にはまったのはこういう世界からだったよなぁと懐かしく思ってしまう一方,こんなアルバムならもっと早く聞いておけばよかったとつくづく反省したのであった。よくよくクレジットを眺めてみると,プロデューサーの一人はDavid Gamsonではないか。David GamsonはScritti Polittiのメンバーとして"Cupid & Psyche ’85"や"Provision"という傑作を出した後,プロデュース業に転じたのだが,"Peace Beyond Passion"にもDavid Gamsonが関わっていたことを踏まえれば,本作も同様の作風であることは予想できたはずだった。こういう場合の無知は恐ろしいと思うし,今回,このアルバムを聞いたのも気まぐれの所産であったのだが,聞いてよかったと強く思えたアルバムであった。

逆に私がこのアルバムを聞かないまま過ごしていたことを想像すると,それは大げさかもしれないが,私の人生にとってはもったいないことになっていたはずだ。それぐらいカッコいいのだ。ここでMe'Shell Ndegéocelloはほかにクレジットされているゲストを除けば,全ての楽器をこなしていることになっているから,最初からマルチな才能を持ったミュージシャンだったのだ。そしてジャズ界からJoshua RedmanやGeri Allenをゲストに迎えるセンスも素晴らしいと思える。

Plantation-lullabies そしてこのアルバムはジャケからしてユニークだ。ジャケは通常ならば裏の面のジャケがスリーブに印刷されていて,バック・インレイに掲げられているのが右の写真なのだ。この辺の「とんがり」具合がいかにもって感じだが,最初からMe'Shell Ndegéocelloの音楽は優れていたということを改めて再確認し,かつこの人の音楽は私にフィット感が非常に強いのだなぁと感じてしまった。こんなアルバムを聞かずにいたことを反省するのも含めて星★★★★★。ライブに感動し,古いアルバムに感動しているのでは,ますます新作に対する期待が高まるではないか。いやいや最高である。

Personnel: Me'Shell Ndegéocello(vo, all instruments), David Gamson(ds) with Wah Wah Watson(g), Geri Allen(p), Joshua Redman(ts), Luis Conte(conga), Bill Summers(shekere), Byron Jackson(vo), David "Fuze" Fiuzynski(g), James "Sleepy Keys" Preston(p), Andre Betts(prog), DJ Premier(turntable)

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2024年7月24日 (水)

注目の最新ブート音源:ほぼ"Eagle’s Point"のメンツによるフランスでのライブ。

_20240723_0001 "Montpellier 2024" Chris Potter Quartet(Bootleg)

いつも書いていることだが,ストリーミングにより必ずしもCDを媒体で購入することが減る中,相対的に増えてしまっているのがブートレッグの購入である。ブートは抜け出せない底なし沼のようなものだから,極力控えなければと思いつつ,どうしても無視できない音源というものもある。このブートなんてその最たる事例。クリポタことChris Potterが今年リリースした"Eagle's Point"はそのメンツからしても今年最注目に値するアルバムだったと言ってもよいが,それに近いメンツでのライブ音源が到着である。収録されたのは今年の7月9日ということで,私のところには2週間も経たないうちにブートが届いてしまうとは,まじで恐ろしい時代だ。ブートもスピード勝負である。

このブートレッグにはDVDもオマケで付いてくるので,もともとはTV放送用の映像がソースと思われ,当然サウンドボード音源だから,聞く分には何の不満もない。そして肝心のメンツだが,"Eagle’s Point"からはドラムスがBrian BladeからJohnathan Blakeに代わっているが,ピアノはBrad Mehldau,ベースはJohn Patitucciのままだ。誰だって聞きたくなるわってブートである。

冒頭の"Dream of Home"から半端ではない演奏が展開されるが,少々Johnathan Blakeの叩き過ぎ感が気になるものの,バンドとしてのドライブ感は上々。ただねぇ,曲間のクリポタのMCにフランス語の通訳が重なるってのがかなり野暮な感じがする。クリポタの英語は聞き易いから,こんな通訳いらないだろう!って言いたくなる。この通訳が2曲目の"Cloud Message"のイントロにちょっと被るからますます腹が立つ訳だが,それは演奏者の責任ではないから,まぁこれは最新音源を聞けることで相殺することにしよう。その後はおそらく編集でクリポタのMCと通訳音声をほぼカットしているから,その野暮さ加減が余計に目立つのだが(苦笑)。その2曲目の"Cloud Message"でもJohnathan Blakeはやはり叩き過ぎで,もう少しニュアンス効かせて欲しいと思ってしまう。Johnathan Blakeは優秀なドラマーではあるが,こういうのを聞いてしまうと,Brian Bladeとはまだ格の違いがあると思ってしまう。

まぁ,それでもこれだけのメンツが揃っているので,演奏は十分に楽しめるし,是非レコーディング・メンバーでのライブも観てみたいと思わせるに十分な出来。4人中3人が揃っただけでもフランスの聴衆に嫉妬してしまうが,4人揃ったら一体どうなるのやら...。いずれにしてもクリポタのライブはマジで常にレベルが高いのは本当に立派。

Recorded Live in Montpellier, France on July 9, 2024

Personnel: Chris Potter(ts), Brad Mehldau(p), John Patitucci(b), Johnathan Blake(ds)

2024年7月23日 (火)

Amazon Primeで見た「クワイエット・プレイス 破られた沈黙」

Quiet-place-part-2「クワイエット・プレイス 破られた沈黙("A Quiet Place Part II")」('20,米,Paramount)

監督:John Krasinski

出演:Emily Blunt, Millicent Simmonds, Cillian Murphy, Noah Jupe, John Krasinski

現在,その前日譚「クワイエット・プレイス:DAY 1」が公開されている「クワイエット・プレイス」のシリーズ第2弾で,第1作の後日譚。私はこの映画の第1作を出張中の機内エンタテインメントの1本として見たのだが,その時は「低予算でも面白い映画は作れる」なんて書いているから,そこそこ評価していたことになる。まぁアイディアの勝利みたいなところもあったが,その第2作においてもエイリアンから襲われるというのは前作と同じだが,どうやって脱出するのかというところが主眼となっていて,これはこれでそこそこ面白く観られたと思う。

よくよくキャストを見ると,「オッペンハイマー」でオスカー主演男優賞を獲ったCillian Murphyも出ていて,「オッペンハイマー」に先立って,Emily Bluntと共演していたのかぁなんて思ってしまった。まぁ,この映画のかなりの部分はMillicent Simmonds演じるReganが中心となって進んでいくと言ってもよいものだったので,影の主役はMillicent Simmonds。彼女は実生活においても耳が不自由なのだが,それを逆手に取ったキャスティングだったということを今更ながら認識しているのだから,私もいい加減なものだ。

相変わらずエイリアンの造形は気持ち悪いが,エグイ表現は大してないので,ホラー嫌いの私でもOKなレベルだったのは助かる。じゃあ見なきゃいいじゃんと言われればその通りだが,家人が出掛けて自由になる時間があったのを使った暇つぶしと思ってもらえればいいのだ(笑)。昨今の映画は上映時間が長いものが多いが,この映画の1時間37分というのが丁度よかったということもあるが,まぁこういうのを拾い物と言うんだろうと思う。筋書きは予想通りなところものあるので,評価としては星★★★☆程度でいいと思うが,決して悪い出来ではなかった。

2024年7月22日 (月)

見ていてたまにはこういう気楽な映画もいいと思わせた「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」。

Fly-me-to-the-moon 「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン("Fly Me to the Moon")」('24, 米/英,Columbia)

監督:Greg Berlanti

出演:Scarlett Johansson, Channing Tatum, Woody Harrelson, Ray Romano, Anna Garcia

私が劇場で見る映画をチョイスする際,結構シリアスな作品や,しっかりとしてテーマを持つ映画を選ぶ場合が多いのだが,たまにはこういうのもいいなぁと思ってしまったのがこの映画。アポロ計画の月面着陸というお馴染みのストーリーのバックエンドで,フェイク映像を撮影していたというストーリーは,アポロ計画捏造論も存在する中で,映画「カプリコン・1」を想起させるが,こちらはロマンチック・コメディのノリで,私は結構くすくす笑いながら見ていた。

アポロ11号の月面着陸の生中継は,小学生の私も深夜に見ていたようにも記憶しているが,やはり人類の科学の進歩という観点で忘れられないイベントであった。そうしたイベントをモチーフに描くので,ある意味あの時代のコスチューム・プレイが楽しめると言ってもよいが,60年代後半の衣装を着ても,主役のScarlett Johanssonは魅力的であった。

この映画には本当の意味での悪人が出てこない(まぁそこはWoody Harrelson演じるMo Burkusが若干ながらそういう役割を担っているとも言えるが...)し,世の中そんなにうまくは行かないという話もあって,他愛のない映画だと言えばその通りではある。だが,こういう映画を観ながら「プチ幸福感」をおぼえることも決して悪くないなと感じたのであった。そういうことで多少評価も甘くなり星★★★★。

Scarlett Johanssonはこの映画のプロデューサーも兼ねているが,「メイ・ディセンバー ゆれる真実」でのNatlie Portmanが目指した世界とは異なって,エンタテインメントに徹しているのが面白かった。こういうところにも役者としての方向性の違いが出ているのは興味深かった。いずれにしても,気楽に映画を観て,プチ幸福感に浸りたい人には十分お勧めできる映画。使われる音楽も魅力的であった。

2024年7月21日 (日)

こんな音源を放置していた自分を恥じる:Andrew Cyrilleの"The News"。

_20240718_0001 "The News" Andrew Cyrille (ECM)

最近はCDの整理も全然していないものだから,購入したCDやブートレッグはデスク脇に「積んどく」状態になっているのだが,その「積んどく」の山で探し物をしていて見つけてしまったのがこのアルバムである。このアルバムがリリースされたのが2021年だから,もう3年が経過しているのだが,封さえ切っていない状態で放置されていた。これはまずいということで,早速開封して聴いてみたのだが,こんな作品をかくも長期間寝かせてしまった自分を呪いたくなるアルバムであった。実にいいのだ。いいワインは熟成させればいいが,音楽はそうではないよなぁと思ってしまった。そもそもECMでの前作であるWadada Leo Smithを迎えた"Lebroba"を年間ベストの一枚に選んでいるのだから,さっさと聞かなければならなかったアルバムだったのだ。

Andrew CyrilleはCecil Taylorとの共演が多いこともあって,フリー・ジャズのドラマーとしての印象が強い訳だが,ECMでのアルバムはどフリーというよりも,ずっと穏やかささえ感じさせる音になっている。もちろん,本作にもフリーを感じさせる曲も含まれてはいるが,それはどちらかと言うとアクセントとして機能しているようにさえ思える。ECMでのAndrew CyrilleのアルバムをプロデュースしたのはSun Chungで,このプロデュース力も素晴らしいと感じさせる。私がこのアルバムを放置している間に,そのSun ChungがECMを去ってしまったのは,ECMというレーベルの今後を考えれば実にもったいなかったと思えてくる作品。総帥Manfred Eicherの後継者は絶対Sun Chungだと思っていたんだが...。

それはさておき,Andrew CyrilleのECM作において相性抜群だったBill Frisellは,ここでも本人のリーダー作と言っても通じるようなナイスな音を聞かせているし,David VirellesもBen Streetも的確な共演ぶりで,実に見事なアルバムに仕上がっていた。返す返すもこれを聞かずに3年放置した自分は全くのアホだと言いたい。リーダーAndrew Cyrilleはレコーディング時,傘寿一歩手前ぐらいだったはずだが,リーダーとして見事な仕事ぶりで,基本穏やかではあるが,聞き応えは十分なアルバム。星★★★★☆。

Recorded in August 2019

Personnel: Andrew Cyrille(ds), Bill Frisell(g), David Virelles(p, synth), Ben Street(b)

本作へのリンクはこちら

2024年7月20日 (土)

会社の創立記念日に観に行った映画が「メイ・ディセンバー ゆれる真実」。これがなかなか強烈な心理ドラマであった。

May_december 「メイ・ディセンバー ゆれる真実("May December")」('23,米)

監督:Todd Haynes

出演:Natalie Portman, Julianne Moore, Charles Melton, Elizabeth Yu, Gabriel Chung

Todd Haynesの映画を観るのは「キャロル」以来だが,あの映画もCate BlanchettとRooney Maraの演技合戦による心理劇だった。今回は役者をNatalie PortmanとJulianne Mooreに変えての新たな演技合戦みたいなものであった。

私がこの映画を観に行ったのは会社の創立記念日の平日だったのだが,劇場が結構混み合っていたのは火曜日で入場料が割引になるせいだったのかもしれない。この映画も日経の映画評で高い評価を受けたこともあってか,平均年齢の高い観客でかなりの客入りであった。しかし,60歳以上なら毎日がシニア割引なんだから,こういう日に来なくてもいいようにも思うが,映画好きにとってはやはりこのディスカウントは魅力ってことなのかもしれない。

それはさておきである。ここで描かれる「メイ・ディセンバー事件」というのは実話らしいのだが,そういう話を映画化しようなんていう舞台設定も考えられる話だ。Natlie Portman演じるElizabethは女優としてその映画に主演すべく,事件の当事者である二人とその関係者に取材を行うというのも,女優の行動としてはわからないでもない話で,この辺りはリアリティのある設定だと思いながら見ていた。そして,その行動から本来は語りたくなかったであろうことまで明らかになっていくというのがかなり重苦しいドラマであった。ネタバレになるので詳しくは書かないが,とにかく終盤に見られるNatalie Portmanのモノローグ・シーンが強烈で,(役柄上ではあるが)女優も行くところまで行くとこうなるか~なんてことも考えてしまった。プロデューサーも兼ねるNatalie Portmanはこのシーンがやりたかったのかもと思わせるシーンだった。

そしてJulianne Mooreがこれまた強烈。この人が演じたGracieという役の性格というのは結局よくわからないところがあるが,それを演じ切るのがJulianne Mooreたるところ。何をやっても上手い人だと改めて感心してしまったが,まさにNatalie Portmanとの火花散る共演ぶりって感じだろう。

こういう心理劇ゆえに見ていてかなりしんどい部分はあるし,解釈に困る部分もない訳ではないが,演技ってのはこういうもんだと思わせる主役二人に敬意を表して星★★★★☆としよう。

そしてもう一点,この映画の音楽は71年の映画「恋("The Go-Between")」のためにMichel Legrandが書いたメロディがアダプテーションされているのだが,これがこの映画に実にフィットしていたことは追記しておきたい。

2024年7月19日 (金)

今更ながらのEric Dolphyの"Outward Bound"。

_20240716_0001 "Outward Bound" Eric Dolphy (Prestige)

私は結構なEric Dolphy好きだとは思っているが,なぜかPrestigeのリーダー作は買うのは"Far Cry"以降でいいや,みたいなところがあって,それを長年貫いてきたのだが,ここに来て,やっぱりDolphyのアルバムはちゃんと「保有」すべきだと考え始め,初リーダー作の本作と,2作目"Out There"を合わせて購入するに至った。今やストリーミングで聞けるのだからそれで十分だという考え方もある訳だが,やはりEric Dolphyは例外の位置づけに置くべき人だと思ったのだ。

Eric Dolphyについては多くを語る必要はないが,この初リーダー作とて,冒頭の"G.W."からして,リリースされた当時は何と変わった音楽だと思われたであろうことは想像に難くない。だからこそ付いたアルバム・タイトルも"Ourward Bound"だったんだろうなぁというところで,ある意味伝統的なサウンドから既に「逸脱」していたことは明らかだ。本作にしろ,2作目にしろ,タイトルに"Out"が付いているのは象徴的であり,ジャズの枠を広げたことは間違いないだろう。

ではOrnette Colemanはどうなのかというと,Ornette Colemanも同様にジャズの枠を広げたにしろ,Eric Dolphyとではサウンドに違いがあって,音楽的なルーツが異なっているというところだろう。よく指摘されることだが,Ornette Colemanはよりブルーズ寄り。本作においても,基本的にEric Dolphyはジャズの「技法」に則ってはいるが,「語法」あるいは「話法」が違うと言ってもよいように思える。改めて二人が共演した"Free Jazz"も聞かないといかんなぁ。いずれにしても,"On Green Dolphin Street"をこうしちゃうかねぇと感じさせる部分もあって,現在の耳で聞いても十分刺激的な音楽を1960年というタイミングでやっていたことは,今にして思えば凄いことであった。

相当に期待されていたであろうことは,本作の共演者の面々を見ても明らかだが,バックのピアノ・トリオは比較的コンベンショナルに響く中で,Freddie HubbardはDolphyの語法に相応について行っているところは立派。後にややアバンギャルドな方向へ一瞬向かうFreddie Hubbardもこういう「逸脱」路線に魅力を感じていたのかもしれないと感じられた。そう言えばFreddie Hubbardも"Free Jazz"に参加していたしねぇ。とにもかくにも,今聞いても十分に楽しめてしまうところが素晴らしいと思えた一作。星★★★★☆。それにしても,Eric Dolphyはアルト,バスクラ,フルートどれを取っても名人の領域だわ。

Recorded on April 1, 1960

Personnel: Eric Dolphy(as, b-cl, fl), Freddie Hubbard(tp), Jackie Byard(p), George Tucker(b), Roy Haynes(ds)

本作へのリンクはこちら

2024年7月18日 (木)

先日のNik Bärtsch’s Roninライブの戦利品

Moonday

"Moonday" Ronin Rhythm Clan (Ronin Rhythm Records)

先日のNik Bärtsch’s Roninのライブは実に素晴らしかった。先立っての神戸のライブでもサイン会をやっているようだということがわかっていたので,実は私はCDは何枚か持ち込んでいた。しかし,会場となったBaroomにおいて見たことのないアナログ盤が売られていて,しかも残りが数枚しかないので,これは買うしかないと思って購入したのが上掲のRonin Rhythm Clanによる"Moonday"。

このアルバム,Nik BärtschのWebサイトを見ると確かに販売されていて,フィジカル媒体の価格はCHF30だ。後々になって考えてみれば,今のレートならばこれの会場での販売価格が¥4,000というのは至極格安だった。1スイス・フランのレートは170円を越えているし,送料を考えると,自分で輸入しようとしたらおそらく少なくとも1.5倍以上,おそらくは2倍近くの出費が必要だったと考えられるからだ。

このアルバムは2曲入りEPという位置づけだが,Roninを拡大したかたちのメンツで,こういうのは聞いたことがなかっただけに,今回購入できたのはよかった。しかもこの機を逃すまいということで,今回来日の4人のサインもゲットである。リーダーNik Bärtschは裏ジャケ右側の空いたスペースに凝ったサインをしてくれて,これではサイン会の列が長くなる訳だと思って,私は持参したCDのサインは諦め,これにだけサインをしてもらうことにしたのであった。表ジャケには残る3人(左からSha, Kaspar Rast, Jeremias Kellerの順)のサインをしてもらって,今回の戦利品とした私である。

本作を聞いて,日頃のRoninは4人編成が基本だが,2014年録音の拡大版でも基本的なコンセプトは全く一緒なのが面白かった。本作はWebサイトによれば,今年の1月にリリースだったらしいが,ちゃんとフォローしないといかんと思いつつ,今回は来日の機会にお安くゲットできたのは本当にラッキーだった。尚,本作はストリーミングでも聞けるので,ご関心のある方は是非。

Recorded in December 2014

Nik Bärtsch(p, el-p), Sha(b-cl, as), Fabian Capaldi(ts, fl), Martial In-Albon(tp, fl-h), Michael Flury(tb), Manuel Troller(g), Thomy Jordi(b), Kaspar Rast(ds)

2024年7月17日 (水)

今年もこの日がやってきたということで,"Coltrane at Newport"。

_20240714_0002 "My Favorite Things: Coltrane at Newport" John Coltrane (Impulse!)

7月17日はJohn Coltraneの命日であり,私が年齢を一つ重ねる日ということで,毎年この日にはJohn Coltraneの音楽をアップしている私である。今年は何にしようかと考えて,John ColtraneがNewport Jazz Festivalにおいて"My Favorite Things"を含む曲を演奏した模様を集成したコンピレーション・アルバムをチョイスした。音源自体は既発のものの寄せ集めではあるが,こうしてちゃんと編集を施したことに意義がある。演奏は63年と65年の2種類であるが,わずか2年の間でもJohn Coltraneの音楽は変化しているということを認識できるアルバムであり,63年の3曲は"Newport '63"としてリリースされていたが,3曲目の"Impressions"は既発版よりも長尺のヴァージョンだそうだ。65年の2曲は"New Things at Newport"のCD版で公開済みのものだ。

このアルバムの演奏における目玉は元来"Selflessness"に収められていた"My Favorite Things"であることは間違いないだろう。その演奏とて,Coltraneの死後に発掘されたものであるが,同曲の最高の名演と考えてよいものなので,もはや何も言うことはない。ただ浴びればいいという感じだ。ヤク中で入院中のElvin Jonesのトラで入ったRoy Haynesとの共演が素晴らしい。63年の演奏においては”I Want to Talk about You"がなかなかに素晴らしい演奏でびっくりするが,オープニングをこの曲にするというところが渋い。3曲目の"Impressions"はどこの部分がカットされていたのかは承知していないが,この曲においては荒々しささえ感じさせる部分もあって,超名演とは思わない。しかし聞きどころは中盤以降に繰り広げられるJohn ColtraneとRoy Haynesのデュオ・パートであろう。ここを聞くだけで意味があるってもんだ。

65年の演奏にはElvin Jonesが復帰しているが,63年版と続けて聞くと,Roy Haynesとのドラミングの違いが明らかになる。そんなことは端から明らかだろうという声も聞こえてくるが,このアルバムを聞いたのも結構久しぶりだったので,そういうところを面白く感じられるのも温故知新だと開き直っておこう。65年になるとJohn Coltraneのソロはフリーキー度が増し,"One Down, One Up"により顕著だが,もはやフリー・ジャズと言ってもよい展開を示す。さすがこの音源の一部が初めて世に出たアルバムが"New Thing at Newport"と題されただけのことはある。この激しさは"Ascention"が吹き込まれて数日後の演奏であるということを考えれば納得も行くってところか。"My Favorite Things"もテーマの吹奏こそ63年版と大差はないし,その後のMcCoy Tynerのソロもコンベンショナルな感覚を残している。だが,続くJohn Coltraneのソロは明らかにMcCoy Tynerのソロと感覚が違っていて,このクァルテットが崩壊に向かうのも当然という感じだ。それでもこの曲では"One Down, One Up"ほどではなく,ある程度は抑制が効いている感じがするのは原曲のメロディ・ラインゆえか。彼らはこの後"First Meditation"を録音して,更にPharoah SandersとRashied Aliを加えた"Meditations"を吹き込んで,クァルテットの終焉を迎えるのは皆さんご承知の通り。

そうしたことを振り返るにもこのアルバムを丁度よいコンピレーションだったと,久々に聞いて思った私であった。

Recorded Live at Newport Jazz Festival on July 7, 1963 and on July 2, 1965

Personnel: John Coltrane(ts, ss), McCoy Tyner(p), Jimmy Garrison(b), Roy Haynes(ds), Elvin Jones(ds)

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2024年7月16日 (火)

リユニオン・ライブが近づくKurt Rosenwinkel The Next Step Bandの96年ライブの発掘。私の最注目ポイントはBrad Mehldauの1曲ゲスト参加(笑)。

_20240714_0001 "Live at Smalls 1996" Kurt Rosenwinkel the Next Step Band(Heartcore)

間もなく来日公演を行う予定のKurt RosenwinkelのリユニオンしたNext Step Bandだが,それに合わせるかたちで1996年,NYCはSmallsにおけるライブ音源がリリースされた。私は来日時のライブに参戦予定なので,その予習も兼ねての購入となったが,実は本作の購入にはもう一つの大きな動機があった。それは1曲だけではあるが,"Zhivago"におけるBrad Mehldauの客演である。Brad Mehldauの正式音源コンプリートを目指す私としては,これだけで買わない訳に行かないということもあった。

その"Zhivago"に関しては後述するとして,ここでKurt Rosenwinkelと共演しているMark Turnerであるが,以前このブログで取り上げた"The Remedy"(記事はこちら)でもいい共演ぶりを示していたが,そちらが2006年のレコーディングだったから,随分と前から共演していたってことを今頃認識する。しかしよくよく考えてみれば,Criss CrossにおけるMark Turnerのアルバム"Yam Yam"にもBrad MehldauともどもKurt Rosenwinkelは参加していて,それが94年のレコーディングだから,このバンドについても,その辺りの縁を踏まえたものだろう。

改めてこの音源を聞いてみると,こうしたメンツがあのSmallsというヴェニューで演奏を展開していたということ自体に驚きを感じざるをえない。現在でもSmallsは実にいいクラブだし,いいミュージシャンも出演しているが,必ずしもメジャーな人ばかりではない。この頃のKurt Rosenwinkelもリーダー作はリリースしていたとしても,まだ名門Village Vanguardに出るほどではなかったということかもしれない。何分1996年と言えば,Kurt Rosenwinkelもまだ20代半ばであり,更なるメジャー化に向けて邁進している時期だったのだからまぁそれもうなずける話である。

正直言って私はKurt Rosenwinkelとは必ずしも相性がいい訳ではなく,彼のアルバムをこのブログでも取り上げても,必ずしも絶賛していないし,むしろ辛口に書くことが多いぐらいだ。ここでの演奏はスリリングなところもあって聞きどころも多いが,Kurt Rosenwinkelの書くオリジナルが必ずしも魅力的に響かない部分があるのは事実だ。それでもKurt RosenwinkelのフレージングやMark Turnerの吹奏は見事なもので,ライブの雰囲気もヴィヴィッドに伝えていて,Smallsという場のアンビエンスはよく示していると思う。もうすぐ行われる来日ライブを聞けば,感慨は更に変わるかもしれないが,現状ではアルバムとしては星★★★★ってところだろう。

そんな中で,Brad Mehldauが参加した"Zhivago"は,私の最大の関心が向いている部分もあって,一番の聞きものに思えてしまう。ここでBrad Mehldauは結構激しいソロを聞かせていて,当時のギグではこういうところもあったのねぇなんて思ってしまう。このアルバムのタイトル・トラックでKurt Rosenwinkelはピアノを弾いているのだが,ピアニストとしての資質の違いが明らかになっただけのようにも思えてしまうのがBrad Mehldauの罪作り(笑)なところと言っておこう。まぁ,Kurt Rosenwinkelもわかっていて"Zhivago"を収録したんだろうからそれでもいいのだが...。ついでに言っておけば,後にBrad Mehldau Trioに加入するJeff Ballardとはこの頃知り合ったってことかもしれないが,そう言えばKurt Rosenwinkelの同じくSmallsでレコーディングされた初リーダー作,"East Coast Love Affair"にはBrad Mehldau Trioの前任ドラマー,Jorge Rossyが参加していて,この辺りのメンツはいろいろ絡み合っていたのだなぁと思ってしまうのであった。

Recorded Liva at Smalls in 1996

Personnel: Kurt Rosenwinkel(g, p, vo), Mark Turner(ts), Ben Street(b), Jeff Ballard(ds), Brad Mehldau(p)

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2024年7月15日 (月)

わかりやすさがChristian McBrideの美徳であり魅力だ。

_20240711_0001 "Kind of Brown" Christian McBrid & Inside Straight (Mack Avenue)

我ながら訳のわからない主題だと思いつつ,Christian McBrideのこのアルバムを久しぶりに聞いて感じたのが,この音楽としての「わかりやすさ」というのは重要だということだ。以前,私がこのバンドのライブ盤を取り上げた際,「スリルとエンタテインメント性を両立させられるのはChristian McBrideだ」と書いたことがある(記事はこちら)が,それと相通じる感覚をまたもおぼえてしまったってところだろう。

ジャズという音楽は間口が広い音楽ゆえに,いろいろなスタイルがあり,各々に違った魅力があるとは思っているが,蕎麦屋のBGMに有線でジャズが流れるこのご時世において,こういうタイプの音楽こそ食欲を増進させるのではないかと思うし,傾聴もできれば,聞き流すこともできるという受容性の高さというのが貴重だと思える。私はジャズに限らず,音楽はジャンルにこだわらない人間だが,やはり時と場合に応じて聞きたい音楽は当然変わる。しかし,どのようなタイミングにおいても鳴ってさえいれば受け入れ可能だと思わせるのが本作に収められているような音楽だ。

エンタテインメント性はありつつも,ジャズ的なスリルも感じさせてくれる音楽を提供し続けている筆頭が私はChrisitan McBrideだと思う。そうは言っても,New Jawnのように私にはイマイチ評価できない活動(私が聞いた時がまだバンドとしての活動開始間もない頃だったための生煮え感もあっただろうが...)もない訳ではないが,そっちが例外的なのであって,基本はわかりやすくも,魅力的な音楽を提供し続けるのがChristian McBrideのキャラってことになると思う。聴衆を楽しませてこそミュージシャンという信念に満ちたと思わせるキャラこそが私は美徳だと思えるのだ。

ここでの音楽も小難しさゼロである。アルバムの魅力としては前述のライブ盤に譲るとしても,この聞いていて感じられる安心感は大事だと思えるし,この人がミュージシャンから引き合いが多いのもそうした要素ゆえだろう。"Kind of Blue"ではなく,Christian McBrideが敬愛するRay Brownに引っ掛けたであろう"Kind of Brown"とするのも,Christian McBrideのしゃれと思われる。やっぱりそういう人なのだ。もちろん,リーダーを支えるメンツにも恵まれるところが人徳。星★★★★。

ただねぇ,このアルバムはジャケで損をしていると思うのは私だけではあるまい。

Personnel: Christian McBride(b), Steve Wilson(as), Warren Wolf, Jr.(vib), Eric Scott Reed(p), Carl Allen(ds)

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2024年7月14日 (日)

Nik Bärtsch’s Ronin@Baroom参戦記

Ronin-live-1

Nik Bärtsch’s Roninが9年ぶりに来日するということで,南青山のBaroomというヴェニューに観に行った。前回彼らが来日したのは2015年に遡るが,その時も私は代官山の「晴れたら空に豆まいて」に観に行ってからもう9年も経つのか...と思いつつ現地に向かった。メンバーはベースが変わった以外は不動。このBaroomは私は初めて行ったのだが,バーとライブ会場が並存する不思議な空間であった。私はBlue Noteに行くとき,たまに恵比寿の駅から歩いていくのだが,その途中にこんな店があるなんて,全然気づいていなかった。

Baroomのライブ・スペースは演奏者を扇型の客席が囲むという感じのユニークな作りで,キャパは100名前後と思われる。そこで繰り広げられたNik Bärtsch’s Roninのライブは前回にも増して実によかった。今回のライブにはサウンドとライティングのエンジニアも同行しており,PAは素晴らしい出来だったし,ライティングも曲とシンクロするのは,長年の阿吽の呼吸ってところだと思えた。実にスタイリッシュなライティングだったと思える。

そして演奏は彼らの言うところのZen Funkな訳だが,タイトなミニマル・ファンクの極致という感じで,演奏中私は内心興奮していたと言ってもよい。緩急を使い分けつつ,Nik Bärtschの発声によるキューで,曲が変化していく様は,まさにライブならではの醍醐味というところだったと思う。このバンドのリーダーはNik Bärtschではあるが,サウンドの屋台骨を支えているのは長年の盟友であるドラムスのKasper Rastであるところは間違いない。9年前に観た時以上にタイトで正確なドラミングあってこそのRoninのサウンドだとずっと感じていた。

Baroom リーダーNik Bärtschは前回同様,手やマレットを使ってピアノの弦を叩く,はじく,あるいはピアノのボディを叩くようなパーカッシブなプレイも行っていたが,それを右の写真でもわかるように,私の眼前でやっていたので,そうなっていたのかぁと感心していた私であった。ホーンのShaはサーキュラー・ブリージングも駆使しながらのフレージングを聞かせていた。今回はバスクラよりアルト・サックスをメインにしていたが,たまに吹くバスクラで高音を使うと,まるでアルト・フルートのようにさえ響いたのも面白かった。そして,バンドでは一番新しいメンバーであるJeremias Kellerは完全にバンドにフィットしており,メンバー・チェンジの影響を全く感じさせなかったのも素晴らしい。

9年前に観た時よりも,近いポジションで見られたこともあり,彼らの演奏はそういう風に行われていたのかぁという発見も多々あったのは収穫。いずれにしても,実に満足度の高いライブであり,今年行ったライブの中でもおそらく最も記憶に残るものの一つになると確信している。いやはや最高である。尚,ライブの戦利品もあるのだが,それについてはまた改めて。

上と下の写真は彼らのFBページにアップされていた神戸でのライブの模様。Baroomでも雰囲気はほとんど同じであった。それにしても東京でのライブは2日ともソールド・アウトってのも大したものだが,聴衆はどういう人たちなのかは実に興味深い。私みたいなオタクはどちらかというと例外のように思えたが(笑)。

Live at Baroom on July 12, 2024

Personnel: Nik Bärtsch(p, key), Sha(as, b-cl), Kaspar Rast(ds), Jeremias Keller(b)

Ronin-live

2024年7月13日 (土)

久しぶりにStevie Wonderを聞く:"Innervisions"は傑作だ。

_20240710_0002 "Innervisions" Stevie Wonder (Motown)

改めて70年代のStevie Wonderは凄かったと思わせるに十分なアルバム。まさに天才とはこの時のStevie Wonderに当てはまると言ってよい。下記のクレジットに記されているミュージシャンはあくまでも補完的な役割に留まり,ほぼStevie Wonderが単独で作っているというのが凄いではないか。

そもそも冒頭の"Too High"から素晴らしいファンクネスを聞かせて,完全に掴みはOKである。そこから続く名曲群にもはや言葉も出ないって感じだ。80年代以降はやや失速感を示すStevie Wonderに代わるかたちでPrinceが登場したって感じだろうが,この時のStevie Wonderは凄過ぎる。メロディ・メイカーとしても,歌手としても,楽器のプレイヤーとしても文句のつけようのないところを示した大傑作。こういうのに多言は野暮であり,無用。素晴らしい。星★★★★★しかない。"Talking Book"から"Songs in the Key of Life"の4作こそ,Stevie Wonderが打ち立てた金字塔だと言い切りたい。

Personnel: Stevie Wonder(vo, various instruments), Clarence Bell(org), Dean Parks(g), David T. Walker(g), Ralph Hammer(g), Malcom Cecil(b), Scott Edwards(b), Willie Weeks(b), Larry 'Nastyee' Latimmr(perc), Yusef Roahman(perc), Sheila Wilkerson(perc), Lani Groves(vo), Tasha Thomas(vo), Jim Gilstrap(vo)

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2024年7月12日 (金)

ECMの旧作の入手は必ずしも簡単ではなくなる中で,"EOS"を入手。

_20240710_0001 "EOS" Terje Rypdal and David Darling (ECM)

私はそこそこのECMレーベル好きであるが,買い損なった作品も多々ある。昨今はECMのアルバムもストリーミングで聞けてしまうのだから,敢えて現物を買わなくてもいいではないかと言われればその通りである。それでもどうしてもフィジカルな媒体で保有しておきたいと思ってしまうものもまだまだあるのも事実で,そういうアルバムは見つけたらちょこちょこと買い揃えているという感じだ。このアルバムも長年欲しいと思いつつ,手頃な価格とは言えない値付けがされていて,全然入手できていなかったのだが,今回,まぁ許せるという価格で中古が出たので購入したもの。

早いものでDavid Darlingが亡くなって,もはや3年半以上の月日が経過したが,ある意味でECMを象徴するプレイヤーの一人だったと思う。片やこれまたECMを代表するギタリストの一人であるTerje Rypdalとのデュオ作とあっては,ECM好きにはやはり気になるアルバムである。まぁ,この二人の共演はKetil Bjørnstadの"The Sea"と"The Sea II"でも聞けるが,デュオというのが重要なのだ。

冒頭の"Laser"はTerje Rypdalのロック・タッチのソロ・ギターが炸裂していて,一体どうなってしまうのかと感じて,一瞬ビビる。しかし,2曲目のタイトル・トラック以降は,この二人ならこういう音だろうというサウンドに変化して納得してしまう。だからこそ"Laser"はアルバムでは浮いているのだが,ある意味,冒頭はリスナーに衝撃を与えようという演出だとも考えらえる。それをどう感じるかはリスナー次第だろうが,私にとってはやはり浮き過ぎ。

まぁDavid Darlingがソロで演じる"Light Years"や,二人のデュオ曲はもはやアンビエントと言ってもよいような響きとも言えるが,これもECMだよねぇと思っていた私であった。星★★★★。

結局,本作では私はDavid Darlingが聞きたかったのかもしれないと聞き終えて思ったが,さて購入するほどだったかと言えばストリーミングでもよかったかもなぁ...。面白かったからまぁいいや(笑)。

Recorded in May 1983

Personnel: Terje Rypdal(g, synth), David Darling(cello, el-cello)

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2024年7月11日 (木)

初演者,高橋アキによる"For Bunita Marcus"を聞く。

For-bunita-marcus "Morton Feldman: For Bunita Marcus" 高橋アキ (カメラータ東京)

Morton Feldmanが書いた"For Bunita Marcus"については,以前Marc-André Hamelinの演奏を取り上げたことがある(記事はこちら)。弱音が続き,オーディオ・セットが壊れたのではないかとさえ思わせたその演奏は,もはやアンビエント・ミュージックのようにさえ感じていた私だった。曲そのものがミニマルの極致という気がしたが,この曲の初演者が高橋アキだったことは後になって知った。だとすれば,結構な数の高橋アキの現代音楽のアルバムを買っている私としては,これは聞かねばならんということで,まとめ買いの一部として少し前に仕入れていたものだ。

一聴して,Marc-André Hamelinの演奏と比べると,弱音は弱音でも,高橋アキの演奏の方が音の粒立ちははっきりしているように思え,ミニマリズムではありながら,与える印象は結構違うように思えた。端的に言えば,Marc-André Hamelinよりも音楽的に響くのだ。そうした感じ方には高橋アキへの贔屓目もあるかもしれないが,最初に聞いた時の印象はそうだった。いずれにしても,弾く方も,聞く方も集中力を要する作品ではあり,こんな曲を生で聞かされたら,それこそ身じろぎもできないライブ体験必定というところではあるが,一度は聞いてみたいと思わせる演奏なのだ。

私が現代音楽のピアノを聞くのは,小難しいことを論じるよりも,こういう音楽に単純に身を委ねたいと思うことが多いのだが,本作はそうした私の欲求を満たすアルバムであった。星★★★★★。ジャケの写真は1985年の初演時のものとのことだ。高橋アキが若いのも当然だ。

Recorded on October 27-29, 2007

Personnel: 高橋アキ(p)

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2024年7月10日 (水)

同じ時期のレコーディングだが,Jack Wilkins盤とは全く異なるBrecker Brothersの音。

_20240708_0002 "Don’t Stop the Music" The Brecker Brothers (Arista)

先日,Brecker Brothersが参加したJack Wilkinsの"You Can’t Live without It"を取り上げたばかりだが,あちらが77年10月31日のレコーディングだったのに対し,本作は同年6月のリリースだから,ほぼ同じような時期のレコーディングと考えてもよいのだが,やっている音楽の違いには笑ってしまうしかない。

Jack Wilkins盤はストレート・アヘッドなジャズだが,こっちはホーン・セクション,ストリングス,そしてヴォーカルも入った完全なフュージョンで,とても同じ人間がやっているとは思えないような違いがある。Brecker Brothersの次作,"Heavy Metal Bebop"にも収録されることとなる"Funky Sea, Funky Dew"と"Squids"がこのアルバムにおける代表的なナンバーであることは誰も否定しないだろうが,そのほかの曲はどうなんだろうねぇ...。特にあまりにもお気楽なタイトル・トラック,"Don’t Stop the Music"にはなんだかなぁと思ってしまうリスナー多数だろう。やはり彼らには"Squids"や,ラストに収められた"Tabula Rasa"みたいなハードなフュージョンの方が似合っていると思ってしまうのだ。加えて"Funky Sea, Funky Dew"のようなMichael Breckerらしいテナーが聞けるならまだしも,そのほかの曲については何でもありみたいな感覚があって,そのほかの曲は私には全然魅力的に響かない。

まぁ,それでもJack Wilkins盤でも,本作でもBrecker Brothersであることには間違いはない訳で,この器用さには圧倒されてしまうが,だからと言って,アルバムとしての評価が上がるところまではいかない。思い起こせば,私は若い頃,Brecker Brothersの音楽に魅力を感じたことはあんまりなかったというのが正直なところで,アルバムを買ったのも随分後になってからのことであった。ジャズ喫茶に通い始めた頃は"Detante"とか"Straphangin'"辺りのアルバムが出た頃だと思うが,全然印象に残らなかったし,当時の私の嗜好には全くフィットしていなかったというところだろう。アルバムとしては中途半端な感じが残るので,星★★★。

今になって,本作のようなアルバムを聞き返すと,まぁ時代だったよねぇというところで,別に気にもならなくなってしまったのが現在の私なので,そのうち,"Detante"や"Straphangin'"も改めて聞いてみることにしよう。私が保有しているのは廉価盤ボックスなので,詳しいメンバーはわからないが,Wikipediaによれば下記の通りらしい。ホーンとストリングスのメンツは省略。

Personnel: Randy Brecker(tp, fl-h), Michael Brecker(ts, fl), Don Grolnick(key), Doug Riley(key), Steve Khan(g), Jerry Friedman(g, p), Sandy Torano(g), Hiram Bullock(g), Will Lee(b), Christopher Parker(ds), Steve Gadd(ds), Lenny White(ds), Ralph McDonald(perc), Sammy Figueroa(conga), Josh Brown(vo), Robin Clark(vo), Crissie Faith(vo), Doug and Beverly Billard(vo)

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2024年7月 9日 (火)

コンテンポラリーな響きが魅力的なAlex Sipiaginの新作。

_20240708_0001 "Horizons" Alex Sipiagin (Blue Room Music)

Alex Sipiaginは魅力的なラッパで,結構な数のアルバムを出しているが,大概の場合,失望させられることはない。それはAlex Sipiaginが選ぶ共演者が,クリポタことChrisi Potterをはじめとする現代ジャズ界における強者を集めているからということもあるが,その音楽性が私の嗜好にフィットしていることも大きい。そうは言いつつ,Criss Crossから出した"Mel’s Vision"とかは悪くはないとしても,買うほどでもないと思ってしまうアルバムもない訳ではない。しかし,リリースされたことも認識していなかった本作をストリーミングで聞いて,そのコンテンポラリーな響きはかなりいいと思って発注したもの。しかし,昨今の円安のせいで,輸入盤が高いのなんの。そんなこともあり,ストリーミングで済ませて,アルバムの購入枚数は減る一方と言ってもよいが,これは購入に値すると思ったのであった。

冒頭の"While You Weren’t Looking"からして,おぉっこれはカッコええわと思わせるに十分であるが,この曲と5曲目の"When Is It Now?"はPat Methenyが本作のために書き下ろした曲とのことだ。全然タイプの異なる2曲と言ってもよいが,Unity Bandでのクリポタとも共演したPat Methenyだけに,クリポタの活かし方もわかっているという感じの曲に仕立てていると思わせる。そのほかはAlex Sipiaginのオリジナルだが,この人らしい曲が並んでいると言ってもよい。そして本人のソロもよいが,クリポタの切れっぷりがクリポタ・ファンにとってはポイントが高い。

そして本作のポイントを上げているそのほかの共演者の貢献も見逃せない。John Escreetはエレクトリック,アコースティックを交えたのは曲調からして正解だったし,それはMatt Brewerのベースにも当てはまる。そしてEric Harlandのドラムスである。変拍子でも何でもござれながら,生み出されるグルーブ感はやはりこの人ならではであった。星★★★★☆。

最近はAlex Sipiaginは複数のレーベルからアルバムをリリースしているので,フォローも大変になってきているとは言え,こういうアルバムを聞かされると,やはりきっちり追いかけておかないといかんと思わされた。

Recorded on May 29 and 30, 2023

Personnel: Alex Sipiagin(tp, fl-h), Chris Potter(ts, ss), John Escreet(p, key), Matt Brewer(b), Eric Harland(ds)

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2024年7月 8日 (月)

あぁ,無駄遣いと思いつつJack Wilkins盤をアナログ中古で購入。

You-cant-live-without-it"You Can’t Live without It" Jack Wilkins (Chiaroscuro)

昨日取り上げたStan Getz盤を購入した時に一緒に買ったのがこれ。音源としては"Merge"というCDに本作収録の4曲は全て入っているから,敢えてアナログで購入しなくてもよかったと言えばその通りで,全くの無駄遣いだと言われてしまえば返す言葉はない。しかし,件の"Merge"は編集されていて曲順は変わっているし,前作"Jack Wilkins Quartet"から1曲カットされている。私はその"Jack Wilkins Quartet"のアナログも保有している(同作に関する記事はこちら )ので,やはり無駄遣いだよなぁと思いつつ,ジャケの状態も盤質もまぁまぁだし,結構安かった(確か ¥1,100ぐらい)のでまぁいいや!と思って買ったもの。

このアルバム,Michael Brecker好きにとっては有名なアルバムだと思うが,私は若い頃はMichael Breckerには大した思い入れもなかったし,Randy Breckerがワンホーンで参加した"Jack Wilkins Quartet"は相当気に入っていたものの,このアルバム自体を購入するには至らなかった。まぁ,それでもCD化された"Merge"は前作と本作のほぼ 2in1というお買い得感もあって購入していたし,その後,"Jack Wilkins Quartet"のメンツにMichael Breckerが一部加わるかたちで吹きとして込まれた"Reuion"も保有しているから,押さえるべきところは押さえていると思う。それは私がJack Wilkins推しだったからという方が大きな理由だが,"Reunion"は結局ピンと来ないままって感じのアルバムに留まっているというのも正直なところだ。Jack Wilkinsも亡くなってしまったが,いろいろアルバムを出したものの,大きな成功を収めることがなかったのは残念ではあるが,相当なテクニシャンであったことは間違いないところ。

それでも本作はストレート・アヘッドな演奏を収めており,当時のMichael Breckerは珍しいセッティングだったということもあって,リーダーとは別の観点で盛り上がってしまったというところだが,聞いていてこのアルバムは"Invitation"のためにあるよなぁというのが実感であった。"Invitation"冒頭のJack Wilkinsとのデュオで始まるMichael Breckerのテナーの音やフレージングを聞いてしまえば,まぁこれに痺れるというのはよく理解できる。更にそこから展開されるソロを聞いていれば,もはやこの曲はMichael Breckerのショーケースだったと言っても過言ではない。

改めて,オリジナルはこういう曲の並びだったのねというのを確認しながら聞いていたが,やはり"Invitation"の磁力は圧倒的であった。Michael Breckerに続くJack Wilkinsのソロも,Randy Breckerのフリューゲルホーンのソロも結構いい出来だと思うが,それを上回っていたのがこの曲でのMichael Breckerだったという印象。こういう演奏をフェードアウトするのは野暮だって気もするので,アルバムとしては星★★★★ぐらいでいいと思うが,好き者にとっては避けて通れないアルバム。いずれにしても,アナログではおそらくB面ばかりがプレイバックされるって感じだなぁ。

尚,Randy Breckerの名誉のために言っておけば,Randy Breckerのこのアルバムでのソロはもっと評価されてもいいように思う。Dave Liebmanの"Pendulum"でもそうだったが,4ビートだってちゃんと吹ける人なのだ。

本作は単独ではCD化されていないので,ご関心のある方は"Merge"のCDを探すか,ストリーミングでどうぞ。

Recorded on October 31, 1977

Personnel: Jack Wilkins(g), Randy Brecker(fl-h), Michael Brecker(ts), Phil Markowitz(p), Jon Burr(b), Al Foster(ds)

本作を含むストリーミング音源はこちら

2024年7月 7日 (日)

1977年「カフェ・モンマルトル」出演と同時期の,安定のStan Getz未発表音源。

_20240705_0001"Unissued Session: Copenhagen 1977" Stan Getz (SteepleChase)

mこのアルバムのリリースが告知された際,おぉっ,これは買わねばと思いつつ,すっかり失念していたものを,先日のライブ通いの前にショップを訪れた際に購入してきたもの。往々にして,Stan Getzの未発表音源はどれもレベルが高く,失望させられることはあまりない。むしろ多作ゆえ,正式リリースされたものになんでこの程度のものが?って思う作品がない訳ではない。しかし,本作はあの「カフェ・モンマルトル」の同じメンツでのスタジオ録音(2曲だけライブ音源:モンマルトルの没テイクか?)ということで,まぁ間違いないってところではあった。ベースはNiels-Henning Ørsted Pedersenだしねぇ。

アナログでの購入も頭をかすめたのだが,CDには別テイクが3曲含まれているし,価格的にもまぁCDだなってところで,今回はCDで購入したが,冒頭のMilton Nascimento作の"Canção do Sal"から期待を裏切らない出来で,嬉しくなってしまう。ここではJoanne Brackeenがエレピを弾いているが,それによって生まれるコンテンポラリーな感覚もなかなかいいのだ。

全編に渡ってStan Getzは好調だし,カフェ・モンマルトルでのライブ盤との曲の重なりも"Canção do Sal"と"Lady Sings the Blues"だけなので,相応に聞き応えがあって,これもナイスな未発表音源リリースとなった。ライブで演じられる"I Remember Clifford"も泣かせてくれる。やはりStan Getzははずさないねぇ。ちょいとミキシング・レベルが低いのは気になるが,甘いとは思いつつ星★★★★☆。カフェ・モンマルトルのライブもストリーミングで聞こうっと(笑)。

Recorded in January 1977

Personnel: Stan Getz(ts), Joanne Brackeen(p, el-p), Niels-Henning Ørsted Pedersen(b), Billy Hart(ds)

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2024年7月 6日 (土)

ライブ盤ばかり聞いていて,本家のプレイバック頻度が低いBill Evansの"Push"。

_20240629_0002 "Push" Bill Evans (Lipstick)

Bill Evans(サックスの方ね)がラップを取り入れたということで,リリース当時話題になったアルバムで,よくよく見ると結構豪華なゲスト陣が参加している。このアルバムがリリースされたのが94年だからもう30年も前になる。だが,私は一向にこのアルバムのプレイバック頻度が高まらず,むしろこのアルバムのライブ・ヴァージョンである翌年リリースの"Push Live in Europe"の方を聞く頻度の方が圧倒的に高い。やっている曲は相当被っているのにだ。

参加しているミュージシャンは圧倒的にこのスタジオ作の方が豪勢なのだが,私にとってはライブ盤の持つダイナミズムの方が好ましい印象を与えてくれると思っている。だから本作をプレイバックしたのも無茶苦茶久しぶりだったのだが,クレジットを見ていてへぇ~と思ってしまうことも多々あった。全然聞いていないのだから誰が参加していたとか記憶から飛んでいるのは当たり前だが,確かBob Jamesは参加していたよなぁぐらいの印象であった。確かにBob Jamesは1曲だけ参加していたが,実に意外な名前だと思ったのがBruce Hornsbyで,彼らしいクリスプなピアノを聞かせているのであった。ここでのサウンドにおいてChris Minh Dokyがアコースティック・ベースを弾いているのも意外と言えば意外。

ではなぜ私がこのスタジオ盤よりライブ盤を好むかと言えば,これは本作のドラムスがほとんど打ち込みに依存していることによることが大きいと思うのだ。時代がそういう時代だったと言えばそれまでだが,やはりドラムスやパーカッションの打ち込みは味気ないと感じてしまうのは,私がそう感じてしまう年齢のリスナーだからか?

そもそも私はラップをほとんど聞かないが,それでも本作及びライブ盤に参加したKC Flightのラップは真っ当だと思っていた。全12曲中ラップが入るのは3曲だけだが,どうせならもっとやってもよかったかもなんて思ったぐらいだ。Bill Evansのアルバムとしては結構売れた方らしいから,チャレンジとしてはそれなりの成果だったとは思うのだが,本領はライブ盤の方が発揮されているように思えるのが残念。最後に収められた"Matter of Time"なんて悪くない演奏だと思うのだが,アルバム全体の中で浮いてしまうような曲と言え,アルバムとしてはいろんなことをやり過ぎた感があるのも難点で,これを聞くならライブ盤を優先しちゃうなぁということで,星★★☆。

Personnel: Bill Evans(ts, ss, as, p, el-p, key, loop), Clifford Carter(key, loop), Bruce Hornsby(p), Bob James(p), Phillip Saisse(key), Jeff Golub(g), Chuck Loeb(g), Nick Moroch(g), Chris Minh Doky(b), Marcus Miller(b), Victor Bailey(b), Mark Egan(b), Billy Ward(ds), Michael Davis(tb), Chris Botti(tp), KC Flight(rap, prog), Blackstar(rap), Hard Hittin Harry(vo), K-la(vo), Little Eli(vo), Max Risenhoover(sequence, g), Jimmy Bralower(prog), Michael Colina(prog) and others 

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2024年7月 5日 (金)

Mike Stern@Cotton Club参戦記。

Mike-stern-at-bnt

昨今ライブ通いがマメになっているが,前日のFairground Attractionに続いて,マイキーことMike Sternのバンドを観るべくCotton Clubに行ってきた。マイキーは先週末のすみだトリフォニーホールにおける「村上JAM」での大活躍ぶりを見たばかりなので,今回も期待を込めての参戦となった。しかも今回のリズムは懐かしのMike Stern~Bob Berg Bandのリズム隊である。あの暑苦しいと言ってもよい演奏の再現を期待するのも筋である。

冒頭はLeni Sternのヴォーカルとンゴニをフィーチャーした"Like a Thief"(だと思う)でスタートするのは,Leni Sternが参加するライブではお馴染みのパターン。ただ,私としては彼女のギタリストとしては実力はわかっているし,夫婦で共演することを否定するつもりはないが,コンセプトが違い過ぎて,このバンドにフィットしているとは思えないということははっきりしていると思う。それはJeff Lorberと来た時にも書いた。しかし,そこから"Tumble Home"に突入して,こちらが期待するマイキーのバンド・サウンドに転じたってところだ。

今回,意外にもDennis Chambersがブラシを使う時間が長くて,猛爆ドラミングを聞かせる瞬間もありつつ,バンドとしては少々おとなしめな演奏って感じがなかった訳でもない。だが,私の場合,このバンドには「ゆるめの(笑)」ヘッド・バンギングを誘うような,よりハードな演奏への期待値が高いので,その辺りは選曲自体を考えて欲しい気もしたのは事実。「村上JAM」の時も思ったが,今回はオーヴァードライブの効かせ方がいつもより優しい感じがしたのも,そういう印象を与えているかもしれない。テナーのBob Franceschiniは,エフェクターを使うと,Brecker Brothers時代のMichael Brecker的な音色を聞かせながら,そのハードなブロウにより,バンドとのフィット感は随分増したように思う。それでもここにBob Bergがいたらどうだっただろうなんて思っていたのも事実なのだが...。

まぁ,それでもマイキーはマイキーなので,私としても演奏は楽しんだのだが,前回のJeff Lorberとの共演時に続いて,またもいましたクソ客。ビートとアンマッチな手拍子入れてんじゃねぇよと言いたくなるセンスのなさ,更にはしょうもない奇声には辟易させられた。最近はブルーノートではそうしたアホ客を見かけることは少なくなったと思うが,私はCotton Clubでのマイキーのライブでは2回連続でこういうアホ客に遭遇である。私の日頃の行いが悪いからそうなるだけという突っ込みもあるかもしれないが,それでもこれだけは言っておく。ミュージシャンへのリスペクトに欠け,ほかの聴衆には迷惑千万,単に飲んで騒いでいるだけのような客に音楽を聞く資格はない(きっぱり)。ああいう輩は出入禁止にして欲しいもんだ。

尚,上の写真はBlue NoteのWebサイトに上がっていたものを拝借。雰囲気としてはCotton Clubでも基本,何にも変わらない。違ったのはデニチェンのシャツの色ぐらいだ(笑)。

Live at Cotton Club on July 3, 2024,2ndセット

Personnel: Mike Stern(g), Bob Franceschini(ts), Lincoln Goines(b), Dennis Chambers(ds), Leni Stern(g, ngoni, vo)

2024年7月 4日 (木)

Fairground Attraction@ヒューリックホール東京参戦記

Fairground-attraction-at-huric-hall

35年ぶり(!)のFairground Attractionの来日ライブを観に,有楽町のヒューリックホールに行ってきた。このヴェニューにコンサート・ホールとしていくのは初めてだが,以前映画館だった頃に行ったことがある。今やシネコン全盛で900席近くの大型の映画館を単館で運営することが難しくなったとも思えるが,なかなか面白い役割転換だと思う。

それはさておきFairground Attractionである。この日,ドラムス担当のRoy Doddsはリハーサルまでは来ていたらしいが,体調不良でライブには欠場となるという特殊な状況下での演奏となった。しかし,バンドとしてはそうしたトラブルをものともしない演奏を聞かせ,非常に好感度の高いライブとなった。

客席の平均年齢は無茶苦茶高いと思わせるのは当然だ。いくら今年になって新曲を出したからと言って,Fairground Attractionが活躍したのは80年代後半から90年代前半であるから,ライブに来るのも「当時からのファン」が基本だろう。そうなると私の年齢層に近いオーディエンスが多いのも当然だ。一方の私は先日このブログにも書いた(記事はこちら)が,Eddie Readerのソロ・アルバムから入って後追いでこのバンドを聞いているに過ぎない。それでもEddie Readerの歌いっぷりが見たいと思っての今回の参戦である。

そして,新曲に加えて,お馴染みの曲を歌って,長年のファンの皆さんはもちろん,新参者の私のような人間にも一緒に歌わせてしまうというのはなかなか凄いことだと思った。そもそもバンド・メンバーがツアー・サポートの二人も含めて35年前の来日時と全く一緒というのもびっくりだが,グループとしてのブランクを感じさせない演奏ぶりは大したものだと思った。Mark Nevinはアコギ一本での演奏だったが,アンプを通しているとは言え,あのニュアンスを弾きこなすのにもびっくりしてしまった。そしてRoy Doddsの不在は少々残念ではあったが,やっている音楽ゆえそれほど影響は大きくなかったのはよかったと思う。

更に特筆すべきはEddie Readerの歌の上手さだ。彼女は私より年長だが,声はよく出ているし,音程も完璧と思え,本当に大した歌手だという思いを抱きながら音楽を聞いていた私である。本人は終盤で感極まって涙を流していたようにも思うが,それに影響されることなく歌いきるところもプロだと思った。最後は3度目のアンコールに応えて,Eddie Reader一人で歌ってライブを締め,心地よい感情を抱きながら家路についた私だったが,おそらくほかの聴衆にとってもそうだったろうと思えるナイスなライブであった。

Live at ヒューリックホール東京 on July 2, 2024

Personnel: Eddie Reader(vo, g, ukulele, concertina), Mark Nevin(g, vo), Simon Edwards(guitaron, vo) with Roger Beaujalais(vib, glockenspiel, marimba, perc), Graham Henderson(accor, mandolin, glockenspiel, vo)

Eddie-reader-at-huric-hall

2024年7月 3日 (水)

どういう経緯で,どういう理由で買ったかも覚えていないTom Rushのアルバム(爆)。

_20240629_0003"Wrong End of the Rainbow" Tom Rush (Columbia)

CDの保有枚数が増えると,どうしてこんなCDがラックにあるのかわからないというものもごく稀だが出くわすことがある。本作もそんな一枚。主題の通り,どうしてこの紙ジャケCDを買う気になったのか,そもそもどこでいつ買ったかも覚えていない。

Tom Rushと言えば,逸早くJoni Mitchellの"Urge for Going"や"Circle Game"等の曲を取り上げて,Joni Mitchellが世に出るのを加速させたことはよく知られている。そのほかにもJames TaylorやMarray MaLachlanも取り上げていて,ある意味,レパートリーとすべき曲を見つける能力に長けていたという人とも言える。本作でもJesse Winchesterの"Biloxi"やJTの"Riding on a Railroad"と"Sweet Baby James"を取り上げている。しかし,そうした事実を以てしても,私がこのCDを購入する理由にはなっていないと思う。そもそも本作をプレイバックした記憶もほとんどないし,なぜ持っているのか?と考えだすと訳がわからなくなる,もはやボケ老人一歩手前のような私である(爆)。

それでも改めてこのアルバムを聞いてみると,なかなか魅力的な歌手だったと思えてくる。James Taylorの声を枯らしたような感じと言ってもよい歌声は,ここに収められた曲にフィットしていると思え,なかなかに味わい深いアルバムであった。星★★★★。「消え去りし虹」って邦題もなかなか素敵だったねぇ。

こういうことがあるので,ラックの中身はたまにチェックしないといかんなぁと思えてしまう。歳は取りたくないものだ(苦笑)。

Personnel: Tom Rush(vo, g), Trevo, Trevor Veitch(vo, g, mandocello, dulcimer), Bob Boucher(b), Dave Lewis(perc), John Locke(p, org), Eric Robertson(p, org), Paul Armin(vln, vla), Brent Titcomb(hca), David Bromberg(pedal steel), Ed Freeman(arr)

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2024年7月 2日 (火)

日本でコンパイルされたCTI/KUDU時代のGeorge Bensonの音源。

_20240629_0001 "The Best of George Benson in the CTI/Kudu Years" Geroge Benson (CTI/Kudu→King) 

まだまだ現役のGeorge Bensonであるが,20世紀における音楽的なキャリアを総括するならば,以前このブログでも取り上げた"Anthology"を聞いておけばいいということになる(記事はこちら)が,これはWarner Brothersでメガ・ブレイクする前に所属していたCTI/Kuduレーベル時代のGeorge Bensonの音源を日本でコンパイルしたもの。コンパイラーは原田和典。

"Breezin'"が大ヒットしてからのGeorge Bensonは歌う比率をどんどん高めていったが,もとはWes Montgomeryの後継者たるギタリストとしての位置づけであったから,よりギタリストとしてのGeorge Bensonを聞くならこれぐらいでいいかもしれない。そうは言っても全9曲中,2曲では歌も入っているが,これぐらいが塩梅がいいのだ。それも歌っているのは"Moody’s Mood"と"Summertime"だから鉄板だ。特に後者のCarnegie Hallのライブは結構よくできたアルバムだったと思っている。

Don Sebeskyのしょうもないアレンジが施された冒頭の"California Dreaming"こそずっこけるが,2曲目の"So What"で持ち直す。フェードアウトが惜しいとさえ感じさせる真っ当なジャズ路線である。3曲目のPee Wee Ellisがアレンジした"Plum"もいい調子だが,その次の"Take Five"の選曲はいいとして,またもDon Sebeskyのアレンジがダサい。どうせこの曲を選ぶならCanegie Hallのライブでのこの曲の方がよかったんじゃないの?って気がする。つくづく私はDon Sebeskyと相性が悪いのだろう。その後の"My Latin Brother"はタイトル通りラテン色濃厚だが,こういう曲調はGeorge Bensonに合っていないと思うけどなぁ。まぁBensonのアドリブ・パートはなかなかいいからいいんだけど。

2曲のヴォーカル入りヴァージョンをはさんで,その後がJoe Farrellとの共演による"Old Devil Moon"だが,これまたラテン風味ではあるが,"My Latin Brother"よりは聞ける感じなのは,アレンジャーがDavid Mathewsに代わっているせいか。だとすれば,私のDon Sebesky嫌いは筋金入りだな(笑)。最後はVince Guararldiが書いた"Cast Your Fate to the Wind"でこの辺りになるとフュージョン風味が随分強くなるのは時代の流れってところか。これがかなりゆるい出来だが,曲が曲だけにしょうがないか。

Best-of-george-benson まぁそこそこ聞きどころはあって楽しめる部分もあるが,いけていない部分も感じられたというのが正直なところ。星★★★。尚,現在はこのアルバムと同じような企画のCDのイメージもあるようなので,そちらのイメージもアップしておくが,選曲はだいぶ変わっている。

Personnelはコンピレーションなので省略。

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2024年7月 1日 (月)

これも久々に聞いたAnnie Lennoxの"Diva"。懐かしいねぇ。

_20240628_0001"Diva" Annie Lennox (Arista)

実に懐かしいアルバム。このアルバムがリリースされたのが1992年4月だから,私がNYCの在住生活を終える少し前(私が帰国したのが92年の6月)のことだ。リリース後,Annie Lennoxは"Saturday Night Live"に出演して"Why"を歌っていたのを見た記憶がある。それから既に30年以上経過しているが,その間にこのアルバムを何度プレイバックしたかは疑問で,本当に久しぶりのプレイバックとなった。そして上述のようなことを思い出しながら,懐かしくアルバムを聞いていた私である。

本作はEurythmicsが一旦解体して,Annie LennoxとDave Stewartが各々のソロ活動を開始した時期のもので,Annie Lennoxにとっての初ソロ・アルバムであった。本作は本国英国においては特にヒットして,米国でもそこそこの成功を収めたはずだが,改めて聞いてみると,なかなかの佳曲揃いだったなぁと思わせる。この辺りにソングライターとしてのAnnie Lennoxの実力も感じられる。Eurythmicsの時はDave Stewartとの共作がほとんどだったと認識しているが,単独でもいけることは実証されたと言ってもよい。音楽としてはシンセ・ポップに位置付けてよいと思うが,そこはAnnie Lennoxの渋い声もあって,ちゃらちゃらしたところのない大人の音楽となっているのがいいねぇ。

こういうことだから,随分前に入手したCDもたまにはプレイバックしなければならんということだが,だからと言って本作が超弩級の傑作と言うつもりもない。よくできたアルバムであるのは事実だし,メロディ・ラインも魅力的ではあるが,少々地味な感じがする。そして何よりもCDのボーナス・トラックとして収録されたHarry Warrenが書いた古い曲である"Keep Young and Beautiful"は明らかに蛇足で,アルバムとしての画竜点睛を欠いたのは残念。ここは"The Gift"でしっとり締めるのが筋だった。この辺りはまじで惜しいと思う。ゆえに星★★★★。

Personnel: Annie Lennox(vo, key), Stephen Lipson(g, prog, key), Peter-John Vettese(key, prog, recorder), Marius de Vries(prog, key) with Luis Jardin(perc), Ed Sheamur(p), Keith Lebland(ds), Doug Wimbish(b), Kenji Jammer(g), Steve Jansen(prog), Paul Moore(key), Dave Defries(tp), Gavin Wright(vln)

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