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2024年5月31日 (金)

音だけでも十分カッコいい"Stop Making Sense"。

_20240529_0001"Stop Making Sense" Talking Heads (EMI)

"Stop Making Sense"と言えば,私にとっては映像付きという印象が強い作品であり,ブログを始めた年にも映画版については記事をアップしている(記事はこちら)。その時のこの映像版への評価は今でも一寸も揺るがない。最近も本作の4Kレストア版が劇場で公開されて,結構長い期間上映されていたように思うが,"David Byrne’s American Utopia"の素晴らしさ(あれはマジで傑作だった)の影響があったとしても,映像版が多くの人の目に触れる機会があったのは実にめでたい。私は映画館には観に行っていないが,久しぶりにそのサウンドトラックとしてこのCDを聞いてみた。本作は映像版に収録されたものとリンクするかたちで,追加トラックを含めて後にリリースされた拡大版。映像版を見る暇がない時はこのCDで済ませるのも一つの手であるが,改めて音だけで聞いても,実にカッコいい音楽であった。

"David Byrne’s American Utopia"も本作も同様だが,音楽と舞台芸術の「組合せ」にこそ本当の価値があると思うので,本来ならば映像付きで見たい。しかし,音だけでも,冒頭の"Psycho Killer"から最後の"Crosseyed and Painless"まで一切緩むことなく展開される音楽に時間の経過を忘れてしまう。

この音楽が成功していると思えるのは,Talking Headsのメンバーだけでなく,適材適所のバックアップ・ミュージシャンを採用して,強烈なファンク感を生み出したことだ。本当にぞくぞくさせられたことからしても,傑作と呼ぶことに躊躇はない。星★★★★★。やっぱり最高だよなぁ。

Recorded Live at the Pantages Theater in December 1983

Personnel: David Byrne(vo, g), Tina Weymouth(b, g, key, vo), Chris Franz(ds, vo), Jerry Harrison(key, g, vo), Steve Scales(perc, vo), Alex Weir(g, vo), Bernie Warrell(key), Lynn Mabry(vo), Ednah Holt(vo)

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2024年5月30日 (木)

"Miles in Tokyo":注目はSam Riversだよねぇ。

Miles-in-tokyo "Miles in Tokyo" Miles Davis(CBS Sony)

Miles Davisが初来日した1964年の記録として,このアルバムは非常に貴重なものだと思うが,それに加えてSam Riversとの共演もここだけだと思うので,それはそれで貴重だろう。

Milesのクインテットは,テナーの前任者がGeorge Colemanで,この後Wayne Shorterが参加する訳だが,バックのリズム・セクションはGeorge Colemanよりも大胆なアプローチで臨めるサックス・プレイヤーを求めていたとMilesのコンプリート・ボックスのライナーにはある。そこでTony Williamsが推奨したのが何とEric Dolphyだったらしいが,Milesからすれば,Dolphyはエレガントさに欠けると判断したともライナーには書いてある。こっちとしてはMilesのバンドにDolphyが入っていたらどうなっていたかと夢想してしまうが,まぁMilesの判断通り,このバンドにDolphyが合うとは思えないところ。

じゃあSam Riversはどうだったのかと言うと,例えば"So What"なんかではかなりフリーなアプローチが顔を出すとは言え,暴走はせずにちゃんとこのバンドには合わせているから,演奏としての破綻はないように思える。後のPlugged Nickelのライブの時期辺りにSam Riversがいたらもっと激しく吹いていただろうと思わせるが,まだまだここでの演奏はコンベンショナルな範囲に収めているところが大人の対応ってところだろう。

Miles-in-tokyo-alt まぁこの頃のMiles Davisのアルバムはライブ盤ばかりで,レパートリーも変わらずってところなので,この時期のアルバムで何をいの一番に買うかとなった時に,人それぞれの好みはあるものの,本作ってことにはならないだろうが,これはこれで十分楽しめてしまうところが,Milesらしい。星★★★★☆。因みに一時期このアルバムは別ジャケで売られていたが,上に掲示したジャケの方が圧倒的にカッコいいと思う。

私としてはGeorge ColemanにはGeorge Colemanの良さがあったとは思っているが,やはりWayne Shorterが入ってきてからが,バックの3人にとってはより本領が発揮できたってところなんだろうなぁ。

Recorded Live at 新宿厚生年金会館 on July 14, 1964

Personnel: Miles Davis(tp), Sam Rivers(ts), Herbie Hancock(p), Ron Carter(b), Tony Williams(ds)

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2024年5月29日 (水)

当たり前だが,初リーダー作からEric DolphyはEric Dolphyであった。

_20240528_0001 "Outward Bound" Eric Dolphy (New Jazz/Prestige)

何だかんだ言って,私は結構なEric Dolphy好きでありながら,全アルバムの保有を目指そうなんて考えたことはない。その程度の聞き方ではあるが,生前に出たリーダー作ぐらいは押さえておく必要があるということで,今更ながら本作と次作"Out There"をCDで購入である。もちろんこの2作は今までだってジャズ喫茶やらストリーミングやらでは聞いているからフィジカルな媒体で保有する必要があるかと言えば,必ずしもそうではないとも言える。どうせならオリジナルのアナログでゲットするならわかるが,値段も高くて手が出ないし,正直今まで私は"Far Cry"以降でいいやと思っていたのも事実だ。だから今回の購入も完全な気まぐれ。ポイントも余っていたし,まぁいいかってところであった。

しかし,改めてこのアルバムを聞いて,やはりEric Dolphyという人の異能ぶりを堪能したってところだ。Eric Dolphyにとって,本作を皮切りに亡くなるまでのリーダーとしての実働は5年ほどだった訳だが,主題の通り,この初リーダー作からDolphyはDolphy以外の何者でもなかったということをつくづく感じさせてくれる。

私が敢えて言うほどのことではないが,Eric Dolphyは決してフリー・ジャズではない。あくまでも調性の範囲で仕事をしていながら,出てくるフレージングがそれまでにないというタイプであったことは間違いない。このアルバムのタイトルの"Outward Bound"は付けも付けたりというところで,この「アウト」な感覚が当時のオーディエンスには変わったものに響いたのではないかと想像してしまう。それは表現を変えれば新鮮である一方,奇異でもあったのではないかと思えるが,その後の音楽界の変遷を踏まえれば,今の耳には全く何の抵抗もなく受け入れられる音楽だと思える。

Eric Dolphyに比べれば,バックを支えるトリオは,コンベンショナルな感覚での伴奏というところだし,Freddie HubbardもテーマでDolphyとユニゾンで演奏をすれば,そこはアウトな感覚でも,出てくるソロはDolphyに比べれば,まぁ普通だという感じだ。だからこのクインテットにおいても明らかにEric Dolphyという人の個性が強烈であったということがわかるはずだ。それは冒頭の"G.W."からして明らかであった。そのことを再確認するだけでも価値があるアルバム。星★★★★☆。

Recorded on April 1, 1960

Personnel: Eric Dolphy(as, b-cl, fl), Freddie Hubbard(tp), Jaki Byard(p), George Tucker(b), Roy Haynes(ds)

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2024年5月28日 (火)

恥ずかしながら「マッドマックス」をAmazon Primeで初めて見た。

Mad-max-1 「マッドマックス("Mad Max")」(’79,豪,UA)

監督:George Miller

出演:Mel Gibson, Joanne Samuel, Hugh Keays-Byrne, Steve Bisley, Roger Ward, Tim Burns

「マッドマックス 怒りのデスロード」は劇場で見たものの,このオリジナルは見たことがなかった。「怒りのデスロード」の前日譚,「マッドマックス フュリオサ」も公開されることだし,オリジナルを見ておくかってことで,Amazon Primeで見たのだが,こんな映画だったのねぇというのが正直なところ。

正直言ってモラルのかけらもないような暴走族に相対し,復讐に燃えるマックスの物語であるが,ここまでストーリーを暴力的にしなくてもいいのではないかとついつい感じていた高齢者の私である。暴走族も無茶苦茶なら,警察も無茶苦茶である。正直言ってそうしたバックグラウンドを理解しないで「怒りのデスロード」を見ていたので,世界観の理解は難しかったってところだが,正直言ってしまえば,こういうのは私の好みではない(きっぱり)。何事もやり過ぎはいかんと思わせるような映画である。

Mel Gibsonが若くて笑ってしまうほどであったが,これが彼の原点だったとすれば,それを評価の対象にするのがいいところだと思う。Mel Gibsonのアクション映画として見るなら「リーサル・ウェポン」シリーズの方がずっといいわ。繰り返しになるが,私の価値観には合わないこういう作品は好かん。ということで,星★★☆。評価は2作目の方が高いようだから,一応見てみるか(笑)。

本作のBlu-rayへのリンクはこちら

2024年5月27日 (月)

何度聞いてもピンとこない"Music We Are"。

_20240521_0003"Music We Are" Jack DeJohnette (Golden Beams)

素晴らしいメンツである。Jack DeJohnetteを支えるのはDanilo Perez, John Patitucciであるから,ドラムスがBrian Bladeに変わればChildren of the Lightである。換言すれば,Wayne Shorter Quartetのバックを担った強力なトリオだが,Brian BladeがJack DeJohnetteに代わるとなれば,これも期待できると思うのが当たり前だ。

だが,このアルバムがリリースされてから15年近くになるはずだが,その間に何度かプレイバックをする機会はあったものの,何度聞いても私にはどうしてもピンとこないのだ。このメンツならもっといいものができると思ってしまうところがあるのは,Wayne Shorter QuartetやChildren of the Lightに感じられるテンションが感じられないところゆえである。

そもそも私はJackDeJohnetteがピアニカを何曲かでプレイする意義や意図が理解できないというのが一番で,この3人ならではのトリオとしての表現を追求して,もっと聞き手を締め上げるような感覚を与えてくれたた方がよかったと思えてしまう。全11曲中,私がこれなら納得できると思えるのは7曲目"Cobilla"と9曲目"White"ぐらいだ。この2曲はDanilo Perezが書いた曲だし,あるいはどうせなら最後のメロディアスな"Michael"のような曲をもっと入れてくれればってところだ(おそらくこの曲はMichael Breckerトリビュートだろう)。そしてこれもJohn Patitucci作ということで,Jack DeJohnetteが書いた曲や,3者合作のおそらくコレクティブ・インプロヴィゼーションの曲が面白くないということの裏返しだ。

Jack DeJohnetteのアルバムと言えば,ついついNew DirectionsやSpecial Editionのような緊張感溢れる演奏を期待していたのだが,このアルバムの演奏は破綻はないとしても,私がJack DeJohnetteに求めるものではない(きっぱり)。上述の3曲を除けば,メロディ・ラインに魅力的なものがある訳でもないので,どうにも中途半端な印象しか受けない。ということで,星★★★が精一杯。これを聞くなら別のJack DeJohnetteのアルバムを聞く。このCDには制作過程を記録したと思しきオマケのDVDが付いているが,音楽にこんな感覚を覚えているので,DVDは見たこともないし,見る気もしないというのが正直なところ。

Recorded on February 22-24, 2008

Personnel: Jack DeJohnette(ds), Danilo Perez(p), John Patitucci(b)

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2024年5月26日 (日)

時代を反映したところもあるであろう善意に満ちた映画,「野のユリ」をAmazon Primeで観た。

Photo_20240519171901 「野のユリ("Lillies of the Field")」(’63,米,UA)

監督:Ralph Nelson

出演:Sidney Poitier, Lilia Skala, Lisa Mann, Isa Crino, Francesca Jarvis, Pamela Branch, Stanley Adams, Dan Frazer

この映画はSidney Poitierが黒人としてオスカー主演男優賞を受賞したエポック・メイキングな作品であることは知っていたが,観たことはなかった。Amazon Primeで間もなく配信が終了という告知を見て慌てて観たのだが,極めて善意に満ちた映画であり,世の中そんな綺麗ごとでは済まないという斜に構えた見方もできるものの,こういう映画を見て,素直に感動する気持ちを私は忘れたくないと感じた。

Sidney Poitier演じるHomer Smithは言ってみれば「お人好し」が過ぎるような人間であり,そんな奴はいないわ!って声も聞こえてきそうなストーリー展開だし,登場してくる人間にほぼ悪人がいないというところにも,そんな訳ないだろうというひねくれた目で見てしまう私だ。しかし,当時の公民権運動の高まりとも連動したかたちで,ここでのSidney Poitierが評価されたということもあるだろうが,欧米人の宗教観に響く部分もあっただろうという印象が強い。

私はクリスチャンではないが,キリスト教に対してかなりシンパシーが強い人間なこともあり,こういう展開にはついつい納得してしまう部分がある。劇中にはフィランソロピーという表現が出てくるが,教会建設を手伝うメキシコ人たちは慈善というより自発的宗教活動という感じか。映画において宗教観を示されることには賛否のあるところもあろうし,古臭さも否定するものではないが,私はこういう映画は好きだし,いい映画だと思った。星★★★★☆。

面白かったのはエンディングで普通なら"The End"と表示するされるであろうところに,"Amen"と表示されたことであった。

本作のDVDへのリンクはこちら

2024年5月25日 (土)

熱量が素晴らしいMusic Inc.の"Live at Slugs'"。

_20240521_0001 "Live at Slugs'" Music Inc. (Strata East)

久しぶりに本作を聞いたら,あまりの熱量に圧倒されてしまった。これが70年代初頭の音ってところか。熱量と言ってもどフリーという訳でも,音量過多ということではない。演奏自体に熱量を感じるのだ。決してアバンギャルドではない,どちらかと言えばコンベンショナルな演奏と言ってもよいのだが,こういう演奏をライブハウスで聞かされたら確実に燃えるってタイプの音楽である。

Music Inc.はラッパのCharles TolliverとピアノのStanley Cowellの双頭コンボの位置づけであるが,実質的リーダーはCharles Tolliverだったらしい。ここでこれだけの演奏をしているこの二人が後に袂を分かつというのはもったいなかったようにも思うが,いろいろな事情があったのだろう。

私がこの演奏に惹かれるのは,そもそも私がラッパのワンホーン編成が好きなこともあるが,ロックの波が押し寄せつつあった(既に押し寄せていた?)この時代において,こうした熱いストレート・アヘッド・ジャズを展開していた彼らの気概にシンパシーを感じるというのも大きいように思う。だが聞いてもらえばわかることだが,これはかなり魅力的な演奏群であり,録音から半世紀以上を経ても十分に楽しめる。

_20240521_0002  この"Live at Slugs'"はもともとVol.1とVol.2に分売されていたものだが,私が保有しているのは中古でゲットした国内盤CDで2in1となっているお徳用盤である(Vol.2のジャケもアップしておく)。本CDは確か私が横浜の病院を退院して,術後の検査で病院を訪れた帰りに,今はなき横浜のレコファンでゲットした記憶があるから,もう9年前になる。余談ながらあれだけ隆盛を誇ったレコファンも今や数店舗になってしまったが,新譜の値段が安かったし,中古の品揃えも結構充実していたので,特に現在の住まいに引っ越す前には町田店に足しげく通い,そして非常に世話になった。このCDも大した値段ではなかったはずだから,いい買い物であった。

その後,このアルバムをプレイバックしたのは数回程度だろうが,今回聞き直して,こんなにいい演奏だったのかと思ってしまうのだから,私もいい加減なものである。そもそもこういうアルバムを二軍みたいな場所に置いていることが問題であり,今回本作は少なくとも1.5軍には昇格である(笑)。ということで星★★★★☆。尚,本作のCDは現在は廃盤のようだが,アナログの入手は容易みたいだ。

Recorded Live at Slug’s Saloon on May 1, 1970

Personnel: Charles Tolliver(tp), Stanley Cowell(p), Cecil McBee(b), Jimmy Hopps(ds)

2024年5月24日 (金)

Lighthouseと同じ楽器編成の"Live at the Big Mama”を久しぶりに聞く。

Live-at-the-big-mama "Live at the Big Mama" Maurizio Giammarco / Dave Liebman / Daniel Humair / Furio Di Castri(Soul Note)

CDの保有枚数が増えてくると,こんなの持ってた?と思うものに出くわすこともまぁまぁある話だ。だから家人には常々「死ぬまでに二度と聞かないCDなんていくらでもあるでしょ?」なんて皮肉を言われても,反駁のしようがないというのが実態だ。これもすっかり失念していたアルバムだが,リーダーと思しきMaurizio Giammarco以外のメンツに惹かれて購入したはずである。とは言え,Maurizio Giammarcoもこのブログには2回登場していたということを振り返って知った私である。因みにその2枚とは,1枚がTom Harrellも参加した"The Auditorium Session",もう1枚がJazz ItalianoシリーズのRoberto Gatto盤だが,すっかり失念していた。いずれにしても,サックス2本にベース+ドラムスと言えば,あのLighthouseのライブ盤と同じってことになるが,そもそもそのLighthouse盤も久しく聞いていないのだから,私もどうしようもない(爆)。

まぁそれでも本作もDave Liebmanがいれば大体こうなるだろうなぁという感じで,決してやわな音楽にはならないのだが,フリーまでは行かずとも,極めてスポンテイニアスなかたちで演奏が展開される。4人共作となっている"Reflections on Roman Walls"はおそらくコレクティブ・インプロヴィゼーションということだろう。こういう音楽だけにしょっちゅう聞きたいと思うような演奏とは言えないが,ライナーで本人が述べているように,ライブ・レコーディングを重視するDave Liebmanにとってはあって然るべきものということになるし,我々もそれに対峙していく必要があるのだ(きっぱり)。

もうこの頃にはテナーのプレイを復活させていたDave Liebmanだが,ここでもMaurizio Giammarcoという相方を得てのハードなブロウにはやはり興奮してしまう。クレジットにはないが,一部でフルートを吹いているのはLiebmanだろうか。いずれにしても,Dave Liebmanも久しく来日していないと思うが,元気なうちにその生演奏に接したいと思ってしまうアルバムであった。星★★★★。そもそも私が今はなきJazz StandardでDave Liebmanと話をしたのももう5年半も前になってしまった。誰か呼んでくれないものか?

Recorded Live at the Big Mama, Rome on January 26-27, 2000

Personnel: Maurizio Giammarico(ts, ss), Dave Liebman(ts, ss), Furio Di Castri(b), Daniel Humair(ds)

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2024年5月23日 (木)

追悼,Palle Danielsson。

Palle-danielsson

Palle Daniellsonが亡くなった。訃報が流れた時には,確定的な情報がなく,ガセネタではないかと思っていたのだが,ECMから正式にアナウンスが出て,これが事実だったということがわかってしまったのは残念なことである。

私はPalle Danielssonのリーダー作は聞いたことがないが,Keith JarrettのEuropean Quartetをはじめ,Peter ErskineのEuropean Trio,Charles Lloyd Quartet,Michel Petrucciani Trio等の演奏を通じて,この人のベースには結構な頻度で接してきたと思う。振り返ってみれば,それらの音源がほぼ例外なく印象に残る出来だったというのは凄いことで,共演者や作品に恵まれたということもあるが,何よりもPalle Danielssonのミュージシャンシップの賜物であったと思う。

_20240522_0001

そんなPalle Danielssonへの追悼を込めて聞いていたのが,Keith JarrettのEuropean Quartetの端緒となった"Belonging"であった。メロディアスでありながら,フォーク的なタッチを聞かせて,実に素晴らしい演奏だが,どんなリズムでもきっちりこなしてしまうPalle Danielssonが支えるボトムの音がまたいいのである。そして,ここで聞かれるPalle Danielssonのベースの音そのものが増幅感がなく,実に自然なのも素晴らしいではないか。今にして思えば,実に聞き易い演奏だし,こうした演奏は後の活動にも引き継がれたが,このQuartetの作品は痺れるものばかりであった。"My Song"もよかった。"Nude Ants"もよかった。"Personal Mountains"もよかった。そして"Sleeper"はマジで凄かった。

もちろんKeith Jarrettとの活動に限らず,上述のミュージシャンたちとの共演作も立派な出来であり,スウェーデンのミュージシャンの質の高さ,実力をかなり早い時期から世に実証したと言ってもよいと思う。77歳の死はちょっと早いように思えるが,Palle Danielssonが残した業績は不滅だ。

R.I.P.

2024年5月22日 (水)

最もジャズに傾斜したAndy Summersと言えるThelonious Monk集。

_20240518_0003 "Green Chimneys: The Music of Thelonious Monk" Andy Summers (BMG)

PoliceのAndy Summersは,そのソロ活動においてはジャズ/フュージョン領域に傾斜したアルバムをリリースしていたが,そのジャズ度が最も高まったのがこの一枚と言ってよいだろう。タイトルに偽りなく,全曲Thelonious Monkのカヴァーである。Andy SummersをバックアップするのもDave Carpenter,Peter Erskineを中心とするジャズ界の面々である。

Andy Summersは若い頃にMonkの音楽を聞いて衝撃を受けたとライナーにも記しているが,それが高じてこうしたアルバムまで作ってしまうのだから相当なものである。そして極めて真っ当にThelonious Monkの曲に取り組んでいるのは好感が持てるし,比較的知られていない曲をやってしまうところにも相当な思い入れを感じる。

Andy SummersもThelonious Monkの音楽に様々な意匠を施しながら対応しているが,演奏が無茶苦茶優れているかと言えば,必ずしもそうでもないように思える。Stingがゲスト・ヴォーカルで加わる"'Round Midnight"は「いかにも」のムーディな展開だが,各曲のアレンジメントでいろいろやり過ぎた感じがある。そもそも"Brilliant Corners"みたいに難しい曲を選んじゃいかんだろう(笑)。それがThelonious Monk集の難しさだと思う。Hal Willnerがプロデュースしたオムニバス盤"That’s the Way I Feel"ぐらいになると,参加した各々のミュージシャンの個性を楽しむというのもありになるが,単独でMonk集を作るのは容易ではないのだ。

まぁ努力賞って感じかなぁということでオマケしても星★★★程度。これを聞くぐらいならThelonious Monk本人のアルバムを聞くだろうってところだ。

Recorded between September and November 1998s

Personnel: Andy Summers(g, banjo, dobro), Dave Carpenter(b), Peter Erskin(ds), Sting(vo), Hank Roberts(cello), Joey DeFrancesco(org), Steve Tavaglione(ss, ts, cl), Walt Fowler(tp), Bernie Dresel(ds)

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2024年5月21日 (火)

やはりJimmy Smithははずさないねぇ(笑)。

Sermon "The Sermon!" Jimmy Smith (Blue Note)

Blue NoteレーベルにおけるJimmy Smithのアルバムは,大体においてはずれがなくて,どれもがジャズ的な雰囲気を濃厚に醸し出すという点で,安定感抜群である。このアルバムにおいてもそれは変わらない。

このアルバムは2つのセッションからの全3曲で構成されているが,3曲全てに登場するのはリーダーとLee Morganだけというかたちながら,生み出される雰囲気はやっぱりBlue Noteだねぇと思わせるもの。そもそもタイトル・トラックからして,冒頭からミュージシャンたちのソロ回しが続き,これだけのミュージシャンがいても,最後半部のちょっとしたリフ以外ではユニゾンもしないのかと思わせる,ある意味一丁上がりみたいな演奏である。しかもこの曲はフェード・アウトされるから,その後も延々セッションは続いてたんだろうと思わせる。ブルーズってのはこういうのができてしまうところがいいのだが,しかも演奏しているのが実力者ばかりなので,それで20分強の尺を聞かせてしまうところがいいねぇ。RVGシリーズでリリースされた際のライナーにも書いてあるが,まさにブローイング・セッションって感じで,Alfred Lionが集めたミュージシャンに好きにやらせたってところだろう。意外にも(?)Art Blakeyは控えめにプレイしているが。

2曲目の"J.O.S"だけほか2曲と異なるセッションでメンツも変わるが,George Colemanがアルトを吹いているのが珍しい。ここでのギターとドラムスが当時のJimmy Smithのバンドのレギュラーだったらしいが,タイトル・トラックとは異なり,テーマ部ではオルガンとギターのユニゾンもあるから,それなりにアレンジはしてあるって感じだ。だが,ソロイストたるLee MorganとGeorge Colemanはあくまでもソロだけ。Lee Morganのソロは「熱さ」の観点ではタイトル・トラックよりこっちの方がいいと思える。いずれにしても急速調であるがゆえの高揚感があるが,途中でJimmy Smithのオルガンがクラクションのように響く瞬間は少々ビビる(笑)。

そして,最後がLee Morganのワンホーンが素晴らしいバラッド"Flamingo"で締めるという構成もいいねぇ。こうしてLee Morganのラッパを聞いていると,本当にどんな演奏もできてしまうということを強く感じさせる。タイトル・トラックのブルージーさ,2曲目の激烈さ,そしてここでの素晴らしいバラッド表現。Jimmy Smithのアルバムでありながら,Lee Morganの魅力にも改めて気づかされるアルバムであった。星★★★★。

Recorded on August 25, 1957 and February 25, 1958

Personnel: Jimmy Smith(org), Lee Morgan(tp), Tina Brooks(ts), Lou Donaldson(as), George Coleman(as), Kenny Burrell(g), Eddie McFadden(g), Art Blakey(ds), Donald Bailey(ds) 

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2024年5月20日 (月)

David Sanbornを偲んで改めて"Priestess"を聴く。

_20240518_0001 "Priestess" Gil Evans (Antilles)

先日のDavid Sanbornの訃報を受けて私も追悼記事をアップしたが,そこでは彼のリーダー作に関する言及が中心だった。しかし,ブログやFBのお知り合いの皆さんが,追悼に際してこのアルバムを挙げておられるのを見て,そうだよなぁということで私も改めてこの傑作を取り出してきた。

私はこのアルバムを,このブログ開設当初の極めて早い時期に取り上げていて,そこにも「超弩級の傑作」なんて書いている(記事はこちら)。このアルバムは未発表だった音源が発掘されたものだが,その演奏のクォリティからすれば未発表であったことが信じられない(と言っても6年程度だからまだましな方か...)ようなアルバムであった。とにかくタイトル・トラックにおけるDavid SanbornとLew Soloffのソロがあまりにも強烈であり,David Sanbornにとってもこれは畢生の名ソロだったと言いたくなるエモーショナルさである。

David Sanbornにはタイトル・トラックに加えて"Short Visit"でもう一つの見せ場が準備されているが,そちらもいい演奏だとしても,ここはやはり"Priestess"だろう。この演奏を聞いていると,追悼という気持ちを忘れて,興奮してしまったのであった。David Sanbornの場合,歌伴でも数多くのいい仕事を残しているとしても,ジャズ的な観点で見れば,これはやっぱり最高の一枚だろうなぁと感じた。本当に惜しい人を亡くした。

改めてR.I.P.

Recorded Live at Saint George Church on May 13, 1977

Personnel: Gil Evans(p), Lew Soloff(tp), Ernie Royal(tp), Marvin "Hanninbal" Peterson(tp), James Knepper(tb), John Clark(fr-h), Howard Johnson(tuba), Robert Stewart(tuba), David Sanborn(as), Arthur Blythe(as), George Adams(ts), Pete Levin(key), Keith Loving(g), Steve Neil(b), Susan Evans(ds)

2024年5月19日 (日)

またも観ました,Alan LaddとVeronica Lakeの共演作:今度は「ガラスの鍵」。

The-glass-key 「ガラスの鍵("The Glass Key")」(’42,米,Paramount)

監督:Stuart Heisler

出演:Brian Donlevy, Veronica Lake, Alan Ladd, Bonita Granville, Joseph Calleia, William Bendix

Amazon Primeで「拳銃貸します」,「青い戦慄」と見てきたAlan LaddとVeronica Lakeの共演作の3本目が本作。原作はDashiell Hammettの書いたハードボイルド小説。映画もそのトーンを引き継ぎながら,Alan Laddはキャスティングの3番目でも,完全に堂々たる主役である。

Veronica-lake-1

監督のStuart Heislerという人は名前を見るのも初めてだが,これまた古き佳き時代の尺とでも言うべき1時間25分のドラマを撮るには十分な実力だとは思える。まぁそもそものストーリーに無理がある部分もあるし,結末に向けての展開には少々疑問も感じるが,それでもいいのだ。Alan Laddはカッコよく,Veronica Lakeは相変わらずのクールな別嬪である。それだけでも成立してしまうだろうという映画にどうこう言うのは野暮ってものだ。今回も大いに楽しんでしまったので,甘いの承知で星★★★★。やっぱり古い映画って好きなのだ。

ところで,この「ガラスの鍵」は1935年にもGeorge Raft主演で映画化されていて,わずか7年のインターバルでリメイクされるってのは結構凄いなぁなんて思っていた。しかもそっちを撮ったのは「拳銃貸します」のFrank Tuttleって,そういう内輪の世界だったのねぇ(笑)。

2024年5月18日 (土)

追悼,キダ・タロー。

Photo_20240517083101

キダ・タローが亡くなった。私ぐらいの年代の人間にとっては,TVやラジオの番組のテーマ・ソングやCMソングを通じて,極めて馴染の深い人であった。TVで言えば「プロポーズ大作戦」,「ラブアタック!」,「ノンストップゲーム」,ラジオなら「ABCヤングリクエスト」,CMで言えば「日本海みそ」,「有馬兵衛 向陽閣」,「出前一丁」,「かに道楽」等々枚挙に暇がない。そのどれもが一度聞いたら頭に残ってしまうメロディ・ラインというのが凄い。

作曲家としてはもちろんだが,話術も巧みな人であった。関西に在住していた頃にはよくラジオも聞いたものだ。93歳ということで,天寿を全うしたと言ってもよいだろうが,改めてその業績を偲びたい。

R.I.P.

下に貼り付けたのは「ABCヤングリクエスト」のオープニング・テーマ。私が小学生高学年から中学生になる頃,本当にこの番組は毎晩聞いていた。11時からスタートする番組だったが,大体1時過ぎまで(あるいはもっとか)は聞いていただろうか。記憶が確かなら,邦楽と洋楽が交互にかかっていて,私の洋楽心に火をつけたのはこの番組だったかもしれない。因みにこの曲のオリジナルは奥村チヨが歌っていたが,今回貼り付けたのは私にとってなじみ深い岡本リサ版の方である。懐かしい...。

2024年5月17日 (金)

Billy Childs@Blue Note東京参戦記

Billy-childs-at-bnt-official

Billy Childsがエレクトリック・クァルテットでBlue Note東京に出演するということで,「エレクトリック」の響きに惹かれてライブを観に行ってきた。

Billy-childs-at-blue-note1_20240520180501Billy Childsのライブを観るのは2016年に"Map to the Treasure: Reimagining Laura Nyro"をライブで再現するというものであったが,それが実に素晴らしい演奏であった。Billy Childsは日本ではそれほど知名度は高いとは思わないが,本国ではグラミーを複数回受賞しているから,彼我における認識の差は結構大きいかもしれない。

そんなBilly Childsが「エレクトリック」と言うからには,Rhodesを使った演奏になるだろうという予想であったから,Rhodes好きの私としては気になるライブであった。しかもベースはAlphonso Johnsonだ。やはりこれは行くしかないと思った。

店内に入ると,Rhodesがステージ上に鎮座していて,やっぱりねぇという感じだったが,ギターを加えたクァルテットの演奏はナイスなグルーブを生み出していた。と言いつつ,私はライブの前に結構出来上がっていて,飲んでいる段階からまた寝るんじゃないのかという不安があったのだが,不安的中と言うか,後半は少々記憶が曖昧である。しかし,記憶に残っているところで言えば,Alphonso Johnsonはボトムを支えるのに注力して,バックアップに徹しているのは好感度が高かった。ドラムスのJustin Brownはタイトなリズムで,こういう音楽にもばっちりという感じだったのも嬉しい。

Billy-childs-at-bnt ソロはリーダーとギターのAndrew Renfroeが中心になったが,各々が実力十分だと思えるものであった。Billy Childsはアコースティック・ピアノも結構弾いていたが,私としてはRhodesの響きが心地よかった。

ということで,記憶が曖昧なのは残念ではあるが,その心地よいグルーブは間違いないものだったと思う。やはりライブ前に飲み過ぎるのはいかんねぇ。反省,反省。ライブ終了後には地味に(笑)サイン会もやっていて,Alphonso Johnsonも顔を出していたから,CDを持参すればよかったと思いつつ,後の祭りであった。

Live at Blue Note東京 on May 15, 2024

Personnel: Billy Childs(p, el-p), Andrew Renfroe(g), Alphonso Johnson(b), Justin Brown (ds)

後にBlue Noteのサイトで写真も公開されたので,それもトップに貼り付けておこう。

2024年5月16日 (木)

Brad Mehldauの更なる越境:今度はフォーレだ。

_20240515_0001"Apr​è​s Fauré" Brad Mehldau (Nonesuch)

一昨日,"After Bach II"を取り上げたBrad Mehldauが同時にリリースした,今度はフォーレにインスパイアされたアルバムである。本来なら昨日記事をアップしようと思ったのだが,David Sanbornの訃報を受けて一日遅れとなった。

私はクラシック音楽もそこそこ聞くが,フォーレに関しては「レクイエム」以外は縁がなかった。しかし,その「レクイエム」については「天上の音楽」だと書いたことがある(記事はこちら)。Brad Mehdauがフォーレに影響を受けているとすれば,その美しいメロディ・ラインではないかと思えるが,ここでもフォーレの曲を前半と後半に配置し,オリジナルを中間に置いている。ここでの演奏を聞いてフォーレの曲はこんなに美しい曲だったのかと今更ながら気づく私であった。

本業のクラシックのピアニストによるフォーレの曲を聞いたわけではないので比較はできないが,ここでのBrad Mehldauは余計なギミックは加えることなく,真っ当にフォーレの曲を弾いているように思える。私としては抵抗感なく受け入れ可能だったが,いかんせんバッハほど私にはなじみがないので,私の感覚が正しいかどうかはわからない。

フォーレの曲にはさまれたBrad Mehldauのオリジナルは,それほどフォーレ的に感じさせないようにも思えるところが,"After Bach"シリーズとの違いと言ってもいいかもしれない。明らかに雰囲気が違うのだ。しかし,それも私がフォーレの音楽をあまり知らないことによる部分もあるだろう。"Prelude"は若干ミニマル的な響きさえ感じさせるところが面白いが,いずれにしても,両手使いを駆使しながらの演奏は,やはりBrad Mehldauの個性だと思わせる。

私としては今回同時にリリースされた2作はどちらも評価したいと思うが,作曲者とオリジナルとの関連性という観点では,どうしてもバッハの方に軍配が上がってしまう。それはBrad Mehldau自身のインスピレーションのレベルの違いという感じもあれば,私のバッハの音楽とフォーレの音楽の鑑賞体験の違いもあるだろう。しかし,私はこうしたチャレンジは大いに認めたいと思う。ということで,星★★★★☆。フォーレの音楽の美しさに気づかせてくれただけでも価値はあると思う。

Recorded on June 19-21,2023

Personnel: Brad Mehldau(p)

本作へのリンクはこちら

2024年5月15日 (水)

追悼,David Sanborn

David-sanborn

David Sanbornが亡くなってしまった。前立腺癌に伴う合併症により5/12に78歳でこの世を去った。Paul Butterfield Blues Band/Better Days辺りを皮切りに,セッション・プレイヤーあるいはGil Evans Orchestraの一員としての活動を経てのソロ・キャリアは実に輝かしいものであったと思う。

Greenwich_village_jazz_festival_2 私はDavid Sanbornのライブに接する機会があったのは結局2度だけだったはずだ。一度目は学生時代の1983年に旅行で行ったNYCにおいて,Gil Evans Orchestraの一員としてSweet Basilで吹いていた時。二度目が1988年のLive under the Skyに自己のバンドで来た時であった。

Sweet Basilでは,David Sanbornは病み上がりで1stセットだけで帰ってしまったが,そのフレージングはさすがだと思った記憶がある。その時に本人も含めてバンドのメンバーからもらったサインを貼り付けておこう。David Sanbornに加え,Gil Evans,George Adams,Lew Soloff,そしてHiram Bullockのサインが入っているが,気が付けば全てが故人となってしまった今となっては,私にとっての宝である(家族にとっては無価値だろう:爆)。二度目のライブはステージや客席を走り回るHiram Bullockの効果もあって,まさにノリノリ/イケイケの演奏だったのも懐かしい。

ライブ参戦に加え,本人のリーダー・アルバムだけでなく,セッション・プレイヤーとしてソロを取るアルバムも私は多数保有しているが,一音でDavid Sanbornだとわかってしまうというのは考えてみれば凄いことである。まさに決定的な音のパーソナリティとでも呼ぶべきサウンドである。

Time-and-the-river リーダー作としては2015年にリリースした"Time and the River"が最終作ということになろうが,私はこのアルバムを確かクラウド・ファンディング・サイトを通じてサイン入りをゲットしていたのであった。こちらのサインは本人から直接もらった訳ではないが,これも今となっては貴重な品となってしまった。

とにかく,David Sanbornの音源には長年世話になってきたので,故人を偲んで暫くはできるだけ多くの音源に触れて,David Sanbornの業績を偲ぶことにしよう。David Sanbornのアルバムは相応に捨てがたい魅力があるが,どれか一枚を選ぶなら"Straight to the Heart"か"Double Vision"だろうな。意外なところではポップな"As We Speak"も好きな私である。打ち込みを多用した"Backstreet"も面白い,"Change of Heart"もいいし,"Pearls"も素敵だった。更にブートのライブ音源も聞いたりして,結局のところ好きなミュージシャンだったのだ。惜しい人を亡くした。

R.I.P.

2024年5月14日 (火)

Brad Mehldauの"After Bach"第2弾は前作に勝るとも劣らない出来。

After-bach-ii "After Bach II" Brad Mehldau (Nonesuch)

ジャズの世界を越境して,クラシック音楽とのはざまを行き交うBrad Mehldauの音楽だが,成功しているものあれば,失敗と思わせるものもある。私から言わせれば,ピアノ・コンチェルトは明らかな失敗作だったと思うが,基本的にはうまく越境しているという印象は与えていると思う。そこがBrad MehldauのBrad Mehldauたる所以であるが,今回は本作とフォーレをテーマとした2作を同時リリースという離れ業である。

端的に言えば,"After Bach"第1作を聞いた時には,ついついこちらも構えていたようにも思えるが,前作の出来のよさによる安心感もあって,今回は「身構える(笑)」ことなくこの音楽に接することができたように思う。聞く側の「気負い」のようなものがないだけに,純粋にBrad Mehldauがバッハと,「バッハ的なるもの」にどう取り組むかを聞くことができたと感じられ,それだけに本作は,私にとっては前作を更に上回る印象を与えるものであった。

端的に言えばバッハによって書かれた音楽と,Brad Mehldauによる即興のバランス具合が実に楽しい。前作には収録されていなかった"After Bach: Toccata"はそもそも委嘱により"Three Pieces after Bach"の1曲として作曲されたものであるが,この曲がやや突出している印象はある。しかし,そのほかについてはバッハの曲とBrad Mehldauのオリジナル(即興)が見事に調和している感じがするのだ。特に私が楽しんだのが"Goldberg Variations"に素材を求めた7曲から成る組曲,"Variations on Bach’s Glodberg Theme"。あのゴルトベルク変奏曲の雰囲気を濃厚に残しながら,Brad Mehldauらしいメロディ・ラインが続々と出てくるさまには,正直言ってウハウハしてしまった私である。

世の中のバッハ好きからすれば,それだったらバッハの曲だけ聞いていればいいではないかということも聞こえてきそうだが,これはバッハを素材としながら,新たな音楽を生み出すチャレンジだと思えばいい話である。正直言ってしまえば,曲の出来には少々ばらつきを感じるのも事実だ。しかし,これは作品としては実に面白く,Brad Mehldauの進取の精神を大いに評価したいと思う。甘いとは思いつつ前作に続いて星★★★★★としよう。

Recorded on April 18-20, 2017 and on June 21, 2023

Personnel: Brad Mehldau(p)

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2024年5月13日 (月)

美しいポートレートに惹かれてしまうJ.F. Jenny-Clark盤。音はハイブラウそのもの。

Unison "Unison" J.F. Jenny-Clark (CMP)

J.F. Jenny-ClarkことJean-François Jenny-Clarkのリーダー作である。長年気になっていたアルバムではあったが,なかなか入手が難しいところがあったが,先日,散歩の道すがら立ち寄ったショップに,まぁ許せる価格の中古が出ていたので,迷いなくゲットした。

主題の通り,このアルバム,CMPレーベルのほかの作品とは一線を画すデザインだと思うが,Claus Wickrathによる"Photo of Valerie"というポートレートが美しく,音楽はさておき欲しくなるアルバムであった。しかし出てくる音はCMPらしいと言うか,J.F. Jenny-Clarkらしいと言うかという感じのハイブラウなアルバムである。基本はJ.F. Jenny-Clarkのベース・ソロなのだが,そこに本人の多重録音に加え,デュオ・パートナーとしてJoachim Kühn,Christof Lauer,そしてWalter Quintusが何曲かで加わるというもの。ある種現代音楽的に響く部分もあれば,フリー・ジャズ的に響く部分もあって,いかにもドイツのレーベルって感じがする。

J.F. Jenny-Clarkはピチカートにアルコを交えてのプレイだが,実にリアルな音でベースが捉えられているのも素晴らしい。作曲面ではJ.F. Jenny-Clark のオリジナルに加えて,Joachim Kühnの貢献度が高い。さすが長年の盟友であるというところだが,演奏ではJoachim Kühnはもちろん,テナーとソプラノで1曲ずつ演じるChristof Lauerがいい仕事ぶりである。面白いのはエンジニアを兼ねるWalter Quintusによるエレクトロニクスとのデュオであるが,これもありはありなのだが,前述の二人に比べると...ってところではあるものの,こういうアンビエントな雰囲気もまたよしってことにしておこう。

こういうアルバムがどういうリスナー層に受け入れらるのかはよくわからないところはあり,敷居は相当高いと思えるが,このベースの音はやはり魅力的だと思う。星★★★★。そう言えばCMPのChristof Lauerのアルバムも随分前に記事にしていたなぁ(記事はこちら)。それ以来プレイバックした記憶もないので,また聞いてみようっと(笑)。

いずれにしても,このジャケならアナログで欲しくなるってところかもなぁ。

Recorded in October, 1987

Personnel: J.F. Jenny-Clark(b), Joachim Kühn(p), Christof Lauer(ts, ss), Walter Quintus(electronics)

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2024年5月12日 (日)

Marisa Monte@Blue Note東京:最高の夜であった。

Marisa-monte-at-blue-note-offical

私は長年のMarisa Monteのファンではあるが,ライブ参戦の機会に恵まれなかった。しかし,今回Blue Note東京のライブが告知された瞬間からチャージは高いが,絶対観に行くと決めていた。そして念願かなっての参戦となった訳だが,実に素晴らしいライブであった。タキシード・スタイルの衣装での登場には驚いたが,冒頭の"Maria de Verdade"から心を鷲掴みにされてしまった私である。

Marisa-monte-at-blue-note_20240515085401 女性の年齢をばらすのは褒められたことではないとしても,今年で56歳と思えぬその歌声は全く衰えることなく,ギターの腕も確かなものであった。その歌声を聞いているだけで,私は至福の約90分を過ごした訳だが,あまりの幸福感ゆえ,最後は泣けてきたのであった。

当日のレパートリーを確認できた訳ではないが,代表的な曲を万遍なく演奏したと思ってよいだろう。そしてMarisaを支えるバックのメンバーも実に手堅く,いいメンツを連れてきていることは明らかであった。私は演奏中ずっと身体をゆすっていたようなものだが,そうした心地よいグルーブを生み出していたことが素晴らしい。もはや今年の屈指のライブになることは確定したようなものだ。

Marisa-monte-on-stage_20240511091801 今回のライブについては予約開始をすっかり失念しており,若干出遅れたため,今回はステージ横からMarisa Monteの歌唱を眺めることになったが,むしろ,ほかの聴衆に視界を妨げられることはなかったので,むしろよかったかもしれない。それよりも何よりも,私はMarisa Monteの歌が聞けただけでも満足であり,そしてその歌に感動していたのであった。

ステージを降りる際のMarisa Monteの表情からも,このライブへの満足感が表れているようにも思える素晴らしいライブであった。改めて彼女の音源を聞き直したくなった。

Live at Blue Note東京 on May 10, 2024

Personnel: Marisa Monte(vo,g, ukulele), Dadi(b), Davi Moraes(g, mandolin), Pupillo(ds), Pedrinho da Serrinha(per)

ブルーノートのサイトで当日のセットリストと写真(トップのものほか)が公開されたので,それも貼り付けておこう。

1. MARIA DE VERDADE
2. INFINITO PARTICULAR
3. ILUSION
4. VILAREJO
5. AINDA BEM
6. DANÇA DA SOLIDÃO
7. DIARIAMENTE
8. CARINHOSO
9. BEIJA EU
10. É VOCÊ
11. DE MAIS NINGUÉM
12. A PRIMEIRA PEDRA
13. VELHA INFÂNCIA
14. A SUA
15. EU SEI
16. TEMA DE AMOR
17. PRA MELHORAR
18. CARNAVÁLIA
19. ELEGANTE AMANHECER / A LENDA DAS SEREIAS
20. A MENINA DANÇA
EC1. AMOR I LOVE YOU
EC2. JÁ SEI NAMORAR
EC3. PRA MELHORAR

2024年5月11日 (土)

これぞ名画:Amazon Primeで「12人の怒れる男」をオリジナル言語で初めて観た。

12-angry-men 「12人の怒れる男("12 Angry Men")」(’57,米,UA)

監督:Sidney Lumet

出演:Henry Fonda, Lee J. Cobb, Martin Balsam, John Fieldler, E.G. Marshall, Jack Klugman, Ed Begley

この映画を見るのは何十年ぶりになるだろうか。名画の誉れ高い映画を私はこれまでTV放映で見たことがあるだけだったが,Amazon Primeで本作が見られるようになったので,GW中に初めて原語/日本語字幕で鑑賞したのだが,やはりこれは掛け値なしの名画であった。

ストーリーは往年の映画ファンにはお馴染みと思うが,12人の陪審員が第一級殺人事件の評決を下すプロセスを描いているが,舞台劇と言ってもよい展開,そして名優揃い(全員渋過ぎである)の演技合戦の中で繰り広げられる感情(偏見)対論理の対決は,まさに正しいデモクラシーとはいかなるものかということを強く感じさせてくれた。分断が進む米国民は今一度この映画を見直すべきではないかとさえ感じさせる作品。本作に根付いたヒューマニズムこそ,現代の人々に求められるものではないのかとも感じてしまった高齢者の私である。

主演のHerny Fondaはプロデュースも兼ねて,この映画を主導しており,この映画の根底を支えたのは明Henry Fondaその人だったと思うが,緊張感に溢れた素晴らしい群像劇を作り上げたものだと言いたい。星★★★★★以外はあり得ない傑作であった。改めて感動した!

本作を後にWilliam FriedkinがTV映画としてリメイクすることになるが,本作を前にすれば度胸あったねぇと言いたくなる(笑)。

本作のBlu-rayへのリンクはこちら

2024年5月10日 (金)

Stan Getz好きの私でもこれはさすがに厳しいと思ってしまう”Billy Highstreet Samba”。

_20240503_0001 "Billy Highstreet Samba" Stan Getz (Emarcy)

これまでも何度か書いてきたが,私はStan Getzの遅れてきたファンである。若い頃にはその魅力を理解できていなかった私も,年齢を重ねるとStan Getzのよさというのが段々わかってきて,現在では相当なStan Getz好きになってしまったのだから,人間変われば変わるものである。そんなこともあって,このブログにも相当な回数登場しているStan Getzだが,全てのアルバムを評価できるわけではないことは,その多作ぶりからも仕方ない部分はあろう。本作はStan Getzがソプラノ・サックスを一部で吹いていることが話題になるとは言え,私にとっては第一印象が悪く,プレイバックの頻度もちっとも上がってこないアルバムである。今回,気まぐれで取り出してみたのだが,やはり印象はよろしくない。

端的に言えば,フュージョンのコンセプトでのStan Getzのアルバムである本作に関して,なんでそう思ってしまうのかと言えば,冒頭のMitchel Formanが書いた"Hospitality Creek"ゆえの部分が大きいように思う。そもそも曲想がStan Getzに合っていると思えないし,何よりもBobby Thomas Jr.のパーカッションがうるさいし,Chuck Loebのギターももう少しエフェクターを効かすぐらいできただろうと感じてしまうのだ。だからこの1曲でその先を聞こうという気が失せてしまうというのが正直なところなのだ。

Stan Getzが何でもできるということはEverything But the Girlのアルバムにも客演してしまうことからもわかっているつもりでも,やはり向き,不向きはあるということである。また,私はこのアルバムでBobby Thomas Jr.の音が目立つ曲が気に入らないというところからして,小編成でのStan Getzにはパーカッションは不要だと言い張りたい。ドラムスのVictor Lewisもさすがにこういう演奏には向いていないじゃないのとも感じるしねぇ。そうした中で,Mitchel Formanはなかなかのフレージングを聞かせて善戦しているってところか。

まぁそうは言っても本作はStan Getz自身がプロデュースしているから,この当時,本人がやりたい音楽としてやっていたのかもしれないが,それでも私にとっては魅力は薄いなぁと思ってしまう。確かにGetzがソプラノを吹いているのは珍しいが,別にソプラノじゃなくてもよかったんじゃない?という気もする。Getzの吹くソプラノはまるでフルートのようにさえ響くのは面白いが。結局LPならB面最後に収められた"Body and Soul"で安心してしまう私であった。まぁこれなら甘めに評価しても星★★★で十分だろう。

Recorded on November 4, 1981

Personnel: Stan Getz(ts, ss), Mitchel Forman(p, key), Chuck Loeb(g), Mark Egan(b), Victor Lewis(ds), Bobby Thomas Jr.(perc)

本作へのリンクはこちら

 

2024年5月 9日 (木)

Amazon Primeで観た「青い戦慄」。古き佳き時代だ。

Blue-dhalia 「青い戦慄("The Blue Dharlia")」('46,米,Paramount)

監督:George Marshall

出演:Alan Ladd, Veronica Lake, William Bendix, Hugh Beaumont, Howard Da Silva, Doris Dowling

以前,このブログで「拳銃貸します」を取り上げたことがあるが,その時はまだ新人扱いだったAlan Laddが堂々主演したのがこの映画。駄作「バイオレント・サタデー」の口直しに見たのだが,まさに古き佳き時代の映画と思わせる。決して巨匠とは言えないGeorge Marshall監督であるが,商業映画監督としてのポジションが明確な映画である。

この映画の一番のポイントは脚本をRaymond Chandlerが書いていることだと思うが,ストーリーには少々無理があることは承知で,真犯人は誰なのか最後までわからないようにしてあるのはいい感じである。謎は謎としてストーリーを展開しているのがいいのだ。

Veronica-lake Alan Laddは「拳銃貸します」の時は高倉健的と書いたが,本作では鶴田浩二的かなぁなんて漠然と思っていた。いずれにしても渋いのだ。Alan Laddがカッコいいのはもちろんだが,私が痺れてしまったのがVeronica Lakeのクールな美貌であった。Alan Laddとは「拳銃貸します」でも共演をしていたが,美しさではこっちの方が勝っているような気がした。たまりませんなぁということで,彼女のポートレートもアップしてしまおう。Veronica Lakeを見ていて,「バイオレント・サタデー」の不快感は払拭したのであった。星★★★★。

Amazon PrimeではAlan LaddとVeronica Lakeの共演作として「ガラスの鍵」も見られるので,そのうち見たいと思う。

2024年5月 8日 (水)

Alex SipiaginのCriss Cross初リーダー作を改めて聴く。

_20240501_0001 "Steppin’ Zone" Alex Sipiagin (Criss Cross)

思えばCriss Crossというレーベルは期待の新人や,より注目されてよいような中堅ミュージシャンにレコーディングのチャンスを与えてきた。レーベル創設者にしてプロデューサーのGerry Teekensはそうした意味でジャズ界のパトロン的な位置づけにあった人であった。そのGerry Teekensが亡くなってレーベルの存続が危ぶまれたCriss Crossであったが,遺志を継いだ息子さん(?)により,昨今は新作のリリースも続いているし,旧譜のChet Baker盤のアナログ・リリースなども行っているのはいいことである。

そんなCriss Crossのお眼鏡にかなったのがAlex Sipiaginということになるが,これまでにCriss Crossには13枚のリーダー作を残しており,リーダー作の数ではトップに位置しているから,Criss Crossとは縁深いミュージシャンとなった。そのAlex SipiaginのCriss Crossにおける初リーダー作が本作であり,Alex Sipiaginの名前は知らなくても,買いたくなるようなバックのメンツが彼を支える。思えば,ここにも参加したクリポタことChris Potterの初リーダー作もCriss Crossからであったし,ピアノのDavid Kikoskiも結構な数のアルバムをCriss Crossからリリースしていることを考えれば,このメンツにも不思議はない。

先述の通り,本作はAlex SipiaginのCriss Crossからの初リーダー作であり,リリースも2001年に遡るから,ジャケに写るSipiaginも録音時はまだ30代前半ということで,随分と若い。そして出てくる音も勢いのある音ばかりと言ってよく,私は往時のOTBを思い出していた。もちろん,出てくるフレージングは無茶苦茶カッコいいと思わせるので,高揚感は確実に得られるのだが,やや「勢い余った」って感じがしない訳でもない。しかし,こうした音は決して嫌いな訳ではなく,むしろこういうのは大歓迎なのだが,それでもやややり過ぎ感が多少なりとも感じられる。

面白いのはメンバーのオリジナルに加えてPat Methenyの"Misouri Uncompromised"やToninho Hortaの"Moonstone"(まぁ,これもMethenyつながりだ)をやっていることだ。そしてそれに続いて演奏されるのがGeorge Shearingの"Conception"っていうのは選曲のセンスがよくわからないが,テーマはバップ的に始まっても,各人のソロになるとコンテンポラリーな感覚が出てきてしまうのが彼ららしいってところか。いずれにしても,Gerry Teekensが注目するのも当然という感じのアルバムであった。星★★★★。

Recorded on June 5, 2000

Personnel: Alex Sipiagin(tp, fl-h), Chris Potter(ts), David Kikoski(p), Scott Colley(b), Jeff 'Tain' Watts(ds)

本作へのリンクはこちら

2024年5月 7日 (火)

「バイオレント・サタデー」:Sam Peckinpahの晩節を汚したと言いたくなる駄作。

Ostermans-weekend 「バイオレント・サタデー ("The Osterman Weekend")」('83,米,Fox)

監督:Sam Peckinpah

出演:Rutger Hauer, John Hurt, Craig T. Nelson, Dennis Hopper, Chris Sarandon, Burt Lancaster, Meg Foster

GW中の暇に任せてAmazon Primeで見たのがこの映画だが,実にくだらない全くの駄作であった。この映画を見ようと思ったのは,本作がSam Peckinpahの遺作だからだが,Sam Peckinpahは還暦前に亡くなったので,もう少し生きていれば違ったかもしれないとは言え,これが遺作では晩節を汚したとしか言いようがない。

原作はRobert Ludrumの手になる「オスターマンの週末」であるが,原作は未読とは言え,Ludrumの本ならもう少し面白い映画にできそうなものである。そもそもSam Peckinpahの演出が相変わらずのスロー・モーションを使っているのがワン・パターンと言うか,古臭いと言うか...というところだ。ストーリーは都合よく展開し過ぎであり,シナリオも極めて適当な感じがして,見ていて「世の中そんなにうまくいく訳なかろう」と独り言ちていた私であった(苦笑)。

ネタバレになるので詳しくは書かないが,そもそもポスターがなんでこの図柄なのよ?と突っ込みたくなるもので,これをメイン・ビジュアルのごとく扱わざるをえないというところにこの映画の限界が見て取れる。Rutger Hauerは「ブレード・ランナー」での演技を買われての主演だろうが,こういうのを作品選びの失敗と言う(きっぱり)。あまりのつまらなさに失笑すら洩らした私であった。星★。もはやここまで来ると,口直しに見る映画が必要と感じさせる。あまりの駄作ゆえ,海外ではBlu-ray化されたことはあるものの,国内でのリリースの可能性は極めて低いだろうな。

本作のBlu-rayへのリンクはこちら(但しこちらは海外版)。

2024年5月 6日 (月)

これが私が最初に買ったWeather Reportのアルバムだった(はず)。

Tale-spinnin "Tale Spinnin'" Weather Report (Columbia)

主題の通りである。その後,私は結構な数のWeather Reportのアルバムを購入することになったが,これが最初に買ったWeather Reportのアルバムのはずである。そしてこの次が"Black Market"だったように記憶するが,いかんせん高校生の頃のことなのでイマイチ記憶は曖昧だ。当時はWeather Reportのバンドとしての凄さをどれだけ理解していたかははっきりしないが,冒頭の"Man in the Green Shirt"から感じられるこのアルバムの持つポップさは,ジャズを聞き始めてそう時間も経過していなかった私にとっては丁度よかったのかもしれない。ポップさという表現が正しくないとすれば,聞き易さと言い換えてもよい。

このアルバムはMiroslav Vitous抜きのWeather Reportとしては最初のアルバムだが,この聞き易さやわかり易さがMiroslav Vitousの目指す方向と違ったのではないかと今にして思える。

ジャコパス加入前のWeather Reportはそれほど評価されていないようにも思うが,私はAlphonso Johnsonがベースを弾いているアルバムは結構好きなのだ。むしろジャコパスが全面的に入ったアルバムより好きなぐらいだと言ってもいいぐらいなのだ。そして,このアルバムはNdugu Leon Chanclerがドラムスを叩いた唯一のアルバムだが,これが結構フィット感が強いと思える。だからJoe ZawinulはNduguをバンドに誘ったらしいが,Nduguが断ってSantanaに残留したのは,Zawinulが生み出すカチッとした音楽より,よりラフでワイルドなSantantaを選んだのだろうと想像している。

それはさておき,ポップさに加え,"Badia"に聞かれるようなワールド・ミュージック風味も加わって,改めて聞いてみるといいアルバムだったなぁという思いを強くした。星★★★★☆。

Personnel: Joe Zawinul(p, el-p, synth, org, perc, vo), Wayne Shorter(ss, ts), Alphonso Jonson(b), Ndugu Leon Chancler(ds, perc), Alyrio Lima(perc)

本作へのリンクはこちら

2024年5月 5日 (日)

もう9年前になるCotton Clubでのライブを思い出させるWayne EscofferyのSmallsでのライブ・アルバム。

Wayne-escoffery-at-smalls "Live at Smalls" Wayne Escoffery (smallsLIVE)

ベースを除く3人が本作と同じメンツでのCotton Clubでのライブを聞いたのがほぼ9年前のことになるが,本作を久々に聴いて,その時のことを思い出していた私である。そのライブでもRalph Petersonがバックから煽りまくっていたが,その印象はこのSmallsでのライブ盤でも全く同じで,こういうのを眼前でやられれば,確実に燃えちゃうよねぇって感じの演奏になっている。まぁピアノのDavid Kikoskiもハード・ドライビングなピアノを聞かせる人だから,冒頭の"Concentric Drift"から強烈な演奏となっている。

しかし,この人たちそれだけではないということは,2曲目にKeith Jarrettのオリジナル"So Tender"を持ってくるところで明らかだ。即興的なイントロから,魅力的なテーマに移行してしっとり聞かせるところに,このクァルテットの実力が表れる。まぁそうは言っても演奏は徐々に熱を帯びていくのだが(笑)。ライブの時の記事にもWayne Escofferyは「ナイスなフレージングを聞かせ,ハード・ブローイングでも,バラッドでも非常に実力の高いところを示して」なんて書いているが,まさにそれはここでも同様。うまい人たちは何をやってもうまいのだ。

ここでの選曲も,Wayne Escofferyのオリジナルは冒頭の1曲だけに留め,"A Cottage for Sale"のような古い曲や,スタンダード,"Sweet and Lovely",更にはBilly Strayhornの"Snibor"を演奏しながら,現代のジャズのエッセンスを感じさせる演奏は見事だし,センスもいいよなぁと思ってしまう。星★★★★☆。

その後,Ralph Petersonはこの世を去ってしまったが,Wayne EscofferyはドラムスをMark Whitfield Jr.に代えて,このクァルテットを維持しているようだから,よほど相性がいいのだろう。Tom Harrellのバンドにいた時から注目に値する人だと思っていたが,この実力はやはり大したものである。もっとメジャーになっていい人だと思う。尚,アルバムのサインはよく見えないかもしれないが,9年前のライブ時にもらったもの。

Recorded Live at Smalls on April 25 & 26, 2014

Personnel: Wayne Escoffery(ts), David Kikoski(p), Ugonna Okegwo(b), Ralph Peterson Jr.(ds)

本作へのリンクはこちら

2024年5月 4日 (土)

GW中に劇場で観た映画(その2):濱口竜介の新作「悪は存在しない」を観た。

Photo_20240501171101 「悪は存在しない」

監督:濱口竜介

出演:大美賀均,西川玲,小坂竜士,渋谷采都,菊池葉月,田村泰二郎

GWの劇場通いで2本目として観に行ったのがこの映画。「ドライブ・マイ・カー」で一気にシーンのトップに躍り出たと言ってもよい濱口竜介の新作だ。主演の大美賀均は制作側の人で,演技経験はないようだし,出演者にメジャーな役者は一人もいない。逆にそれがリアリティを生むという気もした。

私が観に行ったのはGWの休みの挟間の平日の第1回の上映だったのだが,客席は結構埋まっていた。この辺りに濱口竜介への期待値の高さが表れているようにも思える。映画は序盤はミニマルとも言いたくなるような展開で,淡々と話が進んでいく中で,正直私は睡魔に襲われた時間もあったが,徐々にストーリーが動き出すところはシナリオの作りのうまさを感じた。そしていかようにでも解釈可能とも言えそうな謎めいたラストに向けて,抑揚がはっきりしていくのであった。

「悪は存在しない」というタイトルからしてミステリアスではあるが,確実に物語の中には「悪意」は存在しているから,意図的に逆説的なタイトルと考えてもよさそうだ。まぁ「ドライブ・マイ・カー」と比べると一歩及ばないという気がしないでもないが,見て損はない映画だと思う。映し出されれる風景は実に美しいことを付記しておく。星★★★★。ということで,映画の中でかなりの時間映し出される木々のイメージを貼り付けておこう。ここに石橋英子の音楽が重なるとまたミニマル感が増すのであった。

Evil-does-not-exist

2024年5月 3日 (金)

ベスト盤に依存しがちなAlan Parsons Project:"Pyramid"を改めて聴く。

_20240428_0001"Pyramid" Alan Parsons Project (Arista)

私はAlan Parsons Projectのアルバムは全て"The Complete Albums Collection"というかたちで保有しているので,アルバム単位でも聴こうと思えばいつでも聴けるのだが,部屋でじっくり聞くというより,移動中などについついストリーミング音源でベスト盤を聴いてしまうことの方が多いというのが実態。しかし,今回,今年のRSDでこのアルバムの"Work in Progress"盤がリリースされた(私は買っていないが...)こともあり,これも久しぶりに聴いてみるかということで取り出してきた。

以前にも書いたが,前期のアルバムではEric Woolfsonがまだヴォーカルをほとんど取っていない。本作でもAdditonal Vocalのクレジットがあるだけだが,私がAlan Parsons Projectにはまったのが"Eye in the Sky"であり,そこでのEric Woolfsonの声に魅力を感じていたことから,なかなか前期のアルバムをフルにプレイバックをしようという気にならないというところがある。そのため,このアルバムをプレイバックするのも実はかなり久しぶりのこととなった。

久しぶりに聴くと言っても,半分近くの曲はベスト盤にも入っているから,全然違和感はなく耳に入ってくる訳で,インスト曲やオーケストレーションはいかにもAlan Parsons Projectだと思わせる。また,リード・ヴォーカルの使い分けもいつもながらで,これこそ安定のAlan Parsons Project節ってところである。

ただ,このアルバムは全体的には悪くないとし,"Shadow of a Lonely Man"なんて結構な佳曲だとは思うものの,決定的に魅力的な曲に欠けるという気もするし,やはり私にはEric Woolfsonの声が重要だったのだと思える作品。少なくとも"Pyramania"を歌ったJack Harrisの声はこのバンドには合っていないだろう。星★★★☆。

Recorded between September 1977 and February 1978

Personnel: Alan Parsons(key), Eric Woolfson(key, vo), Ian Bairnson(g), David Paton(b, vo), Stuart Elliot(ds, perc), Duncan Mackay(key, org), Lenny Zakatak(vo), Dean Ford(vo), John Miles(vo), Jack Harris(vo), Colin Blunstone(vo), Phil Kenzie(sax), The English Chorale(cho), Andrew Powell(orchestration, autoharp)

本作へのリンクはこちら

2024年5月 2日 (木)

GW中に劇場で観た映画(その1):「アイアン・クロー」というタイトルに私の年代で反応しないのはあり得ない(爆)。

Iron-claw「アイアン・クロー ("The Iron Claw")」('23,米/英,A24)

監督:Sean Durkin

出演:Zac Efron, Jeremy Allen White, Harris Dickinson, Stanely Simons, Lily James, Holt McCallany

GWに劇場通いで観た映画である。この映画に出てくるフリッツ・フォン・エリック(Fritz Von Erich)と聞いて,反応しない私の同年代は少ないのではないか。この映画のタイトルの「鉄の爪」はフリッツ・フォン・エリックのためにあるし,全く関係ないところではあったが,私はこのブログで「どうしてもフリッツ・フォン・エリックを思い出してしまうEric von Schmidt(爆)。」なんて記事を書いている(記事はこちら)。それぐらい印象深いプロレスラーだった訳だが,その息子たちもレスラーをやっていたのは知っていたがこんなことになっていたのかと思わされた映画であった。

フォン・エリック一家以外にも,ブルーザー・ブロディだ,ハーリー・レイスだ,リック・フレアーだとお馴染みの名前が続々と登場して,往年のプロレス・ファンが反応することは必定なのだが,映画のストーリーはまさに「呪われた」フォン・エリック一家の話になっていて,実に悲しいストーリーだと言える。この諸悪の根源はこの映画は父親たるフリッツ・フォン・エリックということになっているが,5人兄弟の4人(正確にはこの映画には登場しない末弟クリスを含めれば6人兄弟中5人)を失った母親のDorisの心情を考えれば胸が痛む。

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本作はプロレスを題材にしながら,これは家族を描いた映画であり,フリッツ・フォン・エリックとその一家のその後の逸話やプロレス界の事情を知らずとも,間違いなく「観られる」映画である。ケリー・フォン・エリックがレスラーに転じた理由はこれだったのかというのも事実なら悲しい話だし,これはプロレスというエンタテインメントを舞台にしながらも,相当な悲劇的ストーリーであった。事情通もそうでない人も納得させるシナリオを書いた監督のSean Durkinの仕事も十分に評価したい。星★★★★。

亡くなった家族への追悼も含めて,この映画での一家とリアルでのこの一家(全員ではないが...)の写真をアップしておくこととしたい。

2024年5月 1日 (水)

今更ながらの"Light as a Feather"。

_20240428_0002 "Light as a Feather" Chick Corea and Return to Forever (Polydor)

何を今更感がある中で,このアルバムである。実を言うと,このアルバムは著名なアルバムにもかかわらず,私が購入したのは98年に未発表テイクを追加した2枚組としてリリースされた時が初めてであった。マスター・テイク(ディスク1)に収められたChick Coreaのオリジナル曲はまさに有名曲ばかりであったが,ジャズ喫茶とかで聴いていても,ECMからの"Return to Forever"のアルバムとの雰囲気の違いを私は感じていて,購入まで行きつかなかったというのが正直なところだ。しかし,別テイクも収録の「完全版」とか言われると,ついつい買ってしまったものではあるが,それでもChick Coreaのアルバムの中でのプレイバック頻度はそれほど高い方には入らない。なんでなんだろうと

なんでなんだろうと今回聴いていて考えていたのだが,曲の魅力やフレージングには全然文句はないものの,どうもECM作では感じなかった,ここでのFlora Purimの歌いっぷりが私の趣味に合わないことや,ミキシングのせいか,あるいはAirtoのドラムスゆえか,サウンドにドタドタ感があるのが気に入らなかったのではないかと思えた。しかし,逆にECM作では聞けなったJoe Farrellのテナー・プレイなんかはいいよなぁなんて思っていて,結局アンビバレントな感覚が残った。

では残りテイクが収められたディスク2はどうなのかと言えば,まず注目されるのが"Matrix"のRTF版だが,ChickのエレピにJoe Farrellのソプラノで演奏されるこのテイクは悪くはないし,ChickのソロやChickとFarrellのユニゾンなんかはかなりカッコいいのだが,"Light as a Feather"に収録されていれば多分浮いて聞こえたであろうと思えるもの。オリジナル作に収録されている曲の別テイクは,詳しくは比較していないが,マスターとして扱ってもそれほど遜色はないように聞こえる。

面白いのは4曲もテイクがありながら,結局はボツになった"What Game Shall We Play Today?"。まぁこの曲はECM作で発表済みだったこともあるだろうが,明らかにECM版とはテイストが違う。Chick Coreaのワウワウを聞かせたコンピングは,少々しつこく感じられるのは明らかな難点。まぁそれは4テイクも続けられるからだって話もあるが,この曲も"Matrix"同様,アルバムに収録していれば浮いたであろうと思われ,ボツにしたのは正解だと思えた。

ということで,私としては全面的にこのアルバムを推す人間ではないので,評価としては星★★★★ぐらいにしておくが,少なくともオリジナルでリリースされたアルバムはChick Coreaの有名曲に触れるには必須のアルバムではある。完全版はご関心のある方はどうぞってところ。

Recorded on October 8 and 15, 1972

Personnel: Chick Corea(el-p), Joe Farrell(ss, ts Corea(el-p), Joe Farrell(ss, ts, fl), Stanley Clarke(b), Airto Moreira(ds, perc, vo)

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