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2024年4月30日 (火)

GW休み中にAmazon Primeで久しぶりに観た「プレデター」。懐かしい。

Predator 「プレデター("Predator")」(’87,米,Fox)

監督:John McTiernan

出演:Arnold Schwarznegger, Carl Weathers, Elpidia Carrillo, Bill Duke, Jesse Ventura

先日,「ダイ・ハード」を見て,監督John McTiernanと言えば,これもそうだったなぁということで,久しぶりにこの映画をAmazon Primeで観た。John McTiernanにとってはこれが出世作と言ってもよいだろう。シュワちゃんはじめ,肉体派男優ばかり出てきて男臭いことこの上ないが,シュワちゃん率いる部隊が"Expendable"とか言われていて,「エクスペンダブルズ」の源流に本作があったのかもなぁ~なんて思っていた私である。

「捕食者」たるプレデターがどうしてあの場所で人間狩りを行うのかという説明は一切ないが,難しいことは言いっこなしで,単純にアクションを楽しんでいればいい映画。爆薬はバンバン使うわ,人間は飛びまくるわと思いつつ,久しぶりにこの映画を見て,一番感心したのは2機のヘリが現場に向かうシーンだったように思える。あのヘリのスピード感は「ブルー・サンダー」と同レベルだろうなぁなんて思っていたのであった。

プレデターの造形はいつ見ても気色悪いが,一方この頃のシュワちゃんはまだまだ精悍な感じが残っていたなぁとも感じていた。正直ストーリーは無茶苦茶であるが,何も考えずにぼーっとしながら見るには丁度いいわってことで,半星オマケの星★★★☆。

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2024年4月29日 (月)

Utopiaの"Ra":カッコいいねぇ。冒頭からやられること必定。

_20240425_0002 "Ra" Utopia (Bearsville→Friday Music)

懐かしいアルバムである。このアルバムがリリースされたのが1977年。もはや半世紀近く前であるが,このアルバムの冒頭の"Overture"~"Communion with the Sun"の流れにはどんなに時間が経過しても気分が上がる。

変幻自在の音楽性を持つTodd RundgrenのバンドとしてのUtopiaではあるが,このアルバムのジャケットをよく見てもらえばわかる通り,メンバー4人が連名となっていて,バンドとしての指向が極めて強くなったアルバムと言ってもよい。このアルバムに聞かれるこのプログレ風味が私にはたまらなく魅力的に響くのは,今も昔も変わりがない。

現在は私は本作を"Road to Utopia"というボックスの一枚として保有しているが,Utopiaをどれか一枚と問われれば,確実にこれになるだろうし,単体で保有するに値する傑作と思っている。タイトなリズムに乗って優れたギターやキーボードのソロが繰り広げられる様は,まさに素晴らしいの一言だ。"Hiroshima"はリベラルな感覚の反戦(反核)ソングと言ってもよいが,そうした部分にも注目して聴くに値する作品と思っている。

私にとってのUtopiaの最高傑作はこれであることは間違いないし,70年代ロックの中でも非常に好きな一枚。どうしてこのアルバムが海外の批評家筋に受けが悪いのか私には全く理解できない。まぁ,人は人それぞれってことでそれはよしとしよう。最後に収められた"Singring and the Glass Guitar"なんかはちょっと冗長感があるなぁと思いつつ,"Overture"~"Communion with the Sun"だけでもこのアルバムを星★★★★★としてしまうのだが。

Personnel: Todd Rundgren(vo, g, p, sax), Roger Powell(vo, key), Kasim Sulton(vo, b), John Wilcox(vo, ds, perc, g)

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2024年4月28日 (日)

やはり続編というのは難しいと思わせた「ダイ・ハード2」。

Die-hard-2「ダイ・ハード2("Die Hard 2")」(’90,米,Fox)

監督:Reny Harlin

出演:Bruce Willis, Bonnie Bedelia, William Atherton, Frank Nero, William Sadler, Fred Thompson, John Amos, Dennis Franz, Art Evans, Reginald VelJohnson

先日観た「暗殺の森」が難しい映画だったので,もう少し単純明快な映画でも見るかってことで,Amazon Primeで次に観たのがこの映画。まだBruce Willisには毛がある(爆)。第1作の「ダイ・ハード」は荒唐無稽ながらアクション映画としてはなかなかよくできていたと思った私だが,この第2作が明らかに第1作より落ちるのは続編映画にありがちなことである。

悪い奴は悪く,そしてBruce Willis演じるJohn McClaneはここでも不死身か!と言いたくなる暴れっぷりである。まぁだってに"Die Hard"なんだから当たり前だが,それでも第1作にはもう少し感じられた緊張感に欠けるのが決定的な難点。星★★★。まぁ,Frank Neroのカッコいい姿を見られたのはよかったが,話には無理があるし,犠牲者の数が多過ぎだろう。難しいことを並べて立てても仕方ないが,なんだかなぁというのが実感。

John McTinernanが復帰する3作目はどうなんだろう?と思いつつ,本作を見る限り優先順位が上がらない(苦笑)。

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2024年4月27日 (土)

バックのメンツ買いであったMarc Bennoの"Lost in Austin"。

_20240425_0001 "Lost in Austin" Marc Benno (A&M)

主題の通りである。Marc Bennoには"Minnows"というナイスなアルバムがあって,そっちから取り上げるのが筋だとは思うが,まずは本作だ。ここで言うメンツ買いとは,本作でMarc Bennoをバックアップするのがほぼ当時のEric Claptonのバンドということである。ドラムスだけがバンド・メンバーではなかったJim Keltnerであるが,ClaptonとKeltnerには共演経験もあるから,Claptonバンド全面バックアップと言ってもよい。

これはMarc Bennoにとって,前作"Ambush"から7年ぶりのアルバムとなったが,当時の音楽シーンで7年のブランクというのはかなり長いものだったと思える。なので,そのカムバックをClapton一党が支えたということだろう。本作はGlyn Johnsのプロデュースの下,ロンドンでレコーディングされたもので,ストリングスも交えながらも,音は完全にスワンプの乗りで,"Monterrey Pen"のような曲はJ.J. Cale的にも響くので,この手の音楽好きには相応の訴求力があるだろう。"The Drifter"なんかは痺れるねぇ。

いずれにしても,本作はEric Claptonのギターを楽しめるというところがアルバムとしてのポイントを高めているが,Claptonは比較的控えめにプレイし,Marc Bennoを楚々として支える感じが麗しい。そもそもMarc BennoはベースのCarl Radleと縁が深かったようだから,おそらくそこからこの共演につながったということだと思うが,それでもこのアルバムもヒットにつながっていないのはもったいなかった。結構いい曲を書いているにもかかわらずだ。まぁ,79年というパンク全盛みたいな時期にはフィットしていなかったとしても,なかなかの佳作であった。星★★★★。

Personnel: Marc Benno(vo, g, p), Albert Lee(g, vo), Eric Clapton(g, vo), Dick Sims(key), Carl Radle(b), Jim Keltner(ds), Dickie Morresey(sax)

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2024年4月26日 (金)

中森明菜の復活の狼煙。

「北ウイング クラシック」という映像が昨年11月にYouTubeにアップされて,久しぶりに中森明菜の歌声を聞いたのだが,その後,ジャズ・ヴァージョンとして「Tattoo」,「Blonde」,「ジプシー・クイーン」と公開が続き,今度は「北ウイング」がジャズ・ヴァージョンとして公開された。

カメラ・アングルをかなり気にしているようにも感じるし,見た目もちょっと変わったかなぁと思いつつ,中森明菜の歌声は全く変わらない。ここで聞けるしっとりした「北ウイング」もいいものだ。さすがに私がカラオケでがなる「北ウイング」とはレベルが違う(当たり前だ!)。次は是非「スローモーション」をやって欲しいなぁ。何せ私は「スローモーション」のシングル盤を保有しているぐらい好きな曲だし,このブログで記事にさえしているのだ(記事はこちら)。

ということで,「北ウイング」の映像を貼り付けておこう。中森明菜,完全復活の日も近いと信じよう。

2024年4月25日 (木)

J. Geils Bandのライブ・アルバム:名作と言われる作品だが...。

_20240423_0002 "Live: Full House" J. Geils Band (Atlantic)

音楽的な嗜好なんて極めてパーソナルなものであるから,世の中では名作と言われつつも,自分の趣味に合わないものもある。このJ. Geils Bandのこのライブ・アルバムなんかはその典型だが,現在のようにストリーミングで確認してからってのができるなら,試聴すればわかる。しかし,我々の世代にとっては,若い頃はストリーミングなんてなかったので,聞いてみないとわからないということがあって,買ってから失敗したと思ったことも多々ある。本作については失敗とまでは言わずとも,これが全く私の趣味に合致しないので,全然プレイバックの頻度が上がらない。

久しぶりに聞いてもやっぱり趣味に合わない。一言で表すならばロックンロール・アルバムである。カバー曲を中心にしたノリのいい演奏が続くのだが,私のロックの趣味とはアンマッチなのだ。なので,音楽的には優れているかもしれないが,私にはその魅力がわからないし,評価の手立てがないというところだ。

そもそもJ. Geils Bandの名前は知っていても,若かりし頃の私にとって彼らの名前は,ヴォーカルのPeter WolfがFaye Danawayと結婚していたという映画界側からの情報であり,長年音楽に触れたこともなかった。このアルバムも20年ぐらい前に中古で安く手に入れたはずだが,何度聞いても魅力がわからないままここまで来てしまった。

このアルバムがそんな感じなので,ほかのアルバムを聞いてみようという気にもならないのは彼らに失礼かもしれないが,第一印象って大事だよねってついつい思ってしまうアルバムであった。

Recorded Live at the Cinderella Ballroom, Detroit on April 21 & 22, 1972

Personnel: Peter Wolf(vo), J. Geils(g), Magid Dick(hca), Seth Justman(p, org), Danny Klein(b), Stephen Jo. Bladd(ds, vo)

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2024年4月24日 (水)

RSDでゲットしたEBTGのEP。いいですわぁ~。

At-maida-vale "At Media Vale" Everything but the Girl (Virgin)

恒例行事となったRecord Store Day(RSD)にはいつも何らかの注目盤が出てきて,私もついつい購入してしまうのだが,今回のブツはEverything but the Girl(EBTG)の45回転4曲入りEPである。

昨年,何と24年ぶりのアルバム"Fuse"をリリースして,変わらぬ魅力を発揮し,音楽好きを唸らせたEBTGであるが,彼らがBBCのスタジオであるMedia Valeで行ったセッションの模様を収めたもの。当然,"Fuse"からの曲が多くなり,3曲は"Fuse"から,そして残る1曲は懐かしや"Walking Wounded"から"Single"の全4曲。

"Fuse"からの3曲はアルバムとやや印象が異なるものとなっていて,ファンにとってはこれはこれで保有することに意義があるという感覚を与えるものだ。彼らの音楽というのはいつの時代でも瑞々しさを失わないことが素晴らしいが,彼らが私とほぼ同年代(私が1歳年長)だと思うと,違いが大き過ぎだよなぁと思わざるをえない。自分に当てはめれば「瑞々しさ」のかけらもない(爆)。

こういう音源は出ただけで喜ぶべきなので星★★★★★なのだが,RSD限定ということもあり,時間の経過とともに入手が難しくなっていくのが常であり,ファンは躊躇せず入手すべきものと思う。RSDの趣旨は市中のレコード・ショップを盛り上げるためのものであり,レコードの値段は決して安いとは言えないとしても,音楽好きはその趣旨に賛同するとともに,EBTGのファンとしては買うべきものは買うべきなのだ。まぁ音源だけでよければ,ストリーミングでも聴けるので,あとはご随意に(笑)。

Personnel: Tracy Thorn(vo), Ben Watt(g, p, el-p, synth)

2024年4月23日 (火)

これも待望:Fred Herschの新作はECMから。

_20240419_0001"Silent, Listening" Fred Hersch (ECM)

Fred HerschがEnrico RavaとのデュオでECMデビューを飾った"The Song Is You"も素晴らしい出来だったが,今回はソロとして満を持してのリーダー作である。これを期待しないFred Herschファンはいないだろうと言いたくなる。

冒頭のBilly Strayhorn/Duke Ellingtonの"Star-Crossed Lovers"からリリシズム溢れるFred Herschらしい演奏であるが,その後のFred Herschの6曲のオリジナルは,"Little Song"を除けばかなりアブストラクト度が高い。近年のFred Herschはリリシズムと美的な感覚に加えて,こうしたアブストラクトな曲を交えることが多くなった。現在は引退状態のKeith Jarrettも近年のソロ・ライブにおいては,第一部では現代音楽に近い響きさえ聞かせながら,第二部で美的なサウンドで聴衆を酔わせたことに近い感覚をおぼえる。このアルバムにおいては,プロデューサーであるManfred Eicherの意向も反映しているかもしれないし,それがFred Herschの更なる成熟ということかもしれない。Fred Herschの人柄からすれば,ここでの音楽はややクールにさえ響くが,それはECMというレーベルのカラーに合わせたものと解釈したい。

演奏そのものは緊張感を保ったものゆえ,リスナーにはある程度の集中力を求めるものとも言えるが,現代音楽のピアノ音楽への耐性の強い私にとっては何の問題もない。しかし,これまでのFred Herschのファンにとっては,従来のイメージから乖離したものと響くと言えなくもない。その辺りでおそらく本作への評価は分かれるものと思うが,例えばオリジナル曲"Akrasia"において,アブストラクトな響きから,美的なサウンドへ移行する瞬間などのはっとさせる感覚を与える。それはRuss Freeman作の"The Wind"や,最後に収められたAlec Wilderの"Winter of Discontent"にさえ感じられるから,意図的な部分はきっとあるはずだ。

リリカルで美的なFred Herschに痺れてきた私にとっては,この作品がFred Herschの最高傑作とは思わないが,ECMという新たな土俵におけるFred Herschの更なる活躍を祈って星★★★★☆としよう。

おそらくライブの場では,ここまでアブストラクト感を高めることはないと思うが,この新作を受けてFred Herschがどういうソロ・ピアノを聞かせるかは興味深い。海外では発売記念ライブが予定されているが,日本でも是非聞いてみたいものだ。最後にFred Herschのソロを観たのは既に6年以上前となった。一日も早くの再来日を願う。

Recorded in May 2023

Personnel: Fred Hersch(p)

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2024年4月22日 (月)

Amazon Primeで「暗殺の森」を観た。難しいねぇ(苦笑)。

Photo_20240407143901 「暗殺の森("Il Conformista")」(’71,伊/仏/西独)

監督:Bernardo Bertolucci

出演:Jean Louis Trintignant, Stefania Sandrelli, Gastone Moschin, Dominique Sanda, Enzo Trascio

Bernardo Bertolucciのこの作品は「午前十時の映画祭」でも上映されていて,その時にも観に行きたいと思ったのだが,タイミングが合わず見逃していたものがAmazon Primeで見られるようになったので観てみた。

正直言って私はBernardo Bertolucciには特段の思い入れはないが,この映画を観ていて,演出だけでなく,カメラ・ワークが面白いなぁと漠然と思っていた。正直言って,私は回想シーンがやたらに挿入されるシナリオは得意にしていないので,この映画もその時間軸の揺れになかなかついていけない感じがしていた。

映画を観ていて,Jean Louis Trintignant演じるMarcelloの優柔不断さと,それゆえの「転向」のようなものが描かれるが,実際にこんな人間がいたら,最低だよなぁと思わせるところで,Bernardo Bertolucciの術中にはまっているような気もする。まさに人格破綻者である。ファシストなんてそんなものってのがBernardo Bertolucciの言いたかったところかもしれないが,根が単純な私としてはこういう映画は正直難しい。

Il-conformista Alberto Moraviaの原作「孤独な青年」をどの程度翻案しているかはわからないが,一番記憶に残るのは米国版のポスターにもあるDominique SandaとStefania Sandrelliのダンス・シーンなのだ。ここで感じられる感覚がいかにもBernardo Bertolucci的と言うほどは私は彼の映画は見ていないが,とにかくこのシーンの官能的な感覚は確実に記憶に残る。あまりに魅力的なシーンなので,下にも貼り付けておこう。

終盤に向けてどんどん重々しい展開になっていく(それはStefania Sandrelli演じるGiuliaの見た目の落差でも明らか)のも私には辛い部分があったが,まぁこういうのも勉強,あるいは修行ということにしておこう。星★★★☆。それにしても,この映画のイタリア版のポスターはカラフルなものだが,この映画のトーンを示しているのは上の米国版だと思うが,皆さんはどう思われるだろうか。

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Photo_20240407151201

2024年4月21日 (日)

Christoph Eschenbach/N響のブルックナー7番を聴いた。

Christoph-eschenbachn

昨今,オーケストラの演奏を聴きに行く機会が結構増えた私であるが,Christoph Eschenbach/N響のブルックナー7番を聴くべく,NHKホールに行ってきた。

私の中ではChristoph Eschenbachという人はあくまでもピアニストである。私の亡くなった父は相当のモーツァルト好きだったのだが,父がピアノ・ソナタでいち推しだったのがこのChristoph Eschenbachであった。一方,私の偏見もあるだろうが,ピアニスト上がりの指揮者を実はあまり信用していない。Vladimir Ashkenazy然り,Daniel Barenboim然りである。Ashkenazyに関しては弾き振りしたモーツァルトのP協は例外的によかったと思うが,それ以外には全く食指が動かないのだ。だから,指揮者としてのChristoph Eschenbachに関しても,正直興味の対象外だったのだが,ブルックナーか~,7番は生では聞いてないなぁ~ということもあり,聞きに行ってみたという感じである。会場に意外と空席があったのが,Christoph Eschenbachの指揮者としてのポピュラリティゆえだったのかは私には判断できないが...。

私はブルックナーの交響曲についてはまだまだ修行が足りないリスナーに過ぎないが,聞いてい今回感じたのがテンポの遅さ。終演後,聴衆からは熱烈なブラボーを受けていたが,それほどのものか?というのが私の正直な実感であった。通常の7番の演奏であれば,終楽章にはもう少し高揚感をおぼえるような気がするが,今回の演奏はそういう感じではなく,ブラスやパーカッション陣は元気がよいのだが,曲の魅力を感じとるところまでは行かなかったってところだ。私としては一番良かったのはフルートだと思っているが,音量では負けても,実にいい音を出していたと思う。そして,むしろ弦のソノリティが魅力的に響いたのも事実で,N響って実力あるねぇと思っていた。

それはそうとして,楽器はよく鳴らしていたのだが,今回の演奏では7番という曲の魅力が十分に掴めなかったというのが実感で,これは手持ちのCDで改めて確認するしかないと思っている。

まぁ,Christoph Eschenbachも既に84歳という年齢を考えれば,ステージに登場する足元の若干の覚束なさも理解できるが,70分近い演奏をこなしたということでは,素晴らしき老人と言える。しかし,昨年観たCharles Dutoitが86歳だったことを考えると,矍鑠度はDutoitの方が上だったなと思う。それでもたまにこういうオケの演奏を聞くことは必要だなと感じた私であった。

Live at NHKホール on April 19, 2024

Christoph Eschenbach指揮,NHK交響楽団

2024年4月20日 (土)

レココレの「フュージョン・ベスト100」に思う。

Photo_20240419090601

レコード・コレクターズ誌の2024年5月号に「フュージョン・ベスト100 洋楽編」と題してランキングが掲載されている。執筆陣20名が69年から89年という時間軸においてランダムに選択した30枚をベースにランキングが設定されているので,この100枚というのが本当に「ベスト」なのかというと実は疑問を感じてしまう部分がある。例えばShakatakの"Night Birds"が9位ってのは私からすればありえない評価だ。別にShakatakが悪いという訳ではなく,これがトップ10に位置づけられるアルバムか?ということなのだ。Herbie Hancockも"Mr. Hands"が入っていて,"Flood"じゃないってどういうこと?ってのもある。レココレらしいと言えばレココレと思ってしまうのが,Azymuthが4枚も選ばれていることや,Egberto Gismontiも入っていることか。私はEgberto Gismontiは一度たりともフュージョンだと思ったことはないからこの辺りにも違和感がある。このランキングを参考にアルバムを購入する人もいるだろうから,フュージョンと言い切るのはどうかなと思うチョイスも含まれているのは事実だ。

だったら,自分だったら何を選ぶか考えてみればいいじゃないかということで,試しに私も30枚を選んでみた。69年から89年という縛りさえなければ,絶対入れたいJukkis Uotila Bandのライブ(90年なのだ...)等が入れられないのは残念だが, 私だったらこんな感じかなぁってところで選んでみた。基本,1ミュージシャン1アルバムとしたが,複数選んでいいのなら入れたであろうアルバムが抜けているのは少々残念なので,これも捨てがたいってのも追記しておく。正直1位から30位までランク付けするのは難しいので,かなり適当って気もするが,思い入れも含めてのものと思ってもらえばいいだろう。まぁかなり当たり前のチョイスになってしまった気もするが,ご参考ってことで。Jeff BeckとBrand Xはもっと上でもいいのだが,「フュージョン」ということを考えてちょっと遠慮がちにトップ10から意図的に外した。あれがないぞっ!,こんなのおかしいだろうっ!という声も聞こえてきそうだが,まぁリスナーとしての私の趣味の反映と思って頂ければ。

  1. Miles Davis: Bitches Brew (or Jack Johnson)
  2. Pat Metheny Group: Travels (or Still Life(Talking))
  3. Herbie Hancock: Flood (or Thrust)
  4. David Sanborn: Straight to the Heart
  5. Chick Corea: Return to Forever (or Friends)
  6. Dave Grusin: One of a Kind (or Mountain Dance)
  7. Arista All Stars: Blue Montreux
  8. Bob James & David Sanborn: Double Vision
  9. Weather Report: Black Market (or Heavy Weather)
  10. Jaco Pastorius: Word of Mouth (or Jaco Pastorius)
  11. Jeff Beck: Blow by Blow (or Wired)
  12. Brand X: Livestock (or Unauthodox Behavior)
  13. Mike Stern: Upside Downside
  14. John Scofield: Blue Matter (or Still Warm)
  15. Al Di Meola: Elegant Gypsy
  16. Lee Ritenour: Gentle Thoughts
  17. Brecker Brothers: Heavy Metal Be Bop
  18. Quincy Jones: Sounds...and Stuff Like That! (or The Dude)
  19. Stuff: Stuff (or More Stuff)
  20. John McLaughlin: Inner Mounting Flame (or Birds of Fire)
  21. Larry Carlton: Larry Carlton
  22. Joe Sample: Rainbow Seeker
  23. George Benson: Weekend in L.A. (or Breezin')
  24. Billy Cobham: Spectrum
  25. Crusaders: Scratch
  26. Pat Martino: Joyous Lake
  27. Steve Khan: Eyewitness (or Modern Times)
  28. Grover Washington Jr.: Mr. Magic (or Winelight)
  29. Yellowjackets: Four Corners
  30. Deodato: Prelude (or Deodato 2)

2024年4月19日 (金)

豪華なフロントが揃ったFreddie Hubbardの"Keystone Bop"。

_20240418_0001 "Keystone Bop: Sunday Night" Freddie Hubbard (Prestige)

早いものでFreddie Hubbardが亡くなってもう15年以上になる。時の経過の早さを感じるようになったのは私の加齢ゆえトいうこともあろうが,それにしてもである。

これまで"Keystone Bop"と題されたアルバムは2枚に分かれてリリースされていて,Vol.2についてはこのブログにもアップしたことがある(記事はこちら)。それでもって,久しぶりにその1枚目を取り出してきたのだが,本作とVol.2の出自というのが結構ややこしい。

本作の1曲目,3曲目,4曲目はもともと"A Little Night Music"というアルバム,2曲目と5曲目,そしてVol.2の1曲目は"Keystone Bop"というアルバム,Vol.2の2曲目は未発表,そしてVol.2の3曲目,4曲目は"Freddie Hubbard Classics"というアルバムに収録されていたもの。それを録音日によって再構成したもので,本作はサブ・タイトル通り1981年11月29日の日曜日の音源を集めたもの。単に未発表音源を付加するというやり方もあろうが,こういうコンパイルの方針は歓迎すべきだと思う。

メンツを見てもらえばわかる通り,フロントはベテランのビッグ・ネームが3人,バックが当時の若手ということになるが,今やフロント3人は世を去る一方,ピアノのBilly Childsはグラミーを複数回受賞,ベースのLarry Kleinはプロデューサーとして大成功ということで,そうしたところにも時の流れを感じる。とは言え,リズム・セクションは若いなりに大いに健闘していることは間違いない。

演奏はやはりこれだけのメンツゆえの安定感たっぷりってところだが,Freddie Hubbardのラッパが突出した魅力を放っている感じがする。時にハイノートも炸裂させながら,歌心も忘れないというのはさすが。バラッドで聞かせるフリューゲル・ホーンもナイスだ。Joe Hendersonはさておき,Bobby Hutchersonのこのメンツ及びレパートリーでの親和性は微妙な気もするが,場に応じたプレイぶりってところで十分楽しめる。

ということで,久しぶりに聞いてもジャズ・ライブの楽しさや醍醐味を十分に感じさせてくれる佳作。星★★★★。尚,この2枚のもととなったアルバム3枚の写真も下に掲載しておこう。

Recorded Live at the Keystone Korner on November 29, 1981

Personnel: Freddie Hubbard(tp, fl-h), Joe Henderson(ts), Bobby Hutcherson(vib), Billy Childs(p), Larry Klein(b), Steve Houghton(ds)

本作へのリンクはこちら

Keystone-trilogy

2024年4月18日 (木)

Charles Lloydの衰えることのない驚異の創造力。

_20240416_0002"The Sky Will Be There Tomorrow" Charles Lloyd (Blue Note)

Charles Lloydは去る3/15で86歳になった。その誕生日にリリースされたのがこの新作2枚組である。新曲に混じって,旧作も演奏するところに,年齢ゆえの回顧モードも入ってきたかとも思わせる部分もない訳ではないが,これまた素晴らしいアルバムを出してきたものだと思わざるをえない。

Jason Moran,Larry Grenadierとの共演は既にある中,今回の注目はBrian Bladeである。ライナーにもLloyd本人が書いているが,Brian Bladeとは本作が初共演というのは意外ながら,何度かチャンスはあったものの実現は今回までずれ込んだようだ。そしてこれだけのメンツが揃い,Charles Lloydの果てることのない創造力をもってすれば,悪いアルバムになるはずがない。

一聴して,牧歌的な部分も感じられるし,穏やかな演奏が多い中,Charles Lloydが鋭いソロを聞かせたり,一部でフリーな展開も聞かせて,全編を通じてCharles Lloydという人の化け物と言ってもよさそうな生命力を感じさせるのが凄い。まぁ,そうは言いながら,Thelonious Monk, Booker Little, Billy Holiday等の先人にオマージュした曲も入れたり,ライナーの最後には"All My Relations, my inclination to put down the saxophone and go back to the woods has been staved off for another season."なんて書いているから,本人もそれなりに「老い」は意識していそうではあるが,まだまだいけるだろうと聞いているこっちは思ってしまうし,きっと本人もそう感じていると思えるのだ。

私としてはMarvelsとのアルバムの方が好みではあるものの,そんな好みを超越して傾聴に値する作品。Charles Lloydという人はいつでもそういう人なのだ。素晴らしい。星★★★★☆。

Recorded in 2023

Personnel: Charles Lloyd(ts, bass-fl, a-fl), Jason Moran(p), Larry Grenadier(b), Brian Blade(ds, perc)

本作へのリンクはこちら

2024年4月17日 (水)

まさに待望:Lizz Wrightの新作。

_20240416_0001"Shadow" Lizz Wright (Blues & Greens)

主題の通り,まさに待望の新作が届いた。私はLizz Wrightには全幅の信頼を置いてきたと言ってよく,アルバムがリリースされるたびに無条件購入している。しかし,前作のライブ盤(これも素晴らしかった。記事はこちら)はストリーミング/ダウンロード・オンリーで,フィジカルのリリースはなんと2017年の"Grace"以来となった。その"Grace"も年間最高作の一枚に選ぶほど,私はLizz Wrightを評価しているのだ。

そんなLizz Wrightの新作がリリースされたので,早速聴いてみた。今回はギターのChris Bruceがプロデューサーを務め,Lizz Wright自身はエグゼクティブ・プロデューサーとなっている。もう冒頭の"Sparrow"が流れた瞬間から私の心は鷲掴みにされてしまった。ここにゲストでAngelique Kidjoを入れるところなど,まさに適材適所。今回もオリジナルにカヴァー曲を交えるといClう構成だが,Clarence Carterの"Sweet Feeling"のブルージーな感覚なんて最高である。このカヴァー曲の選曲のセンスはまさに絶品なのだ。今回はClarence Carter以外はCaitlin Canty,Toshi Reagon,Sandy Denny,そしてGillian Welchといったフォーク,アメリカーナ系の女性シンガーのカヴァーが多くなっている。

それらの曲を含めてアルバム全体を通して素晴らしい歌唱が続くのだが,1曲だけCole Porterの"I Concentrate on You"が雰囲気が違うのはどうかなぁと感じてしまったのも事実。私としてはこの曲の歌のうまさは感じられるとしても,アルバム全体としては少々バランスを崩しているのではないかと疑問に思った。それでもLizz Wrightへの私の評価が揺らぐことはないのだが。星★★★★☆。

Personnel: Lizz Wright(vo), Adam Levy(g), Chris Bruce(g, key, b, perc), Lynne Earls(el-p, g, hand perc), Glenn Patscha(p,el-p, org), Kenny Banks, Sr.(p, org),  Rashaan Carter(b), Meshell Ndegeocello(b), Deantoni Parks(ds), Abe Rounds(perc), Brandy Younger(harp), Tina Basu(vln), Arun Ramanurthy(carnatic vln), Katherine Hughes(vln), Elizabeth Brathwaite(vln), Jeff Yang(vla), Melissa Bach(cello), Hanna Benn(strings arr)

本作へのリンクはこちら

2024年4月16日 (火)

いい意味で暑苦しい"Out of Chaos"(笑)。

_20240415_0001"Out of Chaos" 峰厚介 (East Wind)

主題の通りだ。1970年代中盤の日本のジャズ・シーンを感じさせるアルバムと言ってよいのではないかと思う。この暑苦しさを生み出しているのはリーダーのテナーはもちろんなのだが,それを激しく煽るのが日野元彦のドラムス。これだけバスドラをキックし続けるってのも激しいが,とにかく叩きまくりである。2曲目の"Little Abi"だけは峰厚介と菊地雅章のデュオだが,冒頭の"Recollection"も3曲目の"Cross Wind"も長尺で激しい応酬がクァルテットにより展開される。音楽そのものはアルバム・タイトルのように「混沌」としたものとは思わないが,この激しさそのものを示していると言ってもよいかもしれない。

2曲目の"Little Abi"がデュオであり,ほかの2曲と相当雰囲気が違うが,録音されたタイミングと場所の違いも影響しているようだ。いずれにしても,"Recollection"と"Cross Wind"に挟まれたこの曲によりその2曲の激しさを中和するような効果もある。もしこれがなければ,確実に胸焼けするだろう(笑)。

いずれにしても,こういう熱い演奏は聞いていて爽快感を覚えるところもあって,大いに楽しめるし,当時のミュージシャンのレベルの高さを実証したアルバム。峰厚介がテナー一本に絞ったアルバムとして,本人としても相応の覚悟を以て臨み,ちゃんと結果に結びついたというところは立派。星★★★★☆。

Recorded on July 15 & 30,1974

Personnel: 峰厚介(ts), 菊地雅章(p), 岡田勉(b),日野元彦(ds)

本作へのリンクはこちら

2024年4月15日 (月)

「愛のメモリー」と言っても松崎しげるじゃないよ,映画だよ(笑)。

Obsession 「愛のメモリー("Obsession")」(’76,米,Columbia)

監督:Brian De Palma

出演:Cliff Robertson, Geneviève Bujold, John Lithgow, Sylvia Kuumba Williams, Wanda Blackman

日本で松崎しげるの「愛のメモリー」がヒットしたのが1977年のことであったが,この映画が日本で公開されたのは翌78年ということで,おそらく松崎しげるに便乗しての邦題だったのではないかと疑わせる(笑)。Alfred Hitchcock好きで通るBrian De Palmaが「めまい」にオマージュしたと思われるのがこの映画。ストーリーは全然違っても「そっくりさん」が出てくるってところでそれは明らかなのだ。

詳しく書くとネタバレになってしまうので控えるが,正直言ってこのストーリーには無理があると思わせるし,そしてラスト・シーンも実に違和感を残したまま終わるという不思議な映画。そもそもCliff RobertsonとGeneviève Bujoldというキャスティングが地味と言えば地味なので,日本でヒットしたという話は聞かない。映画としては大した出来ではないのも事実だ。それでもそういう映画があったなぁと覚えていたから今回Amazon Primeで観た訳で,劇中に出てくるポンテ・ヴェッキオやシニョーリア広場などのフィレンツェの風景が,2013年に訪れた同地への旅を思い出させてくれたのも懐かしかった。

私としてはまぁそこそこ見られるって程度の映画だが,Brian De PalmaのHitcock好きが高じて,音楽もBernard Herrmannというのがこだわってるねぇ。星★★★。

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2024年4月14日 (日)

Daniil Trifonov@紀尾井ホール参戦記。

Trifonov

いやはや凄いものを聴いてしまったってところか。Daniil Trifonovが"Decades"と題して,20世紀の音楽を10年に区切って,00年代から80年代までの曲を演奏するというプログラムは2018年にカーネギー・ホールで演奏して評判になったものである。今回はその再演ということになるが,演奏した曲目は18年と全く同様の以下のものであった。

  • ベルク:ピアノ・ソナタ op.1(1907-08年作曲)
  • プロコフィエフ:風刺(サルカズム)op.17(1914年作曲)
  • バルトーク:戸外にて(1926年作曲)
  • コープランド:ピアノ変奏曲(1930年作曲)
  • メシアン:「幼子イエスの注ぐ20の眼差し」から 幼子イエスの接吻(1944年作曲)
  • リゲティ:「ムジカ・リチェルカータ」から 第1、2、3、4番(1951-53年作曲)
  • シュトックハウゼン:ピアノ曲Ⅸ(1955年作曲)
  • J.アダムズ:中国の門(1977年作曲)
  • コリリャーノ:ファンタジア・オン・オスティナート(1985年作曲)

ほとんどが私にとっては聞いたこともないような曲が並んでいるが,冒頭のベルクからして強烈なテンションで迫ってくる。メシアンまでが第一部で約70分,リゲティからアンコールまでが50分ぐらいというプログラムで,やる方も聴く方も物凄い集中力を要するものだったと言えるが,見事に乗り切ったTrifonovであった。そしてなんとアンコールは「4分33秒」である。会場で"I Love You,Daniil!"と声を上げた外国人がおそらくタイム・キーパーだったのではないかと疑っている私だが,身じろぎもせずピアノの前に座るTrifonovを見ながらニヤニヤしていた私であった。

それにしても,超強力な打鍵もあれば,ミニマルな響きも交えるというこのプログラムは,ピアニストとしての技量もさることながら,相当疲労を強いるものであることは間違いないところで,まだ33歳という年齢ゆえに可能という気もする。デビュー当時の紅顔の美少年というイメージからは随分雰囲気が変わったが,それでもまだ33歳なのだ。

私はTrifonovのアルバムはデビュー作(?)のチャイコフスキーのP協しか持っていないから,別にファンでも何でもないのだが,今回このリサイタルに足を運んだのは,このプログラムゆえである。私が現代音楽のピアノ曲にはまって結構な時間が経ったが,生で聴いたことがなかったこともあり,告知を見た時,これは...ということでの参戦となったが,冒頭の表現に戻って凄いものを観てしまったと思った。こんな演奏した後,サイン会までやるっていうんだから,寿命縮まるで(爆)。マジでチャレンジャーだよなぁと思いつつ,こちらとしては心地よい疲労感を覚えながら,サイン会はパスして家路についたのであった。

ということで,紀尾井ホールではないが,2018年にCarnegie Hallでやった時の写真をアップしておこう。雰囲気はほとんど同じ。写真はNew York Timesから拝借したもの。

Live at 紀尾井ホール on April 12, 2024

Personnel: Daniil Trifonov(p)

Trifonov-at-carnegie_20240413061101

2024年4月13日 (土)

久しぶりにHuman Elementを聴く。

_20160616 "Human Element" (Abstract Logix)

本作を聴くのも久しぶりだ。振り返ってみれば,彼らのBlue Noteでのライブを観たのももう8年近く前だ。本作を聴くのはその予習で聴いて以来ではないか(爆)。確か招待券をゲットして行ったはずのライブでは,集客は捗々しくなく,空席が目立つ中の演奏となったが,全くの手抜きなしで,実にタイトな演奏を堪能したことはよく覚えている。本作のジャケにはその時に4人からもらったサインが入っているが,いい思い出である。

そんな彼らのアルバムは本作とAbstract Logixのライブ盤に2曲が入っている(但しドラムスは私が嫌いなRanjit Barotがトラで入っている)だけだと思ったら,2018年にセカンド・アルバムを出していたようだ。しかし自主制作で流通経路には乗っておらず,Scott Kinseyのサイトで購入できるだけのようだ。

それはさておきであるが,本作を改めて聴くと,Weather ReportあるいはZawinul Syndicate色が濃厚に表れていて,ワールド・ミュージック的フュージョンという感じだ。変拍子を交えての演奏は,ライブ同様タイトなものであり,76分越えという大作ながら,だらけることなく,時間を感じさせないのはなかなか立派だと思う。そして彼らの演奏のスパイスとして効いているのがArto Tunçboyacıyanのヴォイスであろう。このバンドの個性の一端は確実にArto Tunçboyacıyanが担っていたと感じさせるものとなっていると思う。

まぁこのメンツ,知っている人は知っているという人たちばかりだが,知らない人にとっては,「誰それ?」になってしまうレベルの人たち,換言すれば決してメジャーではないが実力者集団ということになるが,その実力は遺憾なく発揮されたというアルバム。星★★★★。

Personnel: Scott Kinsey(synth, p, vocoder), Arto Tunçboyacıyan(perc, vo), Matthew Garrison(b), Gary Novak(ds)

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2024年4月12日 (金)

久しぶりにRichie Beirachの"Ballads"を聴く。

_20240410_0001 "Ballads" Richie Beirach (CBS Sony)

ブログのお知り合いのmonakaさんが本作を取り上げられていて,そう言えば随分これも聞いていないということで,探し出してきたアルバム。正直言ってどこにしまったかははっきりしていなかったが,比較的見つけやすい場所にあったのは幸いであった(苦笑)。

いかにもという感じのRichie Beirachによるソロ・ピアノ。美的なリリカルさに重心は置かれているが,やや現代音楽的とも取れるアプローチも交えたピアノの響きが美しい。ライナーをよくよく見ると,おそらくモニター・ルームで撮られたであろうRichie Beirachと武満徹が並んで写る写真(ついでに謝辞にも武満の名前がある)もあって,このアルバムを聞きながら,そういうつながりもありうるよなぁなんて思ってしまった。

著名なスタンダードと,比較的よく知られたRichie Beirachのオリジナルから構成されるアルバムだが,Richie Beirachによる曲目の解説も付されており,各々の演奏におけるRichie Beirachの意図が伝わって,ライナーを読みながら演奏を聞くのも一興だと思える。

まぁ企画としてはありがちなものとは言え,このクォリティであれば文句はない佳作。星★★★★。私は確か本作を中古でゲットしたと思うが,今や廉価盤で簡単に手に入る。そのうち,続編の"Ballads II"も聞いてみることにしよう。

Recorded on March 16 & 17, 1986

Personnel: Richie Beirach(p)

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2024年4月11日 (木)

これが私とJack Wilkinsの出会いだった。

Merge "The Jack Wilkins Quartet" Jack Wilkins (Chiaroscuro)

昨年惜しくも世を去ったJack Wilkinsだが,最後までメジャーな存在になり切れなかったのは実に惜しかった。アルバムはそこそこ残しているが,後年のアルバムは今一つ魅力に欠けるものが多い中で,私とJack Wilkinsの最初の出会いとなった本作は実によくできたアルバムであった。

このアルバムがリリースされたのは1978年のことなので,私がジャズを聞き始めてまだ時間が経っていない頃である。当時のスウィング・ジャーナルの記事を読んで購入に至ったと思うが,想像以上にワクワクさせられるアルバムだったという記憶がある。これをきっかけにかなりの枚数のJack Wilkinsのアルバムを購入した訳だが,なぜかこの後に出た"You Can’t Live Without It"をスルーしていたのは今でも不思議だ。

まぁその後CDに本作とほぼ2 in 1みたいなかたちの"Merge"として聞けるようになったから,それはそれでよい。しかし,「ほぼ2 in 1みたい」と書いたのはCDでは本作の"Brown, Warm and Winterly"がカットされているので,このアルバムのアナログは手放す訳にはいかない。まぁその"Brown, Warm and Winterly"はJack WilkinsとJack DeJohnetteによるピアノのデュオなので,収録時間を考慮した編集においてはカットも仕方なかったかなとも思えるが,実はそれも結構味わい深いのだ。

それに限らず,このアルバムは快演揃いであるが,Jack Wilkinsのギターがよいのはもちろん,実はRandy Breckerが全編で演じるフリューゲル・ホーンが素晴らしいのだ。当時はフュージョンの人という意識しかなかったが,ちゃんとコンテンポラリー・ジャズの文脈でも吹けるということを実証していた。結局うまい人は何でも吹けるということの証だが,それにしてもここでの演奏は見事であった。スリリングな響きもあれば,リリカルな部分もあり,非常にバランスの取れた好アルバムであった。星★★★★☆。

Recorded in February 1977

Personnel: Jack Wilkins(g), Randy Brecker(fl-h), Eddie Gomez(b), Jack DeJohnette(ds, p)

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2024年4月10日 (水)

Bobby Tenchを偲んで,今日はHummingbird。

Bobby-tench

"Diamond Nights" Hummingbird (A&M)

_20240406_0001 少し前のことになるが,去る2/19にBobby Tenchが亡くなった。Bobby Tenchと言えば第2次Jeff Beck Groupのヴォーカルであり,そしてその残党を中心としたHummingbirdの創設メンバーである。リーダーとしての活動には目立ったところはないにもかかわらず,その存在が認識されている人であった。そんなBobby Tenchを偲んで聞くならば,Hummingbirdということで取り出したのがHummingbirdとしての最終作,"Diamond Nights"である。

Hummingbirdはロックとソウルを絶妙にブレンドした感覚を生み出すバンドだったが,そこにはBobby Tenchのソウルフルなヴォーカルが貢献していた。このアルバムを初めて聞いた時にびっくりしたのが冒頭の"Got My Led Boots on"であった。そう。Jeff Beckの"Wired"冒頭を飾った"Led Boots"の歌付きヴァージョンである。ホーン・セクションも従えたこの曲は同じ曲と思えないほどフレイヴァーが違う。そして全編を通してこのアルバムはソウル/R&B色が非常に強いのが特徴であり,少なくとも一般的なロックの感覚ではない。だって,EW&Fもやっていた"You Can’t Hide Love"までやっちまうんだから当たり前だ。この辺りはリスナーによっては好き嫌いもわかれるだろうが,時として演じられるフュージョン風味のインスト曲も含めて,私にとってはつくづくいいバンドだったと思えるのだ。

そんなこともあって,2007年に本作を含む彼らのアルバムが紙ジャケCDで再発された時には「ほとんど奇跡!」とこのブログに書いている(記事はこちら)。裏を返せばそういうファンも一定数はいたってことになる。

そんなバンドのヴォーカルを務めるだけでなく,一部ではリード・ギタリストとしての役割も果たしたBobby Tenchであった。もっと陽のあたる道を歩めた人だと思うが,ちゃんと記憶に残る仕事を残したことは幸いであった。

R.I.P.

Personnel: Bobby Tench(vo, g), Max Middleton(key, moog), Robert Ahwai(g), Clive Chaman(b, fl), Bernard Purdie(ds, perc), Airto Moreira(perc), Poncho Morales(perc), Venetta Fields(vo), Maxine Williams(vo), Julia Tillman(vo), Paulette McWilliams(vo), Lisa Freeman Roberts(vo)

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2024年4月 9日 (火)

時代の徒花感ありありのChris Hunterのアルバム。

Chris-hunter-atlantic "Chris Hunter" Chris Hunter (Atlantic)

Gil Evans Orchestraでも活躍したChris Hunterの1986年にリリースされたこれが初リーダー作だったはず。プロデュースとアレンジはDon Sebesky,バックのミュージシャンも有能な人たちが揃っているが,いかにも売れ線狙いの臭いがプンプンするって感じのアルバムである。

Gil Evans Orchestraにいる時から,その音色やフレージングはDavid Sanbornの影響が顕著で,バンドを抜けたDavid Sanbornの後釜としてはChris Hunterは相応に機能していたと思うが,リーダー・ミュージシャンとしての実力はどうなのかはよくわからなかった頃のアルバムである。以前Gil Evansの音楽に相当はまっていたこともあって,私はこのアルバムをアナログの時代に購入したのだが,正直言ってこれは失敗だったなぁと思っている。売るタイミングを逃して今も手許にあるものを引っ張り出して聞いてみたのだが,その印象は変わらなかった。

このアルバムの問題はChris Hunter自身というよりも,プロデュース,アレンジに加えて選曲にも携わったであろうDon Sebeskyの責任が大きいように思う。時代が時代だけにわからないでもないが,"Purple Rain"を仰々しくやったり,"Georgeia on My Mind"やら"Respect",更には"America the Beautiful"のような曲が本当にChris Hunterにフィットしているかと言えば,決してそんなことはないだろう。"Purple Rain"に女声コーラスを入れるアレンジメントも古臭い。もはや80年代はDon Sebeskyの時代ではなかったことが明らかになるだけなのだ。

一方,Chris Hunterはプロデュースを任せたことにもよろうが,何をしたいのかよくわからないレベルに留まってしまったというのが実感だ。曲で大衆受けを狙ったところで,David Sanbornのアルバムのクォリティには遠く及んでいない。Atlanticというメジャー・レーベルからのデビューはChris Hunterにとってはラッキーなものだったが,そのチャンスを活かせなかったというところ。こういうのを凡作と言う。星★★。

そして,このアルバムのエグゼクティブ・プロデューサーがJohn Snyderなのも笑ってしまう。HorizonやArtist Houseでいいアルバムを作りながら,全然売れなかったJohn Snyderだが,その後,A&Mでもメジャー・レーベルには不釣り合いな硬派なアルバムをプロデュースして,セールスに失敗した。そんな人がここでこの売れ線狙いのアルバムの指揮をしていたという事実には笑ってしまった私であった。

Personnel: Chris Hunter(as), Hiram Bullock(g), Richard Tee(p, el-p), Clifford Carter(synth), Anthony Jackson(b), Darryl Jones(b), Steve Jordan(ds), Joe Bonadio(perc) with strings and chorus

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2024年4月 8日 (月)

Wayne Shorterの"Speak No Evil"のアナログを入手。

Speak-no-evil "Speak No Evil" Wayne Shorter (Blue Note)

何を今更言っているのかというような主題だが,これには理由がある。私はWayne ShorterのBlue Noteレーベルでのアルバムについては,初作"Night Dreamer"から"Super Nova"までは何とかアナログで揃えたいとずっと思っていた。それぐらい好きだということなのだが,ほかのアルバムはアナログで入手済みだった中で,唯一CDでの保有となっていたのが本作であった。"Odyssey of Iska"と"Moto Grosso Feio"はどうした?と聞かれそうだが,この2作はCDで十分だと思っている(笑)。

しかし,昨今の著しいアナログの復権を受けて,Blue Noteのアルバム群もアナログでの再発が続いている。そして,この再発シリーズのリマスタリングをしているKevin Grayの評判がブログのお知り合いの間でも高い。正直言ってオリジナルでいいのがあればそっちをと思って探してはいたのだが,なかなかいいものが出てこないし,高価なこともあり,この再発盤を購入することとした。

音楽については文句のつけようのない傑作だと思うし,出てくる音には私のしょぼいオーディオでも嬉しくなってしまう。そしてやはりこのジャケットの質感こそアナログ・レコードを保有する喜びだと思ってしまうのである。値段はそこそこしてしまうが,まぁいいやと思えるのが高齢者の大人買い(と言うほどの価格ではないが...)。それにしても昨今のレコードは盤質が本当によくなったと思う。昔の輸入盤の盤質の粗さを知る人間にとっては隔世の感があるが,どこでプレスしているのかねぇ。それでもやっぱり最後に微妙なスクラッチが入るのはご愛嬌。

Recorded on December 24, 1964

Personnel: Wayne Shorter(ts), Freddie Hubbard(tp), Herbie Hancock(p), Ron Carter(b), Elvin Jones(ds)

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2024年4月 7日 (日)

髪の毛があるBruce Willis!「ダイ・ハード」をAmazon Primeで初めて観た。

Die-hard_20240408072701「ダイ・ハード ("Die Hard")」(’88,米,Fox)

監督:John McTiernan

出演:Bruce Willis, Alan Rickman, Bonnie Bedelia, Reginald VelJohnson, Alexander Godunov

先日取り上げた「ブルー・ベルベット」の記事にも書いたが,私にとっては80年代は映画館から足が遠のいていた時期で,本作のようなヒット作も劇場では観ていないし,この映画はビデオや別媒体でも観たことがないというのは正直少々恥ずかしい。このシリーズで観たことがあるのは「4.0」だけのはずだが,まぁ誰もが知るノンストップ・アクションで,この映画の撮影を担当していたのが「スピード」の監督,Jan De Bontというクレジットを見て,何となく納得してしまったのであった。

日本資本の企業のビルに押し入るテロリストのボスがAlan Rickmanというのは,後に彼が出る映画を知る私にとっては意外なキャスティングとも言えるが,何でもできる役者なのだということがよくわかるものであった。そうは言ってもこの映画はBruce Willisである。現在は失語症からアルツハイマーを患って,俳優生命は終わってしまったBruce Willisは,TVドラマ「こちらブルームーン探偵社("Moonlighting")」でブレイクして,映画界ではこのシリーズで大スターとなったのは皆さんご存じのとおりだろう。そんなBruce Willisにまだ髪の毛がある時代の作品。

まぁよくやるわってぐらいのアクション・シーンの連続ではあるが,無線越しのReginald VelJohnson演じるAl Powell巡査との掛け合いが面白く,この人が一番の儲け役だった気がする。今から35年以上前の映画だが,現在でもちゃんと見られるのは大したものと思ってしまった。世の中そんなにうまくいかないんじゃない?と言うのが野暮に思えるアクション大作。星★★★★としておこう。

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2024年4月 6日 (土)

「デヴィッド・ストーン・マーティンの素晴らしい世界」:さすがにこれはやり過ぎではないか...。

Dsm「デヴィッド・ストーン・マーティンの素晴らしい世界」村上春樹(文藝春秋)

David Stone Martinと言っても,普通の人々にとっては誰それ?にしかならないだろうが,ClefやNorgran,Verveといったジャズ・レーベルのアルバム・デザインを担ったデザイナーである。これらのレーベルでのDavid Stone Martinの活動は1950年代が中心と随分昔のことになるので,もはやクラシックな世界と言ってもよい。このDavid Stone Martinのデザインのファンは結構多いが,村上春樹もその一人ということで,この書籍に至ったということになろう。これは私がECMのスリーブ・デザインに惹かれるのと同じようなものなので,デザインの観点から語るという行為自体には特に異論はない。

だが,音楽関係の書籍として見ると,取り上げられているミュージシャンが,Charlie ParkerやStan Getzを除けば,必ずしも私の嗜好にフィットした人たちばかりではないし,音楽についての記述も決して細かいものではないところには不満が残る。そもそもデザインが音楽のクォリティと比例しないことは村上春樹の記述からも明らかなところに,この書籍の無理矢理感を覚えるのだ。結局私にとってはどっちつかずな感じがしてしまうし,「ふぅ~ん」ぐらいの反応しか示せなかったというのが実感。星★★★。

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2024年4月 5日 (金)

渡辺香津美の快癒を祈って今日は”Mo’ Bop"を聞く。

_20240402_0002 "Mo’ Bop" 渡辺香津美New Electric Trio (EWE)

渡辺香津美が脳幹出血により,今年度の活動を自粛し,治療に専念するという突然のニュースはショッキングであった。渡辺香津美は常々若々しいイメージがあるのだが,気がついてみれば,彼も昨年古希を迎えていたので身体の不調が出てきても仕方がない年齢になっていたということだ。ということで,今日は彼の一日でも早い快癒を祈って久々に取り出したのがこのアルバム。

振り返ってみれば本作がリリースされたのが2003年で,もう20年以上前だったのかと,これまた今更気づく私であった。当時Richard Bona,そしてHoracio "El Negro" Hernandezという,バカテクかつ手数の多い濃い~メンツで結成したのがこのNew Electric Trioであった。本作はその第1作だが,この好評を受けて都合3作がリリースされたのは皆さんご存じの通りであろう。

渡辺香津美の活動は年々幅を広げたと言ってもよいと思うが,やはりこの人のエレクトリック・ギターは人を興奮させる術を知っていると思える。もちろんアコースティック・ギターでも素晴らしい手腕を発揮するが,私が惹かれてしまうのはどちらかと言えばエレクトリック・サイドなのだ。

このアルバムでもこの3人らしい音は随所で聞かれるが,もっとぶちかますかと思いきや,意外と渋い演奏も含まれていて,何をやってもうまい人たちだと思わせてくれる。例えば冒頭のタイトル・トラックはファンク風味,2曲目の"Dada"などはコンテンポラリーなジャズ・フレイヴァーを感じさせる一方,その次の"Robo"ではロック的なハードなサウンドと,目くるめくような曲調の変化をこなしてしまうのだ。果ては"Naima"までやっちゃうし,最後の"Tricorn"には懐かしや"Unicorn"のフレーズが登場してくるしねぇ。いやいや久しぶりに聞いても多彩で強烈なバンドであった。

脳幹出血は手足に麻痺が残る可能性もあり,ギタリストとしてはかなりクリティカルな病とも言えるが,脳動脈瘤から完全復活を遂げたPat Martinoの例もある。今日はこのアルバムを聞き,渡辺香津美が病気から回復し,またこのような音楽を聞かせてくれることを祈りたい。

Personnel: 渡辺香津美(g, g-synth), Richard Bona(b), Horacio "El Negro" Hernandez(ds)

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2024年4月 4日 (木)

TV番組に触発されて,今日は"Nefertiti"(笑)。

_20240402_0001 "Nefertiti" Miles Davis (Columbia)

我ながら単純だと呆れてしまうが,先日NHKで放送されたエジプト関連の番組を見ていて,ツタンカーメンとネフェルティティとの関係性に関する話を聞いていて,へぇ~と思いながら,このアルバムも暫く聞いていないなぁということで取り出した。

60年代黄金クインテットが全編アコースティックで演じた最終アルバムでもあり,もはや行くところまで行ったって感じの部分もあったと言ってもよいアルバムだが,若い頃,初めて本作のタイトル・トラックを聞いた時は驚いたものだ。フロントのMilesとWayne Shorterはテーマを繰り返すだけなのだが,それにばかり気を取られていて,そのバックでリズム,特にTony Williamsのドラムスが暴れまくっていると気づくには時間を要した当時はジャズ初心者の私であった(笑)。フロントとリズムの主客転倒こそがこの曲のキモであるにもかかわらずだ。

それはさておき,ジャケのMilesのポートレートを含めて,この全編を通してダークな印象が強いアルバムには,ジャズ的なカッコよさというものが凝縮されているようにも思ってしまう。まさにハードボイルド。そしてユニットとしてのまとまりはピークに達し,Milesが次作"Miles in the Sky"以降,エレクトリック路線に舵を切るのも,もはやアコースティックでやれることは本作まででやり尽くしたという感があったかもしれない。まぁこのアルバムと同じタイミングで吹き込まれた3曲は後に"Water Babies"で世に出るが,そっちも最高にカッコよく,このメンツはマジで凄かったと改めて感じざるをえないアルバム。メンバー全員素晴らしいが,中でもWayne Shorterのテナーがマジでいいですわぁ。星★★★★★。

尚,現在のCDには4曲のボートラが入っているが,"Pinocchio"がオリジナル・テイクと全然雰囲気が違うのは面白い。しかしながら,当然のこととは言え,出来はオリジナルの圧勝。

Recorded on June 7, 19, 22 and 23, 1967

Personnel: Miles Davis(tp), Wayne Shorter(ts), Herbie Hancock(p), Ron Carter(b), Tony Williams(ds)

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2024年4月 3日 (水)

ブラックホークの99選から今日はJames and the Good Brothers。

James-and-good-brothers "James and the Good Brothers" (Columbia)

時折このブログに顔を出す「ブラックホークの99選」のアルバムだが,これもその一枚。双子のGood兄弟とJames Ackroydが組んだカナダのフォーク・グループの唯一の作品と思われる。Good兄弟は現在も活動しているようだが,本作が出たのは1971年のはずだから,半世紀以上やっている息の長さがなかなか凄い兄弟バンドである。

このアルバムについてはCD化はされていない(ストリーミングでは聞ける)はずなので,アナログA面からプレイバックすると,その冒頭,"Ecks"におけるJames Ackroydの声に魅了されてしまう。James Ackroydの声はまさに私の好みと言ってよく,それだけでつかみはOKみたいなものである。2曲目以降にリードを取るBrian,BruceのGood兄弟の声はやや軽く響くが,このJames Ackroydの声の渋さが本当にたまらないのだ。そして彼らが聞かせるコーラス・ワークはCSN&Y的にも響き,その手の音楽を好むリスナーへの訴求力は非常に高いと思わせる。

そしてリリースから半世紀以上を経過しても,音楽の瑞々しさは不変であり,このアルバムの魅力は全く色褪せていない。レコーディングの時期を考えれば,この音のクリアさも貢献度大だと思える。いずれにしても,結構古い音源なので,まさに古き佳き時代の音楽でありながら,今でも十分いけているアルバムと評価したい。星★★★★☆。やっぱりわかってるねぇ,ブラックホーク...。

Personnel: James Ackroyd(vo, g), Brian Good(vo, g), Bruce Good(vo, autoharp), Red Shea(g), Ollie Stang(g, dobro), Mike McMasters(b), Brian Hilton(ds), Billy Kreutzmann(ds), Sammy Piatsa(ds), Larry Good(vo, banjo)

本作のストリーミングへのリンクはこちら

2024年4月 2日 (火)

Original Loveのベスト盤:私にしては珍しいアルバムを取り上げよう。

_20240329_0001 "The Very Best of Original Love" (東芝EMI)

このブログの読者の皆さんにはバレバレだと思うが,私は完全に洋楽志向の人間である。そして映画も洋画指向だ。これは完全にテイストの問題と言ってもよいが,例外もない訳ではない。例外筆頭はYumingだが,今日取り上げるOriginal Loveについては私が保有しているアルバムはこれだけで,全然ファンでも何でもない。このアルバムを購入したのは「接吻」ってなかなかいい曲だと思ったからで,まさに気まぐれである。

改めてこの東芝時代のベスト盤を聞いてみると,魅力的な曲とそうでもない曲の差が大きいと感じるところもあるが,ここで聞かれるソウル的なファンク風味は一般的な日本的なサウンドから離れたところがあり,その辺が洋楽志向の私にさえフィットしたのかもしれない。特にそれを強めたのがここで聞かれるベース・ラインのように思う。この音楽を聞いて既視感があったとすれば,ヴォーカルの男声,女声の違いはあるが,Swing Out Sister的に響くところがあるというところかもしれない。

このベスト盤が出たのはもはや30年近く前だが,久しぶりに聞いて,丁度バブルの崩壊に至る時期に生まれた音楽を懐かしく聞いてしまった私であった。

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2024年4月 1日 (月)

ラックを漁っていたら出てきたPat Metheny Groupのリミックス盤。

_20240328_0002 "Across the Sky" Pat Metheny Group (Geffen) 

保有していることは記憶していても,全然聞かないCDってのもある。今回,ラックを漁っていて見つけたのがこのEP。Lyle Maysが亡くなって,Pat Metheny Groupの復活はなくなったが,彼らのアルバムは全て保有するファンとしては,彼らの音源をリミックスるとどうなるのかという興味で購入したはずである。アルバム"Imaginary Day"から"Across the Sky"のオリジナル・テイクとリミックス・ヴァージョン,更に"Roots of Coincidence"のリミックス・ヴァージョンの3曲を収めたものだが,これがまた微妙なのだ。

"Across the Sky"はPat Methenyらしい美しい曲であり,その魅力についてはどうこう言わなくてもよい。しかし,ここにGoldieが施したリミックスをファンが面白いと思えるかと言えば,そんなことはないだろう。原曲の姿をとどめないと言っても過言ではないところまで手を入れることはリミックスにはよくあることとは言え,やり過ぎ感は否めない。リミックスとは「再創造」と解釈することもできるが,これでは単なる「破壊」ではないのかと思えてしまう。それはもともとがハードな曲調だった"The Roots of Coincidence"にも当てはまる。こちらのリミックスでも原曲のかけらも感じない。こういう取り組みは原曲に対する「リスペクト」があってこそ面白いものが出来上がると思えるが,ここでのリミックスにはそうした「リスペクト」を感じない。

こうした反応は私が歳を取った古臭いリスナーだからというところもあるだろうが,面白くないものは面白くないのだ。売却しても二束三文にしかならないから保有しているようなものだと諦めることにしよう。こんなものを聞く暇があるなら,オリジナルのアルバムを聞いている方がずっとまし(きっぱり)。お好きな方だけどうぞ。

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