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2024年3月31日 (日)

更にアクション大作となった「デューン 砂の惑星PART 2」。

Dune-part-two 「デューン 砂の惑星 PART 2("Dune: Part 2”)」(’24,米/加/UAEほか)

監督:Denis Villeneuve

出演:Timothée Chalamet, Zendaya, Rebecca Ferguson, Javier Baldem, Josh Brolin, Austin Butler, Frolence Pugh, Christopher Walken, Léa Seydoux

Part 1が公開されて,2年半あまり。続編が期待されていた「砂の惑星」の第2部を観に行った。私はPart 1を観た時から続編への期待をこのブログに書いているが,その期待を上回る作品となった。

このオールスター・キャストによる壮大なドラマは,まだ終結しておらず,次なるPart 3につながっていくはずだが,もう1本もDenis Villeneuveが監督予定らしいから,これは期待できる。どういうドラマに仕立てるかを考えるだけでワクワクしてしまう。そういう映画である。

壮大なストーリーであるがゆえに,Part 1ではやや説明的に感じられる部分もなかった訳ではないが,今回はよりシンプルなストーリー展開の中で,強烈なアクションが展開される。ハルコンネン家の連中は徹底的に憎たらしく描かれ,その最たるものがAustin Butler演じるフェイド=ラウサである。それに対して,Timothée Chalame演じるポール・アトレイデスと砂漠の民,フレメンの面々は基本善玉として描かれることで,原作を知らなくてもわかりやすく,受け入れやすい。

この構図をイスラエルとパレスチナになぞらえるような論評もあるが,正直言ってそれは考え過ぎだろう。純粋なエンタテインメントとして楽しめばいいのに,妙な理屈をつけようとするのには私は与しない。

この映画ではこの映画の中ではRebecca Ferguson演じるレディ・ジェシカのお腹の中にいるアリアの成長した姿として,Anya Taylor-Joyがちらっと出てくるが,第3作が制作された暁には,彼女が相応の役割を演じることになろうし,Flrorence Pugh演じるプリンセス・イルーランがどうなるのか,更にはZendaya演じるチャニ(チェイニー)の今後など,期待は更に膨らんでいく。

この映画をより楽しむためには極力大画面で鑑賞することが正しい。更に言えばIMAXで観るのが理想と言っておく。2時間46分という尺をものともしないエンタテインメントを評価して,星★★★★★としてしまおう。実に面白かった!この素晴らしい映画が大ヒットしない日本というマーケットの不思議を感じざるをえない。見なきゃ損なんだけどなぁ...。

2024年3月30日 (土)

続けてブートの話。今度はSteely Danの有名ブートレッグ。

_20240328_0001"The Royal Scam Night at Chicago" Steely Dan (Bootleg)

昨日に続いてまたもブートレッグである。この音源自体は結構知られたものだと思うが,今更ながらとは思いつつ,クリポタのブートと抱き合わせで購入したもの。2009年にSteely Danは"Rent Party"なるツアーにおいて,"Album Night"と称して,アルバム全曲を演奏し,それに続いてお馴染みのヒット曲を演奏するというライブをやっていて,それはその時の記録。アルバムとして選ばれたのが"Royal Scam(幻想の摩天楼)"であった。そしてこの音源が貴重なのはLarry Carltonのゲスト参加にほかならない。

アルバム"Royal Scam"冒頭の"Kid Charlemagne"におけるLarry Carltonのソロは,誰しもが認める名ソロであるが,そのLarry Carltonがゲスト参加するとなれば,その注目度は極めて高くて当然だ。そしてこのブート音源において,冒頭こそ手慣らしみたいなOliver Nelsonの"The Blues and the Abstract Truth"からの"Teenie’s Blues"だが,それに続いて演じられる"Kid Charlemagne"におけるソロの音はまさにLarry Carltonそのものであり,見事な雰囲気の再現に思わず嬉しくなってしまう。

このライブにおいてどの程度Larry Carltonが関与しているかははっきりしないのだが,バンドの紹介等を聞いていると,全編で参加しているように聞こえる。Larry Carltonが参加したのは全60回の当該ツアーで7回だけなので,やっぱりこれは貴重だ。一方のギタリストであるJon Heringtonも健闘しており,やはりレベルの高いライブ・バンドだと思わせる。そもそもいいメンツが揃っているしねぇ。コーラス隊にもSupremesの"Love Is Like an Itching in My Heart"を歌わせて,花を持たせるところもいいしねぇ。

ブートだけに音が心配なところであったが,Donald Fagenのヴォーカルの高音の響きはイマイチな感じがあるものの,サウンドボードでストレスを感じさせない音なのは嬉しい。ブートレッグと言えども,このレベルに達すれば見事なものだ。エンディングは"Last Tango in Paris"でムーディに終了というのには結構笑えたが。

Recorded Live at Chicago Theater on September 3, 2009

Personnel: Doanld Fagen(vo, key), Walter Becker(g, vo), Larry Carlton(g), Jim Beard(key), Jon Herington(g), Freddie Washington(b), Keith Carlock(ds), Michael Leonhart(tp), Jim Pugh(tb), Walt Weiskopf(ts), Roger Rosenberg(bs), Carolyn Leonhart-Escoffery(vo), Catherine Russell(vo), Tawatha Agee(vo)

2024年3月29日 (金)

またもブートの話。Chris Potter Circuitsの最新欧州ライブ。

_20240327_0001 "Vienna 2024" Chris Potter Circuits (Bootleg)

いつも言っているように,ストリーミングの利用が増えると,現物CDの購入は確実に減るのだが,その代わりに増えるのがブートレッグの購入ってことになる。よって,以前に比べるとこのブログにブートが登場する機会も随分増えたと思う。それは魅力的に響くブートが世の中に出回っているからにほかならないのだが,しかも最近は最新音源に触れるならブートの方が圧倒的に早い。この音源だって,今年の2月のウィーンにおけるライブ音源である。しかもメンツが超強力。何てたって,クリポタことChris Potterに,Undergroundからの盟友Craig Taborn,そしてドラムスはEric Harlandなのだ。そんなもん,誰だって聞きたくなるわ!(笑)

クリポタと言えば,先日,オールスターによる新作"Eagle’s Point"では落ち着いた感じの演奏ながら,世のリスナーを興奮させたばかりであるが,こちらはメンツからしても,よりぶちかましのクリポタである。Circuits名義とはなっているが,Craig Tabornがアコースティック・ピアノを多用していることもあり,エレクトリック感は若干控えめながら,ぶいぶい吹きまくるクリポタが楽しめる。それに対して,Craig Tabornはフリー的なアプローチも加えながら応え,Eric Harlandは的確かつ強力に二人を煽る。このブートレッグは当日の2セットを完全収録したものと思われるが,これをライブで見ていたら悶絶していただろうと思わざるを得ない。

この時の演奏にはプロ・ショットの映像もあるので,ソースはそちらだろうが,クリポタの「現在」を知る上では,新作アルバムを楽しむのに加えて,こういうブートに依存することになるのは仕方がない。そう思わせるほど,またそうしたくなるほど,昨今のクリポタは絶好調なのである。昨年はSF Jazz Collectiveで来日したクリポタだが,それはそれで素晴らしかったとしても,たまにはこういうバンドでも日本に来て欲しいと思うのはきっと私だけではないはずだ。まさに高揚感の塊。たまりまへん。

Recorded Live at Porgy & Bess Jazz and Music Club on February 19, 2024

Personnel: Chris Potter(ts, ss), Craig Taborn(p, el-p, key), Eric Harland(ds)

2024年3月28日 (木)

Herbie HancockのBlue Note音源からの好コンピレーション。

_20240326_0001 "The Blue Note Years" Herbie Hancock (Blue Note)

Blue Noteレーベルの設立60周年を記念して,1999年にリリースされたコンピレーション・アルバム。初リーダー作"Takin’ Off"からレーベル最終作"The Prisoner"までの7枚から10曲が選ばれている。この手のコンピレーションはほかにもリリースされていて,少しずつ選曲が異なっているが,どれか1枚持っていればいいってところだろう。そもそも私はBlue Note時代のHerbie Hancockのアルバムは"Empyrean Isles","Maiden Voyage","Speak Like a Child"の3枚を保有するに留まっているので,それを補うにはこういうコンピレーションは結構役に立つのだ。

初期のアルバムからはファンキーな曲が選ばれているが,確実にHerbie Hancockの音楽性が広がったと感じさせるのは"Maiden Voyage"からだと改めて気づかされるってところか。まぁ,その前に"Empyrean Isles"所収の"One Finger Snap"ではモーダルで無茶苦茶カッコいい響きも聞かせていて,この辺りでMiles Davisとの共演を通じて,ミュージシャンとしても一皮むけたという感じがする。まぁ,そうは言っても,初期のアルバムから選ばれた"Watermelon Man"や"Blind Man, Blind Man"のような曲で聞かれるファンキーなサウンドも楽しいもので,ついついメロディ・ラインを口ずさんでしまうのだ(笑)。メンツもメンツなので,まさにBlue Note的な響きと言ってもよい。

いずれにしても,Blue Note時代を振り返るには丁度良いし,初心者向けにもお勧めできる好コンピレーション。たまに聞くとマジで楽しい。

Personnel: Herbie Hancock(p), Freddie Hubbard(tp, cor, fl-h), Johnny Coles(tp), Donald Byrd(tp), Thad Jones(fl-h), Garnett Brown(tb), Peter Phillips(b-tb), Tony Studd(b-tb), Dexter Gordon(ts), Hank Mobley(ts), George Coleman(ts), Joe Hnederson(ts), Jerome Richardson(ts, a-fl), Jerry Dodgion(a-fl), Hubert Laws(fl), Grant Green(g), Butch Warren(b), Chuck Israels(b), Paul Chambers(b), Ron Carter(b), Buster Williams(b), Billy Higgins(ds), Anthony Williams(ds), Willy Bobo(ds), Mickey Roker(ds), Albert Heath(ds), Osvaldo Martinez(guiro)

本作へのリンクはこちら

2024年3月27日 (水)

"Polska":10年経つと感覚も変わるってことか...。

_20240323_0001 "Polska" Możdżer Danielsson Fresco (ACT) 

記事にすることもなく,10年以上も経過してしまったのがこのアルバム。Lars DaniellsonとLeszek Możdżerのデュオ・アルバム,"Pasodobre"を取り上げた時にこのアルバムに「完全にのめり込めていなかった」なんて書いている(その記事はこちら)。久しぶりにこのアルバムを聞いていて,なぜそう思ったのかよくわからなくなって,改めてこれを書いている。

"Polska"と言えば,まさにLeszek Możdżerの母国,ポーランドのことである。ポーランドと言えばショパンの国,首都ワルシャワの空港はフレデリック・ショパン空港だしねぇ。であるから,ピアノ音楽の聖地と言ってもよいポーランドをテーマとする本作において,Leszek Możdżerの美的なピアノが炸裂すると思うのは当然で,こちらの予想通りの音が出てきていると言っても過言ではない。だから,今の私はこれっていいじゃんと思ってしまうのだが,この10年前との感覚の相違は私の加齢によるものと考えるべきなんだろう。

一部の曲においては少々のダイナミズムや,おそらくはZohar Frescoが持ち込んだであろう中東的な響きを加えつつも,基本は美的なピアノ・トリオ・アルバムであり,その白眉はタイトル・トラック"Polska"だ。美しいメロディ・ライン,ピアノ・タッチ,そして緊密なトリオのコラボレーションと,これには痺れる。

やや意外と思えるのが,最後にオーケストラをバックにしたジミヘンの"Are You Experienced?"が収録されていることだ。エピローグ的に行くならば,美感が素晴らしいLars Daniellsonの"Spirit"で締めるという選択肢もあったはずなのだが,明らかに雰囲気の異なる"Are You Experienced?"の収録には唐突感があるように感じられる。私の感覚では,この"Are You Experienced?"はボーナス・トラック的な扱いなのではないかと思える。これを喜ぶか,蛇足と感じるかはリスナー次第だが,悪い演奏とは思わずとも,私はこれはなくてもよかったように思う。そうした点も含め星★★★★。10年前の私の違和感はこのせいだったのかもしれないなぁ...。

Personnel: Leszek Możdżer(p, celesta, vib, synth), Lars Danielsson(b, cello), Zohar Fresco(perc, vo), Polish Radio Symphony Orchestra

本作へのリンクはこちら

2024年3月26日 (火)

追悼,Maurizio Pollini。

Maurizio-pollini

Maurizio Polliniが亡くなった。現代を代表するピアニストの一人として,私も彼の様々な音源に触れてきたが,最初に聞いたのがClaudio AbbadoとやったバルトークのP協だったので,その印象が強く残っている。もちろんピアノ曲には優れた演奏が多かったが,その中でも私が一番好きだったのはシューマンの「交響的練習曲」だったかもしれない。近年は体調が優れず,コンサートのキャンセル情報も伝わっていたが,ついに力尽きた。改めて彼の音源を聴いて,その業績を偲びたい。

R.I.P.

2024年3月25日 (月)

Alan Laddが素晴らしくカッコいい「拳銃貸します」をAmazon Primeで観た。

This-gun-for-hire 「拳銃貸します("This Gun for Hire")」(’42, 米,Paramount)

監督:Frank Tuttle

出演:Veronica Lake, Robert Preston, Laird Creger, Alan Ladd, Tully Marshall

Amazon Primeで「ブルー・ベルベット」に続いて観たのがこの映画。Amazon Primeは古い映画も観られるのがいいところだとつくづく思う。このブログでも何度か登場している逢坂剛と川本三郎の趣味趣味書籍「さらば愛しきサスペンス映画」にこの映画が紹介されていて,観てみたいなぁと思っていたところであった。しかも原作はGraham Greeneだ。これは期待してしまう。

Alan Laddと言えばほとんどの日本人にとって,「シェーン」のイメージが強いが,上述の書籍にも書かれている通り,西部劇専門の人ではなく,いろいろな映画に出ていて,結構サスペンス映画にも出ているようだ。そのうちの一本が42年製作の本作。42年と言えば戦時中であるが,余裕でこういう映画を作っていたことに国力の違いを感じざるをえない。

それはさておき,ポスターを見てもらえばわかるが,この映画ではAlan Laddは主演の扱いではなく,オープニング・クレジットは"Introducing"として出てくるから,日本で言えば「新人」ってところか。エンド・クレジットでもAlan Laddの名前は4番目なのだが,映画を観ればわかる通り,この映画はあくまでもAlan Laddの映画であり,Veronica Lakeの映画なのだ。

主演扱いのVeronica Lakeは歌は歌うわ,手品は披露するわと器用なところを見せるが,サスペンス映画としてはやはりAlan Laddのカッコよさが光っている。Alan Laddははめられる殺し屋役なのだが,猫を可愛がるところは,後の「サムライ」でAlain Delonが小鳥を飼っているようなところと共通しているのが面白い。そして,この劇中ではAlan Laddはほとんど笑わない殺し屋をクールに演じている。そのクールさは「シェーン」とは異なっても,魅力的に映った。そして悪役が毒ガスの商売相手にするのは,戦時中を反映して日本である。そういうところに時代は感じるが,まぁそれも仕方ないというところだろう。

いずれにしても,1時間20分という尺が極めて適切にさえ思える小品ながら,ツボを押さえた佳作。星★★★★。この映画を観ていて,Alan Laddと高倉健って共通するところがあるなぁなんて漠然と思っていたのであった。

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2024年3月24日 (日)

Amazon Primeで「ブルー・ベルベット」を観た。

Blue-velvet 「ブルー・ベルベット("Blue Velvet")」(’86,米)

監督:David Lynch

出演:Kyle MacLachlan, Isabella Rossellini, Dennis Hopper, Laura Dern, Hope Lange, Dean Stockwell

以前にもこのブログに書いたと思うが,私は結構な映画好きであるにもかかわらず,一時期映画館で映画を見る機会が非常に少なかった時期がある。それは大学時代から就職して数年というところで,80年代の映画に関しては,ちゃんと見た記憶がほとんどない。なので,この映画もAmazon Primeで見られるようになって初めて観たもの。

一言で言えばミステリアスな展開の中で,怪優Dennis Hopperのファナティックな感じが炸裂である。こういう役をやらせたら,Dennis Hopperに勝る役者こはいないのではないかと思わわせるのは「スピード」同様である。

私はDavid Lynchの映画をこれまで全然観たことがなかったが,在米中にやたらに「ツイン・ピークス」が話題になっていたなぁという記憶ははっきりしている。そうではありながら,実は「ツイン・ピークス」も観たことがないので,David Lynchについては語る資格もないが,この映画のシナリオを書いたのもDavid Lynchで,このストーリー展開(Kyle MacLachlan演じるJeffereyやIsabella Rossellini演じるDorothyの造形)にはさすがに無理があるよなぁと思いながら見ていた私であった。

Dennis Hopperもファナティックさもありながら,Isabella Rosselliniの病的な感じもあって,この映画は極めてダークな感覚に包まれている。冒頭の真紅のバラと白いフェンス,そして青い空が色彩鮮やかなのに対して,全編暗いシーンが多いのは意図的だろうだが,暴力的な描写もあって,この映画は好き嫌いが分かれるところだと思う。少なくとも日中に観るには全く適さないって感じと言えばよいだろうか。まぁ私としては星★★★☆ぐらいってところだが,何度も観たくなる映画とは言えないなぁ。それにしてもLaura Dernが若い。まだティーン・エイジャーだったのだから当たり前か。

本作のBlu-rayへのリンクはこちら

2024年3月23日 (土)

今更本作について何を語るのかって気がする"'Round About Midnight"だが...。

_20240320_0001 "'Round About Midnight" Miles Davis (Columbia)

何を今更と言われてしまうのも仕方がないアルバム。それにしても鮮烈なジャケだなぁって思う。このジャケが全てを物語っているではないかって気もする。そして冒頭のタイトル・トラックである。そこで聞こえてくるミュート・トランペットの音で,これこそジャズだよなぁって感じる人も多いはずだ。

このアルバム,冒頭のタイトル・トラックがあまりにも強烈で,Miles Davisの真骨頂はやはりタイトル・トラックにこそありだと思ってしまう。更にそこにGil Evansのアイディアだという印象的なブリッジで雰囲気を変えるという演出も素晴らしい。であるがゆえに,私の中では2曲目の"Ah-Leu-Cha"が魅力的に響かなくなってしまっていることははっきり言っておかねばならない。しかし,そこから3曲目の"All of You"でのミュートの響きでまたMilesの術中にはまっていくのが私のようなリスナーだ。

それは実はアナログならB面に移っても同じで,3曲の真ん中に位置する"Tadd’s Delight"にイマイチな感覚を覚えるのはA面同様なのだ。結局このアルバムを支配するのはリリシズムではないのかと思えてくる。即ち,ハード・バッパーとしてのMilesよりも,ミュートで歌心を炸裂させるMiles Davisに魅力を感じている自分がいる訳だ。やっぱりこの雰囲気こそが大事だよなぁ。星★★★★☆。

因みに私が現在保有しているCDはColumbiaのComplete Boxの1枚で,現在流通しているCD同様に4曲の追加曲が入っているが,これらはあって困るものではないとしても,なくても全然問題ない。というか雰囲気が違うのだ(笑)。

Recorded on October 26, 1955,June 5 and September 10, 1956

Personnel: Miles Davis(tp), John Coltrane(ts), Red Garland(p), Paul Chambers(b), Philly Joe Jones(ds)

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2024年3月22日 (金)

懐かしのKazumi Band。

Talk-you-all-tight 「頭狂奸児唐眼("Talk You All Tight)」Kazumi Band(Better Days)

私はこのアルバムを渡辺香津美のBetter Daysボックスの一枚として保有しているのだが,ほかのアルバムに比べるとプレイバック頻度はやや低いように思う。別にそれには理由があるわけではなく,あくまでも手が伸びないだけなのだ。それはこのアルバムの訳のわからないタイトル(とうきょうがんじがらめ)に起因するようにも思える。だったら"Kylyn"や"To-Chi-Ka"や"Dogatana"は訳が分かるのかと言われれば反論の余地はないのだが(爆)。そんなアルバムを久しぶりに聞いてみたのだが,日本の俊英を集めたバンドのレベルの高さを改めて感じているのだから,食わず嫌いはいかんと思ってしまう。

これはKazumi Bandの第1作としてリリースされ,これに続いたのが"Ganaesia"だったが,この2作でバンドを解散したのは方向性に相違が出たのかなぁなんて思ってしまう。ここで聞かれるような演奏をしていれば,まだこのメンツでの活動も継続できたようにも思うが,解散後に出したアルバムが"MOBO"であったことを考えると,渡辺香津美は更に先を目指したって気がしてくる。

ここで聞かれるサウンドは結構ロック的で,例えば"The Great Revenge of the Hong Kong Woman"なんかで聞かれるリフはLed Zeppelin的で,そこにプログレ風味がまぶされるって感じなのだ。私のようにジャンルにこだわらない聞き手にとっては全然問題ないってところだろうが,所謂クロスオーヴァー・フュージョン的な聞き易さを期待すると抵抗を覚える人もいたかもしれない。これが40年以上前の演奏と言われるとびっくりしてしまうが,今聞いても古臭い感じがしないのは大したものだと思う。改めて聞くと,清水靖晃のテナーはかなりMichael Brecker的に響く部分もあるし,"Kang-foo"なんて明らかにWeather Report風だが,なかなかよくできたアルバムであったことを再確認。レベル高いわ。星★★★★。

Personnel: 渡辺香津美(g), 清水靖晃(ts), 笹路正德(key), 高水健司(b),山木秀夫(ds)

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2024年3月21日 (木)

Amazon Primeで「相続人」を初めて見た。

Photo_20240309100301 「相続人("L'Héritier")」(’73,仏/伊)

監督:Philippe Labro

出演:Jean Paul Belmondo, Carla Gravina, Jean Rochefort, Charles Denner, Maurice Garrel, Maureen Kerwin

これまで映画音楽でしか知らなかったこの映画が,Amazon Primeで見られるようになったので見てみた。この映画の音楽を担当したのがMichel Colombierであることは以前にも書いた(記事はこちら)が,この映画のテーマ曲(それはエンディングで使われる)は子供のころからかなりカッコいいと思っていた。昔,関光男がNHK FMで映画音楽の番組をやっていたが,そこで聞いたのが初めてだったはずで,音楽は印象に残っていたものの,映画を見るチャンスには全く恵まれなかった。それから約半世紀を経て初めてこの映画を見ることになった(はずだ)。

ポスターには鉄パイプを握るJean Paul Belmondoが写っているが,これは決してアクション映画ではない。巨富の相続人たるJean Paul Belmondoを取り巻くサスペンス映画であるが,主役のJean Paul Belmondoは全編ほぼ出ずっぱりって感じだ。ここまで登場シーンが多いのも珍しいと言いたくなる。ただねぇ,どう考えてもシナリオがイマイチな部分もあって,映画的には決して褒められたものではないのは残念だった。ネタバレになるので詳しくは書けないが,ラスト・シーンが印象的であったことと,Michel Colombierの音楽が救い。星★★☆。

先日取り上げた「ビッグ・ガン」にも出ていたCarla Gravinaがここにも出演しているが,やっぱり私にはこの人の魅力が理解できない。コールガールを演じるMaureen Kerwinの方がずっとええわぁと思っていた私であった(爆)。下の写真を見て皆さんはご判断を(笑)。左がCarla Gravinaで,右がMaureen Kerwin。

本作のBlu-rayへのリンクはこちら

Maureen-kerwin-carla-gravina

2024年3月20日 (水)

久々に聞いたMMWの"Tonic"。こんな音楽だったかねぇ...。

_20240318_0001 "Tonic" Medeski Martin & Wood (Blue Note)

最近は活動の状況があまり聞こえてこない(知らないだけ?)のMedeski Martin & Wood(MMW)だが,このアルバムでの演奏がレコーディングされてからもはや四半世紀というのには,時の流れを感じざるをえない。

それはさておき,MMWを初めて聞いたのはJohn Scofieldの"A Go Go"においてであったと記憶するが,そもそもジャム・バンド的な音楽にはあまり興味がない私であったが,そこでのファンク風味はなかなか面白かった。その後も彼らはMSMWとしてアルバムも出しているが,私は決して熱心に聞いてきた訳ではない。その程度のリスナーである。

そんな私がこのアルバムを購入したきっかけも"A Go Go"であった訳だが,ここで聞かれる音楽は結構雰囲気が違う。それはほとんどの曲でJohn Medeskiがピアノを弾いていることもあるだろうが,ファンク・フレイヴァーよりも,よりコンベンショナルなピアノ・トリオ的アプローチのように聞こえる部分が強いからだと思える。フリー・ジャズ的なアプローチも交えた演奏は一般にMMWから受ける印象とは異なるはずだ。

だが,一般的なイメージとは違いながら,ここでの演奏はそれなりに楽しめるものとなっていると思える。結局MMWに何を求めるかによって,このアルバムへの評価も変わるだろうが,大して思い入れを持たない私のようなリスナーにとっては問題ない。むしろこういう演奏もできるということで,MMWの能力を認識できることが大げさに言えば「発見」と言ってもよいと思えた。星★★★★。

Recorded Live at Tonic on March 16–20 & 23–26, 1999

Personnel: John Medeski(p, melodica), Billy Martin(ds, perc, mbira), Chris Wood(b)

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2024年3月19日 (火)

Roxy Musicの"Siren"をちゃんと聞く(笑)。

_20240316_0001_20240316105901 "Siren" Roxy Music(E.G.)

私はRoxy Musicのスタジオ録音を集成したボックスを保有しているのだが,ボックス・セットの常として,プレイバック頻度が高まらない。それは格納場所が必ずしも取り出しやすいとは限らないことが一番の要因だが,たまに気まぐれで取り出して聞いてみるかってことで,久々にこのアルバムを「ちゃんと」聞いた。それは仕事のBGMとしてのながら聞きではなくということなのだが,久々に聞いたら結構新鮮だった。

このアルバムでは何と言っても冒頭の"Love Is the Drug"が一番のヒット曲として認識されるのは仕方ないとして,そのほかにもRoxy Musicらしい曲が揃っていると感じさせる。同じくシングル・カットされた"Both Ends Burning"もいいが,"Whirlwind"のようなRoxy Musicとしてはややハードな曲調もあって,アルバムとしては非常によく出来ている。私にとってのRoxy Musicの最高傑作は"Avalon"を置いてほかにないが,本作の出来もなかなかのものだと今更ながら再認識。星★★★★☆。

そしてこのアルバムを印象的にしているのは当時のBryan FerryのガールフレンドだったらしいJerry Hallの美しさだろうが,見開きジャケット内に写るJerry Hallはフロントを更に上回って美しいので,画像を貼り付けておこう。こういうところにRoxy Music,あるいはBryan Ferryの美意識を感じるなぁ。

Personnel: Bryan Ferry(vo, key), Andrew McKay(oboe, sax), Paul Thomp Ferry(vo, key), Andrew McKay(oboe, sax), Paul Thompson(ds), Phil Manzanera(g), Edwyn Jobson(vln, synth, key), John Gustafson(b)

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Jerry-hall

2024年3月18日 (月)

SantanaとBuddy Milesのライブ盤は評価できないなぁ。

_20240315_0002 "Live!" Carlos Santana and Buddy Miles (Columbia)

私はSantanaのアルバム,特に70年代までのアルバムは結構好きだが,これは私がSantanaの最高傑作と思っている"Caravanserai"に先立ってリリースしたライブ・アルバム。だが,このアルバムにはスタジオ録音疑惑も付きまとっていて,それがオーバーダビング・レベルなのか,全面再録なのかはわからない。だが,聴衆の反応はやや不自然な部分(はっきり言ってうるさい)もあるのも事実。もし全面再録であるならば,演奏が荒っぽ過ぎるだろう。そういうこともあって,どうもこのアルバムには没入できないというのが正直なところだ。

まぁ,そうは言ってもCarlos SantanaとBuddy Milesという重量級ミュージシャンがジャムった演奏なので,エネルギーのレベルは高い。だが,結局はセッション・アルバムなので,演奏に精緻さを求めても仕方がないという気がする。この暑苦しさを楽しめるかどうかってところだろうが,そうは言ってもSantanaには"Them Changes"は合わないよなぁと思ってしまうのだ。かつ,アナログならB面を占める"Free Form Funkafide Filth"の冗長度(しかもフェード・アウトかい?)は納得がいかん。

ということで,これを聞くなら,ほかに聞くべきSantanaのアルバムはいくらでもある訳で,私は保有はすれども,プレイバックの優先順位はちっとも上がらないアルバム。どんなに甘めに評価しても星★★☆で十分な駄盤。それにしてもダイアモンド・ヘッドの火口(クレーター)内でライブをやるってのも凄いことだねぇ。

Recorded Live on January 1, 1972

Personnel: Carlos Santana(g), Ron Johnson(b), Buddy Miles(ds, vo), Robert Hogins(org), Luis Gasca(tp), Victor Pantoja(conga), Coke Escovedo(timbales), Hadley Caliman(sax, fl), Gregg Errico(ds), James Mingo Luis(conga), Neal Schon(g), Michael Carabello(conga)

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2024年3月17日 (日)

Victor Eriseの長編は31年ぶりってのが凄いが,これほど静謐な映画はなかなかないと思った「瞳をとじて」。

Photo_20240307145801 「瞳をとじて("Cerrar Los Ojos")」('23,西/アルゼンチン)

監督:Victor Erise

出演:Manolo Solo, Jose Coronado, Ana Torrent, María León, Mario Pardo, Helena Miquel, Venecia Franco

恥ずかしながら私は「ミツバチのささやき」を観たことがないのだが,その監督,Victor Eriseが92年の「マルメロの陽光」以来31年ぶりに撮った映画として話題の本作を観に行った。最近は尺の長い映画が多くて,この映画も2時間49分という長編だが,私の記憶において,これほど静謐にストーリーが展開する映画もなかなかないと思えた。

冒頭から劇中劇という意外な展開から始まるが,エンディングに向けて再び劇中劇が組み込まれるという構成はなかなか凝っていると思いつつ,ストーリーにはあまり劇的な要素はなく,静かにかつ淡々と話は進んでいくので,私が睡魔に襲われる瞬間がなかったと言えば噓になる。それでも最後まで観れば,なかなかこれは味わい深い映画だと思わせるところはあった。

原題からして「瞳をとじて」なのだが,この映画において「瞳をとじる」シーンがいくつか出てくるところが非常に魅力的に感じられた。ほぼ悪人が出てこないというのもいいし,詳しくはネタバレになるので書かないが,ある意味映画の持つ力を再認識させる意義もあったのではないかと思えるストーリー展開であった。

それでもやっぱりちょっと長いなぁと思いつつ,この味わい深さゆえに半星おまけで星★★★★☆としよう。因みに本作に出演のAna Torrentは「ミツバチのささやき」の子役だったそうだ。同作から半世紀を経て,また同じ監督の作品に登場というのも実に麗しい関係だと思えた。繰り返しになるが,本当に静かな映画である。

2024年3月16日 (土)

素晴らしい曲揃いのPretendersのベスト盤。

_20240315_0001 "The Singles" Pretenders (Sire)

振り返ってみれば,私が初めてPretendersの音楽に触れたのは"Learning to Crawl"だったと思う。今考えてもあれは実にいいアルバムだったと思っている。同作をまだこのブログで記事化していないのも考えてみれば不思議なことだが,その前にこのベスト盤を取り上げよう。多分これが私が買ったPretendersの2枚目のアルバムだったはずだが,これも私に強い印象を残したアルバムであった。

本作は彼らのデビュー・アルバムから4枚目の"Get Close"からのセレクションに,UB40にChrissie Hyndeが客演した"I Got You Babe"を加えた16曲で構成されている。これらは英国でシングル盤としてリリースされたものの集成なので,"The Singles"となっている訳だ。

そしてシングル・カットされるだけあって,キャッチーでありながら,Chrissie Hyndeのロック心溢れる曲が揃っていて,曲のクォリティが非常に高い。そして,Pretendersとしての音作りの一貫性が保たれていて,全くブレがないのがいいのだ。やや4枚目の"Get Close"の曲で勢いが落ちると思わせる部分もあるにはあるが,久しぶりに聞いても一気に聞かせる魅力溢れるベスト・アルバム。カッコいい姉御というのはChrissie Hyndeのためにある!星★★★★★。

本作へのリンクはこちら

2024年3月15日 (金)

優秀なメンツを擁したJeremy Peltの旧作。

_20240309_0003 "Men of Honor" Jeremy Pelt (High Note)

現在も結構な頻度でアルバムをリリースしているJeremy Peltであるが,私がJeremy Peltのアルバムを追い掛けようという気持ちは以前に比べればやや弱くなっている。もちろん,新作が出ればストリーミングではチェックするが,購入にまでは至らないというパターンが増えているのは事実だ。私にとって,Jeremy Peltの印象を一気に強めたのは,優秀なメンツを擁するここでのクインテット作品であり,そこでのJeremy Peltの吹きっぷりに魅力を感じていたからである。だが,その後Jeremy Peltはこのクインテットを解散,路線を多様化し,いいアルバムもあれば,そうでもないものもリリースしてきた。やはり私は今でもこのクインテットの幻影を追っているのかもしれない。

このクインテットは編成も同じの60年代のMiles色濃厚と言われるが,High Noteレーベルの初作となった本作でもその傾向は既に現れており,"Danny Mack"のような曲ではやはりそういうテイストが感じられるのも事実。また,"Illusion"で聞かれるミュートの響きもMiles的だ。むしろそれよりも私にとって意外だったのは,J.D. AllenやGerald Cleaverのように,日頃はもっと自由度の高い演奏をしている人たちが,ここでは比較的コンベンショナルな演奏をしているということだ。J.D. AllenのテナーはWayne Shorter的なサウンドとも言ってもよいし,Gerald Cleaverはかなり控えめに叩いている感じがする。

そして,このクインテットの価値を高めたのがダニグリことDanny Grissettの参加だと思う。Tom Harrellのバンドの時代から注目されていたダニグリであるが,やはりここでの演奏を聞いても,只者ではないということが明らかだ。リーダー作のリリースは"Remembrance"から滞ってるが,どうも最近は拠点を欧州に置いていることと無関係ではないかもしれない。だが,もっと最前線で活躍を期待したい人だと思わせる。

昨今,ここで聞かれるようなストレート・アヘッドなジャズがあまり聞けなくなる中で,素直にカッコいいよねぇと思わせてくれる本作のようなクールで,そこはかとなくダークな作品は貴重な存在だと思う。裏を返せば,往時のMiles Davisとはいかにいけていたかということにもなるのだが。星★★★★。

Recorded on August 11,2009

Personnel: Jeremy Pelt(tp), J.D. Allen(ts), Danny Grissett(p), Dwaine Burno(b), Gerald Cleaver(ds)

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2024年3月14日 (木)

The Bad Plus@Blue Note東京参戦記。

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これまで私はThe Bad Plusとはあまり縁がなかった。保有しているアルバムはJoshua Redmanとの共演盤ぐらいで,ほかのアルバムは真っ当に聞いたこともない。しかし,ドラムスのDavid Kingは先日取り上げたJulian Lageの"Speak to Me"にも参加していたし,オリジナル・メンバーだったEthan IversonのECMでのアルバムも聞いている。結局バンドとしてのThe Bad Plusの音源はほとんど触れていないだけなのだが...。

Bad-plus-at-blue-note_20240321093501そんな私がどうして今回のライブに行こうと思ったか?それはBlue Note会員のチャージが半額だったこと,そしてメンバー・チェンジでBen Monderがバンドに加わったことの二点ということになる。Ben Monderの特異なサウンドがライブでどのように展開されるのかには興味があったし,是非一度見たいと思っていたのだ。到着前は少々集客を心配していたが,客席は結構埋まっており,インバウンドの多さも目立っていた。

結論からすれば,The Bad Plusというバンドは,コンベンショナルなジャズ・コンボの形式を取りながら,通底するのはロック的な感覚だということを感じさせたライブであった。オリジナル・メンバーのReid Andersonのベース然り,David Kingのドラムス然りである。そこに切り込むBen Monderのギターはエフェクターも駆使して,かなりプログレッシブな響きを生み出していた。私はBen Monderを至近距離で見ていたのだが,ピッキングと指弾きでのアルペジオを組み合わせて生み出すサウンドは実に魅力的であった。逆にBen Monderのギター・アンプに近過ぎて,Chris Speedのテナーの音が聞き取りづらいという難点はあったが,Ben Monderを観たい私としてはまぁいいやって感じであった。

会場ではサイン会はなかったと思うが,終演後,ギターを片付けにステージに戻ってきたBen Monderに声を掛けて,持参したCDにサインをしてもらったのだが,彼も55 Barの閉店を残念がっていたのはご同慶の至り。Ben Monderとの会話もはずみ,後味もよくBlue Noteを後にした私であった。

当日のセットリストはBlue Noteのサイトによれば下記の通りのようだ。最上部の写真もBlue Noteから拝借。

1. EVERYWHERE YOU TURN
2. FRENCH HORNS
3. NOT EVEN CLOSE TO FAR OFF
4. CASA BEN
5. SICK FIRE
6. GRID OCEAN
7. YOU WON’T SEE ME BEFORE I COME BACK
8. LI PO
EC. CUPCAKES Ⅱ

Live at Blue Note東京 on March 12, 2024, 2ndセット

Personnel: Reid Anderson(b), David King(ds), Ben Monder(g), Chris Speed(ts)

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2024年3月13日 (水)

どのアルバムも聞き応えのあるPrysm:その3rdアルバム。

_20240309_0002"Time" Prysm (Blue Note)

今となっては私も随分と欧州ジャズを聞くようになったが,ECMに吹き込むミュージシャンを例外として,以前はあまり欧州のミュージシャンも知らなかった中,ブログのお知り合いの情報を頼りに聞くようになったものも多い。Prysmもそのうちの一つと言ってもよいが,彼らのやっている音楽には相当はまったと言ってよい。今や彼らのアルバムは全保有となった私である。

変拍子も使いながら,Prysmのやっている音楽は本当にスリリングだと思わせるが,それはこのアルバムでも変わらない。とにかく思わず身を乗り出してしまいたくなるような音楽だと言えばよいだろう。トリオを構成する3者の演奏はシャープそのものであり,それを更に増幅させるような高質の録音となっていて,ほかのアルバム同様の興奮をもたらす。

そうした中で面白いと思ったのが4曲目の"Voice of Angels"。あたかも"Nefertiti"にオマージュしたような曲調で,Prysmとしてはなかなかユニーク。決してイケイケな曲調だけではないところを聞かせる。私としてはこのトリオについては惚れた弱みのようなついつい評価も甘くなってしまい,星★★★★☆。しかし,随分と彼らのアルバムも安く手に入るようになったものだ。私も本作は中古で手軽な価格で手に入れたはずだが,例外は1stのフランス・オリジナルぐらいか。

Prysmの最新作"Five"がリリースされてからもはや13年の時が経過しようとしている。このトリオの復活はもはや難しいかもしれないが,残した作品への評価は変わらない。しかし,生で聞いてみたかったという思いは募るのであった。

Recorded in April and July, 1999

Personnel: Pierre de Bethmann(p), Cristophe Wallemme(b), Benjamin Henocq(ds)

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2024年3月12日 (火)

今年のオスカーを振り返る。

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今回のオスカーにおける「君たちはどう生きるか」の長編アニメーション賞,「ゴジラ-1.0」の視覚効果賞の受賞は,日本の映画界においては快挙と言ってよい。「ゴジラ-1.0」が評価されたとすれば,物量でVFXに取り組むハリウッド大作に比べて,限られた予算,限られたスタッフで映像を作り上げたことが,アカデミー会員のシンパシーを誘ったというところもあるだろう。「君たちはどう生きるか」については「スパイダーマン: アクロス・ザ・スパイダーバース」が有力視された中で,おそらく宮崎駿の最終作となろうというところで票が集まった可能性もある。まぁ,経緯はさておきめでたいことはめでたい。

今回のオスカー選考については,私から見れば評価されるべき人,作品がきっちり評価されたという気がする。作品,監督,主演男優,助演男優等の主要部門を「オッペンハイマー」がさらったのは,映画の出来を考えても当然という気がする。助演男優賞のRobert Downey Jr.も私の中では受賞確実だと思っていたが案の定であった。

そうした中で,今回,最も熾烈な競合となったのは主演女優賞だろう。「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」のLily Gladstoneと「哀れなるものたち」のEmma Stoneの一騎打ちと思われたが,Emma Stoneに軍配が上がった。私からすれば,多様性を重視するならLily Gladstoneだったろうが,純粋に演技ということで考えれば,Emma Stoneということだと思えた。「哀れなるものたち」を観た時の記事に私は次のように書いた。

『今度のオスカーの主演女優賞はLily GladstoneかEmma Stoneのどちらかって感じだろうが,Emma Stoneは「ラ・ラ・ランド」で受賞済み,かつLily Gladstoneが先住民初の候補ってこともあり,今回はLily Gladstone有利かなぁ。それでもこのEmma Stoneはマジで強烈なのでいい勝負か…。』

結局この二人はいい勝負だったとは思うが,Emma Stoneの「そこまでやる?」と思わせる過激ともいえる演技の強烈度がLily Gladstoneを上回ったということになるだろう。私はこれは正しい選出だったと思っている。

それ以外の部門も順当と言えば順当。私が脚本賞有力と思った「落下の解剖学」は受賞したし,「哀れなるものたち」の美術賞,衣装デザイン賞も予想通り。メイクアップ/ヘアスタイル賞はBradley CooperがLeonard Bernsteinになりきった「マエストロ」も有力と思ったが,「哀れなるものたち」が受賞したのは,キャスティング全体へのメイク等も含めれば頷けるものであった。結果的に見れば「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」が完全無視されたような状態だが,オスカーには縁がなかったとしても,いい映画だったことに間違いはない。

ということで,「オッペンハイマー」チーム,「ゴジラ-1.0」チーム,そしてEmma Stoneの写真をアップして,彼らの受賞を称えたい。

「オッペンハイマー」はフライイングしてBlu-rayで鑑賞済みだが,改めて劇場に行くか悩ましいなぁ。

Oscar-celebration

2024年3月11日 (月)

Hannibal Marvin Petersonのライブ・アルバム:騒々しいねぇ(笑)。

_20240309_0001"Hannibal in Berlin" Hannibal Marvin Peterson (MPS)

現在はHannibal Lokumbeと改名したHannibal Marvin Petersonのライブには私は一度だけ接したことがある。それは1984年のLive under the SkyでGil Evans Orchestraの一員として来日した時だったが,その演奏は既に頭がおかしくなっていた(?)Jaco Pastoriusのせいで無茶苦茶なものになってしまった苦い記憶がある。そうした中で,Hannibal Marvin Petersonが聞かせたソロは素晴らしい切れ味を示し,唯一の好印象として残っている。振り返ってみれば,Gil Evansとの共演ではPublic Theaterでのライブもよかったなぁ。

そのHannibal Marvin Petersonの活動のピークは70年代ってことになると思うが,本作は76年にタイトル通りベルリンで吹き込まれたライブ盤である。Hannibalと言えばオリジナルを演奏しているイメージが強いが,本作ではオリジナルは1曲だけで,ほかはスタンダードや著名なジャズ・オリジナル,更にはトラディショナル曲をやっているのが珍しい。やっている曲はそうでも,Hannibalの吹きっぷりは全然変わらず,激しくもいい意味で騒々しい。更にゲスト的に加わるのがGeorge Adamsでは更に騒々しいこと必定である(笑)。しかもこの二人で"My Favorite Things"もやってしまうところが何とも...(爆)。

時として,こういう熱いジャズを身体が求める時もあるので,私としては久しぶりにこのアルバムを聞いて,こっちも熱くなってしまった訳だが,こういうのを暑苦しいと感じるリスナーがいても不思議ではない(そっちが普通か...?)。上品なピアノ・トリオなんかを好む人たちには,結構苦痛にさえなるかもしれないが,全方位型の私にとっては全く問題なしである。まぁハイノート連発の一本調子だと言われればその通りなのだが,この暑苦しさはある意味快楽を生むってこともあるのだ。星★★★★。それにしても,昨今のHannibalの中古品の価格高騰は異常だな。

Recorded Live at the Philharmonie, Berlin, on November 3, 1976

Personnel: Hannibal Marvin Peterson(tp), George Adams(ts), Michael Cochrane(p), Didier Murray(cello), Steve Neil(b), Allen Nelson(ds)

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2024年3月10日 (日)

「落下の解剖学」:よくわからないタイトルながら,これはよくできた映画だ。

Photo_20240227183901「落下の解剖学("Anatomie d'une Chute")」('23,仏)

監督:Justine Triet

出演:Sandra Hüller, Swann Arlaud, Milo Machado-Graner, Antoine Reinartz, Samuel Theis

カンヌ国際映画祭で最高賞,パルムドールを獲ったのがこの映画。オスカーでも5部門でノミネートということで注目の作品を観に行った。風景も美しいグルノーブルの山荘で起きた転落事故を契機とした虚実の混じる法廷劇となっていくのだが,非常に緊張感に満ちた映画で,素晴らしい出来だと思った。

回想シーンを的確に交えながら,人間心理や人間関係の難しさをあぶりだした脚本が見事なのだが,演出,演技もそれに呼応したかたちでの出来を示していて,優れたシナリオは優れた映画の原点だという私の考えに合致する作品。そういう要素もあって,これは高く評価せざるを得ない映画だが,詳しく書くとネタバレになってしまうので,ストーリーにはここでは詳しくは触れない。だが,映像としてはギミックなんて全くなし。演出,ストーリーテリングと演技だけで2時間半余りを一気に見させること自体が素晴らしいのだ。

この味わい深さはまさに見事で,役者陣も適材適所。だいたいにおいてこういう映画では検事役は憎たらしい役割になるが,Antoine Reinartzの検事っぷりがこれまた憎々しい。でも裁判ってこういうもんだよねぇと思うのも事実で,そういうリアリティも感じられるところは評価せざるをえない。そういうことを踏まえれば,オスカーでも脚本賞の有力候補だろうな。星★★★★★。

2024年3月 9日 (土)

Julian Lageの新作はJoe Henryプロデュース。この邂逅は必然だったと言える。

Julian-lage "Speak to Me" Julian Lage (Blue Note)

世間では非常に評価の高いJulian Lageであるが,正直なところ,私はそれほど思い入れはない。彼がGary Burtonのバンドに参加した頃は注目の若手だと思ったし,Charles Lloydのバンドでの演奏も素晴らしかった。しかし,Julian Lageのリーダー・アルバムは,ストリーミングで聞いてもあまりピンとこなかったというのが事実なのだ。私はアメリカーナ的なサウンドは決して嫌いではないのだが,Julian Lageの魅力が十分理解できていなかったことは間違いない。そんな私でも,本作のプロデューサーがJoe Henryと知ってはちゃんと聞かない訳にはいかない。

私はJoe Henryを歌手としても評価しているが,そのプロデュースのセンスが大体においては素晴らしい(もちろん失敗作もある)。そこから生まれる音はアメリカーナ的なサウンドが主であり,Joe Henry組と言ってもよいミュージシャンを集めて,短期間でレコーディングするというのがこの人のやり方だ。そこから生み出される渋くも味わい深い音楽に私は結構惚れ込んできたと言ってもよい。そんなJoe Henryがこれまで生み出してきたアルバム群におけるサウンドを踏まえれば,Julian Lageがやっている音楽との親和性は保証されたようなものだと思える。だから私はこの組み合わせはもはや必然的であったと思えるのだ。

そして,本作でも展開される音楽はやはり渋い。コンベンショナルなジャズの範疇からは少々離れているところはあっても,Joe Henryのプロダクションもよく,聞き応えのアルバムに仕上がった。Julian Lageは自身のサイトで,Joe Henryの的確なガイダンスについて語っているが,やはり名プロデューサーは音の仕立て方が違うと思わされる。本作も数日でレコーディングしたようだが,それに先立って,Julian LageとJoe Henryは数か月に渡って,議論を重ねていたらしいから,ちゃんと準備はしているってことだ。そしてゲストの配置も的確で,一部で話題のKris Davisを参加させているのには驚いてしまった。メンバーにはJoe Henry組のPatrick Warrenも加わっているが,そこにKris Davisのピアノをアドオンするというのがユニークでありながら,適切に響くのだ。そして,そのソロも強烈。

もちろん,Julian Lageのフレージングやギターのサウンドも素晴らしく,私はようやく彼のリーダー作の魅力に気づくことができたと言ってもよいだろう。明らかにJoe Henryというプロデューサーを迎えたことが吉と出たことを強く感じるアルバムであった。星★★★★☆。

Personnel: Julian Lage(g), Jorge Roeder(b), Dave King(ds), Patrick Warren(key, p), Kris Davis(p), Levon Henry(ts, as, cl, a-cl)

2024年3月 8日 (金)

今年最大の注目作の一枚と言ってよいクリポタの新譜が英国より到着。

_20240307_0001"Eagle’s Point" Chris Potter (Edition)

主題の通り,本作は今年最大の注目作の一枚となることは必定と思われたアルバム。何と言ってもクリポタことChris Potterを支えるのがBrad Mehldau,John Patitucci,そしてBrian Bladeなのだ。レコーディング情報が伝わった時から,私はまだかまだかと待っていたというのが正直なところである。私は英国から飛ばしたものが到着したので,早速CDを聞いてみた。

こうしたオールスターのクァルテットはベースをChristian McBrideに代えたJoshua Redmanの例があったが,正直言って私はJoshua Redman盤には失望感さえ抱いていたが,クリポタならちゃんとやってくれるだろうと思っていたが,その期待は裏切られることはなかったと言い切ってしまおう。

冒頭の"Dream of Home"からキレキレのクリポタ・フレーズ全開である。そして,バックとの親和性も十分で,やっぱりクリポタ,仕事のレベルが高いと思わせる。現代No.1のサックス・プレイヤーはクリポタだと改めて感じてしまう。それに対して,ここでのBrad Mehldauはリーダーを結構立てた感じもするが,こうしたコンベンショナルなセッティングでもきっちり聞かせるソロを取り,バッキングも的確であることは言うまでもない。そして"Aria for Anna"前半のクリポタのソプラノとのデュオ・パートにおけるピアノの響きの美しいことよ。

ということで,私にとっては再編Joshua Redman Quartetよりもはるかに評価が高いアルバムとなった。ないものねだりとは思いつつ,全体的には比較的落ち着いた曲調が多いので,更にハードな展開があってもよかったような気もするが,ここは少々甘いの承知で星★★★★★としよう。まぁクリポタらしいフレーズは十分発揮されているので不満は全くない。何だかんだ言っても,全8曲56分余りを聞き終えるとウハウハしていた私である。

それにしてもこのアルバム,実にクリアに音が録れている。典型的なジャズ的サウンドと言うよりも,更にクリアな音場って感じだが,私のしょぼいオーディオでもわかるレベルの好録音だと思う。

尚,Brad Mehldauオタクの私は,本作の250セット限定の黄色とミント・グリーンのアナログ2枚組もゲットしたが,あぁ無駄遣いと思いつつ,オタクだからいいのだと開き直っておく(きっぱり)(爆)。でもいつ聞くんだ?(笑)

ついでに言っておくと,国内盤にはボーナス・トラックとしてクリポタの無伴奏"All the Things You Are"が入っているらしいが,私がゲットしたアナログにはボーナス収録となっているが,アナログには入っていないから,これからメールで届くはずのダウンロード音源に入っているってことだろうな。まぁ,別にストリーミングでもいいんだけど。

Personnel: Chris Potter(ts, ss, b-cl), Brad Mehldau(p), John Patitucci(b), Brian Blade(ds)

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2024年3月 7日 (木)

Wynton Marsalisの演奏の見事さを捉えた好ライブ盤。

_20240306_0001 "Live at Blues Alley" Wynton Marsalis (Columbia)

主題の通りである。しかもワンホーンで吹きまくるWynton Marsalisを捉えたライブは大いに楽しめる。Wynton Marsalisのトランぺッターとしての実力は折り紙付きであるとして,そのジャズ原理主義的立ち振る舞いや音楽活動に反感を覚える人は多い。特に日本には相応のアンチもいるはずだが,私もWynton Marsalisを全面的に肯定する気になれない人間である。だが,以前このブログにも書いたが,ツボにはまった時のWynton Marsalisは実に恐るべき演奏をすると思う。このアルバムはそのツボにはまったものだ。

本作はWynton Marsalisのラッパだけでなく,鉄壁と言ってもよいリズム・セクションのバッキングも素晴らしいところが聞きどころとなっているが,こういう演奏を聞いていると,つくづくWynton Marsalisがいつもこうならいいのにねぇと思わざるをえないところが,この人の損なところだ。本国においてはピューリツァー賞,日本においては高松宮殿下記念世界文化賞も受賞する大エスタブリッシュメントのWynton Marsalisであるが,ことジャズ・ファンの観点からすれば,ストレート・アヘッドな演奏にこそ魅力を感じるのとギャップが生まれてしまっているというのが実態だろう。だから私のようなリスナーにとっても,こういうアルバムは魅力的でも,全然いいと思えないアルバムも作ってしまうのがWynton Marsalisという人なのだ。誤解を恐れずに言えば,ジャズマンは文化人である前に,アドリブ一発でリスナーを魅了するプレイヤーとして魅力を発揮してい欲しいのだ。

だからこそ,ここでの演奏にはほとんど文句のつけようがない。急速調の曲におけるスムーズなフレージングはうま過ぎ!と思わせるし,"Do You Know What It Means to Miss New Orleans"のような古いスタンダードにおけるバラッド表現を聞いても,やっぱりうまい。そしてJeff 'Tain' Wattsぐらいの煽りがある方がWynton Marsalisにはいいと思ってしまうのだ。「枯葉」がこんなにスリリングになってしまうというのもこのメンツならではか。"Skain’s Domain"とか燃えちゃうしねぇ。 

ということで,私としては久しぶりにこのアルバムを聞いて,やっぱりWynton Marsalisはこういう感じがいいよなと再確認したのであった。星★★★★☆。

Recorded Live at Blues Alley on December 19 & 20, 1986

Personnel: Wynton Marsalis(tp), Marcus Roberts(p), Robert Leslie Hurst III(b), Jeff 'Tain' Watts(ds)

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2024年3月 6日 (水)

John McLaughlinのWarner時代を振り返る(その2):(その1)からなんと12年半経過!(笑)

_20240304_0001 "Belo Horizonte" John McLaughlin (Warner Brothers)

「John McLaughlinのWarner時代を振り返る(その1)」として"Music Spoken Here"を取り上げたのが2011年8月のことである(記事はこちら)。そこには「その1と言ったら,ちゃんとあと2作もやらないとねぇ。プレッシャーだ。」なんて書いていながら,今回の記事を書くまで12年以上失念していたというのには我ながら笑ってしまった。

"Music Spoken Here"もそうだが,この当時は当時の奥方,Katia Labèqueとのコラボっていう感じもありつつ,John McLaughlinはここでもアコースティック・ギター一本で勝負である。リリースは本作の方が先だったので,その1とすべきはこっちだったのだが,どうして"Music Spoken Here"を優先したかは今となっては謎である(苦笑)。いずれにしても,ここでも相変わらずのMcLaughlin節とでも言うべきフレーズの連発ながら,フランス人主体のバンドによる全体的なサウンドはややソフトな感じがする。特にリズムがやや軽量感があるところやフェード・アウトする曲があるのにも不満を覚えるリスナーもいるかもしれない。

そうは言っても決してやわな音楽ではないから,John McLaughlinのファンであればこれもありだよなと思ってしまうが,"Pour Katia"なんて書いてしまうところに,当時のJohn McLaughlinのKatia Labèqueへのラブラブ具合が出ていて,何言ってんだかって感じてしまうのも事実だ。確かにハイブラウ度,ハードさという点ではJohn McLaughlinのそれまでのイメージよりも弱いところが評価の分かれ目だろう。でも最後にPaco De Luciaとのデュオを持ってくるところは策士だよなぁ。決して火を噴くようなハードな演奏ではないが,いかにもな彼ららしいデュオである。全体としてはファンの弱みって感じで星★★★☆ぐらいにしておこう。

Personnel: John McLaughlin(g), Katia Labèque(p, synth), Francois Couturier(el-p, synth), Jean Paul Celea(b), Tommy Campbell(ds), Francois Jeanneau(ss, ts), Jean Pierre Drouet(perc), Steve Shewman(perc), Augustin Dumay(vln), Paco De Lucia(g)

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2024年3月 5日 (火)

Famous Doorと言えばこのアルバムと思っていたが,記事にしていなかったZoot Simsのアルバム。

Zoot-at-ease "Zoot at Ease" Zoot Sims(Famous Door)

Famous Doorレーベルのアルバムには結構好きなものがある。Butch Miles然り,Scott Hamilton然りである。しかし,このレーベルのアルバムでダントツで好きなのがこのZoot Simsのアルバムである。モダン・スウィングってのはこういうものだという感じのアルバムは,アナログも持っているし,追加の別テイクが聞きたくて,CDでも保有している。だから,このアルバムを今までこのブログにアップしていなかったというのは実に意外としか言いようがない。私はこのブログでZoot Simsのアルバムを何枚か取り上げているが,実はこの人のアルバムでプレイバック頻度が高いのは本作なのだ。

テナーのイメージが強いZoot Simsだが,冒頭の"Softly as in a Morning Sunrise"をソプラノ・サックスで演奏するところからして意外な感覚があったが,これが実にいいのである。私は多分往時のジャズ喫茶において初めてこのアルバムを耳にしたはずだが,この演奏にまさに「ひと聴き惚れ」と言った感覚を覚えて,すぐさまアルバムの購入に走ったはずだ。そして全編で繰り広げられる演奏はテナーとソプラノを交えながら,心地よいスウィング感を与えてくれる。アルバムを購入した頃はまだ私も若かったはずだが,こういう演奏に魅力を感じてしまったのだから若年寄みたいなもんだ(爆)。

まぁ,このメンツである。リーダーもよければ,バックも素晴らしいのだから,良くて当たり前だが,このくつろぎ感に満ちた演奏はジャズのある一面を如実に示すものとして,若い私にとっても魅力的に響いたし,それは還暦を過ぎた現在になっても変わることはない。むしろ更にその魅力は増していると言っても過言ではない。必ずしも有名曲ばかりをやっている訳ではなくとも,実に心地よく時が流れていくのだ。大げさに言えば,私にとってZoot Simsと言えば本作と言ってもよい最初から最後までええわぁ~と言いたくなる傑作。星★★★★★。

こういうアルバムが簡単にCDで入手できるのだから本当にいい時代である。

Recorded on May 30 and August 9, 1973

Personnel: Zoot Sims(ts, ss), Hank Jones(p), Milt Hinton(b), Louis Bellson(ds), Grady Tate(ds)

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2024年3月 4日 (月)

"Touch of Time": この静謐さがたまらん!

Touch_of_time"Touch of Time" Arve Henriksen / Harmen Fraanje (ECM)

これは堪らん!と最初に言ってしまおう。とてもトランペットと思えぬ音色とそれに寄り添うピアノとエレクトロニクス。静謐な中に繰り広げられるこの美学には,世間のECM好きは間違いなくはまる。"The Most Beautiful Sound Next To Silence"を地で行くと言ってよいサウンドなのだ。私も当然はまった。

Arve Henriksenのトランペットはあたかも尺八のようにさえ響き,ラッパ(あるいはブラス)の概念を完全に覆してしまう音色で,決して熱を帯びることはない。「ジャズ原理主義者」から言わせれば,こんなものはジャズではないという声も聞こえてきそうだが,それが何か?と開き直りたくなる。コンベンショナルなジャズではないとしても,こうした音楽も含められるところがジャズの間口の広さなのだと原理主義者には抗弁することにしよう,と音楽は全然熱くないのに,ついつい熱くなる中年音楽狂(笑)。

まぁこういう音楽であるから,万人向けの音楽とは言わない。しかしこの静謐さと美しさを受け入れることで,私は自分の音楽生活は更に豊かになると感じてしまう。おそらくは先日取り上げた,高橋アキの「橋」のようなミニマルな現代音楽のピアノを愛するのと同じ感覚なのだ。私は全方位的な音楽のリスナーだと思っているが,身体がこういう音楽を欲する瞬間もあるし,たとえ身体が欲しなくとも,こういう音楽を聞いているとついつい強いシンパシーを感じてしまうこともある。結局好きなんだってことが明らかになるだけだが,このいかにもECM的な音にはやはり強い磁力を感じてしまったのであった。

この音楽は間違いなく聞く人を選ぶ。しかし,この世界に一旦足を踏み入れれば,決して抜けられないのだ。まさにECMの魔力。星★★★★★としてしまおう。

Recorded in January 2023

Personnel: Arve Henriksen(tp, electronics), Harmen Fraanje(p)

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2024年3月 3日 (日)

Brad Mehldauの新曲を捉えたブートレッグ。

_20240301_0001 "Zellerbach Hall 2024" Brad Mehldau (Bootleg)

Brad Mehldauが各所から委嘱を受けて作曲した新作"14 Reveries"がロンドンで初演されたのが昨年の9月のことであった。正式録音はそのうち行われるだろうが,できるだけ早く新曲を聞きたくなるのがファン心理。だが,ブートレッグもある程度の音のクォリティが確保されていないとなかなか手が出ないところであるが,今回届いたこのブートレッグはオーディエンス録音ながら,かなりよく録れているのが視聴してわかっていたので,購入と相成った。録音されたのはつい先日の2月10日,UC Berkeley内にあるZellerbach Hallでの演奏の模様がもう聞けてしまうというブートの世界恐るべし。

上述の通り,オーディエンス録音にしてはかなりよく録れているのだが,一部がさがさノイズが入るのは少々惜しい。しかし,ほとんど気にならないレベルなので,これなら十分だと思える。それでもって新作"14 Reveries"であるが,この時のプログラム後半では,"Suite: April 2020"からの曲が10曲演奏されていることからも,新作が同作の姉妹編のような位置づけにあるのではないかと想像させる。姉妹編と呼んだが,Brad Mehldauとしては,当然新作には発展性も持たせたと思われる美しいピアノ曲が並んでいる。

詳細については正式録音が出てからということにしたいが,一聴してアドリブ・パートがどの程度あるのかはよくわからなかった。しかし,Brad Mehldauのサイトで"Reverie #1"の楽譜がダウンロードできるので見てみると,完全に書き譜のようで,更には"Fourteen Reveries runs 38-42 minutes in performance."とまで書いてある。ということで,本人に限らず,他のピアニストが演奏することも念頭に置いて書かれた作品ってところか。

そういう意味でBrad Mehldauの越境型活動の一環という気もするが,どうやってもBrad Mehldauの音楽だと思わせるのは立派なものだと思う。Disc 2に収められた新作以外の演奏も含めて,なかなかに聞き応えのあるブートレッグであった。

Live at Zellerbach Hall, UC Berkeley on February 10, 2024

Personnel: Brad Mehldau(p)

2024年3月 2日 (土)

Wolfert Brederode@晴れたら空に豆まいて参戦記。

Wolfert-brederodes-piano

Wolfert Brederodeの"Ruins and Remains"は素晴らしいアルバムであった。同作を私は2022年のベスト作の一枚に選んでいるぐらい評価している(記事はこちら)が,そのWolfert Brederodeが来日するということで,代官山の晴れたら空に豆まいて(何とも不思議な店名だ...)に行ってきた。前日のBanksia Trioからの連チャンとなったが,2月はこれで5本目のライブというなかなかないハイペースである。

私がWolfert Brederodeのライブに参戦するのはこれで2回目になる。前回は約7年前の武蔵野スイングホールにおけるトリオ公演だったが,今回はピアノ・ソロ。先週にはJoost Lijbaartとのデュオ公演も行っているが,私はスケジュールが合わず,今回のソロに行くこととなった。私は最前列でかぶりつきで見ていたので,正確にはわからないが,箱の半分ぐらいの入りだったのではないか。

今回のライブは本人も語っていたが,完全即興で臨んだ演奏が約60分,その後,アンコール的に"American Folk Song"と言っていたが,曲名は失念したショート・ピースを1曲というプログラムであった。完全即興は相応の集中力を要すると考えられるから,この程度の演奏時間が限界という気がするが,徹底して美的で静謐な音楽を展開していた。時としてもう少しダイナミズムを加えてもいいかなと思わせる瞬間もあったのも事実だが,生音でこれだけの美音を聞かせてもらえばこちらの満足度も高いというものだ。ピアノの音が天井にす~っと吸い込まれていくような感覚は,以前カザルス・ホールでFred Herschを聞いて以来だったかもしれない。音楽と同時にピアノの響きを堪能した一夜であった。

Live at 晴れたら空に豆まいて on February 29, 2024

Personnel: Wolfert Brederode(p)

2024年3月 1日 (金)

Banksia Trio@公園通りクラシックス参戦記

Banksia-trio_20240301084701

須川崇志率いるBanksia Trioが2日間のクラブ・デイトということで,その2日目に渋谷の公園通りクラシックスに行ってきた。私にとっては初ヴェニューである。山手教会の地下というユニークな場所,かつ入口は駐車場のスロープを降りて行ったところにあるというロケーションは実に不思議(笑)。キャパは最大120人前後と思われるが,立ち見も出る盛況ぶりであった。彼らを観るのは一昨年末の武蔵野市民会館小ホールでのライブ以来となるが,その間に3枚目のアルバム,"Masks"をリリースし,それもいい出来だっただけに,今回も期待のライブであった。

__20240229083501 そして行われた演奏は静謐さ,美的なるもの,ダイナミズム,フリーなイディオム等の様々な演奏様式において,どれもが極めて高いレベルを実現していて,このトリオの実力を改めて実証したものであった。菊地雅章の"Drizzling Rain"から始まり,アンコールのWayne Shorter作"Lady Day"まで,約100分のプログラムは弛緩するところ全くなしの演奏で誠に見事であった。

当日のプログラムは正確さには少々自信はない(曲順も若干曖昧)が,次のようなものであったはず。私にとって特に印象的だったのが,Ornette Colemanの"When Will the Blues Leave"で,ここで聞かれた,ややコンベンショナルながら強烈なブルーズ感覚をこのトリオで聞けるとは思わなかった。とにかくトリオの全員が何でもできてしまう人たちなのだ。

改めて彼らが現在の日本において屈指のピアノ・トリオであることを確信した一夜となった。上の写真はご同行頂いた先輩から拝借。右は同地でのショットにモザイクを掛けたもの。モザイクを掛けているのでこれではよくわからないが,二人とも演奏への満足度が表れた表情になっている。

  1. Drizzling Rain(菊地雅章)
  2. First Dance(市野元彦)
  3. Untitled(新曲,須川崇志)
  4. 曲名失念(石若駿作曲のバラッド)
  5. Masks(須川崇志)
  6. When Will the Blues Leave(Ornette Coleman)
  7. Doppo Movimento(林正樹)
  8. Algospeak Suite(新曲, 須川崇志)

    (Ec.)Lady Day(Wayne Shorter)

Live at 公園通りクラシックス on February 28,2024

Personnel: 須川崇志(b),林正樹(p),石若駿(ds)

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