Vijay Iyerの新作:これは凄い!近年稀に見る傑作と言いたい。
プレイバックを開始した瞬間から心を捉えられてしまう音楽というのはなかなか出会えるものではない。先日のMeshell Ndegeocelloのライブの素晴らしさにも似た感覚を,CDで味わってしまったというのがこのVijay Iyerの新作である。
鋭いテンションに満ちた演奏が続き,一部フリーな展開もあることはあるのだが,決して聞きづらい音楽ではない。全編を通じてジャズ的なスリルを感じさせながら,熱量だけではないVijya Iyerらしい理知的な部分を持ち合わせた音楽は,近年のピアノ・トリオのアルバムでも最も傑出した一枚と言ってもよいかもしれない。私はVijay Iyerのアルバムは参加作を含めて高く評価し続けてきた。昨年も異色のアンビエント・ライクな"Love in Exile"さえベスト作の一枚に選んでいる(同作に関する記事はこちら)ぐらいなので,基本的に評価に値する活動を継続していると思っている。そんな中でもこのアルバムは,私の中でのVijay Iyerへの評価を更に高めるアルバムとなった。まだ2月ではあるが,今年のベスト作の有力候補であることは間違いないところ。
Vijay Iyerの魅力的なオリジナルに加えられたカヴァー曲がまた見事。Stevie Wonderの"Overjoyed"をこれほどスリリングな演奏にアダプテーションしたところからして興奮させられるし,Roscoe Mitchellの"Nonah"のフリーな展開も,アルバム中のChange of Paceとして適切。そして最後を飾るのがJohn Stubblefieldの"Free Spirits"とGeri Allenの”Drummer’s Song"のメドレーなのだが,Geri Allenをカヴァーするのはわかるが,John Stubblefieldというのが意外でありつつ,この"Free Spirits"というのがなかなかの佳曲でびっくりであった。大した審美眼である。
本作は体裁としてはManfred EicherとVijay Iyerの共同プロデュースってかたちになっているが,おそらくEicherとしてもVijay Iyerにかなり自由にやらせたって気がする。いずれにしても,Linda May Han Oh,Tyshawn Soreyという強力な共演者に恵まれたことも有効に作用して,これこそ真の傑作と評価したくなる逸品。星★★★★★。素晴らしい。
Recorded in May 2022
Personnel: Vijay Iyer(p), Linda May Han Oh(b), Tyshawn Sorey(ds)
本作へのリンクはこちら 。
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コメント
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閣下、リンクとコメントをありがとうございます。m(_ _)m
私も、オープナーから終演まで、ワクワク、ドキドキいたしました。
3人ともが、素晴らしい動きをしていて、、
阿吽の呼吸をも超えた、、ただならぬ関係だと思いました。
私も、きっと年間のベストに入ってくるとおもいます。
私もリンクを置いていきます。
https://mysecretroom.cocolog-nifty.com/blog/2024/02/post-fb4bf4.html
投稿: Suzuck | 2024年2月18日 (日) 14時41分
Suzuckさん,こんにちは。リンクありがとうございます。
>私も、オープナーから終演まで、ワクワク、ドキドキいたしました。
そうですよねぇ。これを聞いて興奮しなければ,それはもぐりです(爆)。
>私も、きっと年間のベストに入ってくるとおもいます。
やはりそうですよね。このインパクトを上回る作品はそう簡単には出てこないと思います。
投稿: 中年音楽狂 | 2024年2月18日 (日) 16時45分
こんにちは。
最近は不精をして、人のところにあまり書き込みをしに行かなくなってしまっていることをお許しください。
このアルバム、けっこう自由にやらせてもらっているみたいで、彼の作品としてもECMの作品としても、見事な仕上がりになっています。スピリチュアルとでも言うのか、メンバーの有機的な融合が見事なアルバムだと思います。このメンバーじゃないとできないことをやってくれているように感じます。
私も今年のベストを考えると、射程圏内に入ってくるんじゃないかな、とまだ2月なんですが、思わせてくれるところがすごいですね。
当方のブログアドレスは以下の通りです。
https://jazz.txt-nifty.com/kudojazz/2024/02/post-af4947.html
投稿: 910 | 2024年2月18日 (日) 17時10分
中年音楽狂様
しかし圧倒的なインパクトを与えてくれたアルバムですが、ここまでの評価が高いのに驚いています。
Iyer自身が言っているように、不安や苦しみをテーマに音楽的芸術に作り上げるのはやはり協力者が大切なんでしょうね。平等主義、人種問題、アパルトヘイト廃止運動などの評価盛り込んだところは避けられないところなのだと思ってます。
そんな意味でもこのトリオの意味があるのでしょうね。インプロにおけるインタープレイがそれを物語っているように思います。
私のところもリンクよろしくお願いします。↓
http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2024/02/post-f68312.html
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2024年2月18日 (日) 18時46分
910さん,おはようございます。リンクありがとうございます。
>最近は不精をして、人のところにあまり書き込みをしに行かなくなってしまっていることをお許しください。
滅相もないです。私も巡回はしているものの,コメント頻度は下がっていますので,似たようなものです。
>このアルバム、けっこう自由にやらせてもらっているみたいで、彼の作品としてもECMの作品としても、見事な仕上がりになっています。
はい。記事にも書きましたが,EicherとIyerの共同プロデュースとは言え,ほぼIyerが仕切ったと思えます。
>私も今年のベストを考えると、射程圏内に入ってくるんじゃないかな、とまだ2月なんですが、思わせてくれるところがすごいですね。
おっしゃる通りです。それぐらいのレベルだと確信しております。
投稿: 中年音楽狂 | 2024年2月19日 (月) 08時37分
photofloyd(風呂井戸)さん,おはようございます。リンクありがとうございます。
>しかし圧倒的なインパクトを与えてくれたアルバムですが、ここまでの評価が高いのに驚いています。
はい。私にとっては既に最優秀アルバム間違いなしの確信があります。
>Iyer自身が言っているように、不安や苦しみをテーマに音楽的芸術に作り上げるのはやはり協力者が大切なんでしょうね。平等主義、人種問題、アパルトヘイト廃止運動などの評価盛り込んだところは避けられないところなのだと思ってます。
この音楽のメッセージ性に加えて,プレイヤー同士の連動性の高さが素晴らしかったです。いずれにしても,Vijay Iyerの知性炸裂って感じでした。
投稿: 中年音楽狂 | 2024年2月19日 (月) 08時41分