Tony Williamsの「白鳥の歌」とでも言うべき"Young at Heart"。
"Young at Heart" Tony Williams (Sony)
早いもので,Tony Williamsがこの世を去ってから既に四半世紀以上の時が経過している。51歳での死はあまりにも早く,生き急いだ感があるようにも思えるが,ティーンエイジャーの時にMiles Davis Quintetでシーンに登場し,まさに神童と言うべき才能を最初から示していた。一時はLifetimeでロック・テイストの演奏もしながら,晩年は自身のクインテットで優れたアルバムを連発していたのも懐かしい。
そんなTony Williamsの最後のリーダー・アルバムがこれで,自身の名義では最初にして最後のピアノ・トリオ・アルバムである。Tony Williamsのピアノ・トリオでの演奏と言えば,Great Jazz Trioもあれば,Herbie Hancockとのトリオもあるから,珍しいという訳ではないが,このアルバムのレコーディングから半年ぐらいで亡くなってしまうことを考えれば,実に感慨深いアルバムである。
このアルバムは当時のクインテットのリズム・セクションによるものだが,このアルバムを聞いていて思うのは,日頃のTony Williamsのような叩きっぷりではないということだ。Tony Williamsのドラムスはパワフルなもので,通常であれば,あぁ,Tony Williamsだと思わせるのだが,ここはミキシングのせいもあるかもしれないが,結構抑制的に叩いているように聞こえる。それが悪いというのではなく,このトリオ演奏には実にフィットしているように感じさせて,それこそ成熟というものを感じさせる演奏とは言えないか。顕著にTony Williamsっぽいなぁと思わせるのは"This Here"だと思えるが,それ以外は楚々としたバッキングを行っているように聞こえる。
だが,Tony Williamsがこの当時,病魔に冒されていたということではないようなので,これはそういうプロダクションなのだということになるだろうが,結果的にはこれが所謂"Swan Song"のようになってしまった。だが,こういうアルバムでキャリアを締めくくるというのは,ある意味出来過ぎという気がしないでもないとしても,このアルバムは実に味わい深いものだ。その一方で亡くなる直前にはBill LaswellやPharoah Sandersと"Arc of the Testimony"のようなアルバムもレコーディングしていたようだから,一体どっちが本音だったの?と言いたくなる。そっちはそっちで改めてストリーミングで聞こうと思うが,このアルバムから感じられる滋味は素晴らしいものだと思う。星★★★★☆。このアルバムが東京でレコーディングされたことを我々は喜ぶべきだ。
Recorded on September 24 & 25, 1996
Personnel: Tony Williams(ds), Mulgrew Miller(p), Ira Coleman(b)
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