Brad MehldauとIan Bostridgeの"The Folly of Desire":至極真っ当な歌曲集である。
"The Folly of Desire" Brad Mehldau / Ian Bostridge (Pentatone)
このアルバムがデリバリーされて,何度か聞いているものの,記事化することを躊躇していた。なぜなら,このアルバムはクラシックのリートの手法に則った真っ当な歌曲集だったからだ。正直言って,私はクラシックの歌曲に関しては,Peter SchreierとKonrad Ragossnigのギターによる「美しき水車小屋の娘」しか保有していないというのが実態なのだ。一方,Brad MehldauとRenée Fleming, Anne Sofie von Otterの共演盤は保有していても,滅多に聞かないというのも事実なので,こういうアルバムの評価は正直難しいのだ。
このアルバムにおいては11曲で構成された”The Folly of Desire"がメインで,それに続く5曲はコンサートであればアンコール的な位置づけになると思われる。その5曲中4曲はジャズ・スタンダードと呼んでよいものであり,もう1曲はIan Bostridgeが得意とするであろうシューベルトの「夜と夢」である。なので,このアルバムを評価する際にはタイトル・トラックからというのが筋だ。
ここでのテキストはシェークスピア,ブレイク,イェーツ,ゲーテ等から構成され,それにBrad Mehldauが曲をつけ,ピアノ伴奏をするものだが,ピアノの響きは実に美しいと思う。Ian Bostridgeのテナーは,いかにもテナーらしい歌唱でそれに応えているが,以前,このアルバムに関する記事にも書いた通り,真面目に作られているがゆえに,こっちもついつい身構えてしまうというのが正直なところだ。更に"A song cycle inquiring the limits of sexual freedom in a post-#MeToo political age"というテーマからして小難しく(笑),こっちもどういうことなのかとついつい考えてしまうのだ。だから,後半のアンコール・ピース的な曲の方が,メロディ・ラインにも馴染みがあって,気楽に聞けてしまうのは仕方ないところだろう。ただ,シューベルトとジャズ曲のBostridgeの歌い方の違いには戸惑う部分もある。
私はBrad Mehldauのこういうチャレンジは応援したいとも思うものの,必ずしも成功しているとは思っていない。そうした中では,本作はまだいいと思えるが,それでも越境はそこそこにしておいて,また私たちを痺れさせるようなジャズ・アルバムの制作を期待したくなってしまう。ということで,星★★★★ぐらいにしておこう。
Recorded in July, 2022
Personnel: Ian Bostridge(vo), Brad Mehldau(p)
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