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2023年6月30日 (金)

Eric Kazの未発表音源集の枯れた味わい。

_20230628 "1000 Years of Sorrow" Eric Kaz (Spice of Life)

このブログにも何度か登場しているEric Kazである。私にとってEric Kazと言えば,誰が何と言おうと,Eric Justin Kaz名義でリリースした"If You’re Lonely"ということになるが,それだけでなくCraig Fullerとの双頭アルバムもよかった。しかし,そんなアルバムを残しながら,Eric Kazのアルバムが売れたって話は聞いたことがない。なので,このアルバムが2002年に出た時も,ソロ・アルバムとしては"Cul-de-Sac"以来28年ぶりだったという超長いインターバルであった。

とは言っても,このアルバム,当時の純粋な新作という訳ではなく,70年代の未発表音源が中心になっているのだが,ここに収められた曲が,何とも味わい深いのだ。Eric Kazが一人で宅録したようなデモ音源みたいなものもあるので,リリースを目的として作られたものではなかったのかもしれないが,ここで聞かれるシンプルさが全然気にならないぐらいいい曲が揃っているのだ。こういうのを聞いていると,むしろいろいろなミュージシャンにカヴァーされる曲を作った作曲家としてのEric Kazの立ち位置がわかりそうなものだ。

そして,本作には"The Romance"も含まれているが,この曲は私にとってはArt Garfunkelの"Scissors Cut"に収録されたヴァージョンが印象深い。この曲,本国アメリカ盤ではカットされて,"Bright Eyes"と置き換えられるという憂き目にあったが,なぜか国内盤には収録されていたものだ。私は"Scissors Cut"は日本盤の曲順,曲目こそあるべき姿だと思っているが,そこに含まれていたこの曲が作曲者,Eric Kaz本人によって歌われるのは実に感慨深いのだ。ライナーには,この曲はLinda RonstadtやBonnie Raittにより歌われることを意識していたようなことをEric Kazが書いているが,"Scissors Cut"のことは知らなかった,あるいは失念していたとしか思えない。それほどArt Garfunkelの名唱だったのだ。だから私はこのアルバムを聞いて,また"Scissors Cut"の国内盤を聞きたくなるという効果もあったのであった。

まぁ,アルバムとしては拾遺集であるから,評価が難しいところなのだが,この枯れた味わいに免じて甘いとは思いつつ半星オマケで星★★★★☆としてしまおう。結局のところ好きなのだ(笑)。

Recorded in 1974, 1975, 1978, 1979 and 2002

Personnel: Eric Kaz(vo, p, key, synth, g, b, ds, hca), Nick Jameson(g, b), Andy Robinson(ds, vo), Billy Mundi(ds)

2023年6月29日 (木)

Argerichのリストのピアノ・ソナタ。いやいや強烈。

_20230618-2 "Liszt: Sonate H-Moll / Schumann: Sonate G-Moll" Martha Argerich (Deutsche Grammophon)

Martha Argerichのドイツ・グラモフォンにおけるソロ録音ボックスから,久しぶりにこのアルバムを取り出したのだが,もはや半世紀以上前のレコーディングとは言え,全然古びたところを感じさせないアルバムだと思った。

リストとシューマンから成る演奏ではあるが,リストのロ短調ソナタが強烈過ぎて,シューマンの演奏が若干印象が薄れるって感じがしてしまった。もちろんシューマンの演奏も立派なものだが,それよりも何よりも技巧,スピード,打鍵の強さのどれを取っても,リストの印象が強い。

これはCDのデメリットという気もするが,リストとシューマンで明らかに雰囲気が違うのだ。アナログであれば,A面,B面でレコードをひっくり返すという行為が発生するから,聞くのがどちらかの面に偏るというのはよくあることだ。私がアナログでこのアルバムを保有していたら,おそらくA面偏重になったであろうことは確実だと思ってしまった。いかにもMartha Argerichらしい演奏。でも好き嫌いはわかれそうだが...。私にとってはリストだけで星★★★★★にしたい。

Recorded in June 1971

Personnel: Martha Argerich(p)

2023年6月28日 (水)

Bob Dylanが旧作を再構築する"Shadow Kingdom":たまりませんなぁ。

_20230624"Shadow Kingdom" Bob Dylan (Columbia)

私はBob Dylanの音楽はある程度聴いていたつもりだが,根っからのファンではないので,最近の来日公演にも行っていない。Bob Dylanの音楽にはそれなりに注目しているつもりでも、このアルバムの元となったストリーミング映像は見ていなかったのだが、今回,主に古いレパートリーをやったこの時の演奏がディスクとしてリリースされるとなると,現在のBob Dylanがどのように演奏するのかのは実に興味深い。

そしてCDがデリバリーされたので早速聴いてみたのだが,これが実に味わい深くよい出来であった。普段の歌唱と比べるとBob Dylanっぽいクセが抑えられており、ボブ・ディランの歌が苦手なリスナーにも受け入れられるアルバムと言えるのではないか。

アルバムには"Stereo Recording"とだけ書かれていて,詳細のクレジットはないが,内ジャケットに写っているミュージシャンと,実際のプレイヤーは違うようだ。それはさておき、一種のプロジェクトとはいえ、なぜBob Dylanが古いレパートリーをアップデートしようとしたのかは実に興味深い。私なんかはMiles Davisが亡くなる直前、旧知のミュージシャンと昔のレパートリーを演奏していたことが思い出される。Bob Dylanももう80歳を超えているから,Milesと同じになっては困ってしまうが,このビデオは2年ほど前に公開されたものだし,現在もライブをバリバリやっていることを考えればMilesとは事情は異なるだろう。

オリジナルとは随分印象が違うものもあれば,近しいものもあるが,今こうしてこれらの曲を聴くと新鮮に響くというのがこのアルバムのキモだと思う。改変も含めてBob Dylanにしかできない仕事であって,本人による見事な再構築であった。80過ぎてもこの衰えない創造力は見事と言うしかない。それも含めて星★★★★★としてしまおう。好きだなぁ,こういうの。

2023年6月27日 (火)

Charles Dutoit,86歳,その矍鑠たる指揮ぶりに驚き,感動した。

_-2

Charles Dutoit(以下デュトワと記す)が来日して,新日本フィルを指揮する2日間の2日目を,家人ともどもサントリー・ホールに聞きに行った。今回のプログラムは「牧神の午後への前奏曲」,「火の鳥組曲」,そして「幻想交響曲」というなかなかないもので,そもそも「幻想」を偏愛する私としてはどうしても聞きたいと思わせるものであった。しかもデュトワは既に86歳である。とっくに後期高齢者のデュトワに次があるかはわからないと思ったこともあった。しかし,そんな思いを一笑に付されるようなデュトワの矍鑠とした指揮ぶりだったとしか言いようがない。

映画「Tar/ター」において,James Levineと共にセクハラ指揮者として実名を挙げられたデュトワは,世界のオーケストラとの関係は悪化している。一方,日本においてはそれほど問題視されていないということなのかもしれないが,もちろんそうした疑惑に対して批判的に捉える人もいるだろう。それでもサントリー・ホールはほぼ満席(チケットはソールド・アウトだったらしい)の聴衆であったから,やはりデュトワに対する期待が勝ったということだろう。私でさえ行く気になるぐらいだから,きっとそうなのだ(笑)。

タクトを使わずに振った「牧神の午後への前奏曲」で静かに滑り出した前半であるが,私は「火の鳥組曲」における「カスチェイ王の魔の踊り」におけるダイナミズムにまず圧倒され,Yesがライブのオープニングで使う「終曲」にもぐわ~っと盛り上がっていたのであった(笑)。

だが,今回の私にとっての目玉はあくまでも「幻想」である。以前,このブログにも書いた通り,私は「幻想交響曲」に関しては何枚もアルバムを保有していた(過去形。今は6~7枚を残す程度)こともあり,オーケストラ音楽としての「幻想」には若い頃から親しんできた。だから,今回デュトワがどのような演奏を聞かせるのかには非常に興味があった。第1楽章から弦をよく鳴らしているなぁとは思っていたが,CDやレコードの再生では完全に把握できない弦楽器群の分離した響きを生で,そしてそれを手に取るように堪能できたことは感慨深かった。それは私がいくらこの曲が好きでも,いつも冗長性を感じてしまう第3楽章にさえ当てはまったのだから,これは大したことなのだ。

「幻想」においては第2楽章のワルツが大好きな私であるが,私はコルネット入りの演奏を好んでいるので,コルネットが入らない第2楽章にはいつも違和感を覚えてしまうのだが,ここは響きの美しさで補ってくれて文句なし。そして終盤第4,第5楽章は「火の鳥」同様の強烈なダイナミズムで押し切った演奏は,実によかった。「幻想」を聞いた~っていう満足感を覚える演奏であった。

演奏後の聴衆の反応も強烈で,何度もカーテン・コールに応えるデュトワを見て,デュトワ本人にとっても満足のいく演奏だったのではないか。今更ながら,やっぱりオケの演奏はいいよねぇと改めて感じた私である。さぁ,次は山田和樹とバーミンガム市響だ。そっちも楽しみにしておこう。

Live at サントリー・ホール on June 25, 2023

Personnel: Charles Dutoit(cond),新日本フィルハーモニー交響楽団

2023年6月26日 (月)

Carla Bleyのライブ盤:Saturday Night Live Bandのようにさえ響くファンキーさ。

_20230620"Live!" Carla Bley (Watt)

かつて「艶奏会」という邦題で国内盤が出たことがあるが,まさに言い得て妙という感じがするアルバムである。Carla Bleyと言えば,ついついJazz Composers OrchestraやLiberation Music Orchestraが思い出されてしまい,敷居が高い(換言すれば怖い:笑)と感じることもある訳だが,Andy Sheppard,Steve Swallowとのトリオ作品は全く印象は異なっていたし,このサンフランシスコにあるGreat American Music Hallでライブ・レコーディングされたこのアルバムも全く小難しいところはなく,例えは変かもしれないが,主題の通り,言わばSaturday Night Live Bandを聞くかのごとき印象を与えるライブ盤となっている。先入観とは恐ろしいと感じざるをえないが,このファンキーなサウンドを聞けば,Carla Bleyの印象は間違いなく変わると思える。

それにしても,各人のソロも粒が揃っているし,聞いていて楽しいライブである。会場にいれば,さぞや盛り上がったであろうと想像してしまうようなアルバム。星★★★★☆。大昔,私はこのブログで彼女の"Heavy Heart"を取り上げたことがある(記事はこちら)が,14年も前の記事なのに,同じようなことを書いている私ってつくづく成長してないねぇと思ってしまった。まぁ,歳だからしょうがないと開き直ろう(爆)。

Recorded Live at the Great American Music Hall on August 19-21, 1981

Personnel: Carla Bley(org, p, glockenspiel), Michael Mantler(tp), Steve Slagle(as), Tony Dagradi(ts), Gary Valente(tb), Vincent Chancey(fr-h), Earl McIntyre(tuba, b-tb), Arturo O'Farrill(p, org), Steve Swallow(b), D. Sharpe(ds)

2023年6月25日 (日)

追悼,Peter Brötzmann。

Peter-brtzmann

Peter Brötzmannの訃報が飛び込んできた。私にとってPeter Brötzmannは不老不死というイメージしかなく,亡くなったと聞いても正直言ってピンと来ない。先ごろ,ACTレーベルから新譜が出たと思っていたところへの突然の訃報には驚きと悲しみを隠せない。

まさにフリー・ジャズを身を以て体現した人であり,この人の音楽はある意味での快楽をもたらしてくれたと思っている。訃報に接し,家人がいないことをいいことに,"Yatagarasu"を轟音でプレイバックした私であった。ここ暫くは彼の音源でフリー・ジャズの何たるかに思いを馳せつつ,その業績を偲ばざるをえまい。

R.I.P.

2023年6月24日 (土)

Ed BickertがSonny Greenwichと吹き込んだ2ギターのアルバムなんだが,このジャケは...。

_20230619"Days Gone by" Sonny Greenwich and Ed Bickert (Sackville)

私がEd Bickertのファンであることはこのブログにも何度も書いてきた。Ed Bickertの名前を見つけると参加作でも結構入手してきたつもりだ。このアルバムは同じくカナダ出身のギタリスト,Sonny Greenwichとの共演盤であるが,支えるリズムがお馴染みDon ThompsonとTerry Clarkeということもあり,見つけた時はこれは気になると思ったはずである。

このアルバムは79年に録音されていながら,発掘されたのは2000年であるが,このアルバムを購入することには何の躊躇もなかったとは言え,ずっとそれ以来思っているのが,このジャケのセンスのなさ。アルバム・タイトルにしろ,ミュージシャンの名前にしろ,このフォント使いはないだろうと言いたくなる。写真だってもう少しましなものがありそうだが,発掘盤ゆえに録音当時の写真を見つけるのに苦労したのかとも思わせるが,明らかにジャケで損をしているアルバムと言ってよい。

それはさておきであるが,ここではEd Bickertはどちらかと言うと,Sonny Greenwichを立てているって感じの演奏だ。主メロの演奏は主にSonny Greenwichが弾いているが,この二人の音色やフレージングの違いは明らかだが,どっちが魅力的かと言えば,私にとっては当然Ed Bickertの方だということになる。右チャンネル寄りのSonny Greenwichのギターの方が音色は固い感じで,左チャンネル寄りのEd Bickertはいつものテレキャスとは信じられない柔らかい音色で,すぐに聞き分けができてしまうのだが,やはりEd Bickertの音色は魅力的なのだ。

有名無名のスタンダード,ジャズ・オリジナルを中心としたプログラムは魅力的だが,私にとってはどうしてもSonny GreenwichよりもEd Bickertに耳が行ってしまって,聞き方としては邪道と言われても仕方がないが,ファンとはそういうものだ(きっぱり)。"I'll Take Romance"はリズム抜きのギター・デュオで演じて,多少フレイヴァーの違いも出しているが,どうやってもSonny Greenwichの音,そしてフレージングの固さが気になってしまう。だったらEd Bickertのリーダー作を聞いてりゃいいじゃんと言われればその通りだ。

ということで,ジャケのセンスのなさも手伝って,あまりプレイバック頻度が高まらないが,アルバムとしてはちょい甘めの星★★★☆ってところにしておこう。同じSackvilleのアルバムならEd BickertとDon Thompsonのデュオ作の方が圧倒的によい(そのアルバムに関する記事はこちら)。

Recorded on June 6, 1979

Personnel: Sonny Greenwich(g), Ed Bickert(g), Don Thompson(b), Terry Clarke(ds)

2023年6月23日 (金)

Meshell Ndegeocelloの新作がBlue Noteからリリース。

_20230621 "The Omnichord Real Book" Meshell Ndegeocello (Blue Note)

Meshell Ndegeocelloの前作,"Ventriloquism"は実に素晴らしいカヴァー・アルバムだったが,それから4年以上のインターバルを経て,彼女の新作がリリースされた。それもBlue Noteレーベルからというのにはびっくりした。

私は"Peace Beyond Passion"で痺れて以来のMeshell Ndegeocelloのファンだが,総じてレベルの高い音楽を届けてくれて,私としては信頼度の高いミュージシャンなので,新作が出れば,迷わず現物を買うことにしているし,今回も例外ではない。そしてここで奏でられるのはもはやジャンルを超越した音楽だと言ってよい。ファンク,ソウル,ジャズ,そしてアフリカ的な要素が混然一体となったアルバムはやはり痺れる出来であった。裏切らないねぇ。

本作をプロデュースをするJosh Johnsonについてはよく知らないが,この人もジャンルを超越した音楽をやる人らしいから,こういう音楽になるのかもなぁと思ったが,それにしてもゲストに迎えるジャズ界の面々も多士済々であるが,基本的に尖った人が揃っていて,さもありなんってところである。

私好みの彼女らしいヘヴィーなファンクという感じではないが,より幅広く多様な音楽を実現したアルバムは称賛に値するものと思う。70分を越す大作にもかかわらず,全くダレることのない,このトータルな素晴らしさに対して星★★★★★としてしまおう。やっぱり凄いわ。YouTubeにアップされている"Clear Water"の映像を貼り付けておこう。カッコいいねぇ。

Personnel: Meshell Ndegeocello(vo, b, key, omnichord), Josh Johnson(sax, vo), Jebin Bruni(p, key, org, vo), Chris Bruce(g, b, vo, prog), Abe Rounds(ds, perc, vo) with Jeff Parker(g), Julius Rodriguez(key, org), Cory Henry(p), Jason Moran(p), Daniel Mintseris(key), Jake Sherman(key, b, vocoder), Joel Ross(vib), Ambrose Akimusire(tp), Brandee Younger(harp), Burnis Travis II(b), Deantoni Parks(ds), Andrya Ambro(ds), Mark Giuliana(ds), Justin Hicks(vo, key, prog), Kenita Miller(vo), Jade Hicks(vo), Sanford Bigger(vo), Joan as Police Woman(vo), Thandiswa Mazwai(vo, spoken words), Marsha DeBoe(vo), Hanna Benn(cho) 

2023年6月22日 (木)

ブート屋のブログを見ていて,Ralph TownerとGary Peacockデュオのブートレッグを思い出す。

_20230618-3 "Wien 2000" Ralph Towner / Gary Peacock (Bootleg)

先日,某ブート屋のブログを見ていたら,この二人の演奏に関する記述があって,そう言えば,以前別の演奏だがこの二人のブートを買ったなぁってことで,久しぶりに聞いてみた。

ジャケからして,ECMからのアルバム"Oracle"をぼやかしたようなデザインもブートらしくて笑えるが,2000年にウィーンで録音されたこの演奏は,おそらくは放送音源であるため,音質的なクォリティも高く,繊細なこの二人のデュオを聞くのにも何の問題もない。演奏される曲は"Oracle"のリリースを受けてのものと思われ,アルバムからのレパートリーも結構やっている。しかも1曲目は"Nardis"で,締めは"I Fall in Love Too Easily"である。悪いはずなし。

ブートとは言え,ここでのGary Peacockのベースを聞いていると,誰かさんのようなアンプで増幅した下品な音とは全く無縁の,ベースの楽器としての本質とも言うべき音で鳴らしているのが素晴らしい。そしてRalph Townerはいつもながらのと言うべきギターである。やっぱりこの人,好きだなぁと改めて思ってしまった。

いずれにしても,ブートレッグの世界は広いよなぁと思うが,一体どれぐらいの人間がこういうのを買ってるんだろうねぇ...(笑)

Recorded Live at Radiokulturhaus, Wien, Austria on January 29, 2000

Personnel: Ralph Towner(g), Gary Peacock(b)

2023年6月21日 (水)

Banksia Trioの第3作がリリース。相変わらずいいねぇ。

Masks"Masks" Banksia Trio (TSGW)

須川崇志率いるBanksia Trioの新作が待望のリリースである。昨年末に武蔵野市民文化会館での彼らのライブを観に行った時(その時の記事はこちら)に,既にレコーディング済みという情報は聞いていたから,それから約半年待ってのようやくのリリースとなった。このトリオ,日本人のピアノ・トリオとしては強烈な美学を感じさせるだけに,これまでの2枚も素晴らしかっただけに,今回も大いに期待して聞いた。そして思ったのが,やはりこの人たち,只者ではないということだ。

このオーセンティックなフォーマットから奏でられる音楽をブラインドで聞いて,日本人のトリオと思うリスナーがどれぐらいいるだろうかというぐらいの美学を感じさせる演奏は,ECMの総帥,Manfred Eicherに聞かせたいと思ってしまうぐらいだ。曲も菊地雅章の"Drizzling Rain"をやっていたり,Paul Motianのオリジナルを2曲やっていたりと,ECMとの親和性を感じさせるのだ。更にNick Drakeの"Bird Flew by"とかをやってしまうというのも,本当にセンスがいいねぇと思ってしまう。

オリジナルにそうした曲を交えて演奏されるアルバムにおいて,唯一のスタンダード"I Should Care"は昨年末のライブでもやっていたが,主旋律のメロディ・ラインはスタンダードだと思わせるものの,彼らなりの解釈が施されていて,これも一筋縄ではいかない。しかし,これまでの作品同様,清冽なとしか言いようのない美学とリリシズムを感じさせる演奏は今回も健在であり,本当にレベルの高いトリオだと思わせるのだ。今回も実に素晴らしいアルバムであり,このレベルの高さに星★★★★★としてしまおう。いやいやお見事でした。

Recorded in October 2022

Personnel: 須川崇志(b, cello), 林正樹(p), 石若駿(ds)

2023年6月20日 (火)

Lee Ritenourは好きだが,このアルバムは微妙だなぁ。

_20230618 "On the Line" Lee Ritenour (JVC→GRP)

私は結構なLee Ritenourのファンであることは,以前からこのブログにも書いている。セッション・ミュージシャンとしても一流だし,リーダー・アルバムのクォリティも平均的に高いから,アルバムが出ればついつい買ってしまう人である。しかし,私も彼のアルバムをすべて保有している訳でもないし,その全てがいいと思っている訳でもない。

このアルバムはJVCがLee Ritenourのダイレクト・カッティングのシリーズの1枚としてリリースしたものだが,私が保有しているのがGRPから出たCDであり,そもそも初出の時も買っておらず,後年中古でゲットしたもので,私の中ではLee Ritenourのアルバムとしては優先順位は低い。演奏そのものはいつものクォリティと言ってもよいかもしれないが,このアルバムの私にとっての難点は,曲として印象に残るものがない点,更にかなりポップな感じがして,Lee Ritenourらしい切れ味鋭いスリリングなソロが影を潜めていることのように感じる。まぁ,このジャケでも損をしている感覚は否めないが。

まぁ,このアルバムがリリースされたのは"Rit"やら"Rit 2"がリリースされた後ぐらいだから,Lee Ritenourのポップ度が高まっていた頃ではあったが,どうせポップな感じなら私は"Rit"ぐらいやってくれた方がよかったと思っている。

いずれにしても,このアルバムはたまたまクロゼットから引っ張り出しっぱなしになっていたものだが,私の趣味からすれば,クロゼットにしまわれても仕方ないってところを感じさせるものであった。星★★★。

Recorded in March 1983

Personnel: Lee Ritenour(g), Dave Grusin(key), Don Grusin(key), Greg Mathieson(key), Anthony Jackson(b), Nathan East(b, synth-b), Harvey Mason(ds), Ernie Watts(sax), Steve Forman(perc), Lennie Castro(perc)

2023年6月19日 (月)

「アラビアのロレンス」を大スクリーンで観る至福。

Lawrence-of-arabia 「アラビアのロレンス ("Lawrence of Arabia")」(’62,英,Columbia)

監督:David Lean

出演:Peter O'Toole, Alec Guiness, Omar Sharif, Anthony Quinn, Anthony Quail, Jack Hawkins, Claude Rains

「午前十時の映画祭」というのはつくづくいい企画だ。見逃していた映画,あるいは昔観た映画を大スクリーンで改めて観ることができるのは,長年の映画好きにとっては嬉しいものである。そして今回観に行ったのが「アラビアのロレンス」である。

私がこの映画を初めて観たのは私が中学生時代に遡る。その時は今はなき大毎地下劇場で何かとの2本立てで観たはずだ。大毎地下劇場というのは所謂二番館なので,小遣いの少ない中学生が二本立てで映画を観ることができるのは実にありがたかった。以前にも書いたように思うが,当時私がよく通っていたのは大阪なら大毎地下劇場,戎橋劇場,三宮ならスカイシネマ,あるいは阪急文化辺りであったと記憶する。

大毎地下は二番館ゆえ,スクリーンは小ぶりであったが,それでもこの映画の砂漠のシーンの美しさは息を呑むようなものであったことは鮮烈に覚えていたし,その後,LDやDVDでも繰り返し観てきたから,ストーリーはお馴染みである。しかし,今回は本当の大スクリーンで観られるとなれば,これは行かない訳にはいかない。

着席して,上映時間になると,場内が暗転して,「序曲」が流れた後に本編上映が始まるというスタイルは,私のような年代には何とも懐かしい感じがした。

そして,やはりこの映画は砂漠のシーンこそが最大の見せ場であったと改めて思ったが,全編を通しで観たのは実は久しぶりだった。そのため,細部についてはそうだったっけ?と思わせる部分もあったが,それにしても凄い映画だったと改めて感じた私である。映画としてはかなり長い作品(何てたって途中休憩だってありだ)だが,はっきり言ってしまうと,私は前半(特にアカバ攻略辺りまで)の方が好きだ。とは言え,ドラマとしてはPeter O'Toole演じるLawrenceが狂気を帯びてくる後半部がなければ,やはり話にならないというところだ。いずれにしても,この映画には星★★★★★しかなかろう。

それにしても,Peter O’Tooleはオスカーの主演男優賞に8回ノミネートされて,1回も受賞できなかったのは可哀想だったなぁって気がする。この映画で受賞してもよかったが,その年は「アラバマ物語」のGregory Peckに敗れた。しかし,本作で鮮烈な印象を残したことは言うまでもなく,名優と呼ぶに相応しい人であった。

余談ではあるが,上掲のポスターはオリジナル公開の時のものらしいが,何とも時代を感じさせる。さて,次は何を観に行くかねぇ(笑)。

2023年6月18日 (日)

Joe HenryプロデュースによるAimee Mannのコンセプト・アルバム。

Forgotten-arms"The Forgotten Arm" Aimee Mann (SuperEgo)

歌手としてはもちろん,プロデューサーとしてのJoe Henryに対する信頼度が高い私だが,全てがもろ手を挙げて素晴らしいというものではない。なかには何だかなぁ...という作品もあることは事実である。ではこの2005年のAimee Mannのアルバムはどうだったか?

このアルバムは明確なストーリーがあって,それを歌曲化したものであり,主題の通りコンセプト・アルバムと言ってよいものだ。しかも通常,Joe Henryのアルバムは,言わばJoe Henry組とでも言うべきミュージシャンがバックを務め,短期間でアルバムを完成させるというスタイルを取っているが,このアルバムではそうしたミュージシャンの参加がJay Bellroseが数曲,Chris Bruceが1曲だけに留まっているので,いつものJoe Henryプロデュース作品とは一線を画すものと言ってよいかもしれない。

そうしたことにこだわらずに聞いても,Aimee Mannの歌や声は魅力的だし,曲もいいと思えるが,やはりJoe Henryがプロデュースをする必然性があまり感じられない。むしろ,実質的なプロデューサーはAimee Mann自身であって,Joe Henryはアドバイザー的な立場にあったのではないかと思えてしまうのだ。アルバムとして捉えれば不満はないのだが,ここでJoe Henryが果たした役割にはやや疑問が残ることもあって,星★★★★。あと,コンセプトを具現化するという意味で必要だったかもしれないが,このアルバムはジャケで損していると思える。

Personnel: Aimee Mann(vo, g), Jeff Trott(g, mandolin), Chris Bruce(g), Julian Coryell(g), Jebin Bruni(key), Paul Bryan(b, vo), Jay Bellerose(ds, perc), Victor Indrizzo(ds, perc), West End Horns <Mark Visher(ts). Jason Thor(tb), Wilie Murillo(tp)>

2023年6月17日 (土)

有給休暇取得推奨日に見た「ウーマン・トーキング 私たちの選択」。時代の反映だ。

Woman-talking 「ウーマン・トーキング 私たちの選択("Woman Talking")」('22,米,Universal)

監督:Sarah Polley

出演:Roony Mara, Clair Foy, Jessie Buckley, Judith Ivey, Emily Mitchell, Ben Whishaw, Frances McDormand

私の会社は有給休暇の取得が進まないことを問題視し,基本この日は休めという日が設定されている。そういう機会を狙って私は映画を観に行くことが多いのだが,今回はこれである。

ストーリーからすれば,#MeTooの時代を反映したものと思える内容なのだが,女性の権利を重んじようとするテーマには異論はない。だが,時代設定を2010年とするのはどうなのよと思ってしまう部分は否定できないが,ボリビアであった本当の話に基づくというのだからこれは驚きだ。とは言え,舞台を敢えてアメリカでなく,南半球に設定するところに私は潔さを感じない。自分のロケーションから方角を知るために,アメリカだったら北斗七星と北極星を使えばいいものを,もとがボリビアの話だからと言って,この映画で「南十字星を使う」ところははっきり言って気にいらない。脚色するにももう少しやり方があってもいいばずだ。

私はリベラルな人間なので,この映画を否定するつもりはないが,敢えてなんでそういう設定?というのは非常に気になるところで,その辺りの落とし前をちゃんとつけて欲しいよなぁとも思っていた私であった。テーマは明確なのだから,設定で逃げて欲しくないと思うのだ。

それにしてもテーマがテーマだし,タイトルが物語るように,ほとんどの場面が女性しか出てこない映画で,例外がBen Whishawなのだが,その演技が泣かせる。かつ,プロデューサーも兼ねて一番リベラルそうなFrances McDormandが最も保守的な役割を演じるというのも面白かった。

まぁそれでもこれはかなりシリアスなテーマだし,エンタテインメントと考えてはいかんと思っていた私であった。真面目に作られた真面目なテーマの映画。ラスト・シーンは現実ならそう簡単にはいくまいと思ってしまったが,それでも星★★★★には値する映画であった。

2023年6月16日 (金)

久しぶりに聞いたRichie BeirachによるBill Evansトリビュート盤。

Elegy-for-bill-evans "Elegy for Bill Evans" Richie Beirach (Trio)

Bill Evansが1980年9月に亡くなって,その翌年吹き込まれたのがこのトリビュート・アルバム。Bill Evans所縁の曲をRichie Beirachが演奏するというのは,ベタな企画と言えばベタなのだが,それでもRichie Beirachだけにやはりこれは気になるアルバムであった。

私はこのアルバムをアナログで保有しており,多分中古で仕入れたものと思うが,その経緯に関する記憶は残っていないので,どこでどうして買ったのかは覚えていない。あるいは父の遺品だったかもしれない。今回,久々にプレイバックすべく取り出してみて,メンツを見たら,同年後半に吹き込まれるQuestの1枚目のリズム隊ってことに今更ながら気づいた私である。

Richie Beirachは"Hubris"のようなアルバムを聞いていると,リリシズムの塊のような人のようにも思えるが,Dave Liebmanと共演歴が長いことからしても,ハードな演奏もOKであり,このアルバムにおいても,リリカルな部分とハード・ドライヴィングな部分が同居していて面白く聞いてしまった。ハードな部分はAl Fosterのドラミングによるところも大きいかもしれない。

岡崎正通のライナーによれば,Richie Beirachは,Bill Evans最後のライブ演奏となった1980年9月10日のFat Tuesday'sでの演奏に立ち会っていたらしいので,思い入れも一層ということになろうかと思うが,全編を通じて,故人への畏敬の念を感じさせる好演奏集であった。併せて,私のしょぼいオーディオ・セットで聞いても,David Bakerによる録音は優秀だと思う。星★★★★☆。

Recorded on May 12, 1981

Personnel: Richie Beirach(p), George Mraz(b), Al Foster(ds)

2023年6月15日 (木)

Red Mitchellの初リーダー作:Lorraine Gellerを聞くためにあると言ってはリーダーに失礼か。

Red-mitchell-quartet "Red Mitchell Quartet" Red Mitchell (Contemporary)

若くして亡くなったLorraine Gellerは素晴らしいピアニストだったと思う。彼女が旦那のHerb Gellerと吹き込んだEmArcyのアルバムも長年愛聴してきた私だが,それ以外で彼女のピアノが聞けるアルバムはそれほど多くないという印象だ。本人のリーダー作("At the Piano")や,旦那も参加しているMaynard Fergusonのアルバム以外では,Lighthouse All Starsでの音源と本作ぐらいしかレコーディングが残っていないというのは実にもったいない。

そんなこともあって,私がこのアナログ盤を中古でゲットしたのは随分前のことではあるが,その動機がLorraine Gellerのピアノにあったというのが正直なところだ。ということで,久しぶりにこのアルバムを聞いてみたのだが,さすがContemporaryレーベルと言うべき音のよさに改めてびっくりしてしまった。明らかにBlue Noteとは異なるエンジニアリングって感じで,実にクリアに音が捉えられている。だから,Red Mitchellのベースはもとより,全ての楽器の音の粒立ちがよいのだ。こういう音で聞くLorraine Gellerのピアノがまたいいねぇと思ってしまう。

Presenting-red-mitchell いかにもウエスト・コーストって感じの軽快さすら感じさせるアルバムで,久しぶりに聞いても大いに楽しんでしまった私であった。このアルバムを歴史的名盤と言うつもりはないが,ジャズのよさを感じさせてくれる佳作と呼んでよいだろう。星★★★★。

尚,私が保有するアルバムは"Red Mitchell Quartet"というタイトルだが,オリジナルは写真は同じながら,タイトルが"Presenting Red Mitchell"というものらしい(そっちのジャケ写真もアップしておく)。いずれにしても,ベースに乗っかる猫が可愛いねぇ。

2023年6月14日 (水)

The Jesus & Mary Chain:私が唯一保有する彼らのアルバム。でも結構好きなのだ。

_20230612 "Stoned & Dethroned" The Jesus & Mary Chain (Blanco y Negro)

このブログの読者の皆さんからすれば,私とThe Jesus & Mary Chainはなかなか結びつかないのではないか。ジャズを最も愛好し,ロックならアメリカ指向が強い私からすれば,そう思われても仕方がない。よって,私が保有する彼らのアルバムは主題の通り,本作だけなのだ。ではなんでこのアルバムを購入する気になったのか。

このアルバムがリリースされたのは1994年に遡るが,その当時の記憶を辿ってみると,私の記憶が確かなら,このアルバムを購入したのはかつて伊勢佐木町にあったVirgin Megastoreにおいてだったはずである。当時,私は関内のDisk Unionで中古盤漁りをしつつ,新譜を見に近くにあったVirgin Megastoreに行くという行動をよく取っていた。ネットが普及する前であるから,情報やソフトは足で稼ぐというのが基本だったのだ(笑)。

それでもって,当時の店頭でこのアルバムが新譜としてプレイバックされていたのを気に入って,その場で購入したはずである。このバンドのほかのアルバムは全然聞いていないが,ノイズ/シューゲイザー的な音だということで,ほかのアルバムまで聞くということはなかったのだが,このアルバムに関して言えば,比較的短めの曲を中心に,魅力的なメロディ・ラインに一聴き惚れしてしまったって感じだったはずだ。だって,どんなバンドかもその当時は全然知らなかったので,このアルバムを店頭で聞いた感覚を信じて買ったはずなのだ。

このバンドのファンからすれば,このアルバムというのは彼らの本質から外れたところに位置するのかもしれないが,約30年前の私には魅力的に響いたのは間違いないし,今聞いてもいい曲が揃っていると思う。意外なところに意外なアルバムって感じかもしれないが,好きなものは好きなのだ。星★★★★☆。

Personnel: Jim Reid(vo, g, b), William Reid(g), Ben Lurie(b, g, org, hca), Steve Monti(b, hca), Hope Sandoval(vo), Shane MacGowan(vo)

2023年6月13日 (火)

録りだめしていたビデオから,「ある愛の詩」を生まれて初めて観た(笑)。

Love-story 「ある愛の詩 ("Love Story")」(’70,米,Paramount)

監督:Arthur Hiller

出演:Ali MacGraw, Ryan O'Neal, Ray Milland, John Marley

私には全く不向きな映画である(爆)。私の映画の嗜好からは完全に外れていると言ってもよいので,この歳になるまでこの映画をフルで観たことは一度もなかったのだが,録りだめしてあったビデオにあったので,週末に観たもの。ポスターにも書かれている「愛とは決して後悔しないこと("Love means never having to say you're sorry.")」というセリフは私でも知っているというものだが,今回映画本編を見て,このセリフが2度登場していたってことも初めて知った。

端的に言ってしまえば,普通の恋愛映画が,突如として病魔によるメロドラマに転じるというもので,ストーリーとしては天邪鬼な私には「ふ~ん」という程度のものだが,ケンブリッジやNYCの冬景色は印象に残る映画であった。ただ,オスカーの主要部門にノミネートされるような作品かと言えば,決してそんな作品だとは思えない(因みにその年に作品賞を獲ったのは「パットン大戦車軍団」)。しかし,こうしたシンプルなストーリーが受け入れられたのは,ベトナム戦争に対する厭戦気分ではなかったのかと今にして思えたのも事実である。

そうした時代だったのだなぁと思えば,なるほどって感じられる映画ではあるが,私としては一応観ましたって感じで終わりである。冗長なアイスホッケーのシーンとかも,あんなに尺がいると思ってしまったってのも正直なところ。この映画,主役2人が中心であることは当然だが,私にはAli MacGrawの父親Philを演じたJohn Marleyがよかった。完全に娘を持つ親の感覚だな。まぁそれでも星★★★ってところで十分だと思う。

尚,この映画には若き日のTommy Lee Jonesが出ていたってエンド・ロールを見て気づいたが,本編中は全く気づいていなかった(爆)。

2023年6月12日 (月)

Brad MehldauとIan Bostridgeの"The Folly of Desire":至極真っ当な歌曲集である。

Folly-of-desire_20230610090301 "The Folly of Desire" Brad Mehldau / Ian Bostridge (Pentatone)

このアルバムがデリバリーされて,何度か聞いているものの,記事化することを躊躇していた。なぜなら,このアルバムはクラシックのリートの手法に則った真っ当な歌曲集だったからだ。正直言って,私はクラシックの歌曲に関しては,Peter SchreierとKonrad Ragossnigのギターによる「美しき水車小屋の娘」しか保有していないというのが実態なのだ。一方,Brad MehldauとRenée Fleming, Anne Sofie von Otterの共演盤は保有していても,滅多に聞かないというのも事実なので,こういうアルバムの評価は正直難しいのだ。

このアルバムにおいては11曲で構成された”The Folly of Desire"がメインで,それに続く5曲はコンサートであればアンコール的な位置づけになると思われる。その5曲中4曲はジャズ・スタンダードと呼んでよいものであり,もう1曲はIan Bostridgeが得意とするであろうシューベルトの「夜と夢」である。なので,このアルバムを評価する際にはタイトル・トラックからというのが筋だ。

ここでのテキストはシェークスピア,ブレイク,イェーツ,ゲーテ等から構成され,それにBrad Mehldauが曲をつけ,ピアノ伴奏をするものだが,ピアノの響きは実に美しいと思う。Ian Bostridgeのテナーは,いかにもテナーらしい歌唱でそれに応えているが,以前,このアルバムに関する記事にも書いた通り,真面目に作られているがゆえに,こっちもついつい身構えてしまうというのが正直なところだ。更に"A song cycle inquiring the limits of sexual freedom in a post-#MeToo political age"というテーマからして小難しく(笑),こっちもどういうことなのかとついつい考えてしまうのだ。だから,後半のアンコール・ピース的な曲の方が,メロディ・ラインにも馴染みがあって,気楽に聞けてしまうのは仕方ないところだろう。ただ,シューベルトとジャズ曲のBostridgeの歌い方の違いには戸惑う部分もある。

私はBrad Mehldauのこういうチャレンジは応援したいとも思うものの,必ずしも成功しているとは思っていない。そうした中では,本作はまだいいと思えるが,それでも越境はそこそこにしておいて,また私たちを痺れさせるようなジャズ・アルバムの制作を期待したくなってしまう。ということで,星★★★★ぐらいにしておこう。

Recorded in July, 2022

Personnel: Ian Bostridge(vo), Brad Mehldau(p)

2023年6月11日 (日)

こんなのもありました(笑):Rubén Bladesのライブ・アルバム。

_20230609 "Live!" Rubén Blades y Son Del Solar (Elektra)

私はサルサの真っ当な聞き手ではないが,ほんのわずかながらCDは保有している。これはそんな一枚。Rubén Bladesは今や政治家となって,音楽界からは引退しているとのことだが,80年代から90年代にかけて非常に人気のあった人である。本作はそのRubén Bladesが自己のバンド,Son Del Solaと吹き込んだものだが,収録されたのがNYCのLone Star Roadhouseである。私の記憶が確かなら,このヴェニューはミッドタウンにあって,様々なジャンルのミュージシャンが出演していたはずで,私にとっての初めてのTribal Techのライブはここで観たと思う。そんな場所だから,Rubén Bladesのようなサルサのミュージシャンが出ても不思議ではない。

そんな演奏の中で,典型的サルサって感じの音が続くが,例えば2曲目の"Cuentas del Alma"や7曲目の"Ojos de Perro Azul"なんかは,よりコンテンポラリーな感覚が強いもので,新しい基軸も取り入れていることがわかると言ってよいと思う。それは4曲目の"Pedro Navaja"のベース・ライン等にも感じられる。いずれにしても楽しい音楽であるが,私としてはサルサを聞くならもっとオーセンティックでもいいかなぁってのが正直なところなので,半星引いて★★★★としよう。まぁ,たまにはサルサも楽しいね。

因みにここでドラムスを叩いているのがRobert Ameenであるが,この人はDave ValentinのBlue Noteでのライブ盤に参加していたり,自身のリーダー作にはWayne Krantzが参加していたりと,なかなか面白い人である。振り返ってみれば,そのリーダー作をこのブログでも取り上げていたのであった(笑:記事はこちら)。

Recorded Live at Lonestar Roadhouse, NYC on October 29 & 30, 1989

Personnel: Rubén Blades(vo), Oscar Hernández(p), Mike Viñas(b), Ralph Irizarry(timbales), Edwin "Eddy" Montalvo(congas), Arturo Ortiz(synth), Robert Ameen(ds), Roger Páiz(bongos), Marc Quiñones(congas), Angel "Papo" Vázquez(tb), Reinaldo Jorge(tb), Leopoldo Pineda(tb)

2023年6月10日 (土)

Antonio Sanchez@Cotton Club参戦記。

Bad-hombre

Antonio Sanchezのバンド,"Bad Hombre"のライブを観るために,Cotton Clubに行ってきた。Blue Noteでの2日間の後に,ヴェニューをCotton Clubに移してのライブとなったが,私はライブハウスとしてのサイズはCotton Clubの方が好きなので,この2つのヴェニューでの公演がある場合は,基本的にCotton Clubを選ぶことにしている。ということで,今回もCotton Clubである。

私はAntonio Sanchezのアルバムは基本購入しているが,今回のライブで演奏される"Shift: Bad Hombre Vol. II"とその前作,"Bad Hombre"はストリーミングで聞いただけである。それでもこの人のライブには行きたいと思わせる魅力があるのも事実。彼のバンドは2015年,2017年に続いて3度目の参戦となった。

今回のライブでは最新作"Shift: Bad Hombre Vol. II"の曲を演奏するというものであったが,同作が様々なミュージシャンとのコラボ作というものであったものを,Antonio Sanchez曰く,このクァルテット向け"Re-imagine"するものだと言っていた。アルバムでは多様な歌手もいたところをThana Alexa一人でこなすというのも大変だと思うが,そこはシークェンサーやエフェクターを駆使して補うというものであった。

演奏は非常にタイトかつスリルに満ちたものだったと思うが,やはりこのバンド,Antonio Sanchezの叩き出すほとんどパルスと言いたくなるようなリズムが屋台骨となって,BIGYUKIのキーボード/ピアノ,Lex Sadlerのベース/Moogベースが色彩を加えるという感じか。そしてほぼ歌い続けるThana Alexaで,まじで体力あるわと思ってしまった。中でもNine Inch NailsのTrent Reznor,Atticus Rossとのコラボ作"I Think We're Past that Now"はもはやラウドなロックの世界で,思わず興奮した私である。やはりこのバンドにはおとなしい響きよりも,激しい音場が似合う。BIGYUKIのキーボードはほぼフリーの領域に入ったと思わせる瞬間と,メロディアスなラインを聞かせる瞬間が混在する多彩さも面白かった。

尚,上の写真はBlue Noteのサイトから拝借したものだが,規模がやや小さいCotton Clubでは写真のようなステージへの映像投射はなかったが,音楽に集中するにはその方がよかったようにも思える。いずれにしても,Antonio Sanchezの叩きっぷりには目が点になっていた私だが,改めて大したミュージシャンだと思ってしまった。

(追記)Cotton Clubのサイトにも写真が上がっていたので,そっちも貼り付けておこう。Blue Noteとの雰囲気の違いが大きい。

Live at Cotton Club on June 8, 2023

Personnel: Antonio Sanchez(ds), Thana Alexa(vo, perc), BIGYUKI(key, p), Lex Sadler(b, moog-b)

Antonio-sanchez-at-cotton-club

2023年6月 9日 (金)

私が保有する唯一のAstrud Gilberto名義のアルバム。

_20230608 "The Astrud Gilberto Album" Astrud Gilberto (Verve)

亡くなったAstrud Gilbertoを偲んでということで,取り出したのがこのアルバムである。正直言って,歌手としてのAstrud Gilbertoをあまり評価していない私としては,基本Stan Getzとの共演盤しか興味の対象にならないが,唯一の例外として保有しているが本作。

"Getz / Gilberto"がヒットして,急遽制作されたと思しきAstrud Gilbertoの初リーダー作なのだが,まぁ並んでいる曲のよさゆえに保有していてもいいかなぁって感じで購入したはずだ。だからと言って,私が不勉強なだけだが,全部が全部有名曲って訳でもない(と思う)。その一方で,Antônio Carlos Jobimも全面参加というのもポイントになったと思う。付帯している帯を見ると,再発されたのは98年だからもはや四半世紀前だが,それ以来何度プレイバックしたかは正直疑問。

まぁ,ボサ・ノヴァの名曲をAstrud Gilbertoのアンニュイな感じのヴォーカルで歌われれば,雰囲気は出るよなぁと思うし,ここではBud Shankほかのホーンに加えて,ストリングスまで付いてくるってことで,かなり力の入った作りであった。しかもアレンジャーはMarty Paich。さすが策士Creed Taylorである。11曲収録で29分にも満たないというのは,現在の感覚で言えばEPか!って感じでいかにも短いが,Astrud Gilbertoの歌唱を考えれば,この程度が丁度よかったという気もしてくる。

いずれにしても,歌唱や演奏を聞いていると,1960年代半ばという時代を感じさせるが,気楽に聞くには丁度よいってところだろう。尚,アルバムのクレジットにはドラマーの表記がないが,DiscogsによるとLulu Ferreiraらしい。

Recorded on January 27 & 28, 1965

Personnel: Astrud Gilberto(vo), Antônio Carlos Jobim(g, vo), João Donato(p), Joe Mondragon(b), Bud Shank(fl, as), Stu Williamson(tp), Milt Bernhart(tb)

2023年6月 8日 (木)

追悼,Astrud Gilberto。

Astrud-gilberto1-2

Astrud Gilbertoが亡くなった。私は正直言って彼女の歌唱力には疑問を感じており,このブログでも時に辛らつに評価したこともあるが,それでも"Getz / Gilberto"への参加によって,歴史にも記憶にも残ることになったことは事実だ。決して偉大な歌手だったとは思わないが,ボサノヴァのイメージを高めたことへの貢献については忘れるべきではない。

R.I.P.

2023年6月 7日 (水)

コレクターはつらいよ(28):ラジオ番組出演時の記録。

_20230605"Morning Becomes Eclectic" Various Artists (Mammoth)

本来ならIan Bostridgeとの共演盤についてさっさと書くべきだが,横道に逸れて久しぶりのこのシリーズである。実はこのアルバムについては既にちらっと記事に書いたことがある(記事はこちら)。その時の記事はBrad Mehldauのプロモ盤に関する記事だったが,そこでこのアルバムに触れている。これは米国西海岸のFMステーション,KCRWの人気番組"Morning Becomes Eclectic"に出演時の音源が収められたものなのだが,Brad Mehldauの音源は"Exit Music"のみである。この1曲のために本作を購入するのだから,「コレクターはつらいよ」なのだが,辛いことばかりとは言えない。

このアルバムが出たのは今から四半世紀前に遡るが,この番組は今も続いている大長寿番組であり,音楽界においては相当有名な番組であろうことは,このコンピレーションのみならず,何枚か出ているこのシリーズに参加しているミュージシャンを見ればわかる。ここには入っていないが,別のアルバムにはJoni Mitchell,James Taylor,更にはPatti Smithの音源も入っている。本作も一見脈絡のない組合せではあるが,実力を備えたミュージシャンが収録されていることから,番組の審美眼がわかるというものだ。

Brad MehldauはLarry Grenadier,Jorge Rossy時代のトリオでの出演で,ここでも痺れるような演奏を聞かせてくれるが,それ以外にも私を刺激する音源が入っている。例えばJohn Martyn。John and Beverley Martynの夫婦デュオによる"Stormbringer!"というアルバムを本ブログでも取り上げた(記事はこちら)ことがあるが,ここでの歌唱の渋いこと,渋いこと。これが本当によい。そのほかには現在はPaul McCartneyのライブ・バンドでギターを弾くRusty Andersonが参加していたEdnaswapなんて,今まで聞いたこともなかったが,実に魅力的なバンドだったって今更のように気づいているのだから,私もいい加減な聞き方をしているのがバレバレだ。そのほかにBeth Ortonとか,PJ Harveyとかもいいねぇ。

しかし,改めて聞いてみて,そういう気づきを与えてくれるのだから,それはそれでよかったと思っている。コレクターはつらいが,それでも未知の音楽との出会いを与えてくれるチャンスがこういうコンピレーションにはあるってことで。

2023年6月 6日 (火)

Bruce Cockburn,78歳にしてまだまだいけている。

_20230531 "O Sun O Moon" Bruce Cockburn (True North)

Gordon Lightfootが亡くなった今,カナディアン・シンガーソングライターとしてはBruce Cockburnの存在感は更に高まるはずだが,そのBruce Cockburnの新作がリリースされた。

そのBruce Cockburnも既に78歳の後期高齢者であるが,歌唱にしても,ギターにしても全然衰えを感じさせないのがまずは素晴らしい。そして,この渋さにはこの手の音楽好きは痺れるに違いない。同じくカナダ出身のColin Lindenのプロダクションもよろしく,ほぼ固定されたバックのメンツの演奏も魅力的であり,ゲストも適材適所という感じでの貢献度も嬉しい。

もはやカナダの人間国宝と言いたくなるようなBruce Cockburn。渋過ぎっちゃ渋過ぎだが,それでも星★★★★☆。1曲インスト曲の"Haiku"ってのが入っていて,「俳句」ってなんでやねん?という感じの曲なのだが,このギターはやっぱりうまい!と思わせる。尚,2枚組LPにはボートラが4曲入っているらしい。そっちを買っておけばよかった,と言っても後の祭り(苦笑)。

しかし,以前仕入れたBruce CockburnのCD8枚組+DVDのアンソロジー"Rumours of Glory"はいつになったら聞くのやら。まぁ,老後の楽しみだな(爆)。

Personnel: Bruce Cockburn(vo, g, dulcimer), Colin Linden(g, vo), Viktor Krauss(b), Gary Craig(ds, perc, glockenspiel), Chris Brown(ds), Jeff Taylor(accor, dulceola), Jim Hoke(marimba, cl, b-cl, sax), Jenny Sheinman(vln), Sarah Jarosz(mandolin, vo), Janice Powers(org),  Shawn Colvin(vo), Ann & Rigina McCrary(vo), Buddy Miller(vo), Alison Russell(vo), Susan Agulkark(vo)

2023年6月 5日 (月)

Brad Mehldauの更なる越境。でもまだ評価するほど聞けていない。

Folly-of-desire Brad Meldauがジャズの世界を越境して,クラシックにアプローチするというのは今に始まった話ではない。これまでもRenée Fleming, Anne Sofie von Otter等のクラシック界の歌手陣との共演に加え,オルフェウス室内管弦楽団との共演や,ピアノ協奏曲の作曲もあって,ジャズの枠に留まらない活動は広く知られてきたことである。

私はBrad Mehldauのコンプリートを目指す(あくまでも公式音源であって,原則としてブートレッグは含まないが...)人間であることはこのブログにも書いてきた。上述のアルバムももちろん保有しているが,決してプレイバックの頻度は高くはない。私が痺れているのはあくまでもジャズ・ピアニストとしてのBrad Mehldauなのだから,それはそれで当然なのだ。正直言ってピアノ協奏曲は成功したとは思えないし,オルフェウスとの共演盤も微妙な感覚を覚えた。私はどうせ越境するならクラシックよりロックじゃねぇのか?と思っているのが正直なところなのだが,それでも新たな音源が出れば聞かざるをえないし,買わざるをえないのだ。

それでもって,今回のお題はテノール歌手,Ian Bostridgeとの共演盤である。この二人の共演はこれまでコンサートという形態で行われてきたものだが,それが正式にレコーディングされたものである。私としては,まだ十分に聞けていないので,内容については改めて書くが,表題曲は11曲から構成される組曲で,作曲はBrad Mehldauだが,詞はシェークスピアとか,イェーツとか,ゲーテとかいちいち敷居が高い(爆)。

これを面白いと感じられるかどうかは私自身まだわからないので,もう少し聞き込んでから改めて記事にすることとしたい。でもこれって真面目に作っていることはわかるが,この生真面目さは多少重荷と感じる向きもあるのではないかと思う,というのが正直なところ。

2023年6月 4日 (日)

Peter Erskineのアメリカン・トリオも素晴らしいと実感させる"Badlands"。

_20230602 "Badlands" Peter Erskine (Fuzzy Music)

Peter Erskineという人はいかなるタイプの音楽もこなせてしまう万能ドラマーだと思うが,リーダーとしての資質も立派なもので,私はヨーロピアン・トリオ,アメリカン・トリオの双方を贔屓にしてきた。同じピアノ・トリオでも若干スタイルに違いが感じられる中,どちらも好きなのだ。

ヨーロピアン・トリオは97年の"Juni"をリリース後はアルバムは出ていなかったし,そもそもピアノのJohn Taylorも2015年に亡くなってしまった。アメリカン・トリオについては,ヨーロピアン・トリオを引き継ぐようなタイミングで活動が開始されたと思われるので,これが現在のPeter Erskineにとってのピアノ・トリオの基本だろう。ベースは初期のメンバーであったDave Carpenterが2008年に亡くなった後は,ポーランド出身のDarek Olesが引き継いでいる。余談だが,このDarek Olesのラスト・ネームはOleszkiewiczというもので,何と読むかもわからん!という中,それを略してOlesというのはまぁ妥当だろう。

本作はまだDave Carpenter存命中のアルバムであるが,これが実に素晴らしいアルバムである。ラストの"You And the Night And the Music"を除いて,メンバーのオリジナルが演奏されているのだが,落ち着いた中にも美的な部分も感じさせて,本当に心地よいのだ。三者による曲も,三者三様の魅力のあるもので,ミュージシャンとしての実力が表れている。Dave Carpenterが書いた"Boggie Shuttle Stop"はCharles Mingusの"Boggie Stop Shuffle"のもじりだろうが,全然タイプの違う音楽をやっていても,やっぱりMingusからは影響を受けているのねぇってことがわかって面白い。

このトリオ,三者すべての実力は高いことは間違いなく,聞きどころ満載なのだが,その中でも特筆したくなるのがAlan Pasquaのフレージング。本当に魅力的に響くピアノを聞かせてくれて嬉しくなってしまう。とてもAllan Holdsworthとバリバリのフュージョンをやっている人と同一人物とは思えないが,そうしたこともあって,このトリオのアルバムの中でも,一番好きかもしれない。星★★★★★。

これまた余談ながら,ジャケのサインはPeter ErskineがDr. UM BandでCotton Clubでライブをやった時にもらったもの。もうあれから7年以上経っている。光陰矢の如し。

Recorded on August 7 & 8, 2001

Personnel: Peter Erskine(ds), Alan Pasqua(p), Dave Carpenter(b)

2023年6月 3日 (土)

Coltrane~Dolphyのライブ音源が発掘された!

Evenings-at-the-village-gate 偶然にもアルバム"Impressions"を聞いている時に知った驚くべきニュースである。まだまだあるところにはあるのだなということで,1961年8月のVillage GateでのJohn Coltrane 4+Eric Dolphyという最強メンツによるライブ音源が発掘され,7月にリリースされるそうだ。先行公開されている"Impressions"を聞く限り,音は決してよくないが,そこでのColtraneのキレキレのフレージングを聞いていると,やっぱりこれは買わざるをえないってところだろう。首を長くしてリリース日を待つことにしたい。それにしてもジャケ写真に写る二人の横顔がカッコよ過ぎ。

2023年6月 2日 (金)

Mompouのピアノ曲を改めて聞く。いいねぇ。

_20230601 "Piano Music by Federico Mompou" Stephen Hough (Hyperion)

以前,このブログでStephen Houghが弾くMompouの「沈黙の音楽(ひそやかな音楽)」を取り上げた時に,その時の気分にマッチするピアノの響きが心地よく,90年代に同じStephen Houghが吹き込んだMompouのアルバムを発注したと書いた(その時の記事はこちら)。その時にはアルバムを現代音楽のカテゴリーに入れたのだが,所謂現代音楽が持つ小難しさは皆無であり,実に美しいピアノの響きを楽しめたのだが,このアルバムも同様である。

本作においてはMompouのピアノ曲でも比較的有名な曲を集めているようだが,選ばれたのが「歌と踊り」,「前奏曲集」,「魅惑」,「3つの変奏曲」,「対話」,「風景」等である。聞いていて思うのは,スペインの作曲家でありながら,スペイン風味というのがほとんど感じられないということだろうか。そしてアブストラクトな感覚もなく,「ドビュッシーの後継者」と評されたことも頷ける作風だと思えた。

それを弾いたStephen Houghの演奏はグラモフォン賞を受賞し,更にはペンギン・ガイドの最高評価であるRosetteに叙せられていることからしても,名盤の誉れ高いものというのはわかる。一方,私が知らないだけという話もあるが,いかんせんFederico Mompou自体がそれほどメジャーな存在ではない(だろう)から,私の周りではこのアルバムについて語る人を見たことはなかった。しかし,これだけ優れたピアノ音楽を聞かせてもらえば,実に幸せって感じで,改めてまだまだ修行が足りないと思ってしまった私である。ということで喜んで星★★★★★としよう。いずれにしても,Stephen Houghの「沈黙の音楽」と本作は長く聞くに値するアルバムだと言いたい。

Recorded on July 22 and 23, 1996

Personnel: Stephen Hough(p)

2023年6月 1日 (木)

オルタネイト版を聞くと,リリース版のクォリティの高さを実感するFleetwood Macの「噂」。

Rumours "Rumours" Fleetwood Mac (Warner Brothers)

最近,ストリーミングで70年代ロックとか,クラシック・ロックのランダム・プレイを聞いていると,このアルバムの曲に出くわすことが多い。Fleetwood Mac最大のヒット作にして,傑作という評価はゆるぎないものと思うが,聞けば聞くほど,それぞれの曲のクォリティの高さに驚かされる。

そこで,このアルバムのオルタネイト版(ボックスで仕入れたものの一枚)を聞いてみたのだが,やはりデモ・テイクや別テイクは,リリースされたバージョンと比べると,改善の余地が多々あると感じさせるものとなっている。完成テイクに近い出来の曲もあるものの,当たり前と言えば,当たり前だが,完成版のテイクは素晴らしくよいということを改めて感じさせられてしまった。やっぱりこれは傑作だったなと思わされた私である。当然星★★★★★。

Alternate-rumours オルタネイト版はオルタネイト版で,完成テイクとの違いを確かめつつ,彼らがどう改変していったかというのがわかって,面白いのは面白いが,普通のリスナーは手を出さなくてもいいってところだな。ジャケも別テイクってのは凝っているが...。

Personnel: Stevie Nicks(vo), Lindsay Buckingham(g, vo), Christine McVie(key, vo), John McVie(b), Mick Fleetwood(ds)

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