懐かしの"How's Everything"。
"How's Everything" 渡辺貞夫(Columbia)
これは実に懐かしいアルバムである。私はこのアルバムが収録された武道館にいた。時は1980年7月であるから,私は浪人生活真っ只中である。真面目に勉強しろや!という声も飛んできそうだが,まぁ息抜きである。そもそも関西育ちの私が東京で浪人生活を送っていたというのも,今にして思えば無茶苦茶な話だが,私としては現役合格する気満々だったし,従兄から下宿も引き継いでしまっていた。いずれにしても,私は母校以外の大学に行く気は一切なかったこともあり,関西の予備校に通うという選択肢はなかった。だからこそこのライブにも行くチャンスが生まれた訳だが,あくまでもそれは例外的なものであって,日頃は予備校と下宿間の往復,及びジャズ喫茶で本を読みまくるという生活をしていた。決してほめられた生活だったとは思わないが,今にして思えば懐かしい。
それはさておき,このアルバムに収めれらたライブは画期的なイベントであった。ジャズ・ミュージシャンが3日連続で武道館でライブをやること自体前代未聞,更には米メジャーのColumbiaレーベルと契約した渡辺貞夫の第1弾が本作だったはずである。だから,収められた曲はほぼこのライブのために準備された新曲だったはずだし,バックを務めるのがフュージョン界のスターと東フィルという豪華なものであった。そしてジャズ・ライブには珍しく,確か彼らはタキシードで演奏していたはずだ。
もはや40年以上の前の演奏ではあるが,私には同時代を過ごした感覚が残っているので,全然古いと思えないが,ナベサダのみならず,誰がどう聞いてもEric Gale,あるいはRichard Tee,あるいはSteve Gaddみたいな演奏,更にはこれまたDave Grusinらしいオーケストレーションを聞いていると,当時を懐かしく思い出してしまうのだ。もはやこうなると音楽的なものに加わる「記憶」という付加価値が大きくなり過ぎて,ニュートラルにこの音楽を聞くのは難しいかもなぁなんて思ってしまった。とにかく懐かしく聞けたのであった。昨今はアルトに絞っているナベサダのソプラニーノやフルートも懐かしい。そういう要素も含めて星★★★★☆としよう。ただ,このジャケはねぇ...(苦笑)。
後に本作は"Encore!"というアルバムで再演されることになるが,それもそのうちストリーミングで聞いてみることにしよう。
Recorded Live at 日本武道館 on July 3 & 4, 1980
Personnel: 渡辺貞夫(as, sn, fl), Dave Grusin(key, arr), Richard Tee(p, el-p), Eric Gale(g), Jeff Mironov(g), Anthony Jackson(b), Steve Gadd(ds), Ralph McDonald(perc), Jon Faddis(tp), 東京フィルハーモニー交響楽団
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