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2023年5月31日 (水)

邦題「アメイジング!」についつい納得してしまうLittle Featのアルバム。

_20230529 "Feats Don’t Fail Me Now" Little Feat (Warner Brothers)

年初にLittle FeatのWarnerでのレコーディングを集成したボックスを購入し,これまでにもデビュー・アルバムと"Time Loves a Hero"を記事にしてきたが,久しぶりにそのボックスから取り出したのがこの第4作である。これがロックとR&B,そしてファンク・フレイヴァーを絶妙にミックスした感じのアルバムで,知らぬこととは言え,すこぶるカッコよかったのだ。

前にも書いたが,私が聞いていたLittle Featのアルバムは"Dixie Chicken"と"Waiting for Columbus"だけだったというのが,今にして思えばもったいないことだったと言わざるをえない。若い頃に私がこのアルバムを聞いていれば,もっとLittle Featに入れ込んでいたこと必定であったと思いたくなるほど魅力的なアルバムなのだ。主題に書いた通り,このアルバムには「アメイジング!」なる邦題がついて,国内盤がリリースされた訳だが,まさにそう言いたくなるのがよくわかるって気になってしまう。

そして面白いなぁと思ったのがCDなら7曲目,LPならB面2曲目"The Fan"であった。まるでUtopiaか!みたいなプログレ・ライクなサウンドなのだ。結局,この人たちはいろいろな音楽的な要素を吸収してバンドを形成していたということがよくわかる。逆に言えば,こういう曲は異色に響くって感じがしない訳でもないが,これだけの演奏能力を示されては文句も出ない。還暦を過ぎてからでも,こういうアルバムをちゃんと聴けたことを喜ぶべきだと思ってしまう私であった。星★★★★★としてしまおう。とにもかくにもカッコいい。

Personnel: Bill Payne(key, vo), Richie Hayward(ds, vo), Lowell Georgge(g, vo), Ken Gradney(b), Sam Clayton(perc), Paul Barrere(g, vo), Gordon Dewitty(clavinet), Emmylou Harris(vo), Fran Tate(vo), Bonnie Raitt(vo)

2023年5月30日 (火)

Gretchen Parlatoの新譜が出た。私にとってはLionel Louekeがどうかによる。

Lean-in "Lean in" Gretchen Parlato / Lionel Loueke (Edition)

私がGretchen Parlatoにはまったのは"The Lost & Found"でのことであった。同作に関する記事をアップしたのが2011年7月だった(記事はこちら)から,もう12年も前のことになるが,それ以来,彼女がアルバムを出せば必ず購入してきたのは,Gretchen Parlatoの一般的なジャズ・ヴォーカルと一線を画すコンテンポラリー感が心地よいからである。だからこの新作の情報を知った時も当然「買い」だと思った。

しかし,ひとつ問題があった。私はここでのパートナー,Lionel Louekeが苦手なのだ。彼のアルバムを取り上げた時にも「ジャズ・イディオムの中でアフリカ的なものが顔を出すと今イチのめり込めない」なんて書いているが,アフリカ,アフリカした感じがどうにも私にはフィットしないからである。

だが,本作に限って言えば,ジャズ的なフレイヴァーが希薄なこともあって,それほどLionel Louekeが気にならないのはよかった。もちろん,アフリカン・テイストがかなり濃厚に出ている部分もあるが,全体のバランスで見れば,まぁ受け入れ可能ってレベルであった。一部にリズムが入るのも有効に機能したというところだろう。

私としては,Gretchen Parlatoのアルバムを聞くならほかのものを優先するだろうが,これはこれで悪くはない。星★★★★。尚,私が入手したのは輸入盤だが,国内盤にはボートラが1曲追加されているので念のため。

Recorded on March 2-4, 2022

Personnel: Gretchen Parlato(vo, perc), Lionel Loueke(g, vo, perc), Mark Giuliana(ds, perc), Burnis Travis(b), Marley Giuliana(vo), Lisa Loueke(vo)

2023年5月29日 (月)

Monkの"The Complete Riverside Recordings":またも無駄遣いと言えば,無駄遣いをしてしまった...。

Monk-complete-riverside "The Complete Riverside Recordings" Thelonious Monk (Riverside)

私は結構RiversideでのThelonious Monkのアルバムは保有している。自分で買ったものもあれば,父の遺品もある。しかし,全部持っている訳ではない。そこに,ネットでこのボックスが,納得のいく価格で出ていたのでついついポチってしまった。このボックス,未発表音源自体はそれほど多くないし,"Complete"を謳うにはちょっと...って部分もあるようにも思えるのだが,まぁいいや。

しかし,CD15枚組っていつ聞くのよ?と思いつつ,早速CDの1枚目に入っている"Plays Duke Ellington"と"The Unique"のセッション(未発表音源はない)を聞いているだけで夢中になってしまった。まさに温故知新って感じであったので,改めて時間を掛けて聞いていくことにしよう。これで老後の楽しみが増えたと思えば,無駄遣いもまた楽しだ(爆)。しかもこのボックスに付帯したOrrin Keepnewsのライナーが実に面白い読み物なのも嬉しかった。

それにしても,中古市場では無茶苦茶な値段がついていることもあるこのボックスだが,ちゃんと探せば手頃な値段でも手に入るので,焦って手を出してはいけません(笑)。

2023年5月28日 (日)

Amazon Primeで見た「Nope/ノープ」:ミステリアスなSFってところ。

Nope 「Nope/ノープ("Nope")」(’22,加/日/米,Universal)

監督:Jordan Peele

出演:Daniel Kaluuya, Keke Palmer, Brandon Perea, Steven Yuan, Michael Wincott

この映画,一部で話題になっていたような気もして,観に行こうかとも思っていたが,劇場公開は短期間で終わってしまったと記憶する。いずれにしても,訳のわからなさが横溢するUFO/地球外生物ものである。そもそも冒頭からなんでそうなるの?って展開で,ミステリアスに話が進んでいく。

途中からは一攫千金を狙って,証拠映像を残そうとする主人公たちのすったもんだになっていくが,訳のわからない対象物が明らかになってからも,その全貌が何なのかは正直はっきりしないが,結末にはとある映画(ネタバレになるので,それが何かは秘す)での既視感を覚えた私であった。

私はJordan Peeleの映画はこれまで未見(「ゲット・アウト」とかは見ようと思っていて見逃している)だが,こういうタイプのストーリーテリングがお得意のようである。しかし,観ていても,感服するというところは少なかったと思う。つまらない映画という訳ではないのだが,主演のDaniel Kaluuyaの人物設定がはっきりしないのは気になったし,サスペンスもありがちな展開なので,私としてはどうしてこの人がそんなに話題になるのか不思議に感じていたというのが実感。また,この映画をホラーとカテゴライズする向きもあるが,全然怖さを感じない。ホラー嫌いの私が言うのだから間違いない(笑)。星★★★で十分だろう。

2023年5月27日 (土)

Rainer BrüninghausのECMにおける2枚目のリーダー作。Fredy Studerが効いている。

_20230523"Continuum" Rainer Brüninghaus (ECM)

久しぶりにこのアルバムを聞いた。Rainer BrüninghausはJan GarbarekやEberhard WeberのECMのアルバムに数多く参加しているが,リーダー作は以前このブログでも取り上げた"Freigeweht"(記事はこちら)と本作だけになる。ECMらしいちょっと不思議な編成により,なかなかエッジの効いた演奏をする人だという印象である。

前作においてはKenny WheelerにJon Christensenというメンツ(+Brinjar Hoffのオーボエ,イングリッシュ・ホルン)を迎えていたが,今回はオーボエ,イングリッシュ・ホルン抜きながら,基本的に同じ編成で臨んだアルバム。今回はラッパがMarkus Stockhausen,ドラムスがFredy Studerに代わっているが,私は本作のキモはFredy Studerのドラムスだと思っている。前作のJon Christensenも多彩なドラミングを聞かせたが,ここでのFredy Studerはよりロック的なサウンドと言えばよいだろうか。それがよりコンテンポラリーな感覚を強め,Rainer Brüninghausのクリアなピアノ・トーンと絶妙にブレンドしているって感じなのだ。ベース不在が全く気にならないし,こういう音には無条件に反応してしまう私である。

ECMにしてはコンテンポラリーな感覚が幾分強いという気もするが,こんな編成でアルバムを作れたのは今も昔もECMだけだなという気がする。さすがにMarkus StockhausenのラッパにはKenny Wheelerほどの魅力は感じないものの,Fredy Studerの貢献が大きく,前作同様見逃すには惜しいと思えるアルバム。星★★★★。

Recorded in September, 1983

Personnel: Rainer Brüninghaus(p, synth), Markus Stockhausen(tp, piccolo-tp, fl-h), Fredy Studer(ds)

2023年5月26日 (金)

今回も素晴らしい出来のZsófia BorosのECM第3作。

_20230522 "El Último Aliento" Zsófia Boros (ECM New Series)

Zsófia BorosがECMから最初のアルバム,"En Otra Parte"をリリースして今年で10年になるが,10年目にして3作目というのは寡作ってことになると思うが,前作"Local Objects"からも7年近くが経過しているというのには,我ながら驚いてしまった。現代の曲を専門的に取り上げながら,実に美しい響きを提示してきたZsófia Borosのギターはここでも全く変わりがない。

今回のテーマに据えたのはアルゼンチンの作曲家の曲と,前作でも取り上げたフランスのMathias Duplessyの曲であるが,紡がれるアルペジオを同期するメロディ・ラインの美しい曲ばかりで,今回も難解さはゼロである。それでも演奏するのは結構難しそうだなぁとは思える曲を,完璧に弾きこなしている。これまでのアルバムでもそうだったが,よくぞこうした曲を見出してくるものだと思わざるをえない。この目配りの素晴らしさがECM New Seriesとマッチしていることは言うまでもなく,全2作に続いて大いに楽しめる作品となった。静謐でありながら,実に刺激的なギター・アルバム。

第1作の驚きや衝撃は薄れたとしても,アルバムのクォリティは極めて高い。本当に素晴らしいギタリストである。星★★★★☆。

Recorded in March and April, 2022

Personnel: Zsófia Boros(g)

2023年5月25日 (木)

"Love in Exile":このアンビエントな雰囲気にはまる。

_20230520-2 "Love in Exile" Arooj Aftab / Vijay Iyer / Shahzad Ismaily (Verve)

Vijay Iyerの名前につられて入手したアルバムである。Arooj Aftabという人は初めてだが,Shahzad IsmailyはMarc RibotのCeramic Dogでライブも聞いていたってことに気づく。Arooj AftabとShahzad Ismailyはパキスタン・ルーツ,Vijay Iyerはインド・ルーツなので,そっち系の音が出てくるのかと思って,まずはストリーミングで聞いたのだが,意に反してあるいは想定外という感じで,これが聞いていて心地よいアンビエント・ミュージックのような音楽だった。冒頭の音を聞いただけでも,これは買いだと確信したのであった。

Arooj Aftabはグラミーも獲っていて,それがVerveレーベルとの契約につながったようだが,ほかの二人もプレゼンスを確立したミュージシャンであり,かなり優秀なその3人が集まれば,これはおかしなことにはなるはずがない。Arooj Aftabがウルドゥ語で歌っても,言語を理解しない人間にとってはサウンドの要素としか捉えられないが,それをVijay IyerのピアノやRhodesとShahzad Ismailyのベースがミニマルとは言わないが,決して出しゃばることのない音数で支える演奏は,私にとって大袈裟に言えば心の平安をもたらすような音楽なのだ。そして,Vijay Iyerのピアノの音が実に美しく録られていて,私はうっとりしてしまったのであった。Vijay Iyerのピアノも美しい"Shadow Forces"の映像がアップされていたので貼り付けておく。

この音楽をどのカテゴリーに入れるかは難しいところだが,一聴して得た感覚を大事にしてアンビエントとしておく。まぁ,映像からしてもアンビエントだもんね(笑)。6曲で71分超というのは長いと言えば長いが,こういう音楽だから全くの許容範囲だ

決して万人向けの音楽とは言えないかもしれないが,私にとっては,麻薬的な響きを持つ音楽。こういう音楽への注目度を高めるためにも星★★★★★としてしまおう。マジでいいですわぁ。ツアーもやっているようだが,一体どういうことになってしまうのか興味津々である。

Personnel: Arooj Aftab(vo), Vijay Iyer(p, el-p, electronics), Shahzad Ismaily(b, synth)

2023年5月24日 (水)

Jacob Young,何と9年ぶりの新作が届く。

_20230520 "Eventually" Jacob Young (ECM)

Jacob YoungがECMからアルバムをリリースしたのは2014年の"Forever Young"にまで遡る。それまでも,多少の間を置きながら,3枚のリーダー作をECMから発表していたJacob Youngなので,この9年というインターバルは想定外であった。その間にMike Mainieriらとの共演アルバムもあったようだが,リーダー作と言うより,セッション・アルバムと思った方がよさそうで,この沈黙の期間の活動はあまり活発だったとは言えないのかもしれない。

そんな今回のJacob Youngの新作であるが,プロデューサーとしてManfred Eicherの名前がなく,An ECM Productionの記述があるのみなので,これは持ち込み音源ということになるだろう。しかし,ベースは自身もECMにリーダー作を持つMats Eilertsenなので,レーベルとしてもリリースには違和感はないってところだったのだろう。

Jacob Youngのこれまでのアルバムはホーン・プレイヤーが入っていたが,今回はギター・トリオというフォーマットになっている。昨今はECMのアルバムはストリーミングでも聞けるようになっているので,以前のように出れば買うというようなことにはならなくなったが,ストリーミンsグで聞いて,これはと思うものを買うという現在の私のスタンスにぴったりはまるアルバムになった。とにかく,全編を通じて落ち着いたトーンで展開される音楽は,まさにECMというレーベルにぴったりと言ってもよい。

かつ,Jacob Youngのギターだけでなく,Mats Eilertsenのベースの露出も結構あるし,そしてそれを支えるAudun Kleiveのドラムスが適切な演奏ぶりで,実にバランスが取れている。静謐な中に繰り広げられるリリシズムが魅力的に響く演奏は何度聞いても飽きることがない。星★★★★☆。せっかくこうしてレーベルに復帰したのだから,次もまたよろしくと思うのはきっと私だけではないだろう。

Recorded in May, 2021

Personnel: Jacob Young(g), Mats Eilertsen(b), Audun Kleive(ds)

2023年5月23日 (火)

懐かしの"How's Everything"。

Hows-everything "How's Everything" 渡辺貞夫(Columbia)

これは実に懐かしいアルバムである。私はこのアルバムが収録された武道館にいた。時は1980年7月であるから,私は浪人生活真っ只中である。真面目に勉強しろや!という声も飛んできそうだが,まぁ息抜きである。そもそも関西育ちの私が東京で浪人生活を送っていたというのも,今にして思えば無茶苦茶な話だが,私としては現役合格する気満々だったし,従兄から下宿も引き継いでしまっていた。いずれにしても,私は母校以外の大学に行く気は一切なかったこともあり,関西の予備校に通うという選択肢はなかった。だからこそこのライブにも行くチャンスが生まれた訳だが,あくまでもそれは例外的なものであって,日頃は予備校と下宿間の往復,及びジャズ喫茶で本を読みまくるという生活をしていた。決してほめられた生活だったとは思わないが,今にして思えば懐かしい。

それはさておき,このアルバムに収めれらたライブは画期的なイベントであった。ジャズ・ミュージシャンが3日連続で武道館でライブをやること自体前代未聞,更には米メジャーのColumbiaレーベルと契約した渡辺貞夫の第1弾が本作だったはずである。だから,収められた曲はほぼこのライブのために準備された新曲だったはずだし,バックを務めるのがフュージョン界のスターと東フィルという豪華なものであった。そしてジャズ・ライブには珍しく,確か彼らはタキシードで演奏していたはずだ。

もはや40年以上の前の演奏ではあるが,私には同時代を過ごした感覚が残っているので,全然古いと思えないが,ナベサダのみならず,誰がどう聞いてもEric Gale,あるいはRichard Tee,あるいはSteve Gaddみたいな演奏,更にはこれまたDave Grusinらしいオーケストレーションを聞いていると,当時を懐かしく思い出してしまうのだ。もはやこうなると音楽的なものに加わる「記憶」という付加価値が大きくなり過ぎて,ニュートラルにこの音楽を聞くのは難しいかもなぁなんて思ってしまった。とにかく懐かしく聞けたのであった。昨今はアルトに絞っているナベサダのソプラニーノやフルートも懐かしい。そういう要素も含めて星★★★★☆としよう。ただ,このジャケはねぇ...(苦笑)。

後に本作は"Encore!"というアルバムで再演されることになるが,それもそのうちストリーミングで聞いてみることにしよう。

Recorded Live at 日本武道館 on July 3 & 4, 1980

Personnel: 渡辺貞夫(as, sn, fl), Dave Grusin(key, arr), Richard Tee(p, el-p), Eric Gale(g), Jeff Mironov(g), Anthony Jackson(b), Steve Gadd(ds), Ralph McDonald(perc), Jon Faddis(tp), 東京フィルハーモニー交響楽団

2023年5月22日 (月)

Cate Blanchettの演技に痺れる「Tar/ター」。クラシック好きなら尚楽しめるはず。

Tar「Tar/ター ("Tár")」(’22,米,Universal)

監督:Todd Field

出演:Cate Blanchett, Noémie Merlant, Nina Hoss, Allan Corduner, Julian Glover, Mark Strong, Sophie Kauer

いやいや,これは強烈な映画であった。クラシック音楽界を舞台とするというのもなかなか凄いことだが,Cate Blanchettの演技が実に素晴らしい。ワンカットで撮っているシーンも多いが,その長台詞を完璧にこなしているだけでなく,全編を通じた鬼気迫る演技には誰しもが息を呑むはずだ。指揮者への成りきりぶりも見事と言うしかない。

この映画も2時間38分という尺の長さなのだが,この上映時間の長さを全く感じさせないストーリー展開を実現した脚本,演出も見事であり,先般のオスカーでこの映画が無冠に終わったというのはある意味信じがたい。

Tar-soundtrack

Cate Blanchett演じる主人公が首席指揮者を務めるのがベルリン・フィルという設定もあり,劇中ではマーラーの5番とエルガーのチェロ協奏曲が重要なファクターとして登場するが,ここまでフィクションの中でクラシック音楽が演じられるのも珍しい。しかも演奏したドレスデン・フィルをCate Blancehttが実際に指揮しているというのだから,これまた凄いことである。プロ根性もここまで行くと,マジで恐ろしいと言うべきか。チェリストを演じるSophie Kauerはプロのチェリストで,演技経験なしだったそうだから,こっちもなかなかである。サウンドトラックのジャケは劇中にも出てくるが,Abbadoがベルリンを振ったマーラー5番に倣ったものというのも凝りっぷりが凄いのだ。しかも発売元はDeutsche Grammophonだしなぁ。

また,クラシック界におけるハラスメントが背景として描かれることもあって,業界で問題を起こした関係者の実名もばんばん出てきて,これまた凄いなぁと思ってしまった。とにもかくにも,全編緊張感に満ちた展開で,強烈なドラマが描かれるこの映画は高く評価せざるをえない。星★★★★★。

2023年5月21日 (日)

実に素晴らしかったLars Jansson Trio@Body & Soul。

Lars-jansson-live-2

先日のCotton Clubにおけるスウェーデン・ジャズ・オールスターズのライブに続いて,Lars Janssonのライブを観るために,渋谷のBody & Soulに行ってきた。今回,来日する面々の中で,私にとっての本命と言ってよかったのが彼らのライブであり,会社の先輩をお誘いしての参戦となった。

結論から言えば,実に楽しかった。静と動をうまくバランスして,美メロだけで攻めるのではなく,ジャズ・ピアニストとしてのLars Janssonここにありって感じであった。繰り出すソロなんて,結構激しい部分もあった。終演後もLars Janssonはご機嫌で,本人としても演奏に対する満足度を感じていたのではないかと思える。Lars Janssonのソロのみならず,Thomas Fonnesbaekベースは多くのソロ・スペースを与えられながら,実にいいソロを聞かせていたし,Larsのご子息のドラムスのPaul Svanbergも以前見た時からの成長著しく,素晴らしいトリオとなっていたと言っておきたい。

Lars-janssonbs_20230520071401 終演後,バーでくつろぐLars Janssonと写真を撮らせてもらったが,私たちの満足度は写真からも明確である。モザイクを掛けても,幸せな感じが表れていると思う。

因みに今回,私が持ち込んだCDは写真に写っている"Hope"に,"More Human",そしてJukkis Uotila Bandのライブ盤だったが,Lars JanssonはサインしてくれたJukkis Uotila BandのCDの写真を撮っていたのが面白かった。こんなものを持ち込む奴はなかなかいないってことか(笑)。残念ながらペンの選択を誤り,"Hope"は何とか持ちこたえたものの,ほかの2枚では文字が滲んだのは惜しかったが,それはそれでってことで。

Live at Body & Soul on May 19, 2023

Personnel: Lars Jansson(p), Thomas Fonnesbaek(b), Paul Svanberg(ds)

2023年5月20日 (土)

Netflixで見た「いつか晴れた日に」:実に味わい深い映画であった。

Sense-and-sensibilityjpeg 「いつか晴れた日に ("Sense and Sensibility")」(’95,米/英,Columbia) 

監督:Ang Lee

出演:Emma Thompson, Alan Rickman, Kate Winslet, Hugh Grant, Gemma Jones, Elizabeth Spriggs

憤懣やるかたないことがあった時に,気持ちを落ち着かせるためにNetflixで映画を観ようということで選んだのがこの映画であった。Jane Austenの「分別と多感」を原作とする映画で,ストーリーは原作に忠実なもののようだが,何よりも驚きはこの脚色を施したのが主演のEmma Thompsonであったということだろう。あまりにいい仕事なので,オスカーで脚色賞を獲ることになったのも頷けるものであった。

イギリスの美しい田園地帯を背景にした映画は,描かれた時代が時代だけに古臭い感覚は否めないところであるが,その感覚がいいのである。貴族社会が濃厚に残っている時代の恋愛模様はもはや古典的世界ではあるが,殺伐とした現代だからこそ,Emma Thompson演じるElinor Dashwoodの持つ「分別」が求められると思ってしまうのだ。片やKate Winsletは「多感」の方であるが,この二人の間のギャップが面白くもあり,また悲しくもあるというストーリーは,私のような年寄りには訴求力高く迫ってくるのである。

ある意味,ベタなストーリー展開と言ってもよいのだが,憎まれ役の描き方と,「いい人」の描き方の落差も丁度いい塩梅であった。私を知る人からすれば「人は見掛けによらない」と言われるかもしれないが,こういう映画好きだなぁ。憤懣やるかたない思いは,少なくとも映画を観ている間は解消できた。星★★★★☆。こういうのを純粋にいい映画と言うのだ。映画館で観ていれば,確実に気分よく劇場を後にすることができただろう。Emma ThompsonとAlan Rickmanが夫婦を演じた「ラブ・アクチュアリー」も好きだったが,この人たち,どんな映画でもいい仕事するねぇ。

2023年5月19日 (金)

スウェーデン・ジャズ・オールスターズ@Cotton Club参戦記。

Swedish-jazz-all-stars-2現在,スウェーデンの独立500年を祝う音楽イベントとして「スウェーデン・ジャズ・ウィーク 2023」が開催されているが,そこに参加する3つのバンドが一堂に会するライブがCotton Clubで行われたので,観に行ってきた。

Blue Note東京でもそうだったのだが,振り返ってみると,コロナ禍によりCotton Clubに行くのも実に久しぶりで,前回は2020年1月のWayne Krantzのライブに行って以来だから,既に3年半近くの時間が経過している。昨今のライブは,コロナ禍の渇望感ゆえか,非常に客入りがいいが,今回もほぼフルハウスと思えた。聴衆にはイベントを共催するスウェーデン大使館員と思しき人々もちらほら(大使自身も来ていたようだ)。

今回は来日しているメンバーが全員出演ということで,各々のグループが3曲程度披露というライブとなったが,その本質は各グループが単独で出演するライブに接する必要はあると思えるが,そうした中でもLars Janssonのトリオの魅力は突出していたと言ってよい。私は1stと2ndを通しで聞いたが,曲はほぼ同じで,2ndではアンコール的に各バンドからのピックアップ・メンバー(Janssonトリオのリズム,Ulf Wakenius, Isabella Lundgren, Björn Arkö,そしてCarl Bagge)で"Dear Old Stockholm"をやって締めた。

面白かったのがUlf Wakeniusのバンドでテナーを吹いていたBjörn Arköである。私は彼を昨年,赤坂のVirtuosoで行われた"Mike Stern Night"(マイキー本人が出た訳ではない:笑)で観ている(その時の記事はこちら)。その時もMichael Brecker的なフレージングを炸裂させていたが,今回のコンベンショナルなバンドの中でも,繰り出すフレージングは相変わらずMichael Breckerみたいであった。本来,ここには新潟在住のOve Ingemarssonが入る予定だったらしいが,ご一緒した事情通(笑)によると,どこかを悪くしているらしく,Björn Arköがトラで入ったということのようだ。

そして感心したのが,どのバンドにおいても,リズム隊のクォリティが高く,それだけでスウェーデン・ジャズのレベルの高さを証明したようなものである。いずれにしても,非常に楽しめるライブであったことは間違いなく,これで私は本命のLars Jansson Trio@Body And Soulへの臨戦態勢が整った。その演奏が実に楽しみである。

Live at Cotton Club on May 17,2023

Personnel: <Ulf Wakenius Group>Ulf Wakenius(g), Björn Arkö(ts), Hans Backenroth(b), Calle Rasmusson(ds), 

<Isabella Lundgren & Her Trio>Isabella Lundgren(vo), Daniel Fredriksson(ds), Carl Bagge(p), Niklas Fernqvist(b),

<Lars Jansson Trio>Lars Jansson(p), Thomas Fonnesbaek(b), Paul Svanberg(ds)

2023年5月18日 (木)

Jack Wilkinsを偲んで,今日はNancy Harrowとのデュエット作を聴く。

Nancy-harrow-and-jack-wilkins "Two’s Company" Nancy Harrow with Jack Wilkins (Inner City)

先日惜しくも世を去ったJack Wilkinsを偲んで,今日取り出したのがこのアルバム。私が保有しているのはアナログLPだが,後年リリースされたCDには7曲のボーナス・トラックが収められているようだ。そこでのJack Wilkinsのギターは気になるが,私はこのレコードで十分だと思っている。

そもそも私はジャズ・ヴォーカルを大して聞かない上に,このNancy Harrowという歌手の声があまり好みではなく,あくまでもこのレコードはJack Wilkinsのギターを聞くために存在していると言ってもよい。そして,ここでの選曲がなかなか面白い。古いスタンダードに混じって,Micheal Jackson,Bob Marley,更にはTom Jans(!)なんかの曲を歌っているのだ。そうは言っても,やはりJack Wilkinsである。

例えばA面冒頭の"Just One of Those Things"のバックにおけるJack Wilkinsのギターのスリリングな響きは,Nancy Harrowの声にピンと来ない私でもぞくぞくするようなものだし,全編に渡って,実に見事なバックアップを聞かせる。やはり何をやってもうまい人だったのだ。つくづく惜しい人を亡くしたと思わされたアルバムであった。

改めてR.I.P.

Recorded on May 8, 19, June 1 and 5, 1984

Personnel: Nancy Harrow(vo),  Jack Wilkins(g), May Jean Batten(vo), Francesca Beghe(vo)

 

2023年5月17日 (水)

いくつになってもキュートなSusanna Hoffsの新作カヴァー・アルバム。

_20230516"The Deep End" Susanna Hoffs (Baroque Folk)

私にとって,いくつになってもミニスカはいて,キュートな歌声を聞かせるということでは,日本なら森高千里,アメリカならSusanna Hoffsってことになる。どっちも好きだ(きっぱり)。このブログでも,Susanna HoffsについてはBanglesとしての"Sweetheart of the Sun",ソロ・アルバム"Someday",そしてMatthew Sweetとの"Under the Cover"シリーズ等を取り上げてきたが,その可愛さには何年経っても癒される。

前作"Bright Lights"もカヴァー・アルバムだったらしいが,フィジカルでのリリースが行われていなかったので,本作のリリースを知るまでは全く認識していなかったのだから,私もいい加減なものだ。しかし,本作は現物がリリースされたので,早速入手して聴いたが,相変わらずのキュートさには心底参ってしまう。本作も冒頭のRolling Stonesの"Under My Thumb"から,私は萌え~となってしまったのであった(笑)。

やっている曲は新旧取り混ぜてのもので,この目配り具合って凄いなぁと思う。私は不勉強にして全然知らない曲も含まれているが,私にとってはSusanna Hoffsの声で歌われればそれでOKである。名匠Peter Asherのプロデュース,更にはLedisiまでコーラスで参加したバックの演奏も適切で,実に聞き心地のよいポップ・アルバムとなっていて,やっぱり好きだ。Susanna Hoffsが私より年上だというのが全く信じがたい瑞々しさを堪能した。ということで,ついつい星も甘くなり星★★★★☆にしてしまおう。

Personnel: Susanna Hoffs(vo, tambourine, clap), Waddy Wachtel(g), Dan Dougmore(pedal steel g), Danny Kortchmar(g), Peter Asher(g, perc, clap, vo), Albert Lee(g), Jeff Alan Ross(p, el-p, key, org, harpsichord, g, vib, glockenspiel, clap), Dillon Margolis(org, clap), Leland Sklar(b), Russ Kunkel(ds, perc), Abe Rounds(ds), John Jorgensen(mandolin, cl, bassoon), Thomas Wooten(tp), Steve Aho(timpani, strings-arr), Ledisi(vo), Bill Cinque(vo), Matthew Sheeran(strings-arr)

2023年5月16日 (火)

Joe Henryが素晴らしいプロデュースを行った”I Believe to My Soul”。

I-believe-to-my-soul "I Believe to My Soul" Various Artists (Rhino/Work Song/Hear Music)

私が保有するCDにはステッカーが貼ってあって,そこには"The New Soul Record Done in a Classic Mode"と書いてある。まさにその通りのアルバムと言ってよい。そして,ここで歌うのがAnn Peebles,Billy Preston,Mavis Staples,Irma Thomas,そしてAllen Toussaintという面々である。このメンツを見るだけでも悪いはずがないが,このアルバムの出来は私の期待値をはるかに上回ったと感じたのも懐かしい。Joe Henryのプロデューサーとして手腕を私が実感したのはこのアルバムが最初だったかもしれない2005年のアルバム。

ソウル好きの皆さんからすれば,言いたいこともあるかもしれないが,私のようにソウルにそれほどのめり込んではいないリスナーにとっては,この「いかにも感」がありながら,聞き易いサウンドが実に心地よい。そしてJoe Henryとともに,本作でAllen Toussaintが果たした役割は大きいはずである。Allen Toussaintは4曲で歌うだけでなく,全曲でピアノを弾いており,ホーン・アレンジも施しているから,音楽監督的な役割を果たしていることは間違いないところ。そして,歌手陣の歌いっぷりが実に素晴らしい。このアルバムがブログ開始後にリリースされていたとしたら,間違いなくその年のベスト盤に選出していたこと確実なアルバムである。星★★★★★。

おそらくはこれが縁となって,Joe Henryは後にAllen Toussaintの"Bright Missisippi"と"American Tunes"をプロデュースすることになったと思われるが,それらも素晴らしいアルバムであることを追記しておきたい。

Recorded between June 4-10, 2005

Personnel: Ann Peebles(vo), Billy Preston(vo, el-p, org), Mavis Staples(vo), Irma Thomas(vo), Allen Toussaint(vo, p, arr), Jay Bellrose(ds), Doyle Bramhall II(g), Paul Bryan(b, vo), David Palmer(el-p, org), Chris Bruce(g), The West End Horns<Willie Murrillo(tp), Ray Herrmann(bs, ts), Mark Visher(bs, fl, b-fl)>, Niki Harris(vo), Jean McClain(vo), Don Bryant(vo)

2023年5月15日 (月)

改めてJim Hallの進取の精神に驚く。

_20230510"Magic Meeting" Jim Hall (ArtistShare)

早いものでJim Hallが亡くなって今年で10年になる。本作は2004年にVillage Vanguardでレコーディングされたものだが,既に古希を過ぎて数年経過していたにもかかわらず,Jim Hallという人が全然枯れていなかったことを示すアルバムだと思う。

スタンダードをやると比較的オーセンティックな響きになるのだが,それが本人のオリジナルやJoe Lovanoの”Blackwell’s Messge"を演奏すると,途端にハイブラウさが増し,もはやアバンギャルドな響きさえ感じさせるものになっているのには驚かされる。

Jim HallがPat Methenyをはじめとするミュージシャンから大いにリスペクトされるのは,こういう進取の精神ゆえの部分があると思うが,こうした傾向は若い時よりも,年齢を重ねてからの方が強くなったように感じるのは凄いことだ。本作においても,冒頭2曲にはびっくりさせられてしまい,ようやく3曲目に"Slylark"が出てきて安心する(笑)というものなのだ。

晩年のJim HallのアルバムはArtistShareからのリリースが多いが,クラウド・ファンディングを基本とするレーベルゆえ,作品によってはもはや入手が難しいものもあって,本作もArtistShareのサイトでは現状Sold Out状態となっている。アルバムとして必ずしも聞き易いという感じでもないところなのがあるのは仕方がないが,録音も実に素晴らしいものなので,一聴には値する。まぁ,現物の入手は難しくてもストリーミングでも聞けるから,ご関心のある方はそちらをどうぞ。

私としては演奏としてはここまでやらなくてもって感じで,同じArtistShareからのアルバムであれば,Red Mitchellとのデュオや,Live Vol.2-4の方を聞く頻度の方が高いのも事実なのだが,改めて聞いてみると,年を取っても凄かったということを実感させられた。星★★★★。

Recorded Live at the Village Vanguard between April 30 and May 2, 2004

Personnel: Jim Hall(g), Scott Colley(b), Lewis Nash(ds)

2023年5月14日 (日)

GW中にストリーミングで見た映画:4本目は「ユージュアル・サスペクツ」。これが最高に面白かった。

Usual-suspects_20230430184001「ユージュアル・サスペクツ("The Usual Suspects")」(’95,米/独,MGM/Paramount)

監督:Bryan Singer

出演:Gabriel Byrne, Stephen Baldwin, Kevin Pollack, Benicio Del Toro, Kevin Spacy, Chazz Palminteri

以前,Amazon Primeで見ようと思っていたら,見放題が終了してしまい,そのままになっていたこの映画が,Netflixで見られるようになったので,GWのストリーミングの4本目に選んだ。これがまさに傑作と言わざるをえない出来で,最高に面白かったと言い切ってしまおう。

常々,私はシナリオがよく書けている映画は面白いとこのブログにも書いてきたが,この映画などはその最たる事例の一つと言いたくなる。伏線を張りまくって,冒頭のシーンからよくよく考えていくと,なるほどというオチがつく展開は,実に見事としか言いようがない。オスカーでオリジナル脚本賞に輝いたのは当然だ。

この映画は,決して難解ではないのだが,一度見たらもう一度観たくなるという物語となっていて,まさにこれはストーリーテリングの妙と言ってよい逸品。星★★★★★。役者は地味と言えば地味だが,こういう映画には適切なキャスティングだろう。Benicio Del Toroがまだまだ若いねぇと,ついつい思ってしまった私であった。

2023年5月13日 (土)

Don Ellis:騒々しさ炸裂(笑)。

_20230509 "At Filmore" Don Ellis (Columbia→Wounded Bird)

私がジャズ・ヴォーカルをあまり聞かないことは何度もこのブログに書いているが,同じようなことがビッグバンドにも当てはまる。私が保有しているビッグバンドの枚数なんて極めて限定的なのだが,本作をクロゼットから引っ張り出してきて久しぶりに聞いた。

主題の通り,実に騒々しいと言うか,ある意味「狂乱」と呼びたくなるような演奏が続くのだが,まぁこれが収録されたのがロックの殿堂,Filmore Westということも影響しているだろう。即ち,オーセンティックなビッグバンドのリスナーを対象とするよりも,ロックの聞き手を対象にしているからこその激しさと言ってよい。

リーダー,Don Ellisのキレ方も強烈だが,ここではJohn Klemmerがソロイストとしていい仕事ぶりを示す。半端ではないフレージングを炸裂させていて,もはやフリー一歩手前みたいな吹きっぷりの部分もあり,これは燃える。こういう演奏が,Don Ellisらしい変拍子とともに行われるのだから,実に強烈なライブ盤である。狂乱度が極まるのが2枚目冒頭の"Hey Jude"だろう。曲のオープニングにはエフェクターを効かせまくったカデンツァをDon Ellisが披露しているが,ライナーを読まなければ,この音を聞いてトランペットだと思う人間は誰もいないと思えるような音である。かつ,"Hey Jude"のメロディ・ラインに重なり,更に後半にもカデンツァに突入するDon Ellisのエフェクター付きトランペットを聞くと,これはBeatlesの冒涜だと思うリスナーもいるに違いない。まぁ面白いと言えば面白いのだが,やり過ぎと言えばやり過ぎである(笑)。その後も変拍子の連続に,普通の音に慣れた耳には何じゃこれは?と思ってしまう瞬間もある。

いずれにしても,ここまで激しいと2枚組を聞き通すには相当の体力が要るというのが正直なところで,私のような年寄りにはちょっときついと思わせる部分もある。まぁ,こうした音楽は時代の成せるわざかなと思うが,逆に「フレンチ・コネクション」や「重犯罪特捜班/ザ・セブン・アップス」のような「あの時代」の映画にフィットする音楽をDon Ellisは提供していたとも言える訳だ。そういうところも評価して,ちょいと甘めの星★★★★ぐらい。

メンツの中では,Jay Graydonの名前を見つけて,その意外さに驚く。この頃はまだ20歳そこそこだったはずだが,こういうところで修行していたのねぇって感じだが,後のJay Graydonがプロデュースした音楽とは全然違うのが笑える。

Recorded Live at Filmore West in June, 1970

Personnel: Don Ellis(tp, ds), Glenn Stuart(tp), Stu Blumberg(tp), John Rosenberg(tp), Jack Coan(tp), Ernie Carlson(tb), Glenn Ferris(tb),Ellis(tp, ds), Glenn Stuart(tp), Stu Blumberg(tp), John Rosenberg(tp), Jack Coan(tp), Ernie Carlson(tb), Glenn Ferris(tb), Dan Switzer(b-tb), Doug Bixby(contrabass-tb, tuba), Fred Selden(winds), Lonnie Shetter(winds), Sam Falzone(winds), John Klemmer(winds), Jon Clarke(winds), Jay Graydon(g), Tom Garvin(p), Dennis Parker(b), Ralph Humphrey(ds), Lee Pastora(conga), Ron Dunn(perc, ds)

2023年5月12日 (金)

DOMi&JD BECK@Blue Note東京参戦記。

Domi-and-jd-beck-on-stage

彼らのデビュー・アルバム,"NOT TiGHT"はまさに新世代ジャズとでも言うべきサウンドで,私は昨年のベスト作の一枚に選んでいる(アルバムに関する記事はこちら)。そんな彼らが来日するとあっては,これは聞いてみたい,観てみたいと思ってしまった私である。丁度5/15まで有効の招待券をもらっていたので,それを利用して観に行くことにした。

Domi-and-jd-beck-at-blue-note たった二人で演奏しているのに,実にサウンドが分厚いと思えたのは,Domi Lounaの左手(+私の席からはよく見えなかったが,フット・ペダルも使っていたかもしれない)から繰り出されるベース・ラインゆえと思えた。ただでさえ音数は多い人たちではあるが,このベース・ラインが実に強力で,だからこそこの編成でも演奏が成り立つというものであった。それだけでなく,Domiの右手から繰り出されるフレージングも魅力的だし,JD Beckのドラミングはアルバム"NOT TiGHT"で聞けたものと違わぬもので,音は軽いが,もの凄い刻みっぷりであった。

PAは意図的に低音が強調されていたと思うが,あれぐらいが彼らの生み出すグルーブには適切と思えるもので,年甲斐もなくついつい身体が動いてしまったのであった。意外だったのはWayne Shorterとジャコパスの曲をやると言って,"Endangered Species"と"Havona"を各々演奏したことだが,彼らの音楽の出自を感じるようなところがあって実に面白かったし,演奏も見事であった。アルバムを聞いた時も思ったことだが,若いのに凄い才能である。

まぁ彼らの音楽からすれば,サウンドのパターン化も懸念されるところもあり,次なる展開が若干心配ではあるが,これだけの才能を持つ若者なので,軽々とハードルをクリアしていくものと信じたい。いずれにしても,「旬の音楽」と言いたくなるライブであり,見られただけで大喜びしたくなる演奏であった。

ライブの雰囲気は彼らがTiny Desk Concertに出演した時の映像を見てもらうといいだろうが,Blue Noteでのライブはもっと激しかったと言っておこう。尚,上の写真はBlue Note東京のサイトから拝借。

Live at Blue Note東京 on May 10, 2023, 2ndセット

Personnel: Domi Louna(key, vo), JD Beck(ds, vo)

2023年5月11日 (木)

追悼,Jack Wilkins。

Jack-wilkins-2

Jack Wilkinsが亡くなった。Jack Wilkinsについて私はこのブログにも何度か取り上げてきたが,以前「Jack Wilkins:ジャズ界のマイナー・リーガー?」なんて記事(こちら)も書いた通り,決してメジャーな人とは言えなかった。しかし,印象に残るアルバムも残しているので,私としても,ついついアルバムを買ってしまいながら,各々のアルバムの出来にはう~むとなることもあった人である。

私が初めてJack Wilkinsの演奏に接したのはBob Brookmyerのスモール・バンドのライブ盤か,自身の"Jack Wilkins Quartet (aka "Merge")"のどちらかだったはずだが,いずれにしても77年,78年辺りである。当時まだ高校生の私が,何を考えてそんなアルバムを買っているのやらって気もするが,まぁ背伸びしたい時期だったのだ。そのどちらのアルバムもかなりよかったので,その後,私はかなり熱心にJack Wilkinsを追い掛けていたと言ってもよい。

結局,ライブに接する機会には恵まれなったが,テクニックは十分,フレージングも魅力的なのに,どうして人気が出ないのか不思議だった。それでも彼が人気が出たという話は聞いたことがないまま,この世を去ったのは何とも残念である。とは言え,私にとっては,ジャズを聞き始めての早い時期から接していた人だけに,思い出深い人であり,改めて彼のアルバムを聞いて,生前のJack Wilkinsを偲ぶこととしたい。

R.I.P.

2023年5月10日 (水)

GW中にストリーミングで見た映画:3本目は「ワイルド・ギース」。まさにB級映画。

The-wild-geese 「ワイルド・ギース ("The Wild Geese")」('78,英/スイス)

監督:Andrew V. McLaglen

出演:Richard Burton, Roger Moore, Richard Harris, Hardy Kruger, Stewart Granger, Jack Watson

コロナ禍も沈静化する中でのGWには旅行をする人もいるのだろうが,私はどこにも行かずということで,暇さえあれば映画を劇場やストリーミングで見ている。コロナ禍真っ只中であった去年や一昨年も同じような感じだったが,一昨年なんて18本も観ている。やることがなかったんだねぇとつくづく思うが,今年も変わっていないし(笑)。

ということで,ストリーミングで見た3本目がこの映画。これも見放題終了間近ということで見たものだが,主題の通り,まさにB級映画である。そもそも監督のAndrew V. McLaglenその人が,大した映画を作っていないB級監督なので,映画がB級になっても仕方ない訳だが,ストーリーがあまりにも想定通りに進んでいくのは逆に笑える。しかもアクション展開になるまでの間延び感にはどうなのよと思ってしまう。

そんな中で,この映画の一番の見ものはパラシュートでの降下シーンだろうが,それももう少し演出のしようがあったんじゃないのって感じは残る。しかもこういう映画にこのRichard Burtonのキャスティング?って思うのは私だけではあるまい。まぁ,それでも当時はこの程度の映画でもそうは言ってもあの当時はこの程度の映像が普通だったかなぁなんて思いつつ,よくもまぁドンパチ,ドンパチやるもんだってところである。だが,手りゅう弾で敵兵をぶっ飛ばした際の表現方法はワンパターンだし,映画の運びが都合がよ過ぎるのは否めないところで,星★★☆が精一杯。この程度の映画では,古き佳き時代とは言えないな(苦笑)。

面白かったのはStewart Grangerの表情があたかも日本の歌舞伎役者のような趣なのがおかしかった。

2023年5月 9日 (火)

Pierre Barouhの"Le Pollen"を40年ぶりぐらいで入手。

Le-pollen "Le Pollen" Pierre Barouh(Columbia)

このアルバムが出たのが1982年だが,私はリリース直後に本作を入手していたものの,その当時はここに収められた音楽にピンと来ていなくて,あまり時間を置かず売ってしまったはずだ。当時はまだCDが本格的に普及する前なので,当時私が保有していたのもアナログであった。その後,私が年齢を重ねると,どうしてもこのアルバムがまた気になってきていたのだが,中古市場でCDもアナログもかなり高く,そこまでして入手するほどではないという状態が続いていた。しかし,今年に入って,本作に参加している高橋幸宏が亡くなり,ムーンライダースの岡田徹が亡くなり,そして坂本龍一が亡くなったことで,また聞いてみようという気持ちが高まったのであった。

そんなところに,比較的手頃な価格,かつ状態良好とされるアナログがオークション・サイトに出たので,早速入手して40年近くの時を越えて,改めて聞くこととなった。実際に届いてみると,ジャケに若干の痛み(ほとんど気にならないレベル)はあるものの,ディスクは極めて状態のよいもので,こういうのを中古で入手できると,音楽を聞く前からついつい嬉しくなってしまった。

本作はPierre Barouh作詞による曲を日本人ミュージシャンをバックに演奏するというアルバムだが,参加しているミュージシャンはいかにも,という感じの人たちである。そもそもがこのアルバムの制作のきっかけが雑誌"Brutus"なので,そのいかにも感と合致するように思えるが,久しぶりに聞いてみて,若干エレクトロニクス感強めながら,Pierre Barouhの歌にはフィットしている。聞いていて本当に懐かしかった。星★★★★☆。

尚,坂本龍一はバック・カヴァーにも帯にも参加という表示があるが,ライナーのクレジット上はA-3の「愛を語らずに」のストリングス編曲のみのようなので,念のため。

そう言えば,私はPierre Barouhが清水靖晃とムーンライダースを迎えたライブ盤も持っていたはずだが,全然聞いてないし,どこにあるのかもはっきりしない。探してみることにしよう。

Personnel: Pierre Barouh(vo), 清水靖晃(ts, cl, fl, marimba, p, synth), 土方隆行(g),大村憲司(g), 白井良明(g),鈴木慶一(g, synth),笹路正德(p), 清水信之(p, synth), 岡田徹(p,synth),渡辺モリオ(b),浜瀬元彦(b),鈴木博文(b),山木秀夫(ds), 高橋幸宏(ds, synth), 橿渕哲郎(ds, synth), 武川雅寛(vln),沢村満(sopranino),佐藤奈々子(vo),大空はるみ(vo),多グループ(strings), 坂本龍一(arr)

2023年5月 8日 (月)

GW中にストリーミングで見た映画:2本目は「ブレット・トレイン」。Bertolucciの次がこれかよっ!

Bullet-train「ブレット・トレイン ("Bullet Train")」(’22,米/日,Columbia)

監督:David Leitch

出演:Brad Pitt, Joey King, Aaron-Taylor Johnson, Bryan Tyree Henry, 真田広之, Andrew Koji

この映画の前にストリーミングで見たのが「暗殺のオペラ」だったのと,落差があまりに大きいのには我ながら呆れる。伊坂幸太郎の「マリアビートル」を原作とするこの映画,日本が舞台となっていることもあって,昨年話題になっていたが,今回Amazon Primeで見られるようになったので見てみたが,劇場に行っていたら自分のチョイスを呪いたくなったであろう映画であった。

一言で言えば荒唐無稽の極致であるが,そもそも原作も荒唐無稽なのだから,それはそれで仕方ないだろうが,ストーリーもここまで行くと,私のような年寄りには呆れてものも言えない。アクションは派手に仕立ててあるが,殺戮シーンが結構エグいのには辟易とする。Tarrantinoだってそうじゃないかと言われればその通りだが,違うのはシナリオゆえではないかと思う。この映画は正直言ってくだらないエピソードの積み上げに過ぎないからだ。

ここまで来る,こういうのはゲラゲラ笑いながらでも見るのが丁度いいのではないかという感じで,無茶苦茶な話が約2時間続く。とにかく見ていてしょうもないという感想しか出ない映画である。星★★。こういう映画は好かん。暇つぶしにしかならない愚作。Sandra Bullockがチラッと顔を出すが,本来なら声の出演でも十分だな(笑)。

2023年5月 7日 (日)

David SanbornのルーツはR&Bってのはわかるんだが,あんまり聞かない"Only Everything"。

_20230427-3 "Only Everything" David Sanborn (Decca)

私は長年のDavid Sanbornのファンだと言ってよいと思う。アルバム保有枚数は全部とは言わずとも結構なものだし,一軍,一軍半の棚に多くのアルバムが残っている。だが,その割にDavid Sanbornのライブにはほとんど行ったこともない(例外はLive under the Sky)から,熱狂的なファンか?と問われれば微妙~...と言うしかない(笑)。だが,特定のアルバムについては相当好きだと言ってよくて,そこにはかなりの思い入れがある。私にとってのDavid Sanbornの最高作は誰が何と言おうと"Straight to the Heart"であるが,それとBob Jamesとやった"Double Vision"が2トップであり,それが私の中のDavid Sanbornに対するコアなイメージである。もちろん,David Sanbornがこの世に出てきたのはPaul Butterfield Blues Bandだったり,数々のセッション・ミュージシャンとしてのプレイだったりということはわかっていても,そこは譲れないのだ。

それでもってこのアルバムだが,基本がSanbornにJoey DeFrancescoのオルガン+Steve Gaddのドラムスであるから,大体出てくる音は想像がつく。これは明らかにDavid Sanbornのルーツを表出したアルバムであって,そういうかたちで聞かなければならないというのはその通りなのだが,私が好きなDavid Sanbornの路線とは少々異なるのだ。だからという訳ではないが,このアルバムはクロゼットの奥にしまい込まれてしまっていたというのが実態なのだ。さすがにそれはまずかろうと言うことで救出してきた私である(笑)。

ベースとなる3人にホーン・セクションを何曲かで加え,ゲストにJoss StoneとJames Taylorを迎えるというのは,やはり制作には相応の予算が掛かっているねぇと思わせる。そして出てくるSanbornのフレージングや音は誰が聞いてもDavid Sanbornのそれである。だからこれはこれで当然ありなのだが,やはり私としてはDavid Sanbornに求める音がこれではないって感じなのだ。そのイメージの違いゆえ,このアルバムは私の中ではプライオリティが下がってしまったというのが正直なところである。

改めて聴いてみるとこれは全然悪くないと思えるのだが,これを聞くなら"Straight to the Heart"か"Double Vision",もしくはHiram Bullock入りのライブのブートを聞いてしまうだろうと思ってしまった。結局好みの問題だが,ほかのアルバムもまた聞いてみることにしよう。星★★★☆。このアルバムのために言っておくと,本作の美点はしょぼいオーディオで聞いてもわかるぐらいDavid Sanbornの音が生々しく録れていることだ。

Personnel: David Sanborn(as), Joey DeFrancesco(org), Steve Gadd(ds), Joss Stone(vo), James Taylor(vo), Bob Malach(ts), Frank Basile(bs), Tony Kadleck(tp), Mike Davis(b-tb), Gil Goldstein(arr)

2023年5月 6日 (土)

GW中にストリーミングで見た映画:「暗殺のオペラ」。スノビッシュな感じ全開(笑)。

Strategia-del-ragno 「暗殺のオペラ("Strategia del Ragno")」(’70,伊)

監督:Bernardo Bertolucci

出演:Giulio Brogi, Alida Valli, Pippo Campanini, Franco Giovanelli, Tino Scotti

Bernardo Bertolucciの映画というだけでなく,そもそも原作がJorge Luis Borgesというところから身構える(笑)。しかし,Amazon Primeで「見放題が間もなく終了」なんて出るもんだから,これまで観たこともないし,ちょっと見てみるかってことで見たのだが,やっぱり身構えて当然みたいな映画であった(爆)。

そもそもGiulio Brogiは父と息子の二役を演じるのだが,父の時代と息子の時代が交錯して描かれるので,そこからしてなかなか難しい。ストーリーはわかりにくいが,それでも映像にはカメラ・アングルの面白さとかを感じさせるものであった。

日本公開は製作から約10年後となってのも頷けるなぁ。星★★★☆。それにしても,Alida Valliと言えば「第三の男」の私だが,彼女が20年後にこうなるかってことには,時の流れを感じる。

2023年5月 5日 (金)

Lee KonitzとGary FosterがWarne Marshにトリビュートするとまぁこうなるか。

_20230427-2 "Body And Soul: Dedicated to the Memory of Warne Marsh" Lee Konitz / Gary Foster (Insights)

私はGary Fosterを結構贔屓にしていて,リーダー・アルバムも何枚か保有していて,Concordに吹き込んだ"Make Your Own Fun"なんて大好きなアルバムだ。これはLee Konitzとの共演盤ながら,購入したのはGary Fosterゆえってのが正直なところだ。そして,本作ではこの二人がWarne Marshゆかりの曲,あるいはソロを採譜したものをテーマとして演奏するという企画アルバム。曲の元ネタはちゃんとライナーに書いてあるが,敢えて解説でそれを詳細に書いて枚数を稼ぐのが岩波洋三らしい(だからこの人の解説は読む気がしない)。

正直言って,私は所謂クール・ジャズにはあまり関心がないのだが,これまでGary Fosterはその一派だと思ったことはない。しかし,Warne Marshには相応の影響受けている(師事した?)らしいし,私は聞いたことはないが,共演したアルバムも残している。更には"Subconsciously"なんてリーダー作もあるから,かなりの影響ということになろう。一方のLee Konitzも古くからWarne Marshとは共演していたのだから,この組み合わせは自然なものだったと言える。

二人のベテラン+伴奏陣の演奏には全く破綻はないし,全編落ち着いたトーンで演奏が行われており,演奏そのもののクォリティには問題はない。ではあるものの,アルバムを通じて,1曲ごとの演奏時間はそこそこ長く,しかも同じような感じで演奏が続くので,変化に乏しいと感じてしまうのは仕方がない。また,曲調のせいもあって,決して刺激的な演奏ではない。よって,正直言って,途中まで聞いてもまだ半分も行っていないのかと感じてしまったということは告白しておかねばなるまい。

おそらくそういう感覚であるがゆえに,このアルバムは二軍一歩手前の場所に格納されており,そのためプレイバックの頻度も全く上がっていない。曲ごとの演奏の質は星★★★★でもいいのだが,このアルバムの作りゆえ,星★★★ぐらいになってしまうのはちょっと残念。

尚,本作は移転前のジャズ・クラブ,Body And Soulでレコーディングされたものだが,聴衆が入ってのライブ音源ではないので,念のため。

Recorded on November 7 & 8, 1995

Personnel: Lee Konitz(as), Gary Foster(as), 中島政雄(p), 岡田勉(b), Jimmy Smith(ds)

2023年5月 4日 (木)

GW中に劇場で観た映画の2本目は「聖地には蜘蛛が巣を張る」。この映画の集客力に驚いた。

Holy-spide 「聖地には蜘蛛が巣を張る("Holy Spider")」(’22,デンマーク/独/仏/伊/スウェーデン/ヨルダン)

監督:Ali Abassi

出演:Zar Amir-Ebrahimi, Mehdi Bajestani, Arash Ashtiani, Forouzan Jamshidnejad

何ともユニークなタイトルのこの映画をGW劇場通いの2本目として選んだのだが,私が行ったのが1日で,料金が安い日だったからなのか,既に多くの人が休みだったからなのかわからないが,劇場には想像以上に観客が入っていて驚いてしまった。フルハウスとは言わないが,8割ぐらいは埋まっていたと思う。

イランの聖地,マシュハドで起きた連続殺人を題材にした犯罪映画なのだが,イラン本国にも「キラー・スパイダー」という映画があって,そちらも同じ題材を描いているようだ。だが,こちらはイラン国外から描いているから,イランからすれば,気に入らないところもあるかもしれない。よって,ロケーションもイランではなく,ヨルダンで行われたのも当然だろうし,そもそも主演のZar Amir-Ebrahimiはイランからフランスに亡命しているのだから,イランで撮れる訳がない。

それにしても,実際にこんな事件があって,更には犯人が英雄視されるようなことがあったとすれば,大衆の心理ってのは恐ろしいと思わざるを得ないと思わされる映画である。そしてこの映画のラスト・シーンには戦慄すら覚えるというのが正直なところである。これには本当にいろいろ考えさせられてしまった。星★★★★。

繰り返しになるが,このようなある意味陰惨な映画がこれだけ集客力があるというのに驚いてしまった私である。ついでに言っておけば,休日に見るにはあまり適切ではないし,ましてや私には関係ないとは言えデートには絶対向かないな(爆)。

2023年5月 3日 (水)

追悼,Gordon Lightfoot。

Gordon-lightfoot

カナダを代表するシンガー・ソングライター,Gordon Lightfootが現地時間5/1に亡くなった。体調不良でキャンセルされたとは言え,今年ツアーも予定されていたようだから,本人としてもファンとしても予期せぬ死ということになるかもしれない。

Gordon Lightfootを私が初めて聞いたのは"Sundown"が全米1位になった頃だから,1974年だったと思う。当時私は中学生だったが,洋楽好きは既に始まっており,全米のチャートなんかも気にする中,"Sundown"のような渋い曲が全米1位になるんだ,ぐらいに思っていたはずだ。もともと私がSSW好きということもあり,その後,アルバム"Sundown"と"Summertime Dream"を入手して,それは今でも売られることなく,今や枚数は減ったレコード棚に収まっている。更に渋いSSWを好む私の嗜好からはちょっとはずれる人ではあるのだが,それでも残っているってことは,それなりに好きな証拠だろう。

歌いっぷりは若干カントリーっぽい感じもするが,それでもこの声がこの人の魅力だったのだろうと思ってしまう。訃報を受けて,早速"Summertime Dream"を聞いた私であった。

お年を召してからは随分見た目も変わっていたようだが,私にとってのGordon Lightfootはこういうイメージってことで,上の写真を選んだ。

R.I.P.

2023年5月 2日 (火)

ようやく読了:「街とその不確かな壁」。

Photo_20230501101201 「街とその不確かな壁」村上春樹(新潮社)

4/13日に発売されたこの村上春樹の新作を約3週間弱でようやく読了した。つくづく私も本を読むのが遅くなったと思う。それはさておき,この本の出自はいろいろなメディアでも取り上げられているから皆さんご存知だと思うが,私が読み始めて最初に思ったのが,「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」との同質性であった。物語の二重構造がそう思わせたのは間違いないが,現実と「意識下の感情」のようなものが交互に描かれるかたちを取りつつ,最後の第三章まで読むと落とし前がつけられるというかたちは,いかにも村上春樹的であるが,やはりこの物語性は満足度が高い。

アンチ村上春樹の読者からすれば,またいつもの村上春樹じゃねぇか!という批判もあるかもしれない。しかし,この一種の訳のわからなさから感じる感覚こそ,村上春樹の小説の魅力であり,真骨頂だと思う。私は長年,村上春樹の小説を読み続けているが,そのどれにも相応の魅力があるとしても,近年の作品の中ではこの小説が最も楽しめたように思う。喜んで星★★★★★とする。

いずれにしてもほかの小説からも感じられる,村上春樹的パラレルな構造におけるストーリーテリングは,結局「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」から始まったのかもしれないなぁと改めて思った次第。やっぱりあれは傑作だったし,一番好きな作品だったかもしれないと今更ながら思う。

2023年5月 1日 (月)

GW中に劇場で観た映画:「ザ・ホエール」。Brendan Fraserは確かにオスカー相当。

The-whale 「ザ・ホエール("The Whale")」 (’22,米,A24)

監督:Darren Aronofsky

出演:Brendan Fraser, Sadie Sink, Hong Chau, Ty Simpkins, Samantha Morton

先日のオスカーでBrendan Fraserが主演男優賞を獲得し,更にベスト・メイクアップ&スタイリングにも輝いたこの映画を観に行った。確かにこれはこの2部門受賞に値する映画だと思えた。歩くのも困難な超肥満と化したCharlieを演じるBrendan Fraserの演技そのものも素晴らしいが,その体型の特殊メイクはどうやったら作れるんだ?って感じのリアルさである。

極めて限定的な空間の中で,数少ない出演者によって演じられるのは,本作が舞台劇をオリジナルとしているからというのはなるほどって感じである。見ていて切なくなってくるほどシリアスな作品なので,映画に何を求めるかにもよるが,エンタテインメント性を求めて観るような映画ではない。私の場合は,観終わった後に,Charlieと同じく娘を持つ父親として,感じるところが大きかった。そういう点も含めて星★★★★☆。

私がBrendan Fraser以外で感心したのが,主人公を献身的に支える看護師役のHong Chau。「ザ・メニュー」の怪演とは全く異なる演技は,この人の役者としての実力を示していたと思え,オスカーではJamie Lee Curtisに敗れたとは言え,助演女優賞の有力な対抗馬だったと思えるものであった。日本でのヒットは難しいかもしれないが,一見に値する映画。何だか「Air/エア」の記事でも同じようなことを言っているな...(苦笑)。

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