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2023年4月30日 (日)

こんなのもあった(笑)。Vince Mendozaの"Start Here"。

_20230425-3 "Start Here" Vince Mendoza (Fun House→World Pacific)

クロゼットの奥深くにしまい込んで,ほとんど聞くことのない所謂「二軍」CDなんて山ほどあるが,たまにクロゼットを漁っていると,これ何だっけ?なんて思ってしまうことも多々ある。買ったきりほとんど聞いていないCDだって相当数ある訳で,そういうのはさっさと売ればいいのに,なかなか踏ん切りがつかない。

ということで,今回引っ張り出してきたのがこのアルバムである。Vince Mendozaと言えば,あらゆるミュージシャンoためにアレンジメントを提供しており,相当数のアルバムで彼の名前を見つけるはずだ。これはそのVince Mendozaの2枚目のリーダー作のはずだが,クレジットを見るとこれが結構豪華である。そもそもRalph Townerのファンを自認しながら,本作にRalph Townerが参加していたこともすっかり失念していたし,まだMarc Cohenと名乗っていた頃のMarc Coplandも入っているではないか。

もとは日本のFun Houseからの発売がオリジナルであるが,私が保有しているのは輸入盤。作曲家,アレンジャーのアルバムらしく,全てがジャズ的ではなく,まるで映画音楽のような曲もあるが,いずれにしてもゴリゴリのサウンドではなく,あくまでもソフトで繊細な音楽と言うべきだ。アレンジャーらしく,例えば2曲目の"Angelicus"や7曲目"Page One"ではフレンチホルン,バス・トロンボーン,チューバを組み合わせるという取り組みを見せるのもいかにもってところ。また,最後が武満徹に捧げた"True Story"がこれまたいかにもである。エピローグとしてはこういうのもありだろうが,この武満っぽい音にはジャズのリスナーは戸惑うだろうなぁ。

まぁ刺激に乏しいと言えばその通りだが,これはこれで参加しているミュージシャンのクレジットを眺めながら聞いていると,こうなるかもなぁってところで,なかなか面白く聞けてしまった。だからと言って一軍に上げることはないだろうが,たまにはこういうのもってことで(笑)。星★★★☆。いずれにしても,こんな音楽を2日で仕上げてしまうのは大したもんだとは思う。そして,やはりRalph Townerのギターはここでも素敵だった。

Recorded on November 13 & 14, 1989

Personnel: Vince Mendoza(composer, arr, cond, synth), Bob Mintzer(ts, cl, b-cl), Joe Lovano(ts, ss), Jim Beard(p), Marc Cohen(p), John Scofield(g), Ralph Towner(g), Will Lee(b), Gary Peacock(b), Peter Erskine(ds, perc), Jerry Peel(fr-h), Bob Carlisle(fr-h), Dave Jolly(fr-h), Dave Taylor(b-tb), Dave Braynard(tuba), Lawrence Fieldman(as, fl), Lee Kwan Bay(vln), Warren Lash(cello),Judd Miller(EVI, prog)

2023年4月29日 (土)

Joey Calderazzoの異色のアルバムと言ってよいだろうなぁ。

_20230426"Our Standards" Joey Calderazzo / Lars Danielsson / Jacek Kochan (GOWI)

90年代初頭にまさしくRising Starとしてシーンに登場したJoey Calderazzoの印象はすこぶるよかった。若さに溢れたハード・バッピシュなピアノには本当に興奮させられたものだ。特にBlue Noteに吹き込んだ最初の3枚は実に楽しめる作品だったし,今でも私はJoey Calderazzoと言えば,その3枚だと思っている。もちろん,その後もBranford Marsalisのクァルテットでもいいところを聞かせているが,リーダーとしてはちょっと地味になっちゃったかなぁというのが実感である。

そんなJoey Calderazzoがワルシャワで吹き込んだアルバムだが,どういう経緯で吹き込まれたかはわからないが,これはJoey Calderazzoとしては異色の作品と言ってよいと思う。それは冒頭の"Prenatal Air"から明らかで,3者のフリー・インプロヴィゼーションと思しき,いきなりのフリーなアプローチからしてJoey Calderazzoのイメージではない。しかし,そこでめげてはならない訳で,聞き進むとWayne Shorterの"Footprints"や"There Is No Greater Love"で聞き手は安心する。だが,3者の共作とスタンダードの交互演奏ってのはわからないではないが,Joey Calderazzoは基本的にコンベンショナルなピアノ・スタイルを持つ人だけに,違和感の方が勝るってところか。それを"Our Standards"と言われてもねぇって感じだ。

そうした違和感を救うのが,このアルバムの音のよさ。Lars Danielssonのベースの音が実にリアルに捉えられていて,そこは実にポイントが高いのだが,それだけではプレイバックの頻度は高まらないなぁ...。ということで,あくまでもこれはJoey Calderazzoのアルバムとしては異色であり,これよりBlue Noteのアルバムを聞いている方が間違いなく興奮できる。スタンダード曲の演奏はいいだけに,フリー・インプロとのギャップが大きく,なんだかもったいない。星★★★。

Recorded on November 5, 1995

Personnel: Joey Calderazzo(p), Lars Danielsson(b), Jacek Kochan(ds)

2023年4月28日 (金)

Derek Trucks加入後の初のAllman Brothers Bandのアルバムであり,Dicky Betts入りの最後のアルバム。

_20230423-4 "Peakin’ at the Beacon" Allman Brothers Band (Epic/550)

Derek TrucksがAllman Brothersに参加したのは1999年,まだ20歳の頃である。しかし,早熟の天才として,スライドの腕はもはや完璧と言ってよいレベルであったことは97年のデビュー・アルバムからはっきりしていたが,Allman Brothersではどうだったのかという姿を捉えたライブ・アルバムである。そして,Allman Brothersの創設メンバーであるDicky Bettsはこのアルバムを最後に脱退(実質クビ)となったため,この二人が共演しているアルバムは本作だけということになる。

Allman BrothersはNYCのBeacon Theaterを現地でのホーム・グラウンドみたいにしていて,本作も2000年の13公演からの音源を選りすぐったものである。いかにもAllman Brothersらしいという音が詰まっていて,彼らのファンであれば,納得のアルバムだと思う。

そんな中で,やはり私の耳はついついDerek Trucksのギターに向いてしまう訳だが,やはりこのスライドの切れ味は素晴らしい。一方のDicky Bettsも優れたギタリストで,Duane Allman存命中のツイン・ギター体制こそがこのバンドが本来の姿だと思ってしまう。本作の後,バンドとのいざこざでDicky Bettsが抜けてしまうのはつくづくもったいないことだった。しかし,ここではそんないざこざがあったなんてことを思わせないタイトな演奏を繰り広げている。

さすがに最後の"High Falls"の27分越えの演奏は冗長さを感じさせない訳ではないが,アメリカン・ロック好きにはやはりAllman Brothers Bandは避けて通れませんわ。星★★★★。

Recorded Live at Beacon Theater between March 9 and 25, 2000

Personnel: Gregg Allman(vo, org, p, key), Ducky Betts(g, vo), Butch Trucks(ds, perc), Jaimoe(ds, perc), Marc Quinones(perc, vo), Oteil Burbridge(b), Derek Trucks(g)

2023年4月27日 (木)

Mel TorméとMarty Paichの"Reunion":これまた実に楽しいアルバムであった。

_20230423-3"Reunion" Mel Tormé and the Marty Paich Dek-tette (Concord)

先日,彼らの東京でのライブ盤を取り上げた時に,このアルバムを発注したと書いた(記事はこちら)が,それがデリバリーされたので,早速聞いたが,これがライブ盤同様実に楽しいアルバムであった。ライブでもやっていた冒頭の"Sweet Georgia Brown"から絶好調って感じだが,このアルバムを聞いていて面白かったのが,Donald Fagenの2曲。それは"The Night Fly"に入っていた"Walk Between Raindrops"と"The Goodbye Look"ってが,オリジナルの持つジャズ的なフレイヴァーを更に濃厚にした感じの歌唱,演奏には思わず嬉しくなってしまった。"The Goodbye Look"のイントロと終盤に"Bernie’s Tune"を挟み込みのもおしゃれである。

また,関連性を持ちそうな複数の曲を組み合わせてメドレーでやってしまうというのはMel Torméの芸風と言ってよいかもしれないが,ここではライブでもやっていた"Bossa Nova Potpourri"等,4曲がこの体裁となっている。最後に収められているのは何と"For Whom The Bell Tolls"と"Spain"のメドレーである。"For Whom The Bell Tolls"は,そう「誰が為に鐘は鳴る」である。そのメロディをスキャットで歌った後,Al Jarreauが歌ったヴァージョンの"Spain"をアダプテーションするというものだが,これも「誰が為に鐘は鳴る」がスペイン内戦を舞台にしていることによる関連性である。"Spain"はAl Jarreau版よりもテンポは少々落としているが,「誰が為に鐘は鳴る」をイントロ的にしていることからすれば,このテンポは適切とは思えども,Al Jarreauに馴染んでいる人間には若干違和感がない訳ではないところは仕方ないところ。

しかし,Dek-tetteのメンツもほぼライブ盤同様で非常にいいので,これはこれで十分楽しめると思う。星★★★★☆。スイング・ナンバーでもバラッドでもボサノバでもなんでもござれのMel Torméのオール・マイティーぶりにはほとほと感心してしまう。

因みに私が入手したのは中古盤だが,結構ジャケがかびていて,どういう保存状態ならばこうなるのかと思ってしまう。まぁ音には問題ないし,安かったから文句は言えないが...。

Personnel: Mel Tormé(vo, ds), Marty Paich(arr, cond), Dan Barrett(tb), Chuck Berghofer(b), Bob Efford(bs), Bob Enevoldsen(v-tb), Gary Foster(as), Pete Jolly(p, el-p), Jeff Hamilton(ds), Warren Luening(tp), Lou McCreary(tb), Ken Peplowski(ts, cl), Jim Self(tuba), Jack Sheldon(tp) with Joe Porcaro(perc), Efrain Toro(perc) 

2023年4月26日 (水)

待望!EBTGの24年ぶりの新作がデリバリーされた。

_20230425"Fuse" Everything But the Girl (Virgin)

まさに待望の新作である。Everything But the Girl(EBTG)として活動を休止している間も,Ben WattもTracy Thornも各々がソロ・アルバムを出していたとは言え,やはりこの二人のデュオというのは格別なのだ。それにしても,24年ぶりというのは実に長い。まぁ,Ben Wattが"Hendra"を出すまで31年を要したのに比べれば短いが,ほぼ四半世紀というのは凄いことである。

既に何曲かは公開されていた中で,ようやくのフル・アルバムの到着となった訳だが,二人だけで制作されながらも,心地よい揺らぎさえ感じさせるビートに乗った彼らの歌声が素晴らしい。これなら24年待った甲斐もあるってものである。

曲調は内省的な感じが強いため,ポップな感覚は控えめながら,メロディ・ラインはきっちり印象に残る。1曲だけ”Run a Red Light"がBen Wattのオリジナルである以外は,全てTrachy ThornとBen Wattの共作となっていて,リズムはほぼ打ち込みながら,完全エレクトロニカって感じでもなく,アコースティック感もそこはかとなく感じさせるのも実に素晴らしい。私としては彼らに"Welcome Back!"としか言えない。やはりEBTGは素晴らしいと思わせるに十分。喜んで星★★★★★としよう。

Personnel: Tracy Thorn(vo), Ben Watt(vo, g, p, synth, prog)

2023年4月25日 (火)

"It’s a Beautiful Day":こんな音楽だったか...。随分と印象が違うような気がする。

_20230423-2 "It's a Beautiful Day" It's a Beautiful Day (Columbia→TRC)

実に印象的なジャケットを持つこのアルバムを私が入手したのは随分前のことだ。最初聞いた時はピンと来なくて,ずっと放置していたのだが,久しぶりに取り出して聞いてみたら,何とも面白いアルバムだと思ってしまった。これが私の加齢による嗜好の変化か,あるいは前にはちゃんと聞いていなかったのかははっきりしないのだが,全然違和感なく聞けてしまったのにはちょっと驚いてしまった。

フラワー・ムーブメント時代を感じさせるサイケデリックなサウンドと,一部でプログレ的な響きさえ感じさせるインストに乗って来るのが,David LaFlammeの結構甘い声というギャップも面白ければ,時代を感じさせるLinda LaFlammeのコーラスも,懐かしさのようなものを感じてしまうのは,やはり私の年齢ゆえか。

現代の人がこれを聞いたらどう思うのかも興味深いが,それでもこれも時代を感じさせる音楽として今一度聞いてみる価値があった。そして5曲目,"Bombay Calling"を聞けば,この曲が"Child in Time"の元ネタだったということは明らかで,思わずへぇ~となってしまった。Deep Purpleがこういうのに影響されていたってこと自体が驚きでもあった。

因みに,私が保有しているのはドイツのTRCという怪しげなレーベルから出たものゆえに,ジャケもペラペラで丁寧さ皆無。まぁ怪しいレーベルだからしょうがないが。

Personnel: David LaFlamme(vo, vln), Linda LaFlamme(org, p, el-p, celeste,harpsichord), Hal Wagenet(g), Mitchell Holman(b), Val Fuentes(ds), Pattie Santos(vo, perc), Bruce Steinberg(hca)

2023年4月24日 (月)

改めてFreddie Hubbardの"First Light"を聞く。CTIの王道って感じだ。

First-light "First Light" Freddie Hubbard (CTI)

保有している枚数はそれほどではないが,私は何だかんだと言って,CTIレーベルの音楽が結構好きである。保有しているのはJoe FarrellとFreddie Hubbardが中心になるが,Paul Desmond,Chet Baker,そしてJim Hallなんかは長年聞いてきた。サウンドとしてはワン・パターンだと言ってもよいかもしれないが,聞いていて心地よいのだ。このアルバムは入手したのは近年になってからだが,改めて聞いてみると,やっぱりこういうの好きだなぁと思ってしまう。

言ってしまえば,イージー・リスニング的に響くのも事実だ。それはDon Sebeskyが付したストリングスに顕著なのだが,それでもリーダーをはじめ,各ソロイスト,特にGeorge Bensonの仕事っぷりが実によい。演奏で言えば,このアルバムはアナログでのA面に相当する冒頭2曲がスリリングな響きを持つのはGeorge Bensonの貢献度が高い。B面に相当する3曲はよりイージー・リスニング的ってところだろう。響きはイージー・リスニング的でも,Freddie Hubbardのソロは実に味わい深く,これはこれで楽しめてしまうのだ。

Moment-to-moment ピアノがRichard Wyandsってのが珍しいが,それ以外はCTIの常連みたいなメンツなので,安心感は十分。星★★★★。2曲目がPaul McCartneyの"Uncle Albert/Admiral Halsey"って選曲がCTIらしいが,3曲目のHenry Manciniが書いた"Moment to Moment"という曲は,原題を同じくする「その日その時」という映画の主題歌だそうだ。この映画,聞いたこともなかったが,日本でも公開されたらしいにもかかわらず,双葉十三郎先生の「ぼくの採点表(1960年代)」にも掲載されていないというある意味稀有な映画。へぇ~って感じであった。

因みに私が入手したのは国内廉価盤だが,輸入盤にはボートラが2曲入っているらしいので,念のため。

Recorded in September 1971

Personnel: Freddie Hubbard(tp, fl-h), George Benson(g), Richard Wyands(p, el-p), Ron Carter(b), Jack DeJohnette(ds), Airto(perc), Hubert Laws(fl), with strings and horns

2023年4月23日 (日)

Brad Mehldauの回顧録が届く。いつ読むんだ?

Formation "Formation: Building a Personal Canon Part One" Brad Mehldau (Equinox)

先日,発注していたBrad Mehldauの回顧録がデリバリーされた。私の英語力も年々衰える中,英語のテキストを読むのは正直きつい。しかし,Brad Mehldauの追っかけとしては読まねばならないので,時間はかかっても取り組むつもりだ(きっぱり)。

しかし,Part Oneってことは次もあるってことだろうから,さっさと読まねば。

その前に村上春樹の新作はようやく6割過ぎってところなので,そっちをさっさと終わらせてから取り組もう。

それにしても,Paul Thomas Andersonが本書への推薦文を寄せているが,どういうつながりなのかなぁ。

2023年4月22日 (土)

カントリー・シンガーによるEagles曲集を久しぶりに聞く。

Common-thread "Common Thread: The Songs of the Eagles" Various Artists (Giant) 

EaglesのDon Henleyが立ち上げたWalden Woods Project(WWP)の資金集めのためのベネフィット・アルバム。WWPの資金集めのためには,Don Henleyはライブも開催していて,1991年には私はDon Henley,Billy Joel,Stingという組み合わせの超豪華なコンサートを,Madison Square Gardenで観たのも懐かしい。それと並行して,こうしてベネフィット・アルバムも作られていたってことだが,お題はカントリー・シンガーによるEagles曲集。Eaglesはそもそもカントリー・ロックと言われていた訳で,カントリー・シンガーとの親和性は高いから,まぁ考えられる企画である。

曲はお馴染みのEaglesの曲が選ばれているが,カントリー・シンガーが歌うならこういう選曲にならざるをえないだろうなぁというところの曲が並んでいる。しかも,アレンジメントは原曲にかなり忠実で,皮肉な言い方をすれば,カラオケに乗って,歌の上手い人がEaglesの歌を歌っていると思ってしまうような趣さえある。

この原曲への忠実さをどう捉えるかというところが,このアルバムに対する評価の尺度になると思う。私はこれはこれでありだとは思うが,あまりに破綻がなく,予定調和的だと言われても仕方がないと思わせる。少なくとももう少しひねりがあってもいいんじゃないの?って気がしてしまう。選曲もいかにもの路線なので,チャレンジする姿勢を示すことがないのが,そもそも保守層をターゲットにするカントリー・シンガーらしい(笑)。そういうところで,星★★ぐらいにしか評価できない。これを聞くなら,オリジナル聞いてりゃいいんだもん。まぁ,300万枚も売れたらしいから,ベネフィットとしては,その役割は十分果たしたんだろうが,音楽的にはどうかねぇ...って気がする。いい曲ぞろいだが。

尚,今やEaglesのメンバーとなっているVince Gillも参加して,”I Can’t Tell You Why"を歌っているが,実際のライブではTimothy B. Schmitが歌うんだろうねぇ。伴奏陣は多数なので,Personnelは歌手陣のみ記載する。因みに,私はカントリーにはほとんど関心がないので,参加している歌手陣の名前は見たことはあっても,アルバム,あるいは曲すら聞いたことがないはずだ。まぁそんなもんだ。

Personnel: Travis Tritt, Little Texas, Clint Black, John Anderson, Alan Jackson, Suzy Bogguss, Vince Gill, Diamond Rio, Trisha Yearwood, Billy Dean, Tanya Tucker, Brooks & Dunn, Lorrie Morgan 

2023年4月21日 (金)

Mel Torméのライブ盤:保有していることをすっかり失念していたレコード。

Mel-torme-in-tokyo"Mel Tormé in Concert Tokyo" Mel Tormé (Concord)

もはや保有枚数は限定的になってしまったアナログ・レコードのラックを久しぶりに漁っていたら,こんなの持っていたか?って感じで,あぁそう言えば買ったなぁということで取り出したのが本作。Mel Torméのアナログと言えば,"Swings Shubert Alley"は認識していたものの,こっちは久しく聞いていなかったし,保有していることすらほぼ失念していた。

Mel Torméのライブ盤と言えば,1990年の東京のライブ盤をこのブログでも取り上げた(記事はこちら)が,本作も同様に富士通コンコード・ジャズ・フェスティバルの実況盤で,録音は1988年。バブル期絶頂とは言え,それだけの頻度で来日していたことに,Mel Torméの日本での人気,あるいは当時のConcordレーベルとのつながりの深さを感じるが,本盤で伴奏をしているMarty PaichのDek-tetteとは同年"Reunion"というアルバムをConcordに吹き込んでいて,それを受けての来日ってことだろう。しかし,このアライブの段階では,まだそのアルバムはリリースされていなかったようだが。

いやぁ,それにしても楽しいアルバムである。まさに上質なエンタテインメントと言ってよい演奏で,聞いていてワクワクしてしまう感覚を覚えてしまった。バラッドだろうが,スイング・ナンバーだろうが,何でもござれの歌のうまさはここでも健在だし,終盤の"Cotton Tail"では得意のドラムスも聞かせる。そしてバックを務める12人編成のバンドも,それを引き出すMarty Paichのアレンジも素晴らしい。バンドのメンツはいかにもConcord的とも言えるが,私が贔屓にしているGary Fosterの参加も嬉しく,実にいい気分になってしまった。星★★★★★。

ジャズ・ヴォーカルを大して聞かない私ですら,Mel Torméは例外的に好きなようだと改めて気づいてしまい,ついつい"Reunion"を中古で発注したのであった(笑)。

Recorded Live at 簡易保険ホール on December 11, 1988

Personnel: Mel Tormé(vo, ds), Marty Paich(cond, synth), Dan Barrett(tb), Chuck Berghofer(b), Bob Efford(bs), Bob Enevoldsen(v-tb), Allen Farnham(p), Gary Foster(as), Warren Luening(tp), Ken Peplowski(ts, cl), Jim Self(tuba), Jack Sheldon(tp), John Von Ohlen(ds)

2023年4月20日 (木)

Rosalio Giuliani Quartet@イタリア文化会館参戦記。

Photo_20230419085501

去る2023年4月14日に武蔵野スイングホールで,アフタヌーン・ジャズというイベントがあって,このクァルテットに,ハクエイ・キム,Caity Gyorgyというメンツでライブを行ったのだが,金曜の昼時ということもあったし,チケットも早々にソールド・アウトとなって参戦は諦めていた。しかし,このクァルテットだけの無料ライブがイタリア文化会館で開催されることを知り,喜び勇んだものの,あまりに気づくのが遅すぎて,既に予定枚数の申し込みは終了していた。そこでダメモトでキャンセル待ちをしてみたら,何とキャンセルが出て,座席を準備できたという通知が...。ということで,久しぶりに九段下のイタリア文化会館に出向いた。

振り返ってみると,イタリア文化会館に行くのはコロナ前,2019年2月のGiovanni Guidiのソロ・ライブ以来ということで,既に4年以上前のことであるが,こうしてまた同地にて無料ライブを楽しむことができるようになったことを素直に喜びたい。

今回各地で行われているライブのテーマはイタリア関連の映画音楽,かつEnnio MorriconeとNino Rota縛りである。Rosalio GiulianiとアコーディオンのLuciano Biondinは“Cinema Italiaというアルバムを残しているので,基本はその路線踏襲で,演奏した曲については順番がはっきりしないが,「道」,「甘い生活」,「ゴッドファーザー」,「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」,「ニュー・シネマ・パラダイス」,「8 1/2」等のまさに鉄板とでも言うべき曲であったはず。

正直言って,Rosalio Giulianiにとって,これらの曲がぴったりはまっているかというと,彼のソロの鋭いパップ・フィーリング溢れるフレージングからすればちょっと違うかなぁとは思いつつも,Luciano Biondiniのアコーディオンが生み出す哀愁感と相俟って楽しめる演奏だったと思う。更に日本在住らしいPat Glynnのベースが音よし,フレージングよしでびっくり。更にJoe LaBarbelaのドラミングは,既に後期高齢者でありながら全く年齢を感じさせないもので,これまたびっくりであった。

本来は出演予定のなかったはずのCaity Gyorgyは本編での「酒バラ」と,アンコールの"My Favorite Things"で登場して,まだ若いのに,実に達者なスキャットを聞かせて,世の中にはまだまだ凄い人がいるのねぇと思わせた。"My Favorite Things"には椎名豊も加わっての賑々しいエンディングとなったが,これはPat Glynnが結構,椎名豊と演奏していることの縁だろう。

開演前のアナウンスでは演奏時間は70分予定と言っていたが,終わってみれば90分近くやっていたはずで,聴衆の反応にもこのライブの楽しさが表れていたと思う。

尚,甚だ余談であるが,私が九段下のイタリア文化会館に向かう時間帯に,駅からの道すがら,武道館で開催されるEric Claptonのライブに向かう聴衆たちと一緒になってしまって大混雑だったのだが,その平均年齢の高さには思わず笑ってしまった。まぁ,私もClaptonのライブに向かうと思われても仕方ない部類だったが,彼らを横目に更に坂道を上っていたのであった(笑)。

Live at イタリア文化会館 on April 18, 2023

Personnel: Rosalio Giuliani(as),Luciano Biondini(accor), Pat Glynn(b), Joe LaBarbela(ds)+Caity Gyorgy(vo),椎名豊(p)

2023年4月19日 (水)

Bill Evans~Robben Ford@Blue Note東京参戦記。

Bill-evans-robben-ford-at-blue-note

Bill EvansとRobben FordのバンドがBlue Note東京に出演するということで,またまた現地に行ってきた。しかもリズムはDarryl JonesとKeith Carlockという鉄壁の布陣である。

Be_rf-at-blue-note 私はこのライブ前に,某SNSに「アルバムは軽いがライブはヘビー級でお願いしまっせ」と書いた。彼らが2019年にリリースした"The Sun Room"にしても,昨年出した"Common Ground"にしても,強力なリズム隊を擁しながら,エンジニアリングのせいもあろうが,どうにも響きが軽くて,全然いいと思えなかったのだが,2019年のライブそのものはダイナミズムに溢れていて,非常に楽しめたからだ(その時の記事はこちら)。4年近く経っても,全く同じような表現を使っているのには,私の文章能力の枯渇を感じるが,それはさておき,彼らの音楽の本質を楽しむにはライブを聞くべきだという思いを改めて強くした。

前回はBill Evans Super Bandとしての出演であったが,今回はBill EvansとRobben Fordの双頭バンドというかたちであったので,Robben Fordの露出度が前回以上に高かったように思える。歌声なんて,古希を過ぎているにもかかわらず,年齢を全く感じさせない若々しさだったと思えるし,フレージングも実にカッコよかった。Bill Evansはソプラノよりテナーの方が圧倒的にいいというのは前回同様であったが,リズム隊はベースがJames GenusからDarryl Jonesに代わっていても,このリズムがヘビー級なことには変わりはない。

彼らがステージに上がってきた時に,Keith Carlockも体重増のように見受けられたが,驚いたのがDarryl Jonesの太りっぷりである。まるで力士のような腹であり,音が出る前から,体重からしてヘビー級じゃねぇか!なんて思ってしまったが,出てくる音はこうでなくてはならないという圧倒的なボトムのサウンドであった。これならフロントは気持ちよく演奏できるに決まっている(笑)。

そして,私の眼はKeith Carlockに釘付けになっていたのだが,やはりこの人のドラムスはよく歌う。そしてBill Evansのバッキングをしている時より,Robben Fordのバッキングをしている方がずっとよく響くというのは,やはりWayne Krantzとの共演を通じて,ギタリストとの相性の良さが増しているということもあるだろう。"Hearts of Havana"でのRobben Fordのギター・ソロのバックでのKeith Carlockこそ,彼の真骨頂って気がする。

Darryl Jonesがブルーズを演奏した時に,その音もベース・ラインがMilesバンドにいた時のMarcus Millerみたいだなぁと思っていたが,多少なりとも影響はあったのかもしれないが,それも面白かった。スラッピングをもっと入れると思っていたのだが,スラッピングはほとんどなしっていうのは結構意外だった。まぁ,それは曲調に合わせたってところだろう。

私としてはもう少しスピーディな曲を1曲でも入れて欲しかったって感じだが,それでも全体的には満足いく演奏であったし,彼らはやはりライブの方がずっといいということを確信できた演奏であった。

尚,上の写真はBlue Note東京のWebサイトから拝借したものだが,私が行った際には,ピアノが右側に移動され,Robben Fordはステージ向かって左側に変更になっていた。確かにバランス的には私が観た時の方がいいように思えるな。

Live at Blue Note東京 on April 17. 2023, 2ndセット

Personnel: Bill Evans(ts, ss, p), Robben Ford(g, vo), Darryl Jones(b), Keith Carlock(ds)

2023年4月18日 (火)

一旦JLFを解散した後の,初のJeff Lorberのソロ・アルバム。

_20230415 "It’s a Fact" Jeff Lorber (Arista)

Jeff Lorberが"Galaxian"で一旦Jeff Lorber Fusion(JLF)を解散して,2010年に"Now’s the Time"で復活させるまでの間は,ソロ名義でのアルバムのリリースが続いたのだが,本作はそのソロ活動の第1作としてリリースされたアルバム。

私はJLFの音楽というのは「中庸の魅力」だと思っていて,ハードになり過ぎず,だからと言ってスムーズ・ジャズにも流れない,丁度塩梅のいいフュージョンを聞かせてくれるグループだと思っている。ではソロになったらどうなのかってことで,このアルバムを久しぶりに聞いてみた。リズム・セクションは固定して,そこにゲストを加えるという構成だったのに今更ながら気がついたが,Nathan East~John Robinsonというのはなかなかに強力なリズム隊である。

はっきり言ってしまえば,JLFよりはかなりポップに響くのは,3曲のヴォーカル曲によるところが大きいとしても,インスト・ナンバーにしても従来よりも若干ソフトさが増しているのは間違いないところ。冒頭の"Tierra Verde"なんかにその傾向が顕著であるが,これは共作者のKenny Gのせいか?って感じである。一方,2曲目のヴォーカル・ナンバーである"Full Moon"はTom Browneが共作者に名を連ねているが,GRPレーベル時代のTom Browneの感じが出ているような気がする。ここでリード・ヴォーカルの一翼を担うのが,SantanaにいたGreg Walkerってのはちょいと意外であった。

Jeff Lorberのオリジナル"Delevance"なんかを聞いていると,あぁ,こういう感じってJeff Lorberだよなぁなんて思わせるのも微笑ましいが,アルバム全体としては,特に破綻はないし,聞き流すには丁度いいってところ。それでもこれを聞くならJLFを聞くってのが正直なところ。まぁ,それでもRonnie Lawsオリジナルの"Always There"とかは好きだが,星★★★ぐらい。

それにしても,中古盤に無茶苦茶な値付けがされているなぁ(苦笑)。

Personnel: Jeff Lorber(key), Marlon McClain(g), Nathan East(b), John Robinson(ds) with Greg Walker(vo), Arnold McCuller(vo), Silvia St. James(vo), Lynn Davis(vo), Kenny Gorelick(ts, ss, fl), Paulinho Da Costa(perc), Tom Browne(tp, fl-h), Pat Kelly(g)

2023年4月17日 (月)

「Air/エア」を観に行った。こういう映画好きだなぁ。Ben Affleckの演出はやはり大したもの。

Air 「Air/エア("Air")」(’23,米,Warner Brothers/Amazon)

監督:Ben Affleck

出演:Matt Damon, Ben Affleck, Jason Bateman, Chris Messina, Chris Tucker, Viola Davis, Julius Tennon, Matthew Maher

私はBen Affleckの監督としての手腕は結構評価している。役者としてはもっと出る映画を選べよと言いたくなるが,監督としてはなかなかイケている。「夜に生きる」はイマイチだったが,「ザ・タウン」,「アルゴ」,特に「アルゴ」は無茶苦茶よく出来ていた。そして,この映画は「アルゴ」同様実話に基づくストーリーなので,ついつい期待してしまった訳だが,期待が裏切られることはなかった。

ご存知NikeのAir Jordan誕生にまつわる映画なのだが,その背景にはこういう話があったのかというのが実に面白く,それを1時間51分という尺で見せてくれるのが実によい。昨今は映画の上映時間が伸びる一方で,長けりゃいいってもんじゃないだろうと思っている私のような人間にとっては,理想的上映時間なのも好感度が高い。そして,役者陣が実にいい。主演のMatt Damonは言うまでもなく,マーケティング担当者,Rob Strasserを演じるJason Bateman,シューズのデザイナー,Peter Mooreを演じるMatthew Maher,そしてMichael Jordanの母親,Deloris Jordanを演じるViola Davisが印象深いが,関係者に悪人が出てこないのもいい感じなのだ。この辺りは気持ちのよいストーリーに仕上げた脚本の力も大きかった。

そして,私がこの映画を好きだなぁと思ってしまうのが,1984年という時代背景に即したBGMとして掛かるロック,ポピュラー畑の曲の数々。こういう音楽が流れるだけで,自分としては同時代感を覚えてしまって,ストーリーに入れ込んでしまうのだ。くぅ~って感じである。更にNikeの本社があるオレゴン州ビーヴァートンは,仕事でよく行ったポートランド近郊ということもあって,チラッと出てくるポートランドの風景が懐かしさを増幅させたということもある。

私もAir Jordan関連商品は愛用しているが,Air Jordanブランド誕生に至るストーリーはへぇ~ってなること必定。想像以上によく出来ていて嬉しくなってしまった私である。星★★★★★。ほぼ日米同時公開の本作は,日本でのヒットは難しいかもしれないが,「アルゴ」ほど劇的ではないとしても,これはこれで見逃すには惜しい,いや,必見の作品と言っておく。

2023年4月16日 (日)

村上春樹の新作を読む前に,川上美映子の「黄色い家」を読んだ。

Sisters-in-yellow 「黄色い家」川上美映子(中央公論新社)

世の中,村上春樹の新作発売で盛り上がっているが,かく言う私も購入済みで読み始めているが,その前に読んだのがこの本であった。川上未映子は村上春樹同様,海外でも評価が高い人だが,近年,めっきり読書量が減った私は,彼女の小説は今まで読んだことがなかったはずだ。まぁ,でもものは試しってことで購入したもの。

これは新聞の連載小説だったらしいが,一種のピカレスク小説でありながら,とにかく,全編を通して「金,カネ,かね」である。ここまで書かなくてもよかろうと思えてしまうぐらいの金への執着が描かれるが,それにより登場人物の精神の破綻も招いてしまうという読んでいて恐ろしくなるような話である。

物語のほとんどを占める回想のストーリーにおいては,主人公がティーンエイジャーだという設定にもげんなりしてしまう(特に私を含めた高齢の)読者が多いのではないかと思わせる。あっという間に読み終えてしまったが,読後にはどっと疲れが出た。読んでいて,これが現実にあれば世も末だと思いつつ,結構あるかもなと思わせる実に恐ろしい小説。星★★★★。

2023年4月15日 (土)

Andrei Gabrilov@白寿ホール鑑賞記。

Hakuju-hall Andrei Gavrilovを聴きに,白寿ホールに行ってきた。Gavrilovはドイツ・グラモフォンからもアルバムをリリースしているピアニストだが,キャパ300人の白寿ホールさえもフルハウスにならないのかぁって思っていた。やはり一時期の隠遁生活が影響しているのかもなぁなんて思っていた。

私にとってGabrilovと言えば,Sviatoslav Richterとピアノを分け合ったヘンデルの「鍵盤組曲」だが,あれから40年以上,見た目も完全におっさん化したGabrilovであった。

それはさておき,今回のリサイタルは平均律第一巻全曲とフランス組曲5番のオール・バッハという魅力的プログラムだったのだが,聞いた上での感覚は若干微妙であった。

平均律冒頭から前半はなかなかいい感じで,弱音は魅力的に響いていたのだが,打鍵が強くなる局面でのフォルテッシモでは流石に叩き過ぎって感じが気になった。また左手のアタックが強過ぎて,右手とのバランスが崩れているところも気になってしまった。Gabrilovは今回の演奏は,解釈(Interpretation)ではなく,バッハの内面に迫ることを目指すようなことを会場で言っていたが,私はもう少し内省的な取り組みでもよかったように思っていた。

しかし,今更ながら「平均律」は素晴らしい曲だったと感じたし,フランス組曲の演奏は平均律以上によかったと思う。私がバッハの曲の生演奏を聞いたのはPeter Serkinの「ゴルトベルク変奏曲」以来のことではあったが,改めてバッハの音楽をちゃんと聞き直したくなる効果は十分にあったと思う。

Piano-at-hakuju-hall 全くの余談となるが,Gabrilovが使っていた譜面が,遠目に見てもカラフルな感じだったのは,本人が何らかの書き込みをしているのかもしれないが,演奏を聴きながら,よくあれで弾けるなぁなんて思うと,譜面が気になって仕方がなかった私である(笑)。休憩中にズームで写真を撮ってみたが,これではちょっとわかりにくいかもなぁ...。

Live at 白寿ホール on April 13, 2023

Personnel: Andrei Gabrilov(p)

2023年4月14日 (金)

24年ぶりの新作リリーズ目前:EBTGのリミックス・アルバムを聞いて準備する(笑)。

_20230410-2 "Adapt or Die: Ten Years of Remixes" Everything But the Girl (Virgin)

1999年にリリースされた"Temperamental"以来24年ぶり(!)のアルバムのリリースが目前となっているEverything But the Girl(EBTG)である。彼らのアルバムを待望する私としては,期待値が膨らむ一方だが,その準備として取り出したのが2005年にリリースされたこのリミックス・アルバム。

Ben WattがDJ活動に熱心になったこともあって,こういうリミックス・アルバムも想定できたが,古いものは1990年,一番新しいのが2004年なので,実際は10 Yearsどころではない。まぁ,これはこれで面白いとは思うが,私みたいに原曲のよさがあるんだったら,別に手を入れなくてもってリスナーも多いのではないかと思う。

リミックスによって,随分印象が変わった感じもするが,私はどちらかと言えば原曲で楽しむ方が好きだな。しかし,それでも彼らの曲というのはやはり魅力的で,新作への期待も更に高まった私である。新作のデリバリーを楽しみに待ちたい。

2023年4月13日 (木)

長年オクラ入りしていたGil Evansのアルバム。確かに売れるという判断はできないよねぇ。

Where-flamingos-fly "Where Flamingos Fly" Gil Evans (Artist House)

このアルバムがレコーディングされたのは1971年のことだが,リリースされたのは1981年と10年間もオクラ入りしていたという曰くつきのアルバムながら,Gil Evansの再評価が高まった時期にリリースされて,日本でも非常に高く評価された作品。SJ誌主催のジャズディスク大賞で,1981年度の銀賞に選ばれたのも懐かしい。

そもそもこのアルバムをリリースしたのはArtist Houseレーベルである。Artist Houseっていうのは良質な作品を出しながら,オーナーのJohn Snyderに商売っ気がないというか,売れるとか売れない関係なしにリリースするので,会社が短期間で潰れてしまったのは惜しいとしか言えない。本作だって決して「売れる」音ではないだろうが,それを世に出しただけでも価値はあった。いずれにしても,ある意味ミステリアスに響きながら,このハイブラウな演奏を聞いていると,私みたいにはまるリスナーも多少はいるだろう。だからと言って,しょっちゅうプレイバックしている訳ではないが...(苦笑)。

面白いのはオリジナル音源のプロデュースがあのJohn Simonだということだが,そう言えばJohn Simonはライブの傑作"Priestess"もプロデュースしていたし,David Sanbornのアルバム,"Heart to Heart"にGil Evansを客演させたのもJohn Simonだったので,昔から縁はあったってことだ。しかし,John SimonがプロデュースするThe Bandやその他のSSW系のアルバムと比べると,随分ギャップが大きいと思うのは私だけではあるまい。

_20230410 このアルバムがほかのGil Evansの作品と異なるのはAirtoとFlora Purimの参加だろうが,確かに彼らの参加が効いている部分があるとしても,全体を通じて聞けば,まごうことなきGil Evansのサウンドである。各々のソロイストも好演であるが,"Zee Zee"におけるJohnny Colesのトランペットや,"El Matador"におけるHoward Johnsonのバリトン・サックスが特に印象に残る。珍しいのはHannibal Marvin Petersonがトロンボーンとしてクレジットされていることだが,これって本当なのか?と思ってしまうが...。

アンサンブルにおいては,後のMonday Night Orchestraのようなメンバーによる自発的なリフはまだここでは登場はしていないが,そうしたところもあって,緻密さではこのアルバムの方が上だと思った。いずれにしても,埋もれさせておくにはあまりにももったいなかった作品。星★★★★☆。しかし,それはもはや廃盤状態となって久しいというのは更にもったいない。私は本作をアナログ,CDでも保有しているが,今更ながら中古CD(国内盤が出たというのは今にして思えば奇跡的...:ジャケは下のもの)をゲットしておいてよかった。

Recorded in 1971

Personnel: Gil Evans(p, el-p), Billy Harper(ts, chime), Howard Johnson(bs, tuba, fl-h), Trevor Kehler(ss, bs), Johnny Coles(tp), Stan Shafran(tp), Hannibal Marvin Peterson(tb), Jimmy Knepper(tb), Harry Loolofsky(t-vln), Joe Beck(g, mandolin), Bruce Johson(g), Herb Bushler(b), Richard Davis(b), Bill Quinze(b), Don Preston(synth), Phil Davis(synth), Lenny White(ds), Bruce Ditmas(ds), Sue Evans(perc, marimba), Airto Moreira(perc, vo), Flora Purim(perc, vo)

2023年4月12日 (水)

Charlie Hadenって不思議な人だ...,とも思うが実に素晴らしい"Always Say Goodbye"。

_20230408-3 "Always Say Goodbye" Charlie Haden Quartet West (Verve/Gitanes)

Charlie Hadenが亡くなって間もなく9年である。改めて月日の流れの速さを感じてしまうが,思い起こせばCharlie Hadenというのは実に不思議な人だという印象が私の中にはある。Ornette Colemanとの演奏に始まり,ハイブラウなLieberation Music Orchestraもあれば,Keith Jarrettのアメリカン・クァルテット,更にはデュオ名人としての顔もあり,果てはこのQuartet Westまで多彩であり,どこがCharlie Hadenの本質なのか掴みがたいが,本人にとっては全てってことになるのかもしれない。

中でもQuartet WestはCharlie Hadenが持つムーディな部分が顕著に表れるバンドだったと思うが,このアルバムを聞いていると,あたかも仮想の映画のサウンドトラックを聞いているような気分になってくる。冒頭から,Warner Brothersのファンファーレに続いて,映画「三つ数えろ」のHumphrey Bogartのセリフが出てきて,まずおぉっ!となってしまうが,更にそれに続いて演奏される映画音楽,ジャズマン・オリジナル,スタンダードの組合せが絶妙としか言えない流れで展開されるのだ。これが本物のサウンドトラックであれば,映画ファンを唸らせること必定と言いたくなるような素晴らしさである。

例えば,Coleman Hawkinsが演奏する"My Love And I"に続いて,Charlie Hadenのベース・ソロをフィーチャーした"Alone Together"がJo Staffordによる同曲になだれ込む瞬間なんてぞくぞくするし,同じことはQuartet West + Stephane Grappelliで演奏される"Ou Es-tu Mon Amour?"が,Django ReinhardtとGrappelli自身による同曲の演奏につながれていく瞬間にも当てはまる。そして,Duke Ellington OrchestraがヴァイオリンのRay Nanceをフィーチャーした"Low Key Lightly"が何の違和感もなく挿入されていること自体に,選曲の妙,そしてそれは映画で言えば見事な演出と言いたくなるような作品。

そしてエンディングは,またも「三つ数えろ」からHumphrey BogartとLauren Bacallのセリフで締めるとは何とも言えない作りである。ジャズ演奏としても楽しめるし,サウンド・コラージュとしても楽しめるが,仮想映画音楽として聞けてしまうということで,ジャズに関心のない人々にもきっと受け入れられるアルバムだと思う。ジャズ的なスリルとはちょっと違うかもしれないが,確実にジャズの間口を広げるには役立つはずだ。星★★★★★。素晴らしい。

Recorded between July 30 and August 1, 1993

Personnel: Charlie Haden(b), Ernie Watts(ts), Alan Broadbent(p), Lawrence Marable(ds), Stephane Grappelli(vln), with the past recordings by Coleman Hawkins(ts), Tommy Flanagan(p), Major Holley(b), Eddie Locke(ds), Jo Stafford(vo) with Paul West and His Orchestra, Django Reinhardt(g), Gianni Safred(p), Carlo Pecori(b), Aurelio De Carolis(ds), Duke Ellington And His Orchestra<Duke Ellington(p), Cat Anderson(tp), Harold Baker(tp), Clark Terry(tp), Gerald Wilson(tp), Britt Woodman(tb), Quentin Jackson(tb), John Sanders(tb), Jimmy Hamilton(cl), Johnny Hodges(as), Russell Procope(as), Paul Gonsalves(ts), Harry Carney(bs), Ray Nance(vln), Jimmy Woode(b), Jimmie Johnson(ds), Chet Baker(tp, vo), Raymond Fol(p), Benoit Quersin(b), Jean-Louis Viale(ds)

2023年4月11日 (火)

これがTOTOの最初のライブ・アルバム。

_20230408-2 "Absolutely Live" TOTO (Columbia)

現在も活動しているものの,今やSteve LukatherとJoseph Williams+αのバンドとなって,もはやTOTOと呼べんだろうと言いたくなってしまう。そうは言いながら,何だかんだと言いつつ以前の音源はそこそこ保有していて,ライブ盤も何種類か持っている。結局好きなんだが,私の場合,TOTOについては後追い感が強い。1stアルバムが出た頃,チャートを賑わせ始めたので,音や名前は認識していても,アルバムを初めて買ったのは"IV"だったというのが実態なのだ。

それはさておき,本作は実質的なリーダーだったJeff Porcaroが亡くなって,その追悼ライブとなった時の演奏らしいが,この時はリード・ヴォーカル不在なので,Steve Lukatherがリードを取ることが多いのが特徴。そして,Jeff Porcaroの代役として,Simon Phillipsが参加した初の作品ということになる。まぁSteve Lukatherはヴォーカルとしては健闘しているとは思うが,一部,バックグラウンド・ヴォーカリストがリードを取っていることもあって,若干の違和感があるのも事実。私としてはSimon Phillipsの方に注目してしまうが,Simon Phillipsならこれぐらい当たり前って感じで,無難にこなしたってところだろうが,ちゃんと叩いていてもはやバンドに完全に馴染んでいるように聞こえる。その仕事ぶりから,後に正式メンバーとして迎え入れらえるのは当然と言ったところか。

ライブ盤らしく,当時の新作"King of Desire"からの2曲のほかはお馴染みのヒット曲が並んでいて,選曲には文句はないし,ライブらしく長尺の演奏が多いが,明らかに冗長に流れる感があるのは,生で聴くのと,CDで聴くのとの違いってことにしておこう。星★★★☆。最後の"With a Little Help from My Friend"はTOTOには合っていないし,明らかに蛇足だと思うけどなぁ。

Recorded Live in Rotterdam on October 19,1992

Personnel: Steve Lukather(g, vo), David Paich(key, vo), Mike Porcaro(b), Simon Phllips(ds), John James(vo), Donna McDaniel(vo), Jenny Douglas McRae(vo), Chris Trujillo(perc), John Jessel(key, vo, effects)

2023年4月10日 (月)

Pat MartinoによるPat Martino的Wes Montgomeryトリビュート。

_20230408 "Remember: A Tribute to Wes Montgomery" Pat Martino(Blue Note)

Pat MartinoとWes Montgomeryの関係性についてはよくわからないのだが,Pat Martinoが脳動脈瘤の手術後の記憶喪失から回復する過程において,Wes Montgomeryの音楽に触れたことで,何らかのインスピレーションを受け,後の完全復活につながったと考えてもいいかもしれない。まぁ,このアルバムの後に出た"Undeniable"は,編成は違うものの,"Full House"的なところを感じさせたから,リアルタイムではなかったかもしれないが,WesがPat Martinoに影響を及ぼしたと考えてよいだろう。

そもそもPat MartinoとWes Montgomeryはスタイルが違っていると思うが,ここでの演奏はオクターブ奏法を交えて,Wesゆかりのナンバーをストレートに演奏している。いきなり冒頭は"Four on Six"だし,締めは"Unit 7"だもんなぁ。そうした中で,サウンドはWes的に響く部分もありながら,当たり前の話ではあるが,ソロのラインはやはりPat Martino的である。

やっている曲がWesゆかりの曲ばかりということもあって,いつものPat Martinoのアルバムとはやや毛色が違うとしても,これはこれでPat Martinoの一面を知る上で面白いアルバムだと思う。Pat Martinoのアルバムの中で,いの一番に聞くアルバムではないかもしれないが,星★★★★としよう。

Recorded on August 9 & 10, 2005

Personnel: Pat Martino(g), David Kikoski(p), John Patitucci(b), Scott Allan Robinson(ds), Daniel Sadownick(perc)

2023年4月 9日 (日)

素晴らしくカッコいいRobin Trowerのライブ・アルバム

_20230407 "Live!" Robin Trower(Chrysallis→Icon Classic)

昔から世評は高いのに聞いたことのないアルバムなんていくらでもある。ずっと気になりながらもこれもそんな一枚だったのだが,聞いてみたら世評通りだったという感じのカッコよさであった。

ギター・トリオという編成からしてもジミヘンが思い浮かぶが,ジミヘン・フォロワーであることは間違いないとしても,ジミヘンと一括りにしてはいけない魅力がこのアルバムにはあると思う。編成からすれば,私が好きなFrank Marino & Mahogany Rushのライブ・アルバムとも重なる部分があって,こういうのが結構好きなんだろうなぁと思ってしまう。

このアルバムを入手して,へぇ~と思ってしまったのが,歌っているのがリーダーのRobin Trowerではなく,ベースのJames Dewarだってことだが,この人の歌と声がロックを感じさせて魅力的なのも,このアルバムのポイントとなる。ソリッドなRobin Trowerのギターがカッコいいのは当然だが,James Dewarがバンドとしての魅力を引き上げたというところだろう。BB&A,Mahogany Rush,John Mayerに加えて,何度でも聞きたくなるギター・トリオによるライブ・アルバム。星★★★★★。おっと,ジミヘンも忘れちゃいかんな(笑)。と言っても,ギター・トリオ編成のジミヘンの生音源は"BBC Sessions"しか持っていないので,ライブ・アルバムと言ってよいかは微妙だが...。

ところで,Robin Trowerと言えばProcol Harum出身だが,Procol Harumも「青い影」以外聞いたことがないかもなぁ。ストリーミングで聞いてみるか...。

Recorded Live at Stockholm Concert Hall on February 3, 1975

Personnel: Robin Trower(g), James Dewar(b, vo), Bill Lordan(ds)

2023年4月 8日 (土)

久々にブラックホーク99選から:Gay and Terry Woodsの"Backwoods"。いいねぇ。

_20230406-2 "Backwoods" Gay and Terry Woods(Polydor)

私の音楽の好みはそれこそ多様だが,SSW系の音楽も偏愛対象の一つであることはこのブログにも書いてきた。自分の勘を信じて買っていたのも今は昔。昨今はストリーミングでチェックして,気に入ったものを買うというのが基本スタンスとなった。しかし,以前はそういうことはなかった訳で,そうした中で,SSW系のアルバムに関して,一つの購入の指針となったのが「ブラックホーク99選」であった。私がこうした音楽に目覚めた頃は,既に廃盤となっていたアルバムも多数あったが,中古盤屋を巡ったり,輸入盤屋でこの99選のアルバムを見つけたらさっさと買っていた。例えば,私が生まれて初めて訪れたNYCにおいて,何の気なしに入ったミッドタウンのレコード・ショップで,David Blueの"Stories"のシールド盤を見つけた時には小躍りしたのが83年のことだ(もう40年も前だ!)。

このブラックホークの99選にはSSW系のほか,ブリティッシュ・トラッドのアルバムも結構含まれているが,私はトラッドにはあまり関心がない(と言うか,あまりサウンド的に魅かれない)ので,あくまでも指針とするのはSSW系のアルバムが中心であった。そこで割を食ったのがこのアルバムって感じなのだが,Gay & Terry WoodsはSteeleye Spanのオリジナル・メンバーであるから,トラッド系の音と判断していたのだが,これが聞いてみると,トラッドは最後の1曲だけで,ほかの9曲は彼らのオリジナルであり,SSW系のアルバムと呼んでもよいものであった。ついでに言ってしまえば,私はこの手の音楽に関しては,完全にアメリカ指向のリスナーなので,優先順位が下がってしまっていたのも事実だ。

だが,出てくる音が実に私の趣味へのフィット感が強い。いかにもフォーク・ロック的なサウンドが実に魅力的なのだ。冒頭の"I Missed You"から完全にはまってしまったのだ。アメリカ的なサウンドも交えた感覚が私を刺激してしまったのであった。世の中には私のような好き者がほかにもいるらしく,特に韓国のBig Pinkレーベルはよくぞこんなものまでってのをリリースしている。このアルバムもBig Pinkからも出ているが,私が保有しているのは国内盤CD。出す方も出す方なら,買う方も買う方だ(爆)。しかし,このアルバムは実によい。ほのぼのすることもあれば,しっとり聞き入ってしまうこともあるというこのバランスが,この手の音楽好きにはたまらないのだ。これを長年聞き逃していたのは失敗だったと,今でも強く感じる名作。いいわぁ~。星★★★★★。それにしても,ドラムスを叩いているのがMichael Gilesって,King Crimsonと違い過ぎて笑える。

Personnel: Gay Woods(vo, dulcimer, autoharp), Terry Woods(vo, g, concertina, mandola, mandolin), Mike Giles(ds), Dave Wintour(b), Geoff Whitehorn(g), Peter Arnesen(p), Ed Dean(g), Joe O'Donnel(vln), Tony Carr(conga)

2023年4月 7日 (金)

リリース時はJohn McLaughlinのColtraneトリビュートとは意外だったが,これが実にいけていた。

_20230406"After the Rain" John McLaughlin(Verve)

このアルバムがリリースされたのが1995年。もう四半世紀以上前のことであり,John McLaughlinはまだ健在ながら,共演者二人は既に世を去ったところに時の流れを感じる。

本作が出た時には,John McLaughlinとJohn Coltraneが結びつかないって感じたはずだが,Santanaとno"Love Devotion Surrender"では「至上の愛 Part 1」をやっているから,全く無縁だったってことでもない。それでも収録曲全9曲のうち,6曲のColtraneゆかりの曲を演奏するトリビュート作を制作するというのは意外と言えば意外であった。しかもドラムスに迎えたのはElvin Jonesである。

私はこのトリオによるライブのブートレッグ音源を記事にしたことがある(記事はこちら)。ブートはライブだけあって,記事にも書いたように「1曲あたりの演奏時間が長く,この3者のインタープレイと各々のソロが大いに楽しめてしまう」ものだが,このスタジオ録音とて,フェードアウト等はあるものの,十分にスリリングな演奏が聞ける。

John McLaughlinはロックよりのハード・フュージョンが基本だとしても,ちゃんとジャズ・イディオムに則って演奏することもできることを実証したアルバムだと思うし,こういうのも絶対ありだなと思わせるのが素晴らしい。星★★★★☆。

Recorded on October 4 & 5, 1994

Personnel: John McLaughlin(g), Joey DeFrancesco(org), Elvin Jones(ds)

2023年4月 6日 (木)

Christian McBrideのファンク心に満ちた3枚組ライブ。

Christian-mcbride-live-at-tonic "Live at Tonic" Christian McBride(Ropeadope)

Christian McBrideという人は,さまざまなフォーマットで演奏をしていて,いかなる編成においても,質の高い音楽を聞かせるという稀有なベーシストだと思う。私が初めて彼の演奏を見たのは,まだ彼がティーンエイジャーだったが,今や彼も50歳を過ぎた堂々たる中年だが,私自身が既に還暦を過ぎているのだから,もはや長い年月が過ぎ去った。いずれにしても,リーダーとしての資質もはっきりしており,ベーシストとしてのみならず,立派なミュージシャンとしてキャリアを積んできたことは誠に喜ばしい。

本作はそんなChristian McBrideがファンク・フレイヴァーを炸裂させたライブ盤である。本作がレコーディングされたTonicというヴェニューには私は行ったことがない(そもそもとっくにクローズしている)が,出ているメンツを見れば,だいたいJohn ZornやらFred Frithらの尖ったアバンギャルド系が多い中で,Christian McBrideは異色にも思える。だが,そこはここでコンベンショナルなジャズをやるChristian McBrideではないということで,当時リリースされた"Vertical Vision"のレコーディング・メンバーによるファンク色濃い演奏をしている。

本作は3枚組の大作なので,通しで聞くってチャンスはなかなかないのだが,今回,暇にまかせてぶっ通しで聞いてみた。3枚のうち,1枚目がレギュラー・バンドとしてのクァルテット,2枚目,3枚目は各々ゲストを迎えた演奏ということになるが,2枚目,3枚目のディスクは曲目がほぼ"XX Jam"となっていて,ライナーにもあるように完全即興で演奏が行われたようである。だからと言って,フリー・ジャズということではなく,一定のビートを供給しながら,ジャム・バンド的なノリで演奏をするって感じである。

そうしたこともあって,ファンク的なノリは楽しいのだが,やはり演奏は冗長に流れるというところは否定できない。これがライブの場にいれば,全然違うと思うが,CDとして聞くと,やはりまとまりには欠けるという部分があって,この辺りが評価の分かれどころだろう。そうした意味ではレギュラーでの演奏の1枚目には私には文句はないが,2枚目,3枚目のゲストを迎えたセッションは,カッコいい瞬間も多々あるものの,評価は下がらざるをえないというのが正直なところである。ゲスト陣もギタリスト陣はいいとしても,2枚目のJason Moranはミスキャストのように思える。バンドにはGeoffrey Keezerがキーボードでいるのだから,そこにピアノを入れる意味もあまりなかった。

まぁ,こういうアルバムはノリを楽しめばいいのだという考え方もあるが,やはりこれはちょっとなぁって気がする。だが,Christian McBrideが何でもできてしまうところが明らかになっているという点は認めなければならないだろう。また,ここでのRon BlakeやGeoffrey Keezerはかなりカッコよかった。星★★★☆。

Recorded Live at Tonic on January 10 & 11, 2005

Personnel: Christian McBride(b), Ron Blake(ts, ss, bs, fl), Geoffrey K(b), Ron Blake(ts, ss, bs, fl), Geoffrey Keezer(key), Terreon Gully(ds) with Charlie Hunter(g), Jason Moran(p), Jenny Sheinman(vln), DJ Logic(turntable), Scratch(beat box), Eric Krasno(g), Rashawn Ross(tp)

2023年4月 5日 (水)

祝再来日:改めてLars Janssonの"Hope"を聞いて,彼のライブを心待ちにする。

_20230402-2 "Hope" Lars Jansson(Imogena)

Lars Janssonは頻繁に来日しているらしいが,コロナ禍もあって暫く来日からは遠ざかっていたと思われる。そんなLars Janssonはじめ,スウェーデンのジャズ・ミュージシャンが5月に大使館のサポートもあって来日し,各地でライブを行うことになっている。私がLars Janssonのライブに接したのは,2010年の一度だけだが,実を言えば,私が欧州ジャズをちゃんと聞くようになったのはこのブログを始めて以降で,お知り合いの皆さんの情報に感化されて聴き始めたというのが実態なのだ。だから,2010年のライブにおける記事においても,私は「初めて接した北欧ジャズのライブ」なんて書いている(記事はこちら)。それから幾星霜,私も随分変わったと思ってしまうが,次回の来日時にはクラブ・デイトに駆けつける予定である。

そんなLars Janssonの音楽を改めて聴いておこうと思った時に,私が取り出したのがこの"Hope"である。冒頭こそ"How Deep Is the Ocean"で始まるものの,残りは全てLars Janssonのオリジナルで占められたこのアルバムのリリカルな響きにまいらない人はいないだろうと思いたくなる。このアルバムを初めて聞いた時も,今回改めて聞いても,実にいい曲を書く人だと思ってしまった。そしてLars Janssonを支えるのがLars DanielssonとAnders Kjellbergなのだから,鉄壁の布陣と言ってもよいし,それこそ全編を通してリリシズムの洪水である。

極論かも知れないが,このアルバムを嫌いだという人はいないだろうと思わせるぐらい,次から次へと出てくるリリカルなフレーズを聞いていると,実に心の平安を得られるという感じなのだ。ライブにおいても,タイトル・トラック,"Hope"はやって欲しいなぁと思うのはきっと私だけではないだろうが,それにしても実に素晴らしいアルバムであった。このアルバムを聞きながら,Lars Janssonのライブを心待ちにしたい。

Recorded on August 31 and September 1 in 1999

Personnel: Lars Jansson(p), Lars Danielsson(b), Anders Kjellberg(ds)

2023年4月 4日 (火)

久しぶりに聴いたEgberto Gismontiの"Dança dos Escravos"。

_20230402 "Dança dos Escravos" Egberto Gismonti(ECM)

このアルバムを聞くのも久しぶりのことだ。ECMのアルバムは相当数保有している私だが,カタログの枚数が多くなり過ぎて,到底全部を購入するということはないし,昨今はストリーミングで聞ければいいやってアルバムも結構ある。そうした中で,基本的に全部買いを基本とするミュージシャンの一人がEgberto Gismontiなのだが,それでもアルバムをしょっちゅう聞いているかというと,そんなこともない。このアルバムは89年で,私が保有しているのはBMGから出たアメリカ盤。普通ならドイツ盤を買っているはずなので,本作に関してはおそらく在米中に購入したものと思われる。だが,買ってから本当に何回聞いたかなんてのは自分でも疑問なのだから,家人から死ぬまでに何回聞くわけ?と聞かれても抗弁できない(苦笑)。しかし,気まぐれでもなんでも,たまに聞きたくなるのがEgberto Gismontiだと思っている。

Egberto Gismontiは何枚もECMにアルバムを吹き込んでいるが,ECM作品ではソロと言ってもほかの楽器を弾いていることもあり,純粋ギター・ソロのアルバムというのは本作だけではないか。そして,本作では6弦,10弦,12弦,14弦を弾き分けながら,ギタリストとしての卓越した技量を聞くことができるのは貴重と言ってもよいだろう。

そして聞こえてくるのは,どこを切ってもEgberto Gismontiって感じで,2007年,2016年に聞いた生での彼の演奏を思い起こしていた。ギタリストにもいろいろなタイプが存在するが,やはりこの個性,テクニックは素晴らしいと思った。星★★★★★。

Recorded in November 1988

Personnel: Egberto Gismonti(g)

2023年4月 3日 (月)

やっぱり観に行ってしまった「シン・仮面ライダー」。

Shinkamenrider 「シン・仮面ライダー」(’23,東映)

監督:庵野秀明

出演:池松壮亮,浜辺美波,柄本佑,竹野内豊,斎藤工,森山未來,長澤まさみ,西野七瀬

やっぱり観に行ってしまった(笑)。「仮面ライダー」の第1シリーズが放映されたのが1971年,私は小学生であるから,このシリーズに関しては一方ならぬ思い入れがあると言ってもよい。正直言ってV3以降は見ていないが,第1シリーズには島田陽子が出ていたのも懐かしい。

この映画を観ていて,思ったのはTVシリーズのみならず,石ノ森章太郎の原作に対してもオマージュを捧げまくっているってことだろうか。TVerでは庵野秀明セレクションとして,仮面ライダーの第1シリーズの何本かが見られるのだが,そこで改めて見た第1回「怪奇蜘蛛男」を見れば,そのオマージュの細部への「徹底」ぶりが明らかになる。もはやオタクの世界と言ってよいレベルだ。だから,原作やTVの第1シリーズを知っている人間には受けるが,そうした情報を持たない人にはイマイチ受けないということになってしまうのではないか。いずれにしても還暦過ぎのオヤジには確実に受けるネタが満載なのだ。そして,通奏低音のような物語の「暗さ」も原作を反映していると思える。

途中の格闘シーンでの,まるでスパイダーマンを見るかのごときCGには既視感がたっぷりなのはご愛敬だが,エピソードの積み重ねは「シン・ウルトラマン」同様みたいなところがある。そのため,1本の映画として観ると,ストーリーには唐突感があり,シナリオとしてはちょっと弱いかなと思わせる部分があるが,上述のような「ネタ」によって,我々のような年代はそうした弱点を気にしないで済んでしまう。もちろん,オリジナルや原作を知らなくてもそこそこ楽しめるとしても,オリジナルや原作を知っているからこそ楽しんでしまう部分が強いことは否めない。そうした意味も含めて半星オマケで星★★★☆。

それにしても,エンド・クレジットを見ていて,どこに誰が出ているのかを全部把握できないというのは「シン・ゴジラ」と同様だって気がするが,長澤まさみが楽しそうに演技しているのには笑えた。憂いを含んだ感じの浜辺美波もよかったが,彼女たちに比べれば西野七瀬なんてまだまだだな(笑)。

2023年4月 2日 (日)

Kyle Eastwoodの初リーダー作:こんなアルバムだったっけ?(爆)

_20230330-3 "From There to Here" Kyle Eastwood(Columbia)

私はClint Eastwoodのファンだが,このアルバムを保有しているのは,Kyle Eastwoodが彼の息子だからではない(きっぱり)。偏にこのアルバムを保有しているのはJoni Mitchellが参加していることによるものだというのが正直なところだ。だからと言って,ここでJoni Mitchellが参加しているのはMarvin Gayeの"Trouble Man"1曲だけなので,決してプレイバック頻度が上がる訳ではない。しかし,今回は気まぐれで久々に取り出してみたら,主題の通り,こんなアルバムだったか?という印象を持ってしまった。

本作はKyle Eastwoodの初リーダー作のはずだが,レーベルはメジャーのColumbiaだし,ヴォーカリストとしてJoni Mitchellだけでなく,Diana KingやJulia Fordhamも迎えているので,相当期待値が高いデビューだったと思える。Joni Mitchellの参加はプロデューサーが元旦那の Larry Kleinだったことも影響していると思うが,その細かい経緯は不明だ。私が意外だったなと思うのが,全10曲中5曲がラージ・アンサンブル,残りの5曲がおそらくKyle Eastwoodのレギュラー・バンドの演奏という構成であった。特にラージ・アンサンブルでの演奏は,新人としては破格の扱いという気もするし,一方でチャレンジングな取り組みだったと感じたからである。しかも,ラージ・アンサンブルのアレンジャーはVince Mendozaというのだから鉄板である。

こうしたセッティングは,やはりClint Eastwoodの息子という話題性が寄与したことは間違いないと思えるが,ここでのKyle Eastwoodの演奏そのものは,本人の実力も十分と思わせるもので,単なる親の七光りではないところは実証されていると思う。ある意味,ここでの演奏はLarry Kleinプロデュースらしいと言えばそう感じられるものではあるが,共演者にも恵まれて,なかなかの初リーダー作になった。星★★★★。天は二物を与えたな(笑)。

Personnel: Kyle Eastwood(b), Mark Isham(tp), Oscar Brashear(tp), Sal Marquez(tp), David Sanchez(ts), Plas Johnson(ts), Doug Webb(ts), Steve Tavaglione(ss), Matt McGuire(p), Jim Cox(p, org), Billy Childs(p), T. Blade(g), Peter Erskine(ds), Kendall Kay(ds), Michael Fisher(perc), Joni Mitchell(vo), Diana King(vo), Julia Fordham(vo), with Warren Luening, Larry Hall, Wayne Burgeron, George Graham(tp), Andy Martin(tb), George Thatcher(b-tb), Dan Waldrop(tuba), Dan Higgins, Joel Peskin, Steve Kujala, Gary Foster(woodwinds), Mike O'Donovan, John Steinmetz(bassoon), Rick Todd, David Duke, Phillip Yao(fr-h), Gayle Levant(harp) 

2023年4月 1日 (土)

久しぶりにGreat Jazz Trioを聞く。

_20230330 "Live at the Village Vanguard Vol.1/2" The Great Jazz Trio(East Wind)

実に懐かしいアルバムである。このアルバムがリリースされた頃に私はジャズを聞き始めたのだが,当初はクロスオーバーからって感じだった私が,最初期に購入したオーソドックスなジャズ・アルバムの一つだったように思う。

その後,The Great Jazz Trioと名乗りながら,メンツはどんどん変わっていき,ついにはHank Jones以外のどこがGreatやねん?みたいなメンツでもアルバムを出していたが,私が現在保有しているのはオリジナルのトリオによるVanguardのライブ盤(後に発掘された"At the Village Vanguard Again"を含む)とナベサダとの共演盤2枚だけとなっているし,そもそもこれら以外のアルバムはほぼ購入した記憶もない。いずれにしても,その後,雨後の筍のように登場したXX Jazz Trioの先駆けであることは間違いないし,少なくともこのアルバムについては今でもよく出来たアルバムだったと思っている。

_20230330-2 私が保有しているのはVol.1(上のジャケ)とVol.2(下のジャケ)が全部入ったお徳用CD(上のジャケ)だが,改めて聞いてみると,ここでの演奏は実に選曲がよかったなぁと思ってしまう。Hank Jonesという人は万能ピアニストみたいにも思えるが,私としては非常に品のいいピアニストだと思える。そのHank Jonesのプレイと,ここでの曲のフィット感が実に素晴らしいのだ。そしてHank Jonesを支えるTony Williamsのダイナミズム溢れるドラミングが一方の聴き物であることは間違いない。当時はまだ私のRon Carter嫌いは発症していない(笑)が,ここでの音は下品さを感じない程度に録られていて,まだ許せるレベルなのも今の私にとっては大きい(と言っても,Ron Carterのソロになるとう~むとなるが...)。

いずれにしても,世代間ギャップのあるミュージシャン3人が揃って,これだけの演奏を聞かせるということ自体に,音楽の素晴らしさを感じるとともに,これをリリースしたのが日本のレーベルだということは誠に喜ばしい。海外レコーディングは今や当たり前になっているが,この当時にこのアルバムが出たということは,日本のレコード業界においても輝かしい業績として捉えるべき傑作。そうした歴史的な意義も含めて星★★★★★としてしまおう。

尚,私が保有するお徳用盤はいまや入手は難しそうだが,バラでならいくらでも手に入るだろう。ただ,この徳用盤,レコーディング・データが全然記述がないとか,録音日のクレジットに不備があるなど,かなり適当なつくりなのも事実で,この辺は批判されるべきだな。

Recorded live at the Village Vanguard on February 19 & 20, 1977

Personnel: Hank Jones(p), Ron Carter(b), Tony Williams(ds)

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