Brad Mehldau@紀尾井ホールを聴く。

昨年7月に予定されていたBrad Mehldauの来日が彼の手術(結石か何かだったかな)で延期になっていたが,ようやくその振替公演が開催された。既に東京オペラシティでもソロ・ライブをやっているが,私は振替となっている紀尾井ホールでの公演に出向いた。2/6にはピアノ・コンチェルトを聞くべく改めて東京オペラシティに向かうが,今回はピアノ・ソロである。前回,ピアノ・ソロを聞いたのは大手町のよみうりホールだったが,紀尾井ホールの方が若干広め(上の写真はネットから拝借)ながら,Keith Jarrettもやったこのホールで,Brad Mehldauのソロを聞くのは感慨深いものがあった。
そして,セットリストは招聘元の情報をベースに記載すると,下記のようになっていたはずだ。"Here There And Everywhere"の曲順は違っているかもしれないが,大体こんな感じであった。
- The Falcon Will Fly Again
- Untitled
- C Tune
- Think of One
- From This Moment on
- Don’t Let It Bring You Down
- If I Needed Someone
- Baby’s in Black
- Don’t Think Twice It’s All Right
- Uncertainty
- Lithium
- Here There and Everywhere
- Hey Joe
(Encore)
- Here’s That Rainy Day
- Maybe I’m Amazed
- Mother Nature’s Son
- How Long Has This Been Going on
どれもが聴きどころたっぷりの演奏だったと思うが,今回,ポップな曲もやる中で,右手で紡ぎ出されるメロディ・ラインは結構シンプルながら,左手による装飾音により,実に豊かな表現に変貌するのを目の当たりにしたって感じである。
そして,時折Keith Jarrettを彷彿とさせるフォーク・タッチも聞かせたが,Keithのようには腰を浮かしたり,唸ったりはしないで,淡々と弾いているのは大きな違いであった。今回のレパートリーを見てもらえば,Brad Mehldauというピアニストが様々な音楽を経由,消化して,演奏しているのがわかるが,"Think of One"なんかはストレートにやりながら,アンコールでやった"Here's That Rainy Day"は6/8拍子で演奏して変化をつけていた。本編の最後にやったJimi Hendrixの"Hey Joe"はバラッド的にメロディを弾きながら,その後壮大なカデンツァに移行しながらも,エンディングにはちゃんと落とし前をつけるというところも凄かった。
Bob Dylanの"Don’t Think Twice It's All Right"では,ストライド・ピアノ的な響きも聞かせるのも実に面白かったし,とにかく多様なスタイルを消化して,素晴らしいソロ・ピアノを聞かせたと言うべきである。Nirvanaの"Lithium"は,グランジ・ロックの曲ではあるが,この曲の持つ美しさを際立たせる感じというのも,見事な解釈だったと思う。
改めてBrad Mehldauが現代最強のピアニストの一人であることを再認識させるに十分なライブであり,ファンでよかったとつくづく思った私である。ということで,次はオペラシティでのピアノ協奏曲に参戦だ!
Live at 紀尾井ホール on February 4, 2023
Personnel: Brad Mehldau(p)
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コメント
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閣下、大変にお久しぶりでした。
そして、いろいろとありがとうございました。m(_ _)m
私も、「どれもが聴きどころたっぷりの演奏だった」と思います!
新譜は、ビートルズ集としてしまっていますが、ちょっと、違う気がしています。。
この日、様々なコンポーザーの曲を弾いていましたが、
どの曲も、心奪われる演奏で、最後の最後まで素晴らしい時間でした。
随分と遅くなってしましったのです、私のリンクです。
https://mysecretroom.cocolog-nifty.com/blog/2023/02/post-751f7d.html
投稿: Suzuck | 2023年2月10日 (金) 12時42分
Suzuckさん,こんにちは。リンクありがとうございます。
>
>閣下、大変にお久しぶりでした。
>そして、いろいろとありがとうございました。m(_ _)m
こちらこそありがとうございました。
>私も、「どれもが聴きどころたっぷりの演奏だった」と思います!
はい。見事なライブでした。堪能しました。
>新譜は、ビートルズ集としてしまっていますが、ちょっと、違う気がしています。
まだ現物が来ていませんので,ストリーミングで聞いただけですが,Beatlesで固めるより,紀尾井ホールでの演奏のようにいろいろな曲を交える方が,Brad Mehldauの魅力は強く感じられると思います。もちろん,アルバムはアルバムでいいと思うのですが,Brad Mehldauの魅力を堪能するには,より幅広なレパートリーが必要だと思います。その点,"10 Years Solo Live"は求める姿かもしれませんね。
投稿: 中年音楽狂 | 2023年2月10日 (金) 14時37分
お邪魔致します。
いや、このライブは本当に本当に素晴らしかったです。
生涯10本の指には余裕で入ります。
昨年のキングクリムゾンのライブやガランチャ様の来日も
含みます。昨年今年とライブ・コンサートは行くものがどれも
神がかっていて、ひれ伏したくなる想いです。
色々と申し上げたいことはあるのですが、一つだけ。
グレングールド並みの低い椅子のセッティングから、
ぐっと沈み込むような姿勢になった一瞬後の音のすばらしさ!!鳥肌が何度も立ちました。
ジャズピアノでは別格ですね。ジャズライブに限定しても、
生涯5本の指には入ります(しつこい)
投稿: JAZZ NEKO | 2023年2月26日 (日) 03時44分
JAZZ NEKOさん,おはようございます。コメントありがとうございます。
>いや、このライブは本当に本当に素晴らしかったです。
全く異論ありません。実に素晴らしいライブでした。
>昨年今年とライブ・コンサートは行くものがどれも神がかっていて、ひれ伏したくなる想いです。
久しくライブに行けなかった辛い時期を乗り越えると,感慨も大きくなりますね。
>ぐっと沈み込むような姿勢になった一瞬後の音のすばらしさ!!鳥肌が何度も立ちました。
紀尾井ホールにおける生音の美しさもあって,私にとっても屈指のライブ体験だったと思います。
ライブにも通う回数が増えてきましたので,今後も記事をアップしていきたいと思います。引き続きよろしくお願いします。
投稿: 中年音楽狂 | 2023年2月27日 (月) 08時23分