Keith Jarrett温故知新。
"Solo Concerts: Bremen Lausanne" Keith Jarrett(ECM)
何を今更と言われそうだが,このアルバムを取り上げることにしよう。正直なところ,このアルバムを聴くのも実に久しぶりのことであった。Keith Jarrettのソロ・アルバムはこれに先立って"Facing You"があったが,リリースされた当時の衝撃度からすれば,このアルバムの方が圧倒的だったんだろうと思わせる演奏である。
多分このアルバムが出た際の反応は「これは一体何なんだ?」という驚きが勝っていただろうと想像されるが,長大のコンサートを完全即興でやってしまうという発想そのものがなかったはずだ。そして紡ぎ出されるメロディ・ラインが書かれたものではないことが驚きに輪を掛ける。そして,こうしたソロ・ピアノがKeith Jarrettの代名詞とも言うべき唯一無二のスタイルとして確立する契機となったアルバムは,リリースから半世紀近く経っても魅力的に響く。
Keith Jarrettが慢性疲労症候群を患った後,ソロ・コンサートのスタイルは長大な曲をやるスタイルから,短い即興を何曲もやるというかたちに変貌を遂げ,コンサートの前半は特に現代音楽的アプローチが増え,後半でメロディアスに転じるというパターンが多くなった。しかし,Keith Jarrettの魅力というのは,まさに湧き出てくるような見事なフレージングの塊のようにも思えたこうした長編ライブの方に,より強く感じるというのが私としては正直なところである。それは美的な部分だけでなく,フォーク・タッチが強く感じられる演奏の親しみやすさにも要因があったように感じる。
アナログでは3枚組というボリュームで出た本作は,現状CD2枚に収まって,1枚目がブレーメン,2枚目がローザンヌという区切りができるとともに,曲間で途切れることがないというのメリットも感じられるようになった。演奏としては私はブレーメンでの演奏の方が好きだが,私の好みがどうこうと言うよりも,このアルバムはまさにエポック・メイキングな作品として評価すべきもの。星★★★★★。
Recorded Live in Bremen on July 12, 1973 and in Lausanne on March 20,1973
Personnel: Keith Jarrett(p)
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