Wolfert Brederodeと弦楽クァルテットの共演:実に素晴らしい"Ruins and Remains"
"Ruins and Remains" Wolfert Brederode(ECM)
Steve Lakeのライナー・ノーツによれば,もともとは第一次世界大戦の休戦100周年を記念して委嘱され,2018年の第一次世界大戦休戦記念日(11月11日)に初演された組曲に,新たに曲を追加して出来上がったのがこのアルバムである。これが実に素晴らしい。
どこまでが「書かれた」もので,どこからが「即興」なのかもはっきりしないのは,ECMの総帥,Manfred Eicherのディレクションによるものだったと,これもSteve Lakeのライナーに書かれているが,もともとはよりジャズ的なアプローチで書かれていたらしい曲が,完全にボーダレスな響きに転じていて,その狙いは完全に成功していると言える。全編を通じて感じられる寂寥感のような感覚は,美しくも聴覚を刺激する。明確なテーマを持った曲を,イメージを膨らませた上に,より優れた音楽に昇華させたプレイヤーはもちろん,プロデューサーとしてのManfred Eicherの手腕に唸らされてしまう。
これは本年のベスト盤の候補となりうる逸品であり,実にECMらしくも素晴らしい出来を示したアルバム。文句なしに星★★★★★。
Recorded in August, 2021
Personnel: Wolfert Brederode(p), Matangi Quartet [Maria-Paula Majoor(vln), Daniel Torrico Menacho(vln), Karsten Kleijer(vla), Arno van der Vuurst(cello)], Joost Lijbaart(ds, perc)
本作へのリンクはこちら。
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コメント
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実は、中年音楽狂さんの世界とはちょっと違うのかなぁー-と思って おりましたが、ご評価の良いのに感動しました。
私は彼の日本に来ての演奏を、30人ぐらいで目の前で聴いてすっかり惚れ込んでいましたので・・待ちに待ったニュー・アルバムでした。これは彼の世界がしっかり描きこんでいます。
又おっしゃるようにアイヒヤーの力の入れようは凄かったのではと想像しています。
更に録音エンジアは名手Stefano Amerioときて完璧でした。ピアノとストリングス、ドラムスのバランスも絶妙でECMの傑作ですね。
私にもリンクさせてください ↓
http://osnogfloyd.cocolog-nifty.com/blog/2022/10/post-08b714.html
投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2022年11月 6日 (日) 17時45分
こんばんは。
当方のブログに書きこみありがとうございます。
あまりライナーを読まずに聴いたけれども、少々地味な印象もありましたが、アルバムの中にドラマ性があっていい音楽でした。マンフレート・アイヒャーがメンバーを集めたのかどうか、ジャズからボーダーレスの世界が広がっていますね。知っているだけでお2人が絶賛されているので、自分も改めて聴き直してみようかと思います。
当方のブログアドレスは下記の通りです。
https://jazz.txt-nifty.com/kudojazz/2022/10/post-ff9173.html
投稿: 910 | 2022年11月 6日 (日) 18時34分
photofloyd(風呂井戸)さん,こんばんは。リンクありがとうございます。
> 実は、中年音楽狂さんの世界とはちょっと違うのかなぁー-と思って おりましたが、ご評価の良いのに感動しました。
そう思われても仕方ないかもしれませんが,これは絶品でした。
> 私は彼の日本に来ての演奏を、30人ぐらいで目の前で聴いてすっかり惚れ込んでいましたので・・待ちに待ったニュー・アルバムでした。これは彼の世界がしっかり描きこんでいます。
私もキャパ200人ぐらいの武蔵野スイングホールでトリオの演奏を観ました。それも記憶に残るもので,今回のアルバムには期待していましたが,期待を大きく上回りましたね。
> 又おっしゃるようにアイヒヤーの力の入れようは凄かったのではと想像しています。
> 更に録音エンジアは名手Stefano Amerioときて完璧でした。ピアノとストリングス、ドラムスのバランスも絶妙でECMの傑作ですね。
はい。私も文句なしの傑作という評価です。日頃はジャズにあまり関心のない私のブルックナー好きの友人も,これを聴いて感銘を受けていました。
投稿: 中年音楽狂 | 2022年11月 6日 (日) 21時47分
910さん,こんばんは。リンクありがとうございます。
>あまりライナーを読まずに聴いたけれども、少々地味な印象もありましたが、アルバムの中にドラマ性があっていい音楽でした。
テーマが明確なだけに,難しい点もあったと思うのですが,見事なアルバムでした。
>マンフレート・アイヒャーがメンバーを集めたのかどうか、ジャズからボーダーレスの世界が広がっていますね。
ライナーによれば,クァルテットの面々はリーダーとは昔からの知り合いのようですから,Eicherが呼んだのではないでしょうが,作品をおそらくは当初と違ったものに仕立てたのは間違いなくEicherだと思います。
>知っているだけでお2人が絶賛されているので、自分も改めて聴き直してみようかと思います。
風呂井戸さんと私にはずっぽしはまりましたね(笑)。
投稿: 中年音楽狂 | 2022年11月 6日 (日) 21時50分
閣下、リンクをありがとうございました。m(_ _)m
ストリングスやパーカッションが、ピアノに単なる厚みをつけるだけの存在でなく、
3者で絶妙なバランスで素晴らしいですよね!
そして、ブレデローデのピアノの美しさも絶品でした!!
アイヒャーのおかげなんですか。。
このボーダレスな世界は、、
リンク先を置いていきます。m(_ _)m
https://mysecretroom.cocolog-nifty.com/blog/2022/11/post-9d2f2f.html
投稿: Suzuck | 2022年11月14日 (月) 09時17分
Suzuckさん,おはようございます。リンクありがとうございます。
>ストリングスやパーカッションが、ピアノに単なる厚みをつけるだけの存在でなく、
>3者で絶妙なバランスで素晴らしいですよね!
>そして、ブレデローデのピアノの美しさも絶品でした!!
全く同意です。この編成にして,この音ってのが素晴らしいです。
>アイヒャーのおかげなんですか。。
>このボーダレスな世界は、、
ライナーによるとどうもEicherの影響がかなり大きかったようです。こういうかたちに仕立ててくれるならば,こっちは大歓迎です。とにもかくにも私はこのアルバムが気に入ってしまいました。最高ですね。
投稿: 中年音楽狂 | 2022年11月15日 (火) 08時25分