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2022年11月30日 (水)

Charles Lloydのトリオ3部作完結:最終作にして,最もユニークな編成だが,Zakir Hussainが効いているだけでなく,Julian Lageも素晴らしい。

_20221126 "Trios:Sacred Thread" Charles Lloyd(Blue Note)

異なった編成のトリオで3枚のアルバムを連続リリースするという離れ業を展開するCharles Lloyd。その3部作の最終作がリリースされた。既にリリースされた2枚も味わい深く,素晴らしい出来だったが,この最終作は静謐な感覚もありながら,盛り上げるところは盛り上げていて,これまたよく出来たアルバムとしか言いようがない。

本作も2020年のパンデミック最盛期にストリーミングで配信された音源がもとになっているようだが,困難なタイミングにおいても,音楽を通じた創造を忘れないCharles Lloydの執念のようなものを感じる。これを80歳を過ぎた人がやっているということ自体が奇跡的と言ってもよいかもしれない。

曲はCharles LloydとZakir Hussainのオリジナルがそれぞれ4曲,3曲を分け合っているが,アルバムとしてのサウンドは一本筋が通っていて実に見事。Charles Lloydの演奏とZakir Hussainのヴォイスの混じり具合も凄いのだが,それをバックで支えるJulian Lageのギターが輪を掛けて素晴らしい。正直言って,私はJulian Lageのリーダー作にはあまり関心を持てないのだが,ここでのギターを聞くと,この人の才能が完璧に捉えられているようにも思える。ギターの音色も魅力的で,こういう演奏を引き出してしまうのもCharles Lloydのマジックか?

収められた曲はどれもが魅力的だが,最後に収められた"The Blessing"で締めて,深い余韻を感じさせる構成には心底感心してしまった。

このトリオ3部作は,単体ではどれも星★★★★☆っていう評価でいいと思うが,3枚の合わせ技ならば星★★★★★とせざるをえまい。

そう言えば,Charles LloydとZakir Hussainには"Sangam"って共演作もあったなぁ。暫く聞いてないので,改めて聴いてみることにしよう。

Recorded Live at the Paul Mahder Gallery, Healdsburg on September 26,2020

Personnel: Charles Lloyd(ts, a-fl, tarogato, maracas), Zakir Hussain(tabla, perc, vo), Julian Lage(g)

2022年11月29日 (火)

FIFA ワールドカップ:コスタリカ戦を振り返る。

Photo_20221128090901

痛い敗戦としか言いようがない。私は訳あって後半からの試合のTV観戦となったが,押しに押していながら,得点につながらないというパターンにイライラしているところに,CB吉田の不用意なクリアから,ボールを奪われてのゴールには,絶望的な気分になってしまった。ゴール前に押し込まれている時には,明確かつ大きくクリアするのが当たり前だが,あんな中途半端な浮き球を上げてしまったことへの誹りは免れない。上の写真の吉田の表情からも「やっちまった」感が明らかだが,多くの日本国民が悲鳴を上げたと思える瞬間であった。

もう一人許せないのが,長友との交代で入ったDF伊藤の動きである。何をしたいのかさっぱりわからないような動き,ボールを配給しようという積極性が感じられないことには,交代要員としての高い意識が感じられなかった。後ろでちまちまとパス回しするために投入されてんじゃないだろう。つくづく,中山の欠場,酒井,冨安の負傷が痛いと思わされる瞬間であり,もはや次戦以降での伊藤の出番はないだろうと思わせる,それは酷い働きであった。森保監督も伊藤が使いものにならないことはもうわかっただろう。

日本代表は,まだグループEでは2位に位置しているとは言うものの,最終戦がスペイン戦であり,ドイツ~コスタリカ戦であることを考えると,スペインに勝ちにいかないとまずい状況になった。スペインは引き分けでもグループ・リーグ突破だが,日本は引き分けではドイツがコスタリカに勝つと,得失点差が問題になってくる。シナリオを考えれば,ドイツはコスタリカに対して2点差以上での勝ちを目指して猛攻を仕掛けるだろう。そうなってくると,グループ・リーグの確実な突破のために日本に求められるのはスペイン戦での勝利ってことになる。スペインと引き分けたとしても,コスタリカがドイツに勝てば日本代表は予選敗退だし,ドイツが2点差以上で勝っても予選敗退。ということで,他力本願よりも,スペインに勝つことを目指すしかない。

状況は決して楽ではないが,こうなったらアグレッシブにハイプレスをかけまくって,スペインにボールを渡さない姿勢が必要なのは言うまでもない。今度はベルギーがモロッコに敗れるというようなこともあり,何が起こるかわからないのがワールドカップである。日本代表には全力で戦って欲しいし,私も早起きして全力で応援することは言うまでもない。

2022年11月28日 (月)

無茶苦茶な話なのだが,結構面白かった「ザ・メニュー」

The_menu 「ザ・メニュー("The Menu")」(’22,米,Searchlight)

監督:Mark Mylod

出演:Ralph Fiennes, Anya Talor-Joy, Nicholas Hoult, Hong Chau, Janet McTeer, John Leguizamo, Reed Birney

なんでそうなるの?ってような話なのだが,結構面白く観てしまったのがこの映画である。Ralph Fiennes演じるSlowikシェフのレストランを訪れる出て客のほとんどが,スノビッシュ(あるいは怪しげ)に描かれる中で,Anya Talor-Joy演じるMargotだけがそうしたところから離れた「ある意味普通の人」のように描かれているのが,エンディングに向けた伏線となっているのが面白い。

ストーリーとしてはレストランの従業員たちが,どうしてこういう展開を受け入れるのかという説明は一切ないので,見ている方は「おい,おい」ってなるし,映画に出てくるこのレストランを訪れる客の感覚と同じってことになるのかもしれないが,ありえない話ではある。しかし,「カルト」ってこんな感じなのかもなぁとも思わせるのだ。

ほとんどホラーと言ってもよいような話の中で,Ralph Fiennesも怖いが,もっと怖いのがHong Chau演じる給仕長,Elsaである。この人の視線や行動は最初から怪しさ全開って感じだが,この訳のわからなさがこの映画の面白さの源泉かもしれない。星★★★★。

それにしても,Anya Talor-Joyは先日観た「アムステルダム」に続いての登場だが,2本の映画で全く違うキャラを演じていてその落差には笑ってしまった。この人,結構凄いねぇと思わせるに十分。

2022年11月27日 (日)

日野元彦の未発表音源:バンド全体も強烈だが,中でも渡辺香津美が凄い。

_20221125-2 "Flying Clouds" 日野元彦カルテット+2(Days of Delight)

Three Blind Miceレーベルが録音しておきながら,ライナーに書かれているような様々な理由でお蔵入りしていた音源が,46年という時を経てリリースされたもの。あの名盤「流氷」から3か月後の演奏で,ほぼメンツも同じということからも,期待が高まる音源であった。そして,期待は裏切られることはなかった。

この日,日野元彦は時差ボケの体調不良だったらしいが,ここでの音楽を聞いている限り,そうした感じは全然感じられないぐらいパワフルである。それはゲスト参加したパーカッションの今村祐司のサポートゆえってところもあるが,全編に渡って「流氷」同様の熱いジャズを聞かせてくれる。

とりわけ私が強烈だと思ったのが,渡辺香津美のソロ。若い頃から凄かったんだねぇというのがよくわかる,目くるめくようなフレージングにはまいったとしか言いようがない。あまりに渡辺香津美のソロに耳が行きすぎて,2テナーの音にまで注意が向かなかったではないか(爆)。

いずれにしても,70年代の日本のジャズがいかに強力だったかを改めて痛感させられる痛快ライブ音源。それにしても古い音源をここまで復活させるとは現代のデジタル技術,恐るべし。星★★★★☆。

Recorded Live at ヤマハ・ホール on May 27, 1976

Personnel: 日野元彦(ds), 山口真文(ts), 清水靖晃(ts), 渡辺香津美(g), 井野信義(b) 

2022年11月26日 (土)

クリポタ+Blue Note Tokyo All-star Jazz Orchestra参戦記。あまりのカッコよさに落涙。

Chris-potter-with-bn-all-starsクリポタことChris Potterが来日するとあっては,これは行かない訳にはいかないということで,Blue Note東京に行ってきた。今回は昨今Blue Noteにマメに出演しているビッグバンドとの共演である。24日はComtemporary,25日はAcousticと題されており,異なるプログラムが演じられることになるだろうが,私としては当然のように"Contemporary"をチョイスしたのであった。おそらくはDR Big Bandとの"Transatlantic"やJim McNeelyとの"Rituals"におけるコンテンポラリーな演奏がひな形になるであろうと想定して,それらを予習として聞いての参戦となった。特に後者における"The Wheel"のノリを期待してのことである。

冒頭はクリポタ抜きの"Blue Horizon"で軽快にスタートし,ビッグバンドのサウンドにまずは浸る。2曲目からクリポタが登場し,最初にやったのがJaco Pastoriusの"Domingo"。ここからして私はもはや興奮の坩堝。クリポタの超カッコいいフレージングにぞくぞくしてしまった。3曲目は"Transatlantic"から"Quick"の選曲は想定どおりで,クリポタのソロはアルバム同様の力感。4曲目はまたもJaco Pastoriusの"Three Views of a Secret"。これはクリポタとのフィット感はどうかなぁと感じていたのも事実だが,無難にクリア。そして5曲目がMike Mainieriの,と言うかSteps Aheadの"Beirut"で,これがまた強烈で,私はその素晴らしいグルーブに身体の揺れが止まらなかったのであった(笑)。ここで一旦クリポタは引っ込み,"Spain"をはさんで,アンコールは何とSnarky Puppyの"Lingus"。Snarky Puppyにクリポタが客演したこの曲の演奏がYouTubeにも上がっているが,クリポタがもの凄いソロを聞かせたこの曲を選ぶとはびっくり。エリック・ミヤシロ曰く,クリポタはSnarky Puppyとの共演した時の記憶がないと言っているらしいが,マジですか?というレベルの演奏だっただけに,この演奏もまた強烈至極。私の1メートル先でテナーを吹きまくるクリポタの姿と音に,私は思わず落涙してしまったのであった。まさに感涙とはこれのこと。

私としてはクリポタのテナーの真髄に触れられ,実に満足。それをドライブしたBlue Note Tokyo All-star Jazz Orchestraの面々も立派。特に川口千里のドラムスは想像以上人強烈であった。さすが手数王の弟子だけはある。

Live at Blue Note東京 on November 24, 2022 1stセット

Personnel: Chris Potter(ts),エリック・ミヤシロ(tp, fl-h, cond), 本田雅人(as, fl), 渡邉瑠菜(as, fl), 真野崚磨(ts,cl),  米澤美玖(ts), 高尾あゆ(bs), 川上鉄平(tp), 山崎千裕(tp), 小松悠人(tp), 吉澤達彦(tp), 中川英二郎(tb), 半田信英(tb), 高井天音(tb), 小椋瑞季(tb), 宮本貴奈(p), 川村竜(b), 川口千里(ds)

2022年11月25日 (金)

FIFA ワールドカップ:ドイツ戦を振り返る

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日本中が歓喜に湧いた瞬間だったと言えよう。前日にサウジアラビアがアルゼンチンを撃破したこともあり,私は同じことを日本代表も起こせ!と思っていた(実際FBにはそう書き込んでいる)が,本当に勝ってしまった。これは日本サッカー界の歴史に残る大きな一勝であることは間違いない。本当ならば試合直後にビビッドな感覚でこの記事を書くべきだったが,一日遅れになってしまった。しかし,むしろ冷静に振り返るにはこれぐらいの方がいいかもしれない。

試合の序盤は前田の惜しいオフサイドもあって,そこそこ行けるではないかと思わせていた日本代表だが,前半は完全に守勢に回り,いいところがなかったと言ってもよい。本来,日本代表がやりたいハイプレスもビルドアップもできていない状態では,ドイツ代表にいいようにやられても仕方がないところだが,それにしても,前線での寄せには積極性が感じられず,ほぼ日本陣内で試合をされていたのでは苦戦するのが当然だ。むしろ,PKによる1失点でおさえられたのはよかったと言うべきかもしれない。サッカーでは1点先制されたチームが,逆転へのモチベーションが高まるのはよくある話である。前日のサウジアラビア~アルゼンチン戦もPKで1点先制されたサウジが2対1で逆転勝ちをしている。前半の戦い方のままだったら,そうもいかなかっただろうが,後半に入ってのシステム変更によって,日本代表は本来の姿を示し始めたと言ってよい。

後半に入って,久保を引っ込め,冨安を投入して3バック体制にし,更に長友に代えて三苫,前田に代えて浅野を投入,更には田中に代えて堂安,そして酒井に代えて南野を投入と,モードをオフェンシブに変更したのだが,三苫投入直後は,三苫がディフェンスに走らされたり,左でフリーになっているにもかかわらず,ボールが配給されない等,何のための交代かわからんと言いたくなるような瞬間もあった。しかし,ハイプレスへの意識は高まってきたので,攻撃にもリズムが出てきた。ドイツのような強豪には,リスクを覚悟した上でのオフェンス・シフトが必要ということだ。

堂安の同点ゴールも,起点は三苫の切り込みからであったことを考えれば,攻撃の起点としての三苫,あるいは伊東の働きが今の日本代表においては重要だというのは明らかだと思う。また,浅野の逆転ゴールは手薄なドイツの左サイドを突いたもので,戦前から狙い目と考えられていたところからの得点だった。いずれにしても,あの角度からゴールを決めた浅野は立派だったが,強豪と言えでも穴はあるってことの証だ。

それにしても,アディショナル・タイムの7分が無茶苦茶長く感じられたのはきっと私だけではないだろうなぁ。前半同様ひやひやしっぱなしで心臓に悪かったわ。後半での3バックへの変更,終盤での鎌田のボランチへのシフト等,強化試合のカナダ戦で試したことがことごとくうまく行ったのは采配の勝利とも言えるが,両刃の剣であることは間違いないところ。しかし,こうなったら次戦のコスタリカ戦にも勝って,グループ・リーグ突破の確度を高めよう!

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2022年11月24日 (木)

今更ながら「沈黙のパレード」を観に行った。

Photo_20221121093101 「沈黙のパレード」('22,東宝)

監督:西谷弘

出演:福山雅治,柴咲コウ,北村一輝,檀れい,椎名桔平,飯尾和樹,戸田菜穂,田口浩正,吉田羊,酒向芳,村上淳

何だかんだ言って,ガリレオ・シリーズの好きな私である。新作が出れば読むし,映画化されれば,ついつい見てしまうのだ。まぁ,それでも公開されてから随分経ってから観に行っているのが,その程度の関心と思ってもらえばよい。小説版の本作について書いた時,「本作最大の悪役は誰が演じるのかが興味の焦点」なんて書いているが,ここでそれを演じる村上淳の嫌らしさは大したものであった。

但し,映画を観ていて,こんな話だったかなぁなんて思っているのだから,私の記憶力もいい加減なものなのだ。この映画はいかにもの東野圭吾的ストーリーだが,映画化するに当たって,ドラマ版よりは「予算を取ってます」的な感じが非常に強く感じられて,私としては冷めた感じで観ていたというのも事実である。映画では北村一輝の出番が結構多いが,それを生み出すドラマの背景との交錯具合はいかにも東野圭吾。しかし,小説ではあまり感じなかったストーリーのやり過ぎ感をこの映画に感じてしまった私であった。

まぁ,この映画を観ていて,女性刑事役は吉高由里子より,やっぱり柴咲コウだななんて思っていたが,まぁ映画としては星★★★ぐらいだろうな。

2022年11月23日 (水)

Bob Seger:アメリカン・ロックの典型

_20221122"Nine Tonight" Bob Seger & the Silver Bullett Band (Capitol)

私が保有するBob Segerのアルバムはベスト盤と70年代の"Live Bullets"だけだったのだが,Bob Segerの音楽を聴いていると,典型的なアメリカン・ロックのよさを感じてストリーミングでプレイバックする機会も多い私である。何せCarpentersやBeatlesから洋楽の道に入り,Deep Purpleやプログレを経て,アメリカン・ロックの世界に入っていったのがミドル・ティーンの頃だったと思う。TVで観たDoobie Brothersの映像と音にはまってしまったのがきっかけであったが,その一方で従兄に聞かせてもらったCSN&Yの"4Way Street"にも大きな影響を受けた。それ以来,私の音楽的嗜好はロックに関して言えば,間違いなくブリティッシュよりもアメリカンなのだ。

そんな私の嗜好にBob Segerはぴったりフィットしてしまうところがある。だからと言って今更アルバムを全部買おうなんて思っていないが,このライブ盤も最初はストリーミングで聞いて,このドライブ感はCDで持っていてもいいと思って,最近購入したものである。別にそのままストリーミングでいいじゃんと言われればその通りだが,手頃な価格だったのでつい手が出てしまった。

そしてここに収められているのは典型的なアメリカン・ロックである。こういう音楽に興味がない人には何が面白いのかわからないと言われても仕方ないかもしれないし,一本調子だと言われればその通りである。だが,これこそアメリカン・ロックの魅力と言うべき音なのだ。こういうのは,私にとってはアメリカのバーでビールとかバーボンを飲みながら聞いていると,調子に乗って飲み過ぎるって感じの音楽であり,老体であろうが何であろうがのってしまうのだ(笑)。

このアルバムが出た当時は,Bob Segerの現地での人気がピークと言っていい時期なので,勢いが違う。アルバムとしては"Live Bullets"の方が出来はいいと思うが,これはこれで十分楽しめる。但し,この音楽のプレイバックにはある程度の音量が必要と思うので,私の場合,「家人のいぬ間に」というタイミングをねらうしかないが,そういう時に在宅勤務ってのは実にありがたいと思ってしまう(爆)。

いずれにしても,ワイルドなアメリカン・ロック好きがノリノリになってしまうこと必定のアルバム。結局好きなので,評価も甘くなり星★★★★☆。

Recorded Live in Detroit in June 1980 and in Boston in October 1980

Personnel: Bob Seger(vo, g, p), Drew Abbott(g), Craig Frost(p, org, key), Chris Campbell(b, vo), David Teegarden(ds, perc), Alto Reed(as, ts, fl), Shaun Murphy(vo, perc), Kathy Lamb(vo), Colleen Beaton(vo), June Tilton(vo, perc), Pam Moore(vo, perc)

2022年11月22日 (火)

Viktoria Mullovaのヴァイオリン・リサイタル:面白いプログラムであった。

Mullova-beatson

私には実に珍しいことだが,今月に入って3度目のクラシックのコンサートである。クラシックに関しては,こんな頻度でコンサート・ホールに通うのは多分NYCに住んでいた頃以来のことである。あの頃は結構Carnegie Hallとか複数の定期会員になっていたから,そこそこの頻度では行っていたと思うが,それでもジャズやロックを聴くのも忙しかったので,クラシックだけで月3回は行ってないかもなぁ。まさに気まぐれと言われてしまえばその通りだが,今回の主役であるViktoria Mullovaは亡き父のお気に入りだったようで,遺品として彼女のCDが結構残っていたのだ。そんなこともあって,父は彼女の生は聞いていないと思うので,父に代わってというつもりで聞きにいった。

場所は三鷹の武蔵野市民文化会館小ホール。キャパ429人というナイスなホールだ。私が前にここを訪れたのはDanny Grissettのライブまで遡る。ブログでチェックしたらもう10年近く前のことである(記事はこちら)。それはさておき,Viktoria Mullovaというヴァイオリニストはもう少しメジャーな存在だと思っていたが,このホールでもフルハウスにならないというのはちょっと不思議なことであった。いつものことながら,武蔵野市民文化会館でのコンサートは聴衆の平均年齢が無茶苦茶高いのだが,武蔵野市民にはViktoria Mullovaの知名度はそれほどでもなかったのか?って気がしてしまう。

だが,今回のリサイタルは面白いプログラムであった。第一部はピリオド楽器(ガット弦)によるベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ4/7番,第二部がモダン楽器に持ち替えて,武満徹の「妖精の距離」~Arvo Pärtの"Fratres"の連続演奏+シューベルトのロンド ロ短調D895というもの。しかも前半は伴奏はフォルテピアノ,後半はモダン・ピアノという徹底ぶりであった。この構成でのヴァイオリンの音色の違いを味わうのも一興であったが,現代音楽にはまっている昨今の私にとっては,武満~Pärtが面白かった。武満の「妖精の距離」はアブストラクトでありながら,そこはかとないロマンティシズムを感じられる一方,Pärtの"Fratres"はダイナミズムもありながら,個性的な響きを生み出していて,聴きながら,おぉっ,いいねぇなんて思っていたのであった。その後にシューベルトを持ってきて,多分アンコールはベートーヴェンのソナタ5番からだったと思うが,ピリオド楽器とモダン楽器の聞き比べみたいなかたちで演奏が聞けるってのは初めての体験であったし,大いに楽しんだ私であった。

全く余談ながら,Viktoria Mullovaのポートレートを見て,彼女も随分老けたなぁと思ったら,私より年長者だったのねぇ。しかし,ヴァイオリンの腕には全く問題はなかったし,ピアノのAlasdair Beatsonは堅実かつ適切な伴奏ぶりであった。さて,クラシックは次は何を狙うかねぇ...(笑)。

Live at 武蔵野市民文化会館小ホール on November 21, 2022

Personnel: Viktoria Mullova(vln), Alasdair Beatson(fortepiano, p)

Photo_20221122002801

2022年11月21日 (月)

眠れぬ夜の始まり:祝FIFAワールドカップ開幕。

Photo_20221120214001

ついに4年に一度の祝祭の始まりである。これから暫くは眠れぬ夜が続くが,それは辛いものではなく,ワクワクするものだ。日本代表は厳しいグループに入ったが,初戦のドイツ戦が全てのカギを握ることは間違いない。勝ち点9なんて期待していないが,コスタリカ戦の勝利を前提として,まずは勝ち点4を取れば,得失点差次第ではグループ・リーグ突破の目は出てくるし,1勝2分けの勝ち点5ならそれはかなり確度が高いものとなる。だからこそ,初戦で最低でも勝ち点1をもぎ取ることが,2戦以降への影響を考えると無茶苦茶大事なので,11/23のドイツ戦は事前にゲットしたレプリカ・ユニフォームを着て,今大会でも一番の力を入れて,彼らの戦いを応援することにしよう。

代表チームとして,大会に向けた合宿を行えなかったという悪条件はどこの国も一緒である。そうした中での日本代表の精一杯の頑張りを期待したいが,特に鎌田~伊東~三苫のオフェンス陣への期待大である。流れるようなパス回しもいいが,強力な相手の前ではそれもなかなか難しい中,彼らの個の力で敵陣を切り裂くような攻撃,そしてゴールを見たい!頑張れ,日本代表!

2022年11月20日 (日)

何とも不思議なMilton NascimentoとHerbie Hancockの「ライブ・アンダー・ザ・スカイ」出演時の音源。

_20221118"Under Tokyo Skies" Herbie Hancock / Milton Nascimento(Jazz World)

タイトルからして,いかにも怪しげな音源である。今はなき,「ライブ・アンダー・ザ・スカイ」での演奏を収めたものだが,放送音源をソースとするであろうブートまがいのアルバムで,アルバムの構成そのものも相当無理がある。あたかもHerbie HancockとMilton Nascimentoの全面共演のように見えるが,決してそんなことはない。

1曲目の"Jack In"は1990年のPararell Realitiesの音源,2曲目~6曲目が1991年のMilton Nascimentoのグループの演奏,7~8曲目がこれも1991年のSelect Live Special Sessionからで,Herbie HancockとMilton Nascimentoが共演しているのは最後の2曲のみである。裏ジャケにはDavid Sanbornの姿さえ写っているが,演奏が収められている訳ではないという,まぁ相当適当かつ雑なつくりである。まぁそれがブートまがいということなのだが...。

この音源を聞いていると,ライブ音源ということもあって,相当粗い感じがするのは仕方のないところだが,Milton Nascimentoのグループの演奏は聴衆は盛り上がっているが,こうしてCDとして聞いてしまうと,その粗が相当目立つ。そもそもこのCDをいつどこで買ったかの記憶も曖昧だが,出来としてはイマイチとしか言いようがない。当たり前の話だが,ブートにもいいものもあれば,こういうしょうもないのもあるってのは避けられないよなぁ。それでも聞きたいと思ってしまうのが「性」ってことだ(笑)。

Personnel: (Track 1) Herbie Hancock(key), Pat Metheny(g), Dave Holland(b), Jack DeJohnette(ds), (Track 2-6) Milton Nascimento(vo, g), Robertinho Silva(ds), Tulio Mourao Pontes(key), Vanderlei Silva(perc), Joao Baptista Carvahiho(b), Ronald Silva(perc), (Track 7-8) Milton Nascimento(vo, g), Wayne Shorter(ss), Herbie Hancock(p), Stanley Clarke(b), Robertinho Silva(ds) 

2022年11月19日 (土)

私には珍しく,N響定期でコープランドを聴いた。

Slatkin-with-nhk-symphony

先日のNelsons/ボストン響で聞いたショスタコの5番の興奮も冷めやらぬ中,私としては実に珍しいことなのだが,極めて短いインターヴァルで,またオケを聴きに行った。今回はLeonard Slatkinが振るNHK交響楽団なのだが,プログラムはコープランドの「アパラチアの春」と「ロデオ」のフル・ヴァージョンというプログラム。

NHKホールに行くのはいつ以来か記憶が曖昧だが,昔,全く似合わないと言われても仕方がないが,バレエの切符のもぎりのバイトしたことがあったなぁ。最後に演奏を聞きに行ったのはMetheny~Mehldauだったか。

それはさておき,コープランドの音楽については,これまでオーケストラの演奏はほとんど聞いたことはなかった私だが,ロック・ファン,ジャズ・ファンなら,前者はEL&Pが,後者はOliver Nelsonが「ブルースの真実」で,それぞれコープランドが書いた"Hoe-Down"を演奏しているという点で馴染みはあるはずだ。EL&Pはそれだけでなく,「庶民へのファンファーレ」もやっているしねぇ。

ということで,完全に気まぐれではあるが,今回はオーケストラでコープランドの曲を聞いてみたくなってしまった私であった。曲としては編成も大きいし,"Hoe-Down"も入っている「ロデオ」の方に期待をしていたたのだが,今回のコンサートは「アパラチアの春」も含めて,全編を通じて実に楽しかった。でもやっぱり「ロデオ」の方が盛り上がったのは間違いないところ。

コープランドの書く曲はいかにもアメリカ的な響きを持つものだと思うが,聞いていて,昔の西部劇の音楽はコープランドの影響を受けているかもなぁなんて漠然と思っていた私である。例えば,Jerome Morossが書いた 「大いなる西部」や,Elmer Bernsteinが書いた 「荒野の七人」なんかが,演奏中も私の頭の中でぐるぐるしていた(笑)。

更に,今回観ていて思ったのは,オケのメンバーも演奏を楽しんでいたのではないかと思ってしまう。クラシックのコンサートであれほどオケの奏者たちが楽しそうに演奏しているのは初めて見たって感じなのだ。カーテン・コールで撮った上の写真でのLeonard Slatkinや,オケのメンバーの表情を見ればわかってもらえるのではないかと思うが,こういう難しさを感じさせない音楽ってたまにはいいよねぇと思ってしまったのであった。

とにもかくにも,あぁ~楽しかったと思える演奏であったが,次に行くのがなんとViktoria Mullovaのリサイタルって,なんか私もはじけてるなぁ(笑)。Viktoria Mullovaは亡き父が結構好きだったので,その名代ってことにしておこう。

Live at NHKホール on November 18, 2022

Personnel: Leonard Slatkin(cond), NHK交響楽団

2022年11月18日 (金)

当たり前の話だが,ReichはどうやってもReichであったというアルバム(笑)。

_20221117 "Steve Reich: Runner / Music for Ensemble and Orchestra" Susanna Mälkki / Los Angeles Philharmonic (Nonesuch)

Steve Reichの音楽は今年"Reich/Richter"がリリースされて,それも素晴らしい出来だと思ったが,またも新作がNonesuchからリリースされた。こちらも100%Reichらしさに溢れていて,Reichの音楽が好きな人間にとってはたまらない作品と言ってよい。

このアルバムには表題の通り,2曲が収められているが,先に初演されたのが"Runner"で,"Music for Ensemble and Orchestra"は編成を拡大したそのヴァリエーションと捉えることも可能だと思えるほど,曲のコンセプトは非常に似通っている,というかほぼ同じである。♩=100で,曲名も16分音符~8分音符~4分音符~8分音符~16分音符と全く同じであり,並びも全く一緒なのだから,そう考えてよいだろう。

収録時間は2曲で35分強と短いものだが,あっという間に時間が経過していき,何度でもリピートしてしまうのが,これまたReichのReichたる所以である。

こういう音楽に評価は不要って気もするが,ついつい星も甘くなり今回も星★★★★★。

Recorded on November 1-4, 2018 and on November 6-7

Personnel: Susanna Mälkki(cond),Los Angeles Philharmonic

2022年11月17日 (木)

久々に聞くSwing Out Sisterのマキシ・シングル。

_20221115"Heaven Only Knows" Swing Out Sister(Mercury)

最近は全く追い掛けることもなくなったSwing Out Sisterであるが,7枚目のアルバム"Somewhere Deep in the Night"までは全てのアルバムを購入していた私である。しかし,徐々に当初の魅力を感じなくなっていったというのが正直なところ。だが,デビュー・アルバムは今でも好きなアルバムだし,2枚目の"Kaleidoscope World"のJimmy WebbあるいはBurt Bacharach的なサウンドもよかった。ライブ盤,"Live at the Jazz Cafe"はライブ・バンドとしてもいけているところを示したし,結局,かなり好きだったというのが事実である。

そんな彼らが最初のベスト盤を出したのが1996年のことだが,そこに収められていた新曲がこの"Heaven Only Knows"であった。そういうのさえも聞きたいと思って買ったのがこのマキシ・シングルだが,この頃はやはりまだまだ魅力的な音を出していたと思える。この人たちのいいところは,そこはかとないファンク風味も感じさせながら,メロディアスな曲を聞かせるところにあると思うが,ここで聞けるゆったり感が何とも心地よい。

カップリングされているのは3枚目のアルバム,"Get in Touch with You"からの"Incomolete without You"に,4枚目の"The Living Return"からの"That’s the Way It Goes"であるが,これらの曲だってベスト盤に入れてもおかしくない曲だったと改めて思う。この頃までのこの人たちの音楽には結構愛着を覚えてしまう私である。でももうこれも四半世紀以上前の音源だってことにちょっとしたショックを受ける私である。星★★★★。

Personnel: Corrine Drewery(vo), Andy Connell(key)

2022年11月16日 (水)

追加音源が強烈過ぎるHamiet BluiettのIndia Navigation盤。

_20221114"S.O.S." Hamiet Bluiett(India Navigation)

このブログにも何度も登場しているHamiet Bluiettである。どうしても私はこの人のバリトン・サックスに惹かれてしまうところがあるのだが,いろいろなCDを保有している中でも,最も強烈な音源が本作と言ってもよいかもしれない。

まずはHamiet Bluiettのワン・ホーン・クァルテットというのがいいのだが,このCDについては+5となっている追加音源が強烈なのだ。私が保有しているのは2枚組CDだが,そもそもこのアルバムは,CD1の2曲目に収められた40分弱の音源でアナログ発売されていた。しかし,CD化に際して,未発表だった5曲を追加しているのだが,それで収録時間は2時間越えになってしまったという大盤振る舞い盤なのだ。

オリジナルの1曲だけでも強烈なのだが,この追加音源が加わって,このCDの価値は更に増したとしか言いようがない。Hamiet Bluiettらしいブルーズに根差した演奏もあれば,フリー一歩手前(いや,ほとんどフリーか...)の演奏もあって,全編に渡って,Hamiet Bluiettの魅力全開と言ってもよい。確かに万人受けする演奏ではないとしても,ここに参加した4人の演奏というのは,メンツからも想像可能なものでありながら,実に刺激的なのだ。リズム隊はベースがAirのFred Hopkinsだし,パーカッションはArt Ensamble of ChicagoのDon Moyeだもんなぁ。そしてピアノはDon Pullenなんだから,そりゃあ大変だ(笑)。

ということで,本作については,この拡大版2枚組CDを入手するのが筋である(きっぱり)。と言いつつ結構市場には出回らないんだが。この拡大版の価値も含めて星★★★★★。

このジャケット,よくよく見てみると,タイトルは"We Have Come to... Save You frOm YourselveS"の"S.O.S."なのであった。へぇ~って感じだが,よく見ないとわからないよねぇ。特にCDでは。

Recorded Live at Axis in Soho in 1977

Personnel: Hamiet Bluiett(bs, cl, fl), Don Pullen(p), Fred Hopkins(b), Famoudou Don Moye(perc)

2022年11月15日 (火)

ストリーミングで聞いたDon Henleyの1989年のライブ音源。

Don-henley-live "Live in the Fast Lane" Don Henley(Bootleg)

Apple Musicで面白そうな音源はないかと見ていて,この音源を知った。もともといろいろなかたちでブートレッグとしてリリースされていたものが,ストリーミングのプラットフォームで聞けるというもので,私が聞いた音源では冒頭のアナウンスメントも入っていることからもわかるように,もとは放送音源である。

私は長年のEaglesのファンだと思っているが,実はメンバーのソロ・アルバムにはあまり関心を示していなかった。しかし,私のDon Henleyのソロ・アルバムに対する関心が一気に高まったのは,1991年10月21日にMadison Square Gardenで開催された"Concert for Walden Woods"におけるDon Henleyのパフォーマンスを観てからである。そのイベントはBilly Joel,Stingも登場するという豪華なベネフィット・コンサートだったのだが,そこで聞いたDon Henleyの歌のクォリティが素晴らしく,すぐに当時の彼の最新作,"The End of the Innocence"を買いに走ったのであった。私は今やDon Henleyのソロ・アルバムも全て保有しているが,そのソロ・キャリアでは"The End of the Innocence"こそが最高傑作だと信じて疑わない。それほど本当にいい曲が揃っていた。

この音源は,その"The End of the Innocence"のリリース後のツアーの模様を捉えたものであるが,それまでのソロ・アルバムの曲にEaglesのレパートリーも交えての約80分のパフォーマンスが収められていて,大いに楽しめる。細かいパーソネルはわからないが,非常にタイトなバック・バンドを従えての演奏は,Madison Square Gardenでの演奏を思い起こさせるところがあって,私としては懐かしさもあり,ついつい夢中で聞いてしまった。

いまだにEaglesとしての活動と並行して,ソロ活動も行うDon Henleyではあるが,私はこの頃のDon Henleyは本当に魅力的だったと思ってしまう音源である。まぁ,所詮はブートに毛が生えたような音源であるから,評価の対象とはしないが,今から31年前のライブに思いをはせてしまった私であった。Eaglesのファン,Don Henleyのファンは聞いて損することはない(きっぱり)。尚,翌年の別のブート音源のパーソネルは下記のようなものなので,こちらの音源もメンツも大差はないはず。

Recorded Live at the Summit, Houston, Texas on September 15, 1989

参考Personnel: Don Henley(vo, g), John Corey(g), Frank Simes(g), Timothy Drury(p, key), Scott Plunkett(key), Jennifer Condos(b), Ian Wallace(ds), Sally Dworsky(vo), Marilyn Martin(vo), Dolette McDonald(vo)

2022年11月14日 (月)

「アムステルダム」:David O. Russellの映画が与えるプチ幸福感

Amsterdam 「アムステルダム("Amsterdam")」(’22,米/日,20th Century)

監督:David O.Russell

出演:Christian Bale, Margot Robbie, John David Washington, Chris Rock, Michael Shannon, Mike Myers, Remi Malek, Robert De Niro

これまで私はDavid O. Russellの映画を3本取り上げている。振り返ってみれば,「ザ・ファイター」,「世界に一つのプレイブック」,そして「アメリカン・ハッスル」であるが,どれもが見た後,よい印象を残すというのがこの人の特長だと思っている。そうした印象はこの映画も同様である。

どこまでが史実に基づくのかはわからないとしても,数多くの有名俳優を登場させながら,ストーリーとしてまとめ上げるのは結構大変だったと思うが,気持ちよく劇場を後にするというのはこの映画でも同様であった。

いきなりTaylor Swiftが出てくるのには驚いたが,その後も出るわ出るわの役者陣。久しぶりにMike Myersを見た気がするが,相変わらず笑える。話を締めたのはRobert De Niroにほかならないとしても,このキャスト陣をまとめるのも監督としては結構重荷だったのではないか。

この話は,完全なハッピー・エンドではなく,若干苦みも伴うエンディングとも言えるが,史実というのはそういうものだということを改めて思い知らされるものの,それでもプチ幸福感は十分に味わえるところがDavid O. Russellのいいところである。

本当にこんな話があったんかい?と思わせる部分もあって,エピソードが多岐に渡る(渡り過ぎる)ところが難点と言えば難点ではあるが,私はこういう映画,好きである。星★★★★。

因みに,この映画,IMDbによれば,米日合作となっているが,どこの資本が入っているんだろう?興味あるなぁ。

2022年11月13日 (日)

ショスタコに燃えた夜(笑)

Nelsons_bso

久しぶりにクラシックのコンサートに行ってきた。Andris Nelsonsが振るボストン交響楽団に,ソリストに内田光子を迎えてベートーヴェンの「皇帝」に,ショスタコの5番というそそられるプログラムであった。

こういうプログラムゆえ,東京のチケットは早々に売り切れてしまったが,諦めきれない私は大阪のチケットをゲットし,フェスティバル・ホールに出向いたのであった。結論からすれば,「皇帝」については,ソリストの内田光子がよかったのは,彼女の実力からすれば当然と思うが,第1楽章はオケが慣らし運転みたいな感じで,どうも高揚感を得られないように感じていた。この曲にはもう少しドライブ感が欲しいのだ。それは第3楽章では解消したので,文句は言うまい。

それよりも何よりも今回はショスタコである。先日,Leonard Bernstein/NPOの東京でのライブ盤を聞いて,生でこの曲を聴きたいと思ってしまったのが,今回このチケットを入手した要因ではあったが,大編成オーケストラの魅力をつくづく感じさせてくれた。とにかく弦も管も素晴らしい鳴りで,内心私は「くぅ〜っ」となっていたのであった。

曲が曲だけに興奮するのは当然としても,私は音場に身を委ねる至福を覚えていたと言っては大袈裟か。PP〜FFのメリハリもよく,実に素晴らしい演奏であった。こういうのを聴いてしまうと,たまにはオケも聴きに行こうってモチベーションが高まった私である。ってこともあって,次はLeonard Slatkin/N響のコープランドだ!(笑)。いずれにしても,財布には痛かったが,いいものを聞かせてもらった。

Live at フェスティバル・ホール on November 11, 2022

Personnel: Andris Nelsons(cond), 内田光子(p),ボストン交響楽団

2022年11月11日 (金)

Jimmy Scottの歌いっぷりにやられる...。

_20221108-2 "The Source" Jimmy Scott(Atlantic)

波乱の人生を歩んだと言ってよいJimmy Scottである。悪辣なSavoyレーベルとの専属契約を盾にした様々な邪魔によって,活動の空白期間が生じてしまったのは本人にとっても残念だっただろうが,その空白を経て,90年代以降に復活し,アルバムも相応数リリースし,更には何度も来日するまでになったことはせめてもの救いと言えよう。

そんなJimmy Scottのアルバムについては,このブログでは追悼がてら"Heaven"を取り上げただけだが,久しぶりにこのアルバムを聞いてみた。本作も契約を盾にした横槍によって,不幸にして実質30年以上お蔵入りしていたアルバムが,今世紀(2001年)に入ってようやくリリースされたものであった。しかし,このアルバムから聞き取れる「ソウル」は本物だと思う。Jimmy Scottはジャズ・ヴォーカリストとして位置付けるべきだろうが,本作においてはレパートリーもあって,R&B,ソウル的な響きも感じられるが,これが見事なまでに素晴らしいのだ。

"Unchained Melody"や"Day by Day"のような曲にまさに魂を吹き込んだ歌唱はレコーディングから半世紀以上経過しても,リスナーを感動させるものだと思う。かく言う私も心を揺さぶられた。星★★★★★。

Personnel: Jimmy Scott(vo), Junior Mance(p), Eric Gale(g), Billy Butler(g), Ron Carter(b), Bruno Carr(ds), David Newman(ts, fl), Joe Gentle(ts), Cissy Houston(vo)

2022年11月10日 (木)

気持ちよさの極致:Celso FonsecaとRonaldo Bastosの3枚目。

_20221108 ”Juventude / Slow Motion Bossa Nova" Celso Fonseca & Ronaldo Bastos(Dubas)

Celso FonsecaとRoberto Bastosのコンビによる第3作。この二人の作るアルバムは,究極的な心地よさを持っていて,このアルバムも第1作"Sorte",第2作"Paradiso"同様,現代のボサ・ノヴァかくあるべしみたいなサウンド。"Slow Motion Bossa Nova"とはよく言ったものだが,まさにゆったりとした時の流れを生み出すナイスなアルバム。

前作に比べると,参加ミュージシャンも多く,サウンドはよりカラフルとも言えるのだが,それが派手派手しいのではなく,所謂サウダージを生み出すのに適切なレベルになっているところがまたいいのだ。星★★★★☆。

彼らにはもう一枚"Liebe Paradiso"という"Paradiso"をリメイクしたアルバムもあって,そちらはアナログで入手しているのだが,そちらもそのうち記事をアップすることにしよう。

2022年11月 9日 (水)

John Legend: もはやソウル界のVIPだな。

_20221107 "Legend Act I & Act II" John Legend (Republic)

Kanye Westに見出されて2004年にデビューした段階から,この人のレベルの違いは明らかであったが,その後,順調に積み重ね,アルバムには若干の出来,不出来はあったものの,極めて信頼するミュージシャンであることを実証してきたJohn Legendである。Kanye Westのミュージシャンとしての人生が,馬鹿げた発言等により風前の灯であるのと対照的としか言いようがないが,このアルバムを聞いても,この人の今後は十分に期待できると確信した。

長年所属したColumbiaレーベルを離れた第一弾となる本作は2枚組で,ディスクはAct IとAct IIと題されているが,テーマは「土曜の夜と日曜の朝」だそうである。Act Iのディスク1が「土曜の夜」で,Act IIのディスク2が「日曜の朝」ということになるが,ディスク間の雰囲気の違いは明らかであり,これは完全に狙ったものってことになる。

「土曜の夜と日曜の朝」と言えば,我々の世代にはAlan Sillitoeの小説だったり,それを原作とするAlbert Finney主演の映画を思い出してしまう訳だが,別にその線を狙ったわけではないとしても,「土曜の夜」と「日曜の朝」のギャップを感じさせる構成になっていることは同様かもしれない。いずれにしても,アッパーとダウナーを織り交ぜつつも,全編を通じていい曲書くねぇと思わせるアルバムは,2枚組の長さを感じさせない。もちろん,John Legendのあの声,あの歌唱は健在であり,これはやはりよく出来ていると思わせる。私としては"Love in the Future"以来の出来と評価したい。星★★★★☆。

尚,ライナーの文字が小さ過ぎてほとんど読めない老眼の私なのでPersonnelは省略するが,ゲストは適材適所と思う。

2022年11月 8日 (火)

こんなアルバムはECM New Seriesでしか作れないと思ってしまう”L’Aurore”。

_20221106 "L’Aurore" Carolin Widmann(ECM New Series)

Carolin Widmannはドイツのヴァイオリニストで,現代音楽を得意とする人らしい。このアルバムはCarolin Widmannのソロ・ヴァイオリンによる作品なのだが,現代音楽だけならさておき,ここでの選曲ってECM New Series以外ありえないだろうと言いたくなるようなものなのだ。

そもそも冒頭のHidegard von Bingenは中世ヨーロッパ最大の賢女と言われているらしい宗教家であり,神秘家であり,そして作曲家とのことだ。ここに収められた"Spiritus sanctus vivificans vita"も元々は聖歌として作られたもののはずで,そのメロディ・ラインをヴァイオリンで奏でたものと思われる。そして間に近現代の作曲家(全然知らない)の曲をはさんで,最後を締めるのがバッハの無伴奏パルティータ2番なのだ。こんなプログラムって,ヴァイオリンのソロ・リサイタルならないとは言えないかもしれないが,アルバムとして残してしまうのが,ECM New SeriesのECM New Seriesたる所以である。

ECM New Seriesっていうのは古典と近現代音楽をマージするというのが実に得意だと思うが,これはおそらくManfred Eicherの指向によるものと思える。そして,こういう異質の音楽の同居が実に新鮮な感覚を生むということを,私はこのレーベルのピアノ音楽でも経験している。Alexei Lubimov然り,Anna Gourari然りである。そして,それは楽器が変わって,ヴァイオリンでも全く同じであった。結局,こういうのが私の嗜好にもマッチするってことだが,Manfred Eicherの術中にまんまとはまっているだけなのかもしれない。この記事を書くにあたって,過去の記事を振り返ってみると,Alexei Lubimovにそろ,Anna Gourariにしろ,ほとんど同じようなことを書いているのは,私の表現能力の限界だが,同じ感覚を与えるということこそが,Manfred Eicherの狙いだと思ってしまう。

しかし,バッハはさておき,こういうアルバムでないとおそらく接することのなかったであろう音楽を聞くことができたのは,偏にECM New Seriesというレーベル・パワーだったということなる。だからこそ,ECM New Seriesのアルバムは侮れないし,ちゃんとフォローしないといかんのである。私の場合は器楽曲専門みたいな感じだとしても,そこで何度もはまっているのも事実なのだ。

このアルバムも,傾聴するもよし,聞き流すもよしのオプションを与えてくれるアルバムだと思う。星★★★★☆。

Recorded in July, 2021

Personnel: Carolin Widmann(vln)

2022年11月 7日 (月)

やはりMilt Jacksonはええですわぁ~:Ray Brownとの相乗効果も大きいライブ盤。 #MiltJackson #RayBrown

_20221104-3 "That’ the Way It Is" Milt Jackson Quintet Featuring Ray Brown (Impulse!)

このブログにも何度か登場するMilt Jacksonであるが,このアルバムは昔ジャズ喫茶とかで聞いていたものの,今まで保有はしていなかったのだが,気まぐれで購入したもの。ストリーミングでも聞けるのでそれでもよかったのだが,ストリーミングで聞いても,おぉ,こりゃええわと思ったぐらいで,こっちの期待を裏切らないナイスなアルバム。端的に言えば,ブルージーでソウルフルって感じだろうが,ジャズの楽しさを感じさせてくれるのだ。

前にも書いたが,Milt Jacksonは亡くなった父が結構好きで,私は遺品としてそれを引き継いでいるが,その中にはこのアルバムは入っていなかった。Milt Jacksonという人は,作品のアベレージが高くて,大概の場合,聞いていて嬉しくなってしまう人だが,このアルバムの楽しさは格別だと思ったのは,ライブ・セッティングによるところが大きいと思う。そして,同じライブでもModern Jazz Quartetのものとは雰囲気が全然違うのだ。Ray Brownの野太いベースに乗ったMilt Jackson,はっきり言ってノリノリである。

また,このバンドはRay Brownとの双頭バンドという位置づけゆえ,Ray Brownの出番も多数であり,"Frankie And Johnny"や"Tenderly"で,ベースのこれぞ名人芸とでも呼ぶべき演奏が聞けるのもポイントが高い。

このアルバムが気に入らないというジャズ・ファンはいるまいとさえ思いたくなるほど,聞いていて楽しくなってしまうアルバム。歴史的名盤とは言わないが,こういうアルバムこそジャズの魅力を理解するのに最適だと思える。ジャケも雰囲気出ているよねぇ。星★★★★☆。

Recorded Live at Shelly’s Manne-Hole on August 1 & 2,1969

Personnel: Milt Jackson(vib), Ray Brown(b), Teddy Edwards(ts), Monty Alexander(p), Dick Berk(ds)

2022年11月 6日 (日)

Benjamin LacknerのECMデビュー作:作曲能力の高さはわかるんだけどねぇ...。

_20221104-2 "Last Decade" Benjamin Lackner(ECM)

Benjamin LacknerというピアニストはBrad Mehldauに師事したらしいとの情報もあり,気になって入手したアルバムである。昨今,私はECMのアルバムの購入も本当に気になるものに限定しているが,本作はメンツもいいし,リリース情報を仕入れた段階で買おうと思っていたもの。

聞いてみると,全編を通じてメロディアスな曲が多く,作曲能力の高さは理解できるし,ECMらしい静謐で美的なアルバムだと言ってもよい。しかし,私は聞き進めていくと,もう少しメリハリをつけてもよかったのではないかと思えてしまった。Mathias Eickのラッパを含めて,抒情的なトーンは魅力的にも響くのだが,全編を通じて一本調子な感覚がぬぐえない。かつ,誰のリーダー作なのかわからないぐらいMathias Eickの露出度が高い。リーダー,Benjamin Lacknerはピアノよりもコンポーザーとしての位置づけが強いようにさえ思えてしまう。

決して演奏が悪いという訳ではない。各人の音色は魅力的で,Mathias EickやManu Katchéの実力は誰しもが認めるところである。そうした中で私がいいと思ったがの,ベースのJérôme Regardの音色であった。Benjamin Lacknerとの共演歴も長く,リーダーの音楽性を理解し,支えるという役割を十分に果たしているし,一曲提供した"Émile"がこれまた魅力的である。

しかし,アルバム全体を聴いていると,昨日取り上げたWolfert Brederodeの"Ruins and Remains"のような感銘が得られないというのが正直なところで,私としては星★★★☆程度の評価となってしまう。"Ruins and Remains"があまりに素晴らし過ぎて,その後に聞いたことが本作の印象を薄くしてしまったとも言えるが,私としてはもう少し痺れる展開があってもよかったと思う。

Recorded in September, 2021

Personnel: Benjamin Lackner(p), Mathias Eick(tp), Jérôme Regard(b), Manu Katché(ds)

2022年11月 5日 (土)

Wolfert Brederodeと弦楽クァルテットの共演:実に素晴らしい”Ruins and Remains” #WolfertBrederode

_20221104 "Ruins and Remains" Wolfert Brederode(ECM)

Steve Lakeのライナー・ノーツによれば,もともとは第一次世界大戦の休戦100周年を記念して委嘱され,2018年の第一次世界大戦休戦記念日(11月11日)に初演された組曲に,新たに曲を追加して出来上がったのがこのアルバムである。これが実に素晴らしい。

どこまでが「書かれた」もので,どこからが「即興」なのかもはっきりしないのは,ECMの総帥,Manfred Eicherのディレクションによるものだったと,これもSteve Lakeのライナーに書かれているが,もともとはよりジャズ的なアプローチで書かれていたらしい曲が,完全にボーダレスな響きに転じていて,その狙いは完全に成功していると言える。全編を通じて感じられる寂寥感のような感覚は,美しくも聴覚を刺激する。明確なテーマを持った曲を,イメージを膨らませた上に,より優れた音楽に昇華させたプレイヤーはもちろん,プロデューサーとしてのManfred Eicherの手腕に唸らされてしまう。

これは本年のベスト盤の候補となりうる逸品であり,実にECMらしくも素晴らしい出来を示したアルバム。文句なしに星★★★★★。

Recorded in August, 2021

Personnel: Wolfert Brederode(p), Matangi Quartet [Maria-Paula Majoor(vln), Daniel Torrico Menacho(vln), Karsten Kleijer(vla), Arno van der Vuurst(cello)], Joost Lijbaart(ds, perc) 

2022年11月 3日 (木)

Ed Bickertのアルバムについてはあまり書いていなかったので,今日は”Out of the Past”。

_20221101 "Out of the Past" Ed Bickert Trio(Suckville)

私はPaul Desmondのバックを務めるEd Bickertに惹かれて,彼のアルバムも何枚か保有している。テレキャスターとは思えない暖かいトーンは実に魅力的で,かつスウィング感に溢れたEd Bickertはギタリストとしても結構好きな人である。このアルバムにも何枚か記事をアップしているが,登場回数が思ったより少ないので,改めてこのアルバムを聴いてのご登場である(笑)。

このアルバム,1976年にレコーディングされながら,リリースされたのは2006年。即ち30年もの間,お蔵入りしていたということになるが,決して出来が悪いということではない。蔵出し音源ってことで,アルバム・タイトルも"Out of the Past"ってのはそのまんまである(笑)。70年代というのは,クロスオーバー/フュージョンの登場により,コンベンショナルなジャズの退潮が囁かれていた頃である。このアルバムがお蔵入りしたのも「売れない」と判断されたからなのかもしれないが,70年代中盤といえば,Ed BickertがPaul Desmondとライブ・レコーディングした頃であるから,ちゃんと生き残るところでは生き残っていたのだと思える。

ここでは有名,あるいはそうでもないスタンダード,ジャズマン・オリジナルをいかにもEd Bickertらしい音で弾いている。Duke Ellingtonの"I'm Just a Lucky So And So"なんて実に心地よいスウィング感を生み出していて,嬉しくなってしまう。全編を通じて,スロー~ミディアム・テンポってのもこの人らしいってところである。安定のEd Bickert節が楽しめる。Don Thmpsonのベースも音色,フレージングともに素晴らしい。星★★★★☆。本作がリリースされたのはEd Bickertの引退後であったが,なんて惜しい!と思う人も多かったに違いない。

しかし,このジャケというか,タイトルのフォントの色使いとかなんとかならなかったものかねぇ(苦笑)。

Recorded on January 27 & 28, 1976

Personnel: Ed Bickert(g), Don Thompson(b), Terry Clarke(ds)

2022年11月 2日 (水)

買った時の記憶が甦る:Gardinerが振ったスカルラッティの”Stabat Mater”。

_20221030-3 "Domenico Scarlatti: Stabat Mater" John Elliot Gardiner / Monteverdi Choir  (Erato)

私を知る人からは「似合わねぇ~」と言われるだろうが,ごく稀に宗教音楽を聞きたくなる時がある。今やそんなに枚数は保有していないが,ルネッサンス期の宗教音楽とかたまに聞きたくなるのだ。

このアルバムは私が大学の卒業旅行で欧州を訪れた時に,現地のレコード・ショップに「新譜」として出ていたものだと記憶する。その頃,私は既にJohn Elliot Gardinerの振るヘンデルの音楽に痺れていた頃であるが,そのGardinerのレコードということもあって買ったことを覚えている。当時はまだCDよりもアナログが主流の時代で,私は何枚もLPを現地で仕入れて,重い思いをしながら帰国したのが1985年3月のことである(遠い目...)。このアルバムもアナログで入手しながら,今持っているのはCD版で,久しぶりにこのアルバムを聴いてみて,この響きは今一度アナログで再生してみたいなぁなんて思ってしまった。

ジャケットにもある通り,このアルバムは声楽と通奏低音からのみ構成される宗教音楽なのだが,これが実に美しい響きを生み出していて,自分の宗教観に関係なく,思わず敬虔な気持ちになってしまう。表題曲のスカルラッティの「スターバト・マーテル」のほか全4曲が全て聖母マリアを称えるものであり,テーマとして一貫していることもあるが,これらの曲が作られた時代において,キリスト教に対する信仰を一層深めるには大いに寄与したであろうと思いたくなるような曲ばかりである。

私は正直言ってこういう音楽でも聞き流してしまうタイプだが,こういう美しい音楽が流れていると,仕事も捗る(笑)。作曲した側からすれば,極めて邪道な聞き方だろうが,それでもこの美しさを体感できることには幸福感を覚える私である。宗教音楽の素晴らしさを改めて実感した私であった。星★★★★★。

Recorded in February, 1984

Personnel: John Elliot Gardiner(cond), Monteveri Choir, Member of English Baroque Soloists

2022年11月 1日 (火)

Paolino Dalla Portaの”Tales”:Kenny WheelerとStefano Battaglia参加のクァルテット作。 #PaolinoDallaPorta

_20221030-4"Tales" Paolino Dalla Porta(Soul Note)

リーダーには悪いが,このアルバムを購入したのはKenny WheelerとStefano Battagliaの名前に惹かれてのことだったことは告白しておこう。Kenny WheelerとStefano Battagliaの名前を見れば,ECM的な音楽を期待してしまうというのが筋である。もう一点,このアルバム・カヴァーを飾るUgo Mulasの印象的な写真に反応したというのもあったと思う。

しかし,よくよく考えてみれば,今やPaolino Dalla PortaはGlen Mooreに代わってOregonに加入しているし,そもそもはPaolo FresuのDevel Quartetのメンバーではないか。更にはBebo Ferraとのナイスなデュオ・アルバムだってこのブログで取り上げているのに,このアルバムの購入時には完全に意識していなかったはずだ。記憶力の減退は私の年齢ゆえに仕方ないが,リーダーには改めて詫びを入れたくなる(苦笑)。

そして,久々にこのアルバムを取り出して聴いてみたが,冒頭からベースの生々しい音に驚かされる。ベースってのはこういう音で録るんだぜって感じの音となっていて,実に魅力的。そうした思いは全編を通じて継続するが,特に6曲目の"Mbira"のベースの音にも感じてしまう。Kenny Wheelerのラッパも,彼らしい魅力に溢れたサウンドだと言ってよいだろう。

演奏される曲は2曲のStefano Battagliaのオリジナルを除いて,リーダーのオリジナルが6曲という構成で,リーダーとしても力が入っている。そして想定通りと言うべきだろうが,抒情的なるものと,ややアバンギャルドに傾斜した音楽が混在していて,コンベンショナルなジャズと言うよりも,やはり欧州的な響きが顕著である。まぁ,アバンギャルドに展開する2曲目の曲名が"Kandinsky"というのはいかにもだが...(笑)。

ゴリゴリのジャズを好む向きにはちっとも面白くないと言われても仕方がないが,一旦欧州ジャズに触れ,魅力を感じたことがあるリスナーには相応に訴求力を持つアルバムだと思う。例えば5曲目"Il Piccolo Principe"(「星の王子さま」というタイトルだが,それっぽくはない)のように,演奏がやや冗長に感じられる部分もあるし,最後の"Vocal"なんてもう少しコンパクトにやってもいいのではないかと感じることも事実だが,6曲目"Mbira"のスリリングな展開から,7曲目"Tenzin"冒頭の抒情的な響きへの流れ等は非常に魅力的に響き,全体としては星★★★★。とにかくこのアルバム,私のしょぼいオーディオ・セットでも感じる音のよさが魅力も捨てがたい。

Recorded on May 28 and 29, 1993

Personnel: Paolino Dalla Porta(b), Kenny Wheeler(tp, fl-h), Stefano Battaglia(p), Bill Elgart(ds)

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