久々に聴いたGeorge Adamsの"Nightingale":いつものGeorge Adamsを期待するとはずされる。はっきり言ってバブル経済の残滓。
"Nightingale" George Adams(Somethin’ Else / Blue Note)
このアルバムを最後にプレイバックしたのがいつなのかも覚えていないぐらい,本当に久しぶりにこのアルバムを聞いた。このアルバムは日本制作だが,私が保有しているのは米Blue Noteからのリリースなので,多分私がNYCに在住している頃に購入したはずのものだ。
George Adamsに一般的に抱くイメージは,Charles Mingusのバンドや,Don Pullenとの双頭クァルテットにおける演奏ってことになると思うが,私にとっては1983年,私が初めてNYCを訪れた時に,Sweet BasilでGil Evans Orchestraの一員としてテナーを吹いていたGeorge Adamsである。以前,このブログにも書いたことがあると思うが,その時,George Adamsは紙袋に入ったウイスキーを,ラッパ飲みしながら演奏していたという記憶が私にとってはあまりに鮮烈に残っている。当然出てくる音はGeorge Adamsらしいものであった。こっちとしてはGeorge Adamsの演奏というのはやはり激情的なものという感覚がある訳で,基本はそういう音を期待する。
しかしである。この演奏は実に穏やかである。そこはかとなく感じられるゴスペル的なフィーリングは,演奏を捧げられたDanny RichmondとGil Evansを追悼する意図が表れたものと言ってもいいのだろう。それをよしとするか,違うんじゃないの?と感じるかは,リスナーが何を期待するかによって異なるはずだ。George Adamsを知らないリスナーであれば,これもありだと思うだろうし,ジャズなんて聞いたことがないというリスナーにとっては,ここでの選曲はそれなりに訴求するだろう。だが,演奏のクォリティが保たれていたとしても,こういう演奏をGeorge Adamsというミュージシャンにやらせてしまうところに,私は商魂しか感じない。
演奏は悪くないと思う。だが,こういう演奏ってGeorge Adamsの自我の発露を抑制させるものでしかないのではないか。私から言わせれば,"Moon River"なんかは行き過ぎた選曲としか言えないし,全然George Adamsらしさを感じない。キレる瞬間皆無とは言わないが,私が知るGeorge Adamsからすれば,おとなしいものである。それはピアノのHugu Lawsonにしても,ベースのSironeにしてもそうだろう。日頃激しい演奏をしているミュージシャンだって,その気になればこういう演奏もできるということの証ではあるが,本当にこれがGeorge Adamsがやりたい音楽だったのかと言えば,そうではないだろう。あくまでも商売,あくまでもビジネスである。
George Adamsに求める感覚は"Ol' Man River"にちょこっと出てくる程度では,こっちは「おい,おい」となっても仕方がないのだ。アダプテーションするならするで,George Adamsの個性をもっと活かせたはずだと今回久しぶりに聞いて,フラストレーションがたまりまくった私であった。金さえあればなんでもできると思っていたであろう,バブル期の日本制作の嫌らしさが如実に表れた怪作。演奏の質は確保されているが,それでも星★★☆が精一杯。もはや保有している意義はないが,中古市場でも買い叩かれること必定なので,持っているだけというアルバム。
Recorded on August 19 & 20,1988
Personnel: George Adams(ts, ss, fl), Hugh Lawson(p), Sirone(b), Victor Lewis(ds)
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コメント
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これは盛大にだめですね.聴いてコケました.
1970年代からの多くの日本企画盤のなかでも,ヴィーナスとかこのあたりのダメさは際立つなあ,といつも思います.timeless盤あたりでアダムスの良さを知ったファンは,こんなの聴きたくなかったと思うのですが.
投稿: K's Jazz days | 2022年9月11日 (日) 08時36分
K’s Jazz daysさん,こんにちは。コメントありがとうございます。
>これは盛大にだめですね.聴いてコケました.
よくわかります(笑)。
>1970年代からの多くの日本企画盤のなかでも,ヴィーナスとかこのあたりのダメさは際立つなあ,といつも思います.timeless盤あたりでアダムスの良さを知ったファンは,こんなの聴きたくなかったと思うのですが.
はい。George Adamsの本質を何だと思っているのかと言わざるをえません。こんなものを聞いて,George Adamsを聞いた気になっているリスナーは不幸です(きっぱり)。記事にも書いた通り,バブル経済の残滓に過ぎないクズ盤ですね。
投稿: 中年音楽狂 | 2022年9月11日 (日) 17時34分