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2022年9月30日 (金)

正調ではないかもしれない。しかしこういうバッハも実に楽しい。 #VíkingurÓlafsson

_20220924 "J.S. Bach:Works & Reworks" Víkingur Ólafsson (Deutsche Grammophon)

今回取り上げるVíkingur Ólafssonについては,以前,Phillip Glassの音楽を演奏したアルバムを紹介したことがある(記事はこちら)。実に気持ちのよいアルバムで,その年のベスト盤にも選んだぐらい好きなアルバムであった。その後,Víkingur Ólafssonは順調にアルバムをリリースしているようであるが,昨今,特にクラシック畑の情報は必ずしもチェックが十分ではないので,本作のリリースも知らなかった。しかし,ほかのアルバムとの抱き合わせ購入時に何を買おうかと思っていて,猛烈に気になって購入したものである。

タイトル通りの構成と言ってよいが,1枚目が"Works"として編曲版を含むバッハの曲を演奏し,2枚目が"Reworks"として,エレクトロニクスを交えたアダプテーションした演奏が収められている。昨今,現代音楽のピアノにはまる私としては,"Reworks"への関心が上回っていたのだが,聴いてみるとこれがどちらもよいのだ。

"Works"の方も実は一筋縄ではいかない。レコード会社の情報にもある通り,「親しみ深い曲から少々サプライズ的なあまり注目されていない曲までを選曲」したもので,ある意味バッハをテーマとしたオムニバス盤のような趣もあるのだが,そこに全く違和感がないのである。そうしたところにバッハの音楽の懐の深さを感じる訳だが,更にそれが"Reworks"に至って,バッハの懐の深さを一層感じるというのがこの2枚組である。"Reworks"を聞いていると,Vangelisによる映画「ブレードランナー」を想起する瞬間やアンビエントな感覚もあって,こういうのってはまるんだよなぁ。

こういうプログラムは,クラシック音楽原理主義者からすれば,気に入らないものかもしれないと思いつつ,このピアノの響きに身を委ねれば,心地よいことこの上ないないのだ。やはりVíkingur Ólafsson,侮ってはならないピアニストである。ちょっと甘いとは思うが,星★★★★★としてしまおう。いずれにしても,次回来日する際には,是非とも聴きに行きたいと思った私である。

2022年9月29日 (木)

Pharoah Sandersを偲んで,今日は”Journey to the One”。 #PharoahSanders

Pharoah-sanders

"Journey to the One" Pharoah Sanders(Theresa)

_20220927_20220929080301先日この世を去ったPharoah Sandersを偲んで聞いたのが本作。このアルバムを買ったのはリリースされてから随分経ってからのことで,それがいつのことだったかは記憶から飛んでいる。アナログは2枚組だし,琴が入っていたり,コーラスが入っていたりと,ちょっと購入には勇気がいるところもある作品だ。よくよくライナーを眺めると,Bobby McFerrinが入っていたりすることは全然認識していなかった。いずれにしても,初めて聞いたのは多分ジャズ喫茶においてであったと思う(こういうのが当時よく掛かっていたのだ)が,若い頃に聞いた時には不思議なレコードだと感じたようにも思うし,その頃はPharoah Sandersには少なくともはまっていない。

だが,私もいろいろな音楽を聞いていると,このPharoah Sandersがコンベンショナルなセッティングの中で発する,フリーキーなトーンが快感になってくるから不思議なものだ。本作においても,激しいのは激しいんだけれども,いい塩梅でコンベンショナルな響きがあるところがいい感じに響く。まぁ編成とかを見ると,不思議なプロデュースだとは思うが,Pharoah Sandersがやりたいことを全部やりましたって感じなのかもしれない。

こういう音楽はPharoah Sanders亡き今,なかなか聞けなくなるのかなとも思うが,私としては彼の残したレガシーとして聴き続けたいと思う。但し,そんな頻繁ではないが...。いずれにしても,また一人のスタイリストが世を去ったことは実に寂しい限り。

改めてではあるが,R.I.P.

Personnel: Pharoah Sanders(ts, bell), Eddie Henderson(tp), John Hicks(p), Joe Bonner(p), Mark Isham(synth), Carl Locket(g), Chris Hayes(g), Ray Drummond(b), Joy Julkus(b), Idris Muhammad(ds), Randy Merritt(ds), Babatunde(perc), Yoko Ito Gates(koto), Paul Arslanian(harmonium, wind-chimes), Bedria Sanders(harmonium), James Pomerantz(sitar), Phil Ford(tabla), Claudette Allen(vo), Vicki Randle(vo), Ngoh Spencer(vo), Donna Dickerson(vo), Bobby McFerrin(vo)

2022年9月28日 (水)

Barre Phillips:「最後のソロ・アルバム」は「最後のアルバム」じゃなかったのねぇ(苦笑)。 #BarrePhillips

_20220924-3 "Face à Face" Barre Phillips / György Kurtág, Jr.(ECM)

Barre Phillipsがアルバム,"End to End"をリリースした時,「最後のソロ・アルバム」としてECMに自らオファーしたとライナーには書かれていた。即ち,年齢を考えれば,それはBarre Phillipsにとっての「最後のアルバム」だと思っていた私の早とちりっていうのが,本作で明らかになった。

"End to End"が制作に至る経緯がなかなか感動的だっただけ(詳しくはこちら)に,おいおい,まだ出るのかと思ったのも事実なのだが,今回,ECM New Seriesに自らのピアノ演奏でのアルバムも持つGyörgy Kurtágの息子との共演とあってはかなり気になる。しかし,絶対ハードルは高いはずだと思いつつ(笑),今回購入したものの一枚がこれである。

一聴して,これはやっぱりハードルが高い(きっぱり)。もはや現代音楽と言っても通じる感覚であるが,こういう音楽に耐性を身に着けてしまった私には,これがまた実に興味深く響くのだ。本作はBarre Phillipsのベースに,György Kurtág, Jr.のライブ・エレクトロニクスが加わるというものだが,ライナーはまたまたSteve Lakeが書いているし,やっぱりECMにおけるBarre Phillipsのポジションは特別なのかもしれない。

本作のSteve Lakeのライナーにも,ソロ作は"End to End"で最後としても,これは「コラボレーション」としての取り組みだって書いてある。今年の10月で米寿を迎えるBarre Phillips,まだまだやる気満々ってところか。だが,2020年9月から2021年9月までの1年を掛けて完成させたこのアルバムは,普通のリスナーにとっては「何のこっちゃ?」って感じのアルバムだろう。メロディ・ラインも,リズム・フィギュアもほとんど感じられないのだから,こんなものは音楽と認められないという人もいるはずだ。

まぁ,確かに「鑑賞音楽」としては結構辛いよなぁってのは私も感じるところなのだが,Barre Phillipsの本音はさておき,聴く方はこれはアンビエント・ミュージックとして捉えた方がいいかもしれない。何となくプレイバックしていて,これに耳をそばだてるかというと,それも微妙であり,何となく流れているという感覚の方が,私としてはわかり易い気がする。むしろ,こういうアルバムをリリースしてしまうところが,ECMというレーベルの真骨頂であり,こんなことができるレーベルはそうはない。出しただけでも凄いよねって感覚をお判り頂ける方だけが聞けばいいでしょう。私としては星★★★★ぐらいだが,さて,普通の人はどう捉えるか(笑)。

Recorded between September 2020 and September 2021

Personnel: Barre Phillips(b), György Kurtág, Jr.(electronics)

2022年9月27日 (火)

Enrico RavaとFred Herschの共演は期待通りと言ってよい。 #EnricoRava #FredHersch

_20220924-2 "The Song Is You" Enrico Rava / Fred Hersch (ECM)

本作のリリースがアナウンスされた時から,私としては大いに期待していたアルバムである。Fred HerschがEnrico Ravaとライブで共演しているという情報は,Fred HerschのFBページ等でもわかっていたが,その時はほぉ~,HerschにRavaかって思っていた私だが,このレコーディングを踏まえてという意味合いだったのだろう。いずれにしても,この二人に期待するのは究極のリリシズムってところであるが,その期待は決して裏切られることはない。冒頭のAntonio Carlos Jobimの"Retrato em Branco e Preto"から掴みはOKである。

二人が即興で演じた2曲目の"Improvisation"や,そのほかの曲でのRavaのソロにややアブストラクトな響きが強まる瞬間はあるが,基本的に歌心に溢れた素晴らしい演奏である。Fred Herschのファンとして言えば,Fred Herschらしいピアノの響きであり,実に嬉しくなる作品だ。最後をFred Herschのソロによる"'Round Midnight"で締めるのも,これまたファンには嬉しい演出である。

そして,Enrico Ravaがフリューゲル・ホーンで通したことも,Fred Herschのピアノとのいい混じり具合を生み出したと思える。こういうのを聞いていると,名人が二人揃えばこんなものよと思わなくもないが,ちゃんと期待に応えてくれるところが素晴らしい。そうした点も評価して,星★★★★★。こういう音楽は,本当にツボにはまる...。このコンビで是非来日して欲しいと思うし,続編も期待してしまうなぁ。

Recorded in November 2021

Personnel: Enrico Rava(fl-h), Fred Hersch(p)

2022年9月26日 (月)

Miles Davisの”Decoy”期前後の音源を中心とするブートレッグ・シリーズ。ライブ音源が最高だな。

_20220923-3 "That’s What Happened: The Bootleg Series, Vol.7 1982-85" Miles Davis(Columbia)

80年代にカムバックしてからのMiles Davisをどう捉えるのかってのは,人によって随分違うと思う。例えは違うかもしれないが,50年代のArt Pepperとカムバック後のArt Pepperの「どっちがいい」論争みたいなものも生み出すかもしれない。私としてはWarnerに移籍して"Tutu"をリリースする前後で随分評価が変わると思っているクチである。

私は80年代のMiles Davisのライブは,初回を除いて,来日する度に観ていたと思う。私としては85年あるいはせいぜい87年ぐらいまでは無茶苦茶カッコいいと思っていたのだが,晩年の演奏は全く感心しなかったというのが正直なところだ。以前にも書いたと思うが,私が最後にMiles Davisのライブを観たのは,91年のAvery Fisher HallでのJVC Jazz Festivalにおける演奏であった。その翌年,Milesが世を去るとは全く想像していなかったが,その時の演奏は全く面白みに欠け,もうMilesのライブはいいやなんて思っていたのが約30年前である。

それに比べれば,80年代中頃までのMilesのライブは,血沸き肉踊らせたっていう感覚があるのだ。だからこそ,今回リリースされる音源には非常に関心があった。ただねぇ,82~85年という切り口が本当によかったのか?ってのは,実はよくわからない。なぜカムバック前後からの音源からカヴァーしなかったのかってのは,追々出すのか?って気にもなるが,まぁカムバックから暫くしての復調を果たしたMilesの姿って編集方針だってことにしよう。

音源については,私はストリーミングで聞いていたが,現物が届いて,改めて聴いているところである。スタジオ音源に関しては,もう少しちゃんと聴く必要があるが,この3枚組のキモはCD3のモントリオールにおけるライブ音源だと言って間違いなかろう。ここでの音源は"Decoy"に使われていることからして,この時の演奏が相当なレベルでの演奏だと判断されていたってことは明らかなのだ。"Decoy"というアルバムは,私はアナログで言えばB面こそ燃えると思っているが,まさにB面に収められた2曲の音源はこの時の演奏の編集されたものなのだから,この演奏には興奮して当たり前だと言いたくなる。

このボックスの意義を語るには,私は聞き方がライブ音源に偏り過ぎだが,いずれにしても,このボックスはCD3から聞いて興奮するのが正しいと言いたくなる私である。そうは言っても,今回のスタジオ音源にはJ.J. Johnsonが参加しているものもあって,思わずへぇ~となってしまったのだが。まぁ,あとはTina Turnerのヒット曲,"What's Love Got to Do with It"が公開されたことだろうな。

そうは言っても,当時のMiles DavisバンドのライブのカッコよさをCD3で追体験するってのが,このボックスの聞き方の正しい姿だろう。それにしても,Darryl Jonesのベースのソリッドさは凄いな。

Personnel: Miles Davis(tp, key), Bill Evans(ts, ss, fl), Bob Berg(ss), J.J. Johnson(tb), Mike Stern(g), John Scofield(g), John McLaughlin(g), Robert Irving, III(key), Marcus Miller(b), Darryl Jones(b), Al Foster(ds), Vince Wilburn, Jr.(ds), Mino Cinelu(perc), Steve Thornton(perc)

2022年9月25日 (日)

Brad Mehldauの最初期音源の一枚:Peter Bernsteinの”Somethin’s Burnin’”。進歩が早い...。

_20220923 "Somethin’s Burnin'" Peter Bernstein(Criss Cross)

Brad Mehldauのレコーディング・キャリアはChristopher Hollydayの"The Natural Moment"で始まるが,その録音が91年の1月だったので,Brad Mehldauはまだ20歳の時であった。その後,順調にキャリアを積み上げ,今やジャズ界ではビッグ・ネームとなったが,初期のレコーディングを振り返ってみると,このアルバムはかなり早い時期のものと言ってよい。それはリーダーであるPeter Bernsteinにとっても同じで,これはPeter Bernsteinの初リーダー作のはずである。

Brad MehldauにはPeter Bernsteinとの共演が結構あるが,彼らがどのように出会ったかはわからない。多分,ここにも参加しているJimmy CobbのCobb’s Mobのバンド・メイトとして付き合いが始まっていると考えればいいと思うが,ことあるごとにと言っては言い過ぎかもしれないが,結構マメに共演しているのは確かである。当時はまだまだ若手と言ってよい二人が共演したこのアルバムを聞いていると,Peter Bernsteinは年齢(録音当時25歳ぐらいのはずだ)を感じさせない達者なプレイぶりであるが,一方のBrad Mehldauは,Christopher Hollydayとのアルバムで感じさせた生硬さは感じられず,短期間で長足の進歩を遂げているという感覚がある。所謂「伸び盛り」ってことなのかもしれないが,ここでのプレイぶりは明らかに"The Natural Moment"の時とは明らかに異なると思えるのだ。Cobb’sでMobで鍛えられたのかもしれないが,年齢相応というよりも,より成熟した感覚を打ち出している。少なくとも20歳そこそこの若手の演奏と思えない弾きっぷりは,表現を変えれば「老成」のようにも思えるが,ここではセッションの性格を踏まえた「適切」なバッキングをしていると思える。

今にして思えば,Criss Crossというレーベルは,Peter BernsteinやGrant Stewart,あるいはWalt WeiskopfやMark Turnerのアルバムで,若きBrad Mehldauにレコーディングのチャンスを与えたことでも評価しなければならないと思える。それこそ今は亡き,レーベル創設者兼オーナー兼プロデューサーのGerry Teekensに感謝する必要があるってものだ。この後にアルバムを吹き込むFresh Sound New TalentとCriss Crossの2つのレーベルは,Brad Mehldauというミュージシャンの成長過程を知る上で,実に重要なレーベルと言いたい。

いずれにしても,こういう伸び盛りのミュージシャンの「瞬間」を捉えたアルバムとして十分楽しめるアルバムだと思う。星★★★★。

Recorded on December 22, 1992

Personnel: Peter Bernstein(g), Brad Mehldau(p), John Webber(b), Jimmy Cobb(ds)

2022年9月24日 (土)

日野皓正からのつながりで,今日は日野元彦:この程度のアルバムだったのか...?

_20220921-3 "Hip Bone" 日野元彦(Fun House)

昨日,兄貴の日野皓正のアルバムを取り上げたので,今日は弟の日野元彦である(笑)。このアルバムを聞くのも実に久しぶりだったのだが,時間の経過によって,随分印象が変わってしまったという感覚を覚えたことは告白しておかねばならない。

私の保有しているCDは,兄貴の日野皓正よりも,日野元彦のものの方が多い。これもその一枚だが,買った当時はこのアルバムに好印象を持っていたし,だからこそずっと一軍の棚にいたのである。本作が出たのはほぼ四半世紀前のことになるが,当時の日本ジャズ界のそれこそ「若手の精鋭」を集めたバンドだったと言ってもよいだろう。結構これはカッコいいのではないかという印象をずっと持ったままラックに収めていたのだが,久しぶりに聴いてみると,これがピンと来ない。むしろ全くいいと思えない。それは私の加齢のせいかもしれないし,そもそもの審美眼,あるいは趣味,嗜好の変化ということかもしれない。だが,今回,久々に聴いてみて,本作に対してどうにも私には受け入れがたい「軽さ」を感じてしまったのである。

全9曲中3曲がリーダーのオリジナルだが,そのほかはMiles Davis人脈のレパートリーを中心とするモダン・ジャズ・オリジナルである。それを3管ではあるが,80年代に復活後のMilesバンドの感じのファンク色を交えて演奏するってところのアルバムである。なのだが,私がどうしても違和感を覚えてしまうのは,わざわざアレンジメントをいじる必要があるのかって曲を,「オリジナリティを必死で出そうとする感じ」がある意味痛々しく感じてしまうということだ。例えば,2曲目は"So What"となっているが,それが出てくるのは最後の最後ってのは,さすがに気負い過ぎだよって言いたくなるのだ。

ここにいるメンツであれば,ギミックをかまさなくても演奏の質は保てたと思えるのだが,策に溺れた感があって,全然楽しめないのだ。私に言わせれば,こういう演奏を以てよしとしたプロデューサーの趣味の悪さを感じざるをえないというところだ。曲が曲だけに,普通にやりたくない気持ちはわかる。そういう曲が揃っているから,ミュージシャンとしてはそう思うのも理解できない訳ではない。しかし,ここでの演奏は私にはギミックと,サウンドとしての軽さしか感じられない凡作なのだ。それは1曲を除いてアレンジを施した納浩一の責任でもあるが,A級戦犯はプロデューサーの方だろうな。

今回,私はこのアルバムを一軍の棚に入れておいたことは明らかな間違いだったと思った訳だが,それも聞いてみないとわからないってことで,いい勉強になった。いずれにしても,本作は本日を以て二軍行きが確定したのであった(笑)。星★★★。日野元彦を聞くならば,このアルバムからではない(きっぱり)。あ~あ。

Recorded on June 11-15, 1994

Personnel: 日野元彦(ds), 納浩一(b),大石学(org),道下和彦(g),佐藤達哉(ts, ss),五十嵐一生(tp),山田穣(as)

2022年9月23日 (金)

日野皓正の”Double Rainbow”:これが出た頃って実はよくわからなかった。私もまだまだ修行が足りなかったな(苦笑)。

_20220921 "Double Rainbow" 日野皓正(Columbia/Sony)

このアルバムが出たのが1981年のことだが,私はリリース後,アナログで入手したものの,全くピンと来ないというか,正直言って,よくわからなかったというアルバム。まぁ当時の私と言えば,ジャズはそこそこ聞くようになったものの,まだエレクトリックなMiles Davisの音楽にもはまっていないことだし,メロディ・ラインが明確な方を好んでいたから,このアルバムのある意味で混沌とした(フリーとかアバンギャルドではない)雰囲気が当時の私の理解を越えていたということになる。

この当時,日野皓正,ナベサダ,そして菊地雅章がメジャー・レーベルColumbiaと契約したことは日本ジャズ界でも大きな話題になった。そして,このアルバムも全米でリリースされたはずだが,売れたって話は聞いたことがない。それは菊地雅章の"Susto"の姉妹作的なつくりによるハイブラウな感覚もあるだろうし,コマーシャリズムからは一線を画した作風によるところも大きいと思える。メジャーと契約しながら,売れることより,クリエイティブであることを選択するってのは勇気のいることだろうが,その心意気は買わなければならない。

このアルバムにおいては,Gil Evansの参画も大きな話題になったが,Gil Evansが関わっているのは"Miwa Yama"だけであり,別にGil Evansらしいオーケストレーションを施している訳でもない。まぁ,Miles Davisの"Star People"や"Decoy"にGil Evansがクレジットされているのと同じような感覚で私は捉えている。本格的なアレンジャーというよりも,オーガナイザーあるいはアドバイザーってところではないのかと思う。

いずれにしても,執拗に繰り返されるリズム・フィギュアに乗って展開される怪しげな(笑)ファンクは,40年以上前のアルバムでありながら,今の耳で聞いても古さを感じさせないのは,私がこういうサウンドに慣れたってこともあるだろうが,今にして思えば大したものである。最後の"Aboriginal"にはAnthony Jacksonのエレクトリック・ベースに,アコースティック・ベースが3本加わるってのは相当変態だし,クラッピングなんてSteve Reichをちょっと想起させるしなぁ。

ということで,私も当時はまだまだ修行が足りなかったことを再認識しつつ,このアルバムってもう一度評価し直してもいいかもと感じさせるものであった。星★★★★☆。

蛇足ながら,このアルバムの最大の難点はこのジャケかもしれない。アルバムで奏でられている音楽とこれほどアンマッチなジャケットもなかろう(笑)。

Personnel: 日野皓正(cor), 菊地雅章(key, p, arr), Kenny Kirkland(key), Herbie Hancock(key), Mark Gray(key), Steve Grossman(ss), Sam Morrison(wind driver), Steve Turre(conch), Lou Volpe(g), Butch Campbell(g), James Mason(g), Barry Finnerty(g), David Spinozza(g), Anthony Jackson(b), Hassan Jenkins(b, clap), Herb Bushrler(b), Reggie Workman(b), Eddie Gomez(b), George Muraz(b), Harvey Mason(ds), Lenny White(ds, clap), Billy Hart(ds), Airto Moreira(perc), Don Alias(perc), Manolo Badena(perc), Emily Mitchell(harp), Gil Evans(arr)

2022年9月22日 (木)

これもまたJoni Mitchellってことで,"Big Yellow Taxi"のマキシ・シングル。 #JoniMitchell

Big-yellow-taxi "Big Yellow Taxi" Joni Mitchell(Reprise)

私はJoni Mitchellのかなりのファンであることは,このブログにも何度も書いているし,ミュージシャン単独でカテゴリー登録しているのはBrad MehldauとJoni Mitchellだけである。だから,コンプリートとは言わずとも,結構な数のJoni Mitchellの作品は参加策含めて保有している。そうした中でも,相当異色と言っていいのがこのマキシ・シングルである。

端的に言えば,Joni Mitchellの人気曲,"Big Yellow Taxi"を複数バージョンにリミックスしたEPなのだが,これが結構面白いのだ。正直言ってしまえば,私はリミックス・アルバムとかにはあまり興味がないタイプのリスナーだが,このEPの場合,"Big Yellow Taxi"がこうなっちゃうの?って感じなのだが,リミックスされたビートに,Joni Mitchellの声が違和感なく溶け込んでしまっていると感じてしまうのだ。贔屓目に言えば,どのようなリミックスを施しても,Joni Mitchellのオリジナルの強さは感じられるというところだろう。

そもそもこのEPの出自は,米国のドラマ,"Friends"に採用されたことから,その拡大盤というかたちでリリースされたものだろうが,そんなことを知らずに購入して,初めて聴いた時はびっくりしたはずだ(もう四半世紀以上前のことなので,記憶の彼方だが...)。これもまたJoni Mitchellの作品として考えれば面白いが,聴く人によっては邪道,あるいは原曲への侮辱と感じるかもしれない。しかし,Joni MitchellがOKしなければ,こういうかたちではリリースされていないはずなので,本人はこれもありって捉えているってことだろう。

最後の最後にオリジナル・ヴァージョンが収められていて,リミックス版,ダブ版との「落差」を楽しむのがいいと思えるユニーク作。ダブ版なんて,ほぼJoni Mitchellの痕跡もなしみたいな感じだしねぇ(笑)。いずれにしても,久しぶりに聴いたらマジで面白かった。

2022年9月21日 (水)

Alan Parsons Projectの”Eve”:Eric Woolfsonがヴォーカルを取り始める前のアルバム。 #AlanParsonsProject

_20220919-2"Eve" The Alan Parsons Project(Arista)

このブログでも何度か書いていると思うが,私はAlan Parson Projectのファンである。批評家筋の受けが悪かろうが,なんだろうが,好きなものは好きなのである。彼らの最高傑作は"Eye in the Sky"であると信じて疑わないが,キャリアを通じて,彼らのアルバムはどれも相応に魅力的だと思っているが,特にEric Woolfsonがヴォーカルを取るようになる"The Turn of a Friendly Card"以降が私への訴求力を増していくと思っている。このアルバムはEric Woolfsonがヴォーカルを取り始める前のアルバムである。

ここではAlan ParsonsとEric Woolfsonが果たしているのは,あくまでもプロデューサー,ソングライターとしての役割だったのだが,プレイヤーとしては出番がかなり少ないこともあって,私としてはこのアルバムはIan Bairnson, David PatonのPilot組に,ゲスト・ヴォーカルを迎えるというフォーマットであり,Pilotの持っていたポップさを明確に引き継いでいると思える。

そもそもDavid PatonはBay City Rollersにも在籍したことがあるってぐらいだから,ポップなのは当たり前ってところだが,リード・ヴォーカリストが6人もいるってこともあるし,やや仰々しいとも思えるオーケストレーションもあって,印象が定まりにくい部分もあるように思える。そういうところもあって,私が保有するAlan Parsons Projectのボックスの中では,プレイバック頻度があまり上がってこないというところである。決して嫌いって訳ではないのだが,決定的なキラー・チューンに欠けるってのも事実だ。そういうところもあって,星★★★☆。

それにしても,"Secret Garden"におけるChris Rainbowのクレジットが"One-man Beach Boys"ってのは笑える。

因みにアルバム・カヴァーはHipgnosisであるが,Wikipediaにも書かれているように,よくよく見ると結構凝った作りになっているが,あまりそこまで気にしたことはなかったなぁ。

Personnel: Alan Parsons(produce, autoharp,key), Eric Woolfson(key, exective produce), Ian Bairnson(g), David Paton(b, vo), Stuart Elliot(ds, perc), Duncan Mackay(key), Lenny Zakatak(vo), Chris Rainbow(vo), Dave Townsend(vo), Clare Torry(vo), Leslie Duncan(vo), Andrew Powell(orchestration)

2022年9月20日 (火)

Creed Taylorを偲んで,の意味合いも含めてFreddie Hubbardの”Sky Dive”。     #FreddieHubbard

_20220919 "Sky Dive" Freddie Hubbard(CTI)

先日,亡くなったCreed Taylorであるが,CTIレーベルのアルバムってのは,まさに玉石混交と思う。このブログにはそれほどCTIのアルバムはアップしていないが,例えばMilt Jacksonの"Sunflower"とかは,さすがにあかん方の部類である。一方,Freddie HubbardやJoe Farrellのアルバムって結構好きだと思っているが,そう言えばこのアルバム,真っ当に聞いたことがなかったなぁということで,廉価盤も出ているしということで,Creed Taylor追悼も込めて今更ながらゲットしたもの。

このアルバムは,Don Sebeskyも絡んでいるので,いかにものCTIサウンドと言ってよい訳だが,その中で異色なのは何と言ってもKeith Jarrettの参加だろう。このアルバムがレコーディングされたのは1972年10月なので,Keithは既にECMで"Facing You"を吹き込み,American Quartetも結成済みの時期である。そうしたタイミングでこういうアルバムに参加しているというのは実に面白い。そう言えば,Airtoの"Free"にも参加していたが,実はそっちも聞いたことがないところが,CTIに対する私のスタンスみたいなものだ(笑)。

正直言って,2曲目のBix Beiderbecke(!)作である"In a Mist"でのKeithのピアノを聞いていると,やる気あるのか?と思うようなパラパラとしたフレーズを聞かせて,明らかに浮いている感じがするが,転じて,アナログで言えばB面の2曲においては,結構メロディアスなソロが聞ける。3曲目は何と,映画「ゴッドファーザー」のテーマ曲である。と言っても例の「広い世界の片隅に~」(だったか...)で始まる「愛のテーマ」ではない。典型的なバラッド曲と言ってよいこの曲において,途中からテンポを上げてスリリングに展開する演奏はなかなか楽しい。

まぁ,このアルバムはあくまでもFreddie Hubbardのアルバムなので,Keith Jarrettはゲストとして捉えればいいのだが,Freddie Hubbardはなかなかいい吹奏ぶりで,この頃はなかなか好調だったんだろうと思う。本作と併せて"First Light"も購入しているので,そのうちそっちもアップするが,いずれにしても,典型的なCTIのメンツ,CTIのサウンドを肩肘張らず楽しめばよいと思わせるアルバム。星★★★★。

Recorded on October 4 & 5, 1972

Personnel: Freddie Hubbard(tp, fl-h), Hubert Laws(fl), Keith Jarrett(p, org), George Benson(g), Ron Carter(b), Billy Cobham(ds), Airto(perc), Ray Barretto(perc), Don Sebesky(arr, cond) with Horns

2022年9月19日 (月)

Sarah Vaughan:当たり前だが,本当に歌がうまいねぇ...。 #SarahVaughan

_20220915 "How Long Has This Been Going on?" Sara Vaughan(Pablo)

私が保有しているSarah Vaughanのアルバムはかなり後期に偏っているが,元から歌はうまかったとしても,Sarah Vaughanが人間国宝的な扱いを受けるようになったのは,Pabloに吹き込むようになってからではないだろうか。本作はそのPabloにおける第1作。

なんてたって,共演しているのがOscar Peterson,Joe Pass,Ray Brown,そしてLouie Bellsonという面々である。プロデューサーとしてNorman Granzも力が入っているとわからせるに十分である。私が知らない曲は"You're Blasé"だけで,それ以外は有名曲が並んでいて,Sarah Vaughanからすれば,簡単に歌いこなすこともできるような曲ばかりと言ってもよい。しかし,Norman Granzがそうはさせない(笑)。

アナログで言えばA面に当たる5曲はクァルテットをバックに歌うのだが,このアルバムのキモはB面に移ってからである。”More Than You Know"はOscar Peterson,"My Old Flame"はJoe Pass,"Teach Me Tonight"は一旦クァルテット伴奏に戻るが,"Body And Soul"はRay Brown,そして最後の"When You Lover Has Gone"はなんとLouie Bellsonとのデュオで締めくくるのだ。どうせなら全部クァルテット伴奏でいいのにとか,こういう構成が気に入らないという人もいるかもしれない。しかし,Sarah Vaughanという歌手の実力を知らしめるというNorman Granzの意図が,私には強烈に感じられる。

もちろん,こうしたプロデュースを可能にするのは,バックの面々の実力あってこそではあるが,この5人だからこそ成しえたアルバムと言ってよい。こういうのを聞くと,この人たち,マジで凄いわって思わざるをえない。そして,Sarah Vaughanはやはり人間国宝級の歌手であった。星★★★★★。

Recorded on April 25, 1978

Personnel: Sarah Vaughan(vo), Oscar Peterson(p), Joe Pass(g), Ray Brown(b), Louie Bellson(ds)

2022年9月18日 (日)

録りだめしたビデオから,今日は「ワーロック」:なかなか珍しい設定である。

Warlock 「ワーロック("Warlock")」(’59,米,Fox)

監督:Edward Dmytryk

出演:Richard Widmark, Henry Fonda, Anthony Quinn, Dorothy Malone, Doloreth Michaels

録りだめした映画が何本もある私だが,なかなか見ている暇がないというのはいつもながらのことである。そもそもこの映画,私は米国で仕入れたリージョン1のDVDを保有しているのだが,先日購入したリージョン・フリーのDVDプレイヤーと相性が悪く,再生ができないのでショックを受けていたのだが,なんてことはない。BSで放送されたものを録画していたことに気づいて,観ることにした。

この映画,悪玉ははっきりしている。一番悪いのはTom Drake演じる極悪非道のAbe McQuownなのだが,それに対立する善玉軸の主役の3人がよくわからない。まぁRichard WidmarkはAbe McQuownの一味ながら,その極悪非道に辟易として,正義の道を歩むのだが,通常は善人を演じることが多いHenry Fondaの演じるClayはメイクの感じもあって,強いのだが,これがよくわからない。見た感じは後の「ウエスタン("Once upon a Time in the West")」でHenry Fondaが演じたFrankのよう見た目なのだ。Anthony Quinn演じるMorganは一筋縄ではいかない役回りってところで,この辺がありきたりの西部劇と違う感じを醸し出している。ついでに言っておくと,後に「スター・トレック」でドクター・マッコイを演じるDeForest Kelleyは最終的に善玉の味方になってしまうところが,この人の役得って感じもする。

いずれにしても,基本は善玉対悪玉の構図なのだが,上述の通り,よくわからないキャラが存在することで,やや複雑な話になっている気がするし,そこにDorothy Malone,Doloreth Michaelsという女優が絡むことで,話がやや長くなった感は否めない。その辺が西部劇に何を求めるかってところで評価が分かれるところだろうが,まぁそこそこは楽しめる。痛快西部劇って感じではないところが難儀なところだが,多分これは原作もそういう感じだったんだろうと思う。ってことで星★★★☆ぐらい。

因みに監督のEdward Dmytrykは赤狩りの対象として投獄されながら,後に転向して,仲間を売ったということで,映画界で顰蹙を買った人だが,思想によるパージなんていう映画界にとっても不幸な時期があったことは決して忘れてはならない。時代とは言え,ハリウッドにおける赤狩りは,未来永劫映画界の恥部として記憶されるべきであるし,表現の自由ってのは何なのよとこれからも考えていくべきなんだろうと思う。

2022年9月17日 (土)

前々から気になっていた”Spirit of the Forest”を入手。

_20220909-4 ”Spirit of the Forest” Various Artists(Virgin)

熱帯雨林保護を目的としたチャリティ・ソングである。まぁ,"We Are the World"の環境保護版ってことになるのだが,以前からこれが気になっていたのは,偏にJoni Mitchellの参加ゆえである。こういうのって,同じくJoni Mitchellが参加したNorthern Lightsによる"Tears Not Enough"1曲を聞くために"We Are the World"を入手するのと同じようなものだが,ファンってのはそういうものだ(苦笑)。

Spirt-of-the-forest-vocal-chart ジャケのイメージからだけではわかりにくだろうから,参加したメンツがわかるイメージがDiscogsにあったので貼り付けておくが,まぁ凄いメンツである。チャリティについては,各々のミュージシャンが意思を以て参加しているので,それについてはそれを尊重すべきであるし,曲のよしあしとかについてどうこう言うつもりもない。それにしても,LA,NY,ロンドンの3か所でのレコーディングによくぞこれだけミュージシャンが集結したものだ。

私としてはこの7インチ・シングルをゲットしたことで満足である。オーストラリアのセラーから,送料込みにするとそこそこのコスト(と言っても大した金額ではない)は掛かったが,Joni Mitchellの一瞬のソロ・フレーズははっきりしているし,まぁいいやってことにしておこう。一般的には,完全にオタクの世界と言っても過言ではないが(爆)。

尚,このシングル,A面とAA面から成るが,両面でソロを取るミュージシャンには違いがあるのは写真の通りである。

YouTubeにはこの曲の映像もあったので,ついでに貼り付けておこう。因みに映像はA面のメンツ。普通の人はこれで十分でしょう(笑)。ところで,映像に出てくるブラジルのミュージシャンはどこで録ったのか?また,映像にはStingらしき人物も映っているように見えるのは気のせい?

2022年9月16日 (金)

来日目前:Dave GrusinとLee Ritenourの懐かしいブート音源。

Tokyo-connection "Budokan Hall, Tokyo 1982" Dave Grusin & Lee Ritenour(Bootleg)

間もなく来日公演を控えるLee RitenourとDave Grusinである。コロナ禍以降,私も初めてBlue Note東京に駆けつけることになっているが,彼らの共演も70年代から始まっているので,随分長くなったものである。Dave Grusinなんて今年で米寿だってのに,まだ現役でライブをやっているってのも凄いことだ。

ネットを見ていたら,そんな彼らの懐かしい音源を発見したので,懐かしさもあって聞いてみた。これは1982年にDream Bandとして来日し,武道館でライブをやった時の実況音源だが,これはJVCやGRPから既に一部リリースされている(現在は廃盤のはずだ)。私はその会場にいたのだが,この時にはMichael Franksも同行していて,明らかにガチガチに緊張していたのも懐かしい。そして,この時やった"Countdown"はLee Ritenourとしても屈指のソロと言いたいほどカッコよかった。

その時の演奏は映像も残っているはずだが,これは映像から落としたか,エアチェックの音源ではないかと思えるもので,正規盤の音を期待してはいけない。聞けないことはないが,音揺れとかも結構激しい,所詮はダビングを重ねたようなブートレッグ・レベルのものなので,音の精細度とかは全くなっていないのだ。しかし,これまで埋もれていたMichael Franksの歌や,正規盤では公開されていないレパートリーを聞けることに意義があるのだ。私の記憶では中本マリもいたような気がするのだが,ここにすら入っていない。また,正規盤には入っていた"Serengetti Walk"がここには入っていないという不思議な事象もある。Michael Franksの歌なんて,私の記憶ほどには緊張してなかったのかって感じだし,"Mountain Dance"もやっていたなんてすっかり忘れていたしなぁ。まぁ40年も前だから仕方ないか(苦笑)。

いずれにしても懐かしいだけでなく,今回の来日に向けて,彼らの演奏への期待値を高めている私である。もう彼らが"Countdown"のような演奏をすることはないだろうが,フュージョンってのはこういう感じでやって欲しいよねって改めて思ってしまった。ってことで,惜しくも冒頭のLee Ritenourソロによるイントロはカットされているが,"Countdown"の映像を貼り付けておこう。当たり前だが,皆若いねぇ(笑)。

Recorded Live at 日本武道館 on July 7, 1982

Personnel:Dave Grusin(p, key), Don Grusin(key), Lee Ritenour(g), Eric Gale(g), Anthony Jackson(b), Steve Gadd(ds), Rubens Bassini(perc), George Young(reeds), タイガー大越(fl-h) with Orchestra

2022年9月15日 (木)

”Art Pepper Meets the Rhythm Section”:これを聴くのはいつ以来かも覚えていない。 #ArtPepper

_20220910 ”Art Pepper Meets the Rhythm Section” Art Pepper(Contemporary)

長年ブログをやっていると,こういう所謂名盤について書くことは面映ゆいところがある。そもそも,今更何を書くのよってところもあるし,このアルバムを初めて買ってから45年ぐらい経ってしまっている。今はもう手許にはないアナログ盤は,それこそよく聴いたものであるから,馴染み度が違うのだ。何分,高校生の頃は月に1枚LPを買うのが限界だったのだから,聴く頻度が高いのは当たり前であった。現在,私が保有しているCDは80年代の中期にリリースされたもので,私としてはかなり早い時期にアナログからCDへ置き換えたものの一つだ。しかし,昔聞き過ぎたってこともあって,昨今,本作をプレイバックする機会は全然なかった。今回聴いたのは,少なくとも10年以上ぶりではないか。

演奏については何も言うことはない。Art Pepperのアドリブ能力を支えるのが,当時のMiles Davis Quintetのリズム・セクションなのだ。それを一発で録音し,これだけの演奏を残すというところに,彼らのミュージシャンとしての実力がわかるってっものだ。どこを切っても一流の演奏としか言いようがないのだ。

だからこそってこともあるが,ある程度,音楽を聞く幅が広がっていくと,こういういいのが当たり前みたいな音源を,ないがしろにしがちになっていることは否定できないので,それはきっちり反省しなければならないと思う。長年ジャズを聞いてきて,相応の審美眼は身につけてきたつもりであるし,好き嫌いもはっきりしてきた。そうした審美眼を磨く上で,こういう演奏は早い時期に聞いておいてよかったと思える。どんなに久しぶりに聞いても,やっぱりこれはいいわと思わせるところが,名盤の名盤たる所以である。"Straight Life"とか聞いていて,「くぅ~っ」となってしまったもんねぇ。

正直言ってしまうと,私は50年代のArt Pepperの演奏ならば,"Modern Art"は結構な頻度でプレイバックしているし,復活後のArt Pepper(特にVanguardのライブとか)も結構聞いているが,それも積み重ねの中で生まれた嗜好なのだ。だからこそ,改めてこのアルバムには感謝の念を示すべきなんだろうと思う。星をつけるのもおこがましいが,当然星★★★★★である。

Recorded on January 19, 1957

Personnel: Art Pepper(as), Red Garland(p), Paul Chambers(b), Philly Joe Jones(ds)

2022年9月14日 (水)

待望のJoshua Redman Quartetのリユニオン第2弾:演奏の質には文句はない。しかし...。

_20220913 "LongGone" Joshua Redman, Brad Mehldau, Christian McBride & Brian Blade(Nonesuch)

一昨年の"RoundAgain"に続くJoshua Redman Quartetのリユニオン第2弾である。私は前作については大きな期待を寄せつつも,「Joshua Redmanのオリジナルがイマイチだなぁという感覚に囚われ続けてしまう私である。更に言わせてもらえば,リズム・セクションに比べて,Joshua Redmanの吹奏も音色も魅力的に響かない...(中略) 私にとってはもう少しやれたのではなかったのかと思ってしまうのだ。」なんて書いていて,結構辛口な評価を下した。期待が大きいがゆえではあるが,年末のベスト盤にも選ばなかったし,私のブログのお知り合いも,高い評価はしていなかったと思う。

今回の主題に「待望の」と書いたのは,前作をはるかに凌駕するアルバムを期待したからにほかならないが,よくよくレコーディング・データを見てみると,前作と同じ録音日ではないか。結局,本作は前作の「残りテイク」であり,最後に2007年のライブ音源から"Rejoice"が入っているのは,収録時間調整のためか?と皮肉も言いたくなる。受ける感覚は前作同様。しかも何よりも気に入らないのは,この"Moodswing"にも収められていた"Rejoice"のライブ音源が,このアルバムの中で「一番いい」ということである。

全編を通じて,演奏の質は非常に高いと思うのは前作同様なのだが,彼らならではの傑作という評価は到底下せない。冒頭のタイトル・トラックからしてテンションよりもリラクゼーション重視か?と言いたくなる。だいたい,2019年の演奏よりも,2007年の演奏の方が彼ららしいと思えたことには,私は失望感があったし,今の彼らはこんなもんじゃないはずだという思いばかりがつのる。だからこそ,2007年のライブ音源のよさが際立ってしまうのだ。

この2作を通じて私が感じるのは,このメンツを集めながら,リスナーの期待を裏切ったJoshua Redmanのプロデューサーとしての力量不足。前作はメンバーがオリジナルを分け合っていたが,今回はJoshua Redmanのオリジナルのみとなっているのは,それしか準備できていなかった(残っていなかった)からだろうが,私にとっては曲そのものがあまり魅力的に響かない。よって,私にとっては基本的にバックのトリオを聞くためのアルバムと言わざるをえない。

凡百のジャズ・アルバムに比べればレベルは高いが,それでも前作同様,星★★★☆が精一杯。

Recorded on September 10-12, 2019 and Live at the 25th Annual SF Jazz Festival in 2007

Personnel: Joshua Redman(ts, ss), Brad Mehldau(p), Christian McBride(b), Brian Blade(ds)

2022年9月13日 (火)

”Craig Fuller Eric Kaz”は実にいいアルバムである。 #CraigFuller #EricKaz

_20220909-3"Craig Fuller Eric Kaz" (Columbia)

私はEric Justin Kazの"If You’re Lonely"というアルバムを偏愛していると言ってよいぐらいだが,そのEric Justin KazがEric Kazの名のもとに,Craig Fullerと双頭でリリースしたアルバムが本作である。これに先立って,彼らはAmerican Flyerとして2枚のアルバムをリリースしているが,私はAmerican Flyerよりこちらの方が好きである。

私の感覚では,"If You’re Lonely"が東海岸的に響くとすれば,こちらのアルバムは西海岸的なサウンドと言ってよい。"If You're Lonely"に比べると,サウンド的にはややポップ度が増しつつも,佳曲揃いのアルバムとして,久々に聴いて,これはもっと評価してもよいアルバムだと思った。曲によっては,J.D. SoutherやJackson Browne的に響くところもあるが,これはバックがThe SectionとRoninが合体したようなバック・バンドのメンツによる部分もあるように思える。いずれにしても,これは聞いていて,実に心地よいというか,私好みのサウンドなのだ。

"If You’re Lonely"好きからすれば,やはり"Cry Like a Rainstorm"の再演に注目してしまうが,やはりいい曲だと思う。しかし,このアルバムは別物として聞いても十分に楽しめるし,この手の音楽が好きなリスナーには幅広く受け入れられるはずである。こういうアルバムはリアルタイムでもっと売れて然るべきだったが,それを言っても仕方がないので,後付けでもいいのでもっと聞かれるべきアルバム。本当にいい曲が揃っている。そうした私の評価を示すためにも,ちょいとオマケで星★★★★★としてしまおう。

因みにEric Kazの歌もいいと思うのだが,ここでは歌唱はCraig Fullerが中心。その分,作曲での貢献はEric Kazの方が大きいというバランスが取られている。

Personnel: Craig Fuller(vo, g), Eric Kaz(vo, p), Dan Dugmore(g), Steve Lukather(g), Craig Doerge(p, el-p), Don Grolnick(org, p, el-p), James Newton Howard(el-p), Leland Sklar(b), Russell Kunkel(ds, perc), Rosemary Butler(vo), Maxayn Lewis(vo), Leah Kunkel(vo), John David Souther(vo), Doug Haywood(vo), Michael McDonald(vo), Leo Sayer(vo), Charles Veal(vln), Rollice Dale(vla), Dennis Karmazyn(cello)

2022年9月12日 (月)

Amazon Primeで「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」を見ていて思った,シナリオ・ライティングの終焉。

Spiderman 「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム("Spider-Man: No Way Home”)」('21,米,Columbia/Marvel)

監督:Jon Watts

出演:Tom Holland, Zendaya, Benedict Cumberbatch, Jacob Batalon, Marisa Tomei, Jamie Fox, Jon Tabreau, Willem Defoe,Andrew Garfield, Toby Maguire

Marvelの映画は強欲Disney+でしか見られないと思っていたら,「スパイダーマン」シリーズだけは例外だそうで,このシリーズはAmazon Primeで見られるってことで,先日,暇にまかせて観たのがこの映画である。

結論から言えば,「帰ってきたウルトラマン」か!と言いたくなってしまった。ナックル星人にやられかけた(二代目)ウルトラマン・ジャックを,先代ウルトラマンとウルトラセブンが助けに来るのと同じではないかって思ってしまった。そもそもマルチ・バースとか言った段階で,ストーリーは何でもありになるし,タイム・パラドックスもへったくれもなくなって,何でもありになってしまうだろうってのが気に入らない。

しかも2時間半近く,CGだらけの映像を見せられて,これを映画として楽しめと言われても私には無理である。もはやアニメーションと何が違うのかと言いたい。「アベンジャーズ」シリーズまでは私はまだ許せると思っていたが,この映画でMarvelは一線を越えてしまったと言わざるをえない。

こんな映画で楽しめるとすれば,それは映画の本質を理解していないと言いたくなるし,シナリオってのはご都合主義で書かれるものではないだろうと言いたい。別にMarvelの映画を全否定する訳ではないが,「マルチ・バース」の世界を続けるならば,もう私とは縁のない世界だと言い切ってしまおう。こんな世界を許して,シナリオ・ライターのご都合主義の無責任さがはびこれば,映画は堕落する。くだらない。実にくだらない。こんな映画を評価する気にもならないので無星で十分だ。あまりに腹立たしいので,商品のリンクを貼り付ける気も失せた。

先日,「死の谷」みたいなクラシック映画を観たばかりだけに腹立たしさも増幅するが,この程度の映画に8.3という評価を与えるIMDbのユーザーにも,71というMetascoreをつける批評家にも失望したとはっきり言ておく。バカ言ってんじゃねぇよ,ってところである。

2022年9月11日 (日)

先日,中古盤屋でゲットしたHamiet Bluiettのライブ音源。 #HamietBluiett

_20220909 "Bearer of the Holy Flame" Hamiet Bluiett(Black Fire→Strut)

先日,ゲットしておきながら記事にできていなかったのがこのアルバムである。以前にも書いたことがあるが,私は結構Hamiet Bluiettというバリトン奏者のファンで,CDも結構保有している。ロフト派とか言われることもあるが,ブルーズに根差したそのバリトン・プレイや音は非常に魅力的に響く。

このアルバムはもともと1983年に,今はなきSweet Basilでライブ録音されたものが,その後94年になってリリースされ,更にそれが再発されたもの。まぁ,こういうリリースのされ方からしても,大して売れることが期待されるものではないとは思うが,このアルバム,メンツがなかなか魅力的なところもあって,再リリース時から見逃せないと思ってはいた。しかし,ストリーミングで聞けてしまうこともあり,媒体を買うほどではないかなと思っていたところ,ショップで手頃な価格の未開封品を発見してしまったのであった。

前にも書いたことだが,そもそもがロフト派というのがよくわからない分類なのだが,時としてこのHamiet Bluiettがフリーだと思われていることには,強い違和感がある。上述の通り,この人のベースはブルーズだと思うし,本作にもフリーキーなトーンを聞かせる瞬間はあっても,フリー的な展開はほとんど聞かれず,基本的にコンベンショナルなフォーマットに従った演奏と言える。そもそも「どフリー」の演奏はSweet Basilのようなクラブにはフィットしない。そもそもHamiet BluiettはVillage Vanguardにおけるライブ音源だって残しているのだ。多分,日米間において,認識に違いがあるということだろうと思う。

冒頭のWayne Shorterの"Footprint"からして,Hamiet Bluiettの魅力炸裂って感じだが,このアルバムで私が最も痺れるのが,超ブルージーな"Headless Blues"である。これぞまさにHamiet Bluiettの真骨頂。こういうのを聞いているだけで嬉しくなってしまう私である。まぁ,Hamiet Bluiettのライブとしては水準の出来と思うが,やっぱり好きだなぁ。星★★★★。

Recorded at Sweet Basil on July 25, 1983

Personnel: Hamiet Bluiett(bs, cl, a-fl), John Hicks(p), Fred Hopkins(b), Mavin "Smitty" Smith(ds), Chief Bey(perc)

2022年9月10日 (土)

Utopiaってのは実に面白いバンドだと思わせる”Oops! Wrong Planet” #ToddRundgren #Utopia

_20220907 ”Oops! Wrong Planet” Utopia(Warner Brothers→Friday Music)

私がUtopiaのボックス・セットを入手したのは随分前の2018年のことになるが,そこに収められたCDについては,これまで”Deface the Music”を取り上げただけである(記事はこちら)。まぁそうは言っても私にとっての彼らの最高作は"Ra"なのだが,それすら記事化していないのだから,私も適当だなぁと思う。その”Deface the Music”も,Beatlesへのオマージュ感たっぷりというもので,プログレ色の強かった"Ra"と全然違うやんけ!と言いたくなるものであった。しかし,今日取り上げるこの作品は,その"Ra"に続く作品なのだが,これまた全然作風が違うやんけ!という感じのアルバムである。ボックスがリリースされた際の本作の裏ジャケにKasim Sultonが書いている通り,これは完全に「パワー・ポップ」の世界である。

これほど作風が異なれば,リスナーは戸惑うってのが普通だろうが,Todd Rundgrenのやることゆえ,こういうのもありだよなぁってのが正直なところである。Kasim Sultonも書いているが,ここに収められた曲は基本3~4分の曲ばかりで,アルバムとして12曲も入っていること自体,全7曲の"Ra"とのギャップが大きい。それよりも何よりも,曲調が全然違うので,同じバンドかっ?って声も飛んできそうなものだ。しかし,ここではメンバーがリード・ヴォーカルを分け合い,曲作りにも各々のメンバーが関与するってことで,民主主義的なバンドとしての色合いを示すとこうなるのか~って気がしてくる。

そうは言っても,曲調はポップでも,職人みたいな人の集まりのこのバンドから生み出されるサウンドは,実に緻密な感じがする。これが現在のテクノロジーで捉えられていたら,更に彼らのやろうとしていた意図は掴みやすいのだろうとは思いつつ,1977年という時代を考えれば,当時の先端を行っていたんだろう。それがUtopiaというバンドの特性であり,プロデューサーとしてのTodd Rundgrenのなせる業って気がする。ってことで,やっぱり面白いわ,Utopia。星★★★★。

Personnel: Roger Powell(key, tp), Todd Rundgren(vo, g, sax), Kasim Sulton(vo, b), John "Willie" Wilcox(vo, ds)

2022年9月 9日 (金)

Amazon Primeで「死の谷」を見た。

Colorado-territory「死の谷("Colorado Territory")」('49,米,Warner Brothers)

監督:Raoul Walsh

出演:Joel McCrea, Virginia Mayo, Dorothy Malone, Henry Hull, John Archer, James Mitchell

Amazon Primeでどういう映画が見られるのかを見てみると,結構古い西部劇が含まれているのがわかる。西部劇が結構好きだとか言いながら,古い作品はあまり見る機会に恵まれなかったので,これ幸いとばかり,チョイスしたのがこの作品である。この映画,Humphrey Bogartも出ていた「ハイ・シエラ」の西部劇版リメイクだそうである。しかも監督は同じRaoul Walshである。

西部劇の場合,勧善懲悪みたいなかたちで,スカッとするアクション映画ってのもあるが,この映画は随分と違って,かなりフィルム・ノワール的なストーリーである。主人公,Wes McQueenを演じるJoel McCreaは,強盗を働く悪漢の役柄にもかかわらず,全く悪人に見えないところもおかしいが,Virginia Mayoの正統的美人とは言えないにもかかわず,何とも言えない不思議な魅力と相まって,一般の西部的的なものとは異なる感覚を発出する映画だったと言える。そもそも,もう一人の主役と言ってよいDorothy Maloneが一見清楚な美女に見せかけておいて,追々性格の悪さを示すというのは,監督のRaoul Walshに,昔,女性と何かあったかと思わせるような女性の描き方である(笑)。

まぁ,これは西部劇としてはかなり異色と言ってもよいかもしれないが,アメリカの広大さを感じさせるキャメラ・ワークや,馬から列車に飛び乗るアクション・シーン等,往時の映画としては相当頑張ったと言ってもよい映画だと思った。所謂プログラム・ピクチャーとは違うというところを打ち出した優れた作品と言っていいだろう。こういうのがただで観られるってのは実に幸せなことだと感じた私であった。星★★★★。

尚,蛇足ながら,主演のJoel McCreaは,日本ではジョエル・マクリーと呼称されるのが通常だが,彼のラスト・ネームをカタカナで書くなら,どう見てもマクレイの方が感覚的には近いと思うけどなぁ。Joelもほぼ最後のルがほとんど聞こえないジョウってのが正確だろう。同じことはBilly Joelにも当てはまる訳だが,まぁこの国ではDana Andrewsをダナ・アンドリュースと呼び続けるのと同じようなものだから仕方ないか(発音的にはデイナ・アンドルーズの方が近いと思う)。

さて,次は何を観ようかな(笑)。

2022年9月 8日 (木)

Chick CoreaとGary BurtonはECM中心でいいが,これもなかなか捨てがたいと思った”Native Sense”。 #ChickCorea #GaryBurton

_20220904 "Native Sense" Chick Corea & Gary Burton (Stretch)

"Crystal Silence"から始まるChick CoreaとGary Burtonのデュオは実に素晴らしい演奏を残しているが,私としてはその最高傑作はチューリッヒにおけるライブ盤であるということはこのブログにも書いた通りである(記事はこちら)。2007年のブログ開設直後に書いたその記事にもこのアルバムのことがチラッと出てくるが,チューリッヒのライブは上回っていないという趣旨が見て取れる。今回,久しぶりにこのアルバムを聞いても,その思いは変わらないとは言え,別の楽しみ方があると思えてきた。

まぁ,この二人がやることだから,クォリティが保たれていることは言うまでもないのだが,このアルバムにおいて注目すべきは,2曲目から5曲目に収められたChick Coreaの旧作のこの二人による再演ということになる。例えば2曲目の"Love Castle"は"My Spanish Heart"が初出であるが,チューリッヒのライブにも収められていた。しかし,そこではChick Coreaのピアノ・ソロとして収録されていたもの(1枚モノのCDではこの演奏は残念ながらカットされている)で,デュオによる演奏はこの時が初めてだったはずである。相変わらずいい曲だと思うが,やはりこの二人による演奏は感慨深い。

3曲目はアルバム"Touchstone"でLee Konitzと演じたのが初出の”Duende”,そして4曲目はRTFでお馴染み"No Mystery",更に5曲目のこれまた"My Spanish Heart"が初出の"Armando’s Rhumba"のような曲をこのデュオで聴く楽しみというのを与えてくれる。"Duende"なんて改めて聴いてみると,実にいい曲ではないかと思ってしまう。しかし,このアルバムのためにChick Coreaが準備したと思しき曲も,佳曲が揃っていて,これはなかなかいいアルバムではないかと感じた私であった。

まぁ,バルトークの「バガテル」から2曲入れるのは,私には蛇足のように思えるし,ラストに据えられたMonkの"Four in One"が浮いて聞こえてしまうということもあるのも事実だが,アルバム全体としては,そこそこ評価すべきものとして星★★★★☆。尚,日本盤にはラストに"I Loves You, Porgy"がボートラで入っているが,アルバムを締めくくるには"Four in One"より,こっちの方がよかったんじゃない?って言いたくなるような美的なトラックに仕立てられている。

Chick Coreaが亡くなり,Gary Burtonが音楽界から引退した今,音源を聞いて彼らの演奏を懐かしむしかないのは残念なことだと改めて感じたのであった。

Recorded in 1997

Personnel: Chick Corea(p), Gary Burton(vib)

2022年9月 7日 (水)

Maynard Fergusonの”Around the Horn”:このアンサンブルが楽しい。 #MaynardFerguson

Around_the_horn_with_maynard_ferguson"Around the Horn with Maynard Ferguson" Maynard Ferguson(EmArcy)

私のソフト保有はかなりの部分がCDに置き換わっており,アナログ・レコードの保有数はもはや限定的なものだが,その中にEmArcyレーベルのアルバムがそこそこある。それはEmArcyでのHerb GellerやJohn Williamsのアルバムが好きなこともあるが,その中にはMaynard Fergusonのアルバムも何枚かあって,これはそのうちの一枚。

Maynard Fergusonと言えば,成層圏トランぺッターと呼ばれて,ハイノートを売りにしていたところもあり,このアルバムなんかはEmArcyオールスターズ(Clifford BrownとMax Roachはいないが...)というようなメンツを集めつつ,主役たるMaynard Fergusonのハイノートも聞けるものだ。そうしたアルバムではあるが,私が長年このアルバムを愛聴しているのは,スウィンギーな11人編成のアンサンブルを楽しめるからである。そして,このアルバム,全曲がBill Holmanの作編曲ということで,影のリーダーはBill Holmanということになる。

A面冒頭の"Mrs. Pitlack Regrets"からして軽快そのものであるが,なぜかアンサンブルをリードするのはトロンボーンである。これがMaynard Fergusonの吹くヴァルブ・トロンボーンなのだ。同じブラスとは言え,トランペットだけでない芸の広さを示すMaynard Fergusonである。

とにかく,全編,こういうジャズは聞いていて楽しいよねぇと思わせるに十分。ソロイストもアルトはHerb Gellerだし,奥方,Lorraine Gellerもソロを取っていて,彼らのファンである私としてはそういう意味でも満足度が高いのだ。上に「長年」と書いたが,私が本作を購入したのは1985年のことである。それは私が会社に入った年,そして約2年間茨城県に赴任していた時に,水戸駅前のレコード・ショップ(今はもうない)で買ったことだけは鮮明に覚えている。逆に言えば,そんなことを覚えていること自体,このアルバムが相当好きなことの裏返しだと言ってもよい。

いずれにせよ,モダン・スウィングってのはこういうものだって感じさせてくれるナイスなアルバム。ついつい評価も甘くなり,星★★★★☆。本作はストリーミングでは聞けるものの,CDでリリースされた形跡はないようだ。売れないのかなぁ...。いいアルバムなんだが。

Recorded on May 12, November 7 and 10, 1955

Personnel: Maynard Ferguson(tp, v-tb), Buddy Childers(tp), Ray Linn(tp), Bob Burgess(tb), Herb Geller(as), Georgie Auld(ts), Bill Holman(ts, arr), Bud Shank(bs), Lorraine Geller(p), Ray Brown(b), Buddy Clark(b), Alvin Stoller(ds)

2022年9月 6日 (火)

久々に聴いたGeorge Adamsの"Nightingale":いつものGeorge Adamsを期待するとはずされる。はっきり言ってバブル経済の残滓。 #GeorgeAdams

_20220902 "Nightingale" George Adams(Somethin’ Else / Blue Note)

このアルバムを最後にプレイバックしたのがいつなのかも覚えていないぐらい,本当に久しぶりにこのアルバムを聞いた。このアルバムは日本制作だが,私が保有しているのは米Blue Noteからのリリースなので,多分私がNYCに在住している頃に購入したはずのものだ。

George Adamsに一般的に抱くイメージは,Charles Mingusのバンドや,Don Pullenとの双頭クァルテットにおける演奏ってことになると思うが,私にとっては1983年,私が初めてNYCを訪れた時に,Sweet BasilでGil Evans Orchestraの一員としてテナーを吹いていたGeorge Adamsである。以前,このブログにも書いたことがあると思うが,その時,George Adamsは紙袋に入ったウイスキーを,ラッパ飲みしながら演奏していたという記憶が私にとってはあまりに鮮烈に残っている。当然出てくる音はGeorge Adamsらしいものであった。こっちとしてはGeorge Adamsの演奏というのはやはり激情的なものという感覚がある訳で,基本はそういう音を期待する。

しかしである。この演奏は実に穏やかである。そこはかとなく感じられるゴスペル的なフィーリングは,演奏を捧げられたDanny RichmondとGil Evansを追悼する意図が表れたものと言ってもいいのだろう。それをよしとするか,違うんじゃないの?と感じるかは,リスナーが何を期待するかによって異なるはずだ。George Adamsを知らないリスナーであれば,これもありだと思うだろうし,ジャズなんて聞いたことがないというリスナーにとっては,ここでの選曲はそれなりに訴求するだろう。だが,演奏のクォリティが保たれていたとしても,こういう演奏をGeorge Adamsというミュージシャンにやらせてしまうところに,私は商魂しか感じない。

演奏は悪くないと思う。だが,こういう演奏ってGeorge Adamsの自我の発露を抑制させるものでしかないのではないか。私から言わせれば,"Moon River"なんかは行き過ぎた選曲としか言えないし,全然George Adamsらしさを感じない。キレる瞬間皆無とは言わないが,私が知るGeorge Adamsからすれば,おとなしいものである。それはピアノのHugu Lawsonにしても,ベースのSironeにしてもそうだろう。日頃激しい演奏をしているミュージシャンだって,その気になればこういう演奏もできるということの証ではあるが,本当にこれがGeorge Adamsがやりたい音楽だったのかと言えば,そうではないだろう。あくまでも商売,あくまでもビジネスである。

George Adamsに求める感覚は"Ol' Man River"にちょこっと出てくる程度では,こっちは「おい,おい」となっても仕方がないのだ。アダプテーションするならするで,George Adamsの個性をもっと活かせたはずだと今回久しぶりに聞いて,フラストレーションがたまりまくった私であった。金さえあればなんでもできると思っていたであろう,バブル期の日本制作の嫌らしさが如実に表れた怪作。演奏の質は確保されているが,それでも星★★☆が精一杯。もはや保有している意義はないが,中古市場でも買い叩かれること必定なので,持っているだけというアルバム。

Recorded on August 19 & 20,1988

Personnel: George Adams(ts, ss, fl), Hugh Lawson(p), Sirone(b), Victor Lewis(ds)

2022年9月 5日 (月)

往年の敏子~Tabackin Bandにはいいソロイストが揃っていた。 #穐吉敏子 #StevenHuffsteter

Toshiko-plays-toshiko "Toshiko Plays Toshiko" 穐吉敏子Quartet(Discomate)

1970年代から80年代前半に掛けて西海岸で活動していた頃の穐吉敏子~Lew Tabackin Big Bandは,実に評価の高いビッグバンドだった。もちろんリーダー穐吉敏子の作編曲,Lew Tabackinのテナーとフルート・プレイが優れたものであることは言うまでもないが,このバンドのホーン・プレイヤーの優秀さは改めて認めておかなければならないと思う。私は,以前からBobby ShewやGary Fosterのアルバムもせっせと買っていたのはそういう理由によるものである。彼らの作品は,アルバム単位では玉石混交なので,もはや手許に残していないものもあるが,ほとんどは中古で仕入れた一部のアナログは決して売ることなく残っている。

そんな中で,久々に聴いたのがこのアルバムである。ここでのソロイストはBobby Shewともどもトランペット・セクションをリードしたSteven Huffsteterである。本作はそのSteven Huffsteterのワンホーンというのがポイントになる。正直言ってしまえば,Steven HuffsteterはBobby Shewに次ぐ二番手ってことになるだろうが,ここではワンホーンという編成もあり,その実力がもろに出てしまうというチャレンジングなアルバムだったと言ってもよいだろう。

そんなSteven Huffsteterであるが,善戦はしているものの,やっぱりこの人はビッグバンド・プレイヤーだなって気がしてくるところは否めない。悪くはないのだが,こういったコンボで演奏するにはやや華に欠けるって感じか。

それでも穐吉敏子のオリジナルを,こうしたコンボ形式で吹き込むことはなかなか面白いので,アルバムとしては星★★★★程度としてもよいだろう。そしてここには後にビッグバンドのアルバム"Farewell"で公開される"After Mr. Teng"が,ここで早くも吹き込まれていたのが興味深い。スピーディで,バピッシュなこの曲は,この編成よりもビッグバンドの方がいいかなとは思わせるが,穐吉敏子がBud Powellに影響を受けていたことも感じさせて,この編成でも十分楽しめると思う。

クァルテットの演奏もいいのだが,私がいいなぁと思ったのが穐吉敏子のエレピのソロで演奏される"Memory"である。穐吉敏子は,Lew Tabackinのフルートが素晴らしかった"Rites of Pan"でもエレピの演奏も残しているが,このソロはなかなかに味わい深く,こういうのもいいねぇと思わせるのが穐吉敏子の懐の広さってところだろう。

Recorded on December 5 & 6,1978

Personnel: 穐吉敏子(p, el-p), Steven Huffsteter(tp), Gene Cherico(b), Billy Higgins(ds)

2022年9月 4日 (日)

結局買ってしまった"Saturday Night in San Francisco"。しかもアナログ(笑)。 #SuperGuitarTrio #AlDiMeora #JohnMcLaughlin #PacoDeLucia

Saturday-night-in-sf_20220901182301 "Saturday Night in San Francisco" Al Di Meola / John McLaughlin / Paco De Lucia(Impex)

このアルバムについては,先日,ストリーミングで聞いた時に記事をアップした。その時にも「私は"Friday"よりこっちの方が好きなのではないかとさえ思えてしまったぐらいだ。」なんて書いているが,その一方で「これからCDやアナログを購入してもプレイバック頻度は高くなりそうもないので,今後もストリーミングで楽しめばいいやと思いつつ」とも書いている。

にもかかわらず,結局買ってしまった私である。しかもアナログ,しかも値段が高い方のImpex盤。まぁ,先日アップしたMary Halvorsonのアナログとの合わせ買いということもあったし,某ショップで結構ポイントが付くからいいやってことでの購入である。今後,どれぐらい聞くかは正直ってわからないものの,自分の中での「"Friday"よりこっちの方が好き」という感覚を信じてのことなのでよしとしよう。尚,アナログには「黒いオルフェ」も"Soniquete"も入っていないので念のため。

しかし,ショップによってはこのImpex盤に無茶苦茶な値段がついているなぁ...。

Recorded Live at Warfield Theater on December 6, 1980

Personnel: Al Di Meola(g), John McLaughlin(g), Paco De Lucia(g)

2022年9月 3日 (土)

DOMi & JD BECK:若いのに凄いねぇ...。

_20220831 "NOT TiGHT" DOMi & JD BECK(Apeshit / Blue Note)

このアルバムはブログのお知り合いのSuzuckさんが取り上げられていて,その記事を拝見して,散歩しながらストリーミングで聞いたのだが,何ともいい具合のメロウ・グルーブ感が気になり,結局購入したもの。

フランス出身のキーボード奏者,Domi Lounaは2000年生まれ,ドラムスのJD Beckに至っては2003年生まれのまだティーンエイジャーという若い二人によるユニットなのだが,この完成度は結構凄いことだと思ってしまう。ゲストは迎えているものの,基本的なサウンドはこの二人だけで作り上げていているのだが,この何でもできてしまう感には驚かされる。

ストリーミングでながら聞きで聞いていた時はよくわからなかったのだが,JD Beckの叩き出すドラムスのニュアンスは実に細かいし,Domiのキーボード・ワークも見事なものなのだ。それをセルフ・プロデュースで作り上げてしまう才能は大したもので,Anderson .Paakが自身が設立したApeshitレーベルに迎えたというのもうなずける。しかもこのアルバムはそのApeshitと名門Blue Noteの2レーベルが並列的にリリースするというもので,これだけでも凄いことである。

まぁ,本作をジャズの文脈だけで捉えようとするとかなり無理があると感じられるものであり,コンテンポラリーな音楽の多様な要素を吸収して出来上がった作品と言ってよいと思える。そこから生み出されるグルーブ感が何とも心地よいのである。私が最も感心してしまったのはKurt Rosenwinkelが参加した"Whoa"である。この手の音楽にはギターって不可欠と思っていたのだが,このアルバムでギターが参加しているのはこの"Whoa"1曲のみなのだ。だからこそ,Kurt Rosenwinkelのギターの突出感が生まれるというのも,彼らの計算ずくだったとすれば,それこそ恐ろしい。そしてこのKurt Rosenwinkelのソロが何ともカッコいいのである。

また,ThundercatやMac DeMarco,Snoop Dogg,Busta Rhymes,そしてAnderson .Paak等のゲストの使い方も適材適所って感じである。ジャズ界からはなんとHerbie Hancockが参加して,懐かしのヴォコーダーで歌っているが,ピアニストというよりもヴォーカリストとしての参加の意味合いのように感じさせるのは,Domi Lounaを立てたってことだろうか。

こんな最小限のユニットでこんな音楽を作り出してしまうということこそ,驚きのデビュー作と言ってよいように思う。そうした驚きも含めて星★★★★★としてしまおう。音的にはローファイな感覚もあるが,おそらくそれも計算の上ってところか。いやはや凄いですわ。

Personnel: Domi Louna(key, vo), JD Beck(ds, vo), Thundercat(b, vo), Mac DeMarco(vo), Herbie Hancock(p, vocoder), Anderson .Paak(vo), Snoop Dogg(vo), Busta Rhymes(vo), Kurt Rosenwinke(g), Lara Somogy(harp), Leah Zeger(vla, vln), Isaiah Gage(cello), Chloe Tallet(fl, piccolo), Stephen Pfeifer(b)

2022年9月 2日 (金)

聞いておく必要があると感じさせたMary Halvorson。

Mary-halvorson "Amaryllis & Belladonna" Mary Halvorson(Nonesuch)

正直言ってずっと避けてきたのがMary Halvorsonである(苦笑)。だってハードル高そうなんだもん(笑)。

この人,その筋の方はご承知でも,一般的な日本での知名度はそんなに高くないというのが実態ではないか。しかし,米国における評価,特に批評家筋の評価が無茶苦茶高い人であることはDownBeat誌においても明らかであった。このアルバムだって,見事5つ星である。何がそんなに評価されるのか,っていうのは例えばアルト・サックスのRudresh Manthrappaとかもそうだが,聞いてみないとわからないよねぇっていうところが正直なところで,今回は血迷って(?),アナログ2枚組をゲットした私である。

だがこのアルバム,CD版は"Amaryllis"と"Belladonna"という2枚に分売されているが,アルバムにおける編成を考えれば,これは「一連」のアルバムとして聞くべきものなのではないかと思った。"Amaryllis"については,基本はセクステットの演奏なのだが,B面にはそこに弦楽クァルテットが加わり,"Belladonna"は全編Mary Halvorsonと弦楽クァルテットだけによる演奏なので,Mary Halvorsonとしてはこの流れには一貫したねらいがあったはずだろうと思ってしまうのだ。

だが,聞いてみると,やっぱりこれはハードルが高いというか,一筋縄ではいかない音楽である。アルバム・ジャケットが示す抽象度がそのまま音に反映されていると言っても過言ではない。"Amaryllis"については十分にジャズ的な感覚を与えるが,"Belladonna"についてはもはや現代音楽的と言ってもよい。同じ弦楽クァルテットを従えた上原ひろみの"Silver Lining Suite"から受ける感覚が全然違うのだ。はるかにこちらの抽象度が高く,だからこそハードルは高い。しかし,こういう曲を書いてしまうところが,Mary Halvorsonの実力を反映しているようにも思える。

いずれにしても,私には"Amaryllis"におけるハイブラウなジャズ度の高い演奏と,"Belladonna"を対比することが必要であり,これは一緒に聞かなければならない音源だと感じさせたアルバムであった。Nonesuchが契約するのも納得ではあるが,特に"Belladonna"は相当音楽鑑賞における懐の広さが必要であり,そのハードルの高さゆえに星★★★★☆。万人向けの音楽ではないが,今,聴いておいて損はない音楽,あるいは聞いておく必要がある音楽であると言っておきたい。

Recorded on September 11, 12 & 13, 2021

Personnel: Mary Halvorson(g), Adam O'Farrell(tp), Jacob Garchik(tb), Patricia Brennan(vib), Nick Dunston(b), Tomas Fujiwara(ds), The Mivos Quartet<Olivia De Prato(vln), Maya Bennardo(vln), Victor Lowrie Tafoya(vla), Tyler J. Borden(cello)>

2022年9月 1日 (木)

ムーディでゴージャスとしか言いようがないDiana Krallの”The Look of Love”。 #DianaKrall

_20220828"The Look of Love" Diana Krall(Verve)

毎度毎度同じトーンで書いているが,私はジャズ・ヴォーカルのよい聞き手ではない。自分から積極的に聞くことはあまりないが,それでもたまに気まぐれでプレイバックすることもある。今回は久しぶりにこのアルバムを取り出してみたのだが,Diana Krallというのはこの世界においては,概ね万人受けする歌手だと思ってはいたが,改めてこのアルバムを聞いて,やはりこれは売れると思ってしまった。

端的に言えば,主題に書いた通り,ムーディーにしてゴージャス。流麗なストリングスを交えながら,スタンダードを歌えば,大概のリスナーはOK!と言ってしまうだろうと思える。この辺りはプロデュースをしたTommy LiPumaの狙い通りってところだと思うが,冒頭の"S'Wonderful"からもはや隙のないつくりである。

以前にも書いたことがあるが,Diana Krallという人は,声にしても歌唱にしても,実に取っつきやすく,リスナーがケチをつける要素が少ないと思える。だからこそ万人受けすると思える訳だが,このアルバムは更にスロー~ミディアム・テンポでしっとり歌っていて,実に心地よいつくりとなっている。それを「あざとい」と言ってしまえばその通りだが,ここまで心地よいサウンドに仕立ててくれれば,こっちも文句をつけるのが馬鹿馬鹿しくなるってところだ。

それに貢献しているのは明らかにClaus Ogermanのストリングス・アレンジだということは間違いない。まさに夢見心地にしてくれるような音と言ってよい。本作に先立つ"When I Look in Your Eyes"でJohnny Mandelが担っていた役割を,ここではClaus Ogermanが更に重要な役割として果たしていることで,前作同様,あるいはそれを上回る成果を実現したと思える。まぁ"Besame Mucho"みたいな曲がDiana Krallに合っているかという疑問はあるものの,前作同様の評価をするならば,星★★★★★としなければなるまい。そして,タイトル・トラックはDiana Krallにフィットしていると思っている私である。いっそのことBurt Bacharach曲集でも出して欲しいものだと思ってしまった(まぁ,後に"Walk on by"は歌っているが...)。

いずれにしても,実に趣味がよく,気持ちよく聞けるアルバムだと思った。小音量で仕事のバックで流れていれば,仕事も捗ること必定(笑)である。

Personnel: Diana Krall(vo, p), Russell Malone(g), Dori Caimi(g), John Pisano(g), Christian McBride(b), Peter Erskine(ds), Jeff Hamilton(ds), Paulino da Costa(perc), Lousi Conte(perc), Claus Ogerman(arr) with strings

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