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2022年7月31日 (日)

これは初めて聞いたかもなぁ...:Herbie Hancockの”The Piano”。 #HerbieHancock

_20220729-2 "The Piano" Herbie Hancock(CBS Sony)

私はこのアルバムを,ボックス・セットであるComplete Columbia Recordingsの1枚として保有しているのだが,こういうボックスは保有していることで満足してしまって,全然聞けていないアルバムも結構あるのが実態である。正直言って,このボックスの中で,ピアノ・ソロってのはあまり手が伸びないのだが,今回は気まぐれで取り出して聴いてみたってところである。

このアルバムはHerbie Hancockが来日した際に,懐かし(?)のダイレクト・ディスク方式で録音されたもので,バンドとして,同じくダイレクト・ディスク方式で吹き込んだ"Direct Step"との姉妹盤ってことになるが,バンドとピアノ・ソロでは全然違うねぇって思ってしまうのはまぁ当然と言えば当然だ。

そんな本作,アナログで言えばA面に当たる3曲は大スタンダードで,Herbie Hancockなら正直言ってこれぐらいはできて当たり前って世界。スタンダードであるがゆえに,冒頭の"My Funny Valentine"には余計なイントロを付したって感覚があるが,これって必要?と思ってしまう。そんなこともあって,私としては,むしろオリジナルで固められたB面に当たる後半4曲の方に注目してしまうわけだが,Herbie Hancockらしさがあまり感じられないのは,ある意味ソロ・ピアノというフォーマットでの限界か。そうは言っても,そこかしこにHerbie Hancockらしいフレージングは登場するが,それでもやはりHerbie度は薄いと思う。

更に,そもそもこのCDにはボートラが入っているが,それは何回もテイクを重ねているってことの裏返しで,それがダイレクト・ディスクという方式としていいのか悪いのかという議論はあると思う。失敗したらもう一回ってのは時間的な余裕があればよかろうが,徐々に緊張感は低下していくことは想像に難くない。それでもテイクによって,雰囲気が結構違うのはHerbie Hancockらしいが。

ともあれ,私がこのアルバムを聴くのはほとんど初めてと言ってもいいはずだったが,まぁ今後これが再生される機会はそう多くはないだろうなってのが正直なところである。水準を保っていることは否定しないが,Herbie Hancockを聴くならほかのアルバムがあるのであって,このアルバムからということにはならないということで,星★★★で十分である。ムーディな雰囲気を演出したい皆さまはどうぞ,ってところ(笑)。

Recorded on October 25 & 26, 1978

Personnel: Herbie Hancock(p)

2022年7月30日 (土)

ルーツ・ロック的にさえ響くRonnie Laneの”Anymore for Anymore”。 #RonnieLane

_20220729"Anymore for Anymore Plus" Ronniel Lane & the Slim Chance(G.M.→See for Miles)

このアルバムもブラックホークの99枚に選ばれているアルバムである。だとすれば,渋い音であることは想定内であったが,こちらの予想以上に渋いアルバムであった。

Ronnie Laneと言えばSmall Faces(あるいはFaces)のと言った方が通りがいいかもしれないが,これはRonnie Laneの初のソロ・アルバムである。私はRonnie Laneの音楽についてはほとんど無知と言ってよいし,保有しているアルバムもFacesの"Ooh La La"とPeter Townshendとやった"Rough Mix"だけだ。だが,このアルバムはブラックホークの件もあってずっと気になっていたのだが,なかなか入手の機会がなかったのだが,先般英国のセラーから中古CDを仕入れたものである。

このCD,"Plus"とあるのは冒頭と最後に,このアルバムがリリースされる前に発表されたシングルの2曲"How Come"と”Done This One Before”が配置されているからであるが,こういう曲の配置って結構ユニークだと思いつつ,普通なら最後にボートラに入れるだろうってところ。この辺にはお国柄の違いが出るって感じか(苦笑)。だが,この2曲,アルバムとトーンに違いがある訳ではないので違和感はない。かつライナーはしっかり書かれているし。

いずれにしても,冒頭に書いた通り,実にルーツ・ロック的な渋い音が流れてくるが,これはイギリス的というよりもアメリカ的に響く。私の場合,アメリカン・ロック,あるいはアメリカ的な音への指向の方が強いので,こういうのは大歓迎である。この手のサウンド好きにはたまらないのだ。星★★★★★。

メンツにはGallgher & Lyleの二人が参加しているが,この二人の曲では何と言ってもArt Garfunkelが歌った"A Heart in New York"が忘れられないが,こういう音楽もやっていたのねぇなんて思ってしまった。そして,Ronnie Laneと言えば,かつてEric Clapton,Jeff Beck,Jimmy Pageが勢揃いした”ARMS Charity Concert"というイベントがあったが,これはRonnie Laneが患った多発性硬化症の研究を進めるためのベネフィット・ライブだったのだなぁ。それほどの影響力のある人だったということである。

Personnel: Ronnie Lane(vo, g, b),Graham Lyle(banjo, mandolin, g), Benny Gallagher'(b, g, accor), Kevin Westlake(g), Billy Livsey(key), Ken Slaven(vln), Steve Bingham(b), Bruce Rowland(ds), Jimmy Jewell(sax), The Tanners of Montgomery(vo), Jimmy Horowitz(string arr)

2022年7月29日 (金)

久しぶりに”Paradiso”を聴く:やっぱりこれは最高だ。 #CelsoFonseca #RonaldoBastos

_20220727 "Paradiso" Celso Fonseca and Ronald Bastos(Dubas Musica/WEA)

私は決してブラジル音楽に造詣が深いとは言えないものの,ブラジル音楽は結構好きで聞いている。ブラジル音楽がもたらしてくれる心地よさこそが私にとっての最高の魅力と言っても過言ではないが,そんな私の嗜好において筆頭に位置付けたいアルバムと言ってもよいのが"Paradiso"である。

このアルバムが好きだということは,この二人の初作である"Sorte"の記事をアップした時にも書いている(記事はこちら)が,最近聞いてないなぁってことで,久しぶりに取り出して聴いてみたら,あまりに気持ちよくなって,リピート再生してしまったではないか(笑)。

抑制されたリズムの中で,流れる現代的なボサ・ノヴァの世界に身を委ねるだけで,これぞサウダージって気分を味合わせてくれるのだ。極端な言い方をすれば,私がこれまで聴いたブラジル音楽の中でも,最高のアルバムの一枚だと思っている。いきなりストリングスが飛び出してびっくりするが,そこからボサ・ノヴァの世界に入っていく流れも最高なのだ。だからこそ,Celso Fonsecaのアルバムには常々期待するのだが,このレベルには達しないというのが常で,いかに私がこのアルバムに惚れ込んでいるかの裏返しである。

印象的なジャケット・デザインを含めて実に素晴らしいアルバム。傑作である。

Personnel: Celso Fonseca(vo, g, arr), Eduardo Souto Neto(arr), Milton Nascimento(vo), Jaques Morelenbaum(cello), Marcio Montarroyos(tp), Nivaldo Ornelas(sax), Arthur Maia(b), Luis Alves(b), Marcos Suzano(perc), Ramiro Musotto(perc), Robertinho Silva(perc), Angelo Dell'orto(vln), David Chew(cello), Eduardo Pereira(vla), Leo Ortiz(vln), Philip Doyle(tp), Raul Mascarenhas(sax, fl), Vittor Santos(tb)

2022年7月28日 (木)

Christine McVieのソロ・コレクション:デリバリーされてから時間が経ってしまった...。 #ChristineMcVie

Songbird "Songbird: A Solo Collection" Christine McVie (Warner/Rhino)

暫く前にデリバリーされていながら,アナログで発注したものだから,レコード・プレイヤーの上にCDがうず高く積まれている状態を片付けるのに手間取り,聴くのに時間がかかってしてしまった(苦笑)。

以前にも書いたと思うが,私はFleetwood MacにおいてはChristine McVieが好きである。Buckingham~Nicks組が加わって大ブレイクする前のFleetwood Macだって,Bob Welchもいたりするが,Christine McVieゆえに好きなのだ。だから,彼女が参加したFleetwood Macのアルバムはほとんど保有しているし,ソロ・アルバムだって3枚保有している。そこへ来て突然のこのソロ・コレクションなのだが,これが曲者なのだ。"Rumors"の最後を見事に締めた"Songbird"のオーケストラ・ヴァージョンに加え,未発表曲が2曲入っていることもあり,これはどうしても買いだったのだが,今回,アルバムを聞いて,それだけではないということがわかってしまった。

このコンピレーション,Glyn Johnsがプロデュースし,既発の音源をリミックスしているが,Ethan Johns, Guy Fletcher,そしてRicky Petersonが追加のレコーディングを行っている曲もあって,確かにオリジナルと感覚がちょっと変わっている感じがする。そして注目はタイトル・トラックだが,これも"Rumors"におけるChristine McVieの歌唱にオーケストレーションをかぶせたものという凝った作りなのだ。

未発表音源も,なんでこれが未発表?と思えるぐらいのクォリティは確保していて,思った以上に楽しめるアルバムとなった。この辺りはやはりプロデューサーとしてのGlyn Johnsの手腕というところになるかもしれない。また,演奏に参加している息子のEthan Johnsもプロデューサー業でいい仕事をしているから,多少なりとも父をサポートしているようにも思える。ということで,これはそんなに期待はしていなかったが,私の期待以上の出来と言ってよい「リメイク」のコンピレーションとなっていて,単なるベスト盤ではないのだ。ということで,ちょっと甘いのを承知で★★★★★としよう。結局のところ,私はChristine McVieが好きなのだということを改めて実感。

Personnel: Christine McVie(vo, key), Dan Perfect(g, vo), Todd Sharp(g, vo), Eric Clapton(g), Steve Winwood(p, synth, vo), George Hawkins(b, vo), Steve Ferrone(ds), Luis Conte(perc), Lenny Castro(perc), David Issacs(vo), Lindsay Buckingham(vo), Robbie Patton(vo), Ethan Jons(g, ds, perc, tiple, ukulele), Guy Fletcher(org, synth)

2022年7月27日 (水)

急にPink FloydのCDが欲しくなり...(苦笑)。 #PinkFloyd

Wish-you-were-here "Wish You Were Here" Pink Floyd(Columbia)

私は大してPink Floydのアルバムを保有している訳ではないが,ベスト盤等で彼らの代表曲は聞いてきたつもりだ。そうした中で,私が一番好きな曲と言ってよいのが"Shine on You Crazy Diamond(Part I~V)"である。そう言えばその曲が収められた"Wish You Were Here"ってまともに聞いたことがないなぁってことで,血迷って(笑),今更ながらのアルバムの購入となった。私が購入したのは紙ジャケ盤であるが,オリジナルの仕様を忠実に再現するという日本ならではのものである。

やはりこのアルバムはHipgnosisのデザインが効いていると思えるので,音楽に加えたトータルな評価が高くなると思えるが,曲としてはやはり"Shine on You Crazy Diamond(Part Ⅰ~Ⅴ)"が素晴らしいと思う。更にタイトル・トラックもそれと同等のいい曲だなぁと改めて思ってしまった。そのほかの曲も相応の魅力はあると思えるものの,この2曲が突出しているというのが実感である。

ちなみにこのアルバムの邦題「あなたがここにいてほしい」はバンドからの指定だそうだ。そういうところへのこだわりも面白い。外袋,内容物を含めて,とことんトータルなつくりにこだわるってところだろうが,"The Dark Side of the Moon"の大ヒットによる資金的な余裕もないとこういうのはできなかっただろうな。星★★★★★。

Personnel: David Gilmour(vo, g, b, synth, glass-hca, effects), Roger Waters(vo, b, g, synth, effects), Nick Mason(ds, perc, timpani, effects), Richard Wright(p, org, key, synth, glass-hca, vo), Dick Parry(ts, bs), Roy Harper(vo), Venetta Fields(vo), Carlena Williams(vo)

2022年7月26日 (火)

Joni MitchellがNewport Folk Festivalのステージに立った! #JoniMitchell

Joni-jam-set-list なんと,なんとである。脳動脈瘤を患ってから,もう音楽活動は実質的に無理ではないかと思われていたJoni Mitchellがステージに立ったそうだ。昨今はイベントにも顔を出せるほど回復していたが,まさにこれは嬉しい驚きである。Newport Folk Fesitivalにおける"Brandi Carlile and Friends"と題されたプログラムに,サプライズで登場して,フルでステージをこなしてしまったというのだから,これは驚き以外の何ものでもない。サプライズ・ゲストどころではなく,これは当初から考えられていたものであって,こんなイベントを仕立てたBrandi Carlileには感謝の言葉しかあるまい。

Joni Mitchellが公式のライブのステージに立つのは2000年以来のことだそうである。さすがに往年のような声も出ないし,ギターを弾く手も覚束ない。しかし,まさにレジェンドの復活として捉えらえたこのイベントは,驚きと感動を生んだはずだ。Joniが歌う姿を見られることだけでも奇跡的なのだ。当日の模様についてはNPRの記事からも感動が感じ取れる(記事はこちら)が,私は心底当日の聴衆が羨ましい。少しでもその場に居合わせた気分を味わうべく,当日のセット・リストと"Both Sides Now"の映像を貼り付けておこう。"Both Sides Now"を歌うJoniの後ろで涙ぐむWynonna Juddの気持ちも,コーラスをつけながら泣いてしまうBrandi Carlileの気持ちもよくわかる...。尚,映像はYouTubeにかなりの曲がアップされているので,ご関心のある方は是非。

2022年7月24日 (日)

Scott Hendersonの弾き倒し(笑)。よくやるわ。 #ScottHenderson

_20220722-2 "Live" Scott Henderson(Tone Center)

実はこれを聴くのも結構久しぶりのことだ。Scott HendersonがTribal Techでなく,ギター・トリオというフォーマットでライブ盤を作ったら,そりゃあギターの弾き倒しになるってことは容易に想像できるのだが,全くその通りなのには笑ってしまう。

私は90年代の初頭にTribal Techの音楽に初めて接して,彼らのハイパー・フュージョンと言ってもよいノリに痺れたクチであるが,それはメンバーそれぞれのえげつないと言ってもよいタイトな演奏によるところが大きい。だが,トリオで演じられたこの2枚組ライブにはTribal Tech的なキメはないのだが,Scott Hendersonが好きなように弾きまくったって感じがする。

まぁそれを2枚組でやられると聞く方はお腹いっぱいって感じになってしまうのが難点だが,そういうもんだと思って聞けば全然苦にはならないし,Scott Hendersonのファンであれば全然OKだろう。何曲かでドラマーのKirk Covingtonが歌っているが,彼の体躯とはちょっとイメージが違う声なのはご愛敬。甘いと知りつつ星★★★★。

それでも私は本作よりはTribal Techの方を好んで聞くと思うが,これを聞いていてNYCのIridiumで聞いた彼のライブ(その時の模様はこちら)を思い出していたのであった。あれももう7年前か~。月日の経つのは早い...。

Recorded Live at La Ve Lee Jazz Club, California and La Palma Club, Rome

Personnel: Scott Henderson(g), John Humphrey(b), Kirk Covington(ds, vo)

2022年7月23日 (土)

Ambitious Loversってのは面白いバンドだった。 #AmbisousLovers

_20220722"Lust" Ambitious Lovers(Elektra)

このアルバムがリリースされたのが1991年のことである。私が丁度NYCに在住している頃で,その時に購入したものだが,30年以上経っても,かなり好きなアルバムである。今にして思えば,当時は結構尖ったバンドであったが,なぜ私がこのアルバムを購入する気になったかは全く記憶から飛んでいる。多分店頭でプレイバックされていて購入に至ったものと思われる。

何せArto Lindsayのバンドであるから普通な訳はないのだが,当時だったらArto Lindsayと言えばもっとノイズ系の音だと思ったら,出てきたのがファンクとブラジルの合体みたいな音楽だったので,意外性というのもあった。しかし,その後のArto Lindsayの活動や彼の出自を考えれば,彼とブラジルのつながりは実に深いものがあるから,こういうのも当然ありだということにはなる。いずれにしても,出てくる音は結構「まとも」である(笑)。もちろん,効果音的に入るArt Lindsayのノイジーなギターもちょこちょこ出てくるが...。

そもそもAmbitious Loversのアルバムのタイトルは"Envy"→"Greed"と来て,この"Lust"である。嫉妬,強欲,そして色欲という「七つの大罪」がタイトルになっている訳で,本来なら7作出す予定もあったはずが,3作目の本作で解散となったのは,このバンドが好きな私としては惜しいと思えた。

それはさておきである。Nile Rogersが参加した曲のどファンクな感じもあれば,ラストに収められた"É Preciso Perdoar"のようにもろボサ・ノヴァ的な演奏の混じり具合が実に心地よい。Nile Rogersのギターのカッティングなんて,まさにNile Rogersの音であるが,それがAmbitious Loversにフィットしているし,ゲストで入るCaetano Velosoの声だって,うまくブレンドしてしまっているところが,このファンクとブラジルなら何でもありのようなAmbitious Loversの音楽の真骨頂という気がする。ファンク系の曲ではMelvin Gibbsの重量級のベースも効いている。ちょっと甘いの承知で星★★★★★。いずれにしても,こういうグループの音楽が,メジャーのElektraレーベルから出たってのも今となっては信じられないような事実である。久々に前2作も聞いてみることにするか。

その後,来日公演も行っているArto Lindsayはさておき,Peter Schererはどうしているのかと調べてみると,母国スイスに戻って,映画音楽を書いたり,教鞭を執ったりしているようである。

Personnel: Arto Lindsay(vo, g), Peter Scherer(key, p, g, sampler, synth-b, vo), Melvin Gibbs(b), Tony Lewis(ds), Nana Vasconcelos(perc), Marc Ribot(g), Billy "Spaceman" Patterson(g), Nile Rogers(g), Lorelei McBroom(vo), D.K. Dyson(vo), Lovejoy Simms(vo), Mauxa(vo), Vera Negli(vo), Mark Anthony Thompson(vo), Caetano Veloso(vo), Gail Lou(vo)

2022年7月22日 (金)

「スタッフロール」:久々に小説を読んだが,映画好きにこそこの本は受けるだろう。

Photo_20220721184801 「スタッフロール」深緑野分(文藝春秋)

7/20に発表された直木賞では受賞を逃したが,舞台が映画界ということもあって,私はこの本を購入していたのだが,読了するのには時間が掛かってしまった。前半は特殊造形師のマチルダ,後半はCGクリエイターのヴィヴィアンが主役となるが,この二人や他の登場人物が交錯していくところなどは,読んでいて,映画を観ているようだと思えた作品。

実在の人物の名前や映画のタイトルもぽんぽん飛び出してきて,長年の映画好きにとっては,郷愁さえ誘う部分がある一方,CGや特殊技術については,専門用語連発で,映画に関心がない読者にとっては,結構ハードルを上げてしまったようにも思える。

ストーリーはかなり劇的と言ってよいのだが,その劇的な部分を作り出すために,ストーリーは強引な部分もあるところで,直木賞を逃したってところかもしれないが,逆に言えば,映画を好きな人間にとっては,小説という枠を越えて楽しめる部分もあるように思える。

そして,タイトルの「スタッフロール」という部分がエンディングに向けて,これまたなるほどと思わせる展開を示し,映画人にとってのスタッフロールの重要性を改めて感じてしまった。だから映画はエンディング・ロールまで全部見るのが礼儀ってことである。

ということで,ストーリーは完璧ではないとしても,実に面白く読めた小説であった。星★★★★。

2022年7月20日 (水)

値段が手ごろだったので,今更ながら買ってしまったJourneyの初ライブ盤。

_20220719 "Captured" Journey(Columbia)

私はJourneyのファンってこともないので,現在保有しているのはベスト盤と,"Escape"ツアーのライブDVD/CDぐらいのものである。だが,やはり自分と同時代のバンドと言ってよいので,懐かしいことも事実だし,カラオケで彼らの曲を歌うこともある(爆)。今回は,値段も手頃だったこともあり,ストリーミングで聞いていてもいいのに,現物を購入してしまったものだ(苦笑)。

Journeyの人気が一気に上がったのはSteve Perry参加後ってことになるだろうが,バンド誕生からJourneyを支えたGreg Rolieの最後のアルバムがこれってことになる。Steve Perryの声ってのは正直好き嫌いがあると思う(歌は無茶苦茶うまいのだあ,私は彼の声が結構苦手...)のだが,初期のアルバムではリード・ヴォーカルも取っていたGreg Rolieとしてはもはや潮時って感じでの脱退だったのではないだろうか。あるいはツアーに疲れたってところかもしれないが。

このアルバムは"Departure"リリース後のツアーの模様を収めたもので,一部日本での音源も含まれているようだが,バンドとしての勢いが増している頃って感じのサウンドである。彼らの人気のピークはこの後にやって来るが,そこへ至る過程を捉えたライブ盤としては,相応に楽しめるものと思う。まぁ,この頃の東京でのライブのヴェニューは渋谷公会堂,中野サンプラザ,そして新宿厚生年金会館であったから,まだ武道館級ではなかったってことである。

Journeyは,初期のスタイルから大きく変化したバンドだが,ここでは既に所謂インダストリアル・ロック化しているJourneyの音である。このライブではそれなりにバンド・メンバーにスポットライトが当たるようにはなっているものの,Neal Schonのソリッドなギターの目立ち具合が突出している。その辺りにロック的な感覚を持たせながら,曲はポップなものだというのが実感である。だからこそ幅広いオーディエンスに訴求したのだろうと思ってしまう。ちょっとアルバムとしては一本調子ではあるが,往時を懐かしむには丁度よかったってところだな。星★★★☆。

尚,最後に1曲だけスタジオ録音の"The Party's Over (Hopelessly in Love)"が入っているが,この曲はGreg Rolie脱退後の録音なので,キーボードはStevie Rosemanが弾いているが,この曲必要だった?って程度の曲だと思うのは私だけ?

ともあれ,今度は久しぶりに"Escape"ツアーのライブ音源を聞いてみることにしよう。

Personnel: Steve Perry(vo), Neal Schon(g, vo), Greg Rolie(key, vo), Ross Valory(b, vo), Steve Smith(ds, perc), Stevie Roseman(p, key)

2022年7月19日 (火)

Dave Grusinのベスト盤を聞いていて,ついつい思い出したこと。


Mountain-dance-composite_20220718215001

先日,Dave Grusinのベスト盤,"Collection"について記事をアップして,そう言えばということで思い出したのが,そこに含まれている"Mountain Dance"のことであった。そのアルバムについては既にこのブログを開始した年にアップしている(記事はこちら)。今聞いても実にいいアルバムだと思っているが,本作はジャケにいくつかのパターンがあったなぁなんて回顧モードに入ってしまった私である。

私が最初に購入したJVCからリリースされたアナログは一番左。その後,アナログの再プレスや国内盤CDのジャケに使われたのが真ん中,そしてGRPからリリースされたヴァージョンが右ってことになるはずだが,どれが一番購買意欲をそそるかは人それぞれとしても,GRPヴァージョンはないだろうって気がする。

私はデザイン的にいけていないアルバムはそれだけで買う気がなくなるってタイプの人間だが,やっぱりデザインって大事だよねぇってことをこの"Mountain Dance"を見ていても思っちゃうよなぁってところだ。皆さんはどうだろうか。

Dave Grusinはアルバム"One of a Kind"でも下のようにジャケの変更を行っているが,これについても見解はわかれるだろうなぁ。こっちについては曲順まで変更しているが,本人にはそれなりにこだわりもあったのかもなぁなんて思うところだが,ジャケはさておき,私はオリジナルの曲順の方が馴染みがあって,CD版は違和感があることは前にも書いた(記事はこちら)。これも趣味の問題ではあるが,こういうのって本当にミュージシャン側の趣味だけでは完結しないところもあるのではないかって感じてしまった。まぁ,リスナーなんて勝手なものだが,やっぱりデザインには力を入れて欲しいと思っている。そういう意味で,往時のBlue NoteやECMにはデザインの一貫性を強く感じて,そういうところには強いシンパシーを感じてしまうのだ。裏を返せば私は悪趣味なデザインのCDを買う気はない(買いたくない)のである。

One-of-a-kind-composite_20220718215401

2022年7月18日 (月)

久々に聴いたEric Claptonの70年代のライブ・コンピレーション+α。実に素晴らしい。 #EricClapton

Crossroads2_20220717073201"Crossroads 2" Eric Clapton(Polydor)

先日,"No Reason to Cry"をこのブログで取り上げた後に,久々にこのコンピレーションを聴いたのだが,これが実に素晴らしいものであった。主題の通り,本作は70年代のEric Claptonのライブ音源をまとめたものに,スタジオ・テイク4曲を加えたものなのだが,このライブが実にいいのである。

音源は74年から78年にまたがって,複数のヴェニューで録音されているが,"461 Ocean Boulevard"で完全復活を遂げたEric Claptonの,その後の充実ぶりが強く感じられる演奏になっているのが嬉しい。この時期,アルバムで言えば"461"から"Backless"に至る時期であるが,それらのアルバムが全部優れているとは言わずとも,ライブに関しては,それこそ鬼のようなギターを聞かせていたことがはっきりする。

Eric Claptonはいまだに現役で演奏はしているものの,人間が丸くなったというか,往時の凄みというのは正直感じられなくなっていると思っている。近年のアルバムも聞いても,いい曲もあったりするが,以前のような興奮は覚えないのも事実である。そうしたことを踏まえれば,私が初めてEric Claptonのライブに接したのは後年になってからのことであったが,この頃の演奏を生で聞いておけばよかったと思っても後の祭りである。74年から78年と言えば,私は中学生から高校生の頃だから,行って行けないことはなかったはずなので,やはり残念と言わざるをえない。

なんでこのコンピレーションがいいのかという理由は,ほぼバンドが固定メンツとなっていて,コンビネーションがタイトだということもあると思えるが,とにかく聞き物はClaptonのギターだと思う。まさにスローハンド炸裂しまくりである。そして,Carlos Santanaと共演した"Eyesight to the Blind / Why Does Love Got to Be So Sad?"はロックのジャムってのはこういうもんだって思わせる興奮度である。久々に聴いて堪能した私であった。星★★★★★。

甚だ極論かもしれないが,一般にリスナーがEric Claptonに求めるイメージが詰まったボックス・セットだと言っていいのではないかと思う。痺れる。

Personnel: Eric Clapton(vo, g), George Terry(g), Dick Sims(key), Car, g), George Terry(g), Dick Sims(key), Carl Radle(b), Jamie Oldaker(ds), Yvonne Eliman(vo), Mercy Levy(vo, hca), Sergio Pastora(perc), Carlos Santana(g), Armando Peraza(perc), Leon Chancler(perc), Dave Markee(b), Herny Spinetti(ds), Graham Lyle(g) 

2022年7月17日 (日)

今年もこの日がやってきた。John Coltraneの命日と私が歳を重ねる日。

_20220715-2"Thelonious Monk with John Coltrane" (Riverside)

主題の通りである。私が年齢を一つ増やす日はJohn Coltraneの命日と重なっているので,近年はこの日はJohn Coltrane絡みの音楽に関して書くようにしているのだが,以前はそんなこともおくびに出さず,全然関係のない記事を書いていた。やはり加齢により記事の書き方にも変化が生じているのだなぁと改めて思った私である。私ももはや還暦も過ぎ,もう中年じゃないじゃんという話もあるが,そろそろブログのタイトルも変えようかなんて真剣に思っている。

それはさておき,今年選んだのがこれである。このアルバム(CD)は父の遺品なのだが,晩年にジャズに目覚めた父が結構Thelonious Monkが好きそうだったということは前にも書いたことがある。そんな父から受け継いだMonkのCDはほんの数枚だが,そこにこれが入っていた。私は保有していなかったので丁度ええわという感じであったが,このアルバムは本来ならもっと凄いものが出来ていただろうなぁというところが,もったいないというところもある作品だと思う。

John ColtraneがMiles Davis Quintetに加わって,一気にその実力を開花させたというのはその通りだろうが,それと並行した時期にThelonious Monkと共演したことが,それこそColtraneにとっての次なる"Giant Step"になったと言われることも,さもありなんと思わせる演奏が,本作に収められた"Ruby My Dear", "Trinkle, Tinkle", そして"Nutty"の3曲のクァルテット演奏だ。まさにこれぞ痺れる演奏と言わずして何と言うって感じだ。言っちゃ悪いが,そのほかの収録曲はあくまでもオマケであって,この3曲のためだけにこのアルバムの存在意義があると断言してしまおう。1958年春先のまさにJohn Coltraneの更なる「覚醒」の瞬間と言ってもよい。

こういう演奏を聞いていると,人間にとって「きっかけ」ってのは実に重要だなぁと思ってしまう。これを聴いてしまったら次はカーネギー・ホールとファイヴ・スポットの演奏も聴かないとねぇ(笑)。尚,下記のデータは上記3曲のみのもの。

Recorded in Spring, 1958

Personnel: Thelonious Monk(p), John Coltrane(ts), Wilbur Ware(b), Shadow Wilson(ds)

2022年7月16日 (土)

久々にDave Grusinのベスト盤で和む。 #DaveGrusin

_20220715 "Collection" Dave Grusin(GRP)

前にもこのブログに書いたことがあるが,フュージョン界のアレンジャー,キーボード・プレイヤーと言えば,Dave GrusinとBob Jamesが双璧と言ってよいだろうが,私は圧倒的にDave Grusinの方を支持していた。これは映画音楽の作曲家としての位置づけもあったと思うが,アルバムのクォリティはDave Grusinの方がずっと上だと思っていた。まぁ,趣味と言ってしまえばそれまでだが,私の音楽的な趣味に合致していたのは間違いなくDave Grusinであった。

そんなDave GrusinのGRP(もともとはPolydorやJVCに吹き込んでいたものも含むが...)でのベスト盤が本作である。もうこれもリリースから30年以上経過しているというのが凄いが,それだけ私も歳を取ったということだ。しかし,Dave Grusinは最近はどうかわからないが,7年前にBlue Note東京で観た時は80歳を過ぎていながら,まだまだ矍鑠としていたのにはびっくりした。ミュージシャンは老け込まないねぇと思った瞬間である。

それはさておき,GRPレーベルにおけるリーダー作から満遍なくチョイスした選曲は,私にとって非常に懐かしいものばかりである。例外は打ち込み主体の音源であるが,バンド形態でやった演奏はやっぱり今でも好きだなぁと思ってしまう。主題にも書いた通り和むのだ。ドリーム・オーケストラというかたちで武道館でやった音源や"Mountain Dance"なんて私の学生時代の思い出とシンクロしてしまうような演奏だが,そうした中でここにも入っている映画"Tootsie"のテーマ,"An Actor's Life"は今聞いてもいい曲だし,映画も懐かしい。

また,"Harlequin"からの"Early A.M. Attutude"でもそうだが,Lee Ritenourと本当に相性がいいよねぇと思ってしまう。Lee RitenourはFourplayではBob Jamesともばっちりだったから,Lee Ritenourが何でも,あるいは誰とでもできちゃうってことかもしれないが,Gentle ThoughtsやFriendshipの時代からのDave Grusinとの共演も忘れ難いところがある。

まぁここでの主役はあくまでもDave Grusinだが,映画音楽でも,フュージョンでも本当に質の高い音楽を残した人である。さすがに現役での活動は難しい年齢かも知れないが,過去の音源を聞いても,いまだに楽しめるというのは実に素晴らしいことだと思う。星★★★★☆。

尚,ベスト盤につき,Personnelは省略。

2022年7月15日 (金)

Toots Thielemansの未発表音源3枚組の3枚目。今回は73年の演奏とボートラが82年の演奏。 #TootsThielemans

Toots-meets-franken_20220713122901 "Toots Thielemans Meets Rob Franken: Studio Sessions 1973-1983" (Nederlands Jazz Archief)

Toots Thielemansの未発表音源3枚組を取り上げる3回目にして最終回。本編は73年の演奏で,ボーナス・トラックは83年となっているが,録音は82年暮れで,ミックスされたのが83年ということなので,微妙なところではあるが,正確には82年とすべきのようにも思える。

それはさておき,このディスク3もフュージョン・スタイルの演奏とスタンダードやオリジナルが混在するというかたちは,ディスク1,2同様で,幅広いレパートリーが楽しめるのもこれまで同様である。このアルバムを取り上げるのも今回が最後であるが,私としてはこの実に一貫性のあるコンピレーションをよくぞ出してくれたというのが正直な感想である。

もちろん,曲によって出来,不出来はあると思う。ディスク3で言えば,Toots Thielmansのオリジナル"Bluesette"に期待したが,こっちの期待に応える出来とは思っていない,あまりにフュージョン色の濃い冒頭の"Old Friend"なんて,何もToots Thielmansじゃなくたっていいんじゃないの?とさえ思ってしまうが,それでも未発表となっていたこれらの音源で,今は亡きToots Thielemansの技に改めて接するという機会を得られたことは,実に意義深いことだったと思える。

音楽としては星★★★★ってところだとは思うが,リリースされたことを含めて半星足して星★★★★☆としよう。いずれにしてもToots Thielemansの音楽が好きなリスナーは必聴のセットである。

Recorded on January 10, 1973 and on December 15-16, 1982

Personnel: Jean 'Toots' Thielmans(hca, g, whistle), Rob Franken(el-p), Rob Langerels(b), Theo de Jong(b), Eric Ineke(ds), Bruno Castellucchi(ds), Peter Tiehuis(g) 

2022年7月14日 (木)

高橋アキの演奏で,Peter Garlandを初めて聴く。 #高橋アキ

_20220712-2 "Peter Garland: The Birthday Party" 高橋アキ(New World Records)

高橋アキの現代音楽のアルバムには,ついつい手が出てしまう私である。これもネットで見つけて発注してみるか~ってことで購入したものだが,Peter Garlandという作曲家についてはこれまで全く未経験であった。

ネットで調べてみると,ポスト・ミニマルの作曲家ということになっている。ポスト・ミニマルってのは「反復的なスタイルのなかに多様な要素や伝統的な語法を持ち込んだ」ものってことになるらしいが,このアルバムを聞いていて思ったのは,所謂現代音楽らしいクールな響き,あるいは一種の冷たさというよりも,暖かみすら感じさせるメロディ・ラインを持っているものであった。例えばMorton Feldmanなんて,ミニマルの極北みたいに感じてしまう私だが,タイプが全然違うのだ。

実のところ,私が現代音楽のピアノ音楽に求める響きは冷たさ,あるいは独特の間合いの方なので,ちょっとイメージが違うんだよなぁってのが正直なところである。

まぁ,いろいろな音楽を聴いて,自分に合う音楽をチョイスしていけばいいので,こういうことはままあることだが,今回は「へぇ~」って感じが強かった。あくまでもイメージの問題って気もするが,高橋アキのアルバムの中では,プレイバックの回数が増えそうにはなさそうだ(苦笑)。嫌いじゃないけどね。星★★★★。

Recorded between June 29 and July 1, 2016

Personnel: 高橋アキ(p)

2022年7月13日 (水)

衰え知らずのCharles Lloydの新作は三部作の第一弾。もはや「幽玄なる響き」だ。 #CharlesLloyd

_20220712 "Trios: Chapel" Charles Lloyd(Blue Note)

今年84歳となったCharles Lloydという人には「衰え」という概念はないらしい。今回のアルバムも3つの異なるトリオによる三部作の一つというのだから,創造に対する取り組みは更に盛んになっているとさえ思ってしまう。

今回のパートナーはECMにもデュオ作を残すBill FrisellとThomas Morganである。彼らの音源を聞いていれば,本作でもだいたいどういう感じになるだろうという予想はつくが,こちらが想像している通りの音と言ってもよい。内省的な響きを感じさせながら,もはやこの音は主題にも書いた通り,「幽玄」と言い換えてもいいとさえ思えるものだ。

この三者による対話には刺激は乏しいと感じるリスナーがいても不思議はない。しかし,これはそもそも刺激を求めるべき音楽ではないのだ。Marvelsではアメリカーナ的な音を出しているCharles Lloydがここでやっている音楽は,Marvelsとはタイプを異にしているが,それでもやっぱりCharles Lloydだと思わせてしまうところは凄い。

冒頭のBilly Strayhorn作"Blood Count"からそうしたCharles Lloydらしさが横溢しているが,それに続くオリジナルに混じって演じられるBola de Nieve(Villa Fernandez Ignacio Jacinto)の"Ay Amor"を,アルバム"Tone Poem"に続いて演奏しているということは,この曲を相当気に入っているということかもしれないが,それぐらい哀愁溢れるメロディ・ラインを持つ曲で,これが実によい。更にそれに続く"Beyond Darkness"で聞かせるアルト・フルートの響きには心底痺れてしまう。最後に収められた"Drotea’s Studio"は,少々牧歌的な雰囲気も醸し出して,ストイックさも感じさせる幽玄さから,やや弛緩に向かう終幕も実にいい雰囲気だと思える。

やはりCharles Lloyd, 恐るべき老人と言わざるをえない。星★★★★☆。因みにCharles Lloydのバンド,Marvelsは最新のDown Beatの国際批評家投票で,#1 Jazz Groupに選出されているってのも凄いことで,ここでも恐るべき老人ぶりは実証されている。

Recorded Live at Elizabeth Huth Coates Chapel, Southwest School of Art, San Antonio, Texas

Personnel: Charles Lloyd(ts, a-fl), Bill Frisell(g), Thomas Morgan(b)

2022年7月12日 (火)

全く枯れていないBonnie Raittに驚愕させられる。 #BonnieRaitt

_20220709 "Just Like That..." Bonnie Raitt(Redwing)

このアルバム,ストリーミングで済ませようとも思ったのだが,聞けば聞くほどよくなるので,媒体での購入である。

Bonnie Raittは1949年生まれなので,既に古希を過ぎている。にもかかわらず,この彼女の新譜には枯れたところは一切なく,現役感バリバリの音楽を生み出しているのがまずは素晴らしい。

私はBonnie Raittのアルバムも結構保有している方だが,全部が全部素晴らしいとは思っていないが,実に平均点は高い人だと思っている。前作の"Dig in Deep"にしろ,その前の"Slipstream"にしろ高く評価している。その"Slipstream"の記事をアップした時の主題が「全く枯れていなかったBonnie Raitt」とあっては,私の表現力の乏しさがバレバレになってしまうが,"Slipstream"が10年前,"Dig in Deep"からも6年以上経過していることを考えれば,相応の時間は経過している。しかし,ここでBonnie Raittがやっている音楽は前作,前々作にも勝るとも劣らない出来なのだ。

ここではほぼ固定メンツで演奏しているところにも,バンド・メンバーへの信頼のようなものを感じるが,ゲストなしでもこういう音楽を作り上げてしまうところが,Bonnie Raittの見事なところである。曲もオリジナルにしろ,他人の曲にしろ,実にBonnie Raittにフィットした曲であり,アメリカン・ロックのよいところを十分に感じさせる。ややハスキーなBonnie Raittの声も健在であり,実にバックのサウンドともマッチしているのに加え,Bonnie Raitt自身のスライドの腕も健在なのは実に嬉しい。

尚,1曲だけ"Here Comes Love"だけが2015年の音源で,そこには昨年亡くなったMike Finniganも参加しているが,追悼を込めた収録だったのかもしれない。

いずれにしても,Bonnie Raittには"Forever Young"で今後も活躍を期待できると思ってしまう良作。そんな期待も込めて甘いの承知で星★★★★★。しかしマジで渋くも実によいのだ。ライブでもこんな音楽をやられたら,痺れること必定。私もこのように年齢を重ねたい。

Personnel: Bonnie Raitt(vo, g), James "Hutch" Hutchinson(b), Ricky Fatar(ds, perc, vo), Glen Patscha(p, el-p, org, key, vo), Kenny Greenberg(g), George Marinelli(g, perc, vo), Jon Cleary(el-p, perc, vo), Mike Finnigan(org, vo)

2022年7月11日 (月)

「リコリス・ピザ」:映画好き以上に音楽好きが反応してしまうかもなぁ。

Licorice_pizza

「リコリス・ピザ("Licorice Pizza")」(’21,米/加,Universal/MGM)

監督:Paul Thomas Anderson

出演:Alana Haim, Cooper Hoffman, Sean Penn, Tom Waits, Bradley Cooper, Benny Safdie

批評家からは結構高く評価されている映画である。1973年という時代設定において繰り広げられる一種の青春映画と言ってもよいが,「ついて,離れて,またくっついて」みたいな感じのストーリーはまぁいいとしても,2時間13分という尺はいらないというのが正直なところ。だが,時代の切り取り感は大したもので,実在の場所,実在の人物も交えながら,観終わった後は,相応の清涼感は得られる。

主演を務めるAlana HaimはHaimというバンドのミュージシャンが本業であり,女優としては映画初出演のようだが,実に雰囲気を出している一方,Cooper HoffmanはPhilip Seymour Hoffmanの息子だそうだ。まぁ,役柄設定のように15歳にはとても見えないところはご愛敬だが,これまた映画初出演なのだから,この二人からこうしたストーリーを作り上げたPaul Thomas Andersonの演出は認めないといけないと思う。Alanaの一家は,実際の彼女の家族(姉二人はHaimのバンド・メンバー)が演じているというのもユニークなキャスティングと言える。

しかし,それと同様にユニークなのは,ゲスト出演と言ってよい役にSean Penn,Tom Waits,そしてBradley Cooperを引っ張り出してくるキャスティングだろう。こういうのを見ていると,キャスティングという仕事がいかに重要かということがわかる気がした。

ストーリーの背景として当時の映画関係の話も出てくる(ある意味小ネタ満載)ので,そういうところに注目して見ていても楽しめるが,それ以上にこの映画は,当時の音楽が続々と流れてきて,私のような年代は懐かしい~ってなってしまうのだ。どちらかと言えば,私は音楽に反応していた方かもしれないが,でもやっぱりこの映画,もう少し短くできるよなぁっていうところがぬぐい切れず,星★★★★ってところ。この映画,嫌いじゃないが,私としては同じような往時の背景を取り入れたかたちの「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」の方が好きだな。

2022年7月10日 (日)

”Jim Hall & Pat Metheny”:これまでちゃんと聴けていなかったことが明らかになって愕然。

_20220707 "Jim Hall & Pat Metheny"(Telarc)

先日,取り上げたJim Hallのタウン・ホールでのライブ同様,日頃はクロゼットにしまい込んでいて,随分と長いこと聴いていなかったアルバムなのだが,今回,改めて聴いてみて,私は今まで,ちゃんとこのアルバムを聴いていたのかと思ってしまったのであった。そもそもなぜこのアルバムをクロゼットに押し込んでしまったのか,不思議でならないと言ってよいほどの出来だったのだ。

今回,何よりも驚いたのは,この二人のギターのフレージングの同質性であった。左チャンネル:Jim Hall,右チャンネル:Pat Methenyとわかっていても,Jim Hallの弾くフレーズがPat Methenyみたいに聞こえてしまうというのが実に不思議な感覚であった。年齢からすれば,Pat MethenyがJim Hallから影響されたということになるのだが,私はそれに気づいていなかったということを改めて感じたのである。Jim Hallというギタリストは基本的には渋いプレイヤーだと思うが,その一方で進取の精神もあって,それゆえに多くのギタリストからリスペクトされたのだと思える。ここで聞かれるフレージングなんて実に若々しく,とてもレコーディング当時70近かったとは思えないのだ。

そもそも私はこのアルバムがスタジオ音源とライブ音源の組合せだってことすら忘れていたのだから,本当にいい加減なものだと思わざるをえないが,この二人の名手の対話については,改めてよく聴かないといかんと反省してしまったのであった。星★★★★☆。

Jim-hall-and-pat-metheny_20220707224401 尚,本作は後にレーベルもNonesuchに変わって,ジャケも違うかたちで発売されたので,そっちのイメージもアップしておこう。まぁ,もともとのTelarcのアルバムの裏ジャケの写真を使っているだけなのだが,感じは随分違う。

Recorded on July 30 & 31, and Live at Manchester Craftsmen's Guild on August 1 & 2, 1998

Personnel: Jim Hall(g), Pat Metheny(g)

2022年7月 9日 (土)

懐かしのJim Hallのタウン・ホールでのライブ。メンツや編成も含めて,渋いこと,渋いこと。

_20220704 "Jim Hall & Friends Vol.1/Vol.2" Jim Hall(MusicMasters)

長年保有していても,大して聞かないアルバムってのはかなりの数に上っているのは抗いがたい事実だ。相応にソフトの枚数が増えてしまえば,自ずと好みは分かれていくし,その結果,プレイバックの回数が減っていくアルバムが出てくるのは仕方のないことだと思う。

そんな中で,今回取り上げるこの2枚のアルバムについても,私はリリース直後から保有していても,プレイバックの回数はかなり低いまま推移してきたと言ってもいいだろう。だって,渋過ぎるって感覚は否めないのだ。

_20220704-2 この2枚のアルバムはJim Hallの楽歴何十周年みたいなところで開催された「記念イベント」の実況盤なのだが,例えばBob Dylanの30周年記念盤のような賑々しさとは対極にあると言ってもよい。ゲストはそれなりの人を揃えているにもかかわらず,やっぱり地味だ!と思わせてしまうのがJim HallのJim Hallたる所以かもしれない。

私が購入したのはリリースされてすぐの頃だったと思うが,当時は本作は2枚のアルバムに分かれていたが,その後2枚組でリリースもされていたようである。それはさておき,Volume1の前半はデュオ音源が続くが,その相方が冒頭のRon Carterはわかるとしても,その後がBob BrookmeyerとGerry Mulliganとのデュオってのは渋過ぎだろう。そして弦楽クァルテットの加わる曲は,もはや現代音楽か!と言いたくなるような響きさえ生み出している。

Volume 2はいろんなギタリストが登場するが,そのギタリストが決して派手とは言えないメンツなので,「お祭り」感はあまりないと言ってもよい。どうせならもっと派手にやるというオプションもあったと思うのだが,Jim Hallという人がそれをよしとしなかったということだと思わざるをえない。

ある意味,Jim Hallというギタリストの人となりが表れたイベントであり,ライブ盤であったと思った次第。星★★★★。

Recorded Live at Town Hall, NYC on June 26, 1990

Personnel: Jim Hall(g), Peter Bernstein(g), John Scofield(g), John Abercrombie(g), Mick Goodrick(g), Gerry Mulligan(bs), Bob Brookmeyer(v-tb), Gary Burton(vib), Gil Goldstein(p, synth), Don Thompson(p), Ron Carter(b), Steve Laspina(b), Terry Clarke(ds), Shem Guibbory(vln), Richard Henrickson(vln), Diedra Lawrence(vla), Kermit Moore(cello)

2022年7月 8日 (金)

録りだめしておいた映画から,「シルバラード」を久しぶりに観た。痛快西部劇とはこれのこと。

Silverado 「シルバラード("Silverado")」(’85,米,Columbia)

監督:Lawrence Kasdan

出演:Kevin Kline, Scott Glenn, Kevin Costner, Danny Glover, Rosanna Arquette, Brian Dennyhy, Linda Hunt, Jeff Goldblum

このブログにも何度か書いているが,私は結構西部劇が好きだ。昨今のBSでは結構な本数の西部劇を放映していて,私としてはこまめに録画しているのだが,なかなか見る時間がないというのが正直なところだが,今回,時間を見つけてこの映画を再見した。

この映画を初めて見たのは,確か2本立ての1本としてだったはずだ。その時から痛快な西部劇だと思っていて,実に面白かったという記憶はあったが,受ける感触は何年経っても全然変わらなかった。基本的には「スター・ウォーズ」シリーズをはじめ,シナリオ・ライターとしての仕事の方がよく知られているLawrence Kasdanだが,「白いドレスの女」を皮切りに演出にも進出したが,この映画などはそれこそ「スター・ウォーズ」的なストーリー・テリングを西部劇に置き換えたって感じだと思う。

敵と味方ははっきりしているし,勧善懲悪も明確なので,実にわかりやすいし,そして痛快である。シナリオとしてはそうした痛快感を優先するがゆえに無理があるのは承知しているが,古き佳き時代の西部劇にも似た感覚とアクションを交えて,見ていて本当に楽しいのだ。本作が製作されたのは1985年だが,そういう時代にフィットしていたかと言えば,それは正直疑問であるが,それでも深いことを考えなくても楽しめる西部劇をその時代に問うたということに,私は潔さ,あるいは清々しささえ覚えてしまう。

主役の4人はそれ相応に見せ場を作られていて,その辺もちゃんと考えてのシナリオ設定だが,Kevin Costnerの若いこと,若いこと。この映画の当時はこんなチャラチャラしたキャラを演じていたというのも微笑ましい。それに比べると,Kevin Kline,Scott Glenn,Danny Gloverの3人は正統派のキャラクターってところで,その辺の対比も考えてあるって感じなのだ。

映画としての深みはないかもしれないが,純粋にエンタテインメントとして楽しめばいいと思える映画。星★★★★。私はこの映画,かなり好きである。

2022年7月 7日 (木)

”No Reason to Cry”:ClaptonのThe Band愛高じてって感じだな。 #EricClapton

_20220703-2 "No Reason to Cry" Eric Clapton(Polydor)

私は相応にEric Claptonのアルバムは保有しているものの,このアルバムをプレイバックする機会はあまり多くない。久しぶりにこのアルバムをプレイバックしてみたのだが,Eric Claptonらしさってのが希薄な気がしたってのが正直なところである。

このアルバムはThe Bandが保有するShangri-Laスタジオで録音されたものであり,複数のセッションから選ばれた曲が収録されているが,クレジットがはっきり書かれていないので,誰がどの曲でっていうのはわからない。まぁBob Dylanは自身が提供した"Sign Language"で歌っているのは誰が聞いても明らかだが,はっきりと参加していると認められるのはCourtesy表示のあるDylan,The BandのRobbie Robertson,Rick Danko,Richard Manuelの3人,Ron Wood,それにGeorgie Fameだけで,それ以外はバック・カヴァーで謝辞を書かれているメンツが参加と想定する以外にない。まぁ,何らかのかたちで関わっていそうな名前が並んでいるから,おそらくは彼らが参加はしているはずだが,いかにもという名前が並んでいる。

それだけのメンツが参加しているならば,もっと聞きたいと思うのが筋なのだが,どうもそういう気になれないのは,The Band愛が高じて,レイドバックし過ぎたというか,あるいはThe Band的なサウンドに寄り過ぎたっていう気がする。私はThe Bandの音楽だって好きだが,それはThe Bandの演奏を聞けばいいのであって,別にEric Claptonのアルバムである必要はない。

また,数多くのセッションから選曲したであろうことから,何となく一貫性に欠ける,もしくは寄せ集め感を覚えるというところがこのアルバムの難点だと思える。むしろ,これを聞くならば,ライブ音源の寄せ集めと言われても仕方ない70年代のライブ音源を集めた"Crossroad 2"の方がずっと楽しめてしまうのは,Eric Claptonの色がちゃんと出ているからだと思う。星★★★。もちろん嫌いじゃないんだけどね。

2022年7月 6日 (水)

Toots Thielemansの未発表音源3枚組の2枚目。今回は74年と78年のセッションの模様。 #TootsThielemans

Toots-meets-franken_20220703093901 "Toots Thielemans Meets Rob Franken: Studio Sessions 1973-1983" (Nederlands Jazz Archief)

Toots Thielemansの未発表音源3枚組を取り上げる2回目。今回は主題の通り,74年と78年の演奏を収めたディスク2である。スタンダード,ジャズ・オリジナル,ブラジル,映画音楽と何でもありなのはディスク1同様であるが,80年代の演奏との決定的な違いはまだTootsがギターと口笛もやっていることだろう。Toots Thielmansがハーモニカに専念したのは80年代以降ということになろうが,このギターと口笛のユニゾンってのも結構味わいがあって好きだった。

ディスク2を聴いていて面白いと思ったのは,78年のセッションで"Crystal Silence"をやっていることだが,こういう選曲はToots Thielmansに合うねぇと感じた私である。しかし,その後の"The Sidewinder"は正直言っていけていない。リハーサル不足の面もあるだろうが,こちらは単純に合っていないってところか。

それでも,このディスク2も72分弱という尺の中で,楽しめることは間違いないが,何でもできるがゆえに,曲想にばらつきが感じられるところがあるのも事実で,例えば軽快なスタンダード"Broadway"から,Rob Frankenのメロウなオリジナルである"Absorbed Love"への流れなどは,曲のギャップがちょっと大きいかなぁなんて思ってしまうのだ。そういう意味では先日アップしたディスク1の方が私個人としては好みだと感じる。

それでも映画John Williamsが作曲,Paul Williamsが作詞した「シンデレラ・リバティ」の主題歌,"(You’re So) Nice to Be Around"とかを入れるセンスは最高だが,映画でもTootsが吹いていたんだから当然か。さて,73年の演奏とボーナスで83年のTV出演時の音源を入れたディスク3やいかに?

Recorded on April 8, 1974 and on January 12, 1978

Personnel: Jean 'Toots' Thielemans(hca, g, whistle), Rob Franken(el-p), Joop Scholten(g), James Leary(b), Wim Essed(b), Eddie Marshall(ds), Peter Ypma(ds), Ferdinand Povel(ts, fl)

2022年7月 4日 (月)

「ライト・スタッフ」を改めて劇場で観る喜び。

The-right-stuff 「ライト・スタッフ("The Right Stuff")」(’83,米,Ladd/Warner Brothers)

監督:Philip Kaufman

出演:Sam Shepard, Scott Glenn, Ed Harris, Dennis Quaid, Fred Ward, Barbara Harshey, Kim Stanley, Veronica Cartwright, Pamela Reed, Levon Helm

私の人生で観た映画の中でも,トップ5とは言わずとも,トップ10には入れたくなるほど好きなのがこの映画である。それが「午前十時の映画祭」において劇場で観られるとなれば,観に行くしかない。

この映画はSam Shepard演じるChuck Yeagerと,マーキュリー計画で有人宇宙飛行に挑む飛行士たちの物語が並行して描かれるが,誰が何と言おうが一番カッコいいのはSam Shepardであることに疑いがない。それにしても,改めてこの映画を観て,実にキャスティングが素晴らしかったと思ってしまった私である。男優陣,女優陣とも実に感じが出ていて,役柄にぴったりなのである。ついでに言うと,脇とナレーターでThe BandのLevon Helmも担ぎ出しているところも実に渋い。

私が最初にこの映画を観たのは,短縮版の日本公開版だったのか,今回観たオリジナル版だったのかの記憶は定かではないのだが,記憶に残っていないシーンもあったので,短縮版を観ていたのではないか。しかし,それも大昔に遡るので,正直自信はない。その後購入したレーザーディスクがどうだったかも,ソフトをすべて処分してしまった今となってはわからないが,現在販売されているBlu-ray等はオリジナル版のようだ。DVDは購入しているはずだが,老後に見ればいいやと思って放置しているしなぁ(爆)。

しかし,改めてスクリーンでこの映画を観て,この映画のよさってのを感じながらも,若干冗長に流れた感もあったというのが正直なところである。特にテキサスの民主党大会みたいなところに出てくるSally Randなんていう踊り子のシーンなんて,全く要らんだろうと思ってしまえるのも事実だ。それでも,やはりSam Shepard演じるChuck Yeagerのカッコよさというのには若かりし頃の私は痺れたし,今回もこの映画の真の主役はSam Shepardだと思えた。最高なのである。

今回,改めてデータを紐解いてみると,Chuck Yeager本人もチラッと出演していたのねぇなんてことに気がついたのだが,そうしたリスペクトを示されて当然の男の中の男,Chuck Yeagerである。とにかく,この映画は実にドラマとしてもよく出来ているし,群像劇としても面白い。監督,シナリオを兼ねたPhilip Kaufmanにとっての畢生の傑作。星★★★★★。でも「存在の耐えられない軽さ」は観てないんだよなぁ。

3時間13分という上映時間には,一回休憩を入れて欲しいと思ったのは私だけではなかろうが,朝のコーヒーも飲まずに臨んで乗り切った私であった。それでもそんな時間を感じさせない映画であることは間違いないし,大スクリーンにこそフィットする映画だと言っておきたい。そうは言っても家でもまた見たいので,値段も安いし,Blu-rayでも買うか(笑)。

2022年7月 3日 (日)

懐かしい~!ナベサダのワーナー時代の自選ベスト盤。 #渡辺貞夫

_20220702 "Selected" 渡辺貞夫(Elektra)

これは確か私がNYに在住中に購入したと記憶している。もはやそれも30年以上前のこととなったが,本作はWarner時代のナベサダのアルバムから曲を自選し,そこに未発表音源を加えた一種のベスト盤である。Warner時代のナベサダはアメリカのマーケットを意識した音作りとなっていて,その辺は好みが分かれるところかもしれない。

そもそも日本のジャズ・ミュージシャンが米国のメジャー・レーベルと契約して,アルバムをリリースするってのも快挙だが,チャート・アクションも結構よかったというのは今にして思えば凄いことである。ではあるのだが,ここに収められた音を聞いていると,アレンジメントがいかにも売れ筋みたいに聞こえたり,ややオーバー・プロデュース的に感じる部分もあるのも事実。特にRalph McDonaladがプロデュースした"Fill up the Night"と"Randevouz"はバックのメンツがGrover Washinton, Jr.の"Winelight"と同じというのは力が入っているのはわかるが,ちょっとやり過ぎな気がする。私としてはフュージョン系のアルバムということであれば,以前記事にしたFlying Disk時代のベスト盤の方が好きだなぁ(記事はこちら)。

まぁ,そうは言っても高いレベルのミュージシャンを揃えた演奏は結構楽しめてしまうし,何曲か入っているそもそものナベサダのよく知られたオリジナル("Pastorale"とか"Round Trip"とか)のリメイク具合を楽しむって聞き方もあると思えるアルバム。星★★★☆。

尚,国内盤には"My Dear Life"のヴォーカル版とインスト版が収録されているが,私が保有するアメリカ盤ではインスト版のみ。また,アナログ時代に収録されていた"I Love to Say Your Name"がCDではオミットされている。

Personnel: 渡辺貞夫(as, sn, vo), Robbie Buchanan(key), Richard Tee(key), Paul Griffin(synth), Don Grusin(key), Ancel "Doouble Burrell" Collina(key), Russell Ferrante(key), Cesar Camargo Mariano(key), 野力奏一(key), Paul Jackson, Jr.(g), Eric Gale(g), Carlos Rios(g), Earl "Chinna" Smith(g), Radcliff "Doggie"Bryan(g), Dan Huff(g), Toquinho(g, vo), Heitor Teixeira Pereira(g), Steve Erquiaga(g), Abraham Laboriel(b), Marcus Miller(b, synth), Nathan East(b), Jimmy Johnson(b), Bertram "Ranchie" McLean(b), Nico Assumpcao(b), Keith Jones(b), Chester Thompson(ds), Steve Gadd(ds), Harvey Mason(ds), Carton "Santa" Davis(ds), Vinnie Colaiuta(ds), Carlos Vega(ds), William Kennedy(ds), Andy Narrell(steel-ds), Alex Acuna(perc), Ralph McDonald(perc), Paulinho Da Costa(perc, vo), Sydney Wolf(perc), Jimmy Cliff(perc), Paulinho Braga(perc), Papeti(perc), Kenneth Nash(perc), 淵野繁雄(ts), 西山健治(tb), Brenda Russell(vo), Carl Carwell(vo), Maria Leporace(vo), Lynn Davis(vo), Alexandria(vo)

2022年7月 2日 (土)

これは知らなかった!Toots Thielemansの未発表音源3枚組。今日はその1枚目。 #TootsThielemans

Toots-meets-franken "Toots Thielemans Meets Rob Franken: Studio Sessions 1973-1983" (Nederlands Jazz Archief)

最近は新譜のチェックも十分ではないこともあって,ついつい見逃してしまうこともあるのだが,本作もそんなアルバムの一つ。国内盤でも出たらしいのだが,なぜか早くも入手困難になっており,仕方なく,値段が高い輸入盤を発注したのであった。

なんでこのアルバムに惹かれたかと言えば,Toots Thielemansが好きなこともあるが,ここではすべてのセッションでRob FrankenがRhodesを弾いているということがある。前にも書いたことがあると思うが,私は結構Rhodesの音が好きなのだ。Rhodesに乗って,Tootsがどういう演奏をするのか?それが一番の関心であり,更に3枚組,全59曲というヴォリュームとあっては,これは買わぬわけには行かないのだ。

ということで,届いたばかりの3枚組から今日はDisc 1の81~82年のセッションを聞いてみた。このDisc 1だけで全20曲,75分越えという聴き応えたっぷりの構成であるが,冒頭の”What Is This Thing Called Love?"からいきなりのロック・タッチの出だしにびっくりしてしまう。もはやフュージョンと言ってもよいが,Toots Thielemansのハーモニカは誰がどう聞いてもTootsであり,どのような演奏でもその個性は際立っている。スタンダード,ジャズ・オリジナル,シャンソン,ブラジル,映画音楽と何でもありで,Toots Thielemansという人の間口の広さというものを感じざるをえない。

それが基本的にフュージョン・タッチのバックに乗せて演奏される訳だが,Tootsの場合,Quincy Jonesにも重宝されたということもあり,何でもできてしまうのが素晴らしいことはわかっていても,このフィット感が実にたまらん。フェイド・アウトが多いのはちょっと惜しい気がするが,それでも十分にRhodesに乗ったToots Thielemansのメロウなグルーブは楽しめる。晩年のTootsとはちょっと違う感じではあるが,こういうの好きだなぁ。全部聴くのが楽しみになってきた。続きはまた改めて。

Recorded on January 30, 1981 and on November 2, 1982

Personnel: Jean 'Toots' Thielemans(hca), Rob Franken(rhodes), Peter Tiehuis(g), Theo de Jong(b), Bruno Castellucci(ds)

2022年7月 1日 (金)

Stanley Clarkeの”I Wanna Play for You”:バラエティに富んでいるとも言えるが,はっきり言って駄盤(苦笑)。 #StanleyClarke

_20220630 "I Wanna Play for You" Stanley Clarke(Columbia)

本作はアナログでリリースされた時は2枚組だったはずである。スタジオ音源とライブ音源が組み合わされたアルバムはいろいろなタイプの音楽が収められていて,バラエティに富んでいると言えば聞こえはいいが,私から言わせればまとまりのない駄盤である。

スタジオ音源にはStan GetzやらFreddie HubbardやらJeff Beckやらを迎えているが,どうにも一貫性がないし,こうしたゲストを迎えただけの効果があったと言えば大いに疑問なのは困る。例えばStan Getzは3曲目の"The Streets of Philadelphia"に登場するが,Stan Getzにとってはこんなソロならお茶の子さいさい(死語?)のものだし,その次の"Together Again"のFreddie Hubbardも存在感薄いって感じである。であるならばJeff Beck期待ってところだが,"Jamaican Boy"はJeff Beckならではのスリリングな感覚に欠けるということで,何のためのゲスト陣と言いたくなる。

更に輪を掛けて面白くないのがライブ音源である。ホーン・セクションを入れた結構な大所帯バンドであるが,聞いていて大型化した第3期RTFはStanley Clarkeの趣味だったのか?と言いたくなる。オリジナルではJeff Beckとやった"Rock 'n' Roll Jelly"はカッコいいロック・フレイヴァー溢れる曲だったが,ここでホーンが入るとその必要性はあったのかと首を傾げたくなるような演奏。曲も手慣れた人気曲なのはいいとしても,ベーシストがリーダーのワンマン・バンド感が強過ぎて,特にライブ音源が多いアルバムの後半は聞いていて飽きる。

そういうことだから,このアルバムがクロゼットの奥に隠れていたというのも納得がいってしまう。もはや私にとって保有する意義はあまりないアルバムとなったというのがはっきりした。星★★。

Personnel: Stanley Clarke(b, synth, org, vo), George Duke(el-p), Ronnie Foster(p), Michael Garson(p, el-p, synth), Bayeté Todd Cochran(p, org, synth), Phil Jost(org), Peter Robinson(synth), Lee Ritenour(g), Raymond Gomez(g), David DeLeon(b), Darryl Brown(ds), Gerry Brown(ds), James Tinsley(tp), Al Harrison(tp), Bob Malach(ts), Al Williams(ss, bs), Dee Dee Bridgewater(vo), Gwen Owens(vo), Cathy Carson(vo), Juanita Curiel(vo)

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