Ketil BjørnstadとDavid Darlingによる超美的なデュオ。たまりまへん。
"The River" Ketil Bjørnstad and David Darling(ECM)
今年の1月にDavid Darlingが亡くなった際に書いた追悼記事で,私は彼の音楽が「心の平安をもたらすのに役立つ」と書いた。David DarlingがKetil Bjørnstadとのデュオで作り上げたこのアルバムも例外ではない。実に静謐にして美しい。ささくれ立った心さえ落ち着かせるであろう音楽である。本作は全曲Ketil Bjørnstadの作曲によるものなので,主体はKetil Bjørnstadであることは間違いないのだが,David Darlingの貢献は極めて大きいとまず言っておく。
ライナーにKetil Bjørnstadが一部の曲は,後期ルネッサンスの音楽を研究,演奏しながら,Byrd,Gibbonsという英国ルネッサンス期の作曲家にインスパイアされたと書いているのが面白い。確かにそういう感じはない訳ではないとも思えるが,そういうことはあまり気にしなくても,この美しい音楽に没入すればいいと思える。あるいは没入しなくても,そこに流れているだけで環境と一体化するアンビエント・ミュージック的なところも感じることもできる。
この音楽は集中して聞くこともできれば,仕事をしていようが,読書をしていようが,勉強をしていようが,ながら聞きをしていても全く邪魔にならないという音楽である。これをジャズと呼ぶかと言うと微妙なところはあるが,ECM的な美学が表出したアルバムとして,これを聞いたのも実は久しぶりだったのだが,大いに楽しんだ私であった。星★★★★☆。
ByrdとかGibbonsという名前が出てきてしまっては,Glenn Gouldが弾いたByrd/Gibbons集を聞かずにはいられないな(笑)。
Recorded in June, 1996
Personnel: Ketil Bjørnstad(p), David Darling(cello)
« 実に懐かしいFlying Diskレーベル期のフュージョン音源を集めたナベサダのベスト盤。 | トップページ | Ketil BjørnstadとDavid Darlingに触発されてGouldの「バード/ギボンズ集」を聴く。 »
「ECM」カテゴリの記事
- Chick Coreaの小品集と言ってよい"Children’s Songs"(2023.09.19)
- 先日,久しぶりに聞いた"Tales of Another"。(2023.08.21)
- Pat Methenyの"Rejoicing":プレイバックの頻度が高まらない訳...(2023.07.15)
- Rainer BrüninghausのECMにおける2枚目のリーダー作。Fredy Studerが効いている。(2023.05.27)
- 今回も素晴らしい出来のZsófia BorosのECM第3作。(2023.05.26)
「アンビエント」カテゴリの記事
- "Love in Exile":このアンビエントな雰囲気にはまる。(2023.05.25)
- Arvo Pärtの「鏡の中の鏡」:この上なく美しい響き。夢見心地とはこれのことか。(2023.03.29)
- この静謐さがたまらない:Ketil BjørnstadとDavid Darlingのデュオ第2作(2022.12.22)
- The Orbの"Metallic Spheres":David Gilmourがテクノにどうマージするかだが,なかなか面白い。(2022.06.27)
- Ketil BjørnstadとDavid Darlingによる超美的なデュオ。たまりまへん。(2021.10.15)
「ジャズ(2021年の記事)」カテゴリの記事
- 2021年の回顧:音楽編(2021.12.30)
- Alan Broadbent:実に趣味のよいトリオだ。(2021.12.25)
- ホリデイ・シーズンに取り出したアルバム。(2021.12.24)
- Art Blakey & the Jazz Messengers初来日時の記録:悪いはずがない。(2021.12.23)
- Johnathan Blake:やはりこの人ただ者ではない。(2021.12.22)
コメント
« 実に懐かしいFlying Diskレーベル期のフュージョン音源を集めたナベサダのベスト盤。 | トップページ | Ketil BjørnstadとDavid Darlingに触発されてGouldの「バード/ギボンズ集」を聴く。 »
こんばんは。
両方ともジャズに入れるには、ちょっと違うかな、という2人の組み合わせなので、逆に面白いアルバムが出来上がったなあ、と思います。川の1-12というタイトルからすると、叙事詩的な、書き譜もある程度あるような音楽を想像しますが、サウンドから行くと、あまりそういうことを考えないで聴けるのもいいですね。
当方のアドレスは以下の通りです。
https://jazz.txt-nifty.com/kudojazz/2006/10/the-riverketil.html
投稿: 910 | 2021年10月16日 (土) 18時31分
910さん,おはようございます。リンクありがとうございます。
>両方ともジャズに入れるには、ちょっと違うかな、という2人の組み合わせなので、逆に面白いアルバムが出来上がったなあ、と思います。
はい。これはジャズと呼ぶには無理があると思いつつ,New SeriesではなくECM本流からのリリースなんで,一応ジャズにしましたが,環境音楽と言っても通用してしまいますね。でもこういう音を求める瞬間って結構あると思うんですよねぇ。なので,気まぐれできいたものの,これも堪能してしまいました。やっぱり古い音源もたまには聞かないといけませんね(笑)。まぁ,昨今は新譜を買うペースも落ちているので,当方ブログも古い音源の記事が多くなっていますが(爆)。
投稿: 中年音楽狂 | 2021年10月17日 (日) 09時06分