"Another Hand" David Sanborn(Elektra/Musician)
このアルバムがリリースされたのは私がNYCに在住中のことであった。David Sanbornの新譜ということもあって,私はすかさず購入したはずだが,これにはまじでビックリしたという印象が強く残っている。David Sanbornはフュージョンのスター・プレイヤーとしてノリのよいアルバムをリリースしていたから,このアルバムのトーンとのギャップには本当に驚いた。それは当時のFMステーションも同じで,本作がリリースされても,どの曲をプレイバックすればいいかわからないって感じで,唯一ある程度プレイバックされていたのは,R&Bテイストが感じられる"Hobbies"ぐらいではなかったか。
この作品はDavid Sanbornが別の一面を打ち出したと言ってもよいのだが,それはおそらくプロデューサーがHal Willnerであることも一因であろう。David SanbornとHal Willnerの関係はNBCの隠れた名番組,”Night Music"に起因するものと思うが,そこでSanbornがWillnerのコーディネーションにより,様々なゲスト・ミュージシャンと接することで広げた音楽的な幅を,アルバムとして残そうと思ったのではないか。だからこそ,それまでともその後とも一線を画すアルバムとなっているということだと思う。
正直言って,私としてもそれまでのDavid Sanbornとのギャップが大き過ぎて,当時は???となっていた。だって,冒頭はいきなりCharlie Hadenの名曲,"First Song"だもんねぇ。しかもBill Frisellの出番が多いってのもそれまでのDavid Sanbornのイメージからはかなりかけ離れていると言ってよいのだが,今,改めて聞いてみると,これが実に味わい深いアルバムであったことがわかる。むしろ,FMでプレイバックされていた"Hobbies"がアルバムの中では浮いていると言ってもよいのだ。
結局のところ,これはHal Willnerがあぶり出したDavid Sanbornの別の魅力と言ってもよかったと思ってしまうが,30年前は全然そういう風に感じられなかった私も若かったな(爆)。そして,2曲だけMarcus Millerがプロデュースした曲があるが,これが実に素晴らしいのだ。Hal Willnerがプロデュースした曲に比べると,コンベンショナルに響くのだが,ここでのフレージングは実に素晴らしく,私にとってはタイトル・トラック"Another Hand"と,ラストに収められた”Dukes & Counts"こそがこのアルバムのハイライトだったと思えてしまう。ある意味,この2曲がが絶妙なアルバムとしてのバランスと味わいを生み出しているところに感心させられた私である。
このアルバムは当時は売れなかったと思うが,改めて聴き直してみて,もっと再評価していいアルバムだと思えた。反省も込めて星★★★★☆としよう。まぁ,いつものSanbornを期待しなければってことはご承知の上でってことで(笑)。
因みに,このジャケでは更に売れないと考えたのか,国内盤は裏ジャケのSanbornのポートレートを表ジャケに持ってきているので念のため。
Personnel: David Sanborn(as), Bill Frisell(g), Marc Ribot(g), Al Anderson(g), Dave Tronzo(g), Terry Adams(p), Mulgrew Miller(p), Leon Pendarvis(org), Charlie Haden(b), Greg Cohen(b), Marcus Miller(b), Joey Baron(ds), Steve Jordan(ds), Jack DeJohnette(ds), Don Alias(perc), Syd Straw(vo), Lenny Pickett(ts, cl), Art Baron(tb, b-tb)
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