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2021年9月25日 (土)

私は上原ひろみのファンではないが,こういうのはなかなか面白いと思う。

_20210919 "Silver Lining Suite" 上原ひろみ(Telarc)

私は上原ひろみのファンではない(きっぱり)。むしろ彼女の音楽は評価しつつ結構辛口な感じだったと思うってのが正直なところだ。だから,私は彼女のアルバムが出れば買うということはないので,本作も久しぶりにアルバムを購入したという感じが強い。

Anthony Jackson~Simon Phillipsとのトリオはそれなりに面白いと思っていたが,いつも感じるのが彼女のピアノのやり過ぎ感。うまいのはわかったけど,そこまでやらなくてもいいじゃんっていう感覚である。そうした演奏が相応の高揚感をもたらすことは事実だが,常に満腹になってしまうと,飽きるのも早いっていうのが私の彼女に対する正直なところである。

では,この新作,なんで買う気になったのか?と皆さん思われるかもしれないが,先日「報道ステーション」にこのクインテットで出演していたのを見ていて,これって結構面白いかもなぁって思ったからってのが正直なところである。ということで,ボーナス・ディスクもついたお得感のある2枚組をゲットした私であった。

ジャズ・ミュージシャンがストリングスと共演するというのはCharlie Parkerの時代から続いてきていることだが,弦楽四重奏との共演と言えば,私の年代はChick Corea~Gary Burtonとの共演盤を思い出すってのが普通ではないか。そのほかだって,上原ひろみのようなコンテンポラリー感覚が強い人と言えば,またもChick Coreaの"Mad Hatter"の時期が想起される。それはいいか悪いか,あるいは好きか嫌いかは別にして,どうしてもチャレンジしたくなってしまうというミュージシャンの「性」みたいなところがあるのかなって思ってしまう。ましてやChick Coreaとの共演盤も残している上原ひろみだから,更にそういうところはあるのではないかと勝手に想像してしまう。

それでもって,今回のストリングスのアレンジメントを聞いていると,まぁよく頑張ったねっていう感じだろうか。破綻していないのは立派だとは思いつつ,あまり面白いと思えるものではない。ちょっとした違いを感じるとすれば,チェリストにピチカートでリズムを刻ませる展開だろうか。それ以外はよく出来ましたとは思うが,「普通だなぁ」って感じは否めない。ストリングスがユニゾンで演奏するシーンが多いからかもなぁという気もするが,まだまだ成長の余地はあるって気がする。

ピアノはいつもながらの上原ひろみで,目眩くフレージングで圧倒するってところだが,もはやこれは個性として捉えるべき領域と思う。そこに弦楽クァルテットが加わって,いつもと違う感じも付加していてなかなか面白いと思えた。

このご時世を踏まえて“Silver Lining Suite”と名づける気持ちもわかるってところもあり,星★★★★。それでもファンの方からすれば,まだ辛口って言われそうだが(笑)。

そもそもSilver Liningってのは”Every cloud has a silver lining."から来ているが,端的に言えば,「希望の光」みたいな意味である。上原ひろみはコロナ禍でライブ活動が制限される中,Blue Note東京で"Save Live Music"という趣旨でライブを行っていたが,ボーナス・ディスクはそのBlue Note東京でのピアノ・ソロの模様を収めたもの。65分超の音源なので,お買い得感はあるし,その「志」は認めなければならないと思う。こちらは"Ballads"と題されていて,そういう演奏が収められていて,いつものような手数やスピード感は抑制されていて,好みはわかれるかもしれないが,私には結構味わい深いものがあった。ということで,こちらとの合わせ技で星★★★★☆としよう。購入されるなら私はボーナス・ディスク付きの2枚組を推奨したい。

Recorded between April 28 and 30, 2021

Personnel: 上原ひろみ(p),西江辰郎(vln),ビルマン聡平(vln),中恵菜(vla),向井航(cello)

Bonus Disc Recorded Live at Blue Note東京 on September 10 & 11,2020

Personnel: 上原ひろみ(p)

2021年9月24日 (金)

Pat MethenyのSide Eyeが遂にリリース。

_20210923"Side Eye NYC V.1.IV" Pat Metheny(Modern Recordings)

Pat Methenyが新プロジェクトとしてSide Eyeを立ち上げ,その初ライブとして日本で公演を行ったのが2019年1月のことであった。私もそのライブに参戦し,このブログでも記事にしている(記事はこちら)。その時はPAの不調に辟易とさせられたが,それでも新しい取り組みは面白いと思ったし,何よりもその時はドラマーがNate Smithということもあり,そこへの注目度も高かった。  

そんなSide Eyeとしてのアルバムがようやくリリースされることとなったが,このV.1.IVの意味するところはジャケの中身を見るまでは謎であった。結局のところ,このSide EyeはPat MethenyとキーボードのJames Franciesを核として,ドラマーをいろいろ入れ替えるというのが基本的な考え方ということらしい。ジャケを見るとV.1.Iから現在はV.1.Vまで5人のドラマーが使われている。順にEric Harland,Anvar Marshall, Nate Smith, Marcus Gilmore, Joe Dysonとなっている。それで今回はV.1.IVということでMarcus Gilmoreとの共演である。

そして,ライナーを見ると,2019年9月のSony Hallにおける実況録音とある。ということで思い当たったのが,以前NHKのBSで放送された彼らのライブであったが,このアルバムを聴いた後,確認のためにビデオをプレイバックしてみた。すると,やはりこのアルバム,放送された時の音源(放送での収録はは9/13)も含まれている。そしてその番組でPat Methenyがインタビューに答えているのだが,ちょっと世代の離れたミュージシャンとの共演ということを念頭に置いているとのことであった。Marcus Gilmoreには最初断られると思っていたなんて言っていたが,それはまぁないだろう(笑)。

このアルバムはライブ音源であるが,3人のミュージシャンによる音楽としては,かなり音が分厚い部分があるが,放送を見直してみると,小型のオーケストリオンを使っていた。私はアンチ・オーケストリオンであり,あんな大人のオモチャがなくても,ちゃんとした音楽はできるはずと思っているので,う~むとなってしまうのだが,まぁそれでも曲によって,使ったり,使わなかったりということで,演奏に変化をつけたということになるのだろう。余談だが,インタビューで2025年ぐらいにはオーケストリオンV.2.0を作りたいなんて言っていたが,そんなことに金と時間を掛けるより,ちゃんとバンドで音楽をやって欲しいと思っていた私である。

曲としては旧作と新作が混ざっているが,どれも相応に聞きどころはあると思うが,Pat Methenyのデビュー・アルバム,"Bright Size Life"から2曲をやっているのが目を引く。BSのインタビューでも,古い曲だからと言ってやらないということはなく,キャリアの一環として捉えているというようなことを言っていたが,そのほかにも"80/81"にも入っていた”Turnaround”や,Michael Breckerのために書いた"Timeline"なんかもやっている。そうした中で旧作で一番面白くないのが"Better Days Ahead"かもしれない。それは多分,私がこの曲にPat Metheny Group的な音を求めてしまう部分もあるからかなぁなんて思っていた。一方,新作のコンテンポラリー感は更に強まっていて,その辺に時の流れも感じるが,アルバム全体としてはやはり魅力的に響く。

実力者が集まることで,優れた演奏が可能ということが実証されているが,James Franciesの貢献度はかなり大きいように思える。私はJames Franciesのリーダー作は未聴であるが,ストリーミングで聴いてみようと思わせるところはあったと思う。そして,Marcus Gilmoreは実に器用なもので,何でも叩けるというところを示している。Antonio Sanchezのような派手さはないが,実に堅実さとうまさを兼ね備えたドラマーだと思った。

ということで,やっぱりこれは相応に評価しないといかんと思えるアルバム。星★★★★☆。尚,私が購入したのは輸入盤であるが,国内盤には最後にこれまた"80/81"からの"The Bat"が加えられているが,これはストリーミングで聴ける。アンコール的な感じ(実際はアンコールではないと思うが...)でこれも悪くなかった。

Recorded Live at Sony Hall on September 12&13,2019

Personnel: Pat Metheny(g, guitar-b, orchestronic), James Francies(org, p, synth), Marcus Gilmore(ds)

2021年9月22日 (水)

またも観ました007。今回は「美しき獲物たち」。

A-view-to-a-kill「美しき獲物たち(”A View to a Kill”)」(’85,米/英/アイスランド,UA/MGM)

監督:John Glen

出演:Roger Moore, Christopher Walke,Tanya Roberts, Grace Jones, Patrick Macnee, David Yip

Amazon Primeで007シリーズが観られるのをいいことに,またも観てしまった。私はシリーズの中で,Roger MooreがJames Bondを演じた作品を高く評価できないので,この映画も通しでは初めて観たような気がする。

この映画はそのRoger MooreがBondを演じる最終作ということで,この時,Roger Mooreは撮影中に57歳の誕生日を迎えており,James Bondを最年長で演じたことになるそうだ。それにしては頑張っているとは思えるが,なんで私がRoger Moore版007を評価できないかと言えば,シナリオの出来が良くなかったからだと思っている。娯楽映画として仕方のない部分もあるが,この映画もつまらないエピソードを盛り込み過ぎで,荒唐無稽度が高いというのがその理由だ。

映画の前半は抑えめのストーリーで,これはなかなかいいんじゃないのと思わせるのが,後半になって「やっちまった」感が出てくる。サンフランシスコにおけるカー・チェイスのシーンって必要だったのかって思えるのもあり,2時間を越える上映時間は必要なかったと感じざるをえない。鉱山のシーンも明らかに冗長で,シナリオはもっと整理のしようがあったはずだ。

そうした中で,救いはChristopher Walkenの悪役ぶり。もうここまで来ると本人も楽しんで演じているに違いないって感じの,いかにもChristopher Walkenらしいサイコパスぶりである。まじでこういう役が似合うよねぇ。まぁそれでも星★★★が精一杯ってところだが。

それにしても,007のテーマソングをDuran Duranってのはどうもミスマッチ感があったなぁ。

さて,次は何を観るかねぇ...(笑)。パロディ版「カジノ・ロワイヤル」かな。

2021年9月21日 (火)

父の遺品のThelonious Monkのアルバムを聴く。

_20210918"The Unique" Thelonious Monk(Riverside)

主題の通り,これは父の遺品のCDだ。前にも書いたが,私の亡くなった父はモーツァルトを偏愛しつつ,昔,ヴァイオリンを弾いていたこともあって,ヴァイオリンのCDも結構残してくれた。そんな父がジャズに目覚めたのは晩年のことであるが,結構Monkは好きで聴いていたようである。そして私が保有しているMonkのアルバムと被っていないのが非常に不思議であったが,それにより私の聞く範囲は拡大したのだから,それは父に感謝しなければならない。

それはさておき,本日はこのアルバムである。やっているのがいつものようなMonkオリジナルではなく,有名曲ばかりというのがこのアルバムのポイントだが,どんなに有名な曲をやっても,出てくる音はMonkそのもの。だからこそ,アルバム・タイトルも"The Unique"ということになろうが,まさにユニーク,まさにOne and Onlyとしか言いようがない。

この後に出てくる"Brilliant Corners(ブリコー:笑)"のような驚きはないとしても,個性の発露という観点では,「ブリコー」に劣るということは全くない。むしろ,よく知られている曲で,Monkの個性をリスナーに理解させるという意味は大いにあったと言ってよいと思う。私にとってThelonious Monkの音楽の魅力を理解するのは,高校時代のジャズの聞き始めの頃は正直難しい部分もあったのだが,本作辺りを入り口にして,Monkの音楽に接すれば,私としてももう少し違った聞き方が出来ていたかもなぁなんて思ってしまった。

いずれにしても,タイトルに偽りなしである。星★★★★☆。

Recorded on March 17 and April 3, 1956

Personnel: Thelonious Monk(p), Oscar Pettiford(b), Art Blakey(ds)

2021年9月20日 (月)

007の新作公開を前に初めて観た「ネバーセイ・ネバーアゲイン」。

Never-say-never-again 「ネバーセイ・ネバーアゲイン("Never Sat Never Again")」(’83,米/英/独,Warner Brothers)

監督:Irvin Kershner

出演:Sean Connery,Klaus Maria Blandauer, Kim Basinger, Barbara Carrera, Max von Sydow, Edward Fox, Bernie Casey,Rowan Atkinson

007シリーズの新作の公開を前にAmazon Primeでは旧作が全部観られるようになっているが,そのうち,番外編とでも呼ぶべきこの作品は,私は今まで観たことがなかった。本家の007シリーズとは別枠で,Sean Conneryが最後のJames Bond映画として撮ったのがこれだが,随分と老けて,太ったJames Bondみたいな感じではあるが,ストーリーは「サンダーボール作戦」のリメイクである。

前半では最早,退役軍人みたいなJames Bondみたいな感じだが,ストーリーそのものは「サンダーボール作戦」同様に展開し,まぁこれはこれでいいんじゃない?って007好きの私は思ってしまった。少なくとも「ダイヤモンドは永遠に」よりはずっと面白いと思っていた私である。

私としてはこの映画はセクシーなKim Basingerを見るためにあるみたいな感じであったが,演技云々より,もうKim Basingerが出てくるシーンで集中力が上がるみたいになっていた。キャスティングでは悪役のBarbara Carreraの方が上なのだが,誰がどう見たってKim Basingerの方がいいのだ。

そして,この頃の本家007シリーズにもお笑いみたいな要素が入っていたが,ここでもそれを踏襲するかのように,コミック・リリーフとして,Mr. ビーンことRowan Atkinsonが出てきたのには笑ってしまった。そして,ラスト・シーンのSean Conneryのウインクで締めるってのも結構笑えるつくりだと思った。

前述の通り,これはあくまで番外編であり,小難しいことを言わず気楽に楽しめばいい映画。星★★★☆。

2021年9月19日 (日)

一部で話題沸騰(笑),Nicole Gloverのアルバム。

_20210917 "Strange Lands" Nicole Glover(Savant)

テナー・サックスに一家言をお持ちと言えば,惜しくも閉店した新橋のテナーの聖地,「Bar D2」のマスターだった河上さんだが,その河上さんが最近ことあるごとに(笑)推しを入れているのが,このNicole Gloverである。NYCのSmallsには結構出ているようではあるが,いかんせんレコーディングはまだまだ少ないので,私は河上さんのお話から想像するに留まっていた。そうは言っても,George Colliganのアルバムで吹いているのとかは聞いていて,なるほど,さもありなんと思っていたが,そこへ彼女のアルバムが登場である。

Nicole Gloverの音楽を表すとすれば,アルバムのライナーの冒頭の文章が最適である。そこには"Her name is Nicole Glover; she is thirty years old; and she burns.” 年齢はさておき,重要なのは"She burns."ってことだろう。この目くるめくようなハードでリスナーを燃えさせるブローイングこそが,彼女の魅力と言ってよい。そして,本作は4曲にGeorge Cablesをピアノに迎えつつ,そのほかの曲はピアノレスのトリオである。サックス・プレイヤーとしての自信がなければ,そのフォーマットは取らないというところだろうが,冒頭のタイトル・トラックからして,吹きまくりである。河上さんが推すのもよくわかる演奏と言ってよい。

スタンダード3曲以外は,本人もしくはバンド・メンバー(及びその関係者?)のオリジナルである。このアルバムを聞いて思うのは,Nicole Gloverはスタンダードだってちゃんと吹けるとは思うのだが,私にはこうしたスタンダードよりも,よりハードな吹きっぷりの方が似合っていると思えてしまう。George Cablesとデュオで演じた”A Flower Is Lovesome Thing"だってちゃんとやってはいるし,ラストの"I Concentrate on You",あるいは中盤の"Dindi"だって破綻はない。ではあるのだが,これらの曲にはまだ彼女に成長,あるいは成熟の余地があると思わせるもので,やはり私にはよりハード・ブローイングな曲の方に魅力を感じてしまう。若気の至りだってよいのだ。

このアルバムを聞いていて,Lee Morganって最初から出来上がっていたのねぇと思ってしまったが,Nicole GloverをLee Morganと比べてはさすがに可哀想か...。

そうは言っても,Nicole Gloverがライブの場でブイブイ吹く姿を見れば,間違いなく悶絶させられるだろうと思うが,こうしたスタジオ・アルバムではまだまだ発展途上って感じが残るのは事実である。やはりこの人,まずはSmalls辺りでライブを観るところから始めていれば,更にはまっていたかなと思う。それでも彼女が注目に値するRising Starであることは間違いないと思えるアルバム。星★★★★。

尚,本作のプロデュースをしているのがJeremy Peltってことも,リリースしているレーベルがJerry Bergonziと同じSavantであるってことも,「その筋」のリスナーのシンパシーは間違いなく誘うな(笑)。

Recorded on December 15, 2020

Personnel: Nicole Glover(ts), George Cables(p), Daniel Duke(b), Nic Cacioppo(ds)

2021年9月18日 (土)

Amazon Primeで「タクシードライバー」を45年ぶり(!)ぐらいで観た。

Taxi-driver「タクシードライバー("Taxi Driver")」(’76,米,Columbia)

監督:Martin Scorsese

出演:Robert De Niro, Cybill Shepherd, Jodie Foster, Harvey Keitel,Albert Brooks,Peter Boyle

私がこの映画を観たのは確か大毎地下で二本立ての一本だったと思う。それは公開された年だから,おそらく1976年で,私が中学生の頃である。それ以来,幾星霜を経て,Amazon Primeでこの映画を再見することとなった。さすがに45年も経つと,ストーリーラインの細かいところまでは覚えていない部分もあったが,その端々は印象に残っていたのは結構凄いことだと思える。そうは言いつつ,Robert De Niroの狂った感覚の印象が強過ぎて,エンディングってこんな感じだったのかってのは全然記憶になかったが...(笑)。

まぁ結構暴力的な表現もあるこの映画が,カンヌでパルム・ドールを獲ったというのも結構凄いことだし,Jodie Fosterの役柄なんかは現代であれば,自主規制が入ってあり得ないって感じになるのではないか。そういう意味では,どんどん映画製作も難しくなってしまうよなぁと思ってしまうが,本作はインパクトの強い映画だったと言わざるをえない。キネ旬の1位ってのもやはりそのインパクトゆえであったと思わざるをえない。

そしてこの映画を印象付けたのは映像のインパクトに加えて,Bernard Herrmannが書いたテーマのメロディだと思える。この哀愁を帯びたメロディが,この暴力的な映画と実にマッチしてしまうというところに,私は逆説的な魅力を感じる。そして,Robert De Niroだけでなく,いろいろな役者が適材適所で配置されていて,これはまさにキャスティングの妙と言わざるをえない。45年を経て観ても,これは実に面白い映画であったということで,星★★★★★。まさに温故知新であった。

2021年9月17日 (金)

私の好物と言ってよい定冠詞付きの現代音楽,ブーレーズのピアノ曲全集。

Boulez "Pierre Boulez: Constellation-Miroir" Michael Wendeberg / Nicolas Hodges(Bastille Musique)

私が現代音楽のピアノ曲が結構好きなことは,おそらくこのブログの読者の皆さんにはバレていると思うが,そうした私の趣味嗜好に合致するアルバムの登場である。

私にとってはPierre Boulezは指揮者としての位置づけの方が強く,彼の作曲した音楽にはほぼ接することなく過ごしてきたと言ってもよい。だが,彼の指揮する音楽にはなるほど,そういうこともあるよなと感じさせるような理知的な解釈が感じられて実に面白いと思うことも多かった。最も印象深かったのはロンドン響とやったベルリオーズの「幻想」だったかもしれない。「断頭台への行進」のテンポの設定って,まさに解釈としてはこれが正しいのではないかと思っていた。

それはさておきである。このアルバムはそのBoulezのピアノ曲をすべて録音したアルバムということらしい。そこには主題の通り,"The 現代音楽"と言ってよい響きがディスク2枚に渡って収められている。私が現代音楽のピアノ曲を聴く場合,何が好みかと言えば,そこに示される「間」なのだが,ある意味フリー・ジャズの時として苛烈な音列と対極にあるような,この「間」こそが私にとって快感なのだ。そして,このアルバムもそれがたまらないのだ。

世界発録音を含む二手と四手のピアノ曲の集成として,それはそれとして価値があると思えるが,私としてはそれよりもこの響きに身を委ねていることが重要ということで,実に邪な聞き方と言われても仕方ない。それでもこの清冽な響きこそが,私が現代音楽のピアノに求めるものである。リリースされたことの重要性も含めて星★★★★★としよう。

それにしても,本作をリリースしたBastille Musiqueというレーベル,パッケージングには相当のこだわりを持っているようだが,ボックスの体裁は昔のブートレッグのようでもある。しかし,箱を開けると結構凝った作りって感じなのはユニークだと思った。これもレーベルとしてのこだわりなのかもしれないが,ここまでやらなくてもって思うのも事実。まぁ,でも音楽がよければそれでいいのだが,私としてはECMライクな方がいいなぁ(笑)。

Recorded between 2018 & 2020

Personnel: Michael Wendeberg(p), Nicholas Hodges(p)

2021年9月16日 (木)

ようやく記事をアップ:Deacon Blueのライブ・アルバム。

Deacon-blue ”Live at the Glasgaw Barrowllands" Deacon Blue (e.a.r. music)

彼らの最新作である"City of Love"の記事をアップした時に,このライブ盤の記事をアップしていないのはなんでやねん?みたいなことを書いたが,本当に書きそびれてしまったというのが正直なところなのだ。よくよく調べるとその後,"Riding on the Tide of Love"というEPをリリースしているので,"City of Love"は最新作という訳ではないが,それは未聴である。"City of Love"については若干辛口の評価だった私だが,それに先立つライブ盤を,リリースから4年以上経ってアップするのもなんだかなぁというところなのだが,やっぱりこれが素晴らしいので,アップせざるをえない。

私がDeacon Blueというバンドに惹かれるのは,Ricky Rossの書く曲のポップさゆえであるが,バンド歴を重ねてもこのバンドの持つ瑞々しい感覚が不変なのが素晴らしいと思える。Ricky Rossは私よりも年長であるが,全然そういう年齢を感じさせないポップな感覚を失わないところは,還暦を過ぎた私も見習わなければならないとつくづく思ってしまう。

冒頭を"Come Awake"のようなゆったりした曲で飾るというところは意表を突いているが,その後の王道ポップへの流れを作り出すためのプレリュードと言ってもよく,まさに彼らのベスト盤的選曲も素晴らしい。そして最後をBob Dylanの"Forever Young"で締めるところもおっさんの心をくすぐるのだ。全27曲という結構なボリュームであるが,全然飽きるところはないし,どこから聞いてもこのアルバムは楽しい。やはり私はこのバンドが好きなんだなぁというのを再認識させるに十分なアルバム。紹介が遅れてしまったことも反省して,星★★★★★としよう。

Recorded Live at Brrowlands Ballroom on December 4, 2016

Personnel: Ricky Ross(vo, p, key), Lorraine McIntosh(vo, perc), James Prime(key, vo), Dougie Vipond(ds, perc), Gregor Philp(g, key, vo), Lewis Gordon(b, g, vo)

2021年9月15日 (水)

感涙。これまた凄い音楽映画:「サマー・オブ・ソウル」

Summer-of-soul 「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)<Summer of Soul (...Or, When The Revolution Could Not Be Televised) >」(’21,米,Searchlight)

監督:Ahmir "Questlove" Thompson

出演:Sly Stone, Mahalia Jackson, The Staple Singers, Nina Simone, Gradys Knight, Stevie Wonder,The 5th Dimension

先日,「プロミシング・ヤング・ウーマン」と梯子して観たのがこの映画であった。これが凄い。

今年はライブに行っていないせいもあって,音楽映画を結構観ていて,「アメイジング・グレイス」,「アメリカン・ユートピア」もよかった。どれも当たりという中で,この映画も実に素晴らしいものってのは,音楽への渇望感を埋めるという意味で実に貴重な作品であった。

1969年,ほぼウッドストックと同じようなタイミングで開催されていたHarlem Cultural Festivalは,ソウルに留まらず,ブルーズ,ゴスペル,ジャズもカバーしていたという素晴らしいイベントであった訳だが,その記録映像が残っていたということだけでも素晴らしい。そしてここに収められた演奏の数々を見て,興奮しなければ嘘だろうと言いたくなってしまうようなものばかりだ。

冒頭からしてStevie Wonderの素晴らしいドラミングに度肝を抜かれるが,そこから出てくるキラ星のごときミュージシャンを見て,私はひたすら感動していた。その中でも特に,Mahalia JacksonがMavis Staplesと歌う"Take My Hand, Precious Lord"のシーンでは感動のあまり落涙した。これを見て感動しない人とは私は友人になれないと思うほどの素晴らしさであるが,それだけではない。

興奮度という意味ではSly Stoneに勝るものはないし,メッセージ性という意味での感動という点ではNina Simoneも素晴らしい。それだけに留まらず,ここに登場するどのミュージシャンもとにかく凄いのだ。ジャズ界からはMax RoachやAbbey Lincolnまで出てくるしねぇ。

この映画が公開されたことを,BLM運動と結びつけて考えることもできようが,難しいことを考えなくても,黒人たちの作り出す音楽の素晴らしさを堪能すればよいと思って私はこの映画を観ていた。とにかくこの作品を世に出したQuestloveに感謝したくなった私である。この映像には星★★★★★しかない。この映画も全音楽ファン必見だと言っておこう。最高だ。

2021年9月14日 (火)

待望!Marcin Wasilewski Trioの新作。やっぱり痺れるわ。

_20210913 "En Attendant" Marcin Wasilewski Trio(ECM)

今年の音楽シーズンの幕開けを飾ると言ってもよい待望の新作の登場である。このブログにも何度か書いているが,今,私が最も信頼するピアニストはBrad Mehldau,Fred Hersch,そしてこのMarcin Wasilewskiである。そのMarcin Wasilewskiのトリオによる新譜とあってはデリバリー,即記事アップである。

前作"Arctic Riff"はJoe Lovanoを迎えたある種の企画盤であったが,あれはあれでいいとして,私としては彼らの魅力はやはりピアノ・トリオでこそ発揮されると思っていた。特に私が引っ掛かったのは前作におけるコレクティブ・インプロヴィゼーションの部分であった。では本作ではどうなっていたか?

結論から言えば,私としては前作よりはるかに評価したい。トリオの3人による即興のようなアブストラクトな展開ももあるにはあるのだが,それを上回る美感がこのアルバムを支配している。録音時期は"Arctic Riff"同様,2019年8月なので,どっちが先だったのか?ってのは実に興味深いところではあるし,前作でも演奏していた"Glimmer of Hope"と"Vashkar"をここでも演奏しているのが,この2枚のアルバムの関係性を示しているような気もする。私にとってはこっちが本番,"Arctic Riff"が番外編のように思えてしまうが,彼らにとっては逆だったかもしれない。

いずれにしても,いつもながらの美学を感じさせる演奏なのだが,Doorsの"Riders on the Storm"のような意外な選曲もありながら,Doorsのメロディが実は非常に優れていたものであることをあぶり出しているような演奏だし,もっと驚いたのは「ゴルトベルク変奏曲」の第25変奏をアダプテーションしたことである。しかし,彼らの手にかかれば,バッハもこうなるかぁみたいな感じで,これがまたまたびっくりである。しかし,そこには彼らの音楽的資質と相俟った深遠なる世界が現れるというところで,実に味わい深い演奏である。

今回このアルバムを聞いても,彼らはやはり現代最高峰のピアノ・トリオの一つだという思いを強くしてしまったが,私にとってはもはやこれは惚れた弱みなのかもしれない。どうしても星★★★★★としてしまうのがその証(笑)。

Recorded in August 2019

Personnel: Marcin Wasilewski(p), Slawomir Kurkiewicz(b), Michal Miskiewicz(ds)

2021年9月13日 (月)

実に素晴らしいLacy~RuddによるMonk集。

_20210909 "School Days" Steve Lacy - Roswell Rudd Quartet(Hatlogy)

実に久々に聞くアルバムだ。でもこのアルバムはちゃんと「一軍」のラックに収まっている。聞く頻度は高くないとしても私としてはちゃんと評価しているアルバムである。

このアルバムが出たのは2002年のことだが,実際には1963年頃にライブ録音された音源である。なんでそんな時期になってと思う節もあろうが,これは出さねばならんとHatologyレーベルが思ったとしても頷けるものだとしか言いようがない。

一般的に言えば,Steve LacyとRoswell Ruddと聞けば,敷居が高そうにも感じる部分はあるかもしれないが,これは彼らがThelonius Monkの曲に取り組んだ,極めて真っ当なジャズ・アルバムであって,何も怖がることはない。まぁ彼ららしくというか,Monk曲集をピアノレスでやるってところが一筋縄ではいかないところではあるのだが,彼らとしてはピアノを入れないことによって自由度を高めたかったのだろうと想像される。

ことあるごとにSteve LacyはMonkの音楽に取り組んできたが,なかなか手が出なかった私が遅まきながらSteve Lacyの本質を理解したのがこのアルバムだったと言っても過言ではない。Roswell Ruddとのコンビは後年Verveにアルバムを残しているので,そっちも久しぶりに聞いてみようと思わせる効果もあった。見事なものである。星★★★★★。

Recorded Live at Phase Two Coffee House circa March 1963

Personnel: Steve Lacy(ss), Roswell Rudd(tb), Henry Grimes(b), Dennis Charles(ds)

2021年9月12日 (日)

今頃になって「プロミシング・ヤング・ウーマン」を観たが,実に面白かった。

Promising-young-woman 「プロミシング・ヤング・ウーマン」(’20,英/米,Universal)

監督:Emerald Fennell

出演:Carey Mulligan, Bo Burnham, Alison Brie, Connie Britton, Chris Lowell

今年のオスカーで脚本賞を獲ったのがこの映画なのだが,シナリオが優れている映画は面白いというのが私の実体験ベースにある。なので,この映画もきっと面白いだろうと思っていたのだが,全然観に行く機会がなく,今頃になってようやく観たのだが,やっぱり面白かった。

詳しく書くとネタバレになってしまうので控えるが,エンディングに向けて,「おぉっ,そう来るか~」って展開が待っている。ストーリーにチャプター付けをする部分などはQuentin Tarantino的であるが,ネタバレ絶対ダメみたいな展開そのものも結構影響ありかなぁなんて思ってしまう。その一方で,エグい表現はほとんど出てこないところがこの映画のもう一つの美点ではないか。粗暴なシーンはゼロではないが,えげつなさは全然ないところに,おそらくは演出上のこだわりもあったはずである。

これは実に面白く,正直言ってしまうと,今年のオスカーで作品賞を獲った「ノマドランド」より好きだなぁ。ってことで,遅ればせながら星★★★★★としよう。もっと早く観ておけばよかった,と反省。

2021年9月11日 (土)

ガリレオ・シリーズの新作なんだけどねぇ...。これはいかんだろう。

Photo_20210906180601「透明な螺旋」東野圭吾(文藝春秋)

「沈黙のパレード」以来のガリレオ・シリーズの新作である。前作をこのブログで取り上げた際に,『東野圭吾のストーリーにはそこはかとなく「人情」が通奏低音のように流れている』と書いたが,この作品でもそれは同様だと思うのだが,ガリレオ・シリーズにしては,その「人情」が勝り過ぎたというのが実感である。そもそも,いくら頭脳明晰な主人公,ガリレオこと湯川学とは言え,その情報からだけで真相を明らかにできる訳ないだろうと思わせてしまうのがそもそもの難点である。ガリレオにはもう少しちゃんとした「ロジック」が必要なはずだが,どうにもそれが曖昧模糊としていて居心地が悪いのだ。

読み進めさせる技術については,今回も私はどんどんページをめくらされたので,そこは大したものだと思うのだが,これをガリレオ・シリーズと言ってよいのかというと,何だかなぁって気がしてしまうのだ。登場人物の関係性についてもどうなのよって思わせるし,これはガリレオ・シリーズとしては読者の期待を裏切る部分が大きかったと言わざるをえないだろう。そういうことを気にしなければ面白く読めるとも言えるのだが,やはりこれは微妙な出来であった。星★★★。本作に対して『今、明かされる「ガリレオの真実」 』というコピーは確信犯的な悪意に満ちているとしか言いようがなく,文藝春秋にはそういう点は反省してもらいたいし,東野圭吾には,次はちゃんと「ガリレオ」らしい作品を書いて欲しいものである。

2021年9月10日 (金)

Gil Evansが英国人バンドと共演したモントルーでのライブ。

_20210908 "Take Me to the Sun" Gil Evans with RMS (Last Chance Music)

Gil Evansが英国人と共演したと言えば"British Orchestra"がある訳だが,そのアルバムは通常のGil Evans Orchestraとは異なるグルーブを生み出していて,結構好きなアルバムであることは前にも書いた(記事はこちら)。そのアルバムが録音されたのは1983年だったが,同じ年のモントルーにGil Evansが今度はRay Russell, Mo Foster,Simon Phillipsから成るRMS+αで出演した時の実況盤がこれである。

本作には+αとして,RMSのロンドンでのライブ盤と同じホーン・セクション4名が加わっているから,どちらかと言えばRMSのライブにGil Evansが客演して,Gil Evansのレパートリーをやったって感じである。それでもって,このGil Evansにしては小編成による演奏ゆえに,いつものGil Evans的な感覚とは違うのは仕方がないところだろう。それでもアレンジメントはいつものGil Evansの通りなのだが。

まさしく,これはGil Evansの楽歴においても番外編的なアルバムだと思えるものと言ってよい。このアルバムに入っているサインはSimon Phillipsのものだが,ライブ後のサイン会でこのアルバムを差し出した時に,本人が相当驚いていたのも懐かしい。逆に言えば,そこそこレアなアルバムなのだが,出来はと言えば,そっちもそこそこって感じである。Gil Evansにとってはいつものレパートリーだけに全然驚きはないし,演奏も悪くはないとしても,平均的な出来だろう。

収録されている4曲のうち,3曲はモントルーのライブだが,最後の"Goodbye Pork Pie Hat"だけは1988年のNYC録音で,リリースされたのは1990年。出来としては,私は"British Orchestra"の方がはるかに上だったと思える。それでも,Simon Phillipsにもサインももらっちゃったので売る気は全くない(きっぱり)。そこそこレアと言っても,入手が困難というほどのものではないので,ご関心のある方はどうぞってところだが,私としては星★★★ぐらいでいいかなって感じである。

Recorded Live at Montreux Jazz Festival in 1983 and in NYC in 1988

Personnel: Gil Evans(el-p), Ray Russell(g), Mo Foster(b), Simon Phillips(ds), Mark Isham(tp, synth), Henry Lowther(tp), Ronnie Asprey(as), Malcolm Griffiths(tb)

2021年9月 9日 (木)

5,000件目のエントリーは何にしようかということで,Fred Hersch。

_20210905-2 "In Amsterdam: Live at the Bimhuis" Fred Hersch(Palmetto)

ブログも長年やっていれば,記事の数が積み重なるもので,2007年に始めたこのブログのエントリーもこの記事が5,000件目となった。こういう機会には,自分の思い入れのあるミュージシャンを取り上げたくなるのが人情というもので,2,000本目はJoni Mitchell,3,000本目はNeil Young,そして4,000本目はMiles Davisだったはずだ。1,000本目は何だったか記憶にない(苦笑)が,不思議とBrad Mehldauではなかったのだなぁと改めて気づく。まぁ,Brad Mehldauに関してはアップしている記事も相当数なので,まぁそれはそれでってことだが,では5,000本目はどうしようということで選んだのがこのアルバムである。

私がFred Herschの追っかけとなったきっかけはカザルス・ホールでのソロ・ライブであった。それが2007年9月のことであったが,それまでもFred Herschのアルバムは何枚かは保有していた。しかし,本当にFred Herschの魅力を私が理解したのは,まさにカザルスにおいてであったと言っても過言ではない。それ以来,Fred Herschのアルバムを後追いで購入してきたが,カザルスでの演奏から間を置かずに購入したものの1枚だったはずである。ライブで聞いた"A Lark"をもう一度体験したくてというのがその動機だったはずだ。そしてこのアルバムに限らず,Fred Herschの音楽を追体験すればするほど,私は彼の音楽にはまっていったのであった。来日するたびにライブの場に足を運び,そしてこのアルバムも含めて,相当数のアルバムには彼のサインが入っている。もはやミーハーの世界である(爆)。

だが,本作に限らず,Fred Herschのソロ・ピアノは常にレベルが高いだけでなく,リスナーを魅惑する美的な感覚に満ちている。そして,選曲もいつもながらオリジナルとスタンダードをうまくブレンドさせて,実にバランスもよい。冒頭の"A Lark"から最後の"Valentine"まで,Fred Herschのファンならずともぞくぞくするような美しさである。

今や,Fred Herschはほかのごく一部のミュージシャン同様,「別格」の扱いを私のCDラックで受けている(それでもVenus盤はそこからは除外されていることは付け加えておく)が,本当にそれぐらい惚れ込んでしまった私である。そしてそれはこれからも変わることはないだろう。一時は病気で再起不能とも言われたFred Herschだが,今や元気に活動を続けていて,これからも私たちに心の潤いを与える音楽を提供して欲しいと思う。星★★★★★。

Recorded Live at Bimhuis on May 31st,2003

Personnel: Fred Hersch(p)

2021年9月 8日 (水)

久しぶりに読んだ本は西川美和。

Photo_20210904162501 「スクリーンが待っている」西川美和(小学館)

前にも書いたことがあるが,今の住まいに引っ越してから,それまでと比べて通勤時間が圧倒的に短くなって以降,私の読書量は激減してしまった。それまでは結構長い通勤時間だったので,その時間を使って相応に読書していたのだが,今やほとんど本を読まなくなってしまったと言っても過言ではない。しかし,たまには本でも読むかということで,週末に読んだのがこの本であった。映画も見ながら,本も読むというのはなかなか久しぶりの経験であった。

私は映画監督としての西川美和を高く評価しているが,文筆家としても侮れないこともこのブログには書いてきたし,彼女の小説やエッセイも結構読んでいる方だ。本作は彼女の映画の最新作「すばらしき世界」の製作途上で記述されたエッセイを中心に,最後にはなかなか面白い短編小説が添えられている。

西川美和は「すばらしき世界」を除いてはオリジナル脚本にこだわってきただけに,イマジネーション豊かな文章を書くと思うが,エッセイも実に魅力的であった。映画製作の裏話として読むこともできれば,純粋にエッセイとして読むこともできるという感じで,楽しく読んだ私であった。やはりこの人有能である。星★★★★。

2021年9月 7日 (火)

これはユニークだ。Kristjan RandaluとDave Liebmanによる「展覧会の絵」のジャズ・アダプテーション。

Randalu_liebman "Mussorgsky Pictures Revisited" Kristjan Randalu with Dave Liebman(BMC)

ムソルグスキーの「展覧会の絵」はロックの世界ではEL&Pがやっているのが定番となっているが,ジャズ界では私は聞いたことがなかった。よくよく調べてみれば,イスラエルのYaron Gottfriedという人が,"Pictures at an Exhibition for Jazz Trio and Orchestra"というアルバムも残しているようだが,全くのレーダー圏外。しかし,今回,別のストリーミング音源を探していてぶち当たってしまったのがこのアルバムであった。何せDave LiebmanとECMにもリーダー作のあるエストニア出身のKristjan Randaluのデュオ作である。

「展覧会の絵」はもともとピアノ曲であるが,それをラヴェルがオーケストレーションして,ぐわぁ~っ(笑)という感覚をリスナーに与えるのが常だし,EL&Pヴァージョンもその辺は同じである。それをピアノとソプラノ・サックスでやるとどうなるのかってところだが,これは主題の通り,ユニークな試みと言ってよい。原曲のメロディ・ラインはかなりの頻度で出てくるが,そこにDave Liebmanが自由なラインと原曲メロディを組み合わせながらソプラノを重ねるって感じである。

私としてはへぇ~って感覚で聞いていたのだが,これを面白いと思うかは微妙だ。私にとっては,この曲に求めるのは興奮か高揚感なので,ピアノとソプラノのデュオではやはり興奮度が足りない。もちろん,Liebmanのソプラノには切れ味も感じるし,ストリーミングで聞いても,Randaluのピアノは美しく捉えられている。しかし,敢えてこれを好んで聞くかというと必ずしもそうならないだろうというのが正直なところである。ユニークな試みであることは間違いないが,ユニークなものが必ずしも面白い,あるいは成功するとは限らない。少なくとも私にとってはそういう感じだ。ということで,星★★★ってところが精一杯だな。

Recorded on 19-20 April, 2019

Personnel: Kristjan Randalu(p), Dave Liebman(ss)

2021年9月 6日 (月)

週末に観た「ドライブ・マイ・カー」。実によく出来ている。

Photo_20210902175201 「ドライブ・マイ・カー」(’21)

監督:濱口竜介

出演:西島秀俊,三浦透子,霧島れいか,岡田将生

カンヌで脚本賞を獲ったことも話題になった村上春樹原作の映画化である。正直言って,観る前は179分という尺にはビビっていた私であるが,終わってみれば,そんな尺を感じさせない映画に仕上がっていた。短編集「女のいない男たち」からのストーリーをうまく組み合わせて脚本化したこの映画は,確かにシナリオはよい。チェーホフの「ワーニャ伯父さん」,更には「ゴドーを待ちながら」の舞台シーン,しかも多言語演劇というシチュエーションを交えて描くところなど,実に見事なものである。

そして,派手なギミックなどなしに,ある意味淡々としたトーンではあるのだが,なぜか強い印象残すところに監督,濱口竜介の術中にはまってしまった感じがする。私は積極的に日本映画を劇場に観に行く人間ではないが,これは観てよかったと思える一作。役者陣は皆好演であるが,岡田将生はこういうクセのある役をやっても様になるのは「悪人」でもわかっていたのだが,本作での長台詞をこなすシーンは実に印象的。

いずれにしても,これは本当によく出来た映画であったと思う。パルム・ドールは逃したとしても一見の価値があることに変わりはない。コロナ禍の中でよく撮り切ったと思う。星★★★★☆。

2021年9月 5日 (日)

Amazon Primeで「コンタクト」を見た。Jodie Fosterらしい映画と言えるかもなぁ。

Contact「コンタクト("Contact")」('97,米,Warner Brothers)

監督:Robert Zemeckis

出演:Jodie Foster,Matthew McConaughey,Tom Skerritt,John Hurt,David Morse,Angela Bassett

亡きCarl Saganの小説を映画化したこの映画を初めてAmazon Primeで見た。この映画は,宇宙に関する哲学的,あるいは神学との関連さえ感じさせるユニークなSF映画で,突っ込みどころもありながら,なかなか面白い映画であった。

映画の筋書きと関係ないところで言えば,実在のメディア関係者が実名でガンガン出てくるのには笑ってしまうぐらいだったが,ここに描かれたストーリーには当然,メディア・カバレッジが必要な訳で,そうしたメディア関係者の協力を得てしまうのは誰の人脈だったのかも興味深い。また,当時の大統領のBill Clintonの映像さえ使ってしまうのかと思いきや,これはやはりというか当然のこととして,そっくりさんだったみたいだが,結構似ているのにはこれまたびっくり。また,Angela Bassettの大統領報道官への成りきりぶりも実に見事なのだ。

本題からずれてしまったが,この映画はど派手なSF映画とは一線を画す,極めて真面目に作られた真っ当な映画であった。上述の通り,ある意味哲学的な部分もあるものの,ファンタジー的なところもあり,かつラスト・シーンはなんでそうなるのか?というところもあるにはある。また,実証主義と神学の対立というのも実に難しいテーマも取り入れており,単純な娯楽映画にはとどまらないところがあるのは面白かった。星★★★★。

2021年9月 4日 (土)

またもJohn McLaughlinのブートレッグである。

_20210903"Antibes Jazz Festival 1996" John McLaughlin(Bootleg)

先日もJohn McLaughlinのブートを記事にしたばかりだが,今度はこれである。このブートレッグ,その筋では結構知られているものと思うが,私はある方からコピーして頂いたという,誠にブートとして真っ当な経緯(爆)で入手したものである。

ジャケにもある通り,このブートはElvin JonesとJoey DeFrancescoとのトリオという,"After the Rain"と同じメンツでのライブを収めたものだが,これが音よし,演奏よしのナイスなブートである。4th Dimesionのアルバムやブートは正直言って,どれを聞いても同じように聞こえてしまうが,これはジャズ的フォーマットということで,全く違うタイプの演奏である。しかし,John McLaughlinの手癖,フレージングはいつもながらって感じだが,それでもこれは実にスリリングなブートと言ってよい。

ライブだけに1曲あたりの演奏時間が長く,この3者のインタープレイと各々のソロが大いに楽しめてしまうのだ。John McLaughlinとElvin Jonesの組合せというのはなかなか想像がつかない世界であったが,このブートや"After the Rain"を聴けば,やはり優れたドラマーはどのようにも対応できてしまうというのがよくわかる。正規盤"After the Rain"も久しく聞いていないが,また聞いてみようと思わせるに十分な熱いライブ演奏。

Recorded Live at Antibes Jazz Festival on July 25,1996

Personnel: John McLaughlin(g), Elvin Jones(ds), Joey DeFrancesco(org)

2021年9月 3日 (金)

W杯アジア最終予選の初戦は完敗であった。

アジア最終予選では何かが起こる。そして今回も日本代表は初戦でオマーンに敗れた。私も試合を見ていたのだが,スコアは0-1の僅差ではありながら,実に情けない試合だったと言わざるをえない。私から言わせれば完敗だ。

そもそもかなりの降雨量で,ピッチ・コンディションは悪く,ボールも転がりが悪い中では,通常の日本のパスをつなぐ,あるいは強烈なスルー・パスを通すということが難しくなるにもかかわらず,今回の日本代表はよく言えば自分たちのサッカー・スタイルを貫いたとも言えるが,むしろ臨機応変に戦うことができていなかったと言わざるをえない。今回のようなコンディションではサイドからぽんぽん中に入れるという選択肢もあったはずだが,つまらないパス回しが多過ぎた。

あのピッチの状態で,私には特に右サイドでちょこまかと短いパスを回し過ぎのように思えたし,不用意な横パスをインターセプトされるシーンが何回もあったのは,オマーンがアウェイということで,もっとディフェンシブに来るという思い込みがあったのではないか?今回のオマーンは想定以上にオフェンシブなサッカーをしていたし,スピードもかなりあったため,日本代表は面食らってしまったと言ってもいいかもしれない。しかし,日本代表が決定的なシーンを作り出せなかったのは間違いない事実だし,そもそも枠を捉えたシュートが何本あったのか?と言いたい。枠を捉えずとも,ゴールを狙うという積極性が感じられなかったのは誠に残念としかいいようがない。シュートを打たなかったら点は入らないのだ。

今回の試合で攻撃面で一番目立っていたのが長友ではないかと思えたが,あれだけタレントを揃えながら,原口も柴崎もあまり機能していたとは言えない。原口は前半で交代させられて当然だと思ったが,柴崎も大した働きをしていないのだから,交代枠をもっと使うというオプションもあったはずだ。大迫は試合を通じてシャットアウトされ,いいところほとんどなしだったし,途中出場の古橋にしても堂安にしても,見せ場らしい見せ場を作れずに終わったということは,オマーンにうまく戦われたということの裏返しだろう。古橋にしても,堂安にしても自分でもっと行けよと,試合を見ながらイライラしていた私である。南野の欠場が痛かったとも言えるが,南野がいなくてもちゃんと戦える戦力はあるはずだったのだが...。

まだ最終予選は10試合のうちの1試合が終わっただけであり,これからいくらでも修正はできると思うが,今回のようなしょうもないサッカーをしているようでは,最終予選を勝ち上がることは難しくなりかねない。キャプテン吉田は「負けるべくして負けた。テンポもコンビネーションも全然良くなかった」と言っているようだが,全くその通りだ。今回の敗戦をよく反省して,次戦の中国戦はゴール・ラッシュで完勝と行ってもらいたい。しかし,その後のアウェイでのサウジ戦,ホームでのオーストラリア戦をどう乗り切るかが重要になってくる。

それにしてもフラストレーションがたまる...。

2021年9月 2日 (木)

超懐かしい!Kate Bushのベスト盤。

_20210831 "The Whole Story" Kate Bush(EMI)

私の日頃の音楽的な嗜好とかなりかけ離れていると思われても仕方がないKate Bushである。まぁ自分でもそう思うんだから仕方がない(笑)。そんなKate Bushのアルバムで唯一保有しているのが,この86年にリリースされた彼女のベスト・アルバムである。

そもそも私はロックに関してはブリティッシュよりもアメリカン指向の強い人間なので,Kate Bushの音楽の持つウェットな感覚をあまり得意としていない。それでも一時代を作った人であることは事実なので,ベスト盤ぐらいは聞いておかないと,って感じでこのアルバムも購入したはずである。はっきり言ってしまえば,Kate Bushの声も私の好みとは言えないので,彼女の音楽には特段の思い入れは全くない(きっぱり)。しかし,久々にこのアルバムを取り出して聞いてみると,いい曲書いてたのねぇなんて思ってしまう。

特に懐かしかったのが最後に収められた"Babooshka"だ。この曲のサビの部分の"All Yours,  Babooshka, Babooshka, Babooshka Ya Ya"の部分はまさに宴会ビートにぴったりで,大学時代酔っぱらって宴会手拍子付きでこのフレーズをがなっていた私である。ついでに言うと"Wow"における”Wow Wow Wow Wow Wow Wow Unbelievable!"ってのもよくがなっていた(爆)。結局好きなんじゃねぇ~の?と言われても仕方がないが,あくまでも酒席での話であった(きっぱり)。それでも印象的なフレーズを作り出していたのは事実だし,時代のアイコンの一人だったと言ってもよいだろう。

今聞いても,私のツボにはまる音楽ではないとは思うが,懐かしさが勝るということにしておこう。星★★★★。宴会ビートをご理解頂くために"Babooshka"の映像を貼り付けておこう。

2021年9月 1日 (水)

Lee MorganのLighthouseボックス:これを聞いて燃えなければモグリだ(笑)。

Lee-morgan-complete-lighthouse"The Complete Live at the Lighthouse" Lee Morgan (Blue Note)

私は長年このアルバムをCD3枚組で聞いてきたのだが,スリリングな演奏の連続に大いに興奮させられてきた。3枚組は曲のダブりもなく,優れた編集盤だったと思うが,更にそれを8枚組に拡大したものが出るとなっては,更なる興奮を求めて買わざるをえない。

この8枚組は1970年7月10日から12日の演奏をフルに収録したもので,彼らのライブがどのように演奏されていたのかを生々しく伝えるものであるが,1セット当たりの演奏は結構短かったということがわかる。まぁ,一晩に4セットもやっているのだから,セット当たりの時間が短くなるのは当然だろうが,それでも3日間,これだけの演奏を残すところにミュージシャンとしての質の高さを感じざるをえない。

Lee Morganがいいのは当たり前なのだが,想定以上にいいのがBennie Maupin。ついついHerbie HancockとのHeadhuntersの演奏を想起してしまうが,ここでのBennie Maupinははるかにハードな感じで,これが実にいい。そして,メンバーのオリジナルも取り入れて,バンドとしてのバランスを保つところにLee Morganがリーダーとしても優れていたということを感じる。この辺りはArt Blakeyの薫陶を受けたことが大きいように思える。

この8枚組は曲のダブりもあるし,普通のリスナーには3枚組のCDで十分って気もするが,8枚聞いても飽きることはなかった。その中で実は一番印象が薄いと言ってもいいのが"The Sidewinder"かもしれない。ヒット曲をやるのはわかるが,このバンドには明らかにフィットしていない。むしろ,"The Sidewinder"に依存する必要がないほど,この時のバンドは充実していたと言える。8枚組のどこから聞いても失望することはないという感じだし,こういうかたちでリリースされた意義は大きいが,編集という観点では3枚組の方が上だとは思う。それでもやっぱりこれを聞くと燃えてしまうのが,ジャズ・ファンの「性」だろうな。星★★★★☆。

Recorded Live at the Lighthouse on July 10, 11 & 12, 1970

Personnel: Lee Morgan(tp, fl-h), Bennie Maupin(ts, fl, b-cl), Harold Mabern(p), Jymie Merritt(b), Micky Roker(ds), Jack DeJohnette(ds)

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