"Mingus at Carnegie Hall(Deluxe Edition)" Charles Mingus(Atlantic)
このブログに「道化師」の記事をアップした時にも書いたのだが,私にとってはCharles Mingusという人は結構ハードルの高い人であった。少なくともそう思い込んでいた(記事はこちら)。だが,半世紀近く前にレコーディングされたこの音源が完全版としてリリースされるのを知って,海外から飛ばした私であった。
このアルバムをオリジナルの体裁でも真っ当に聞いた記憶がほとんどないのは,私のMingusへの苦手意識の裏返しかもしれないが,今回,このアルバムを当日の演奏順の通り聴いてみて,私のCharles Mingusへの印象は間違いなく変わったのだ。
そもそもオリジナルでリリースされていたゲスト入りの演奏は,ライブ後半のジャム・セッション部分であるが,今回はそれに先立つMingusのバンドの演奏も全面公開されている。その中で,私がこのアルバムを聞きたいと思ったのは,偏にHamiet Bluiettゆえというのも,私も相当な天邪鬼と言ってよいかもしれない。しかし,そもそもの結構なバリトン・サックス好き,そして,Hamiet Bluiett好きとしてはちゃんと聞いてみたいと思ってしまった訳だ。
CD2枚目の1曲目までがMingusバンドの演奏,そして2曲目,3曲目がオリジナル収録の2曲だが,当日のライブの順番通り,"Perdido"が先に収められているから,この辺はオリジナルに親しんだ人には違和感があるかもしれない。しかし,私のようなMingusに縁遠かった(苦笑)人間には全く問題なしである。このMingusバンド,Hamiet Bluiettだけでも相当暑苦しいが,テナーはGeorge Adamsで,彼らしいフレージング炸裂である。ではあるのだが,ライブ,それも音楽の殿堂と言ってよいCarnegie Hallでの演奏だけに,高揚感が半端ではない。こういう演奏を未発表にしていたこと自体が信じられないようなものと言ってもよい。実に引き締まった演奏でこれだけでもウハウハしてしまう。
そして,オリジナル収録の2曲になだれ込む訳だが,このいかにもジャム・セッションって感じが,私のMingusへの意識を「完全変革」させると言ってもよい。荒々しささえおぼえる高揚感とハードなスウィング感に満ちた素晴らしきジャズである。そして楽しい。こんな演奏をされたら聴衆も燃えるのも当然と言いたくなるが,こういうのはもっと早く聞いておくべきだったと思っても後の祭り。自分が還暦迎える前にちゃんと聞けてよかったと感謝したくなる。
この時のジャムのハイライトが"C Jam Blues"であることは,この曲をLPのA面に据えたくなったプロデューサーの気持ちもわかるってところだが,先発するJohn Handyのテナーだけだったら,決してそうはならない(きっぱり)。そもそもアルトが主楽器のHandyに敢えてテナーを吹かせれば,まぁ結果は大体見えていると言ってもよいが,これはMingusのリクエストによるものだったとライナーには書いてある。それは後に出てくるGeorge Adams,そして真打ち,Rahsaan Roland Kirkとの違いを出すためだったのではないかと勘繰りたくなってしまう。
このRoland Kirkの長いソロがこのアルバムの魅力のコアであることは実にはっきりしている。場をかっさらうというのはこういうものだ。それはそれに続くJon Faddisのラッパを聞けば,格の違いが明らかというものさえ感じさせる。Jon Faddisは録音当時まだ20歳そこそこであるから,その頑張りは認めるものの,まだまだ若いねぇと思わざるをえない。と言うより,Kirkの後では誰だって分が悪いし,厳しいよねぇ。
繰り返しになるが,本作のリリースによって,こういう演奏に触れる機会ができたことは私にとっては幸いだった。もちろん演奏としての荒っぽさはあるが,ここは敢えて星★★★★★としよう。未発表部分を含めてとにかく強烈。本作を新譜とすることには若干抵抗もあるが,まぁよかろう。
Recorded Live at Canegie Hall on January 19, 1974
Personnel: Charles Mingus(b), Jon Faddis(tp), George Adams(ts), Hamiet Bluiett(bs), Don Pullen(p), Dannie Richmond(ds), Rhasaan Roland Kirk(ts), John Handy(as, ts), Charles McPherson(as)
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