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2021年3月31日 (水)

Charles Lloyd, 今年で83歳とは思えない衰え知らず。

_20210328 "Tone Poem" Charles Lloyd(Blue Note)

アルバムを出しても,ライブを聞いても,ここのところのCharles Lloydの活動には目を見張らされるものがある。凄い老人だと思ったり,感動させられたりと,80歳を過ぎても全く裏切られることのない活動ぶりは,やはり化け物レベルだと言ってもよいと思う。

そのCharles Lloydの新作はMarvels名義である。Marvelsの第1作である"I Long to See You",Lucinda Williamsを迎えた"Vanished Gardens"も素晴らしかったが,そのMarvelsとしての第3作とあっては,期待するなって方が無理な話である。そして,今回も裏切られることはなかった。

実をいうと,CDがデリバリーされるまでの間はストリーミングで聞いていたのだが,その時は実はピンと来ていない部分があった。しかし,ちゃんと媒体で聞くと,感覚が違うのがはっきりした。やはり音楽に対峙する姿勢の違いは大きいと思う訳だが,ちゃんと聞いてみれば,何の違和感もない。アメリカーナ的なサウンドをゆったりと奏でるCharles Lloydの昨今の音楽はここでも強く感じられる。

Marvelsの音楽はやはりその編成に特性が表れると感じさせるが,今回もBill FrisellのギターとGreg Leiszのスチールが効いている。いきなり冒頭の2曲はOrnette Coleman,そのほかにもLeonard CohenやらGabor Szaboやらと面白い選曲であるが,中でもBola de Nieveの"Ay Amor"のたゆたうような「ゆったり感」は彼らにしか出せないのではないかと思える。日本でもやった”Monk’s Mood"もやっているが,こういう音楽には強烈な魅力を感じる私である。

はっきり言ってしまえば,突出した感覚は何もない。しかし,それでも深く音楽に没入させる魅力があるのだ。特にアルバムの後半にはまいってしまった。とにかく凄い人,いややっぱり化け物だと思わざるをえない作品を生み出すエネルギーの源は何なのか。不老不死という言葉はCharles Lloydのためにあるのか...。という訳で,今回も星★★★★★とせざるをえまい。

Personnel: Charles Lloyd(ts, a-fl), Bill Frisell(g), Greg Leisz(Steel-g), Reuben Rogers(b), Eric Harland(ds)

2021年3月30日 (火)

Amazon Primeで観た「永い言い訳」は実にいい映画であった。

Photo_20210322192101 「永い言い訳」(’16,アスミック・エース)

監督:西川美和

出演:本木雅弘,竹原ピストル,深津絵里,池松壮亮,黒木華,藤田健心,白鳥玉季

この映画,公開された時に観に行きたいと思っていながら,今まで観ずにいた映画であった。それをAmazon Primeで無料で観られるのだからいい時代である。この映画の原作についてはこのブログにも取り上げていて(記事はこちら),その時は本木雅弘が主演するとは知らなかったのだが,今回見てなるほどと思えるキャスティングだったと言えよう。

端的に言ってしまえば,「喪失と再生」がテーマとなっているのだが,本木雅弘演じる衣笠幸夫は最悪の人間と評されてよい前半部から,弱さは持ちながらも,竹原ピストル演じる大宮陽一の子供たちによって,人間的な部分を取り戻す物語と言ってしまえばよいだろう。そしてこの子役二人が大いに泣かせてくれるが,見終わった後の清涼感は何事にも代えがたい。

実にいい映画である。西川美和の映画には常々感心させられるが,彼女の映画では最も清涼感があったと言っても過言ではないかもしれない。本作の前作「夢売るふたり」は感心しなかったが,西川美和は本作で完全に復調していたことを実証していた。やはりこれは劇場で見るべき映画だったなと思ったが,いずれにしてもいいものを見せてもらった。星★★★★☆。

西川美和,つくづく優れたストーリーテラーである。

2021年3月29日 (月)

雨降りには武満のピアノ曲よ。

_20210321-2 「高橋アキ Plays 武満」高橋アキ(EMI)

私は現代音楽のピアノ曲が結構好きなのだが,そんな私の嗜好を決定づけたのが今は亡きPeter Serkinであったと言ってもよい。Serkinが武満を弾いたアルバムは私のフェイバリットの一枚と言ってもよく,このブログでも記事にした(記事はこちら)。そこにも書いているのだが,武満徹のピアノ音楽を聞いていると「石庭で雨音を聞いているような感覚」を覚えてしまうのだ。もちろん,「雨の樹素描」という曲が含まれていることもそう感じさせる一因かもしれないが,武満のピアノ曲は気分を落ち着かせたい時に実にフィットする音楽なのだ。それでもって,先日の雨が降る日に聞いた一枚がこれ。

決してわかりやすい音楽だとは思わないし,世の中に存在する武満徹のピアノ曲集のアルバムは限定的なものに留まると言ってよい。そんな中で,Peter Serkinとともに私が保有しているのがこの高橋アキ盤である。このアルバムも極めて世評の高いものであるから,武満のピアノ曲を聞くならば,この2枚を保有していれば,まぁよかろうということになると思う。小川典子はどうした?藤井一興はどうした?と言われるかもしれないが,私にとってはそこまで追いかけていられない。

現代音楽に対する造詣の深い高橋アキが武満を弾くのだから,これはまぁ間違いのない世界と言ってもよいのだが,Peter Serkin盤と同様の感覚を与えてくれて,実によい。武満のピアノ曲を聞いていて,私は絶妙な「間」を感じてしまうのだが,この感覚が精神衛生上効果的だと思っている。最後に「こどものためのピアノ小品」と「ゴールデン・スランバー」を並べて,エピローグ的にアブストラクトな感覚からの抜け出す道筋を示す構成もよく出来ていると思ってしまうのだ。やっぱりこれは好きだなぁ。星★★★★★。

もちろん,万人向けの音楽だとは思わないが,好きになってしまうと,こういう音楽からは離れられないのだ。

Recorded in May, 2000

Personnel: 高橋アキ(p)

2021年3月28日 (日)

DVDで「ゲッタウェイ」を観た。

Getaway「ゲッタウェイ(”The Getaway”)」(’1972,米)

監督:Sam Pekinpah

出演:Steve McQueen,Ali MacGraw,Ben Johnson, Al Lettieri, Sally Struthers, Bo Hopkins

私は老後の楽しみとしてDVDを購入しているのだが,まだ仕事をしていることもあるし,家人の留守中でないとあまり見られないということもあり,家でDVDをプレイバックすることは実は稀である。しかし,先日,家人が出掛けている隙を見て(爆),この映画を観た。

告白してしまうと,実は私はこれまでこの映画を観たことがなかったが,Steve McQueenがショットガンをぶっ放すシーンは昔から知っていた。それでもって今回初めてこの映画を観たのだが,Steve McQueenに痺れる人がいるのもわかるよなぁって感じであった。私はClint Eastwood派(笑)だったこともあり,Steve McQueenの映画で劇場で観たことがあるのはなんと「タワーリング・インフェルノ」だけのはずである。もちろん,DVDでは「荒野の七人」やら「シンシナティ・キッド」やら「ブリット」は観ているが,実は「大脱走」は通しで観たことがないという体たらくなのである。同級生にはSteve McQueen好きがいたが,Eastwoodとどっちがいいとか言い合っていたのももはや45年以上前って感じか。

それはさておき,この映画を初めて観て,やはり50年近い時間が経過すると,携帯電話を誰しもが持っている今の時代においては,もはやこのストーリーは現代では成り立たないって感じである。しかし,往時の雰囲気を楽しみながら見ていた私である。脚本はWalter Hillだし,音楽ではToots Thielemansハーモニカが印象的という要素もあった。そして何よりもSam Pekinpahの演出である。いかにもSam Pekinpahというスロー・モーションを多用した展開は,ある意味ワン・パターンだという誹りは免れないところではある。しかし,それがSam Pekinpahの個性なのだと思えば腹も立たない。

私としてはSteve McQueenの眼鏡姿がなかなか様になっていると思っていたが,アクション・シーン含め,相応に楽しめた映画であった。まぁ,ストーリー的にはかなり無理があるとしても,エンタテインメントだからいいじゃないかと言っておこう。そしてAl Lettieri演じるRudyのえげつなさとSally Struthers演じる獣医夫人のアホさ加減は相当なもの。星★★★★。

2021年3月27日 (土)

Bob JamesのFBに引っ張られて,今日は"Heads"。

_20210321 "Heads" Bob James(Tappan Zee/Columbia)

先日,FBを見ていたら,Bob Jamesが本作から"Night Crawler"について投稿していたので,懐かしさもあって,このアルバムをプレイバックした。このアルバムが出た頃,私はBob JamesよりもDave Grusinの方が好きで,あまりBob Jamesに関心を持っていたとは言えない。その後,"Double Vision"やらFourplayを通じて,Bob Jamesへの評価も上がったが,アルバム単位で言うと"One of a Kind"と"Mountain Dance"ゆえにDave Grusinの方が好きなのは変わらない。そうは言っても,なんだかんだでBob Jamesのアルバムも結構保有しているのだ。このアルバムはCTIから離れて,自分のレーベルであるTappan Zeeを立ち上げて,Bob Jamesも気合を入れて作ったであろうアルバムと思うが,1977年リリースだからもう45年近く前の作品。

Bob Jamesのアルバムはこれが何枚目のアルバムかわかるようなジャケット・デザインになっているが,CTI時代はさておき,Tappan Zeeを立ち上げてからのアルバム・ジャケットは洒落が効いてくる。このアルバムは昔の5セント硬貨がジャケを飾っている。次作の6作目は"Touchdown",7作目は"Lucky Seven",8作目はアルファベット8文字目の"H"とわかりやすいのだ。9作目"Sign of the Times"はその関係性がよくわからないが,10作目"Hands Down"は両手のシェイプで,11作目"Foxie"はジャケを見れば"XI"を意図しているのがわかる。まぁ,それは多分"12"で打ち止めにしたってことだろうが,面白いセンスだと思っていた。

それはさておき,このアルバムを初めて聞いた時はBoz Scaggsの"We're All Alone"のアレンジになんじゃこれは?と思ったのが第一印象であり,「う~む」となってしまったBoz Scaggsファンの私であった。Peter Framptonの”I’m in You"はありだと思えたが,やっぱり"We're All Alone"のイメージがあまりよくなかったのは事実。まぁ,それも時の流れとともに,そうした印象は改善していったが,ちょいとに賑やか過ぎるのは事実である。

そしてこのアルバムを契機となった"Night Crawler"だが,いかにも70年代のフュージョンって感じがいいと思うが,ホーン・セクションはもう少し控えめでもよかった気がする。最後に収められた"One Loving Night"はパーセルの曲のアダプテーションらしいが,Bob Jamesはこの前からクラシック曲を取り入れていたが,この辺のセンスも私にとっては,先述の"One of a Kind"においてグラナドスを見事にアレンジしたDave Grusinの勝ちになってしまうのだ。

ということで,ちょっと辛口になってしまったが,それでも当時を思い出す懐かしのサウンドってことで,それなりには楽しめると思っている。ちょいと甘めの星★★★☆ってところ。

Personnel: Bob James(p, el-p, key, synth), David Sanborn(as), Grover Washington, Jr.(ts, ss), Eric Gale(g), Steve Khan(g), Jeff Layton(g), Jeff Mironov(g), Mike Mainieri(vib), Gary King(b), Will Lee(b), Alphonso Johnson(b), Andy Newmark(ds), Steve Gadd(ds), Alan Schwartzberg(ds), Ralph McDonald(perc), Randy Brecker(tp, fl-h), Marvin Stamm(tp, fl-h), Jon Faddis(tp, fl-h), John Frosk(tp, fl-h), Lew Soloff(tp, fl-h), Peter Gordon(fr-h), Jim Buffington(fr-h), Brooks Tillotson(fr-h), Dave  Taylor(tb), Wayne Andre(tb), Tom Mitchell(tb), Phil Bodner(b-cl, a-fl, oboe, as), Michael Brecker(ts, ss), Gerry Niewood(as,  ts, a-fl), George Marge(eng-h, fl. bs, oboe, sopranino recorder), Eddie Daniels(ts, cl, fl) with Strings 

Bob-james-112

2021年3月26日 (金)

Jackie McLeanの激しいライブ音源。痺れるねぇ。

_20210320-4 "The Jackie Mac Attack Live" Jackie McLean(Birdlogy→Dreyfus)

私がNYCに在住していた頃,Jackie McLeanは息子のRené McLeanを加えたクインテットで演奏していて,私は確かVillage Vanguardで彼らの演奏を観たと記憶している。その当時はJackie McLeanは還暦ぐらいのはずだが,全く衰えるところのない演奏を聞かせていた。その頃リリースされたのが"Dynasty"とか”Rites of Passage"等のアルバムであったが,丁度私が彼らのライブを観たのとほぼ同じ頃の演奏が後に発掘された音源が本作である。そしてこの作品のキモはRené McLeanが加わらないワンホーン・クァルテットであることだろう。

メンツは当時のレギュラーなので,安心して聞けるのは当然なのだが,Jackie McLeanが吹きまくっているのが凄い。ジャケがショッキング・ピンクなのもうなずけるとついつい思ってしまうではないか(笑)。とにかく強烈なのだ。これはジャケを変えての再発盤ということらしいが,これぐらいの方が入っている音源のイメージが湧くと言いたい。確か,私がこのアルバムを初めて聞いたのは惜しくも閉店した新橋のBar D2だったと思うのだが,その時もなんじゃこれは?!と思った記憶がある。知らなければ知らないままになっていたかもしれないが,この音源は実に強烈であった。

ここでピアノを弾いているHotep Idris Galetaの貢献度は非常に大きかったと思うが,ネットの情報によれば,この後ぐらいに母国である南アフリカに戻ってしまったようだ。だが,Jackie McLeanにとっては彼のようなピアニストと演奏できたのは,その現役感を生み出すのに大きく貢献していたと思える。

本作においても,Jackie McLeanのアルトはちょいとフラット気味の調子っぱずれと思わせる部分はあるが,スピーディなフレージングを聞いていると,そういうのも全然気にならないのだ。とにかく飛ばしまくる感じで,もう少し緩急付けてもいいのではないのかと思えるのも事実だが,このアグレッシブさが当時のJackie McLeanの真骨頂だったのだと思える。よくやるわと言いたくなるような激しいブロウが続くのである。やっと一息つけるのが5曲目の"Round Midnight"なのだから,私の言っていることもご理解頂けよう。

いずれにしても,1991年当時,Jackie Mcleanがかなり好調であったことを改めて裏付ける音源だと思う。音がイマイチって話もあるが,そこは勢いでカヴァーである(笑)。星★★★★。

Recorded Live at Hnita Hoeve Jazz Club, Belgium on April 2, 1991

Personnel: Jackie McLean(as), Hotep Idris Galeta(p), Nat Reeves(b), Carl Allen(ds)

2021年3月25日 (木)

これも蔵出し(笑):Al Foster Quartet。

_20210320-2 "Love, Peace And Jazz!" Al Foster Quartet(Jazz Eyes)

本作もクロゼットから引っ張り出してきたアルバム。以前聞いた時にも悪いと思っていた訳ではないはずなのだが,置き場所に恵まれなかったってところだろう(笑)。改めて聞いてみると,なかなかに聞きどころのあるアルバムであった。

ここでの演奏は当時のAl Fosterのレギュラー・クァルテット(?)が名門Village Vanguardへ出演した際のライブである。ライブだけに長尺の演奏が多く,聞き通すには結構体力がいる(苦笑)。冒頭は"The Chief"と名付けられたAl Fosterのオリジナルだが,これってQuestの1枚目でやっていた”Dr. Jekyll And Mr. Hyde"だよねぇ。なんでタイトルが変わっているのかは謎だが,何とも懐かしい曲である。そう言えば,クリポタも参加したAl Fosterのアルバム,”Brandyn”でもこの曲はやっていて,そこでも"The Chief"になっていたということに改めて気づく。それに続くのが"E.S.P."に"Blue in Green"というMiles Davis絡みの曲であるが,テンション高めに聴衆にも受けるだろうって感じの演奏である。

そこからAl Fosterのオリジナル2曲をつなぐのだが,”Peter’s Mood"はややリラックスした感じのムード・チェンジャーってところ。そして,Al Fosterのドラムス・ソロから始まる"Brandyn"である。先述のアルバム,"Brandyn"ではサックスがクリポタ,ピアノがDavid Kikoskiってことで,Al Fosterのバンドの選択ってそういう感じなのねぇってことを感じさせるものだが,ここではEli Digibriのソプラノがなかなかいけている。

クロージングはBlue Mitchellの"Fungii Mama"であるが,これのオリジナルってChick Coreaの相当初期のレコーディングのはず。カリプソのリズムに乗って,楽しく終演ってところだろう。

いずれにしても,このアルバムはある程度ヴォリュームを上げて聞くことを推奨したくなるような演奏。Vanguardにおける演奏の雰囲気を感じるにはそれなりの音量でどうぞ。ってことで,星★★★★。ってことで,今後はクロゼットからは出しておくことにしよう(爆)。

Recorded Live at the Village Vanguard on April 27 &28,2007

Personnel: Al Foster(ds), Eli Digibri(ts, ss), Kevin Hays(p), Douglas Weiss(b)

2021年3月24日 (水)

菊地雅章のラスト・レコーディング:背筋が伸びる思いである。

_20210323"Hanamichi: The Final Studio Recordings" 菊地雅章(Red Hook)

菊地雅章が亡くなったのが2015年のことであったが,今,菊地雅章の最後のスタジオ録音が届くとは思いもよらなかった。しかし,これは襟を正して聞き,そして聞いていて背筋が伸びるような演奏であった。

このアルバムをプロデュースしたのは,ECMレーベルにおいて,Manfred Eicherの後継者はこの人ではないかと目されていたSun Chungである。本作は彼が新たに立ち上げたRed Hookレーベルの第1作としてリリースしているので,Sun ChungはECMと袂を分かったということなのかもしれない。それはそれでちょっと惜しいような気もするが,それはさておきである。

本作がレコーディングされたのは2013年12月,既に病魔が菊地雅章を蝕んでいた頃ではないのかと思われるが,そうした健康状態にもかかわらず,絞り出される音楽は深遠な美学に満ちている。晩年の菊地雅章らしいアブストラクトでスローな表現は,現代音楽に通じるものがあるというのはいつもながらの感想にしかならないのだが,これは実に印象深い音楽である。冒頭の1920年代の小唄と言ってもよいような"Ramona"の美しさからして息を呑む。そこから転じて"Summertime"なんて,もはや思索と哲学の世界である。そこから"My Favorite Things"が2テイク,そして即興,最後は"Little Abi"で締めるプログラムは全く弛緩するところがない。全編を通じて,なかなかこんなピアノ・アルバムは聞けないと思えるような作品なのだ。

前述の通り,アブストラクトな感覚が強いので,決して万人にとって聞き易い音楽とは言えない。しかし,命を削って紡ぎだされるフレージングのような感覚すら覚える演奏が並ぶこのアルバムには感動しかない。しかも実に素晴らしい音で捉えられており,こうした音源を菊地雅章が残していたことを我々は喜ぶべきである。東京文化会館でのライブ「黒いオルフェ」も素晴らしかった(記事はこちら)が,私にとってはそれに勝るとも劣らないアルバム。出してくれたことだけでも感謝したくなる。星★★★★★。深い。

Recorded in December 2013

Personnel: 菊地雅章(p)

2021年3月23日 (火)

久々に聞いたEdward Simon。

_20210320 "Unicity" Edward Simon(CAM Jazz)

ずっとクロゼットにしまい込んだままのアルバムを取り出して聞くと,これはそういう扱いを受けても仕方ないと思わせるものもあれば,へぇ~,こんなんだったけってものにわかれてしまう。多数派は前者であるが,本作は後者にあたる。

Edward Simonはヴェネズエラ出身のピアニストであるが,幼少の頃から米国でピアノを学んでいたようである。リーダーには申し訳ないが,このアルバムを購入した人の大多数はJohn Patitucci,Brian BladeというWayne Shorter Quartetのリズムに惹かれてのことであろうし,かく言う私もそうだったはずだ。

このアルバムを聞いたのも実に久しぶりのことになるが,実に落ち着いたピアノ・トリオである。リーダーのオリジナルに加えて,やっているのがJohn Patitucciが1曲というのはわかるが,David Binneyのオリジナルが加わっているところに人脈みたいなのを感じてしまう。更にびっくりするのはスペインの作曲家,Mompouの"Prelude #9"をやっていることか。まぁ,Edward Simonはクラシック・ピアノから入っているようなので,わからない話ではないがMompouとはびっくりである。こういうのでへぇ~となってしまう訳だ。だから,クレジットはちゃんと眺めないといかんねぇ(苦笑)。

そして,このアルバムはエンジニアリングのせいもあると思うが,熱く燃え上がる感じではなく,静かに揺らめく炎って感じの演奏と言ってよいように思う。冒頭の1分足らずの"Invocation"からして,ミステリアスと言ってよいスタートであるが,そうした雰囲気のセッティングは意図的なもののように思える。例えば5曲目の"The Midst of Chaos"は結構ハードな曲調であり,Patitucci,Bladeのソロも強力だが,どこかクールな感覚が残っている。Patitucciのエレクトリック・ベースをフィーチャーした"Pathless Path"でも,イケイケ感よりも抑制された感覚が強い。それは一貫したプロダクションだということになるだろう。

Edward Simonのフレージングはなかなかに魅力的に響くし,Patitucci~Bladeのリズムは見事な仕事ぶりであり,結構楽しんでしまった私である。反省も込めて星★★★★☆。本作と同じ編成で何枚かアルバムもあるようなので,ストリーミングで聞いてみることにしよう。

Recorded on February 26 & 27, 2006

Personnel: Edward Simon(p), John Patitucci(b, el-b), Brian Blade(ds)

2021年3月22日 (月)

追悼,ファンク・マスター,Paul Jackson。

Paul-jackson-2

Paul Jacksonが3/18に亡くなった。日本と縁の深かったPaul Jacksonであったが,亡くなったのも日本においてであった。

HeadhuntersをはじめとするHerbie Hancockとのアルバムにおいては,これぞファンク・ベースと言うべきグルーブ感たっぷりの演奏を聞かせたPaul Jackson。彼を追悼するならば,Herbie Hancock絡みのアルバムということで,私がピックアップしたのはやはり"Flood"。もちろん,"Headhunters"でもなんでもいいのだが,Paul Jacksonのベースってのは実に存在感のある音で,個性が出るなぁと思わせてくれる人だった。

R.I.P.

2021年3月21日 (日)

Ralph Petersonを偲んで:"Art of War"は21世紀版V Quintetの趣。

_20210319 ”Art of War" Ralph Peterson(Criss Cross)

先日亡くなったRalph Petersonのアルバムを引っ張り出して聞いた。これをクロゼットにしまい込んでいたのは失敗だったと思ってしまったというのが最初の感覚である。

Ralph Peterson(最初の頃はJr.が付いていたはずだ)の名前を初めて知ったのは,Blue Noteレーベルが新人をオーディションして結成したOTBにおいてであった。その後,日本のバブル経済と同期を取るように,Ralph Petersonが結成した所謂V Quintetはイケイケ感に溢れた痛快な演奏をするバンドであったと思う。前にも書いたが,日本がバブルで浮かれているのにフィットしていたのだろうと思う。だが,日本のレーベルとの契約も,バブル崩壊とともに消滅したはずだが,それからも活動は継続していたし,リーダーとしてのみならず,教育者,そしてバンド・メンバーとしての活動もしていた。私がRalph Petersonのライブを最後に観たのは,Wayne EscofferyのバンドでCotton Clubに出た時だったが,その時もパワフルにドラムスを叩いていたのも懐かしい(記事はこちら)。

そんなRalph PetersonがCriss Crossレーベルに吹き込んだ本作は,今にして思えば強力なメンツが揃っていた。だってラッパはJeremy Pelt,サックスはJimmy Greene,ピアノは現Bad PlusのOrrin Evans,そしてベースはBranford MarsalisのバンドのEric Revisなのだ。これで悪くなるとは思えないメンツである。そしてやっている音楽はV Quintetを21世紀が始まったばかりの2001年1月にリブートしたような感じの演奏ぶりで,高揚感に溢れた演奏である。まぁ,一本調子と言えばそう言えなくもないのだが,リーダーを筆頭にかなりのスピード感とパワーで押してくるのである。

こうしたパワーは前述のライブでも感じられたが,何でこれを私はしまい込んでいたのかと思いたくなるような演奏であった。今回はRalph Petersonの訃報に接し,改めて聞いた訳だが,同様に今聞いたら全然違う感慨を覚えるアルバムも何枚もあるのではないかと痛感させられて,ついつい反省してしまった。反省も込めて星★★★★☆としよう。

それにしてもジャケに写るRalph Petersonの強面なことよ。そして,彼は私より年下だったということに今更ながら驚いてしまう。まだまだこれからという年齢だっただけに惜しい。R.I.P.

Recorded on January 16, 2001

Personnel: Ralph Peterson(ds), Jeremy Pelt(tp, fl-h), Jimmy Greene(ts, ss), Orrin Evans(p), Eric Revis(b)

2021年3月20日 (土)

会社の休みに映画を観た:今回は「ミナリ」。

Minari 「ミナリ(”Minari”)」(’20,米,Plan B/A24)

監督:Lee Issac Chung

出演:Steven Yuen, Yeri Han, Youn Yuh-jung, Alan S. Kim, Noel Kate Cho, Will Patton

私が勤務する会社では,祝祭日と土曜日が重なると金曜日が休みになるというシステムになっている。ということで,ここは映画を観に行くしかないだろうってことなのだが,コロナ禍の影響で,洋画については公開されているものが限定的ではあったが,初日の「ミナリ」を観てきた。

この映画,今年度のオスカーの主要部門でノミネートされているが,ストーリーとしては淡々としたものなのだが,そうした中にちゃんとドラマを仕込んであるところは確かによく出来ている。アーカンソーで農業で一旗揚げようとする主人公がSteven Yuenであるが,その家族と,途中から加わる義母の5人を中心に描かれているが,驚くような展開はない。だが,見終わると実に後味のよい映画である。

タイトルとなっている「ミナリ」は韓国語で「セリ」のことだそうだ。この映画はその「セリ」の生命力に例えられるものであり,その「再生感」が何とも心地よいのだ。こういう映画に製作総指揮で名前の出てくるBrad Pitt,やるものである。

長男のDavidを演じたAlan S. Kimと義母(おばあちゃん)役のYoun Yuh-jungが笑わせて,そして泣かせてくれる。驚きはないが,一見に値する映画。星★★★★☆。

2021年3月19日 (金)

改めてChick Coreaを追悼して,”The Musician”を聞く(その3)。

_20210313_20210318190101 "The Musician" Chick Corea(Stretch)

本作を聞いて,改めてChick Coreaを追悼する第3回。本日がディスク3で最終回。このアルバムを聞いていて,ディスク1でも書いたが,Chick Coreaの音楽の多様性は感じられるものとなっているのは間違いない。

それでもってこのディスク3はMarcus Robertsとのデュオ,Herbie Hancockとのデュオ,そしてElektric Bandという構成なのだが,前半のデュオは全く面白くない(きっぱり)。お祭り企画における適当さ加減というか,これぐらいできて当たり前だよねっと思えてしまうのは問題だろう。

Marcus Robertsとのデュオの1曲目には何とWynton Marsalisもシット・インしたどブルーズであるが,予定調和どころか,これぐらいの演奏ならChick Coreaでなくてもできるだろうという程度のもの。続くHerbie Hancockとのデュオも全然驚きはない。だから聞いていてもちっとも高揚感を覚えない。ライブの場で聞いていれば,違う感慨もあるのはわかるが,正直言って全然面白くないのだ。Marcus Robertsはさておき,Herbie Hancockとのデュオはもはや「おわコン」であっただろうと言いたくなる程度のもの。

それに比べると,Elektric Bandの演奏は結構楽しめるもので,私はディスク3においては,後半のElektric Bandの演奏だけ聞いていればいいだろうというのが正直なところである。こういうお祭り企画だからと言って,Marcus Robertsとのデュオ,Herbie Hancockとのデュオについては驚きもなければ,感動もないのでは問題である。金儲け企画と言われても反論の余地はあるまい。

であるから,この3枚組はいいものもあれば,そうでないものもあるという玉石混交感が明白で,私としてはトータルではまぁいいんじゃない,って程度の感慨しか得られなかった。なので,Chick Coreaに新たに関心を抱いたリスナーはさておき,ヴェテラン・リスナーにとっては,実に微妙な出来としか言いようがない。

このアルバムを聞いて,多様性を理解できても,これを聞いていればChick Coreaがわかると思われたら大間違いだと言いたい。3枚組全体を評価すれば星★★★ぐらいで十分だが,これを聞く前に聞くべきアルバムはいくらでもあるのだ。Chick Coreaの音楽を聞くなら,相応の順番があると強く感じた私であった。

Chick Coreaを哀悼する気持ちには全く変わりはないが,残念ながらこのアルバムは持っていてもいいとは思えても,私にとってプライオリティは上がりそうにない。改めてチューリッヒのライブを聞くことにしよう。

Recorded Live at Blue Note NY between November 1 and 27, 2011

Personnel: Chick Corea(p), Marcus Roberts(p), Wynton Marsalis(tp), Herbie Hancock(p), Eric  Marienthal(sax), Frank Gambale(g), John Patitucci(b), Dave Weckl(ds)

2021年3月18日 (木)

改めてChick Coreaを追悼して,”The Musician”を聞く(その2)。

_20210313"The Musician" Chick Corea(Stretch)

本作を聞いて,改めてChick Coreaを追悼する第2回。今回はディスク2である。

ディスク2は長年の盟友,Gary Burtonとのデュオ+弦楽四重奏のセットから始まるが,1曲目は懐かしの「抒情組曲」からの"Overture"ではないか。あのアルバムが出た時は本当にびっくりしたが,今のECM New Seriesの源流と言ってもよい取り組みだったかもしれない。ただねぇ,2曲目のGayle Moran Coreaのヴォーカルは必要だったのかと言いたくなる。美しい夫婦愛だとは思うが,正直言って彼女の歌はここには不要だったとしか言いようがない。こういうのは明らかに余計。

続くのが"From Miles"。個別にアルバムも残したGomez~DeJohnetteとのトリオに2管を加えたクインテットであるが,Milesバンド出身者はGary Bartzを加えた3名。ラッパはMilesクローンのWallace Roney。正直言ってしまうと,ここはJack DeJohnetteを聞けばいいかなって感じるようなバンドである。Wallace RoneyのMilesクローンぶりはもはや微笑ましいレベルだが,"If I Were a Bell"で22分超ってのはやり過ぎだろう。いずれにしても,これならばメンツ的にはKenny Garrett,Mike Stern,Marcus Miller,Brian Bladeもいた75周年の時のバンドの方が絶対上だっただろうなと想像してしまう(但し,映像で確認すると,75周年バンドの"Directions"なんかはゆるゆるでずっこけるが)。このバンドの2曲目にチョイスしたのが"Nefertiti"というのもちょっと安直な感じがする。

最後に収められているのが"Flamenco Heart"というグループ。Chick Coreaはことあるごとにスペイン系の音楽との融合を図ってきた気がするが,この編成でのバンドはここでしか聞けないはずだ。前出のFrom Milesの一丁上がり感よりはこっちの方が私は緊張感があっていいと思える。私は”Rhumba Flamenco"も結構よかったと思っているし,そもそもPaco De Luciaと共演した"Touchstone"だって結構好きなので,私の嗜好はこっちに向いていると言ってもよいかもしれない。いずれにしても私にとってはディスク2で一番楽しめるのは間違いなくこの"Flamecnco Heart"の2曲。

Recorded Live at Blue Note NY between November 1 and 27, 2011

Personnel: Chick Corea(p, key), Gary Burton(vib), Harlem String Quartet<Ilmar Gavilan(vln), Melissa White(vln), Juan Miguel Hernandez(vla), Paul Wiancko(cello)>, Wallace Roney(tp), Gary Bartz(sax), Eddie Gomez(b), Jack DeJohnette(ds), Concha Buika(vo), Carles Benavente(b), Jorge Pardo(sax, fl), Jeff Ballard(ds), Nino Josele(g)

2021年3月17日 (水)

改めてChick Coreaを追悼して,"The Musician"を聞く(その1)。

_20210313"The Musician" Chick Corea(Stretch)

Chick Coreaが亡くなって,私も連続して記事をアップした訳だが,これって聞いてなかったなぁということで,生誕70周年を記念して,Blue Note NYに連続出演した時のライブを,別のCDと抱き合わせで発注し聞いた。因みに映像は多分見ないということで,私が入手したのは3CD版。ということで,3回に分けて記事を書くことにしよう。今回はその1回目。

Chick Coreaは生誕60周年で"Rendevouz in New York"を残し,70周年で本作,75周年にもBlue Noteに連続出演したので,そのうちその音源もリリースされるかもしれない。その75周年となった2016年にはたまたまNY出張とタイミングが合い,John McLaughlinとのデュオを観ることができたのはラッキーであった(その時の記事はこちら)。

長期に渡ってBlue Noteでレジデンシー・シリーズをやってしまうというのも凄いことだが,そこに集うミュージシャンも強烈である。そして,クラブ・デイトのライブということもあり,長尺の演奏が多く,お腹一杯になってしまうような音源集と言ってよい。とにかく冒頭のReturn to Forever Unpluggedの演奏からして熱い。ギターにFrank Gambaleが加わっているが,本来であればAl Di Meolaが妥当な人選のところとは思いつつ,ここでのGambaleはなかなかいい演奏であった。そもそも収録されているのもDi Meola期の曲ではないので,これはこれでありだと思えた。

続くGary PeacockとBrian Bladeとのトリオというのは珍しい組合せだと思うが,このメンツであれば間違いはないと思わせる"I Hear a Rhapsody"である。そもそもPaul Motianの出演が予定されていたはずだが,Paul Motianが亡くなってしまったので,Brian Bladeは代打ってことであるが,それでもこのトリオはかなりよい。そして,ディスク1において私が最も注目していたのがJohn McLaughlinとの5 Peace Bandであったが,もっと激しくやるのかと思ったら,ここに収められた演奏はコンベンショナルな感覚も交えながら,ややおとなしめって感じであったのは意外であった。まぁ,それでもJohn McLaughlinのギターはまごうことなきJohn McLaughlinではあるが(笑)。

ディスク1の最後はBobby McFerrinとのデュオで2曲。”I've Got a Wolrd on a String"なんてのは意外な選曲ってところだが,最後は"Spain"で締めるという盤石の展開ではあるが,まぁこれはこれでってところ(笑)。しかし,1枚目を聞くだけで,Chick Coreaの音楽ってのは本当に多様性に富んでいたと思わされるものであった。

Recorded Live at Blue Note NY between November 1 and 27, 2011

Personnel: Chick Corea(p, key), Stanley Clarke(b), Lenny White(ds), Frank Gambale(g), Gary Peacock(b), Brian Blade(ds), John McLaughlin(g), Kenny Garrett(as), John Patitucci(b), Bobby McFerrin(vo)

2021年3月16日 (火)

若かりし頃のWayne Krantzの音源現る。

Wayne-krantz-1985 "Music Room 1985" Wayne Krantz(Abstract Logix)

コロナ禍の中でミュージシャンもいろいろ大変だと思うが,そうした中でへぇ~と思うような動きも出てくるのが面白い。クリポタの宅録もそうだったが,今回はWayne Krantzの若い頃の音源登場である。1985年に録音していた音源が見つかったのでリリースしたってことらしいが,Wayne Krantzのファンを自認する私としてはこれは聞かねばならんということで即発注したが,媒体到着前にデリバリーされたダウンロード音源で早速聞いてみた。

1985年と言えば,Wayne Krantzの初リーダー作"Signals"の5年前ということになるので,当時のKrantzのギターがどういうスタイルだったのかってのが気になる。はっきり言ってしまえば,これはデモ音源みたいなものではあるが,それでも律儀に聞きたくなってしまうのがファンというものである。このブログへのWayne Krantzの登場頻度を考えれば,まぁそれぐらいは当然なのだ(笑)。

結論からすれば,すべての楽器をKrantzがこなしたこのアルバムに収められた音楽は,今のWayne Krantzの音楽からすれば,かなりというか,まだまだ「普通」である。ある意味,典型的なフュージョン・スタイルに近いと言ってもよいので,明らかに現在のスタイルとは異なる,若かりし頃のWayne Krantzの音楽が聴けるということでは実に興味深い。

まぁ,収録時間は30分にも満たないので,コアなWayne Krantzファン向けの音源とは思うが,ご関心のある方は,下に貼り付けた,YouTubeにアップされている本作からの”Cowboy”でご確認を。

Personnel: Wayne Krantz(g, every instrument)

2021年3月15日 (月)

児玉桃のECM第3作は2006年録音の持ち込み音源だが,これが実に素晴らしい。

_20210313-2 ”Hosokawa/Mozart” 児玉桃,小澤征爾,水戸室内管弦楽団(ECM New Series)

児玉桃のECMにおける2作は大変素晴らしい作品であった。本作は前作"Point and Line"でも取り上げた細川俊夫とモーツァルトというまたECMらしい異色の組み合わせってところなのだが,ここで冒頭に演じられる細川俊夫の「月夜の蓮(”Lotus under the Moonlight”)」は,モーツァルトの生誕250周年を記念して書かれたものであり,「モーツァルトへのオマージュ」という副題まで付いているから,プログラムとしては一貫性があるものなのだ。児玉桃はその初演者であった。

そして,この音源は2006年に録音されたものであり,プロデュースにはManfred Eicherの名前もないので,明らかに持ち込み音源である。そもそもECMで小澤征爾の名前を見つけるとは全く想像していなかったが,そうした音源をリリースするという判断を下したのはManfred Eicherであるはずなので,その審美眼にかなった演奏であることは言うまでもない。

このアルバムにおけるポイントがその細川の「月夜の蓮」であることには疑う余地がない。もちろん,モーツァルトのP協23番なんてのは誰もが知る名曲であり,児玉桃と小澤征爾の組合せによる演奏が悪いはずはない。しかしである。このアルバムがリリースされた要因はやはり「月夜の蓮」ゆえであろう。この細川とモーツァルトの曲間のギャップこそがこの音楽を楽しむためのコアとなるからである。おそらくManfred Eicherもそれを評価したはずだと思う。「月夜の蓮」がクールかつ静謐な感覚を与えるのに対し,モーツァルトの暖かさが「月夜の蓮」で生まれた緊張感を弛緩させてくれることこそがこのアルバムのキモだろう(少なくとも私にとってはそうだ)。

こういう演奏/プログラムには本当に美学を感じるが,水戸の聴衆も生で聞いていた時には同じような感覚を覚えていたと思う。録音から時間が経過した音源であることを全く感じさせない傑作。星★★★★★。

甚だ余談ではあるが,私の亡くなった父はモーツァルトを偏愛していたが,父が最も好きだったP協はこの23番である。本当にしょっちゅうこの曲を聞いていたのを思い出してしまった。父がこのアルバムを聞いたらどういう感想を言うか聞いてみたい気がした私である。

Recorded Live at 水戸芸術館 in December, 2006 

Personnel: 児玉桃(p),小澤征爾(指揮),水戸室内管弦楽団 

2021年3月14日 (日)

怒涛のリリース・ラッシュの中でNeil Youngのライブ盤。

Neil-young-way-down "Way Down in the Rust Bucket" Neil Young with Crazy Horse (Reprise)

アーカイブ・シリーズを含め,どれだけアルバムをリリースするのよと言いたくなるような,兄貴ことNeil Youngである。そんなNeil Youngが"Godfather of Grunge"と呼ばれるようになって久しいが,その契機は"Ragged Glory"あたりだったはずである。私の記憶が確かならば,"Ragged Glory"はVillage Voiceで年間ベスト作品に選ばれていたはずだ。その一方で日本での評価って,今は全然違っても,当時はそれほど高くなかったようにも思える。グランジへの影響という観点から,日本では改めて評価が高まったって感じているのは私の誤解か?

span style="font-size: 12pt;">"Ragged Glory"と"Weld"によって爆音響かせるNeil Youngのその筋でのイメージが確立したが,今回リリースされたのは"Ragged Glory"リリース後のライブで,これは気になるということでの購入となったのだが,何を血迷ったか,私はLP+CD+DVDのデラックス・エディションを購入してしまった。何だか最近,こういう無駄遣いが増えているが,まぁいいやってことにしよう。狙いはDVDにしか入っていない"Cowgirl in the Sand"ななのだが,それにしてもやっぱり無駄遣いである(苦笑)。

出てくる音は,まさにこっちの期待するものであるが,完全にロックな兄貴である。こういうのは生で見るのが一番なのだが,あの時期を追体験することが重要ってことにしよう。私がNYCに滞在していた時期にも当たるが,その時のライブはEast RutherfordのMeadowlands Arenaでやっていたはずで,そこまで出掛けていくことはできなかった当時の私であった。だが,こうして当時の演奏を改めて耳にすると,やっぱりライブで見ておきたかったと思わせる。家人のいないときに爆音でプレイバックするのを楽しみにしよう。星★★★★☆。映像もそのうち見てみようと思う。

YouTubeに上がっているこの時の"Mansion on the Hill"の映像を貼り付けておこう。

Recorded Live at the Catalyst in Santa Cruz on November 13, 1990

Personnel: Neil Young(g, vo), Frank "Poncho" Sampedros(g, vo), Billy Talbot(b, vo), Ralph Molina(ds, vo)

2021年3月13日 (土)

Gretchen Parlato,久々の新譜。実によく出来ている。

Flor "Flor" Gretchen Parlato(Edition)

私が初めてGretchen Parlatoのアルバムを聞いたのが”The Lost & Found"で,それがもう10年前のことで,記事にもしている(記事はこちら)。その後,ライブ盤がリリースされたが,その後は子育てに専念していたらしく,久々のアルバム・リリースとなった。彼女のコンテンポラリーな感覚に痺れてしまった私としては,これは買わずにいられない,聞かずにいられないってところである。

そして何を血迷ったか,英国から飛ばしたのがカラーLPである。昨今のアナログ復権により,アナログでリリースされるものにカラー・ヴァイナルが増えてきたが,今回のこのアルバムは透明オレンジって感じの珍しいもの。アルバムのジャケットのイメージともフィットした感じで綺麗だねぇって言いたくなる。

そんなアルバムの冒頭を飾るのがJoão Gilbertoでもお馴染みの"É Preciso Perdoar"で。もうこれでつかみはOKである。本作はブラジルにインスパイアされての作品ということであるから,そのスタートがこの曲というのもわかるが,彼女の歌は健在であったと嬉しくなる。続く"Sweet Love"はAnita Bakerの曲ってことで,彼女の選曲センスも変わらないってところである。アルバムのB面ではAirto Moreiraのヴォイスを聞いていて,Al Jarreauを思い出していた私である。

Gretchen-parlato-flor そんなこのアルバムにおいて最も印象的なのが,Gretchen Parlatoのオリジナル,"Wonderful"ではないか。非常にポジティブで,多分彼女の娘の声も入っていると思うが,微笑ましくなるような曲で,昨今の淀んだ雰囲気を打破してくれるような曲である。それに続いてバッハの無伴奏チェロ組曲を前半はアカペラでやってしまうのに驚かされ,最後はDavid Bowieの"No Plan"で締める展開というのも素晴らしい。Bowieの"No Plan"にも参加していた旦那であるMark Guilianaがここでも参加しているが,このアルバムの最後を飾るに相応しい曲を選んだものである。

まさに最初から最後まで感心させられてしまったアルバムである。彼女のカムバックに対するご祝儀も含めて星★★★★★としてしまおう。ってことで,ついでにカラー・ヴァイナルの写真もアップしておこう。

Personnel: Gretchen Parlato(vo), Marcel Camargo(g, el-p, cavaco), Artyom Manukyan(cello, vo), Léo Costa(ds, perc, vo,  moog) with Gerald Clayton(p, el-p), Mark Guiliana(ds), Airto Moreira(vo, perc),  Magnus Thompson(vo), Thaddeus Thompson(vo),, Chloe Camargo(vo), Marley Guiliana(vo), Karen Kennedy(vo), Mona Blake(vo), Johna Blake(vo), Charlie Grenadier(vo)

2021年3月12日 (金)

何を今更って感じだが,Mike Morenoっていいねぇ。

_20210309”3 for 3" Mike Moreno(Criss Cross)

このブログにMike Morenoが登場した回数は実に少なくて,振り返ってみれば,彼のアルバムは"Lotus"しかアップしていない。そのほかはKendrick Scottのアルバム,そしてライブの記事が2本しかない。ライブについては1本はCotton ClubでのKendrick Scott Oracle,もう1本がJochen RuckertのバンドでSmallsに出た時のものというのは,Mike Morenoの実力を考えれば少な過ぎやしないかということで,今日はこのアルバムである。

本作も,リリースされたタイミングでなぜアップしなかったのかと思えるようなナイスな作品である。そして,このアルバムがポイントが高いのはギター・トリオという編成で,Mike Morenoの演奏が楽しめるってところにあることだ。このコンテンポラリーな感覚と,コンベンショナルな感覚の絶妙なバランスが実に楽しい。

やっている曲もスタンダードからWayne Shorterやら,Mulgrew Millerらのモダン・ジャズ・オリジナルにRadioheadというのが面白いが,どういう曲を弾いても,Mike Morenoのフレージングってのが実に魅力的なのだ。そして,見逃せないのが,Lo Borgesの「街角クラブ No.1」を取り上げているところか。ブラジリアン・フレイヴァーもいいねぇ。結局何を弾いてもうまいのだ。まさに何でもござれってところだ。Radioheadの"Glass Eyes"は多重録音で,ちょっとPat Metheny的な感覚も醸し出してしまう。やるなぁ。

現代のギタリストには優秀な人材が多いが,その中でもJonathan Kreisbergとこの人の音楽は実に私にフィットするなぁってところである。本作も実に満足感高く,星★★★★☆。

Recorded on September 22, 2016

Personnel: Mike Moreno(g), Doug Weiss(b), Kendrick Scott(ds)

2021年3月11日 (木)

あれから10年か...。

Photo_20210309224901

10年一昔と言うが,あの日の記憶が薄れることは,私の人生においてはないだろう。

未曾有の災害をもたらしたあの地震から時間が経過しても,鮮烈な記憶として刻まれてしまったということなのだ。

地震当日のこと,翌日,学校に留め置かれた娘を迎えに行ったこと,翌々日からインドネシアに出張したこと,日本に帰ってからも,インフラの正常化には時間を要したこと等々,今でも記憶はヴィヴィッドなままだ。今だからこそ,我々は計画停電という言葉をちゃんと覚えていなければならないのだ。そうでなければ,大きな災害に見舞われた時に,あの時と同じように途方に暮れたり,パニックに陥りかねないからだ。

記憶は風化するものだが,あの震災は私の中には間違いなく明確な記憶として残存している。その一方で,現在のコロナ禍において,人々の心理が緩むのは震災ほどの当事者意識を持たない(持てない)ことの裏返しではないのかと思わざるをえない。自分も当事者だと思わなければ,今の国難がいつまでも続いてしまうと思わなければならないのだ。あの時を忘れないように,この記事は14時46分18秒にアップさせて頂く。

いずれにしても,あれから10年。亡くなられた方々を偲び,改めて鎮魂の祈りを捧げたい。

2021年3月10日 (水)

George Harrisonに期待すると梯子をはずされる”Bob Dylan 1970”。

1970"1970" Bob Dylan(Columbia)

録音後50年の節目と言えば聞こえはいいが,著作権切れを回避する手段として,Bob Dylanが欧州で限定リリースしたアルバム。

私も限定リリースされた時に入手を試みたのだが,本当にあっという間に売り切れてしまったようで,これが正式リリースされると聞いた時には喜び勇んで予約を入れたのであった。早々と売り切れた理由が"With Special Guest"と書かれたGeorge Harrisonとのセッションであることに疑いの余地はないだろう。

しかし,結果は主題の通りである。正直なところ,完成度の高いテイクもあれば,没テイクになって当然のような演奏もあって,玉石混交って感じが強い。そして,何より痛いのがGeorge Harrisonとの共演によるシナジーも何も感じないってところか。私はBob Dylanのアルバムはそこそこ保有しているが,決してコアなファンとは言えない。このアルバムを購入したのはあくまでもGeorge Harrisonゆえなのである。この程度じゃねぇ...って感じるのが筋ってところである。

ディスク1の冒頭から聞こえるDavid Brombergのギターの音で,おぉっ,これは結構いいのではないかと思ったのだが,後が続かないのだ。Offical Bootlegのシリーズはそれぞれに聞きどころもあるのだが,本作に関しては私は全然魅力を感じないし,全然面白いと思えなかった。やっぱり本作は相当のファン向けと言ってよいものであるが,George Harrisonのファンにとっては,う~むとならざるを得ない出来。星★★★。記録として貴重なのは認めるが,これを聞くぐらいなら手許にあるアルバムをちゃんと聞きますわ。残念。

Recorded on March 3-5, May 1, June 1-5,August 12, 1970

Personnel: Bob Dylan(vo, g, p, hca), David Bromberg(g, dobro, mandolinb), Al Kooper(p, org), Emanuel Green(vln), Stu Woods(b), Alvin Rogers(ds), Hilda Harris(vo), Albertine Robinson(vo), Maeretha Stewart(vo), George Harrison(g, vo), Bob Johnston(p), Charlie Daniels(b), Russ Kunkel(ds), Ron Cornelius(g), Buzzy Feiton(g), Harvey Brooks(b)

2021年3月 9日 (火)

R+R=Now: ジャズ・クラブでこんな音楽をやられたら痺れちゃうよなあ。

_20210307 "Live" R+R=Now(Blue Note)

Robert Glasperのやる音楽には,"Black Radio"を筆頭に素晴らしい作品が多い。Robert Glasperの生み出すグルーブが何とも心地よく,私のような年代のリスナーにさえ,実に訴求力が高いのだ。しかし,私もRobert Glasperの追っかけをやるところまではいっていないので,この変わった名前のグループの初作は買ってもいないし,聞いてもいなかったのだが,これにはなぜか反応してしまった。

その理由としては,このライブが録音された時期に,私は違うバンドでRobert Glasperの生に接していたことが大きい。その時はDerrick HodgeとChris Daveとのトリオだったのだが,そのグルーブに痺れていたからである。1か月近く,Robert GlasperはBlue Note NYに連続出演していたはずだが,このライブ盤もその時のものであるとすれば,Robert Glasperも相当気合いを入れて臨んでいたはずだからである。そして,ここに収められたコンテンポラリーで,時としてメロウなグルーブに触れてしまえば,これは痺れる。

このバンドにおいては,Robert Glasperに加えて,Taylor McFerrinとTerrace Martinがシンセを弾いており,それによりサウンドはかなり濃密なものになっていると思うが,それは音の分厚さというより,グルーブやアトモスフィアを生み出すためのもののように感じられる。鍵盤奏者としてはあくまでもRobert Glaspmerが主役であり,結構弾きまくっている。そしてこの音楽のムードを高めるのが,Christian Scottのラッパである。エフェクターを通した音が,実にここでの演奏にマッチしていて,このグループのサウンドにおいてChristian Scottが重要な位置づけにあることを強く感じる。私にとっては,これはEast Villageのちょっと尖った音って感じがするが,これは私の嗜好にずっぽしはまってしまった。

いずれにしても,こんな音楽がBlue Noteという狭い空間で演奏されていたと想像するだけで,私はオーディエンスに嫉妬してしまう。私にとっては"Black Radio"を凌駕するところまではいかないとしても,やはりRobert Glasperは優秀,そしてバンドのメンバーも優秀である。以前,Robert Glasperが使っていたMark Collenbergというレベルの低いドラマーと違って,ここでドラムスを叩くJustin Tysonは実にナイスなミュージシャンなのもよかった。星★★★★☆。ラストに収められた長尺の"Resting Warrior"で昇天確実。

それにしても,Reflect+Respond=Nowというバンド名はよくわからん(苦笑)。そして,このバンドをジャズにカテゴライズすることは不可能って感じであるが,これって好きだなぁ。

Recorded Live at Blue Note NY

Personnel: Robert Glasper(key), Christian Scott aTunde Adjuah(tp), Terrace Martin(synth, sax, vo, vocoder), Tayler McFerrin(synth), Derrick Hodge(b), Justin Tyson(ds), Omari Hardwick(spoken word)

2021年3月 8日 (月)

出張の道すがらに読むには丁度よかった姫川玲子シリーズ。

Photo_20210306163001「オムニバス」誉田哲也(光文社)

このブログで取り上げたことはないが,姫川玲子を主人公とするシリーズは,ついつい買ってしまう私である。今回は7編からなる短編集で,こういう本は出張の移動中に読んでしまえるというもので,その気楽さが丁度よい。

まぁ,短編集なので,いつものようなエグい感じはないし,あっさりしたストーリーと言えばその通りだが,主人公,姫川玲子の発するつぶやきが結構笑える感覚あって,地方出張の移動時間で読み終えてしまった。やっぱりこのキャラクターと姫川玲子を取り巻く登場人物の造形は面白いと思う。姫川玲子の直感が当たり過ぎだろうってのは感じつつ,星★★★☆ぐらいとしておこう。

読んでいて,姫川玲子を演じた竹内結子は亡くなってしまったが,2代目には誰がいいのかなぁなんて思っていた。

2021年3月 7日 (日)

これまたよく出来ている須川崇志Banksia Trioの第2作。

_20210306 "Ancient Blue" 須川崇志Banksia Trio(Days of Delight)

私は昨年のベスト作の1枚としてこのトリオの第1作を選んだが,実に優れたトリオ,そして優れた音楽だと思っていた。そんな彼らの第2作が早くもリリースされたので,大きな期待を持って聞いたのだが,その期待は裏切られることはなかった。今回のアルバムも実によく出来ている。

私は前作について「緊張感に満ちた美学」と評したのだが,その感覚は本作においても引き継がれていて,私はスローな曲における「間」に惹かれてしまう。今回もBill Evansゆかりの"Blue in Green"から始まるが,こういう風にやるかというかたちのアレンジには一瞬戸惑う。しかし,何度か聞いていると,そうした感覚は薄れていき,こういうのもありだと思えてくる。だが,私にとっては,このアルバムの真骨頂は2曲目以降ということになる。

ここでの演奏は,静謐で清冽な感覚に満ちているが,緊張感がゆるむことはなく,全編を通じてテンションが維持されているのは見事というほかない。3人のオリジナルも優れたものだが,それに加えてAyub Ogadaの"Kothbiro"や安田芙充央の"Song for Nenna"のような曲を取り上げることに,このトリオの審美眼とセンスのよさを強く感じる。

第1作に感じた驚きは薄れたが,それでもこのレベルの高さは認めなければならない。こういうアルバムを1日で仕上げてしまうことにこのトリオの実力が表れていると言ってもよいだろうし,ライブではどんなことになってしまうのかと思わざるをえない。星★★★★☆。

Recorded on July 29, 2020

Personnel: 須川崇志(b, cello,el-b,mbira, bells),林正樹(p),石若駿(ds, perc)

2021年3月 6日 (土)

これもストリーミングで聞いた,驚きの選曲のJoachim Kühnのソロ・アルバム。

Touch-the-light "Touch the Light" Joachim Kühn (ACT)

先日,ストリーミングで音楽を聞いていたら,ピアノ・ソロで"Fever"がプレイバックされて,誰?と思ったらJoachim Kühnだったので,へぇ~と思っていたのだが,その"Fever"も収録されたJoachim Kühnの新作ソロ・アルバムである。しかもバラッド・アルバムで,Joachim Kühnというともっと剛腕って感じがする中で,ここでは実に優しくピアノを弾いている。

ACTのサイト情報によれば,これはJoachim Kühnの宅録のようで,思い向くままに自宅でDATを使ってレコーディングされたらしい。驚かされるのはその選曲である。実に多岐に渡っていて,Joachim Kühnがこんな曲をやるのかと目が点になるようなレパートリーなのだ。

"Fever"や"Stardust",そして”Blue Velvet"のような曲,更には納得の”Last Tango in Paris”や,Kühnのオリジナルに混じってやっているのが,Mal Waldron,Milton Nasciment,Joe Zawinul, Bob Marley, 更にはPrince等である。Zawinul作は"A Remark You Made",Prince作はなんと"Purple Rain"をやっている。それに加えてベートーヴェンの交響曲7番の2楽章なんてのもやっているし,最後はBill Evansの”Peace Piece”で締めるのだから,これを見ただけで大概の人は驚くはずだ。それを実に美しいタッチで弾いていて,さすがのJoachim Kühnも70代半ばにして,こういう世界に向かったかと思ってしまった。ベートーヴェンが全然浮いていないのも結構凄いことである。本人も楽しみながら弾いているようなので,ここにはピアノを弾く喜びみたいなものを感じる。

これがJoachim Kühnのピアノの本質ではないとは思えるが,たまにはこういうリラックスした演奏もしているのねぇってのが実に面白かった。とにかく驚きのアルバムではあったが,聞くに値する音源である。星★★★★。う~む,これも買ってしまいそうだ...。

Recorded in August 2019, May & October 2020

Personnel: Joachim Kühn(p)

2021年3月 5日 (金)

ストリーミングで聞いたBen Monder~Tony Malaby~Tom Raineyのライブ盤:実に面白い。

Monder-malaby-rainey "Live at the 55 Bar" Ben Monder / Tony Malaby / Tom Rainey(Sunnyside)

先日,Fred Hersch入りのSteve LaSpinaのアルバムにBen Monderが入っていて,Webをうろついていたら,Ben Monderの新譜が出ていたので,ストリーミングで聞いてみた。ベースレスのギター,サックス,ドラムスという編成もユニークなら,サックスがTony Malabyではこれは気になる。

Tony Malabyがちょっと気になっていたのはもう10年以上前のことである。その後,あまり追い掛けている訳ではないが,フリー系のサックスとしては意識しておくべき人だと思う。でも最後に買ったTony Malaby参加作はLiberation Music Orchestraの"Time/Life"のはずだから,相当ご無沙汰してしまった。

それはさておき,上記の3人がNYCの55 Barで演奏した時のライブ盤であるが,レコーディングは2020年の3月3日であるから,コロナ禍がじわじわと来る直前,あるいは米国ではそろそろ感染が広がりつつある時期だったかもしれない(因みに,私はその頃,アリゾナに出張していたのだが...)。55 Barと言えば,私はMike SternかWayne Krantzを見に行くと決まっているようなものだが,Ben Monderがレギュラーで出ていることも知っていたので,時間さえ合えば見てみたいとは思っていた。しかし,Ben Monderは通常アーリー・セットに出ていたはずなので,ちょいと時間が合わず,生では見ていない。

いずれにしても,55 Barという場所とBem Monderってどうもイメージが違うって気がしないでもないが,あの場所でこのアルバムに収められているような音楽をやっていたのかぁと思うと実に興味深い。出てくる音楽は,まさにアンビエント+フリーなのだ。Ben Monderはアンビエント的な音とフリーな音を出していて,そこにTony Malabyがサックスで切り込み,Tom Raineyが煽るという実にユニークな音楽なのだ。完全インプロヴィゼーションのような曲名(日付をタイトルにした組曲)だが,その割に構成に破綻がないのが立派である。

激しい展開になると,もはやノイズ・ミュージックか?みたいな感じになる瞬間もあるが,きっちり聞ける音楽になっているのが,この人たちの実力の表れと言ってよいだろう。実にユニークで面白い音楽。媒体を買うほどではないかもしれないが,聞いて損はないと思う。でもやっぱりこれなら買いかなぁ(笑)。星★★★★。もう1回聞いてから考えようっと(爆)。

Recorded Live at the 55 Bar on March 3, 2020

Personnel: Ben Monder(g), Tony Malaby(ts, ss), Tom Rainey(ds)

2021年3月 4日 (木)

FourplayはやっぱりLee Ritenourの時がよかった...。

_20210228-2 "The Best of Fourplay" Fourplay(Warner Brothers)

Fourplayの1stアルバムがリリースされたのが1991年だから,もう30年も前のことになるってのはちょっと信じ難い。しかし,私もそれだけ歳を取ったってことである。1991年には私はNYC在住中であったが,盛んにWQCD(CD101.9)でエアプレイされていたのも懐かしいし,私もいの一番でアルバムを買って楽しんでいた。そんな感じだったので,帰国後,彼らが移転前のBlue Note東京に出演した時に,アメリカ時代の友人と観に行ったのも懐かしい。

後に,FourplayのギタリストはLee RitenourからLarry Carltonを経てChuck Loebへと引き継がれる訳だが,私はほぼすべてのFourplayのアルバムを保有しているからこそ言いたいのは,結局のところ,いつも聞いているのはRiternour在籍中のアルバムばかりということである。Chuck Loebはそこそこ行けていたと思うが,私はLarry Carltonはこのバンドに合っていなかったと思っている。やっぱりFourplayはLee Ritenour時代が一番よかった。極論すれば,Lee RitenourあってのFourplayなのだ。少なくとも私にとっては...。

本作はLee Ritenour在籍中の曲に新曲を加えてリリースされたベスト盤である。これが最近アナログで再リリースされたのには驚いたが,やっぱりこの時代が売れるのかなぁなんて思ってしまった。聞いて頂けばわかるが,何とも曲が粒ぞろいだし,演奏のレベルも実に高い。これぞFourplayって感じで,今聞いても全然古びた感じはしないのが素晴らしい。実によくできたコンピレーションだと思う。ってことで,私の日常生活への貢献度の高さも含め星★★★★★としてしまおう。

Chuck Loebが亡くなった後はKirk Whalumを入れてFourplayを名乗ってライブを乗り切ったこともあるようだが,それはもうFourplayではないと思うのは,きっと私だけではあるまい(きっぱり),

Personnel: Bob James(p, key), Lee Ritenour(g), Nathan East(b, vo), Harvey Mason(ds), Take 6(vo), El DeBarge(vo), Chaka Khan(vo), Phil Collins(vo), Dan Shea(key)

2021年3月 3日 (水)

今更ながらなのだが,Beatles。

_20210228 "Please Please Me" The Beatles(Parlophone)

子供のころから洋楽を聞いてきて,Beatlesの曲にはほとんど触れてきているはずである。まだオーディオ・セットを保有していない頃には,FMでBeatlesの番組をやっていると,エア・チェックしまくって,知らない曲はないか?なんて思っていたぐらいだ。彼らの公式に発表された曲はかなりの割合でそうして聞いていたはずだ。どうしても放送されなかったのは"Revolution #9"ぐらいではないか(笑)。

それはそうなのだが,私がBeatlesのアルバムとしてちゃんと聞いてきたのは"Rubber Soul"以降なので,初期のアルバムは保有していても,実はちっとも聞いていないというのが現実なのだ。しかし,子供時代の努力の甲斐もあって,曲は全部知っている(笑)。

今後も私にとってBeatlesは"Rubber Soul"以降中心というのは変わらないとしても,やっぱりちゃんとアルバム単位で聞こうという気持ちもあり,今日は本作である。

とにかく懐かしいというか,初々しいというかって感じである。それでもおぉっ,こういうのもあったねぇなんて懐かしい気持ちになってしまったってのが正直なところである。まだ初期のアルバムなので,カヴァー曲も含まれているが,"Twist And Shout"なんてライブでも重要なレパートリーになっていたのだから,やはりこういうところからちゃんと聞かなきゃダメだよねぇなんて改めて思った私である。

でも,このアルバムでBeatlesというバンドの才能を今の私が感じるとすれば,"P.S. I Love You"のような気がする。こういう曲をものにしていたということが,単なるロック・バンドではないということのそもそもの証だと思えた。

それにしても,ほとんど歌えてしまったところに,私の人生に対する彼らの影響度の大きさを改めて思い知らされたなぁ。このブログではBeatlesの音源についてはほとんど触れていないというのが実態だが,これを機に振り返りモードもあるかもなぁ(笑)。

2021年3月 2日 (火)

Fred Herschが客演したSteve LaSpinaのアルバム。

_20210227 "Distant Dream" Steve LaSpina(SteepleChase)

Fred Herschのファンとして,彼の参加した作品も聞いてみようってことで,何枚か仕入れたうちの一枚がこれである。昨今はヴォーカリストのアルバムで伴奏する客演が中心のようなFred Herschであるが,ここではコンボとしての演奏に全面参加である。

まぁ,ここでのリーダーであるSteve LaSpinaとFred Herschは,本作にも参加しているJeff HirshfieldとE.T.C.というトリオでアルバムも残しているので,このアルバムはE.T.C+2みたいなものである。その+2のうちの一人がBen Monderなのだから,これはかなり気になる。もう一人は以前,このブログでWayne Krantz参加作として紹介したJay Andersonの"Next Exit"で褒めたBilly Drewes(記事はこちら)なのだから,非常に興味深いメンツである。だからと言って,このジャケでは購買意欲はそそらない(きっぱり)。

このアルバムは全曲,Steve LaSpinaのオリジナルで占められているが,そこでFred Herschは楚々としたピアノを弾いている。このアルバムが吹き込まれた頃は,Fred HerschはNonesuchから結構アルバムをリリースしていた頃で,自身の活動で結構忙しかったと思う。そこはE.T.C.の縁で参加したというところだろうが,こういう編成でのFred Herschはあまり例がないので,私としてはへぇ~って感じであった。Fred HerschはまさにFred Herschらしいのだが,私が更に面白いなぁと思ったのがBen Monderである。

今やBen Monderはアンビエントか,はたまた音響系かみたいな演奏ぶりが個性になっていると私には思えるが,ここでは極めて真っ当なジャズ・ギターのプレイぶりなのだ。ちゃんとこういう演奏もできるんだねぇってところに感心してしまった。Ben Monderの90年代のプレイぶりに興味が湧いてきた...。

全体を通して聞けば,なかなかSteve LaSpinaの書く曲はリリカルな響きがなかなか魅力的で,結構楽しめてしまった。まぁ,Fred Herschの参加なかりせば,聞いていなかったであろうということで,点もついつい甘くなり星★★★★。

Recorded in September, 1997

Personnel: Steve LaSpina(b), Billy Drewes(ts, ss, cl), Ben Monder(g), Fred Hersch(p), Jeff Hirshfield(ds)

2021年3月 1日 (月)

YouTubeに上がっていたJulie Andrews初来日時の模様。

気まぐれでJulei Andrewsのライブ盤を聞きながら,Webサーフィンをしていたらこの映像を見つけてしまった。あぁ,これってTBSで特番でやってたやつだなぁと思って,懐かしく見てしまった。二谷英明が司会兼通訳みたいな感じでやっているが,通訳としてはかなり適当でも,二谷が結構真っ当な英語を喋っていたという記憶があった。今聞いても,二谷英明の英語はかなりまともである(笑)。ただ,シナリオがあった上で通訳っぽくしてようなのは,今となっては...であるが,もはやそれは時効ってことにしよう(笑)。

ここで演じられている曲は1977年の来日時のライブとほぼ同じはずで,それを追体験するには格好の映像である。1977年当時はホーム・ヴィデオなんてものは我が家にはなかったから,私はこの番組を音だけ録音したと記憶しているが,それにしても懐かしい。この映像ではライブ盤に入っていない"Somewhere"が歌われているのが貴重だが,そう言えばライブでは歌っていたなぁなんて思ってしまう。ついでに言っておけば日本語で歌う「ドレミの歌」はカンペ付きとは言え,かなりいい線行っている。彼女の耳のよさはこういうところで明らかなのだが,それにしても懐かしい,私が高校1年の頃の映像である。この映像がネット上にアップされていたことだけで感動してしまった私であり,この映像が残っていてよかったというのが正直なところ。本当に素敵なライブであり,わが青春の一コマである。

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