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2021年2月28日 (日)

福盛進也のアルバムは,日本からのECMへの回答のようにさえ思える詩的な作品。

Another-story "Another Story" 福盛進也(Nagalu)

ECMから福盛進也がアルバムをリリースした時はびっくりしたものだ。名前も聞いたことがないミュージシャンがいきなりECMからリーダー作ってどういうことって思ったが,そこに感じられる美学にはなるほどと思ったのが約3年前(記事はこちら)。その後,日本のライブ・シーンでも名前は見掛けていたが,私としては追い掛けていた訳ではない。しかし,ここに来て,ブログのお知り合い方がこのアルバムを取り上げていて,そうなると当然気になった私は即購入である(苦笑)。

このアルバムをリリースしたNagaluは「流」という字が充てられているが,福盛進也が自身で立ち上げたレーベルらしい。Webでの情報によれば,福盛進也がこのレーベルを立ち上げたのは,「ECMではできなかったことをやりたかった」からだそうである。私も主題にそういう感じで書いたが,それは私の第一印象に基づくものであり,あくまでも偶然の産物である。だが,そうしたWeb上の情報に触れるとなるほどと思ってしまうが,レーベルのコンセプトは「日本やアジアのアイデンティティをバックグラウンドにもつ新しい音楽を生み出す」だそうである。

私がこのアルバムを聞いていて思い起こした言葉は「幽玄」であったのだが,静謐な曲においては,能を舞うかのような感覚を覚えたと言ってもよい。だが,強烈に日本的かと言えば,必ずしもそうではないと思うが,ECM的ではあってもちょっと違う(そもそも音が違うが...)というところだろうか。初期のPat Metheny Groupをちょっと想起させる"Flight of a Black Kite"のような曲もあるが,基本は静謐な世界が展開される。陳腐な表現を恐れずに言ってみれば,わび,さびの世界を音で表現したってところか。とにもかくにもここでの美学には筋が通っているのである。福盛進也はManfred Eicherの徹底ぶりに対して,「僕のイメージをマンフレートに理解してもらえないもどかしさがずっとありました」なんて言っているので,Eicherともめた末,Eicherの怒りを買って,一時期全部廃盤化されたRichie Beirachのようにならなきゃいいけどと思ってしまうが,それは余計なお世話か。

いずれにしても,日本のレーベル,日本のミュージシャンが自らこうしたアルバムを生み出したことには素直に驚かされるとともに,この一貫した世界観は実に見事と言うしかないと思う。敢えてモノラル録音にするところにもこだわりが感じられる。リリースされたのは昨年だが,私にとっては,これまでのところ今年の最大の収穫と言ってもよいのではないかと思える作品。この詩的な世界にはまると抜け出せなくなりそうな驚きのアルバムである。星★★★★★。

それにしてもパッケージにも凝っていて,ジャケにエンボス加工を施してあったりするので,これでは単価が上がっても仕方ないと思ってしまうな。

Recorded on August 22-24, 2020

Personnel: 福盛進也(ds),林正樹(p),佐藤浩一(p),藤本一馬(g),Salyu(vo),北村聡(bandneon), 田辺和弘(b),西嶋徹(b),青柳拓次(vo, g),小濱明人(尺八),蒼波花音(as),甲斐正樹(b)

2021年2月27日 (土)

Art Farmerを久しぶりに聞く。

_20210224”Yesterday's Thoughts” Art Farmer(East Wind)

私はArt Farmerのアルバムについては大した枚数は保有していない。リーダー作は多分6枚で,そのうち3枚はAtlantic,残り3枚はEast Windである。East Windの中では,一番プレイバック頻度が高いのは"The Summer Knows"だと思う。East Windの残りの2枚はちょっと取り出しにくい場所にあるので,あまり聞いていないのだが,棚をごそごそやっていて,久しぶりに手に取った次第。

これと”To Duku with Love"は同じタイミングで中古で入手したと記憶している。紙ジャケ盤ではあるが,帯なしなので,結構安かったはずだ。思うに中古CDはかなり値崩れを起こしていて,以前に比べれば,アホみたいな値段をつけることは減っていると思う。まぁ,大概の音源がストリーミングで聞けてしまうのだから,それも時代の流れってところだろうが,そもそもこっちはほとんどショップにも行っていないしねぇ...。所謂「大人買い」をするような年代の私たちが,そもそもの購買意欲が減退していては,CDも売れなくて当然という気もする。

それはさておき,このアルバム,買ってから聞いたのは1回か2回だと思うが,印象としては"The Summer Knows"に近いような気がする。いかにものArt Farmerのフリューゲルを支えるのは,"The Summer Knows"同様,Cedar Waltonトリオなのだから間違いないところだ。Art Farmerのフリューゲルはそこはかとない哀愁を感じさせるところが,日本人の琴線をくすぐるのではないかと思うが,また,Art Farmerにぴったりの選曲って感じなのは伊藤潔,伊藤八十八という優れたプロデューサー・コンビによるところだろう。

”Namely You"なんて結構珍しい曲もやる一方,タイトル・トラックはBenny Golsonのオリジナルだが,これが実にArt Farmerにフィットしていると思える佳曲。本当にBenny Golsonはいい曲を書くねぇと改めて思わされる。また,ラストをスウィンギーにCedar Walton オリジナルの"Firm Roots"で締めるってのも趣味がいいねぇ。夜,くつろぎながら聞くには丁度いい一枚。星★★★★。

Recorded on July 16 &17,1975

Personnel: Art Farmer(fl-h), Cedar Walton(p), Sam Jones(b), Billy Higgins(ds)

2021年2月26日 (金)

”Tarzana Kid”:全く売れなかったらしいが,この軽渋さがいいのだ。

Tarzana-kid "Tarzana Kid" John Sebastian(Reprise)

私が長年聞いているアルバムである。何せ,このアルバムにはLittle Featの"Dixie Chicken"が収録されているが,私は本家よりこっちの方を先に聞いていたのだ。私はアナログもCDも保有しているが,アナログの方は確か従兄からもらったもの。売れなかったことを象徴するようなカット盤(笑)。だが,参加しているミュージシャンや,やっている音楽を考えれば,もう少し売れてもよかったのではないかと思わせる軽くて,渋くて,味わいのあるアルバムだと思う。まぁ,クレジットではA-4とB-4の曲が間違って記載されているが,何とも適当だが,そんなことは一切気にならない。

アルバムで言えば,A/B面双方味わいがあって楽しめるのだが,私は大概の場合,A面を聞いていたような気がする。B面には2曲のインスト曲があるってこともあったかもしれないが,やはりA面の5曲のJohn Sebastianの声の響きが何とも心地よかった記憶がある。だが,今回聞き直してみて,B面もそれなりによかったねぇなんて思っていた。

いずれにしても,アメリカ音楽好きが見たら,これはっと思うに違いないメンツが魅力的。こういうメンツが集まれば,こういう音になるだろうって感じになっているのが素晴らしく,期待が裏切られることはない。Lowell George然り,Ry Cooder然り。何年経ってもいいものはいいのである。ラストの"Harpoon"の,後のフュージョンの走りみたいなファンクっぽさには違和感がない訳ではないが,このアルバムはやっぱり好きだなぁ。星★★★★☆。

Personnel: John Sebastian(vo, g, banjo, dulcimar, hca, autoharp, marimba), Amos Garrett(g), Lowerll George(g, vo), Ry Cooder(g, mandolin), Russell Dashiell(g), Jerry McKuen(g), Ron Koss(g), Buddy Emmons(steel-g), Kenny Altman(b), Milt Holland(ds), Jim Gordon(ds), Bobby Hall(perc), David Grisman(mandolin), David Lindley(fiddle), Richie Olsen(cl), Pointer Sisters(vo), Emmylou Harris(vo), Phill Everly(vo)

2021年2月25日 (木)

何年も寝かせてしまったKyung Wha Chungのバッハ無伴奏。

_20210221-3 ”Bach: Sonatas & Partitas" Kyung Wha Chung (Warner Classics)

このCDがリリースされたのは2016年のことである。私はかなり早い時期にこのアルバムを入手していたはずだが,ブログに記事もアップしていないし,ちゃんと聞いた記憶もない。何をやってるんだかって気もするが,ついついそういうエアポケットに落ちたアルバムとなってしまったと言ってもいいかもしれない。

私の亡くなった父がヴァイオリンを弾いていたこともあり,遺品には結構多くのヴァイオリン作品があった。前にも書いたが,父の好みと私の好みは全然違っていたが,それでもヴァイオリンの作品を聞くようになったのは父の影響がないとは言えない。そういうこともあり,私がかなり初期に買ったレコードにはHenryk Szeryngのバッハの無伴奏があった。今となってはなんで?って気もするが,そういう音楽も高校時代には聞いていたのだ。

それから幾星霜,時は流れて,私が保有するバッハの無伴奏の全曲盤はGidon KremerのECM盤だけになっていたと思うが,そこに現役としてレコーディングを再開するKyung Wha Chungの復活を祝って,このアルバムも購入したはずである。それでもなんでこんなに長期間「寝かせてしまった」かについては,「たまたま」としか言えない。まぁ,既にDeccaにパルティータ2番とソナタ3番は吹き込んでいたし,後に発掘された東京でのライブでも演奏していたが,重要なのは全曲録音ってことだ。

多くの人が彼女に抱くイメージは「シャープ」,「パッション」,あるいは「アグレッシブ」っあたりが妥当ではないかと思うが,長きに渡る隠遁生活から復帰して,どう変わるかには当然注目する。私は2013年に彼女のリサイタルも聞きに行っている(記事はこちら)が,それ以上にこのアルバムへの期待値は大きかったはずなのだ。結果的には円熟という表現しか見つからないが,往年の切れ味の鋭さよりも,落ち着いた感じがするする。まぁ,彼女の年齢を考えれば,そうなるのも当然で,以前と同じようにとはなることはないとしても,これはこれで立派な演奏だと思った私である。今更ながらではあるが,これを生で聞きたいと思ってしまった。星★★★★☆。

Recorded on February 19-21, March 24-26, April 3-5 and May 30-June 1, 2016

Personnel: Kyung Wha Chung(vln)

2021年2月24日 (水)

クロゼットの奥からギターによるColtraneトリビュートを取り出したものの....。

_20210221-2

”A Guitar Supreme: Giant Steps in Fusion Guitar” Various Artists(Tone Center)

こんなのも持っていたなぁってことで,久しぶりに聞いたアルバムである。日頃はクロゼットの奥に潜む3軍アルバムである。なんでそうなるのかを改めて聞いてみて考えようということでの登場である(笑)。

正直言って駄盤である。John Coltraneに対してフュージョン的にトリビュートするというのはわからない訳ではないが,表面的なトリビュートがいかに浅はかなものであるかがすぐに露呈する。全然面白くないのである。結局のところ,John Coltraneのレパートリーをフュージョン・ギタリストが束になってカヴァーしましたってのがこのアルバムだが,君たち,本当にJohn Coltrnaeを尊敬しているのかい?って言いたくなるような演奏ばかりで,がっくりくる。

そもそもTone Centerレーベルから出たトリビュートものを仕切っているのがJeff Richmanなのだが,リーダー・アルバムもろくなものではないこの人がプロヂュースしたって,面白いものができる訳ないと思ったのは,後になってからのことだ。私としてはちょっと面白そうだなぁと思って買ったのに全然面白くなかったというのがこのアルバムである。まぁ,当時はストリーミングで聞いてから買うということはできなかったので,取り敢えず気になるアルバムは買うというスタンスだったのも今は昔。現在であったら,ストリーミングで試聴していれば絶対買っていないアルバムとしか言いようがない。

いくらMike Sternが2曲弾いているからと言って,こんなものを聞くぐらいならマイキーのアルバムをちゃんと聞くわ!と毒づきたくなるまじでしょうもないアルバム。リズム・セクションは軽いし,そもそもJohn Coltraneに対するリスペクトが希薄なのが許せない。買った私が馬鹿だったっと言いたくなるアルバム。こんなものは無星で十分だが,国内盤までリリースされていたってことに,日本のレコード会社の審美眼を疑いたくなる最低の作品。実にくだらないこのような作品に,このようなタイトルをつけること自体が恥知らず。

Personnel: Eric Johnson(g), Jeff Richman(g), Steve Lukather(g), Greg Howe(g), Mike Stern(g), Frank Gambale(g), Robben Ford(g), Larry Coryell(g), Larry Goldings(org), Alphonso Johnson(b), Tom Brechlein(ds)

2021年2月23日 (火)

ECMにおけるShai Maestroのリーダー作第2弾。これも実によい。

_20210221"Human" Shai Maestro(ECM)

2018年にリリースされた"Dream Thief"も素晴らしかったShai Maestroであるが,ECMにおける第2作がリリースされたが,前作同様,実に美的なアルバムとなった。

前作はピアノ・トリオであったが,本作ではPhollip Dizackのトランペットが加わる。前にも書いたが,私はラッパのワンホーンってのが結構お好みなので,編成としても気になるところではあるが,それがECMというレーベルでどう機能するかは興味深いところであるが,結果的には大成功。今回のアルバムも静謐な響きの中に,素晴らしい歌心を感じさせるアルバムとなっているではないか。

私は出身地の音楽に根差したエキゾチズムを否定する訳ではないのだが,それが過剰になるとどうしても鼻につくという感じがある。単なる好みの問題ということかもしれないが,私にとってのその最たる事例がLionel Louekeということになってしまう。Lionel Louekeのファンには申し訳ないが,以前の記事にも書いた通り,もはやLionel Louekeのアフリカン・フレイヴァーは私としては生理的に受け付けないレベルなのだ。それに比べると,Shai Mestroの音楽はイスラエル出身とかを強調した感じのない音楽と言ってよく,実に受け入れやすく,聞いていて心地よい。Camila Mezaとの共演も素晴らしかったが,Shai Maestroが非常に多彩な音楽性を身につけていることが素晴らしい。

アルバムが基本的にShai Maestroのオリジナルで構成され,1曲だけスタンダードを加えるというのは前作と同様であるが,今回加えられているのが"In a Sentimentl Mood"である。Shai Maestroの書くオリジナルは,実に抒情的な響きを持つものであり,この手の音を好むリスナーにとっては心をえぐられるものと言ってもよい。それは私にも当てはまり,これはかなりいいと思える。ただ,一点ケチをつけるならば,そのスタンダード,"In a Sentimental Mood"の扱いだろう。明らかにこれは余計にいじってしまったって感じが強い。まぁ,普通にはやりたくはないというのはわからないでもないが,ここでのアレンジは「奇をてらった」と言われても仕方がない。これはもったいなかったと思う。ということで,それが減点材料ではあるが,総体的にはいいアルバムだと思う。"In a Sentimental Mood"は気に入らないが,ちょっと甘めの星★★★★☆としよう。

Recorded in February, 2020

Personnel: Shai Maestro(p), Jorge Roeder(b), Ofri Nehemya(ds), Phillip Dizack(tp)

2021年2月22日 (月)

今,"Sun Bear Concerts"をアナログで聞く喜び。

Sun_bear_concerts "Sun Bear Concerts" Keith Jarrett(ECM)

Keith Jarrettが病気により,演奏活動に復帰することが難しくなった今,この10枚組がアナログで再発されることには象徴的な意味があるように思える。それは先般リリースされた"Budapest Concert"の装丁が通常のCDと異なっていたこととも相通ずる部分を感じてしまう私である。

それはさておき,私はこのアルバム,既にCDで保有しているのに,なぜまたアナログで改めて購入するのか?と聞かれれば,特段の理由はなく,ただ単に「聞きたかったから」と答えるしかない。このアルバムがリリースされた当時,私はまだジャズを聞き始めて間もない頃であったし,Keith Jarrettの発する「声」に違和感を感じていて,その魅力に全然気が付いていない頃である。随分後になってからKeith Jarrettの音楽にはまっていった私であったが,CDでも十分に楽しんでいたのだから,バカ高いコストを支払って,アナログを買うのは馬鹿げていると言われてしまえば,反論の余地はない。

だが,米国内におけるアナログの売り上げがCDを上回ったこともあって,アナログの魅力が改めて認識されつつあるのは事実だし,ECMもCD,アナログ,ストリーミングのリリース・パターンが増えてきているので,そうした流れの中での再リリースだったのかもしれない。しかし,アナログ・マスターからのアナログ・マスタリングというこだわり,全世界2,000セットという限定リリースとなると,ここで買わなければ一生買えないという思いもあっての購入となった。

これから時間をかけてプレイバックして,その魅力を再確認していきたいと思うが,CDがある意味コンサートの模様を通しで聞けるよさはあるが,家庭内でそれだけ集中を継続することは難しいし,アナログであれば,片面25分程度と聞く方の集中も途切れないというよさがあって,新たな発見ができるのではないかと思いたい。早速,「京都」を聞いたのだが,やっぱりいいねぇ。美的であること,クリエイティブであることをうまくブレンドした演奏である。値段は高かったが,元を取ったと思えるまで聞きこまねば(笑)。

それにしても,レコードが取り出しにくいのは何とかならないものかねぇ(爆)。また,再生に問題はないものの,ちょいと反っているのもなんだかなぁ。

Recorded Live on November 5, 8. 12, 14 and 18, 1976

Personnel: Keith Jarrett(p)

2021年2月21日 (日)

久しぶりに映画を観に行った。今回は「すばらしき世界」。

Photo_20210216175701 「すばらしき世界」(’21,Warner Brothers)

監督:西川美和

出演:役所広司,仲野太賀,橋爪功,梶芽衣子,六角精児,北村有起哉,白竜,キムラ緑子,長澤まさみ,安田成美

久しぶりに映画を観に行った。昨年最後に観たのが「テネット」でほぼ4ヶ月ぶりである。コロナの影響で,洋画の公開も次々と延期になる中,さて何を観たいのかと思っても,これはってのがなかなかない中,今回,西川美和の新作とあっては行かない訳にはいかない。前作「永い言い訳」は見逃した私だが,西川美和には相当の期待をしてしまうのがこれまでの常である。非常に平均年齢層の高い観衆に紛れる私も高齢者みたいなものだが,更に上の層が多かったようにも思う。

役所広司はほとんど出ずっぱりみたいな感じであるが,ポスターにもあるように,「この世界は生きづらく,あたたかい」というのがぴったりな内容であり,刑期を終えて娑婆に出た三上正夫を演じる役所広司の生きづらさと,主人公を取り巻く人々のあたたかさを示した映画となっていた。以前,映画「悪人」を観たとき,出てくる人物がほとんど悪人で,主人公の妻夫木聡が一番の善人ではないかと書いたことがあるが,この映画には,若干の例外を除いて,三上正夫を取り巻く人は善意の人ばかりなのだ。例外に含まれるのが長澤まさみだってのが,西川美和らしいと思う。また,一般人の心に潜む悪意も描いていている訳だが,そうしたところに善悪の判断基準の曖昧さを示していると思える。特に現代においてはその曖昧さが更に際立ち,いかにも善人のような人が,ネット上で匿名で誹謗中傷を繰り広げることとついつい結びつけながら見ていた私であった。

この映画は「ゆれる」のような人間心理をあぶり出したものではないが,社会の不条理を実によく描いていて,やっぱり西川美和は大したものだと思ってしまった。出演者はそれぞれに魅力的な造形であるが,私がしびれたのが,福岡の極道のおかみさんを演じるキムラ緑子。もちろん役所広司もよかったし,ほかの役者陣も実によかった。ラストの仲野太賀は泣かせてくれた。シナリオ的にこのシーンの決着は?ってところもない訳ではないが,非常に優れた映画と評価したい。星★★★★☆。

2021年2月20日 (土)

Chick Coreaの音楽を振り返る際,絶対避けて通れないLost Quintet。

_20210218”Miles in Berlin 1969" Miles Davis(Bootleg)

Chick Coreaと私の接点を振り返ってきたが,公式盤を基本にするのは当然なのだが,どうしてもブートを避けて通れないものもある。それがMiles Davisの所謂Lost Quintetである。このクインテット,Milesの歴代のバンドの中でもカッコよさでは最高と思わざるをえない,化け物みたいなバンドであったにもかかわらず,公式スタジオ音源が残っていなかった(後にアンティーブでのライブとかは発掘されたが...)という何とも不思議なバンドであった。

私もブートレッグの深みにはそれほどはまっている訳ではないが,それでもMiles Davisについては,結構買ってしまったなぁというのが正直なところであり,Lost Quintetものも何枚か保有している。このバンドにおいては,Chick CoreaはRhodesしか弾いていないが,Rhodesでなければ,音は埋没したに違いないし,アコースティック・ピアノはこの音楽には合わないことは言うまでもない。

当然のことながら,ブートの世界にはまっていったのはだいぶ後になってからのことなので,後追いでこういう音楽を聞いてきた訳だが,何十年経とうが,彼らの音楽の持つ刺激は不変であり,このカッコよさには今でも痺れてしまう。バンド全体もそうだが,Chick CoreaのRhodesは,メロウ・グルーブとは異なる世界でRhodesかくあるべしと思わせる音である。

Chick Coreaの修行時代と言ってもいいかもしれないが,Miles Davisにもまれたこともあって,後のChick Coreaの音楽が生まれたのだということを強く感じるLost Quintetである。もちろん,これだけでなく,Filmoreもちゃんと聞くべきであり,時代の興奮を追体験することも,Chick Coreaの音楽を振り返る上では不可欠だと思う。この演奏の翌々日のロッテルダムでのライブ(それに関する記事はこちら)を以て,このクインテットは解散するので,爛熟のLost Quintetと言うべきだろう。最高である。

Recorded Live at Philharmonic Hall, Berlin on November 7, 1969

Personnel: Miles Davis(tp), Wayne Shorter(ts, ss), Chick Corea(el-p), Dave Holland(b), Jack DeJohnette(ds)

2021年2月19日 (金)

ついつい優先順位を下げてしまう第3期RTF。

_20210217"Live: The Complete Concert" Return to Forever(Columbia)

Chick Coreaの音楽との付き合いが長くなっても,どうしてもプレイバック頻度が上がらないアルバムというのはあるものである。人間には好き嫌いがあるから,それは当然のことなのだが,私の中で優先順位が低いのが第3期のRTFである。正直言ってしまうと"Musicmagic"はいまだかつて保有したこともない。食わず嫌いと言われればその通りなのだが,このライブ盤も昔はLPで保有していたが,あまりちゃんと聞くこともなく売ってしまったが,今は「一応」CDで保有はしている。しかし。プレイバック頻度は極めて低いものであった。

だが,今回,Chick Coreaの訃報を受けて,過去の様々な音源を聞き返している中で,これも聞いてみたのだが,これが私の思っていた以上に楽しめてしまったというのを告白せねばなるまい。このアルバム,LPでは4枚組と言うヴォリュームであったはずだが,私の保有しているCDも3枚組である。その物量に腰が引けたっていうのが正直なところだと思っている。それに加えて,第2期とのギャップの大きさも以前の私には気になっていたはずだし,Gayle Moranの声も私の抵抗感を高めたはずである(苦笑)。ついでに言っておくと,Stanley Clarkeの歌もあまりいけてない(爆)。

だが,よくよく考えてみると,RTFだと思うから違和感があるのであって,この当時のChick Coreaはバンド編成を拡大していた頃であり,指向がそういう方向を向いていたのだと思えばいいのだと,今更ながら感じてしまった私であった。今回,このアルバムを久しぶり(本当に久しぶり)に聞いてみて,全然違和感がないことに逆に驚いてしまった。結局は好みの問題だったのねぇって思ったのだが,こういう演奏を目の前でやられたら,やっぱり興奮したんだろうなぁって思ってしまった。

このアルバムが収録されたのはNYCのUnion Squareに近いPalladiumだったのだが,私も一回だけPalladiumには行ったことがあるはずである。キャパは3,000人を越えるので,ジャズ系ではなかったはずだが,誰を観に行ったのかがどうしても思い出せない。まぁ,30年近く前なので,記憶が曖昧になるのも仕方がないが,それでもあぁ,あそこねって言えるのは若干の特権であろう。そのPalladiumももうそこにはないというのも時代の流れである。私がNYC在住中に通ったヴェニューも生き残っている方が少ないようにも思うが,それも仕方ないのかなと思わざるをえない。そんなノスタルジーすら感じさせるアルバムであった。星★★★★。

Recorded on May 20 &21,1977

Personnel: Chick Corea(p, key), Stanley Clarke(b, vo), Gayle Moran(vo, org, key), Joe Farrell(ts, ss, fl, piccolo), Gerry Brown(ds), John Thomas(tp, fl-h), James Tinsley(tp, fl-h), Jim Pugh(tb), Harold Garrett(b-tb, tuba), Ron Moss(tb)

2021年2月18日 (木)

Chick Coreaの第2次マイブームは90年代前半であった...。

Beneathe-the-mask "Beneath the Mask" Chick Corea EleKtric Band(GRP)

私がChick Coreaの音楽に最もはまっていたのは大学時代であるが,その後はどうだったかと考えると,その後一番熱心に聞いていたのは90~92年のNYC在住中ではないかと思う。私は暇さえあれば,City Hallの傍にあったJ&R Music Worldに出没してはCDを買っていた。NYCに着いて,アパートメントを借りた後,いの一番にしたことがオーディオ・セットを買い揃えることであったし,PCを準備するよりオーディオが先だったっていうのも実に私らしい。在米期間は2年弱という短いものだったが,結局その間に購入したCDは350枚ぐらいだったと思うが,その間に購入したChick Coreaのアルバムもそこそこあるはずだ。税金は高くても,単価は圧倒的に米国の方が安かったからなぁ。

Winter-garden_20210216190101 そうした期間において,Chick Coreaの新作としてリリースされたのが本作であり,あとはAkoustic Bandのライブ盤があった。先日の記事にも書いた通り,私はこの期間において,Elektric BandとAkoustic Bandのライブに現地で接することができたのだが,生でも聞きたいと思わせるところが彼らの音楽にはあったと思っている。Akoustic BandはWorld Financial Center内のWinter Gardenで無料ライブがあるのを見逃す私ではなかった(笑)。インターネットがない時代でも,そういう情報収集にはかなり力を入れていたのだ(笑)。因みにWinter Gardenはこんなところってことで写真もアップしておこう。こんなところなので,無茶苦茶ライブな音場での演奏だったように思う。

今にして思えば,”Beneath the Mask"は従来のElektric Bandよりもポップな感覚が強かったように思うが,それでも十分に魅力的なアルバムだったと思う。時代を反映してシンクラビア炸裂って気もするしねぇ。正直言ってしまえば,後追いで買った"Eye of the Beholder"のよりアコースティックに近い感覚の方が私の好みではあるのだが,それでもこれはこれでよかったと思っているし,何よりもBottomlineで観た彼らのライブが実に強烈であった。Chick Coreaはショルダー・キーボードでメンバーと高速でユニゾンしまくるというのを眼前で繰り広げられて,興奮するなって方が無理である。ライブではアルバムよりはるかにタイトな演奏を展開していたと思っているが,今やそのBottomlineもなくなってしまったし,Chick Coreaは世を去ったというところに約30年の月日の流れを感じざるをえない。

このジャケも今にして思えば,Dire Straitsの"Money for Nothing"のミュージック・ヴィデオのパクりのような気がしないでもないが,そういう時代だったってことで。星★★★★。

Personnel: Chick Corea(key), Eric Marienthal(as, ss), Frank Gambale(g), John Patitucci(b), Dave Weckl(ds, perc)

2021年2月17日 (水)

私の第一次Chick Coreaマイ・ブームは82~83年ぐらい。

Trio-music_20210215183301 "Trio Music" Chick Corea / Miroslav Vitous / Roy Haynes(ECM)

Chick Coreaの急逝を受けて,私の人生における接点を振り返る4回目。高校時代からChick Coreaの音楽は聞いていたが,本格的に彼の音楽にはまっていったのは私が大学に入ってからのことであり,その第一次のピークは主題の通り,1982年から83年の頃だと思う。その頃,リリースされたアルバムは大体リアルタイムで購入し,先日も書いたように83年には2回ライブを見に行っている。その契機となったのは若干遡って,80年にリリースされたGary Burtonとのデュオ・ライブであったと思っている。だからブログ開設後10日目にそれを取り上げていることは,私にとっての重要度を示している(記事はこちら)。

当時の新譜を購入しながら,Chick Coreaの旧作アルバムもせっせと入手していた私だが,その頃,最もプレイバックしていたのは”Friends"であったと思う。私が"Friends"を好きだってことは,ブログを始めた2007年の段階で書いているし,その気持ちは今でも変わらない(記事はこちら)。その頃と言えば,"Three Quartets"がリリースされた頃でもあるのだが,"Three Quartets"も買うことは買っていたが,あまりプレイバックしていなかった。当時の私はあまりMichael Breckerが好きではなかったので,敢えて軽視していたという天邪鬼であったし,"Three Quartets"よりも"Friends"を聞いていればいいと思っていたのだ。今でも”Friends”は好きだが,そのようには思っていないので念のため。

当時,新譜としてリリースされたのは"Three Quartets"のほか,今日紹介のトリオ作,"Touchstone",そして"Lyric Suite"あたりになるが,そのほかにもアルバムは出ていたから,多作ぶりはその当時から明らかであった。この"Trio Music"は"Now He Sings, Now He Sobs"トリオの復活作だった訳だが,この頃には"Now He Sings, Now He Sobs"もLPで入手していたはずだ。そして,この"Trio Music"は2枚組で,1枚目がフリー・インプロヴィゼーション,2枚目がThelonius Monk集という変わった構成であったのも懐かしい。正直言ってしまうと,当時はMorislav Vitousのベース音もあまり好かんとか言っていて,文句の多いリスナーだった私だが,Monk集ではそういうVitousの音が多少抑制されるようにも感じていたのかもしれない。今やそれもVitousの音も全く問題なくなったが,好き嫌いをはっきりさせ過ぎるというのは若気の至りであった。そもそもフリー・インプロヴィゼーションに対する耐性も高くなかったので,私もまだまだ修行が足りなかったのである(笑)。

今回,このアルバムを久しぶりに聞いて,こんなアルバムだったかなぁなんて思いを新たにしたが,実を言ってしまうと,今の私にとってはMonk集よりもインプロヴィゼーションで演じされたLPなら1枚目の方が面白かったのだから,人間どう変わるかわからない。1枚目と2枚目のギャップのようなものをもっと楽しむべきだったかなぁなんて感じであった。星★★★★☆。

いずれにしても,この頃出たアルバムにおいても,Chick Coreaの音楽の多様性は感じられるものであり,ある意味何でもありみたいなところに私は惹かれていたのかもしれないと思ってしまった。その後もChick Coreaの音楽との接点は,つかず離れずのような状態で保たれていくが,その後についてはまた改めて書くことにしよう。

Recorded in November, 1981

Personnel: Chick Corea(p), Miroslav Vitous(b), Roy Haynes(ds)

2021年2月16日 (火)

リアルタイムでChick Coreaを聞いたのはこのあたりから。

Hh-and-cc"An Evening with Herbie Hancock and Chick Corea in Concert" Herbie Hancock & Chick Corea(Columbia)

Chick Coreaが亡くなって,彼の音楽との接点を振り返る3日目が本作である。Chick Coreaのリーダー作を初めてリアルタイムで買ったのは,おそらく"The Mad Hatter"なのだが,そちらは既に記事にしてしまった(記事はこちら)。”The Mad Hatter"においては,"Humpty Dumpty"と"The Mad Hatter Rhapsody"にしびれた私であったが,後者におけるHerbie Hancockとの共演が,今回取り上げるライブ盤の契機になったのか,逆なのかはよくわからない。いずれにしても本作がリリースされた頃は相当話題になったことは間違いのない事実である。

彼らは日本にも来て,確か武道館でライブをやったのではなかったか。高校生の私はFMで中継された模様をエアチェックして聞いていたように記憶するが,このアルバムを聞いていただけかもしれない(加齢により記憶が曖昧...)。しかし,当時のジャズ界では大きな話題になっていたので,本作がリリースされた時には,やはり聞いておかねばという感じだったと思う。ある意味SJ誌に煽られただけって気もするが...(苦笑)。

このアルバムを聞いて意外だなぁと思ったのはこの二人がGershwinの"Liza"のような曲をやっていたことだったが,昔の私はこの軽快な感じが実は好きだったなぁってところである。まぁ,ほかの曲はいかにもって感じであるし,予定調和だと言われればその通り。以前私は本作をLPで新譜として購入したが,その後,中古で売ってしまってからは全く本作とは縁のない生活を送ってきた。父の遺品のCDにはポリドールからリリースされたこのデュオのライブ盤もあったが,プレイバックすることはほとんどなかったし,本作については現在はHerbie HancockのColumbiaのボックス・セットに入っていはいるが,今回この記事を書くまで聞いたこともなかったのである。

まぁ,企画としてはありだったとは思うものの,それが驚くような成果に結びついていたかと聞かれれば,微妙...としか言いようがない。言わばお祭りみたいなものであって,これが彼らの音楽の本質,本領であるとは決して考えてはいけない。私にとっては通過点ということになるが,こういうのもありなんだなって思ったぐらいというのが正直なところ。彼らだけに演奏の質は高いとは思えるが,星★★★☆ってところだろう。

結局のところ,これを聞くよりも,ほかに聞くものはいくらでもあるというのが現在の正直な感想(きっぱり)。

Recorded Live in January and February 1978

Personnel: Herbie Hancock(p), Chick Corea(p)

2021年2月15日 (月)

Chick Coreaのアルバムで2枚目に買ったのは多分これ。

Crystal-silence "Crystal Silence" Gary Burton & Chick Corea(ECM)

主題の通りなのだが,高校生の私がChick Coreaのアルバムとして買ったのが本作だと思う。今や,結構な数のECMレーベルのアルバムを保有する私だが,そんなレーベルとの付き合い方が始まったのはこのアルバムが契機だったかもしれない。昨日アップした"Return to Forever"は国内ではポリドールから出ていたので,ECMとか全然意識していない頃だ。

このアルバムを初めて聞いたときに思ったのが,圧倒的に美的な感覚と言えばよいと思う。ヴァイブと言えば,Milt Jacksonとか思っていたところに,ここで聞かれるGary Burtonのヴァイブの音色との違いがもの凄いと思ったのがその頃。そうは言ってもMilt JacksonもMJQのMilt Jacksonとして"Last Concert"ぐらいしか聞いたことはなかったはずだが(苦笑)。

冒頭の"Senor Mouse"こそややスリリングな展開と言ってもよいが,それ以降のピアノとヴァイブというある意味同系統の音色ながら,それが絶妙にブレンドした演奏に,へぇ~と思っていたはずだ。そしてエレピではなく,アコースティック・ピアノで聞くChick Coreaの演奏にもいいねぇなんて思っていたはずだ。

今にして思えば,このアルバムの素晴らしさは,その選曲にあったと思える。Chick Coreaのオリジナルもよいが,Gary Burtonが持ち込んだであろうSteve SwallowやMike Gibbsの曲を聞いて,その趣味のよさ,審美眼に感心させられるのだ。そして,本作がその後の長きに渡るこの二人の初共演だったということ自体が重要なのだ。これぞ素晴らしき邂逅と言わずして何と言おう。真の「美学」というものを感じさせてくれたこのアルバムは,年齢を重ねた今の私にも訴求力が実に高い。星★★★★★。

Recorded in November, 1972

Personnel: Gary Burton(vib), Chick Corea(p)

2021年2月14日 (日)

私が初めて買ったChick Coreaのアルバム。

Rtf "Return to Forever" Chick Corea(ECM)

Chick Coreaの突然の訃報に接し,自分がChick Coreaとどのように接してきたかを考えてみると,最初に買ったChick Coreaのアルバムが本作のはずだ。ジャズを聞き始めて,何から聞けばいいのかわからないという中で,当時参考にしていたのが,スウィング・ジャーナル主催の「ジャズ・ディスク大賞」の歴代の金賞受賞作であったり,その当時の上位選出作であった。私がSJ誌を買い始めたのは77年だったはずで,その年の金賞は”V.S.O.P”,銀賞は同点で3作,それもGJTのVanguardでのライブ,"Heavy Weather","Tales of Another"だったのも今にしてみれば,実に懐かしい限り。

そんなジャズ・ディスク大賞の過去の受賞作を眺めて,まずは聞いてみようと思うアルバムを買っていたのが高校時代であった。まだジャズの好みも確立せず,審美眼なんてありもしない,若干背伸びをしながらジャズを聞いていたあの頃って感じだ。そんな私だから「スピリチュアル・ネイチャー」なんて当時は全く理解不能な世界であった(爆)。今でもかなりハードルは高いものの,趣旨は理解可能な作品となった「スピリチュアル・ネイチャー」によって,当時の私はジャズに対してその段階で挫折していたかもしれないと言ってもよい。それに対して,1972年度の金賞受賞作である本作は,実にわかりやすいというか,初心者の私にも受け入れやすい作品であったこともあり,ジャズという音楽のみならず,Chick Coreaというミュージシャンに対しての関心を高めるきっかけになったと言ってもよい。しかもこのジャケである。とっつきやすいのだ。

当時よく言われていたのは,Chick Coreaがこのアルバムのような音楽に転じたのは,Circleのようなフリーのアプローチから,聴衆とのコミュニケーションを重視するためだったというようなことだったと記憶している。おそらくそれは”Piano Improvisation Volume 1”の裏ジャケにある”This Music Was Created Out of the Desire to Communicate and Share the Dream of a Better Life with People Everywhere."という一文に基づくものだったと考えられるが,それをCircleの「失敗」と当時のSJ誌では評していたように思う。だが,CircleはCircleで狙いはあったはずであるから,Chick Coreaがどう思っていたかはよくわからないが...。

それはさておき,このアルバムの素晴らしさは既に語りつくされているところであり,私が今更どうこう書くのもなぁって気がする。いずれにしても,親しみやすいメロディ・ラインを持ちながらも,タイトル・トラックや"La Fiesta"に代表されるスリリングな展開を並存させ,誰しもが受け入れやすい音楽を作り出したことの意義が大きく,そうした意味では”This Music Was Created Out of the Desire to Communicate and Share the Dream of a Better Life with People Everywhere."という言葉は,このアルバムにこそ当てはまると言ってもよいのではないかと思えるし,そういう価値を持っていた。

そして,私にとってこのアルバムが影響したのは,私のエレピ好きはこのアルバムから始まったのだろうということである。振り返れば,ストレート・アヘッドな演奏にさえエレピが使われる時代ではあったが,私がジャズにおいて,これだけのエレピに接したのはこのアルバムが初めてだったと思う。そうした意味でも,私の音楽的な嗜好に大きな影響を与えたものであった。

本作を端緒として,Chick Coreaのアルバムを入手していく私であったが,高校時代の小遣いで買えるアルバムは限界があった。その頃に買ったのは"Crystal Silence"ぐらいで,本格的に買い始めたのは大学に入ってからのことになるが,深みにはまっていくのは結構早かったなぁって気がする。そこに至る道筋としては,浪人中に授業にも出ず,ジャズ喫茶で本を読みながら,音楽を浴びて,様々なジャズのスタイルを理解しつつ,過去のChick Coreaのアルバムもリクエストして,買うか買わないかの判断をしていたのも懐かしい。繰り返しになるが,私のこれまでの音楽鑑賞生活においても,今にして思えば重要な役割を果たしていたアルバムということになる。そして,本作がリリースされてほぼ半世紀になるという恐るべき事実。Airtoのドラムスがやや時代感を帯びているとは言え,今でも全然問題なしに聞けてしまうところが素晴らしい。星★★★★★。

Recorded in February, 1972

Personnel: Chick Corea(el-p), Joe Farrell(ss, fl), Flora Purim(vo, perc), Stanley Clarke(b), Airto Moreira(ds, perc)

2021年2月13日 (土)

追悼,Chick Corea。

Chick-corea-photo

まさに突然の訃報であった。Chick CoreaのFBページによれば"from a rare form of cancer which was only discovered very recently”とあるから,本人も自覚することなく,病魔が進行していたと想像される。つい最近までFBにも演奏する模様がアップされていたし,病気を感じさせるところは全くなかった。だからこそ衝撃も大きい。

私はかつて,Chick Coreaに相当入れ上げていて,保有しているアルバム数も,上位に入るミュージシャンである。その多岐に渡る演奏スタイルはどれも刺激的であり,魅力的であるというChick Coreaの音楽性には本当にしびれていたのが大学生の頃である。そうは言っても,最近はアルバムが出てもストリーミングで済ませることがほとんどになっていて,最後に買ったのは,CDとしては限定で出たホリデイ・アルバム,"Flying on the Wings of Creativity"ってのが象徴的なのだ。これも結局珍しいから買ったって感じであり,その程度の付き合い方になっていたということである。しかし,近年,ライブに行く回数が増えてくると,Chick Coreaのライブにも行くようになっていた。今,思い出すと私が行ったChick Coreaのライブは順番は怪しいところもあるが,次のような感じだ。

  1. Gary Burton + 弦楽クァルテット@中野サンプラザ(1983)
  2. Return to Forever(Al Di Meola, Stanley Clarke, Lenny White)@中野サンプラザ(1983)
  3. Trio Music(Miroslav Vitous, Roy Haynes)@オープンシアターEAST(1986)
  4. Akoustic Band(John Patitucci,Dave Weckl)@Winter Garden(1991,Free Concert)
  5. Elektric Band(Eric Marienthal, Frank Gambale,John Patitucci,Dave Weckl)@Bottomline NY(1992)
  6. John McLaughlin Duo@Blue Note NY(2016)
  7. Elektric Band(メンツは5と同じ)@Blue Note東京(2017)
  8. Trilogy Trio(Christian McBride,Brian Blade)@Blue Note東京(2019)

振り返ってみれば大した回数ではないが,どのライブも今でも印象に残っている。途中間があいたものの,ここ数年はライブに行く機会が増えて,何度か彼の演奏を観られたのは今にして思えば幸せなことであった。このライブ・リストにも感じられる多様性こそがChick Coreaの凄いところだと思う。そして,アルバムも本当に多様であり,やや濫作の気はあったものの。多くの場合において多彩かつ高質な音楽であったというところには今更ながら驚かされる。

そんなChick Coreaが残したアルバムの中では,私にとってはチューリッヒでのGary Burtonとのライブこそが最高傑作だと思っているが,そのほかにも多くのアルバムで楽しませてくれた。訃報に接してから,仕事の傍ら,Chick Coreaの音楽をずっと聴いていたのだが,どれも相応に魅力的であり,そして本当にいろいろな音楽をやってきたのだなぁと思っていた。

ジャズ界はまた一人偉大なミュージシャンを失ってしまったが,Chick Coreaの業績には疑問の余地はないし,彼の音楽がこれからもずっと聴き続けられることは間違いない。私のジャズに対する嗜好の一部を確実に作り出したChick Coreaには改めて感謝し,哀悼の意を表したい。

R.I.P.

2021年2月12日 (金)

誘眠効果抜群のTerry Riley(笑)。

_20210209 "A Rainbow in a Curved Air" Terry Riley(CBS)

久しぶりにTerry Rileyを聞いた。この人の音楽は何とも形容しがたい印象を与えるのが常であるが,これは後のシンセサイザーによる音楽の先駆けって気がする。そして,極端な言い方をすれば,音色的にはワールド・ミュージック的になっていくJoe Zawinulの音楽の源流って気もする。Terry Rileyはミニマルと言われることもあるが,私の感覚では元祖アンビエント・ミュージックって感じだ,そうした意味ではその後の音楽に結構な影響力を持つものだったと言ってもよい。

その一方,私は大体の場合において,Terry Rileyの音楽を聞いていると睡魔に襲われる。それは悪いことではなく,心地よい眠りに誘ってくれるのだ。鑑賞対象と言うよりも,なだらかに時が経過していく感覚を与える音楽だと思う。

Rainbow-in-a-curved-air しかし,このアルバムのオリジナル・ジャケットは何とも強烈。この写真を見ると,ついつい江頭2:50を思い出してしまうのは私だけだろうか。私が保有しているのは上の再発盤のCDだが,オリジナルの方は購入意欲は湧かないよなぁ。でも再発盤のピンクもどうなのよって感じで,どっちもどっちだが(爆)。

Personnel: Terry Riley(key, perc), Glen Kolotkin(ss)

2021年2月11日 (木)

紆余曲折を経て,ようやく入手したJoni Mitchell Archives Vol.1

Jma1"Joni Mitchell Archives Volume 1 (The Early Years 1963-1967)" Joni Mitchell (Rhino)

私がかなりのJoni Mitchellのファンであることは,このブログにも書いてきた。なので,このアーカイブ・シリーズが立ち上がることも記事にした(記事はこちら)。そして,極力早く入手すべく,Joni Mitchellのサイト経由でこのボックスを発注していた。

しかしである。リリースされてから1か月経っても届かない。業者にメールで問い合わせても反応最悪,更にその1か月後,改めて問い合わせたら,今度は全くの無反応である。コロナ禍の影響もあるだろうし,ストリーミングで聞けるからいいやと思っていたので,気長に待っていた。しかし,そろそろリファンドをリクエストしないといけないと思っていたのも事実。そして,先日紹介したJoni Mitchllのアルバム・ガイドを読んでいたら,やっぱり現物で聞くべきだと思い始めて,値段も手ごろだったこともあり,Amazonに発注したのであった。もし,ダブったらまた考えればいいやと思いながらである(苦笑)。

そして,現物がAmazonからデリバリーされたその日,米国の業者から,パッケージ・ロストにつき,リファンドするというメールが届いた。これでダブりの可能性はなくなったし,お金は戻ってくるのだが,本来早期予約者がもらえるはずだった特典は得られずということになったのは残念ではある。まぁそうした紆余曲折を経てようやく入手したので,気合いを入れて聞くことにしよう(笑)。

いずれにしても,このアーカイブ,今回はVolume 1ってことで,今後も続くものと思うので,その都度楽しみが増えることが待ち遠しい。

2021年2月10日 (水)

Dino Saluzziのピアノ曲集:現代音楽的なところは感じられない,純粋に美的なピアノ音楽。

_20210206 "Imágenes - Music For Piano" Dino Saluzzi / Horacio Lavandera (ECM New Series)

Dino SaluzziはECMでもお馴染みのバンドネオン奏者だが,彼が書いたピアノ曲を集めたアルバムがこれである。弾いているのはDino Saluzziと同郷のHoracio Lavandera。このピアニストについては,よく知らないが,日本でのライブ盤も残しているようなので,それなりに知られた人なのかもしれない。ティーンエイジャーにしてデビュー作を録音しているから,相当早熟のプレイヤーと言ってもよいかもしれない。

ECM New Seriesは,古楽と現代音楽を並存させたりして,実にユニークなアルバムを多数生み出しているが,これは「現代ピアノ曲」としての位置づけのものと思われる。しかし,現代音楽にありがちなアブストラクトな感覚はここにはなく,実に美しいピアノ音楽になっている。私は古楽も現代音楽もどっちも好んで聞いているが,こういうのもいいねぇと思ってしまう。ある種のロマンティシズムさえ感じさせる曲が並んでいるが,それをECMらしい音で聞かされたら,大体まいってしまうと思うのだ。

しかし,その一方で,このアルバムがどういう層のリスナーに訴求力があるのかと考えると,若干微妙なところがある。現代音楽として突き抜けた感覚はないし,ラテンの土着性を感じさせるかと言えば,そういうこともない。純粋に美しいピアノ音楽と言えば聞こえはいい訳だが,その一方で,中途半端ではないのかという指摘も成り立ってしまうのが辛いところである。もちろん,それをDino Saluzziの音楽の多様性/多面性と捉えることももちろんできるが,人それぞれに捉え方は変わることは仕方がない。

私としては演奏には文句はないが,そのあたりがこのアルバムの評価の難しいところだと思う。それでも星★★★★にはしてしまうのだが...(笑)。

それにしても,ライナーに写るDino Saluzziは強面のおっさんであるが,こういう人がこういう美しい音楽を書いてしまうところが実に面白いねぇ。

Recorded in October 2013

Personnel: Horacio Lavandera(p), Dino Saluzzi(composer)

2021年2月 9日 (火)

最近立て続けに入手した音楽関係書の話。

Books

最近,立て続けに音楽関係の本を入手。まぁ,Patti Smithの「Mトレイン」は音楽書と言うよりも,ちゃんとした文学と言ってもよいので,Patti Smith教信者の私としては,襟を正して読むしかない(きっぱり)。

それとJoni Mitchellのアルバム・ガイド,そして一部で話題の「50年後のアルバート・アイラー」。この3冊の中で一番気楽に読めるのはJoni Mitchellのアルバム・ガイドなので,風呂で読み進めているところ(笑)。一番難儀なのは一部のフォントが小さいアイラー本。500ページ超の大冊というのも風呂で読むには厳しいねぇ(爆)。

2021年2月 8日 (月)

SSWにはブラック・ホークの99選以外にもいいアルバムはあるってことで,今日はJesse Colin Young。

Together "Together" Jesse Colin Young(Raccoon)

Freeman & Lange以来,最近とみに高まるSSW熱である。そのベースとなっているのが「ブラック・ホークの99選」であることは間違いない事実なのだが,そこから派生して,99選に入っていないアルバムも聞き直している私だ。そんな私が今回選んだのがJesse Colin Youngのこのアルバム。

このアルバム,どこで買ったのか記憶が曖昧なのだが,学生時代,帰省した実家から三宮のレコ屋巡りに出て,見つけたものだったような気がするが,それも自信がない。あるいは従兄からもらったものだったか...。

Jesse Colin YoungはYoungbloodsからソロに転じて,長いキャリアを持つ人で,今でも現役でやっているみたいだ。実を言うと,私はJesse Collin Youngのアルバムはこれしか保有していない。彼の音楽にはまるってこともなかったのだが,このアルバムは実はかなり好きである。まず,私が惹かれるのが,この手作り感溢れるジャケの絵である。当時の奥方のSuzi Youngが描いたこのジャケの雰囲気はアルバムを反映したものと言ってよいと思っている。軽快で,小難しいところがなく,聞いていて幸せな気分になってしまうのだ。

正直なところ,私は通常,渋いSSWに魅力を感じるクチなのだが,その系統からはこのアルバムはちょっと外れると言ってもよいかもしれない。それでも,このアルバムに感じる魅力は長年ずっと変わらないし,実にいいアルバムだと思える。そんなアルバムだから,これまでもたまにプレイバックはしていたが,今回聞いてもその感覚は変わらず。やっぱり好きなのだ。

決してメジャーではないし,あまり知られていないアルバムと言ってもよいかもしれないが,ブラック・ホークの99選に入っていなくたって,いいものはいいのである。SSWのアルバムであれば,もっといいと思うものがあるが,私の愛聴盤ということで星★★★★☆としよう。本当に感じのいいアルバム(笑)。

Personnel: Jesse Colin Young(vo, g, b, as, ts), Scott Lawrence(p), Jeffery Meyer(ds), Richard Earthquake Anderson(hca), Peter Childs(dobro), Eddie Ottenstein(g), Jerry Corbit(vo), Suzi Young(vo), Ron Stallings(horn), John Wilmeth(horn)

2021年2月 7日 (日)

Joni Mitchellも参加したベネフィット・コンサートのライブ盤。まぁ珍盤ではあるな。

Stormy-weather "Stormy Weather" Various Artists(AT&T)

このアルバム,珍盤と言ってよいものだと思う。なぜなら公的にリリースされたものではなく,AT&Tのユーザ(長期契約者?)に配られたものだからである。しかし,その内容は注目に値するものであるから,今回取り上げてみよう。

私はこのアルバムにJoni Mitchellが参加していることを知って,何とか手に入れたいなぁなんて思っていたのだが,eBayであっさり入手できたはずだ。今でも結構eBayには出品されているから,決して入手は難しくない。しかも安値である。それはさておきなのだが,このCD,Don Henleyがコーディネートして,Walden Woods Projectのベネフィットを目的として開催したコンサートのライブ盤である。Don Henleyは自分でもコンサートに出演したりもしているが,今回はこのコンサートの裏方みたいなものだろう。因みに,私も在米中にWalden Woods Projectのベネフィット・ライブをMadison Square Gardenに観に行っているが,その時はDon Henley,Billy Joel,そしてStingというとんでもないトリプル・ビルであった。実はそこで本当にDon Henleyのソロ曲の魅力にはまってしまったのも懐かしい。

そして,このライブは西海岸,LAのWiltern Theaterにおいて,10人の女性ヴォーカリストがフル・オーケストラをバックに,古いスタンダードを中心に歌うというものであった。Joni Mitchellはその最後に,タイトル・トラックを歌っている。後にJoni Mitchellはオーケストラをバックに歌うという”Both Sides Now"と"Travelogue"を作っているが,本作もその2作もアレンジャーはVince Mendozaってことで,このライブがのちのアルバム制作の契機になったのかもしれないなんて想像してしまった。

出演している人たちは有名な人とそうでもない人さまざまだが,聞いていて思ったのはStevie Nicksはこういう曲とか伴奏には合わないなぁってことである。むしろ,Linda Ronstadtとか呼べなかったのかなぁなんて妄想してしまう私である。まぁ,企画アルバムなので星はつけないが,珍しいアルバムとして認識ておけばいいって感じである(笑)。

Recorded Live at Wiltern Theater on April 16, 1998

Personnel: Gwen Stefani(vo), Paula Cole(vo), Shawn Colvin(vo), Trisha Yearwood(vo), Sandra Bernhard(vo), Sheryl Crow(vo), Natalie Cole(vo), Stevie Nicks(vo), Björk(vo), Joni Mitchell(vo), Chuck Berghofer(b), Jim Cox(p), Peter Erskine(ds), Gary Foster(as), Mark Isham(tp), Plas Johnson(ts), Vince Mendoza(arr) with Orchestra

2021年2月 6日 (土)

聞くのはいつ以来かもわからないが,これって最高だと思ってしまった”Watkins at Large”。

Watkins-at-large"Watkins at Large" Doug Watkins(Transition)

このアルバムが復刻されたのはいつだったか定かではないが,これとかDonald Byrdのアルバムと一緒に購入したはずだ。CDの時代になって,多くのLPを売却し,CDに買い替えてしまったのは,今となっては失敗だったなぁと思うが,後悔先に立たずである。しかし,本作含め,LPで持っている方がよさそうだってのは残しておいてよかった,と言うか,CD化されるかどうかもわからないと思っていたってのが正直なところだが(苦笑)。

私がこのアルバムをプレイバックするのは一体何年振り?のような感じなのだが,久しぶりに聞いてみて,強烈にジャズを感じさせてくれて,大いに楽しんでしまった。何と言っても,往時のハードバップを演奏するのには,実に魅力的なメンツが揃っているし,このメンバーなら,もっとブローイング・セッションとなってもよさそうなところを,実に味わい深い演奏に仕立てているのが素晴らしい。ジャケにはライブ・レコーディングのように書いているが,録音時期や場所についての詳しいデータはどこにも見当たらない。しかし,帯によれば,56年12月8日の録音らしいが,まさにハードバップ黄金時代だと言いたくなる。

だが,このアルバムには,熱さよりも渋さを感じる私である。それは冒頭の”Phil T. McNasty Blues"から顕著なのだ。例えて言えば,Art Pepperの"Modern Art"と同質の渋さと言える。だが,このアルバム,A面は"Return to Paradise"からで,”Phil T. McNasty Blues"はB面って話もある。どっちが正しいのかは全くわからないが,ジャケに何も書いていないのだから仕方ない。しかし,こういうところに滅法こだわる日本のメーカーの復刻なのだから,私が保有しているLPの通り,”Phil T. McNasty Blues"で始まるのを正当としたい。

それにしても,Doug Watkinsは27歳という若さで亡くなってしまったらしいが,Sonny Rollinsの「サキコロ」やら,Lee Moganの"Candy"やら,JMの"Cafe Bohemia"やら,実にいい仕事ぶりの録音を残し,リーダー作としてもこんなにナイスなアルバムを残しているのだから,実に優れたミュージシャンだったのだろうと想像するに難くない。バッキングだけでなく,リーダーとしてもちゃんとしていたことを実証するアルバム。星★★★★☆。

Recorded on December 8, 1956

Personnel: Doug Watkins(b), Donald Byrd(tp), Hank Mobley(ts), Kenny Burrell(g), Duke Jordan(p), Art Taylor(ds)

2021年2月 5日 (金)

Red Norvo:スウィンギーなアルバム多数のFamous Doorレーベルだが,このジャケは...。

Red-in-new-york "Red in New York" Red Norvo Quintet (Famous Door)

Famous Doorにはなかなか魅力的なアルバムがあって,そのスウィング感は,ジャズ好きの心を結構くすぐるものだと思っている。Zoot Sims,Scott Hamilton,そしてButch Miles等のアルバムは私が長年愛聴してきたアルバムである。刺激に満ちたものではないかもしれないが,何ともくつろげるのである。

なので,中古盤屋でFamous Doorレーベルのアルバムを見つけると,ついつい手が出てしまうのだが,さすがにこれは躊躇した(爆)。LPサイズでRed Norvoのどアップでは,さすがに購入意欲をそそらないこと甚だしい。だが,出てくる音はいかにもFamous Doorらしいものであるから,ジャケに対する抵抗感さえなければ問題はない(爆)。

そうは言いながら,Red Norvoのヴァイブの音はヴァイブって言うより,ザイロフォンあるいはマリンバって感じなのが,ヴァイブの音に慣れたリスナーにはちょいと違和感があるかなぁって気もする。また,ベースはRichard Davisが弾いているのだが,これがFive SpotでEric Dolphyと共演した人か?と思わせるような保守的なプレイには面食らう。Richard DavisはロックやSSW系のアルバムでも演奏を聞けるが,ある意味何でもできてしまうということなのだろうが,ここでのプレイぶりには正直驚かされる。

それ以外の3人は完全にFamous Doorモードって感じであるが,Scott Hamiltonは本作吹込み時は22歳のはずだが,見事な若年寄ぶりである。Concordに初リーダー作を吹き込んだのと同時期であるが,最初からこうだったのねぇって感じの吹きっぷりである。甚だ余談だが,Scott Hamiltonの長男はOKAMOTO'Sのヴォーカル,オカモトショウだそうだ。親父と息子でやっている音楽が全然ちゃうやんけ!と思ってしまうが,それはまぁいいや。ピアノのDave McKennaとドラムスのConnie Kayは想定通りの演奏ぶり。

このジャケゆえ,滅多にターンテーブルには載らないが,気楽にスウィング感を楽しめることは間違いない。しかし,Famous Door盤の中ではどうしても優先順位が下がってしまうというアルバム。星★★★。でもやっぱりRichard Davisはミスキャストだと思う。

Recorded in 1977

Personnel: Red Norvo(vib), Scott Hamilton(ts), Dave McKenna(p), Richard Davis(b), Connie Kay(ds)

2021年2月 4日 (木)

一軍の棚にあっても,全然聞いていないアルバムも多数。今日はRed Garland。

_20210131-4 "Groovy" Red Garland(Prestige)

保有しているCDの枚数が増えてくると,限られた住居環境の中で,どのように整理をしようかというのは実に悩ましい。そもそも今,どれぐらいのCDを保有しているのかもはっきりしないのだが,それでも聞く頻度,あるいは聞きたいと思う頻度によって,CDは一軍,一軍半,二軍,三軍およびそれ以下みたいに分かれてくる。二軍まではアルファベット順に並べてあるので,ほぼすぐに取り出すことはできるが,三軍以下になると,クロゼットの奥深くで眠っている状態になったものは,一体どこにあるのか,たまに探索しないといけなくなる(爆)。

その一方で,一軍の棚に入っていても,全然聞いていないCDだってある訳で,このRed Garlandの代表作と言ってもよいアルバムだって,ここ数年,あるいは10年以上かもしれないが,全然プレイバックしていなかった。しかし,昨今のように新譜を買うことも少なりつつある現状においては,温故知新ではないが,自分の保有するCDを今一度ちゃんと聞き直してみないといかんという気持ちにもなる。単なる気まぐれと言われればその通りなのだが,家人に「一生かかっても一度もプレイバックしないCDがいくらでもあるんじゃないの?」というセリフに対抗するためにも,ちゃんと聞くことは大事なのだ(苦笑)。

Red Garlandについては,やはり1950年代が活動のピークと言われても仕方がないと思うが,リーダー作のみならず,ジャズの巨人たちとの共演作においても,きっちり足跡は残しているのは立派だと思う。Milesはもちろんのこと,Coltrane然り,Rollins然り,Art Pepper然りである。そんなRed Garlandのピアノを聞いていると,ジャズの心地よさというのはこういうところにあると感じさせるに十分。リラクゼーションという言葉はRed Garlandのためにあるとさえ言いたくなってしまうほどである。難しいところは全然ないが,じっくり聞くもよし,聞き流すもよし,酒を飲みながらだと更によしみたいなところを強く感じるアルバムである。

このアルバムに関しては,ドラムスにArt Taylorを据えたのは正解だと思える。Art Taylorは叩こうと思えば,かなり強烈に叩くこともできる人だが,分をわきまえた演奏をするところが,Red Garlandのピアノ・スタイルにフィットするのだと思う。そして,ここでも聞けるコロコロ転がるようなRed Garlandのピアノを聞いて心地よいと感じられないならば,その人はジャズとは縁がないと思ってしまうであろうというのが正直なところである。私なんかはこれを聞いていて,ついつい酒量が増えてしまったことを告白しておこう。星★★★★★。

こういうのを契機に日頃ないがしろにしている保有CDを改めて聞き直せば,新しい発見があるだろうと思えたアルバムであった。まさに温故知新である。

Recorded on December 14, 1956,May 24 and August 9, 1957

Personnel: Red Garland(p), Paul Chambers(b), Art Taylor(ds)

2021年2月 3日 (水)

Gil Evansと菊地雅章の共演盤を久しぶりに聞く。

_20210131-3 ”Masabumi Kikuchi + Gil Evans" 菊地雅章 with Gil Evans Orichestra(Emarcy)

何とも芸のないタイトルのアルバムではあるが,来日したGil Evansほかの面々が菊地を含む日本人ミュージシャンと共演したアルバム。Gil Evansには英国人ミュージシャンと共演した"The British Orchestra"というアルバムがあるが,企画としてはその先祖にあたるような作品と言ってよいかもしれない。逆にこうした企画が行われたことこそ,立派と言わざるをえない。

菊地雅章とGil Evansの共演と言えば,Public Theaterのライブという優れた作品があって,そっちこそGil Evansの最高傑作と評価する私は,ついついそちらに気を取られ,本作を「軽視」してきたのは事実である。しかし,改めて本作を聞いて,実に聞きどころのある作品だと思った。

ソロイストとしてBilly HarperとMarvin Petersonというオケでも重要なメンツを連れてきていて,本作でも2人の活躍は目立つし,菊地雅章のエレピも活躍しているが,日本人ミュージシャンとの共演がどういうことになるかこそが,本作のテーマと言ってよいと思う。まぁ,これだけ優秀なミュージシャンが集まっていれば,おかしなことになる訳はないというほどのメンツが集結している。しかし,誰が演奏しても,Gil Evans Orchestraの音になってしまうというところこそ,Gil EvansのGil Evansたる所以ではないか。もちろん,特異な楽器編成ってのもあるが,One & Onlyの音使いであることは間違いない。

菊地雅章のオリジナル「驟雨」を除けば,Gil Evansとしてはお馴染みのレパートリーが並んでいるが,スリリングなソロもあって,こんなに聞きどころがあったのかと,今更ながら思ってしまった自分の不明を恥じた。

一時期,私はGil Evansの音楽に入れあげていたことは,このブログにも書いたことがあるが,今にして思えば,70年代から80年代前半のGil Evansの音楽というのは実に創造的だったと思ってしまう。星★★★★☆。活動が陽の目を浴びたのはMonday Night Orchestra(MNO)だったかもしれないが,そこに至る道のりを改めて辿るのもいいかなとこれを聞いていて思ってしまった。ただ,似たようなレパートリーが多いのが難点ってところはあるのだが...(苦笑)。

 Recorded on July 5, 1972

Personnel: Gil Evans(arr, cond, p), 菊地雅章(el-p),Billy Harper(ts, fl, chime), Marvin Peterson(tp, fl-h), 峰厚介(あs,ss),鈴木重男(as, fl), 多戸幾久三(tuba),山本直(fr-h),松原千代繁(fr-h),篠原国利(tp, fl-h),鈴木武久(tp, fl-h),宗清洋(tb),中沢忠孝(b-tb),衛藤幸雄(piccolo, a-fl, b-fl), 中川昌三(piccolo, a-fl, b-fl),旭孝(piccolo, a-fl, b-fl),高柳昌行(g),中牟礼貞行(g),江藤勲(el-b),鈴木良雄(b),山口浩一(timpani),高橋みち子(marimba, vib),宮田英夫(perc),中村よしゆき(ds),富樫雅彦(ds)

2021年2月 2日 (火)

こんなのもありましたってことで,今日はCyrus Faryar。

_20210131-2"Cyrus" Cyrus Faryar(Elektra→Collectors' Choice)

昨今のブラッ・クホーク99選熱の高まりとともに,手持ちのSSW系のアルバムを「棚卸し」していて久しぶりに取り出したアルバムである。Cyrus FaryarはModern Folk Quartetを経て,ソロ・アルバムをリリースしている人である。もともとイラン系の人らしいが,ハワイでの生活が長いようなので,ここでもゆったりした音楽が展開されている。だが,先日取り上げたNorman Greenbaumのアルバムとは異質の「ゆったり感」と言ってよい。面白いのは参加ミュージシャンである。

冒頭の"Softly through the Darkness"のバックを務めるのはなんとOregonの面々である。もちろん,Ralph Townerも入っている。どういう縁での共演となったかはわからないが,Oregonっぽさってのはそんなに強く出ている訳ではない。そして,何曲かにコーラスが入るが,そこには結構大人数ががクレジットされていて,David Crosby,ママキャス,Bruce Johnston等の名前も見られる。全員が一度に参加したとは思えないが,あまりこの手のアルバムで聞けないタイプのコーラスと言ってもよいかもしれない。また,このアルバムはLA録音なので,Craig DoergeやRuss Kunkel等,いかにものミュージシャンも参加している。

正直ってしまうと,私にはこの人の比較的低音での歌い声はあまり魅力的に響いていないのだが,こういう声にフィットする音楽になっているということは言えると思う。波の音とかも入っていて,この感覚,やっぱりハワイっぽい。こういうのは自分の部屋で聞いているより,屋外で星でも見ながら聞くといいんじゃない?って感じがするアルバム。星★★★☆。

Recorded between Augsut 1970 and August 1971

Personnel: Cyrus Faryar(vo, g, b, bouzouki, saw, grass-hca), Ralph Towner(g, mellophone), Rodny Dillard(dobro), Dick Rosmini(g), Craig Doerge(p), Paul Harris(p), Glen Moore(b), Brian Garofalo(b, g, vo), John Horton(b), Russ Kunkel(ds), Mike Botts(ds), Colin Walcott(perc), Paul McCandless(eng-h, b-cl) with chorus

2021年2月 1日 (月)

Dieter Ilgが全編,アコースティック・ベースで通すフュージョン作

_20210131 "Summerhill" Dieter Ilg(Lipstick)

Dieter Ilgはドイツのベース・プレイヤーであるが,Marc Coplandとの共演でも知られるし,昨今はACTからリーダー・アルバムをリリースしている。正直言ってしまうと,この人のMarc Coplandとのアルバムは印象が薄いもので,このブログにも結構辛辣なことを書いている(記事はこちら)。なので,Dieter Ilgのリーダー作として私が保有しているのは本日取り上げる本作だけなのだが,そもそも購入動機は参加しているミュージシャンが私のツボにはまっていたからである。

だって,マイキーにBob Berg,Randy BreckerにJim Bear,そしてPeter Erskineなのだ。Peter Erskine以外は,私が非常に好きな"Chroma"参加の面々(そのアルバムに関する記事はこちら)で,それだけでもハードなフュージョンが想像されてしまうメンバーと言ってよい。

そして,冒頭の”It’s Getting Better"からエッジの立った音が聞こえてきておぉ,やっぱりとなってしまう。全編を通じてそういう感じだと言ってよいのだが,これらがすべてDieter Ilgのオリジナルで,しかも全編Dieter Ilgはアコースティック・ベースで通しているのがユニークである。ここでのサウンドからすれば,当然エレクトリック・ベースとなりそうなものだが,それをアコースティック・ベースでやってしまうところがDieter Ilgのポリシーなのだろうが,私としてはここはやはりエレクトリック・ベースの方がよかったのではないかと思ってしまう。

そうは言いながら,違和感なく仕上げていて,Dieter Ilgは非常に頑張ったということは認められるので,あくまでもそれは私の好みの問題とも言えるのだが,少なくとも使い分けるというオプションもあったはずだ。そこがこのアルバムの特長でもあるとしても,やっぱり私は考えてしまうのである。であるから,これを聞くよりChromaを聞く頻度が圧倒的に高くなってしまうのは仕方ないところ。ということで,悪くない出来だと思うが,私としては星★★★☆ってところ。

Recorded in May, 1991

Personnel: Dieter Ilg(b), Mike Stern(g), Bob Berg(ts), Randy Brecker(tp), Jim Beard(key), Peter Erskine(ds)

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