2019年の回顧:最後はジャズ編。
今年も押し迫ってきた。ということで,本日は今年を回顧するシリーズも最終回のジャズ編である。ほかのジャンル同様,CDを購入する枚数は減っているが,それでも一番購入したのはジャズのアルバムだろう。
そうした中で今年,実は一番優れていると思ったのはDave Holland / Zakir Hussain / Chris Potterによる"Good Hope"である。コンベンショナルなジャズからは一歩離れているとも言えるし,クリポタに本当に求めているのは"Circuits"で聞かせる音楽だったというのも本音なのだが,この三者が一体感を持って展開される音楽の素晴らしさは,一聴するだけでは掴みにくいところもあったのは事実なのだが,聞けば聞くほど感銘度が増すというアルバムであった。
次もコンベンショナルな世界からは大きくはずれるが,実によいと思ったのがVijay IyerとCraig Tabornによる"The Transitory Poems"である。この現代音楽的とも,フリー・ジャズ的ともいえる音楽における彼らの協調度と創造力は"Good Hope"にも相通ずる部分がある。このアルバムを取り上げた時には,一期一会的な演奏とも書いているが,特殊なセッティングの中で示すこの集中力は実に素晴らしく,感動的な響きだと思った。
一方,コンベンショナルなタイプのジャズにおいては, George Garzone,Peter Erskine,Alan Pasqua,Darek Olesのクァルテットによる”3 Nights in L.A." が実によかった。3日間のライブ演奏からいいとこ取りをした感じのこのアルバム,曲のダブり等があるところは改善の余地もあると言えるかもしれないが,実にレベルの高い演奏を聞かせてもらって,こういうのは生で聞いてみたいと思わされた傑作。日本の市場においてはほとんど目立っていないかもしれないが,もっと幅広いリスナーに知られて然るべき作品と思う。
ヴォーカルについてはほとんど聞いていない私だが,ライブでの演奏も込みにしてCamila Mezaの"Ambar"に尽きる。この人はヴォーカルのみならず,ギターの腕も実に見事なものであり,前作"Traces"も素晴らしかったが,本作ではストリングスも交えて,更に広い音楽性を聞かせるという点で,実に感心させられたし,ライブにおける演奏も素晴らしかったこともあり,ここに挙げておきたい。Camila Mezaはまだまだ一般的認知度は高いとは言えないが,間違いなく今後のシーンの中で輝きを放ち続ける人だと確信している。
発掘盤では,順当ならばJohn Coltraneの"Blue World"となるところであるが,私にとっては今年後半にリリースされたLookoout Farmの”Lookout Farm at Onkel Pö's Carnegie Hall" があまりに強烈過ぎて,こちらを取らざるを得ない。この興奮度,なかなか味わえるものではないと思うが,今でも現役でバリバリのDave Liebmanではあるが,往時の激しさ,キレっぷりは半端ではないところを聞けたのは嬉しかった。Richie Beirachなんて,後に聞かせるリリカルな響きとは真逆のような演奏であり,これが時代を映したものという考え方も可能なのかもしれない。とにかく興奮した!としか言えないアルバムである。
そして,最後に忘れてはいけないBrad Mehldauの"Finding Gabriel"である。Brad Mehldauという人は多様な音楽性を打ち出しているのは皆さんご承知の通りである。今年なんてテノール歌手,Ian Bostridgeとのツアーもやってしまうのだから,ジャンルなんてとうに超越している。しかし,原理主義的ジャズ・ファンにはそうした越境に対して反発を示す人がいることも事実である。しかし,本作に聞かれるような演奏を聞いていると,ジャンルにこだわること自体に私は意味を見出せなくなってしまう。聖書をコンセプトの中心に据えたこのアルバムから得られるスリリングな感覚は,私にとって実に刺激的なものであった。
そのほかにもナベサダのライブ・アルバムやEthan IversonがTom Harrellを迎えたライブ・アルバム等,ほかにも記憶に残るものは多々あったし,小田切一巳盤の再発なんていう驚きもあった。私としては,来年も極力ジャンルにこだわらず,いい音楽に接していきたいと思う年の瀬である。
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コメント
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今年も、よろしくお願いします。m(_ _)m
遅くなりましたが、私の2019年のベストのリンクを。
随分被ってるという感じですよね。
私は、公表してませんが12月16日には、決めてしまっているのでびっくりです!
一つ一つの感想も、いちいち、頷いてしまいました。
『Blue World』と『Lookout Farm at Onkel Pö's Carnegie Hall』に関しての感想も似たような感じでした。
信者(私)も、、そう思うのだからしかたないですよね。笑
https://mysecretroom.cocolog-nifty.com/blog/2019/12/post-7bd929.html
投稿: Suzuck | 2020年1月 5日 (日) 14時18分
Suzuckさん,こんにちは。リンクありがとうございます。こちらこそ今年もよろしくお願いします。
そうなんですよねぇ。趣味が似ているってのはあるんでしょうが,Vijay IyerとCraig Tabornのデュオを選ぶ人はあまりいないよなぁなんて思っていました。Suzuckさんのチョイスもなるほどって感じですね。Alessandro Galatiとかは聞いていませんが,そうした中でのこのオーヴァーラップ率はある意味びっくりでした。
投稿: 中年音楽狂 | 2020年1月 5日 (日) 15時37分