Brad Mehldauの新譜”Finding Gabriel”は美しさとスリルを共存させたコンセプト・アルバム。実に面白い。
"Finding Gabriel" Brad Mehldau(Nonesuch)
既にストリーミングでも2曲が公開されていたBrad Mehldauの新譜がリリースされた。最初に公開された"The Garden"を聞いた時から,本作がかなりの問題作であることはわかっていたが,こうして全編を聞いてみると,これは確かに問題作という評価も可能だが,むしろ聖書を題材として作り上げたコンセプト・アルバムという評価の方が適切である。
一番の話題はヴォイスが加わっていることだと思うが,聖書を題材としたことからすれば,「聖歌」をイメージしてのことと解釈することも可能だろう。ここでのヴォイスは男声と女声のミックスであるが,Gabriel Kahaneの声が,Pat Metheny GroupにおけるPedro Aznarのような感覚を覚えさせる瞬間があったのは面白い。その一方でこのアルバムを特徴づけているのがシンセサイザーの響きであり,聖歌とシンセサイザーというアンマッチな感覚さえ与える組合せから作り出されるサウンドが実に面白い。それでも全然難しいところはないし,美的な感覚を与える瞬間もあれば,例えば冒頭の"The Garden"後半に聞かれるスリリングな展開もあるという,緩急と様々な要素を交錯させた響きなのだ。
Brad Mehldauが典型的なジャズから離れた音楽をリリースするのはこれまでもあったことだし,彼の越境型の活動を考えれば,今回のアルバムのリリースも驚くほどのことではないのかもしれない。しかし,Brad MehldauのWebサイトにも,かなり深い聖書に関する記述があり,聖書が彼の創作に影響を与えたことは紛れもない事実であり,それを反映させた音楽として聞いていると,これが聖歌のように聞こえてくる瞬間もあるから不思議である。
ドラムスのMark Guilianaは結構激しく,そして手数多く叩く瞬間もあるが,全体的には彼にしては抑制された感じがする。なぜならば,これはビートを強調した音楽ではないし,Mehldauが言うように聖書を"one long nightmare or a signpost leading to potential gnosis"とするような哲学的な感覚を付与した音楽なのだから,そういう風になるのも当然か。だが,その一方で6曲目"The Prophet Is a Fool"にはDonald Trumpへの強烈な批判的なトーンも現れて,さまざまな感情が交錯する。
こういうところが頭でっかち的に見えて,鼻につくってリスナーも世の中にはいるだろうが,Brad Mehldauは昔からこういう人なのである。様々な文学やクラシック音楽も吸収した上で作り上げられた彼の音楽性が強く表れたアルバムと言えるだろう。やはりこの人のやることは面白い。間もなくに近づいた東京でのトリオ,そしてソロ公演はどのようになるのか?おそらくこのアルバムとはほとんど関係ない世界の演奏をしてしまうはずだが,本当に幅広い人である。我ながらBrad Mehdauには甘いと思うが,やっぱり星★★★★★だ。だって面白んだもん。
Recorded between March 2017 and October 2018
Personnel: Brad Mehldau(p, synth, el-p, perc, vo, and others), Mark Guiliana(ds), Becca Stevens(vo), Gabriel Kahane(vo), Kurt Elling(vo), "Snorts" Malibu(vo), Ambrose Akinmusire(tp), Michael Thomas(fl, as), Charles Pillow(ss, as, b-cl), Joel Frahm(ts), Chris Cheek(ts, bs), Sara Caswell(vln), Lois Martin(vla), Noah Hoffeld(cello), Aaron Nevezie(sampler)
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コメント
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やっぱり・・・★5つですか。^^)
多分おそらく、私の期待度からは若干外れるのではと思いつつ、そんなところからまだ未聴ですが・・・・うーーん、やっぱりCD買って聴くことにいずれはなるんだろうと思ってます。
いずれにしても、最近のMehldauは私にとっては少々難しいところもありまして・・・・。
まだ聴いてないのにコメント失礼しました。
投稿: photofk\loyd(風呂井戸) | 2019年5月21日 (火) 14時08分
風呂井戸さん,こんばんは。
このアルバムは難しくないと思います。決してオーセンティックなジャズではありませんが,これはこれでありだと思います。またお聞きになったらご感想を頂ければと思います。
投稿: 中年音楽狂 | 2019年5月21日 (火) 23時36分
Toshiyaさん、おはようございます。
あっちのコメントありがとうございました。見落としていました。
これは好みです。ジュリアナとの相性がいいなあ、といつも思います。
こんな感じの企画モノはどれもいいですね。久々に聴き直そうかと思っています。
http://kanazawajazzdays.hatenablog.com/entry/2019/05/21/192545
投稿: ken | 2019年5月25日 (土) 08時09分
kenさん,こんにちは。
通常のピアノ・トリオよりこの手のMehldauがお好きってのがkenさんらしいですね。
私の場合,彼の多様性を評価しているところも大なので,こういうのも絶対ありなんですが,コンベンショナルなファンには訴求しないのかなって気がします。だとすればもったいないですよね。
投稿: 中年音楽狂 | 2019年5月25日 (土) 12時06分
うーん、これは残念ながら自分の好みのアレンジ、サウンドではないです。時折良いメロディがあるので残念です。何かを訴えて真面目に作っていると言うのは分かりますが、どうも陳腐なアレンジか、耳障りなサウンドになっています。自分の好みに自信がある訳ではないので、良さが分かるようになるまで、時間が必要かなぁと思います。
これを聴いたあとは、ライル・メイズのソロではこういう違和感はないよなあと、ライルのSweet Dreamsを聴いてしまいました。
投稿: カビゴン | 2019年5月27日 (月) 02時33分
カビゴンさん,こんばんは。
私も別にBrad Mehldauのアルバム全てをもろ手を挙げて絶賛している訳ではありません。なので,お気に召さないという第一印象はそれはそれでいいのではないでしょうか?聞き直したら,思ったよりよかったとかいうこともありますし。
ただ,このアルバム,合う人と合わない人はかなりはっきり分かれると思いますね。私にとっては面白かったということは事実ですが,これはそういう意味で問題作なんだと思います。
投稿: 中年音楽狂 | 2019年5月27日 (月) 22時18分
閣下、コメントをありがとうございました。
こういうのは、賛否両論でもしかたないかもしれませんね。
基本、私の周りにいる方々は、ジャズファンって、人たちなので。
でも、まぁ、この中の各自のソロとかもたまげるぐらいスリリングなんですけどね。
で、メルドー、、なんだか、仙人のようになってましたねぇ。
この路線のサウンドのセンスの良さは、、あのピアノの演奏にも表れているんだとおもいます。
ちなみに、私は、悪評高いこのジャケットも好きです♪
ということで,URLを貼り付けますね!
http://mysecretroom.cocolog-nifty.com/blog/2019/05/post-d3eff6.html
投稿: Suzuck | 2019年6月 4日 (火) 17時29分
Suzuckさん、こんにちは。返信が遅くなりました。先日はありがとうございました。
このアルバムの評価、好き嫌いがわかれるのはまぁ仕方がないってところでしょう。しかし、おっしゃる通り、展開されるソロにはスリリングなものもあり、十分にジャズしていると思いますが。保守的、原理主義的リスナーには受け入れがたいのではないかと思います。
私は十分に楽しみました。これを聞いて久しぶりに“Largo”を聴きたくなりましたので、出張の道すがらに聞いておりました。
投稿: 中年音楽狂 | 2019年6月 8日 (土) 11時31分
今回は、周りの人の意見を読まないで聴きましたけど、私的にはけっこう好きなサウンドでした。賛否両論あったのは、初めて知りました。考えてみれば、来日のライヴのようなサウンドを求めているジャズファンも、多いのでしょうね。彼にはいろいろなことをやってほしいです。
当方のブログアドレスは以下の通りです。
http://jazz.txt-nifty.com/kudojazz/2019/06/post-ccebd4.html
投稿: 910 | 2019年6月 9日 (日) 09時46分
910さん,おはようございます。
世の中にはいろいろなリスナーがいますし,Brad Mehldauはトリオが魅力だと思ってしまうとこれは面食らうでしょうねぇ。
しかし,この多様性こそが魅力だと思えば,大いに楽しめますよね。私はそう思います。
投稿: 中年音楽狂 | 2019年6月 9日 (日) 10時27分