一生聞き続けたいヘンデルの「鍵盤組曲」ボックス。最高である。
"Handel: Keyboard Suites" Andrei Gavrirov / Sviatoslav Richter (EMI/Angel)
私がクラシックの世界では,実は結構なヘンデル好きだということはこのブログにも書いたことがある。以前にも書いたことだが,恥ずかしながら私の結婚披露宴の新郎新婦の入場のための音楽はなんとヘンデル作曲「王宮の花火の音楽」だったのである(爆)。これまでの人生において,私にとってヘンデルの音楽にはあまり難しさを感じさせない音楽であった。それはオラトリオでもそういう感じと言っては不謹慎に過ぎるかもしれないが,それでも長年ヘンデルの音楽を聞いていると親しみやすさを感じ,そして妙に落ち着いてしまう自分がいたのは事実である。
そんな私にとってヘンデルの音楽が決定的な存在になった要因としては,Pinnock / Prestonによる「オルガン協奏曲」が挙げられるが,もう一方で私のヘンデル好きの端緒となったのがこのボックス・セットである。このアルバムは今やCDでも簡単に手に入るので,手軽に鑑賞するために私はCDも保有しているが,この音楽はどちらかと言うとやはりLPで楽しみたいと思わせる音楽である。今回も久々にLPで聞いているのだが,やっぱりこれはLP向きだと思ってしまう。
何がいいか。ヘンデルの音楽そのものに加え,録音されたのがフランスのシャトーということもあり,何とも言えない残響感が最高に心地よいのである。ある意味,ECMレーベルに聞かれる残響と同様な感覚と言ってもよいのかもしれないが,私にはここで聞かれるピアノの音はまさに「天上からの響き」のようにさえ思える,実に美しい響きなのだ。
ここではリヒテルとガヴリーロフが16曲の半々を弾き分けるが,録音された時にはリヒテルが64歳,ガヴリーロフが23歳という大きな年齢差があり,ピアノのタッチや響きに違いがあるのは当然なのだが,ボックスの中でそうした違いを感じるという楽しみ方もあるだろう。しかし,私のように「適当」あるいは「いい加減」なリスナーは,むしろここでの一連の演奏を小音量で流すことによって,生活の潤いを増すために使うことがほとんどだと言っても過言ではない。もちろん,音量を上げて聞いてもいいのだが,このアルバムに似つかわしいのは適切,もしくはそれ以下の音量なのであり,私にとっては小音量こそが相応しいのである。浮世の憂さを晴らすのは大音量でフリー・ジャズやらハード・ロックでもいいのだが,こういう音楽をプレイバックして,心の安らぎを得ることも重要なのだ。
ということで,私にとってはこの音楽に対しては一切の否定的なコメントを述べることがないというボックスである。クラシック音楽で私の棺桶に入れてもらうならこういう音楽を選ぶかもしれないなぁとさえ言いたくなる(笑)。私の人生観やライフ・スタイルに影響を及ぼしたという点においても星★★★★★しかない。実に素晴らしい。最高である。
Recorded Live at the Tour Festival, Chateau de Marcilly-sur-Maulne on June 30, July 1, 7 & 8, 1979
Personnel: Andrei Gavrirov(p), Sviatoslav Richter(p)
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