Peter Serkin@すみだトリフォニーホール
クラシックのコンサートに行くのは3年以上前にKrystian Zimermanを聞いて以来のことである。その前はKyung-Wha Chungで,更にその前はRadu Lupuだった。滅多にクラシックのコンサートに足を運ばない私が,珍しくも行きたいと思ったのが今回のPeter Serkinである。
私は彼の弾く現代音楽のアルバムが非常に好きで,結構な頻度でプレイバックしているが,その一方で,彼の弾くバッハも評価している。思い起こせば,今回のリサイタルにおけるメイン・プログラムである「ゴルトベルク変奏曲」の私が長年聞いてきた演奏が吹き込まれたのはもう20年以上前のことである。時の流れは早いとつくづく感じるが,聞けばPeter Serkinも既に70歳。その方が正直言って驚きだった私である。
世の中に「ゴルトベルク変奏曲」が嫌いだなんてリスナーがいるのかと思えるほど,この曲は素晴らしいと私は思っている。しかし,一般的な印象はGlenn Gouldの演奏が強烈過ぎるわけだが,ピアノ演奏においては,Gould以外では私はAndrás Schiff盤とこのPeter Serkin盤が好きなのだ。だから,今回,Serkinがこの曲をリサイタルで演奏すると知った時には,勢い込んでチケットをゲットしたのであった。
そして,今回のプログラムは次の3曲。
モーツァルト/アダージョ K.540
モーツァルト/ピアノ・ソナタ第17(16)番 変ロ長調 K.570
J.S.バッハ/ゴルトベルク変奏曲 BWV988
第一部はモーツァルトだった訳だが,冒頭から何とも深い音楽を聞かせてもらった気分である。K.540とK.570を連続して演奏し,曲間の拍手もなしという緊張感溢れる展開だったが,そこで聞かせたSerkinのピアノの何とも素晴らしかったことよ。私には深遠という表現しか思い浮かばなかった。こうなると当然,メインの「ゴルトベルク変奏曲」への期待は高まろうというものであった。
そして,休憩後の「ゴルトベルク変奏曲」である。Serkinは冒頭のアリアから繰り返しを行ったが,演奏はかなり自由度が高いというか,繰り返しが行われたのは一部の変奏に留まり,どういう理由でそうなるのか考えていた私である。そして,演奏そのものも,同じ変奏の中でもテンポが変わる場面もあるとともに,右手と左手の動きも微妙なずれを感じさせるような,かなり面白いものであり,実はSerkinの「ゴルトベルク変奏曲」はこんな感じだったっけ?と思っていたのである。ある意味,非常にユニークな響きだったとも言えるが,私個人としては違和感がなかったわけではない。
だが,Serkinはインタビューに答えてこう言っている。『《ゴルトベルク変奏曲》はあまたの可能性を秘めています。思い返せば、私はこの作品を1度たりとも、以前と同じように演奏したことはありません。ただし、その都度あらかじめ「こう弾こう」とすべてを決めて舞台に立つわけではなく、だからと言って、一時の気分に振り回されて恣意的にさまざまな奏法を「でっちあげ」ているわけでもありません。それはまるで即興のように、その場の自発性に委ねることを意味します。』
自発性に委ねる。まさしくそういう感じの演奏だったと言ってもよい。94年録音の演奏は比較的コンベンショナルな響きがあったが,今回の演奏はそれと違って当然ということなのであり,それがPeter Serkinのこの曲のプレイ・スタイルなのだということを後になって知って納得した私である。そういう意味で,今回のリサイタルも一期一会と言うべきものであり,私が感じた違和感も,一回性ということを考えれば,それはそれでありなのだと思える。
そんな演奏をしてしまえば,アンコールに応えることはおそらく不可能ということだったであろうし,ゴルトベルク変奏曲の演奏終了後,暫くの間,静止していたPeter Serkinの姿もさもありなんってところであろう。でも,私は前半のモーツァルトにより感動したが...(苦笑)。八ヶ岳でも聞いてみたかったなぁなんて,今頃思っている私。尚,上の写真はすみだトリフォニーホールのサイトから拝借したもの。
Live at すみだトリフォニーホール on August 1, 2017
Personnel: Peter Serkin(p)
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