更に深化したBley / Sheppard / Swallow。とにかく深い。
"Andando el Tiempo" Carla Bley / Andy Sheppard / Steve Swallow (ECM)
リリースから少し時間が経過してしまったが,ECMにおけるこのメンツによる2枚目のアルバム(傍系Wattレーベルにはもう一枚あるが...。)である。この3人による前作"Trios"を私はその年のベスト作の1枚に選出しているのだが,年末のベスト作の記事で,「酸いも甘いも噛み分けた人間の成熟さえ感じさせる」なんて書いている。前作は確かにそうだったと思っているが,本作を聞いて,更にその成熟度は増し,音楽としての深みは前作に勝るとも劣らない。静謐な音楽なのだが,とにかく深い。
気がついてみれば,Carla Bleyは今年で78歳を迎えている。人間としての深みが増すのも当然だが,ここでの音楽はライナーにCarlaが書いているように,様々なテーマについて書かれている。特に冒頭の3曲は"Recovery from Addiction"がテーマとされているが,このAddictionをどう解釈するかは微妙だが,ライナーからは「薬物中毒からの回復とそれにまつわる物語」という意味に読み取れる。それにしては非常に穏やかな演奏っぷりであるが,もはやこれは思索的な音楽と言ってもよいかもしれない。
最後に収められた"Naked Bridges / Dving Brides"はメンデルスゾーンの力を借りたとCarlaが書いているが,今までだったら,メンデルスゾーンとCarla Bleyなんてどうやっても結びつかなかったはずだが,こうしたところにもCarla Bleyの音楽の変化が強く感じられるのである。
そして,前作"Trios"と本作のジャケを見比べてもらえば,この2作がほとんど「一卵性双生児」のような関係にあるのではないかと思わせる。旧作も演じた前作とは,コンセプトは異なるものの,出てくるサウンドは極めて近しいように思える。それが二番煎じではなく,新たなる感動を呼ぶのだから,素晴らしいではないか。
熱く燃える音楽ではないかもしれないが,必ずや深い感動にひたれると思える傑作。前作以上という印象があるので,ちょっと甘いかなとは思いつつ,星★★★★★としてしまおう。いや~,これはマジで深いですわ。
Recorded in November 2015
Personnel: Carla Bley(p), Andy Sheppard(ts, ss), Steve Swallow(el-b)
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Carla Bleyのではなくこの3人でのECMでの2作目です。
前作のときにも書いていますが、それまでCarla Bleyの演奏はほとんど聴いていなかったのですが、前作を聴いてこの音世界にはまってしまったようで、次作が出るという告知に思わず注文ボタンをポチっていました。
ちなみに前作は
Trios (http://blogs.yahoo.co.jp/pabljxan/62501357.html)
そういうわけで、メンツは不動の3人。
Carla Bley(P)、Andy Sh..... [続きを読む]
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独特な雰囲気を持っているトリオですが、ジャケ写を見て納得、長い譜面を持っています。アドリブの部分もあるのでしょうけど、書かれた部分で緻密にコントロールされているのかなあ、と思いました。これがカーラ・ブレイか、とある種の感動も覚えました。
TBさせていただきます。
投稿: 910 | 2016年6月29日 (水) 06時08分
910さん,続けてこんばんは。TBありがとうございます。
「これがカーラ・ブレイか」ってのは長年のジャズ・ファンだったらそう思いますよねぇ。枯れたとは思いませんが,イメージは違いますから。
しかし,これが悪いと思う人はいないでしょうし,本当に酸いも甘いも嚙み分けた感じがいいですよねぇ。
ってことで,追ってこちらからもTBさせて頂きます。
投稿: 中年音楽狂 | 2016年6月30日 (木) 22時27分
閣下、トラバいたしました!
仰るように前回の『Trios 』と双子の関係といってもいいですよね。
組曲になってるタイトル曲は社会派の感じということでいいのでしょうか。。ストーリー性のある展開になってるとはおもうのですけど。
微妙な部分で呼吸がぴったりと分かり合えていて流石だとおもいました。
投稿: Suzuck | 2016年7月 5日 (火) 23時07分
Suzuckさん,おはようございます。TBありがとうございます。
これは人間の成熟を示すアルバムですね。出来には全くケチのつけようがないですね。
ということで,追ってこちらからもTBさせて頂きます。
投稿: 中年音楽狂 | 2016年7月 6日 (水) 08時09分
自blogで
> 変わらぬ魅力は、間違いのない魅力
というようなコメントを書きましたが、
> この2作がほとんど「一卵性双生児」のような関係 ・・・
> それが二番煎じではなく,・・・
というのが、似た表現で同意できるところであります。
TBありがとうございます。逆TBさせていただきます。
投稿: oza。 | 2016年7月13日 (水) 21時20分
oza。さん,こんばんは。TBありがとうございます。
まぁ,彼らも年齢が年齢なので,劇的な変化をする訳はないって話もありますが,それでもこのクォリティは大したものだと思いました。クリエイティブな人は老け込まないってことを実証された気がします。
投稿: 中年音楽狂 | 2016年7月14日 (木) 00時37分
前作に比べ、より静謐に、そして何よりカーラのピアノに焦点を当てた作品だと思いました。つい、レコードまで買ってしまいました。
http://kanazawajazzdays.hatenablog.com/entry/2016/08/10/101603
投稿: ken | 2016年8月10日 (水) 10時36分
kenさん,おはようございます。リンクありがとうございます。
ECMでもLPが出る作品は必ずしも多くない中,出すに値するとEicherが判断したんでしょうね。いずれにしても素晴らしい作品だと思います。
投稿: 中年音楽狂 | 2016年8月11日 (木) 07時47分