ECMからリリースされた菊地雅章のソロ・ライブが素晴らしい。
"Black Orpheus" 菊地雅章(ECM)
菊地雅章が亡くなったのは去年の7月のことであったが,彼が2012年10月に東京文化会館で開いたソロ・リサイタルの模様が,ECMレーベルからリリースされ,早くもデリバリーされた。ECMの新譜では未聴のアルバムがまだ残っているのだが,まずはこれを聞くことにした。
このアルバム,スリーブにはAn ECM Productionとあるので,Manfred Eicherがプロデュースしたものではない。Manfred Eicherがどこかでこの音源を見つけてきたか,持ち込まれたものをそのままリリースしたということなのだろう。だが,Eicherがそういう行動を取ったとしても頷けてしまうような,これが素晴らしい音源である。しかし,Eicher自身とJan Erik Kongshaugのミキシングによって,完全にECMの音になっている。YouTubeで見られるこの時の演奏と比べれば,その違いは明らかである。
菊地本人が"Floating Sound and Harmonies"と呼ぶ内省的かつ詩的な即興は,もはや現代音楽的だと言ってもよい。超スロー・テンポで演じられるタイトル・トラックの「黒いオルフェ」の放つ音の深みを聞けば,身じろぎもせずにこの音楽に対峙しなければならないと思わされてしまう。Keith Jarrettも近年,現代音楽的なソロを聞かせることがあるが,私は菊地がここで聞かせる音楽により感動をおぼえる。そして,このリサイタルを聞きに行かなかったことを後悔した。
これは素晴らしい音楽だが,必ずしも多くのリスナーに訴求するものではないだろう。しかし,ここで聞かれるピアノの響きには,耳をそばだてる人も多いはずである。超一流のピアノ作品というのはこういうものだと感じさせる感動的な一作。よくぞリリースしてくれましたとECMレーベルに感謝したくなる作品。凄い。そして素晴らしい。そして改めて菊地雅章という才能を失ったことを惜しいと感じさせる傑作。アンコールの"Little Abi"まで一瞬たりともこちらも気が抜けないし,そういう演奏をした菊地雅章の集中力には脱帽するしかない。星★★★★★。
これならば,Peter Serkinが弾く現代音楽のアルバムと同じぐらいプレイバックしたくなること必定である。
Recorded Live at 東京文化会館小ホール on October 26, 2012
Personnel: 菊地雅章(p)
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素晴らしい演奏ですね。何回も聴いています。仰せのように現代音楽的でもあり、オリジナリティに溢れていますね。
残念なのはECMの音響処理。彼のピアノ自体がECM的な残響を強くコントロールしているので、黒いオルフェと小さなアビーでは音の鋭さ、を損なっているように思いました。
是非、彼のAfter Hoursの2枚を聴いてみてください。素晴らしいです。
投稿: ken | 2016年4月 7日 (木) 12時18分
kenさん,こんばんは。TBありがとうございます。
YouTubeの演奏と比べると,確かに音は実際のものとは違いますね。ですが,それをよしとしてしまうのが,私です(笑)。音に対する感覚は違っても,感動的な音源であることには間違いなく,何度でも聞きたくなるアルバムですね。
逆に,これが原音に近ければ,聞いていてどっと疲れが出るかもしれないなぁなんて思いました。
ということで,追ってこちらからもTBさせて頂きます。
投稿: 中年音楽狂 | 2016年4月 7日 (木) 21時34分
やはりいつもより音数が多くて、唸り声が聞こえないライヴでしたけど、素晴らしい記録を残してくれました。これが最後のコンサートというのが残念でなりません。
TBさせていただきます。
投稿: 910 | 2016年4月14日 (木) 06時19分
910さん,こんにちは。TBありがとうございます。返事が遅くなり,申し訳ありません。
YouTubeにアップされている音との違いには驚かされますが,完全にECMの音に変容を遂げているのが凄いですね。それがいいのか悪いのかはわかりませんが,ECM好きにとっては,この音の方がフィット感が強いと感じました。
いずれにしても,素晴らしい音源を残していたくれたものです。改めて,惜しい人を亡くしたと思います。
ということで,こちらからもTBさせて頂きます。
投稿: 中年音楽狂 | 2016年4月16日 (土) 15時44分
閣下、トラバありがとうございました。
私もアイヒヤーの創り出した音の世界が好きです。
そして、ソロはかくあるべきみたいな、お手本のような素晴らしい演奏だとおもいますが。
投稿: Suzuck | 2016年4月26日 (火) 13時23分
Suzuckさん,こんばんは。TBありがとうございます。
そうですね。YouTubeに残っている菊地の音と,このアルバムのん音は明らかに違いますから。どちらがいいかと言えば,私も間違いなくこっちなんです。それは菊地の音楽の本質ではないかもしれません。しかし,録音,ミキシングも芸術の要素だと思っていますし,ECMらしさが炸裂していました。
投稿: 中年音楽狂 | 2016年4月26日 (火) 18時37分