Charles Lloydの新譜は編成がキモと言ってもよいアルバムだが,これが素晴らしい出来である。
"I Long to See You" Charles Lloyd & the Marvels(Blue Note)
ブログのお知り合いのSuzuckさん,monakaさんが取り上げられていて,猛烈に気になってApple Musicで試聴,そしてこれは買いだと確信したアルバムである。
実を言うと,私がCharles Lloydをこのブログで取り上げたのは2010年の"Mirror"に遡る。"Mirror"はその年のベストの1枚にも挙げたぐらいなのだが,その後のアルバムはどうもしっくりこないというか,ちゃんと聞かずにスルーしていたような気もする。その結果,Blue Noteへの移籍第1作も買っていないのである。ではそんな私がなぜこれを聞きたいと思ったかであるが,Suzuckさん,monakaさんのご推奨ということもあるのだが,私がもう一点どうしても気になったのがGreg Leiszの参加だったのである。Greg Leiszはルーツ・ミュージック系の音楽には欠かせないペダル・スチール奏者であるが,彼がCharles Lloydと共演というのが実に興味深かった。そして結果は大正解である。
ジャケだけ見ると,誰がリーダーなのかよくわからないような写真になっていて,Bill Frisellが一番でかく写っているのが面白いが,このアルバムはそういう意味でも,Bill Frisellが一方の核でありながら,私はGreg Leiszが果たした役割はかなり大きいと思っている。もちろん,Frisellだけでも,相当レベルの演奏になったと思うが,このアルバムの持つトーン/サウンドはGreg Leiszによるところ大に聞こえるのである。それにより,ECMレーベル時代とは明らかに違ったCharles Lloydの音楽が生まれ,とても今年の3月で78歳になるとは思えない演奏を展開させたと言ってもいいのではないか。
そもそも何てったって,冒頭からBob Dylanの「戦争の親玉("Masters of War")」なのだ。更にトラッドが3曲,更にはWillie NelsonやNorah Jonesまで迎えてしまうのだから,Charles Lloydの視線にはルーツ・ミュージックというテーマがあったはずだと思わせるに十分である。そしてそれが完璧なまでに演じられ,これはたまらない出来だと思った。私が最初に聞いたのはApple Musicでのストリーミングだったが,その段階でこのバンドの相性は間違いないと思わせたし,改めてCDで聞き返してみても,この味わい深さが素晴らしいのである。ジャズ的なスリルとは別の世界かもしれないが,この音楽の持つ魅力はジャズ的な要素の若干の希薄さを補って余りある。これは私が昔からアメリカのシンガー・ソングライター,それも「ど渋い」,今はなき渋谷ブラックホークでかかっていたような音楽を偏愛してきたこともあるかもしれないが,そんなリスナーでなくとも,この音楽の魅力はわかるはずだと言い切ってしまおう。
これはCharles Lloydにとって,特別編成のアルバムかもしれないが,私は"Mirror"以来の感動を覚えてしまったのであった。Willie NelsonとCharles Lloydという全く想定外の組み合わせさえ,古い反戦歌"Last Night I Had the Strangest Dream"にこれほどフィットしたものはないと思わせるに十分なのだ。ルーツ・ミュージックへの取り組みだけだけでなく,Charles Lloydによる平和,あるいは反戦への思いを痛切に感じさせることも感動を倍増させる。素晴らしい。まじで素晴らしい。ということで,このアルバムには星★★★★★こそ相応しい。いずれにしても,本作はCharles Lloydが全く枯れていないということを強烈に感じさせてくれた。
Charles Lloydの気持ちを代弁することになるかどうかは別にして,どこかの国の宰相に「戦争の親玉」と"Last Night I Had the Strangest Dream"の歌詞をよく読めよってことで,歌詞を掲載してしまおう。まぁ,彼にはこれを読みこなす英語力はなかろうし,そもそもこんなブログにアクセスすることはありえないが...(笑)。下記は「戦争の親玉」の2番と"Last Night I Had the Strangest Dream"の1番の歌詞である。ベルリンの壁が崩壊した時に,東側の子供たちが後者を歌っていたという実に象徴的な歌だということを思いを馳せながら,改めてこのアルバムの素晴らしさを称えたい。おそらく私にとっては,本作が今年忘れられないアルバムの1枚となることは確実である。
"Masters of War" (Bob Dylan)
You that never done nothin’
But build to destroy
You play with my world
Like it’s your little toy
You put a gun in my hand
And you hide from my eyes
And you turn and run farther
When the fast bullets fly
"Last Night I Had the Strangest Dream"(Ed McCurdy)
Last night I had the strangest dream
I ever dreamed before
I dreamed the world had all agreed
To put an end to war
I dreamed I saw a mighty room
Filled with women and men
And the paper they were signing said
They'd never fight again
Recorded on April 27 & 28, 2015
Personnel: Charles Lloyd(ts, fl), Bill Frisell(g), Greg Leisz(steel-g), Reuben Rogers(b), Eric Harland(ds), Willie Nelson(vo, g), Norah Jones(vo)
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音楽狂さん、こんにちは、monakaです。
2回も名前を書いてくれてありがとう。
このアルバムはまる人ははまると書きましたが貴殿と私と妹のことのようです。
TBさせていただきます。
投稿: monaka | 2016年2月 7日 (日) 08時46分
monakaさん,こんにちは。TBありがとうございます。
はい。おっしゃる通り,はまりました。この音楽の持つ魅力はルーツ・ミュージック的なものだけでなく,より深いものだって気がして,ついつい記事にも力が入ってしまいました(笑)。
ということで,こちらからもTBさせて頂きます。
投稿: 中年音楽狂 | 2016年2月 7日 (日) 11時54分
閣下、いろいろとご明察ですね。
ロイド、私的にはおっかけです。笑
ロイドはいつもメンバーにその時代の匂いを感じさせるのですが、今回も見事にハマっているとおもいました。
冒頭にボブ・ディランの曲を備えるあたり、強面はまだまだ続く感じですね♪
投稿: Suzuck | 2016年2月 8日 (月) 17時56分
Suzuckさん,こんばんは。TBありがとうございます。
このアルバムは実に素晴らしいと思います。Charles Lloyd,ちっとも枯れていませんでした。78歳にして,この意気込みってのがこれまた素晴らしいですよね。私にこのアルバムに気づかせてくれたSuzuckさんとmonakaさんに改めて感謝します。
投稿: 中年音楽狂 | 2016年2月 8日 (月) 20時56分
このアルバムはビル・フリゼール買いでしたが、やはりこのメンバーのサウンドということで、全体として良かった1枚になりました。ついでに、と言っては何ですけど、Blue Note移籍1枚目も一緒に注文してしまい、そちらもまた趣向が違って良かったと思います。
TBさせていただきます。
投稿: 910 | 2016年3月30日 (水) 07時54分
910さん、こんにちは。TBありがとうございます。
私はこのアルバムにしびれていますが、編成もよければ、演奏も素晴らしいと思っています。何よりもCharles Lloydの意思が明確に出ていることが、リベラルな私を刺激します。
追ってこちらからもTBさせて頂きます。
投稿: 中年音楽狂 | 2016年3月31日 (木) 11時26分