2015年の回顧:音楽(ジャズ)編
いよいよ今年の回顧も最後になった。ということで,私にとって最も購入枚数が多いジャズのカテゴリーであるが,このブログを定期的にご覧になっている方には既に明らかになっていることだと思うが,今年の最高作はBrad Mehldauの"10 Years Solo Live"以外にないというのが私の結論である。多くのブログのお知り合いの皆さんも認められている通り,LPにして8枚,CDにして4枚というボリュームにもかかわらず,一度聞き始めるとやめられなくなるという,危ない魅力に満ちたアルバムであった。彼のピアノから生み出されるフレーズは,非常に魅力的であるとともに,テーマに応じた選曲も,よくプロデュースされているという感覚を生み出し,私は一瞬にしてこの音楽の虜となったと言っても過言ではない。長年,私はBrad Mehldauの追っかけをしているが,彼のピアニストとしての技量は元から高かったことは当然なのだが,このアルバムを聞いていると,また一段飛躍したと感じる人は多いのではないだろうか。いずれにしても,10年に渡って,録音していてくれていたことに感謝するリスナーは多いはずである。本当に素晴らしいアルバムとして,万人に推奨したい。
あまりにMehldauのアルバムが凄過ぎたので,本来なら#1としてもよかったアルバムが,下にずれたという感がある。私が聞いたジャズ・アルバムの中で,興奮度という観点ではAntonio Sanchezの"The Meridian Suite"にとどめを刺す。このアルバムを聞いた時の高揚感は,ジャズという音楽が生み出す熱狂という感覚を思い出させるものであり,これを聞いて燃えないリスナーは潜りだとさえ言いたくなる。「バードマン」のサントラもいい仕事だったが,やはり評価するならば"The Meridian Suite"であろう。来日公演はSeamus Blakeではなく,Ben Wendelがトラで入っていたが,その時は前作までのレパートリーが中心であった。無論,ライブでこんな演奏をされたら悶絶確実であったが...(笑)。
例年のように,ECMレーベルにもいい作品が多かったが,1枚を選ぶということならば,Vijay Iyerの"Break Stuff"ってことになるだろうか。記事にも書いたが,「知性を感じさせる理知的な響きと,ジャズの持つスリリングな部分が丁度いい具合にリンク」されているところが何とも刺激的なのである。そのほかにもECMには,Keithのソロ作やクリポタのUnderground Orchestra,Jack DeJohnetteの正調フリー・ジャズ,更にはGiovanni GuidiやらStefano Battaglia等,いい作品が目白押しであり,Manfred Eicherへの信頼は年々増していく結果となってしまうのである。いずれにしても,凄いプロデューサー,そして凄いレーベルである。
今年は発掘音源にもいいものが多く,Sonny RollinsのVillage Gateでのライブの集成盤もよかったが,それよりも何よりも,静かな感動を呼び起こしたCharlie Haden~Gonzalo Rubalcabaの"Tokyo Adagio"である。美的という言葉がこれほどしっくりくるアルバムはないと思っているが,まさに超絶的に美しいアルバムである。Gonzalo Rubalcabaというと,テクニック主導みたいな感じがする人だが,それだけではないということを見事なまでに実証したアルバム。こんな美しい作品が東京で生まれたということ自体を奇跡と呼びたい。よくよく見たら,ジャケに写っているのは屋形船であり,あ~あと言いたくなるようなセンスになりそうなものだが,それすらもこのアルバムにフィットした感じのデザインに仕上げたことも評価したい。
最後に,私はいつも書いているように,ジャズ・ヴォーカルについてはよい聞き手ではないが,José Jamesの"Yesterday I Had the Blues"は非常に優れたBillie Holidayトリビュートとして見逃せない。同じ趣旨のアルバムはCassandra Wilsonもリリースしていて,そちらはそちらで優れたアルバムではあったのだが,バックの好演やアルバム全体の質からすれば,José Jamesのアルバムの方を高く評価したい。
そのほかにも高く評価したアルバムはいくつもあるが,今年のベスト作ということになると,上述の5枚ということにしておこう。ということで,今年のジャズ界もいいアルバムに恵まれていたと思うが,来年は一体どうなるのだろうか?私のApple Musicへの依存度はますます高まること必定であり,新譜について書く機会は更に減ってしまうかもしれないが,まぁそれはそれで時代の流れということにしよう。
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