「教団X」とは全く毛色が違う中村文則の警察小説
このブログに本のことを書くことも非常に少なくなってしまったのは,通勤時間に本を読めなくなったことが大きく影響していることは前にも書いた通りであるが,前回,このブログに取り上げたのは同じ中村文則の「教団X」であった。あのような強烈な本が,今かなり売れているということには非常に驚いているわけだが,今回は毎日新聞の夕刊に連載されていた警察小説で,随分前作とは毛色が違う。
この本は,警察小説という体裁を取っていても,エンタテインメントと呼ぶにはやや難しいところがある。小説は三部構成になっているが,第三部になって,非常に重々しくなってしまうところは,純文学的な部分と言ってもよいかもしれないが,それをよしとするか否かによって,大分感触が違うはずである。とにかく,これは重苦しい。ある意味「陰気」,「沈鬱」,あるいは「辛気臭い」と言ってもいいぐらいの感覚を与える。だが,人間の「性(さが)」というものを踏まえて書かれていて,いい加減さは全くないのだが,それにしても重苦しいのである。
そういうことを踏まえれば,警察小説にエンタテインメント性を求める読者にはなんじゃこれはと思われても仕方がないが,これは純文学的な人が,題材を警察に取ればこういうかたちはあっても不思議ではない。ただ,端的に言えば,「負の連鎖」的なものが描かれているから,それが非常に暗くて重い印象を与えてしまうのである。そこをどう評価するかだと思うが,私は重々しさを覚えながら,出張の道すがらに結構なスピードで読了したのであった。これは悪くないと思うし,こういうのもありだと思う。但し,ちょっと重いだけである。星★★★★。
それにしても,「教団X」のAmazonのユーザ・レビューを見ていると,ぼろくそに書いている人が多いが,私は比較的好意的な捉えているのはこのブログにアップした記事(記事はこちら)の通りである。
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コメント
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こんにちは。Laieです。本の話題で、お邪魔致します。
私は、今、花村萬月氏の「ゲルマニウムの夜」を、主人は、芥川氏の「羅生門」を読んでいます。花村氏の本ですが、テーマが重くて、読み切れるかなぁ。。と思いながらページを捲っているところです。でも、最後の括りが気になるので、読んじゃうと思います(笑)。
主人は、昨日、村上氏の「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」の本を購入。ペーパーブックになるのを待っていました。次の休暇でゆっくり読めるのを楽しみにしているところです。
投稿: Laie | 2015年9月 6日 (日) 17時34分
Laieさん,お久しぶりです。私は通勤環境の変化によって,読書量が劇的に減ってしまいましたが,たまにこれからも記事をアップしていきますのでよろしくお願いします。
ご主人は「多崎つくる」をお買い上げということですが,実は私はまだちゃんと読めていません。そんなことでいいのか!というのは自覚していますが,別の本に寄り道ばかりしています(笑)。まだ記事にしていない本もありますのでまたそのうち。
投稿: 中年音楽狂 | 2015年9月 6日 (日) 22時55分