映画を見ているような気分になる西川美和の「永い言い訳」
「永い言い訳」 西川美和(文藝春秋)
PCは取り敢えず外付けのKBとマウスで復活したので,また記事をアップすることにしよう。
先日もちらっと触れた西川美和の書き下ろしである。私は映画監督としての才能とともに,文筆家,特に小説家としての西川美和も評価しているが,この新作でもその才能は十分に発揮されていると思う。とにかく,映画を見るかのような感覚にとらわれるという感じであり,彼女は遅かれ早かれこれを映像化するのではないかと思われる。
登場する小説家,津村啓こと衣笠幸夫は相当に嫌らしい人物として描かれている。西川美和のエッセイ集「映画にまつわるXについて」に面白い記述がある。それによれば,西川は「凡そ人の風上にも置けないような主人公にばかり惹きつけられてきたような気がする。みんな人格も行動も間違いだらけで,賢人の忠告をはねのけ,自分の失態で人生が台無しになっている。けれど,まだ諦めきれない,もう一度闘うんだ,やりなおすんだ,と歯を食いしばっているような人物たち。」を描いてきたように書いているが,それってここでの主人公,衣笠幸夫そのものではないか。結局,こうした人間像に西川美和はとらわれ続ける,あるいは描き続けるということになるのだろうが,救いがないストーリーのようで,「やりなおすんだ」っていう感じが強く出ている。ある意味,首尾一貫というか,徹頭徹尾こういう人物像を描くのねぇって感じである。
西川美和が描くだけに,これを映画化した時のキャスティングが興味深いと思いつつ,映画にしたら,映画にしたで,随分と暗いストーリーになりそうな気がするのは西川美和だから仕方がないか(苦笑)。しかし,この人の映画人,そして小説家としてのストーリーテリングの才能と実力を改めて明らかにした立派な小説と思う。彼女への注目度を更に高めるために,オマケして星★★★★☆としてしまおう。
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