Jack DeJohnetteの新譜は襟を正して聞きたくなるシカゴ派正調フリー・ジャズ
"Made in Chicago" Jack DeJohnette(ECM)
今回デリバリーされたECMのアルバムの中で,これが最も硬派なアルバムであることはわかっていたのだが,それにしても,これだけの重鎮揃いのアルバムであるから,襟も膝も正して聞くべきものであることは言うまでもない。何てったって録音時の年齢はMuhal Richard Abrams:82歳,Roscoe Mithchell:73歳,Henry Threadgill:69歳,Jack DeJohnette:71歳(ベースのLarry Grayは年齢不詳)なのである。このメンツは,ニッチなフリー・ジャズという世界における人間国宝みたいな人の集まりなのだ。まずはよくもこれだけのミュージシャンが集結したものだと考えざるをえない。
そうした中で展開されるのは,シカゴ派の王道のフリー・ジャズである。フリーと言っても,破壊的な力はないのだが,それでも王道は王道なのである。Jack DeJohnetteはきっちりビートを刻むシーンが多く,混沌とした感覚はそれほど強くはないが,ホーン陣はかなり自由度が高いので,これはやっぱりフリーなのである。だってRoscoe MitchellとHenry Threadgillだもんなぁ。自由でないはずがない(笑)。そして,最年長のMuhal Richard Abramsの元気なこと。これこそまさに驚きである。矍鑠としたジャズマンは多いが,80を過ぎてこんな音楽をやっているこの人,まさに化けものである。冒頭の"Chant"こそ,タイトル通り「詠唱」のような感じで始まるが,このメンツでそのまま終わるはずはないと思っていたら,案の定であった(笑)。どんどん,演奏が熱を帯びていくところからは,彼らの年齢は全く感じさせないのだから,大したものと言わずに何と言う?ってところである。
この企画,できそうでいて,なかなか実現の難しそうなところを,よくぞこのメンツを集めたってところに非常に意義があると思えるが,だからこそ,ECMには珍しく,MCまでフルフルで収録しているのではないかと感じさせる。Manfred Eicherの美学を封印してでも,ドキュメンタリーとしての価値を重視したってことかもしれないし,それほどのイベントだったってことだと思う。この時代に,この音楽がどのように受け入れられるのかってのは微妙な部分もあるが,シカゴの聴衆は熱狂している。これが地域の特異性なのかなぁってのを改めて感じさせられたこともあり,非常に面白かった。もちろん,演奏の立派さがあってのことではあるが...。
繰り返しになるが,彼らのような人間国宝級のミュージシャンの芸を楽しませてもらえただけで,ありがたや~と思うべきアルバムである。もちろん,音楽的な観点からすれば,万人に勧められるものではないが,これはこれで一聴の価値のある貴重な記録として星★★★★★。聞いていて,私はまじで背筋が伸びた(笑)。
Recorded Live at Chicago Jazz Festival on August 29, 2013
Personnel: Henry Threadgill(as, b-fl), Roscoe Mitchell(sopranino, as, ss, baroque-fl, b-recorder), Muhal Richard Abrams(p), Larry Gray(b, cello), Jack DeJohnette(ds)
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一堂に会することが珍しいメンバーでの記録は貴重ですよねえ。ジャック・ディジョネットもフリー的に叩くときもあれば、リア済みかるにマイペースで叩いている時もあるので、なかなかこのフリー、興味深く聴けました。
TBさせていただきます。
投稿: 910 | 2015年1月22日 (木) 06時52分
910さん,こんにちは。TBありがとうございます。返事が遅くなってしまい,申し訳ありません。
このメンツが集まるってこと自体が貴重ですし,オリジナルを分け合うってのもいいですね。DeJohnetteのアグレッシブなところがよく出ていると思いました。
投稿: 中年音楽狂 | 2015年1月24日 (土) 11時42分